特許第6457856号(P6457856)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6457856
(24)【登録日】2018年12月28日
(45)【発行日】2019年1月23日
(54)【発明の名称】連続波形状製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 13/02 20060101AFI20190110BHJP
【FI】
   B21D13/02
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-62662(P2015-62662)
(22)【出願日】2015年3月25日
(65)【公開番号】特開2016-182606(P2016-182606A)
(43)【公開日】2016年10月20日
【審査請求日】2018年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】714003416
【氏名又は名称】日新製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100182925
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 明弘
(72)【発明者】
【氏名】野口 恵太
(72)【発明者】
【氏名】須釜 淳史
【審査官】 石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−231075(JP,A)
【文献】 特開2015−51458(JP,A)
【文献】 特開2011−245534(JP,A)
【文献】 特開2014−213345(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/40926(US,A1)
【文献】 特開2001−137960(JP,A)
【文献】 特開2005−78981(JP,A)
【文献】 韓国登録特許第10−882648(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲線状の山と谷を含む連続波形状製品を金型で成形する製造方法であって、
前記金型は、凸部及び凹部を有する1対の型からなり、前記凸部又は前記凹部の曲線部における中心角の半分の角度をθとし、成形材料と前記金型とが、前記凸部又は前記凹部における前記曲線部の一端から前記凸部の頂部又は前記凹部の底部に向かって角度θの範囲で接触するとき、前記θと前記θとの比であるθ/θが0.4を超え0.9以下であり、
前記成形材料は、前記金型の前記凸部及び前記凹部と前記θの範囲で接触して成形される、連続波形状製品の製造方法。
【請求項2】
前記成形材料の板厚をt、前記凸部における前記頂部の曲率半径をR、前記凹部における前記底部の曲率半径をRとしたとき、(R−R)/tが1未満である、請求項1に記載の連続波形状製品の製造方法。
【請求項3】
前記金型で成形する際の荷重は、前記金型で成形する際の自由曲げ荷重Pの10倍を超える範囲であり、
前記成形によって得られる前記連続波形状製品における前記山と谷の曲率半径をRとし、前記金型における前記凸部及び前記凹部の曲率半径をRとしたとき、R/Rが4以下である、請求項1又は2に記載の連続波形状製品の製造方法。
【請求項4】
前記連続波形状製品は、曲線状の山と谷からなる連続波形を有する、請求項1から3のいずれかに記載の連続波形状製品の製造方法。
【請求項5】
前記連続波形状製品は、曲線状及び直辺状の山と谷からなる連続波形を有する、請求項1から3のいずれかに記載の連続波形状製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続的な波形状を有する連続波形状製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山形状及び谷形状が交互に連続的に並んだ連続波形状製品は、自動車、プラント又は家電等において、遮蔽板、遮熱板又はパッキン等として利用されており、今後も利用の拡大が予想される。連続波形状部品の板材としては、鋼、アルミニウム、銅などの金属製の板材が使用されている。特に、耐久性、耐食性及び耐熱性等の点で、ステンレス鋼(SUS)は好適な板材である。また、省スペース及び軽量化のため、薄い板厚が望まれている。
