(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記可動要素の各安定した磁気的位置において、前記レバーにはたらく前記第1の磁気トルクは、前記第1の区画において前記第1の磁気トルクの最大値に近い又は実質的に等しい値を有する
ことを特徴とする請求項4に記載の計時器用ムーブメント。
前記可動要素又は前記磁性構造には、少なくとも前記第1の磁気トルクが前記レバーに対して前記第1の方向にはたらいたときに前記レバーの前記接触部分(31)を支持するようになる歯列(26)があり、
前記歯列と前記レバーは、前記接触部分が前記複数の離散的な安定位置のそれぞれの位置において前記歯列の歯底部に位置するように構成している
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の計時器用ムーブメント。
前記レバーは、前記レバーに弾性力を与えるばね(32)に関連づけられており、これによって、前記接触部分を前記歯列の方へと押す機械的トルクを前記接触部分にて発生させる
ことを特徴とする請求項6に記載の計時器用ムーブメント。
前記磁性構造(84)は、2つの連続する磁性要素の間に高透磁性材料がないような空間があるように複数の周期を定めるように、前記可動要素に沿って前記変位軸(24)上に配置されている複数の別個の要素(86)によって形成されている
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の計時器用ムーブメント。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず、
図1及び2を参照して、複数の離散的な安定位置に可動要素をポジショニングするデバイスを作るために本発明によって巧妙に用いられて効果を発揮する磁性システムについて説明する。
【0011】
磁性システム2は、第1の固定磁石4と、高透磁性要素6と、及び第2の磁石8とを有しており、この第2の磁石8は、変位軸に沿って、第1の磁石4と要素6によって形成されるアセンブリーに対して動くことができる。この変位軸は、ここでは前記の3つの磁性要素のアラインメント軸10と一致している。要素6は、第1の磁石と、この第1の磁石の近くにあり第1の磁石に対して所定の位置にある第2の磁石との間に配置されている。特定の変種において、要素6と磁石4の間の距離は、この磁石4の磁化軸に沿った長さの10分の1よりも小さいか又は実質的に等しい。要素6は、例えば、炭素鋼、炭化タングステン、ニッケル、FeSi又はFeNi、あるいはVacozet(登録商標)(CoFeNi)やVacoflux(登録商標)(CoFe)のような他のコバルトを含有する合金によって作られている。好ましい変種において、この高透磁性要素は、鉄又はコバルトベースの金属性ガラスによって作られている。高透磁性要素6は、飽和磁場B
Sと透磁率μによって特徴づけられる。磁石4及び8は、例えば、フェライト、FeCo又はPtCo、あるいはNdFeBやSmCoのような希土類含有物によって作られている。これらの磁石は、それらの残留磁場Br1及びBr2によって特徴づけられる。
【0012】
高透磁性要素6には中央軸があり、この中央軸は、好ましくは、第1の磁石4の磁化軸と、そして、第2の磁石8の磁化軸と、実質的に一致している。この中央軸は、ここでは、アラインメント軸10と一致している。磁石4の磁化方向と磁石8の磁化方向とは、反対方向である。このようにして、これらの第1及び第2の磁石は、反対の極性を有し、それらの間で特定の相対距離にわたって相対運動を行うことができる。要素6と可動磁石8の間の距離Dは、この可動磁石8と、当該磁性システムの他の2つの要素との間の離間距離を表している。なお、ここでは軸10が直線状であるように構成しているが、これは1つの変種にすぎず、これには制限されない。実際に、下で説明する実施形態におけるように変位軸は曲がっていてもよい。このように変位軸が曲がっている場合では、要素6の中央軸は、好ましくは、可動磁石8の曲がった変位軸に対して接線方向を向いており、したがって、このような変位軸が曲がっている磁性システムのふるまいは、一見したところでは、ここで説明している変位軸が直線状である磁性システムのふるまいと似ている。このことは、曲率半径が要素6と可動磁石8の間の可能性のある最大の距離と比べて大きいときに特にいえる。好ましい変種において、
