【実施例】
【0020】
以下、実施例のワイヤーハーネスについて、図面を用いて説明する。
【0021】
(実施例1)
実施例1のワイヤーハーネスについて、
図1〜
図3を用いて説明する。
図1〜
図3に示されるように、本例のワイヤーハーネス1は、電線2と、端子3と、モールド樹脂部4とを有している。本例では、ワイヤーハーネス1は、インバータとモータとが搭載された自動車(不図示)におけるインバータとモータとの接続に用いられる。また、各図では、ワイヤーハーネス1が、電線2および端子3をそれぞれ複数有している例が示されている。
【0022】
電線2は、導体21と、導体21の外周を被覆する絶縁体22とを備えている。本例では、導体21は、複数本の素線(不図示)が撚り合わされた撚線より構成されている。素線は、すずめっきが施された銅合金よりなる。導体断面積は、20mm
2である。絶縁体22は、架橋ポリエチレンより構成されている。絶縁体22の厚みは、1.1mmである。電線2は、端末部分にある絶縁体22が剥ぎ取られて導体21が露出されている。
【0023】
端子3は、電線2の端末にて導体21に接続されている。本例では、端子3は、ボルト等の締結部材(不図示)が挿通される挿通孔311を有する接続部31と、導体21を圧着する一対の圧着片321を有する圧着部32とを有している。端子3は、圧着部32の圧着片321が加締められることにより導体21に接続されている。
【0024】
モールド樹脂部4は、インサート成形により形成されたものであり、電線2の端末における絶縁体22の外周および端子3における電線2側の端部の外周を覆っている。本例では、モールド樹脂部4は、各電線2の端末における各絶縁体22の外周および各端子3における各電線2側の端部の外周を一括して覆っている。モールド樹脂部4は、ポリブチレンテレフタレートまたはポリアミド6Tより構成されている。なお、止水構造が必要な場合には、電線2の絶縁体22とモールド樹脂部4との隙間に接着剤等によるシール材が設けられていてもよい。
【0025】
ここで、絶縁体22の貯蔵弾性率E’は、
図3に示されるように、25℃で100MPa以下、250℃で1MPa以上とされている。また、絶縁体22の貯蔵弾性率E’におけるゴム状平坦領域Gの開始温度Tは150℃以下とされている。なお、絶縁体22の貯蔵弾性率E’は、動的粘弾性測定装置を用いて、引張モード、昇温速度5℃/分、周波数10Hzで測定されるものである。
【0026】
以下、ワイヤーハーネス試料を作製し、評価を行った。その実験例について説明する。
【0027】
(実験例)
<試料の作製>
表1に示されるように、貯蔵弾性率E’の物性が異なる絶縁体が被覆されており、両端末に端子がそれぞれ圧着された各電線を準備した。各電線における導体断面積は、20mm
2である。試料1〜4、試料1C〜4Cにおける絶縁体は、いずれも架橋ポリエチレンより構成されている。試料5における絶縁体は、シリコーンより構成されている。なお、貯蔵弾性率E’の物性は、絶縁体形成材料の樹脂の種類、配合、架橋度合等を調整することにより変化させた。また、貯蔵弾性率E’の測定には、TAインスツルメント社製、動的粘弾性測定装置「DMA2980」を用いた。測定モードは引張モード、昇温速度は5℃/分、周波数は10Hzである。また、測定雰囲気は空気中とし、絶縁体が架橋ポリエチレンより構成されている試料については、測定温度範囲を0℃〜300℃とした。絶縁体がシリコーンより構成されている試料については、測定温度範囲を−80℃〜300℃とした。また、測定試料には、導体断面積が20mm
2である各電線から絶縁体を長さ12mm×幅5mm×厚み0.5mmの大きさに切り出したものを用いた。
【0028】
インサート成形用の成形樹脂として、ポリブチレンテレフタレート(PBT)(ポリプラスチック社製、「ジュラネックス330HR」)、ポリアミド6T(PA6T)(デュポン社製、「HTNFR52G30NHF」)の2種類を準備した。
【0029】
上金型と下金型とで構成されるモールド金型の成形空間に、2つの電線の一方の端末部分を並べて配置し、射出装置により成形空間に、表1に示される上記のいずれかの成形樹脂を射出した。また、2つの電線の他方の端末部分にも、同様にして、成型樹脂を射出した。これにより、各電線の両末端に、
