特許第6457659号(P6457659)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋ゴム工業株式会社の特許一覧

特許6457659酸性ガス含有ガス処理用分離膜、及び酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法
<>
  • 特許6457659-酸性ガス含有ガス処理用分離膜、及び酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6457659
(24)【登録日】2018年12月28日
(45)【発行日】2019年1月23日
(54)【発明の名称】酸性ガス含有ガス処理用分離膜、及び酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/70 20060101AFI20190110BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20190110BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20190110BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20190110BHJP
   B01D 71/52 20060101ALI20190110BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20190110BHJP
【FI】
   B01D71/70 500
   B01D69/12
   B01D69/10
   B01D69/00 500
   B01D71/52
   B01D71/02 500
【請求項の数】7
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-555008(P2017-555008)
(86)(22)【出願日】2016年11月22日
(86)【国際出願番号】JP2016084556
(87)【国際公開番号】WO2017098916
(87)【国際公開日】20170615
【審査請求日】2017年12月1日
(31)【優先権主張番号】特願2015-238478(P2015-238478)
(32)【優先日】2015年12月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】倉橋 智彦
(72)【発明者】
【氏名】蔵岡 孝治
【審査官】 松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−111507(JP,A)
【文献】 特開2014−065025(JP,A)
【文献】 特開2015−073980(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/141576(WO,A1)
【文献】 特開2005−074317(JP,A)
【文献】 特開2015−160159(JP,A)
【文献】 特表2015−503667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00− 71/82
C02F 1/44
C08G 77/00− 77/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機多孔質支持体と、
前記無機多孔質支持体の表面に形成されるポリシロキサン網目構造体又は炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体を含む中間層と、
前記中間層の上に形成されるポリエチレングリコール及び炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体を含む分離層と、
を備えた酸性ガス含有ガス処理用分離膜であって、
前記中間層の目付量は、0.1〜4.0mg/cmであり、前記分離層の目付量は、0.1〜3.0mg/cmであり、
前記ポリエチレングリコールは、直鎖状ポリエチレングリコールである酸性ガス含有ガス処理用分離膜
【請求項2】
前記分離層における前記ポリエチレングリコールの含有量は、0.1〜5.0重量%である請求項1に記載の酸性ガス含有ガス処理用分離膜。
【請求項3】
前記ポリエチレングリコールの分子量は、600〜5000000である請求項1又は2に記載の酸性ガス含有ガス処理用分離膜。
【請求項4】
前記中間層及び/又は前記分離層は、Li、Na、K、Cs、Mg、Ca、Ni、Fe、及びAlからなる群から選択される少なくとも一種の金属の酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩、又はリン酸塩を含む請求項1〜3の何れか一項に記載の酸性ガス含有ガス処理用分離膜。
【請求項5】
(a)テトラアルコキシシラン及び/又は炭化水素基含有トリアルコキシシランを含むアルコキシシラン、酸触媒、水、及び有機溶媒を混合した第一混合液、並びにテトラアルコキシシラン、炭化水素基含有トリアルコキシシラン、ポリエチレングリコール、酸触媒、水、及び有機溶媒を混合した第二混合液を調製する準備工程と、
(b)前記第一混合液を無機多孔質支持体の表面に塗布する第一塗布工程と、
(c)前記第一塗布工程が完了した無機多孔質支持体を熱処理し、当該無機多孔質支持体の表面にポリシロキサン網目構造体を含む中間層を形成する中間層形成工程と、
(d)前記第二混合液を前記中間層の上に塗布する第二塗布工程と、
(e)前記第二塗布工程が完了した無機多孔質支持体を熱処理し、前記中間層の上にポリエチレングリコール及び炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体を含む分離層を形成する分離層形成工程と、
を包含し、
前記中間層の目付量は、0.1〜4.0mg/cmであり、前記分離層の目付量は、0.1〜3.0mg/cmであり、
前記ポリエチレングリコールは、直鎖状ポリエチレングリコールである酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法。
【請求項6】
前記準備工程において、前記第二混合液を調製する際、前記テトラアルコキシシラン、前記炭化水素基含有トリアルコキシシラン、前記酸触媒、前記水、及び前記有機溶媒の混合物に、前記ポリエチレングリコールを添加する請求項5に記載の酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法。
【請求項7】
前記第二塗布工程は、前記中間層を形成した無機多孔質支持体を前記第二混合液に浸漬する浸漬工程と、前記第二混合液から前記無機多孔質支持体を0.5〜50mm/秒で引き上げる引上工程とを含む請求項5又は6に記載の酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性ガスとその他のガスとを含む混合ガスを処理して夫々のガス成分に分離する酸性ガス含有ガス処理用分離膜、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油に代わるエネルギー資源として、メタンガスの利用が従来から検討されている。メタンガスは、主に天然ガスとして得られるが、近年では、深海底に存在するメタンハイドレート、生ごみ等を生物学的処理したときに発生する消化ガス、石油精製において副生するオフガス等をメタンガス源とすることが検討されている。ところが、これらのメタンガス源には、メタンガスの他に酸性ガス(二酸化炭素や硫化水素等)が含まれていることがある。そこで、酸性ガスとメタンガスとを含む混合ガスを都市ガスの原料や燃料電池に使用する水素の原料に利用するためには、混合ガスからメタンガスのみを分離するか、あるいは混合ガス中のメタンガス濃度を高めることが必要となる。
