特許第6458567号(P6458567)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6458567
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】板状物の成形方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 23/025 20060101AFI20190121BHJP
   C03B 32/02 20060101ALI20190121BHJP
【FI】
   C03B23/025
   C03B32/02
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-48422(P2015-48422)
(22)【出願日】2015年3月11日
(65)【公開番号】特開2016-169116(P2016-169116A)
(43)【公開日】2016年9月23日
【審査請求日】2017年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080621
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 寿一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162020
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 泰雄
(73)【特許権者】
【識別番号】593046429
【氏名又は名称】日電硝子加工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080621
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 寿一郎
(72)【発明者】
【氏名】蓑輪 元
(72)【発明者】
【氏名】神田 俊朗
【審査官】 若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−300677(JP,A)
【文献】 特開2001−252743(JP,A)
【文献】 特開2005−263585(JP,A)
【文献】 特開2012−116722(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/022643(WO,A1)
【文献】 特開2012−091994(JP,A)
【文献】 特開平01−242428(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2001/0020328(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 23/00−35/26
C03B 40/00−40/04
B21D 5/00−9/18
B21K 1/76
B29C 49/00−49/46
B29C 49/58−49/68
B29C 49/72−51/28
B29C 51/42
B29C 51/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状物を湾曲面を有する成形型の上端部に載置した後に熱処理によって軟化させて前記成形型の板厚方向に垂直な鉛直平面での断面視で円弧状または楕円弧状に曲げ加工する板状物の成形方法であって、
前記上端部には、前記板状物を載置するための平坦部が予め形成され、
前記成形型の平坦部に前記板状物を載置する載置工程と、
前記平坦部に載置された前記板状物を加熱することにより軟化させて曲げ加工する変形工程と、
を備えることを特徴とする、板状物の成形方法。
【請求項2】
前記変形工程において、
前記板状物は、前記成形型の平坦部との間に隙間を形成しながら湾曲するように曲げ加工される、
ことを特徴とする、請求項1に記載の板状物の成形方法。
【請求項3】
前記板状物は結晶性ガラスであり、
前記変形工程において、前記結晶性ガラスの曲げ加工と結晶化が行われる、
ことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の板状物の成形方法。
【請求項4】
前記板状物の重量は、2kg以上であり、
前記変形工程において、
前記板状物は、外周面の円弧角度または楕円弧角度が115°以上、かつ、外周面の円弧長または楕円弧長が300mm以上の前記断面視円弧形状または楕円弧形状に曲げ加工される、
