特許第6459956号(P6459956)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6459956
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】耐油紙
(51)【国際特許分類】
   D21H 21/16 20060101AFI20190121BHJP
   D21H 19/10 20060101ALI20190121BHJP
   D21H 19/82 20060101ALI20190121BHJP
   D21H 19/46 20060101ALI20190121BHJP
【FI】
   D21H21/16
   D21H19/10 A
   D21H19/10 B
   D21H19/82
   D21H19/46
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-255749(P2015-255749)
(22)【出願日】2015年12月28日
(65)【公開番号】特開2017-119921(P2017-119921A)
(43)【公開日】2017年7月6日
【審査請求日】2017年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 英明
(72)【発明者】
【氏名】久保 直樹
【審査官】 河島 拓未
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−219786(JP,A)
【文献】 特開2006−307363(JP,A)
【文献】 特開2015−193944(JP,A)
【文献】 特開2015−190096(JP,A)
【文献】 特開2014−141750(JP,A)
【文献】 特開2006−316367(JP,A)
【文献】 特開2013−237941(JP,A)
【文献】 特開2015−021200(JP,A)
【文献】 特開2015−048563(JP,A)
【文献】 特開2005−29943(JP,A)
【文献】 特開2004−3050(JP,A)
【文献】 特開2012−219220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00−1/38
D21C 1/00−11/14
D21D 1/00−99/00
D21F 1/00−13/12
D21G 1/00−9/00
D21H 11/00−27/42
D21J 1/00−7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材の少なくとも片面に、下塗り塗工層と上塗り塗工層とを有する耐油紙であって、
前記下塗り塗工層は、酸化デンプンと、脂肪酸サイズ剤およびアルキルケテンダイマーの少なくとも1つとを含有し、
前記上塗り塗工層は、酸化デンプンおよびスチレンブタジエン共重合体の少なくとも1つを含有し、
前記紙基材が、内添サイズ剤を紙基材のパルプ100質量部に対して0〜0.3質量部含有する
ことを特徴とする耐油紙。
【請求項2】
前記上塗り塗工層が酸化デンプンを含有するとき、酸化デンプンの含有割合が前記上塗り塗工層の全固形分の50質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の耐油紙。
【請求項3】
前記上塗り塗工層が酸化デンプンを含有するとき、酸化デンプンが前記下塗り塗工層より前記上塗り塗工層に高い濃度で存在する請求項1または請求項2に記載の耐油紙。
【請求項4】
前記紙基材の表面と裏面の両面に、前記下塗り塗工層と前記上塗り塗工層とを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐油紙。
【請求項5】
前記紙基材の表面の前記上塗り塗工層は、酸化デンプンと脂肪酸サイズ剤、酸化デンプンとアルキルケテンダイマー、スチレンブタジエン共重合体、のいずれか1つを含有することを特徴とする請求項に記載の耐油紙。
【請求項6】
前記紙基材の裏面の前記上塗り塗工層が、無機微粒子をさらに含有することを特徴とする請求項または請求項に記載の耐油紙。
【請求項7】
前記下塗り塗工層および前記上塗り塗工層の少なくとも一方が、架橋剤で架橋されていることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の耐油紙。
【請求項8】
前記架橋剤が、エピクロルヒドリン系架橋剤であることを特徴とする請求項に記載の耐油紙。
【請求項9】
前記紙基材のパルプのカナダ標準フリーネスが80〜350mlであることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の耐油紙。
【請求項10】