図1に示すように、要素6は、中央軸10に直交する平面における寸法構成が、この直交する平面上への射影において、第1の磁石4の寸法構成よりも大きく、かつ、第2の磁石8の寸法構成よりも大きい。なお、可動の第2の磁石がそのトラベルの端において高透磁性要素に対向するようになって止められる場合には、この第2の磁石に、硬化された表面又は硬い材料の精密表面層を設けることができる。
【0013】
2つの磁石4及び8どうしは、高透磁性要素6がない場合に磁気的反発力がこれらの2つの磁石を互いに離れるように動かそうとするように互いに反発し合う。しかし、驚くべきことに、これらの2つの磁石4、8の間に要素6がある構成によって、可動磁石8と要素6の間の距離が十分に小さいときには可動磁石8にはたらく磁力の方向が逆転して、可動磁石8に磁気的引力がはたらく。
図2の曲線12は、磁性システム2によって可動磁石8にはたらく磁力を、可動磁石8と高透磁性要素6の間の距離Dの関数として示している。なお、可動磁石8全体には、距離Dの第1の範囲D1にわたって磁気的引力がはたらく。この磁気的引力は、要素6の方に可動磁石8を保持したり、あるいは要素6から離れているときには要素6の方に可動磁石8を戻す傾向がある。2つの磁石の間に高透磁性要素(特に、強磁性体の要素)が存在することに起因するこの全体的な引力によって、磁気的に互いに反発するように構成している2つの磁石の間で磁力を反転させることが可能になる。これに対して、この可動磁石には全体として、距離Dの第2の範囲D2にわたって磁気的反発力がはたらく。この第2の範囲D2は、要素6と磁石8の間の距離が距離Dの第1の範囲D1よりも大きい場合の距離に対応している。第2の範囲D2は、一般的には可動磁石8の離間距離を制限する止めによって定められる最大距離D
maxに実際上制限される。
【0014】
可動磁石8にはたらく磁力は、距離Dの連続関数であり、したがって、磁力反転が発生する距離D
invにてゼロの値を有する(
図2)。これは、磁性システム2の注目すべき動作である。反転距離D
invは、磁性システムを形成する3つの磁性コンポーネントの幾何学的構成と、それらの磁気的特性によって決まる。このようにして、この反転距離は、ある程度まで、磁性システム2の3つの磁性要素4、6、8の物理的パラメーターと、強磁性要素6と固定磁石4の間の距離とによって選択することができる。同じことは、曲線12の傾きの進展にも当てはまる。なぜなら、このようにして、可動磁石が強磁性要素に近づくときの、この傾きの変化と、特に、引力の強さ、を調整することができるからである。
【0015】
以下、
図3〜6、7A〜7Eを参照しながら、本発明の第1の実施形態について説明する。
【0016】
計時器用ムーブメント20は、日付リング22を有しており、この日付リングは、環状の変位軸24に沿って時計回りの方向に回転駆動されることができ、この変位軸24に沿って順次的に複数の離散的な安定位置にて一時的に不動になることができる。計時器用ムーブメントは、複数の離散的な位置のうちの任意の1つの角位置に日付リングをポジショニングするデバイスを備える。このポジショニングデバイスは、互いに関連づけられている2つの相補的なシステム、すなわち、機械的システムと磁性システムによって形成されている。この機械的システムは、ばね32と関連づけられたレバー30によって、また、複数のくぼみないしノッチ28がある歯列26によって、形成されている。このくぼみないしノッチ28には、リングが前記複数の離散的な安定位置の角位置に順次的にポジショニングされるときに、レバーの端部分31(歯列の接触部分を定める)が順次的に挿入される。また、前記磁性システムは、第1の固定磁石34と、レバーと一体化されている第2の磁石36と、及びリング22と一体化されている磁性構造38とによって形成されている。
【0017】
磁性構造38は、高透磁性材料によって形成されており、リング22の変位軸に対して横断する周期的に変化する寸法構成を有する。この寸法構成は、複数の角周期θ
Pを定める。複数の角周期θ
Pは、ディスプレー位置(複数の離散的な安定位置)の間にて当該可動リングがカバーしなければならない当該可動リングにおける角距離に対応している。特に、
