【文献】
Nat. Struct. Mol. Biol.,2014年 2月,Vol.21, No.2,pp.143-151
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
1.細菌
「L−アミノ酸生産菌」という語句は、細菌を培地中で培養した時に、L−アミノ酸を生産、排出若しくは分泌し、且つ/又は培養培地中又は細菌細胞中に蓄積させる能力を有する腸内細菌科の細菌を意味し得る。
【0025】
「L−アミノ酸生産菌」という語句はまた、野生型又は親株(例えばE.coli K−12)より多くの量のL−アミノ酸を生産、排出若しくは分泌し、且つ/又は培地中に蓄積させることができる細菌を意味し得、更に、微生物が0.5g/L以上又は1.0g/L以上の量の標的L−アミノ酸を培地中に蓄積させることができることを意味し得る。細菌は、アミノ酸を単独で又は2種以上のアミノ酸の混合物として生産し得る。
【0026】
「L−アミノ酸生産能」という語句は、細菌を培地中で培養した時に、培地又は細菌細胞からL−アミノ酸を回収できるレベルでL−アミノ酸を生産、排出若しくは分泌し、且つ/又は培地又は細菌細胞中に蓄積させる細菌の能力を意味し得る。
【0027】
「L−アミノ酸」という語句は、L−アラニン、L−アルギニン、L−アスパラギン、L−アスパラギン酸、L−シトルリン、L−システイン、L−グルタミン酸、L−グルタミン、グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−オルニチン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−セリン、L−スレオニン、L−トリプトファン、L−チロシン、及びL−バリンを意味し得る。
【0028】
「芳香族L−アミノ酸」という語句は、例えば、L−フェニルアラニン、L−トリプト
ファン、及びL−チロシンを含む。
【0029】
「非芳香族L−アミノ酸」という語句は、例えば、L−アラニン、L−アルギニン、L−アスパラギン、L−アスパラギン酸、L−シトルリン、L−システイン、L−グルタミン酸、L−グルタミン、グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−オルニチン、L−プロリン、L−セリン、L−スレオニン、及びL−バリンを含む。
【0030】
L−アミノ酸は、1又は複数のL−アミノ酸ファミリーに属し得る。例えば、L−アミノ酸は、L−アルギニン、L−グルタミン酸、L−グルタミン、及びL−プロリンを含むグルタミン酸ファミリー;L−システイン、グリシン、及びL−セリンを含むセリンファミリー;L−アスパラギン、L−アスパラギン酸、L−イソロイシン、L−リジン、L−メチオニン、及びL−スレオニンを含むアスパラギン酸ファミリー;L−アラニン、L−イソロイシン、L−バリン、及びL−ロイシンを含むピルビン酸ファミリー;並びにL−フェニルアラニン、L−トリプトファン、及びL−チロシンを含む芳香族ファミリーに属し得る。
【0031】
L−アルギニン、L−システイン、L−グルタミン酸、L−ヒスチジン、L−ロイシン、L−リジン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−スレオニン、L−トリプトファン、及びL−バリンが具体例である。L−ヒスチジン及びL−バリンが好ましい例である。
【0032】
腸内細菌科に属する細菌は、エンテロバクター(Enterobacter)、エルウィニア(Erwinia)、エシェリヒア(Escherichia)、クレブシエラ(Klebsiella)、モルガネラ(Morganella)、パントエア(Pantoea)、フォトラブダス(Photorhabdus)、プロビデンシア(Providencia)、サルモネラ(Salmonella)、エルシニア(Yersinia)等の属に由来し得、L−アミノ酸生産能を有し得る。具体的には、NCBI(国立バイオテクノロジー情報センター)データベース(www.ncbi.nlm.nih.gov/Taxonomy/Browser/wwwtax.cgi?id=543)で用いられている分類法により腸内細菌科に分類されるものが用いられ得る。改変することができる腸内細菌科に由来する株の例としては、エシェリヒア属、エンテロバクター属、又はパントエア属の細菌が含まれる。
【0033】
本開示の主題に係るエシェリヒア細菌を得るために改変できるエシェリヒア細菌の株は特に限定されず、特にナイトハルトらの著書(Bachmann, B.J., Derivations and genotypes of some mutant derivatives of E. coli K-12, p. 2460-2488. In F.C. Neidhardt et al. (ed.), E. coli and Salmonella: cellular and molecular biology, 2
nd ed. ASM Press, Washington, D.C., 1996)に記載されているものが用いられ得る。E.coli種が好適な例である。E.coliの具体例としては、プロトタイプの野生型株であるE.coli K−12株に由来する、E.coli W3110(ATCC27325)、E.coli MG1655(ATCC 47076)等が含まれる。これらの株は、例えばアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(住所 P.O. Box 1549, Manassas, VA 20108, United States of America)から入手可能である。すなわち、各株に登録番号が付与されており、これらの登録番号を用いて株を注文することができる(www.atcc.org参照)。株の登録番号はアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションのカタログに記載されている。
【0034】
エンテロバクター属細菌の例としては、エンテロバクター・アグロメランス、エンテロバクター・アエロゲネス等が含まれる。パントエア属細菌の例としてはパントエア・アナナティス等が含まれる。エンテロバクター・アグロメランスの一部の株が、近年、16S
rRNAの塩基配列分析等に基づいて、パントエア・アグロメランス、パントエア・アナナティス、又はパントエア・ステワルティイに再分類された。エンテロバクター属又はパントエア属のいずれかに属する細菌が、腸内細菌科に分類される細菌である限り、用いられ得る。パントエア・アナナティス株を遺伝子工学技術により掛け合わせる場合、パントエア・アナナティスAJ13355株(FERM BP−6614)、AJ13356株(FERM BP−6615)、AJ13601株(FERM BP−7207)、及びこれらの誘導体を用いることができる。これらの株は単離された時にエンテロバクター・アグロメランスとして同定され、エンテロバクター・アグロメランスとして寄託されたが、上記の通り、最近になって、16S rRNAの塩基配列決定等に基づきパントエア・アナナティスに再分類された。
【0035】
L−アミノ酸生産菌
芳香族又は非芳香族L−アミノ酸を生産できる、腸内細菌科に属し且つyjjK遺伝子の発現が減弱するように改変された本発明の細菌を用いることができる。
【0036】
細菌は、L−アミノ酸生産能を元々有していてもよく、変異法又はDNA組換え技術を用いてL−アミノ酸生産能を有するように改変されてもよい。細菌は、L−アミノ酸生産能を元々有している細菌中のyjjK遺伝子の発現を減弱させることによって得ることができる。あるいは、細菌は、yjjK遺伝子の発現が既に減弱されている細菌にL−アミノ酸生産能を付与することによって得ることができる。
【0037】
L−アルギニン生産菌
L−アルギニン生産菌を誘導するために用いることができる親株の例としては、エシェリヒア属に属する株、例えば、E.coli株237(VKPM B−7925)(米国特許出願公開第2002/058315(A1)号)及び変異体N−アセチルグルタミン酸合成酵素(ロシア特許第2215783号)を有するその誘導株、E.coli株382(VKPM B−7926)(欧州特許出願公開第1170358(A1)号)、N−アセチルグルタミン酸合成酵素をコードするargA遺伝子が導入されたアルギニン生産株(欧州特許出願公開第1170361(A1)号)等が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
L−アルギニン生産菌を誘導するために用いることができる親株の例としては更に、L−アルギニン生合成酵素をコードする1又は複数の遺伝子の発現が増強された株が含まれる。そのような遺伝子の例としては、N−アセチル−γ−グルタミルリン酸レダクターゼ遺伝子(argC)、オルニチンアセチルトランスフェラーゼ遺伝子(argJ)、N−アセチルグルタミン酸キナーゼ遺伝子(argB)、N−アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ遺伝子(argD)、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ遺伝子(argF)、アルギニノコハク酸合成酵素遺伝子(argG)、アルギニノコハク酸リアーゼ遺伝子(argH)、及びカルバモイルリン酸合成酵素遺伝子(carAB)が含まれる。
【0039】
L−シトルリン生産菌
L−シトルリン生産菌を誘導するために用いることができる親株の例としては、エシェリヒア属に属する株、例えばE.coli変異体N−アセチルグルタミン酸合成酵素株237/pMADS11、237/pMADS12、及び237/pMADS13(ロシア特許第2215783(C2)号、欧州特許第1170361(B1)号、米国特許6790647(B2)号)、どちらも変異体フィードバック耐性カルバモイルリン酸合成酵素を有するE.coli株333(VKPM B−8084)及び374(VKPM B−8086)(ロシア特許第2264459(C2)号)、α−ケトグルタル酸合成酵素活性が増強され、フェレドキシンNADP
+レダクターゼ、ピルビン酸合成酵素、又はα
−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼの活性が更に改変されたE.coli株(EP2133417(A1)号)、並びにコハク酸デヒドロゲナーゼ及びα−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼの活性が低減されたP.アナナティス株NA1sucAsdhA(米国特許出願公開第2009286290号)等が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
L−シトルリンはL−アルギニン生合成経路の中間体であるので、L−シトルリン生産菌を誘導するために用いることができる親株の例としては、L−アルギニン生合成酵素をコードする1又は複数の遺伝子の発現が増強された株が含まれる。そのような遺伝子の例としては、N−アセチルグルタミン酸合成酵素遺伝子(argA)、N−アセチルグルタミン酸キナーゼ遺伝子(argB)、N−アセチルグルタミルリン酸レダクターゼ遺伝子(argC)、アセチルオルニチントランスアミナーゼ遺伝子(argD)、アセチルオルニチンデアセチラーゼ遺伝子(argE)、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ遺伝子(argF/I)、及びカルバモイルリン酸合成酵素遺伝子(carAB)、又はこれらの組合せが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
L−シトルリン生産菌は更に、argG遺伝子にコードされるアルギニノコハク酸合成酵素の不活化により、任意のL−アルギニン生産菌、例えばE.coli 382株(VKPM B−7926)から容易に得ることができる。
【0042】
L−システイン生産菌
L−システイン生産菌を誘導するために用いることができる親株の例としては、エシェリヒア属に属する株、例えば、フィードバック耐性セリンアセチルトランスフェラーゼをコードする種々のcysEアレルで形質転換されたE.coli JM15(米国特許第6,218,168号、ロシア特許第2279477号)、細胞毒性物質を分泌するのに好適なタンパク質をコードする過剰発現される遺伝子を有するE.coli W3110(米国特許第5,972,663号)、システインデスルフヒドラーゼ活性が低下したE.coli株(特開平11−155571号)、cysB遺伝子にコードされるシステインレギュロンの正の転写制御因子の活性が上昇しているE.coli W3110(国際公開第0127307(A1)号)、E.coli JM15(ydeD)(米国特許第6,218,168号)等が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
L−グルタミン酸生産菌
L−グルタミン酸生産菌を誘導するために用いることができる親株の例としては、エシェリヒア属に属する株、例えばE.coli VL334thrC
+(欧州特許第1172433号)が含まれるが、これらに限定されるものではない。E.coli VL334(VKPM B−1641)はthrC及びilvA遺伝子に変異を有するL−イソロイシン及びL−スレオニン栄養要求株である(米国特許第4,278,765号)。野生型E.coli株K12(VKPM B−7)細胞上で増殖させたバクテリオファージP1を用いた一般的な形質導入法により、thrC遺伝子の野生型アレルを導入した。その結果、L−グルタミン酸を生産できるL−イソロイシン栄養要求株VL334thrC
+(VKPM B−8961)が得られた。
【0044】
L−グルタミン酸生産菌を誘導するために用いることができる親株の例としては、L−グルタミン酸生合成酵素をコードする1又は複数の遺伝子の発現が増強された株が含まれるが、これに限定されるものではない。そのような遺伝子の例としては、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(gdhA)、グルタミン合成酵素遺伝子(glnA)、グルタミン酸合成酵素遺伝子(gltAB)、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(icdA)、アコニット酸ヒドラターゼ遺伝子(acnA、acnB)、クエン酸合成酵素遺伝子(gltA)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ遺伝子(ppc)、ピルビン酸カルボキシラーゼ遺伝子(pyc)、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(aceEF、
