(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記カプセルは、ボディ部とキャップ部とを嵌合したハードカプセルを含み、該ハードカプセルの内部に乾燥粉末の前記大腸有用菌及び前記ショ糖脂肪酸エステルが内包され、該ハードカプセルの外側が前記キトサン含有層で被覆され、さらに該キトサン含有層が前記腸溶性基材含有層で被覆されている請求項1に記載の大腸デリバリーカプセル製剤。
前記キトサン含有層の厚さは、該キトサン含有層の質量が該キトサン含有層よりも内方に存する部分の質量に対して0.8〜1.2質量%となる厚さである請求項1又は2に記載の大腸デリバリーカプセル製剤。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の大腸デリバリーカプセル製剤は、大腸有用菌とこれを内包するカプセルとを含んで構成される。大腸有用菌としては、ヒト又は動物の生体における大腸で該生体に好ましい機能を発揮し得る菌であれば良く、特に制限されないが、例えばビフィズス菌、乳酸菌、納豆菌、酪酸菌が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0010】
本発明で使用可能なビフィズス菌を例示すると、ビフィドバクテリウム サーモフィラム(Bifidobacterium Thermophilum)、ビフィドバクテリウム ロンガム(B.longum)、ビフィドバクテリウム ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム インファンティス(Bifidobacterium infantis)、ビフィドバクテリウム アニマリス(Bifidobacterium animalis)、ビフィドバクテリウム シュードロンガム(Bifidobacterium pseudolongum)などのビフィドバクテリウム属菌が挙げられる。これらの中でも、ビフィドバクテリウム ロンガム(B.longum)、ビフィドバクテリウム ビフィダム(B.bifidum)、ビフィドバクテリウム ブレーベ(B.breve)が好適に用いられる。
【0011】
本発明で使用可能な乳酸菌を例示すると、ラクトバチルス属やストレプトコッカス属の菌、例えば、ラクトバチルス ガッセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス カゼイ(Lactobacillus casei)、及びラクトバチルス ラムノーサ(Lactobacillus rhamnosus)、並びに植物乳酸菌、例えば乳酸菌RIE株などが挙げられる。
【0012】
本発明で使用可能な納豆菌を例示すると、市販の納豆に由来する納豆菌、並びに市販の納豆菌、例えば高橋菌(高橋祐蔵研究所製、山形)、成瀬菌(株式会社成瀬醗酵化学研究所製、東京)、宮城野菌(有限会社宮城野納豆製造所製、仙台)、朝日菌(株式会社朝日工業製、東京)、日東菌(株式会社日東薬品工業製、京都)、目黒菌(株式会社目黒研究所製、大阪)が挙げられる。
【0013】
本発明で使用可能な酪酸菌を例示すると、市販の酪酸菌、例えば宮入菌(ミヤリサン製薬株式会社製、東京)、東亜菌(東亜薬品工業製、東京)、日東菌(株式会社日当薬品工業製、京都)が挙げられる。
【0014】
本発明においては、カプセルに内包する大腸有用菌の形態は特に制限されず、乾燥粉末、固形物、液状物などから目的に応じて適宜選択し得る。固形物の大腸有用菌とは、例えば大腸有用菌と硬化油脂との固形混合物であり、また、液状物の大腸有用菌とは、例えば大腸有用菌を適切な培地に懸濁した懸濁物である。大腸有用菌の形態として特に好ましいものは乾燥粉末である。乾燥粉末の大腸有用菌は液状物などと比べて水分含量が低く、取り扱いも容易である。大腸有用菌は水分の影響を受けて失活しやすいため、取り扱いが容易な乾燥粉末の大腸有用菌の使用によって、カプセル製剤の製造時間の短縮効果及びそれに起因する大腸有用菌の失活抑制効果が期待でき、本発明の主たる特徴部分である、ショ糖脂肪酸エステルの併用による作用効果と相俟って、大腸有用菌の保存安定性の向上に繋がり得る。また、乾燥粉末の大腸有用菌は液状物などと比べてカプセル中に多量の大腸有用菌を内包することができ、十分に保健効果が得られる量を容易に配合できる。
