(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
排熱を用いて冷媒の蒸発と凝縮を利用したヒートポンプとして、吸着式ヒートポンプが知られている。これは、蒸発器で発生した冷媒の蒸気を吸着材に取り込む形で除去し、その後吸着材を加熱することで、取り込んだ冷媒を凝縮器側で放出し、再び冷媒の蒸気を取り込める状態にし、これを繰り返すことにより蒸発器側で冷熱を、凝縮器側で温熱を発生し続ける方法である。
【0003】
非特許文献1には、最新のゼオライト系水蒸気吸着材を適用した小型吸着式冷凍機の性能と導入事例が紹介されている。それによると、外形が1370mm×1100mm×750mm(容積1130×10
3cm
3)の装置1台で10kWの性能を発揮する。
【0004】
本発明に密接に関連する技術として、希薄気体中に温度勾配のある壁面が存在しているとき、壁面の低温部から高温部に向かって壁面に沿う一方向の熱遷移流が発生することが知られている。希薄気体とは、ある領域を考えたときに、その中で平衡状態が保たれないほど気体分子間の衝突が少ない場合の気体である。このような希薄気体の例としては、1cm
3程度の領域内の圧力が1Pa程度の低圧である場合、10nm×10nm×10nm程度の空間の狭い領域内の圧力が大気圧程度である場合等である。後者のように、孔径が10nm程度の領域内では大気圧でも希薄気体となって、熱遷移流を発生させることができる。
【0005】
例えば、非特許文献2には、媒体気体の平均自由行程の5倍以下の小さい孔径を有する細孔が内部に多数形成された多孔体膜を用いて、大気圧下で熱遷移流を発生させることが述べられている。大気圧下の空気の平均自由行程は約60nmである。非特許文献2では、多孔体膜の片面側の媒体気体をヒータによって加熱し、多孔体膜の片面とその裏面との間に温度差を発生させ、多孔体膜の内部に温度勾配を形成させ、多孔体膜の低温側から高温側に熱遷移流を発生させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の吸着式ヒートポンプでは、加熱と冷却のサイクルの時間的な切り替えが必要である。そのために複数のバルブ、それらを操作する制御機器等が必要となる。バルブには可動部分がありその可動制御を行うので、耐久性や信頼性のための配慮が必要となる。
【0008】
本発明の目的は、熱遷移流を用いることで、加熱と冷却のサイクル切り替えを不要とする可動部レスの熱遷移流ヒートポンプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る熱遷移流ヒートポンプは、液相の媒体
である水を蒸発させて気相の媒体
である水蒸気にする蒸発器、気相の媒体
である水蒸気を凝縮させて液相の媒体
である水にする凝縮器、蒸発器と凝縮器の間に設けられて可動部を有せずに蒸発器の内部圧力を減圧し且つ凝縮器の内部圧力を加圧するとともに蒸発器から凝縮器に向かって気相の媒体
である水蒸気を流す媒体輸送ユニット、及び、凝縮器で凝縮された液相の媒体
である水を蒸発器に還流させる媒体流路を備えるヒートポンプであって、蒸発器は、媒体流路によって還流された液相の媒体
である水を底面側に貯留し、液相の媒体
である水について媒体輸送ユニットによって内部圧力が減圧されることで、減圧された内部圧力を飽和蒸気圧とする気相の媒体
である水蒸気に蒸発させて媒体輸送ユニットを介して凝縮器側に流す蒸発器であり、凝縮器は、媒体輸送ユニットによって内部圧力が加圧されることで、蒸発器側から輸送される気相の媒体
である水蒸気について加圧された内部圧力を飽和蒸気圧とする液相の媒体
