(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態について説明する。但し、本発明の実施形態は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本実施形態の生分解性工業用紙は、パルプ繊維及びポリ乳酸系繊維を含有する紙基材から構成される。以下、紙基材を構成するパルプ繊維とポリ乳酸系繊維について説明する。
【0018】
(パルプ繊維)
本実施形態のパルプ繊維は、セルロースパルプを主成分とする。紙基材に使用するパルプ繊維としては、下記の各種パルプを1種または2種以上混合して使用することができる。例えば、クラフトパルプ(KP)、サルファイトパルプ(SP)、ソーダパルプ(AP)等の化学パルプ;セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ;砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)、リファイナーグランドウッドパルプ(RGP)等の機械パルプ;楮、三椏、麻、ケナフ等を原料とする非木材繊維パルプ;古紙を原料とする脱墨パルプを挙げることができる。これらの他に、合成パルプ、レーヨン繊維などを含有させてもよい。パルプ繊維の原料となる木材は、針葉樹材でも広葉樹材でもよく、また混合して使用してもよい。原料パルプとして使用する際に、鉱物含有量が少ないパルプ繊維を選定することが好ましい。本実施形態で使用するパルプ繊維としては、供給量、品質の安定性、コスト等の面から、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)や広葉樹クラフトパルプ(LBKP)が好適である。
【0019】
本実施形態において使用するパルプ繊維は、JIS P 8121−2012に準じて測定した濾水度(カナダ標準濾水度)が200〜600mlのものが好ましく、300〜500mlがより好ましい。パルプ繊維の濾水度は、使用する少なくとも1種のパルプを叩解して上記範囲に調整すればよい。2種類以上のパルプを使用する場合には、別々に叩解したパルプを混合して上記範囲にしてもよいし、予め混合したパルプを叩解して上記範囲に調整してもよい。パルプ繊維の濾水度を200ml以上とすると、ワイヤーでの脱水性に優れたものとなる。一方、パルプ繊維の濾水度を600ml以下とすると、紙力が高まり、湿潤強度が向上し、紙基材の毛羽立ちを抑えることができる。
【0020】
(ポリ乳酸系繊維)
ポリ乳酸は、乳酸中のカルボキシル基と水酸基とが縮重合することによって形成されたポリエステルであり、生分解性ポリマーである。乳酸には、D体とL体の二つの異性体が存在する。これらの異性体の共重合比率や配列によって、ポリ乳酸の融点を制御することができる。例えば、ポリ-L-乳酸の融点は170℃である。また、160〜170℃の融点を有するポリ乳酸や200〜230℃の融点を有するポリ乳酸が存在する。さらに、他のモノマーと共重合させることによって、160℃未満の融点を有するポリ乳酸も存在する。尚、ポリ乳酸の融点は、DSCによる融点ピークの温度として測定される。本実施形態では、このようなポリ乳酸としての特徴を有し、共重合等により変性されたポリ乳酸も含めて、ポリ乳酸系樹脂と定義する。ポリ乳酸系樹脂を用いて製造された繊維をポリ乳酸系繊維とする。
【0021】
後記するように、紙基材を抄紙法で製造する場合、抄紙後に水分を除去するために乾燥工程を設けている。また塗工層を形成する場合にも、塗布後に塗工層を乾燥するための乾燥工程を設けている。乾燥工程においては、通常、100℃以上、120〜140℃程度に加熱される。そのため、抄紙されたシート中に120〜140℃程度の温度で、溶融したり、大きく熱変形する繊維が含まれていると、ドライヤー等の製造装置に付着して、汚れを引き起こす懸念がある。また、製造装置と紙基材、または紙基材同士が接着して、ブロッキングを引き起こす懸念がある。そのため、本実施形態のポリ乳酸系繊維の融点は160℃以上とする。ポリ乳酸系繊維の融点の範囲は、好ましくは160〜230℃程度、より好ましくは160〜190℃程度、更に好ましくは165〜190℃程度である。
