(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6458140
(24)【登録日】2018年12月28日
(45)【発行日】2019年1月23日
(54)【発明の名称】磁性構造体の磁区壁制御方法、及びそれを用いた磁気メモリ素子
(51)【国際特許分類】
H01L 29/82 20060101AFI20190110BHJP
H01L 21/8239 20060101ALI20190110BHJP
H01L 27/105 20060101ALI20190110BHJP
H01F 41/14 20060101ALI20190110BHJP
【FI】
H01L29/82 Z
H01L27/105 447
H01F41/14
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-519429(P2017-519429)
(86)(22)【出願日】2015年1月16日
(65)【公表番号】特表2017-525161(P2017-525161A)
(43)【公表日】2017年8月31日
(86)【国際出願番号】KR2015000458
(87)【国際公開番号】WO2016010218
(87)【国際公開日】20160121
【審査請求日】2016年12月20日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0089300
(32)【優先日】2014年7月15日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】516151597
【氏名又は名称】コリア リサーチ インスティテュート オブ スタンダーズ アンド サイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】ムン、 キョンウン
(72)【発明者】
【氏名】ファン、 チャンヨン
【審査官】
安田 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2009/020258(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0111259(US,A1)
【文献】
特開2008−091901(JP,A)
【文献】
特開2007−200445(JP,A)
【文献】
Andrew KUNZ et al.,Application of local transverse fields for domain wall control in ferromagnetic nanowire arrays,APPLIED PHYSICS LETTERS,2012年,Vol.101,pp.192402-1〜192402-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/82
H01L 43/08−12
H01L 27/22
H01L 27/10−105
H01L 21/8239
H01F 41/14−30
G11C 11/14−16
G11C 19/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の磁区、前記第1の磁区と磁化方向が逆方向である二つ以上の第2の磁区、及び前記第1の磁区と前記第2の磁区との間に介在されて磁化方向が互いに逆方向である二つ以上の磁区壁を備える磁性構造体に、一方の前記磁区壁の磁化方向に平行な第1方向に第1磁場及び前記第1の磁区の磁化方向に平行な第2方向に第2磁場を印加することで、一方の前記磁区壁の移動速度が他方の前記磁区壁の移動速度より速く、前記第1の磁区が前記第2の磁区より拡張する第1段階と、
前記磁性構造体に、前記第1方向の逆方向に第3磁場及び前記第2方向の逆方向に第4磁場を印加することで、他方の前記磁区壁の移動速度が一方の前記磁区壁の移動速度より速く、前記第2の磁区が前記第1の磁区より拡張する第2段階と、を含んで行う磁性構造体の磁区壁制御方法であって、
前記磁区壁の間の隔離距離を一定に保持しながら、前記磁区壁の磁化方向または前記第1の磁区または前記第2の磁区の磁化方向と平行な方向に均一に移動させることができる磁性構造体の磁区壁制御方法。
【請求項2】