である水に凝縮させ底面に貯留する凝縮器であり、媒体輸送ユニットは、蒸発器側に配置され中温熱源流が流れる中温熱源部と、凝縮器側に配置され高温熱源流が流れる高温熱源部と、
媒体の飽和蒸気圧における平均自由行程の10倍以下の細孔径を有する多孔体または多孔性プレートが中温熱源部と高温熱源部と
に挟まれた構造を有し、蒸発器側の中温熱源流の中温と凝縮器側の高温熱源流の高温との間の温度差によって蒸発器側から凝縮器側に
気相の媒体
である水蒸気の熱遷移流を生じ
させる熱遷移流ポンプと、を含み、
媒体流路は、凝縮器と蒸発器とを接続する流路であり、蒸発器の内部圧力は、蒸発器において液相の媒体である水が蒸発するときの蒸発潜熱によって発生する冷熱の温度であって中温熱源流の温度よりも低温である冷熱の温度における飽和蒸気圧であり、凝縮器の内部圧力は、凝縮器において気相の媒体である水蒸気が凝縮するときに蒸発器における蒸発潜熱と同量の凝縮熱によって発生する温熱であって高温熱源流の温度よりも低温、且つ中温熱源流の温度よりも高温である温熱の温度における飽和蒸気圧であることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る熱遷移流ヒートポンプにおいて、中温熱源部は、熱遷移流ポンプの蒸発器側の面に直接的に接触して設けられ、蒸発器から熱遷移流ポンプに向かう
気相の媒体
である水蒸気の熱遷移流路
、及び、
気相の媒体
である水蒸気の熱遷移流路とは空間的に分離される中温熱源流路を有する熱伝導性物質で構成され、高温熱源部は、熱遷移流ポンプの凝縮器側の面に直接的に接触して設けられ、熱遷移流ポンプから凝縮器に向かう
気相の媒体
である水蒸気の熱遷移流路
、及び、
気相の媒体
である水蒸気の熱遷移流路とは空間的に分離される高温熱源流路を有する熱伝導性物質で構成されることが好ましい。
【0012】
本発明に係る熱遷移流ヒートポンプにおいて、媒体輸送ユニットを多段接続して、蒸発器側の圧力と凝縮器側の圧力との間の圧力差を所定の圧力差とすることが好ましい。
【0016】
本発明に係る熱遷移流ヒートポンプにおいて、中温熱源流および高温熱源流は、液体流または気体流であることが好ましい。
【0017】
本発明に係る熱遷移流ヒートポンプにおいて、高温熱源流は、廃熱源から熱回収を連続的に行う熱源流であることが好ましい。
【0018】
本発明に係る熱遷移流ヒートポンプにおいて、中温熱源流は、大気または室内空気と熱交換する熱交換器に接続されることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る熱遷移流ヒートポンプは、蒸発器と凝縮器との間に設けられる媒体輸送ユニットとして、中温熱源部と高温熱源部との間に熱遷移流ポンプを配置したものを用いる。熱遷移流ポンプは、その両側に温度差があると熱遷移流を発生するので、吸着型ヒートポンプのように加熱と冷却のサイクル切り替えをしなくても、連続的に蒸発器側から凝縮器側へ媒体を流し続けることができる。これにより、可動部レスの熱遷移流ヒートポンプとなる。
【0021】
本発明に係る熱遷移流ヒートポンプにおいて、熱遷移流ポンプとして、媒体の飽和蒸気圧における平均自由行程の10倍以下の細孔径を有する多孔体または多孔性プレートを用いることができる。同じ細孔径を有する多孔性プレートを用いることで、材料の選択幅が拡大する。
【0022】
本発明に係る熱遷移流ヒートポンプにおいて、中温熱源部は熱遷移流ポンプの蒸発器側の面に直接的に接触する熱伝導性物質で構成され、高温熱源部は熱遷移流ポンプの凝縮器側の面に直接的に接触する熱伝導性物質で構成される。例えば、銅板等で熱遷移流ポンプを挟んだ構成とできる。そして、これらの熱伝導性物質にはそれぞれ媒体の熱遷移流路と、媒体の熱遷移流路とは空間的に分離される熱源流路が設けられる。これにより、例えば、非接触式の輻射熱伝導を用いるものに比べ、熱遷移流ポンプの両側の温度差を効率よく生成することができる。また、これらの熱伝導物質にはそれぞれ媒体の熱遷移流路が設けられるので、接触熱伝導を用いても、熱遷移流ポンプによる熱遷移流を蒸発器側から凝縮器側に流すことができる。