【0003】
また、工場や発電所から排出される排ガスには、窒素ガスと酸性ガスとが含まれている。この窒素ガスと酸性ガスとを含む混合ガスについても適切な処理を行い、夫々のガス成分に分離できれば、ガスの利用価値が高まる。例えば、工場の排ガスから酸性ガスである二酸化炭素を効率よく回収できれば、液化炭酸ガスとして製品化することも可能である。
【0004】
なお、二酸化炭素は、地球温暖化の原因となり得るため、そのまま大気中に放出することは望ましくない。そこで、工場や発電所で発生した二酸化炭素を回収し、例えば、地中深くに貯蔵する技術(Carbon dioxide Capture and Storage:CCS)が様々な分野で検討されている。このCCSを推進するためにも、二酸化炭素を含む排ガスを適切に処理することが望まれている。
【0005】
複数種のガスを含む混合ガスから特定のガスを分離する技術の一つとして、ガス分離膜が研究されている。ここで、ガス分離膜の分離性能及び分離効率を高めるためには、支持体の上に均一で且つ緻密な膜を形成することが重要となる。例えば、二酸化炭素とメタンガスとを含む混合ガスから二酸化炭素を分離する従来のガス分離膜として、環状のシロキサン結合によって形成された複数の細孔を有する非晶質酸化物からなる分離膜がある(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1には、Siの側鎖に塩基性を有する窒素(N)とシリコン(Si)とを含有する官能基を結合させたガス分離フィルタが記載されている。特許文献1によれば、このガス分離フィルタは、二酸化炭素等の酸性ガスが狭い細孔内を効率よく通過するため、分離性能が高いとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−279773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のガス分離フィルタは、分離膜の表面に塩基性を有する窒素(N)とシリコン(Si)とを含有する官能基を導入することにより、二酸化炭素の分離を促進するものであるが、二酸化炭素の分離性能を十分に高めるためには、分離膜の表面に多数の官能基を導入しつつ、均一な膜を形成する必要がある。しかしながら、分離膜に導入される官能基の数が多くなると、分離膜の分子構造中に立体障害が生じ易くなり、均一な膜形成に悪影響を及ぼす虞がある。
【0008】
また、特許文献1のガス分離フィルタは、支持体に液状(ゾル状)の分離膜形成材料を塗布し、これを熱処理することにより分離膜を形成するものであるが、このときの熱処理が不均一である場合、ピンホール等の欠陥が分離膜中に生成する虞がある。分離膜中に欠陥が存在すると、二酸化炭素の分離性能を十分に発揮することができなくなる。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、欠陥がなく、均一で且つ緻密な分離層を備えた酸性ガス含有ガス処理用分離膜、及び当該酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜の特徴構成は、
無機多孔質支持体と、
前記無機多孔質支持体の表面に形成されるポリシロキサン網目構造体又は炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体を含む中間層と、
前記中間層の上に形成されるポリエチレングリコール及び炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体を含む分離層と、
を備えたことにある。
【0011】
本構成の酸性ガス含有ガス処理用分離膜によれば、ポリシロキサン網目構造体又は炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体を含む中間層の上に炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体を含む分離層が形成され、当該分離層にはポリエチレングリコールが含まれている。ポリエチレングリコールは、成膜性向上に寄与する成分である。従って、分離層にポリエチレングリコールが含まれていると、欠陥のない均一で且つ緻密な膜構造が得られる。その結果、酸性ガス含有ガス処理用分離膜のガス分離性能(酸性ガス選択性)を十分に発揮することが可能となる。
【0012】
本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜において、
前記中間層の目付量は、0.1〜4.0mg/cmであり、前記分離層の目付量は、0.1〜3.0mg/cmであることが好ましい。
【0013】
本構成の酸性ガス含有ガス処理用分離膜によれば、中間層及び分離層の目付量が上記の適切な範囲に設定されているため、中間層による安定性を高めながら、分離層による優れたガス分離性能とガス透過性とを両立させることができる。
【0014】
本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜において、
前記分離層における前記ポリエチレングリコールの含有量は、0.1〜5.0重量%であることが好ましい。
【0015】
本構成の酸性ガス含有ガス処理用分離膜によれば、分離層におけるポリエチレングリコールの含有量が上記の適切な範囲に設定されているため、分離層の成膜性を向上させつつ、分離層による優れたガス分離性能とガス透過性とを両立させることができる。
【0016】
本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜において、
前記ポリエチレングリコールの分子量は、600〜5000000であることが好ましい。
【0017】
本構成の酸性ガス含有ガス処理用分離膜によれば、ポリエチレングリコールの分子量が上記の適切な範囲に設定されているため、分離層の原料液が適度な粘度を有することとなり、その結果、膜厚のバラツキが少ない分離層を形成することが可能となる。
【0018】
本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜において、
前記ポリエチレングリコールは、直鎖状ポリエチレングリコールであることが好ましい。
【0019】
本構成の酸性ガス含有ガス処理用分離膜によれば、ポリエチレングリコールとして直鎖状ポリエチレングリコールを使用することで、分離層の成膜性をさらに向上させることができる。
【0020】
本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜において、
前記中間層及び/又は前記分離層は、Li、Na、K、Cs、Mg、Ca、Ni、Fe、及びAlからなる群から選択される少なくとも一種の金属の酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩、又はリン酸塩を含むことが好ましい。
【0021】
本構成の酸性ガス含有ガス処理用分離膜によれば、酸性ガスと親和性を有する金属塩として上記の有意な金属塩を選択しているため、ガス分離性能をさらに高めることができる。
【0022】
上記課題を解決するための本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法の特徴構成は、
(a)テトラアルコキシシラン及び/又は炭化水素基含有トリアルコキシシランを含むアルコキシシラン、酸触媒、水、及び有機溶媒を混合した第一混合液、並びにテトラアルコキシシラン、炭化水素基含有トリアルコキシシラン、ポリエチレングリコール、酸触媒、水、及び有機溶媒を混合した第二混合液を調製する準備工程と、
(b)前記第一混合液を無機多孔質支持体の表面に塗布する第一塗布工程と、
