特許第6458843号(P6458843)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6458843表面処理ガラス繊維織編物及びそれを用いるガラス繊維強化シリコーン樹脂膜材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6458843
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】表面処理ガラス繊維織編物及びそれを用いるガラス繊維強化シリコーン樹脂膜材
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/513 20060101AFI20190121BHJP
   D06M 15/643 20060101ALI20190121BHJP
   B32B 17/04 20060101ALI20190121BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20190121BHJP
   C03C 25/10 20180101ALI20190121BHJP
   D06M 101/00 20060101ALN20190121BHJP
【FI】
   D06M13/513
   D06M15/643
   B32B17/04 Z
   B32B27/00 101
   C03C25/10
   D06M101:00
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-199569(P2017-199569)
(22)【出願日】2017年10月13日
【審査請求日】2018年11月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三島 聡
(72)【発明者】
【氏名】南 和明
(72)【発明者】
【氏名】吉村 彰
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平4−370275(JP,A)
【文献】 特開2011−91066(JP,A)
【文献】 特開平6−24808(JP,A)
【文献】 特表2008−502573(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0370266(US,A1)
【文献】 国際公開第2016/031888(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00−15/715
B32B1/00−43/00
C03C25/00−25/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維織編物表面に、第1のシランカップリング剤及び被膜剤を含む第1の表面処理層と、第2のシランカップリング剤を含む第2の表面処理層とをこの順に備える表面処理ガラス繊維織編物であって、
前記第1のシランカップリング剤は、第1級アミノ基及び第2級アミノ基からなる官能基群1、又は末端ビニル基、末端エポキシ基及び末端ハロゲノ基からなる官能基群2のいずれかの群から選択される第1の官能基を有し、
前記第2のシランカップリング剤は、前記第1の官能基が選択された前記官能基群とは異なる官能基群から選択される第2の官能基を有し、
前記第2のシランカップリング剤の質量は、前記第2の表面処理層全体の質量の80質量%以上であることを特徴とする表面処理ガラス繊維織編物。
【請求項2】
請求項1記載の表面処理ガラス繊維織編物において、前記官能基群1が末端第1級アミノ基からなり、前記官能基群2が末端メタクリロイル基、末端グリシドキシ基及びクロロ基からなることを特徴とする表面処理ガラス繊維織編物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の表面処理ガラス繊維織編物において、前記第1のシランカップリング剤と前記第2のシランカップリング剤とのモル比が、70:30〜13:87の範囲であることを特徴とする表面処理ガラス繊維織編物。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の表面処理ガラス繊維織編物において、経方向及び緯方向の引張強さが、1500N/25mm以上であることを特徴とする表面処理ガラス繊維織編物。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の表面処理ガラス繊維織編物において、前記第1の官能基と前記第2の官能基とが化学結合を形成していることを特徴とする表面処理ガラス繊維織編物。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の表面処理ガラス繊維織編物の前記第2の表面処理層上に、シリコーン樹脂層を備えることを特徴とするガラス繊維強化シリコーン樹脂膜材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理ガラス繊維織編物及びそれを用いるガラス繊維強化シリコーン樹脂膜材に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維織物又はガラス繊維編物の上にシリコーン樹脂層を設け、ガラス繊維強化シリコーン樹脂膜材を形成することが検討されている。尚、本願では前記ガラス繊維織物と前記ガラス繊維編物とを合わせて「ガラス繊維織編物」という。