坪量が20〜150g/mであることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の耐油紙。
【請求項11】
前記下塗り塗工層および前記上塗り塗工層の塗工量の合計が片面で1〜10g/mであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の耐油紙。
【請求項12】
前記紙基材が、広葉樹晒クラフトパルプを紙基材の全パルプ100質量%のうち60〜100質量%含有することを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の耐油紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装容器用素材として使用される耐油紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
耐油紙は、洗剤、菓子、乾燥食品等の包装容器用素材として広く使用されている。その用途としては様々なものがある。耐油性を付与した板紙については、菓子等の食品用の箱、とりわけ油脂分を大量に含むチョコレート菓子等の箱がある。耐油性を付与した薄葉紙については、ファーストフードにおけるハンバーガーや揚げ物を包装する容器、コンビニエンスストアにおけるテイクアウト食材の包装容器、等がある。
【0003】
紙に耐油性を付与する手段としては、優れた耐油性を有するフッ素樹脂系の耐油剤が従来から広く使用されている。例えば、紙の表面にフッ素樹脂系耐油剤を塗工して耐油層を設けたクッキングシートまたは紙層間にフッ素樹脂系耐油剤層を設けた菓子箱用の耐油板紙等が存在する。しかし、フッ素樹脂系耐油剤を使用した紙は、100〜180℃の食品調理温度で加熱した場合、炭素数8〜10のフッ素系アルコール化合物等の長期に残留しやすい成分が発生することが確認されている。また、これらのフッ素樹脂系耐油剤を使用した紙を使用後焼却した際には、パーフルオロオクタン酸やパーフルオロスルホン酸等のフッ素化合物が発生し、環境に影響を及ぼすことが懸念されている。そのため、フッ素樹脂系耐油剤を使用しない耐油紙が求められている。
【0004】
前記した熱分解するフッ素樹脂系耐油剤を用いた耐油紙に代わる耐油紙としては、ポリエチレンフィルム貼合紙、紙基材にアクリル樹脂系耐油剤を塗布したもの、ポリエチレン樹脂を塗布したもの、シリコーン系耐油剤やワックス系耐油剤を使用したものなどがある。また、熱を加えても不活性ガスを発生させないように製法が改良されたフッ素系樹脂を使用した耐油紙も開示されている。しかし、いずれも課題を有するため、一部実用化はされているものの、依然として使用者からの改善要望は根強い。
【0005】
フッ素樹脂系耐油剤を含まない耐油紙として、デンプンやポリビニルアルコールと脂肪酸とを塗工層に含む耐油紙が特許文献1に開示されている。また、疎水化デンプンと脂肪酸と架橋剤とを塗工層に含む耐油紙が特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4864331号公報
【特許文献2】国際公開第2005/014930号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載の耐油紙は、油分の多いファーストフード等の包装紙として用いた際に、油分が耐油紙を通り抜けたり、油分がしみとなったりして、使用する際に問題となることがある。これらの問題は薄葉の耐油紙の場合にはさらに顕著となる。ここで、油分が通り抜けるとは、耐油紙の表側表面に付着した油分が、耐油紙の裏側表面にまで到達して、裏側表面に油分がにじみ出ることである。また、油分のしみとは、耐油紙の表側表面に付着した油分が、耐油紙の内部の一部で拡がって油分の溜まりを形成し、紙を透かして見たときに油分が斑点上に見えることである。
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものである。本発明は、フッ素樹脂系耐油剤を含まない耐油紙であり、薄葉の耐油紙であっても油分の抜けや油分のしみが発生することを防止することができる、優れた耐油性を有する耐油紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、耐油性の塗工層を構成する材料として、特定のデンプンと特定のサイズ剤とを使用し、塗工層を2層設けると、耐油紙表面において油分の内部への浸透が極力阻止され、内部に浸透したときも油分が拡がらないようにできることを見出した。本発明は、以下のような構成を有している。
【0010】
(1)紙基材の少なくとも片面に、下塗り塗工層と上塗り塗工層とを有する耐油紙であって、前記下塗り塗工層は、酸化デンプンと、脂肪酸サイズ剤およびアルキルケテンダイマーの少なくとも1つとを含有し、前記上塗り塗工層は、酸化デンプンおよびスチレンブタジエン共重合体の少なくとも1つを含有することを特徴とする耐油紙。
