【文献】
木村健,“繰返しインパルス下の部分放電開始電圧のIEC規格”,電気学会放電研究会資料,日本,社団法人電気学会,2010年12月 2日,ED−10−12,p.13−17
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記部分放電回数計数手段は、前記検出信号に対して絶対値処理を行い、その絶対値処理が施された後の検出信号に基づいて前記部分放電の発生回数をカウントすることを特徴とする請求項1または2に記載の繰り返しインパルス電圧による部分放電計測システム。
前記測定対象物に印加された電圧波形に基づいて決定される計数有効期間において発生した部分放電をカウントの対象とすることを特徴とする請求項7記載の繰り返しインパルス電圧による部分放電計測方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態について
図1〜
図7を参照しながら説明する。
図1は、部分放電計測システムの概略的な構成を示すブロック図である。
図1に示す部分放電計測システム1は、繰り返しインパルス電圧を測定対象物である電動機2に印加することにより部分放電を計測するものである。部分放電計測システム1は、インパルス電源3、部分放電検出装置4、計測制御装置5などにより構成されている。
【0013】
インパルス電源3(インパルス電圧印加手段に相当)は、計測制御装置5から与えられる指令に応じたピーク値を持つ複数個のインパルス電圧を生成する。生成するインパルス電圧の立ち上がり時間、立ち下がり時間など、他の特性については予め定められた仕様となっている。なお、それら他の特性について、ユーザによる変更を可能にする構成であってもよい。インパルス電源3により生成されるインパルス電圧は、電動機2に印加される。本実施形態において、インパルス電圧は、その印加箇所の一例である電動機2の巻線の相間(例えば、U相とV相との間)に印加されるようになっている。なお、インパルス電圧は、図示した箇所に印加するものに限らず、例えば電動機2の巻線の他の相間や、電動機2の巻線と鉄心の間に印加するようにしてもよい。
【0014】
部分放電検出装置4(部分放電検出手段に相当)は、電動機2において発生する部分放電を検出するものであり、部分放電(の発生度合い)に基づいた検出信号である部分放電信号を出力する。部分放電検出装置4としては、例えば、電動機2の巻線に流れる電流をCT(Current Transformer)により検出する構成や、電動機2の巻線周辺の電磁波をアンテナやプローブにより検出する構成など、部分放電に伴い生じる物理量(の変化)を検出する構成全般を採用することができる。
【0015】
計測制御装置5は、例えばOS(Operating System)としてWindows(登録商標)が搭載されたパーソナルコンピュータをベースに構成されている。計測制御装置5は、後述する各種のアプリケーションプログラムが動作するとともに、外部との間で信号を入出力するためのインターフェースを備えている。これにより、計測制御装置5は、入力される信号波形を画面に表示するデジタルオシロスコープとしての機能や、部分放電の計測を制御する機能を実現するようになっている。
【0016】
計測制御装置5は、電圧制御プログラム6、初期電圧取得プログラム7、印加電圧波形観測回路8、放電回数算出プログラム9、電圧値算出プログラム10、部分放電信号観測回路11およびしきい値設定プログラム12を備えている。電圧制御プログラム6(インパルス電圧制御手段に相当)は、電動機2に対して同一のピーク値を持つ規定個数(例えば10個)のインパルス電圧が印加されるようにインパルス電源3の動作を制御する。従って、インパルス電源3により生成されるインパルス電圧のピーク値は、電圧制御プログラム6により定められる。
【0017】
