特許第6457703号(P6457703)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6457703
(24)【登録日】2018年12月28日
(45)【発行日】2019年1月23日
(54)【発明の名称】薄膜撥液層の製造方法、及び薄膜撥液層
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/12 20060101AFI20190110BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20190110BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20190110BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20190110BHJP
【FI】
   B05D3/12 Z
   B05D3/12 F
   B05D5/00 Z
   B05D7/24 302Y
   C09K3/18 104
【請求項の数】9
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-526270(P2018-526270)
(86)(22)【出願日】2017年7月25日
(86)【国際出願番号】JP2017026912
(87)【国際公開番号】WO2018021339
(87)【国際公開日】20180201
【審査請求日】2018年5月17日
(31)【優先権主張番号】特願2016-150481(P2016-150481)
(32)【優先日】2016年7月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100131635
【弁理士】
【氏名又は名称】有永 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100158481
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 俊秀
(72)【発明者】
【氏名】廣永 麻貴
(72)【発明者】
【氏名】宮田 壮
(72)【発明者】
【氏名】小野 義友
【審査官】 團野 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−039148(JP,A)
【文献】 特開平08−239627(JP,A)
【文献】 特開2002−040203(JP,A)
【文献】 特開2003−247078(JP,A)
【文献】 特開平09−039149(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B05D 1/00− 7/26
B32B 1/00−43/00
C09K 3/18
DB等 JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)及び下記工程(2)をこの順で有する、薄膜撥液層の製造方法。
工程(1):下記成分(A)及び下記成分(B)を含有する撥液性組成物を用いて硬化膜を形成する工程
成分(A):下記一般式(a)で表される4官能シラン系化合物
Si(OR(X4−p (a)
〔一般式(a)中、Rは、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。R及びXが複数存在する場合、複数のR及びXは、互いに同一でも、異なっていてもよい。pは0〜4の整数を表す。〕
成分(B):下記一般式(b)で表される3官能シラン系化合物
Si(OR(X3−q (b)
〔一般式(b)中、Rは、炭素数1〜24のアルキル基を表し、当該アルキル基は置換基を有していてもよい。Rは、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。R及びXが複数存在する場合、複数のR及びXは、互いに同一でも、異なっていてもよい。qは0〜3の整数を表す。〕
工程(2):前記工程(1)で得られた硬化膜の表面を、粘着テープを用いて除去して薄膜化する工程
【請求項2】
工程(1)で、成分(B)が、下記成分(B−1)を少なくとも1種含む、請求項1に記載の薄膜撥液層の製造方法。
成分(B−1):下記一般式(b−1)で表される3官能シラン系化合物
Si(OR(X3−r (b−1)
〔一般式(b−1)中、Rは、炭素数6〜24のアルキル基を表し、当該アルキル基は置換基を有していてもよい。Rは、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。R及びXが複数存在する場合、複数のR及びXは、互いに同一でも、異なっていてもよい。rは0〜3の整数を表す。〕
【請求項3】
工程(1)で、成分(B)が、下記成分(B−2)を少なくとも1種含む、請求項1又は2に記載の薄膜撥液層の製造方法。
成分(B−2):下記一般式(b−2)で表される3官能シラン系化合物
Si(OR(X3−s (b−2)
〔一般式(b−2)中、Rは、炭素数1〜3のアルキル基を表し、当該アルキル基は置換基を有していてもよい。Rは、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。R及びXが複数存在する場合、複数のR及びXは、互いに同一でも、異なっていてもよい。sは0〜3の整数を表す。〕
【請求項4】
工程(1)で、更に、下記条件(II)を満たす、請求項3に記載の薄膜撥液層の製造方法。
条件(II):成分(B−1)及び成分(B−2)の合計モル量に対する成分(B−1)のモル量の比〔(B−1)/{(B−1)+(B−2)}〕(モル比)が、0.020以上
【請求項5】
工程(1)で、更に、下記条件(I)を満たす、請求項1〜4のいずれか1項に記載の薄膜撥液層の製造方法。
条件(I):成分(B)のモル量に対する成分(A)のモル量の比〔(A)/(B)〕(モル比)が、0.01以上50.00以下
【請求項6】
工程(1)で、更に成分(C)として酸触媒を含み、成分(C)の含有量が、成分(A)及び成分(B)の合計100モル%に対して、0.010モル%以上、1.000モル%以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の薄膜撥液層の製造方法。
【請求項7】
前記硬化膜を形成する方法が、ディップコーティング、カーテンコーティング、スプレーコーティング、グラビアコーティング及びバーコーティングからなる群より選ばれる少なくとも1種の塗布工程及び乾燥工程を有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の薄膜撥液層の製造方法。
【請求項8】
前記薄膜撥液層の厚さが、8nm未満である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の薄膜撥液層の製造方法。
【請求項9】
工程(1)で形成された前記硬化膜の厚さが、8nm以上である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の薄膜撥液層の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜撥液層の製造方法、及び薄膜撥液層に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、建築用窓ガラス、自動車用窓ガラス、車両、航空機、船舶等の風防ガラス、水槽、船底窓、船底への海中生物付着防止用フィルム、防音壁等の道路用パネル、浴室等に設置された鏡、ガラス容器、ガラス装飾品等の成形品の表面には、水滴、傷、汚れ等の視界を妨げるものが付着しないことが望まれる。
このような成形品の表面に対して、撥液性物質からなる皮膜で被覆することで、若しくは、撥液性シートを貼付することで、撥水性、撥油性、滑液性等の撥液性を付与することが行われている。
