(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6458003
(24)【登録日】2018年12月28日
    
      
        (45)【発行日】2019年1月23日
      
    (54)【発明の名称】自動車車体パネルの製造に好適なアルミニウム合金材料およびその生成方法
(51)【国際特許分類】
   C22C  21/06        20060101AFI20190110BHJP        
   C22C  21/02        20060101ALI20190110BHJP        
   C22F   1/05        20060101ALI20190110BHJP        
   C22F   1/00        20060101ALN20190110BHJP        
【FI】
   C22C21/06
   C22C21/02
   C22F1/05
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 613
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 630M
   !C22F1/00 640A
   !C22F1/00 681
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 684C
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 686Z
   !C22F1/00 691A
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 692A
   !C22F1/00 692B
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 694B
【請求項の数】23
【全頁数】19
      (21)【出願番号】特願2016-507974(P2016-507974)
(86)(22)【出願日】2013年9月29日
    
      (65)【公表番号】特表2016-522320(P2016-522320A)
(43)【公表日】2016年7月28日
    
      (86)【国際出願番号】CN2013084591
    
      (87)【国際公開番号】WO2014169585
(87)【国際公開日】20141023
    【審査請求日】2016年9月7日
      (31)【優先権主張番号】201310138522.3
(32)【優先日】2013年4月19日
(33)【優先権主張国】CN
    【前置審査】
      
        
          (73)【特許権者】
【識別番号】511136049
【氏名又は名称】北京有色金属研究総院
【氏名又は名称原語表記】General  Research  Institute  for  Nonferrous  Metals
          (74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
        
      
      
        (72)【発明者】
          【氏名】熊  柏  青
              
            
        
        (72)【発明者】
          【氏名】李  錫  武
              
            
        
        (72)【発明者】
          【氏名】張  永  安
              
            
        
        (72)【発明者】
          【氏名】李  志  輝
              
            
        
        (72)【発明者】
          【氏名】劉  紅  偉
              
            
        
        (72)【発明者】
          【氏名】王  鋒
              
            
        
      
    
      【審査官】
        松本  陶子
      
    (56)【参考文献】
      
        【文献】
          特開2003−221637(JP,A)      
        
        【文献】
          特開2009−041045(JP,A)      
        
        【文献】
          特開平08−074014(JP,A)      
        
        【文献】
          特開2006−299342(JP,A)      
        