ことを特徴とする、請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の板状物の成形方法。
【請求項5】
前記変形工程において、
前記板状物を加熱する際の加熱温度は、ガラス転移温度をTgとした場合に、Tgから(Tg+50)℃の範囲内にて設定する、
ことを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の板状物の成形方法。
【請求項6】
前記成形型において、
前記断面視で成形面が仮想円の円弧に沿うように形成され、
前記仮想円の上端と、前記平坦部との間隙寸法は、0.3mm以上2.0mm以内であり、
前記仮想円の中心と、前記平坦部の一端とを結ぶ第一仮想直線、および前記仮想円の中心と前記平坦部の他端とを結ぶ第二仮想直線とのなす角度は、2°以上10°以下である、
ことを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の板状物の成形方法。
【請求項7】
前記成形型において、
前記断面視で成形面が仮想楕円の楕円弧に沿うように形成され、
前記仮想楕円の上端と、前記平坦部との間隙寸法は、0.3mm以上2.0mm以内であり、
前記仮想楕円の中心と、前記平坦部の一端とを結ぶ第一仮想直線、および前記仮想楕円の中心と前記平坦部の他端とを結ぶ第二仮想直線とのなす角度は、2°以上10°以下である、
ことを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の板状物の成形方法。
【請求項8】
前記成形型において、
前記板状物の曲げ方向における前記平坦部の幅寸法は、前記板状物の前記曲げ方向の幅寸法の2%以上10%以内である、
ことを特徴とする、請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の板状物の成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状物を成形型に載置した後に、熱処理によって軟化させて曲げ加工する板状物の成形方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
据置型ストーブや暖炉等の暖房装置においては、その内部を視認できるように、窓ガラスや暖房装置の一部に平板形状、屈曲形状、または円弧形状などの各種形状を有した結晶化ガラスが用いられている。
ここで、例えば、円弧形状の結晶化ガラスを製造する場合には、従来から、谷型形状(湾曲状の凹部を有する形状)の耐火性の成形型(いわゆる、トチ)を用いて、板状物であるガラス板を円弧形状に湾曲させていた。
しかしながら、近年、円弧形状の結晶化ガラスについては、円弧角度の大きな品種の要望が増加しているところ、円弧角度の大きな結晶化ガラスを製造するには、サイズの大きなガラス板を用いることとなり、谷型形状のトチでは、このようなガラス板を保持しつつ湾曲させることが困難であった。
このようなことから、円弧角度の大きな結晶化ガラスを製造する場合は、山形形状(湾曲状の凸部を有する形状)のトチを用いて、平板形状のガラス板を円弧形状に湾曲させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−91994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、円弧角度の大きな結晶化ガラスを製造するための技術として、山形形状のトチ(以下、特段の事情がない限り、単に「トチ」と記載する)を用いた方法が特許文献1によって示されている。
具体的には、例えば、バッチ式の窯やローラーハウスキルンなどの連続炉によってガラス板を軟化変形させ、山形形状のトチを用いて要求される円弧角度を有した結晶化ガラスを製造する方法が示されている。
【0005】
しかしながら、ガラス板が載置されるトチの上端部は円弧形状であることから、ガラス板を円弧形状に曲げる際、トチの上端部の正確な位置にガラス板を載置することは困難である。
その結果、例えば、互いに平行、かつ一直線状に配置された複数の板状のトチにおいて、これら複数のトチの配置方向に対して、斜め方向に延出した状態にてガラス板が載置され、曲げ加工後のガラス板にねじれが発生する恐れがあった。
【0006】
また、トチの上端部にガラス板が載置された状態において、ガラス板はトチの上端部と点接触の状態となり、接触面積が小さく、ガラス板の載置姿勢は不安定な状態となりやすい。