【0003】
ところで、高い強度を有する金属材料からなる薄板材を曲げ加工すると、加工後のスプリングバック量が大きく、所望の形状と寸法の製品を得られない場合がある。そのため、製造工程の生産性や製品の品質の面で課題を有している。
【0004】
スプリングバックを回避して凹凸形状を成形する方法には、例えば、山波を成形するポンチとダイの形状を、山波成形後のスプリングバックをあらかじめ是正した所定の山形状に形成した成形装置が提案されている(特許文献1)。
【0005】
また、リブ山と溝とを交互に形成された製品を成形するに際して、プレス型のパンチとダイスとの間のクリアランスを、塑性加工前の板厚より大きくして、リブ山斜面部が拘束されない状態でプレス成形することが提案されている(特許文献2)。
【0006】
一般に、連続波形状部品を成形する場合は、図9に示すような成形装置を用いて、板材に波付け加工が施される。波付け加工は、複数の凹凸部を有する金型により、被加工材の複数箇所で曲げ加工を同時に施す加工形態である。曲げ加工時に被加工材が金型に拘束される状態は、加工部位によって異なるため、各加工部位のスプリングバック量にも差異を生じ、周期性の良好な波形状を得ることが難しい。加工品の曲げ部では、外表面側が引張応力状態となり、内表面側が圧縮応力状態となる傾向にあることから、曲げ加工のスプリングバックは、板厚方向の不均一な応力状態に起因すると考えられている。
【0007】
そこで、スプリングバックの対策としては、曲げ方向、板厚方向又は板幅方向に応力を付与して応力状態を変える方法がある。具体的には、材料の曲げ部を金型で強く圧縮するというコイニング曲げによる方法が提案されている。このコイニング曲げは、曲げ部において、曲げ方向の引張応力及び板厚方向の圧縮応力を付与し、歪硬化により応力状態を変化させて、スプリングバックを低減させる効果がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−137960号公報
【特許文献2】特開2005−078981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図9は、一般的な波付け加工法において、ポンチ20及びダイ21からなる金型で板材を成形する加工形態を示した模式図である。図9の(a)は、板材が凹凸状の曲線部が連続する形状となるようにプレス成形する例であり、図9の(b)は、各曲線部の間に直線状の直辺部が配置された形状となるようにプレス成形する例である。金型はいずれも、板材の加工形状に応じた凹凸形状を備えている。これらのプレス成形法において、スプリングバックを抑制するため、上述したコイニング曲げによる手法を適用することができる。その場合、金型を板材に強く押し付けるために、板材に大きな荷重を付与する必要がある。しかし、図9の(a)に示す形状の成形材料は、成形途中の段階で曲線部に十分な引張歪が付与された後も、曲線部の全面で金型と接触している。さらに、図9の(b)に示す直辺部を含む形状の成形材料では、成形中は、曲線部及び直辺部の両方で金型に接触している。いずれの場合においても、コイニング曲げ手法で強く押圧しても十分な面圧を付与することができない。そのため、スプリングバックを抑制して形状凍結性が良好な形状を得るには、大きな荷重で押圧する必要がある。従来方法は、このような高負荷荷重に適した金型を準備し、成形装置を高荷重で動作させるなど、コストが増大し、作業が複雑になるという課題があり、また、成形に時間を要することから、生産性の向上が難しいという課題があった。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、高い強度を有する薄板状の材料に対し、スプリングバックの少ない形状凍結性に優れ、低い荷重で連続波形状を成形することができる製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、特定の形状の曲げ金型を用いることで、上記の課題を解決できることを見出し、本発明の完成に至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0012】
