特許第6458721号(P6458721)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6458721
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】ワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/00 20060101AFI20190121BHJP
   H01R 4/70 20060101ALI20190121BHJP
   H02G 1/14 20060101ALI20190121BHJP
【FI】
   H01B7/00 306
   H01B7/00 301
   H01R4/70 K
   H02G1/14 050
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-238797(P2015-238797)
(22)【出願日】2015年12月7日
(65)【公開番号】特開2017-107661(P2017-107661A)
(43)【公開日】2017年6月15日
【審査請求日】2018年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 一雄
(72)【発明者】
【氏名】松井 克文
(72)【発明者】
【氏名】福本 康治
(72)【発明者】
【氏名】舘 健太郎
【審査官】 久保 正典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−173008(JP,A)
【文献】 特開2013−033607(JP,A)
【文献】 特開2002−315130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
H01R 4/70
H02G 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と該導体の外周を被覆する絶縁体とを備える電線と、該電線の端末にて上記導体に接続された端子と、上記電線の端末における上記絶縁体の外周および上記端子における上記電線側の端部の外周を覆うモールド樹脂部とを有しており、
動的粘弾性測定装置を用いて、引張モード、昇温速度5℃/分、周波数10Hzで測定される上記絶縁体の貯蔵弾性率E’は、25℃で100MPa以下、250℃で1MPa以上であり、ゴム状平坦領域の開始温度が150℃以下である、ワイヤーハーネス。
【請求項2】
上記絶縁体が、架橋ポリエチレンまたはシリコーンより構成されている、請求項1に記載のワイヤーハーネス。
【請求項3】
上記モールド樹脂部が、ポリブチレンテレフタレートまたはポリアミド6Tより構成されている、請求項1または2に記載のワイヤーハーネス。
【請求項4】
インバータとモータとが搭載された自動車における上記インバータと上記モータとの接続に用いられる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス。
【請求項5】
上記電線および上記端子を複数有しており、
上記モールド樹脂部は、各電線の端末における各絶縁体の外周および各端子における各電線側の端部の外周を一括して覆っている、請求項1〜4のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド自動車や電気自動車等の自動車では、インバータとモータとを接続するためにワイヤーハーネスが使用されるようになっている。この種のワイヤーハーネスとしては、例えば、特許文献1に記載されるように、導体と導体の外周を被覆する絶縁体とを備える電線と、電線の端末にて導体に接続された端子と、電線の端末における絶縁体の外周および端子における電線側の端部の外周を覆うモールド樹脂部とを有するワイヤーハーネスが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−133230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ワイヤーハーネスを自動車に組み付けするに当たり、電線を特に大きな曲率で曲げる等、電線の曲げ条件が厳しい場合に、電線の柔軟性を高めるため、より柔らかくて薄い絶縁体が採用される傾向がある。