(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1実施形態)
以下、図に従って本発明を実施する形態について説明する。
図1は、実施形態のレーザー加工装置10の縦断面図を示している。レーザー加工装置10は、レーザー発振器11と、加工ヘッド14と、ポンプ25とを備える。レーザー発振器11は、例えば第二高調波のNd:YAGレーザー(波長532nm)の発振器を利用できる。レーザー発振器11は、パルスレーザーを発振する。
【0009】
図1に示すように、加工ヘッド14は、次の構成をとる。円筒状のボディ15は、図の上部(レーザー13の光軸方向における上流側)にレーザー13が通過する円筒状のくり抜き部15aを備えている。くり抜き部15aの下部に円筒状のウィンドウ20が設けられている。ウィンドウ20は、例えばサファイアガラスのような透明かつ高強度の材料で製作される。ウィンドウ20の周囲には、ドーナツ状の空間を成す整流室18が設けられている。整流室18の断面形状は矩形となっている。ウィンドウ20の下部には、円柱状の空間である液体加振室(液体受容室)21が設けられている。液体加振室21と整流室18とは、連通路19によって連通している。噴流液柱23の中心軸上から見て(平面視において)、連通路19は、中央角が30°ないし120°の扇状をなし、その高さ方向の厚みが液体加振室21の高さの1/4程度である。液体加振室21の下方(レーザー13の光軸方向における下流側)には後述する円柱状のノズル22が設けられている。ノズル22の下方(レーザー13の光軸方向、および噴流液柱23の流れ方向における下流側)には、噴流液柱23が通過する貫通路15bが設けられている。
【0010】
ポンプ25は、例えばピストンポンプを利用できる。ポンプ25は、圧力波形の変化が小さいものが望ましい。ポンプ25は例えば特許第3508378号が利用できる。ポンプ25が吐き出した高圧液体は、整流室18、連通路19、液体加振室21を通過して、ノズル22から噴流液柱23となって噴出する。噴流液柱23を形成する液体は、本実施例においては、純水(脱イオン水または限外濾過水)が用いられる。
【0011】
図2を参照して、ノズル22について説明する。ノズル22は、ボディ22a、ノズル孔22fを有するノズル体22d、保護膜22eを備えている。ボディ22aは、円柱状をなしており、その上部に略円筒状の窪み22a1を有している。ボディ22aは、下方に円錐状の通路22a2を有している。通路22a2は、ノズル孔22fと連通して設けられ、噴流液柱23が通過する。窪み22a1には、ノズル体22dが設けられている。ノズル体22dは、例えばダイヤモンド、コランダムその他の宝石をその材料とする。ノズル体22dは、ボディ22aと一体化している。ボディ22aの上面と、ノズル体22a1の上面は、同一平面である面22gを成している。ノズル孔22fは、面22gに開口しており、その開口部が入口開口22cである。そして、ボディ22aの上面の表面には、ノズル体22dに差し掛かるように、保護膜22eが設けられている。保護膜22eは、ボディ22a、ノズル体22dと密着している。ノズル22を流れる流体は純水であり、純水は溶解力が高いため、ボディ22aを溶かす。保護膜22eは、ボディ22aの表面を純水から保護する。なお、保護膜22eは、必ずしも設けることを要しない。
【0012】
レーザー加工装置10を運転すると、加工ヘッド14、ノズル22から溶出した金属等がノズル体22dの入口開口22cが設けられている面22g(
図4参照)に析出する。ノズル体22dの表面に付着した異物41(
図4参照)は、液体加振室21内の入口開口22cの周囲の液体の流れを乱す。その結果、噴流液柱23が加工ヘッド14の中心からわずかに傾く。
【0013】
図1、
図2を参照して、レーザー発振器11が発振したレーザー13は、導光体である光ファイバー12によって加工ヘッド14に導かれる。光ファイバー12の先端部12aから放出されたレーザー13は、アパチャー29、コリメートレンズ16、オブジェクションレンズ17を通過して、ノズル22の入口開口22cの付近の焦点31で合焦する。焦点31で合焦したレーザー13は、噴流液柱23内に導かれる。レーザー13は、噴流液柱23内に導かれ、加工対象物26に到達する。レーザー13は、加工対象物26と噴流液柱23との衝突点26aを加工する。
【0014】