本発明は、曲線状の山と谷を含む連続波形状製品を金型で成形する製造方法であって、前記金型は、凸部及び凹部を有する1対の型からなり、前記凸部又は前記凹部の曲線部における中心角の半分の角度をθとし、成形材料と前記金型とが、前記凸部又は前記凹部における前記曲線部の一端から前記凸部の頂部又は前記凹部の底部に向かって角度θの範囲で接触するとき、前記θと前記θとの比であるθ/θが0.4を超え0.9以下であり、
前記成形材料は、前記金型の前記凸部及び前記凹部と前記θの範囲で接触して成形される、連続波形状製品の製造方法である。
【0013】
また、本発明は、前記成形材料の板厚をt、前記凸部における前記頂部の曲率半径をR、前記凹部における前記底部の曲率半径をRとしたとき、(R−R)/tが1未満である、前記の連続波形状製品の製造方法である。
【0014】
また、本発明は、前記金型で成形する際の荷重は、前記金型で成形する際の自由曲げ荷重Pの10倍を超える範囲であり、前記成形によって得られる前記連続波形状製品における前記山と谷の曲率半径をRとし、前記金型における前記凸部及び前記凹部の曲率半径をRとしたとき、R/Rが4以下である、前記の連続波形状製品の製造方法である。
【0015】
また、本発明は、前記連続波形状製品が曲線状の山と谷からなる連続波形を有する、前記の連続波形状製品の製造方法である。
【0016】
また、本発明は、前記連続波形状製品が曲線状及び直辺状の山と谷からなる連続波形を有する、前記の連続波形状製品の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、高い強度を有する薄板状の材料に対し、低い荷重で連続波形状を形状凍結性に優れて成形することができる。そのため、良好な形状精度により連続波形状製品を製造できる。また、金型への負荷が軽減されて金型寿命が長くなり、成形装置を高い負荷で動作させる必要がないので、コストが低減し、成形作業が容易となり、生産性の向上にも寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る製造方法で得られる連続波形状製品の一例を示す図である。
図2】本発明に係る連続波形状製品の他の一例を示す図である。
図3】本発明に係る製造方法で使用する金型と成形材料との関係を説明するための模式図である。
図4】金型の曲率半径及び成形材料の板厚と、曲げ先端部での成形材料の金型への接触との関係を示す模式図である。
図5】自由曲げを説明するための模式図である
図6】曲げ加工の荷重−プレスストローク曲線から自由曲げ荷重を求める手法を示す図である。
図7】金属材料について式(1)の定数Cと2L/tとの関係を示した図である。
図8】実施例4で使用したステンレス鋼板の荷重−ストローク曲線を示す図である。
図9】一般的な波付け加工法において金型で板材を成形する形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0020】
本発明に係る製造方法で得られる連続波形状製品10は、図1に示すような曲線状の山と谷からなる連続波形状を有するもの、図2に示すような曲線状及び直辺状の山と谷からなる連続波形状を有するものがある。隣接する山と山との間隔、又は隣接する谷と谷との間隔を1ピッチという。図1の場合、曲線部11’が連続する形状であるが、曲線の変曲点に相当する位置で山から谷へ移行し、谷から山へ移行することから、山から谷へ移行する変曲点同士の間隔が1ピッチに相当する。また、図2の場合は、曲線状の曲線部11’と直線状の直辺部12’とが連続する形状であるが、図2に示すように、曲線部11’の一端を起点として、隣接する曲線部11’の一端との間隔が1ピッチに相当する。
【0021】
[金型の形状]
