(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。
【0010】
燃料電池は、電解質膜をアノード電極(燃料極)とカソード電極(酸化剤極)とによって挟むことにより構成される。燃料電池は、アノード電極に水素を含有するアノードガス(燃料ガス)、カソード電極に酸素を含有するカソードガス(酸化剤ガス)の供給を受けて発電する。アノード電極及びカソード電極の両電極において進行する電極反応は以下の通りである。
【0011】
アノード電極 : 2H
2 →4H
++4e
- ・・・(1)
カソード電極 : 4H
++4e
-+O
2→2H
2O ・・・(2)
この(1)(2)の電極反応によって燃料電池は1ボルト程度の起電力を生じる。
【0012】
燃料電池を自動車用動力源として使用する場合には、要求される電力が大きいため、数百枚の燃料電池を積層した燃料電池スタックとして使用する。そして、燃料電池スタックにアノードガス及びカソードガスを供給する燃料電池システムを構成して、車両駆動用の電力を取り出す。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態による燃料電池システム100の概略図である。
【0014】
燃料電池システム100は、燃料電池スタック1と、カソードガス給排装置2と、アノードガス給排装置3と、コントローラ4と、を備える。
【0015】
燃料電池スタック1は、複数枚の燃料電池を積層したものであり、アノードガス及びカソードガスの供給を受けて、車両の駆動に必要な電力を発電する。
【0016】
カソードガス給排装置2は、カソードガス供給通路21と、カソードガス排出通路22と、フィルタ23と、エアフローセンサ24と、カソードコンプレッサ25と、カソード圧力センサ26と、水分回収装置(Water Recovery Device;以下「WRD」という。)27と、カソード調圧弁28と、を備える。カソードガス給排装置2は、燃料電池スタック1にカソードガスを供給するとともに、燃料電池スタック1から排出されるカソードオフガスを外部へ排出する。
【0017】
カソードガス供給通路21は、燃料電池スタック1に供給するカソードガスが流れる通路である。カソードガス供給通路21の一端はフィルタ23に接続され、他端は燃料電池スタック1のカソードガス入口孔に接続される。
【0018】
カソードガス排出通路22は、燃料電池スタック1から排出されるカソードオフガスが流れる通路である。カソードガス排出通路22の一端は燃料電池スタック1のカソードガス出口孔に接続され、他端が開口端となっている。カソードオフガスは、カソードガスと、電極反応によって生じた水蒸気との混合ガスである。
【0019】
フィルタ23は、カソードガス供給通路21に取り込むカソードガス中の異物を取り除く。
【0020】
エアフローセンサ24は、カソードコンプレッサ25よりも上流のカソードガス供給通路21に設けられる。エアフローセンサ24は、カソードコンプレッサ25に供給されて、最終的に燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの流量を検出する。
【0021】
カソードコンプレッサ25は、カソードガス供給通路21に設けられる。カソードコンプレッサ25は、フィルタ23を介してカソードガスとしての空気(外気)をカソードガス供給通路21に取り込み、燃料電池スタック1に供給する。
【0022】
カソード圧力センサ26は、カソードコンプレッサ25とWRD27との間のカソードガス供給通路21に設けられる。カソード圧力センサ26は、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの圧力(以下「カソード圧力」という。)を検出する。
【0023】
WRD27は、カソードガス供給通路21及びカソードガス排出通路22のそれぞれに接続されて、カソードガス排出通路22を流れるカソードオフガス中の水分を回収し、その回収した水分でカソードガス供給通路21を流れるカソードガスを加湿する。
【0024】
カソード調圧弁28は、WRD27よりも下流のカソードガス排出通路22に設けられる。カソード調圧弁28は、コントローラ4によって開閉制御されて、燃料電池スタック1に供給されるカソードガスの圧力を調節する。なお、本実施形態では、基本的にカソードコンプレッサ25の回転速度及びカソード調圧弁28の開度を調整することで、カソード圧力を所望の圧力(目標カソード圧力)に制御している。
【0025】
アノードガス給排装置3は、燃料電池スタック1にアノードガスを供給するとともに、燃料電池スタック1から排出されるアノードオフガスを、カソードガス排出通路22に排出する。アノードガス給排装置3は、高圧水素タンク31と、アノードガス供給通路32と、水素供給弁33と、アノード圧力センサ34と、アノードガス排出通路35と、パージ弁36と、を備える。
【0026】
高圧水素タンク31は、燃料電池スタック1に供給するアノードガスを高圧状態に保って貯蔵する。
【0027】
アノードガス供給通路32は、高圧水素タンク31から排出されるアノードガスを燃料電池スタック1に供給するための通路である。アノードガス供給通路32の一端は高圧水素タンク31に接続され、他端は燃料電池スタック1のアノードガス入口孔に接続される。
【0028】
水素供給弁33は、アノードガス供給通路32に設けられる。水素供給弁33は、コントローラ4によって開閉制御されて、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの圧力を所望の圧力に調節する。また、水素供給弁33が開閉制御されることによって、燃料電池スタック1に供給されるアノードガスの流量も制御されることになる。
【0029】
アノード圧力センサ34は、水素供給弁33よりも下流のアノードガス供給通路32に設けられる。アノード圧力センサ34は、水素供給弁33よりも下流のアノードガス供給通路32の圧力を検出する圧力検出部である。本実施形態では、このアノード圧力センサ34で検出した圧力を、水素供給弁33からパージ弁36までのアノード系内の圧力(以下「アノード圧力」という。)として代用する。
【0030】
アノードガス排出通路35は、燃料電池スタック1から排出されるアノードオフガスが流れる通路である。アノードオフガスは、電極反応で使用されなかった余剰の水素(アノードガス)と、カソード電極側から電解質膜を介してアノード電極側へと透過してきた窒素や水蒸気との混合ガスである。アノードガス排出通路35の一端は燃料電池スタック1のアノードガス出口孔に接続され、他端はカソードガス排出通路22に接続される。
【0031】