第1の磁区、前記第1の磁区と磁化方向が逆方向である二つ以上の第2の磁区、及び前記第1の磁区と前記第2の磁区との間に介在されて磁化方向が互いに逆方向である二つ以上の磁区壁を備える磁性構造体に、一方の前記磁区壁の磁化方向及び前記第1の磁区の磁化方向とそれぞれ平行ではない磁場を印加することで、一方の前記磁区壁の移動速度が他方の前記磁区壁の移動速度より速く、前記第1の磁区と前記第2の磁区のどちらかの一方が他方より拡張する第1段階と、
前記磁性構造体に、前記磁化方向の逆方向にさらに他の磁場を印加することで、他方の前記磁区壁の移動速度が一方の前記磁区壁の移動速度より速く、前記第1の磁区と前記第2の磁区のどちらかの他方が一方より拡張する第2段階と、を含んで行う磁性構造体の磁区壁制御方法であって、
前記磁区壁の間の隔離距離を一定に保持しながら、前記磁区壁の磁化方向または前記第1の磁区または前記第2の磁区の磁化方向と平行な方向に均一に移動させることができる磁性構造体の磁区壁制御方法。
【請求項3】
前記磁性構造体が、垂直磁気異方性を有する場合、
前記第1段階及び前記第2段階を含んで行うことによって、前記磁区壁は、前記磁区壁の磁化方向と平行な方向に均一に移動する請求項1または2のうち何れか一項に記載の磁性構造体の磁区壁制御方法。
【請求項4】
前記磁性構造体が、水平磁気異方性を有する場合、
前記第1段階及び前記第2段階を含んで行うことによって、前記磁区壁は、前記第1の磁区または前記第2の磁区の磁化方向と平行な方向に均一に移動する請求項1または2のうち何れか一項に記載の磁性構造体の磁区壁制御方法。
【請求項5】
前記磁区壁は、
前記磁性構造体の種類によって、前記磁化方向が決定されることによって、前記磁区壁の磁化方向、または前記第1の磁区または前記第2の磁区の磁化方向と平行な方向に均一に移動が可能である請求項1または2のうち何れか一項に記載の磁性構造体の磁区壁制御方法。
【請求項6】
前記第1段階と前記第2段階とを交互に繰り返し行うことによって、
前記磁性構造体の磁化状態を前記磁区壁の磁化方向、または前記第1の磁区または前記第2の磁区の磁化方向と平行な方向に均一に移動させることができる請求項1または2のうち何れか一項に記載の磁性構造体の磁区壁制御方法。
【請求項7】
前記第2方向は、前記第1方向と垂直である請求項1に記載の磁性構造体の磁区壁制御方法。
【請求項8】
前記二つ以上の磁区壁の間にエネルギーの差が発生することによって、前記磁区壁の移動速度を制御することができる請求項1に記載の磁性構造体の磁区壁制御方法。
【請求項9】
前記第1、第2の磁区との大きさの差が発生することによって、前記磁区壁の移動速度を制御することができる請求項1に記載の磁性構造体の磁区壁制御方法。
【請求項10】
請求項1または2のうち何れか一項に記載の前記磁性構造体の磁区壁制御方法による前記磁性構造体を含む磁気メモリ素子。
【請求項11】
前記磁性構造体は、リボン状、ライン状または薄膜状のうち何れか1つを有する請求項10に記載の磁気メモリ素子。
【請求項12】
前記磁性構造体と連結されたデータ記録素子及び読み取りヘッドをさらに含み、前記データ記録素子及び前記読み取りヘッドによって、データを記録または削除することができる請求項10に記載の磁気メモリ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体の磁化状態平衡移動に係り、より詳細には、磁化状態を均一に移動することができる磁性構造体の磁区壁制御方法、及びそれを用いた磁気メモリ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
情報産業の発達につれて、大容量の情報処理が要求され、高容量の情報を保存することができる情報記録媒体に関する需要が持続的に高まりつつある。
【0003】
一般的に、情報記録媒体として広く使われるHDDは、読み取り/書き込みヘッドと情報が記録される回転する媒体と、を含んでおり、100GB以上の高容量の情報が保存されうる。しかし、HDDのように回転する部分を有する保存装置は、摩耗する傾向があり、動作時にエラーが発生する可能性が大きいために、信頼性が落ちるという短所がある。
【0004】