一方、電線の絶縁体が柔らかい材料で形成されていると、インサート成形によるモールド樹脂部の形成時に、モールド金型に挟持された絶縁体が径内方に大きく変形する。そのため、モールド樹脂部における電線側の端部の内縁部が、絶縁体に食い込んだ形状になりやすい。特に、インバータとモータとの接続に用いられるワイヤーハーネスでは、大電流が流されることから、太径の電線が用いられることが多い。この種のワイヤーハーネスでは、絶縁体を柔らかい設計にすることが要求されるため、モールド樹脂部に絶縁体への食い込み部が形成されやすい。モールド樹脂部に絶縁体への食い込み部があると、ワイヤーハーネスの使用時に、振動によって絶縁体に亀裂が生じ、場合によっては破断するおそれがある。特に、電線が曲げられた状態で振動が加わった場合に、絶縁体が破断しやすくなる。
【0005】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、電線の柔軟性を損なくことなく、振動によって絶縁体に亀裂や破断が生じ難いワイヤーハーネスを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、導体と該導体の外周を被覆する絶縁体とを備える電線と、該電線の端末にて上記導体に接続された端子と、上記電線の端末における上記絶縁体の外周および上記端子における上記電線側の端部の外周を覆うモールド樹脂部とを有しており、
動的粘弾性測定装置を用いて、引張モード、昇温速度5℃/分、周波数10Hzで測定される上記絶縁体の貯蔵弾性率E’は、25℃で100MPa以下、250℃で1MPa以上であり、ゴム状平坦領域の開始温度が150℃以下である、ワイヤーハーネスにある。
【発明の効果】
【0007】
上記ワイヤーハーネスは、絶縁体の貯蔵弾性率E’が25℃で100MPa以下であるため、電線の曲げ条件が厳しい場合でも、電線が十分な柔軟性を発揮することができる。
【0008】
また、上記ワイヤーハーネスは、絶縁体の貯蔵弾性率E’が250℃で1MPa以上であるため、インサート成形時の高温環境下でも絶縁体の径内方への変形が抑制され、モールド樹脂部に絶縁体への食い込み部が形成され難い。それ故、上記ワイヤーハーネスは、電線が曲げられた状態で振動が加わった場合でも、絶縁体における亀裂の発生、絶縁体の破断を抑制することができる。
【0009】
また、上記ワイヤーハーネスは、絶縁体の貯蔵弾性率E’におけるゴム状平坦領域の開始温度が150℃以下である。そのため、モールド樹脂部の場所によってインサート成形時に流動してくる樹脂から絶縁体が受ける温度が異なる場合でも、部分的に貯蔵弾性率E’が高くなる場所などが絶縁体にでき難い。それ故、上記ワイヤーハーネスは、絶縁体へ著しく食い込んだ食い込み部がモールド樹脂部に生じ難くなり、電線が曲げられた状態で振動が加わった場合でも、絶縁体における亀裂の発生、絶縁体の破断を抑制することができる。
【0010】
よって、本発明によれば、電線の柔軟性を損なくことなく、振動によって絶縁体に亀裂や破断が生じ難いワイヤーハーネスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1のワイヤーハーネスの一部を示す説明図である。
図2図1におけるII−II線断面を示す説明図である。
図3】温度と絶縁体の貯蔵弾性率E’との関係を模式的に示した説明図である。
図4】実験例1の試料1における温度と絶縁体の貯蔵弾性率E’との関係を示した図である。
図5】実験例1における柔軟性の評価方法を説明するための説明図である。
図6】実験例1における振動付加試験の方法を説明するための説明図であり、(a)は、複合環境試験装置に固定されたワイヤーハーネスを上方から見た図であり、(b)は、複合環境試験装置に固定されたワイヤーハーネスを側方から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
電線の絶縁体の貯蔵弾性率E’は、温度依存性があり、X軸に温度、Y軸に貯蔵弾性率E’をとった際に、低温側で相対的に高く、高温側で相対的に低くなる傾向がある。絶縁体の柔軟性を向上させるため、25℃における絶縁体の貯蔵弾性率E’を低くする設計にした場合、上記傾向により、インサート成形時の高温環境下では、絶縁体の貯蔵弾性率E’がより低い値となる。そのため、モールド樹脂部における電線側の端部の内縁部が、絶縁体に食い込んだ形状になりやすい。逆に、インサート成形時の高温環境下で食い込み部ができないよう絶縁体を硬くするため、高温環境下における絶縁体の貯蔵弾性率E’を高くする設計にした場合、上記傾向により、25℃では、絶縁体の貯蔵弾性率E’がより高い値となり、柔軟性が損なわれる。