図3及び4に示した変種において、磁性構造の横断方向の寸法構成は、最大距離L1と最小距離L2の間で周期的に変化する。この磁性構造は、内側突出部分40(磁気的な歯)と、及びこの内側突出部分40と半径方向に整列している外側突出部分44とがある冠状体を形成している。このように、リングの同じ半径上に配置された突出部分40及び44の各対は、磁性構造の最大幅L1を定め、中間部分42は、最小幅L2を定める。突出部分の対は、歯列26のノッチ28と半径方向に整列している。突出部分の各対とその対応するノッチは、リング22の安定なディスプレー位置P
nに対応している半径方向の軸を定める。各角周期θ
Pは、連続する2つの最大幅L1の間にある。変種の1つにおいて、歯列を磁性構造の内側輪郭によって形成することができる。
【0018】
第1の磁石34と第2の磁石36はそれぞれ、磁性構造38の一方の側に配置され、第1の磁石34と第2の磁石36の磁化軸は、それらが定める基準軸A
REF上にて実質的に整列している(この基準軸A
REFは第1の磁石34と第2の磁石36の中心を通る)。これらの2つの磁石の磁化軸どうしは、反対方向を有する(これらの磁石どうしは反対方向の極性を有する)。次に、これらの第1及び第2の磁石、そして、結果的に、レバー30は、日付リングがその変位軸24に沿って駆動されるときに、磁性構造がこれらの2つの磁石の間を動くように構成している。
図1及び2に示した磁性システムの前記物理現象は、前記2つの磁石のうちの1つの基準軸A
REFに沿った距離をこれらの磁石の一方又は他方と一体化されている磁性構造に対して変化させることによってではなく、この基準軸に対して磁性構造38を実質的に垂直方向に変位させることによって、利用される。この磁性構造は、レバーが担持する磁石に対して磁性システムによってはたらく磁力、又は磁性システムによってレバーにはたらく磁性トルクが、リング22の角位置の関数として変化して、これによって、(基準軸上への射影において)磁力の方向が反転し、又はリングが角周期θ
Pに対応する距離にわたって動くときに磁気的トルクの方向が反転するように、磁力リングの変位軸に沿って可変幅を有する。
【0019】
図5は、レバーにはたらく磁気トルクの進展を、角周期θ
Pにわたってのリングの角位置の関数として示している。この磁気トルクは、実質的に、第1の方向において最大となるように構成しており(負の方向=反時計回りの方向)、これは、リングがその任意の1つのディスプレー角位置P
n(離散的な安定位置)にあるときにレバーの部分31をリングの歯列26に押し、また、これらのディスプレー角位置の間にて小さくなるように構成しており、これらの位置から徐々に遠ざかる。そして、結局は、中間的な角範囲において反転し、これによって、このときの磁気トルクは、この中間的範囲において、第2の方向(正の方向)を有し、これは、端部分31をリングの歯列から遠ざける傾向がある。なお、前記の磁気トルクは、磁石36を固定担持しているレバーを介してリング22をポジショニングするために第1の磁気トルクを形成し、このレバーは日付リングのための機械的なポジショニングシステムも形成する。
【0020】
また、本発明のポジショニングデバイスの磁性システムは、さらに、当該磁性システムによって磁性構造38に直接はたらく磁力によって、リング22に第2の磁気トルクを発生させる。この第2の磁気トルクは、第1の磁気トルクを強くする。なぜなら、磁性構造(磁気的歯列)は、リングがそのディスプレー角位置の任意の1つにあるときに第2の磁気トルクが比較的小さく、好ましくは、ほとんどゼロであり、そして、第2の磁気トルクがリングが占めるディスプレー位置のうちの各ディスプレー位置の両側において比較的素早く大きくなって、まず、リングのいずれの運動に対しても抵抗するように構成しているからである。これは、このディスプレー位置の方にリングを戻すことによって行われる。
図6に、第2の磁気トルクの進展を示している。リングがディスプレー位置P
nから特定の角距離にわたって駆動された後に、第2の磁気トルクは、それが角周期の実質的に半分を経過したときに究極的に相殺されるまで減少し、そして、その方向を反転させる。なお、この第2の磁気トルクは、実際上、保存力である。すなわち、リングが1周期の前半にわたって駆動されるときに磁性構造にはたらく戻しトルクを克服するために必要なエネルギーは、1周期の後半にわたってリングに実質的に戻る。なぜなら、このときの第2の磁気トルクは、この1周期の後半にわたって駆動トルクと同じ方向(正の方向)を有するからである。