例えば、特許文献1には、無機化合物より形成されてなる下地層と、当該下地層の表面を被覆し、フッ素含有化合物より形成されてなる撥水膜とを有する積層体によって、ガラス等の基材を被覆した撥水膜被覆物品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−285574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の撥水性被覆物品は、フッ素含有化合物から形成されてなる撥水膜を有するため、環境保護の観点からは好ましくない。
そこで、より環境への負荷が少ない撥液性材料が求められている。
撥液性を付与する対象物に透明性が求められる場合、その表面に設ける撥液層にも優れた透明性が要求される。また、対象物が有色である場合又は対象物表面に印字及び/又は印画等されている場合等にも、当該対象物が有する色や当該印刷情報等に影響を与えないよう、それら対象物表面に設ける撥液層にも優れた透明性(視認性)が要求される。
本発明は、撥液性を有し、視認性に優れる薄膜撥液層の製造方法、及び薄膜撥液層を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、特定構造を有する4官能シラン系化合物である成分(A)及び特定構造を有する3官能シラン系化合物である成分(B)を含有する撥液性組成物を用いて硬化膜を形成し、当該硬化膜の一部を除去することにより得られる非常に薄い撥液層が、前記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記[1]〜[17]を提供する。
[1]下記工程(1)及び下記工程(2)をこの順で有する、薄膜撥液層の製造方法。
工程(1):下記成分(A)及び下記成分(B)を含有する撥液性組成物を用いて硬化膜を形成する工程
成分(A):下記一般式(a)で表される4官能シラン系化合物
Si(OR(X4−p (a)
〔一般式(a)中、Rは、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。R及びXが複数存在する場合、複数のR及びXは、互いに同一でも、異なっていてもよい。pは0〜4の整数を表す。〕
成分(B):下記一般式(b)で表される3官能シラン系化合物
Si(OR(X3−q (b)
〔一般式(b)中、Rは、炭素数1〜24のアルキル基を表し、当該アルキル基は置換基を有していてもよい。Rは、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。R及びXが複数存在する場合、複数のR及びXは、互いに同一でも、異なっていてもよい。qは0〜3の整数を表す。〕
工程(2):前記工程(1)で得られた硬化膜の表面を除去して薄膜化する工程
[2]工程(2)で、前記薄膜化を粘着テープを用いて行う、前記[1]に記載の薄膜撥液層の製造方法。
[3]工程(1)で、成分(B)が、下記成分(B−1)を少なくとも1種含む、前記[1]又は[2]に記載の薄膜撥液層の製造方法。
成分(B−1):下記一般式(b−1)で表される3官能シラン系化合物
Si(OR(X3−r (b−1)
〔一般式(b−1)中、Rは、炭素数6〜24のアルキル基を表し、当該アルキル基は置換基を有していてもよい。Rは、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。R及びXが複数存在する場合、複数のR及びXは、互いに同一でも、異なっていてもよい。rは0〜3の整数を表す。〕
[4]工程(1)で、成分(B)が、下記成分(B−2)を少なくとも1種含む、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の薄膜撥液層の製造方法。
成分(B−2):下記一般式(b−2)で表される3官能シラン系化合物
Si(OR(X3−s (b−2)
〔一般式(b−2)中、Rは、炭素数1〜3のアルキル基を表し、当該アルキル基は置換基を有していてもよい。Rは、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。R及びXが複数存在する場合、複数のR及びXは、互いに同一でも、異なっていてもよい。sは0〜3の整数を表す。〕
[5]工程(1)で、更に、下記条件(II)を満たす、前記[4]に記載の薄膜撥液層の製造方法。
条件(II):成分(B−1)及び成分(B−2)の合計モル量に対する成分(B−1)のモル量の比〔(B−1)/{(B−1)+(B−2)}〕(モル比)が、0.020以上
[6]工程(1)で、更に、下記条件(I)を満たす、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の薄膜撥液層の製造方法。
条件(I):成分(B)のモル量に対する成分(A)のモル量の比〔(A)/(B)〕(モル比)が、0.01以上50.00以下
[7]工程(1)で、更に成分(C)として酸触媒を含み、成分(C)の含有量が、成分(A)及び成分(B)の合計100モル%に対して、0.010モル%以上、1.000モル%以下である、前記[1]〜[6]のいずれかに記載の薄膜撥液層の製造方法。
[8]前記硬化膜を形成する方法が、ディップコーティング、カーテンコーティング、スプレーコーティング、グラビアコーティング及びバーコーティングからなる群より選ばれる少なくとも1種の塗布工程及び乾燥工程を有する、前記[1]〜[7]のいずれかに記載の薄膜撥液層の製造方法。
[9]前記薄膜撥液層の厚さが、8nm未満である、前記[1]〜[8]のいずれかに記載の薄膜撥液層の製造方法。
[10]工程(1)で形成された前記硬化膜の厚さが、8nm以上である、前記[1]〜[9]のいずれかに記載の薄膜撥液層の製造方法。
[11]前記[1]〜[10]のいずれかに記載の製造方法で製造された薄膜撥液層。
[12]下記成分(A)及び下記成分(B)との硬化物であって、厚さ8nm未満である薄膜撥液層。
成分(A):下記一般式(a)で表される4官能シラン系化合物
Si(OR(X4−p (a)
〔一般式(a)中、Rは、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。R及びXが複数存在する場合、複数のR及びXは、互いに同一でも、異なっていてもよい。pは0〜4の整数を表す。〕
成分(B):下記一般式(b)で表される3官能シラン系化合物
Si(OR(X3−q (b)
〔一般式(b)中、Rは、炭素数1〜24のアルキル基を表し、当該アルキル基は置換基を有していてもよい。Rは、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。R及びXが複数存在する場合、複数のR及びXは、互いに同一でも、異なっていてもよい。qは0〜3の整数を表す。〕
[13]成分(B)が、下記成分(B−1)を少なくとも1種含む、前記[12]に記載の薄膜撥液層。
成分(B−1):下記一般式(b−1)で表される3官能シラン系化合物
Si(OR(X3−r (b−1)
〔一般式(b−1)中、Rは、炭素数6〜24のアルキル基を表し、当該アルキル基は置換基を有していてもよい。Rは、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。R及びXが複数存在する場合、複数のR及びXは、互いに同一でも、異なっていてもよい。rは0〜3の整数を表す。〕
[14]成分(B)が、下記成分(B−2)を少なくとも1種含む、前記[12]又は[13]に記載の薄膜撥液層。
成分(B−2):下記一般式(b−2)で表される3官能シラン系化合物
Si(OR(X3−s (b−2)
〔一般式(b−2)中、Rは、炭素数1〜3のアルキル基を表し、当該アルキル基は置換基を有していてもよい。Rは、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。R及びXが複数存在する場合、複数のR及びXは、互いに同一でも、異なっていてもよい。sは0〜3の整数を表す。〕