      
    (58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C    21/06        
C22C    21/02        
C22F      1/05        
C22F      1/00        
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
  自動車車体パネルの製造に好適なアルミニウム合金材料を含むアルミニウム合金板であって、アルミニウム合金材料の総重量に基づき、
  Si:0.6〜1.2wt%、
  Mg:0.7〜1.3wt%、
  Zn:0.25〜0.8wt%、
  Cu:0.05〜0.20wt%、
  Mn:0.05〜0.25wt%、
  Zr:0.05〜0.20wt%、ならびに
  残り:Alおよび付帯元素、を含み、
  アルミニウム合金材料は、
  2.30wt%≦(Si+Mg+Zn+2Cu)≦3.20wt%
  という不等式を満たす、アルミニウム合金材料を含む、アルミニウム合金板であって、
  前記アルミニウム合金板は降伏強度が≦150MPa、伸び率が≧25%であり、170〜180℃で20〜30分間の焼成処理を施した後、アルミニウム合金板の降伏強度が≧220MPa、引張強度が≧290MPaであり、焼成後のアルミニウム合金板の降伏強度が90MPa以上増加される、アルミニウム合金板。
【請求項2】
  アルミニウム合金材料の総重量に基づき、
  Si:0.6〜1.2wt%、
  Mg:0.7〜1.2wt%、
  Zn:0.3〜0.6wt%、
  Cu:0.05〜0.20wt%、
  Mn:0.05〜0.15wt%、
  Zr:0.05〜0.15wt%、ならびに
  残り:Alおよび付帯元素、を含み、
  アルミニウム合金材料は、
  2.50wt%≦(Si+Mg+Zn+2Cu)≦3.00wt%
  という不等式を満たす、請求項1に記載の自動車車体パネルの製造に好適なアルミニウム合金板。
【請求項3】
  アルミニウム合金材料は、
  0.75≦10Mg/(8Si+3Zn)≦1.15
  という不等式を満たす、請求項1または2に記載の自動車車体パネルの製造に好適なアルミニウム合金板。
【請求項4】
  アルミニウム合金材料は、
  0.15wt%≦(Mn+Zr)≦0.25wt%
  という不等式を満たす、請求項1または2に記載の自動車車体パネルの製造に好適なアルミニウム合金板。
【請求項5】
  前記付帯元素は不純物であるか、または、アルミニウム合金インゴットの製造の際に結晶微細化剤によって取り込まれ、前記付帯元素は、Feと、Tiと、他の付帯元素から選択される1つ以上の付帯元素とを含み、Fe≦0.40wt%、Ti≦0.15wt%、他の各付帯元素≦0.15wt%、および他の付帯元素の合計≦0.25wt%である、請求項1または2に記載の自動車車体パネルの製造に好適なアルミニウム合金板。
【請求項6】
  Fe≦0.20wt%、Ti≦0.10wt%、他の各付帯元素≦0.05wt%、および他の付帯元素の合計≦0.15wt%である、請求項5に記載の自動車車体パネルの製造に好適なアルミニウム合金板。
【請求項7】
  前記アルミニウム合金材料中で、Fe≦2Mnであり、Feは付帯元素である、請求項1または2に記載の自動車車体パネルの製造に好適なアルミニウム合金板。
【請求項8】
  請求項1に記載のアルミニウム合金板であって、
  前記アルミニウム合金板は降伏強度が≦140MPa、伸び率が≧26%であり、170〜180℃で20〜30分間の焼成処理を施した後、アルミニウム合金板の降伏強度が≧235MPa、引張強度が≧310MPaであり、焼成後のアルミニウム合金板の降伏強度が100MPa以上増加される、アルミニウム合金板。
【請求項9】
  請求項8に記載のアルミニウム合金板であって、
  前記アルミニウム合金板は降伏強度が≦140MPa、伸び率が≧27%であり、170〜180℃で20〜30分間の焼成処理を施した後、アルミニウム合金板の降伏強度が≧245MPa、引張強度が≧330MPaであり、焼成後のアルミニウム合金板の降伏強度が110MPa以上増加される、アルミニウム合金板。
【請求項10】
  前記アルミニウム合金板は、製品を形成するために、板摩擦攪拌溶接、溶融溶接、はんだ付け/ろう付け、電子ビーム溶接、レーザー溶接、およびそれらの任意の組合せからなる群から選択される手段によって、それ自体と、または別の合金とともに溶接される、請求項1に記載のアルミニウム合金板。
【請求項11】
  請求項1に記載のアルミニウム合金板を生成する方法であって、
  (1)請求項1に記載のアルミニウム合金材料から鋳造インゴットを生成するステップと、
  (2)結果として生じたインゴットを均質化するステップと、
  (3)所望の仕様を有するアルミニウム合金板を生成するために、均質化されたインゴットを、熱間圧延プロセスおよび冷間圧延プロセスを介して変形させるステップと、
  (4)変形したアルミニウム合金板を固溶化熱処理するステップと、
  (5)処理したアルミニウム合金板を室温まで急冷するステップと、
  (6)アルミニウム合金板を自然時効または人工事前時効するステップとを含む、請求項1に記載のアルミニウム合金板を生成する方法。
【請求項12】
  ステップ(1)において、鋳造インゴットは、溶融、脱気、含有物の除去、およびDC鋳造というステップによって生成され、溶融中、元素の濃度は、コア元素としてのMgおよびZnの使用によって正確に制御され、合金元素の比率は、鋳造インゴットの生成を完了するように、成分のオンライン検出および分析によって迅速に補足および調節される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
  ステップ(1)は、溶融、脱気、含有物の除去、およびDC鋳造というプロセス中、電磁撹拌、超音波撹拌、または機械的撹拌をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
  ステップ(2)において、均質化処理は、
  1)360〜560℃の温度範囲で16〜60時間、1℃/時間〜30℃/時間(1℃/時間を除く)の加熱速度で行なわれる漸進的均質化処理、および
  2)400〜560℃の温度範囲で合計12〜60時間行なわれる多段階均質化処理、
  からなる群から選択される手段によって実行される、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
  ステップ(3)において、
  1)まずインゴットに、炉加熱の態様で380〜460℃の温度で1〜6時間、予熱処理を施し、次に、初期圧延温度が380〜450℃、終了圧延温度が320〜400℃で変形量が60%を上回る熱間圧延変形処理を、交互方向または順方向に施して、5〜10mmの厚さを有する熱間圧延ブランクを生成する手順、
  2)熱間圧延ブランクに、350〜450℃の温度、0.5〜10時間の保持時間で中間アニール処理を施す手順、および
  3)中間アニールの完了後、ブランクに、室温から200℃までの温度で総変形が65%を上回る冷間圧延変形プロセスを施して、所望の厚さ仕様の製品を生成する手順、
  が実行される、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
  ステップ(3)において、冷間圧延変形プロセスのパス間で、第2の中間アニール処理が、350〜450℃/0.5〜3時間で実行される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
  ステップ(4)において、固溶化熱処理は、
  1)440〜560℃の温度で合計0.1〜3時間行なわれる2段階または多段階固溶化熱処理、および
  2)440〜560℃の温度で合計0.1〜3時間行なわれる漸進的固溶化熱処理、
  からなる群から選択される態様で実行される、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
  固溶化熱処理は、漸進的な態様で実行されるステップであり、0℃/分<加熱速度<60℃/分である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
  ステップ(5)において、アルミニウム合金板は、冷媒噴霧焼入れ、強制空冷焼入れ、浸漬焼入れ、およびそれらの任意の組合せからなる群から選択される手段によって、室温まで急冷される、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
  ステップ(6)において、時効処理は、
  1)焼入れ冷却の完了後、40℃以下の周囲温度で14日間以上行なわれる自然時効処理、
  2)焼入れ冷却の完了から2時間以内に60〜200℃の温度で合計1〜600分間行なわれる1段階、2段階、または多段階人工時効処理、および
  3)焼入れ冷却の完了後に行なわれる自然時効処理と人工時効処理との組合せ、
  からなる群から選択される手段によって実行され、人工時効処理は60〜200℃の温度で1〜600分間実行され、自然時効処理は2〜360時間実行される、請求項11に記載の方法。
【請求項21】
  板の欠陥を取り除いて板の平坦性を高め、それにより次の処理を容易にするために、圧延歪み取り、引張歪み取り、伸張曲げ歪み取り、および任意の組合せからなる群から選択される手段によって、冷却された板の歪みを取る追加のステップを、ステップ(5)とステップ(6)との間にさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項22】
  請求項1〜9のいずれか1項に記載のアルミニウム合金板から生成される、最終部品。
【請求項23】
  最終部品は、自動車車体の外部または内部パネルである、請求項22に記載の最終部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
  この発明は、アルミニウム合金(Al合金としても公知)およびその調製の分野に関し、特に、国際アルミニウム協会(International Aluminum Association)に登録された6xxxシリーズのアルミニウム合金(すなわち、Al−Mg−Si系アルミニウム合金)に関する。特に、この発明は、自動車車体パネルの製造に好適なアルミニウム合金材料およびその生成方法に関する。
 
