特許第6458840号(P6458840)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6458840
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】移植ハンド
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/08 20060101AFI20190121BHJP
   B25J 15/00 20060101ALI20190121BHJP
【FI】
   A01G9/08 610B
   B25J15/00 Z
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-182605(P2017-182605)
(22)【出願日】2017年9月22日
【審査請求日】2018年5月25日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】東田 哲
(72)【発明者】
【氏名】河野 浩二
(72)【発明者】
【氏名】森 拓郎
【審査官】 門 良成
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−213486(JP,A)
【文献】 特開平05−057647(JP,A)
【文献】 実開昭62−074989(JP,U)
【文献】 特開平04−166077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/08
A01G 31/00
A01C 11/02
B25J 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
苗を移植する移植装置が備える移植ハンドであって、
苗が植え付けられた苗床片を把持可能に設けられた把持部材と、前記苗床片の下側となる位置で前記苗床片の下面を通って鉛直方向に延びる軸線を中心とする周方向へ移動可能に設けられた移動部材と、を備え,
前記移動部材は、前記把持部材に把持された前記苗床片が移植先の穴に上方から挿入された状態において、先ず前記周方向に移動した後に、下降することを特徴とする移植ハンド。
【請求項2】
前記把持部材は、1つの部材で前記移動部材を兼用する構成とされ、鉛直方向に延びる軸線を中心とする半径方向と交差する方向であって且つ斜め上向きとなる方向に先端が向いた針状の爪部を有し、前記爪部が前記軸線を中心とする周方向に移動するように回転することを特徴とする請求項1に記載の移植ハンド。
【請求項3】
前記把持部材は、前記爪部が前記周方向の一方側に移動して前記苗床片に対して突き刺し可能に回転するときの回転角度よりも、前記爪部が前記苗床片に突き刺さった状態から前記周方向の他方側に移動して前記苗床片から抜けるように回転するときの回転角度の方が大きく設定されていることを特徴とする請求項に記載の移植ハンド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苗を移植する移植装置が備える移植ハンドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、苗を移植する移植装置が備える移植ハンドとして、例えば特許文献1に記載の苗床把持ユニットが知られている。この苗床把持ユニットは、鉛直方向に延びる軸線を中心にして相対回転する第1把持部材と第2把持部材とを備えている。第1把持部材の上端部には、第1爪部が形成され、第2把持部材の上端部には、第1把持部材と第2把持部材との相対回転に伴い周方向に移動して第1爪部に当接する第2爪部が設けられている。そして、苗の移植時には、移植対象となる苗床片の直下で第1把持部材と第2把持部材とを相対回転させることにより、第1爪部と第2爪部とで苗床片の下部を挟み込み、その状態から第1把持部材と第2把持部材とを下降させることにより、移植先となる穴に苗床片を移植していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−7686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、移植対象となる苗床片の下面からは、苗の根が外方へ放射状に広がるように延びていることがある。そのため、第1爪部と第2爪部とで苗床片の下部を挟み込みつつ第1把持部材と第2把持部材とを下降させて苗床片を移植先の穴に上方から挿入したときに、苗床片の下面から外方へ広がるように延びている苗の根の先端が穴の内周面と苗床片の側面との間に挟まり、穴の下側に導かれない虞があった。