最近、磁性物質の磁区壁(magnetic domain wall)移動原理を用いる新たなデータ保存装置に関する研究及び開発がなされている。一般的に、磁性構造体を構成する磁気的な微小領域を磁区(magnetic domain)と称する。1つの磁区内では、電子の自転、すなわち、磁気モーメントの方向が同じ特徴を有している。磁区の大きさ及び磁化方向は、磁性材料の形状、大きさ及び外部のエネルギーによって適切に制御される。磁区壁は、互いに異なる磁化方向を有する磁区の境界部分を表わすものである。磁区壁は、磁性材料に印加される磁場または電流によって移動する特徴がある。
【0005】
一方、磁性薄膜の幅を減らしてリボン状の構造を作れば、幅方向には磁化状態が一定に形成され、磁区の状態によって、“1”または“0”に対応させれば、メモリ素子として利用が可能である。このような形態のメモリを磁区壁レーストラックメモリ(magnetic domain wall racetrack memory)と呼ぶ。この磁区壁レーストラックメモリ素子の作動のためには、あらゆる磁区壁が一側素子の長手方向に均一に移動することが必要であるが、磁場または電流を用いて磁区壁を移動させることができるが、最近、電流を流して磁区壁を移動させる方法についての研究が多くなされた。
【0006】
しかし、磁区壁を移動させる程度の電流をメモリ素子に流せば、電流によって発生するジュール熱(Joule heating)によって温度の増加問題が深刻になって、前記メモリ素子を破壊させる程度に至る。また、外部から均一に印加される磁場を利用すれば、磁区壁の移動が可能であるが、磁区壁が一方向に均一に行かず、遠くなるか近くなる運動のみするために、使用が不可能な問題点がある。
【0007】
また、最近、磁場を用いた他の方法も提案された。素子に一方向にのみ磁区壁がよく移動するように方向性を与えるが、主に非対称的な鋸歯状の構造の素子を作るか、後処理を通じて素子に磁区壁移動の方向性を決定する。このような非対称的な試料に磁場の方向が正の方向または負の方向に継続的に変化するように磁場を印加すれば、磁区壁は往復運動をしながら、一方向に移動する。このような方法は、素子に方向性を与えるために複雑な工程が必要であるという短所がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記問題点を含んで多様な問題点を解決するためのものであって、電流で制御せず、磁区壁移動の往復対称性を破るための複雑な構造が不要であり、互いに異なる方向の磁場を交互に印加して磁区壁を均一に移動させることができる磁性構造体の磁区壁制御方法、及びそれを用いた磁気メモリ素子を提供することを目的とする。しかし、このような課題は、例示的なものであって、これにより、本発明の範囲が限定されるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一観点によれば、多数の磁区、及び前記磁区の間に介在された磁区壁を備える磁性構造体に、前記磁区壁の磁化方向に平行な第1方向に第1磁場及び前記磁区の磁化方向に平行な第2方向に第2磁場を印加する第1段階と、前記磁性構造体に、前記第1方向の逆方向に第3磁場及び前記第2方向の逆方向に第4磁場を印加する第2段階と、を含んで行うことによって、前記磁区壁を前記磁区壁の磁化方向または前記磁区の磁化方向と平行な方向に均一に移動させることができる。
【0010】
また、多数の磁区、及び前記磁区の間に介在された磁区壁を備える磁性構造体に、前記磁区壁の磁化方向及び前記磁区の磁化方向とそれぞれ平行ではない磁場を印加する第1段階と、前記磁性構造体に、前記磁場方向の逆方向にさらに他の磁場を印加する第2段階と、を含んで行うことによって、前記磁区壁を前記磁区壁の磁化方向または前記磁区の磁化方向と平行な方向に均一に移動させることができる。
【0011】
前記磁性構造体が、垂直磁気異方性を有する場合、前記第1段階及び前記第2段階を含んで行うことによって、前記磁区壁は、前記磁区壁の磁化方向と平行な方向に均一に移動することができる。
【0012】
前記磁性構造体が、水平磁気異方性を有する場合、前記第1段階及び前記第2段階を含んで行うことによって、前記磁区壁は、前記磁区の磁化方向と平行な方向に均一に移動することができる。
【0013】