【背景技術】
【0002】
  自動車産業の発展は、人間の文明および社会の進歩の重要な象徴であり、経済発展の強力な原動力でもある。しかしながら、自動車産業の急速な発展により、エネルギー消費および環境汚染を含む、結果として生じる問題が、ますます深刻になっている。このため、燃料油の消費、ならびに大気へのCO
2や有害ガスおよび有害粒子の放出を減少させることは、自動車分野における重要な研究課題となっている。
【0003】
  自動車燃料の消費率を減少させ、エネルギーを節約する効果的な方法として、自動車の軽量化が、世界中の自動車産業の開発傾向となっている。自動車部品を構成するために、特に、自動車の総重量の30%を含む自動車車体を構成するために軽量材料を使用することは、自動車の軽量化の重要な方法である。アルミニウム合金は、軽量、耐摩耗性、耐食性、高い比強度、良好な耐衝撃性、表面の着色し易さ、修復性などを含むそれらのさまざまな特性により、自動車の製造にとって望ましい軽量材料である。とりわけ、6xxxシリーズのアルミニウム合金は、自動車車体の製造にとって最も有望なアルミニウム合金材料であると考えられている。
【0004】
  自動車産業発展のアルミニウム合金車体パネルについての要件をさらに満たすために、中国および外国のいくつかの研究所および企業が、良好な性能を有する自動車車体パネル用のさまざまなアルミニウム合金材料を、最近たて続けに開発した。たとえば、中国発明特許出願CN101880805Aは、自動車車体パネル用のAl−Mg−Si系アルミニウム合金であって、本質的に、Si:0.75〜1.5wt%、Fe:0.2〜0.5wt%、Cu:0.2〜1.0wt%、Mn:0.25〜1.0wt%、Mg:0.75〜1.85wt%、Zn:0.15〜0.3wt%、Cr:0.05%〜0.15wt%、Ti:0.05〜0.15wt%、Zr:0.05〜0.35wt%、残り:Al、からなる自動車車体パネル用のAl−Mg−Si系アルミニウム合金、およびその調製方法を開示している。この材料は、微量のZnと、6111アルミニウム合金におけるCuレベルに近い、またはそれよりさらに多い量のCuとを含む。しかしながら、そのような材料は、送出条件下での比較的高い降伏強度と、焼成硬化に対する限定された反応能力(約50MPa)とを呈する、ということが、実施例で提供された性能結果から分かる。また、中国発明特許出願CN101935785Bは、本質的に、Si:0.50〜1.20wt%、Mg:0.35〜0.70wt%、Cu:0.01〜0.20wt%、Mn:0.05〜0.20wt%、Cr≦0.10wt%、Zn:0.01〜0.25wt%、Ti≦0.15wt%、Fe:0.05〜0.15wt%、残り:Al、からなる、自動車車体パネル用の高成形性アルミニウム合金を開示している。これらのアルミニウム合金材料は、比較的少ないレベルで制御される量のCuを含み、さらに微量のZn元素を混込んでおり、微量元素の濃度で制御される。そのような材料は、良好な成形性と焼成硬化に対する反応能力とを呈するものの、焼成後の材料の強度性能はさらに改良すべきである、ということが、実施例で提供された性能結果から分かる。
 
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
  自動車車体パネル用の既存のアルミニウム合金材料の性能の欠陥を克服するために、高い焼成硬化性および良好な成形性を双方とも呈する自動車車体パネル用の新しいアルミニウム合金材料を開発する必要性が、依然として存在する。
 