【0003】
ガラス繊維織編物上に樹脂層を設ける場合、樹脂に対する親和性を付与するために、ガラス繊維の表面にシランカップリング剤からなるコーティング層を形成し、表面処理ガラス繊維織編物とすることが行われている。また、ガラス繊維の表面にシランカップリング剤からなるコーティング層を形成する場合、コーティング層を2層とすることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5844501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ガラス繊維の表面にシランカップリング剤からなるコーティング層を2層設ける場合、それぞれのコーティング層を形成するシランカップリング剤の組合せによっては、該コーティング層を備える表面処理ガラス繊維織編物の最表面のコーティング層上に設けるシリコーン樹脂層に対して十分な接着性を得ることができず、得られたガラス繊維強化シリコーン樹脂膜材においても十分な機械的強度を得ることができないという不都合がある。
【0006】
本発明は、かかる不都合を解消して、シリコーン樹脂層に対して強固な接着性を得ることができる表面処理ガラス繊維織編物を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明の目的は、優れた機械的強度を備えるガラス繊維強化シリコーン樹脂膜材を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、本発明の表面処理ガラス繊維織編物は、ガラス繊維織編物表面に、第1のシランカップリング剤及び被膜剤を含む第1の表面処理層と、第2のシランカップリング剤を含む第2の表面処理層とをこの順に備える表面処理ガラス繊維織編物であって、前記第1のシランカップリング剤は、第1級アミノ基及び第2級アミノ基からなる官能基群1、又は末端ビニル基、末端エポキシ基及び末端ハロゲノ基からなる官能基群2のいずれかの群から選択される第1の官能基を有し、前記第2のシランカップリング剤は、前記第1の官能基が属する前記官能基群とは異なる官能基群から選択される第2の官能基を有し、前記第2のシランカップリング剤の質量は、前記第2の表面処理層全体の質量の80質量%以上であることを特徴とする。
【0009】
本発明の表面処理ガラス繊維織編物は、ガラス繊維織編物表面に、第1のシランカップリング剤及び被膜剤を含む第1の表面処理層と、第2のシランカップリング剤を含む第2の表面処理層とをこの順に備える。
【0010】
このとき、前記第1のシランカップリング剤は、第1級アミノ基及び第2級アミノ基からなる官能基群1、又は末端ビニル基、末端エポキシ基及び末端ハロゲノ基からなる官能基群2のいずれかの群から選択される第1の官能基を有する。一方、前記第2のシランカップリング剤は、前記第1の官能基が選択された前記官能基群とは異なる官能基群から選択される第2の官能基を有する。
【0011】
すなわち、前記第1のシランカップリング剤が前記官能基群1から選択された第1の官能基を有する場合には、前記第2のシランカップリング剤は前記官能基群2から選択された第2の官能基を有する。また、前記第1のシランカップリング剤が前記官能基群2から選択された第1の官能基を有する場合には、前記第2のシランカップリング剤は前記官能基群1から選択された第2の官能基を有する。
【0012】
本発明の表面処理ガラス繊維織編物は、前記構成に加え、前記第2のシランカップリング剤の質量が、前記第2の表面処理層全体の質量の80質量%以上であることにより、該第2の表面処理層上にシリコーン樹脂層を設けたときに、該シリコーン樹脂層に対して強固な接着性を得ることができ、さらに得られたガラス繊維強化シリコーン樹脂膜材において優れた機械的強度を得ることができる。
【0013】
本発明の表面処理ガラス繊維織編物は、前記第1の表面処理層と前記第2の表面処理層とが前述の構成を備える場合以外には、該第2の表面処理層上に設けられた前記シリコーン樹脂層に対して十分な接着性を得ることができない。また、本発明の表面処理ガラス繊維織編物は、前記第2のシランカップリング剤の質量が、前記第2の表面処理層全体の質量の80質量%未満であるときには、前記第1の表面処理層と前記第2の表面処理層との構成に関わらず、該第2の表面処理層上に設けられた前記シリコーン樹脂層に対して十分な接着性を得ることができない。
【0014】
また、本発明の表面処理ガラス繊維織編物においては、前記官能基群1が末端第1級アミノ基からなり、前記官能基群2が末端メタクリロイル基、末端グリシドキシ基及びクロロ基からなることが好ましい。この結果、本発明の表面処理ガラス繊維織編物は、前記第2の表面処理層上に設けられた前記シリコーン樹脂層に対してより強固な接着性を得ることができる。
【0015】
また、本発明の表面処理ガラス繊維織編物においては、前記第1のシランカップリング剤と前記第2のシランカップリング剤とのモル比が、70:30〜13:87の範囲であることが好ましい。この結果、本発明の表面処理ガラス繊維織編物は、前記第2の表面処理層上に設けられた前記シリコーン樹脂層に対してさらに強固な接着性を得ることができる。