金型の凸部及び凹部は、上記のような連続波形状に対応する凹凸形状で構成されている。金型における凸部及び凹部についても、1ピッチは、図1図2と同様の間隔で特定することができる。例えば、図1の連続波形状製品を成形する金型は、曲線部11を有する凹部及び凸からなり、1ピッチは、山から谷へ移行する曲線部11の一端と隣接する曲線部11の一端との間隔に相当する。図2の連続波形状製品を成形する金型は、曲線部11及び直辺部12を有する凸部及び凹部からなり、1ピッチは、同様に、山から谷へ移行する曲線部11の一端と隣接する山から谷へ移行する曲線部11の一端との間隔に相当する。
【0022】
図3は、本発明に係る製造方法で使用する金型1と成形材料4との関係を説明するための模式図である。金型1は、凸部2又は凹部3を有する1対の型からなり、凸部2又は凹部3の曲線部11における中心角5の半分の角度をθとし、成形材料4と金型1とが、凸部2又は凹部3における曲線部の一端から凸部2の頂部又は凹部3の底部に向かって角度θの範囲で接触するとき、前記θと前記θとの比であるθ/θは、θ/θが0.4を超え0.9以下であり、前記成形材料は、前記金型の前記凸部及び前記凹部と前記θの範囲で接触して成形される。なお、本発明は、この範囲で接触しても成形材料が加圧成形されるに至らない場合は含まないものとする。
【0023】
波付き加工には、例えば図9に示すように、凹凸部が交互に連続した形状の金型が用いられる。金型の凸部又は凹部は、その頂部又は底部を中心として所定の曲率半径で湾曲する曲線部(曲げ部)を有している。本明細書では、凸部又は凹部の各曲線部における一端から他端までを占める角度を「中心角」という。すなわち、上記の中心角5は、凸部2又は凹部3の曲線部11において両端に広がる角度に相当する。凸部2の頂部又は凸部3の底部の中央を通る中心線6の両側に広がる角度に相当するとしてもよい。上記のθは、当該中心角5の半分の角度に該当する。
上記のθは、曲線部11の一端から曲線部の頂部又は底部に向かう特定の角度範囲に相当し、その範囲では成形材料4と金型1とが接触して成形される。この曲線部11の一端とは、上記中心角を構成する曲線部における上記の一端あるいは他端の少なくとも一方を含む部位を意味する。
具体的な金型形状としては、例えば、図3に示すように、凸部の頂部又は凹部の底部付近が平坦状に形成された構造を備えたものがある。また、図4に示すように、凸部及び凹部の曲線部における曲率半径を変えたものがある。
【0024】
θ/θの下限は、0.4を超えていればよく、0.5以上であることが好ましく、0.7以上であることがより好ましく、0.8以上であることがさらに好ましい。なお、成形材料と金型が凸部又は凹部の曲線部における一端で接していなくて、凸部又は凹部の頂部又は底部付近だけで接するときは、本発明におけるθは零とする。そのため、θ/θも零になる。
連続波形状製品における山と谷の曲率半径をRとし、金型1における凸部及び凹部の曲率半径をRとしたとき、スプリングバック量(弾性回復量)は、R/Rで示すことができる。θ/θが小さすぎると、金型の接触範囲が小さくて滑らかな曲率形状を得ることができない。また、当該R/Rが大きくなり、成形材料に対し、所望の曲率形状となるように形成できず、形状不良になる可能性があるため、好ましくない。そして、弾性回復量を低減させてスプリングバックを抑制するには、高い荷重を加える必要がある。そのため、θ/θは、0.4超が好ましい。
【0025】
θ/θの上限は、0.9以下であれば特に限定されるものではない。θ/θが大きすぎると、形状凍結性に有効でない曲げ部の先端部にも荷重が付与され、成形材料は、金型の凸部又は凹部と接触する割合が増加し、成形材料に加わる面圧が相対的に低下する。その結果、曲げ部全体でスプリングバックを抑制して所望の形状を得るために荷重を増加させなければならない。また、成形荷重の増加は、金型への負荷を高めるので、金型の寿命に影響する。そのため、θ/θは、0.9以下が好ましい。
【0026】
