(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
アマチュア無線用トランシーバーなどにおいて、特にアマチュア無線のHF帯においては、1対1の通信であっても、上記のように、受信周波数と送信周波数との間に所定の周波数差を持たせる、所謂スプリット運用が行われることがある。このような運用は、たとえば或る局からの通信の呼び掛け(CQ)に対して、交信を希望する多くの相手先からの応答を干渉しないようにして、適宜交信を許可する相手先を指定してゆくようなケースで行われる。具体的に、A局がCQを出して交信相手を探す場合、そのA局と交信することを希望する相手局が複数となる可能性が高い場合に、A局の送信周波数をF、たとえば50MHzとすると、A局は、その周波数からΔF、たとえば1kHz、2kHz、5kHz、或いは10kHz高いF+ΔFの周波数で受信することを宣言した後、そのF+ΔFの周波数で応答を待ち、その周波数で応答して来たB,C,Dの中の1局に対して交信の許可を指示するようなケースである。
【0003】
したがって、このようなスプリット運用を行う際には、F+ΔFの周波数でB,C,Dの3つの相手局がA局を呼ぶことになるので、相手局が送信するタイミングよっては、3つの送信電波が同時に発射されてしまい、A局ではこれら3局の信号が混信して了解し難い状況となることもある。そのため、交信を希望する3つの相手局は、互いに混信し難いタイミングを見計らい、A局を呼ぶことが交信を成立させるコツとなる。
【0004】
そのため、従来は、スプリット運用中に、前記タイミングを見計らうために、送信しようとする周波数を受信したい場合は、所定のスイッチなどを操作して、送信周波数を一時的に受信周波数に設定することが行われていた。しかしながら、操作が煩雑であるとともに、周波数の変更による受信回路の応答の遅れなどから、応答の機会を逃したりする(他局に先を越される)こともある。そのため、一層の操作性の向上には、B,C,D局、たとえばB局は、A局の送信周波数Fと、他局、すなわちC,D局の送信(応答)する周波数F+ΔFとを同時に受信することが望ましい。
【0005】
そこでこのような要求を満たすために、前記スプリット運用が可能であるとともに、メインおよびサブの2つの受信回路を備え、2つの周波数を同時に受信する、所謂2波同時受信機能を備える無線機(送受信機)が、たとえば特許文献1で示すように提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記2波同時受信機能を備える無線機においても、相手局が定まった通常の通話には、送受信が同じ周波数で運用されるので、上記2波同時受信機能もスプリット機能もOFFとして運用されている。したがって、スプリット機能が必要となった場合、スプリット機能をONする操作と2波同時受信機能をONする操作との2つの操作が必要となり、交信機会を得るための初動に遅れを生じることがある。
【0008】
本発明の目的は、操作性を向上することができる無線機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の無線機は、受信周波数と送信周波数との間に所定の周波数差を持たせたスプリット運用可能な無線機において、メイン側およびサブ側の2つの受信回路と、前記スプリット運用への切換えを行う操作手段と、前記操作手段への操作に応答し、前記メイン側の受信回路に設定されている周波数を、サブ側の受信回路の受信周波数および送信周波数に設定するとともに、前記サブ側の受信回路に受信を開始させる通信制御手段とを含むことを特徴とする。
【0010】
上記の構成によれば、受信周波数と送信周波数との間に所定の周波数差を持たせることで、たとえば通信の呼び掛け(CQ)に対する応答を干渉しないようすることが可能なスプリット運用可能な無線機において、メイン側およびサブ側の2つの受信回路を備えることで、所謂2波同時受信機能を実現するにあたって、前記メイン側の受信回路で受信を行っている状態で、前記スプリット運用への切換えを行う操作手段が操作されると、通信制御手段は、前記メイン側の受信回路に設定されている周波数を、たとえば休止しているサブ側の受信回路の受信周波数および送信周波数に設定するとともに、そのサブ側の受信回路に受信させる。
【0011】