lpdA)、ピルビン酸キナーゼ遺伝子(pykA、pykF)、ホスホエノールピルビン酸合成酵素遺伝子(ppsA)、エノラーゼ遺伝子(eno)、ホスホグリセロムターゼ遺伝子(pgmA、pgmI)、ホスホグリセリン酸キナーゼ遺伝子(pgk)、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(gapA)、トリオースリン酸イソメラーゼ遺伝子(tpiA)、フルクトース二リン酸アルドラーゼ遺伝子(fbp)、ホスホフルクトキナーゼ遺伝子(pfkA、pfkB)、及びグルコースリン酸イソメラーゼ遺伝子(pgi)が含まれる。
【0045】
クエン酸合成酵素遺伝子、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ遺伝子、及び/又はグルタミン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の発現が上昇するように改変された株の例としては、欧州特許出願公開第1078989(A2)号、同第955368(A2)号、及び同第952221(A2)号に開示されているものが含まれる。
【0046】
L−グルタミン酸生産菌を誘導するために用いることができる親株の例としては更に、L−グルタミン酸生合成経路から逸らして(branch off)L−グルタミン酸以外の化合物の合成を触媒する酵素の活性を低減又は消失させた株が含まれる。そのような酵素の例としては、イソクエン酸リアーゼ(aceA)、α−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ(sucA)、ホスホトランスアセチラーゼ(pta)、酢酸キナーゼ(ack)、アセトヒドロキシ酸合成酵素(ilvG)、アセト乳酸合成酵素(ilvI)、ギ酸アセチルトランスフェラーゼ(pfl)、乳酸デヒドロゲナーゼ(ldh)、及びグルタミン酸デカルボキシラーゼ(gadAB)が含まれる。α−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性が欠損した又はα−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性が低減したエシェリヒア属に属する細菌及びそれらを得る方法が米国特許第5,378,616号及び同第5,573,945号に記載されている。具体的には、それらの株には以下が含まれる。
E.coli W3110sucA::Km
R
E.coli AJ12624(FERM BP−3853)
E.coli AJ12628(FERM BP−3854)
E.coli AJ12949(FERM BP−4881)
【0047】
E.coli W3110sucA::Km
Rは、E.coli W3110のα−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(以降、「sucA遺伝子」と呼ぶ)を破壊することにより得られた株である。この株はα−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼが完全に欠損している。
【0048】
L−グルタミン酸生産菌の他の例としては、エシェリヒア属に属し且つアスパラギン酸代謝拮抗物質に対する耐性を有するものが含まれる。これらの株は更にα−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性が欠損していてもよく、例えば、E.coli AJ13199(FERM BP−5807)(米国特許第5,908,768号)、更にL−グルタミン酸分解能が低くなっているFFRM P−12379(米国特許第5,393,671号)、AJ13138(FERM BP−5565)(米国特許第6,110,714号)等が含まれる。
【0049】
L−グルタミン酸生産菌の例としては、α−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性が欠損しているかα−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性が低減しており、前述したように得ることができる、パントエア属に属する変異株が含まれる。そのような株としては、パントエア・アナナティスAJ13356.(米国特許第6,331,419号)が含まれる。パントエア・アナナティスAJ13356は、受託番号FERM P−16645で1998年2月19日に通商産業省 工業技術院 生命工学工業技術研究所(現 独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(NITE−IPOD)、〒292−0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2丁目5番8号120号室)に寄託された
。これはその後、1999年1月11日にブダペスト条約の条項に基づく国際寄託へと移管され、FERM BP−6615の受託番号を付与された。パントエア・アナナティスAJ13356は、αKGDH−E1サブユニット遺伝子(sucA)の破壊により、α−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性が欠損している。上記株は、単離された時にエンテロバクター・アグロメランスとして同定され、エンテロバクター・アグロメランスAJ13356として寄託された。しかし、これは最近になって、16S rRNAの塩基配列決定等に基づき、パントエア・アナナティスとして再分類された。AJ13356はエンテロバクター・アグロメランスとして前述の寄託機関に寄託されたが、本明細書の目的のため、これらをパントエア・アナナティスとして記載する。
【0050】
L−ヒスチジン生産菌
L−ヒスチジン生産菌を誘導するために用いることができる親株の例としては、エシェリヒア属に属する株、例えばE.coli株24(VKPM B−5945、ロシア特許第2003677(C1)号)、E.coli株80(VKPM B−7270、ロシア特許第2119536(C1)号)、E.coli NRRL B−12116−B12121(米国特許第4,388,405号)、E.coli H−9342(FERM BP−6675)及びH−9343(FERM BP−6676)(米国特許第6,344,347)、E.coli H−9341(FERM BP−6674)(欧州特許第1085087号)、E.coli AI80/pFM201(米国特許第6,258,554号)等が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
L−ヒスチジン生産菌を誘導するために用いることができる親株の例としては更に、L−ヒスチジン生合成酵素をコードする1又は複数の遺伝子の発現が増強された株が含まれる。そのような遺伝子の例としては、ATPホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子(hisG)、ホスホリボシル−AMPシクロヒドロラーゼ遺伝子(hisI)、ホスホリボシル−AMPシクロヒドロラーゼ/ホスホリボシル−ATPピロホスファターゼ遺伝子(hisIE)、ホスホリボシルホルムイミノ−5−アミノイミダゾールカルボキサミドリボチドイソメラーゼ遺伝子(hisA)、アミドトランスフェラーゼ遺伝子(hisH)、ヒスチジノールリン酸アミノトランスフェラーゼ遺伝子(hisC)、ヒスチジノールホスファターゼ遺伝子(hisB)、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ遺伝子(hisD)等が含まれる。
【0052】
hisG及びhisBHAFIにコードされるL−ヒスチジン生合成酵素はL−ヒスチジンによって阻害されることが知られているので、フィードバック阻害に対する耐性を付与する変異をATPホスホリボシルトランスフェラーゼ中に導入することによってもL−ヒスチジン生産能を効率的に増強することができる(ロシア特許第2003677号及び同第2119536号)。
【0053】
L−ヒスチジン生産能を有する株の具体例としては、L−ヒスチジン生合成酵素をコードするDNAを有するベクターで形質転換されたE.coli FERM−P 5038及び5048(特開昭56−005099号)、アミノ酸搬出のための遺伝子であるrhtで形質転換されたE.coli株(欧州特許出願公開第1016710(A)号)、スルファグアニジン、DL−1,2,4−トリアゾール−3−アラニン、及びストレプトマイシン耐性を付与されたE.coli 80株(VKPM B−7270、ロシア特許第2119536号)、及びE.coli MG1655+hisGr hisL’_Δ ΔpurR(ロシア特許第2119536(C1)号及びDoroshenko V.G. et al., The directed modification of Escherichia coli MG1655 to obtain histidine-producing mutants, Prikl. Biochim. Mikrobiol. (Russian), 2013, 49(2):149-154)等が含まれる。
【0054】
L−イソロイシン生産菌
L−イソロイシン生産菌を誘導するために用いることができる親株の例としては、6−ジメチルアミノプリンに対する耐性を有する変異体(特開平5−304969号)、イソロイシンアナログ、例えばチアイソロイシン及びヒドロキサム酸イソロイシンに対する耐性を有する変異体、並びにDL−エチオニン及び/又はヒドロキサム酸アルギニンに対する耐性を更に有する変異体(特開平5−130882号)が含まれるが、これらに限定されるものではない。更に、スレオニンデアミナーゼ及びアセトヒドロキシ酸合成酵素等のL−イソロイシン生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子で形質転換された組換え株も親株として用いることができる(特開平2−458号、欧州特許出願公開第0356739(A1)号、及び米国特許第5,998,178号)。
【0055】
L−ロイシン生産菌
L−ロイシン生産菌を誘導するために用いることができる親株の例としては、エシェリヒア属に属する株、例えばロイシンに耐性のE.coli株(例えば株57(VKPM B−7386、米国特許第6,124,121号))又はロイシンアナログ、例えばβ−2−チエニルアラニン、3−ヒドロキシロイシン、4−アザロイシン、5,5,5−トリフルオロロイシンに耐性のE.coli(特開昭62−34397号及び特開平8−70879号);国際公開第96/06926号に記載の遺伝子工学的方法によって得られたE.coli株;E.coli H−9068(特開平8−70879号)等が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
細菌は、L−ロイシン生合成に関与する1又は複数の遺伝子の発現を増強することにより改良することができる。例としては、L−ロイシンによるフィードバック阻害を受けないイソプロピルリンゴ酸合成酵素をコードする変異体leuA遺伝子により代表されるleuABCDオペロンの遺伝子が含まれる(米国特許第6,403,342号)。更に、細菌は、細菌細胞からL−アミノ酸を排出するタンパク質をコードする1又は複数の遺伝子の発現を増強することにより改良することができる。そのような遺伝子の例としては、b2682及びb2683遺伝子(ygaZH遺伝子)(欧州特許出願公開第1239041(A2)号)が含まれる。
【0057】
L−リジン生産菌
エシェリヒア科に属するL−リジン生産菌の例としては、L−リジンアナログに対する耐性を有する変異体が含まれる。L−リジンアナログは、エシェリヒア属に属する細菌の成長を阻害するが、培地中にL−リジンが存在すると、この阻害は完全又は部分的に脱感作される。L−リジンアナログの例としては、オキサリジン、ヒドロキサム酸リジン、S−(2−アミノエチル)−L−システイン(AEC)、γ−メチルリジン、α−クロロカプロラクタム等が含まれるが、これらに限定されるものではない。エシェリヒア属に属する細菌を従来の人工的な突然変異誘発処理に晒すことで、これらのリジンアナログに対する耐性を有する変異体を得ることができる。L−リジンの生産に有用な細菌株の具体例としては、E.coli AJ11442(FERM BP−1543、NRRL B−12185;米国特許第4,346,170号参照)及びE.coli VL611が含まれる。これらの微生物では、L−リジンによるアスパルトキナーゼのフィードバック阻害が脱感作されている。
【0058】
L−リジン生産菌を誘導するために用いることができる親株の例としては更に、L−リジン生合成酵素をコードする1又は複数の遺伝子の発現が増強されている株が含まれる。そのような遺伝子の例としては、ジヒドロジピコリン酸合成酵素遺伝子(dapA)、アスパルトキナーゼ遺伝子(lysC)、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ遺伝子(dapB)、ジアミノピメリン酸デカルボキシラーゼ遺伝子(lysA)、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(ddh)(米国特許第6,040,160号)、ホスホエノ
ールピルビン酸カルボキシラーゼ遺伝子(ppc)、アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子(asd)、及びアスパルターゼ遺伝子(aspA)(欧州特許出願公開第1253195(A1)号)が含まれるが、これらに限定されるものではない。更に、親株は、エネルギー効率に関わる遺伝子(cyo)(欧州特許出願公開第1170376(A1)号)、ニコチンアミドヌクレオチドトランスヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(pntAB)(米国特許第5,830,716号)、ybjE遺伝子(国際公開第2005/073390号)、又はこれらの組合せの上昇した発現レベルを有し得る。