成形材料は、原板に曲げ加工が施されて、曲線部及び/又は直辺部を含む曲げ部に成形される。本発明は、特定の金型形状を用いることにより、当該曲げ部における先端部の周囲領域に対して曲げ方向の引張応力及び板厚方向の圧縮応力が付与される。その結果、低荷重であっても曲げ部全体で適度なスプリングバック抑制作用が得られ、形状凍結性に優れる成形方法を提供することができる。当該曲げ部の先端部まで成形材料を金型と接触させて加圧することを必要としない。本発明に係る金型は、金型による成形材料の圧縮箇所を制御し、必要とされる成形荷重を低減できる点で、従来の金型形状と異なるといえる。
【0027】
[成形材料]
本発明に係る成形材料の種類は、特に限定されない。例えば、鋼、ステンレス(SUS)鋼の板材に適用できる。そのほかのFe合金、Cu、Cu合金、Al、Al合金等にも適用できる。
【0028】
成形材料の板厚tは、特に限定されるものではない。金型の凸部における頂部の曲率半径をR、金型の凹部における底部の曲率半径をRとするとき、(R−R)/tが1未満とすることが好ましく、すなわち、板厚tが(R−R)よりも大きくなるように板厚tを定めることが好ましい。
【0029】
図4は、成形材料4における曲げ部の先端部(以下、「曲げ先端部」と略称することもある。)と金型1との加工形態に関して、(R−R)/tの数値により接触状態を区分して示した模式図である。成形材料4の曲げ先端部とその周囲領域を拡大して示している。金型1の凸部2及び凹部3の形状に応じて、成形材料4は、金型1と接触する部位が変化し、異なる接触状態の加工形態で成形加工が行われる。
【0030】
例えば、図4の(b)は、成形材料の曲げ部全面が凸型と凹型により加圧される従来の加工形態である。凸型2と凹型3は、各曲線部が略同心円状に配置され、成形材料4が凸型2と凹型4の間で挟持されるので、凹部の曲率半径Rは、凸部の曲率半径Rよりも成形材料の板厚tの分だけ大きい。凹型と凸型による曲げ加工においては、R=R+tの関係が成り立つから、図4(b)は、板厚tが(R−R)に等しく、(R−R)/tが1である加工形態であり、この場合は、成形材料の全面が金型に接触する態様に相当する。
このように成形材料と金型との接触状態は、(R−R)/tの範囲によって区分できる。成形材料の一部が金型に接触するときは、(R−R)/tを1以外となるような形状の金型を使用すればよい。
【0031】
図4の(a)に示すように、板厚tが(R−R)よりも大きく、(R−R)/tが1未満である接触状態での加工形態で成形される場合、成形材料4は、曲げ先端部の周囲領域だけで金型1の凸部2又は凹部3と接触する状態にあり、曲げ先端部が金型と接触して加圧されることを確実に回避できる。そのため、成形材料4に付与される荷重を小さく抑えることができる。
【0032】
それに対し、図4の(b)に示すように、板厚tが(R−R)に等しく、(R−R)/tが1である接触形態では、成形途中の段階で、曲げ先端部に十分な引張歪が付与されるが、曲げ先端部の周囲領域を含む成形材料4の全面にわたって、金型1と成形材料4とが接触状態にある。そのため、成形材料4に付与される面圧が低下する。スプリングバックを抑制して所望の形状となるよう成形するには、成形材料4に付与される荷重を高くする必要があり、好ましくない。
【0033】
また、図4の(c)に示すように、板厚tが(R−R)よりも小さく、(R−R)/tが1を超える接触状態での加工形態で成形される場合、成形材料4は、一部の面で金型に接触するものの、曲げ先端部だけが金型1の凸部2又は凹部3と接触状態にあり、周囲領域は金型の加圧力が及んでいない。そのため、周囲領域には、曲げ方向の引張応力及び板厚方向の圧縮応力のいずれも十分に付与されず、曲げ部全体のスプリングバックを抑制できないので、好ましくない。
【0034】
本明細書において、R、Rは、輪郭形状測定機(Mitsutoyo製 CONTRACER CV−2000)によって、曲線部に内接する最大の円の半径を測定することによって得られる値である。
【0035】
[弾性回復量]
成形後のスプリングバックに関する形状凍結性については、弾性回復量R/Rを指標として評価することができる。弾性回復量R/Rが小さいほど、スプリングバックによる形状不良が抑制され、形状凍結性に優れることを示す。具体的には、弾性回復量R/Rは、4以下が好ましく、より好ましくは3.7以下であり、3.4以下がさらに好ましい。