前記磁区壁は、前記磁性構造体の種類によって、前記磁化方向が決定されることによって、前記磁区壁の磁化方向または前記磁区の磁化方向と平行な方向に均一に移動が可能である。
【0014】
前記第1段階及び前記第2段階を含んで行うことによって、前記磁区壁間の隔離距離を一定に保持しながら、前記磁区壁の磁化方向または前記磁区の磁化方向と平行な方向に均一に移動させることができる。
【0015】
前記第1段階と前記第2段階とを交互に繰り返し行うことによって、前記磁性構造体の磁化状態を一定の距離ほど前記磁区壁の磁化方向または前記磁区の磁化方向と平行な方向に均一に移動させることができる。
【0016】
前記第2方向は、前記第1方向と垂直であり得る。
【0017】
前記第1磁場または前記第3磁場は、前記磁区壁の磁化方向と平行な成分であって、前記磁区壁のエネルギーの差が発生することによって、前記磁区壁の移動速度を制御することができる。
【0018】
前記第2磁場または前記第4磁場は、前記磁区の磁化方向と平行な成分であって、前記磁区の大きさの差が発生することによって、前記磁区壁の移動速度を制御することができる。
【0019】
本発明の他の観点によれば、磁気メモリ素子は、前記磁性構造体の磁区壁制御方法による前記磁性構造体を含みうる。
【0020】
前記磁性構造体は、リボン状、ライン状または薄膜状のうち何れか1つを有しうる。
【0021】
前記磁性構造体と連結されたデータ記録素子及び読み取りヘッドをさらに含み、前記データ記録素子及び前記読み取りヘッドによって、前記データを記録または削除することができる。
【発明の効果】
【0022】
前記のようになされた本発明の一実施形態によれば、磁気メモリ素子に加えられる電流によって発生するジュール熱による磁気メモリ素子の破壊なしに、磁場の印加方向のみを制御して磁区壁を均一に移動させることができる。
【0023】
また、素子自体が磁区壁移動の方向性を決定せず、構造が簡単な磁性構造体の磁区壁制御方法、及びそれを用いた磁気メモリ素子を具現することができる。もちろん、このような効果によって、本発明の範囲が限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態による磁性構造体の磁区壁制御方法を概略的に示す工程フローチャートである。
【
図2】本発明の他の実施形態による磁性構造体の磁区壁制御方法を概略的に示す工程フローチャートである。
【
図3A】本発明の一実施形態による磁性構造体を概略的に示す図面である。
【
図3B】本発明の一実施形態による磁性構造体を概略的に示す図面である。
【
図3C】本発明の一実施形態による磁性構造体を概略的に示す図面である。
【
図3D】本発明の一実施形態による磁性構造体を概略的に示す図面である。
【
図4】本発明の一実施形態による磁性構造体の磁区壁制御方法を段階別に示す図面である。
【
図5】本発明の他の実施形態による磁性構造体の磁区壁制御方法を段階別に示す図面である。
【
図6】本発明のさらに他の実施形態による磁性構造体の磁区壁制御方法を段階別に示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態を詳しく説明すれば、次の通りである。しかし、本発明は、以下で開示される実施形態に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態として具現可能なものであって、以下の実施形態は、本発明の開示を完全にし、当業者に発明の範疇を完全に知らせるために提供されるものである。また、説明の便宜上、図面では、構成要素がその大きさが誇張または縮小されうる。
【0026】
一般的に、強磁性構造体は、隣接した磁気モーメントが互いに平行に整列しようとする性質を有した物質を言い、強磁性構造体を数nm程度の厚さを有する薄膜で作り、磁性層の上または下に他の物質を積層すれば、垂直磁性を有する磁性薄膜を作ることができる。
【0027】
また、前記磁性薄膜の上から見た時、N極またはS極に整列されている領域を磁区と言い、磁化方向が互いに異なる磁区の間には、磁区壁が形成される。磁区壁は、例えば、磁場と電流との2種の駆動力によって移動するが、磁場で移動する磁区壁の速力は、小さな磁場領域でクリープ(creep)という範疇に属する。そして、電流による磁区壁の移動速力も、磁場である時と同様にクリープの範疇に属し、磁区壁の速力は、電流方向に対する磁区壁の傾きに大きく依存する。最近、電流による磁区壁移動現象を用いた多様な応用可能性が提示され、例えば、ナノ線構造を基盤とする磁区壁メモリ素子(domain wall race track memory)が代表的である。