【0023】
本発明に係る熱遷移流ヒートポンプにおいて、熱遷移流ポンプを含む媒体輸送ユニットは、1段で発生できる圧力差は小さい。そこで、これを多段接続することで、所定の圧力差を得ることができる。
【0024】
本発明に係る熱遷移流ヒートポンプにおいて、蒸発器側では低下した圧力に相当して低温の冷熱が出力され、凝縮器側では蒸発器側の圧力低下を補って媒体が凝縮されることで高温の温熱が出力される。これによって、可動部レスのヒートポンプを構成できる。
【0026】
本発明に係る熱遷移流ヒートポンプにおいて、媒体は、水、メタノール、エタノールの中の1つである。このように、特別な媒体を必要としない。
【0027】
本発明に係る熱遷移流ヒートポンプにおいて、中温熱源流および高温熱源流は、液体流または気体流である。したがって、熱源流を連続的に流すことが容易である。
【0028】
本発明に係る熱遷移流ヒートポンプにおいて、高温熱源流は、廃熱源から熱回収を連続的に行う熱源流である。これにより、特別な高熱発生装置を用いずに、室温より高温である廃熱を利用できるので、経済的である。
【0029】
本発明に係る熱遷移流ヒートポンプにおいて、中温熱源流は、大気または室内空気と熱交換する熱交換器に接続されるので、中温熱源流として特別な熱源を用いることなく、暖かい大気または室内空気を熱源流として利用できる。
【0030】
本発明に係る熱遷移流ヒートポンプにおいて、蒸発器から出力される冷熱が冷房用冷熱として用いられる。このように、凝縮器側の温熱で暖房を行い、蒸発器側の冷熱で冷房を行うヒートポンプとできる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下で述べる寸法、形状、材質、圧力、孔径、熱遷移流ポンプの接続数等は説明のための例示であって、熱遷移流ヒートポンプの仕様に応じ適宜変更が可能である。以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0033】
図1は、熱遷移流ヒートポンプ10の構成図である。
図1(a)は熱遷移流ヒートポンプ10の全体構成図である。熱遷移流ヒートポンプ10は、媒体の輸送手段として熱遷移流ポンプ70を用いたヒートポンプである。
【0034】
熱遷移流ヒートポンプ10は、蒸発器12と凝縮器14と媒体輸送ユニット16とを含む。熱遷移流ヒートポンプ10は、さらに中温熱源20と高温熱源22とを含む。媒体輸送ユニット16は、中温熱源部50と高温熱源部60と熱遷移流ポンプ70とを含む。
図1(a)では、蒸発器12、凝縮器14、媒体輸送ユニット16の断面図を示したが、媒体輸送ユニット16の部分の尺度を他の構成要素に比較して拡大して示した。
図1(a)に直交する3方向としてXYZ方向を示す。X方向は蒸発器12から凝縮器14に向かう方向であり、Y方向は紙面の手前側から向こう側に向かう方向であり、Z方向は媒体輸送ユニット16において媒体が流れる方向である。
【0035】
図1(b)は、中温熱源部50を媒体輸送ユニット16の−Z側である底面側から見た図であり、(c)は、高温熱源部60を媒体輸送ユニット16の+Z側である上面側から見た図である。
図1(b),(c)で示すA−A線に沿った媒体輸送ユニット16の断面図が
図1(a)に相当する。
【0036】