【0036】
本明細書において、R、Rは、輪郭形状測定機(Mitsutoyo製 CONTRACER CV−2000)によって、曲線部に内接する最大の円の半径を測定することによって得られる値である。
【0037】
[成形加工の荷重]
成形加工する際の荷重は、特に限定されるものではない。成形中に、金型及び成形材料に付与される負荷を軽減する観点からは、弾性回復量を抑制して所定の連続波形状を成形できる範囲で、成形加工の荷重は小さくすることが好ましい。
【0038】
必要な荷重を設定する手法としては、成形材料の自由曲げ荷重を求め、この自由曲げ荷重に基づいて成形加工を行う荷重を定めることができる。「自由曲げ」は、一般に、成形材と金型とが接触する部位において、支点、力点及び作用点の3要素からなる曲げが実現される加工形態をいう。例えば、図5に示すように、ダイ21の上に載置した板材22をポンチ20で加圧し、V字状に曲げる加工形態である。板材22において、ポンチ20と接する部位が支点に相当し、支点の裏側が作用点に相当し、ダイ21と接する部位が力点に相当する。U字状やL字状の曲げ加工においても、自由曲げの加工形態が得られる。この自由曲げに要する加圧力(荷重)が自由曲げ荷重であり、本明細書においては、自由曲げ荷重における最大荷重を自由曲げ荷重Pということにする。
【0039】
この自由曲げ荷重Pは、図5に示す曲げ試験で得られる荷重−プレスストローク曲線から求めることができる。図6は、縦軸を荷重(kN)、横軸をプレスストローク(mm)とする荷重−プレスストローク曲線の一例を示した図である。加圧スライドを降下するにつれて、負荷荷重が増加する変化を示している。自由曲げによる加工段階では、荷重の増加にともない、ほぼ直線的な一次曲線に沿って曲げ加工が進行する。荷重がさらに増加し、成形材料がパンチとダイの間で圧縮されるコイニング曲げの加工段階に入ると、荷重−プレスストローク曲線が急激に立ち上がる二次曲線に移行する。そこで、自由曲げ荷重Pは、荷重−プレスストローク曲線における一次曲線と二次曲線の境界位置に相当する荷重として定義することができる。図6の例では、自由曲げ荷重Pは、約2kNであった。
【0040】
本発明において成形加工の荷重は、良好な形状凍結性を維持しつつ所望の連続波形状を成形する点で、自由曲げ荷重Pの10倍を超える範囲で選択することが好ましく、より好ましくは17倍以上である。10倍を下回ると、実用上必要な形状や公差が得られないので、好ましくない。本発明は、従来の成形加工法と比べて加工に要する荷重を低減することができるので、金型及び成形材料に与える負荷を大幅に軽減できる。
【0041】
また、自由曲げ荷重P(単位:kN)は、以下のRomanowskiの式で近似的に算出できることが知られている。
P=C×σ×w×t ・・・式(1)
【0042】
式(1)において、Cは加工形態に依存する定数、σは成形材料の引張強さ(単位:N/mm)、wは成形材料の幅(単位:mm)、tは成形材料の厚さ(単位:mm)である。
【0043】
図7は、定数Cと2L/tとの関係を示したものである。2L(単位:mm)は、試験機のダイ肩幅を示す。炭素鋼、アルミニウム、黄銅などの金属材料からなる、軟質材、硬質材及び炭素鋼(0.3〜0.4%C)の3グループについて、定数Cと2L/tとの関係が、曲線で示されている。3つの曲線は、ほぼ同じ傾向を示していることから、その加工形態(2L/t)が同じであれば、式(1)の定数Cは、材質の種類に依らず、ほぼ一定であり、曲げ部の大きさ(2L)及び板材の厚さ(t)によって決まることが分かる。
【0044】
そこで、曲げ加工用の金型と板厚tの成形材料を用いて荷重−プレスストローク曲線を作成し、当該成形材料の自由曲げ荷重Pを求める。P、σ、w、tの数値を用いて、式(1)から定数Cを算出する。次に、異なる組成の成形材料を用いて、同じ金型で曲げ加工を行う場合は、荷重−プレスストローク曲線を作成する代わりに、式(1)から自由曲げ荷重Pを簡便に求めることができる。
【0045】