(c)前記第一塗布工程が完了した無機多孔質支持体を熱処理し、当該無機多孔質支持体の表面にポリシロキサン網目構造体を含む中間層を形成する中間層形成工程と、
(d)前記第二混合液を前記中間層の上に塗布する第二塗布工程と、
(e)前記第二塗布工程が完了した無機多孔質支持体を熱処理し、前記中間層の上にポリエチレングリコール及び炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体を含む分離層を形成する分離層形成工程と、
を包含することにある。
【0023】
本構成の酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法によれば、上述した酸性ガス含有ガス処理用分離膜と同様の優れた作用効果を奏する。すなわち、ポリエチレングリコールは、成膜性向上に寄与する成分であるため、第二混合液にポリエチレングリコールを添加することで、形成した分離層に欠陥が生じず、均一で且つ緻密な膜構造を実現とすることができる。その結果、酸性ガス含有ガス処理用分離膜のガス分離性能(酸性ガス選択性)を十分に発揮することが可能となる。
【0024】
本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法において、
前記準備工程において、前記第二混合液を調製する際、前記テトラアルコキシシラン、前記炭化水素基含有トリアルコキシシラン、前記酸触媒、前記水、及び前記有機溶媒の混合物に、前記ポリエチレングリコールを添加することが好ましい。
【0025】
本構成の酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法によれば、第二混合液の構成成分のうち、ポリエチレングリコールを最後に添加することになるため、第二混合液の粘度が低い状態でテトラアルコキシシランと炭化水素基含有トリアルコキシシランとが均一に混合し、両者間でのゾル−ゲル反応を確実に進行させることができる。また、ポリエチレングリコールを最後に添加することで、アルコキシシランの加水分解反応に大きな影響を与えることがなく、その結果、均一な分離層を形成することが可能となる。
【0026】
本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法において、
前記第二塗布工程は、前記中間層を形成した無機多孔質支持体を前記第二混合液に浸漬する浸漬工程と、前記第二混合液から前記無機多孔質支持体を0.5〜50mm/秒で引き上げる引上工程とを含むことが好ましい。
【0027】
本構成の酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法によれば、いわゆる浸漬法(ディッピング法)によって無機多孔質支持体に第二混合液を塗布するものであり、その際の無機多孔質支持体の引き上げ速度が適切な範囲に設定されているため、適切な膜厚を有する分離層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】分離性能確認試験に使用した気体透過速度測定装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜、及び酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法に関する実施形態について説明する。ただし、本発明は、以下に説明する構成に限定されることを意図しない。
【0030】
<酸性ガス含有ガス処理用分離膜>
本発明の酸性ガス含有ガス処理用分離膜は、酸性ガスとメタンガス及び/又は窒素ガスとを含有する混合ガス(以下、「酸性ガス含有ガス」と称する場合がある。)を処理対象とするものであるが、本実施形態では、酸性ガスとメタンガスとの混合ガスを例に挙げて説明する。ここで、酸性ガスとは、水に溶解したときに酸性を示すガスであり、二酸化炭素や硫化水素等が例示される。本実施形態では、特に、酸性ガスとして二酸化炭素を想定し、以降の説明を行う。従って、本発明の酸性ガス含有ガス処理用分離膜は、二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離膜として説明するが、メタンガスを分離するメタンガス分離膜、窒素ガスを分離する窒素ガス分離膜、あるいは二酸化炭素とメタンガス及び/又は窒素ガスとを同時に分離可能な二酸化炭素/(メタンガス及び/又は窒素ガス)分離膜として構成することも可能である。以後、酸性ガス含有ガス処理用分離膜を、単純に「分離膜」と称する場合がある。
【0031】
酸性ガス含有ガス処理用分離膜は、ベースとなる無機多孔質支持体の上に中間層を形成し、さらにその上に分離層を形成することにより構成される。以下、無機多孔質支持体、中間層、及び分離層について、詳細に説明する。
【0032】
〔無機多孔質支持体〕
無機多孔質支持体は、例えば、シリカ系セラミックス、シリカ系ガラス、アルミナ系セラミックス、ステンレス、チタン、銀等の材料で構成される。無機多孔質支持体には、ガスが流入する流入部と、ガスが流出する流出部とが設けられる。例えば、ガス流入部は無機多孔質支持体に設けられた開口部であり、ガス流出部は無機多孔質支持体の外表面である。無機多孔質支持体の外表面をガス流入部とし、無機多孔質支持体に設けられた開口部をガス流出部とすることも可能である。無機多孔質支持体の外表面には無数の微細孔が形成されているため、外表面全体からガスが通流することができる。無機多孔質支持体の構成例としては、内部にガス流路が設けられた円筒構造、円管構造、チューブラー構造、スパイラル構造、一本のエレメントにレンコンの穴のように多数の流路が設けられたモノリス構造、内部に複雑に入り組んだ連続孔が形成された連通構造、多孔質体を柱形に成形した中実多孔質構造、多孔質体を筒形に成形した中空多孔質構造、ハニカム構造体を管状に並べたハニカム構造などが挙げられる。また、無機多孔質材料で構成される中実の平板体やバルク体を用意し、その一部を刳り抜いてガス流路を形成することで、無機多孔質支持体を構成しても構わない。無機多孔質支持体の微細孔のサイズは、nmオーダーからμmオーダーまで、用途に応じて選択することができるが、4〜200nmとすることが好ましい。
【0033】
〔中間層〕
中間層は、無機多孔質支持体の表面を安定化させ、後述の分離層を形成し易くするために設けられる。例えば、微細孔のサイズが比較的大きい無機多孔質支持体の表面に後述する分離層の形成材料を含む混合液(ゾル)を直接塗布すると、混合液が微細孔の内部に過剰に浸透して無機多孔質支持体の表面に留まらず、分離層の成膜が難しくなることがある。そこで、無機多孔質支持体の表面に中間層を設けておくことで、微細孔の入口が中間層によって狭められ、混合液の塗布が容易になる。また、中間層によって無機多孔質支持体の表面が均等化されるため、分離層の剥離やひび割れを抑制することができる。
【0034】
中間層は、シラン化合物を含むように構成される。本実施形態の中間層は、ポリシロキサン網目構造体又は炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体を含む。ポリシロキサン網目構造体又は炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体は、テトラアルコキシシラン及び/又は炭化水素基含有トリアルコキシシランを含むアルコキシシランのゾル−ゲル反応によって得られる反応物である。従って、テトラアルコキシシラン、及び炭化水素基含有トリアルコキシシランは、ポリシロキサン網目構造体又は炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体の前駆体となる。
【0035】
テトラアルコキシシランは、下記の式(1)で表される四官能性アルコキシシランである。
【0036】
【化1】
【0037】