カソードガス排出通路22に排出されたアノードオフガスは、カソードガス排出通路22内でカソードオフガスと混合されて燃料電池システム100の外部に排出される。アノードオフガスには、電極反応に使用されなかった余剰の水素が含まれているので、カソードオフガスと混合させて燃料電池システム100の外部に排出することで、その排出ガス中の水素濃度が予め定められた所定濃度以下となるようにしている。
【0032】
パージ弁36は、アノードガス排出通路35に設けられる。パージ弁36は、コントローラ4によって開閉制御され、アノード系内からカソードガス排出通路22に排出するアノードオフガスの流量(以下「パージ流量」という。)を制御する。
【0033】
コントローラ4は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。
【0034】
コントローラ4には、前述したエアフローセンサ24等の他にも、アクセルペダルの踏み込み量(以下「アクセル操作量」という。)を検出するアクセルストロークセンサ41や、燃料電池スタック1を冷却する冷却水の温度(以下「スタック温度」という。)を検出する温度センサ42、燃料電池スタック1の出力電流を検出する電流センサ43などの燃料電池システム100の運転状態を検出するための各種センサからの信号が入力される。
【0035】
コントローラ4は、燃料電池システム100の運転状態に基づいて、燃料電池スタック1の目標出力電流を算出する。具体的には、車両を駆動するための走行モータ(図示せず)の要求電力やカソードコンプレッサ25等の補機類の要求電力、バッテリ(図示せず)の充放電要求に基づいて、燃料電池スタック1の目標出力電流を算出する。
【0036】
また、コントローラ4は、燃料電池システム100の運転状態に基づいて、アノード圧力を周期的に昇降圧させる脈動運転を行う。脈動運転では、基本的に燃料電池スタック1の目標出力電流に応じて設定される脈動上限圧力及び脈動下限圧力の範囲内でアノード圧力を周期的に昇降圧させて、アノード圧力を脈動させる。このような脈動運転を行うことで、アノード圧力の昇圧時にアノード系内の液水をアノード系外へ排出して排水性を確保している。
【0037】
ここで、燃料電池スタック1の発電中は、カソード電極側から電解質膜を介してアノード電極側へ窒素や水蒸気などが透過してくる。そのため、パージ弁36を閉じたままにしていると、水素は燃料電池スタック1で消費されていく一方で、透過してきた窒素等はアノード系内に蓄積されていくことになる。その結果、アノード系内の圧力(アノード圧力)を同じ圧力に制御した場合であっても、窒素等が透過してきた分、アノード系内の水素濃度は徐々に低下することになる。このように、アノード系内の水素濃度が低下した状態で発電が行われると、アノード圧力を目標値に制御したとしても燃料電池スタック1内で発電に必要な水素が不足してしまい、電圧降下が生じるおそれがある。
【0038】
一方で、パージ弁36を開弁すれば、アノード系内に蓄積された窒素等がアノードオフガスとしてアノード系内から排出されるため、アノード系内の水素濃度は増加(回復)する。つまり、パージ弁36を通ってアノード系内から排出されたアノードオフガスの量(以下「パージ量」という。)に応じてアノード系内の水素濃度は変化し、具体的にはパージ量が多くなるほどアノード系内の水素濃度は増加する。
【0039】
そこで、本実施形態では、燃料電池スタック1の負荷に応じて、アノード系内の水素濃度を電圧降下が生じない水素濃度(目標水素濃度;例えば60%)に管理できるパージ流量(又はパージ量)の閾値を予め実験等で求めておく。そしてパージ弁36を開弁したときのパージ流量を推定し、推定したパージ流量と閾値とを比較する。推定したパージ流量が閾値以下であれば、アノード系内の水素濃度を目標水素濃度に管理するために必要なパージ量が不足していると判断し、追加パージを実施するようにしている。
【0040】
ここで、パージ量を推定する方法としては、例えば水素供給弁の閉弁中にパージ弁36を開弁している期間のアノード圧力の低下量に基づいて当該期間内にアノード系内から流出したガス量を推定し、そのガス量から当該期間内に発電によって消費された水素量を減算したガス量を、パージ弁36を通ってアノード系内から排出されたアノードオフガスの量、すなわちパージ量として推定することが考えられる。なお、このパージ量を当該期間で除算すればパージ流量となる。
【0041】
しかしながら、水素供給弁33の閉弁中にアノード系内から流出するガスは、パージ弁36を通って流出したガス(以下「パージガス」という。)や発電によって消費された水素の他にも存在する。例えば、アノード電極側から電解質膜を介してカソード電極側に透過した水素(以下「透過水素」という。)やアノード系内で凝縮して液水になった水蒸気である。この中でも透過水素は、アノード系内の水素濃度を下げる方向に寄与する。そして、水素は分子量も小さいので、電解質膜を介して透過していく量も少なくない。
【0042】
このように、パージガスはアノード系内の水素濃度を上げる方向に寄与するが、透過水素はアノード系内の水素濃度を下げる方向に寄与する。
【0043】
したがって、前述した推定方法によって推定したパージ量のうち透過水素量の割合が大きくなると、通常はパージ量が多くなればアノード系内の水素濃度は回復するはずだが、その回復量が減少することになる。したがって、この透過水素量を無視してパージ量に含ませてしまうと、パージ流量が閾値以上になっているにもかかわらず、実際のアノード系内の水素濃度が想定よりも低い状態となってしまい、予期せぬ電圧降下が生じてしまうおそれがある。
【0044】
そこで本実施形態では、パージ弁36を通って流出したガス(パージガス)のみをパージ量として算出することできるようにした。以下、この本実施形態によるパージ量の算出方法について、
図2及び
図3を参照して説明する。
【0045】
図2は、本実施形態によるパージ量の算出方法について説明する図である。
図3は、水素供給弁33の閉弁中におけるアノード系内のガス流入出について説明する図である。
【0046】
本実施形態では、水素供給弁33の閉弁中にパージ弁36を開弁している期間の圧力低下と、水素供給弁33の閉弁中にパージ弁36を閉弁している期間の圧力低下と、に基づいて、パージ弁36を通って流出したガス(パージガス)のみをパージ量として算出する。
【0047】
図2に示すように、燃料電池スタック1の発電中に、時刻t11のタイミングで水素供給弁33を閉弁して燃料電池スタック1へのアノードガスの供給を停止すると、アノード圧力は徐々に低下していく。このアノード圧力の変化は、以下の要因によって生じる。
【0048】
図2では、時刻t11から時刻t13までパージ弁36を開弁し、時刻t13から時刻t14までパージ弁36を閉弁しているが、パージ弁36の開閉状態によらずにアノード圧力を変化させる要因となるものを説明する。
【0049】
