特許第6459225号(P6459225)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6459225高耐熱性フィルム、前駆体、及びフィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6459225
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】高耐熱性フィルム、前駆体、及びフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/22 20060101AFI20190121BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20190121BHJP
【FI】
   C08G73/22
   C08J5/18CEZ
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-113040(P2014-113040)
(22)【出願日】2014年5月30日
(65)【公開番号】特開2015-227403(P2015-227403A)
(43)【公開日】2015年12月17日
【審査請求日】2017年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小浜 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】中川 美晴
(72)【発明者】
【氏名】久野 信治
【審査官】 横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−231874(JP,A)
【文献】 特開平04−170431(JP,A)
【文献】 特開2006−312671(JP,A)
【文献】 特開昭63−305130(JP,A)
【文献】 特開2002−327060(JP,A)
【文献】 特開2008−179705(JP,A)
【文献】 英国特許出願公開第02189788(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00−73/26
C08J 5/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)の繰り返し単位を有し、破断強度が200MPa以上であることを特徴とする高耐熱性フィルム。
【化1】
ここで、Rは、下記化学式(2)及び下記化学式(3)である。
【化2】
【化3】
【請求項2】
前記化学式(2)と前記化学式(3)との割合が、9:1〜1:9であることを特徴とする請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記化学式(2)と前記化学式(3)との割合が、7:3〜5:5であることを特徴とする請求項1に記載のフィルム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のフィルムに用いられる前駆体であって、下記化学式(4)の繰り返し単位を有することを特徴とする前駆体。
【化4】
化学式(4)
ここで、Rは、下記化学式(5)及び下記化学式(6)である。
【化5】
【化6】
【請求項5】
前記化学式(5)と前記化学式(6)との割合が、9:1〜1:9であることを特徴とする請求項4に記載の前駆体。
【請求項6】
前記化学式(5)と前記化学式(6)との割合が、7:3〜5:5であることを特徴とする請求項4又は5に記載の前駆体。
【請求項7】
4,4’−ビフェニルジカルボン酸誘導体、およびイソフタル酸誘導体成分と、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル成分とから得られることを特徴とする前駆体溶液を支持体上に流延塗布し、前記塗布部分を加熱することにより自己支持性フィルムを製造し、前記自己支持性フィルムをさらに加熱処理してフィルムを得ることを特徴とする下記化学式(1)の繰り返し単位を有し、破断強度が200MPa以上であることを特徴とするフィルムの製造方法。
【化1】
ここで、Rは、下記化学式(2)及び下記化学式(3)である。
【化2】
【化3】
【請求項8】
490℃の最高加熱温度で加熱することを特徴とする請求項7に記載のフィルムの製造方法。
【請求項9】
490℃の最高加熱温度で2分以上加熱処理することを特徴とする請求項7に記載のフィルムの製造方法。
【請求項10】
