(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6458558
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】走行式荷役機械の操作制御装置及び走行式荷役機械
(51)【国際特許分類】
B66C 13/22 20060101AFI20190121BHJP
【FI】
B66C13/22 M
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-42931(P2015-42931)
(22)【出願日】2015年3月4日
(65)【公開番号】特開2016-160081(P2016-160081A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2017年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【弁理士】
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100076129
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 圭佑
(74)【代理人】
【識別番号】100089015
【弁理士】
【氏名又は名称】牧野 剛博
(74)【代理人】
【識別番号】100144299
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100150223
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 修三
(72)【発明者】
【氏名】村野 健一
【審査官】
有賀 信
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−067747(JP,A)
【文献】
特開2007−223745(JP,A)
【文献】
特開平06−312894(JP,A)
【文献】
特開2004−123367(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/012155(WO,A1)
【文献】
特開2001−039676(JP,A)
【文献】
特開2011−151742(JP,A)
【文献】
特開2012−224459(JP,A)
【文献】
米国特許第05495955(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/00─15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷役機械の物理モデルを用いて、運転者の操作入力により発生する荷役機械本体の振動及び吊荷の振れを数値計算で予測する予測計算手段と、
該予測計算手段で予測された荷役機械本体の振動及び吊荷の振れを抑制するため、外力ベクトル値をF、前記予測計算手段で予測された荷役機械本体及び吊荷の固有振動モードの状態推定値をq*としたとき、操作制御装置に入力される操作入力値fが、f=Fq*のカーブ形状に倣うように角部のみ運転者の操作入力を補正して、荷役機械への実際の操作入力とする操作入力補正手段と、
を備えたことを特徴とする走行式荷役機械の操作制御装置。
【請求項2】
前記運転者の操作入力が、地上からの遠隔操作により入力されるものであることを特徴とする請求項1に記載の走行式荷役機械の操作制御装置。
【請求項3】
前記運転者の操作入力が、荷役機械上の運転室から入力されるものであることを特徴とする請求項1に記載の走行式荷役機械の操作制御装置。
【請求項4】
前記操作入力補正手段が、予め計算した荷役機械の走行方向及び横行方向の固有振動数によって、操作信号のそれぞれの走行操作、横行操作入力信号から、それぞれの固有振動数のノッチフィルタを通した制御信号を発生するようにされていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の走行式荷役機械の操作制御装置。
【請求項5】
前記予測計算手段で予測された振動が所定の制限レベルを超えた発生箇所の画面を優先して表示するようにされていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の走行式荷役機械の操作制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の操作制御装置を装備したことを特徴とする走行式荷役機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行式荷役機械(クレーン)の操作制御装置及び、これを備えた走行式荷役機械に関する。なお、本発明におけるクレーンとは、橋型クレーン等の大型クレーンを含むが、これに限定されない。
【背景技術】
【0002】
例えば、
図1及び
図2に示すように、一般に大型のコンテナクレーン20やアンローダ等では、その脚部26が門形に構成されたクレーン本体22が、その下端の四隅部に設けられた走行装置24により、岸壁(例えばエプロン)10と平行に敷設されたレール12に沿って走行できるようになっている。図において、8は水面、30はブーム、32はガータ、34はトロリ、36は、トロリ34等の各種機器を動作させる機械室、38は、荷50の巻上・下制御、トロリ34の横行制御、クレーン本体22の走行制御等を行うための電気室、42は、トロリ34の近傍に配設された運転室である。
【0003】