光ファイバー12の先端部12aは、移動装置27によって、ノズル22に対して相対的に移動できる。移動装置27は、噴流液柱23の軸方向であるZ軸、Z軸に垂直でかつ、互いに垂直な方向であるX軸およびY軸に沿って移動する直交軸形移動装置が利用できる。移動装置27は、例えば各軸に沿った直線ガイドと、ボールねじ機構とステッピングモータを組合せた送り機構と、によって構成される。移動装置27は、制御装置28から送られた駆動電流に応じて移動する。なお、移動装置27はステッピングモータに替えてサーボモータを、ボールねじ機構に替えてリニアモータを利用できる。また、軸名称は例示であり、その軸名称は勿論変更できる。
【0015】
加工対象物26を加工する状態(加工時)においては、光ファイバー12から放出したレーザー光13は、入口開口22cからわずかにウィンドウ20側(レーザー13の光軸方向における上流側)に寄った位置(焦点31)で合焦している。このときの焦点31と面22gとのを距離34とする。そして、レーザー光13は、入口開口22cから噴出する噴流液柱23内に導かれる。加工時においては、入口開口22c上で光ファイバー12の直径よりも小さいスポット30(
図5参照)を形成する。そのため、光ファイバー12の移動量は、入口開口22cを含む面22g上で、光ファイバー12の径とスポット径33(
図5参照)との比率に応じて縮小して投影される。即ち、光ファイバー12の移動量は、スポット30の移動量よりも大きく設計されている。
【0016】
制御装置28は、レーザー発振器11および移動装置27を制御する。具体的には、制御装置28は、レーザー発振器11の出力を加工時およびクリーニング時に適切な値に調整する。そして、制御装置28は、光ファイバー12の先端部12aを正確に位置決めし、又は走査するために移動装置27の各軸のモータへ駆動電流のパルスを送り出す。制御装置28は、レーザー13のスポット30を走査するときに、スポット30の走査量と光学レンズの倍率とに基づいて、光ファイバー12の先端部12aの移動量、移動速度を演算し、走査する。
【0017】
なお、光学レンズ16,17の倍率、アパチャー29の絞り量、スポット30の走査量を予め設定しておき、それらの数値に基づいてあらかじめ設定された光ファイバー12の走査量を、制御装置28が記憶しても良い。このときは、制御装置28は、加工時の光ファイバー12の位置を基準位置として、この基準位置を開始点とする定められた軌跡を光ファイバー12が移動するように、移動装置27を制御する。
【0018】
主として
図3を参照して、レーザー13(
図1参照)を用いたノズル22のクリーニング方法を説明する。レーザー加工装置10は、噴流液柱23を形成する(S1)。次いでレーザー加工装置10は、レーザー13の出力を低下する(S2)。レーザー加工装置10は、レーザー13が面22gに照射して生ずるスポット30のスポット径33(
図5参照)を拡大する(S3)。最後にレーザー加工装置10は、レーザー13を走査し、入口開口22cの周囲に付着した異物41(
図4参照)を除去する(S4)。ここで、ステップS2及びステップS3は、同時に行っても、その順序を入れ換えても良い。
【0019】
次いでステップS1ないしS4について詳細に説明する。ステップS1は、次のようである。レーザー加工装置10がポンプ25を運転すると、液体が液体加振室21内に流れ込む。本実施形態のノズル孔22fの直径は、例えば0.04mmないし0.1mmと非常に小さく、僅かな異物が付着することにより目詰まりを起こす。ステップS1において噴流液柱23が形成されることにより、レーザー13によって粉砕された異物41が噴流液柱と共にノズル22から流し出される。ステップS1の噴流液柱の圧力は加工時と異なる圧力に調整されても良い。
【0020】
ステップS2について説明する。制御装置28は、レーザー発振器11が発振するレーザー13の出力(以下、単に「レーザー出力」という。)を加工時よりも低下させる。これによって、スポット径33(
図5参照)の調整とともに、より確実にノズル22の入口開口22cが備えられた面22gに照射されたスポット30の単位面積当たりのピークパワー(W/mm
2)がノズル22を破損する閾値を超えないようにすることができる。
なお、面22gに照射されたスポット30の単位面積当たりのピークパワーは、レーザー出力を増減したり、スポット径33の大きさを増減したりして調整することができる。
【0021】