【0015】
本発明においては通常、大腸有用菌は生菌の状態でカプセルに内包される。大腸有用菌をカプセルに内包した後、そのカプセル内で増殖させても良い。カプセルに内包する大腸有用菌の量は、カプセルに内包する際の菌の形態、カプセルのサイズなどに応じて適宜変更すれば良く特に制限されない。例えば、カプセルに内包する大腸有用菌の形態が乾燥粉末である場合、カプセルにおける該大腸有用菌の内包量は、該カプセルの内包物の全量に対して、好ましくは5.0〜99.5質量%、さらに好ましくは20.0〜75.0質量%である。大腸有用菌の内包量が少なすぎると、大腸有用菌による保健効果が十分に得られず、大腸有用菌の内包量が多すぎると、腸内細菌叢のバランスが崩れ、下痢などの副作用を生じるおそれがある。また、大腸有用菌の内包量が多すぎると、水分活性の低い賦形剤の併用が困難になることなどもあって、カプセル製剤の製造時や保存時において大腸有用菌の減少が著しくなる傾向があり、経口摂取するまでに十分量の活性な有用菌量が確保できない、即ちカプセル製剤の賞味期限が短縮するおそれがある。同様の観点から、大腸有用菌が乾燥粉末形態の場合、カプセルにおける大腸有用菌濃度は、1×10
6cfu/g以上が好ましく、1×10
9cfu/g以上がさらに好ましい。尚、「cfu」は、コロニー形成単位を表す。
【0016】
本発明の大腸デリバリーカプセル製剤の主たる特徴の1つとして、カプセルに大腸有用菌と共にショ糖脂肪酸エステルを内包する点が挙げられる。これにより大腸有用菌の保存安定性が向上し、カプセル製剤が大腸で放出し得る活性な大腸有用菌の数を従来に比して有意に増加させることが可能となる。ショ糖脂肪酸エステルは、経口摂取されたカプセル製剤が大腸に到達するまでの間、大腸有用菌を胃酸や腸液などから強力に保護し得る。従って本発明によれば、大腸有用菌の保護目的で、キトサン被膜を厚くするなど、カプセル自体を物理的に補強する必要がなく、ショ糖脂肪酸エステルを内包せずにキトサン被膜を厚くすることで大腸有用菌の保存安定性を本発明と同程度にした、従来のカプセル製剤に比して、カプセル製剤の製造時間を短縮することができ、その結果、カプセル製剤製造中での大腸有用菌の失活を効果的に防止し得る。つまり、大腸有用菌とショ糖脂肪酸エステルとの併用によって、整腸作用などの優れた保健効果を奏する高品質の大腸デリバリーカプセル製剤を効率良く製造することが可能となる。
【0017】
本発明で用いるショ糖脂肪酸エステルとしては、食品添加物として常用されているものを特に制限なく用いることができる。従来の食品添加物としてのショ糖脂肪酸エステルの主たる用途は乳化剤であり、本発明が提案する、ショ糖脂肪酸エステルによる大腸有用菌の保護は、このような従来技術とは技術思想が異なるものであると言える。本発明者の知見によれば、ショ糖脂肪酸エステルのHLB(親水性−親油性バランス)値が低いほど即ち親油性が高いほど、大腸有用菌の保護効果に優れる。斯かる観点から、ショ糖脂肪酸エステルは、HLB値が0〜10であることが好ましく、HLB値が0〜6であることがさらに好ましい。
【0018】
カプセルにおけるショ糖脂肪酸エステルの内包量は、該カプセルの内包物の全量に対して0.5〜25質量%であり、好ましくは0.5〜15質量%、さらに好ましくは0.5〜10質量%である。ショ糖脂肪酸エステルの内包量がカプセル内包物全量に対して0.5質量%未満では、ショ糖脂肪酸エステルを使用する意義に乏しい。該内包量が25質量%を超えて多量になると、カプセルに粉末を内包する作業効率が著しく低下し、例えば、カプセル内包量の制御が困難になるおそれがあり、カプセル製剤を効率よく製造することができなくなる。また、該内包量が25質量%を超えて多量になると、相対的に大腸有用菌の内包量が減少し、大腸有用菌による各種保健効果が十分に奏されないおそれがある。
【0019】