【課題を解決するための手段】
【0006】
  発明の概要
  この発明は、自動車車体パネルの製造に好適なアルミニウム合金材料であって、アルミニウム合金材料の総重量に基づき、Si:0.6〜1.2wt%、Mg:0.7〜1.3wt%、Zn:0.25〜0.8wt%、Cu:0.01〜0.20wt%、Mn:0.01〜0.25wt%、Zr:0.01〜0.20wt%、ならびに、残り:Alおよび付帯元素、を含み、アルミニウム合金材料は、2.30wt%≦(Si+Mg+Zn+2Cu)≦3.20wt%という不等式を満たす、アルミニウム合金材料を提供する。
【0007】
  好ましくは、アルミニウム合金材料は、アルミニウム合金材料の総重量に基づき、Si:0.6〜1.2wt%、Mg:0.7〜1.2wt%、Zn:0.3〜0.6wt%、Cu:0.05〜0.20wt%、Mn:0.05〜0.15wt%、Zr:0.05〜0.15wt%、ならびに、残り:Alおよび付帯元素、を含み、アルミニウム合金材料は、2.50wt%≦(Si+Mg+Zn+2Cu)≦3.00wt%という不等式を満たす。
【0008】
  この発明はさらに、アルミニウム合金材料を生成する方法であって、
  (1)この発明に従ったアルミニウム合金材料から鋳造インゴットを生成するステップと、
  (2)生成されたインゴットを均質化するステップと、
  (3)所望の仕様を有するアルミニウム合金板を生成するために、均質化されたインゴットを、熱間圧延プロセスおよび冷間圧延プロセスを介して変形させるステップと、
  (4)変形したアルミニウム合金板を固溶化熱処理するステップと、
  (5)処理したアルミニウム合金板を室温まで急冷するステップと、
  (6)アルミニウム合金板を自然時効または人工事前時効するステップとを含む、方法を提供する。
【0009】
  この発明はさらに、この発明に従ったアルミニウム合金材料から作られた最終部品を提供する。好ましくは、最終部品は、自動車の外部または内部パネルを含む。
 
 
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】この発明に従った合金、6016アルミニウム合金、6111アルミニウム合金、および6022アルミニウム合金の本質的性能の比較を示す。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0011】
  発明の詳細な説明
  自動車車体パネル用の既存の市販の6xxxシリーズの(Al−Mg−Si系)アルミニウム合金が、比較的単純な析出順序と主要強化相タイプとを呈すること、および焼成硬化に対する望ましい反応能力を提供する見込みがないこと、という問題に対処するために、発明者らは、既存の6xxxシリーズのアルミニウム合金にさまざまな改良を加えている。それらのうち、適量のZnが主要合金元素として混込まれて、新しい時効析出順序を合金に提供し、それにより、合金の焼成時効硬化に対する反応能力を著しく高める。合金元素Cuの濃度を比較的低いレベルで制御することにより、合金時効硬化の反応速度を適切に増加させつつ、合金の比較的良好な耐食性を維持することが可能である。一方、マイクロ合金化に使用される、Zr、Mnなどを含む補助合金元素は、材料構造の改善と、材質特性および表面品質の改良とを容易にすることができる。合金の成分レベルおよび元素比率の改善および最適化は、優れた性能整合の獲得を確実にするための重要な保証である。合理的な設計を通して、合金は、焼成時効中、良好な成形性を維持しつつ、Mg
2Si構造およびMgZn
2構造の強化相を協調的に析出させることができ、そのため、この発明に従った6xxxシリーズの合金は、従来の焼成処理中に迅速な時効硬化反応を達成し、より優れたサービス強度を得ることができる。発明者らはまた、さまざまな合金元素の混込みによって生じた多次元合金構造の複雑化が、その調製プロセスの設計を最適化することによって整合され調整される必要がある、ということを発見している。
 
【0012】
  このため、この発明は、自動車車体パネルの製造に好適なアルミニウム合金材料であって、アルミニウム合金材料の総重量に基づき、Si:0.6〜1.2wt%、Mg:0.7〜1.3wt%、Zn:0.25〜0.8wt%、Cu:0.01〜0.20wt%、Mn:0.01〜0.25wt%、Zr:0.01〜0.20wt%、ならびに、残り:Alおよび付帯元素、を含み、アルミニウム合金材料は、2.30wt%≦(Si+Mg+Zn+2Cu)≦3.20wt%という不等式を満たす、アルミニウム合金材料を提供する。
 
【0013】
  一局面では、アルミニウム合金材料は、アルミニウム合金材料の総重量に基づき、Si:0.6〜1.2wt%、Mg:0.7〜1.2wt%、Zn:0.3〜0.6wt%、Cu:0.05〜0.20wt%、Mn:0.05〜0.15wt%、Zr:0.05〜0.15wt%、ならびに、残り:Alおよび付帯元素、を含み、アルミニウム合金材料は、2.50wt%≦(Si+Mg+Zn+2Cu)≦3.00wt%という不等式を満たす。
 
【0014】
  別の局面では、アルミニウム合金材料は、0.75≦10Mg/(8Si+3Zn)≦1.15という不等式を満たす。
 
【0015】
  さらに別の局面では、アルミニウム合金材料は、0.15wt%≦(Mn+Zr)≦0.25wt%という不等式を満たす。
 
【0016】
  さらに別の局面では、アルミニウム合金材料の付帯元素は、不純物であるか、またはアルミニウム合金インゴットの製造の際に結晶微細化剤によって取り込まれた元素(すなわち、必須合金元素に加えての、Fe、Ti、Cr、Ni、V、Ag、Bi、Ga、Li、Pb、Sn、Bなどを含む金属または非金属元素)を指す。この発明に従った付帯元素は、Feと、Tiと、他の付帯元素から選択される1つ以上の付帯元素とを含み、Fe≦0.40wt%、Ti≦0.15wt%、他の各付帯元素≦0.15wt%、および他の付帯元素の合計≦0.25wt%である。好ましくは、アルミニウム合金材料では、Fe≦0.20wt%、Ti≦0.10wt%、他の各付帯元素≦0.05wt%、および他の付帯元素の合計≦0.15wt%である。
 