蒸発器12は、液相の媒体30を底面側に貯留し、蒸発器12の内部圧力が減圧されることで液相の媒体30を気相の媒体32に蒸発させる容器である。減圧は、媒体輸送ユニット16の熱遷移流ポンプ70の機能によって行われる。蒸発器12の外周壁に設けられるフィン46は、蒸発器12と外気または室内空気との間の熱交換を行う放熱フィンである。蒸発器12では、液相の媒体30が蒸発して気相の媒体32となるときの蒸発潜熱によって冷熱を発生する。発生した冷熱によって、外気または室内空気はフィン46を介して冷やされる。このように、蒸発器12で発生した冷熱を冷房用冷熱として利用することができる。
【0037】
凝縮器14は、内部圧力が加圧されることで気相の媒体34を液相の媒体36に凝縮させ底面に貯留する容器である。加圧は、媒体輸送ユニット16の熱遷移流ポンプ70の機能によって行われる。凝縮器14の外壁側に設けられるラジエータファン48は、凝縮器14と外気または室内空気との間の熱交換を行う放熱ファンである。凝縮器14では、気相の媒体34が凝縮して液相の媒体36となるときに蒸発器12における蒸発潜熱と同量の凝縮熱が放出されて温熱を発生する。発生した温熱によって、外気または室内空気はラジエータファン48を介して暖められる。このように、凝縮器14で発生した温熱を暖房用温熱として利用することができる。
【0038】
媒体流路38は、凝縮器14の底面に貯留された液相の媒体36を、蒸発器12の底面に還流させる流路である。媒体循環ポンプ40は、媒体流路38に設けられ、凝縮器14と蒸発器12との間の冷媒を循環させるポンプである。
【0039】
媒体としては、減圧によって気化し、加圧によって凝縮する流体を用いることができる。好ましくは、50℃以下における飽和蒸気圧が1013hPa以下で、蒸発潜熱が10kJ/mol以上の物質であることがよい。このような媒体として、
水を用いることができる。
参考実施例としては、これ以外でも、例えば、
メタノール、エタノール、NH
3等を媒体として用いてもよい。
【0040】
媒体輸送ユニット16は、蒸発器12と凝縮器14との間に設けられ、蒸発器12における減圧下の気相の媒体32を高圧下の気相の媒体34に変換して連続的に凝縮器14に輸送する可動部レスの媒体輸送装置である。媒体輸送ユニット16は、熱遷移流ポンプ70を中温熱源部50と高温熱源部60で挟んだ構造を有する。
【0041】
中温熱源部50は、熱伝導性物質で構成される板部材52に、中温熱源流路54と媒体の熱遷移流路56とを設けたものである。
図1(b)に中温熱源部50の平面図を示す。中温熱源流路54は、中温熱源20から供給される中温熱源流24を流す流路である。中温熱源流路54は、Y方向に平行な方向に設けられる。熱伝導性物質としては、熱伝導率が10W/m/Kから1000W/m/Kの範囲の物質を用いることが好ましい。例えば、銅、アルミニウム、ステンレス鋼等を用いることができる。
【0042】
中温熱源20は、室温程度の温度を有する冷却水である。
図1(a)では冷却水タンクで中温熱源20を示す。冷却水タンク等に熱交換器を設け、大気または室内空気と、冷却水との間の熱交換を行うことで、冷却水の温度をほぼ大気温度または室内空気温度と同じにできる。中温熱源流24は、冷却水流である。これによって、中温熱源部50は、中温熱源20である冷却水の温度を有する熱源となる。中温熱源流24として、冷却水流に代えて、他の中温液体流または中温気体流を用いてもよい。
【0043】
高温熱源部60は、熱伝導性物質で構成される板部材62に、高温熱源流路64と媒体の熱遷移流路66とを設けたものである。
図1(c)に高温熱源部60の平面図を示す。高温熱源流路64は、高温熱源22から供給される高温熱源流26を流す流路である。高温熱源流路64はY方向に平行な方向に設けられる。