【0016】
また、本発明の表面処理ガラス繊維織編物においては、経方向及び緯方向の引張強さが、1500N/25mm以上であることが好ましい。この結果、本発明の表面処理ガラス繊維織編物を用いることで、優れた強度を備えるガラス繊維強化シリコーン樹脂膜材を得ることができる。
【0017】
さらに、本発明の表面処理ガラス繊維織編物においては、前記第1の官能基と前記第2の官能基とが化学結合を形成していることが好ましい。前記第1の官能基と前記第2の官能基とが化学結合を形成すると、第2のシランカップリング剤に含まれるアルコキシ基が加水分解を受けて生成されたシラノール基が、第2の表面処理層の第1の表面処理層と接しない表面に存在することになるので、前記第2の表面処理層上に設けられた前記シリコーン樹脂層に対する接着性を向上する点で好ましい。
【0018】
本発明のガラス繊維強化シリコーン樹脂膜材は、前記いずれかの構成を備える本発明の表面処理ガラス繊維織編物の前記第2の表面処理層上に、シリコーン樹脂層を備えることにより、優れた機械的強度を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0020】
本実施形態の表面処理ガラス繊維織編物は、ガラス繊維織編物表面に、第1のシランカップリング剤及び被膜剤を含む第1の表面処理層と、第2のシランカップリング剤を含む第2の表面処理層とをこの順に備え、該第2の表面処理層上にシリコーン樹脂層が設けられることによりガラス繊維強化シリコーン樹脂膜材を形成する。
【0021】
前記ガラス繊維織編物は、ガラス繊維織物であってもよく、ガラス繊維編物であってもよい。前記ガラス繊維織物としては、例えば、フィラメント径が3〜10μmのガラスフィラメントが50〜2500本集束されてなる、重量1.5〜150texの無撚糸、無撚糸に撚りを掛けた撚糸、又は、複数本の無撚糸又は撚糸を撚り合わせてなる合撚糸を、経糸及び緯糸として、20本/25mm〜100本/25mmの織密度で、平織、綾織、朱子織、畦織等してなる、厚さ0.1〜1.0mm、単位面積当たりの質量10〜2000g/mのガラス繊維織物を挙げることができる。また、前記ガラス繊維編物としては、例えば、フィラメント径が3〜10μmのガラスフィラメントが50〜2500本集束されてなる、重量1.5〜150texの無撚糸、無撚糸に撚りを掛けた撚糸、又は、複数本の無撚糸又は撚糸を撚り合わせてなる合撚糸を、編糸として、トリコット編み、ラッセル編み等をして得られたガラス繊維編物を挙げることができる。高い引張強度が得られることから、本実施形態の表面処理ガラス繊維織編物には、ガラス繊維織物を用いることが好ましい。
【0022】
前記シリコーン樹脂層を形成するシリコーン樹脂としては、例えば、付加反応硬化型シリコーンエラストマー、縮合反応硬化型シリコーンエラストマー等、柔軟性を有するシリコーン樹脂を挙げることができる。
【0023】
前記第1のシランカップリング剤は、第1級アミノ基及び第2級アミノ基からなる官能基群1、又は末端ビニル基、末端エポキシ基及び末端ハロゲノ基からなる官能基群2のいずれかの群から選択される第1の官能基を有し、前記第2のシランカップリング剤は、前記第1の官能基が選択された前記官能基群とは異なる官能基群から選択される第2の官能基を有する。
【0024】
本実施形態では、前記第1のシランカップリング剤が前記官能基群1から選択された第1の官能基を有する場合には、前記第2のシランカップリング剤は前記官能基群2から選択された第2の官能基を有する。また、前記第1のシランカップリング剤が前記官能基群2から選択された第1の官能基を有する場合には、前記第2のシランカップリング剤は前記官能基群1から選択された第2の官能基を有する。
【0025】
前記第1級アミノ基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、ウレイドプロピルトリメトキシシラン、ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等を挙げることができるが、末端第1級アミノ基を有する3−アミノプロピルトリエトキシシラン(分子量221.4)又はN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(分子量222.4)を好適に用いることができる。
【0026】
前記第2級アミノ基を有するシランカップリング剤としては、例えば、N−(ビニルベンジル−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、ウレイドプロピルトリメトキシシラン、ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等を挙げることができるが、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(分子量222.4)又はN−(ビニルベンジル−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩(分子量375)を好適に用いることができる。