【0028】
一方、相対的に長い時間で磁区壁移動を観察する場合、電流で移動する磁区壁は、電流によって発生するジュール熱によって素子が破壊されるか、経時的に磁区壁の速力が急激に減少する。
【0029】
また、最近、磁場を用いた他の方法は、素子に一方向にのみ磁区壁がよく移動するように方向性を与えるが、主に非対称的な鋸歯状の構造の素子を作るか、後処理を通じて素子に磁区壁移動の方向性を決定する。このような非対称的な試料に磁場の方向が正の方向または負の方向に継続的に変化するように磁場を印加すれば、磁区壁は往復運動をしながら、一方向に移動する。このような方法は、素子に方向性を与えるために複雑な工程が必要であるという短所がある。それを解決するために、本発明は、素子自体が磁区壁移動の方向性を決定せず、構造が簡単な磁性構造体の磁区壁制御方法、及びそれを用いた磁気メモリ素子を具現することができる。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態による磁性構造体の磁区壁制御方法を概略的に示す工程フローチャートである。
【0031】
図1を参照すれば、磁性構造体の磁区壁制御方法は、多数の磁区及び磁区壁を備える磁性構造体に、前記磁区壁の磁化方向に平行な第1方向に第1磁場及び前記磁区の磁化方向に平行な第2方向に第2磁場を印加する第1段階(ステップS100)、磁性構造体に第1方向の逆方向に第3磁場及び第2方向の逆方向に第4磁場を印加する第2段階(ステップS200)、及び前記第1段階及び前記第2段階を交互に繰り返し行うことによって、磁性構造体の磁区壁を一定の距離ほど磁区壁の磁化方向または磁区の磁化方向と平行な方向に均一に移動させる段階(ステップS300)を含みうる。前記第1段階(ステップS100)と前記第2段階(ステップS200)は、本発明の一実施形態であって、磁性構造体の磁区壁を移動しようとする方向によって、前記第1方向は、前記第1方向の逆方向になり、前記第2方向は、前記第2方向の逆方向にもなりうる。
【0032】
図2は、本発明の他の実施形態による磁性構造体の磁区壁制御方法を概略的に示す工程フローチャートである。
【0033】
図2を参照すれば、磁性構造体の磁区壁制御方法は、多数の磁区及び磁区壁を備える磁性構造体に、前記磁区壁の磁化方向及び前記磁区の磁化方向とそれぞれ平行ではない磁場を印加する第1段階(ステップS110)、磁性構造体に前記磁場方向の逆方向にさらに他の磁場を印加する第2段階(ステップS210)、及び前記第1段階及び前記第2段階を交互に繰り返し行うことによって、磁性構造体の磁区壁を一定の距離ほど磁区壁の磁化方向または磁区の磁化方向と平行な方向に均一に移動させる段階(ステップS310)を含みうる。
【0034】
磁性構造体の磁区壁制御方法についての詳細な説明は、
図3Aないし
図3D、
図4、
図5及び
図6を参照して後述する。
【0035】
図3Aないし
図3Dは、本発明の一実施形態による磁性構造体を概略的に示す図面である。
【0036】
図3Aを参照すれば、強磁性構造体は、隣接した磁気モーメントが互いに平行に整列しようとする性質を有した物質であり、強磁性構造体を数nm程度の厚さを有する薄膜で作り、互いに異なる成分を有する物質を積層すれば、垂直磁性または水平磁性を有する磁性構造体1を作ることができる。例えば、磁性構造体1は、リボン状、ライン状または薄膜状のうち何れか1つを有しうる。前記垂直磁性を有する磁性構造体を垂直磁気異方性を有する磁性構造体1であると言える。ここで、垂直磁気異方性とは、磁化方向が磁性構造体1の上面を基準に面方向に突き出るか、入るかの2つのうち1つの磁化状態を取る。すなわち、磁性構造体1の上部から見れば、N極11またはS極21のうち何れか1つが見られる。
【0037】
磁性構造体1の面上から見た時、N極11に整列されている部分またはS極21に整列されている領域を磁区と呼ぶ。例えば、それぞれをアップ磁区(アップドメイン、N極が上に立っており、S極が下にある場合)、ダウン磁区(ダウンドメイン、S極が上に立っており、N極が下にある場合)と呼ばれる。磁区10、20は、磁化状態が均一に整列されている領域を意味する。