図5及び6に示した様々な磁気トルク曲線において、2つの磁石(ネオジム鉄ホウ素)それぞれの残留磁場は、1.35Tの値であり、強磁性体(Vacoflux(登録商標))によって作られた要素の飽和磁場は、2.2Tの値である。
【0021】
図5のグラフは、以下のことを表している。
− 第1の曲線50は、レバーが開位置(端部分31が歯列26の外側に位置しているときの位置に対応している)でありリングが2つの連続するディスプレー位置の間の角周期θ
Pにわたって駆動されるときに(すなわち、任意の1つのディスプレー位置から次のディスプレー位置へ)、レバーにはたらく磁気トルクを示している。
− 第2の曲線52は、レバーが閉位置にあるときに(端部分31が歯列26の歯底部に位置しているときの位置、すなわち、ノッチ28にあるときの位置)レバーにはたらく磁気トルクを示している。
− 第3の曲線54は、各角周期にわたってレバーにはたらく動作磁気トルクを近似的に表している。この動作磁気トルクは、第1の磁気トルクを定めている。
【0022】
なお、曲線52は理論的なものである。なぜなら、歯列26を備えたリングの存在下において1つの角周期に対応する距離にわたってリングが角運動している間に、レバーを閉位置に保持することができないからである。しかし、このような曲線を、一般平面内に輪郭があるテストリングを用いることによって観察することができる。この輪郭は、磁性構造の輪郭に対応している。動作トルクの曲線54は、実際のふるまいを近似したものである。なぜなら、レバーの位置は、第1の磁気トルクだけに依存するのではなく、歯列48Bの輪郭、レバーの端部分46Bの輪郭、及びばねによって発生する機械的なトルクにも依存するからである(なお、図示した動作トルクは、実際に、ばねも歯列もない実施形態に対応している)。なお、
図3及び4に示した変種において、ノッチは、制限された遊びしか有さないようにリングを機械的にポジショニングし、リングをディスプレー位置に正確に保持するように意図されている輪郭を有する。したがって、この場合、曲線54は、安定したディスプレー位置P
nに近い角領域においてのみ曲線52と合う。いずれの場合も、当該動作磁気トルクは、実質的に、ディスプレー位置P
nのそれぞれにおいて曲線52の動作磁気トルクに対応する。
【0023】
第2の磁石を担持しているレバー30上の第1の磁石と磁性構造によってはたらく第1の磁性トルクは、リングの2つのディスプレー位置の間の1角周期にわたってのリング22の(したがって、磁性構造38の)角位置に応じて、この角周期の第1の区画(2つの安定な磁気的位置の間のリングの角運動に対応する1角周期ごとに2つの部分TR1a、TR1bによって形成している)にわたって第1の方向(
図5における負の方向)を有し、また、第2の区画にわたって第1の方向とは反対方向の第2の方向を有する。第1の方向は、レバーの接触部分から可動リングの方への戻しトルクに対応しており、第2の方向は、この接触部分を、リングから、特に、その歯列26から、離す傾向がある。磁性システム38は、複数の離散的な安定位置(ディスプレー位置)の各位置P
nにおいて、前記第1の方向に第1の磁気トルクがはたらくように変位軸24に沿って構成している。レバー30の端部分31は、少なくとも第1の磁気トルクがこのレバーに第1の方向にはたらくときに、リング22の歯列26に支持される。特に、歯列とレバーは、端部分31が離散的なディスプレー位置P
nのそれぞれにおいて歯列の歯底部に位置するように構成している。
【0024】
所与の1周期の第1の区画の第1の部分TR1aがこの所与の周期に先行する周期の第1の区画の第2の部分TR1bを直接追従することが観察される。したがって、2つの区画TR2の間にて、第1の磁気トルクは、それぞれ安定位置P
nの両側に位置する第1の部分TR1aと第2の部分TR1bによって形成されている連続的な区画にわたって第1の方向にはたらく。好ましくは、第1の磁気トルク(動作トルク54)は、各離散的な安定位置P
nに近い角位置P
CMにおいて最大(絶対値で最大)の負の値を有する。好ましい変種において、この最大の負の値が、実質的に各離散的な安定位置P
nにて、達成される。
【0025】
なお、ここで歯列に押されるレバーの端部分31は、第2の磁石26を有する。図示した変種において、この端部分を形成しており第2の磁石を担持している非磁性の支持体は、前記第2の磁石がリングと接触せずに磁気的歯40に近づくことができるように、歯列26に当接するように構成している。変種の1つにおいて、第2の磁石は歯列と接触する面を有しており、この接触面は適切な処理によって硬化される。別の変種において、歯列側に位置している第2の磁石の部分は、第2の磁石上に堆積された保護層によって保護され、この保護層は歯列と接触する。