【0022】
本発明におけるポリ乳酸系繊維は、同一種類のポリマーからなる繊維が好ましい。これにより、生分解速度を効果的に制御することができる。例えば、芯鞘構造を有するポリ乳酸系繊維は、芯と鞘とでポリマーが異なり、生分解速度が異なるため、生分解速度の制御が困難となるおそれがある。
【0023】
ポリ乳酸系繊維の繊維長は、3〜10mmであることが好ましい。繊維長を3mm以上とすると、紙基材の紙力を高め、使用中に破損等が生じにくくなる。一方、繊維長を10mm以下とすると、繊維の分散不良や繊維同士の絡まりが抑制されて、紙面上に異物が生じにくくなり、毛羽立ちの発生量も少なくなる。さらに、繊維の離解や分散等の調製工程時に、配管、パルプ貯蔵槽、抄紙機ストックインレット、脱水ワイヤー等において、ポリ乳酸系繊維同士あるいはポリ乳酸系繊維とパルプ繊維が絡まり合ってフロックを形成することが抑制される。その結果、地合の悪化や断紙が起こりにくくなり、抄紙適性を向上させることができる。より好ましい繊維長の範囲は、4〜7mmである。なお、本実施形態における繊維長は、光学的繊維長測定装置であるMETSO社製、FIBER LABを用いて重量加重平均繊維長を測定した値である。
【0024】
ポリ乳酸系繊維の繊度は、0.1〜6.0dtexであることが好ましい。繊度を0.1dtex以上とすると、紙基材の紙力を高め、断紙が起こりにくくなる。一方、繊度を6.0dtex以下とすると、毛羽立ちの発生量を少なくできる。より好ましい繊度の範囲は、0.5〜5.0dtexであり、更に好ましくは1.0〜5.0dtexである。なお、1dtexは、10000m当りの質量(グラム数)である。
【0025】
(紙基材)
本実施形態の生分解性工業用紙は、ポリ乳酸系繊維の含有割合が少なくともパルプ繊維及びポリ乳酸系繊維からなる全繊維の固形分中3〜60質量%である紙基材からなる。ポリ乳酸系繊維の含有割合は、4〜60質量%が好ましく、5〜50質量%がより好ましく、10〜40質量%が更に好ましい。ポリ乳酸系繊維の含有割合が前記範囲内にあると、紙基材全体の生分解を3か月以内に終わらせるよう制御することが可能となり、短期間で紙基材としての形態を崩壊させることができる。また、ポリ乳酸系繊維の含有割合が60質量%を超えると、紙基材としての湿潤強度を与えられず、生分解に時間がかかり、製造時の乾燥工程等においてドライヤー汚れを引き起こす懸念がある。
【0026】
本実施形態において、紙基材は
湿式抄紙法で製造
される。抄紙法を用いることによって、複数の種類の繊維の混抄を容易に行うことができる。
抄紙法は、一般に、原料となる短繊維を混合した後にシート化する方法である。抄紙法には、大きく分けて乾式法と湿式法がある。乾式法は、具体的には、短繊維を乾式ブレンドした後に、気流を利用してネット上に集積して、シートを形成する方法である。シート形成に際して水流等を利用することもできる。一方、湿式法は、短繊維を液体媒体中で分散混合させた後に、ネット上に集積して、シートを形成する方法である。これらの中では、水を媒体として使用する湿式抄紙法が好ましく選択される。
【0027】
湿式抄紙法では、短繊維を含有する水性スラリーを、抄紙機に送液し、短繊維を分散させた後、脱水、搾水および乾燥して、シートとして巻き取る方法が一般的である。抄紙機としては長網抄紙機、円網抄紙機、傾斜型抄紙機およびこれらを組み合わせたコンビネーション抄紙機などが利用される。
【0028】
抄紙法で紙基材を製造する際には、パルプ繊維が水分を含んでいるため、乾燥させる工程が必要となる。乾燥工程における乾燥は、通常、100℃以上、120〜140℃程度の温度で行われる。乾燥工程では、多筒式ドライヤー、ヤンキードライヤー、アフタードライヤー、バンドドライヤー、赤外線ドライヤー等の乾燥機が使用される。
【0029】
紙基材には、生分解性に影響のない範囲で、湿潤紙力剤、サイズ剤、填料、歩留り向上剤、定着剤、乾燥紙力剤、染料、顔料等を内添薬品として使用することができる。
【0030】