本発明においては、必要に応じ、カプセル内包物として大腸有用菌及びショ糖脂肪酸エステル以外の他の成分を用いることができる。この他の成分としては、大腸有用菌を液状物とする場合に使用される菌懸濁用の培地;大腸有用菌を固形物とする場合に使用される硬化油脂;大腸有用菌を乾燥粉末にする場合に使用される乳糖、澱粉、乾燥馬鈴薯澱粉などの倍散剤;カラギーナン、寒天、ペクチン、アラビアガム、キサンタンガム、プルラン、ジェランガム、アルギン酸塩などの増粘多糖類;微粒酸化ケイ素、微結晶セルロース、鉄塩、ヘミロース、ゼラチン、カゼイン、カゼインナトリウム、カゼインカルシウム、カゼインカリウム、カゼインマグネシウム、乳蛋白、乳蛋白ペプチド類、乳たんぱく消化物、ラクトフェリン、植物油脂、硬化油脂類、糖類、ホエイ、マルトデキストリン、カルメロースナトリウム、α化デンプン、加工デンプンなどの水分活性が低いか又は水分活性を低下させる成分;オリゴ糖、水溶性食物繊維、水不溶性食物繊維などの腸内環境の改善に有用な成分が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。特にキサンタンガムなどの増粘多糖類をカプセル製剤に内包させた場合には、カプセル製剤の経口摂取後にそのカプセル内部で増粘多糖類が大腸有用菌の表面にゲルを形成し、それによってカプセル内部への胃液や腸液の浸透が抑制されることが期待される。つまり増粘多糖類には、消化管内で大腸有用菌を保護する作用が期待されるため、後述する実施例3のように、ショ糖脂肪酸エステルと増粘多糖類との併用が好ましい。
【0020】
本発明に係るカプセルは、キトサン含有層と、腸溶性基材含有層とを内側から順に有する。本発明においてはこの両層が内側からこの順で配されていれば良く、カプセルの層構成については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の形態を採り得る。本発明にはカプセルの層構成として、1)キトサン含有層がカプセルの最内層である形態、2)キトサン含有層よりも内側にキトサン含有層及び腸溶性基材含有層以外の他の層(例えば、ゼラチン又はセルロース誘導体を主体とする層)が1層以上存する形態、3)キトサン含有層と腸溶性基材含有層とが他の層を介在させずに積層された形態、4)キトサン含有層と腸溶性基材含有層との間に他の層が一層以上介在する形態、5)腸溶性基材含有層がカプセルの最外層である形態、6)腸溶性基材含有層よりも外側にキトサン含有層及び腸溶性基材含有層以外の他の層(例えば、ミツロウ、カルナウバロウなどからなる層)が1層以上存する形態が含まれ、また、前記1)〜6)は適宜相互に組み合わせることができる。
【0021】
また本発明に係るカプセルは、大腸有用菌の収容部を内部に有するものであればその形態は特に制限されず、例えば、ハードカプセル、ソフトカプセル、シームレスカプセルであり得る。中でもボディ部とキャップ部とを嵌合したハードカプセルは、製造工程における温度条件などが比較的温和であること及び製剤中に含有される水分が少ないことに起因して、高温や水分に弱いビフィズス菌などの大腸有用菌の失活を抑制し得るため、本発明で好ましく用いられる。特に、乾燥粉末の大腸有用菌(ビフィズス菌)とハードカプセルとの組み合わせは、前述した、ショ糖脂肪酸エステルによる、カプセル自体の物理的補強を要せずに大腸有用菌を胃酸や腸液などから有効に保護し得る効果を最大限に引き出しやすい構成と言えるため、本発明で好ましく用いられる。ハードカプセルの典型的な形態は、大腸有用菌及びショ糖脂肪酸エステルなどの収容物が収容される筒状のボディ部と、筒状のキャップ部とを含むものであり、該ボディ部の開口側を該キャップ部の内側に嵌合することでカプセル形態となる。ハードカプセルは公知の方法によって製造することができる。
【0022】
本発明に係るカプセルの好ましい一実施形態として、ボディ部とキャップ部とを嵌合したハードカプセルを含み、該ハードカプセルの内部に乾燥粉末の大腸有用菌及びショ糖脂肪酸エステルが内包され、該ハードカプセルの外側がキトサン含有層で被覆され、さらに該キトサン含有層が腸溶性基材含有層で被覆されている形態が挙げられる。斯かる形態におけるハードカプセルは通常、キトサン及び腸溶性基材を実質的に含んでいない。
【0023】