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、苗床片を移植先の穴に上方から挿入して移植するときに苗床片の下面から外方へ広がるように延びている苗の根を移植先の穴の下側に導くことができる移植ハンドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決する移植ハンドは、苗を移植する移植装置が備える移植ハンドであって、苗が植え付けられた苗床片を把持可能に設けられた把持部材と、前記苗床片の下側となる位置で前記苗床片の下面を通って鉛直方向に延びる軸線を中心とする周方向へ移動可能に設けられた移動部材と、を備える。
【0007】
この構成によれば、把持部材に把持された苗床片を移植先の穴に上方から挿入した状態で移動部材を周方向に移動させると、その移動部材に苗の根が絡む。そのため、仮に苗床片の下面から外方へ広がるように延びている苗の根の先端が穴の内周面と苗床片の側面との間に挟まっていたとしても、その苗の根は先端よりも基端側が周方向に移動する移動部材に絡むことにより、苗床片の下面の中央寄りに引き寄せられ、穴の下側に導かれる。
【0008】
上記移植ハンドにおいて、前記移動部材は、前記把持部材に把持された前記苗床片が移植先の穴に上方から挿入された状態において、先ず前記周方向に移動した後に、下降することが好ましい。
【0009】
この構成によれば、移動部材は、周方向への移動により絡ませた苗の根を下方への移動により穴の下側へ効率良く引き寄せて導くことができる。
上記移植ハンドにおいて、前記移動部材は、前記軸線を中心とする周方向に間隔をおいた複数箇所に設けられていることが好ましい。
【0010】
この構成によれば、複数の移動部材が周方向に移動することにより、苗の根が絡まる確率を高くすることができる。
上記移植ハンドにおいて、前記把持部材は、1つの部材で前記移動部材を兼用する構成とされ、鉛直方向に延びる軸線を中心とする半径方向と交差する方向であって且つ斜め上向きとなる方向に先端が向いた針状の爪部を有し、前記爪部が前記軸線を中心とする周方向に移動するように回転することが好ましい。
【0011】
この構成によれば、把持部材と移動部材を同一の部材で兼用できるので、移植ハンドの構成を簡素化することができる。
上記移植ハンドにおいて、前記把持部材は、前記爪部が前記周方向の一方側に移動して前記苗床片に対して突き刺し可能に回転するときの回転角度よりも、前記爪部が前記苗床片に突き刺さった状態から前記周方向の他方側に移動して前記苗床片から抜けるように回転するときの回転角度の方が大きく設定されていることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、移植対象となる苗床片の下面に把持部材の爪部を下側から押し当てた状態で爪部が周方向の一方側に移動するように把持部材を回転させると、針状で上向きの爪部が苗床片の内部に向けて下面から突き刺さるため、苗床片は、把持部材により把持された状態となる。その一方、苗床片に突き刺さった状態にある爪部を周方向の他方側に移動させて苗床片から抜く方向に把持部材を回転させるときの回転角度は相対的に大きいため、苗床片の下面から外方へ広がるように延びている苗の根は周方向に移動する爪部に絡み易い。そのため、仮に苗床片の下面から外方へ広がるように延びている苗の根の先端が穴の内周面と苗床片の側面との間に挟まっていたとしても、移植先の穴の下側で把持部材を爪部が苗床片から抜ける方向に回転させれば、爪部に絡ませた苗の根を移植先の穴の下側へ効率良く導くことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、苗床片を移植先の穴に上方から挿入して移植するときに苗床片の下面から外方へ広がるように延びている苗の根を移植先の穴の下側に導くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】移植装置の一実施形態の全体概要を示す一部破断正面図。
図2】移植ハンドの斜視図。
図3】移植ハンドの平面図。
図4】移植ハンドが把持位置まで上昇した状態を示す正面図。
図5図4における移植ハンドの要部を拡大して示す断面図。
図6図5の状態から把持部材が把持方向に回転した状態を示す断面図。
図7図6における7−7線矢視の側面図。
図8図6の状態における移植ハンドの平面図。
図9】移植位置まで下降した移植ハンドの要部を拡大して示す断面図。
