特許第6458470号(P6458470)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6458470ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6458470
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/06 20060101AFI20190121BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20190121BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20190121BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20190121BHJP
【FI】
   C08L9/06
   C08K5/13
   C08K3/36
   B60C1/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-243753(P2014-243753)
(22)【出願日】2014年12月2日
(65)【公開番号】特開2016-108351(P2016-108351A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2017年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】杉本 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】土方 健介
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−38477(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 9/06
B60C 1/00
C08K 3/36
C08K 5/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100質量部に対し、ジスチレン化フェノールまたはトリスチレン化フェノールを主成分とするスチレン化フェノール化合物を0.5〜20質量部およびシリカを90〜180質量部配合し、前記ジエン系ゴムの平均ガラス転移温度(Tg)が−60〜−20℃であり、
前記ジエン系ゴムが、スチレン−ブタジエン共重合体ゴムを含有する
ことを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
請求項に記載のゴム組成物をキャップトレッドに使用した空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものであり、詳しくは、加工性、硬度、ウェットグリップ性能およびドライグリップ性能をいずれも向上させ得るゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハイパフォーマンスタイヤは、操縦安定性、とくにドライグリップ性能が重視されている。また近年ではさらなる高品質化の要求により、優れたウェットグリップ性能も求められている。
ウェットグリップ性能およびドライグリップ性能を向上させるためには、ガラス転移温度(Tg)の高いスチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)や粒径の小さいフィラーを多量に配合する手法が挙げられるが、そのような配合では加工性が悪化するという問題点がある。また、加工性を改善するには、アロマオイルの配合量を増加させるという手法があるが、これでは逆に硬度あるいはモジュラスが低下し、操縦安定性の悪化につながってしまう。
【0003】
なお下記特許文献1には、ゴム材料と特定構造のメチレンビス(アルキルスルフィド)およびフェノール系酸化防止剤等から選ばれる劣化防止剤とを混合する技術が開示されている。しかし特許文献1には、下記で説明する本発明のスチレン化フェノール化合物については開示も示唆もない。また、特定のスチレン化フェノール化合物を用いて加工性、硬度、ウェットグリップ性能およびドライグリップ性能を同時に改善しようとする技術思想は何ら開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平8−26178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の目的は、加工性、硬度、ウェットグリップ性能およびドライグリップ性能をいずれも向上させ得るゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、特定の平均Tgを有するジエン系ゴムに対し、特定のスチレン化フェノール化合物およびシリカを特定量でもって配合することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
すなわち本発明は以下のとおりである。
【0007】
1. ジエン系ゴム100質量部に対し、ジスチレン化フェノールまたはトリスチレン化フェノールを主成分とするスチレン化フェノール化合物を0.5〜20質量部およびシリカを90〜180質量部配合し、前記ジエン系ゴムの平均ガラス転移温度(Tg)が−60〜−20℃であり、前記ジエン系ゴムが、スチレン−ブタジエン共重合体ゴムを含有することを特徴とするゴム組成物。