ハードカプセルにおけるボディ部とキャップ部との嵌合部には、カプセル内包物の保護強化の観点から、バンドシールを施しても良い。即ち、本発明に係るハードカプセルは、その嵌合部がバンドシールによって封止されていても良い。カプセルのバンドシールは、公知のバンドシール材を用いて常法に従って行うことができる。しかし前述したように、本発明においては、カプセル内包物にショ糖脂肪酸エステルを使用することで大腸有用菌を胃酸や腸液などから強力に保護し得るため、バンドシールをする必要は特にない。バンドシールを省略した場合には、さらに製造時間を短縮することが可能になり、大腸有用菌の失活抑制に寄与する。
【0024】
カプセルの材質としては、この種のカプセル製剤に従来使用されているものを特に制限なく用いることができ、例えば、ゼラチン、動物又は植物由来のセルロースを変性させて得られたセルロース誘導体が挙げられる。セルロ−ス誘導体としては、例えば、アルキルセルロース(例えば、メチルセルロース等)、ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース等)などが挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、ヒドロキシアルキルアルキルセルロースが好ましく、特に、カプセルの強度及び大腸内での溶解容易性の観点からHPMCがより好ましい。
【0025】
本発明に係るキトサン含有層に含まれるキトサンとしては、この種のカプセル製剤に使用されるものを特に制限なく用いることができるが、キトサンの脱アセチル化度が60モル%以上であると、キトサン含有層の形成容易性(キトサン含有層形成用コーティング液の調製の際の酸溶液への溶解性)及び造膜性の点で好ましい。キトサン含有層におけるキトサンの含有量は、乾燥状態のキトサン含有層の全質量中、好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは25〜85質量%、より好ましくは35〜80質量%である。
【0026】
本発明に係るキトサン含有層には、キトサンに加えてさらにゼインが含有されていることが好ましい。ゼイン(zein)は、トウモロコシから抽出される非水溶性の蛋白質であり、別名トウモロコシ蛋白ともいわれている。本発明に係るキトサン含有層がキトサン及びゼインの双方を含有するものであると、ゼインを含まないキトサン含有層と同様の良好な大腸崩壊性を示す一方で、ゼインを含まないキトサン含有層に比して造膜性及び耐水性が向上し、大腸到達前のカプセルの膨潤や崩壊をより一層効果的に防止し得る。本発明に係るキトサン含有層におけるゼインの含有量は、該キトサン含有層中のキトサン質量に対して、好ましくは0.5〜100質量%、さらに好ましくは5〜80質量%である。ゼインの含有量が少なすぎると、ゼインを使用する意義に乏しく、ゼインの含有量が多すぎると、キトサン質量が低下して腸液からの保護効果が損なわれ、大腸到達前にカプセルが崩壊するおそれがある。
【0027】
一方、本発明に係る腸溶性基材含有層に含まれる腸溶性基材としては、耐酸性を有し胃で溶解しにくいが小腸では溶解する材料であれば良く、例えば、カルボキシメチルエチルセルロース(CMEC)、メタクリル酸コポリマー、ヒプロメロースフタル酸エステル(HPMCP)、ゼイン、シェラック(shellac)が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。シェラックは、ラックカイガラムシ(Laccifer lacca)及びその近縁の数種のカイガラムシの分泌する虫体被覆物を精製して得られる樹脂状の物質であり、セラックなどとも呼ばれる。
【0028】
本発明に係る腸溶性基材含有層における腸溶性基材の含有量は、乾燥状態の腸溶性基材含有層の全質量中、好ましくは80.0質量%以上、さらに好ましくは80.0〜99.5質量%、より好ましくは90.0〜99.5質量%である。尚、腸溶性基材含有層には、 必要に応じ、腸溶性基材以外の他の成分、例えば水不溶性の添加剤を含有させることができる。この水不溶性の添加剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、タルク、炭素数10以上の有機酸あるいはその金属塩などが挙げられる。
【0029】