【0059】
L−アミノ酸生産菌は、L−アミノ酸生合成経路から逸らして別の化合物を生成させる反応を触媒する酵素の活性が低減しているかそのような活性がないものであり得る。更に、細菌は、L−アミノ酸の合成又は蓄積に負に働く酵素の活性が低減している又はそのような活性がないものであり得る。L−リジン生産に関与するそのような酵素の例としては、ホモセリンデヒドロゲナーゼ、リジンデカルボキシラーゼ(cadA、ldcC)、リンゴ酸酵素等が含まれ、これらの酵素の活性が低減又は消失されている株が国際公開第95/23864号、同第96/17930号、同第2005/010175号等に開示されている。
【0060】
リジンデカルボキシラーゼ活性を低減又は消失させるために、リジンデカルボキシラーゼをコードするcadA及びldcC遺伝子の両方の発現を低減させることができる。両遺伝子の発現は、例えば国際公開第2006/078039号に記載の方法により低減させることができる。
【0061】
L−リジン生産菌の例としては、E.coli WC196ΔcadAΔldcC/pCABD2株(国際公開第2006/078039号)が含まれ得る。この株は、リジン生合成遺伝子を含むプラスミドpCABD2(米国特許第6,040,160号)を、リジンデカルボキシラーゼをコードするcadA及びldcC遺伝子が破壊されたWC196株に導入することにより構築された。
【0062】
WC196株は、W3110株の染色体上の野生型lysC遺伝子を、352位のスレオニンがイソロイシンで置換された変異体アスパルトキナーゼIIIをコードする変異体lysC遺伝子で置換することにより、E.coli K−12に由来するW3110株から作り出され、この置換は、L−リジンによるフィードバック阻害の脱感作をもたらし(米国特許第5,661,012号)、得られた株にAEC耐性を付与した(米国特許第5,827,698号)。WC196株はE.coli AJ13069と命名され、工業技術院 生命工学工業技術研究所(現 独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(NITE−IPOD)、〒292−0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2丁目5番8号120号室)に1994年12月6日に寄託され、受託番号FERM P−14690が付与されている。その後、これは1995年9月29日にブダペスト条約の条項に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP−5252が付与されている(米国特許第5,827,698号)。WC196ΔcadAΔldcC株自体もL−リジン生産菌の例である。
【0063】
WC196ΔcadAΔldcCはAJ110692と命名され、工業技術院 生命工学工業技術研究所(現 独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(NITE−IPOD)〒292−0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2丁目5番8号120号室)に2008年10月7日に受託番号FERM BP−11027で国際寄託として寄託された。
【0064】
L−メチオニン生産菌
L−メチオニン生産菌及びL−メチオニン生産菌を誘導するために用いることができる
親株の例としては、エシェリヒア細菌株、例えば株AJ11539(NRRL B−12399)、AJ11540(NRRL B−12400)、AJ11541(NRRL B−12401)、AJ11542(NRRL B−12402)(英国特許第2075055号);ノルロイシン、L−メチオニンアナログ等に耐性の株218(VKPM B−8125)(ロシア特許第2209248(C2)号)及び73(VKPM B−8126)(ロシア特許第2215782(C2)号)が含まれるが、これらに限定されるものではない。E.coli株73は、2001年5月14日に受託番号VKPM B−8126でロシアン・ナショナル・コレクション・オブ・インダストリアル・マイクロオーガニズム(Russian National Collection of Industrial Microorganisms (VKPM))(住所 Russian
Federation, 117545 Moscow, 1
st Dorozhny proezd, 1)に寄託され、2002年2月1日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管された。更に、メチオニンリプレッサー欠損株並びにL−メチオニン生合成に関与するタンパク質、例えばホモセリントランススクシニラーゼ及びシスタチオニンγ−合成酵素をコードする遺伝子で形質転換された組換え株(特開2000−139471号)も親株として用いることができる。
【0065】
L−オルニチン生産菌
L−オルニチン生産菌は任意のL−アルギニン生産菌、例えばE.coli 382株(VKPM B−7926)から、argF及びargI遺伝子の両方にコードされるオルニチンカルバモイルトランスフェラーゼの不活化により容易に得ることができる。オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼの不活化方法は本明細書に記載されている。
【0066】
L−フェニルアラニン生産菌
L−フェニルアラニン生産菌を誘導するために用いることができる親株の例としては、エシェリヒア属に属する株、例えばE.coli AJ12739(tyrA::Tn10、tyrR)(VKPM B−8197)、変異体pheA34遺伝子を有するE.coli HW1089(ATCC 55371)(米国特許第5,354,672号)、E.coli MWEC101−b(韓国特許第8903681号)、E.coli NRRL B−12141、NRRL B−12145、NRRL B−12146、及びNRRL B−12147(米国特許第4,407,952号)が含まれるが、これらに限定されるものではない。また、E.coli K−12[W3110(tyrA)/pPHAB(FERM BP−3566)、E.coli K−12[W3110(tyrA)/pPHAD](FERM BP−12659)、E.coli K−12[W3110(tyrA)/pPHATerm](FERM BP−12662)、及びAJ12604と命名されたE.coli K−12[W3110(tyrA)/pBR−aroG4、pACMAB](FERM BP−3579)も親株として用いることができる(欧州特許第488424(B1)号)。更に、yedA遺伝子又はyddG遺伝子にコードされるタンパク質の活性が増強されたエシェリヒア属に属するL−フェニルアラニン生産菌も用いることができる(米国特許出願公開第2003/0148473(A1)号及び同第2003/0157667(A1)号)。
【0067】
L−プロリン生産菌
L−プロリン生産菌を誘導するために用いることができる親株の例としては、エシェリヒア属に属する株、例えば、ilvA遺伝子が欠失しており、L−プロリンを生産することができる、E.coli 702ilvA(VKPM B−8012)(欧州特許出願公開第1172433(A1)号)が含まれるが、これに限定されるものではない。L−プロリン生合成に関与する1又は複数の遺伝子の発現を増強することにより細菌を改良することができる。L−プロリン生産菌に用いることができる遺伝子の例としては、L−プロリンによるフィードバック阻害が脱感作されたグルタミン酸キナーゼをコードするpr
oB遺伝子が含まれる(ドイツ特許出願公開第3127361(A1)号)。更に、細菌細胞からL−アミノ酸を搬出するタンパク質をコードする1又は複数の遺伝子の発現を増強することにより細菌を改良することができる。そのような遺伝子の例としては、b2682及びb2683遺伝子(ygaZH遺伝子)(欧州特許出願公開第1239041(A2)号)を挙げることができる。
【0068】
L−プロリン生産活性を有するエシェリヒア属に属する細菌の例としては、以下のE.coli株が含まれる:NRRL B−12403及びNRRL B−12404(英国特許第2075056号)、VKPM B−8012(ロシア特許出願公開第2000124295号)、ドイツ特許出願公開第3127361(A1)号に記載のプラスミド変異体、Bloom F.R. et al. in "The 15
th Miami winter symposium", 1983, p.34に記載されているプラスミド変異体等。
【0069】
L−スレオニン生産菌
L−スレオニン生産菌を誘導するために用いることができる親株の例としては、エシェリヒア属に属する株、例えばE.coli TDH−6/pVIC40(VKPM B−3996)(米国特許第5、175、107号、同第5,705,371号)、E.coli 472T23/pYN7(ATCC 98081)(米国特許第5,631,157号)、E.coli NRRL−21593(米国特許第5,939,307号)、E.coli FERM BP−3756(米国特許第5,474,918号)、E.coli FERM BP−3519及びFERM BP−3520(米国特許第5,376,538号)、E.coli MG442(Gusyatiner et al., Genetika (Russian), 1978, 14:947-956)、E.coli VL643及びVL2055(欧州特許出願公開第1149911(A2)号)等が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0070】
株TDH−6は、thrC遺伝子が欠損しており、スクロース資化性であり、ilvA遺伝子に漏出性(leaky)変異を有する。この株は更に、rhtA遺伝子に変異を有し、これは高濃度のスレオニン又はホモセリンに対する耐性を付与する。B−3996株は、変異体thrA遺伝子を含むthrA
*BCオペロンをRSF1010由来ベクターに挿入することによって得られたプラスミドpVIC40を含む。この変異体thrA遺伝子は、スレオニンによるフィードバック阻害が実質的に脱感作されたアスパルトキナーゼホモセリンデヒドロゲナーゼIをコードする。B−3996株は1987年11月19日に受託番号RIA 1867でオール・ユニオン・サイエンティフィック・センター・オブ・アンチバイオティクス(All−Union Scientific Center of Antibiotics)(住所 Russian Federation,
117105 Moscow, Nagatinskaya Street 3−A)に寄託された。この株は更に1987年4月7日に受託番号B−3996でロシアン・ナショナル・コレクション・オブ・インダストリアル・マイクロオーガニズム(VKPM)(住所 Russian Federation, 117545 Moscow, 1
st Dorozhny proezd, 1)に寄託された。
【0071】
E.coli VKPM B−5318(欧州特許出願公開第0593792(A1)号)もL−スレオニン生産菌を誘導するための親株として用いることができる。B−5318株は、イソロイシンに関して原栄養性であり、温度感受性ラムダファージC1リプレッサー及びPRプロモーターでプラスミドpVIC40中のスレオニンオペロンの調節領域が置換されている。VKPM B−5318株は1990年5月3日に受託番号VKPM B−5318でロシアン・ナショナル・コレクション・オブ・インダストリアル・マイクロオーガニズム(VKPM)に寄託された。
【0072】
細菌は、以下の1又は複数の遺伝子発現が増強されるように更に改変され得る:
・スレオニンによるフィードバック阻害に耐性のアスパルトキナーゼホモセリンデヒドロゲナーゼIをコードする変異体thrA遺伝子;
・ホモセリンキナーゼをコードするthrB遺伝子;
・スレオニン合成酵素をコードするthrC遺伝子;
・スレオニン及びホモセリン流出系の推定膜貫通タンパク質をコードするrhtA遺伝子;
・アスパラギン酸−β−セミアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードするasd遺伝子;
・アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(アスパラギン酸トランスアミナーゼ)をコードするaspC遺伝子。
【0073】
E.coliのアスパルトキナーゼI及びホモセリンデヒドロゲナーゼIをコードするthrA遺伝子は明らかにされている(KEGG登録番号b0002;GenBankアクセッション番号NC_000913.2;ヌクレオチド位置:337〜2,799;Gene ID:945803)。thrA遺伝子はE.coli K−12の染色体上のthrL遺伝子とthrB遺伝子の間に位置する。
【0074】
E.coliのホモセリンキナーゼをコードするthrB遺伝子は明らかにされている(KEGG登録番号b0003;GenBankアクセッション番号NC_000913.2;ヌクレオチド位置:2,801〜3,733;Gene ID:947498)。thrB遺伝子はE.coli K−12の染色体上のthrA遺伝子とthrC遺伝子の間に位置する。
【0075】
E.coliのスレオニン合成酵素をコードするthrC遺伝子は明らかにされている(KEGG登録番号b0004;GenBankアクセッション番号NC_000913.2;ヌクレオチド位置:3,734〜5,020;Gene ID:945198)。thrC遺伝子はE.coli K−12の染色体上のthrB遺伝子とyaaX遺伝子の間に位置する。3つの遺伝子は全て単一のスレオニンオペロンthrABCとして機能する。スレオニンオペロンの発現を増強するために、転写に影響を与えるアテニュエーター領域がオペロンから除去されることが望ましい(国際公開第2005049808(A1)号、同第2003097839(A1)号)。
【0076】