図10図9の状態から把持部材が把持解除方向に回転した状態を示す断面図。
図11図10の状態から移植ハンドが更に下降した状態を示す断面図。
図12】変形例1の移植ハンドの平面図。
図13】変形例2の移植ハンドの平面図。
図14】変形例3の移植ハンドの平面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、植物の苗を移植する移植装置が備える移植ハンドの一実施形態について図を参照して説明する。
図1に示すように、移植装置11は、苗床支持部12と定植パネル支持部13と移植機構14とを備えている。苗床支持部12と定植パネル支持部13は、移植装置11の幅方向(X方向)及び奥行方向(Y方向)の少なくとも一方向に沿って移動可能なコンベヤ機構やチェーン機構等を含んで構成され、苗床支持部12の下方となる位置に、定植パネル支持部13が設けられている。そして、苗床支持部12上には、苗Sを植え付けた苗床片Nの集合体であるマット状の苗床15が支持され、定植パネル支持部13上には、苗床15から移植機構14により分離された苗床片Nが移植される定植パネル16が支持されている。なお、苗床15は、例えばウレタン等の発泡樹脂からなる弾性変形可能なマット体であり、平面視で幅方向及び奥行方向に交差して延びる多数の切目17により、複数個の苗床片Nがマトリクス状に区分されている。そして、本実施形態の場合、苗床片Nの下面からは、苗Sの根Neが外方へ放射状に広がるように延びている。
【0016】
定植パネル16は、その厚さ寸法が苗床片Nの高さ方向(Z方向)の寸法と対応した厚みのある板体であり、その複数箇所(図1には6箇所を図示)に苗床片Nの移植先となる穴18が貫通形成されている。この穴18は、平面視形状が円形の穴であり、その穴18の内周面に沿う円は、略立方体形状をなす苗床片Nの一つの面(例えば、底面)の形状である正方形の内接円に相当する。そのため、この穴18内に苗床片Nを上方から挿入した場合、その苗床片Nは平面視での四隅部分が弾性変形して穴18の内周面に圧接することで、穴18内に保持される。
【0017】
移植機構14は、ボックス状をなすベース部19と、ベース部19上に設けられた移植ハンド20と、ベース部19を介して移植ハンド20を移動させる移動機構21とを有している。移動機構21は、X方向駆動部22とY方向駆動部23とZ方向駆動部24とを有している。X方向駆動部22は、ベース部19よりも下方位置でX方向に延びるように配置され、X方向にスライド移動するX方向スライダー25を有している。Y方向駆動部23は、X方向駆動部22が有するX方向スライダー25に連結された状態でY方向に延びるように配置され、Y方向にスライド移動するY方向スライダー26を有している。Z方向駆動部24は、Y方向駆動部23が有するY方向スライダー26に連結された状態でZ方向に延びるように配置され、Z方向にスライド移動するZ方向スライダー27を有している。そして、このZ方向駆動部24が有するZ方向スライダー27にベース部19が連結されている。
【0018】
図2及び図3に示すように、移植ハンド20は、ベース部19の上面に鉛直方向であるZ方向に延びるように固定された円筒部28と、円筒部28の内側に配置された状態で、円筒部28の中心を通って鉛直方向に延びる軸線Pを回転中心にして回転する円柱形状の回転部材29とを有している。なお、円筒部28の外径は定植パネル16に形成された穴18の内径よりも小さい。円筒部28の上端面28aにおいて、軸線Pを基準として点対称となる二箇所には、先端が針状をなす直棒状の回転規制部材30がZ方向に延びるように固定されている。同様に、回転部材29の上端面29aにおいて、軸線Pを基準として点対称となる二箇所には、先端が針状をなす把持部材31が固定されている。すなわち、把持部材31は、回転部材29の上端面29aにおいて軸線Pから半径方向に離れた位置であって、軸線Pを中心とする周方向に間隔をおいた複数箇所(本実施形態では二箇所)に固定されている。
【0019】
把持部材31は、その長さ方向の中途から基端側の部分がZ方向に延びる直棒部32に形成され、その中途から先端側の部分がフック状に曲がった形状の爪部33に形成されている。そして、把持部材31は、爪部33における針状の先端が軸線Pを中心とする半径方向と交差する方向であって且つ斜め上向きとなる方向に向く姿勢となるように回転部材29に固定されている。そのため、回転部材29が回転した場合、把持部材31は、回転部材29と一体的に回転し、その爪部33が軸線Pを中心とする周方向に移動することになる。なお、回転規制部材30の上端と把持部材31の上端である爪部33の先端とは、Z方向の高さ位置が同じである。また、回転部材29は、ベース部19に設けられたモーター等からなる回転駆動部34(図1参照)に駆動されて回転する。