【0013】
そのため、上記ワイヤーハーネスでは、絶縁体の貯蔵弾性率E’が、25℃で100MPa以下、250℃で1MPa以上とされる。また、絶縁体の貯蔵弾性率E’におけるゴム状平坦領域の開始温度が150℃以下とされる。なお、貯蔵弾性率E’は、動的粘弾性測定装置を用いて、引張モード、昇温速度5℃/分、周波数10Hzの条件で測定される。
【0014】
上記において、25℃における貯蔵弾性率E’を規定するのは、ワイヤーハーネスの組み付け環境温度の代表的な温度が25℃であり、当該温度における貯蔵弾性率E’が電線の柔軟性に重要なためである。また、250℃における貯蔵弾性率E’を規定するのは、インサート成形によってモールド樹脂部を形成する際の樹脂材料の温度が250℃以上であり、当該温度における貯蔵弾性率E’がモールド樹脂部の絶縁体への食い込み部の形成されやすさに関係があるためである。また、温度と貯蔵弾性率E’との関係において、貯蔵弾性率E’が平坦またはなだらかになる領域をゴム状平坦領域と呼ぶ。貯蔵弾性率E’におけるゴム状平坦領域の開始温度を150℃以下に規定するのは、以下の理由による。すわなち、モールド樹脂部の場所によってインサート成形時に流動してくる樹脂から絶縁体が受ける温度が異なる。しかしながら、モールド樹脂部の場所が異なっても、インサート成形時に流動してくる樹脂の温度が、絶縁体に接する場所では150℃を下回ることはほとんどない。したがって、貯蔵弾性率E’におけるゴム状平坦領域の開始温度が150℃以下であれば、インサート成形時に流動してくる樹脂から受ける温度によって絶縁体の硬さがほぼ一定となり、部分的に貯蔵弾性率E’が高くなる場所などが絶縁体にでき難くなる。なお、本明細書において、ゴム状平坦領域の開始温度は、ゴム状平坦領域における貯蔵弾性率E’の延長線と、ゴム状平坦領域よりも低温側で貯蔵弾性率E’が温度依存性を示す領域における貯蔵弾性率E’の延長線との交点での温度と定義される。
【0015】
上記ワイヤーハーネスにおいて、絶縁体は、架橋ポリエチレンまたはシリコーンより構成することができる。この場合には、貯蔵弾性率E’が上記条件を満たす絶縁体を構成しやすくなる。そのため、この場合には、電線の柔軟性を損なうことなく、振動によって絶縁体が破断し難いワイヤーハーネスが確実に得られる。絶縁体は、電線に用いられる各種の添加剤が1種または2種以上配合されていてもよい。
【0016】
上記ワイヤーハーネスにおいて、モールド樹脂部は、ポリブチレンテレフタレートまたはポリアミド6Tより構成することができる。インサート成形時のポリブチレンテレフタレートの樹脂温度は、250℃程度、ポリアミド6Tの樹脂温度は320℃程度である。そのため、この場合には、絶縁体の貯蔵弾性率E’が上記条件を満たすことによって、電線の柔軟性を損なうことなく、振動によって絶縁体が破断し難いワイヤーハーネスが確実に得られる。
【0017】
上記ワイヤーハーネスは、例えば、インバータとモータとが搭載された自動車におけるインバータとモータとの接続に用いることができる。この場合には、電線の柔軟性を損なくことなく、振動によって絶縁体が破断し難いACハーネスが得られる。
【0018】
上記ワイヤーハーネスは、例えば、電線および端子をそれぞれ一つずつ有していてもよいし、電線および端子を複数有していてもよい。また、後者の場合、モールド樹脂部は、例えば、各電線の端末における各絶縁体の外周および各端子における各電線側の端部の外周を一括して覆っている構成とすることができる。この場合には、モールド樹脂部における電線側の各端部の内縁部が、各絶縁体に食い込んだとしても、各絶縁体の貯蔵弾性率E’におけるゴム状平坦領域の開始温度が150℃以下であるため、部分的に貯蔵弾性率E’が高くなる場所が各絶縁体にでき難く、各食い込み部の食い込み量が少ない量で一定になりやすい。そのため、この場合には、各電線が曲げられた状態で振動が加わった場合でも、各絶縁体の破断を抑制することができる。
【0019】