このような脚部26が門形のクレーン本体22を有する走行式クレーンでは、走行して荷50を吊る荷役作業のため、走行方向(レール12の方向)に例えば位置を決める必要がある。この際、位置を決めるために走行電動機などの制御機械で加速、減速などの駆動力、制動力を使用してクレーン本体22の位置を決める。これは、トロリ34によるブーム30上の走行(横行と称する)の位置でも同様であるが、その際に、トロリ34やクレーン本体22の質量の移動、加減速によりクレーン本体22が振動する。
【0004】
従来、この振動に対しては、クレーン本体22の減衰により、振動が収まるのを待つことや、慣性力を逆方向に作動させて振動を能動的に止める操作をすることや、制振装置を装備して振動を止めることなどが成されている。
【0005】
例えば、特許文献1ではクレーン本体22のブーム30の振れ回り振動を制御するために、ブーム軸方向と直角に動作する走行装置24を制御することで振れ回り振動を制振することを提案している。
【0006】
一方、一般に上記例のクレーンではトロリ34に運転室42が装備されており、運転室42に搭乗して上記操作をする。ところが、近年のクレーン本体22の大型化により、荷役速度も高速化し、振動やトロリ34自体の高速運転の要因によって、運転者の負担が増加している。そこで、特許文献2にあるような遠隔操作システムの提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−059159号公報
【特許文献2】特開2003−212475号公報
【特許文献3】特開2000−159475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年のコンテナクレーンに代表される港湾荷役機械では、コンテナ船の大型化に伴い、コンテナクレーンが大型化し、その固有振動数が低くなり、ブーム30の振れ回り振動も長くなるため、振動が収まるまでの時間が長く、一度振動した場合、クレーン本体22の位置を決める時間が長くなることや、トロリ34上の運転者がブーム30先端付近で荷役する場合にも、その振動により作業性が悪化するなどの問題点がある。
【0009】
このようなクレーンに対して、特許文献2のように遠隔操作する場合は、クレーンの振動や高速運転からの加速度による運転者の疲労は軽減されると考えられるが、逆に、運転者自身が感じている振動によって荷の振れや、クレーンの振動を抑える操作が、遠隔操作では難しくなるという問題点が生じる。
【0010】
そこで、特許文献3に示されるシミュレータでは、操作の臨場感や訓練のために、逆に模擬振動を発生させている程である。
【0011】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、荷役機械の操作に悪影響がある振動を、運転者の操作から発生させないようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、荷役機械の物理モデルを用いて、運転者の操作入力により発生する荷役機械本体の振動及び吊荷の振れを数値計算で予測する予測計算手段と、該予測計算手段で予測された荷役機械本体の振動及び吊荷の振れを抑制する
ため、外力ベクトル値をF、前記予測計算手段で予測された荷役機械本体及び吊荷の固有振動モードの状態推定値をq*としたとき、操作制御装置に入力される操作入力値fが、f=Fq*のカーブ形状に倣うように角部のみ運転者の操作入力を補正して、荷役機械への実際の操作入力とする操作入力補正手段と、を備えることにより、前記課題を解決したものである。
【0013】
ここで、前記運転者の操作入力を、地上からの遠隔操作により入力することができる。
【0014】
又、前記運転者の操作入力を、荷役機械上の運転室から入力することができる。
【0015】
又、前記操作入力補正手段が、予め計算した荷役機械の走行方向及び横行方向の固有振動数によって、操作信号のそれぞれの走行操作、横行操作入力信号から、それぞれの固有振動数のノッチフィルタを通した制御信号を発生するようにすることができる。
【0016】
又、前記予測計算手段で予測された振動
が所定の制限レベルを超えた発生箇所の画面を優先して表示することができる。
【0017】
本発明は、又、前記の操作制御装置を装備したことを特徴とする走行式荷役機械を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、荷役機械の操作に悪影響がある振動を、運転者の操作から発生させないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】従来のコンテナクレーンの全体構成を示す斜視図
【
図3】本発明の第1実施形態の全体構成を示す正面図
【
図8】本発明の第2実施形態の全体構成を示す正面図
【
図10】本発明の第3実施形態で用いられているノッチフィルタの構成を示すブロック図
【
図12】本発明の第3実施形態における制御の様子を示す図
【
図13】同じく第4実施形態における制御の様子を示す図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態及び実施例に記載した内容により限定されるものではない。又、以下に記載した実施形態及び実施例における構成要件には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。更に、以下に記載した実施形態及び実施例で開示した構成要素は適宜組み合わせてもよいし、適宜選択して用いてもよい。
【0021】
本発明の第1実施形態が適用されるコンテナクレーン20は、
図1、