[15]更に、下記条件(IV)を満たす、前記[14]に記載の薄膜撥液層。
条件(IV):成分(B−1)由来の構造(B−1p)及び成分(B−2)由来の構造(B−2p)の合計モル量に対する(B−1p)のモル量の比〔(B−1p)/{(B−1p)+(B−2p)}〕(モル比)が、0.020以上
[16]下記条件(III)を満たす、前記[12]〜[15]のいずれかに記載の薄膜撥液層。
条件(III):成分(B)由来の構造(Bp)のモル量に対する成分(A)由来の構造(Ap)のモル量の比〔(Ap)/(Bp)〕(モル比)が、0.01以上50.00以下
[17]成分(A)及び成分(B)との硬化物の表面を除去して該硬化物を薄膜化して得られる、前記[12]〜[16]のいずれかに記載の薄膜撥液層。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、撥液性を有し、視認性に優れる薄膜撥液層の製造方法、及び薄膜撥液層を提供し得る。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[薄膜撥液層の製造方法]
本発明の一態様である薄膜撥液層の製造方法は、下記工程(1)及び下記工程(2)をこの順で有する。
工程(1):下記成分(A)及び下記成分(B)を含有する撥液性組成物を用いて硬化膜を形成する工程
成分(A):下記一般式(a)で表される4官能シラン系化合物
Si(OR(X4−p (a)
〔一般式(a)中、Rは、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。R及びXが複数存在する場合、複数のR及びXは、互いに同一でも、異なっていてもよい。pは0〜4の整数を表す。〕
成分(B):下記一般式(b)で表される3官能シラン系化合物
Si(OR(X3−q (b)
〔一般式(b)中、Rは、炭素数1〜24のアルキル基を表し、当該アルキル基は置換基を有していてもよい。Rは、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。R及びXが複数存在する場合、複数のR及びXは、互いに同一でも、異なっていてもよい。qは0〜3の整数を表す。〕
工程(2):前記工程(1)で得られた硬化膜の一部を除去して薄膜処理する工程
【0008】
本発明の製造方法により得られる薄膜撥液層は、前記工程(1)に記載の撥液性組成物中のシラン系化合物同士の縮合反応が進行し、重合体となることで硬化膜が形成される。
本発明者らは、更に、上記工程(2)で、工程(1)で得られた硬化膜の表面を除去して薄膜化することによって、極めて薄い厚さの薄膜撥液層を形成することが可能であることを見出した。
撥液層を薄膜化することで、優れた視認性を有しつつ、前記撥液性組成物を塗布する対象物(以下、「被塗布体」と称する。)に対して撥液性を付与できる薄膜撥液層を形成し得ることを見出し、本発明を完成させたものである。
なお、当該薄膜撥液層は、撥液性、好ましくは撥水性及び滑液性に優れる。
また、当該薄膜撥液層は非常に薄い層であるため、当該薄膜撥液層により保護される被塗布体の表面が有する質感を生かしつつ、被塗布体に対する撥液性を付与することができるという観点からも有用である。例えば、表面硬度が高い被塗布体に当該薄膜撥液層を設けた場合、当該被塗布体の優れた表面硬度を生かしつつ、被塗布体に対して良好な撥液性も付与することができる。
以下、本発明の薄膜撥液層の製造方法について説明する。
【0009】
<<工程(1)>>
工程(1)は、成分(A)及び成分(B)を含有する撥液性組成物を用いて硬化膜を形成する工程である。
【0010】
<撥液性組成物>
工程(1)で用いられる撥液性組成物は、成分(A)として一般式(a)で表される4官能シラン系化合物、成分(B)として一般式(b)で表される3官能シラン系化合物を含む。
なお、当該撥液性組成物は、更に成分(C)として酸触媒を含むことが好ましく、本発明の効果を損なわない範囲において、成分(A)〜(C)以外のその他の添加剤を含有してもよい。
以下、工程(1)で用いられる撥液性組成物に含まれる各成分について説明する。
【0011】
(成分(A):一般式(a)で表される4官能シラン系化合物)
前記成分(A)は、次の一般式(a)で表される4官能シラン系化合物である。
Si(OR(X4−p (a)
一般式(a)中、Rは、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。R及びXが複数存在する場合、複数のR及びXは、互いに同一でも、異なっていてもよい。pは0〜4の整数を表す。
【0012】
として選択し得るアルキル基の炭素数は、好ましくは4以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは2以下である。
として選択し得るアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、ネオペンチル基、メチルペンチル基等が挙げられる。これらの中でも、成分(A)の反応性をより向上させる観点から、メチル基、エチル基、又はn−プロピル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましい。
として選択し得るアルキル基は、直鎖及び分岐鎖のいずれであってもよいが、直鎖であることが好ましい。
【0013】
として選択し得るハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
なお、前記一般式(a)で表されるシラン系化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、成分(A)としては、前記一般式(a)中のpが4であるシラン系化合物を含むことが好ましい。
【0014】
(成分(B):一般式(b)で表される3官能シラン系化合物)
成分(B)は、次の一般式(b)で表される3官能シラン系化合物である。
Si(OR(X3−q (b)
一般式(b)中、Rは、炭素数1〜24のアルキル基を表し、当該アルキル基は置換基を有していてもよい。Rは、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。R及びXが複数存在する場合、複数のR及びXは、互いに同一でも、異なっていてもよい。qは0〜3の整数を表す。
【0015】
として選択し得るアルキル基の炭素数は1〜24である。
当該アルキル基の炭素数が24を超えると、成分(B)の反応性が劣る。また、当該アルキル基の炭素数が増加するほど、撥液性組成物がゲル化し易く、当該撥液性組成物から形成される塗膜の面状態も悪化する傾向にある。このような観点から、当該アルキル基の炭素数は、好ましくは22以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは18以下である。
なお、Rとして選択し得るアルキル基の炭素数には、当該アルキル基が有してもよい任意の置換基の炭素数は含まれない。
ここで、「面状態」とは、形成された塗膜のはじき発生の程度等の塗膜の表面状態を指す。
【0016】
として選択し得るアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−イコシル基、n−ヘンイコシル基、n−ドコシル基、n−トリコシル基、n−テトラコシル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、メチルペンチル基、イソへキシル基、ペンチルヘキシル基、ブチルペンチル基、及び2−エチルヘキシル基等が挙げられる。
なお、Rとして選択し得るアルキル基としては、直鎖又は分岐鎖のいずれであってもよいが、成分(B)の反応性及び撥液性組成物から形成される塗膜の面状態を向上させる観点から、直鎖であることが好ましい。
【0017】
として選択し得るアルキル基は、置換基を有していてもよい。