湿潤紙力剤を添加する場合には、紙基材の全繊維100質量部に対し、固形分換算で0.5〜3.0質量部の割合で含有させることが好ましい。湿潤紙力剤の含有割合は、0.7〜2.5質量部がより好ましく、0.8〜2.0質量部が更に好ましい。湿潤紙力剤の含有割合を0.5質量部以上とすると、湿潤強度を維持できる。一方、湿潤紙力剤の含有割合が3.0質量部を超えると、湿潤強度を維持する効果は頭打ちとなるため、3.0質量部以下とすることが好ましい。また、湿潤紙力剤の含有割合が3.0質量部以下であれば、コストを抑えるとともに、損紙の離解性を向上させる効果も得られる。
【0031】
湿潤紙力剤の具体例としては、例えば、ポリアミド−エピクロロヒドリン、ポリアミン−エピクロロヒドリン、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。特に、ポリアミド−エピクロロヒドリン又はポリアミン−エピクロロヒドリンを使用することが好ましい。
【0032】
必要に応じて、紙基材にサイズ剤を使用することができる。サイズ剤は内添でも外添でも良い。使用するサイズ剤としては、ロジン系サイズ剤、ロジン系エマルジョンサイズ剤、α−カルボキシメチル飽和脂肪酸、アルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸、カチオンポリマー系サイズ剤等が挙げられる。これらの中でも、ロジン系サイズ剤が好ましい。サイズ剤の含有割合は、特に限定されないが、抄紙系内の汚れを減らす観点から、紙基材の全繊維100質量部に対し、固形分換算で0.5質量部以下が好ましく、0.4質量部以下がより好ましく、0.3質量部以下が更に好ましい。ロジン系サイズ剤の定着剤としては、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)を用いることができる。
【0033】
必要に応じて、紙基材に歩留り向上剤を含有させてもよい。歩留り向上剤としては、例えば、ポリアクリルアミド系化合物、ポリエチレングリコール系化合物、ポリビニルアミン系化合物等が挙げられる。これらの中でも、カチオン性ポリアクリルアミド系化合物が特に好ましい。填料をカオリンとする場合には、全体の歩留りが低下しやすいことから、生産性を向上するために適宜歩留り剤を選択すればよい。歩留り向上剤の含有割合は、特に限定されないが、紙基材の全繊維100質量部に対し、固形分換算で0.001〜0.035質量部が好ましく、0.005〜0.030質量部がより好ましく、0.008〜0.020質量部が更に好ましい。
【0034】
(塗工層)
紙基材は、その少なくとも一方の面に水溶性樹脂を含む塗布液から形成された塗工層を有することが好ましい。本発明における塗工層とは、塗布液を紙基材に塗工または含浸することによって形成されたものである。これにより、ポリ乳酸系繊維によって生じるドライヤー汚れと毛羽立ちの発生を顕著に抑えることができる。また、本発明では、操業を止めて清掃を要するような実用上問題となるドライヤー汚れを抑えることができるが、更に塗工層を有することにより、わずかな繊維の脱落が蓄積してドライヤー汚れを引き起こすおそれもなく、連続的な安定操業が可能である。ここで、水溶性樹脂とは、水に樹脂が溶解している水溶性樹脂ばかりでなく、水に樹脂が微分散している水分散性樹脂も含むものである。
【0035】
水溶性樹脂としては、例えば、完全鹸化または部分鹸化ポリビニルアルコール及びその誘導体、エチレン変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール、ジアセトン変性ポリビニルアルコール、カルボキシ変性ポリビニルアルコール及び珪素変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコール及びその誘導体、澱粉及びその誘導体、メトキシセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース及びエチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルピロリドン、アクリル酸アミド−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸アミド−アクリル酸エステル−メタクリル酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体塩、スチレン−アクリル酸共重合体塩、ポリアクリルアミド、アルギン酸ソーダ、ゼラチン、カゼイン等が挙げられる。