図2及び
図3に示すように、1つ目の要因は、水素供給弁33の閉弁中に発電によって消費されるアノード系内の水素である。この発電消費水素によってアノード圧力は低下する。2つ目の要因は、アノード系内で液水が蒸発して水蒸気になったり、逆に水蒸気が凝縮して液水になったりすることである。この蒸発及び凝縮のバランスによってアノード圧力は変化する。最後3つ目の要因は、アノード電極側から電解質膜を介してカソード電極側に透過していった水素(透過水素)や、逆にカソード電極側から電解質膜を介してアノード電極側に透過してきた窒素及び酸素である。これら透過ガスの収支バランスによってアノード圧力は変化する。
【0050】
時刻t13から時刻t14まではパージ弁36を閉弁しているので、これら3つの要因によってアノード圧力が低下していく。
【0051】
一方、時刻t11から時刻t13まではパージ弁36を開弁しているので、これらの3つの要因に加えて、パージ弁36を通って流出したガス(パージガス)によって、アノード圧力は低下する。なお、パージ弁36の構造上、パージ弁36が開弁されるとまず液水が排出され、その後にアノードオフガスがパージガスとして排出されるようになっているので、
図2に示すように時刻t12からアノードオフガスが排出されている。
【0052】
そこで、本実施形態では、水素供給弁33の閉弁中にパージ弁36を閉弁しているパージ弁閉弁期間(時刻t13〜時刻t14)の圧力低下に基づいて、当該期間に上記3つの要因によって失われたアノード系内のガス量を求める。このガス量をパージ弁閉弁期間で除算すれば、上記3つの要因によって失われる単位時間当たりのアノード系内のガス量を算出することができる。
【0053】
同様にして、パージ弁開弁期間(時刻t11〜時刻t13)の圧力低下に基づいて、当該期間に上記3つの要因に加えてパージによって失われたアノード系内のガス量を求める。そして、このガス量をパージ弁開弁期間で除算して、パージ弁開弁期間に上記3つの要因に加えてパージによって失われる単位時間当たりのアノード系内のガス量を算出する。
【0054】
ここで、時刻t11から時刻t13までのパージ弁開弁期間においても、上記3つの要因によって失われる単位時間当たりのアノード系内のガス量は、基本的にパージ弁閉弁期間と変わることはないと考えられる。
【0055】
したがって、パージ弁開弁期間に上記3つの要因に加えてパージによって失われる単位時間当たりのアノード系内のガス量(パージ弁開弁期間にアノード系内から流出するガスの流量)から、パージ弁閉弁期間に上記3つの要因によって失われる単位時間当たりのアノード系内のガス量(パージ弁閉弁期間にアノード系内から流出するガスの流量)を減算すれば、パージ弁36を通って流出したガス(パージガス)のみの流量を精度良く算出することができる。
【0056】
このように本実施形態では、パージ量又はパージ流量を推定するにあたって、水素供給弁33の閉弁中にパージ弁36の開弁及び閉弁を行う必要がある。したがって、パージ弁36の開閉を水素供給弁33の開閉状態にかかわらず任意に実施していたのでは、パージ量又はパージ流量の推定頻度が確保できないおそれがある。
【0057】
そこで、本実施形態では、水素供給弁33の閉弁中に合わせてパージ弁36が開弁されるように、パージ弁36の開閉を制御する。
【0058】
以下、
図4から
図13を参照して本実施形態によるパージ制御について説明する。
【0059】
図4は、本実施形態によるパージ制御について説明するフローチャートである。コントローラ4は、本ルーチンを所定の演算周期で繰り返し実行する。
【0060】
ステップS100において、コントローラ4は、
図5のマップを参照し、燃料電池スタック1の負荷(出力電流)とスタック温度とに基づいて、基準デューティ比を算出する。基準デューティ比は、パージ周期をある一定値(基準パージ周期;本実施形態では5秒としているが、適宜変更可能である)に固定したときに、負荷毎に安定して発電を行うことができるパージ弁36のデューティ比であり、予め実験等によって求められたものである。換言すれば、基準デューティ比は、アノード系内の水素濃度を目標水素濃度に管理できるパージ弁36のデューティ比である。なお、基準デューティ比は、燃料電池スタック1の負荷(出力電流)のみに基づいて算出しても良い。
【0061】
ステップS200において、コントローラ4は、基準デューティ比に基づいてパージ弁36の開弁要求信号を生成する処理を実施する。このパージ弁開弁要求信号生成処理の詳細については、
図6を参照して後述する。
【0062】
ステップS300において、コントローラ4は、パージ弁開弁要求信号などに基づいて、水素供給弁33の閉弁時(アノードガス供給停止時)に実際にパージ弁36を開閉させる処理を実施する。このパージ弁36開閉処理の詳細については、
図7を参照して後述する。
【0063】
ステップS400において、コントローラ4は、脈動降圧時(アノードガス供給停止時)にパージ弁36を開弁しているときと閉弁しているときのそれぞれ圧力低下度合いに基づいて、パージ流量を推定する処理を実施する。このパージ流量推定処理の詳細については、
図8を参照して後述する。
【0064】
図6は、パージ弁開弁要求信号生成処理の詳細を説明するフローチャートである。
【0065】
ステップS201において、コントローラ4は、後述するパージ弁開弁要求信号がONになっている時間の積算値(以下「パージ弁開弁要求ON時間」という。)を、予め定められた基準パージ周期で除算した値が、基準デューティ比よりも大きいか否かを判定する。つまりコントローラ4は、基準パージ周期に占めるパージ弁開弁要求ON時間の割合が基準デューティ比よりも大きくなったか否かを判定している。コントローラ4は、除算値が基準デューティ比以下であればステップS202の処理を行い、基準デューティ比よりも大きければステップS203の処理を行う。
【0066】
ステップS202において、コントローラ4は、パージ弁開弁要求信号をONにする。
【0067】
ステップS203において、コントローラ4は、パージ弁開弁要求信号をOFFにする。
【0068】
ステップS204において、コントローラ4は、パージ弁開弁要求信号がONになっている時間を積算し、パージ弁開弁要求ON時間として算出する。
【0069】
ステップS205において、コントローラ4は、基準パージ周期の1周期が経過したか否かを判定する。すなわち、例えば基準パージ周期を5秒に設定していたときは、基準パージ周期のカウントを始めてから5秒が経過したかを判定する。コントローラ4は、基準パージ周期の1周期が経過していなければ今回の処理を終了し、経過していればステップS206の処理を行う。
【0070】
ステップS206において、コントローラ4は、ステップS204で算出したパージ弁開弁要求ON時間をゼロにリセットするとともに、基準パージ周期のカウントもゼロにリセットする。