このような置換基としては、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;ヒドロキシル基;ニトロ基;アミノ基;シアノ基;メルカプト基;エポキシ基;グリシドキシ基;アクリロイルオキシ基;メタクリロイルオキシ基;環形成炭素数3〜12(好ましくは環形成炭素数6〜10)のシクロアルキル基;環形成炭素数6〜12のアリール基;窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子から選ばれるヘテロ原子を含む環形成原子数6〜12のヘテロアリール基;炭素数1〜6(好ましくは炭素数1〜3)のアルコキシ基;環形成炭素数6〜12のアリールオキシ基等が挙げられ、これらの置換基は更に置換されていてもよい。
ただし、Rとして選択し得るアルキル基としては、置換基を有していないアルキル基であることが好ましい。
【0018】
として選択し得るアルキル基、及びXとして選択し得るハロゲン原子としては、前述の一般式(a)中のRとして選択し得るアルキル基、Xとして選択し得るハロゲン原子と同じものが挙げられる。
なお、前記一般式(b)で表される3官能シラン系化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、成分(B)としては、前記一般式(b)中のqが3である3官能シラン系化合物を含むことが好ましい。
【0019】
(条件(I)について)
成分(A)及び成分(B)の関係において、下記条件(I)を満たす撥液性組成物であることが好ましい。
条件(I):成分(B)の含有量(モル量)に対する成分(A)の含有量(モル量)の比〔(A)/(B)〕(モル比)が、0.01以上50.00以下
当該〔(A)/(B)〕(モル比)が、0.01以上であると、得られる薄膜撥液層の滑液性及び被塗布体との密着性が良好となる。このような観点から、当該〔(A)/(B)〕(モル比)は、より好ましくは0.10以上、更に好ましくは0.50以上、より更に好ましくは0.80以上、より更に好ましくは0.90以上である。
また、当該〔(A)/(B)〕(モル比)は、50.00以下であることが好ましい。当該〔(A)/(B)〕(モル比)が50.00以下であることで、成分(B)中のRで表されるアルキル基の存在によって、得られる薄膜撥液層が、より良好な撥水性及び滑液性を有する。このような観点から、当該〔(A)/(B)〕(モル比)は、より好ましくは30.00以下、更に好ましくは25.00以下、より更に好ましくは20.00以下、より更に好ましくは10.00以下、より更に好ましくは5.00以下である。
なお、成分(A)及び成分(B)の含有量は、各成分を配合する時の配合量から算出することもできる。
【0020】
また、成分(A)の含有量(モル量)は、より良好な滑液性を有する薄膜撥液層を得る観点から、成分(A)及び成分(B)の配合量(モル量)合計100モル%に対して、好ましくは0.50モル%以上、より好ましくは10.00モル%以上、更に好ましくは20.00モル%以上、より更に好ましくは30.00モル%以上、より更に好ましくは45.00モル%以上である。そして、当該含有量(モル量)は、好ましくは98.00モル%以下、より好ましくは94.00モル%以下、更に好ましくは90.00モル%以下、より更に好ましくは80.00モル%以下、より更に好ましくは70.00モル%以下である。
【0021】
〔成分(B−1):一般式(b−1)で表される3官能シラン系化合物〕
成分(B)は、次の一般式(b−1)で表される3官能シラン系化合物である成分(B−1)を少なくとも1種含むことが好ましい。
Si(OR(X3−r (b−1)
一般式(b−1)中、Rは、炭素数6〜24のアルキル基を表し、当該アルキル基は置換基を有していてもよい。Rは、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。R及びXが複数存在する場合、複数のR及びXは、互いに同一でも、異なっていてもよい。rは0〜3の整数を表す。
【0022】
として選択し得るアルキル基の炭素数は6〜24である。
当該Rが表すアルキル基の炭素数が6以上であると、撥水性が良好な薄膜撥液層が得られるため好ましい。このような観点から、当該Rとしては、好ましくは8以上である。また、Rが表すアルキル基の炭素数の好ましい上限値は、前述したRの上限値の好ましい値と同じであり、好ましくは22以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは18以下である。当該各好ましい上限値の設定理由もRについて上述したとおりである。
なお、前記Rとして選択し得るアルキル基の炭素数には、当該アルキル基が有してもよい任意の置換基の炭素数は含まれない。
【0023】
として選択し得るアルキル基としては、例えば、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−イコシル基、n−ヘンイコシル基、n−ドコシル基、n−トリコシル基、n−テトラコシル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、メチルペンチル基、イソへキシル基、ペンチルヘキシル基、ブチルペンチル基、及び2−エチルヘキシル基等が挙げられる。
なお、Rとして選択し得るアルキル基としては、直鎖又は分岐鎖のいずれであってもよいが、成分(B−1)の反応性を向上させる観点から、直鎖であることが好ましい。Rとして選択し得るアルキル基としては、同様の観点から、n−ノニル基、n−デシル基又はn−ドデシル基が好ましい。
として選択し得るアルキル基は、置換基を有していてもよい。なお、Rとして選択し得るアルキル基が有する置換基は、Rとして選択し得るアルキル基が有する置換基について前述したものと同じものが挙げられる。
ただし、Rとして選択し得るアルキル基としても、置換基を有していないアルキル基であることが好ましい。
【0024】
として選択し得るアルキル基、及びXとして選択し得るハロゲン原子としては、前述の一般式(a)中のRとして選択し得るアルキル基、Xとして選択し得るハロゲン原子と同じものが挙げられる。
なお、一般式(b−1)で表される3官能シラン系化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、成分(B−1)としては、一般式(b−1)中のrが3である3官能シラン系化合物を含むことが好ましい。
【0025】
〔成分(B−2):一般式(b−2)で表される3官能シラン系化合物〕
成分(B)は、次の一般式(b−2)で表される3官能シラン系化合物である成分(B−2)を少なくとも1種含むことが好ましい。
Si(OR(X3−s (b−2)
一般式(b−2)中、Rは、炭素数1〜3のアルキル基を表し、当該アルキル基は置換基を有していてもよい。Rは、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。R及びXが複数存在する場合、複数のR及びXは、互いに同一でも、異なっていてもよい。sは0〜3の整数を表す。
【0026】
として選択し得るアルキル基の炭素数は1〜3である。
当該アルキル基の炭素数がこの範囲であると、成分(B−2)の反応性が優れる。なお、Rとして選択し得るアルキル基の炭素数には、当該アルキル基が有してもよい任意の置換基の炭素数は含まれない。
として選択し得るアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、又はイソプロピル基が挙げられ、成分(B−2)の反応性を向上させる観点から、メチル基、又はエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
として選択し得るアルキル基は、置換基を有していてもよい。なお、Rとして選択し得るアルキル基が有する置換基は、Rとして選択し得るアルキル基が有する置換基について前述したものと同じものが挙げられる。
ただし、Rとして選択し得るアルキル基としては、置換基を有していないアルキル基であることが好ましい。