本発明に係るキトサン含有層及び腸溶性基材含有層は、それぞれ、常法に従って形成することができる。例えば前述した、ハードカプセルの外側がキトサン含有層で被覆された形態の場合、キトサン、ゼインなどの各種成分を溶媒に溶解させて調製したキトサン含有液を、塗布、噴霧、含浸等の手段によってハードカプセルの外面に付着させ、次いで乾燥させることで、キトサン含有層を形成することができる。腸溶性基材含有層もこれと同様の公知の方法によって形成することができる。
【0030】
本発明に係るキトサン含有層の厚さに関し、カプセル製剤を経口摂取してから大腸に到達するまでの間における内包物の保護の観点からは、キトサン含有層の厚さは厚いほど好ましいが、厚いキトサン含有層は、カプセル製剤の製造時間の長時間化、延いてはカプセル製剤の製造時における大腸有用菌の失活を招くおそれがあり、大腸に送達し得る活性な大腸有用菌の数としては不十分になるおそれがある。その点、本発明においては、カプセル内包物にショ糖脂肪酸エステルを使用することで大腸有用菌を胃酸や腸液などから強力に保護し得るため、大腸有用菌の保護目的でキトサン含有層を特段厚くする必要は無い。また、キトサン含有層の厚さが厚すぎると、大腸に到達したカプセル製剤に依然としてキトサン含有層が内包物を十分に保護し得る形態で残存する結果、カプセル製剤が大腸で大腸有用菌を放出することなく体外に排出されるおそれがある。
【0031】
斯かる観点から、本発明に係るキトサン含有層の厚さは、該キトサン含有層の質量が該キトサン含有層よりも内方に存する部分の質量に対して、好ましくは0.5〜2.0質量%、さらに好ましくは0.5〜1.3質量%、最も好ましくは0.8〜1.2質量%となる厚さである。ここでいう「キトサン含有層よりも内方に存する部分」とは、キトサン含有層を含まずにそれよりも内方に存する全ての部分を意味し、例えば前記のハードカプセルを最内層とする形態の場合、ハードカプセル(ゼラチン又はセルロース誘導体含有層)及びカプセル内包物(大腸有用菌、ショ糖脂肪酸エステル等)である。
【0032】
また同様の観点から、本発明に係る腸溶性基材含有層の厚さは、該腸溶性基材含有層の質量が該腸溶性基材含有層よりも内方に存する部分の質量に対して、好ましくは0.5〜2.0質量%、さらに好ましくは0.5〜1.2質量%、最も好ましくは0.8〜1.1質量%である。ここでいう「腸溶性基材含有層よりも内方に存する部分」とは、腸溶性基材含有層を含まずにそれよりも内方に存する全ての部分を意味し、例えば前記のハードカプセルを最内層とする形態の場合、キトサン含有層、ハードカプセル(ゼラチン又はセルロース誘導体含有層)及びカプセル内包物(大腸有用菌、ショ糖脂肪酸エステル等)である。
【0033】
本発明の大腸デリバリーカプセル製剤のサイズ及び形状は、内包物の量などに応じて適宜調整すれば良く特に制限されない。カプセルのサイズとしては、例えば、一般に使用される00号、0号、1号、2号、3号、4号、5号などのサイズが挙げられ、形状としては、長楕円型、フットボール型、球形などが挙げられる。本発明の大腸デリバリーカプセル製剤の製造において、キトサン含有層及び腸溶性基材含有層の形成を含むカプセルの製造や、大腸有用菌等のカプセルへの充填などの各工程については、特許文献1〜4の記載を適宜参考にすることができる。
【0034】
本発明の大腸デリバリーカプセル製剤は通常、経口摂取により使用され、ヒト又は動物の腸内細菌叢や腸内環境を改善し、ヒト又は動物に整腸作用をもたらす。本発明の大腸デリバリーカプセル製剤が適用可能なヒト以外の動物としては、霊長類、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、げっ歯類などが挙げられる。
【0035】
本発明の大腸デリバリーカプセル製剤は、食品や飼料に添加されて提供されても良く、医薬品やサプリメントとして提供されても良い。腸内環境改善又は整腸用の組成物、医薬品又はサプリメントとして使用可能な本発明の大腸デリバリーカプセル製剤は、前述した通り、大腸有用菌及びショ糖脂肪酸エステルを内包するカプセルを製造することによって製造され、該カプセルは、キトサン含有層と腸溶性基材含有層とを内側から順に有する。本発明の大腸デリバリーカプセル製剤は、例えば、大腸有用菌及びショ糖脂肪酸エステルを内包するハードカプセルをキトサン含有層で被覆し、次いで該キトサン含有層を腸溶性基材含有層で被覆することによって製造される。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例により制限されるものではない。