【0011】
(2)前記紙基材の表面と裏面の両面に、前記下塗り塗工層と前記上塗り塗工層とを有することを特徴とする前記(1)に記載の耐油紙。
【0012】
(3)前記紙基材の表面の前記上塗り塗工層は、酸化デンプンと脂肪酸サイズ剤、酸化デンプンとアルキルケテンダイマー、スチレンブタジエン共重合体、のいずれか1つを含有することを特徴とする前記(2)に記載の耐油紙。
【0013】
(4)前記紙基材の裏面の前記上塗り塗工層が、無機微粒子をさらに含有することを特徴とする前記(2)または前記(3)に記載の耐油紙。
【0014】
(5)前記下塗り塗工層および前記上塗り塗工層の少なくとも一方が、架橋剤で架橋されていることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の耐油紙。
【0015】
(6)前記架橋剤が、エピクロルヒドリン系架橋剤であることを特徴とする前記(5)に記載の耐油紙。
【0016】
(7)前記紙基材が、内添サイズ剤を紙基材のパルプ100質量部に対して0〜0.3質量部含有することを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の耐油紙。
【0017】
(8)前記紙基材のパルプのカナダ標準フリーネスが80〜350mlであることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の耐油紙。
【0018】
(9)坪量が20〜150g/mであることを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれか1項に記載の耐油紙。
【0019】
(10)前記下塗り塗工層および前記上塗り塗工層の塗工量の合計が片面で1〜10g/mであることを特徴とする前記(1)〜(9)のいずれか1項に記載の耐油紙。
【0020】
(11)前記紙基材が、広葉樹晒クラフトパルプを紙基材の全パルプ100質量%のうち60〜100質量%含有することを特徴とする前記(1)〜(10)のいずれか1項に記載の耐油紙。
【発明の効果】
【0021】
本発明の耐油紙は、薄葉の耐油紙であっても油分の抜けや油分のしみが発生することを防止することができ、優れた耐油性を有している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態について以下説明する。但し、本発明の実施形態は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0023】
(耐油紙)
本実施形態の耐油紙は、紙基材の少なくとも片面に、フッ素樹脂系耐油剤を含まない特定の成分を有した下塗り塗工層と上塗り塗工層とを有している。特定の成分を有した下塗り塗工層と上塗り塗工層の2つの耐油層を有していることによって、両者の相乗効果が生まれ、油分の抜けや油分のしみが発生することを防止することが可能となり、薄葉の耐油紙であっても高いレベルの耐油性を発現させることが可能となった。
【0024】
下塗り塗工層と上塗り塗工層は、紙基材の片面にのみ形成されていてもよいし、紙基材の表面と裏面の両面に形成されていてもよい。下塗り塗工層と上塗り塗工層が紙基材の片面にのみ形成されているときは、耐油紙の表面と裏面とで耐油性能に明確な差異を設けて使用するときに有効である。下塗り塗工層と上塗り塗工層が紙基材の表面と裏面の両面に形成されていると、耐油紙の表裏を区別することなく使用することができ、表面と裏面の両方から油分の浸透を防止することが可能であり、より一層本発明の特徴を生かすことができるので好ましい。
【0025】
本実施形態における下塗り塗工層は、酸化デンプンと、脂肪酸サイズ剤およびアルキルケテンダイマーの少なくとも1つとを含有している。また、上塗り塗工層は、酸化デンプンおよびスチレンブタジエン共重合体の少なくとも1つを含有している。以下、下塗り塗工層と上塗り塗工層を構成する各成分について説明する。
【0026】
酸化デンプンは、従来から表面サイズ剤として使用されてきたものである。酸化デンプンは、デンプンを次亜塩素酸ナトリウムで酸化処理して得ることができる。デンプン粒子の非結晶部分が酸化処理されると、分子が解重合されたり、カルボキシ基が生成することによって、酸化しにくく、粘度安定性と透明性に優れた酸化デンプンを得ることができる。酸化デンプンは、化学的に安定であり、耐油性に優れているため、紙基材に塗工されることによって、紙基材に優れた耐油性を付与することができる。
【0027】
酸化デンプンの原料としては、例えばトウモロコシデンプン(コーンスターチ)、ワキシーコーンスターチ、馬鈴薯デンプン、タピオカデンプン、小麦デンプン、甘藷デンプン、米デンプン等を挙げることができる。また、これらのデンプンを2種類以上組み合わせて使用することもできる。
【0028】