.前記に記載のゴム組成物をキャップトレッドに使用した空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特定の平均Tgを有するジエン系ゴムに対し、特定のスチレン化フェノール化合物およびシリカを特定量でもって配合したので、加工性、硬度、ウェットグリップ性能およびドライグリップ性能をいずれも向上させ得るゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0010】
(ジエン系ゴム)
本発明で使用されるジエン系ゴムは、ゴム組成物に配合することができる任意のジエン系ゴムを用いることができ、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、その分子量やミクロ構造はとくに制限されず、アミン、アミド、シリル、アルコキシシリル、カルボキシル、ヒドロキシル基等で末端変性されていても、エポキシ化されていてもよい。中でも本発明の効果向上の観点から、SBRを配合するのが好ましい。SBRの配合量は、ジエン系ゴム全体を100質量部としたときに、60〜100質量部であるのが好ましい。
また本発明で使用されるジエン系ゴムは、平均ガラス転移温度(平均Tg)が−60〜−20℃であることが必要である。平均Tg−60℃未満であると、硬度、ウェットグリップ性能およびドライグリップ性能がいずれも悪化する。逆に−20℃を超えると、耐摩耗性が悪化する。平均Tgは、ガラス転移温度の平均値であり、各ジエン系ゴムのガラス転移温度と各ジエン系ゴムの配合割合から平均値として算出することができる。
【0011】
(スチレン化フェノール化合物)
スチレン化フェノール化合物は、下記式で表すことができる。
【0012】
【化1】
【0013】
本発明で使用されるスチレン化フェノール化合物は、nが2であるジスチレン化フェノールまたはnが3であるトリスチレン化フェノールを主成分とする。本発明で使用されるスチレン化フェノール化合物は、公知の製造方法により製造することができ、また商業的に入手も可能である、市販品としては、例えば三光(株)製SP−24(ジスチレン化フェノールを主成分とする)、TSP(トリスチレン化フェノールを主成分とする)等が挙げられる。
【0014】
一般的に製造されたスチレン化フェノール化合物は、フェノール1モルに対してスチレン1モルが付加したモノスチレン化フェノール(上記式中、n=1);フェノール1モルに対してスチレン2モルが付加したジスチレン化フェノール(上記式中、n=2);フェノール1モルに対してスチレン3モルが付加したトリスチレン化フェノール(上記式中、n=3);およびその他の成分の混合物となる。本発明では、これらのスチレン化フェノール化合物のうち、主成分としてジスチレン化フェノールおよびトリスチレン化フェノールを使用する。上述のように製造されたスチレン化フェノール化合物は、主に、モノ、ジおよびトリ体の混合物であるので、本発明で使用されるスチレン化フェノール化合物は、モノ体がある程度存在することができる。したがって本発明で言う、「ジスチレン化フェノールまたはトリスチレン化フェノールを主成分とする」とは、ジスチレン化フェノールまたはトリスチレン化フェノールが全体の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは65モル%以上を占めることを意味し、それ以外の成分としてモノスチレン化フェノールやその他の成分(例えばテトラ体あるいはそれ以上の付加物のスチレン化フェノール化合物)が含まれていてもよい。
【0015】
なお、上記式におけるスチレン部位は、スチレンの誘導体であってもよい。例えば、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン等が挙げられる。
【0016】
(シリカ)
本発明で使用されるシリカとしては、乾式シリカ、湿式シリカ、コロイダルシリカおよび沈降シリカなど、従来からゴム組成物において使用することが知られている任意のシリカを単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。
なお本発明では、本発明の効果がさらに向上するという観点から、シリカのCTAB比表面積(JIS K6217−3)は、50〜300m/gであるのが好ましく、100〜250m/gであるのがさらに好ましい。
【0017】
(ゴム組成物の配合割合)
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対し、ジスチレン化フェノールまたはトリスチレン化フェノールを主成分とするスチレン化フェノール化合物を0.5〜20質量部およびシリカを90〜180質量部配合してなることを特徴とする。
前記スチレン化フェノール化合物の配合量が0.5質量部未満であると、配合量が少な過ぎて本発明の効果を奏することができない。逆に20質量部を超えると操縦安定性が悪化する。
さらに好ましい前記スチレン化フェノール化合物の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、1〜18質量部であり、とくに好ましい前記スチレン化フェノール化合物の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、2〜15質量部である。
さらに好ましい前記シリカの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、90〜150質量部である。
【0018】
(その他成分)