L−スレオニンによるフィードバック阻害に耐性のアスパルトキナーゼI及びホモセリンデヒドロゲナーゼIをコードする変異体thrA遺伝子並びにthrB及びthrC遺伝子は、L−スレオニン生産E.coli株VKPM B−3996中に存在する周知のプラスミドpVIC40から1つのオペロンとして得ることができる。プラスミドpVIC40は米国特許第5,705,371号に詳細に記載されている。
【0077】
E.coliのスレオニン及びホモセリンの搬出系のタンパク質(内膜トランスポーター)をコードするrhtA遺伝子は明らかにされている(KEGG登録番号b0813;GenBankアクセッション番号NC_000913.2;ヌクレオチド位置:848,433〜849,320、相補体;Gene ID:947045)。rhtA遺伝子は、グルタミン輸送系の構成要素をコードするglnHPQオペロンに近いE.coli
K−12の染色体上のdps遺伝子とompX遺伝子の間に位置する。rhtA遺伝子はybiF遺伝子(KEGG登録番号B0813)と同一である。
【0078】
E.coliのアスパラギン酸−β−セミアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードするasd遺伝子は明らかにされている(KEGG登録番号b3433;GenBankアクセッション番号NC_000913.2;ヌクレオチド位置:3,571,798〜3,572,901、相補体;Gene ID:947939)。asd遺伝子は、E.coli K−12の染色体上の同じ鎖上(逆鎖上にはyhgN遺伝子)のglgB遺伝子とg
ntU遺伝子の間に位置する。
【0079】
また、E.coliのアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼをコードするaspC遺伝子も明らかにされている(KEGG登録番号b0928;GenBank アクセッション番号NC_000913.2;ヌクレオチド位置:983,742〜984,932、相補体;Gene ID:945553)。aspC遺伝子は、E.coli K−12の染色体上の逆鎖上のycbL遺伝子と同じ鎖上のompF遺伝子との間に位置する。
【0080】
L−トリプトファン生産菌
L−トリプトファン生産菌を誘導するために用いることができる親株の例としては、エシェリヒア属に属する株、例えば、変異体trpS遺伝子にコードされるトリプトファニル−tRNA合成酵素が欠損したE.coli JP4735/pMU3028(DSM10122)及びJP6015/pMU91(DSM10123)(米国特許第5,756,345号)、セリンによるフィードバック阻害を受けないホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼをコードするserAアレル及びトリプトファンによるフィードバック阻害を受けないアントラニル酸合成酵素をコードするtrpEアレルを有するE.coli SV164(pGH5)(米国特許第6,180,373号)、酵素トリプトファナーゼが欠損したE.coli AGX17(pGX44)(NRRL B−12263)及びAGX6(pGX50)aroP(NRRL B−12264)(米国特許第4,371,614号)、ホスホエノールピルビン酸生産能が増強されているE.coli AGX17/pGX50,pACKG4−pps(国際公開第9708333号、米国特許第6,319,696号)等が含まれるが、これらに限定されるものではない。yedA遺伝子又はyddG遺伝子にコードされる同定されたタンパク質の活性が増強されたエシェリヒア属に属するL−トリプトファン生産菌を用いることもできる(米国特許出願公開第2003/0148473(A1)号及び同第2003/0157667(A1)号)。
【0081】
L−トリプトファン生産菌を誘導するために用いることができる親株の例としては更に、アントラニル酸合成酵素、ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ、及びトリプトファン合成酵素から選択される酵素の1又は複数の活性が増強された株が含まれる。アントラニル酸合成酵素及びホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼはどちらもL−トリプトファン及びL−セリンによるフィードバック阻害を受けるので、フィードバック阻害を脱感作する変異がこれらの酵素に導入され得る。そのような変異を有する株の具体例としては、脱感作されたアントラニル酸合成酵素を有するE.coli SV164及びフィードバック脱感作ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼをコードする変異体serA遺伝子を含むプラスミドpGH5をE.coli SV164に導入することにより得られた形質転換株(国際公開第94/08031号)が含まれる。
【0082】
L−トリプトファン生産菌を誘導するために用いることができる親株の例としては更に、脱感作アントラニル酸合成酵素をコードする遺伝子を含むトリプトファンオペロンが導入された株が含まれる(特開昭57−71397号、特開昭62−244382号、米国特許第4,371,614号)。更に、トリプトファンオペロン(trpBA)中のトリプトファン合成酵素をコードする遺伝子の発現を増強することでL−トリプトファン生産能を付与することができる。トリプトファン合成酵素は、それぞれtrpA及びtrpB遺伝子にコードされるα及びβサブユニットからなる。更に、イソクエン酸リアーゼ−リンゴ酸合成酵素オペロンの発現を増強することでL−トリプトファン生産能を改良することができる(国際公開第2005/103275号)。
【0083】
L−バリン生産菌
L−バリン生産菌を誘導するために用いることができる親株の例としては、ilvGM
EDAオペロンを過剰発現するように改変された株(米国特許第5,998,178号)が含まれるが、これらに限定されるものではない。減弱に必要なilvGMEDAオペロンの領域を除去することにより、生産されたL−バリンによりオペロンの発現が減弱されないようにするが望ましい。更に、オペロン中のilvA遺伝子を破壊してスレオニンデアミナーゼ活性を低減させることが望ましい。
【0084】
L−バリン生産菌を誘導するための親株の例としては更に、アミノアシル−tRNA合成酵素の変異を有する変異体が含まれる(米国特許第5,658,766号)。例えば、イソロイシンtRNA合成酵素をコードするileS遺伝子に変異を有するE.coli
VL1970を用いることができる。E.coli VL1970は1988年6月24日に受託番号VKPM B−4411でロシアン・ナショナル・コレクション・オブ・インダストリアル・マイクロオーガニズム(VKPM)(住所 Russian Federation, 117545 Moscow, 1st Dorozhny proezd, 1)に寄託された。
【0085】
更に、生育にリポ酸を要求する且つ/又はH
+−ATPアーゼを欠く変異体も親株として用いることができる(国際公開第96/06926号)。
【0086】
L−バリン生産株の例としては、E.coli株H−81(VKPM B−8066)、NRRL B−12287及びNRRL B−12288(米国特許第4,391,907号)、VKPM B−4411(米国特許第5,658,766号)、VKPM B−7707(欧州特許出願公開第1016710(A2)号)等が含まれる。
【0087】
腸内細菌科に属する本発明の細菌はyjjK遺伝子の発現が減弱するように改変されている。
【0088】
「yjjK遺伝子の発現が減弱するように改変された細菌」という語句は、非改変yjjK遺伝子を含む細菌(例えば野生型又は親株)と比べて、改変された細菌中でyjjK遺伝子の発現が低減しているかyjjK遺伝子が不活化されるように細菌が改変されていることを意味し得る。
【0089】
「yjjK遺伝子が不活化された(inactivated)」という語句は、改変された遺伝子が、完全に不活性又は非機能的なタンパク質をコードすることを意味し得る。また、遺伝子の一部の欠失若しくは遺伝子全体の欠失、遺伝子にコードされるタンパク質中にアミノ酸置換を生じさせる1若しくは複数の塩基の置換(ミスセンス変異)、終止コドンの導入(ナンセンス変異)、遺伝子の読み枠のシフトを生じさせる1若しくは2個の塩基の欠失、薬剤耐性遺伝子及び/若しくは転写終止シグナルの挿入、又はプロモーター、エンハンサー、アテニュエーター、リボソーム結合部位(RBS)等の遺伝子発現調節配列を含む遺伝子の隣接領域の改変等により、改変DNA領域が自然には遺伝子を発現できないことでもあり得る。更に、遺伝子の不活化は、例えば従来の方法、例えば紫外線照射若しくはニトロソグアニジン(N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン)を用いた突然変異誘発処理、部位特異的突然変異誘発、相同組換えを用いた遺伝子破壊、及び/又は「Red/ETドリブンインテグレーション(Red/ET−driven integration)」又は「λRed/ET仲介インテグレーション(λRed/ET−mediated integration)」に基づく挿入−欠失突然変異誘発により行われ得る(Yu D. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000, 97(11):5978-5983; Datsenko K.A. and Wanner B.L., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000, 97(12):6640-6645; Zhang Y. et al., Nature Genet., 1998, 20:123-128)。
【0090】
「yjjK遺伝子の発現が減弱された」という語句は、yjjK遺伝子の発現が減弱さ
れた改変細菌中のYjjKタンパク質の量が非改変細菌(例えばE.coli K−12等の野生型又は親株)と比べて低減していることを意味し得る。
【0091】
「yjjK遺伝子の発現が減弱された」という語句は更に、改変された細菌が、yjjK遺伝子の発現レベルが低減するように改変された、遺伝子に作動可能に連結された領域、例えば遺伝子発現を制御する配列、例えばプロモーター、エンハンサー、アテニュエーター、及び転写終止シグナル、リボソーム結合部位(RBS)、及びその他の発現制御エレメント等を含むこと及び他の例(例えば、国際公開第95/34672号;Carrier T.A. and Keasling J.D., Biotechnol. Prog., 1999, 15:58-64参照)を意味し得る。
【0092】
染色体DNA上のプロモーター等の遺伝子の発現制御配列をより弱いもので置換することにより、yjjK遺伝子の発現を減弱させることができる。プロモーターの強さは、RNA合成の開始作用頻度により定義される。プロモーターの強さを評価する方法及び強力なプロモーターの例は、Goldstein et al., Prokaryotic promoters in biotechnology, Biotechnol. Annu. Rev., 1995, 1:105-128)等に記載されている。更に、国際公開第00/18935号に開示されているように、標的遺伝子のプロモーター領域中の数ヌクレオチドにヌクレオチド置換を導入することにより、弱めるべきプロモーターを改変することも可能である。更に、シャイン・ダルガノ(SD)配列中及び/若しくはSD配列と開始コドンとの間のスペーサー中の数ヌクレオチドの置換並びに/又はリボソーム結合部位(RBS)中の開始コドンのすぐ上流及び/若しくは下流の配列の置換がmRNAの翻訳効率に大きく影響することも知られている。このRBSの改変をyjjK遺伝子の転写低下と組み合わせてもよい。
【0093】
更に、遺伝子のコード領域中(米国特許第5,175,107号)、遺伝子発現を制御する領域中、若しくはyjjK遺伝子構造の近位部分(yjjKが遠位部分)中にトランスポゾン若しくは挿入配列(IS)を挿入することにより又は紫外線(UV)照射若しくはニトロソグアニジン(N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン)を用いた突然変異誘発等の従来の方法により、yjjK遺伝子の発現を減弱させることができる。更に、例えばλRed/ET仲介組換えに基づく公知の染色体編集法により、部位特異的変異の導入を行うことができる。
【0094】
遺伝子のコピー数や有無の測定は、例えば、染色体DNAを制限酵素分解した後、遺伝子配列に基づくプローブを用いるサザンブロッティング、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)等により行うことができる。遺伝子発現レベルは、ノーザンブロッティング、定量的RT−PCR等の様々な周知の方法を用いて、遺伝子から転写されたmRNAの量を測定することにより決定することができる。遺伝子にコードされるタンパク質の量は、タンパク質サンプルのSDS−PAGE後のイムノブロッティングアッセイ(ウェスタンブロッティング分析)又は質量分析等を含む公知の方法により測定することができる。
【0095】
組換えDNA分子の操作方法及び分子クローニング、例えばプラスミドDNAの調製、DNAの消化、ライゲーション、及び形質転換、プライマーとしてのオリゴヌクレオチドの選択、変異の導入等は当業者に周知の通常の方法であり得る。これらの方法は、例えばSambrook J., Fritsch E.F. and Maniatis T., "Molecular Cloning: A Laboratory Manual", 2
nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)又はGreen M.R. and Sambrook J.R., "Molecular Cloning: A Laboratory Manual", 4
th ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (2012); Bernard R. Glick, Jack J. Pasternak and Cheryl L. Patten, "Molecular Biotechnology: principles and applications of recombinant DNA", 4
