(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ガラスチョップドストランドをシート状に成形してなるガラスチョップドストランドマットを、柔軟性を有する母材シートの両面又は片面に積層してなる自動車成形天井材であって、
前記ガラスチョップドストランドマットを構成する前記ガラスチョップドストランドは配向性を有し、前記ガラスチョップドストランドが配向する方向を長手方向とし、前記ガラスチョップドストランドマットのシート内で前記長手方向と直交する方向を幅方向として、
前記ガラスチョップドストランドマットは、前記幅方向の引張強度と前記長手方向の引張強度との比(幅方向/長手方向)を、0.73以上1.00未満に設定してあり、
前記ガラスチョップドストランドマットは、前記幅方向の引張強度が、日本工業規格(JIS R3420(2006) 7.25)に従う試験体の幅が150mmの引張破断試験において、109〜136Nであり、
前記ガラスチョップドストランドマットは、前記長手方向の引張強度が、日本工業規格(JIS R3420(2006) 7.25)に従う試験体の幅が150mmの引張破断試験において、149〜175Nであり、
前記ガラスチョップドストランドマットは、単位面積当たりの前記ガラスチョップドストランドの質量である目付が、50〜150g/m2である自動車成形天井材。
【背景技術】
【0002】
ガラスチョップドストランドマットは、従来から、浴槽、浄化槽等のガラス繊維強化プラスティック(GFRP)成形品の補強材として用いられている。近年では、自動車成形天井材の補強基材として採用され、発泡ポリウレタンシートの表裏面にガラスチョップドストランドマットを接着させた自動車成形天井材が開発されている。
【0003】
ガラスチョップドストランドマットを製造するには、先ず、ガラス繊維を所定の長さに切断して、ガラスチョップドストランドを得る。次に、ガラスチョップドストランドを、ベルトコンベア等の搬送手段の上に分散し、シート状に堆積する。このガラスチョップドストランドは、ベルトコンベアによって搬送されながら、複数の工程を経る。例えば、結合剤をガラスチョップドストランドに散布する工程、結合剤が付着した状態のガラスチョップドストランドを加熱する工程、及び加熱後のガラスチョップドストランドを冷却、プレスする工程等である。これらの工程を経て完成したガラスチョップドストランドマットは、ロール状になるように、巻取機等によって巻芯に巻回され、その後出荷される。
【0004】
ロール状に巻回したガラスチョップドストランドマットを自動車成形天井材に加工する場合、ガラスチョップドストランドマットを一旦引き出し、接着剤を塗布した後、再度巻回する。その後、接着剤が付着したガラスチョップドストランドマットと、母材となる発泡ウレタンシート等とを貼り合わせ、所望の自動車成形天井材の形状に成形加工する。
【0005】
近年、自動車のデザインの多様化が進むにつれ、デザイン性を一層向上させるために、天井面についても、複雑な形状が求められている。そのような形状に対応するため、天井面に使用されるガラスチョップドストランドマットには、高い柔軟性が要求される。ガラスチョップドストランドマットの柔軟性を高めるには、ガラスチョップドストランドマットを構成するガラスチョップドストランドを出来る限り等方的に分散させることが好ましい。また、上述の結合剤の添加量を低減することによっても、柔軟性を向上させることができる。しかし、これらの方法では、ガラスチョップドストランドマットの引張強度を十分に発現させることができず、特に、上述の自動車成形天井材の製造工程において、接着剤を塗布したガラスチョップドストランドマットを一旦引き出す際に、引っ張られる力に耐えきれず、幅方向に破断する可能性がある。
【0006】
また、自動車の軽量化が進み、天井材の重量の軽減も要求されている。これは、原料となるガラスチョップドストランドの使用量を減らすことにより、ガラスチョップドストランドマット自身の重量を低減することで実現される。しかし、ガラスチョップドストランドの使用量を減らして目付が低減すると、完成したガラスチョップドストランドマットの引張強度が低下し、あらゆる工程において破断する可能性が高まる。ガラスチョップドストランドマットの破断は、成形不良や、製造工程の中断等に直結する。
【0007】
一方、ガラスチョップドストランドマットの引張強度が過大になると、柔軟性が低下し、自動車成形天井材を成形加工する際に、当該自動車成形天井材の表面にヒケと呼ばれるへこみやくぼみ等の成形不良が発生する可能性がある。その結果、自動車成形天井材の歩留まりが悪化し、生産効率の低下を招くことになる。
【0008】
従って、自動車成形天井材に使用するガラスチョップドストランドマットは、柔軟性と引張強度とを両立する必要がある。
【0009】
従来、マット幅方向とマット長手方向との間で引張強度に差を付けたガラスチョップドストランドマットが知られている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1によれば、平均ストランド番手が10〜20テックスのガラスチョップドストランドから構成されてなり、目付が50〜150g/m