【0026】
図6のグラフは、以下のことを表している。
− 第1の曲線56は、レバーが開位置にありリングが角周期θ
Pにわたって駆動されるときに、磁性構造にはたらき、したがって、リングに直接はたらく、磁気トルクを示している。
− 第2の曲線58は、レバーが閉位置にあるときに磁性構造にはたらく磁気トルクを示している。
− 第3の曲線60は、各角周期にわたって磁性構造に直接はたらく動作磁気トルクを示している。この動作磁気トルクは、本発明に係るポジショニングデバイスにおいて発生する第2の磁気トルクを定めている。
【0027】
なお、再び、曲線58は、理論的な曲線である。なぜなら、歯列26のためにリングが1つの角周期全体にわたって駆動されるときにレバーを閉位置に保持することができないからである。また、動作トルク曲線60は、実際のふるまいの近似である。なぜなら、レバーの位置は、特に、歯列26の輪郭に、そして、レバーの端部分31の輪郭に、依存するからである。
【0028】
第2の磁気トルクは、2つのディスプレー位置の間の1つの角周期の開始位置を定める位置P
nにおいて実質的にゼロの値を有する。各位置P
n(ここで、nは自然数である)において、磁気構造、そして結果的に、リング22は、安定した磁気的位置にある。なぜなら、この位置P
nにおいて曲線60が右下がりの傾斜を有することは、リングが離れるときに第2の磁気トルクがこの位置にリングを戻す傾向があることを意味しているからである(回転角度の正の方向は、時計回りの方向である)。好ましくは、リングとレバーは、第1の実施形態の場合のように、複数の離散的な安定位置の位置P
nのそれぞれが、安定した磁気的位置に対応しているように構成している。リングが任意の安定な磁気平衡の安定位置にあるときに、レバーに第1の磁気トルクが第1の方向にはたらく。
図5及び6に示した有利な変種において、第1の磁気トルクの最大の負の値は、安定な磁気的平衡位置に近い角位置において達成される。このように、日付リングの各安定した磁気的位置において、レバーにはたらく第1の磁気トルクは、第1の磁気トルクが第1の方向にはたらくような第1の区画において前記第1の磁気トルクの最大値に近い値を有する。好ましい変種の1つにおいて、レバーと磁性システムは、前記最大値が、実質的に、日付リングのディスプレー位置に対応する安定な磁気的位置のそれぞれにおいて達成されるように構成している。
【0029】
第2の磁気トルク60は、各角周期において、第1の区画TR3にわたって負の値を有し、また、第2の区画TR4にわたって正の値を有する。これらの2つの区画はそれぞれ、実質的に、半周期にわたって延在している。なお、この第2の磁気トルクは、これらの2つの区画の間にゼロ値を有し、この位置は、不安定な磁気的平衡位置に対応している。この位置において、基準軸A
REFは、実質的に、歯列26の2つの磁気的歯40の間、したがって、2つのノッチないしくぼみ28の間、を動き、これらのノッチないしくぼみ28は、磁気的歯40と半径方向にて整列している。
【0030】
レバーに対するばね32からの圧力によって、レバーによってリングにはたらく機械的トルクが発生する。なお、リングが複数のディスプレー位置の任意の1つにあるときに機械的トルクと同じ方向にリングに与えられ磁性システムによって発生する第1及び第2の磁気トルクを考慮すると、前記機械的トルクを比較的小さくすることができる。また、この機械的トルクは、レバー部分31がレバーの歯列26に絶えず支持されるように、第2の方向に与えられた第1の磁気トルク、すなわち、第2の区画TR2における最大の正の値、よりも大きいことができる。しかし、別の変種において、機械的トルクは、レバーの特定の回転角距離にわたって前記最大の正の値よりも小さい。しかし、この後者の場合において、ばねのスチフネスは、前記ばねが、第2の区画TR2において、レバーの端部分31によって担持された磁石36を磁性構造38から離間する距離を制限するように、有利に選択される。そうでなければ、計時器用ムーブメントの要素は、部分31が歯列から離れるときにレバーのための止め機能を有する必要がある。これによって、各周期の第2の区画TR2においてレバーが歯列から離れる距離を制限することができる。