図2と同様のコンテナクレーン20において、
図3に示す如く、運転室42を省略し、クレーン本体22の各所にカメラ60及びセンサ(例えば加速度センサ)62が設けられると共に、電気室38と地上に設けた遠隔操作室70間を、例えば有線又は無線で接続し、遠隔操作室70から信号伝達によって制御できるようにされている。
【0022】
前記遠隔操作室70には、
図4に示す如く、前記電気室38との通信装置72と、クレーンの操作に関わる操作スイッチ76や操作レバー78が配設された操作卓74と、前記カメラ60で撮像されたクレーンの荷50や周囲の状況を的確に映し出すモニタ80と、制御装置82とが備えられている。
【0023】
前記制御装置82には、
図5に示す如く本発明に係る補正装置84が備えられている。該補正装置84は、
図6に示す如く、補正値演算回路86で、操作卓74からの操作入力と通信装置72を介して入力されるクレーンの状態データによってクレーンの振動モデルを計算し、振動を予測して、操作卓74からの操作入力を補正する。これに対して従来は、運転者が操作した信号そのものをクレーン制御装置40の指令としていたため、振動を誘発するような指令値の場合、クレーン自体の振れを励起してしまう事があった。
【0024】
クレーンの振動モデルは、例えば微分方程式を近似的に解くための数値解析の方法である有限要素法(FEM)等で解析してモデル化することによって、一般的に次の(1)〜(4)式で表現できる。この時、操作入力を
図6に示したように制御側にフィードバックして、補正する。
【0025】
【数1】
例えばブーム30が振動するモードがq=[q
1・・・q
n]の中のq
1である場合、Φ
-1fでのq
1に対する入力を出来るだけ軽減すれば良い。
【0026】
(4)式は、
【数2】
f=−Fq,F=R
-1B
TP …(6)
ここで、Pはリカッティ形方程式(7)式を満たす解である。
PA+A
TP−PBR
-1B
TP+Q=0 …(7)
ここで、Fは外力ベクトル、Q、Rは重み行列である。
【0027】
この時、評価関数の重みQで、軽減したいモードの重みを大きくする。
【0028】
他にはH無限大制御、スライディングモード制御等の制御則を適用しても設計が可能である。
【0029】
f=−Fqのqはクレーンの状態であるので、これはセンサ62を利用してqをカルマンフィルタ等で推定することができる。
【0030】
運転者の入力をuとすると、f=−Fqが制御的に望ましい入力となるので、
f’=Γ(−Fq
*−Su)(q
*は推定値)の演算によりuを補正し、f’をクレーン制御入力とする。
【0032】
次に、
図8を参照して本発明の第2実施形態を説明する。
【0033】
本実施形態では、
図2のコンテナクレーンと同様にトロリ34に運転室42が設けられ、該運転室42の中に、本発明に係る補正装置84を備えた制御装置82が設けられている点が第1実施形態と異なる。これにより、カメラ60の一部又は全部を省略できる。
【0034】
他の点については第1実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0035】
本実施形態によれば、操作性が改善される。
【0036】
次に本発明の第3実施形態を説明する。
【0037】
第1、第2実施形態で示した補正を、周波数領域で示した前出(2)式で考えると、操作入力をそれぞれの振動モードを励起しない周波数とすることで、振動励起を回避できる。
【0038】
即ち、第1、第2実施形態に示したqの各モードの内、走行入力によるブーム30の振動モードと横行入力における横行方向の振動モードを、それぞれq
1、q
2であるとすると、
図9に例示するようにq
1とq
2の周波数において応答が大きくなる。よって、それぞれの振動モードを励起しないように、
図10に示す如く、単純に操作信号が励起=共振してしまう周波数成分q
1、q
2を除去するノッチフィルタ(阻止帯域が狭くQ値が高いバンドパスフィルタ)90、92を入れることで、操作信号を補正し、振動を抑えることができる。
【0039】
図11(A)、(B)に各ノッチフィルタ90、92の周波数特性を示す。
【0040】
あるいは常時運転者の操作を制御することは、操作性を低下させることにもなるので、
図12に例示する如く、Fq
*のカーブ形になるように、角部のみ補正することで、運転者に違和感を与えないようにすることも考えられる。
【0041】
次に本発明の第4実施形態を説明する。
【0042】
本実施形態は、
図13に例示する如く、例えばブーム振動q
1*が制限レベルSを超えた場合に、モニタ80に振動アラームとブーム30を写すカメラを優先的に表示して、運転者の注意を促すようにしたものである。なお、吊荷、走行路など、安全にかかわる画面は変えないようにすることが望ましい。
【0043】
このように、振動するブームや吊荷の画面を、クレーンの振動モデルで予測された場合に優先的に表示することで、運転者の操作性向上を図ることができる。
【0044】
なお、本発明は、港湾用コンテナクレーンに適用されていたが、本発明の適用対象はこれに限定されず、アンローダを含む走行式荷役機械一般に同様に適用できる。
【符号の説明】
【0045】
20…コンテナクレーン
22…クレーン本体
24…走行装置
26…脚部
30…ブーム
32…ガータ
34…トロリ
36…機械室
38…電気室
40…クレーン制御装置
42…運転室
60…カメラ
62…センサ
70…遠隔操作室
72…通信装置
74…操作卓
76…操作スイッチ
78…操作レバー
80…モニタ
82…制御装置
84…補正装置
86…補正値演算回路
90、92…ノッチフィルタ