【0017】
  さらに別の局面では、アルミニウム合金材料では、不純物元素Feとマイクロ合金化元素Mnとは、Fe≦2Mnという不等式を満たす。
 
【0018】
  また、この発明はさらに、アルミニウム合金材料を生成する方法であって、
  (1)この発明に従ったアルミニウム合金材料から鋳造インゴットを生成するステップと、
  (2)生成されたインゴットを均質化するステップと、
  (3)所望の仕様を有するアルミニウム合金板を生成するために、均質化されたインゴットを、熱間圧延プロセスおよび冷間圧延プロセスを介して変形させるステップと、
  (4)変形したアルミニウム合金板を固溶化熱処理するステップと、
  (5)処理したアルミニウム合金板を室温まで急冷するステップと、
  (6)アルミニウム合金板を自然時効または人工事前時効するステップとを含む、方法を提供する。
 
【0019】
  それらのうち、ステップ(1)において、鋳造インゴットは、溶融、脱気、含有物の除去、およびDC鋳造というステップによって生成され、溶融中、元素の濃度は、コア元素としてのMgおよびZnの使用によって正確に制御され、合金元素の比率は、鋳造インゴットの生成を完了するように、成分のオンライン検出および分析によって迅速に補足および調節される。好ましい一局面では、ステップ(1)は、溶融、脱気、含有物の除去、およびDC鋳造というプロセス中、電磁撹拌、超音波撹拌、または機械的撹拌をさらに含む。
 
【0020】
  ステップ(2)において、均質化処理は、1)360〜560℃の温度範囲で16〜60時間行なわれる漸進的均質化処理、および、2)400〜560℃の温度範囲で12〜60時間行なわれる多段階均質化処理、からなる群から選択される手段によって実行される。好ましくは、多段階均質化処理は3〜6段階で実行され、第1段階の温度は465℃より低く、最終段階の温度は540℃より高く、保持時間は6時間を上回る。
 
【0021】
  ステップ(3)において、1)まずインゴットに、炉加熱の態様で380〜460℃の温度で1〜6時間、予熱処理を施し、次に、初期圧延温度が380〜450℃、終了圧延温度が320〜400℃で変形量が60%を上回る熱間圧延変形処理を、交互方向または順方向に施して、5〜10mmの厚さを有する熱間圧延ブランクを生成する手順、2)熱間圧延ブランクに、350〜450℃の温度、0.5〜10時間の保持時間で中間アニール処理を施し、空冷する手順、および、3)アニールされたブランクに、室温から200℃までの温度で総変形が65%を上回る冷間圧延変形プロセスを施して、所望の厚さ仕様の製品を生成する手順、が実行される。好ましくは、ステップ(3)において、冷間圧延変形プロセスのパス間で、第2の中間アニール処理が、350〜450℃/0.5〜3時間で実行される。
 
【0022】
  ステップ(4)において、固溶化熱処理はさらに、板における再結晶化構造の粒径および割合を性能要件に従って調節し、また、1)炉加熱の態様で440〜560℃の温度で合計0.1〜3時間行なわれる2段階または多段階固溶化熱処理、および、2)440〜560℃の温度で合計0.1〜3時間行なわれる漸進的固溶化熱処理、からなる群から選択される態様で実行される。好ましい一局面では、このステップは、漸進的な態様で実行され、0℃/分<加熱速度<60℃/分である
  ステップ(5)において、アルミニウム合金板は、冷媒噴霧焼入れ、強制空冷焼入れ、浸漬焼入れ、およびそれらの任意の組合せからなる群から選択される手段によって、室温まで急冷される。
 
【0023】
  ステップ(6)において、時効処理は、1)焼入れ冷却の完了後、40℃以下の周囲温度で14日間以上行なわれる自然時効処理、2)焼入れ冷却の完了から2時間以内に60〜200℃の温度で合計1〜600分間行なわれる1段階、2段階、または多段階人工時効処理、および、3)焼入れ冷却の完了後に行なわれる自然時効処理と人工時効処理との組合せ、からなる群から選択される手段によって実行される。好ましくは、人工時効処理は60〜200℃の温度で1〜600分間実行され、自然時効処理は2〜360時間実行される。
 
【0024】
  好ましい一局面では、この方法は、板の欠陥を取り除いて板の平坦性を高め、それにより次の処理を容易にするために、圧延歪み取り、引張歪み取り、伸張曲げ歪み取り、および任意の組合せからなる群から選択される手段によって、冷却された板の歪みを取る追加のステップを、ステップ(5)とステップ(6)との間にさらに含み得る。
 