初期電圧取得プログラム7(概略電圧値入力手段に相当)は、計測制御装置5の表示パネル(ディスプレイ)に初期電圧V0を設定するための入力欄を表示させる。そして、初期電圧取得プログラム7は、ユーザがキーボードなどを利用して入力した初期電圧V0の値を取得し、その取得した値を電圧制御プログラム6に転送する。電圧制御プログラム6は、上記取得された初期電圧V0の値に基づいてインパルス電圧のピーク値の設定を行う。電圧制御プログラム6は、例えばRS232Cなどの通信を行うための通信インターフェースを介して、インパルス電源3を制御する。
【0018】
印加電圧波形観測回路8(印加電圧波形観測手段に相当)は、外部の電圧検出器13から出力される電圧の波形を観測する。電圧検出器13は、例えば分圧器であり、電動機2のU相−V相間の電圧を分圧して出力する。このような構成により、印加電圧波形観測回路8は、電動機2に印加された電圧の波形を間接的に観測するようになっている。印加電圧波形観測回路8により観測された電圧波形(を表すデータ)は、放電回数算出プログラム9および電圧値算出プログラム10に転送される。
【0019】
電圧値算出プログラム10(電圧値算出手段に相当)は、転送された電圧波形に基づいて、電動機2に印加された電圧値(電圧のピーク値)を算出する。電圧値算出プログラム10により算出された電圧値(を表すデータ)は、放電回数算出プログラム9に転送される。部分放電信号観測回路11は、部分放電検出装置4から出力される部分放電信号の波形を観測する。部分放電信号観測回路11により観測された部分放電信号の波形(を表すデータ)は、放電回数算出プログラム9に転送される。
【0020】
しきい値設定プログラム12(しきい値設定手段に相当)は、計測制御装置5の表示パネル(ディスプレイ)に放電判定しきい値S
thを設定するための入力欄を表示させる。そして、しきい値設定プログラム12は、ユーザがキーボードなどを利用して入力した放電判定しきい値S
thを取得する。しきい値設定プログラム12により取得された放電判定しきい値S
thは、放電回数算出プログラム9に転送される。
【0021】
放電回数算出プログラム9(部分放電回数計数手段に相当)は、印加電圧波形観測回路8により観測された印加電圧波形、部分放電信号観測回路11により観測された部分放電信号波形、しきい値設定プログラム12により取得された放電判定しきい値S
thなどを用いた評価(詳細は後述する)を行うことにより、部分放電の発生回数をカウントする。
【0022】
上述したように、部分放電計測システム1によれば、電動機2に対して同一のピーク値を持つ規定個数のインパルス電圧が印加され、その度に部分放電の発生回数のカウントが行われる。ユーザは、このように規定個数のインパルス電圧の印加が行われる度に取得される部分放電の発生回数(を表すデータ)を用いて、部分放電の計測を行うことができる。例えば、所定のピーク値を持つ試験用インパルス電圧を電動機2に印加した際に所定回数以上の部分放電が発生しないことを判定するといった計測を行うことが可能となる。
【0023】
また、部分放電開始電圧を計測することが可能となる。この場合、電圧制御プログラム6は、同一のピーク値を持つ規定個数のインパルス電圧が印加される度にインパルス電圧のピーク値を段階的に上昇させるという繰り返しパターンに従うインパルス電圧が電動機2に印加されるように、インパルス電源3を制御する。
図2は、部分放電開始電圧の計測手順を示すフローチャートである。
【0024】
ステップS1では、しきい値設定プログラム12により、計測制御装置5の表示パネルの入力欄に設定された放電判定しきい値S
thが読み込まれる。ステップS2では、初期電圧取得プログラム7により、計測制御装置5の表示パネルの入力欄に設定された初期電圧V0(例えば1kV)が読み込まれる。ステップS3では、電圧制御プログラム6により、インパルス電源3の出力電圧(のピーク値)を指令するための指示電圧Vaが初期化される(指示電圧Va=初期電圧V0)。
【0025】