【0038】
磁化方向が互いに異なる2つの磁区10、20の間には、磁区壁15が形成されうる。磁区壁15で磁化方向は、一側磁区10、20の磁化方向から他の磁区10、20の磁化方向に漸進的に変化することができる。一般的には、磁化方向の変化は、数十nmの長さのみで起こると知られている。すなわち、磁区壁15の幅は、数十nmの大きさである。
【0039】
一方、磁性構造体1に磁区壁15が存在する時、磁石30を用いて前記磁性構造体1にアップまたはダウン方向の均一な外部磁場31を印加すれば、磁区壁15が移動することができる。例えば、アップ磁場が印加されれば、第1磁区10のエネルギーが第2磁区20のエネルギーよりも安定的であるために、第2磁区20が第1磁区10に変化しようとする力を受ける。このような変化は、磁区壁15で容易に作用するが、これを通じて磁区壁15が移動し、各磁区が拡張または収縮する。この際、磁性構造体1の物質によって磁化方向が決定される。
【0040】
図3B及び
図3Cを参照すれば、第1磁区10と第2磁区20との間には、必ず磁区壁15が存在するが、磁区壁15の中心で磁化方向は磁性構造体1の面に水平に横たえられるしかない。その理由は、第1磁区10と第2磁区20との磁化状態が連続した回転を通じて連結されなければならないためである。
図3Bの場合は、ブロッホタイプであり、
図3Cの場合は、ニールタイプを示す図面である。最近、DMI(Dzyaloshinskii−Moriya interaction、ジャロシンスキー−守谷影響)によって磁区壁15の磁化方向が一定の方向性を好むことが明らかになり、DMI係数の符号によって、
図3Cに示されたように、垂直磁気異方性を有する磁性構造体1の種類、すなわち、物質の特性に応じて、2つのニールタイプ磁区壁のうち何れか1つを形成する。このような磁区壁の磁化形態の決定は、水平磁気異方性を有する磁性構造体1の場合も同様である。
【0041】
したがって、本発明の一実施形態において、磁区10、20の磁化方向及び磁区壁15の磁化方向と所定の角度を有し、斜めに傾いた外部磁場31を前記磁性構造体10の面方向の上側(正の方向)と面方向の下側(負の方向)とに交互に印加する場合、磁性構造体1の種類によって、磁性構造体1の磁区壁15は、前記外部磁場31によって磁区壁の磁化方向または磁区の磁化方向と平行な方向に移動が可能である。
【0042】
図3Dを参照すれば、DMIの影響によって線素子形態の磁性構造体1に多数の磁区10、20及び磁区壁15が形成されうる。形成された磁区壁15は、DMI係数によって線素子形態の磁性構造体1の長手方向に磁化状態を有するが、第1磁区10と第2磁区20または第2磁区20と第1磁区10によって、外部磁場31の方向に平行または反平行になりうる。したがって、磁性構造体1の長手方向に平行な方向に均一な外部磁場31をかければ、第1磁区10と第2磁区20との間の磁区壁15と第2磁区20と第1磁区10との間に存在する磁区壁15との間にエネルギーの差が発生する。磁区壁15の磁化方向が外部磁場31に平行であるほど安定的であり、エネルギーが低くなり、反対の場合は、不安定になり、エネルギーが高くなる。
【0043】
また、第1磁区10と第2磁区20は、いずれも水平磁場に垂直なので、2つの磁区のエネルギーの差がないために、水平磁場は、磁区壁15を移動させることができず、水平磁場による磁区壁15の拡張と収縮も起こるが、その大きさが数nm以下の微々たる実情である。クリープ法則(creep law)によれば、磁区壁15の速力は、垂直磁場の強度が強いほど速くなり、磁区壁15の移動方向は、垂直磁場と平行な方向の磁区が確張する方向に移動することができる。磁区壁15のエネルギーが低いほど磁区壁15の移動速力が速くなる。
【0044】
図4は、本発明の一実施形態による磁性構造体の磁区壁制御方法を段階別に示す図面である。
【0045】
図4の(a)と
図4の(b)とを参照すれば、エネルギーが低い磁区壁15は迅速に移動し、エネルギーが高い磁区壁15は相対的に徐々に移動するために、例えば、垂直異方性を有する磁性構造体1に水平な第1方向に第1磁場31aをかけ、さらに垂直な第2方向に第2磁場31bをアップ方向に与えれば、第1磁区10が確張することによって、第1磁区10の両側に配された磁区壁15が非対称的に移動する。ここで、第1磁場が有しているベクトル成分が、第1方向であることを意味し、第2磁場が有しているベクトル成分は、第2方向であることを意味する。