なお、上述した各構成は、上述した各作用効果等を得るなどのために必要に応じて任意に組み合わせることができる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例のワイヤーハーネスについて、図面を用いて説明する。
【0021】
(実施例1)
実施例1のワイヤーハーネスについて、図1図3を用いて説明する。図1図3に示されるように、本例のワイヤーハーネス1は、電線2と、端子3と、モールド樹脂部4とを有している。本例では、ワイヤーハーネス1は、インバータとモータとが搭載された自動車(不図示)におけるインバータとモータとの接続に用いられる。また、各図では、ワイヤーハーネス1が、電線2および端子3をそれぞれ複数有している例が示されている。
【0022】
電線2は、導体21と、導体21の外周を被覆する絶縁体22とを備えている。本例では、導体21は、複数本の素線(不図示)が撚り合わされた撚線より構成されている。素線は、すずめっきが施された銅合金よりなる。導体断面積は、20mmである。絶縁体22は、架橋ポリエチレンより構成されている。絶縁体22の厚みは、1.1mmである。電線2は、端末部分にある絶縁体22が剥ぎ取られて導体21が露出されている。
【0023】
端子3は、電線2の端末にて導体21に接続されている。本例では、端子3は、ボルト等の締結部材(不図示)が挿通される挿通孔311を有する接続部31と、導体21を圧着する一対の圧着片321を有する圧着部32とを有している。端子3は、圧着部32の圧着片321が加締められることにより導体21に接続されている。
【0024】
モールド樹脂部4は、インサート成形により形成されたものであり、電線2の端末における絶縁体22の外周および端子3における電線2側の端部の外周を覆っている。本例では、モールド樹脂部4は、各電線2の端末における各絶縁体22の外周および各端子3における各電線2側の端部の外周を一括して覆っている。モールド樹脂部4は、ポリブチレンテレフタレートまたはポリアミド6Tより構成されている。なお、止水構造が必要な場合には、電線2の絶縁体22とモールド樹脂部4との隙間に接着剤等によるシール材が設けられていてもよい。
【0025】
ここで、絶縁体22の貯蔵弾性率E’は、図3に示されるように、25℃で100MPa以下、250℃で1MPa以上とされている。また、絶縁体22の貯蔵弾性率E’におけるゴム状平坦領域Gの開始温度Tは150℃以下とされている。なお、絶縁体22の貯蔵弾性率E’は、動的粘弾性測定装置を用いて、引張モード、昇温速度5℃/分、周波数10Hzで測定されるものである。
【0026】
以下、ワイヤーハーネス試料を作製し、評価を行った。その実験例について説明する。
【0027】
(実験例)
<試料の作製>
表1に示されるように、貯蔵弾性率E’の物性が異なる絶縁体が被覆されており、両端末に端子がそれぞれ圧着された各電線を準備した。各電線における導体断面積は、20mmである。試料1〜4、試料1C〜4Cにおける絶縁体は、いずれも架橋ポリエチレンより構成されている。試料5における絶縁体は、シリコーンより構成されている。なお、貯蔵弾性率E’の物性は、絶縁体形成材料の樹脂の種類、配合、架橋度合等を調整することにより変化させた。また、貯蔵弾性率E’の測定には、TAインスツルメント社製、動的粘弾性測定装置「DMA2980」を用いた。測定モードは引張モード、昇温速度は5℃/分、周波数は10Hzである。また、測定雰囲気は空気中とし、絶縁体が架橋ポリエチレンより構成されている試料については、測定温度範囲を0℃〜300℃とした。絶縁体がシリコーンより構成されている試料については、測定温度範囲を−80℃〜300℃とした。また、測定試料には、導体断面積が20mmである各電線から絶縁体を長さ12mm×幅5mm×厚み0.5mmの大きさに切り出したものを用いた。
【0028】
インサート成形用の成形樹脂として、ポリブチレンテレフタレート(PBT)(ポリプラスチック社製、「ジュラネックス330HR」)、ポリアミド6T(PA6T)(デュポン社製、「HTNFR52G30NHF」)の2種類を準備した。
【0029】