【0020】
次に、上記のように構成された移植装置11の作用について、移植ハンド20が苗床片Nを把持して定植パネル16の穴18に移植するときの作用に着目して以下説明する。
さて、苗床15から苗床片Nを分離して定植パネル16に移植する際には、まず、移植対象となる苗床片Nが特定され、その苗床片Nの真下となる位置に定植パネル16において移植先となる穴18が位置させられる。この場合には、苗床支持部12及び定植パネル支持部13における図示しないコンベヤ機構等が作動する。また、その穴18の真下となる位置に移植機構14の移植ハンド20が位置させられる。この場合には、移動機構21におけるX方向駆動部22とY方向駆動部23が駆動される。いま仮に、図1の状態は、苗床15において幅方向(X方向)に並ぶ5つの苗床片Nのうち真ん中に位置する苗床片Nが、定植パネル16において幅方向(X方向)に並ぶ5つの穴18のうち真ん中に位置する穴18に移植される場合の初期状態を例示している。
【0021】
以下、この初期状態からの移植手順を説明する。
まず、図4に示すように、移植ハンド20が、図1に示す状態から苗床片Nを把持可能となる把持位置まで上昇する。すなわち、移動機構21におけるZ方向駆動部24の駆動に基づき、移植ハンド20がベース部19と共に上昇する。すると、移植ハンド20は、上端面28aに回転規制部材30を固定した円筒部28及び上端面29aに把持部材31を固定した回転部材29が、定植パネル16の穴18を下方から上方に通過し、回転規制部材30及び把持部材31が苗床片Nの下面に接触する。
【0022】
具体的には、図5に示すように、回転規制部材30は、針状の先端が苗床片Nの下面に突き刺さった接触状態となり、把持部材31は、先端が斜め上向きの爪部33が苗床片Nの下面を上方に押し上げる接触状態となる。そのため、苗床片Nは、下面に突き刺さった回転規制部材30により軸線Pを中心とする回転が規制されるとともに、把持部材31の押し上げにより下面の中央部分が上側となる苗床片Nの内側に向けて凹んだ状態となる。そして、この状態から、回転部材29が回転駆動部34の駆動に基づき回転させられる。本実施形態の場合、図3に示す状態から把持方向となる反時計方向に一例として90度の回転角度だけ、回転部材29は回転させられる。
【0023】
すると、図6図7及び図8に示すように、この回転部材29の回転に伴い、把持部材31も、反時計方向に90度だけ回転するように動作し、爪部33が軸線Pを中心とする周方向の一方側(すなわち、反時計方向側)に円弧を描くように移動する。そして、このときに、把持部材31は、針状の爪部33が苗床片Nの下面における凹面状の部分に突き刺さる。なお、苗床片Nは、それまで苗床片Nの下面を凹面状に押し上げていた爪部33の先端が斜め下方から苗床片Nの内部に向けて突き刺さると、押し上げがなくなって凹面状の部分が僅かに下方へ復元するように弾性変形する。そのため、例えば図7及び図8に示すように、苗床片Nは、把持部材31における針状の斜め上向きの爪部33が軸線Pを中心とする周方向に先端を向けて食い込むことで、把持部材31に対して上下方向に移動しても抜けないように把持された状態となる。
【0024】
すると次に、図9に示すように、移動機構21におけるZ方向駆動部24の駆動により移植ハンド20が定植パネル16よりも下方となる位置まで下降する。具体的には、爪部33を突き刺した把持部材31により把持された状態にある苗床片Nが定植パネル16の穴18に上方から挿入される移植位置となるまで、移植ハンド20は下降する。そして、その状態から、回転部材29が回転駆動部34の駆動に基づき回転させられる。今度は、そのとき苗床片Nに突き刺さっている把持部材31の爪部33が苗床片Nから抜ける把持解除方向となる時計方向に回転部材29は回転させられる。
【0025】
すると、図10に示すように、把持部材31は、先端が斜め上向きの爪部33が苗床片Nの内部から下面側に抜けた状態となる。なお、図10に示す状態は、図9の状態から時計方向に90度の回転角度だけ回転部材29が回転した時点、すなわち、把持部材31の爪部33が苗床片Nから抜けた直後の状態を示しているが、最終的には、時計方向に一例として180度の回転角度だけ回転部材29は回転させられる。そして、このように把持部材31が周方向に移動した場合でも、固定配置の円筒部28から上方に延びた回転規制部材30は先端が苗床片Nに下面から突き刺さった状態を維持している。そのため、苗床片Nは、周方向に移動する把持部材31により押されたり引っ張られたりして供回りすることもない。