好ましいテトラアルコキシシランは、式(1)において、R〜Rが同一のメチル基であるテトラメトキシシラン(TMOS)又は同一のエチル基であるテトラエトキシシラン(TEOS)である。
【0038】
中間層の原材料であるアルコキシシランがテトラアルコキシシランのみである場合、式(1)のテトラアルコキシシランをゾル−ゲル反応させると、シロキサン結合(Si−O結合)が三次元的に連なったポリシロキサン網目構造体が得られる。
【0039】
一方、炭化水素基を含有する炭化水素基含有トリアルコキシシランは、下記の式(2)で表される三官能性アルコキシシランである。
【0040】
【化2】
【0041】
好ましい炭化水素基含有トリアルコキシシランは、式(2)において、R〜Rが同一のメチル基であるトリメトキシシラン又は同一のエチル基であるトリエトキシシランのSi原子に炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基が結合したものである。例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランが挙げられる。
【0042】
中間層の原材料であるアルコキシシランがテトラアルコキシシラン及び炭化水素基含有トリアルコキシシランである場合、式(1)のテトラアルコキシシランと、式(2)の炭化水素基含有トリアルコキシシランとをゾル−ゲル反応させると、例えば、下記の式(3)で表される分子構造を有する炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体が得られる。式(3)の炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体は、ポリシロキサンネットワーク構造中に炭化水素基Rが存在しており、ある種の有機−無機複合体を形成している。また、中間層の原材料であるアルコキシシランが炭化水素基含有トリアルコキシシランのみである場合、式(2)の炭化水素基含有トリアルコキシシランをゾル−ゲル反応させると、式(3)の炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体において、炭化水素基Rの密度が増加する。
【0043】
【化3】
【0044】
式(3)の炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体の原材料の一つである式(2)の炭化水素基含有トリアルコキシシランは、Rの違いにより特性が異なる。例えば、メチルトリメトキシシラン又はメチルトリエトキシシラン(炭化水素基の炭素数が1のもの)は主に二酸化炭素に対して親和性を有し、トリメトキシシラン又はトリエトキシシランのSi原子に炭素数2〜6のアルキル基又はフェニル基が結合したもの(炭化水素基の炭素数が2〜6のもの)は主にメタンガスに対して親和性を有する。そして、式(1)のテトラアルコキシシランと、式(2)の炭化水素基含有トリアルコキシシランとの反応から、式(3)の炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体を合成するにあたり、テトラアルコキシシラン(これをA1とする)と、炭化水素基含有トリアルコキシシラン(これをB1とする)とを最適な配合比率に設定すると、二酸化炭素又はメタンガスの分離性能に優れた分離膜を形成することが可能となる。
【0045】
中間層を形成するにあたっては、テトラアルコキシシラン(A1)と炭化水素基含有トリアルコキシシラン(B1)との配合比率(A1/B1)が重量比で30/70〜99.9/0.1、好ましくは60/40〜99.9/0.1となるように、式(1)のテトラアルコキシシランと、式(2)の炭化水素基含有トリアルコキシシランとを配合する。この場合、中間層は、炭化水素基含有トリアルコキシシランに由来する炭化水素基を含有するため、一般的な網目構造体よりも柔軟性を有するものとなり、テトラアルコキシシランによってある程度の剛性を維持しながら、全体の柔軟性やフレキシブル性を向上させることができる。その結果、中間層が安定化し、後述する分離層の成膜性が良好なものとなる。式(3)の炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体は、ポリシロキサンネットワーク構造中に炭化水素基Rが存在するある種の有機−無機複合体であって、緻密なポリシロキサンネットワーク構造を有する不定形の無機多孔質体を形成している。
【0046】
〔分離層〕
分離層は、二酸化炭素とメタンガスとを含む混合ガスから、二酸化炭素を選択的に誘引して分離する機能を有する。分離層には、ガス分離能とガス透過性とを高い次元で両立させることが求められる。そのため、分離層を形成するにあたっては、できる限り膜厚を小さくしながら、均一且つ緻密な膜に仕上げることが望ましい。そこで、本発明者らが分離層の形成条件について鋭意検討したところ、分離層の原料混合液(ゾル)にポリエチレングリコールを適量添加しておくと、分離層の成膜性が向上し、膜厚を小さくしても欠陥のない均一で且つ緻密な膜構造が得られることを見出した。従って、本発明においては、分離層は、炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体とともに、ポリエチレングリコールを含むものとする。なお、ポリエチレングリコールは、主に、直鎖状ポリエチレングリコールと分岐状ポリエチレングリコールとに分類されるが、分離層の成膜性を高める点において、直鎖状ポリエチレングリコールを使用することが好ましい。
【0047】
分離層におけるポリエチレングリコールの含有量は、0.1〜5.0重量%であり、好ましくは0.5〜3.0重量%である。ポリエチレングリコールの含有量が0.1重量%未満の場合、成膜性の向上効果が小さく、分離層の十分な薄膜化が困難となる。ポリエチレングリコールの含有量が5.0重量%を超える場合、アルコキシシランとポリエチレングリコールとが相分離し易くなり、平坦な膜を得ることが困難となる。また、分離層の原料混合液の粘度が大きくなるため、取り扱い難いものとなる。ポリエチレングリコールの分子量は、600〜5000000であり、好ましくは15000〜2200000であり、より好ましくは600000〜2200000である。ポリエチレングリコールの分子量が600未満の場合、ポリエチレングリコールが分解し易いため、熱処理を行うとポリエチレングリコールが消滅する可能性がある。ポリエチレングリコールの分子量が5000000を超える場合、分離層の原料混合液(ゾル)にポリエチレングリコールが均一に混合せず、また、原料混合液の粘度も大きくなるため、成膜作業が困難になる。なお、ポリエチレングリコールのうち、分子量が約500000以上のものはポリエチレンオキサイドと称される場合がある。
【0048】
分離層に含まれる炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体は、テトラアルコキシシラン及び炭化水素基含有トリアルコキシシランのゾル−ゲル反応によって得られる反応物である。従って、テトラアルコキシシラン、及び炭化水素基含有トリアルコキシシランは、炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体の前駆体となる。ここで、テトラアルコキシシランは、分離層に剛性を付与するものであり、炭化水素基含有トリアルコキシシランは、分離層における二酸化炭素親和性(すなわち、二酸化炭素分離性能)を向上させるものである。
【0049】