4,4’−ビフェニルジカルボン酸誘導体、およびイソフタル酸誘導体成分の割合が9:1〜1:9であり、それらの全成分と、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル成分とから得られることを特徴とする前駆体溶液を支持体上に流延塗布し、前記塗布部分を加熱することにより自己支持性フィルムを製造し、前記自己支持性フィルムをさらに加熱処理してフィルムを得ることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載のフィルムの製造方法。
【請求項11】
4,4’−ビフェニルジカルボン酸誘導体、およびイソフタル酸誘導体成分の割合が7:3〜5:5であり、それらの全成分と、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル成分とから得られることを特徴とする前駆体溶液を支持体上に流延塗布し、前記塗布部分を加熱することにより自己支持性フィルムを製造し、前記自己支持性フィルムをさらに加熱処理してフィルムを得ることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載のフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐熱性及び高力学物性を有するフィルム、及びこのフィルム等の製造に用いる前駆体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
耐熱フィルム分野において、様々な市場要求に対応するためには、新しい機能性耐熱フィルムの開発が求められている。そのひとつとして、ポリイミドフィルムがあり、ポリイミドは、その優れた耐熱性から、電子情報材料用途や、航空宇宙材料用途において大きな役割を担ってきたが,更なる高性能化、高機能化を目的として,ポリベンズオキサゾールなどのアゾール系耐熱ポリマーのフィルム化も鋭意検討が行われている。特許文献1には、o−アミノフェノール類と安息香酸誘導体とを、塩化リチウムの存在下で反応させ、ポリベンズオキサゾール前駆体を得る方法が記載されている。特許文献2には,o−アミノフェノール類を塩化リチウムの存在下でシリル化し、脂環式カルボン酸誘導体と反応させることによりポリベンズオキサゾール前駆体を調製する方法、さらにその前駆体を溶媒に溶解させ、その溶液からポリベンズオキサゾール膜を得る方法が記載されている。非特許文献1には,o−アミノフェノール類をシリル化し、安息香酸誘導体と反応させることにより得られるポリベンズオキサゾール前駆体の溶液から、窒素中の10%重量減少温度が620℃以下の耐熱性を有するポリベンズオキサゾールを得る方法が記載されている。非特許文献2には、o−アミノフェノール類を塩化リチウムの存在下でシリル化し、安息香酸誘導体と反応させることにより得られる重合溶液から、ポリベンズオキサゾールフィルムを得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−143806号公報
【特許文献2】特開2002−327060号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Macromolecules, 21(8), p2305−2309,1988
【非特許文献2】Journal of Photopolymer Science and Technology, 17(2) p253−258, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そして、新しい機能性耐熱フィルムという観点から、ポリイミド以外の構成で、耐熱材料に対して更なる耐熱性や、寸法安定性の向上等の高性能化、高機能化が求められることがある。
【0006】
ポリベンズオキサゾール(PBO)は、ポリイミドと同等、またはそれ以上の耐熱性を有し、優れた高強度,高弾性率材料として知られている。このポリベンズオキサゾール(PBO)は、その前駆体であるポリヒドロキシアミド(PHA)を重合した後、それを脱水閉環させることにより得ることができる。通常、それらの反応はポリリン酸や、メタンスルホン酸などの強酸中で行われ、その重合溶液から液晶紡糸を行うことにより製造されるPBO繊維は、極めて高い耐熱性と力学物性を有している。その一方で、強酸ドープからの湿式製膜は、繊維化と大きく異なり技術的な課題が多かった。また過去に有機溶媒中でのPHAの合成が検討されているものの、原料ドープの流動性の確保などの課題も多かった。
【0007】
本発明の課題は、ポリベンズオキサゾール(PBO)を用いた高耐熱性及び高力学物性を有するフィルムを提供するとともに、このフィルムを製造するために必要な前駆体(ドープ)を提供することにある。
【0008】
本発明は、以下の各項に関する。
【0009】