【0025】
  それらのうち、この発明に従ったアルミニウム合金から作られたアルミニウム合金板の降伏強度は≦150MPa、伸び率は≧25%であり、打抜き変形および従来の焼成処理(170〜180℃/20〜30分)後、アルミニウム合金板の降伏強度は≧220MPa、引張強度は≧290MPaである。すなわち、焼成後の降伏強度は90MPa以上増加される。好ましい一局面では、アルミニウム合金板の降伏強度は≦140MPa、伸び率は≧26%であり、従来の焼成処理後、アルミニウム合金板の降伏強度は≧235MPa、引張強度は≧310MPaである。すなわち、焼成後のアルミニウム合金板の降伏強度は100MPa以上増加される。さらに好ましい一局面では、アルミニウム合金板の降伏強度は≦140MPa、伸び率は≧27%であり、従来の焼成処理後、アルミニウム合金板の降伏強度は≧245MPa、引張強度は≧330MPaである。すなわち、焼成後の降伏強度は110MPa以上増加される。
 
【0026】
  一局面では、この発明に従ったアルミニウム合金材料は、製品を形成するために、摩擦攪拌溶接、溶融溶接、はんだ付け/ろう付け、電子ビーム溶接、レーザー溶接、およびそれらの任意の組合せからなる群から選択される手段によって、それ自体と、または別の合金とともに溶接され得る。
 
【0027】
  この発明はさらに、この発明に従ったアルミニウム合金材料から作られたアルミニウム合金板の表面処理、打抜きプロセス、および焼成処理によって生成される最終部品を提供する。好ましくは、最終部品は、自動車車体の外部または内部パネルである。
 
【0028】
  この発明の利点は、以下を含む:
  (1)Al−Mg−Si系アルミニウム合金の最適化された組成は、整合する調製方法とともに、Mg/SiおよびMg/Zn双方の時効析出順序の協調による、合金の焼成硬化に対する反応能力の向上を達成する。そのため、材料は、良好な耐食性および表面品質をさらに有しつつ、高い焼成硬化特性および良好な成形性を呈する。良好な総合的特性を有するそのような材料は、自動車車体パネルの製造にとって望ましい材料であり、アルミニウム合金車体パネルに対する自動車製造業界の厳しい要件を満たすことができる;
  (2)この発明はさらに、自動車工場の既存の焼成プロセスおよび機器を修正する必要がない、アルミニウム合金の時効硬化の可能性を発見している。このため、それは、自動車工場が鋼をそのようなアルミニウム合金材料と広範に置換えて自動車の外部車体打抜き加工品を生成するように強く促すであろう。それは、自動車軽量化の発展の推進を容易にし、また、重要な社会的および経済的利益を有する;
  (3)この発明に従った材料は、優れた性能、適度なコスト、簡単で実用的な調製、良好な実施可能性を有し、ならびに、産業化および一般化し易く、このため、かなりの市場展望を有している。
 