【0044】
高温熱源22は、室温よりかなり高い温度を有する発熱体である。高温熱源22としては、回転電機やエンジン等の発熱する装置等の廃熱源を用いることができる。高温熱源流26は、この廃熱源からの熱流をそのまま用いることができる。ここでは、廃熱源の高温雰囲気の高温空気を高温ガス流として高温熱源流26として用いる。これによって、高温熱源流26は、廃熱源から熱回収を連続的に行う熱源流とでき、高温熱源部60は、高温熱源22である高温ガスの温度を有する熱源となる。高温熱源流26として、高温ガス流に代えて、他の高温気体流または高温液体流を用いてもよい。
【0045】
媒体の熱遷移流路56,66の内容を述べる前に、熱遷移流ポンプ70の説明を行う。熱遷移流ポンプ70は、多孔体膜で構成される。多孔体膜は、細孔72を含む細孔体膜で、複数の細孔72を所定の多孔率で有する多孔質の膜を用いることができる。細孔72は、媒体の飽和蒸気圧における平均自由行程の10倍以下の孔径を有する。多孔体膜は、熱伝導率の小さい材料で構成される。熱伝導率としては、0.2W/(m・K)以下が好ましい。多孔体膜における細孔72の多孔率は、例えば、孔部分の体積占有率で評価出来る。多孔率の一例を挙げると、約90%である。これ以外の多孔率であっても構わない。かかる多孔体膜としては、二酸化珪素(SiO
2)であるシリカを多孔質にしたエアロジェル(物質名)を用いることができる。細孔径が一様である多孔体プレートを用いてもよい。
【0046】
多孔体膜は、その一方側の端面と他方側の端面に温度差があると、低温側の端面から高温側の端面に向かって、熱遷移流74が生じる。媒体輸送ユニット16においては、多孔体膜である熱遷移流ポンプ70の蒸発器12側の端面に中温熱源部50が配置され、凝縮器14側の端面に高温熱源部60が配置される。中温熱源部50の温度はほぼ大気温度または室内空気温温度であり、高温熱源部60の温度はこれに比べかなり高温である。したがって、多孔体膜である熱遷移流ポンプ70の蒸発器12側が低温側の端面となり、凝縮器14側が高温側の端面となり、多孔体膜である熱遷移流ポンプ70の低温側端面である中温熱源部50から高温側端部である高温熱源部60へ向かって熱遷移流74が生じる。これによって、低温側空間である蒸発器12における気相の媒体32が、熱遷移流ポンプ70の中温熱源部50の側より吸い込まれ、細孔72を通って、高温熱源部60の側に抜けて高温側空間である凝縮器14へ流れる。したがって、低温側空間である蒸発器12は減圧され、高温側空間である凝縮器14は加圧される。
【0047】
熱遷移流ポンプ70における熱遷移流74の発生は、熱遷移流ポンプ70の中温熱源部50との界面の温度と、熱遷移流ポンプ70の高温熱源部60との界面の温度との間の温度差に影響される。この温度差が大きいほど、熱遷移流74の発生が増加する。そこで、中温熱源部50は、熱遷移流ポンプ70の蒸発器側の面に直接的に接触して配置され、高温熱源部60は、熱遷移流ポンプ70の凝縮器側の面に直接的に接触して配置される。直接的に接触して配置とは、密着して配置すること、熱伝導性のよい接着剤等で結合することを含む。直接的に接触して配置することで、熱遷移流ポンプ70の蒸発器側の面を冷却し、熱遷移流ポンプ70の凝縮器側の面を加熱することに比べ、中温熱源流24、高温熱源流26の熱量を効率よく熱遷移流ポンプ70の両側の面にそれぞれ伝熱でき、熱遷移流ポンプの両側の温度差を効率よく生成することができる。
【0048】