【0027】
として選択し得るアルキル基、及びXとして選択し得るハロゲン原子としては、前述の一般式(a)中のRとして選択し得るアルキル基、Xとして選択し得るハロゲン原子と同じものが挙げられる。
なお、一般式(b−2)で表される3官能シラン系化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、成分(B−2)としては、一般式(b−2)中のsが3である3官能シラン系化合物を含むことが好ましい。
【0028】
(条件(II)について)
成分(B)として、成分(B−1)及び成分(B−2)を用いる場合、成分(B−1)及び成分(B−2)の関係において、下記条件(II)を満たすことが好ましい。
条件(II):成分(B−1)及び成分(B−2)の合計含有量(モル量)に対する成分(B−1)の含有量(モル量)の比〔(B−1)/{(B−1)+(B−2)}〕(モル比)が、0.020以上
当該〔(B−1)/{(B−1)+(B−2)}〕(モル比)が、0.020以上であると、成分(B−1)中のRで表されるアルキル基の存在によって、得られる薄膜撥液層がより良好な撥水性及び滑液性を有する。このような観点から、当該〔(B−1)/{(B−1)+(B−2)}〕(モル比)は、より好ましくは0.035以上、更に好ましくは0.045以上、より更に好ましくは0.050以上、より更に好ましくは0.100以上、より更に好ましくは0.150以上、より更に好ましくは0.250以上、より更に好ましくは0.500以上である。
そして、当該〔(B−1)/{(B−1)+(B−2)}〕(モル比)の上限は、好ましくは0.995以下、より好ましくは0.990以下、更に好ましくは0.980以下、より更に好ましくは0.950以下、より更に好ましくは0.850以下である。
なお、成分(B−1)及び成分(B−2)の含有量は、各成分を配合する時の配合量から算出することもできる。
【0029】
なお、本発明の撥液性組成物は、3官能シラン系化合物として成分(B−1)と成分(B−2)とを前記条件(I)及び条件(II)を満たすように含むことで、得られる薄膜撥液層がより良好な撥水性を有することができるため好ましい。また、成分(B−2)を含むことで、撥液性組成物から形成される塗膜の面状態の向上が期待できる。
【0030】
成分(B)として、成分(B−1)及び成分(B−2)を用いる場合、成分(B−1)の含有量(モル量)は、得られる薄膜撥液層の撥水性及び滑液性を向上させる観点から、成分(A)、成分(B−1)及び成分(B−2)の含有量(モル量)合計100モル%に対して、好ましくは0.30モル%以上、より好ましくは0.50モル%以上、更に好ましくは1.00モル%以上、より更に好ましくは5.00モル%以上、より更に好ましくは15.00モル%以上、より更に好ましくは30.00モル%以上である。そして、当該含有量(モル量)は、好ましくは45.00モル%以下、より好ましくは40.00モル%以下である。
また、成分(B)として、成分(B−1)及び成分(B−2)を用いる場合、成分(B−2)の含有量(モル量)は、撥液性組成物から形成される塗膜の面状態を向上させる観点から、成分(A)、成分(B−1)及び成分(B−2)の含有量(モル量)合計100モル%に対して、好ましくは0.50モル%以上、より好ましくは0.80モル%以上、更に好ましくは1.00モル%以上、より更に好ましくは1.30モル%以上、より更に好ましくは5.00モル%以上、より更に好ましくは8.00モル%以上である。そして、当該含有量(モル量)は、好ましくは40.00モル%以下、より好ましくは30.00モル%以下、更に好ましくは20.00モル%以下である。
【0031】
また、成分(B)として、成分(B−1)及び成分(B−2)を用いる場合、成分(A)及び成分(B−1)の関係において、成分(B−1)の含有量(モル量)に対する成分(A)の含有量(モル量)の比〔(A)/(B−1)〕(モル比)は、得られる薄膜撥液層の滑液性を向上させる観点から、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.8以上、更に好ましくは1.0以上、より更に好ましくは1.2以上である。
そして、当該〔(A)/(B−1)〕(モル比)は、300.0以下であることが好ましい。当該〔(A)/(B−1)〕(モル比)が300.0以下であることで、成分(B−1)中のRで表されるアルキル基の存在によって、得られる薄膜撥液層が、より良好な撥水性及び滑液性を有する。このような観点から、当該〔(A)/(B−1)〕(モル比)は、より好ましくは200.0以下、更に好ましくは150.0以下、より更に好ましくは100.0以下、より更に好ましくは90.0以下、より更に好ましくは50.0以下、より更に好ましくは10.0以下、より更に好ましくは5.0以下である。
また、成分(B)として、成分(B−1)及び成分(B−2)とを併用する場合、成分(A)及び成分(B−2)の関係において、成分(B−2)の含有量(モル量)に対する成分(A)の含有量(モル量)の比〔(A)/(B−2)〕(モル比)は、特に制限はなく、1.0以上であることが好ましい。また、当該〔(A)/(B−2)〕(モル比)は、70.0以下であることが好ましく、より好ましくは50.0以下、更に好ましくは20.0以下、より更に好ましくは10.0以下である。
【0032】
また、成分(B)として、成分(B−1)及び成分(B−2)を併用する場合、成分(A)、成分(B−1)及び成分(B−2)の関係において、成分(B−1)及び成分(B−2)の合計含有量(モル量)に対する成分(A)の含有量(モル量)の比〔(A)/{(B−1)+(B−2)}〕(モル比)が、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.10以上、更に好ましくは0.50以上、より更に好ましくは0.80以上、より更に好ましくは0.90以上である。また、当該〔(A)/{(B−1)+(B−2)}〕(モル比)は、好ましくは50.00以下、より好ましくは25.00以下、更に好ましくは20.00以下、より更に好ましくは10.00以下、より更に好ましくは5.0以下である。
なお、成分(B)として、成分(B−1)及び成分(B−2)とを併用する場合、成分(B)中の成分(B−1)及び成分(B−2)の合計含有量は、当該成分(B)の含有量全量100質量%に対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは65質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上、より更に好ましくは99質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下である。また、当該含有量は、より好ましくは100質量%である。
【0033】
(成分(C):酸触媒)
本発明で用いる撥液性組成物は、前記各シラン系化合物の反応性をより向上させる観点から、更に成分(C)として酸触媒を含むことが好ましい。
撥液性組成物中に酸触媒を含有することで、前記各シラン系化合物が有する反応性官能基の加水分解が促進される。その結果、用いるシラン系化合物同士の縮重合反応がより促進され、硬化性が向上する。なお、「反応性官能基」とは、シラン系化合物中、例えば、前記一般式(a)中(OR)又は(X)で表される官能基、及び一般式(b)中、(OR)又は(X)で表される官能基等を指す。
当該酸触媒としては、前記各シラン系化合物の反応性官能基の加水分解を促進させる作用を有する成分であれば特に制限はない。例えば、前記各シラン系化合物の反応性をより向上させる観点から、塩酸、リン酸、酢酸、ギ酸、硫酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p−トルエンスルホン酸、及びトリフルオロ酢酸からなる群より選ばれる1種以上を含むことが好ましく、塩酸を含むことがより好ましい。