【0046】
図4の(b)と
図4の(c)とを参照すれば、磁性構造体1の磁区壁15を一回移動させた後、第2方向の逆方向にそれぞれ第4磁場31dを印加すれば、最初と反対に第2磁区20が確張し、磁区壁15は、最初と逆方向に移動する。しかし、第3磁場31cの方向が第1方向の逆方向に変わっているので、磁区壁15の移動距離は最初と異なる。ここで、第3磁場が有しているベクトル成分が、第1方向の逆方向であることを意味し、第4磁場が有しているベクトル成分は、第2方向の逆方向であることを意味する。
【0047】
磁性構造体1に最初と同じ第1方向と第2方向に第1磁場31aと第2磁場31b、及び再び前記第1方向と第2方向の逆方向に第3磁場31cと第4磁場31dを印加すれば、最終的に磁区壁15の位置は、最初の位置から均一に一方向に移動するか、磁区壁15間に隔離距離を一定に保持しながら、一方向に移動し続ける。ここで、第1磁場と第2磁場は、互いに垂直であり、第3磁場と第4磁場も、互いに垂直であり得る。
【0048】
したがって、垂直磁気異方性または水平磁気異方性を有する磁性構造体1の初期の磁化状態と外部磁場31によって変化された磁性構造体1の最終磁化状態とを比較すれば、磁性構造体1の磁区壁15が外部磁場31の方向を交互に繰り返し印加することによって、印加された外部磁場31の水平成分方向に均一に移動することができる。前記水平成分方向は、磁性構造体1の種類によって決定された磁区壁の磁化方向または磁区の磁化方向と平行な方向のうち何れか一方向を有し、前記磁区壁15が移動することができる。
【0049】
図5は、本発明の他の実施形態による磁性構造体の磁区壁制御方法を段階別に示す図面である。
【0050】
図5を参照すれば、垂直磁気異方性を有する磁性構造体1で任意の形態を有する磁区壁15に磁性構造体1の面方向(x軸−y軸方向)に対する垂直方向と所定の角度を有し、斜めに傾いた外部磁場31を印加すれば、例えば、y軸とz軸との範囲内で斜めに傾いた方向(磁区壁の磁化方向及び磁区の磁化方向とそれぞれ平行ではない方向)に第5磁場31eを印加すれば、磁性構造体1内に形成された磁区のエネルギーの差によって、第1磁区10または第2磁区20の拡張または縮小が発生する。これにより、前記第1磁区10及び第2磁区20の間に介在された磁区壁15が非対称的に移動する。
【0051】
一方、磁区壁15が移動した前記磁性構造体1に、前記第5磁場方向の逆方向に第6磁場31fを印加すれば、磁区壁15が移動する逆方向に再び戻ろうとするが、第5磁場31eの初期水平成分(y軸方向)によって磁区壁15が既存に移動する距離よりも相対的にさらに短く移動する。
【0052】
結果的に、前記磁性構造体1に外部磁場31を正方向と、前記正方向の逆方向に一周期を繰り返して印加する場合、初期磁性構造体1の磁化状態で磁区壁の磁化方向または磁区の磁化方向と平行な方向と平行な方向(ここで、垂直磁気異方性を有する磁性構造体なので、磁区壁の磁化方向であるy軸方向)に磁化状態が一定の間隔を保持しながら移動することができる。ここで、印加される外部磁場31は、水平ベクトルの成分及び垂直ベクトルの成分をいずれも有しうる。
【0053】
すなわち、多数の磁区、及び前記磁区の間に介在された磁区壁を備える磁性構造体に、前記磁区壁の磁化方向及び前記磁区の磁化方向とそれぞれ平行ではない磁場を印加する段階と、前記磁性構造体に、前記磁場の逆方向にさらに他の磁場を印加する段階と、を含んで行うことによって、前記磁区壁の磁化方向または磁区の磁化方向と平行な方向に均一に移動させることができる。ここで、前記磁場は、前記第5磁場31eに対応し、前記さらに他の磁場は、前記第6磁場31fに対応する。
【0054】
図6は、本発明のさらに他の実施形態による磁性構造体の磁区壁制御方法を段階別に示す図面である。
【0055】
図6の(a)と