テトラアルコキシシラン及び炭化水素基含有トリアルコキシシランは、中間層の形成に使用する上述の式(1)で表されるテトラアルコキシシラン、及び式(2)で表される炭化水素基含有トリアルコキシシランと同様のものを使用できる。好ましいテトラアルコキシシランは、中間層と同様であり、式(1)において、R〜Rが同一のメチル基であるテトラメトキシシラン(TMOS)又は同一のエチル基であるテトラエトキシシラン(TEOS)である。好ましい炭化水素基含有トリアルコキシシランについても、中間層と同様であり、式(2)において、R〜Rが同一のメチル基であるトリメトキシシラン又は同一のエチル基であるトリエトキシシランのSi原子に炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基が結合したものである。
【0050】
分離層においても、式(1)のテトラアルコキシシランと、式(2)の炭化水素基含有トリアルコキシシランとをゾル−ゲル反応させることにより、前述した式(3)で表される分子構造を有する炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体が得られる。分離層を形成するにあたっては、テトラアルコキシシラン(A2)と炭化水素基含有トリアルコキシシラン(B2)との配合比率(A2/B2)が重量比で0/100〜70/30、好ましくは40/60〜70/30となるように、式(1)のテトラアルコキシシランと、式(2)の炭化水素基含有トリアルコキシシランとを配合する。さらに、中間層及び分離層の形成に際しては、中間層形成時の上記配合比率(A1/B1)が分離層形成時の上記配合比率(A2/B2)より大きくなるように、テトラアルコキシシラン及び炭化水素基含有トリアルコキシシランを配合する。この場合、分離層の方が中間層よりも炭化水素基含有トリアルコキシシランに由来する炭化水素基を多く含有するため、混合ガス中の二酸化炭素が選択的に分離層に誘引され、混合ガスからの二酸化炭素の分離を効率よく行うことができる。
【0051】
分離膜の分離性能をさらに高めるためには、上記式(3)の炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体に二酸化炭素と親和性を有する金属塩を添加(ドープ)し、分離膜中に金属塩を分散させておくことが好ましい。そのような金属塩として、例えば、Li、Na、K、Cs、Mg、Ca、Ni、Fe、及びAlからなる群から選択される少なくとも一種の金属の酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩、又はリン酸塩が挙げられる。これらのうち、硝酸マグネシウム又は酢酸マグネシウムが好ましい金属塩として使用される。硝酸マグネシウム等を初めとする上記金属塩は、二酸化炭素との親和性が良好であるため、二酸化炭素の分離効率向上に有効となる。金属塩の添加は、炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体の原材料に金属塩を予め添加しておく方法が簡便であるが、例えば、生成した炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体を、金属塩を含む水溶液に浸漬し、炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体の内部に金属塩を単独又は他の物質とともに含浸させる含浸法により行うことも可能である。
【0052】
<酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法>
本発明の酸性ガス含有ガス処理用分離膜は、以下の工程(a)〜(e)によって製造される。以下、各工程について詳細に説明する。
【0053】
(a)準備工程
準備工程として、テトラアルコキシシラン及び/又は炭化水素基含有トリアルコキシシランを含むアルコキシシラン、酸触媒、水、及び有機溶媒を混合した第一混合液を調製する。第一混合液は、次工程の「第一塗布工程」において使用されるものである。アルコキシシラン(テトラアルコキシシラン及び/又は炭化水素基含有トリアルコキシシラン)、酸触媒、水、並びに有機溶媒の夫々の配合量は、テトラアルコキシシラン及び/又は炭化水素基含有トリアルコキシシランの合計量1モルに対して、酸触媒0.001〜0.1モル、水0.5〜60モル、有機溶媒5〜80モルに調整することが好ましい。酸触媒の配合量が0.001モルより少ない場合、加水分解速度が小さくなり、分離膜の製造に要する時間が長くなる。酸触媒の配合量が0.1モルより多い場合、加水分解速度が過大となり、均一な分離膜が得られ難くなる。水の配合量が0.5モルより少ない場合、加水分解反応を伴うゾルーゲル反応生成物が十分に成長しない。水の配合量が60モルより多い場合、成膜性が悪化する。有機溶媒の配合量が5モルより少ない場合、第一混合液の濃度が高くなり、緻密で均一な分離膜が得られ難くなる。有機溶媒の配合量が80モルより多い場合、第一混合液の濃度が低くなり、混合液のコーティング回数(工程数)が増加して生産効率が低下する。酸触媒としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸等が使用される。これらのうち、硝酸又は塩酸が好ましい。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトニトリル、ベンゼン、トルエン等が使用される。これらのうち、メタノール又はエタノールが好ましい。
【0054】
以下、第一混合液に含まれるアルコキシシランとして、テトラアルコキシシラン及び炭化水素基含有トリアルコキシシランの両方を含む場合のゾル−ゲル反応を例に挙げて説明する。第一混合液を調製すると、先ず、テトラアルコキシシランが加水分解及び重縮合を繰り返すゾル−ゲル反応が開始する。テトラアルコキシシランは、上述の「酸性ガス含有ガス処理用分離膜」の項目で説明したものを使用することができる。例えば、テトラアルコキシシランの一例としてテトラエトキシシラン(TEOS)を使用した場合、ゾル−ゲル反応は下記のスキーム1のように進行すると考えられる。なお、このスキーム1は、ゾル−ゲル反応の進行を表す一つのモデルであり、実際の分子構造をそのまま反映しているとは限らない。
【0055】
【化4】
スキーム1によれば、初めに、テトラエトキシシランの一部のエトキシ基が加水分解され、脱アルコール化することによりシラノール基が生成する。ここで、第一混合液中で進行する加水分解反応を「第一加水分解反応」とする。テトラエトキシシランの一部のエトキシ基は加水分解されず、そのまま残存し得る。次いで、一部のシラノール基が近傍のシラノール基と会合し、脱水することにより重縮合する。その結果、シラノール基又はエトキシ基が残存したシロキサン骨格が形成される。上記の第一加水分解反応、及び脱水・重縮合反応は混合液系内で略均等に進行するため、シラノール基又はエトキシ基はシロキサン骨格中に略均等に分散した状態で存在する。この段階では、シロキサンの分子量はそれほど大きいものではなく、ポリマーよりもむしろオリゴマーの状態にある。従って、シラノール基又はエトキシ基含有シロキサンオリゴマーは、有機溶媒を含む第一混合液に溶解した状態にある。
【0056】
次に、シロキサンオリゴマーと炭化水素基含有トリアルコキシシランとの反応が開始する。炭化水素基含有トリアルコキシシランは、上述の「酸性ガス含有ガス処理用分離膜」の項目で説明したものを使用することができる。例えば、炭化水素基含有トリアルコキシシランの一例としてメチルトリエトキシシランを使用した場合、反応は下記のスキーム2のように進行すると考えられる。なお、このスキーム2は、反応の進行を表す一つのモデルであり、実際の分子構造をそのまま反映しているとは限らない。
【0057】
【化5】