1. 下記化学式(1)の繰り返し単位を有することを特徴とする高耐熱性フィルム。
【0010】
【化1】
ここで、Rは、下記化学式(2)及び下記化学式(3)である。
【0011】
【化2】
【0012】
【化3】
【0013】
2. 前記化学式(2)と前記化学式(3)との割合が、9:1〜1:9であることを特徴とする前記項1に記載のフィルム。
【0014】
3. 前記化学式(2)と前記化学式(3)との割合が、7:3〜5:5であることを特徴とする前記項1又は前記項2に記載のフィルム。
【0015】
4. 下記化学式(4)の繰り返し単位を有することを特徴とする前駆体。
【0016】
【化4】
化学式(4)
ここで、Rは、下記化学式(5)及び下記化学式(6)である。
【0017】
【化5】
【0018】
【化6】
【0019】
5. 前記化学式(5)と前記化学式(6)との割合が、9:1〜1:9であることを特徴とする前記項1に記載の前駆体。
【0020】
6. 前記化学式(5)と前記化学式(6)との割合が、7:3〜5:5であることを特徴とする前記項1又は前記項2に記載の前駆体。
【0021】
7. 4,4’−ビフェニルジカルボン酸誘導体、およびイソフタル酸誘導体成分と、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル成分とから得られることを特徴とする前駆体溶液を支持体上に流延塗布し、前記塗布部分を加熱することにより自己支持性フィルムを製造し、前記自己支持性フィルムをさらに加熱処理してフィルムを得ることを特徴とする前記化学式(1)の繰り返し単位を有することを特徴とするフィルムの製造方法。
【0022】
8. 490℃の最高加熱温度で加熱することを特徴とする前記項7に記載のフィルムの製造方法。
【0023】
9. 490℃の最高加熱温度で2分以上加熱することを特徴とする前記項7に記載のフィルムの製造方法。
【0024】
10. 4,4’−ビフェニルジカルボン酸誘導体、およびイソフタル酸誘導体の割合が9:1〜1:9であり,それらの全成分と、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル成分とから得られることを特徴とする前駆体溶液を支持体上に流延塗布し、前記塗布部分を加熱することにより自己支持性フィルムを製造し、前記自己支持性フィルムをさらに加熱処理してフィルムを得ることを特徴とする前記項7〜9のいずれかに記載のフィルムの製造方法。
【0025】
11. 4,4’−ビフェニルジカルボン酸誘導体、およびイソフタル酸誘導体の割合が7:3〜5:5であり,それらの全成分と、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル成分とから得られることを特徴とする前駆体溶液を支持体上に流延塗布し、前記塗布部分を加熱することにより自己支持性フィルムを製造し、前記自己支持性フィルムをさらに加熱処理してフィルムを得ることを特徴とする前記項7〜9のいずれかに記載のフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明の効果は、ポリベンズオキサゾール(PBO)を用いた高耐熱性及び高力学物性を有するフィルムの効果を奏することである。そして、このフィルムを製造するために必要な前駆体から得られたフィルムも同様の効果を奏することである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
(フィルムについて)
本発明は、下記化学式(7)の繰り返し単位を有することを特徴とする高耐熱性フィルムであり、高耐熱性及び高力学物性を有することを特徴とする。
【0028】
【化7】
ここで、Rは、下記化学式(8)及び下記化学式(9)である。
【0029】
【化8】
【0030】
【化9】
【0031】
本発明のフィルムは前記化学式(7)の繰り返し単位を有し、前記化学式(7)の繰り返し単位は、以下のカルボン酸誘導体成分及びジアミン成分により構成される。
【0032】
(カルボン酸誘導体成分について)
本発明で用いるカルボン酸誘導体成分は、化学式(8)と化学式(9)を与える芳香族ジカルボン酸誘導体である。その中でも、4,4’−ビフェニルジカルボン酸クロライド、およびイソフタル酸クロライドが好ましい。
【0033】
(ジアミン成分について)
本発明で用いるジアミン成分は、下記化学式(10)で表される4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル(HAB)や、3,3’-ジミアノ-4,4’-ジヒドロキシビフェニルなどのビスオルトアミノフェノール類が挙げられる。耐熱性の観点から,その中でも特に下記化学式(10)で表されるものが好ましい。