2であり、JIS R3420(1999)付属書13に従う引張破断試験におけるマット幅方向の引張強度の平均値が150N以下で、その引張強度の標準偏差が50N以下であり、且つマット長手方向の引張強度の平均値が100N以上であるガラスチョップドストランドマットの製造方法が開示されている。このガラスチョップドストランドマットは、強度面での不安がなく、しかも自動車成形天井材として成形した後にガラスチョップドストランドの形状が成形品の表面に浮き出るガラス目等の外観上の問題が発生する危険性が小さい優れた品質を有する、とされている。
なお、JIS R3420(1999)付属書13は、「テキスタイルガラス−マット−引張破断強さの測定方法」を規定しており、これは、1995年に第3版として発行されたISO 3342,Textile glass−Mats−Determination of tensile breaking force を翻訳し、技術的内容を変更することなく作成されたものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1のガラスチョップドストランドマットは、引張強度を向上させているものの、所望の形状に加工するために十分な柔軟性を備えているとは限らない。ガラスチョップドストランドマットの柔軟性、及び引張強度は、ガラスチョップドストランドマットの幅方向及び長手方向における引張強度のバランスに大きく影響される。特許文献1のガラスチョップドストランドマットにおいては、幅方向の引張強度と長手方向の引張強度とを個別に規定しているものの、両者の関係については特に考慮されていない。従って、特許文献1のガラスチョップドストランドマットは、両方向の引張強度においては大きな問題は無いものの、全体の柔軟性が十分に達成されておらず、その結果、所望の自動車成形天井材の形状に成形加工することが困難となる可能性がある。
【0012】
このように、現状においては、柔軟性、及び引張強度をバランスよく両立させたガラスチョップドストランドマットは未だ開発されていない。本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、ガラスチョップドストランドマットの幅方向の引張強度と長手方向の引張強度との関係に着目することにより、例えば、近年のデザイン性に富み軽量化が進んだ自動車における成形天井材にも利用可能な、高品質で且つ高機能性を有するガラスチョップドストランドマットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明に係るガラスチョップドストランドマットの特徴構成は、
ガラスチョップドストランドをシート状に成形してなるガラスチョップドストランドマットであって、
幅方向の引張強度と長手方向の引張強度との比(幅方向/長手方向)を、0.73以上1.00未満に設定してあることにある。
【0014】
上記課題で説明したように、従来技術では、所望の形状へ成形加工することが可能な柔軟性を有すると同時に、破断し難いガラスチョップドストランドマットを得ることは困難であった。これは、ガラスチョップドストランドマットの柔軟性について特に考慮せず、幅方向及び長手方向における引張強度を独立に捉えていたためである。
この点、本構成のガラスチョップドストランドマットでは、ガラスチョップドストランドマットの幅方向の引張強度と長手方向の引張強度との比(幅方向/長手方向)を、0.73以上1.00未満に設定してあるため、ガラスチョップドストランドマットの幅方向及び長手方向の両方向において十分な柔軟性を確保することができる。また、幅方向における引張強度を断裂等の異常が発生しない程度に設定すれば、長手方向も必然的に十分な引張強度が得られる。その結果、柔軟性、及び引張強度をバランスよく両立したガラスチョップドストランドマットを実現することが可能となる。
【0015】
本発明のガラスチョップドストランドマットにおいて、
前記幅方向の引張強度が、日本工業規格(JIS R3420(2006) 7.25)に従う試験体の幅が150mmの引張破断試験において、80N以上であることが好ましい。
【0016】
本構成のガラスチョップドストランドマットでは、幅方向の引張強度が、日本工業規格(JIS R3420(2006) 7.25)に従う試験体の幅が150mmの引張破断試験において、80N以上であるため、成形加工をする場合に幅方向にも十分な引張強度を有する。また、長手方向も必然的に80N以上の引張強度が得られるため、所望の形状へ成形加工することが可能な柔軟性を保持しながらも、様々な工程において破断する虞がない。従って、本構成のガラスチョップドストランドマットであれば、柔軟性、及び引張強度をバランスよく両立することが可能となる。
【0017】
本発明のガラスチョップドストランドマットにおいて、
単位面積当たりの前記ガラスチョップドストランドの質量である目付が、50〜150g/m
2であることが好ましい。
【0018】
本構成のガラスチョップドストランドマットでは、単位面積当たりのガラスチョップドストランドの質量である目付が、50〜150g/m
2と小さいため、柔軟性、及び引張強度をバランスよく両立しながら、薄く且つ軽量のガラスチョップドストランドマットを実現することが可能となる。
【0019】
上記課題を解決するための本発明に係るガラスチョップドストランドマットの製造方法の特徴構成は、
ガラスチョップドストランドをシート状に成形してなるガラスチョップドストランドマットの製造方法であって、
分散状態にした前記ガラスチョップドストランドに対して、結合剤となる樹脂粉末を散布しながら連続的に搬送する第一搬送工程と、