なお、前記成分(C)としては、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
撥液性組成物中の成分(C)の含有量(モル量)は、前記各シラン系化合物の反応性をより向上させる観点から、成分(A)及び成分(B)の合計含有量(モル量)100モル%に対して、好ましくは0.010モル%以上、より好ましくは0.030モル%以上、更に好ましくは0.050モル%以上、より更に好ましくは0.060モル%以上である。そして、当該含有量は、好ましくは1.000モル%以下、より好ましくは0.500モル%以下、更に好ましくは0.100モル%以下、より更に好ましくは0.075モル%以下である。
なお、当該含有量は、各成分を配合する時の配合量から算出することもできる。
【0035】
(その他の添加剤)
撥液性組成物には、前述した各成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲において、その他の添加剤を含有していてもよい。
その他の添加剤としては、例えば、樹脂成分、金属触媒、硬化剤、老化防止剤、光安定剤、難燃剤、導電剤、帯電防止剤、可塑剤等が挙げられる。
これら添加剤の含有量は、それぞれ独立に、撥液性組成物溶液の全量に対して、好ましくは0〜20質量%、より好ましくは0〜10質量%、更に好ましくは0〜5質量%、より更に好ましくは0〜2質量%である。
なお、当該含有量は、各成分を配合する時の配合量から算出することもできる。
【0036】
撥液性組成物中の成分(A)及び成分(B)の合計含有量は、当該撥液性組成物中の全有効成分100質量%に対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは65質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上、より更に好ましくは99質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下である。
なお、当該含有量は、各成分を配合する時の配合量から算出することもできる。
なお、本発明において、撥液性組成物中の有効成分とは、当該撥液性組成物中に含まれる成分中、反応に直接関与しない溶媒(水や有機溶媒)を除いた液体成分、及び常温で固形である成分を指す。
【0037】
また、本発明で用いる撥液性組成物中の成分(A)、成分(B)及び成分(C)の合計含有量は、当該撥液性組成物中の全有効成分100質量%に対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは65質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上、より更に好ましくは99質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下である。また、当該含有量は、より好ましくは100質量%である。
なお、当該含有量は、各成分を配合する時の配合量から算出することもできる。
【0038】
工程(1)では、前記撥液性組成物を用いて硬化膜を形成するが、当該硬化膜を形成する場合、被塗布体に対し、前記撥液性組成物を塗布する塗布工程、及び被塗布体上に形成された塗膜を乾燥する乾燥工程を有することが好ましい。
【0039】
{塗布工程}
前記撥液性組成物を塗布する場合、溶媒に溶かして、溶液の形態として、被塗布体上に塗布することが好ましい。
当該溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、トルエン等の有機溶媒、水等が挙げられる。
【0040】
塗布方法としては、被塗布体の形状等により、適宜、選択することができるが、例えば、ディップコーティング、カーテンコーティング、スプレーコーティング、ダイコーティング、ナイフコーティング、ブレードコーティング、ロールナイフコーティング、ロールコーティング、スピンコーティング、グラビアコーティング及びバーコーティングからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられ、好ましくはディップコーティング、カーテンコーティング、スプレーコーティング、スピンコーティング、グラビアコーティング及びバーコーティングからなる群より選ばれる少なくとも1種、より好ましくはディップコーティング、カーテンコーティング、スプレーコーティング、グラビアコーティング及びバーコーティングからなる群より選ばれる少なくとも1種、更に好ましくはディップコーティングが挙げられる。
【0041】
撥液性組成物を塗布する被塗布体としては、撥液性が必要となる物であれば、特に制限はないが、ガラス、金属、合金、半導体、ゴム、布、プラスチック、セラミックス、木材、紙、繊維等に対して好適に用いることができ、ガラス、金属、プラスチックに対してより好適に用いることができる。また、金属酸化膜や樹脂塗装面に対しても好適に用いることができる。
被塗布体の形状は、特に制限はなく、例えば、フィルム、シート等の平面的なものであってよく、立体的なものであってもよい。立体的なものとしては、例えば、ボトル容器、屋根、看板(立体看板)、信号機等の表示体、建材、壁、床、棚、車両、船舶、航空機等の立体物が挙げられる。
また、被塗布面の形状も、特に制限はなく、平面、三次元形状面(曲面、凹凸面等含む)、多孔質面等にも適用することができる。
【0042】
{乾燥工程}
前記塗布工程にて、被塗布体上に塗膜を形成した後、当該塗膜を乾燥する際の乾燥温度及び乾燥時間については、特に制限はなく、被塗布体の耐熱性や、撥液性組成物を溶解させた溶液の種類に応じて、適宜、設定することができる。
なお、本発明で用いる撥液性組成物は、室温、常温(5〜35℃)下でも硬化することが可能であり、例えば、塩化ビニル等の耐熱性の低い材料を用いた被塗布体の場合でも、当該被塗布体の熱収縮等の高温での変形等を抑制することができる。一方、高温(50〜200℃)でも硬化することが可能であり、前記各シラン化合物の反応を促進させ、生産性を向上することができる。
そのため、前記観点から、当該乾燥温度としては、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは15℃以上であり、そして、好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下、より更に好ましくは130℃以下、より更に好ましくは110℃以下である。
当該乾燥は、自然乾燥であってもよく、ドライヤーやオーブン等を用いた強制乾燥であってもよく、被塗布体の特性に応じて、適宜、選択することができる。
【0043】
工程(1)で形成される硬化膜の厚さは、特に制限はないが、好ましくは8nm以上、より好ましくは20nm以上、更に好ましくは100nm以上であり、そして、好ましくは3000nm以下、より好ましくは2000nm以下、更に好ましくは1800nm以下である。
【0044】
<<工程(2)>>
工程(2)は、前記工程(1)で得られた硬化膜の表面を除去して薄膜化する工程である。
硬化膜の表面を除去して薄膜化する方法としては、好ましくは粘着テープを用いて薄膜化する方法、及び有機溶媒を用いて薄膜化する方法から選ばれる1種以上、より好ましくは粘着テープを用いて薄膜化する方法が挙げられる。
【0045】
前記粘着テープを用いて薄膜化する方法としては、例えば、前記工程(1)で得られた硬化膜の表面上に粘着テープを貼付した後、当該粘着テープを剥離する方法が挙げられる。
当該粘着テープの粘着力としては、薄膜化が可能であれば、特に制限はないが、23℃、50%RH(相対湿度)の環境下で、ステンレス板(SUS304鋼板、360番研磨)に貼付してから24時間経過後の粘着力としては、好ましくは1N/25mm以上、より好ましくは2N/25mm以上、更に好ましくは3N/25mm以上であり、そして、好ましくは30N/25mm以下、より好ましくは20N/25mm以下、更に好ましくは10N/25mm以下である。