脂肪酸サイズ剤は、従来から表面サイズ剤として使用されてきたものである。脂肪酸サイズ剤としては、基本的に脂肪酸成分が含まれていればよく、変性されたものや脂肪酸塩であってもよい。例えば、脂肪酸とアミンから生成する脂肪酸アミドや、脂肪酸とアルコールから生成する脂肪酸エステル等も好適に使用できる。脂肪酸としては、飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸のいずれであってもよいし、植物性脂肪酸であっても動物性脂肪酸であってもよい。
【0029】
紙用の脂肪酸サイズ剤として代表的なものは、脂肪酸をカチオンで変性させたものである。具体的には、脂肪酸、脂肪酸塩もしくは機能性を付与するために変性された脂肪酸に、ポリアミン系のカチオン性定着剤を付与したものであり、さらに、エピクロルヒドリン系変性剤でエポキシ化されているものである。本実施形態で使用する脂肪酸サイズ剤は、これら脂肪酸を利用したサイズ剤であれば、特に限定されないが、中でも、高級脂肪酸に、ポリアミンを反応させてポリアミド縮合物を生成し、さらにエピクロルヒドリン化合物でエポキシ化されているものが好ましい。
【0030】
高級脂肪酸としては、炭素数8〜30の脂肪族モノカルボン酸又は多価カルボン酸が好ましく、特に炭素数12〜25のものが好ましい。脂肪族カルボン酸としては、ステアリン酸、オレイン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、アラキン酸、ベヘン酸、トール油脂肪酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸等が挙げられる。ポリアミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジプロピレントリアミン、トリプロピレンテトラミンなどのポリアルキレンポリアミン;アミノエチルエタノールアミン等が挙げられる。高級脂肪酸とポリアミンとの縮合反応で得られるものとしては、3価以上のアミンと高級脂肪酸のアミドが好ましく、例えば、ポリエチレンポリアミンと高級脂肪酸の縮合物、ステアリン酸とメラミンの反応物などが挙げられる。脂肪酸と多価アミンの縮合物は、エピクロロヒドリンを用いて4級塩としたものがより好適に使用できる。
【0031】
アルキルケテンダイマーは、中性サイズ剤として従来から使用されてきたものである。好ましいケテンダイマーは、炭素数14〜22の直鎖状飽和脂肪酸から調製されるアルキルケテンダイマーである。アルキルケテンダイマーは紙の表面繊維にあるヒドロキシル基をエステル化させることによって、紙基材にサイズ性を付与すると考えられている。
【0032】
スチレン−ブタジエン共重合体は、従来から表面サイズ剤として使用されてきたものである。スチレン−ブタジエン共重合体についても特に限定するものではない。スチレン−ブタジエン共重合体は、通常、水中に微分散させたラテックスとして使用される。スチレン−ブタジエン共重合体のガラス転移温度については、−40℃〜0℃の範囲のものが成膜性に優れ、良好な耐油性が得られるため好ましい。ラテックスの粒子構造としては、単一構造、コア−シェル構造、連続異組成構造等が挙げられる。ラテックスの平均粒子径については、70〜150nmのものが成膜性が優れるため好ましい。
【0033】
本実施形態の耐油紙では、下塗り塗工層を構成する成分と上塗り塗工層を構成する成分は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
下塗り塗工層は、酸化デンプンと、脂肪酸サイズ剤およびアルキルケテンダイマーの少なくとも1つとを含有している。下塗り塗工層を構成する成分としては、紙基材上に皮膜を形成し、油分のしみと拡がりを抑制する観点から、酸化デンプンが必須成分であり、かつ主成分であることが好ましい。ここで、主成分とは、下塗り塗工層の全固形分の50質量%以上であることを意味している。下塗り塗工層の全固形分中の酸化デンプンの含有割合は、50〜90質量%が好ましく、65〜85質量%がより好ましい。また、酸化デンプンの塗膜は、製袋時等に機械等で表面をこすられたときに、粉状物の発生が少なく、好ましい。
【0034】
下塗り塗工層中の脂肪酸サイズ剤およびアルキルケテンダイマーは、いずれも酸化デンプンの有する耐油性をさらに向上させるために添加される成分である。いずれも酸化デンプンとの相溶性に優れている。また、酸化デンプン皮膜を形成させる観点から、いずれも含有される下塗り塗工層の全固形分の50質量%未満であることが好ましい。脂肪酸サイズ剤は、下塗り塗工層の全固形分中の含有割合で、5〜49質量%が好ましく、10〜25質量%がより好ましい。アルキルケテンダイマーは、下塗り塗工層の全固形分中の含有割合で、5〜49質量%が好ましく、10〜25質量%がより好ましい。
【0035】