【0031】
なお、担持する磁石を介してそれぞれレバーにはたらき、担持する磁性構造又は磁性構造が形成されているものを介してリングにはたらく2つの磁力は、リングとレバーの一般平面においてそれぞれが特定の可変な強さ、また、可変な方向を有するベクトルである。これらの2つのパラメーター(強さと方向)は、第1の磁気トルクと第2の磁気トルクに関わっている。第1の磁気トルクは、レバーの回転軸に対して定められ、第2の磁気トルクは、リングの幾何学的な回転軸に対して定められる。
【0032】
図7A〜7Eに示したレバーが
図3及び4に示したレバーに対して対称的に構成している変種の実施形態において(レバーにてはたらくトルクの
図5における符号を反転させる)、一方では、リングが時計回りの方向に駆動されるときに日付リングの様々な角位置においてレバー30にてはたらく力ベクトル62a〜62eがそれぞれあり、他方では、これらの様々な角位置において、リングが担持する磁性構造38にはたらく力ベクトル64a〜64eがそれぞれある。
図7Aは、力ベクトル64aが半径方向に向いているようなリングのディスプレー位置に対応している。これは、第2の磁気トルクのゼロ値、及び安定な平衡位置に対応している。第1の磁気トルクは、正の方向(レバーの自由端がリングを押す方向)において実質的に最大となっている。ここで、この第1の磁気トルクは、ばね(図示せず)によってレバーにはたらく機械的トルクに加えられる。
図7Bは、第1の磁気トルクがいまだ正である(時計回りの方向)が大きく減少しており、第2の磁気トルクが負である(反時計回りの方向)ような状況を示している。ここで、第2の磁気トルクは、時計回りの方向(駆動方向)のリングの角運動に対抗する。
図7Cにおいて、第1の磁気トルクは負となっており、第2の磁気トルクは負を維持している。
図7Dにおいて、力ベクトル62dは、
図7Aの力ベクトル62aに対して実質的に反対方向であり、これらの2つのベクトルは、ほぼ半径方向に向いている。このようにして、
図7における所与の位置から
図7Dにおける所与の位置へとリングが駆動されるときに、可動磁石36にはたらく磁力が反転する。なお、力ベクトル64dは
図7Dにおいて正となっており、また、このとき、リングはその角運動において第2の磁気トルクによって駆動される。
図7Eにおいて、第1の磁気トルクは、次のディスプレー位置に到達する前に再び正となっており、このようにして、レバーは、リングをもう1回押し、第2の磁気トルクは、次のディスプレー位置の方へとリングを依然として駆動する。
【0033】
図8は、日付リング22Aと一体化された磁性構造38Aが固定された外側磁石34の側にて環状の輪郭を有する点で
図3及び4とは異なるような変種の実施形態を示している。したがって、リングの角位置にかかわらず、磁性構造と外側磁石の間の距離は一定である。このようにして、磁性構造の幅における変化を達成することができ、これは、前記構造の歯40によって形成された内側磁気的歯列によってのみ達成することができる。この計時器用ムーブメント70の磁性システムのふるまいは、本質的に、前記の変種のものと類似している。
【0034】
図9に、本発明の第2の実施形態を示している。ここで、すでに説明した参照符号及び磁性システムの動作は、再び詳細に説明しない。なお、この動作は、本質的に、第1の実施形態のものと類似している。この本発明に係る計時器用ムーブメント80の第2の実施形態は、磁性構造の形に関して第1の実施形態とは異なる。第1の実施形態においては、磁性構造は変位軸上の可動要素に沿って連続的に延在しており、これに対して、日付リング82によって担持される磁性構造84は、複数の別個の磁性要素86によって形成されている。これらの磁性要素はそれぞれ、リング82の歯列26の複数のノッチと半径方向にて整列される。基準軸A
REFに対して各磁性要素が整列していることによって、リングに対する異なる離散的な安定位置、したがって、異なるディスプレー位置、が定まる。したがって、磁性構造84は、高透磁性材料、特に、強磁性材料、によって形成された複数の別個の磁性要素86によって形成されている。これらの磁性要素86は、任意の2つの連続する別個の要素の間に高透磁性材料がないような空間があるように、変位軸24上でリングに沿って配置されている。
【0035】