【0027】
前記末端ビニル基を有するシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルアセトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩等を挙げることができるが、ビニルメトキシシラン(分子量148.2)、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩(分子量375)、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(分子量234.3)を好適に用いることができ、末端メタクリロイル基を有する3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(分子量248.4)をさらに好適に用いることができる。
【0028】
前記末端エポキシ基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等を挙げることができるが、末端グリシドキシ基を有する3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(分子量234.3)を好適に用いることができる。
【0029】
前記末端ハロゲノ基を有するシランカップリング剤としては、例えば、(3−クロロプロピル)トリメトキシシラン、(3−クロロプロピル)トリエトキシシラン等を挙げることができるが、末端クロロ基を有する(3−クロロプロピル)トリメトキシシランを好適に用いることができる。
【0030】
また、前記第1のシランカップリング剤と共に前記第1の表面処理層に含まれる被膜剤としては、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂等を挙げることができる。なお、前記第1の表面処理層は、前記第2の表面処理層上に設けられた前記シリコーン樹脂層に対する接着性が向上するという理由により前記被膜剤としてデンプンを含まないことが好ましい。
【0031】
また、本実施形態では、前記第1のシランカップリング剤の質量は、前記第1の表面処理層全体の質量の、例えば0.5〜10質量%の範囲とすることができ、好ましくは0.8〜8.0質量%、より好ましくは1.0〜5.0質量%の範囲とすることができる。
【0032】
一方、前記第2のシランカップリング剤の質量は、前記第2の表面処理層全体の質量の80質量%以上であることが必要であり、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上であり、特に好ましくは該第2の表面処理層は実質的に該第2のシランカップリング剤のみで構成される。
【0033】
第2の表面処理層とシリコーン樹脂層との接着性を低下させるおそれがあることから、第2の表面処理層は、無機粒子、例えば、顔料、を含まないことが好ましい。
【0034】
前記第1のシランカップリング剤及び前記第2のシランカップリング剤の合計質量は、前記第1の表面処理層全体及び前記第2の表面処理層全体の合計質量の、例えば1.0〜35.0質量%の範囲とすることができ、好ましくは2.0〜30.0質量%、より好ましくは5.0〜20.0質量%、さらに好ましくは5.5〜18.0質量%の範囲とすることができる。
【0035】
また、前記第1のシランカップリング剤及び前記第2のシランカップリング剤の合計質量は、前記ガラス繊維織編物全体の質量の、例えば0.01〜0.50質量%の範囲とすることができ、好ましくは0.015〜0.15質量%、より好ましくは0.02〜0.12質量%の範囲とすることができる。
【0036】
前記第1のシランカップリング剤と前記第2のシランカップリング剤とのモル比は、例えば96:4〜4:96の範囲とすることができ、前記表面処理ガラス繊維織編物と前記シリコーン樹脂層との間で強固な接着性を得るために、70:30〜18:37の範囲であることが好ましく、60:40〜15:85の範囲であることがより好ましい。
【0037】
また、前記第1のシランカップリング剤と前記第2のシランカップリング剤との重量比は、例えば96:4〜4:96の範囲とすることができ、70:30〜13:87の範囲であることが好ましく、60:40〜12:88の範囲であることがより好ましい。
【0038】
また、本実施形態では、前記第1の官能基と前記第2の官能基とが化学結合を形成していることが好ましい。前記第1の官能基と前記第2の官能基とが化学結合を形成すると、第2のシランカップリング剤に含まれるアルコキシ基が加水分解を受けて生成されたシラノール基が、第2の表面処理層の第1の表面処理層と接しない表面に存在することになる。前記第2のシランカップリング剤由来のシラノール基は、第2の表面処理層上にシリコーン樹脂層が形成されたときに、該シリコーン樹脂層のシラノール基との間に−Si−O−Si−結合を形成することができ、該第2の表面処理層の該シリコーン樹脂層に対する接着強度を向上することができるので好ましい。
【0039】
また、前記ガラス繊維織編物の表面に、前記第1の表面処理層と前記第2の表面処理層とをこの順に備える本実施形態の表面処理ガラス繊維織編物は、経方向及び緯方向の引張強さが、1500N/25mm以上であることが好ましい。なお、表面処理ガラス繊維織編物の経方向及び緯方向の引張強さは、JIS R 3420に準拠して測定する。