本実施形態の耐油紙は、上記成分を有した下塗り塗工層を有することによって、油分が上塗り塗工層を通過してきたときであっても、油分がさらに内部にまで浸透することを阻止することができる。また、下塗り塗工層の一部は紙基材の一部まで浸透して存在していることから、耐油紙の表面に付着した油分が紙基材の内部に浸透したときであっても油分が拡がらないように阻止することができる。
【0036】
上塗り塗工層は、酸化デンプンおよびスチレンブタジエン共重合体の少なくとも1つを含有している。酸化デンプンおよびスチレンブタジエン共重合体は、耐油性に優れた塗膜を形成することができるため、耐油紙の表面に付着した油分が内部に浸透することを阻止するものである。
【0037】
下塗り塗工層または上塗り塗工層を構成する酸化デンプンは、架橋剤で架橋されていることが好ましい。すなわち、下塗り塗工層および上塗り塗工層のうち酸化デンプンを含有する少なくとも一方の層が、架橋剤で架橋されていることが好ましい。酸化デンプンは、架橋剤で架橋されることによって、一層耐油性が向上し、耐油紙の耐油性を向上させることができる。
【0038】
酸化デンプンの架橋剤は、特に限定されないが、具体的には、イソシアネート系樹脂、アミノアルデヒド系樹脂、グリオキザール系樹脂、エポキシ系樹脂、カルボジイミド系樹脂、無機金属塩、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エピクロルヒドリン系の化合物等が挙げられる。これらの中でも、安全性、経済性、反応性の観点から、エピクロルヒドリン系架橋剤であることが好ましく、ポリアミドエピクロルヒドリン樹脂が特に好ましい。架橋剤の添加量は、架橋剤の種類、反応するための基の数、反応率にもよるが、酸化デンプンの固形分に対し、1〜25質量%添加すればよい。
【0039】
下塗り塗工層の塗工量は、特に限定されないが、片面で、0.5〜5g/mであることが好ましく、1〜3g/mであることがより好ましい。また、上塗り塗工層の塗工量は、特に限定されないが、片面で、0.5〜5g/mであることが好ましく、1〜3g/mであることがより好ましい。さらに、下塗り塗工層および上塗り塗工層の塗工量の合計は、片面で、1〜10g/mであることが好ましく、2〜6g/mであることがより好ましい。また、下塗り塗工層および上塗り塗工層の塗工量の合計は、両面で、2〜20g/mであることが好ましく、4〜12g/mであることがより好ましい。
【0040】
本実施形態の耐油紙において、紙基材の表面と裏面の両面に下塗り塗工層と上塗り塗工層とを設ける場合、表面側の上塗り塗工層と裏面側の上塗り塗工層の組成を変えることができる。例えば、耐油紙の表面側と裏面側とを区別して包装容器を形成するとき、表面側が専ら油分に接するときは、表面側の上塗り塗工層の耐油性を裏面側の上塗り塗工層の耐油性よりも高めた構成とすることができる。表面側の上塗り塗工層の耐油性を裏面側の上塗り塗工層の耐油性よりも高めるとき、塗工層の組成を変えてもよいし、成分濃度を変えてもよいし、塗工量を変えてもよい。
【0041】
表面側のより優れた耐油性を確保するために、紙基材の表面側の上塗り塗工層は、酸化デンプンと脂肪酸サイズ剤、酸化デンプンとアルキルケテンダイマー、スチレンブタジエン共重合体、のいずれか1つを含有することが好ましい。また、上塗り塗工層中の脂肪酸サイズ剤とアルキルケテンダイマーはいずれも、酸化デンプン皮膜を形成させる観点から含有される上塗り塗工層の全固形分の50質量%未満であることが好ましい。脂肪酸サイズ剤は、上塗り塗工層の全固形分中の含有割合で、5〜49質量%が好ましく、10〜25質量%がより好ましい。アルキルケテンダイマーは、上塗り塗工層の全固形分中の含有割合で、5〜49質量%が好ましく、10〜25質量%がより好ましい。油しみを効果的に抑える観点から、脂肪酸サイズ剤を裏面側の上塗り塗工層にも含有させることが好ましい。
【0042】
上塗り塗工層に酸化デンプンを使用する場合も、酸化デンプンは主成分であることが好ましい。すなわち、上塗り塗工層中の酸化デンプンの含有割合は、上塗り塗工層の全固形分の50質量%以上であることが好ましい。上塗り塗工層の全固形分中の酸化デンプンの含有割合は、50〜90質量%が好ましく、65〜85質量%がより好ましい。また、酸化デンプンは裏面側の上塗り塗工層にも含有させることが好ましい。酸化デンプンの塗膜は、製袋時等に機械等で表面をこすられたときに、粉状物の発生が少なく、好ましい。
【0043】
本実施形態の耐油紙において、製袋時や製函時の加工性を向上させるために、紙基材の裏面の上塗り塗工層が、無機微粒子をさらに含有することが好ましい。無機微粒子を含有させることによって、紙間の摩擦係数を増大させて、製袋時や製函時のすべりやブロッキングを防止して、加工性を向上させることができる。
【0044】