【0037】
〔実施例1〜3及び比較例1〜5〕
大腸有用菌として、生菌のビフィズス菌の乾燥粉末(森永乳業株式会社製、森永ビフィズス菌末)を用い、これに他の成分を適宜混合して大腸有用菌含有組成物を得、該大腸有用菌含有組成物を市販のハードカプセルに充填した後、該ハードカプセルの外側に所定厚さのキトサン含有層及び腸溶性基材含有層を順次形成して、ビフィズス菌内包ハードカプセルの表面をキトサン含有層、腸溶性基材含有層で順次被覆してなる大腸デリバリーカプセル製剤を製造した。斯かる製造の詳細は下記[1]及び[2]の通り。各実施例及び比較例の大腸デリバリーカプセル製剤の構成等を下記表1に示す。
【0038】
[1]大腸有用菌含有組成物のハードカプセルへの充填
温度25℃、湿度60%以下の環境下で、 大腸有用菌を含む複数のカプセル内包予定成分をそれぞれ所定量混合し攪拌して、乾燥粉末の大腸有用菌含有組成物を得た。カプセル充填機(クオリカプス株式会社製、LIQFIL super JCF40型)に、前記大腸有用菌含有組成物及びハードカプセルをセットし、常法に従って該ハードカプセル内に該大腸有用菌含有組成物を240mg充填した。ここで使用したハードカプセルは、HPMCカプセル(クオリカプス株式会社製、クオリ−V(R)−N、3号、カプセル質量:51mg)であった。また、ハードカプセルにおけるボディ部とキャップ部との嵌合部にはバンドシールを施さなかった。前記カプセル内包予定成分として、大腸有用菌(ビフィズス菌)以外に使用したものは下記の通り。
・ショ糖脂肪酸エステル(三菱化学フーズ製、HLB値3.0)
・キサンタンガム(三菱商事フードテック製)
・ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)(信越化学製)
・アルギン酸ナトリウム及び炭酸カルシウム(森永乳業製)
・馬鈴薯澱粉(倍散剤、松谷化学製)
【0039】
[2]ハードカプセルのコーティング
前記[1]で得られた大腸有用菌含有組成物を内包するハードカプセルの外面に、下記方法により調製したキトサン含有層形成用コーティング液を塗布・乾燥してキトサン含有層を形成した(キトサン含有層形成工程)。斯かる工程は、フィルムコーティング装置ハイコーターミニ型パン(フロイント産業株式会社製)を用いて、乾燥温度を一定(48℃)にして行った。斯かるキトサン含有層において、キトサンの含有量は57質量%、ゼインの含有量は28質量%であった。
さらにこのキトサン含有層の表面に、下記方法により調製した腸溶性基材含有層形成用コーティング液を塗布・乾燥して腸溶性基材含有層を形成した(腸溶性基材含有層形成工程)。斯かる工程は、フィルムコーティング装置ハイコーターミニ型パン(フロイント産業株式会社製)を用いて行った。斯かる腸溶性基材含有層において、腸溶性基材(シェラック)の含有量は95質量%であった。
さらにこの腸溶性基材含有層の表面に、飽和溶解量のカルナウバロウを溶解させた無水エタノールを、カプセル重量に対して1質量%塗布し乾燥した。
【0040】
(キトサン含有層形成用コーティング液の調製)
精製水に酢酸を加えpHを約4とした酸性水に、脱アセチル化度が80モル%以上であるキトサン(フローナックC:日本水産株式会社製)を溶解し、グリセリン(EmeryOleochemicals製)を添加してキトサン溶解液を得、該キトサン溶解液に、ゼイン(小林ツエインDP:小林香料株式会社製)をエタノール溶液で溶解した液を添加した後、キトサンの最終濃度が2.0質量%になるように精製水とエタノールで調整して、キトサン含有層形成用コーティング液を調製した。得られたキトサン含有層形成用コーティング液の組成は、全成分の合計100質量%として、キトサン2.0質量%、ゼイン0.5質量%、グリセリン1.0質量%、エタノール52質量%、残余が水であった。
【0041】
(腸溶性基材含有層形成用コーティング液の調製)
エタノールに、腸溶性基材としてのシェラック(株式会社岐阜セラツク製造所製、脱色セラック)を溶解し、さらに所定量のエタノールと水を添加した後、グリセリン脂肪酸エステルを添加して腸溶性基材含有層形成用コーティング液を調製した。得られた腸溶性基材含有層形成用コーティング液の組成は、全成分の合計100質量%として、シェラック10質量%、グリセリン脂肪酸エステル0.5質量%、エタノール72質量%、残余が水であった。