制御装置28は、レーザー発振器11にその出力に対応した信号を送る。レーザー発振器11は、この信号を受けて出力を変更する。信号は電流値または電圧値によるアナログ信号でも、デジタル信号でも良い。レーザー発振器11がレーザー出力を低下させることによって、面22gに照射されたレーザーの単位面積当たりのピークパワーが減少する。レーザー加工装置10は、50〜200Wもの強力なレーザー13を用いて加工対象物26を加工する。このような強力なレーザー13が小さいスポットでノズル22に照射されると、ノズル体22dが破損する。そこで、後述のステップS3の実行と前後して、又は同時に、レーザー出力を低下させる。単位面積当たりのピークパワーの閾値は、ノズル22を破損せず、ノズル22に付着した不純物からなる異物41(
図6参照)を破砕するように設定される。
【0022】
ここで、レーザー加工装置10の使用者(不図示)によって、レーザー13のピークパワーをスポット30の面積で除した、単位面積当たりのピークパワーは、ノズル22を破損しない閾値以下に設定される。なお、閾値は予め制御装置28に記憶しておくこともできる。
【0023】
例えば、ノズル22のノズル体22dがダイヤモンドであれば、閾値は、1.0MW/mm
2と設定される。発明者は、レーザー13のスポット30の単位面積当たりのピークパワーが閾値を超えるとレーザー13の照射時間によらず、直ちにノズル22が破損するが、レーザー13の単位面積当たりのピークパワーが閾値以下であれば、ノズル22を破損しないことを見出した。この閾値は、熱の拡散の速度と、結晶構造の化学結合強度との関係で決定されると推測される。これに対して、ノズル22に付着する異物41は、ノズル体22dに物理結合しており、その結合強度がノズル22の破損強度と比較してはるかに低く、レーザー13の単位面積当たりのピークパワーが閾値と比べて低くても、十分に除去できる。また、異物41に対しては、レーザー13の照射時間が長ければ長いほど異物41の除去効果は高くなる。
【0024】
ステップS3について説明する。
図1を参照して、光ファイバー12の先端部12aは直交する3軸方向に位置決めできる。光ファイバー12の先端を移動することによって、液体加振室21内のレーザー13の焦点31の位置が移動する。ここで、光ファイバー12を軸方向(Z軸方向)に移動すると、焦点31(
図4参照)も軸方向に移動する。焦点31の面22gからの距離32(
図4参照)を大きく取ることによって、面22gに照射するレーザー13のスポット30が拡大する。距離32は距離34より大きい。ここで、スポット30の直径をスポット径33(
図5参照)という。スポット径33を大きく取ることで、単位面積当たりのレーザーのピークパワーが低下する。スポット径33は、上述のピークパワー密度に応じて設定される。例えば、スポット径33は入口開口の2倍以上20倍以下、好ましくは2倍以上5倍以下に設定される。
【0025】
レーザー13の集光角度θ(
図4参照)は、アパチャー29および1組のレンズ16,17の焦点距離によって定まる。そして、焦点を液体加振室21内に位置づけて、焦点を通って広がったレーザー13が面22g(
図4参照)上にスポット30(
図5参照)を形成するとき、スポット径33(
図5参照)は、焦点31(
図4参照)と面22gとの距離32(
図4参照)および集光角度θによって定まる。
【0026】
そのため、クリーニング時のスポット径DC(式1参照)、加工時のスポット径DM(式1参照)によって、面22gと焦点31との距離32のクリーニング時に増加すべき量ΔL(μm)は、式1のように定まる。ΔLは、距離32と距離34との差である。
制御装置28は、式1によって、面22gと焦点31との距離32のクリーニング時に増加すべき量ΔL(μm)を求める。
【0027】
【数1】
DC:クリーニング時のスポット径(μm)
DM:加工時のスポット径(μm)
θ:集光角度(°)
【0028】
ここで、光ファイバ22のZ方向の移動量とレーザー13の焦点のZ方向の移動量は、レーザー光学系の焦点距離に反比例する。即ち、一般的に、物点からレンズまでの物点距離をa,レンズから像点までの像点距離をbとすると、このレーザー光学系の焦点距離fは、近似的に次の式で表される。
【数2】
【0029】
本実施形態では、制御装置28は、式2を用いてレーザー13の焦点の移動距離を算出している。つまり、物点距離aは、コリメートレンズ16の焦点距離に対応し、この焦点距離は400mmに設定されている。また、像点距離bは、集光レンズ17の焦点距離の焦点距離に対応し、この焦点距離は60mmに対応している。したがって、式2を用いると、レーザー光学系全体の焦点距離fは52.17mmとなる。同じレーザー光学系であれば、光学系全体の焦点距離fは変化しないため、光ファイバー12のZ方向への移動によってコリメートレンズ16の焦点距離aが変化すると、それに伴って集光レンズ17の焦点距離bも変化する。例えば光ファイバー12をZ軸に沿って上方に400μm移動させると、レーザーの焦点31(