【実施例】
【0029】
  以下に、この発明に従ったアルミニウム合金材料およびその調製方法を、添付図面を参照してさらに説明する。これらの実施例は、この発明について限定的ではなく、例示的である。
【0030】
  実施例1
  この発明の概念を実証するために、合金を実験室規模で調製した。試験合金の組成を表1に示した。60mmの厚さ仕様を有するスラブインゴットを、合金溶融、脱気、含有物の除去、および模擬DC鋳造を含む周知の手順で調製した。結果として生じたインゴットを、360℃未満の温度の抵抗加熱炉内に装填して、遅い漸進的均質化処理を合計36時間施し、ここで加熱速度を5〜10℃/時間の範囲で厳密に制御した。均質化の完了後、インゴットを空冷した。冷却したインゴットに、表皮剥離、正面フライス削り、および鋸切断を行ない、それにより、40mmの厚さ仕様を有する圧延ブランクを生成した。ブランクを、450±10℃で2時間予熱した。予熱したブランクを、2〜3回のパスのためにスラブインゴットの幅方向に沿って圧延し、次に、異なる方向に、すなわちスラブインゴットの長さ方向に沿って約6mmの厚さ仕様まで圧延した。ここで初期圧延温度は440℃、終了圧延温度は340℃であった。圧延された板を特定の寸法に切断し、410±5℃/2時間で中間アニール処理を施し、次に、冷間圧延変形処理の5〜7回のパスを施すことにより、約1mmの厚さを有する薄板を得た。460〜550℃で合計40分の期間内で漸進的固溶化熱処理を受けるために、薄板を460℃の空気炉内に装填した。処理した薄板に水焼入れを施し、その直後に歪み取り処理を施した。次に、合金の特性に従って90〜140℃/10〜40分で、2段階事前時効処理を板に施した。処理した板を室温で2週間保管し、次に、引張試験およびカッピング試験用の試料を与えるために切断した。残りの板に2%事前変形処理を施し、次に175℃/20分で模擬焼成処理を施して、T4P状態における合金の降伏強度(R
p0.2)、伸び率(A)、硬化指数(n
15)、弾性歪み率(r
15)、カッピング指数(I
E)、ならびに、焼成状態における合金の降伏強度(R
p0.2)および引張強度(R
m)について、関連する規格に従ってそれぞれ試験した。表2に示すように、結果を、T4P状態(送出状態)および焼成状態における板の性能指数として評価した。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
  合金1#、2#、3#、4#、5#、6#、7#、8#および9#はすべて、T4P状態では、成形性と焼成硬化との間で良好に整合される、ということが表2から分かる。送出状態の場合、これらの合金は、150MPa未満に維持された降伏強度と、26.0%を上回る伸び率とを呈し、良好な深絞り特性を有する。一方、従来の焼成処理後、合金の降伏強度は105MPa以上増加され、引張強度は300MPaよりも高い。合金10#、11#、12#、13#、14#、15#、16#、17#、18#および19#の性能は、前述の成形性と焼成硬化との間の良好な整合を満たさず、それにより、合金の望ましくない総合的特性を引き起こす。それらのうち、合金10#、11#、15#、17#および19#は、比較的より多い合金含有量またはCu含有量を有しており、送出状態における合金の降伏強度が、打抜き形成にとって比較的高すぎる。合金12#は、比較的多いZn含有量を有しており、送出状態における合金の伸び率が、打抜き形成にとって低すぎる。合金13#および14#は、合金の組成要件を満たしているが、成分比要件を満たしておらず、前者は送出状態において比較的高い降伏強度を有しており、後者は比較的劣った性能を有している。組成が6016合金と同様である合金16#は、良好な成形性を有しているが、その焼成硬化特性は限定されている。合金18#は、比較的少ないZn含有量を有し、微量元素MnおよびZrを有さず、この合金の総合的性能は比較的劣っている。
【0034】
  実施例2
  異なるZnレベルを有するアルミニウム合金板を、実験室で調製した。試験合金の組成を表3に示した。60mmの厚さ仕様を有するスラブインゴットを、合金溶融、脱気、含有物の除去、および模擬DC鋳造を含む周知の手順で調製した。結果として生じたインゴットに、550±3℃/24時間での1段階均質化、および(360〜560℃の温度で合計30時間、6〜9℃/時間の加熱速度での)漸進的均質化を施した。均質化の完了後、空冷を施した。インゴットに、金属組織相観察および電子顕微鏡観察を行なった。DSC分析と組合されたこれらの観察は、合金構造の焼過ぎを分析するために使用された。結果を表4に示す。
【0035】
【表3】
【0036】
【表4】
【0037】
  前述の結果の分析から、Znが混込まれたAl−Mg−Si−Cu系合金については、高温の1段階均質化は焼過ぎの発生を引き起こすであろう、ということが分かる。このため、試験合金20#、21#、および22#のスラブインゴットはすべて、漸進的均質化(温度:360〜560℃、合計時間:30時間、加熱速度:6〜9℃/時間)で処理される。実施例1と同様の圧延、固溶化、事前時効、および模擬焼成処理の後で、合金板を、送出状態における降伏強度(R
p0.2)、伸び率(A)、硬化指数(n
15)、弾性歪み率(r
15)、およびカッピング指数(I
E)、ならびに、焼成状態における降伏強度(R
p0.2)、引張強度(R
m)、および粒間腐食特性についてそれぞれ試験した。表5に示すように、結果を、T4P状態(送出状態)および焼成状態における板の性能指数として評価した。
【0038】
【表5】
【0039】
  この発明に従った合金21#は、T4P状態では、良好な成形性と良好な焼成硬化特性とを双方とも有する、ということが表5から分かる。しかしながら、Znを含まない合金20#は、良好な成形性を呈するものの、焼成硬化に対する反応能力が比較的低く、比較的高いZnレベルを有する合金22#は、比較的良好な反応能力を有するものの、実質的に減少した成形性および耐食性を呈する。このため、それらは、自動車車体パネルの製造についての要件を満たす見込みがない。
【0040】
  実施例3