前記樹脂粉末が付着した状態のガラスチョップドストランドを、前記樹脂粉末の融点より高い温度で加熱処理しながら連続的に搬送する第二搬送工程と、
を包含し、
前記第二搬送工程における搬送速度は、前記第一搬送工程における搬送速度よりも大きく、且つ、両者の差を3〜8m/分に設定し、幅方向の引張強度と長手方向の引張強度との比(幅方向/長手方向)を、0.73以上1.00未満に設定してあることにある。
【0020】
本構成のガラスチョップドストランドをシート状に成形してなるガラスチョップドストランドマットの製造方法では、分散状態にしたガラスチョップドストランドに対して、結合剤となる樹脂粉末を散布しながら連続的に搬送する第一搬送工程と、樹脂粉末が付着した状態のガラスチョップドストランドを、樹脂粉末の融点より高い温度で加熱処理しながら連続的に搬送する第二搬送工程と、を包含し、第二搬送工程における搬送速度は、第一搬送工程における搬送速度よりも大きく、且つ、両者の差を3〜8m/分に設定してある。これにより、ガラスチョップドストランドが第一搬送工程から第二搬送工程に移るときに、搬送方向に引っ張られて各ガラスチョップドストランドが適度に配向するため、搬送方向における引張強度が高まり、且つ、完成したガラスチョップドストランドマットの厚みが減縮し、重量が低減する。しかも、本発明者らによる鋭意研究の結果、第二搬送工程における搬送速度と、第一搬送工程における搬送速度との差を3〜8m/分に設定すれば、所望の形状へ成形加工することが可能な柔軟性を保持しながらも、様々な工程において破断する虞がないことが判明した。また、幅方向の引張強度と長手方向の引張強度との比(幅方向/長手方向)を、0.73以上1.00未満に設定すれば、ガラスチョップドストランドマットの幅方向及び長手方向の両方向において十分な柔軟性を確保できることも分かった。ここで、幅方向における引張強度を断裂等の異常が発生しない程度に設定すれば、長手方向も必然的に十分な引張強度が得られる。従って、本構成のガラスチョップドストランドマットの製造方法であれば、柔軟性、及び引張強度をバランスよく両立し、且つ軽量のガラスチョップドストランドマットを製造することが可能となる。
【0021】
上記課題を解決するための本発明に係る自動車成形天井材の特徴構成は、
ガラスチョップドストランドをシート状に形成したガラスチョップドストランドマットを、柔軟性を有する母材シートの両面又は片面に積層してなる自動車成形天井材であって、
前記ガラスチョップドストランドマットは、幅方向の引張強度と長手方向の引張強度との比(幅方向/長手方向)を、0.73以上1.00未満に設定してあることにある。
【0022】
本構成の自動車成形天井材では、ガラスチョップドストランドをシート状に形成したガラスチョップドストランドマットを、柔軟性を有する母材シートの両面又は片面に積層し、ガラスチョップドストランドマットは、幅方向の引張強度と長手方向の引張強度との比(幅方向/長手方向)を、0.73以上1.00未満に設定してある。このため、ガラスチョップドストランドマットの幅方向及び長手方向の両方向において十分な柔軟性を確保することが可能となり、例えば、複雑な形状の自動車成形天井材であっても、成形加工を良好に行うことができる。ここで、ガラスチョップドストランドマットの幅方向における引張強度を断裂等の異常が発生しない程度に設定すれば、長手方向も必然的に十分な引張強度が得られる。このような柔軟性、及び引張強度をバランスよく両立したガラスチョップドストランドマットを、柔軟性を有する母材シートの両面又は片面に積層することで、自動車成形天井材を補強しつつ、デザイン性に優れた仕上げとすることができる。
【0023】
上記課題を解決するための本発明に係る自動車成形天井材の製造方法の特徴構成は、
本発明に記載のガラスチョップドストランドマットを、柔軟性を有する母材シートの両面又は片面に積層する積層工程を包含することにある。
【0024】
本構成の自動車成形天井材の製造方法では、本発明のガラスチョップドストランドマットを、柔軟性を有する母材シートの両面又は片面に積層する積層工程を包含するため、例えば、複雑な形状の自動車成形天井材であっても、成形加工を良好に行うことができる。つまり、本発明の柔軟性、及び引張強度をバランスよく両立したガラスチョップドストランドマットを、柔軟性を有する母材シートの両面又は片面に積層することで、自動車成形天井材を補強しつつ、デザイン性に優れた仕上げとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明のガラスチョップドストランドマット及びその製造方法、並びに自動車成形天井材及びその製造方法を、
図1及び
図2に基づいて説明する。なお、本明細書では、説明の便宜上、ガラスチョップドストランドマット製造装置についても説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることを意図しない。
【0027】
<ガラスチョップドストランドマット製造装置>
図1は、本発明に係るガラスチョップドストランドマットを製造するためのガラスチョップドストランドマット製造装置100(以下、単に「製造装置」と省略する。)の全体構成を示した概略図である。
【0028】
製造装置100は、ガラスチョップドストランドからガラスチョップドストランドマットを製造するための装置であり、主に、チャンバー10、切断機20、分散コンベア30、結合剤散布機40、第一コンベア50、第二コンベア60、加熱炉70、冷圧ロール80、及び巻取機90等から構成される。