【0034】
【化10】
【0035】
前記化学式(8)と前記化学式(9)との割合は、好ましくは9:1〜1:9、より好ましくは7:3〜5:5、さらに好ましくは6:4〜5:5である。前記化学式(8)と前記化学式(9)との割合が、9:1〜1:9であると、得られるフィルムの耐熱性及び力学物性が高くなる傾向がある。
【0036】
また本発明のフィルムは、前記化学式(7)で表される繰り返し単位100モル%中、Rが前記化学式(8)及び(9)で表される基である化学式(7)で表される繰り返し単位の割合が、好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは100モル%であることが好ましい。化学式(8)及び(9)で表される基である化学式(7)で表される繰り返し単位の割合が、70モル%以上の場合、得られるフィルムの耐熱性及び力学物性が高くなる傾向がある。
【0037】
(フィルムの特性について)
本発明のフィルムの特性として、初期弾性率の高さ、破断強度の高さ、破断伸度の高さ、そして5%重量減少温度(Td5)の高さがある。
【0038】
初期弾性率は、好ましくは4GPa以上,より好ましくは5GPa以上,さらに好ましくは6GPa以上である。初期弾性率が4GPa以上であると、ハンドリングに優れるという効果を奏する。
【0039】
破断強度は、好ましくは200MPa,より好ましくは240MPa,さらに好ましくは260MPaである。破断強度が200MPa以上であると、様々な用途において容易には破断しないという効果を奏する。
【0040】
破断伸度は、好ましくは5%以上,より好ましくは10%以上,さらに好ましくは20%以上である。破断伸度が5%以上であると、長期使用も想定できるという効果を奏する。
【0041】
5%重量減少温度(Td5)は600℃以上,好ましくは610℃以上であり、より好ましくは620℃以上であり、さらに好ましくは630℃以上である。5%重量減少温度(Td5)が600℃以上であると、電子情報材料用途や,航空宇宙材料用途をはじめとする高耐熱を要求される分野での使用が可能となるという効果を奏する。
【0042】
(フィルムの製造方法について)
<ポリベンズオキサゾール前駆体溶液の自己支持性フィルムの製造>
ポリベンズオキサゾール前駆体溶液の自己支持性フィルムは、ポリベンズオキサゾール前駆体溶液を支持体上に流延塗布し、自己支持性となる程度(通常のキュア工程前の段階を意味する)、例えば支持体上より剥離することができる程度にまで加熱して製造される。
【0043】
本発明において用いるポリベンズオキサゾール前駆体溶液の固形分濃度は、製造に適した粘度範囲となる濃度であれば特に限定されないが、通常、5質量%〜30質量%が好ましい。
【0044】
自己支持性フィルム作製時の加熱温度および加熱時間は適宜決めることができ、例えば、温度50〜180℃で1〜60分間程度加熱すればよい。
【0045】
支持体としては、ポリベンズオキサゾール前駆体溶液をキャストできるものであれば特に限定されないが、平滑な基材を用いることが好ましく、例えばガラス基板や、ステンレスなどの金属製のドラムやベルトなどが使用される。
【0046】
<加熱処理(オキサゾール環化)工程>
次いで、自己支持性フィルムを加熱処理してポリベンズオキサゾールフィルムを得る。加熱処理工程において、最高加熱温度が、好ましくは300℃以上、350℃以上、より好ましくは450℃以上、さらに好ましくは470℃以上となるように加熱する。加熱温度の上限はポリベンズオキサゾールフィルムの特性が低下しない温度であれば良く、好ましくは600℃以下、より好ましくは550℃以下、さらに好ましくは530℃以下、特に好ましくは520℃以下である。
【0047】
加熱処理の一例としては、次のような形態が挙げられる。最初に約100℃〜350℃未満の温度においてポリマーのオキサゾール化および溶媒の蒸発・除去を約0.05〜5時間、特に0.1〜3時間で徐々に行うことが適当である。特に、この加熱処理は段階的に、約100℃〜約170℃の比較的低い温度で約0.5〜30分間第一次加熱処理し、次いで170℃を超えて220℃以下の温度で約0.5〜30分間第二次加熱処理して、その後、220℃を越えて350℃未満の高温で約0.5〜30分間第三次加熱処理することが好ましい。さらに、350℃以上から600℃以下の高い温度で第四次高温加熱処理することが好ましい。また、この加熱プロセスは逐次的にも連続的にも行うことができる。
【0048】