図4参照)は、約10μm上方に移動する。
【0030】
制御装置28は、上述の計算式に従って、スポット径33(
図5参照)を調整できる。なお、上述の計算式に基づいて、スポット径33およびレーザー出力の調整量を予め演算しておき、制御装置28は、演算結果に基づくシーケンスプログラム等によって機械的に移動装置27を駆動しても良い。
【0031】
ステップS4について説明する。
図1を参照して、光ファイバー12を軸方向に垂直な面(XY平面)上で移動させると、焦点31およびスポット30が移動する。面22g上をスポット30が走査する軌跡37(
図5参照)は次のようである。Y方向の負方向にフィード長さ36だけ走査した後、X方向に一定距離(ピッチ38)だけ移動し、Y方向の正方向にフィード長さ36だけ走査する。同様に走査を繰り返す。そして、スポット30が入口開口22c(
図4参照)を中心とする正方形の範囲35内を縦横に走査すると、スポット30が照射された範囲の異物41が熱せられて粉砕され、ノズル体22dから除去される。即ち、スポット30の走査範囲39(
図5参照)は、異物41が除去されるべき近傍部22hの範囲を含む。ここで、フィード長さ36(
図5参照)は、異物41の除去を必要とする入口開口22cの近傍部22h(
図5参照)の範囲と対応する。
【0032】
図5に示すように、近傍部22hは、入口開口22cを中心とする、入口開口22cの直径の3倍以上、20倍以下、好ましくは5倍以上、15倍以下とされるのが好ましい。異物41(
図4参照)の付着する厚みは、入口開口22cから離れるにつれて、薄くなる傾向がある。また、入口開口22cに近づくにつれて、流体の流速が早くなる。そのため、入口開口22cの近傍部22hは、入口開口22cへ流入する流体の流れに大きな影響を及ぼす。
【0033】
もっとも、流体の流れに対する壁面の影響は、噴流液柱23の流量、近傍における流速によって異なる。発明者は、本実施形態に用いられる一般的な操作条件において、試験を繰返した結果、入口開口22cの直径が40μmないし100μmの場合に、クリーニング効果が強く表れる近傍部22hの範囲は、入口開口22cを中心とする直径0.3mmないし0.8mm程度の範囲であると特定した。そして、次のように結論付けた。
【0034】
つまり、入口開口22cの直径の20倍を超えた範囲は、入口開口22cの付近の流体の流れに与える影響が少なく、異物41を除去してもほとんど影響を及ぼさない。さらに、クリーニングによって噴流液柱23の傾斜を防止できる範囲としては、入口開口22cの径(入口開口径)の15倍程度までで十分であった。逆に、入口開口径の3倍程度の範囲は、加工時のレーザー13のスポット30の周囲の広がりによって異物41は多く付着していない。入口開口径の3倍を超える範囲について異物41を除去する必要がある。入口開口22c付近の流体の流れに影響を与える範囲としては、入口開口径の5倍以上の範囲において異物41を除去することが好ましい。
【0035】
また、ピッチ38は、スポット径30よりも小さく設定される。スポット30は、通過範囲が一部重複するように走査される。ピッチ38は、スポット径33の0.1倍以上0.9倍以下、好ましくは0.2倍以上、0.5倍以下に設定される。レーザー13は、アパチャ29を通過した後、光学レンズ16,17、ウィンドウ20、液体加振室21中の液体を通過するため、スポット30の周囲は明確でない。つまり、スポット30の径方向の強度分布は明確なステップ状にはならず、その周囲はなだらかな曲線を描く。このようなスポット30を利用して異物41の除去を行うためには、走査範囲39cが重複することが望ましい。したがって、ピッチ38の設定値は光学系の収差に大きく左右される。発明者は、実験を繰り返した結果、操作条件等によらず、安定して異物41をもれなく除去する範囲として、上記範囲を見出した。
【0036】
ステップS4において、スポット30の移動軌跡は、上述の往復型の軌跡に替えて、入口開口22cを中心とする渦巻き状の軌跡又は入口開口22cを中心とする円軌跡としても良い。なお、保護膜22e(
図2参照)は剥がれやすいため、走査範囲39が保護膜22eに差し掛からないように軌跡37を設定する。
【0037】