th ed., Washington, DC, ASM Press (2009)に記載されている。
【0096】
yjjK遺伝子は、予測されるABCスーパーファミリーの融合トランスポーターサブユニットであるATP結合コンポーネントYjjK(京都遺伝子ゲノム百科事典(KEGG)登録番号b4391;Protein Knowledgebase, UniProtKB/Swiss-Prot、アクセッション番号P0A9W3)をコードする。yjjK遺伝子(GenBankアクセッション番号NC_000913.2;ヌクレオチド位置:4626878〜4628545、相補体;Gene ID:948909)は、E.coli株K−12の染色体上の逆鎖上のnadR遺伝子とslt遺伝子との間に位置する。yjjK遺伝子の塩基配列及びyjjK遺伝子にコードされるYjjKタンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号1及び配列番号2に示す。
【0097】
腸内細菌科に属する他の細菌種に由来するABCトランスポーターATP結合タンパク質YjjKのアミノ酸配列が知られている。YjjKタンパク質の例は、例えば、Protein Knowledgebase, UniProtKB/Swiss−Prot(www.uniprot.org/)にアクセッション番号F2EU25(パントエア・アナナティス、株AJ13355、FERM BP−6614)、D0ZV61(サルモネラ・チフィリウム(Salmonella typhimurium)、株14028s/SGSC 2262、サルモネラ・ジェネティック・ストック・センター(The Salmonella
Genetic Stock Centre:SGSC)、住所 Department of Biological Sciences, 2500 University Dr. N.W. Calgary, Alberta, Canada, T2N
1N4)、P0A9W5(シゲラ・フレックスネリ(Shigella flexneri))又はシゲラ・フレックスネリに由来するそのホモログであるカステッラーニ・アンド・チャルマーズ(Castellani and Chalmers)、ATCC 29903、B2VH30(エルウィニア・タスマニエンシス(Erwinia tasmaniensis)、株DSM 17950/Et1/99、ライプニッツ研究所、ジャーマン・コレクション・オブ・マイクロオーガニズム・アンド・セルカルチャー(German Collection of Microorganisms and Cell Cultures(DSMZ)、住所 Inhoffenstrasse 7B, 38124 Braunschweig, Germany))、C7BJV0(フォトラブダス・アシンビオティカ亜種アシンビオティカ(Photorhabdus asymbiotica subsp. asymbiotica)、株ATCC 43949/3105−77)等に記載されている。
【0098】
腸内細菌科の属、種、又は株の間でDNA配列中にいくらかの違いがあり得るため、yjjK遺伝子は配列番号1に示す遺伝子に限定されず、YjjKタンパク質のバリアントをコードする、配列番号1のバリアント塩基配列である遺伝子又は配列番号1に相同な遺伝子を含み得る。
【0099】
「バリアントタンパク質」という語句は、配列番号2と比べて配列中に1又は複数の変化(1又は複数のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、及び/又は付加のいずれであってもよい)を有するが、YjjKタンパク質と同様な活性若しくは機能を依然として維持している又はYjjKタンパク質の三次元構造が野生型若しくは非改変タンパク質と比べて顕著に変化していないタンパク質を意味し得る。バリアントタンパク質中の変化の数は、タンパク質の三次元構造中の位置又はアミノ酸残基の種類に依存する。変化の数は、厳密に限定されるものではないが、配列番号2中、1〜30、別の例では1〜15、別の例では1〜10、別の例では1〜5であり得る。バリアントタンパク質中のこれらの変化は、タンパク質の活性又は機能に重要でないタンパク質の領域で起こり得る。これは、いくつかのアミノ酸が互いに高い相同性を有し、そのため、活性又は機能がそのような変化の影響を受けないか、YjjKの三次元構造が野生型又は非改変タンパク質と比べて著しく変化しないためである。したがって、yjjK遺伝子にコードされるタンパク質バリアントは、YjjKタンパク質の活性又は機能が維持されるかYjjKの三次元構造が野生型又は
非改変タンパク質と比べて著しく変化しないとして、コンピュータープログラムのBLASTを用いた時にパラメーター「同一性(identity)」として定義される相同性が、配列番号2に示すアミノ酸配列全体に対して80%以上、90%以上、95%以上、又は98%以上であり得る。
【0100】
1又は複数のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、及び/又は付加の例は、保存的変異であり得る。代表的な保存的変異は保存的置換である。保存的置換は、限定されるものではないが、置換部位が芳香族アミノ酸であれば、Phe、Trp、及びTyr間;置換部位が疎水性アミノ酸であれば、Ala、Leu、Ile、及びVal間;置換部位が親水性アミノ酸であれば、Glu、Asp、Gln、Asn、Ser、His、及びThr間;置換部位が極性アミノ酸であれば、Gln及びAsn間;置換部位が塩基性アミノ酸であれば、Lys、Arg、及びHis間;置換部部位が酸性アミノ酸であれば、Asp及びGlu間;置換部位がヒドロキシル基を有するアミノ酸であれば、Ser及びThr間、で相互に起こる置換であり得る。保存的置換の例としては、Ser又はThrによるAlaの置換、Gln、His、又はLysによるArgの置換、Glu、Gln、Lys、His、又はAspによるAsnの置換、Asn、Glu、又はGlnによるAspの置換、Ser又はAlaによるCysの置換、Asn、Glu、Lys、His、Asp、又はArgによるGlnの置換、Asn、Gln、Lys、又はAspによるGluの置換、ProによるGlyの置換、Asn、Lys、Gln、Arg、又はTyrによるHisの置換、Leu、Met、Val、又はPheによるIleの置換、Ile、Met、Val、又はPheによるLeuの置換、Asn、Glu、Gln、His、又はArgによるLysの置換、Ile、Leu、Val、又はPheによるMetの置換、Trp、Tyr、Met、Ile、又はLeuによるPheの置換、Thr又はAlaによるSerの置換、Ser又はAlaによるThrの置換、Phe又はTyrによるTrpの置換、His、Phe、又はTrpによるTyrの置換、及びMet、Ile、又はLeuによるValの置換が含まれる。
【0101】
1又は複数のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、及び/又は付加の例は更に、アミノ酸配列の異なる位置における1又は複数の二次的変異によって変異が補償されることによりバリアントタンパク質の活性又は機能が維持されてYjjKタンパク質の活性又は機能と同様であるか野生型又は非改変タンパク質と比べてYjjKの三次元構造が顕著に変化しないとして、非保存的変異であり得る。
【0102】
タンパク質又はDNAの相同性の程度を評価するために、BLASTサーチ、FASTAサーチ、及びClustalW法等の複数の計算方法を用いることができる。BLAST(Basic Local Alignment Search Tool, www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST)サーチは、プログラムblastp、blastn、blastx、megablast、tblastn、及びtblastxに採用されている発見的サーチアルゴリズムであり、これらのプログラムは、Samuel
K. and Altschul S.F.("Methods for assessing the statistical significance of molecular sequence features by using general scoring schemes" Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1990, 87:2264-2268; "Applications and statistics for multiple high-scoring segments in molecular sequences". Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1993, 90:5873-5877)の統計学的方法を用いてそれらの発見に有意性を付与する。コンピュータープログラムBLASTは、スコア、同一性、及び類似性の3つのパラメーターを計算する。FASTAサーチ法はPearson W.R.("Rapid and sensitive sequence comparison with FASTP and FASTA", Methods Enzymol., 1990, 183:63-98)に記載されている。ClustalW法はThompson J.D. et al.("CLUSTAL W: improving the sensitivity of progressive multiple sequence alignment through sequence weighting, position-specific gap
penalties and weight matrix choice", Nucleic Acids Res., 1994, 22:4673-4680)に
記載されている。
【0103】
更に、yjjK遺伝子はバリアント塩基配列であり得る。「バリアント塩基配列」という語句は、標準的な遺伝暗号表(例えば、Lewin B., "Genes VIII", 2004, Pearson Education, Inc., Upper Saddle River, NJ 07458参照)による任意の同義アミノ酸コドンを用いてYjjKタンパク質をコードする塩基配列又はYjjKタンパク質の「バリアントタンパク質」をコードする塩基配列を意味し得る。yjjK遺伝子は、遺伝暗号の縮重によるバリアント塩基配列であり得る。
【0104】
「バリアント塩基配列」という語句は更に、限定されるものではないが、それが機能的タンパク質をコードするという条件で、配列番号1に示す配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列、又はストリンジェントな条件下で塩基配列から作製することができるプローブを意味し得る。「ストリンジェントな条件」は、特異的ハイブリッド、例えば、コンピュータープログラムBLASTを用いた時にパラメーター「同一性」で定義される相同性が70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上であるハイブリッドが形成され、非特異的ハイブリッド、例えば、相同性が上記より低いハイブリッドが形成されない条件を含む。例えば、ストリンジェントな条件の例として、1×SDS(標準クエン酸ナトリウム又は標準塩化ナトリウム)、0.1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、又は別の例では0.1×SSC、0.1%SDSの塩濃度、60℃又は65℃の温度で、1若しくは複数回、又は別の例では2若しくは3回の洗浄を挙げることができる。洗浄時間は、ブロッティングに用いられるメンブレンの種類によって決まり、原則としてメーカーが推奨する時間であり得る。例えば、正に帯電したナイロンメンブレンであるAmersham Hybond(商標)−N+(GEヘルスケア社製)にストリンジェントな条件下で推奨される洗浄時間は15分である。洗浄ステップは2〜3回行われ得る。プローブとして、配列番号1に示す配列に相補的な配列の一部を用いることもできる。そのようなプローブは、配列番号1に示す配列に基づいて作製されたオリゴヌクレオチドをプライマー、塩基配列を含むDNA断片を鋳型として用いたPCRにより作製することができる。プローブの長さは50bpを超えることが推奨され、これはハイブリダイゼーション条件に基づいて好適に選択することができ、通常、100bp〜1kbpである。例えば、長さが約300bpのDNA断片をプローブとして用いる場合、ハイブリダイゼーション後の洗浄条件の例として、2×SSC、0.1%SDS、50℃、60℃、又は65℃を挙げることができる。
【0105】
エシェリヒア属、パントエア属、シゲラ属、エルウィニア属、及びフォトラブダス属のYjjKタンパク質をコードする遺伝子は既に解明されているので(上記参照)、YjjKタンパク質のバリアントタンパク質をコードするバリアント塩基配列は、yjjK遺伝子の塩基配列に基づいて作製されたプライマーを用いたPCR(ポリメラーゼ連鎖反応;
White T.J. et al., The polymerase chain reaction, Trends Genet., 1989, 5:185-189参照)により得ることができ、あるいは、野生型若しくは変異体yjjK遺伝子を含むDNAをインビトロで例えばヒドロキシルアミンで処理することによる部位特異的変異誘発法又は紫外線(UV)照射若しくは変異剤、例えばそのような処理に通常用いられるN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)及び亜硝酸で、野生型若しくは変異体yjjK遺伝子を有する微生物、例えば腸内細菌科に属する細菌を処理する方法で得ることができ、あるいは、全長遺伝子構造として化学的に合成することができる。他の微生物のYjjKタンパク質又はそのバリアントタンパク質をコードする遺伝子も同様に得ることができる。
【0106】
「野生型タンパク質」という語句は、腸内細菌科の野生型又は親細菌株、例えば野生型E.coli MG1655株により自然に生産された天然タンパク質を意味し得る。野