したがって、スプリット運用を必要とされる状況において、その運用を開始するスプリット機能をONさせる操作を行うだけで、サブ側の受信回路もONさせ、そのサブ側の受信周波数および送信周波数に、メイン側の受信回路で受信を行っている(運用している)周波数をコピーし、所謂2波同時受信機能を実現するにあたっての準備を、素早く自動的に行うことができる。その後、使用者が、サブ側の受信周波数および送信周波数を、設定(コピー)されたメイン側の受信周波数から、前記所定の周波数差だけずらすことで、2波同時受信を開始することができる。こうして、スプリット運用を行うにあたって、送信周波数の状況を確認するために操作性を向上し、交信機会を得易くすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の無線機は、以上のように、受信周波数と送信周波数との間に所定の周波数差を持たせるスプリット運用可能な無線機において、2つの受信回路を備えることで所謂2波同時受信機能を実現するにあたって、メイン側の受信回路で受信を行っている状態で、前記操作手段が操作されると、通信制御手段は、サブ側の受信回路を起動して、メイン側の受信周波数または送信周波数での受信を開始させる。
【0017】
それゆえ、スプリット運用を必要とされる状況において、その運用を開始するスプリット機能をONさせる操作を行うだけで、素早く自動的に、2波同時受信機能もONさせることができ、操作性を向上し、交信機会を得易くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の実施の一形態に係る無線機1における受信側の構成で、本発明に係る部分を抽出して示すブロック図である。この無線機1は、たとえば前記アマチュア無線のHF帯の通信に用いられる。この無線機1は、メイン側の受信回路として機能することができる周波数変換回路2と、サブ側の受信回路として機能することができる周波数変換回路3と、1つの送信回路を備えて構成され、前記のスプリット機能および2波同時受信機能を備えている。
【0020】
アンテナ4で受信された信号(結果的にMAIN RXRFおよびSUB RXRFとなる)は、2つの周波数変換回路2,3に共通に入力され、それぞれ異なる周波数の局部発振信号(LO1,LO2)で周波数変換されることで、メインバンドの中間周波数信号(MAIN RXIF)およびサブバンドの中間周波信号(SUB RXIF)として出力される。そのため、各周波数変換回路2,3は、局部発振回路21,31、混合器22,32およびスイッチ23,33を備えている。
【0021】
局部発振回路21,31からの局部発振信号(LO1,LO2)は、送信側での周波数変換にも用いられる(TX LO)ので、プレストークスイッチなどの操作に応答して切換えられるスイッチ23,33を介して、受信時には混合器22,32に与えられる。混合器22,32からの中間周波数信号(MAIN RXIF,SUB RXIF)は、共通にまたは個別に設けられる図示しない2段目の周波数変換回路で周波数変換された後、音声信号に復調処理されて、スピーカなどから出力される。
【0022】
各周波数変換回路2,3における局部発振回路21,31のON/OFFおよび発振周波数、ならびにスイッチ23,33の切換えは、送受信を制御する通信制御手段である制御回路5によって制御される。制御回路5は、スイッチ23,33を、共に受信のために混合器22,32側に切換えるか、送信の際は、上述のように送信回路は1つであるので、択一的に送信回路側に切換える。また、制御回路5は、表示装置11に表示信号を出力するとともに、メインダイヤル12、サブダイヤル13、送信モニタスイッチ14、スプリットスイッチ15および2波同時受信スイッチ16などからの入力を受付ける。
【0023】
上述のように構成される無線機1において、2波同時受信機能もスプリット機能もOFFの状態、たとえば送信と受信とを同じ周波数に設定しての相手局との交信中などでは、制御回路5は、サブ側の局部発振回路31を停止させ、メイン側の局部発振回路21を、メインダイヤル12で設定された周波数Fで動作させ、前記プレストークスイッチなどの操作に応答してスイッチ23を切換えることで、相手局との交信を可能にする。この状態での表示装置11での表示例を、
図2(a)で示す。表示装置11の向かって左側のメインバンドに関する表示には、送受信の周波数が、前記周波数Fとしての14.100(MHz)で、USBモードでの通信を行っていることを示しており、向かって右側のサブバンドに関する表示は行われていない。
【0024】
そして、送信と受信とを同じ周波数に設定しての相手局との交信中の
図2(a)の状態などから、スプリットスイッチ15が第1の態様で操作されると、制御回路5は、サブ側の局部発振回路31を動作させてサブダイヤル13で設定された周波数F’で発振させ、スイッチ33を送信回路側に切換えて、サブバンドでの送信を可能にして、スプリット運用を開始する。
【0025】