従って、トチに対してガラス板を正確、かつ、水平に載置することは困難である。また、例えばローラーハウスキルンなどのような、搬送工程を伴う場合、搬送途中にガラス板が当初に載置されていた位置からずれる恐れがあった。
【0007】
さらに、ガラス板の中央の位置をトチの上端部の頂点に合わせて、ガラス板をトチに正確に載置することができなければ、製品として出来上がった曲げ加工後のガラス板の形状が、所定の規格内よりはみ出すこととなり、また、曲げ加工前のガラス板の形状や重さによっては、搬送途中にガラス板がトチから落下するトラブルが発生する恐れもあった。
【0008】
本発明は、以上に示した現状の問題点を鑑みてなされたものであり、板状物を成形型に正確に載置する作業を容易に行うことが可能であり、かつ、板状物を成形型に載置した後は、熱処理が行われるまでの間、板状物を安定的に支持することが可能な板状物の成形方法、及び成形型を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上のごとくであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0010】
即ち、板状物を湾曲面を有する成形型の上端部に載置した後に熱処理によって軟化させて前記成形型の板厚方向に垂直な鉛直平面での断面視で円弧状または楕円弧状に曲げ加工する板状物の成形方法であって、
前記上端部には、前記板状物を載置するための平坦部が予め形成され、前記成形型の平坦部に前記板状物を載置する載置工程と、前記平坦部に載置された前記板状物を加熱することにより軟化させて曲げ加工する変形工程と、を備える。
【0011】
このような構成からなる本発明の板状物の成形方法によれば、成形型に平坦部を形成することにより、成形型における板状物の載置箇所がわかりやすくなる。
これにより、板状物の中央位置を平坦部の中央位置に合わせて、板状物を成形型に正確に載置する作業を容易に行うことが可能となる。
また、板状物を平坦部に載置することで、板状物と成形型との接触面積を増やすことができ、かつ、平坦部で板状物を支持するので、板状物を安定的に支持することが可能となる。
これにより、板状物を成形型に載置した状態で、成形型を搬送するときに、振動などにより板状物に位置ずれが生じることを防ぐことが可能となるばかりでなく、板状物を曲げ加工することにより製造される製品の形状の精度を向上させることが可能となる。
【0012】
また、本発明の板状物の成形方法は、前記変形工程において、前記板状物は、前記成形型の平坦部との間に隙間を形成しながら湾曲するように曲げ加工される。
【0013】
このような構成からなる本発明の板状物の成形方法によれば、成形型の平坦部に沿うことなく、所定の円弧形状または楕円弧形状に板状物を曲げ加工することが可能となる。
【0014】
また、本発明の板状物の成形方法においては、前記板状物は結晶性ガラスであり、
前記変形工程において、前記結晶性ガラスの曲げ加工と結晶化が行われる。
【0015】
このような構成からなる本発明の板状物の成形方法によれば、曲げ加工された結晶化ガラス板を製造することが可能となる。
【0016】
また、本発明の板状物の成形方法においては、前記板状物の重量は、2kg以上であり、前記変形工程において、前記板状物は、円弧角度が115°以上、かつ、円弧長が300mm以上の前記断面視円弧形状に曲げ加工される。
【0017】
このような構成からなる本発明の板状物の成形方法によれば、比較的大きな重量、円弧角度及び円弧長を有する円弧状の板状物を製造することが可能となる。
【0018】
また、本発明の板状物の成形方法においては、前記板状物を加熱する際の加熱温度は、ガラス転移温度をTgとした場合に、Tgから(Tg+50)℃の範囲内にて設定する。
【0019】
このような構成からなる本発明の板状物の成形方法によれば、板状物の熱処理を行うことで板状物を軟化変形させることが可能となる。
【0020】
また、本発明の板状物の成形方法においては、前記成形型において、前記断面視で成形面が仮想円の円弧に沿うように形成され、前記仮想円の上端と、前記平坦部との間隙寸法は、0.3mm以上2.0mm以内であり、前記仮想円の中心と、前記平坦部の一端とを結ぶ第一仮想直線、および前記仮想円の中心と前記平坦部の他端とを結ぶ第二仮想直線とのなす角度は、2°以上10°以下である。
【0021】
このような構成からなる本発明の板状物の成形方法によれば、平坦部の寸法を板状物の曲げ加工を行うのに好ましい寸法に設定することが可能となる。
【0022】