生型タンパク質は、野生型細菌のゲノム中に自然に生じている野生型又は非改変遺伝子によってコードされ得る。
【0107】
「遺伝子に作動可能に連結された」という語句は、調節領域が、関心のある核酸分子又は遺伝子の塩基配列に、塩基配列の発現、好ましくは塩基配列にコードされる遺伝子産物の発現(例えば、増強された、上昇した、構成的な、基本的な、抗転写終結的な、減弱した、調節解除された、低減された、又は抑圧された発現)が可能であるように連結されていることを意味し得る。
【0108】
本明細書に記載の細菌は、L−アミノ酸生産能を本来的に有している細菌のyjjK遺伝子の発現を減弱させることにより得ることができる。あるいは、本明細書に記載の細菌は、yjjK遺伝子の発現が既に減弱されている細菌にL−アミノ酸生産能を付与することにより得ることができる。
【0109】
細菌は、本発明の範囲から逸脱することなく、既に記載した特性に加えて、他の特定の特性、例えば種々の栄養要求性、薬剤耐性、薬剤感受性、及び薬剤依存性を有し得る。
【0110】
2.方法
本発明の方法は、L−アラニン、L−アルギニン、L−アスパラギン、L−アスパラギン酸、L−シトルリン、L−システイン、L−グルタミン酸、L−グルタミン、グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−オルニチン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−セリン、L−スレオニン、L−トリプトファン、L−チロシン、及びL−バリン等のL−アミノ酸、又はその塩若しくはその混合物を製造する方法を含む。L−アミノ酸を製造する方法は、細菌を培養培地中で培養してL−アミノ酸を生産、排出、又は培養培地中に蓄積させるステップ及び培養培地及び/又は細菌細胞からL−アミノ酸を回収するステップを含み得る。回収されたアミノ酸は更に精製され得る。L−アミノ酸はその塩形態で生産され得る。例えば、L−アミノ酸のナトリウム、カリウム、アンモニウム等の塩が本方法により製造され得る。
【0111】
細菌の培養並びに培地等からのL−アミノ酸又はその塩の回収及び精製は、微生物を用いてL−アミノ酸を生産する従来の発酵法と同様に行われ得る。L−アミノ酸生産のための培養培地は、合成培地であってもよく、天然培地であってもよく、例えば、炭素源、窒素源、硫黄源、無機イオン、並びに必要に応じて他の有機及び無機成分を含む典型的な培地であり得る。炭素源としては、グルコース、ラクトース、ガラクトース、フルクトース、スクロース、アラビノース、マルトース、キシロース、トレハロース、リボース、及びデンプン加水分解物等の糖類;グリセロール、マンニトール、及びソルビトール等のアルコール;グルコン酸、フマル酸、クエン酸、リンゴ酸、及びコハク酸等の有機酸等を用いることができる。窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、及びリン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩;ダイズ加水分解物等の有機窒素;アンモニアガス;アンモニア水等を用いることができる。硫黄源としては、硫酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン等が含まれ得る。ビタミンB1等のビタミン、要求される物質、例えばアデニン及びRNA等の核酸又は酵母エキスなどの有機栄養素が、微量であるとしても、適切な量で存在し得る。これら以外に、少量のリン酸カルシウム、鉄イオン、マンガンイオン等が必要であれば添加され得る。
【0112】
培養は、好気性条件で16〜72時間又は16〜65時間行われ得、培養中の培養温度は30〜45℃又は30〜37℃に制御され得、pHは5〜8又は6〜7.5に調整され得る。pHは、無機又は有機、酸性又はアルカリ性の物質及びアンモニアガスを用いて調整され得る。
【0113】
培養後、細胞及び細胞片等の固体は遠心又は膜ろ過により液体培地から除去され得、その後、濃縮、イオン交換クロマトグラフィー、及び結晶化等の従来技術の任意の組合せにより、標的のL−アミノ酸又はその塩が発酵液から回収され得る。
【0114】
回収された標的L−アミノ酸は、標的物質に加えて、微生物細胞、培地成分、水分、及び微生物の副産物的代謝物質を含み得る。回収された標的物質の純度は、50%以上、85%以上、又は95%以上である(米国特許第5,431,933号、日本特許第1214636号、米国特許第4,956,471号、同第4,777,051号、同第4,946,654号、同第5,840,358号、同第6,238,714号、米国特許出願公開第2005/0025878号)。
【実施例】
【0115】
以下に非限定的な例を参照して本発明を更に正確に説明する。
【0116】
実施例1
1.1.yjjK遺伝子が不活化されたE.coli株の構築
Datsenko K.A. and Wanner B.L. (Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000, 97(12), 6640-664が開発した「λRed/ET仲介インテグレーション」と呼ばれる方法を用いてyjjK遺伝子を欠失させた。この方法に従い、yjjK遺伝子のいずれかの末端に隣接する領域に相同なPCRプライマーP1(配列番号3)及びP2(配列番号4)、並びに鋳型染色体中にカナマイシン耐性(Km
R)を付与する遺伝子を構築した。E.coli MG1655 ΔattBphi80 native IS5.11::LattBphi80−Km
R−RattBphi80(Minaeva N.I. et al., Dual-In/Out strategy for
genes integration into bacterial chromosome: a novel approach to step-by-step construction of plasmid-less marker-less recombinant E. coli strains with predesigned genome structure. BMC Biotechnol., 2008, 8:63)の染色体を鋳型として用いた。PCR条件は以下の通りである:最初の変性:95℃3分;最初の2サイクルのプロファイル:95℃1分、34℃30秒、72℃40秒;最後の30サイクルのプロファイル:95℃30秒、50℃30秒、72℃40秒;最後のステップ:72℃5分。
【0117】
得られたPCR産物1(配列番号5)(1,922bp)をアガロースゲル電気泳動で精製し、温度感受性複製起源を有するプラスミドpKD46を含む株E.coli MG1655ΔattBphi80 nativeのエレクトロポレーションに用いた(Minaeva N.I. et al., BMC Biotechnol., 2008, 8:63)。プラスミドpKD46(Datsenko K.A. and Wanner B.L., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000, 97:12:6640-45)は、λファージの2,154ヌクレオチド(31088〜33241)DNA断片(GenBankアクセッション番号J02459)を含み、アラビノース誘導プロモーターP
araBの制御下にλRed/ET仲介インテグレーションシステムの遺伝子(α、β、エキソ遺伝子)を含む。プラスミドpKD46は、PCR産物を株E.coli MG1655 ΔattBphi80 nativeの染色体中に組み込むのに必須である。
【0118】
以下のようにしてエレクトロコンピテントセルを調製した:E.coli MG1655 ΔattBphi80 nativeを、アンピシリン(100mg/L)を含むLB培地中で30℃にて一晩生育し、アンピシリン及びL−アラビノース(1mM)を含む5mLのSOB培地(Sambrook J., Fritsch E.F. and Maniatis T., "Molecular Cloning: A Laboratory Manual", 2
nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989))で培養液を100倍希釈した。得られた培養物を通気しながら30℃でOD
600が約0.6になるまで生育した後、100倍濃縮して氷冷脱イオン水で3回洗浄することによりエレクトロコンピテントにした。70μLの細胞及び約100ngのPCR産物1を用いてエレクトロポレーションを行った。1mLのSOC培地(Sambrook J., Fritsch E.F. and
Maniatis T., "Molecular Cloning: A Laboratory Manual", 2
nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989))中、37℃で2.5時間細胞をインキュベートし、溶原培地(Sambrook, J. and Russell, D.W. "Molecular Cloning: A Laboratory Manual", 3
rd
ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001))、アガー(1.5%)、及びカナマイシン(50mg/L)を含むプレートにまき、37℃で生育してKm
R組換え体を選択した。カナマイシン(50mg/L)を含むL−アガー上で42℃にて2回継代してpKD46プラスミドを除去し、得られたコロニーのアンピシリン感受性を標準的な手法を用いて調べた。このようにして、E.coli MG1655 ΔattBphi80 native ΔyjjK::Km
R株を得た。
【0119】
1.2.PCRによるyjjK遺伝子欠失の確認
yjjK遺伝子の欠失を含みカナマイシン耐性遺伝子(kan)で特徴付けられた変異体をPCRで確認した。遺伝子座特異的プライマーP3(配列番号6)及びP4(配列番号7)をPCRに用いた。条件は以下の通りである:最初の変性:94℃3分;30サイクルのプロファイル:94℃30秒、53℃30秒、72℃2分;最終ステップ:72℃6分。親yjjK
+株であるE.coli MG1655 ΔattBphi80 nativeの染色体DNAを鋳型として用いた時、PCR産物2(配列番号8)(1,783bp)が得られた。変異体MG1655 ΔattBphi80 native ΔyjjK::Km
R株の染色体DNAを鋳型として用いた時、PCR産物3(配列番号9)(1,989bp)が得られた。
【0120】
実施例2.yjjK遺伝子が不活化されたL−バリン生産E.coli株の構築
P1形質導入(Miller J.H. "Experiments in molecular genetics", Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor (1972))を用いてE.coli H−81 L−バリン生産株からyjjK遺伝子を欠失させた。株H−81(欧州特許第1239041(A2)号)は、2001年1月30日に受託番号VKPM B−8066でロシアン・ナショナル・コレクション・オブ・インダストリアル・マイクロオーガニズム(VKPM)(住所 Russian Federation, 117545 Moscow, 1
st Dorozhny proezd, 1)に寄託され、これはその後、2002年2月1日にブダペスト条約の条項に基づく国際委託に移管されている。E.coli MG1655 ΔattBphi80 native ΔyjjK::Km
R株(実施例1)をドナーとして用いた。E.coli H−81のyjjK欠損変異体を、溶原培地(Sambrook, J. and Russell, D.W. "Molecular Cloning: A Laboratory Manual", 3
rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001))、アガー(1.5%)、及びカナマイシン(50mg/L)を含むプレート上で選択した。このようにして、E.coli H−81ΔyjjK::Km
R株を得た。実施例1に記載したようにPCRでΔyjjK::Km
R欠失を確認した。
【0121】
実施例3
E.coli H−81ΔyjjK::Km
R株によるL−バリンの生産
改変E.coli H−81 ΔyjjK::Km
R及び対照E.coli H−81株のそれぞれをLB培地(Sambrook, J. and Russell, D.W. "Molecular Cloning: A Laboratory Manual", 3
rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001)に記載されているように溶原培地ともいう)中で32℃にて18時間培養した。その後、得られた培養液0.2mLを、20×200mm試験管中の発酵培地2mLに接種し、ロータリーシェーカーを用いて250rpm、30℃で48時間培養した。
【0122】
発酵培地の組成(g/L)は以下の通りである:
グルコース 60.0
(NH
4)
2SO
4 15.0
KH
2PO
4 1.5
MgSO
4・7H
2O 1.0
チアミン−HCl 0.1
CaCO
3 25.0
LB培地 10%(v/v)
【0123】
発酵培地を116℃で30分間滅菌した。但し、グルコース及びCaCO
3は別々に以下のように滅菌した:グルコースは110℃で30分、CaCO
3は116℃で30分。KOH溶液でpHを7.0に調整した。
【0124】
培養後、蓄積されたL−バリンを薄層クロマトグラフィー(TLC)により測定した。TLCプレート(10×20cm)は、非蛍光指示薬を含むSorbfilシリカゲル(Sorbpolymer、ロシア連邦クラスノダール)の0.11mm層でコーティングした。Camag Linomat 5サンプルアプリケーターを用いてサンプルをプレートにアプライした。イソプロパノール:酢酸エチル:25%アンモニア水:水(16:16:5:10、v/v)からなる移動相でSorbfilプレートを展開した。ニンヒドリン(2%、w/v)のアセトン溶液を発色試薬として用いた。発色後、プレートを乾燥させ、Camag TLC Scanner 3を吸光度モードで用いてスキャンし、winCATSソフトウェア(バージョン1.4.2)を用いて520nmで検出した。