【0029】
分散コンベア30、第一コンベア50、及び第二コンベア60は、この順で上流側から下流側に連続的に設置される。各コンベアは、モーターDによって駆動され、制御手段としてのコンピューター11が、夫々の搬送速度(ベルトの移動速度)を制御している。ただし、作業員がマニュアル操作により、各コンベアの搬送速度を適宜調整するようにしても構わない。
【0030】
分散コンベア30は、ガラスチョップドストランドを分散配置するためのベルトを備え、ガラスチョップドストランドを収容するチャンバー10の下方に設置される。チャンバー10の天井部に設けられたガラス繊維投入口10aには、後述のガラス繊維Fを切断する切断機20が取り付けられている。切断機20は、カッターローラー21とゴムローラー22とからなり、回転しているカッターローラー21とゴムローラー22との間にガラス繊維Fが送り込まれ、連続的に切断されることで、ガラスチョップドストランドSが生成される。ガラスチョップドストランドSは、重力によりチャンバー10内を落下し、分散コンベア30のベルト上に略均一に分散配置される。
【0031】
第一コンベア50の上方には、結合剤散布機40が設置され、後述の結合剤Aを第一コンベア50のベルト上のガラスチョップドストランドSに向けて散布する。なお、ガラスチョップドストランドSに結合剤Aを付着し易くするため、第一コンベア50の上方又は下方であって、結合剤散布機40の上流側に、水噴霧機(図示せず)を設けることも有効である。
【0032】
第二コンベア60の途中には、ベルトを囲い込むように加熱炉70が設置され、第二コンベア60に載って加熱炉70内に進入する物体を加熱処理する。従って、第二コンベア60のベルトは、金属等の耐熱性材料で構成される。第二コンベア60の下流には冷圧ロール80が配置され、加熱処理された物体が冷却されながらプレスされる。
【0033】
〔ガラスチョップドストランドマットの製造方法〕
本実施形態に係るガラスチョップドストランドマットは、ガラスチョップドストランドSの準備工程、分散配置工程、第一搬送工程、第二搬送工程、冷圧工程、及び巻取工程によって製造される。これらの工程のうち、第一搬送工程、及び第二搬送工程は、本発明独特の特徴を有しており、本発明に必須の工程となる。以下、夫々の工程について説明する。
【0034】
<ガラスチョップドストランドの準備工程>
ガラスチョップドストランドマットを製造する前段階として、ガラスチョップドストランドSを準備する。製造ラインに設置されたガラス溶融炉(図示せず)で、ガラス原料を加熱して高温の溶融ガラスを得る。このガラス原料は、Eガラス材質のガラス繊維を製造出来るように配合してある。溶融ガラスを清澄化・均質化した後、フィーダー(図示せず)を経てブッシング(図示せず)に流入させる。ブッシングのベースプレートには複数のブッシングノズルが設けられ、当該ブッシングノズルから吐出した溶融ガラスが繊維状のガラスモノフィラメントとして紡糸される。ガラスモノフィラメントは冷却後、集束剤を塗布され、複数本を束ねてガラス繊維Fとした後、ガラスケーキ1として巻き取られる。ガラスケーキ1から引き出されたガラス繊維Fは、チャンバー10の天井部に設置された切断機20に送り込まれ、長さ約50mmに切断される。このように、本実施形態では、ガラス繊維Fを切断してガラスチョップドストランドSとする準備工程を実施する。なお、ガラスチョップドストランドSの準備は、ガラスチョップドストランドマットの製造直前に行う必要はなく、予め製造しておいたものを使用しても構わない。その場合、例えば、フレキシブルコンテナ等の容器に収納してあるガラスチョップドストランドSを、チャンバー10内に直接投入する。
【0035】
<分散配置工程>
ガラスチョップドストランドの準備工程で得られたガラスチョップドストランドSは、チャンバー10内において分散コンベア30のベルト上に落下する。ガラスチョップドストランドSが堆積するベルトの下方には、吸引ダクト31及びブロア32からなる吸引装置33が配置され、ベルト上は負圧状態に維持されている。これにより、ガラスチョップドストランドSは、分散コンベア30のベルト上に略均一に分散配置された状態でベルト面に吸引されて安定し、周囲に飛散することはない。分散配置工程における搬送速度は、69m/分〜74m/分が好ましい。この範囲内であれば、ガラスチョップドストランドSを適切な厚みに堆積することができるとともに、ガラスチョップドストランドマットの製造時間を大幅に短縮することが可能となる。分散コンベア30のベルト上のガラスチョップドストランドSは、シート状に堆積した状態で、下流の次工程に搬送される。
【0036】
<第一搬送工程>
シート状に堆積したガラスチョップドストランドSは、第一コンベア50に移動する。第一コンベア50の上方には、結合剤散布機40が設置されている。結合剤散布機40によって、ガラスチョップドストランドSの表面に結合剤(樹脂粉末)Aが散布される。ガラスチョップドストランドSに結合剤Aを添加することにより、後述の加熱処理を行うことでガラスチョップドストランドS同士が接着し、マットの形状を維持することができる。結合剤Aの種類としては、熱可塑性樹脂粉末が好適であり、例えば、粉末ポリエステル樹脂(花王株式会社製ニュートラック514等)を使用することができる。その他、使用可能な熱可塑性樹脂粉末として、ナイロン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等の樹脂粉末が挙げられる。