ステップS4では、電圧制御プログラム6からインパルス電源3に対し、インパルス電圧の生成が指示される。これにより、指示電圧Vaのピーク値を持つ規定個数(例えば10個)のインパルス電圧が電動機2に印加される(ステップS5)。なお、インパルス電源3は、上記規定個数のインパルス電圧を印加するように予め設定されている。ステップS6では、印加電圧波形観測回路8により、電動機2に印加された電圧波形(印加電圧波形)が観測される。ステップS7では、部分放電信号観測回路11により、部分放電検出装置4から出力される部分放電信号の波形(部分放電信号波形)が観測される。
【0026】
図3は、印加電圧および部分放電信号を示す波形図である。
図3(a)は、インパルス電圧が電動機に印加された際に観測される典型的な印加電圧の波形を示している。
図3(b)は、部分放電信号観測回路11により観測される部分放電信号の波形を示している。なお、本実施形態において電動機2に印加されるインパルス電圧は、例えば
図4に示すような負極性のインパルス電圧である。
【0027】
部分放電は、電動機2の巻線を構成するエナメル線が接触した箇所に高電圧が印加されると発生するため、インパルス電圧(印加電圧波形)のピーク近傍(
図3の時刻t2付近の期間)において発生することが多い。一方、インパルス電圧が立ち上がる時間帯(
図3の時刻t0〜t1の期間)には、インパルス電源3による電圧生成に伴うノイズが発生し、そのノイズが部分放電信号に重畳する可能性がある。また、インパルス電圧が立ち下がる時間帯(
図3の時刻t2以降の期間)にもノイズが発生し、そのノイズが部分放電信号に重畳する可能性がある。
【0028】
部分放電信号にノイズが重畳すると、部分放電を精度よく計測することができない。そのため、ステップS8では、放電回数算出プログラム9により、部分放電信号観測回路11から転送される部分放電信号波形に対し、次のようなマスク処理が行われる。すなわち、インパルス電圧の立ち上がり開始から所定時間経過後の時点(
図3の時刻t1)から、印加電圧波形がゼロクロスする時点(
図3の時刻t3)までの期間が規定時間帯(計数有効期間に相当)とされる。なお、上記所定時間経過後の時点としては、インパルス電圧(印加電圧波形)のピーク近傍よりも前の時点であれば適宜変更可能である。
【0029】
そして、部分放電信号波形に対し、上記規定時間帯を有効とするように信号処理が施される。
図3(c)は、このようなマスク処理後の部分放電信号の波形を示している。この
図3(c)に示すように、マスク処理後の部分放電信号波形は、重畳されるノイズ成分が除去されて、部分放電の発生に応じた信号成分のみが表れるようになっている。
【0030】
図5(a)は、後述する絶対値処理が施される前の部分放電信号を示している。
図5(b)は、絶対値処理が施された後の部分放電信号を示している。部分放電信号観測回路11から出力される部分放電信号は、高い周波数の減衰振動波形となることが多い。そのため、部分放電信号において、正側のピークおよび負側のピークのうち、いずれが大きくなるかは定まらない。従って、このような部分放電信号と、一定値である放電判定しきい値S
thとを比較しても、部分放電の判定を正確に行うことが難しい。そこで、ステップS9では、放電回数算出プログラム9により、部分放電信号観測回路11から出力される部分放電信号(マスク処理後の部分放電信号)に対して絶対値処理が施される。
【0031】
放電回数算出プログラム9は、マスク処理および絶対値処理が施された後の部分放電信号に基づいて部分放電の発生回数を次のようにしてカウントする。すなわち、ステップS10では、放電回数算出プログラム9により、上記各処理後の部分放電信号が放電判定しきい値S
thと比較される。その比較の結果、部分放電信号が放電判定しきい値S
thを超える場合には部分放電が発生したと判断される。放電回数算出プログラム9は、このようにして部分放電の発生回数である部分放電回数C
pdをカウント(算出)する。
【0032】
ステップS11では、規定回数C
thと部分放電回数C
pdとが比較される。部分放電回数C
pdが規定回数C
th未満である場合(ステップS11で「NO」)、ステップS12に進む。なお、本実施形態では、規定回数C