塩としてはナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、あるいはこれらの塩の共存したものなども該当する。これらの中では、生分解性を有することから、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール誘導体、澱粉および澱粉誘導体のいずれか1種以上を含有するものが好ましい。
【0036】
水分散性樹脂としては、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリル共重合体、スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリブチルメタクリレート、エチレン−酢酸ビニル共重合体、シリル化ウレタン、アクリル−シリコン複合体、アクリル−シリコン−ウレタン複合体等の単独重合体または共重合体樹脂が挙げられる。これらは、エマルジョンあるいはラテックスの形態で用いればよい。
【0037】
塗工層の塗布量は、乾燥後において工業用紙に対して片面当り0.2〜5.0g/m
2であることが好ましい。0.2g/m
2以上とすることにより、ポリ乳酸系繊維によるドライヤー汚れと毛羽立ちの発生を効果的に抑制することができる。一方、塗布量が5.0g/m
2以下とすることにより、乾燥工程等におけるドライヤー汚れを効果的に抑えることができる。塗工層の塗布量は、好ましくは、0.5〜3.5g/m
2程度である。
【0038】
塗工層を形成するための装置には、ロールコータ、バーコータ、ドクターコータ、ブレードコータ、カーテンコータ、フィルムトランスファーコータ、サイズプレス等の公知の塗工または含浸装置を用いることができる。塗工層を形成するためには、塗布液を塗布または含浸した後に、乾燥工程において乾燥させる。乾燥工程は、通常、100℃以上、120〜140℃程度の温度で行われる。乾燥工程には、前記抄紙後の乾燥工程に使用された乾燥機と同様の乾燥機が使用される。
【0039】
(生分解性工業用紙)
生分解性工業用紙(以下、「工業用紙」と略記することがある。)の坪量は、30〜100g/m
2であることが好ましく、40〜70g/m
2であることがより好ましい。坪量を30g/m
2以上とすることにより、引張強度を高め、加工時に断紙が発生する頻度を減らすことができる。また、例えば土壌の法面に工業用紙を敷設すれば、下草が根を張るまでの間、土砂の崩落を防ぐことができる。一方、工業用紙の坪量を100g/m
2以下とすると、工業用紙としての加工適性が向上し、生分解性にも優れる。本実施形態では、坪量を好ましい範囲に調節して本実施形態の効果を遺憾なく発揮させる観点から、シリンダードライヤーを使用して乾燥させることが好ましい。
【0040】
工業用紙の引張強度は、1.50kN/m以上とすることが好ましく、2.00kN/m以上とすることがより好ましい。引張強度を1.50kN/m以上とすると、製造または加工時の巻取り時に断紙が発生し難くなるので、生産性を低下させる恐れがない。
【0041】
工業用紙の湿潤引張強度は、使用前の状態では0.5kN/m以上であることが好ましく、1.5kN/m以上であることがより好ましい。使用前の状態の湿潤引張強度を0.5kN/m以上とすると、使用時に破損等が生じにくくなり、ハンドリング性が向上する。使用前の状態の湿潤引張強度は、例えば湿潤紙力剤の種類と量を調節すること、また、パルプ繊維の濾水度を調節することにより、調整すればよい。
【0042】