自己支持性フィルムの加熱処理(オキサゾール化)は、支持体上で行ってもよく、支持体上から剥がしておこなってもよい。工業的に製造する場合、加熱処理の際、自己支持性フィルムを支持体上から剥がし、キュア炉中においてピンテンタ、クリップ、枠などで、少なくとも長尺の自己支持性フィルムの長手方向に直角の方向、すなわちフィルムの幅方向の両端縁を固定し、必要に応じて幅方向、または長さ方向に拡縮して加熱処理を行なうことができる。
【0049】
上述のようにして、得られた本発明のポリベンズオキサゾールフィルムは、さらに、サンドブラスト処理、コロナ処理、プラズマ処理、エッチング処理などを行っても良い。
【0050】
まずポリベンズオキサゾール(PBO)を得るには、その前駆体であるポリヒドロキシアミド(PHA)を重合した後、それを加熱脱水閉環させることにより得ることができる。通常ポリヒドロキシアミド(PHA)は、ポリリン酸やメタンスルホン酸などの強酸を溶媒兼縮合剤として用いることが多い。しかしながら,このようにして得られたドープを用いてフィルム化を行う場合,強酸の除去が困難であるなど,通常のキャスト製膜が困難であるという欠点がある。
【0051】
キャスト製膜を行うためには,その後の溶媒除去,及び環化反応を考えると有機溶媒中で重合することが望ましい。トリメチルシリル化されたビスオルトアミノフェノールと芳香族ジカルボン酸クロライドとの反応により,PHAを合成した例がある。
【0052】
重合反応の溶媒としては、特に限定はされないが、例えば、NMP,DMI,DMAcといったアミド系溶媒が好適である。
【0053】
(前駆体について)
本願発明の前駆体は、下記化学式(11)の繰り返し単位を有することを特徴とする前駆体。
【0054】
【化11】
【0055】
ここで、Rは、下記化学式(12)及び下記化学式(13)である。
【0056】
【化12】
【0057】
【化13】
【0058】
本発明の前駆体は前記化学式(11)の繰り返し単位を有し、前記化学式(11)の繰り返し単位は、以下のカルボン酸誘導体成分及びジアミン成分により構成される。
【0059】
(カルボン酸誘導体成分について)
本発明で用いるカルボン酸誘導体成分は、化学式(12)と化学式(13)を与える芳香族ジカルボン酸誘導体である。その中でも、4,4’−ビフェニルジカルボン酸クロライド、およびイソフタル酸クロライドが好ましい。
【0060】
(ジアミン成分について)
本発明で用いるジアミン成分は、下記化学式(14)で表される4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル(HAB)や、3,3’-ジミアノ-4,4’-ジヒドロキシビフェニルなどのビスオルトアミノフェノール類が挙げられる。耐熱性の観点から,その中でも特に下記化学式(14)で表されるものが好ましい。
【0061】
【化14】
【0062】
前記化学式(12)と前記化学式(13)との割合は、好ましくは9:1〜1:9、より好ましくは7:3〜5:5、さらに好ましくは6:4〜5:5である。前記化学式(12)と前記化学式(13)との割合が、9:1〜1:9であると、この前駆体から得られるフィルムの耐熱性及び力学物性が高くなる傾向がある。
【0063】
また本発明の前駆体は、前記化学式(11)で表される繰り返し単位100モル%中、Rが前記化学式(12)及び(13)で表される基である化学式(11)で表される繰り返し単位の割合が、好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは100モル%であることが好ましい。化学式(12)及び(13)で表される基である化学式(11)で表される繰り返し単位の割合が、70モル%以上場合、この前駆体から得られるフィルムの耐熱性及び力学物性が高くなる傾向がある。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限されるものではない。
【0065】
(初期弾性率、破断強度、破断伸度)
PBOフィルムをIEC540規格のダンベル形状に打ち抜いて試験片とし、ORIENTEC社製TENSILONを用いて、チャック間 30mm、引張速度 2mm/minで、初期の弾性率、破断伸度、破断強度を測定した。
【0066】
(熱重量分析)
TGA(TA Instruments社製 TGA Q5000IR)を用いて、フィルムを窒素雰囲気中、10℃/minで600℃まで昇温した。得られた熱重量減少曲線から、5%重量減少温度(Td5)を求めた。
【0067】
(ポリヒドロキシアミド溶液Aの調製)
HAB/BDA−Cl/IPA−Cl=100/70/30