また、本発明の板状物の成形方法においては、前記成形型において、前記断面視で成形面が仮想楕円の円弧に沿うように形成され、前記仮想楕円の上端と、前記平坦部との間隙寸法は、0.3mm以上2.0mm以内であり、前記仮想楕円の中心と、前記平坦部の一端とを結ぶ第一仮想直線、および前記仮想楕円の中心と前記平坦部の他端とを結ぶ第二仮想直線とのなす角度は、2°以上10°以下である。
【0023】
このような構成からなる本発明の板状物の成形方法によれば、平坦部の寸法を板状物の曲げ加工を行うのに好ましい寸法に設定することが可能となる。
【0024】
また、本発明の板状物の成形方法においては、前記成形型において、前記板状物の曲げ方向における前記平坦部の幅は、前記板状物の曲げ方向の幅寸法の2%以上10%以内である。
【0025】
このような構成からなる本発明の板状物の成形方法によれば、平坦部の寸法を板状物の曲げ加工を行うのに好ましい寸法に設定することが可能となる。
【0026】
また、本発明の成形型においては、板状物を成形面に沿って成形するための成形型であって、上端部に設けられた平坦面と、前記成形型の板厚方向に垂直な鉛直平面での断面視で前記平坦面の一端から下方に湾曲して延びる第一の成形面と、前記断面視で前記平坦面の他端から下方に湾曲して延びる第二の成形面とを備え、前記第一の成形面と前記第二の成形面とが前記断面視で同一の仮想円の円弧または仮想楕円の楕円弧に沿うよう形成されている。
【0027】
このような構成からなる本発明の成形型によれば、成形型に平坦部を形成することにより、成形型における板状物の載置箇所がわかりやすくなる。
これにより、板状物の中央位置を平坦部の中央位置に合わせて、板状物を成形型に正確に載置する作業を容易に行うことが可能となる。
また、板状物を平坦部に載置することで、板状物と成形型との接触面積を増やすことができ、かつ、平坦部で板状物を支持するので、板状物を安定的に支持することが可能となる。
【発明の効果】
【0028】
本発明における板状物の成形方法、及び成形型によれば、板状物を成形型に正確に載置する作業を容易に行うことが可能であり、かつ、板状物を成形型に載置した後は、熱処理が行われるまでの間、板状物を安定的に支持することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】トチの断面図。
図2】トチの形状を説明するための断面図。
図3】本発明の一実施形態のガラス板の曲げ工程を示す断面図。
図4】本発明の一実施形態のガラス板の曲げ工程を示す断面図。
図5】本発明の一実施形態のガラス板の曲げ工程を示す断面図。
図6】本発明の一実施形態のガラス板の曲げ工程を示す断面図。
図7】トチの寸法を説明するための断面図。
図8】トチとガラス板の寸法の比率を説明するための断面図。
図9】曲げ加工後のガラス板の外周面の円弧角度及び円弧長を説明するための図。
図10】トチの断面図。
図11】トチの形状を説明するための断面図。
図12】本発明の一実施形態のガラス板の曲げ工程を示す断面図。
図13】本発明の一実施形態のガラス板の曲げ工程を示す断面図。
図14】トチの寸法を説明するための断面図。
図15】トチとガラス板の寸法の比率を説明するための断面図。
図16】曲げ加工後のガラス板の外周面の楕円弧角度及び楕円弧長を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0031】
図1図8、及び図10図15は、成形型であるトチ11・21の板厚方向(紙面奥行き方向)に垂直な鉛直平面での断面視を示す断面図である。図2は、図1の断面図上に仮想円Cを表示した図である。図3は、図1のトチ11の平坦部111にガラス板1を載置した状態を示す断面図である。図4は、図3のガラス板1の軟化変形を示す断面図である。図5は、曲げ加工後のガラス板2を示す断面図である。図6は、図5のガラス板2を結晶化することで製造される結晶化ガラス板3を示す断面図である。
【0032】
図1に示すように、成形型であるトチ11は、セッター12に載置されている。
トチ11は、セッター12から上方に突出する上凸の形状を有している。
また、トチ11の外面には、平坦部111と、第一円弧部112と、第二円弧部113とが形成される。
【0033】
平坦部111は、平坦面である。
ここで、本実施形態の平坦部111は、水平面であり、トチ11の曲げ方向H(図1の紙面左右方向)に延びている。
また、平坦部111は、トチ11の上端部に形成される。第一円弧部112は、前記断面視で平坦部111の一端P1から下方に湾曲して延びる第一の成形面である。第二円弧部113は、前記断面視で平坦部111の他端P2から下方に湾曲して延びる第二の成形面である。