スキーム2によれば、シロキサンオリゴマーのシラノール基又はエトキシ基と、メチルトリエトキシシランのエトキシ基とが反応し、脱アルコール化することによりポリシロキサン結合が生成する。ここで、シロキサンオリゴマーのシラノール基又はエトキシ基は、上述のようにシロキサン骨格中に略均等に分散しているため、シロキサンオリゴマーのシラノール基又はエトキシ基とメチルトリエトキシシランのエトキシ基との反応(脱アルコール化)も略均等に進行すると考えられる。その結果、生成したポリシロキサン結合中にはメチルトリエトキシシラン由来のシロキサン結合が略均等に生成し、従って、メチルトリエトキシシラン由来のエチル基もポリシロキサン結合中に略均等に存在する。そして、反応がさらに進行すると、微細化されたポリシロキサン網目構造体が液中に分散した懸濁液の状態となる。
【0058】
準備工程では、上記の第一混合液とは別に、テトラアルコキシシラン、炭化水素基含有トリアルコキシシラン、ポリエチレングリコール、酸触媒、水、及び有機溶媒を混合した第二混合液をさらに調製する。第二混合液は、後述の「第二塗布工程」において使用されるものである。テトラアルコキシシラン、炭化水素基含有トリアルコキシシラン、酸触媒、水、並びに有機溶媒の夫々の配合量は、テトラアルコキシシラン及び炭化水素基含有トリアルコキシシランの合計量1モルに対して、酸触媒0.005〜0.1モル、水0.017〜3モル、有機溶媒5〜60モルに調整することが好ましい。酸触媒の配合量が0.005モルより少ない場合、加水分解速度が小さくなり、分離膜の製造に要する時間が長くなる。酸触媒の配合量が0.1モルより多い場合、加水分解速度が過大となり、均一な分離膜が得られ難くなる。水の配合量は、第一混合液よりも少なく設定されるが、水の配合量が0.017モルより少ない場合、加水分解速度が小さくなり、後述のゾル−ゲル反応が十分に進行しない。水の配合量が3モルより多い場合、緻密で均一な分離膜が得られ難くなる。有機溶媒の配合量が5モルより少ない場合、第二混合液の濃度が高くなり、緻密で均一な分離膜が得られ難くなる。有機溶媒の配合量が60モルより多い場合、第二混合液の濃度が低くなり、混合液のコーティング回数(工程数)が増加して生産効率が低下する。酸触媒は、第一混合液と同様のものを使用することができる。有機溶媒は、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトニトリル、ベンゼン、トルエン等が使用される。これらのうち、メタノール、エタノール、又はアセトニトリルが好ましい。ポリエチレングリコールの配合量は、テトラアルコキシシラン及び炭化水素基含有トリアルコキシシランの合計重量の0.05〜2.0%に調整することが好ましい。ポリエチレングリコールの配合量が0.05%未満の場合、成膜性の向上効果が小さく、分離層の十分な薄膜化が困難となる。ポリエチレングリコールの配合量が2.0%を超える場合、アルコキシシランとポリエチレングリコールとが相分離し易くなり、平坦な膜を得ることが困難となる。また、分離層の原料混合液の粘度が大きくなるため、取り扱い難いものとなる。なお、ポリエチレングリコールの配合量を上記範囲に調整すると、最終的に得られる分離膜において、分離層におけるポリエチレングリコールの含有量は0.1〜5.0重量%となる。第二混合液を調製するにあたっては、ポリエチレングリコールを、テトラアルコキシシラン、炭化水素基含有トリアルコキシシラン、酸触媒、水、及び有機溶媒の混合物に添加することが好ましい。すなわち、ポリエチレングリコールを最後に添加することが好ましい。この場合、第二混合液の粘度が低い状態でテトラアルコキシシランと炭化水素基含有トリアルコキシシランとが均一に混合するため、両者間でのゾル−ゲル反応を確実に進行させることができる。また、ポリエチレングリコールを最後に添加することで、アルコキシシランの加水分解反応に大きな影響を与えることがなく、その結果、均一な分離層を形成することが可能となる。また、第二混合液を調製する際、二酸化炭素と親和性を有する金属塩を配合することも可能である。金属塩の配合量は、上記の配合条件の場合、0.01〜0.3モルに調整される。二酸化炭素と親和性を有する金属塩としては、上述の「酸性ガス含有ガス処理用分離膜」の項目で説明したものを使用することができる。金属塩を添加する場合は、ゾル−ゲル反応時にポリシロキサンに取り込まれた金属塩はポリシロキサン結合中に略均等に分散すると考えられる。
【0059】
第二混合液の反応は、上述のスキーム1及びスキーム2と同様である。第二混合液中で進行する加水分解反応を「第二加水分解反応」とする。ここで、第一加水分解反応と第二加水分解反応とを比較すると、第一混合液に含まれる水の量は第二混合液に含まれる水の量より多く設定されているため、第一加水分解反応は第二の加水分解反応より加水分解速度が大きいものとなる。加水分解速度が大きくなると、ゾル−ゲル反応によって得られるポリシロキサン網目構造体の高分子化が進行し、後述する無機多孔質支持体の表面を安定化させることができる。
【0060】
以上のように準備工程が行われるが、第一混合液の調製においては、水を複数回に分けて混合することが好ましい。この場合、第一加水分解反応を確実に進行させることができるため、無機多孔質支持体の表面をより安定化させることができる。また、第一混合液及び第二混合液の調製においては、酸触媒を複数回に分けて混合したり、加水分解し易い炭化水素基含有トリアルコキシシランを最後に混合する等の工夫を行うことが好ましい。例えば、混合液のpHが常に0.8〜2.5の範囲に収まるように、組成を調製する。この場合、混合液のpHが大きく変動しないため、炭化水素基含有トリアルコキシシランの加水分解が急激に進行せず、安定した状態でゾル−ゲル反応を進行させることができる。さらに、第一混合液の調製に使用する水の量をW1とし、第二混合液の調製に使用する水の量をW2としたとき、両者の比率(W1/W2)は、モル換算で10〜20に設定されることが好ましい。この場合、後述する中間層がより安定化し、中間層の上に形成される分離層のガス選択性及びガス透過性を向上させることができる。
【0061】
(b)第一塗布工程
第一塗布工程として、準備工程で得られた第一混合液(微細化されたポリシロキサン網目構造体の懸濁液)を無機多孔質支持体に塗布する。無機多孔質支持体に第一混合液を塗布する方法は、例えば、ディッピング法、スプレー法、スピン法等が挙げられる。これらのうち、ディッピング法は、無機多孔質支持体の表面に混合液を均等且つ容易に塗布できるため、好ましい塗布方法である。ディッピング法の具体的な手順について説明する。
先ず、無機多孔質支持体を第一混合液に浸漬する。浸漬時間は、無機多孔質支持体に第一混合液が十分に付着するように5秒〜10分とすることが好ましい。浸漬時間が5秒より短いと十分な膜厚にならず、10分を超えると膜厚が大きくなり過ぎてしまう。次いで、第一混合液から無機多孔質支持体を引き上げる。引き上げ速度は、0.1〜2mm/秒とすることが好ましい。引き上げ速度が上記範囲であれば、適切な膜厚を有する中間層を形成することができる。次いで、引き上げた無機多孔質支持体を乾燥させる。乾燥条件は、15〜40℃で0.5〜3時間とすることが好ましい。乾燥時間が0.5時間未満では十分な乾燥ができず、3時間を超えても乾燥状態は殆ど変化しない。乾燥が終わると、無機多孔質支持体の表面(一部の微細孔の内面を含む)に微細化されたポリシロキサン網目構造体が付着したものが得られる。なお、無機多孔質支持体の浸漬、引き上げ、乾燥の一連の手順を複数回繰り返すことにより、無機多孔質支持体への微細化されたポリシロキサン網目構造体の付着量を増加させることができる。また、一連の手順を繰り返すことで、無機多孔質支持体に第一混合液を均一に塗布することができるため、最終的に得られる酸性ガス含有ガス処理用分離膜をより安定させることができる。
【0062】
(c)中間層形成工程
中間層形成工程として、第一塗布工程が完了した無機多孔質支持体を熱処理し、当該無機多孔質支持体の表面に微細化されたポリシロキサン網目構造体を固着又は融着させてポリシロキサン網目構造体を主材とした中間層を形成する。熱処理は、例えば、焼成器等の加熱手段が用いられる。熱処理の具体的な手順について説明する。