制御装置28は、スポット30の面22gにおける移動量に対応する光ファーバー12の移動量を算出する。
つまり、スポット30の面22gにおける移動量は、光ファイバー12の先端部12aの直径、言い換えると、レーザーが放射される径とレーザー13のスポット径33との比率を、先端部12aの移動量に乗じた量として算出される。スポット30の移動量は、光ファイバー12の移動量よりも小さく設計されている。制御装置28は、前述の比率と、スポット30の移動軌跡に沿って作成された光ファイバー12の先端部12aの移動軌跡に沿って、先端部12aを移動装置27によって移動させる。
【0038】
主として
図2と
図3を参照しながら、作用効果について説明する。ステップS1において噴流液柱23を形成するため、後のレーザー走査(ステップS4)で粉砕化されてノズル22から剥離する異物41が液体加振室21から流出する。そのため、液体加振室21内に異物41が残留しない。ステップS2およびステップS3においてスポット径33が大きくなり、レーザーの単位面積当たりのピークパワーが低下する。そのため、レーザー走査(ステップS4)でレーザー13をノズル22の面22g上を走査したときに、ノズル22を破損しない。ステップS4のレーザー走査において、異物41を除去するには十分に強いレーザー13が入口開口22cの周囲を走査する。そのため、レーザー走査は、入口開口22cの周囲に付着した異物41を粉砕し、除去できる。
【0039】
液体が入口開口22cへ向かう流れは、入口開口22cで起きる液体の縮流部の流れに大きく影響する。ノズル22の入口開口22cが設けられた面22gの内、入口開口22cの周囲に異物41が付着すると、噴流液柱23が傾く。レーザー加工装置10が加工対象物26を加工する加工点26a(
図1参照)は、噴流液柱23と加工対象物26の表面との交点である。噴流液柱23が傾くと、加工点26aがずれる。加工点26aがずれると、場合によっては加工点の軌跡が重なって加工品が不良品となる。また、加工対象物26の傾きを変化させながら3次元形状の加工を行うときにおいて、加工点26aがずれると加工後の形状が予定形状とならない問題が発生する。
【0040】
本実施形態のクリーニング方法によれば、入口開口22cの周囲に付着した異物41を除去できる。レーザー加工装置10の使用時に、例えば決められた使用時間又は決められた切断回数毎に本実施形態のクリーニング方法を用いれば入口開口22cの周囲を清浄に保てる。入口開口22cの周囲を清浄に保てるため、噴流液柱23の傾きを予防し、加工点26aのずれの発生を予防できる。また、ノズル22の入口開口22cの周囲の流れが安定するため、噴流液柱23が安定する。そして噴流液柱23内へのレーザー13の導光量および加工点26aの状態が安定し、加工能力の変動が抑制される。
【0041】
本実施形態では、レーザー13の焦点31は、加工時もクリーニング時も液体加振室21内に結ばれる。焦点31がウィンドウ20、ノズル体22d内で結ばれれば、焦点31に光エネルギーが集中し、ノズル体22dの破損が進む。本実施形態では、レーザー13が液体加振室21内に合焦するため、ボディ15、ノズル22がレーザー13によって破損することを防ぐ。
【0042】
異物41の付着量は、レーザー加工装置10の運転時間に対応する。そのため、制御装置28は、一定の運転時間又は一定の運転回数毎に1回のクリーニング操作を行うよう、設計されうる。例えば制御装置28は、運転時間が10時間を超過する毎に、次回の加工を開始する前に1回のクリーニング操作を行う。ノズル22が保護膜22e(
図2参照)を備えない場合、クリーニング操作は、より高頻度に行うよう設計されうる。例えば、この場合の頻度は、例えば3ないし5時間を超過する毎と設計される。
【0043】
なお、クリーニングによって、異物41が入口開口22cの近傍部22hから完全に除去される必要はない。異物41が概ね除去され、面22gの表面が平滑になれば流体の流れが阻害されず、噴流液柱23が傾斜することを防止できる。クリーニング後の異物41の高さは0ないし1μm程度までの範囲に収まることが望ましい。
【0044】
(第2実施形態)
図8、
図9に従って、第2実施形態のクリーニング方法を説明する。第2実施形態のクリーニング方法は、レーザー13が液体加振室21内で焦点を合わさず、レーザー13のスポット50が入口開口22cの近傍部22hの全域に広がるようにレーザー13を調整する。そして、レーザー13のスポット50を走査させず、一定時間照射することによって、ノズル22に付着している異物41を除去する。その他の点については、第1実施形態と同様であるため、同一の構造・操作については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0045】