当該粘着テープの粘着力は、JIS Z0237:2000に準拠して測定された値を指し、具体的には、次に記載の方法及び条件にて測定された値を意味する。
23℃、50%RH(相対湿度)環境下で、粘着テープを被着体であるステンレス板(SUS304鋼板、360番研磨)に貼付し、同環境下で24時間静置する。そして、同環境下で、JIS Z0237:2000に準拠して、貼付後24時間経過後の粘着力を180°引き剥がし法によって、引張り速度300mm/分にて測定する。
当該粘着テープの一例としては、「スコッチ(登録商標)」(製品名、3M社製)、「セロテープ(登録商標)」(製品名、ニチバン株式会社製)等が挙げられる。
【0046】
また、前記有機溶媒を用いて薄膜化する方法としては、例えば、前記硬化膜表面を有機溶媒で洗浄する方法が挙げられる。
当該洗浄方法としては、特に制限はないが、好ましくは超音波洗浄が挙げられる。
当該有機溶媒としては、前記硬化膜表面を溶解して薄膜化できる溶媒であれば特に制限はないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン、酢酸エチル、トルエン等の有機溶媒、水等からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0047】
前記工程(1)及び工程(2)を経て製造される薄膜撥液層の厚さは、好ましくは8nm未満、より好ましくは7nm未満、更に好ましくは6nm未満、より更に好ましくは5.8nm以下、より更に好ましくは5.5nm以下、より更に好ましくは5nm以下である。そして、当該薄膜撥液層の厚さは、好ましくは0.5nm以上、より好ましくは0.8nm以上、更に好ましくは1nm以上、より更に好ましくは2nm以上である
当該薄膜撥液層の厚さは、例えば、後述する実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0048】
[薄膜撥液層]
本発明の一態様である薄膜撥液層は、下記成分(A)及び下記成分(B)との硬化物であって、厚さ8nm未満である薄膜撥液層である。
成分(A):下記一般式(a)で表される4官能シラン系化合物
Si(OR(X4−p (a)
〔一般式(a)中、Rは、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。R及びXが複数存在する場合、複数のR及びXは、互いに同一でも、異なっていてもよい。pは0〜4の整数を表す。〕
成分(B):下記一般式(b)で表される3官能シラン系化合物
Si(OR(X3−q (b)
〔一般式(b)中、Rは、炭素数1〜24のアルキル基を表し、当該アルキル基は置換基を有していてもよい。Rは、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。R及びXが複数存在する場合、複数のR及びXは、互いに同一でも、異なっていてもよい。qは0〜3の整数を表す。〕
【0049】
当該薄膜撥液層の厚さは、好ましくは7nm未満、より好ましくは6nm未満、更に好ましくは5.8nm以下、より更に好ましくは5.5nm以下、より更に好ましくは5nm以下である。そして、当該薄膜撥液層の厚さは、好ましくは0.5nm以上、より好ましくは0.8nm以上、更に好ましくは1nm以上、より更に好ましくは2nm以上である。
当該薄膜撥液層の厚さは、例えば、後述する実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0050】
成分(A)、成分(B)は、それぞれ、前述した成分(A)、成分(B)と同じであり、その好適な態様も同じである。
また、成分(B)が、前述の成分(B−1)及び成分(B−2)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む場合、成分(B−1)及び成分(B−2)は、それぞれ、前述した成分(B−1)及び成分(B−2)と同じであり、その好適な態様も同じである。
【0051】
(条件(III)について)
成分(A)及び成分(B)との硬化物において、下記条件(III)を満たすことが好ましい。
条件(III):硬化物中の成分(B)由来の構造(Bp)の含有量(モル量)に対する成分(A)由来の構造(Ap)の含有量(モル量)の比〔(Ap)/(Bp)〕(モル比)が、0.01以上50.00以下
当該〔(Ap)/(Bp)〕(モル比)が、0.01以上であると、得られる薄膜撥液層の滑液性及び被塗布体との密着性が良好となる。
ここで、硬化物中の構造(Ap)の含有量(モル量)、構造(Bp)の含有量(モル量)は、それぞれ、例えば、硬化物を形成する前の撥液性組成物中の成分(A)、成分(B)の含有量と同じとみなすこともできる。
したがって、硬化物中の構造(Ap)の含有量、構造(Bp)の含有量、及び当該〔(Ap)/(Bp)〕(モル比)の好適範囲は、前述した成分(A)の含有量、成分(B)の含有量、及び〔(A)/(B)〕(モル比)の各好適範囲と同じである。
【0052】
(条件(IV)について)
成分(B)として、成分(B−1)及び成分(B−2)を併用した硬化物である場合、成分(B−1)由来の構造(B−1p)及び成分(B−2)由来の構造(B−2p)の関係において、次の条件(IV)を満たすことが好ましい。
条件(IV):硬化物中の成分(B−1)由来の構造(B−1p)の含有量(モル量)及び成分(B−2)由来の構造(B−2p)の含有量(モル量)の合計含有量(モル量)に対する(B−1p)のモル量の比〔(B−1p)/{(B−1p)+(B−2p)}〕(モル比)が、0.020以上
当該〔(B−1p)/{(B−1p)+(B−2p)}〕(モル比)が、0.020以上であると、薄膜撥液層がより良好な撥水性及び滑液性を有する。
ここで、硬化物中の構造(B−1p)の含有量(モル量)、構造(B−2p)の含有量(モル量)は、それぞれ、例えば、硬化物を形成する前の撥液性組成物中の成分(B−1)、成分(B−2)の含有量とみなすこともできる。
したがって、硬化物中の構造(B−1p)の含有量(モル量)、構造(B−2p)の含有量(モル量)、及び当該〔(B−1p)/{(B−1p)+(B−2p)}〕(モル比)の好適範囲は、前述した成分(B−1)の含有量、成分(B−2)の含有量、及び〔(B−1)/{(B−1)+(B−2)}〕(モル比)の各好適範囲と同じである。
【0053】
成分(B)として、成分(B−1)及び成分(B−2)を用いた硬化物である場合、硬化物中の構造(Ap)及び構造(B−1p)の関係において、構造(B−1p)の含有量(モル量)に対する構造(Ap)の含有量(モル量)の比〔(Ap)/(B−1p)〕(モル比)は、前述した〔(A)/(B−1)〕(モル比)の好適範囲と同じである。
また、構造(Ap)及び構造(B−2p)の関係において、構造(B−2p)の含有量(モル量)に対する構造(Ap)の含有量(モル量)の比〔(Ap)/(B−2p)〕(モル比)は、前述した〔(A)/(B−2)〕(モル比)の好適範囲と同じである。
また、構造(Ap)、構造(Bp)及び構造(B−1p)の関係において、構造(B−1p)及び構造(B−2p)の合計含有量(モル量)に対する構造(Ap)の含有量(モル量)の比〔(Ap)/{(B−1p)+(B−2p)}〕(モル比)は、前述した〔(A)/{(B−1)+(B−2)}〕(モル比)の好適範囲と同じである。
なお、成分(B)として、成分(B−1)及び成分(B−2)を用いた硬化物である場合、構造(Bp)中の構造(B−1p)及び構造(B−2p)の合計含有量は、構造(Bp)の含有量全量100モル%に対して、好ましくは50モル%以上、より好ましくは65モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、より更に好ましくは90モル%以上、より更に好ましくは95モル%以上、より更に好ましくは99モル%以上であり、そして、好ましくは100モル%以下である。また、当該含有量は、より好ましくは100モル%である。