【0037】
結合剤散布機40の上流側に水噴霧機(図示せず)を設置することも有効である。水噴霧機は、第一コンベア50のベルト上のガラスチョップドストランドSに向けて水を噴霧する。ガラスチョップドストランドSが予め水で湿潤状態にされていると、水の表面張力の作用によりガラスチョップドストランドSの表面に結合剤Aが付着し易くなるため、ガラスチョップドストランドS同士の接着効果がより高まる。従って、目付(単位面積あたりガラスチョップドストランドSの質量)を、一般的な目付よりも小さい50〜150g/m
2の範囲にしても、完成品であるガラスチョップドストランドマットの柔軟性と引張強度とをバランスよく両立することが出来る。また、ガラスチョップドストランドマットを薄く且つ軽量に仕上げることが出来る。なお、好ましい目付は70〜140g/m
2であり、より好ましい目付は80〜120g/m
2である。
【0038】
ガラスチョップドストランドSが堆積するベルトの下方には、バイブレーター51が配置され、第一コンベア50のベルトを振動させる。これにより、ガラスチョップドストランドSの表面に散布された結合剤Aが、シート状に堆積したガラスチョップドストランドS同士の隙間に入り込む。その結果、結合剤Aが、ガラスチョップドストランドS全体に均一に付着する。
【0039】
第一コンベア50上のガラスチョップドストランドSは、結合剤Aが均一に付着した状態で、下流の第二コンベア60に搬送される。
【0040】
<第二搬送工程>
第二コンベア60には、ベルトを囲い込むように加熱炉70が設置されている。加熱炉70内の雰囲気温度はコンピューター11によって制御されており、散布する結合剤Aの種類に応じて、結合剤Aを構成する合成樹脂の融点以上の温度となるように適宜調整される。ただし、作業員がマニュアル操作により、加熱炉70の温度調整を行うようにすることも可能である。第二コンベア60のベルト上の結合剤Aが付着したガラスチョップドストランドSは、加熱炉70内を通過するときに加熱処理され、結合剤Aが軟化、溶融する。その結果、ガラスチョップドストランドS同士が接着された状態のガラスチョップドストランドS´(以下、加熱前のガラスチョップドストランドSと区別するため、加熱後のものをS´とする。)となる。第二コンベア60のベルトは、高温に晒されるため、金属等の耐熱性材料で構成される。
【0041】
本実施形態では、第二搬送工程における搬送速度は、第一搬送工程における搬送速度よりも大きく設定してある。これにより、ガラスチョップドストランドSが第一搬送工程(第一コンベア50)から第二搬送工程(第二コンベア60)に移るときに、搬送方向に引っ張られて各ガラスチョップドストランドSが適度に配向する。すなわち、分散コンベア30上ではガラスチョップドストランドSは略均一に分散配置され、その状態のまま第一コンベア50に搬送されるため、第一搬送工程の段階では夫々のガラスチョップドストランドSは基本的にはランダムな方向を向いている。次に、第二搬送工程に移行すると同時に、ガラスチョップドストランドSの搬送速度が増大する。このとき、ガラスチョップドストランドSには搬送速度差に起因する張力が発生する。これにより、夫々のガラスチョップドストランドSが搬送方向に引き伸ばされ、ガラスチョップドストランドSの繊維長が搬送方向に揃うようになる。その結果、搬送方向における引張強度が高まり、且つ、ガラスチョップドストランドSの堆積物の厚みが減縮し、単位面積あたりの重量が低減する。このことは、後の完成品であるガラスチョップドストランドマットの軽量化につながる。
【0042】
ここで、本発明者らによる鋭意研究の結果、第二搬送工程における搬送速度と、第一搬送工程における搬送速度との差を3〜8m/分に設定すれば、所望の形状へ成形加工することが容易な柔軟性を保持しながらも、様々な工程において破断する虞がないことが判明した。上記の搬送速度差が3m/分未満の場合、ガラスチョップドストランドSの配向性が小さいため、長手方向における十分な引張強度を得ることができず、且つ、完成品のガラスチョップドストランドマットの表面にシワが発生する虞がある。一方、搬送速度差が8m/分を超えると、完成品のガラスチョップドストランドマットの目付が減少する結果、厚みが低下してマット地に極薄部や隙間が発生し、引張強度が著しく低下する虞がある。
【0043】
また、本実施形態では、第二搬送速度を、75〜78m/分に設定することが好ましい。この搬送速度は、従来の製造条件と比べて、非常に高速である。通常、このような高速状態でガラスチョップドストランドSの搬送を行えば、搬送方向に過大な張力が発生して、ガラスチョップドストランドS同士が分離し易くなるが、本実施形態では、上記の通り、第二搬送工程における搬送速度と、第一搬送工程における搬送速度との差を3〜8m/分に設定してあるため、搬送中に夫々のガラスチョップドストランドSが分離して破断することはない。従って、完成品であるガラスチョップドストランドマットの製造時間を大幅に短縮することが出来る。
【0044】
<冷圧工程>
加熱処理されたガラスチョップドストランドS´をマット状態に加工するための冷圧工程は、第二コンベア60の下流に設置された冷圧ロール80において実行される。冷圧ロール80は、一対のロールで構成される。溶融状態の結合剤Aが付着したガラスチョップドストランドS´は、冷圧ロール80に搬送され、ニップ間を通過する。ガラスチョップドストランドS´は、冷圧ロール80を通過することで冷却、プレスされ、ガラスチョップドストランドS´同士が結合する。これにより、ガラスチョップドストランドマットMが生成する。冷圧ロール80は、空冷によりガラスチョップドストランドS´の冷却を行うものであるが、ロール内部に冷却水を通流させて強制冷却を行っても構わない。