【0071】
図7は、パージ弁開閉処理の詳細を説明するフローチャートである。
【0072】
ステップS301において、コントローラ4は、前述のステップS204とは別にパージ弁開弁要求ON時間を算出する。
【0073】
ステップS302において、コントローラ4は、水素供給弁33が開弁されているかを判定する。コントローラ4は、水素供給弁33が開弁されているとき、すなわちアノードガス供給時であればステップS302の処理を行う。一方でコントローラ4は、水素供給弁33が閉弁されているとき、すなわちアノードガス供給停止時であればステップS309の処理を行う。ステップS302の判定を行うのは、本実施形態では基本的にアノードガス供給停止時に併せてパージ弁36の開弁を行うようにするためである。
【0074】
ステップS303において、コントローラ4は、燃料電池スタック1の運転領域が高負荷領域であるか否かを判定する。コントローラ4は、例えば出力電流が所定電流よりも大きいときに高負荷領域であると判定する。コントローラ4は、燃料電池スタック1の運転領域が高負荷領域であればステップS600の処理を行い、そうでなければステップS304の処理を行う。
【0075】
ステップS600において、コントローラ4は、高負荷領域において実施されるパージ弁36の開閉処理を実施する。この高負荷パージ処理の詳細については、
図13を参照して後述するが、簡単に説明すると、高負荷領域ではアノード系内に蓄積される液水が通常領域よりも増加する。パージ弁36の構造上、パージ弁36が開かれるとまず液水がアノード系内から排出され、その後にアノードオフガスが排出されるようになっている。そのため、高負荷領域では、脈動昇圧時にもパージ弁36を開弁できるようにして、アノード系内の液水を確実にアノード系内から排出し、その後にきちんとアノードオフガスがアノード系内から排出されるようにしている。
【0076】
ステップS304において、コントローラ4は、パージ弁36を閉弁する。
【0077】
ステップS305において、コントローラ4は、パージ弁開弁継続フラグがONになっているかを判定する。コントローラ4は、パージ弁開弁継続フラグがONであればステップS306の処理を行い、OFFであれば今回の処理を終了する。
【0078】
パージ弁開弁継続フラグは、アノードガス供給停止時におけるパージ弁開弁時間が、アノードガス供給停止時にパージ弁36を実際に開く時間として予め設定されている第2所定値を超えるまでONにされるフラグである。このパージ弁開弁継続フラグは、例えばアノードガス供給停止時にパージ弁36が開かれ、第2所定値が経過する前にアノードガス供給が開始された場合において、そのまま今回のパージ弁開弁時間を引き継ぐために設定されるフラグである。これにより、次回のアノードガス供給停止時に残りの時間だけパージ弁36を開くこと(分割パージ)ができるようにしている。
【0079】
ステップS306において、コントローラ4は、ステップS301で算出したパージ弁開弁要求ON時間が予め設定されている第1所定値以上になったか否かを判定する。コントローラ4は、パージ弁開弁要求ON時間が第1所定値以上であればステップS307の処理を行い、第1所定値未満であればステップS308の処理を行う。
【0080】
ステップS307において、コントローラ4は、パージ弁開弁指令をONにする。パージ弁開弁指令の初期値はOFFに設定される。パージ弁開弁指令がONの状態でアノードガス供給停止時になると、パージ弁36が実際に開弁されることになる。これにより、水供給弁の閉弁時に連動してパージ弁36を開弁することができる。
【0081】
このように本実施形態では、パージ弁開弁要求ON時間(=基準デューティ比の積算値)が第1所定値以上になってからパージ弁開弁指令をONにして、パージ弁の開弁を許可するようにしている。これは、本実施形態では水素供給弁33の閉弁時にある程度パージ弁36を開弁する時間を確保して排水を確実に実施し、パージ弁開弁中に確実にアノードオフガスがパージ弁36を通って排出されるようにするためである。
【0082】
また、このようにすることで、基準デューティ比は出力電流が低いほど小さくなるので、出力電流が低いときほどパージ弁開弁指令がONになるまでの時間を長くすることができる。つまり、出力電流に基づいてパージ弁の開弁指令を出す間隔を変更し、出力電流が低いときほどパージ弁が閉じられてから開かれるまでの間隔(パージ間隔)が長くなるようにしている。出力電流が低いときは、カソード圧力も低いためカソード電極側から透過してくる窒素等の量も少ない。そのため、出力電流が低いときほどパージ間隔を長くして、水素供給弁33の閉弁時にパージ流量の推定に必要なパージ弁36を開弁する時間を確保している。
【0083】
ステップS308において、コントローラ4は、パージ弁開弁指令をOFFにする。
【0084】
ステップS309において、コントローラ4は、パージ弁開弁指令がONか否かを判定する。コントローラ4は、パージ弁開弁指令がOFFであればステップS310の処理を行い、ONであればステップS311の処理を行う。
【0085】
ステップS310において、コントローラ4は、パージ弁36を閉弁する。このように、パージ弁開弁要求ON時間が第1所定値以上となるまでは、アノードガス供給停止時であってもパージ弁36は開弁されない。
【0086】
ステップS311において、コントローラ4は、パージ弁36を開弁する。
【0087】
ステップS312において、コントローラ4は、パージ弁36が開弁されている時間を積算し、パージ弁開弁時間として算出する。
【0088】
ステップS313において、コントローラ4は、ステップS312で算出したパージ弁開弁時間がアノードガス供給停止時にパージ弁36を実際に開く時間として予め設定されている第2所定値以上になったか否かを判定する。このように本実施形態では、パージ弁開弁要求ON時間が第1所定値以上になったら、第2所定値だけパージ弁36を開くようにしている。本実施形態では第1所定値と第2所定値を同じ値に設定しているが、異なる値に設定しても良い。第1所定値及び第2所定値は、それぞれアノード系内の水素濃度を目標水素濃度に管理でき、かつパージ流量の推定を精度良く実施できる値(例えば0.5秒)として予め実験等によって求めることができる。コントローラ4は、パージ弁開弁時間が第2所定値未満であればステップS314の処理を行い、パージ弁開弁時間が第2所定値以上であればステップS316の処理を行う。
【0089】
ステップS314において、コントローラ4は、パージ弁開弁継続フラグをONにする。
【0090】
ステップS315において、コントローラ4は、昇圧中フラグをOFFにする。この昇圧中フラグは高負荷パージ処理で用いられるフラグである。
【0091】