図6の(b)とを参照すれば、水平磁気異方性を有する磁性構造体1は、磁区10、20の磁化方向と磁区壁15(水平線素子の場合、トランスバースドメインウォール(transverse domain wall)と称する。以下、磁区壁)の磁化方向は、それぞれx軸−y軸上に置かれる。まず、前記磁性構造体1に第5磁場31eを印加することができる。印加された第5磁場31eによって、各第1磁区10は確張し、第2磁区20は収縮することができる。第5磁場31eは、磁区壁15の磁化方向のベクトル成分と磁区10、20の磁化方向のベクトル成分の2種をいずれも有しうる。前記第5磁場31eの方向は、磁区壁15の磁化方向から磁区10、20の磁化方向に所定の角度を有し、斜めに傾いたもの、または前記磁区壁15の磁化方向及び前記磁区10、20の磁化方向とそれぞれ平行ではないものを利用できる。
【0056】
図6の(b)と
図6の(c)とを参照すれば、第5磁場31eの逆方向に第6磁場31fを印加すれば、拡張または収縮された第1磁区10と第2磁区20とが再び元のとおりに戻ろうとするが、磁区壁15のエネルギーの差によって、その移動距離が最初と異なり、水平磁気異方性を有する磁性構造体1の場合は、磁区10、20の磁化方向によって磁区壁15が均一に移動する。
【0057】
言い換えれば、
図4及び
図5の垂直磁気異方性を有する磁性構造体1を例として前述したように、磁場またはさらに他の磁場を交互に印加すれば、各磁区10、20の大きさ及び磁区壁15間のエネルギーの差が発生することによって、磁区壁15は、最初の磁化状態の位置に移動することができず、その位置が変わる。したがって、前記磁場またはさらに他の磁場を磁性構造体1に交互に印加し続ければ、磁区壁15を一定の方向に均一に移動させることができる。ここで、前記磁場は、前記第5磁場31eに対応し、前記さらに他の磁場は、前記第6磁場31fに対応する。
【0058】
一方、前記磁場またはさらに他の磁場は、x−y平面上に印加され、最終的に移動する磁区壁15の方向は、前記磁区10、20の磁化方向、すなわち、+xまたは−xの2つのうち1つに移動することができる。もし、印加される磁場またはさらに他の磁場が、x−z平面またはz−y平面上に存在すれば、磁区壁15を移動させることができなくなる。
【0059】
前述した内容に基づいて、外部磁場によって容易に制御が可能な磁性構造体は、電流によるジュール熱による素子の破壊を避けることができる。また、磁性構造体に一定の移動方向を与えるために、鋸歯状のような複雑な形状の磁性構造体を製造しなくても良く、外部磁場のみで簡単に磁性構造体の磁化状態を制御することができて、磁気メモリ素子(図示せず)にも容易に適用することができる。
【0060】
また、磁性構造体の形態は、リボン状、ライン状または薄膜状のうち何れか1つを有し、磁性構造体と連結されたデータ記録素子及び読み取りヘッドを含んで、データを記録するか、読み出し、削除することができる構造が簡単な磁気メモリ素子を具現することができる。
【0061】
前述したように、本発明では、垂直磁気異方性または水平磁気異方性を有する磁性体に存在する磁区壁及び磁区の磁化方向と所定の角度を有し、やや傾いた外部磁場を印加し、前記外部磁場の方向を繰り返して変化させて、前記磁性構造体に印加することによって、各磁性構造体の種類によって、磁化状態を磁区壁の磁化方向または磁区の磁化方向と平行な方向に均一に平行移動させることができる。
【0062】
このような現象は、磁性線素子に存在する磁区壁のみに限定されず、薄膜で任意の形態を有する磁区壁にも適用可能である。このような技術を応用して開発されるメモリ素子を含んだあらゆる磁性素子に適用可能である。
【0063】
一方、磁気メモリ素子を長時間運用するに当って、一定の速力で磁区壁を移動させることができるので、非常に安定的であり、情報産業の発達につれて、大容量の情報処理が要求される磁気メモリ素子を具現することができる。
【0064】
本発明は、図面に示された一実施形態を参考にして説明されたが、これは例示的なものに過ぎず、当業者ならば、これより多様な変形及び均等な他実施形態が可能であるという点を理解できるであろう。したがって、本発明の真の技術的保護範囲は、特許請求の範囲の技術的思想によって決定されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、磁性構造体の磁区壁制御方法、及びそれを用いた磁気メモリ素子関連の技術分野に適用可能である。