また、スプリットスイッチ15が第2の態様で操作されると、制御回路5は、サブ側の局部発振回路31を動作させて、メインダイヤル12で設定された、すなわちメインバンドの受信周波数Fで発振を開始させるとともに、送信スイッチ33を送信回路側に切換えて、サブバンドでの送信を可能にして、スプリット運用を開始する。その後に、使用者が前記サブダイヤル13で所定の周波数差ΔFを調整することで、前記サブダイヤル13での周波数F’の設定無しでも、短時間で所望の送信周波数F+ΔFに調整可能となっている。
【0026】
なお、第1の態様と第2の態様とは、スプリットスイッチ15の操作時間によって決定され、たとえば短押しで前者、長押しで後者とされるが、個別(2つ)のスプリットスイッチ15が設けられてもよい。
【0027】
このスプリット運用状態で、たとえば送信モニタスイッチ14が操作されると、制御回路5は、局部発振回路21を、前記サブダイヤル13で設定された周波数F’で発振させて、メイン側で、サブバンドに設定された送信周波数のモニタを可能にする。この状態での表示装置11での表示例は、上述の
図2(a)と同様に、表示装置11の向かって左側に行われる。
【0028】
一方、送信と受信とを同じ周波数に設定しての相手局との交信中の
図2(a)の状態などから、2波同時受信スイッチ16が操作されると、制御回路5は、サブ側の局部発振回路31を動作させ、サブダイヤル13で設定された周波数F’で発振させて、サブバンドのモニタも可能にする。この状態での表示装置11での表示例を、
図2(c)で示す。表示装置11の向かって左側のメインバンドに関する表示とともに、右側にサブバンドに関する表示が行われ、受信周波数が、前記周波数F’としての14.110(MHz)で、電波型式がUSBモードでの通信を行っていることを示している。前記サブダイヤル13での周波数F’の設定時には、他の釦操作などで、電波型式の設定も行われる。
【0029】
なお、2波同時受信スイッチ16が操作されると、制御回路5は、スイッチ33を混合器32側に固定、すなわちサブ側の局部発振回路31は受信用に固定したまま、送信を行う際は、スイッチ23を
送信回路側に切換える。このように、本実施形態の無線機1は、受信回路は2つ備えるものの、送信回路は1つであるので、送信はメインバンドでしか行うことはできない。そのため、前記スプリットスイッチ15や他の操作手段への操作によって、制御回路5は、一時的に、或いは継続的に、メインバンドとサブバンドとを入替え、送信を行えるようにしてもよい。
【0030】
そして、本実施形態の無線機1で注目すべきは、たとえば送信と受信とを同じ周波数に設定しての相手局との交信中の
図2(a)で示す表示周波数で他局の信号をモニタしていた利用者が、送信局に興味を示すなどして送信(交信)を希望する場合、スプリットスイッチ15を第3の態様で操作するだけで、制御回路5は、スプリット機能および2波同時受信機能をONすることである。つまり、スプリットスイッチ15を操作するだけで、制御回路5は、2波同時受信スイッチ16も操作されたのと等価な動作状態とする。
【0031】
すると、サブダイヤル13で予め設定されている周波数F’および電波型式でサブバンドの受信が開始され、必要に応じて、利用者は、サブダイヤル13等の操作によって、周波数F’および電波型式の調整を行うことができる。
【0032】
或いは、事前にサブダイヤル13から周波数F’を設定しておくのではなく、スプリットスイッチ15が操作されると、制御回路5は、サブバンドの周波数F’に、一旦(仮に)メインバンドの周波数Fを設定し、その後に、使用者がサブダイヤル13等の操作によって、メインバンドの周波数Fとの周波数差であるΔF分だけ調整し、目標とする周波数F’を設定するようにしてもよい。そうすることで、メインバンドの周波数Fを逐次変更している最中に、スプリット運用に切換えても、周波数差ΔF分だけ調整することで、前記サブバンドの周波数F’を、容易に設定することができる。
【0033】
一方、スプリット運用に切換えた際、前述のように、応答を待つ周波数が、F+ΔF、たとえばΔF=10kHz等の使用頻度の高い周波数差ΔFの場合には、一旦、
図2(b)で示すように、サブバンドの受信周波数および送信周波数にはメインバンドの受信周波数Fがコピーされ、さらにその受信周波数Fに、サブダイヤル13等で予め設定された所定の周波数差ΔFだけずらす操作が行われて、
図2(c)で示す状態に、自動的に遷移するようにしてもよい。なお、予め設定しておく前記周波数差ΔFは、サブダイヤル13による設定ではなく、メニュー画面から設定してもよい。
【0034】
図3は、そのような自動による好ましい動作状態の切換え動作を説明するためのフローチャートである。メインバンドの受信、すなわち制御回路5が、サブ側の局部発振回路31を停止させ、メイン側の局部発振回路21を、メインダイヤル12で設定された周波数Fで動作させている状態(