重合槽に所定量のN,N−ジメチルイミダゾリジノン(DMI)と、ビスオルトアミノフェノール成分として4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル(HAB)を15mmol加えた。さらに,Pyを66mmol加えた後,トリメチルシリルクロライド(TMSC)30mmolを添加し,1時間攪拌を行った。その後,LiClを36mmol添加し,LiClが完全に溶解したことを確認した後,室温で撹拌しながら、酸クロライド成分として,イソフタル酸クロライド(IPA−Cl),4,4’−ビフェニルジカルボン酸クロライド(BDA−Cl)をHABと略等モルまで段階的に添加して反応させ、固形分濃度が9.5質量%であるポリヒドロキシアミド溶液A(PBO前駆体溶液)を得た。このとき、全酸クロライド成分中、BDA−Clの量を70モル%とした。
【0068】
(ポリヒドロキシアミド溶液Bの調製)
HAB/BDA−Cl/IPA−Cl=100/50/50
全酸クロライド成分中、BDA−Clの量を50モル%とした以外は,ポリヒドロキシアミド溶液Aの調製と同様にしてポリヒドロキシアミド溶液Bを得た。
【0069】
(ポリヒドロキシアミド溶液Cの調製)
HAB/IPA−Cl=100/100
全酸クロライド成分中、IPA−Clの量を100モル%とした以外は,ポリヒドロキシアミド溶液Aの調製と同様にしてポリヒドロキシアミド溶液Cを得た。
【0070】
(実施例1)
ポリヒドロキシアミド溶液Aをガラス板上に薄膜状にキャストし、ホットプレートを用いて138℃で210秒加熱し、ガラス板から剥離して自己支持性フィルムを得た。その後,表面に析出した塩類を除去するため,ガラス板ごと超純水に浸し,自己支持性フィルムを剥離した。自己支持性フィルムを超純水で10分間洗浄した後,自然乾燥した。乾燥後の自己支持性フィルムをテンターに固定し,電気炉で,300℃から490℃まで約18分かけてキュアした。キュア後,室温になるまで冷却し,テンターから取り外し,PBOフィルム(PBO−1)を得た。
得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0071】
(実施例2)
ポリヒドロキシアミド溶液Bをガラス板上に薄膜状にキャストし、ホットプレートを用いて138℃で210秒加熱し、ガラス板から剥離して自己支持性フィルムを得た。その後,表面に析出した塩類を除去するため,ガラス板ごと超純水に浸し,自己支持性フィルムを剥離した。自己支持性フィルムを超純水で10分間洗浄した後,自然乾燥した。乾燥後の自己支持性フィルムをテンターに固定し,電気炉で,150℃から490℃まで約18分かけてキュアした。その後,さらに490℃で2分間追加キュアを行った。キュア後,室温になるまで冷却し,テンターから取り外し,PBOフィルム(PBO−2)を得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0072】
(実施例3)
ポリヒドロキシアミド溶液Bをガラス板上に薄膜状にキャストし、ホットプレートを用いて138℃で210秒加熱し、ガラス板から剥離して自己支持性フィルムを得た。その後,表面に析出した塩類を除去するため,ガラス板ごと超純水に浸し,自己支持性フィルムを剥離した。自己支持性フィルムを超純水で10分間洗浄した後,自然乾燥した。乾燥後の自己支持性フィルムをテンターに固定し,電気炉で,150℃から490℃まで約18分かけてキュアした。その後,さらに490℃で10分間追加キュアを行った。キュア後,室温になるまで冷却し,テンターから取り外し,PBOフィルム(PBO−3)を得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0073】
(比較例1)
ポリヒドロキシアミド溶液Cをガラス板上に薄膜状にキャストし、ホットプレートを用いて138℃で210秒加熱し、ガラス板から剥離して自己支持性フィルムを得た。その後,表面に析出した塩類を除去するため,ガラス板ごと超純水に浸し,自己支持性フィルムを剥離した。自己支持性フィルムを超純水で10分間洗浄した後,自然乾燥した。乾燥後の自己支持性フィルムをテンターに固定し,電気炉で,400℃で30分間キュアを行った。キュア後,室温になるまで冷却し,テンターから取り外し,PBOフィルム(PBO−4)を得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0074】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によって、高耐熱性及び高力学物性を有するフィルム、及びこのフィルム等の製造に用いる前駆体を提供することができる。この前駆体から得られるフィルム及びフィルムは、高耐熱性及び高力学物性を有するので、電子情報材料用途や、航空宇宙材料用途で 好適に用いることができる。