図1に示されるような形状を有する各モールド樹脂部を形成した。各試料における各モールド樹脂部は、いずれも2つの電線の各端末部分を一括して被覆している。なお、各モールド樹脂部間の電線長は、100mmとした。また、ポリブチレンテレフタレートを用いた場合には、インサート成形時の樹脂温度を250℃、金型温度を80℃とした。一方、ポリアミド6Tを用いた場合には、インサート成形時の樹脂温度を320℃、金型温度を150℃とした。
【0030】
<柔軟性>
図5に示されるように、試料のワイヤーハーネス1の片側端部を高さ30mmの固定台91に固定し、固定されていない側のモールド樹脂部4を、フォースゲージ92で押圧し、電線部分を90度に屈曲させた際の荷重(N)を測定した。そして、得られた荷重を、試料のワイヤーハーネス1が備える電線の本数で除した値を算出した。電線1本あたりの荷重が5N以下であった場合を、柔軟性を有するとして「A」、電線1本あたりの荷重が6N以上であった場合を、柔軟性に劣るとして「C」と評価した。なお、本柔軟性評価による電線1本あたりの荷重が5N以下となれば、モールド樹脂部は、2本以上の複数本の電線を一括して覆っていてもよい。
【0031】
<振動付加試験後の絶縁体の状態>
図6に示されるように、試料のワイヤーハーネス1における一方のモールド樹脂部4を、複合環境試験装置(EMIC社製、「EVTC−1」)の壁部93に設けられた固定治具94に固定するとともに、他方のモールド樹脂部4を、複合環境試験装置の可動治具95に固定した。このようにワイヤーハーネス1を曲げた状態で、矢印Yに示されるように可動治具95を上下方向に振動させた。振動条件は、振動数10Hz、振動回数1,500万回の条件とした。その後、モールド樹脂部を解体し、モールド樹脂部に覆われていた絶縁体の状態を確認した。上記振動付加により、モールド樹脂部により被覆されていた4箇所の絶縁体のうち全ての絶縁体に亀裂が生じず、破断に至らなかった場合を「A」とした。同様に、4箇所の絶縁体のうちいずれかが破断している場合、または、4箇所の絶縁体のうちいずれかに亀裂が生じた場合を「B」とした。4箇所の絶縁体全てが破断に至った場合を「C」とした。
【0032】
表1に、試料のワイヤーハーネスにおける絶縁体の動的粘弾性特性、モールド樹脂部に用いた成形樹脂の種類、各評価結果をまとめて示す。
【0033】
【表1】
【0034】
表1によれば、次のことがわかる。試料1Cは、絶縁体の貯蔵弾性率E’が25℃で100MPaを超えている。そのため、試料1Cは、電線の柔軟性に劣り、90度曲げという厳しい電線の曲げ条件に対応することが困難である。
【0035】
試料2Cは、絶縁体の貯蔵弾性率E’が250℃で1MPa未満である。そのため、試料2Cは、振動によって絶縁体に亀裂が生じた。これは、インサート成形によるモールド樹脂部の形成時に、モールド金型に挟持された絶縁体が径内方に大きく変形し、モールド樹脂部における電線側の端部の内縁部に絶縁体への食い込み部が形成され、この食い込み部により、絶縁体が損傷を受けたためである。
【0036】
試料3Cは、絶縁体の貯蔵弾性率E’におけるゴム状平坦領域の開始温度が150℃を超えている。そのため、試料3Cは、電線が曲げられた状態で振動が加わった場合に、絶縁体に亀裂が生じた。これは、インサート成形時に流動してくる樹脂から絶縁体が受ける温度が異なることによって、部分的に貯蔵弾性率E’が高くなる場所が絶縁体に生じたためである。
【0037】
試料4Cは、絶縁体の貯蔵弾性率E’が250℃で1MPa未満である上、ゴム状平坦領域の開始温度が150℃を超えている。そのため、試料4Cは、電線が曲げられた状態で振動が加わった場合に、絶縁体が破断した。
【0038】
これらに対し、試料1〜5は、絶縁体の貯蔵弾性率E’が、25℃で100MPa以下、250℃で1MPa以上であり、貯蔵弾性率E’におけるゴム状平坦領域の開始温度が150℃以下である。そのため、試料1〜5によれば、電線の柔軟性を損なくことなく、振動によって絶縁体に亀裂が生じたり、絶縁体が破断したりし難いワイヤーハーネスが得られることが確認された。
【0039】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。