ポリ乳酸系繊維は、紙基材中で熱変形していることが好ましい。工業用紙としての引張強度や湿潤引張強度を付与するために、上記の手段だけでなく、紙基材中のポリ乳酸系繊維を適度に熱変形させる方法を取ることができる。ポリ乳酸系繊維の熱変形は、前記した抄紙法で紙基材を製造する際の乾燥工程や塗布液塗布後の乾燥工程において、加熱されることによって行われる。すなわち、当該乾燥工程において、ポリ乳酸系繊維の融点未満の温度であって、熱変形温度以上の温度に加熱されることによって、汚れやブロッキングを引き起こすことなく、ポリ乳酸系繊維は熱変形され、その結果、パルプ繊維との交絡がより緻密なものとなり、工業用紙の引張強度や湿潤引張強度の向上を図ることが可能となる。本発明における紙基材は、本発明の効果を損わない限り、更に加熱圧縮成形して使用することができる。これにより、用途にあった形状と強度を与えることができる。
【0043】
工業用紙は、生分解性に優れる一方、水分を含んだ土壌を被覆または収納する等の目的に供されるため、その用途に合わせた形状を所望の期間、一定の強度で保持し、その後は速やかに生分解されることが望ましい。生分解してほぼ崩壊するのに要する期間は、長くても1シーズン、換言すれば3か月間が望ましい。一方、工業用紙は、例えば、種子等が芽を出し苗木となるまでの期間、すなわち、少なくとも2週間の期間中、ハンドリングに堪えられる強度を保持していることが望ましい。そのため、例えば、30℃の恒温条件下で土壌に2週間埋没処理を行った後では、湿潤引張強度が0.15kN/m以上であることが好ましく、0.35kN/m以上であることがより好ましい。湿潤引張強度が0.15kN/m以上であると、ハンドリングに堪えられ、被覆した土壌または収納した土壌を隔離または保持しておくことができる。この埋没処理後の湿潤引張強度を得るには、例えば湿潤紙力剤を調節すること、また、ポリ乳酸系繊維の含有割合を調節することにより、所望の期間に調整することができる。
【0044】
工業用紙の生分解性については、例えば、30℃の恒温条件下で土壌に3か月間埋没処理を行った後では、工業用紙が形態を留めていたとしても、脆くて強度測定できない程度に劣化していることが好ましく、工業用紙がほぼ完全に分解して形態を留めていないことがより好ましい。このような生分解速度で生分解を進行させるためには、例えば湿潤紙力剤を調節すること、また、ポリ乳酸系繊維の含有割合を調節することにより、調整することができる。
【0045】
本実施形態の工業用紙は、農業、林業、漁業、鉱業、土木業、製造業、運輸業、サービス産業等の各種工業分野で使用することが可能である。
農林業分野では、苗床用の仕切りや箱、植林のための苗木の育成用や輸送用の仕切りや箱等として、土中に埋めた後は自然分解させる方法で用いることができる。
土木業分野では、河川の堤防等の法面に施工して、下草が根を張るまでの間、土砂の崩落を防ぐことができる。運輸業分野では、貨物運送時の筐体材料として使用し、使用後は土中に埋めて自然分解させるような使い方で用いることができる。
【0046】
本実施形態の工業用紙を上記の各種工業分野において、筐体等の形状に成形するときは、工業用紙を切断して、生分解性のポリビニルアルコール系の接着剤等を使用して接着する等の方法で行うことができる。また、本実施形態の工業用紙は、コンビネーション抄紙法等によって、含有比率の異なる工業用紙を一体化させて、複数の紙層からなる複合体とすることもできる。
【実施例】
【0047】
本実施形態を実施例により更に詳しく説明するが、本実施形態はこれらにより限定されるものではない。なお、特に断わらない限り、「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
【0048】
実施例・比較例において、用いた塗布液は以下のとおりである。
(i)澱粉;酸化澱粉(商品名:王子エースY、王子コーンスターチ社製)の4%水溶液
(ii)PVA;完全鹸化ポリビニルアルコール(商品名:PVA−117、クラレ社製)の4%水溶液
(iii)SBR;スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(商品名:A6160、旭化成ケミカルズ社製、固形分濃度48%)の4%水希釈液
【0049】
(実施例1)
<紙基材の作製>