thは、例えば前述した規定個数「10」の1/2である「5」としている。ステップS12では、電圧制御プログラム6により、指示電圧Vaが更新される。具体的には、指示電圧Vaは、そのときの指示電圧Vaより所定電圧ΔV(例えば10V、100Vなど)だけ高くした電圧に設定される(Va=Va+ΔV)。
【0033】
ステップS13では、指示電圧Vaが上限値V
maxを超えていないか否かが判断される。このステップS13は、故障など何らかの原因により、指示電圧Vaを上昇させ続けても部分放電回数C
pdが規定回数C
th以上にならない場合などにおいて、無限ループに陥ることを予防するために設けられている。そのため、上限値V
maxは、通常想定される部分放電開始電圧よりも十分高い電圧値に設定するとよい。指示電圧Vaが上限値V
maxを超えている場合(ステップS13で「YES」)、そのまま処理を終了する。一方、指示電圧Vaが上限値V
max以下である場合(ステップS13で「NO」)、ステップS4に戻り、ステップS4以降の処理が再度実行される。
【0034】
一方、部分放電回数C
pdが規定回数C
th以上である場合(ステップS11で「YES」)、ステップS14に進む。ステップS14では、電圧値算出プログラム10により、このときに電動機2に印加された電圧値V
pdivが算出され、処理が終了する。このステップS14において算出された電圧値V
pdivが、繰り返しインパルスにおける部分放電開始電圧となる。
【0035】
上記処理に基づく本実施形態の部分放電計測によれば、部分放電回数C
pdが規定回数C
th以上(ステップS11で「YES」)になるまで、10個のインパルス電圧が印加される度にインパルス電圧のピーク値が所定電圧ΔVずつ段階的に上昇されるという繰り返しパターンに従うインパルス電圧が電動機2に印加される。
図6は、このような部分放電計測における印加電圧波形および部分放電信号を示している。
図6において、指示電圧Vaの初期値をV0(例えば1kV)とし、所定電圧ΔVを例えば100Vとし、n回目更新後の指示電圧VaをVnとして表している。この
図6に示すように、指示電圧Vaが電圧V0〜V5のとき、部分放電回数C
pdは規定回数C
th未満である。そして、指示電圧Vaが電圧V6のとき、初めて部分放電回数C
pdが規定回数C
th以上となる。従って、この場合、電圧V6(例えば1.6kV)が部分放電開始電圧であると判定され、
インパルス電圧の停止が停止される。
【0036】
このようにして部分放電開始電圧を求めた後、さらに部分放電消滅電圧を計測することも可能である。この場合、電圧制御プログラム6は、同一のピーク値を持つ規定個数のインパルス電圧が印加される度にインパルス電圧のピーク値を段階的に低下させるという繰り返しパターンに従うインパルス電圧が電動機2に印加されるように、インパルス電源3を制御する。
図7は、部分放電開始電圧および部分放電消滅の計測手順を示すフローチャートである。
【0037】
図7において、ステップS1〜S14までは
図2と同様である。そして、ステップS14において電圧値算出プログラム10により電圧値V
pdiv(部分放電開始電圧)が算出された後、ステップT1に移行する。ステップT1では、電圧制御プログラム6により、指示電圧Vaが更新される。具体的には、指示電圧Vaは、そのときの指示電圧Vaから所定電圧ΔV(例えば10V、100Vなど)だけ低くした電圧に設定される(Va=Va−ΔV)。
【0038】
ステップT2では、指示電圧Vaが下限値V
minを下回っていないか否かが判断される。このステップT2は、
図2に示したステップS13と同様の理由で設けられている。そのため、下限値V
minは、通常想定される部分放電消滅電圧よりも十分低い電圧値に設定するとよい。指示電圧Vaが下限値V
minを下回っている場合(ステップT2で「YES」)、そのまま処理を終了する。一方、指示電圧Vaが下限値
min以上である場合(ステップT2で「NO」)、
図2に示したステップS4〜S10と同様の処理が実行された後、ステップT3に移行する。