【0042】
<評価試験1>
各実施例及び比較例の大腸デリバリーカプセル製剤について、ハードカプセル外側のコーティング層を構成するキトサン含有層及び腸溶性基材含有層それぞれの厚さを、当該層よりも内方に存する部分の質量に対する当該層の質量の割合として測定した。また、これら両層について、当該層の形成時間、即ち、「キトサン含有層形成工程又は腸溶性基材含有層形成工程において15万粒処理するのに要した時間」を測定すると共に、当該層の形成時点での菌生存率、即ち、「カプセル製剤製造前の活性な大腸有用菌たるビフィズス菌の数に対する、当該層の形成時点での活性なビフィズス菌の数の割合」を測定した。ビフィズス菌数の測定は、BL寒天平板を用いたコロニー計数法によって実施し、1g当たりのコロニー数をビフィズス菌数とした。以上の結果を下記表1に示す。
【0043】
<評価試験2>
各実施例及び比較例の大腸デリバリーカプセル製剤について、日本薬局方の崩壊試験装置及び振とう器を用いて、崩壊試験を行った。試験手順の概略としては、評価対象のカプセル製剤を、補助筒を用いてカプセル製剤全体が試験液に浸漬するように設置し、崩壊試験第1液(胃液)に1時間浸漬処理し、次いで、同様に崩壊試験第2液(小腸液)に2時間浸漬処理し、各浸漬処理後にカプセル製剤内の大腸有用菌であるビフィズス菌の数を、前記方法により測定した。以上の結果を下記表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
表1における「小腸液処理後」の欄の下2行の菌生存率は、各大腸デリバリーカプセル製剤が大腸で放出し得る活性なビフィズス菌の数の指標となるものである。特に、下から2行目の「試験開始前を基準とする菌生存率」は、大腸デリバリーカプセル製剤の体内摂取後のビフィズス菌の保存安定性の指標となり得、また、最下行の「製剤製造開始前を基準とする菌生存率」は、斯かる体内保存安定性に加えてさらに、大腸デリバリーカプセル製剤の製造中におけるビフィズス菌の保存安定性をも考慮した指標となり得る。表1に示す通り、これら両菌生存率の数値は、各実施例が各比較例に比して大きいことから、各実施例は各比較例に比して優れた整腸効果を奏し得ることがわかる。比較例1〜4は、キトサン含有層及び腸溶性基材含有層の厚さは各実施例と同じであるが、カプセルにショ糖脂肪酸エステル0.5質量%以上が内包されていない点で各実施例と相違する。この各実施例と比較例1〜4との相違が、菌生存率の差となって現れているとみることができるから、ショ糖脂肪酸エステルは体内でのビフィズス菌の保護に有用であると言える。また、ショ糖脂肪酸エステルの内包量については、各実施例と比較例2との対比から、対カプセル内包物量で0.4質量%を超える量とすることの意義が明らかである。尚、ショ糖脂肪酸エステルの内包量の上限については、前述した通り、大腸有用菌の内包量の確保、カプセル製剤の製造効率の向上などの観点から25質量%とすべきである。
【0046】
また比較例5は、比較例1よりもキトサン含有層及び腸溶性基材含有層の厚さを厚くしたものであり、比較例1に比して崩壊試験における「試験開始前を基準とする菌生存率」が高いことから、これらの層を厚くすることは、内包されるビフィズス菌の体内での保護効果の向上に有効であると言える。しかしながら比較例5は、各層の厚さが比較的厚いことに起因して、他の例に比して製造に時間がかかっており、その影響で各層形成時点での菌生存率が他の例に比して低い。つまり、カプセルコーティングの厚さを厚くして体内でのビフィズス菌の保護効果を高めても、そもそもカプセル製剤の体内摂取前の時点で、その製造時間の長時間化に起因して相当数のビフィズス菌が失活してしまい、結局所望の整腸効果が得られないことが懸念される。これに対し、各実施例は、比較例5よりもカプセルコーティングの厚さが薄い故に、比較例5よりも製造時間が短縮されており、これに起因して各層形成時点での菌生存率が高く、その上、体内でのビフィズス菌の保護効果についても比較例5と同等以上の効果を発現している。