中温熱源部50と高温熱源部60は、それぞれ熱伝導性物質で構成される板部材52,62が用いられる。板部材52,62としては熱伝導性の高い金属を用いることが好ましい。熱伝導性の高い金属としては、熱伝導率が10W/m/Kから1000W/m/Kの範囲の金属を用いることが好ましい。例えば、銅、アルミニウム、ステンレス鋼等を板部材52,62として用いることがよい。
【0049】
熱遷移流ポンプ70の蒸発器側の面に中温熱源部50である金属製の板部材52を直接的に接触させると、蒸発器12の気相の媒体32が金属製の板部材52に妨げられて熱遷移流ポンプ70の蒸発器側の面に到達しない。そこで、中温熱源部50に媒体の熱遷移流路56が設けられる。媒体の熱遷移流路56は、蒸発器12から熱遷移流ポンプ70に向かう流路であって、熱遷移流74に対応する気相の媒体32が流れる流路である。媒体の熱遷移流路56は、冷却水が流れる中温熱源流路54とは空間的に分離されて設けられる。
図1(b)の例では、中温熱源流路54はY方向の流路で、媒体の熱遷移流路56はZ方向の流路で、互いに交差しないように配置される。これは配置の一例であって、互いに交差しない配置であれば、他の配置方法を用いてよい。
【0050】
同様に、高温熱源部60に媒体の熱遷移流路66が設けられる。媒体の熱遷移流路66は、熱遷移流ポンプ70から凝縮器14に向かう流路であって、熱遷移流74に対応する気相の媒体34が流れる流路である。媒体の熱遷移流路66は、高温熱源流26が流れる高温熱源流路64とは空間的に分離されて設けられる。
図1(c)の例では、高温熱源流路64はY方向の流路で、媒体の熱遷移流路66はZ方向の流路で、互いに交差しないように配置される。これは配置の一例であって、互いに交差しない配置であれば、他の配置方法を用いてよい。
【0051】
上記構成の媒体輸送ユニット16の寸法の一例を示す。中温熱源部50と高温熱源部60は基本的に同じ寸法で、Z方向に沿った厚さは約0.3mmである。熱遷移流ポンプ70のZ方向に沿った厚さは約0.4mmである。したがって、中温熱源部50と熱遷移流ポンプ70と高温熱源部60の積層体のZ方向に沿った厚さは合計で約1.0mmである。媒体輸送ユニット16としては、中温熱源部50の蒸発器12側に蒸発器12の気相の媒体32を流す流路が必要であり、同様に高温熱源部60の凝縮器14側に気相の媒体34を流す流路が必要である。これらから、媒体輸送ユニット16の全体としての必要な厚さは、約1.2mmと考えてよい。
【0052】
中温熱源部50における中温熱源流路54の直径、高温熱源部60における高温熱源流路64の直径は、それぞれ約0.3mm程度である。中温熱源部50における媒体の熱遷移流路56の直径、高温熱源部60における媒体の熱遷移流路66の直径は、それぞれ約0.3mmである。これらの寸法は、説明のための例示であり、これ以外の寸法であってもよい。
【0053】
上記構成の熱遷移流ヒートポンプ10によれば、蒸発器12で発生した冷熱を室内冷房用の冷熱として利用し、凝縮器14で発生した温熱を室内暖房用の温熱として利用するヒートポンプとなる。ここで、各部位における温度関係をまとめると以下の通りである。中温熱源20の温度θ1は、高温熱源22の温度θ3よりも低温である。蒸発器12が発生する冷熱の温度θ0は、θ1より低温である。凝縮器14で発生する温熱の温度θ2はθ3より低温で、θ0より高温である。一例を示すと、θ0は、室内冷房温度の15°C前後の温度であり、θ2は、室内暖房温度の25℃前後の温度である。θ1は、室温前後の温度で、室内が冷房を行うときは30℃前後の温度、室内が暖房を行うときは5℃前後の温度である。θ3は、回転電機やエンジンの廃熱温度であり、約100℃の温度である。
【0054】
上記構成の熱遷移流ヒートポンプ10を用いて冷暖房空調装置を構成する適用例を試算した。試算は、非特許文献1に開示されている小型吸着式冷凍機の特性と比較することを試みた。非特許文献1の小型吸着式冷凍機は、容積1130×10