【0034】
図2に示すように、トチ11の平坦部111は、仮想円Cの内側に配置されるとともに、仮想円Cの上端部の円弧Caに対向している。
トチ11の第一円弧部112は、上端部の円弧Caの一端に連なる仮想円Cの第一円弧Cbに沿うように設けられる。
また、トチ11の第二円弧部113は、上端部の円弧Caの他端に連なる仮想円Cの第二円弧Ccに沿うように設けられる。即ち、成形面であるトチ11の第一円弧部112および第二円弧部113は、仮想円Cの第一円弧Cbおよび第二円弧Ccに各々沿うように設けられる。前記第一の成形面である第一円弧部112と前記第二の成形面である第二円弧部113とが前記断面視で同一の仮想円Cの円弧Cb・Ccに沿うよう形成されている。
【0035】
トチ11は、例えば、耐火セラミックスや結晶化ガラスなどによって形成することができる。
ここで、耐火セラミックスの具体例としては、コーディライトやムライトなどが挙げられる。
一方、結晶化ガラスの具体例としては、β―石英固溶体や、β―スポジュメン固溶体を主結晶とする結晶化ガラスなどが挙げられる。
なお、本実施形態のトチ11は、板状に形成されるが、例えば、板厚方向に延びる長手形状を有した半円柱形状のものであってもよい。
【0036】
ところで、本実施形態において、板状物であるガラス板1は、結晶性ガラスである。
従って、ガラス板1を加熱することにより、曲げ加工することが可能であるともに、結晶化させることも可能である。
【0037】
結晶性ガラスとしては、結晶化することにより、例えば、β―石英固溶体や、β―スポジュメン固溶体を主結晶とする結晶化ガラスになるガラスが挙げられる。
なお、ガラス板1は、本実施形態のような結晶性ガラスに限定されることはなく、熱処理によって曲げ加工可能な性質を有するものであれば、何れのものであってもよい。
【0038】
以上のような構成からなるトチ11を用いて、ガラス板11の曲げ加工を実施する場合、図3に示すように、ガラス板1は、トチ11の平坦部111に載置される。
この際、ガラス板1は、その中央位置Xを、平坦部111の中央位置Yに合わせるようにして平坦部111に載置される。
このように、ガラス板1を水平に平坦な平坦部111に載置することで、ガラス板1を安定的に支持することが可能である。
【0039】
ここで、ガラス板1は、平板形状からなり、平坦部111に載置される載置部分1aと、載置部分1aから曲げ方向(H方向)の一側に突出する一側部分1bと、載置部分1aから曲げ方向(H方向)の他側に突出する他側部分1cと、を有する。
また、ガラス板1の重量は、好ましくは2kg以上、より好ましくは3〜20kgである。ガラス板1の重量が2kg未満であると、後述の変形工程において自重変形し難くなり、高温或いは長時間の加熱が必要となり生産性が低下する場合がある。また、ガラス板1の重量が20kgより重い場合、ガラス板1の重量によりトチ11が破損し易くなる。
【0040】
ガラス板1の厚みは特に限定されるものではないが、2.0mm〜10.0mmの範囲内であることが好ましく、3.0mm〜6.0mmの範囲内であることがより好ましく、4.0mm〜5.0mmの範囲内であることがされに好ましい。
【0041】
図4は、図3に示すガラス板1を熱処理によって軟化させて、曲げ加工している状態を示している。図5は、曲げ加工後のガラス板2を示している。
【0042】
ガラス板1を軟化変形させるための熱処理は、ガラス転移温度以上、かつ、前記ガラス転移温度より50℃加熱した温度以下の範囲内の加熱温度Gで行われる。
この熱処理が行われることで、ガラス板1が軟化変形する。
【0043】
以下では、ガラス板1の曲げ工程について説明する。
【0044】
まず、図3に示すように、ガラス板1の載置部分1aがトチ11の平坦部111に載置される(載置工程)。
【0045】
次に、ガラス板1を軟化変形させるための熱処理が行われる(変形工程)。
ガラス板1は、上記温度Gで加熱されることで軟化する。
【0046】
その結果、図4に示すように、ガラス板1が軟化することで、ガラス板1の一側部分1bが自重で垂れ下がってトチ11の第一円弧部112と接触し、ガラス板1の他側部分1cが自重で垂れ下がってトチ11の第二円弧部113と接触する。
【0047】
ガラス板1の一側部分1bと他側部分1cが垂れ下がることで、ガラス板1の載置部分1aが撓んで湾曲する。
その結果、載置部分1aが仮想円Cの上端部の円弧Caに沿うように湾曲する(図5を参照)。
これにより、載置部分1aと平坦部111との間に隙間Zが形成される。