【0045】
<巻取工程>
巻取工程は、冷圧ロール80の後段に設置された巻取機90において実行される。プレスされたガラスチョップドストランドマットMは、巻取機90の巻芯に巻回され、ロール状の製品とされる。
【0046】
〔ガラスチョップドストランドマット〕
本実施形態に係るガラスチョップドストランドマットMは、上述の製造方法における第一搬送工程及び第二搬送工程を経て完成するため、柔軟性、及び引張強度がバランスよく両立され、且つ軽量となっている。すなわち、このガラスチョップドストランドマットMは、幅方向の引張強度と長手方向の引張強度との比(幅方向/長手方向)が、0.73以上1.00未満に設定されたものとなる。上記引張強度比は、日本工業規格(JIS R3420(2006) 7.25)に従う試験体の幅が150mmの引張破断試験によって測定したガラスチョップドストランドマットMの幅方向及び長手方向の引張強度から求められる。JIS R3420(2006) 7.25は、以下のように規定されている。
【0047】
<JIS R3420(2006) 7.25>
7.25 マットの引張強さ マットの引張強さの試験方法について規定する。この方法は、チョップドストランドマットに適用するが、コンティニュアスフィラメントマットにも同様に適用できる。
7.25.1 原理 状態調節した規定の寸法の試験片を、記録計などの引張破断力を示す適切な装置によって引き伸ばす。破壊までいたった試験片を破断するのに要する最大力を、一般にニュートン(N)で表す。
7.25.2 試験用機械器具 試験用機械器具は、次のものを用いる。
a) 引張試験機 すべての試験機は、次のものから構成される。
1) 試料をつかむための適切な一対のクランプ。幅が160mmで最小深さが25mmのもの。クランプの面は平面で、かつ、平行であって、試験片の幅全体にわたって均一な圧力を与え、スリップを防止するようなものでなければならない。クランプはいかなるときにおいても、試験片に加えられた力の方向と一直線に並ぶことができるものでなければならない。クランプ間のはじめの距離は200mmとする。
2) 試験片に張力を加える手段
3) 試験片が支える力を連続的に指示又は記録する機構。この機構は、規定された試験速度で実用上慣性がなく、真の値の1%以内の精度で力を示すものでなければならない。推奨する機械は、引張速度定速形と定荷重定速形の2種類の試験機である。そのような試験機だけを利用するならば、それらは受渡当事者間の合意によって使用できるが、試験機が異なるタイプから得られた結果は、必ずしも比較はできない。
4) 示された力の最大誤差は、試験機が使用される範囲内のいかなる点においても、真の力の1%を超えてはならない。クランプ分離指示値の許容誤差は、2mmを超えてはならない。引張試験機の精度は、適切な特性をもった検定されたスプリングなどによって確かめなければならない。
b) 予備状態調節に適した雰囲気を作り出す装置
c) 標準試験室雰囲気を作り出し、保持する装置
d) 硬質型板
1) チョップドストランドマット用:幅150mm×長さ316mm又は幅300mm×長さ300mmのもの。
2) コンティニュアスストランドマット用:幅75mm×長さ316mmのもの。
e) 試料採取用具 ナイフ、はさみ、円形カッタなどからなる適切なもの。
f) ストップウォッチ
7.25.3 状態調節及び試験雰囲気
a) 状態調節 4.に規定する標準雰囲気で行う。(4.には、空気温度t:23℃、相対湿度U:50%が規定されている)
1) ロールは、16時間を標準とする。ただし、受渡当事者間の協定で、決めてもよい。
2) 試験片は、1時間とする。
b) 試験雰囲気 4.に規定する標準雰囲気で行う。
7.25.4 試験片 試験片を準備する前に、欠陥の認められないもので、できる限り損傷のないところが得られるように、マット両面から欠陥を除き、捨てる。この部分から少なくとも400mm幅の細片を切断する。この細片にしわが入らないよう最大限の注意を払って取り扱う。次に規定するカット細片についても同様の注意が必要である。型板を用いて、試料の主軸をマットの縦方向に平行にした幅150mm(又は75mm)×長さ316mmの必要な数の試験片を切り取る。試験片は平均に分布して、互いに等距離にあり、かつ、トリムしたマットの場合、縁から10mm以上離してマット316mm幅につき1試料を採取する。
− 最小5個の試料が使用される。
− 一つの細片から必要な数の試験片を採取することができない場合には、複数の細片からマット全体に試験片が平均的に分布されるように試験片を採取する。
− マットの単位面積当たりの質量が明確になっているマットから試料を切り取るのが便利である。
なお、製造仕様又は個別注文で他の方法による試験片の採取が要求されている場合には、その旨試験報告に記録する。
7.25.5 操作
a) クランプ間の距離を調節し、試験片の自由長さを200mmにする。
b) クランプ分離速度が200±10mm/min又は100±10mm/minになるように試験機の速度を調整する。