ステップS316において、コントローラ4は、パージ弁開閉処理内で算出したパージ弁開弁時間をゼロにリセットする。
【0092】
ステップS317において、コントローラ4は、パージ弁開弁継続フラグをOFFにする。
【0093】
ステップS318において、コントローラ4は、パージ弁開弁指令をOFFにする。
【0094】
図8は、パージ流量推定処理の詳細を説明するフローチャートである。
【0095】
ステップS401において、コントローラ4は、水素供給弁33が閉弁されているか否かを判定する。コントローラ4は、水素供給弁33の閉弁時であれば、パージ流量を推定するためのデータを取得するため、ステップS402以降の処理を行う。一方でコントローラ4は、水素供給弁33の開弁時であれば、取得したデータに基づいてパージ流量を推定するためにステップS409以降の処理を行う。
【0096】
ステップS402において、コントローラ4は、パージ弁36が開弁しているか否かを判定する。コントローラ4は、パージ弁36が開弁していればステップS403の処理を行い、閉弁していればステップS406の処理を行う。
【0097】
ステップS403において、コントローラ4は、アノード圧力の低下に基づいて、パージ弁開弁時にアノード系内から流出した演算周期当たりのガス量を算出し、このガス量を前回値に加算することでパージ弁開弁時の流出ガス量を算出する。
【0098】
このパージ弁開弁時にアノード系内から流出した演算周期当たりのガス量は、例えばアノード圧力の低下量(アノード圧力の前回値−アノード圧力の今回値)と、アノード系内から流出したガス量と、を関連付けた
図9に示すマップを予め実験等によって作成しておき、このマップを参照することによって、アノード圧力の低下量に基づいて算出することができる。
図9では、スタック温度によってアノード系内から流出したガス量を補正しているが、スタック温度による補正は必ずしも必要ではない。また、このガス量は、例えば気体の状態方程式にアノード圧力の前回値等を代入して求めたアノード系内の気体のモル数と、アノード圧力の今回値等を代入して求めたアノード系内の気体のモル数と、の変化を算出することでも求めることができる。
【0099】
ステップS404において、コントローラ4は、電流センサ43の検出値(出力電流)に基づいて、パージ弁開弁時に発電によって燃料電池スタック1内で消費される演算周期当たりの水素量を算出し、この水素量を前回値に加算することでパージ弁開弁時の発電消費水素量を算出する。
【0100】
このパージ弁開弁時の発電によって燃料電池スタック1内で消費される演算周期当たりの水素量は、例えば出力電流と、消費水素量と、を関連付けた
図10に示すマップを予め実験等によって作成しておき、このマップを参照することによって、出力電流に基づいて算出することができる。また、例えばファラデー定数を用いた演算式に出力電流、演算周期及び燃料電池の枚数を代入して、消費された水素のモル質量を算出することでも求めることができる。
【0101】
ステップS405において、コントローラ4は、ステップS312とは別にパージ弁開弁時間を算出する。
【0102】
ステップS406において、コントローラ4は、アノード圧力の低下に基づいて、パージ弁閉弁時にアノード系内から流出した演算周期当たりのガス量を算出し、このガス量を前回値に加算することでパージ弁閉弁時の流出ガス量を算出する。
【0103】
ステップS407において、コントローラ4は、電流センサ43の検出値(出力電流)に基づいて、パージ弁閉弁時に発電によって燃料電池スタック1内で消費される演算周期当たりの水素量を算出し、この水素量を前回値に加算することでパージ弁閉弁時の発電消費水素量を算出する。
【0104】
ステップS408において、コントローラ4は、パージ弁36が閉弁されている時間を積算し、パージ弁閉弁時間として算出する。
【0105】
ステップS409において、コントローラ4は、パージ流量を算出するためのデータ量が十分か否かを判定する。具体的には、ステップS405及びステップS408で算出したパージ弁開弁時間及びパージ弁閉弁時間が、それぞれ予め設定された所定時間(例えば0.5秒)よりも大きくなったか否かを判定する。コントローラ4は、データ量が十分であればステップS410の処理を行い、十分でなければ今回の処理を終了する。したがって、データ量が不十分であれば、脈動1周期分のデータだけでなく、脈動複周期分の圧力変化のデータに基づいてパージ流量が推定される。
【0106】
ステップS410において、コントローラ4は、ステップS403からステップS408で取得したデータに基づいて、パージ流量を算出する。具体的には、
図11に示す計算を実施してパージ流量を算出する。パージ流量の算出方法としては、
図2を参照して前述したように、パージ弁開弁時の流出ガス量をパージ弁開弁時間で除算した値(=パージ弁開弁時の流出ガス流量)から、パージ弁閉弁時の流出ガス量をパージ弁閉弁時間で除算した値(=パージ弁閉弁時の流出ガス流量)を減算した値をパージ流量としても良いが、
図11に示すように、予めパージ弁開弁時の流出ガス量からパージ弁開弁時の発電消費水素量を減算すると共に、同様にパージ弁閉弁時の流出ガス量からパージ弁閉弁時の発電消費水素量を減算しておくことで、パージ流量の推定精度をより向上させることができる。これは、発電消費水素量は負荷変動によって変化するため、パージ弁36の開閉中に必ずしも一定になるとは限らないからである。
【0107】
ステップS411において、コントローラ4は、
図12のマップを参照し、算出したパージ流量が予め設定された閾値以上か否かを判定する。換言すれば、パージ量が十分か否かを判定する。コントローラ4は、パージ流量が閾値以上であればステップS412の処理を行い、閾値未満であればステップS413の処理を行う。
【0108】
図12に示すように、閾値は、パージ弁開弁指令を出す間隔(パージ弁開弁指令が出てから次のパージ弁開弁指令がでるまでの間隔。以下「パージ間隔」という。)が長くなるほど小さくなるように補正される。
【0109】
これは、パージ間隔が長くなるほど、パージ弁36を開弁してから次に開弁するまでの期間が長くなるので、アノード系内に蓄積される液水量が多くなる。そのため、パージ間隔が長くなるほど、パージ弁36を開弁したときに排出されるパージ量が相対的に少なくなる。本実施形態では、水素供給弁33の開閉状態に合わせてパージ弁36を開弁するようにしているので、パージ弁36を開弁するまでの間隔が変化する。この場合、パージ間隔が短い場合に比べて長いときにパージ量が少なくなるのは、パージ間隔が長くなったことによりアノード系内の液水量が多くなることが原因である。したがって、パージ弁開弁指令を出す間隔が長いときほど閾値を小さくすることで、パージ不足と判断される頻度を少なくしている。