【0125】
9個の独立した試験管発酵の結果を表1に示す。表1から分かるように、改変E.coli H−81ΔyjjK::Km
R株は親E.coli H−81株より多量のL−バリン(Val)を生産することができた。
【0126】
【表1】
【0127】
実施例4.yjjK遺伝子が不活化されたL−ヒスチジン生産E.coli株の構築
yjjK遺伝子活性化のL−ヒスチジン生産への影響を調べるために、前述したE.coli MG1655 ΔattBphi80 native ΔyjjK::Km
R株(実施例1)の染色体に由来するDNA断片を、実施例2に記載されているように、P1形質導入(Miller J.H. "Experiments in molecular genetics", Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor (1972))を用いてL−ヒスチジン生産株E.coli MG1655+hisGr hisL’_Δ ΔpurRに導入した。ΔyjjK::Km
Rの欠失をPCRで確認した。このようにして、E.coli MG1655+hisGr hisL’_Δ ΔpurR ΔyjjK::Km
R株を得た。
【0128】
株E.coli MG1655+hisGr hisL’_Δ ΔpurRはロシア特許第2119536(C1)号及びDoroshenko V.G. et al., The directed modification of Escherichia coli MG1655 to obtain histidine-producing mutants, Prikl. Biochim. Mikrobiol. (Russian), 2013, 49(2):149-154.に記載されている。
【0129】
実施例5.E.coli MG1655+hisGr hisL’_Δ ΔpurR株に
よるL−ヒスチジンの生産
改変E.coli MG1655+hisGr hisL’_Δ ΔpurR ΔyjjK::Km
R株及び対照E.coli MG1655+hisGr hisL’_Δ ΔpurR株のそれぞれを、2mLのL培地(Sambrook, J. and Russell, D.W. "Molecular Cloning: A Laboratory Manual", 3
rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001))中で30℃にて3時間培養した。その後、得られた培養液0.1mLを20×200mm試験管中の発酵培地2mLに接種し、ロータリーシェーカー(250rpm)上で30℃にて65時間培養した。
【0130】
発酵培地の組成(g/L)は以下の通りである。
グルコース 50.0
豆濃
* 0.2(N量として)
L−アスパルギン酸 1.0
(NH
4)
2SO
4 18.0
KCl 1.0
KH
2PO
4 0.5
MgSO
4・7H
20 0.4
FeSO
4・7H
20 0.02
MnSO
4・5H
2O 0.02
ZnSO
4・7H
20 0.02
アデノシン 0.2
チアミン−HCl 0.001
ベタイン 2.0
CaCO
3 60.0
*豆濃(Mameno)は、ダイズ加水分解物(味の素株式会社製)である。
【0131】
グルコース、硫酸マグネシウム、ベタイン、及びCaCO
3を別々に滅菌した。滅菌前に6M KOH溶液でpHを6.0に調整した。
【0132】
培養後、蓄積されたL−ヒスチジンを薄層クロマトグラフィー(TLC)で測定した。TLCプレート(10×20cm)は、非蛍光指示薬を含むSorbfilシリカゲル(Sorbpolymer、ロシア連邦クラスノダール)の0.11mm層でコーティングした。Camag Linomat 5サンプルアプリケーターを用いてサンプルをプレートにアプライした。Sorbfilプレートをイソプロパノール:アセトン:25%アンモニア水:水(6:6:1.5:1、v/v)からなる移動相で展開した。ニンヒドリン(2%、w/v)のアセトン溶液を発色試薬として用いた。発色後、プレートを乾燥させ、吸光度モードでCamag TLC Scanner 3を用いてスキャンし、winCATSソフトウェア(バージョン1.4.2)を用いて520nmで検出した。
【0133】
7個の独立した試験管発酵の結果を表2に示す。表2から分かるように、改変E.coli MG1655+hisGr hisL’_Δ ΔpurR ΔyjjK::Km
R株は、親E.coli MG1655+hisGr hisL’_Δ ΔpurR株より多量のL−ヒスチジン(His)を生産することができた。
【0134】
【表2】
【0135】
実施例6.E.coli 382ΔyjjK株によるL−アルギニンの生産
yjjK遺伝子不活化のL−アルギニン生産への影響を調べるために、前述したE.coli G1655 ΔattBphi80 native ΔyjjK::Km
Rの染色体から得たDNA断片を、P1形質導入(Miller, J.H. "Experiments in Molecular Genetics", Cold Spring Harbor Lab. Press, Plainview, NY (1972))によりアルギニン生産E.coli株382に導入して株382ΔyjjKを得る。株382は、2000年4月10日に受託番号VKPM B−7926でロシアン・ナショナル・コレクション・オブ・インダストリアル・マイクロオーガニズム(VKPM)(住所 Russian
Federation, 117545 Moscow, 1
st Dorozhny proezd, 1)に寄託され、その後、2001年5月18日にブダペスト条約に基づく寄託に移管されている。
【0136】
E.coli株382及び382ΔyjjKの両方を、3mLの栄養培地中で振盪(220rpm)しながら37℃で18時間別々に培養し、得られた培養液0.3mLを、20×200mm試験管中の2mLの発酵培地に接種し、ロータリーシェーカー(220rpm)を用いて32℃で48時間培養する。
【0137】
培養後、n−ブタノール:酢酸:水=4:1:1(v/v)からなる移動相を用いたペーパークロマトグラフィーにより、培地中に蓄積されたL−アルギニンの量を決定する。ニンヒドリン(2%)のアセトン溶液を発色試薬として用いる。L−アルギニンを含むスポットを切り取り、CdCl
2の0.5%水溶液でL−アルギニンを溶出させ、540nmでの分光測定によりL−アルギニンの量を評価する。
【0138】
発酵培地の組成(g/L)は以下の通りである。
グルコース 48.0
(NH
4)
2SO
4 35.0
KH
2PO
4 2.0
MgSO
4・7H
2O 1.0
チアミン−HCl 0.0002
酵母エキス 1.0
L−イソロイシン 0.1
CaCO
3 5.0
【0139】
グルコース及び硫酸マグネシウムは別々に滅菌する。CaCO
3は180℃で2時間乾熱滅菌する。pHは7.0に調整する。
【0140】
実施例7.E.coli JM15(ydeD)ΔyjjKによるL−システインの生産
yjjK遺伝子不活化のL−システイン生産への影響を調べるために、前述したE.coli MG1655 ΔattBphi80 native ΔyjjK::Km
Rの染色体に由来するDNA断片をP1形質導入によりL−システイン生産E.coli株JM15(ydeD)に導入して株JM15(ydeD)ΔyjjKを得る。
【0141】
E.coli JM15(ydeD)は、膜タンパク質をコードするydeD遺伝子を有するDNAで形質転換されており、いずれのL−アミノ酸の生合成経路にも関与しないE.coli JM15(米国特許第6,218,168号)の誘導体である(米国特許第5,972,663号)。
【0142】
発酵の条件及びL−システイン生産を評価するための手順は米国特許第6,218,168号の実施例6に詳細に記載されている。
【0143】
実施例8.E.coli VL334thrC
+ΔyjjKによるL−グルタミン酸の生産
yjjK遺伝子不活化のL−グルタミン酸生産への影響を調べるために、前述のE.coli MG1655 ΔattBphi80 native ΔyjjK::Km
Rの染色体に由来するDNA断片をP1形質導入によりL−グルタミン酸生産E.coli株VL334thrC
+(欧州特許出願公開第1172433(A1)号)に導入して株VL334thrC
+ΔyjjKを得る。株VL334thrC
+は2004年12月6日に受託番号B−8961でロシアン・ナショナル・コレクション・オブ・インダストリアル・マイクロオーガニズム(VKPM)(住所 Russian Federation,
117545 Moscow, 1 Dorozhny proezd, 1)に寄託され、その後、2004年12月8日にブダペスト条約に基づく寄託に移管されている。
【0144】
E.coli株VL334thrC
+及びVL334thrC
+ΔyjjKを、L−アガープレート上で37℃にて18〜24時間別々に培養する。その後、ループ一掻き分の細胞を、2mLの発酵培地の入った試験管に移す。
【0145】
発酵培地の組成(g/L)は以下の通りである。
グルコース 60.0
(NH
4)
2SO
4 25.0
KH
2PO
4 2.0
MgSO
4・7H
2O 1.0
チアミン−HCl 0.1
L−イソロイシン 0.07
CaCO
3 25.0
【0146】
グルコース及びCaCO
3は別々に滅菌する。pHは7.2に調整する。
【0147】
30℃で3日間振盪培養する。培養後、n−ブタノール:酢酸:水=4:1:1からなる移動相を用いたペーパークロマトグラフィーを行い、次いでニンヒドリン(アセトン中1%溶液)で染色し、0.5%CdCl
2を含む50%エタノールで化合物を溶出させ、更にL−グルタミン酸を540nmで評価することにより、生産されたL−グルタミン酸の量を決定する。
【0148】
実施例9.E.coli 57ΔyjjKによるL−ロイシンの生産
yjjK遺伝子不活化のL−ロイシン生産への影響を調べるために、前述したE.coli MG1655 ΔattBphi80 native ΔyjjK::Km
Rの染
色体に由来するDNA断片をP1形質導入によりE.coli L−ロイシン生産株57(VKPM B−7386、米国特許第6,124,121号)に導入して株57ΔyjjKを得る。株57は1997年5月19日に受託番号B−7386でロシアン・ナショナル・コレクション・オブ・インダストリアル・マイクロオーガニズム(VKPM)(住所 Russian Federation, 117545 Moscow, 1
st Dorozhny proezd, 1)に寄託されている。
【0149】
L−アガープレート上で37℃にて18〜24時間、E.coli株57及び57ΔyjjKを別々に培養する。種培養を得るために、スクロース(4%)が添加された2mLのL培地(Sambrook, J. and Russell, D.W. (2001) "Molecular Cloning: A Laboratory
Manual", 3
rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press)の入った20×200mm試験管中で、ロータリーシェーカー(250rpm)を用いて32℃で18時間株を生育する。その後、発酵培地に0.2mLの種材料(10%)を接種する。20×200mm試験管中の2mLの最小発酵培地中で発酵を行う。250rpmで振盪しながら32℃で48〜72時間細胞を生育する。n−ブタノール:酢酸:水=4:1:1からなる移動相を用いたペーパークロマトグラフィーにより、培地中に蓄積されたL−ロイシンの量を測定する。
【0150】
発酵培地の組成(g/L)は以下の通りである。
グルコース 60.0
(NH
4)
2SO
4 25.0
K
2HPO
4 2.0
MgSO
4・7H
2O 1.0
チアミン−HCl 0.01
CaCO
3 25.0
【0151】
グルコースは別個に滅菌する。CaCO
3は180℃で2時間乾熱滅菌する。pHは7.2に調整する。
【0152】
実施例10.E.coli AJ11442ΔyjjKによるL−リジンの生産
yjjK遺伝子不活化のL−リジン生産への影響を調べるために、前述したE.coli MG1655 ΔattBphi80 native ΔyjjK::Km
Rの染色体に由来するDNA断片をP1形質導入によりL−リジン生産E.coli株AJ11442に導入して株AJ11442ΔyjjKを得る。株AJ11442は1981年5月5日に受託番号FERM P−5084で工業技術院 生命工学工業技術研究所(現 独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(NITE−IPOD)、〒292−0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2丁目5番8号120号室)に寄託され、1987年10月29日に最初の寄託からブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP−1543で寄託されている。pCABD2プラスミドは、L−リジンによるフィードバック阻害を脱感作する変異を有するジヒドロジピコリン酸合成酵素をコードするdapA遺伝子、L−リジンによるフィードバック阻害を脱感作する変異を有するアスパルトキナーゼIIIをコードするlysC遺伝子、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼをコードするdapB遺伝子、及びジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼをコードするddh遺伝子を含む(米国特許第6,040,160号)。
【0153】
ストレプトマイシン(20mg/L)を含むL培地中で37℃にてE.coli株AJ11442及びAJ11442ΔyjjKを別々に培養し、得られた培養液0.3mLを、500mLフラスコに入った要求される薬剤を含む20mLの発酵培地に接種する。培養は、撹拌速度115rpmで往復振盪機を用いて37℃で16時間行う。培養後、公知の方法(バイオテックアナライザーAS210、サクラ精機株式会社製)で培地中のL−