無機微粒子としては、特に制限されるものではない。無機微粒子の具体例としては、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、カオリン、焼成カオリン、構造性カオリン、デラミカオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、シリカ、アルミノ珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、ホワイトカーボン、ベントナイト、ゼオライト、セリサイト、スメクタイト等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、シリカ、カオリン、焼成カオリン等である。
【0045】
塗工層の形成に用いる塗工液は、前記の各種成分の他に、バインダー、顔料などを含んでいてもよい。また、必要に応じて、分散剤、増粘剤、保水剤、消泡剤、着色剤等の通常用いられている各種助剤が適宜使用できる。
【0046】
バインダーとしては、カゼインやポリビニルアルコール等の水溶性高分子、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、カルボキシメチルセルロース系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂等の水分散液が使用できる。
【0047】
顔料としては、特に限定されないが、例えば、クレー、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、シリカ、アルミノ珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、ホワイトカーボン、ベントナイト、ゼオライト、セリサイト、スメクタイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、合成マイカ、二酸化チタン、酸化亜鉛などが挙げられる。これらの顔料は1種又は2種以上を混合して使用することができる。
【0048】
本実施形態の耐油紙は、特に限定されないが、坪量が20〜150g/mであることが好ましく、25〜80g/mであることがより好ましい。包装容器や箱等の成型容器用として使用することができる。
【0049】
(紙基材)
本実施形態の耐油紙に用いる紙基材としては、特に限定されず、各種の紙、板紙を使用することができ、用途に応じて適宜選択することができる。具体的には、晒または未晒クラフト紙、上質紙、中質紙、微塗工紙、塗工紙、板紙、白板紙、ライナー、セミグラシン紙、グラシン紙、片艶紙、パーチメント紙等が挙げられる。
【0050】
紙基材を構成するパルプとしては、特に限定されず、通常製紙用として使用されるあらゆるものが使用できる。例えば、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒サルファイトパルプ(LBSP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)等の化学パルプ、ストーングランドパルプ(GP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等の未晒、半晒、あるいは晒パルプ、亜硫酸パルプ、古紙パルプ等が使用できる。紙基材のパルプとしては、寸法安定性に優れるLBKPを多く配合することが好ましく、紙基材の全パルプ100質量%のうち60〜100質量%含有させることが好ましい。この範囲でLBKPを含有させることによって、紙基材中に塗工液を浸透させ乾燥させたとき、塗工液中の酸化デンプン、脂肪酸サイズ剤またはアルキルケテンダイマーの成分が下塗り塗工層より上塗り塗工層に高い濃度で存在するといった濃度勾配を有する塗工層を形成して、油抜けと油しみを効果的に抑制することができる。酸化デンプンが耐油紙の厚さ方向に濃度勾配を持って存在することは、例えばヨウ素デンプン反応で着色することによって、耐油紙の断面等の色の濃さから目視観察で評価することができる。
【0051】
紙基材の坪量は、特に限定されないが、16〜150g/mであることが好ましい。紙基材の坪量を上記範囲内とすることにより、塗工層を形成する際に必要な強度を保持させることができる。なお、紙基材の坪量は150g/mを超えると、折り目部分で紙基材の座屈が生じやすくなるため、紙基材の割れを生じ、折り目の耐油性が低下し易くなる傾向となる。また、紙基材のJAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.5−2:2000に準じて測定した王研式透気度は、特に限定されるものではないが、30〜200秒であることが好ましい。
【0052】