【0039】
ステップT3では、規定回数C
thと部分放電回数C
pdとが比較される。部分放電回数C
pdが規定回数C
th以上である場合(ステップT3で「YES」)、ステップT1に戻る。一方、部分放電回数C
pdが規定回数C
th未満である場合(ステップT3で「NO」)、ステップT4に進む。ステップT4では、電圧値算出プログラム10により、このときに電動機2に印加された電圧値V
pdevが算出され、処理が終了する。このステップT4において算出された電圧値V
pdevが繰り返しインパルスにおける部分放電消滅電圧となる。
【0040】
以上説明したように、本実施形態の部分放電計測システム1は、規定個数のインパルス電圧を電動機2に印加し、その度に部分放電回数C
pdを算出する。ユーザは、部分放電計測システム1により取得される部分放電回数Cpdなどを用いることで、部分放電開始電圧の計測、部分放電消滅電圧の計測など、様々な部分放電の計測作業を行うことが可能となる。このように、本実施形態の部分放電計測システム1によれば、ユーザがメータや表示数値を読み取るなど、計測精度に影響を及ぼすような作業を行う機会が少なくなるため、精度の高い部分放電の計測を行うことができるという効果が得られる。
【0041】
そして、部分放電開始電圧の計測が行われる際、部分放電回数C
pdが規定回数C
th以上と判断された時点でインパルス電圧の印加が即座に停止される。また、部分放電消滅電圧の計測が行われる際、部分放電回数C
pdが規定回数C
th未満と判断された時点でインパルス電圧の印加が即座に停止される。このようなことから、部分放電計測に要する時間が短縮されるという効果が得られる。さらに、測定対象物である電動機2の巻線に対する過剰な電圧印加が抑制され、測定対象物に対して余分なダメージを与えてしまう事態を未然に防止することができるという効果が得られる。
【0042】
また、計測制御装置5は、規定個数のインパルス電圧が印加される度に印加電圧波形や部分放電信号を観測する。そのため、計測制御装置5に各種のデータ(印加電圧波形や部分放電信号を表すデータ)が取り込まれる時間は、インパルス電圧の印加時間に限定される。このようにデータ取り込み時間が限定されることにより、大量のメモリを備えていない比較的安価な装置(例えばパーソナルコンピュータ)を用いて計測制御装置5を構成することが可能となる。
【0043】
本実施形態の部分放電計測システム1を用いて、部分放電開始電圧とともに部分放電消滅電圧を計測しておけば、電動機2の巻線について耐圧等を設定する際において、安全に対するマージンを確実に設定することが可能となる。また、部分放電開始電圧または部分放電消滅電圧が算出された前後の電圧値に対応した部分放電回数C
pdも考慮して、上記耐圧等の設定を行えば、安全に対するマージンを一層確実に設定することが可能となる。
【0044】
放電回数算出プログラム9は、印加電圧波形観測回路8により観測された印加電圧波形に基づいて規定時間帯を決定し(マスク処理の実施)、その規定時間帯において発生した部分放電をカウントの対象としている。そのため、部分放電信号に重畳されるノイズの影響が極力排除され、部分放電の計測精度を高めることができるという効果が得られる。また、放電回数算出プログラム9は、絶対値処理が施された後の部分放電信号に基づいて部分放電の発生回数をカウントする。そのため、部分放電信号観測回路11から出力される部分放電信号が高い周波数の減衰振動波形となっていたとしても、一定値である放電判定しきい値S
thとの比較により、部分放電の判定を正確に行うことができるという効果が
得られる。
【0045】
さて、初期電圧V0として低い電圧値(例えば0V)が設定された場合、部分放電が発生する電圧(例えば、数kV)まで昇圧させるには多大な時間を要することになる。部分放電が発生する電圧(部分放電開始電圧、部分放電消滅電圧)は、ばらつきが大きいデータであるため、複数回の測定値を平均して一つのデータとすることが一般的である。そのため、1回の計測に多くの時間を要することは試験効率の悪化に繋がる。そこで、部分放電計測の準備段階において、次のような試験を実施することにより部分放電開始電圧の概略値を把握するとよい。