先ず、無機多孔質支持体を後述の熱処理温度に達するまで昇温する。昇温時間は、1〜24時間が好ましい。昇温時間が1時間より短いと急激な温度変化により均一な膜が得られ難く、24時間より長いと長時間の加熱により膜が劣化する虞がある。昇温後、一定時間で熱処理(焼成)を行う。熱処理温度は、30〜300℃が好ましく、50〜200℃がより好ましい。熱処理温度が30℃より低いと十分な熱処理を行えないため緻密な膜が得られず、300℃より高いと高温の加熱により膜が劣化する虞がある。熱処理時間は、0.5〜6時間が好ましい。熱処理時間が0.5時間より短いと十分な熱処理を行えないため緻密な膜が得られず、6時間より長いと長時間の加熱により膜が劣化する虞がある。熱処理が終わったら、無機多孔質支持体を室温まで冷却する。冷却時間は、5〜10時間が好ましい。冷却時間が5時間より短いと急激な温度変化により膜に亀裂や剥離が発生する虞があり、10時間より長いと膜が劣化する虞がある。冷却後の無機多孔質支持体の表面(一部の微細孔の内面を含む)には中間層が形成される。中間層は、目付量が0.1〜4.0mg/cmに調整され、好ましくは0.5〜2.0mg/cmに調整される。なお、「中間層形成工程」の後、上述した「第一塗布工程」に戻り、第一塗布工程と中間層形成工程とをセットとして、これを複数回繰り返すと、無機多孔質支持体の表面に、より緻密で且つ均一な膜質の中間層を形成することができる。
【0063】
(d)第二塗布工程
第二塗布工程として、中間層形成工程によって中間層が形成された無機多孔質支持体に第二混合液(微細化されたポリシロキサン網目構造体の懸濁液)を塗布する。第二塗布工程で塗布される第二混合液は、中間層を介して無機多孔質支持体に塗布されるため、無機多孔質支持体への第二混合液の浸み込み量(無機多孔質支持体の表面から深さ方向にテトラアルコキシシラン又は炭化水素基含有トリアルコキシシランが浸み込む距離)を50μm以下に抑えることができる。従って、無機多孔質支持体の微細孔が過度に塞がれることがなく、後述の分離層形成工程により完成した酸性ガス含有ガス処理用分離膜に混合ガスを通過させた場合、ガス通過量(混合ガスの処理量)を維持することができる。また、無機多孔質支持体に塗布する中間層及び分離層の形成材料(ゾル)の塗布量を低減することができるため、酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造コストの削減にも寄与し得る。第二混合液を塗布する方法は、第一塗布工程と同様である。第二混合液を塗布する条件は、第二混合液から無機多孔質支持体を引き上げる引き上げ速度については、0.5〜50mm/秒とすることが好ましい。引き上げ速度が上記範囲であれば、適切な膜厚を有する分離層を形成することができる。その他の条件は、第一塗布工程と同様である。第二塗布工程においても、第二混合液への無機多孔質支持体の浸漬、引き上げ、乾燥の一連の手順を複数回繰り返すことにより、無機多孔質支持体への微細化されたポリシロキサン網目構造体の付着量を増加させることができる。また、一連の手順を繰り返すことで、無機多孔質支持体に第二混合液を均一に塗布することができるため、最終的に得られる酸性ガス含有ガス処理用分離膜の分離性能をより向上させることができる。
【0064】
(e)分離層形成工程
分離層形成工程として、第二塗布工程が完了した無機多孔質支持体を熱処理し、当該無機多孔質支持体の表面に微細化されたポリシロキサン網目構造体を固着又は融着させてポリシロキサン網目構造体を主材とした分離層を形成する。熱処理の方法及び条件は、中間層形成工程と同様である。分離層形成工程により、中間層の上に分離層が形成される。分離層は、目付量が0.1〜3.0mg/cmに調整され、好ましくは0.3〜1.5mg/cmに調整される。なお、「分離層形成工程」の後、上述した「第二塗布工程」に戻り、第二塗布工程と分離層形成工程とをセットとして、これを複数回繰り返すと、無機多孔質支持体の表面に、より緻密で且つ均一な膜質の分離層を形成することができる。
【0065】
以上の工程(a)〜(e)を実施することにより、本発明の酸性ガス含有ガス処理用分離膜が完成する。この分離膜は、ベースとなる無機多孔質支持体に、特定のガス(本実施形態の場合、二酸化炭素)を誘引するサイト(メチル基)を有する分離層が形成されたものである。分離層は、中間層の上に形成されるものであるが、分離層に含まれるポリエチレングリコールは分離層の成膜性を向上させる作用があるため、分離層の膜厚を小さくしても欠陥のない均一で且つ緻密な膜構造が得られる。また、中間層に含まれるポリシロキサン網目構造体は、炭化水素基含有トリアルコキシシランに由来する炭化水素基を含有するため、一般的な網目構造体よりも柔軟性を有するものとなる。このため、中間層は、テトラアルコキシシランによってある程度の剛性を維持しながら、全体の柔軟性やフレキシブル性が向上したものとなる。中間層の柔軟性が向上すると、中間層の成膜性も向上する。そうすると、分離層の成膜性の向上との相乗効果により、より均一で且つ緻密な分離膜を形成することができ、これにより、中間層のひび割れや剥がれが防止され、無機多孔質支持体への分離層の原材料液の浸み込み量が低減される。原材料液の浸み込み量(浸み込む距離)は50μm以下であれば問題はないが、好ましくは、20μm以下である。この場合、分離層の厚みの増加が抑えられ、ガス透過性に優れた酸性ガス含有ガス処理用分離膜を得ることができる。
【0066】
完成した酸性ガス含有ガス処理用分離膜に、二酸化炭素等の酸性ガスとメタンガスとを含有する混合ガスを通過させると、混合ガス中の酸性ガスが選択的に分離層に誘引され、そのまま分離膜を透過する。その結果、混合ガス中のメタンガス成分が濃縮され、高濃度のメタンガスを効率的に得ることができる。濃縮されたメタンガスは、都市ガスの原料や、燃料電池に使用する水素の原料に利用することができる。なお、分離層がメタンガスを誘引するサイト(エチル基以上の炭素数を有する炭化水素基)を有する場合は、二酸化炭素とメタンガスとを含む混合ガスを通過させると、分離層にメタンガスが選択的に誘引され、メタンガスは細孔をそのまま透過する。従って、この場合は、分離膜を透過したメタンガスを回収し、これを都市ガスの原料や、燃料電池に使用する水素の原料に利用することができる。
【実施例】
【0067】
表1(実施例1〜5)及び表2(実施例6〜9、比較例1)に示す原材料の配合に従って、分離層に含まれるポリエチレングリコールの含有量及び分子量を種々変更した酸性ガス含有ガス処理用分離膜を作製した。なお、以下の実施例及び比較例では、各原材料の配合量の単位を「g」としているが、本発明は、任意の倍率でスケールアップが可能である。すなわち、各原材料の配合量の単位については、「重量部」と読み替えることができる。
【0068】
ポリエチレングリコールは、直鎖状ポリエチレングリコールを使用した。無機多孔質支持体には、チューブラー構造を有するアルミナ系セラミックス管状体を使用した。中間層及び分離層の原材料には、以下の試薬を使用した。
(a)テトラアルコキシシラン:テトラエトキシシラン(信越化学工業株式会社製 信越シリコーンLS−2430)
(b)炭化水素基含有トリアルコキシシラン:メチルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製 信越シリコーンLS−1890)
(c)酸触媒:硝酸(和光純薬工業株式会社製 試薬特級)
(d)有機溶媒:アセトニトリル(和光純薬工業株式会社製 LC/MS用)、エタノール(和光純薬工業株式会社製 試薬特級99.5%)
(e)金属塩:硝酸マグネシウム六水和物(アルドリッチ社製)
(f)ポリエチレングリコール(直鎖状):ポリエチレンオキサイド(住友精化株式会社製 PEO−8 平均分子量170万〜220万)、ポリエチレンオキサイド(住友精化株式会社製 PEO−3 平均分子量11万〜150万)、ポリエチレンオキサイド(住友精化株式会社製 PEO−1 平均分子量60万〜110万)、ポリエチレングリコール(ナカライテスク株式会社製 化学用 平均分子量1.5万〜2.5万)