c) クランプが正しく一直線に並び、かつ、平行であることを確認する。試験片の縦軸が、引張テスタの張力軸に一致するように試験片をクランプに取り付ける。クランプを均一にしっかり締め、試験片が十分まっすぐになるように試験片に軽い張力を加える。引張テスタを始動させ、試験片を破断点まで伸ばす。試験片を破断するのに要した力をニュートン(N)で記録する。クランプの端から10mm以内で破断した試験片、又はクランプの中でスリップした試験片から得られた結果は除き、必要な数の試験片を試験する(7.25.4参照)。試験の割れは、明確な破断ではないので試験報告にその旨記録する。
7.25.6 結果の表し方 各々の試験片から得られた値をニュートン(N)で表し、マットの引張破断力として1Nに丸めて表す。標準偏差及び平均値の信頼水準を表す。
【0048】
本実施形態のガラスチョップドストランドマットMは、引張強度比が適度な範囲(0.73以上1.00未満)となっているので、所望の形状へ成形加工することを可能にするのに十分な柔軟性を確保することができる。幅方向の引張強度と長手方向の引張強度との比(幅方向/長手方向)が0.73未満の場合、長手方向の引張強度が過大になる結果、幅方向に対して長手方向の柔軟性がかなり低下することになる。その結果、後述の自動車成形天井材に成形加工するときに、成形不良を生じる可能性が高まる。一方、製造装置100を用いてガラスチョップドストランドマットMの連続的な製造を実施するためには、第二搬送工程における搬送速度を第一搬送工程における搬送速度よりも常に大きくしておく必要がある。従って、製造装置100を使用する限り、長手方向の引張強度が幅方向の引張強度よりも小さくなることは有り得ず、よって幅方向の引張強度と長手方向の引張強度との比(幅方向/長手方向)が1.00を超えることはない。
【0049】
また、本実施形態のガラスチョップドストランドマットMは、幅方向の引張強度を、JIS R3420(2006) 7.25に従う試験体の幅が150mmの引張破断試験において、80N以上に設定してある。このため、製造時及び成形加工時において、ガラスチョップドストランドマットMの幅方向に断裂等の異常は発生せず、また、引張強度比が適度な範囲(0.73以上1.00未満)に設定されていることから、長手方向も必然的に十分な引張強度が得られる。その結果、柔軟性、及び引張強度をバランスよく両立しつつ、目付低減による軽量化も実現することができる。なお、幅方向の引張強度が80N未満になると、製造時及び成形加工時に必要な引張強度が不足し、破断する可能性が高まる。
【0050】
〔自動車成形天井材の製造方法〕
図2は、本発明に係るガラスチョップドストランドマットMを用いて製作した自動車成形天井材200の部分断面図である。
【0051】
自動車成形天井材200の製造方法は、次の通りである。上述のロール状に巻回したガラスチョップドストランドマットMを一旦引き出し、表面に接着剤を塗布する。接着剤としては、例えば、イソシアネート系接着剤が使用される。接着剤を塗布したガラスチョップドストランドマットMを、再度巻き直す。自動車成形天井材200は、一般に、表皮材91、ガラスチョップドストランドマットM、母材となる発泡ウレタンシート92、及び裏皮材93から構成される。夫々の材料はロール状に巻回されており、成形加工の前段で引き出される。成形加工するにあたり、表皮材91(自動車の室内側)、第一のガラスチョップドストランドマットM、発泡ウレタンシート92、第二のガラスチョップドストランドマットM、及び裏皮材93(自動車のボディ側)をこの順に下から積層する。なお、ガラスチョップドストランドマットMは、発泡ウレタンシート92の片面側のみに積層しても構わない。その後、積層物を開放端縁に超硬刃が取り付けられたプレス型に投入する。プレス型は、所望の自動車成形天井材200の形状を有する。プレス加工後、端部をトリミングして整えることで、自動車成形天井材200が完成する。
【0052】
このように、本実施形態における自動車成形天井材200の製造方法では、上述のガラスチョップドストランドマットMを、母材シートである発泡ウレタンシート92に積層する積層工程を包含しているため、例えば、複雑な形状の自動車成形天井材であっても、成形加工を良好に行うことができる。また、自動車成形天井材200の製造工程において、ガラスチョップドストランドマットMを一旦引き出す際に引っ張られて幅方向に破断することもない。このように、柔軟性、及び引張強度をバランスよく両立し、且つ軽量のガラスチョップドストランドマットMを、柔軟性を有する発泡ウレタンシート92の両面に積層することで、自動車成形天井材200を補強しつつ、デザイン性に優れた仕上げとすることができる。
【0053】
〔自動車成形天井材〕
本実施形態に係る自動車成形天井材200は、
図2に示すように、表皮材91(自動車の室内側)、第一のガラスチョップドストランドマットM、発泡ウレタンシート92、第二のガラスチョップドストランドマットM、及び裏皮材93(自動車のボディ側)から構成される。自動車成形天井材200に包含されているガラスチョップドストランドマットMは、幅方向の引張強度と長手方向の引張強度との比(幅方向/長手方向)を、0.73以上1.00未満に設定してあり、柔軟性、及び引張強度がバランスよく両立され、且つ軽量となっている。このガラスチョップドストランドマットMを、柔軟性を有する発泡ウレタンシート92の両面に積層することで、自動車成形天井材200にプレス加工する際に、ヒケ等の成形不良は発生しない。従って、本実施形態に係る自動車成形天井材200は、当該ガラスチョップドストランドマットMを使用することで、高強度でありながら、軽量化を実現できる。また、例えば、複雑な形状の自動車成形天井材であっても、成形加工を良好に行うことができる結果、優れたデザイン性を獲得することが可能となる。