本発明に係る製造方法で得られる連続波形状製品10は、図1に示すように、曲線状の山と谷からなる連続波形状を有していてもよい。図2に示すように、曲線状及び直辺状の山と谷からなる連続波形状を有していてもよい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるもので
はない。
【0047】
<実施例1>
市販のステンレス鋼板に対し、凸部又は凹部を有する1対の型からなる金型を用いて70kN又は100kNの荷重を付与して、曲線状の山と谷を含む連続波形状を成形する曲げ加工を行った。
【0048】
使用したステンレス鋼板の組成は、C:0.07質量%,Si:0.60質量%,Mn:0.87質量%,P:0.031質量%,S:0.005質量%,Ni:8.04質量%,Cr:18.26質量%、残部がFe及び不可避的不純物である。板厚は0.4mmである。
【0049】
金型の凸部又は凹部の曲線部における中心角の半分の角度をθ、ステンレス鋼板と金型とが凸部又は凹部における曲線部の一端から凸部の頂部又は凹部の底部に向かって接触する範囲をθとするとき、θ/θを5種類の条件で得られるように金型を用意して、曲げ加工を行った。θ/θは、0.4,0.5,0.7,0.9及び1.0で加工された試験材について、その弾性回復量R/Rを測定し、形状凍結性の良否に関して評価した。弾性回復量R/Rが3.4以下の場合を「優良(◎)」、3.4を超えて3.7の場合を「良好(○)」、3.7を超え4.0以下の場合を「普通(△)」、4.0を超える場合を「不良(×)」と判定した。その試験結果を表1に示す。
【表1】
【0050】
θ/θが0.4を超え0.9以下の範囲にすることで、少ない荷重であっても形状凍結性に優れた連続波形状製品を得られることが分かる(実施例1−1、実施例1−2、実施例1−3)。
【0051】
一方、θ/θが小さすぎると、弾性回復量R/Rが大きいことから、ステンレス鋼板に対し、所望の曲げ部を形成できず、形状凍結性に劣る(比較例1−1、比較例1−2)。また、θ/θが大きすぎると、所望の形状を得るには、ステンレス鋼板に対して高い荷重を付与することを要する(比較例1−3)。さらに、金型への負荷が高まるので、金型の変形や破損を招く可能性があり、金型の寿命に影響する。そのため、実施例に比べて、コストや生産性の点で好ましくない。
【0052】
<実施例2>
荷重を64kN又は90kNにしたこと以外は、実施例1と同様の条件で、曲げ加工を行った。その試験結果を表2に示す。
【表2】
【0053】
荷重を変えた場合であっても、実施例1と同様の結果が得られた。θ/θを、0.4を超え0.9以下の範囲にすることで、少ない荷重であっても形状凍結性に優れた連続波形状製品を得られることが分かる(実施例2−1、実施例2−2、実施例2−3)。
【0054】
一方、θ/θが小さすぎると、弾性回復量R/Rが大きいことから、ステンレス鋼板に対し、所望の曲げ部を形成できず、形状凍結性に劣る(比較例2−1、比較例2−2)。また、θ/θが大きすぎると、所望の形状を得るには、ステンレス鋼板に対して高い荷重を付与することを要する(比較例2−3)。さらに、金型への負荷が高まるので、金型の変形ゆや破損を招く可能性があり、金型の寿命に影響する。そのため、実施例に比べて、コストや生産性の点で好ましくない。
【0055】
<実施例3>
荷重を70kNにしたこと、及び新たにパラメータ(R−R)/tを設け、このパラメータを0.8、1.0及び1.2の3種類にしたこと以外は、実施例1と同様の条件にて曲げ加工を行った。実施例3において、tは、ステンレス鋼板の板厚であり、Rは、凸部における頂部の曲率半径であり、Rは、凹部における底部の曲率半径である。弾性回復量R/Rに係る判定は、実施例1と同様である。試験結果を表3に示す。
【表3】
【0056】
(R−R)/tを1未満にすることで、少ない荷重であっても、弾性回復量R/Rが小さくなり、形状凍結性に優れる形状の連続波形状製品を得られることが分かる(実施例3−1)。
【0057】
一方、(R−R)/tが大きくなるにつれて、弾性回復量R/Rが大きくなる。(R−R)/tが大きすぎると、ステンレス鋼板に形状精度よく曲げ形状を付与できず、形状凍結性に劣ることが分かる(比較例3−1及び3−2)。