【0069】
<第一混合液の調製>
硝酸0.0036g、エタノール52.61g、水(1段目)0.32gの混合液を30分間攪拌し、次いでテトラエトキシシラン3.96gを添加して1時間攪拌し、さらにメチルトリエトキシシラン1.54gを添加して2.5時間撹拌し、最後に水(2段目)0.36gを添加して2時間撹拌することにより、中間層形成用アルコキシド液(第一混合液)を調製した。各原材料の配合量は、テトラエトキシシランとメチルトリエトキシシランとの合計モル数を1モルとしたとき、硝酸が0.003モル、エタノールが60モル、水(1段目)が2モル、水(2段目)が8モルとなる。
【0070】
<第二混合液の調製>
硝酸0.04g、アセトニトリル(実施例1〜9)46.18g又はエタノール(比較例1)47.37g、水2.02gの混合液を30分間攪拌し、次いでテトラエトキシシラン7.03gを添加して1時間攪拌し、さらにメチルトリエトキシシラン4.01gを添加して2.5時間撹拌し、さらに硝酸マグネシウム六水和物0.72gを添加して2時間撹拌し、最後にポリエチレンオキサイド又はポリエチレングリコール(実施例1〜9)を表1に示す配合量で添加して適宜撹拌することにより、分離層形成用アルコキシド液(第二混合液)を調製した。比較例1については、ポリエチレンオキサイド又はポリエチレングリコールを添加しないものとした。各原材料の配合量は、テトラエトキシシランとメチルトリエトキシシランとの合計モル数を1モルとしたとき、硝酸が0.01モル、アセトニトリル又はエタノールが20モル、水が2モル、硝酸マグネシウム六水和物が0.05モルとなる。
【0071】
<中間層及び分離層の形成>
チューブラー構造を有するアルミナ系セラミックス管状体の表面に第一混合液をディッピング法によって塗布した。ディッピング法の引き上げ速度は5mm/sとし、引き上げ後は室温で1時間乾燥させた。第一混合液の塗布及び乾燥を2回繰り返した後、焼成器で熱処理を行った。熱処理条件は、室温(25℃)から150℃まで5時間かけて加熱し、150℃で2時間保持し、25℃まで5時間かけて冷却した。上記の作業(コーティング)を3回繰り返し、管状体の表面に中間層を形成した。次に、中間層を形成した管状体の表面に第二混合液をディッピング法によって塗布した。ディッピング法の引き上げ速度は5mm/sとし、引き上げ後は室温で1時間乾燥させた。第二混合液の塗布及び乾燥を2回繰り返した後、焼成器で熱処理を行った。熱処理条件は、室温(25℃)から150℃まで5時間かけて加熱し、150℃で2時間保持し、25℃まで5時間かけて冷却した。上記の作業(コーティング)を2回繰り返し、中間層の上に分離層を形成した。上記の層形成工程において、実施例1〜9における中間層及び分離層はいずれも成膜性に問題はなかった。目付量に関しては、下記表1のとおり、実施例1〜9はいずれも分離層の目付量が十分に小さくなり、分離層の厚みの増加が抑えられたものとなっていた。その結果、全体として厚みが抑えられた酸性ガス含有ガス処理用分離膜が得られた。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
<分離性能確認試験>
上記の手順により作製した各分離膜について、二酸化炭素の分離性能に関する確認試験を行った。この確認試験では、分離膜に窒素を透過させたときの気体透過速度〔P(N)〕、及び同じ分離膜に二酸化炭素を透過させたときの気体透過速度〔P(CO)〕を測定した。ここで、窒素の気体分子径は3.64Åであり、二酸化炭素の気体分子径は3.3Åである。このため、窒素よりも気体分子径が小さい二酸化炭素は分離膜を透過し易い。従って、このような気体によって異なる性質を利用し、さらに膜の構成を適切に設定すれば、二酸化炭素を含有する混合ガスから二酸化炭素を分離することが可能となる。なお、この確認試験では、分離膜にメタンガスを透過させたときの気体透過速度〔P(CH)〕の測定は行っていないが、メタンガスの気体分子径(3.8Å)は窒素の気体分子径(3.64Å)よりも若干大きいため、本発明の分離膜によって二酸化炭素と窒素との分離が可能であることが確認できれば、二酸化炭素とメタンガスとの分離も可能であると推定される。
【0075】
図1は、分離性能確認試験に使用した気体透過速度測定装置10の概略構成図である。気体透過速度測定装置10は、ガスシリンダー1、圧力ゲージ2、チャンバー3、及び質量流量計4を備える。分離膜5は、チャンバー3の内部に設置される。
【0076】
測定ガスである二酸化炭素又は窒素をガスシリンダー1に予め充填しておく。ここでは、二酸化炭素をガスシリンダー1に充填したものとして説明する。ガスシリンダー1から排出された二酸化炭素は、圧力ゲージ2によって圧力が調整され、下流側のチャンバー3に供給される。本確認試験では、二酸化炭素の供給圧を室温で0.1MPaに調整した。管状体である分離膜5は、一端(先端側)5aが封止され、他端(基端側)5bに耐熱ガラス管6が接続される。耐熱ガラス管6は、コーニング社製のパイレックス(登録商標)管(外径8mm、内径6mm、長さ10mm)を使用した。ただし、耐熱ガラス管6の一端側は、分離膜5(内径7mm)に内挿できるように、外径が7mm以下に縮径加工されている。分離膜5と耐熱ガラス管6との接続箇所は、接着剤(セメダイン株式会社製の接着剤「セメダイン(登録商標)C」)で接着し、さらにエポキシ樹脂(ナガセケムテックス株式会社製の二液性エポキシ系接着剤「AV138」及び「HV998」)によってシールした。チャンバー3が二酸化炭素で充満されると、二酸化炭素は管状体である分離膜5の表面から管内に透過し、耐熱ガラス管6を通過して質量流量計4に流入する。質量流量計4には、コフロック社製の熱式質量流量計(マスフローメーター「5410」)を使用した。測定条件は、流量レンジを10mL/分、フルスケール(FS)最大流量に対する精度は±1%(20℃)とした。質量流量計4で測定した二酸化炭素の流量〔mL/min〕から、二酸化炭素の気体透過速度〔P(CO)〕(m/(m×s(秒)×Pa))を算出した。窒素についても上記と同様の手順により気体透過速度〔P(N)〕(m/(m×s(秒)×Pa))を算出した。そして、二酸化炭素の気体透過速度〔P(CO)〕と窒素の気体透過速度〔P(N)〕との比率である透過速度比〔α(CO/N)〕から二酸化炭素の分離性能を評価した。分離性能確認試験の結果を表3に示す。
【0077】
【表3】
【0078】
分離層にポリエチレンオキサイド又はポリエチレングリコールを含む実施例1〜9の分離膜は、比較例1の分離膜よりも二酸化炭素と窒素との透過速度比〔α(CO/N)〕が大きくなり、二酸化炭素の分離性能が優れていた。より詳細に検討すると、ポリエチレンオキサイドの分子量が等しい実施例1〜4では、ポリエチレンオキサイドの配合量が多くなるに連れて透過速度比〔α(CO/N)〕がより大きくなる傾向が見られた。一方、ポリエチレンオキサイドの配合量は等しいが分子量が異なる実施例3、5、7のグループ内、及び実施例4、6、8、9のグループ内で比較すると、透過速度比〔α(CO/N)〕は一定以上となっており、本発明における分子量の範囲では、実用レベルの二酸化炭素の分離性能が得られることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の酸性ガス含有ガス処理用分離膜、及びその製造方法は、都市ガスの製造設備、燃料電池への水素供給設備、工場排ガスの浄化設備、及び液化炭酸ガス製造設備等において利用可能である。また、地球温暖化対策として検討されているCCSにおいても利用可能である。
【符号の説明】
【0080】
1 ガスシリンダー
2 圧力ゲージ
3 チャンバー
4 質量流量計
5 分離膜
6 耐熱ガラス管
10 気体透過速度測定装置
図1