【0040】
本実施形態の表面処理ガラス繊維織編物に、シリコーン樹脂モノマーを含むペーストを、ナイフコーティングし、熱処理を行うことによりシリコーン樹脂層を設けることで、ガラス繊維強化シリコーン樹脂膜材を得ることができる。
【0041】
次に、本発明の実施例及び比較例を示す。
【実施例】
【0042】
[実施例1〜12]
まず、表1及び表2に示すように、第1のシランカップリング剤S1を含む第1の表面処理層を形成したガラス繊維合撚糸(135Tex)を経糸及び緯糸とするガラス繊維織物(経糸織密度:29本/25mm,緯糸織密度:32本/25mm)をガラス繊維織編物として用い、該ガラス繊維織編物の表面に、第2のシランカップリング剤S2を含む第2の表面処理層とを形成し、表面処理ガラス繊維織編物を作製した。前記第1の表面処理層はさらに被膜剤としてウレタン樹脂を含んでいる。なお、第2の表面処理層に、顔料は含まれない。
【0043】
次に、前記表面処理ガラス繊維織編物の前記第2の表面処理層上に、シリコーン樹脂(信越シリコーン製KE5620W−U)を、乾燥後の質量が50g/mとなるように塗布し、乾燥してシリコーン樹脂層を形成することにより、ガラス繊維強化シリコーン樹脂膜材を作製した。
【0044】
次に、(社)日本膜構造協会試験法標準「膜材料の品質及び性能試験方法」に準拠して、前記表面処理ガラス繊維織編物に対する前記シリコーン樹脂層の接着強度を測定し、シリコーン樹脂層がガラス繊維織編物から剥離できず、破損する場合を良好(◎)、シリコーン樹脂層の一部がガラス繊維織編物に残るが、完全に破損せず、剥離する場合を良(○)、ガラス繊維織編物にシリコーン樹脂層が残らず、剥離する場合を不可(×)として評価した。結果を表1及び表2に示す。
【0045】
なお、表1及び表2に記載のシランカップリング剤は次の通りである。
【0046】
アミノシラン:3−アミノプロピルトリエトキシシラン
メタクリルシラン:3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
エポキシシラン:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
クロロシラン:(3−クロロプロピル)トリメトキシシラン
ジアミノシラン:N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン
アクリルシラン:3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン
ビニルシラン:ビニルトリメトキシシラン
カチオニックシラン:N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩
また、表1〜表4における「質量%」は、表面処理層を備えていないガラス繊維のみの質量を100質量%としたときの値である。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
[比較例1−5]
まず、表3に示すように、第1のシランカップリング剤S1を含む第1の表面処理層を形成したガラス繊維合撚糸(135Tex)を経糸及び緯糸とするガラス繊維織物(経糸織密度:29本/25mm,緯糸織密度:32本/25mm)をガラス繊維織編物として用い、該ガラス繊維織編物の表面に、第2のシランカップリング剤S2を含む第2の表面処理層とを形成し、表面処理ガラス繊維織編物を作製した。前記第1の表面処理層はさらに被膜剤としてウレタン樹脂を含んでいる。
【0050】
次に、前記表面処理ガラス繊維織編物の前記第2の表面処理層上に、シリコーン樹脂(信越シリコーン製KE5620W−U)を、乾燥後の質量が50g/mとなるように塗布し、乾燥してシリコーン樹脂層を形成することにより、ガラス繊維強化シリコーン樹脂膜材を作製した。
【0051】
次に、(社)日本膜構造協会試験法標準「膜材料の品質及び性能試験方法」に準拠して、前記表面処理ガラス繊維織編物に対する前記シリコーン樹脂層の接着強度を測定し、シリコーン樹脂層がガラス繊維織編物から剥離できず、破損する場合を良好(◎)、シリコーン樹脂層の一部がガラス繊維織編物に残るが、完全に破損せず、剥離する場合を良(○)、ガラス繊維織編物にシリコーン樹脂層が残らず、剥離する場合を不可(×)として評価した。結果を表3に示す。
【0052】
なお、表3に記載のシランカップリング剤は次の通りである。
【0053】
アミノシラン:3−アミノプロピルトリエトキシシラン
メタクリルシラン:3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
エポキシシラン:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
クロロシラン:(3−クロロプロピル)トリメトキシシラン
ジアミノシラン:N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン
フェニルシラン:フェニルトリメトキシシラン(分子量240.4)