リジン及び残留グルコースの量を測定する。その後、各株について消費グルコースに対してL−リジンの収率を計算する。
【0154】
発酵培地の組成(g/L)は以下の通りである。
グルコース 40.0
(NH
4)
2SO
4 24.0
K
2HPO
4 1.0
MgSO
4・7H
2O 1.0
FeSO
4・7H
2O 0.01
MnSO
4・5H
2O 0.01
酵母エキス 2.0
【0155】
KOHでpHを7.0に調整し、培地を115℃で10分間オートクレーブする。グルコース及び硫酸マグネシウムは別個に滅菌する。CaCO
3を180℃で2時間乾熱滅菌し、終濃度30g/Lで培地に加える。
【0156】
実施例11.E.coli AJ12739ΔyjjKによるL−フェニルアラニンの生産
yjjK遺伝子不活化のL−フェニルアラニン生産への影響を調べるために、前述したE.coli MG1655 ΔattBphi80 native ΔyjjK::Km
Rの染色体に由来するDNA断片をP1形質導入によりフェニルアラニン生産E.coli株AJ12739に導入して株AJ12739ΔyjjKを得る。株AJ12739は2001年11月6日に受託番号VKPM B−8197でロシアン・ナショナル・コレクション・オブ・インダストリアル・マイクロオーガニズム(VKPM)(住所 Russian Federation, 117545 Moscow, 1
st Dorozhny proezd, 1)に寄託され、その後、2002年8月23日にブダペスト条約に基づく寄託に移管されている。
【0157】
E.coli株AJ12739及びAJ12739ΔyjjKを栄養培地中で37℃にて18時間別々に培養し、得られた各培養液0.3mLを、20×200mm試験管中の発酵培地3mLに接種し、ロータリーシェーカーを用いて振盪しながら37℃で48時間培養する。培養後、培地中に蓄積されるL−フェニルアラニンの量を薄層クロマトグラフィー(TLC)で決定する。非蛍光指示薬を含むSorbfilシリカゲル(Stock
Company Sorbpolymer、ロシア連邦クラスノダール)の0.11mm層でコーティングされた10×15cmのTLCプレートを用いる。プロパン−2−オール:酢酸エチル:25%アンモニア水:水=40:40:7:16(v/v)からなる移動相でSorbfilプレートを展開する。ニンヒドリン(2%)のアセトン溶液を発色試薬として用いる。
【0158】
発酵培地の組成(g/L)は以下の通りである。
グルコース 40.0
(NH
4)
2SO
4 16.0
K
2HPO
4 0.1
MgSO
4・7H
2O 1.0
FeSO
4・7H
2O 0.01
MnSO
4・5H
2O 0.01
チアミン−HCl 0.0002
酵母エキス 2.0
チロシン 0.125
CaCO
3 20.0
【0159】
グルコース及び硫酸マグネシウムは別個に滅菌する。CaCO
3は180℃で2時間乾熱滅菌する。pHは7.0に調整する。
【0160】
実施例12.E.coli 702ilvAΔyjjKによるL−プロリンの生産
yjjK遺伝子不活化のL−プロリン生産への影響を調べるために、前述したE.coli MG1655 ΔattBphi80 native ΔyjjK::Km
Rの染色体に由来するDNA断片をP1形質導入によりプロリン生産E.coli株702ilvAに導入して株702ilvAΔyjjKを得る。株702ilvAは2000年7月18日に受託番号VKPM B−8012でロシアン・ナショナル・コレクション・オブ・インダストリアル・マイクロオーガニズム(VKPM)(住所 Russian Federation, 117545 Moscow, 1
st Dorozhny proezd, 1)に寄託され、その後、2001年5月18日にブダペスト条約に基づく寄託に移管されている。
【0161】
E.coli株702ilvA及び702ilvAΔyjjKを、L−アガープレート上で37℃にて18〜24時間別々に培養する。その後、これらの株を実施例8(L−グルタミン酸の生産)と同じ条件下で培養する。
【0162】
実施例13.E.coli B−3996ΔyjjKによるL−スレオニンの生産
yjjK遺伝子不活化のL−スレオニン生産への影響を調べるために、前述したE.coli MG1655 ΔattBphi80 native ΔyjjK::Km
Rの染色体に由来するDNA断片をP1形質導入によりL−スレオニン生産E.coli株VKPM B−3996に導入して株B−3996ΔyjjKを得る。株B−3996は1987年11月19日にオール・ユニオン・サイエンティフィック・センター・オブ・アンチバイオティクス(住所 Russian Federation, 117105 Moscow, Nagatinskaya Street, 3−A)に受託番号RIA 1867で寄託されている。この株は更に、受託番号B−3996でロシアン・ナショナル・コレクション・オブ・インダストリアル・マイクロオーガニズム(VKPM)(住所 Russian Federation, 117545 Moscow, 1
st
Dorozhny proezd, 1)に寄託されている。
【0163】
E.coli株B−3996及びB−3996ΔyjjKの両方をL−アガープレート上で37℃にて18〜24時間別々に培養する。種培養を得るために、ロータリーシェーカー(250rpm)を用いて32℃で18時間、グルコース(4%)を添加した2mLのL培地(Sambrook, J. and Russell, D.W. (2001) "Molecular Cloning: A Laboratory
Manual", 3
rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press)を含む20×200mm試験管中で株を生育する。その後、発酵培地に種材料0.2mL(10%)を接種する。発酵は20×200mm試験管中の2mLの最小培地中で行われる。250rpmで振盪しながら32℃で65時間細胞を生育する。
【0164】
培養後、n−ブタノール:酢酸:水=4:1:1(v/v)からなる移動相を用いたペーパークロマトグラフィーにより、培地中に蓄積されたL−スレオニンの量を決定する。ニンヒドリン(2%)のアセトン溶液を発色試薬として用いる。L−スレオニンを含むスポットを切り取り、CdCl
2の0.5%水溶液でL−スレオニンを溶出させ、L−スレオニンの量を540nmの分光測定により評価する。
【0165】
発酵培地の組成(g/L)は以下の通りである。
グルコース 80.0
(NH
4)
2SO
4 22.0
NaCl 0.8
KH
2PO
4 2.0
MgSO
4・7H
2O 0.8
FeSO
4・7H
2O 0.02
MnSO
4・5H
2O 0.02
チアミン−HCl 0.0002
酵母エキス 1.0
CaCO
3 30.0
【0166】
グルコース及び硫酸マグネシウムは別個に滅菌する。CaCO
3は180℃で2時間乾熱滅菌する。pHは7.0に調整する。滅菌後に抗生物質を培地に導入する。
【0167】
実施例14.E.coli SV164(pGH5)ΔyjjKによるL−トリプトファンの生産
yjjK遺伝子不活化のL−トリプトファン生産への影響を調べるために、前述したE.coli MG1655 ΔattBphi80 native ΔyjjK::Km
Rの染色体に由来するDNA断片をP1形質導入によりL−トリプトファン生産E.coli株SV164(pGH5)に導入して株SV164(pGH5)ΔyjjKを得る。株SV164は、トリプトファンによるフィードバック阻害を受けないアントラニル酸合成酵素をコードするtrpEアレルを有する。プラスミドpGH5は、セリンによるフィードバック阻害を受けないホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼをコードする変異体serA遺伝子を有する。株SV164(pGH5)は米国特許第6,180,373号又は欧州特許第0662143(B1)号に詳細に記載されている。
【0168】
E.coli株SV164(pGH5)及びSV164(pGH5)ΔyjjKを、テトラサイクリン(20mg/L、pGH5プラスミドのマーカー)を添加した栄養培地3mL中で37℃にて18時間、別々に振盪培養する。得られた培養液(それぞれ0.3mL)を、20×200mm試験管に入ったテトラサイクリン(20mg/L)を含む発酵培地3mLに接種し、ロータリーシェーカーを250rpmで用いて37℃で48時間培養する。培養後、培地中に蓄積されたL−トリプトファンの量を実施例11(L−フェニルアラニンの生産)に記載したようにTLCで決定する。発酵培地成分を表3に示すが、これらの成分は、示されているように、滅菌中の不都合な相互作用を回避するために別々のグループ(A、B、C、D、E、F、及びH)で滅菌すべきである。
【0169】
【表3】
【0170】
実施例15.E.coli 382ΔargGΔyjjKによるL−シトルリンの生産
yjjK遺伝子不活化のL−シトルリン生産への影響を調べるために、前述したE.coli MG1655 ΔattBphi80 native ΔyjjK::Km
Rの染色体に由来するDNA断片をP1形質導入によりL−シトルリン生産E.coli株382ΔargGに導入して株382ΔargGΔyjjKを得る。株382ΔargGは、Datsenko K.A. and Wanner B.L.に最初に開発された「λRed/ET仲介インテグレーション」と呼ばれる方法(Datsenko K.A. and Wanner B.L., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000, 97(12):6640-6645)により382株(VKPM B−7926)の染色体上のargG遺伝子を欠失させることにより得られたものである。この手法に従い、argG遺伝子に隣接する両方の領域に相同なPCRプライマー及び鋳型プラスミド中の抗生物質耐性を付与する遺伝子を構築する。プラスミドpMW118−λattL−cat−λattR(国際公開第05/010175号)をPCR反応の鋳型として用いる。
【0171】
E.coli株382ΔargG及び382ΔargGΔyjjKの両方を3mLの栄養培地中で37℃にて18時間、別々に振盪培養し、得られた培養液0.3mLを、20×200mm試験管に入った発酵培地2mL中に接種し、ロータリーシェーカーを用いて
32℃で48時間培養する。
【0172】
培養後、n−ブタノール:酢酸:水=4:1:1(v/v)からなる移動相を用いたペーパークロマトグラフィーにより、培地中に蓄積されたL−シトルリンの量を決定する。ニンヒドリン(2%)のアセトン溶液を発色試薬として用いる。シトルリンを含むスポットを切り取り、CdCl
2の0.5%水溶液でL−シトルリンを溶出させ、L−シトルリンの量を540nmの分光測定により評価する。
【0173】
発酵培地の組成(g/L)は以下の通りである。
グルコース 48.0
(NH
4)
2SO
4 35.0
KH
2PO
4 2.0
MgSO
4・7H
2O 1.0
チアミン−HCl 0.0002
酵母エキス 1.0
L−イソロイシン 0.1
L−アルギニン 0.1
CaCO
3 5.0
【0174】
グルコース及び硫酸マグネシウムを別々に滅菌する。CaCO
3は180℃で2時間乾熱滅菌する。pHは7.0に調整する。
【0175】
実施例16.E.coli 382ΔargFΔargIΔyjjKによるL−オルニチンの生産
yjjK遺伝子不活化のL−オルニチン生産への影響を調べるために、前述したE.coli MG1655 ΔattBphi80 native ΔyjjK::Km
Rの染色体に由来するDNA断片をP1形質導入によりL−オルニチン生産E.coli株382ΔargFΔargIに導入して株382ΔargFΔargIΔyjjKを得る。株382ΔargFΔargIは、Datsenko K.A. and Wanner B.L.に最初に開発された「λRed/ET仲介インテグレーション」と呼ばれる方法(Datsenko K.A. and Wanner
B.L., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000, 97(12):6640-6645)による382株(VKPM B−7926)の染色体上のargF及びargI遺伝子の連続的欠失により得られたものである。この手法に従い、argF又はargI遺伝子に隣接する両方の領域に相同な2組のPCRプライマー及び鋳型プラスミド中の抗生物質耐性を付与する遺伝子を構築する。プラスミドpMW118−λattL−cat−λattR(国際公開第05/010175号)をPCR反応の鋳型として用いる。
【0176】
E.coli株382ΔargFΔargI及び382ΔargFΔargIΔyjjKの両方を、3mLの栄養培地中で37℃にて18時間、別々に振盪培養し、得られた培養液0.3mLを、20×200mm試験管に入った2mLの発酵培地に接種し、ロータリーシェーカーを用いて32℃で48時間培養する。
【0177】
培養後、n−ブタノール:酢酸:水=4:1:1(v/v)からなる移動相を用いたペーパークロマトグラフィーにより、培地中に蓄積されたオルニチンの量を決定する。ニンヒドリン(2%)のアセトン溶液を発色試薬として用いる。オルニチンを含むスポットを切り取り、CdCl
2の0.5%水溶液でオルニチンを溶出させ、オルニチンの量を540nmの分光測定により評価する。
【0178】
発酵培地の組成(g/L)は以下の通りである。
グルコース 48.0
(NH
4)
2SO
4 35.0
KH
2PO
4 2.0
MgSO
47H
2O 1.0
チアミン−HCl 0.0002
酵母エキス 1.0
L−イソロイシン 0.1
L−アルギニン 0.1
CaCO
3 5.0
【0179】
グルコース及び硫酸マグネシウムは別個に滅菌する。CaCO
3は180℃で2時間乾熱滅菌する。pHは7.0に調整する。
【0180】
本発明を、その好ましい実施形態を参照して詳細に説明したが、発明の範囲から逸脱することなく、種々の変更及び均等物の使用が可能であることは当業者に明らかであろう。本明細書中で引用した全ての参考文献を参照により本願に援用する。