【実施例】
【0054】
本発明のガラスチョップドストランドマットに関する実施例について説明する。
【0055】
実施例では、第一搬送工程における第一コンベアの搬送速度が夫々異なり、第二搬送工程における第二コンベアの搬送速度が同一である四通りの試験条件(実施例1〜4)についてガラスチョップドストランドマットの製造試験を行い、各実施例で得られたガラスチョップドストランドマットの引張強度を計測した。なお、単位面積当たりのガラスチョップドストランドの質量である目付については、実施例1、実施例2、及び実施例4では107g/m
2とし、実施例3では90g/m
2とした。
実施例1〜4のガラスチョップドストランドマットは、
図1の製造装置100と同タイプの製造装置を使用し、上記の実施形態において記載した内容と同一の工程によって製造した。目付が同一である実施例1、実施例2、及び実施例4においては、単位時間あたりの切断機20によるガラス繊維Fの切断量(ガラスチョップドストランドSの生産量)、及び単位時間あたりの結合剤散布機40による結合剤Aの散布量は同一である。
実施例1〜4の製造条件、及び試験結果を以下の表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
全ての実施例において、目付は50〜150g/m
2の範囲内であった。第一搬送工程における第一コンベアの搬送速度は、実施例1では69.0m/分、実施例2では71.3m/分、実施例3では71.3m/分、実施例4では73.5m/分に設定し、第二搬送工程における第二コンベアの搬送速度は、実施例1〜4において同一の76.6m/分に設定した。全ての実施例において、第二搬送工程における搬送速度は、第一搬送工程における搬送速度よりも大きく、且つ、両者の差(以下、速度差とする)は、実施例1では7.6m/分、実施例2では5.3m/分、実施例3では5.3m/分、実施例4では3.1m/分であり、全ての実施例において3〜8m/分の範囲内であった。引張強度は、JIS R3420(2006) 7.25に従う試験体の幅が150mmの引張破断試験により計測し、n=40の試験結果の平均値を求めた。
【0058】
実施例より、以下の知見が得られた。
(1)本実施例に係るガラスチョップドストランドマットは、幅方向の引張強度と長手方向の引張強度との比(幅方向/長手方向)が実施例1では0.74、実施例2では0.78、実施例3では0.73、実施例4では0.90であり、全ての実施例において0.73〜1.00の範囲内であった。
(2)本実施例に係るガラスチョップドストランドマットは、成形加工をする場合に破断や成形不良が発生しない程度の、十分な引張強度を有していた。
(3)目付が同一である場合、速度差が大きい程、長手方向における引張強度が大きくなった。
(4)目付が同一である場合、速度差が大きい程、幅方向の引張強度と長手方向の引張強度との比(幅方向/長手方向)が小さくなった。
(5)目付が同一である場合、幅方向における引張強度については、速度差による明確な影響は確認されなかった。
(6)目付が異なる場合、速度差の大小に関わらず目付が大きい方が、幅方向及び長手方向における引張強度、及び引張強度比(幅方向/長手方向)が大きくなった。
【0059】
比較例として、幅方向の引張強度と長手方向の引張強度との比(幅方向/長手方向)が0.74未満のガラスチョップドストランドマットを製造するために、速度差が本発明の上限値を上回る12.0m/分の条件にて、ガラスチョップドストランドマットを製造したところ、目付が設定値より大幅に減少し、所々に隙間が見られた。従って、製品としての歩留まりが低下し、製造コストが上昇する要因となった。また、幅方向の引張強度と長手方向の引張強度との比(幅方向/長手方向)が1.00のガラスチョップドストランドマットを製造するために、速度差が本発明の下限値を下回る0.0m/分の条件(すなわち、第一搬送工程における第一コンベアの搬送速度と、第二搬送工程における第二コンベアの搬送速度とを同一にした条件)にて、ガラスチョップドストランドマットを製造したところ、マット地にシワが目立ち、引張強度も十分でなかった。従って、引張強度と柔軟性とのバランスが悪い商品となった。
【0060】
次に、実施例1〜4のガラスチョップドストランドマットを発泡ウレタンシートの両面に積層して、自動車成形天井材を製造した。本実施例に係るガラスチョップドストランドマットは、上述の自動車成形天井材の製造工程において、ガラスチョップドストランドマットを一旦引き出す際に引っ張られて幅方向に破断するようなことはなく、円滑に引き出すことが出来た。また、自動車成形天井材を成形加工する際に、当該自動車成形天井材の表面のヒケ等の成形不良が発生することもなかった。
【0061】
以上より、本発明に係るガラスチョップドストランドマットは、柔軟性、及び引張強度をバランスよく両立することが判明した。本発明に係るガラスチョップドストランドマットを使用することで、近年のデザイン性に富み軽量化が進んだ自動車成形天井材を製造することが可能であることが分かった。また、本発明のガラスチョップドストランドマットを用いて自動車成形天井材を製造した場合、歩留まりが良好であり、生産効率に優れているため、製造コストの低下につながる。