第1の実施形態におけるように、第1及び第2の磁気トルクは、ばね32によって作られた機械的トルクと協同してはたらいて、リングが計時器用ムーブメント内に配置されたリングの駆動機構(当業者に知られている機構)によって駆動されていないときに、リングを複数のディスプレー位置のうちの任意の1つにポジショニングして、また、この位置にリングを保持する。なお、この駆動機構は、第1及び第2の磁気トルクと、1つの安定なディスプレー位置から次の安定なディスプレー位置へとリングを駆動するための機械的トルクとに克服しなければならない。しかし、上記のように、第2の磁気トルクは、実質的に保存性である。また、第1の磁気トルクと機械的トルクは、2つの安定なディスプレー位置の間の運動の後半において、リングに特定の量のエネルギーを戻すことができる。このことは、歯列の輪郭、そしてもちろん、リングの歯列に対するレバーの摩擦力にも依存する。
【0036】
リングに対して協同してはたらいてリングをポジショニングして安定化させる2つの磁気トルクはさておき、本発明に係るポジショニングデバイスは、レバーの端部分31がノッチ28の1つを離れると、レバーにはたらく第1の磁気トルクが素早く小さくなり、そして、1つのディスプレー位置から別のディスプレー位置へと変わるようにリングがさらに先に駆動されたときに符号を反転させる。すなわち、レバーがリングからその歯列を介して離れるとすぐに、磁気トルクは小さくなり、このことによって、離散的な安定位置から離れるとすぐに磁気的ポジショニングトルクが素早く小さくなる。実際に、レバーが歯列から離れると、第1の磁気トルクが素早く小さくなり、さらに反転さえもする。このことによって、歯を越えて通過することが非常に容易になり、したがって、エネルギーが少ししか必要なくなる。なお、このふるまいは、レバーに対してばねによってはたらく機械的トルクの逆である。なぜなら、レバーの端部分がノッチを離れたときに、より一般的には、ポジショニング用の歯列(これはリングを駆動するためにもはたらくことができる)の歯を越えて通過することが可能になるように離れたときに、リングの方への機械的戻し力が大きくなるからである。
【0037】
磁性要素86は、2つの切断された端を有するような細長の形を有する。変種の1つにおいて、これらの磁性要素は、単に、長方形の形を有する。
図1及び2を参照すると、磁性システムは、磁性要素が可動磁石36と固定磁石34の間に挿入されているときに、レバーが担持する磁石がリングの歯列の方への引力を受けるように構成していることがわかる。しかし、基準軸が、2つの隣接する磁性要素の間、特に、これらの磁性要素の中央にて、通過するときに、磁石36は、実質的にリングの回転中心の方を向いている反発力を受ける。
【0038】
最後に、
図10に、本発明に係る計時器用ムーブメント90の第3の実施形態を示した。この第3の実施形態は、第1及び第2の実施形態と比べて、ポジショニングデバイスによっていずれの機械的トルクをも発生させないという点で異なっている。したがって、ここでは、レバー30に関連づけられているばねはない。しかし、第1の磁気トルクが正となったときに時計回りの方向(この説明において正の方向)のレバーの回転を制限し、また、端部分31が再び歯列のノッチ28と対向するように現れたときに開位置においてレバーにはたらく磁気トルクが歯列26の方への戻しを可能とするような角位置にレバーがなることを防ぐために、止め92を設ける。実際に、磁性システムは自身でレバーを歯列に対向するように戻すことができなければならない。
図5を参照すると、レバーが閉位置から開位置へと動くときに、第1の負のトルクが離散的な安定位置P
nの近傍で負であることを維持することがわかる。このことは、この第3の実施形態にとって重要である。したがって、1つのディスプレー位置から次へと移るときに、レバーの端部分が次のノッチにほぼ対向するようになるとすぐに、その端部分にはたらく磁気トルクによって、その端部分がノッチに入り込んで、閉位置の方に動くことが可能になる。磁性システムの要素、その空間的な構成、及びレバーの構成、特に、レバーの回転軸は、レバーの開位置における磁気トルクが、レバーの端部分を開位置から歯列の歯底部へと、すなわち、ノッチの底部へと、ノッチの底部が端部分に対向するように現れたときに、動かすために十分であるように構成している。具体的には、磁石とそれらの磁気的な特性の設計によって、調整、特に、第1の磁気トルクの調整、が可能になる。