【0048】
そして、図5に示すように、ガラス板1が、トチ11の平坦部111との間に隙間Zを形成しつつ、仮想円Cの円弧に沿った円弧形状のガラス板2に曲げ加工される。
【0049】
ここで、曲げ加工後のガラス板2は、トチ11の第一円弧部112と第二円弧部113に接触している。
従って、トチ11の第一円弧部112と第二円弧部113の形状は、ガラス板2の形状に反映されている。
【0050】
一方、曲げ加工後のガラス板2は、トチ11の平坦部111との間に隙間Zを形成している。
従って、トチ11の平坦部111の形状は、ガラス板2の形状に反映されない。
即ち、トチ11の第一円弧部112と第二円弧部113は、成形面として機能するが、平坦部111は成形面として機能しない。
言い換えれば、平坦部111の形状が、曲げ加工後のガラス板2の形状とは異なるトチ11が使用される。
【0051】
なお、前記変形工程において、曲げ加工後のガラス板2を結晶化させるための第二の熱処理を行い、ガラス板2を結晶化させてもよい。
これにより、図6に示すように、仮想円Cの円弧に沿った円弧形状の結晶化ガラス板3が製造される。
【0052】
ところで、図7に示すように、本実施形態におけるトチ11において、仮想円Cの中心Oから平坦部111の一端P1に延びる第一仮想線S1と、仮想円Cの中心Oから平坦部111の他端P2に延びる第二仮想線S2とのなす角度θ1は、2〜10°であることが好ましく、かつ、仮想円Cの上端の頂点C1と平坦部111との間隔寸法(上下距離)Tが、0.3〜2mmであることが好ましい。
また、本実施形態におけるトチ11において、第一仮想直線S1と第二仮想直線S2とのなす角度θ1が、5〜10°であることがより好ましい。また、頂点C1と平坦部111との上下距離Tが、0.5mm〜2mmであることがより好ましい。
一方、第一仮想線S1と第二仮想線S2とのなす角度θ1が2°未満になり、または、仮想円Cの上端の頂点C1と平坦部111との間隔寸法Tが、0.3mm未満になると、平坦部111の寸法が小さくなり、これにより、ガラス板1を平坦部111で安定的に支持することが困難となる。
また、角度θ1が10°よりも大きくなり、または、間隔寸法Tが2mmよりも大きくなると、平坦部111の寸法が大きくなり、これにより、ガラス板1を曲げ加工するときに、ガラス板1が隙間Zを形成せずに平坦部111に沿った形状になりやすくなり、ガラス板1を円弧形状に曲げ加工することが困難となる。
【0053】
また、図8に示すように、本実施形態におけるトチ11において、平坦部111の曲げ方向Hの寸法をLとし、ガラス板1の曲げ方向Hの寸法をL1とした場合に、Lは、L1の2〜10%の大きさであることが好ましい。
【0054】
また、図9に示すように、曲げ加工後のガラス板2の外周面の円弧角度θ2は、115°以上であることが好ましく、より好ましくは120〜180°である。曲げ加工後のガラス板2の外周面の円弧長L2は300mm以上であることが好ましく、より好ましくは400〜1500mmである。
本発明はこのような大きな円弧角度θ2及び円弧長L2を有する円弧状のガラス板2を曲げ加工により成形するのに、特に有用である。一方、円弧角度θ2が115°未満である場合、ガラス板1を自重により所望の円弧角度まで湾曲させることが困難となる。また、円弧角度θ2が180°より大きい場合、トチ11からガラス板2を取り外すことが困難となる。また、円弧長L2が300mm未満である場合、ガラス板1を自重により所望の円弧角度まで湾曲させることが困難となる。また、円弧長L2が1500mmより長い場合、ガラス板1、2の取り回し作業性が悪化して生産性が低下し易くなる。
【0055】
以下では、トチ11の変形例であるトチ21について説明する。トチ21は、トチ11と形状のみが異なるため、トチ21の形状についてのみ説明する。
【0056】
図10に示すように、トチ21の外面には、平坦部211と、第一楕円弧部212と、第二楕円弧部213とが形成される。
【0057】
平坦部211は、平坦面である。
ここで、本実施形態の平坦部211は、水平面であり、トチ21の曲げ方向H(図10の紙面左右方向)に延びている。
また、平坦部211は、トチ21の上端部に形成される。第一楕円弧部212は、前記断面視で平坦部211の一端P1から下方に湾曲して延びる第一の成形面である。第二楕円弧部213は、前記断面視で平坦部211の他端P2から下方に湾曲して延びる第二の成形面である。
【0058】
図11に示すように、トチ21の平坦部211は、仮想楕円Dの内側に配置されるとともに、仮想楕円Dの上端部の楕円弧Daに対向している。