【0054】
本発明の一態様である薄膜撥液層は、好ましくは成分(A)及び下記成分(B)との硬化物の表面を除去して薄膜化して得られる薄膜撥液層である。
当該硬化膜の表面を除去して薄膜化する方法としては、例えば、前記薄膜撥液層の製造方法の工程(2)で前述した方法が挙げられ、その好適な態様も同じである。
また、本発明の薄膜撥液層の好適な一態様としては、前述した本発明の薄膜撥液層の製造方法により得られる薄膜撥液層である。
【0055】
[薄膜撥液層の用途]
本発明の薄膜撥液層は、例えば、建築用窓ガラス、自動車用窓ガラス、車両、航空機、船舶等の風防ガラス、水槽、船底窓、船底への海中生物付着防止用フィルム、防音壁等の道路用パネル、浴室等に設置された鏡、ガラス容器、ガラス装飾品等の成形品の表面に、水滴や、傷、汚れ等の視界を妨げるものの付着を防止するために好適に用いることができる。
【実施例】
【0056】
[撥液性組成物溶液の調製]
実施例1〜5
<工程(1)>
表1に示す種類及び配合比(モル%)で成分(A)、成分(B−1)及び成分(B−2)を配合し、溶媒としてエタノールを加えて希釈し、濃度1.30Mの撥液性組成物の溶液を得た。
当該溶液に、更に酸触媒(C)である塩酸(希釈水を除く)を成分(A)及び成分(B)の合計100モル%に対して0.067モル%となるように配合して24時間攪拌して塗布溶液を得た。
被塗布体としてスライドガラス(製品名「マイクロスライドガラス S1111」、松浪硝子工業株式会社製を、100W、1分間の条件でプラズマ洗浄したものを使用。)を準備した。スライドガラス上の一部にマスキングテープとしてシリコーン微粘着テープ(製品名「REPOP RE505S」、リンテック株式会社製)を貼付しマスキングした。該マスキング済みのスライドガラス上に、前記の塗布溶液をディップコートして塗膜を形成し、室温(23℃)で24時間乾燥させて、該スライドガラス上に硬化膜を形成した。
【0057】
<工程(2)>
工程(1)で形成した硬化膜表面に、粘着テープとして「セロテープ(登録商標)」(ニチバン株式会社製)を貼付した。次いで、貼付した当該テープを、硬化膜表面から剥離し、該硬化膜表面を除去して、薄膜撥液層を作製した。
【0058】
比較例1
工程(1)で成分(A)のみを配合した塗布溶液を調製したこと以外は、実施例1と同様にして、比較用硬化膜を作製した。
【0059】
比較例2
工程(1)で成分(B−1)のみを配合した塗布溶液を調製したこと以外は、実施例1と同様にして、比較用硬化膜を作製した。
【0060】
比較例3
工程(2)の薄膜化処理を行わなかったこと以外は、実施例5と同様にして、比較用硬化膜を作製した。
【0061】
表1に記載の各成分の詳細は以下のとおりである。
<成分(A):一般式(a)で表される4官能シラン系化合物>
・「TEOS」:テトラエトキシシラン、前記一般式(a)中、p=4、R=エチル基(炭素数:2)である4官能シラン系化合物。
<成分(B−1):一般式(b−1)で表される3官能シラン系化合物>
・「デシルトリメトキシシラン」:前記一般式(b)中のr=3、R=n−デシル基(炭素数:10)、R=メチル基(炭素数:1)である3官能シラン系化合物。
<成分(B−2):一般式(b−2)で表される3官能シラン系化合物>
・「メチルトリメトキシシラン」:前記一般式(b−2)中のs=3、R=メチル基(炭素数:1)、R=メチル基(炭素数:1)である3官能シラン系化合物。
<成分(C):酸触媒>
・「塩酸」:0.01M塩酸。
【0062】
各実施例及び各比較例で作製した薄膜撥液層及び比較用硬化膜の特性について、以下の方法に基づき評価した。
【0063】
<工程(1)で形成した硬化膜及び工程(2)で作製した薄膜撥液層の厚さ>
工程(1)で形成した硬化膜及び工程(2)で作製した薄膜撥液層の厚さは、次に示す方法を用いて測定した。その結果を表1及び表2に示す。
・測定機器:光干渉式膜厚計「Wyko NT9100」(製品名、Veeco社製)
各実施例及び各比較例で作製した薄膜撥液層を有するスライドガラス又は比較用硬化膜を有するスライドガラス(以下、単に「評価サンプル」と称する。)上のマスキングテープを剥離した。薄膜撥液層又は硬化膜が形成されている部分の評価サンプルの厚さ(X)と、薄膜撥液層又は硬化膜が形成されていない部分の評価サンプルとの厚さ(Y)を、それぞれ、前記測定機器及び条件で測定した。得られた厚さ(X)と厚さ(Y)との差(X)−(Y)より、薄膜撥液層及び硬化膜の厚さを算出した。
【0064】
<工程(1)で形成した硬化膜のテープ剥離性>
前記工程(2)での薄膜化を行った際に、セロテープ(登録商標)による硬化膜表面の剥離性について、以下の基準により評価した。その結果を表1に示す。
・A:テープを貼付した範囲全体の硬化膜表面を剥離できた。
・B:テープを貼付した範囲の硬化膜表面の一部に剥離できない部分が生じた。
・C:テープを貼付した範囲が全く剥離出来なかった。
【0065】
<撥液性>
撥液性の指標として、水接触角及び水滑落角について、以下の方法に基づき評価した。
(水接触角)
薄膜撥液層又は比較用硬化膜の水接触角は、全自動接触角測定装置(製品名「DM−701」、協和界面科学株式会社製)を用いて、各実施例及び各比較例で作製した薄膜撥液層又は比較用硬化膜表面について、水2μLに対する接触角として測定した。その結果を表2に示す。値が大きいほど、撥水性に優れることを示す。
【0066】
(水滑落角)
各実施例及び各比較例で作製した評価サンプルを、水張りにて傾斜角0°にした試料台(ガラス板)上に載置した。次いで、純水14μLを薄膜撥液層又は比較用硬化膜の表面に滴下して液滴を形成させた後、上記試料台を傾斜させた際に、液滴の後退角が動いた際の試料台の傾斜角を水滑落角とした。その結果を表2に示す。値が小さいほど、水滑落性に優れることを示す。
【0067】
<視認性>
各実施例及び各比較例で作製した評価サンプル及びスライドガラス単体のヘーズを、JIS K7136:2000に準じて、ヘーズメーター(製品名「NDH−2000」、日本電色工業社製)を用いて測定した。評価サンプルのヘーズからスライドガラス単体のヘーズを差し引いた値の結果を表2に示す。値が小さいほど、透明性が高く視認性に優れることを示す。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
表1及び表2より、実施例1〜5の薄膜撥液層は、撥液性として水接触角及び水滑落角が良好であり、視認性にも優れることが確認された。
一方、比較例1の硬化膜は、成分(A)のみからなる硬化物であり、該硬化膜表面をセロテープ(登録商標)で剥離することができず、また、硬化膜の水接触角も劣る結果となった。
そして、比較例2は、工程(1)で形成した塗膜の面状態が劣り、各評価に耐えうる硬化膜を形成することができなかった。
また、比較例3では、工程(1)で形成した硬化膜の薄膜化を行なわなかったため、硬化膜の厚さが厚く、視認性に劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の一態様である薄膜撥液層の製造方法を用いれば、視認性に優れ、撥液性(好ましくは撥水性及び滑液性)が良好な薄膜撥液層を製造することができる。また、本発明の一態様である薄膜撥液層は視認性、及び撥液性に優れる。
そのため、当該薄膜撥液層は、例えば、建築用窓ガラス、自動車用窓ガラス、車両、航空機、船舶等の風防ガラス、水槽、船底窓、船底への海中生物付着防止用フィルム、防音壁等の道路用パネル、浴室等に設置された鏡、ガラス容器、ガラス装飾品等の成形品の表面に、水滴や、汚れ等の視界を妨げるものの付着を防止するための撥液性を付与するために好適である。そして、例えば、自動車用窓ガラス、車両、航空機、船舶等の風防ガラス等の水滴や着雪した雪を効率良く滑落させ得る撥水性及び滑液性と、優れた視認性とが要求される環境下で用いられる用途に、より好適である。