【0046】
すなわち、電動機2に対し、所定のピーク値を持つインパルス電圧(または交流電圧)を1発ずつ印加し、その度に部分放電の検出を行う。そして、部分放電が発生したときの電圧のピーク値を部分放電開始電圧の概略値とする。このような準備段階における簡易的な試験により、部分放電開始電圧の概略値(部分放電開始概略電圧値に相当)を把握しておき、その概略値に基づいて初期電圧V0を設定すればよい。例えば、概略値に対して所定の割合(例えば50%など)をかけたものを初期電圧V0として設定すればよい。このように初期電圧V0を設定すれば、低い初期電圧V0が設定された場合に比べ、部分放電が発生する電圧に達するまでの時間が短縮され、部分放電計測の試験効率が向上するという効果が得られる。
【0047】
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態について
図8〜
図10を参照しながら、第1の実施形態と異なる部分を主体に説明する。
図8は、第1の実施形態における
図1相当図であり、本実施形態の構成を示すブロック図である。本実施形態の部分放電計測システム21は、第1の実施形態の部分放電計測システム1に対し、計測制御装置5に代えて計測制御装置22を備えている点が異なっている。計測制御装置22は、計測制御装置5が備える構成に加え、繰り返し回数制御プログラム23およびデータ保存装置24を備えている。
【0048】
繰り返し回数制御プログラム23(反復実行制御手段に相当)は、設定された回数だけ部分放電(部分放電開始電圧、部分放電消滅電圧)の計測を繰り返し実行させるものである。データ保存装置24(データ記録手段に相当)は、データ保存プログラム25および例えばハードディスクなどの磁気記憶装置26を備えている。データ保存装置24は、放電回数算出プログラム9が算出した部分放電回数、電圧値算出プログラム10が算出した電圧値などをデータ保存プログラム25によってファイル化し、磁気記憶装置26に保存する。
【0049】
次に、上記構成の部分放電計測システム21により部分放電開始電圧を計測する方法について説明する。
図9は、第1の実施形態における
図2相当図であり、本実施形態における部分放電開始電圧の計測手順を示すフローチャートである。
図9に示す本実施形態の計測手順は、
図2に示した第1の実施形態の計測手順に対し、ステップU1、U2が追加されている点が異なっている。
【0050】
ステップS14において、電圧値算出プログラム10により電圧値V
pdiv(部分放電開始電圧に相当)が算出された後、ステップU1に移行する。ステップU1では、データ保存プログラム25により、電圧値V
pdivがファイル化されて磁気記憶装置26に保存される。続くステップU2では、部分放電開始電圧の計測が規定の繰り返し回数だけ実施されたか否かが判断される。部分放電開始電圧の計測が繰り返し回数だけ実施されていない場合(ステップU2で「NO」)、ステップS3に戻り、部分放電開始電圧の計測が再度実施される。一方、部分放電開始電圧の計測が繰り返し回数だけ実施されていた場合(ステップU2で「YES」)、処理が終了する。
【0051】
次に、上記構成の部分放電計測システム21により部分放電開始電圧および部分放電消滅電圧を計測する方法について説明する。
図10は、第1の実施形態における
図7相当図であり、本実施形態における部分放電開始電圧および部分放電消滅電圧の計測手順を示すフローチャートである。
図9に示す本実施形態の計測手順は、
図7に示した第1の実施形態の計測手順に対し、ステップV1、V2が追加されている点が異なっている。
【0052】
ステップT4において、電圧値算出プログラム10により電圧値V
pdev(部分放電消滅電圧に相当)が算出された後、ステップV1に移行する。ステップV1では、データ保存プログラム25により、電圧値V