【0110】
なお、アノード系内の水素濃度を発電が安定する水素濃度に管理するには、基本的に燃料電池スタック1の負荷が高くなるほど、パージ量を多くする必要がある。
図12では、燃料電池スタック1の負荷が高くなるほど閾値は減少していて傾向が逆になっているように思えるが、これはパージ流量を横軸にとっているからであり、パージ流量に負荷毎の基準デューティ比に対応したパージ弁36の開弁時間を乗算したパージ量自体は、燃料電池スタック1の負荷が高くなるほど多くなっている。
【0111】
ステップS412において、コントローラ4は、ステップS301で算出したパージ弁開弁要求ON時間からパージ弁開弁時間を減算する。
【0112】
ステップS413において、コントローラ4は、ステップS301で算出したパージ弁開弁要求ON時間をそのまま保持する。これは、パージ流量が閾値未満と判断されたときは、安定した発電を行うにはさらにパージを実行する必要があるため、次回の処理で追加パージを実行できるようにするためである。
【0113】
このように、パージ流量が閾値未満のとき(パージ量が不足しているとき)は、パージ弁開弁要求ON時間からパージ弁開弁時間を減算しないことでパージ間隔を通常よりも短くし、パージ流量が閾値以上のとき(パージ量が十分なとき)よりもパージ弁開弁要求ON時間を増加させる。これにより、増加させた分、すなわち減算しなかった分だけパージ弁36を開弁する時間が増加することになる。
【0114】
ステップS414において、コントローラ4は、ステップS403からステップS408のデータをゼロにリセットする。
【0115】
図13は、高負荷パージ処理の詳細を説明するフローチャートである。
【0116】
ステップS601において、コントローラ4は、パージ弁開弁指令がONか否かを判定する。コントローラ4は、パージ弁開弁指令がONであればステップS602の処理を行い、OFFであればステップS605の処理を行う。
【0117】
ステップS602において、コントローラ4は、ステップS312で算出されているパージ弁開弁時間がゼロであるか、又は、昇圧中開弁フラグがONであるか否かを判定する。コントローラ4は、いずれか一方が成立していればステップS603の処理を行う、いずれも不成立であればステップS605の処理を行う。
【0118】
ステップS603において、コントローラ4は、昇圧中開弁フラグをONにする。
【0119】
ステップS604において、コントローラ4は、パージ弁36を開弁する。
【0120】
ステップS605において、コントローラ4は、パージ弁36が開弁されている時間を積算し、パージ弁開弁時間として算出する。
【0121】
ステップS606において、コントローラ4は、昇圧中開弁フラグをOFFにする。
【0122】
ステップS607において、コントローラ4は、パージ弁36を閉弁する。
【0123】
このように、高負荷時には、水素供給弁33の開弁中であっても、パージ弁36を開弁するようにしている。これは、高負荷時には燃料電池スタック1内の液水が増加するため、水素供給弁33の開弁時からパージ弁36を開弁することで、液水の排出を確実なものにするためである。また、高負荷時には、発電により消費される水素量が多くなるため、水素供給弁33閉弁後のアノード圧力の低下速度も速くなって降圧時間も短くなる。したがって、昇圧中にパージ弁36を開弁して液水の排出効率をあげておくことで、降圧時間が短くなっても水素供給弁閉弁後にパージ弁36を介してパージガスを確実に排出させることができる。そのため、パージ流量の推定精度を向上させることができる。
【0124】
図14Aは、本実施形態による水素供給弁33の制御について説明するフローチャートである。
【0125】
ステップS1において、コントローラ4は、
図14Bのマップを参照し、燃料電池スタック1の目標出力電流に基づいて、アノード圧力の脈動上限圧力及び脈動下限圧力を設定する。
【0126】
ステップS2において、コントローラ4は、アノード圧力が脈動上限圧力以上か否かを判定する。コントローラ4は、アノード圧力が脈動上限圧力以上であれば、アノード圧を降圧させるためにステップS3の処理を行う。一方で、アノード圧力が脈動上限圧力未満であれば、ステップS4の処理を行う。
【0127】
ステップS3において、コントローラ4は、目標アノード圧力を脈動下限圧力に設定する。
【0128】
ステップS4において、コントローラ4は、アノード圧力が脈動下限圧力以下か否かを判定する。コントローラ4は、アノード圧力が脈動下限圧力以下であれば、アノード圧を昇圧させるためにステップS5の処理を行う。一方で、アノード圧力が脈動下限圧力よりも高ければ、ステップS6の処理を行う。
【0129】
ステップS5において、コントローラ4は、目標アノード圧力を脈動上限圧力に設定する。
【0130】
ステップS6において、コントローラ4は、目標アノード圧力を前回と同じ目標アノード圧力に設定する。
【0131】
ステップS7において、コントローラ4は、脈動下限圧力が目標アノード圧力として設定されているときは、アノード圧力が脈動下限圧力となるように、水素供給弁33をフィードバック制御する。このフィードバック制御の結果、通常は水素供給弁33の開度は全閉となり、高圧水素タンク31から燃料電池スタック1へのアノードガスの供給が停止される。その結果、発電による燃料電池スタック1内でのアノードガスの消費等によって、アノード圧力が低下していく。
【0132】
一方、コントローラ4は、脈動上限圧力が目標アノード圧力として設定されているときは、アノード圧力が脈動上限圧力まで昇圧するように、水素供給弁33をフィードバック制御する。このフィードバック制御の結果、水素供給弁33が所望の開度まで開かれて、高圧水素タンク31から燃料電池スタック1へアノードガスが供給され、アノード圧力が上昇する。
【0133】
図15及び
図16は、本実施形態によるパージ制御について説明するタイムチャートである。
図15のタイムチャートは、運転領域が通常領域であってパージ流量が閾値以上だったときのタイムチャートである。一方、
図16のタイムチャートは、運転領域が通常領域で、パージ流量が閾値未満だったときのタイムチャートである。
【0134】
図15(D)に示すように、パージ弁開弁要求信号生成処理によって、基準パージ周期中に基準デューティ比だけパージ弁開弁要求信号がONとなるようなパージ弁開弁要求信号が生成される。そして、
図15(E)に示すように、パージ弁開弁要求信号がONになっている時間が積算され、パージ弁開弁要求ON時間として算出される。
【0135】
時刻t1でパージ弁開弁要求ON時間が第1所定値以上になると、その後の時刻t2で水素供給弁33が開弁されたときに(
図15(B))、パージ弁開弁指令がONとなる(
図15(F))。
【0136】