  異なるCuレベルを有するアルミニウム合金板を、実験室で生成した。アルミニウム合金の組成を表6に示した。実施例1と同様の手順により、鋳造インゴットを得た。インゴットを、380℃未満の温度の抵抗加熱炉内に装填して、多段階均質化処理を合計48時間施し、それから空冷した。冷却したインゴットに、表皮剥離、正面フライス削り、および鋸切断を行ない、それにより、40mmの厚さ仕様を有する圧延ブランクを生成した。ブランクを、425±10℃で4時間予熱した。予熱したブランクを、2〜3回のパスのためにスラブインゴットの幅方向に沿って圧延し、次に、異なる方向に、すなわちスラブインゴットの長さ方向に沿って約6mmの厚さ仕様まで圧延した。ここで初期圧延温度は420℃、終了圧延温度は320℃であった。圧延された板を特定の寸法に切断し、380±5℃/4時間で中間アニール処理を施し、次に、冷間圧延変形処理の5〜7回のパスを施すことにより、約1.1mmの厚さを有する薄板を得た。薄板に、塩浴槽で465±5℃/20分)+(550±5℃/10分)で2段階固溶化熱処理を施した。処理した薄板に水焼入れを施し、その直後に歪み取り処理を施した。次に、合金の特性に従って85〜145℃/10〜50分で、3段階人工事前時効処理を板に施した。処理した板を室温で2週間保管し、次に、引張試験およびカッピング試験用の試料を与えるために切断した。残りの板に2%事前変形処理を施し、次に175℃/20分で模擬焼成処理を施して、T4P状態における合金の降伏強度(R
p0.2)、伸び率(A)、硬化指数(n
15)、弾性歪み率(r
15)、カッピング指数(I
E)、ならびに、焼成状態における合金の降伏強度(R
p0.2)および引張強度(R
m)について、関連する規格に従ってそれぞれ試験した。表7に示すように、結果を、T4P状態(送出状態)および焼成状態における板の性能指数として評価した。
【0041】
【表6】
【0042】
【表7】
【0043】
  この発明に従った合金24#は、T4P状態では、良好な成形性と良好な焼成硬化特性とを双方とも有する、ということが表7から分かる。しかしながら、Cuを含まない合金23#は、良好な成形性を呈するものの、焼成硬化に対する反応能力が比較的低く、比較的高いCuレベルを有する合金25#は、比較的良好な反応能力を有するものの、実質的に減少した耐食性を呈する。このため、それらは、自動車車体パネルの製造についての要件を満たす見込みがない。
【0044】
  実施例4
  異なるMnレベルおよびZrレベルを有するアルミニウム合金板を、実験室で生成した。合金の組成を表8に示した。溶融、均質化、圧延、固溶化熱処理および焼入れ、ならびに事前時効および模擬焼成などを含む、実施例3と同じ手順によって、板を処理した。関連する試験規格に従って、合金板を、T4P状態における降伏強度(R
p0.2)、伸び率(A)、硬化指数(n
15)、弾性歪み率(r
15)、カッピング指数(I
E)、ならびに、焼成状態における降伏強度(R
p0.2)、引張強度(R
m)、および粒間腐食特性についてそれぞれ試験した。表9に示すように、結果を、T4P状態(送出状態)および焼成状態における板の性能指数として評価した。
【0045】
【表8】
【0046】
【表9】
【0047】
  この発明に従った合金28#は、T4P状態では、良好な成形性と良好な焼成硬化特性とを双方とも有する、ということが表9から分かる。しかしながら、MnおよびZrがない合金26#は、焼成硬化に対する比較的高い反応能力を呈するものの、その粒径が粗いため、成形性が比較的劣っている。加えて、Zrを含まない合金27#は、焼成硬化に対する比較的高い反応能力を呈するものの、比較的高いCuレベルを有することが、比較的良好な反応能力を有する。一方、その成形性は、合金27#より良好であるが、この発明に従った合金28#と比べて実質的に劣っている。
【0048】
  実施例5
  合金を工業規模で生成し、合金の組成を表10に示した。180mmの厚さ仕様を有するスラブインゴットを、溶融、脱気、含有物の除去、および模擬DC鋳造を含む周知の手順を介して生成した。次に、合金25#のインゴットを、漸進的均質化処理(温度:360〜555℃、合計時間:30時間、加熱速度:5〜9℃/時間)で均質化し、残りの合金を従来のアニール処理(550±5℃/24時間)を介して処理した。次に、インゴットを空冷した。冷却したインゴットに、表皮剥離、正面フライス削り、および鋸切断を行ない、それにより、120mmの厚さ仕様を有する圧延ブランクを生成した。ブランクを、445±10℃で5時間予熱した。予熱したブランクに、順方向圧延熱変形プロセスの6〜10回のパスを施して、約10mmの厚さを有する圧延板ブランクを得た。ここで初期圧延温度は440℃、終了圧延温度は380℃であった。圧延された板を特定の寸法に切断し、410±5℃/2時間で中間アニール処理を施した。中間アニールの完了後、室温〜200℃の温度での冷間圧延変形処理の2〜4回のパスを板ブランクに施して、5mmの厚さ仕様に達した。次に、360〜420℃/1〜2.5時間でのさらなる中間アニール処理を板ブランクに施した。完全に冷却した後で、ひき続き冷間圧延変形を板に施して、0.9mmの厚さ仕様を有する薄板を生成した。440〜550℃で合計40分間、漸進的固溶化熱処理を受けるために、薄板を460℃の空気炉内に装填した。水焼入れ後、板に平滑化処理を施し、次に、本質的に合金の特性に従って90〜140℃/10〜40分で、1段階または2段階事前時効処理をそれぞれ施した。それから、板を室温で2週間保管し、関連する方法に従って引張試験およびカッピング試験を行なった。また、板に2%事前変形処理を施し、次に175℃/30分で模擬焼成加熱処理を施した。関連する試験規格に従って、合金板を、T4P状態における降伏強度(R
p0.2)、伸び率(A)、硬化指数(n
15)、弾性歪み率(r
15)、カッピング指数(I
E)、ならびに、焼成状態における降伏強度(R
p0.2)、引張強度(R
m)、および粒間腐食特性についてそれぞれ試験した。結果を、T4P状態(送出状態)および焼成状態における板の性能指数として評価した。一方、板の表面品質を、模擬打抜き試験を介して観察した。結果を表11に示す。
【0049】
【表10】
【0050】
【表11】
【0051】
  この発明に従った合金29#は、T4P状態における良好な成形性と、良好な焼成硬化反応とを双方とも呈しており、同等の条件下で生成された6016合金(合金30#)、6111合金(合金31#)、6022合金(合金32#)と比べて実質的に優れた総合的性能を有する、ということが表11から分かる。特に、この発明に従った合金は、良好な成形性を維持しつつ、焼成硬化に対する実質的に向上した反応能力を呈しており、このため、自動車車体パネルの製造についての要件をさらに満たすことができる。
図1は、この発明に従った合金29#、6016合金、6111合金、および6022合金の本質的特性の比較を示す。この発明に従った合金製品は、良好な成形性と良好な焼成硬化とを双方とも有する、ということが分かる。