本発明におけるゴム組成物には、前記した成分に加えて、加硫又は架橋剤;加硫又は架橋促進剤;酸化亜鉛、カーボンブラック、クレー、タルク、炭酸カルシウムのような各種充填剤;老化防止剤;可塑剤などのゴム組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0019】
また本発明のゴム組成物は従来の空気入りタイヤの製造方法に従って空気入りタイヤを製造するのに適しており、トレッド、とくにキャップトレッドに適用するのがよい。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0021】
標準例1、実施例1〜2および比較例1〜6
サンプルの調製
表1に示す配合(質量部)において、加硫促進剤と硫黄を除く成分を1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練した後、加硫促進剤および硫黄を加えてさらに混練し、ゴム組成物を得た。次に得られたゴム組成物を所定の金型中で160℃、20分間プレス加硫して加硫ゴム試験片を得、以下に示す試験法で加硫ゴム試験片の物性を測定した。
【0022】
加工性:上記ゴム組成物を用い、JIS 6300に従い、100℃における未加硫ゴムのムーニー粘度を測定した。結果は標準例1の値を100として指数表示した。指数が大きいほど粘度が低く、加工性が良好であることを示す。
硬度(20℃):JIS K6253に基づき、20℃にて測定した。結果は、標準例1の値を100として指数で示した。指数が大きいほど硬度が高いことを示す。
ウェットグリップ性能:上記ゴム組成物をタイヤトレッドに使用して製造されたサイズ205/55R16のタイヤを排気量2000ccのABSを搭載した車両に装着し、フロントタイヤおよびリヤタイヤの空気圧をともに220kPaとして、水深2.0〜3.0mmに散水したアスファルト路面上で速度100km/hからの制動停止距離を測定した。結果は標準例1の値を100として指数表示した。指数が大きいほど、制動距離が短く、ウェットグリップ性能に優れることを意味する。
ドライグリップ性能:上記ゴム組成物をタイヤトレッドに使用して製造されたサイズ205/55R16のタイヤを排気量2000ccのABSを搭載した車両に装着し、フロントタイヤおよびリヤタイヤの空気圧をともに220kPaとして、乾燥したアスファルト路面上で速度100km/hからの制動停止距離を測定した。結果は標準例1の値を100として指数表示した。指数が大きいほど、制動距離が短く、ドライグリップ性能に優れることを意味する。
結果を表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
*1:NR(Tg=-65℃)
*2:E−SBR(日本ゼオン(株)製Nipol 9548、Tg=-42℃)
*3:S−SBR(日本ゼオン(株)製Nipol NS522、Tg=-31℃)
*4:BR(日本ゼオン社製Nipol BR 1220、Tg=-105℃)
*5:シリカ(エボニックジャパン(株)製ULTRASIL VN−3、窒素吸着比表面積(NSA)=175m/g)
*6:カーボンブラック(東海カーボン(株)製シースト3)
*7:芳香族変性テルペン樹脂:(ヤスハラケミカル(株)製YSレジンTO−125)
*8:酸化亜鉛(正同化学工業(株)製酸化亜鉛3種)
*9:ステアリン酸(日油(株)製ビーズステアリン酸YR)
*10:シランカップリング剤(エボニックジャパン(株)製Si69)
*11:オイル(昭和シェル石油(株)製エキストラクト4号S)
*12:スチレン化フェノール化合物−1(三光(株)製SP−24。モノスチレン化フェノール0モル%、ジスチレン化フェノール60モル%以上、トリスチレン化フェノール40モル%以下)
*13:スチレン化フェノール化合物−2(三光(株)製TSP。モノスチレン化フェノール0モル%、ジスチレン化フェノール30モル%以下、トリスチレン化フェノール65モル%以上)
*14:スチレン化フェノール化合物−3(三光(株)製SP−F。モノスチレン化フェノール65モル%以上、ジスチレン化フェノール32モル%以下、トリスチレン化フェノール1モル%以下)
*15:硫黄(鶴見化学工業(株)製金華印油入微粉硫黄、硫黄含有量=95.24質量%)
*16:加硫促進剤−1(大内新興化学工業(株)製ノクセラーCZ−G)
*17:加硫促進剤−2(Flexsys社製Perkacit DPG)
【0025】
上記の表1の結果から明らかなように、実施例1〜2で得られたゴム組成物は、特定の平均Tgを有するジエン系ゴムに対し、特定のスチレン化フェノール化合物およびシリカを特定量でもって配合したので、従来の代表的な標準例1に対し、加工性、硬度、ウェットグリップ性能およびドライグリップ性能がいずれも向上している。
これに対し、比較例1は、モノスチレン化フェノールを主成分とするスチレン化フェノール化合物を使用しているので、硬度、ウェットグリップ性能およびドライグリップ性能がいずれも悪化した。
比較例2は、シリカの配合量が本発明で規定する下限未満であるので、硬度、ウェットグリップ性能およびドライグリップ性能がいずれも悪化した。
比較例3は、シリカの配合量が本発明で規定する上限を超えているので、加工性が悪化した。
比較例4は、ジエン系ゴムの平均Tgが本発明で規定する下限未満であるので、硬度、ウェットグリップ性能およびドライグリップ性能がいずれも悪化した。
比較例5は、スチレン化フェノール化合物の配合量が本発明で規定する下限未満であるので、各種特性の効果が発現されなかった。
比較例6は、スチレン化フェノール化合物の配合量が本発明で規定する上限を超えているので、加工性が悪化した。