繊維として広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP、カナダ標準濾水度400ml)50部、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP、カナダ標準濾水度400ml)20部、及びポリ乳酸系繊維(商品名:テラマックPL−01、融点170℃、繊維太さ15μm、繊維長5mm、ユニチカ社製)30部を配合し、水中に撹拌して分散させ、濃度2.0%の繊維スラリーを得た。この繊維スラリーに、固形分換算で全繊維100質量部に対し、硫酸バンド2.0質量部、及びロジン系サイズ剤(商品名:「サイズパインN775」、固形分濃度50%、荒川化学工業社製)0.3部を添加し、更に、湿潤紙力剤としてポリアミド−エピクロロヒドリン樹脂(商品名:「アラフィックス255」、固形分濃度25%、荒川化学工業社製)1.5部を添加した。これらを添加して得られた混合物を使用し、長網抄紙機とシリンダードライヤーにより抄紙及び乾燥を行い、坪量60g/m
2の紙基材を得た。
【0050】
<塗工層の形成>
上記で得られた紙基材の両面に、塗布液として上記の澱粉を用いて、サイズプレスにより片面当り乾燥後の塗布量が1.0g/m
2となるように含浸及び乾燥を行った。
【0051】
(実施例2〜6、比較例1〜3)
表1に従って、所望の含有割合となるようにポリ乳酸系繊維の種類と配合部数、用いた塗布液の種類を変更する以外は、実施例1と同様にして工業用紙を得た。
【0052】
得られた工業用紙(実施例5だけは塗工層を形成しない工業用紙)について、以下の評価を行った。その結果を、表2に示した。
【0053】
<湿潤引張強度>
工業用紙を30℃の恒温条件下で土壌に2週間埋没させる処理を行い、当該埋没処理の前後で工業用紙の湿潤引張強度を測定した。湿潤引張強度は、JIS P 8135に準拠して測定した。浸漬時間は10分間とした。つかみ具の間隔を180mmとし、紙の縦方向について測定した。埋没処理後の紙基材は、水洗いした後に、JIS P 8135に準拠して、同様に湿潤引張強度を測定した。いずれもkN/m単位で数値化した。それぞれの評価は下記の基準に準じて行った。
初期(処理前)
◎:1.5kN/m以上であり、問題がない。
○:0.5kN/m以上、1.5kN/m未満であり、実用上問題がない。
×:0.5kN/m未満であり、問題がある。
埋没処理後
◎:0.35kN/m以上であり、問題がない。
○:0.15kN/m以上、0.35kN/m未満であり、実用上問題がない。
×:0.15kN/m未満であり、問題がある。
【0054】
<生分解性>
工業用紙を30℃の恒温条件下で土壌に3か月間埋没させる処理を行った。処理後、外観を目視にて観察し、下記の基準で評価した。
◎:工業用紙が分解している。
○:工業用紙が一部残っているが、脆く強度測定できない。
×:工業用紙が分解せずに残っている。
【0055】
<ドライヤー汚れ>
抄紙及び乾燥工程におけるドライヤー汚れを目視にて観察し、下記の基準で評価した。
◎:繊維や樹脂等の転移がなく、ドライヤー汚れがない。
○:繊維や樹脂等の転移がほとんどなく、連続的な安定操業で問題となるドライヤー汚れがない。
△:繊維や樹脂等の転移が若干あるが、実用上問題となるドライヤー汚れがほとんどない。
×:繊維や樹脂等の転移が多くあり、ドライヤー汚れが著しい。
【0056】
<ブロッキング>
抄紙及び乾燥を行った後の紙基材の巻取について、紙基材を剥がして、その表裏の貼り付きの程度を下記の基準で評価した。
○:貼り付きが認められない。
×:かなり貼り付きが認められ、実用上問題となる。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
実施例1〜6の工業用紙は、土壌に2週間埋没させる処理前後で所定の湿潤引張強度を有し、土壌に3か月間埋没させる処理後には生分解され、ドライヤー汚れとブロッキングの発生もなかった。比較例1の工業用紙は、ポリ乳酸系繊維の融点が低いため、ドライヤー汚れとブロッキングを発生させるものであった。比較例2の工業用紙は、ポリ乳酸系繊維の含有量が少なく、土壌に2週間埋没させる処理後に急速に生分解が進み、湿潤引張強度に劣るものであった。比較例3の工業用紙は、ポリ乳酸系繊維の含有量が多いため、湿潤引張強度に劣り、土壌に3か月間埋没させる処理後の生分解性に劣り、ドライヤー汚れにも劣るものであった。