トチ21の第一楕円弧部212は、上端部の楕円弧Daの一端に連なる仮想楕円Dの第一楕円弧Dbに沿うように設けられる。
また、トチ21の第二楕円弧部213は、上端部の楕円弧Daの他端に連なる仮想楕円Dの第二楕円弧Dcに沿うように設けられる。即ち、成形面であるトチ21の第一楕円弧部212および第二楕円弧部213は、仮想楕円Dの第一楕円弧Dbおよび第二楕円弧Dcに各々沿うように設けられる。前記第一の成形面である第一楕円弧部212と前記第二の成形面である第二楕円弧部213とが前記断面視で同一の仮想楕円Cの楕円弧Db・Dcに沿うよう形成されている。
【0059】
図12及び図13に示すように、ガラス板1は、トチ21の平坦部211に載置された状態から熱処理されることで、平坦部211との間に隙間Zを形成しつつ、仮想楕円Dの楕円弧に沿った楕円弧形状のガラス板4に曲げ加工される。
曲げ加工後のガラス板4は、トチ21の第一楕円弧部212と第二楕円弧部213に接触しているが、平坦部211との間に隙間Zを形成している。
なお、曲げ加工後のガラス板4を結晶化させるための第二の熱処理を行い、ガラス板4を結晶化させてもよい。これにより、仮想楕円Dの楕円弧に沿った楕円弧形状の結晶化ガラス板が製造される。
【0060】
ところで、図14に示すように、本実施形態におけるトチ21において、仮想楕円Dの中心Oから平坦部211の一端P1に延びる第一仮想線S1と、仮想楕円Dの中心Oから平坦部211の他端P2に延びる第二仮想線S2とのなす角度θ1は、2〜10°であることが好ましく、かつ、仮想円Dの上端の頂点D1と平坦部111との間隔寸法(上下距離)Tが、0.3〜2mmであることが好ましい。
また、本実施形態におけるトチ21において、第一仮想直線S1と第二仮想直線S2とのなす角度θ1が、5〜10°であることがより好ましい。また、頂点D1と平坦部211との上下距離Tが、0.5mm〜2mmであることがより好ましい。
【0061】
また、図15に示すように、本実施形態におけるトチ21において、平坦部211の曲げ方向Hの寸法をLとし、ガラス板1の曲げ方向Hの寸法をL1とした場合に、Lは、L1の2〜10%の大きさであることが好ましい。
【0062】
また、図9に示すように、曲げ加工後のガラス板4の外周面の楕円弧角度θ2は、115°以上であることが好ましく、より好ましくは120〜180°である。曲げ加工後のガラス板4の外周面の楕円弧長L2は300mm以上であることが好ましく、より好ましくは400〜1500mmである。
【0063】
以上のように、ガラス板1を湾曲面を有するトチ11・21の上端部に載置した後に熱処理によって軟化させて前記断面視で円弧状または楕円弧状に曲げ加工するガラス板1の成形方法であって、前記上端部には、ガラス板1を載置するための平坦部111・211が予め形成され、トチ11・21の平坦部111・211にガラス板1を載置する載置工程と、平坦部111・211に載置されたガラス板1を加熱することにより軟化させて曲げ加工する変形工程と、を備える。
【0064】
これによると、トチ11・21に平坦部111・211を形成することにより、トチ11・21におけるガラス板1の載置箇所がわかりやすくなる。これにより、ガラス板1の中央位置Xを平坦部111・211の中央位置Yに合わせて、ガラス板1をトチ11・21に正確に載置する作業を容易に行うことが可能となる。
また、ガラス板1を平坦部111・211に載置することで、ガラス板1とトチ11・21との接触面積を増やすことができ、かつ、平坦な平坦部111・211でガラス板1を支持するので、ガラス板1を安定的に支持することが可能となる。これにより、ガラス板1をトチ11・21に載置した状態で、トチ11・21を搬送するときに、振動などによりガラス板1に位置ずれが生じることを防ぐことが可能となる。これにより、ガラス板1を曲げ加工することにより製造される製品の形状の精度を向上させることが可能となる。
【0065】
また、前記変形工程において、ガラス板1は、トチ11・21の平坦部111・211との間に隙間Zを形成しながら湾曲するように曲げ加工される。
【0066】
これによると、ガラス板1をトチ11・21の成形面の形状を有する所定の円弧形状または楕円弧形状に曲げ加工することが可能となる。
【符号の説明】
【0067】
1 ガラス板
2・4 曲げ加工後のガラス板
11・21 トチ
111・211 平坦部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16