そして、時刻t3において、パージ弁開弁指令がONの状態で水素供給弁33が閉弁されると、パージ弁36が開弁される(
図15(C))。パージ弁36が開弁されると、
図15(G)に示すように、パージ弁36が開弁されている時間が積算され、パージ弁開弁時間として算出される。時刻t4で、パージ弁開弁時間が第2所定値以上になると、パージ弁開弁指令がOFFとなり(
図15(F))、パージ弁36が閉弁される(
図15(C))。
【0137】
時刻t3から時刻t4までのパージ弁開弁期間において、パージ流量を推定するためのデータ、すなわちパージ弁開弁時の流出ガス量や発電消費水素量が算出される。
【0138】
そして、時刻t4から時刻t5までのパージ弁閉弁期間において、パージ流量を推定するためのデータ、すなわちパージ弁閉弁時の流出ガス量と発電消費水素量が算出される。
【0139】
時刻t5で水素供給弁33が開弁されたときに、データ量が十分であれば、取得したデータに基づきパージ流量が算出される(
図15(I))。
【0140】
この算出したパージ流量が閾値以上であれば、時刻t6でパージ弁開弁要求ON時間がパージ弁開弁時間(=第2所定値)だけ小さくされる(
図15(E))。これにより、パージ弁開弁要求ON時間が第1所定値を下回り、時刻t7で水素供給弁33が閉弁されてもパージ弁36は開弁されない。
【0141】
一方で、
図16に示すように、パージ流量が閾値未満であれば、時刻t6においてパージ弁開弁要求ON時間がそのまま保持される。そのため、時刻t6でパージ弁開弁指令がONとなり、時刻t7でパージ弁36を開弁することができる。このように、パージ流量が閾値未満であれば、パージ間隔を通常のパージ間隔よりも狭くして、パージ流量推定後の水素供給弁33の閉弁時に再度パージ弁36を開いて追加パージを実施する。よって、アノード系内の水素濃度を発電が安定する水素濃度に管理することができる。
【0142】
図17も、本実施形態によるパージ制御について説明するタイムチャートである。
図17のタイムチャートは、運転領域が高負荷領域で、パージ流量が閾値以上だったときのタイムチャートである。
【0143】
図17に示すように、時刻t21でパージ弁開弁要求ON時間が第1所定値以上になると(
図17(D))、パージ弁開弁指令がONにされる(
図17(E))。このとき、運転領域が高負荷領域であれば、高負荷パージ処理によって、パージ弁開弁時間がゼロであるか、又は昇圧中開弁フラグがONであるかが判定される。時刻t21では、パージ弁開弁時間がゼロなので、昇圧中フラグがONにされ(
図17(H))、水素供給弁33の開弁中にパージ弁36が開弁される(
図17(B))。
【0144】
このように、高負荷時には、水素供給弁33の開弁中にパージ弁36を開弁させることで、液水を確実に排出し、水素供給弁閉弁後にパージ弁36を介してパージガスを確実に排出させることができるようにしている。これにより、パージ流量の推定精度を向上させることができる。
【0145】
時刻t22で、水素供給弁33が閉弁されると、昇圧中フラグがOFFとなる(
図17(H))。そして、時刻t23で水素供給弁33が開弁されるが、このときのパージ弁開弁時間はまだ第2所定値に達していない(
図17(F))。そのため、パージ弁36は水素供給弁33の閉弁中はずっと開かれたままとなる(
図17(B))。また、パージ弁開弁時間もリセットされず(
図17(F))、パージ弁開弁指令もONのままとなる(
図17(E))。
【0146】
その結果、時刻t23で再びパージ弁開弁時間がゼロであるか、又は昇圧中開弁フラグがONであるかが判定される。時刻t23では、いずれの条件も満たしていいないので、今度は高負荷領域であっても、水素供給弁33の開弁中はパージ弁36が閉弁されることになる(
図17(B))。
【0147】
そして、時刻t24で水素供給弁33が閉弁されると、パージ弁36が開弁されて(
図17(B))、パージ弁開弁時間が再び増加する(
図17(F))。
【0148】
時刻t25で水素供給弁33が開弁されるが、いまだにパージ弁開弁時間は第2所定値に達していいないので(
図17(F))、パージ弁36は時刻t24からずっと開かれたままとなる(
図17(B))。また、パージ弁開弁時間もリセットされず(
図17(F))、パージ弁開弁指令もONのままとなる(
図17(E))。
【0149】
時刻t26で水素供給弁33が閉弁されると、時刻t27でパージ弁開弁時間に第2所定値に達すると(
図17(F))、パージ弁開弁指令がOFFにされ(
図17(E))、パージ弁36が閉弁される(
図17(B))。
【0150】
このように、高負荷領域など、水素供給弁33を閉弁してから開弁するまでの間隔が短くなるときは、1度の脈動降圧中にパージ弁開弁時間が第2所定値に達しないときがある。このようなときは、パージ弁36の開弁を分割して行うとともに、最初のパージだけ水素供給弁33の開弁中に行うようにしている。
【0151】
以上説明した本実施形態による燃料電池システム100は、アノード系内へのアノードガスの供給を制御する水素供給弁33(供給弁)と、アノード系内からオフガスを排出するパージ弁36と、アノード系内の圧力を計測するアノード圧力センサ34(圧力検出部)と、燃料電池スタック1の負荷(出力電流)に基づいて、水素供給弁33の開閉を制御する供給弁制御部(コントローラ4)と、水素供給弁33の閉弁中のアノード系内の圧力低下に基づいて、パージ弁36を通ってアノード系内から排出されるオフガスのパージ流量を推定するパージ流量推定部(コントローラ4)と、水素供給弁33の閉弁中に合わせてパージ弁36を開弁するパージ弁制御部(コントローラ4)と、を備える。
【0152】
このように、水素供給弁33の閉弁中に合わせてパージ弁36を開弁することで、パージ弁36を水素供給弁33の開閉状態に関わらず任意に開弁する場合に比べて、水素供給弁33の閉弁中のアノード系内の圧力低下時にパージ弁36が開弁される頻度を増加させることができる。そのため、水素供給弁33の閉弁中のアノード系内の圧力低下に基づいて、パージ弁36を通ってアノード系内から排出されるオフガスのパージ流量を推定する頻度を確保することができる。
【0153】
また、パージ弁制御部は、水素供給弁33の閉弁中にパージ弁36を所定の開弁時間(第2所定値)だけ開弁したらパージ弁36を閉弁する(水素供給弁33の開弁前にパージ弁36を閉弁する)ので、水素供給弁33の閉弁中にパージ弁36を開弁した状態と閉弁した状態とを作ることができる。そのため、水素供給弁33の閉弁中のパージ弁開弁時の圧力低下とパージ弁閉弁時の圧力低下とに基づいてパージ流量を推定する場合でも、その推定頻度を確保することができる。
【0154】