【0026】
ところで、移植対象である苗床片Nに植え付けられた苗Sの根Neは、苗床片Nの下面から外方へ放射状に広がるように延びていることがある。そのため、定植パネル16の穴18に苗床片Nを上方から挿入させたとき、図9に示すように、その苗Sの根Neの一部が苗床片Nの側面と穴18の内周面との間に挟まれてしまう虞がある。こうして挟まれた苗Sの根Neは、定植パネル16の下側に垂れないため、苗Sの栽培のために定植パネル16の下側に供給される養液に浸ることができなくなる。そのため、こうした事態は回避することが好ましい。
【0027】
この点、本実施形態では、図8図9の状態から、回転部材29が時計方向に回転したとき、把持部材31が苗床片Nの下側となる位置で軸線Pを中心とする周方向へ移動する移動部材として機能し、その周方向への移動途中に、苗床片Nの下面から外方に広がっている苗Sの根Neを絡ませる。すなわち、苗床片Nの側面と穴18の内周面との間に先端が挟まれている苗Sの根Neの先端よりも基端側の部分を、周方向に移動する移動部材を兼用する把持部材31に絡ませる。すると、周方向に移動する把持部材31に絡まった苗Sの根Neは、苗床片Nの下面の中央寄りに引き寄せられる結果、穴18の下側に導かれる。
【0028】
そして、図11に示すように、その状態から移植ハンド20が更に下降すると、苗床片Nは、把持部材31に絡まった苗Sの根Neが、下方へ移動する把持部材31との接触により垂れ下がるように揃えられる。そして、苗床片Nは、苗Sの根Neを定植パネル16の穴18の下側に垂れ下がらせた状態で、移植先の穴18に対する移植が完了した状態となる。そして以後は、その状態から、次の移植対象となる苗床片Nと移植先となる穴18とが上下方向で一致するように苗床支持部12及び定植パネル支持部13が作動される。また、その穴18の真下となる位置に移植ハンド20が位置するように、移動機構21におけるX方向駆動部22とY方向駆動部23が駆動される。そして、上記の場合と同様の移植手順が繰り返される。
【0029】
上記の実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)把持部材31は、その先端が針状の爪部33であるため、苗床片Nを把持するときに他の部材との間に苗床片Nから出ている苗Sの根Neを挟み込む虞がない。そして、苗Sを移植するために苗床片Nを把持するときには、その苗床片Nに対して先端の針状の爪部33が突き刺さるように把持部材31を動作させれば、苗Sの根Neをちぎり取ることなく容易に把持することができる。
【0030】
(2)移植対象となる苗床片Nの下面に把持部材31の爪部33を下側から押し当てた状態で把持部材31を回転させると、苗床片Nの下面を通って鉛直方向に延びる軸線Pを中心とする周方向に針状の爪部33が移動する。すると、その移動に伴い針状で上向きの爪部33が苗床片Nの内部に向けて下面から突き刺さるため、苗床片Nは、把持部材31により苗Sの根Neをちぎり取られることなく、把持部材31に対して上下方向に移動しても抜けないように把持された状態となる。
【0031】
(3)回転部材29を回転させると、把持部材31が周方向に移動するため、その把持部材31が有する爪部33も周方向に移動する。したがって、移植対象となる苗床片Nを簡単な構成で苗Sの根Neをちぎり取ることなく把持して移植することができる。
【0032】
(4)把持部材31の回転に伴い爪部33が周方向に移動したときに、その苗床片Nが周方向に移動する爪部33に押されたり引っ張られたりして供回りすることを回転規制部材30により抑制できる。
【0033】
(5)把持部材31に把持された苗床片Nを移植先の穴18に上方から挿入した状態で移動部材としても機能する把持部材31を周方向に移動させると、その把持部材31に苗Sの根Neが絡む。そのため、仮に苗床片Nの下面から外方へ広がるように延びている苗Sの根Neの先端が移植先の穴18の内周面と苗床片Nの側面との間に挟まっていたとしても、その苗Sの根Neは先端よりも基端側が周方向に移動する把持部材31に絡むことにより、苗床片Nの下面の中央寄りに引き寄せられ、穴18の下側に導かれる。
【0034】
(6)移動部材としても機能する把持部材31は、周方向への移動により絡ませた苗Sの根Neを、その後に移植ハンド20が更に下方へ移動することにより、移植先の穴18の下側へ効率良く引き寄せて導くことができる。