アルキルシラン:n−プロピルトリメトキシシラン(分子量164.3)
ここで、フェニルトリメトキシシラン及びn−プロピルトリメトキシシランは、官能基群1、2に含まれるいずれの官能基も有していない。
【0054】
【表3】
【0055】
[比較例8]
まず、被膜剤としてウレタン樹脂を含み、シランカップリング剤を含まない、表面処理層が形成されたガラス繊維合撚糸(135Tex)を経糸及び緯糸とするガラス繊維織物(経糸織密度:29本/25mm,緯糸織密度:32本/25mm)をガラス繊維織編物として用い、該ガラス繊維織編物の表面に、第1のシランカップリング剤S1として、3−アミノプロピルトリエトキシシランと3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランとを46.9:53.1の質量比で混合した混合シランカップリング剤を含む第1の表面処理層を形成し、第2のシランカップリング剤S2を含む第2の表面処理層は全く形成せずに、表面処理ガラス繊維織編物の作製を試みた。
【0056】
しかし、前記混合シランカップリング剤は、3−アミノプロピルトリエトキシシランと3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランとの反応により白濁沈殿を生じ、均一な表面処理を行うことができず、シリコーン樹脂層接着強度を適切に評価できなかった。結果を表4に示す。
【0057】
[比較例9]
まず、被膜剤としてウレタン樹脂を含み、シランカップリング剤を含まない、表面処理層が形成されたガラス繊維撚糸(135Tex)を経糸及び緯糸とするガラス繊維織物(経糸織密度:29本/25mm,緯糸織密度:32本/25mm)を400℃の温度で54時間加熱処理するヒートクリーニングを行い、表面処理層を除去した後、シリコーン樹脂(信越シリコーン製KE5620W−U)を、乾燥後の質量が50g/mとなるように塗布し、乾燥してシリコーン樹脂層を形成することにより、ガラス繊維強化シリコーン樹脂膜材を作製した。
【0058】
得られたガラス繊維強化シリコーン樹脂膜材では、ガラス繊維織編物に対するガラス繊維強化シリコーン樹脂膜材の接着強度は良好であったが、前記ヒートクリーニングによりガラス繊維織編物自体の機械的強度が低下していた。結果を表4に示す。
【0059】
【表4】
【0060】
表1及び表2に示すように、前記第1のシランカップリング剤が前記官能基群1から選択された第1の官能基を有し、前記第2のシランカップリング剤が前記官能基群2から選択された第2の官能基を有するか、前記第1のシランカップリング剤が前記官能基群2から選択された第1の官能基を有し、前記第2のシランカップリング剤が前記官能基群1から選択された第2の官能基を有し、前記第2のシランカップリング剤の質量が、前記第2の表面処理層全体の質量の80質量%以上である実施例1〜12の表面処理ガラス繊維織編物によれば、前記シリコーン樹脂層に対して強固な接着性を得ることができることが明らかである。
【0061】
これに対し、表3に示すように、前記第1のシランカップリング剤が前記官能基群1又は前記官能基群2から選択された第1の官能基を有し、前記第2のシランカップリング剤が第1の官能基と同一の官能基群から選択された第2の官能基を有するか、前記官能基群1又は前記官能基群2のいずれにも含まれない官能基を有する比較例1〜6の表面処理ガラス繊維織編物、又は前記第1のシランカップリング剤が前記官能基群1から選択された第1の官能基を有し、前記第2のシランカップリング剤が前記官能基群2から選択された第2の官能基を有するが、前記第2のシランカップリング剤の質量が、前記第2の表面処理層全体の質量の80質量%未満である比較例7の表面処理ガラス繊維織編物によれば、前記シリコーン樹脂層に対し、十分な接着性を得ることができないことが明らかである。
【0062】
また、表4に示すように、3−アミノプロピルトリエトキシシランと3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランとの混合シランカップリング剤のみを用いる比較例8では、ガラス繊維織編物の均一な表面処理を行うことができず、ヒートクリーニングを行ったガラス繊維織編物の表面にシリコーン樹脂層を形成した比較例9のガラス繊維強化シリコーン樹脂膜材では、ガラス繊維織編物自体の機械的強度が低下し、十分な機械的強度を得ることができないことが明らかである。
【要約】
【課題】シリコーン樹脂層に対して強固な接着性を得られる表面処理ガラス繊維織編物及び優れた機械的強度を備えるガラス繊維強化シリコーン樹脂膜材を提供する。
【解決手段】表面処理ガラス繊維織編物は、ガラス繊維織編物表面に、第1のシランカップリング剤及び被膜剤を含む第1の表面処理層と、第2のシランカップリング剤を含む第2の表面処理層とを備える。第1のシランカップリング剤は、第1級アミノ基及び第2級アミノ基からなる官能基群1、又は末端ビニル基、末端エポキシ基及び末端ハロゲノ基からなる官能基群2のいずれかの群から選択される第1の官能基を有し、第2のシランカップリング剤は、第1の官能基が属する官能基群とは異なる官能基群から選択される第2の官能基を有し、第2のシランカップリング剤の質量は、第2の表面処理層全体の質量の80質量%以上である。
【選択図】 なし