また、パージ弁制御部は、パージ弁開弁時間(第2所定値)が経過する前に水素供給弁33が開弁されたときは、水素供給弁33の開弁タイミングに合わせてパージ弁36を閉弁し、次の水素供給弁33の閉弁中に再度パージ弁36を開弁する。そのため、水素供給弁33の閉弁中にパージ弁36を開弁してパージ流量の推定頻度を確保しつつ、アノード系内の水素濃度を発電が安定する水素濃度に保つために必要なパージ量を確実に確保することができる。
【0155】
また、本実施形態による燃料電池システム100は、パージ流量推定部によって推定されたパージ流量に基づいて、パージ量が不足しているか否かを判定する判定部(コントローラ4)を備え、パージ弁制御部は、燃料電池スタック1の負荷に基づいてパージ弁36を開弁するまでの間隔(パージ間隔)を変更し、パージ量が不足していると判定されたときはパージ弁36を開弁するまでの間隔を、燃料電池スタック1の負荷に基づいて設定される間隔よりも短くする。
【0156】
具体的には、パージ弁制御部は、燃料電池スタック1の負荷に基づいてパージ弁36の開弁要求時間(基準デューティ比)を算出し、開弁要求時間の積算値(パージ弁開弁要求ON時間)が第1所定値以上になったときにパージ弁36の開弁指令を出し、パージ量が不足していないと判定されたときは開弁要求時間の積算値をパージ弁36の開弁時間だけ減算し、パージ量が不足していると判定されたときは開弁要求時間の積算値をそのまま保持する。
【0157】
これによりパージ量が不足しているときは、負荷に基づくパージとは別途に追加のパージを実施することができるので、アノード系内の水素濃度の低下を抑制することができ、安定した発電を継続して実施することができる。
【0158】
また、判定部は、パージ流量推定部によって推定されたパージ流量と、燃料電池スタック1の負荷に応じた閾値と、に基づいてパージ量が不足しているか否かを判定し、閾値はパージ弁36を開弁するまでの間隔が長くなるほど小さくなるように補正される。
【0159】
これは、パージ間隔が長くなるほど、パージ弁36を開弁してから次に開弁するまでの期間が長くなるので、アノード系内に蓄積される液水量が多くなる。そのため、パージ間隔が長くなるほど、パージ弁36を開弁したときに排出されるパージ量が相対的に少なくなる。本実施形態では、水素供給弁33の開閉状態に合わせてパージ弁36を開弁するようにしているので、パージ弁36を開弁するまでの間隔が変化する。この場合、パージ間隔が短い場合に比べて長いときにパージ量が少なくなるのは、パージ間隔が長くなったことによりアノード系内の液水量が多くなることが原因である。したがって、パージ間隔が長いときほど閾値を小さくすることで、不用意にパージ不足と判断される頻度を少なくすることができる。これにより、不用意に追加パージが実施されることがなくなるので、燃費の悪化を抑制することができる。
【0160】
また、パージ弁制御部は、燃料電池スタック1の負荷が所定負荷よりも高いときは、水素供給弁33の開弁中からパージ弁36を開弁するので、アノード系内に蓄積された液水を確実に排出し、パージ弁36を開弁したときに排出されるアノードオフガスの量を確保することができる。そのため、パージ流量の推定精度を向上させることができる。
【0161】
また、パージ弁制御部は、水素供給弁33の閉弁中にパージ弁36を開弁した場合において、一旦閉弁された水素供給弁33がパージ弁開弁時間(第2所定値)が経過する前に再度開弁されたときは、水素供給弁33の再開弁タイミングに合わせてパージ弁36を閉弁し、その後の水素供給弁33の閉弁中に再度パージ弁36を開弁する。このように、分割してパージが実施されるときは、最初のパージのときだけ水素供給弁33の開弁中にパージ弁36を開弁する。これにより、最初のパージで液水の排出を確実に行いつつ、次回のパージからは水素供給弁33の閉弁中に合わせてパージ弁36を開弁することで、パージ流量の推定頻度を確保することができる。
【0162】
また、パージ流量推定部は、アノード系内へのアノードガス供給停止時におけるパージ弁開弁時の圧力低下とパージ弁閉弁時の圧力低下とに基づいて、パージ弁36を通ってアノード系内から排出されるオフガスのパージ流量を推定する。パージ流量推定部は、具体的には、パージ弁開弁時の圧力低下に基づいてパージ弁開弁期間にアノード系内から流出するガス流量を推定する第1推定部と、パージ弁閉弁時の圧力低下に基づいてパージ弁36の開閉状態によらずにアノード系内から流出するガス流量を推定する第2推定部と、を備え、第1推定部で推定したガス流量と第2推定部で推定したガス流量とに基づいてパージ流量を推定する。
【0163】
これにより、パージ弁36の開閉状態によらずにアノード系内から流出するガス流量をパージ弁閉弁時の圧力低下から推定することができるので、この推定結果とパージ弁開弁期間にアノード系内から流出するガス流量とから、パージ弁36を通ってアノード系内から排出されるオフガスのみの流量を精度良く推定することができる。
【0164】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0165】
例えば、上記の実施形態では、水素供給弁33の閉弁と同時にパージ弁36を開弁していたが水素供給弁33の閉弁後、所定時間(例えば80ミリ秒)経過してからパージ弁36を開弁するようにしても良い。これにより、水素供給弁33の応答遅れや、アノード圧力センサ34の検出値のオーバーシュート等がパージ流量の推定に与える影響を小さくすることができ、パージ流量の推定精度をさらに向上させることができる。
【0166】
また、上記の実施形態では、アノード圧力センサ34の検出値をアノード系内の圧力として利用したが、アノード系内の圧力を例えば水素供給弁33の開度等から推定しても良い。
【0167】
また、上記の実施形態では、アノード圧力を脈動させる脈動運転を実施していたが、燃料電池スタックの負荷に応じてアノード圧力を一定する燃料電池システムであっても良い。この場合、負荷が低下したときの下げ過渡時(アノード圧低下時)にパージ弁36の開閉を行えばよい。また、一次的にアノード圧力を脈動させてもよい。
【0168】
また、上記の実施形態では、パージ弁開弁時間が第2所定値になるまでは、水素供給弁33の閉弁中にずっとパージ弁36を開弁するようにして、高負荷のときなどは分割してパージを実施していた。これに対して、水素供給弁33の開弁前にはパージ弁36を閉弁するようにしつつ、パージ弁開弁時間が第2所定値になるまで分割してパージを行うようにしても良い。
【0169】
また、上記の実施形態において、パージ弁36よりも上流のアノードガス排出通路35とアノードガス供給通路32とを接続し、アノードオフガスを循環させる構成としてもよい。
【0170】
本願は2014年10月28日に日本国特許庁に出願された特願2014−219712に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。