【0035】
(7)移動部材としても機能する複数の把持部材31が周方向に移動することにより、把持部材31が1つの場合よりも、苗Sの根Neが絡まる確率を高くすることができる。
(8)把持部材31が、同一の部材で移動部材を兼用する構成であるので、移植ハンド20の構成を簡素化することができる。
【0036】
(9)移植対象となる苗床片Nに突き刺さった状態にある爪部33を周方向の他方側に移動させて苗床片Nから抜く把持解除方向に把持部材31を回転させるときの回転角度は相対的に大きい。そのため、苗床片Nの下面から外方へ広がるように延びている苗Sの根Neは、周方向に移動する爪部33に絡み易い。そのため、仮に苗床片Nの下面から外方へ広がるように延びている苗Sの根Neの先端が穴18の内周面と苗床片Nの側面との間に挟まっていたとしても、移植先の穴18の下側で把持部材31を爪部33が苗床片Nから抜ける方向に回転させれば、爪部33に絡ませた苗Sの根Neを移植先の穴18の下側へ効率良く導くことができる。
【0037】
なお、上記実施形態は、以下のように変更してもよい。また、以下の変更例は、適宜組み合わせてもよい。
図12に示す変形例1のように、移植ハンド20は、把持部材31における爪部33の形状が、上方からの平面視において軸線Pを中心とする周方向に沿う円弧状に曲がった形状であってもよい。
【0038】
図13に示す変形例2のように、移植ハンド20は、把持部材31における爪部33の形状が、上方からの平面視において軸線Pを中心とする渦巻き状に曲がった形状であってもよい。
【0039】
図14に示す変形例3のように、移植ハンド20は、把持部材31の数が実施形態における2つ以外の複数(例えば4つ)であってもよい。なお、把持部材31の数は、1つであってもよく、また、3つなどの奇数の複数であってもよい。
【0040】
・苗床片Nの回転を規制するように苗床片Nの下面に先端を突き刺す回転規制部材30の数は実施形態における2つ以外の1つや3つ以上であってもよく、あるいは、回転規制部材30は省略してもよい。
【0041】
・先端に針状の爪部33を備えた把持部材31は、一対が回転部材29の上端面29aから上方へ延びるように回転部材29に一体化される構成以外に、各々の把持部材31が別々に軸線Pを中心として周方向に移動するように構成されていてもよい。
【0042】
・把持部材31は軸線Pを中心として爪部33が周方向に移動するように回転するときの回転角度が、爪部33を苗床片Nに突き刺すときの把持方向となる一方側への回転角度と、爪部33を苗床片Nから抜くときの把持解除方向となる他方側への回転角度が同じであってもよい。さらに、その場合の回転角度は90度や180度以外の他の任意の角度でもよい。
【0043】
・把持部材31は、爪部33が周方向に移動するように回転する動作以外に、例えば、爪部33が半径方向の外側から半径方向の内側に移動して苗床片Nに突き刺さるように、把持部材31が揺動する動作であってもよい。
【0044】
・実施形態では、移植時に苗床片Nを把持する把持部材31が、その爪部33を苗床片Nから抜くときに苗Sの根Neを絡ませるように周方向に移動する移動部材としても機能するように同一の部材で兼用する構成としたが、把持部材31と移動部材とは別々に構成しても良い。例えば、従来技術の移植装置が移植ハンドとして備える苗床把持ユニットにおける第1把持部材と第2把持部材とは別に、苗床片Nの下側で周方向に移動して苗Sの根Neを絡ませる移動部材を別途に設けても良い。
【符号の説明】
【0045】
11…移植装置、18…穴、20…移植ハンド、29…回転部材、30…回転規制部材、31…移動部材を兼用する把持部材、33…爪部、N…苗床片、Ne…根、P…軸線、S…苗。
【要約】
【課題】苗床片を移植先の穴に上方から挿入して移植するときに苗床片の下面から外方へ広がるように延びている苗の根を移植先の穴の下側に導くことができる移植ハンドを提供する。
【解決手段】移植ハンド20は、苗Sが植え付けられた苗床片Nを把持可能に設けられた把持部材31と、苗床片の下側となる位置で苗床片の下面を通って鉛直方向に延びる軸線Pを中心とする周方向へ移動可能に設けられた移動部材と、を備え、把持部材は、1つの部材で移動部材を兼用する構成とされ、鉛直方向に延びる軸線を中心とする半径方向と交差する方向であって且つ斜め上向きとなる方向に先端が向いた針状の爪部33を有し、爪部が軸線を中心とする周方向に移動するように回転する。
【選択図】図1
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