【0058】
<実施例4>
連続波形状製品を得るために必要な最小の荷重を検討した。表4に示す組成(残部はFe及び不可避的不純物である)及び表5に示す機械的性質と厚さを有する4種のステンレス鋼板を用いて、所定の加工を行い、ステンレス鋼板a〜dを得た。
【0059】
【表4】
【0060】
【表5】
【0061】
表5において、0.2%耐力(YS)、引張強さ、伸びは、JIS Z2241に準拠して、JIS5号引張試験片を用いた引張試験によって求められた値である。硬度(HV)は、JIS Z2244に準拠して測定された値である。
【0062】
ステンレス鋼板c(素材幅w:56mm、厚さt:0.4mm)に対し、実施例1と同じ金型を用いて曲げ加工を行い、荷重−ストローク曲線を作成した。その結果は、図8に示すとおりである。ストロークを開始した後、荷重は、一次曲線に沿って変化し、途中から二次曲線に変化している。この一次曲線と二次曲線との境界位置における荷重によると、ステンレス鋼板cの自由曲げ荷重Pは、1.8kNであった。
【0063】
Romanowskiの式(1)は、次のとおりである。
P=C×σ×w×t ・・・式(1)
【0064】
式(1)に、自由曲げ荷重P=1.8kN、ステンレス鋼板cの幅w=56mm、ステンレス鋼板cの引張強さσ=1019N/mm、板厚t=0.4mmを代入した。その結果、定数Cは、0.08の数値が得られた。実施例4における形状凍結性に関する判定には、ステンレス鋼板a、b、dについてもC=0.08を採用することができる。
【0065】
C=0.08を採用し、残り3種のステンレス鋼板a,b及びdについて自由曲げ荷重Pを求めた。その結果、ステンレス鋼板aの自由曲げ荷重Pは、1.2kNであり、ステンレス鋼板bの自由曲げ荷重Pは、1.5kNであり、ステンレス鋼板dの自由曲げ荷重Pは、2.1kNであった。
【0066】
そして、4種のステンレス鋼板a〜dについて、荷重を自由曲げ荷重Pの10倍、17倍及び35倍にしたこと以外は、実施例1と同じ手法にて、連続波形状の曲げ加工を行った。弾性回復量R/Rに係る判定は、実施例1と同様である。試験結果を表6に示す。表6に示した荷重は、自由曲げ荷重Pに所定倍率を掛けて算出した数値である。
【表6】
【0067】
表5から、成形加工の荷重が自由曲げ荷重Pの17倍以上である場合、ステンレス鋼板の組成にかかわらず、弾性回復量R/Rが4.0以下であり、好適な形状凍結性が得られることが分かる。これは、成形加工の荷重が自由曲げ荷重Pの17倍以上であると、ステンレス鋼板の物性にかかわらず、ステンレス鋼板に対して形状精度の良い連続波形状を付与できることを示している。
【0068】
ステンレス鋼板dは、実施例1〜3と同じ材質の板材である。表6によると、良好な形状凍結性を維持するのに必要な成形荷重は、実施例1〜3で用いた荷重の半分程度に抑えられた。そのため、金型及びステンレス鋼板に及ぼす負荷を大幅に軽減できた。このように、自由曲げ荷重Pを基準にすることにより、良好な形状精度で連続波形状製品を成形するのに適した荷重を簡単に設定することができる。
【0069】
また、ステンレス鋼板の機械的性質に関して、0.2%耐力(YS)、引張強さ(TS)、伸び(EL)及び硬度(HV)を調整することにより、成形加工の荷重を低く抑えることができる。例えば、ステンレス鋼板a、bは、0.2%耐力(YS)、引張強さ(TS)、伸び(EL)又は度(HV)がステンレス鋼板c、dよりも低い範囲にあり、負荷荷重に対する変形抵抗が低い素材である。表5によると、本発明の条件で成形加工することにより、優れた形状凍結性を維持しつつ、自由曲げ荷重Pの10倍という低い成形荷重で加工できることが分かる。
【符号の説明】
【0070】
1 金型
2 凸部
3 凹部
4 成形材料
5、5’ 中心角
6 中心線
10 連続波形状製品
11、11’ 曲線部
12、12’ 直辺部
20 パンチ
21 ダイ
22 板材
L 成形材料と金型との接触部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9