pdivおよび電圧値V
pdevがファイル化されて磁気記憶装置26に保存される。続くステップV2では、部分放電開始電圧および部分放電消滅電圧の計測が規定の繰り返し回数だけ実施されたか否かが判断される。各計測が繰り返し回数だけ実施されていない場合(ステップV2で「NO」)、ステップS3に戻り、部分放電開始電圧および部分放電消滅電圧の計測が再度実施される。一方、各計測が繰り返し回数だけ実施されていた場合(ステップV2で「YES」)、処理が終了する。
【0053】
以上説明したように、本実施形態の部分放電計測システム21は、計測制御装置5のアプリケーションプログラムにより、算出された部分放電開始電圧がファイル化されて保存される。一般に、部分放電開始電圧や部分放電消滅電圧は計測値のばらつきが大きく、一つの測定条件下で複数回の計測を実施して得られたデータを統計処理することが多い。そのため、本実施形態によれば、ユーザ(測定者)が毎回メータや表示数値を読み取って計測結果(部分放電発生回数、部分放電開始電圧、部分放電消滅電圧など)を筆記する必要がなく、測定時間が短縮できることに加えて、計測結果の平均を求めるなどの統計処理を容易に行うことができるという効果が得られる。
【0054】
(その他の実施形態)
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
しきい値設定プログラム12による放電判定しきい値S
thの取得および初期電圧取得プログラム7による初期電圧V0の取得は、どちらを先に実施してもよい。すなわち、
図2などにおけるステップS1、S2の順番を入れ替えてもよい。放電回数算出プログラム9によるマスク処理および絶対値処理は、どちらを先に実施してもよい。すなわち、
図2などにおけるステップS8、S9の順番を入れ替えてもよい。
【0055】
マスク処理および絶対値処理は、省略することも可能である。その場合、放電回数算出プログラム9は、部分放電信号観測回路11から出力される部分放電信号を用いて部分放電の発生回数をカウントすればよい。放電回数算出プログラム9によるマスク処理において、インパルス電圧(印加電圧波形)のピーク付近の期間(
図3の時刻t2を中心とし、その前後の所定期間)を規定時間帯としてもよい。このようにしても、インパルス電圧の立ち上がりおよび立ち下がりにおけるノイズの影響を排除できる。また、比較的影響が大きいと考えられる立ち上がり時のノイズの影響を排除できればよい場合には、次のようにしてもよい。すなわち、規定時間帯の始点をインパルス電圧の立ち上がり開始から所定時間経過後の時点(例えば
図3の時刻t1)にし、規定時間帯の終点を、インパルス電圧のピーク近傍より後の時点の任意の時点としてもよい。
【0056】
しきい値設定プログラム12は、次のようにして放電判定しきい値S
thを取得してもよい。すなわち、電動機2に対するインパルス電圧の印加が停止されている状態において、部分放電信号観測回路11により部分放電信号を所定期間だけ観測する。そして、その所定期間に観測された部分放電信号の最大値に基づいて放電判定しきい値S
thを決定する。例えば、上記最大値に対して所定のマージンを加えた値を放電判定しきい値S
thとして取得するとよい。一般に、部分放電検出装置4から出力される部分放電信号は微弱であるため、ノイズによる影響を受け易い。上記したように放電判定しきい値S
thを設定すれば、このようなノイズの影響を受けることなく、部分放電の発生回数を正確にカウントすることができるという効果が得られる。
【0057】
図2などにおけるステップS13(指示電圧Vaと上限値V
maxとの比較)、
図7などにおけるステップT2(指示電圧Vaと下限値V
minとの比較)は、必要に応じて設ければよい。
計測制御装置5、22は、パーソナルコンピュータをベースとする構成に限らずともよく、例えば部分放電の計測を制御するための専用の装置として構成してもよい。
これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。