3cm
3の装置1台で10kWの性能を発揮する。
【0055】
目標性能として、車両の室内空間の床面積を約20m
2とし、作動温度域を15〜30℃として、出力を2.4kWとした。試算の結果の一例を示すと、必要なポンプ性能は、蒸発器12の圧力を2kPa、凝縮器14の圧力を4kPa、流量を1g/sとすればよい。この流量を確保するには、
図1で説明した媒体輸送ユニット16の流路面積を増加させる必要があり、圧力差を確保するには、直列に多段接続する必要がある。
【0056】
図2に、蒸発器12(2kPa)から凝縮器14(4kPa)の間にN段の媒体輸送ユニット16を配置するモデル図を示す。熱遷移流ポンプ70の(圧力差−流量)特性は、媒体の圧力値によって変化する。媒体の圧力値が低くなるほど、同じ圧力差でも流量が少なくなる。
図3は、媒体の圧力値が変わると熱遷移流ポンプ70の(圧力差−流量)特性が変化することを示す図である。
図3の各図の横軸は圧力差、縦軸は単位面積当たりの熱遷移流の流量である。
【0057】
図3の各図は、θ3温度が220℃程度、θ1温度が20℃程度の場合における特性図である。
図3(a)は、蒸発器12の2kPaの圧力値における熱遷移流ポンプ70の(圧力差−流量)特性を示す。(c)は、凝縮器14の4kPaにおける熱遷移流ポンプ70の(圧力差−流量)特性であり、(b)はその中間の3kPaにおける熱遷移流ポンプ70の(圧力差−流量)特性である。
【0058】
これらの図から、例えば、単位面積当たりの流量Qを、0.06g/s/m
2とすると、蒸発器12の2kPaでは、約0.1kPaの圧力差が生じ、凝縮器14の4kPaでは、約0.4kPaの圧力差が生じる。中間の3kPaでは約0.3kPaの圧力差が生じる。このようなデータを逐次計算すると、蒸発器12の圧力を2kPa、凝縮器14の圧力を4kPaとするには、媒体輸送ユニット16をN=8段の直列接続構成が必要であることが分かった。このときの計算基礎は、単位面積当たりの流量Q=0.06g/s/m
2である。目標特性の流量1g/sとするには、[(1g/s)/(0.06g/s)}から、各段の媒体輸送ユニット16の流路面積は約17m
2が必要となる。
【0059】
したがって、2.4kWの出力を得るには、媒体輸送ユニット16としては、{8段×(面積17m
2)×(厚さ1.2mm)}の容積が必要である。この必要容積は、163×10
3cm
3である。非特許文献1の小型吸着式冷凍機において、2.4kWの出力に対応する容積は、{1130×10
3cm
3}×0.24=272×10
3cm
3である。このように、上記構成の熱遷移流ヒートポンプ10によれば、非特許文献1の小型吸着式冷凍機に比べ、容積で約60%の小型化が可能で、さらに、バルブ等の可動部とその制御装置が不要で信頼性が向上する。なお、
図3で示した圧力差−流量特性は、加熱方法や多孔体の厚さ、細孔径等の条件によって変化し、さらなる向上の余地がある。これらの特性が向上すれば、その向上に応じて、装置のさらなる小型化も可能である。
【0060】
図3に示されるように、熱遷移流ポンプ70の両端に発生する圧力差は、大きくても1kPa程度であるので、大気圧下で駆動する場合に比べて小さい圧力差であり、圧力差による熱遷移流ポンプ70の破断が抑制される。また、熱遷移流ポンプ70は、蒸発器12と凝縮器14の間に配置されて外界から隔離されているので、浮遊微粒子等による細孔72の目詰まりの発生が抑制される。なお、細孔72の径の上限は飽和蒸気圧下における平均自由行程の10倍以下としたが、下限は、目詰まり等の制約が無ければ、工業的に製作できる範囲であればよい。