ここで、ステップS12は、実際には、レーザー13を照射せずに行うことが望ましい。レーザー13を照射すると、小さいスポットが形成される瞬間があれば、ごくわずかのレーザー出力の場合でもノズル体22dやボディ22aを破損するためである。ステップS12は、上述の第1実施形態におけるステップS2と同様に、計算結果に基づいて行うため、実際にレーザー13が照射されていなくても実行できる。
【0046】
ステップS13は、制御装置28は、面22g上に照射されたレーザー13のスポット50の中心が入口開口22cの中心になり、かつ、異物41の除去が必要な近傍部22hの全域にスポット径51が広がるように、スポット径51を拡大する。このとき、レーザー光13の焦点52は、形式的には入口開口22cよりも下方に位置している。焦点52は、ボディ15の貫通路15b等、透明部材(例えばノズル体22d)の内部を避けて設定される。
【0047】
このとき、ノズル22の入口開口22cが備えられた面22gに照射されたスポット50の単位面積当たりのピークパワーがノズル22を破損する閾値を超えないように、レーザー13の出力およびスポット径33を調整する。
【0048】
制御装置28は、面22gに照射されたスポット50の単位面積当たりのピークパワーがノズル22を破損する閾値を超えない状態で、スポット50を入口開口22cの近傍部22hに照射する。
【0049】
このとき、ノズル体22dはダイヤモンド又はサファイアなどの透明体であるため、レーザー13はノズル体22d内を通過する。そして、ボディ22aはステンレス鋼、チタン合金その他の金属であるため、レーザー13はボディ22aを通過しない。そしてレーザー13は、ボディ22aの表面で反射して散乱する。レーザー13の出力が下げられているため、反射し、散乱したレーザー13によってノズル22、加工ヘッド14は破損しない。レーザー13の照射時間は、レーザー13の出力、スポット径51に関連して適宜求められる。照射時間は概ね1sないし5sの範囲で設定される。
【実施例】
【0050】
次に第1実施形態に係る具体的な実施例について説明する。入口開口22cの直径が0.05mm、ノズル体22dの素材がダイヤモンド、保護膜22eが窒化チタン、レーザー13がパルスレーザーであるレーザー加工装置10を用いた。
【0051】
ステップS1において、レーザー出力を10W、スポット径33を0.15mmとし、単位面積当たりのピークパワーを0.8MW/mm
2となるようにした。走査範囲39は、入口開口22cを中心に0.7mm×0.7mmの範囲とした。走査するピッチ38は、0.03mmとした。スポット30の走査速度は15mm/minとした。
【0052】
図6を参照して、クリーニング前の異物41は、入口開口22cの周囲に入口開口22cを中心として放射状に面22g上に入口開口22cを中心とする略扇状に付着している。入口開口22cのすぐ近傍には異物41は付着していない。異物41は、入口開口22cに近いところはやや厚く付着しているが、入口開口22cから遠い部分の厚みはやや薄い。異物41の厚みは3ないし10μmであった。
【0053】
本実施形態によるクリーニングを行った後にノズル22を観察すると、
図7に示すように、走査範囲39の内部にはほとんど異物41が観察されない。走査範囲39の外側には異物41がそのまま残留している。走査範囲39の内部、言い換えると近傍部22hに僅かに残った異物41の厚みは、大きいところで0.6μmに除去できた。そして、走査範囲39内に僅かに残った異物41の表面はなだらかになっていた。
【0054】
クリーニング後のノズル22を用いてレーザー加工装置10による加工を行ったところ、噴流液柱23は中心軸から傾かず、加工点26aの移動は観察されなかった。
【0055】
なお、本発明は前述した実施形態および実施例に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。前記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者ならば、本明細書に開示の内容から、各種の代替例、修正例、変形例あるいは改良例を実現することができ、これらは添付の特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。