図2(a)で示す)で、スプリットスイッチ15が第3の態様で操作されると、ステップS1に移り、制御回路5は、以下の(1)〜(3)の設定を一括して行う。
【0035】
(1)サブバンド側の送信周波数を、前記メインダイヤル12によって設定されているメインバンド側の受信周波数Fと同じ周波数に設定する。
【0036】
(2)サブバンド側の受信周波数も、前記メインダイヤル12によって設定されているメインバンド側の受信周波数Fと同じ周波数に設定(周波数をコピー)する。
【0037】
(3)サブバンド側の受信回路に、メインバンド側の受信電波型式を設定(コピー)し、メインバンドおよびサブバンド共に、受信状態に設定する。こうして、スプリット機能および2波同時受信機能がONになった直後での表示装置11での表示例は、前記の
図2(b)で示す通りである。すなわち、表示装置11の向かって左側のメインバンドに関する表示とともに、右側にサブバンドに関する表示が行われ、受信周波数が、メインバンドと同じ(コピーされて)、前記周波数Fとしての14.100(MHz)で、電波型式も同じ(コピーされて)USBモードでの通信を行っていることを示している。
【0038】
その後、ステップS2において、制御回路5は、以下の(4),(5)の設定を一括して行った後、スプリット機能を実現するための各部の動作変更の処理を終了する。(4)送信回路の送信周波数(スイッチ33が送信回路側に切換えられている状態における局部発振回路31の局部発振信号LO2(TXLO)の周波数)を、前記メインダイヤル12によって設定されているメインバンド側の受信周波数Fに、サブダイヤル13の設定による所定の周波数差ΔF、たとえば+10kHzの周波数だけずらした周波数を設定する。前記所定の周波数差ΔFは、上述の(3)の後、サブダイヤル13を操作することで設定してもよいし、使用頻度の高い周波数差を予め設定しておき、その使用頻度の高い周波数差を周波数差ΔFとしてもよい。
【0039】
(5)サブ側の受信周波数F’、すなわちスイッチ33が混合器32側に切換えられている状態における局部発振回路31の局部発振信号LO2の周波数も、前記周波数F+ΔFに設定する。この状態での表示装置11での表示例は、前述の
図2(c)で示す通りである。
【0040】
以上のように、本実施形態の無線機1では、受信周波数(RXRF)Fと送信周波数(TXRF)F’との間に所定の周波数差ΔFを持たせたスプリット運用可能な無線機において、2つの受信回路(周波数変換回路2,3)を備えることで2波を同時に受信可能な2波同時受信機能を実現するにあたって、通信動作を制御する制御回路5は、スプリットスイッチ15への第3の態様の操作に応答して、受信周波数Fで受信を行っているメインバンドの受信回路(周波数変換回路2(LO1))に加えて、サブバンドの受信回路(周波数変換回路3(LO2))へ、送信周波数F’での受信を開始させる。
【0041】
したがって、スプリット運用を必要とされる状況において、その運用を開始するスプリットスイッチ15の操作を行うだけで、素早く自動的に、送信周波数F’の設定と合わせて、その送信周波数F’の状況を確認するためにサブ側受信回路もONさせて、2波同時受信スイッチ16を操作したのと同じ状況を実現でき、操作性を向上することができる。これによって、交信機会を得易くすることができる。
【0042】
好ましくは、本実施形態の無線機1では、スプリットスイッチ15に第3の態様の操作が行われ、スプリット運用を開始する際は、制御回路5は、メインダイヤル12で設定されたメインバンド側の受信回路(周波数変換回路2)での受信周波数F(=MAIN RXRF(LO1))はそのままに、送信回路の送信周波数(TXLO)およびサブバンド側の受信回路(周波数変換回路3)の受信周波数(SUB RXRF(LO2))に、一旦、メインバンド側の受信周波数Fを設定(コピー)した後、さらにサブダイヤル13の設定による周波数差ΔF分、ずれた周波数F+ΔFを設定するので、サブダイヤル13の設定によって周波数差ΔFを予め設定しておいたり、或いは受信中にその周波数差ΔFを調整(変更)したりすることができるとともに、メインダイヤル12での設定がそのままコピーされて、サブバンド側の受信周波数(SUB RXRF(LO2))が大まかに設定されるので、操作が容易である。
【0043】
なお、スプリットスイッチ15の第3の態様の操作としては、第2の態様の長押しよりもさらに長い時間の長押しなどが考えられるが、本発明の目的が短時間操作であるので、たとえば事前の設定によって、長押しの場合、第2の態様の動作(受信周波数を送信周波数にコピーするスプリット動作)と、第3の態様の動作(スプリットおよび2波同時受信機能のON)との何れかを選択するようにしてもよい。