上金型と下金型とで構成されるモールド金型の成形空間に、2つの電線の一方の端末部分を並べて配置し、射出装置により成形空間に、表1に示される上記のいずれかの成形樹脂を射出した。また、2つの電線の他方の端末部分にも、同様にして、成型樹脂を射出した。これにより、各電線の両末端に、図1に示されるような形状を有する各モールド樹脂部を形成した。各試料における各モールド樹脂部は、いずれも2つの電線の各端末部分を一括して被覆している。なお、各モールド樹脂部間の電線長は、100mmとした。また、ポリブチレンテレフタレートを用いた場合には、インサート成形時の樹脂温度を250℃、金型温度を80℃とした。一方、ポリアミド6Tを用いた場合には、インサート成形時の樹脂温度を320℃、金型温度を150℃とした。
【0030】
<柔軟性>
図5に示されるように、試料のワイヤーハーネス1の片側端部を高さ30mmの固定台91に固定し、固定されていない側のモールド樹脂部4を、フォースゲージ92で押圧し、電線部分を90度に屈曲させた際の荷重(N)を測定した。そして、得られた荷重を、試料のワイヤーハーネス1が備える電線の本数で除した値を算出した。電線1本あたりの荷重が5N以下であった場合を、柔軟性を有するとして「A」、電線1本あたりの荷重が6N以上であった場合を、柔軟性に劣るとして「C」と評価した。なお、本柔軟性評価による電線1本あたりの荷重が5N以下となれば、モールド樹脂部は、2本以上の複数本の電線を一括して覆っていてもよい。
【0031】
<振動付加試験後の絶縁体の状態>
図6に示されるように、試料のワイヤーハーネス1における一方のモールド樹脂部4を、複合環境試験装置(EMIC社製、「EVTC−1」)の壁部93に設けられた固定治具94に固定するとともに、他方のモールド樹脂部4を、複合環境試験装置の可動治具95に固定した。このようにワイヤーハーネス1を曲げた状態で、矢印Yに示されるように可動治具95を上下方向に振動させた。振動条件は、振動数10Hz、振動回数1,500万回の条件とした。その後、モールド樹脂部を解体し、モールド樹脂部に覆われていた絶縁体の状態を確認した。上記振動付加により、モールド樹脂部により被覆されていた4箇所の絶縁体のうち全ての絶縁体に亀裂が生じず、破断に至らなかった場合を「A」とした。同様に、4箇所の絶縁体のうちいずれかが破断している場合、または、4箇所の絶縁体のうちいずれかに亀裂が生じた場合を「B」とした。4箇所の絶縁体全てが破断に至った場合を「C」とした。
【0032】
表1に、試料のワイヤーハーネスにおける絶縁体の動的粘弾性特性、モールド樹脂部に用いた成形樹脂の種類、各評価結果をまとめて示す。
【0033】
【表1】
【0034】
表1によれば、次のことがわかる。試料1Cは、絶縁体の貯蔵弾性率E’が25℃で100MPaを超えている。そのため、試料1Cは、電線の柔軟性に劣り、90度曲げという厳しい電線の曲げ条件に対応することが困難である。
【0035】
試料2Cは、絶縁体の貯蔵弾性率E’が250℃で1MPa未満である。そのため、試料2Cは、振動によって絶縁体に亀裂が生じた。これは、インサート成形によるモールド樹脂部の形成時に、モールド金型に挟持された絶縁体が径内方に大きく変形し、モールド樹脂部における電線側の端部の内縁部に絶縁体への食い込み部が形成され、この食い込み部により、絶縁体が損傷を受けたためである。
【0036】
試料3Cは、絶縁体の貯蔵弾性率E’におけるゴム状平坦領域の開始温度が150℃を超えている。そのため、試料3Cは、電線が曲げられた状態で振動が加わった場合に、絶縁体に亀裂が生じた。これは、インサート成形時に流動してくる樹脂から絶縁体が受ける温度が異なることによって、部分的に貯蔵弾性率E’が高くなる場所が絶縁体に生じたためである。
【0037】
試料4Cは、絶縁体の貯蔵弾性率E’が250℃で1MPa未満である上、ゴム状平坦領域の開始温度が150℃を超えている。そのため、試料4Cは、電線が曲げられた状態で振動が加わった場合に、絶縁体が破断した。
【0038】
これらに対し、試料1〜5は、絶縁体の貯蔵弾性率E’が、25℃で100MPa以下、250℃で1MPa以上であり、貯蔵弾性率E’におけるゴム状平坦領域の開始温度が150℃以下である。そのため、試料1〜5によれば、電線の柔軟性を損なくことなく、振動によって絶縁体に亀裂が生じたり、絶縁体が破断したりし難いワイヤーハーネスが得られることが確認された。
【0039】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 ワイヤーハーネス
2 電線
21 導体
22 絶縁体
3 端子
4 モールド樹脂部
G ゴム状平坦領域
T ゴム状平坦領域の開始温度T
図1
図2
図3
図4
図5
図6