さらに、紙基材のパルプのJIS P 8121−1995に準じて測定したカナダ標準フリーネス(叩解度)は、特に限定されないが、塗工液の浸透性、塗工時の紙基材の強度等の観点から、80〜350mlとすることが好ましい。カナダ標準フリーネスのより好ましい範囲は100〜300mlである。
【0053】
なお、使用するパルプは、例えば、ビーター、ジョルダン、シングルディスク・リファイナー、コニカルリファイナー、円筒型リファイナー、デラックス・ファイナー、ダブル・ディスク・リファイナー(DDR)、媒体攪拌ミル、振動式ミル等の叩解機により上述した叩解度となるように調整される。叩解の条件は特に限定されないが、各種リファイナーの刃の形状、回転数、パルプの濃度、パルプの繊維長、パルプの粗度等が叩解後のパルプ物性に影響するので、所望の叩解度が得られるように適宜叩解条件が選択される。
【0054】
また、紙基材の密度は、特に限定されないが、0.6〜1.2g/cmとすることが好ましく、0.7〜1.1g/cmとすることがより好ましい。これにより、紙基材の塗工時の強度を高めることができる。紙基材の密度を上げる具体的方法としては、紙基材の抄造時に湿紙状態で加圧すること、乾燥後にマシンカレンダーやソフトニップカレンダー、グロスカレンダーを使用すること、あるいは紙基材抄造後にスーパーカレンダーを使用することが挙げられる。その中でも、湿紙時に使用する加圧処理は乾燥後のカレンダー処理と比較しても、紙基材水分が高い状態で圧力を与えることが可能であり、効率的に密度を上げることができるため好ましい。
【0055】
紙基材のサイズ度は、特に限定されないが、JIS P 8122:2004に準ずるステキヒトサイズ度が0〜10秒程度の範囲とすることが好ましい。紙基材のサイズ度は、ロジン系、アルキルケテンダイマー系、アルケニル無水コハク酸系、スチレン−アクリル系、高級脂肪酸系、石油樹脂系等の内添サイズ剤の種類や含有量、パルプの種類、平滑化処理等によって制御することができる。内添サイズ剤の含有量は、特に限定されないが、紙基材のパルプ100質量部に対して0〜0.3質量部程度の範囲が好ましい。内添サイズ剤は、塗工液を適度に浸透させる観点から通常よりも少量添加することが好ましく、添加しなくてもよい。より好ましくは0〜0.25質量部、更に好ましくは0.05〜0.25質量部である。紙基材に内添サイズ剤を少量添加することによって、塗工液の濃度が低く、且つ塗工量が多くても、塗工中に紙基材の紙切れが発生するおそれがない。一方、内添サイズ剤の含有量を0.3質量部以下とすることによって、塗工液中の酸化デンプン、脂肪酸サイズ剤またはアルキルケテンダイマーの成分が紙基材中に適度に浸透し、しかも下塗り塗工層より上塗り塗工層に濃度が高く存在するといった濃度勾配を有する塗工層を効果的に形成することができる。
【0056】
また、紙基材の厚みは、特に限定されないが、20μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましい。また、紙基材の厚みは、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。紙基材の厚みを上記範囲内とすることにより、適度な強度を有することができ、塗工層の塗工適性を高めることができる。
【0057】
紙基材にはさらに、添加剤を含有させてもよい。添加剤としては、硫酸バンド、カチオン性高分子電解質等に代表される定着剤、クレー、タルク、炭酸カルシウム、焼成カオリン、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化チタン、無定形シリカ、尿素−ホルマリン樹脂粒子等に代表される填料類、ポリアクリルアミド系ポリマー、デンプン等に代表される紙力増強剤、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリアミド−ポリアミン−エピクロルヒドリン樹脂等に代表される湿潤紙力増強剤、その他、濾水剤、青み付けなどの色調調整用の染料、蛍光染料など各種助剤類を挙げることができる。
【0058】
(耐油紙の製造方法)
<紙基材の製造方法>
紙基材は、常法により各種抄紙機により抄紙され、湿紙を形成した後、乾燥させることにより得ることができる。その後、表面サイズプレス処理マシンカレンダー等による平滑化処理等、常法による処理工程を経て製造される。
【0059】
抄紙機としては、エアクッションヘッドボックスあるいはハイドロリックヘッドボックスを有する長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、オントップ型ツインワイヤー抄紙機、ヤンキー抄紙機等を挙げることができる。
【0060】
<塗工液の調製>
塗工液は、前記の各種成分の他に、バインダー、顔料、必要に応じて、分散剤、増粘剤、保水剤、消泡剤、着色剤等の各種助剤を適宜添加して、調製される。塗工液の溶剤としては、通常、水が使用される。下塗り塗工層用塗工液の濃度は、固形分の濃度で、2〜10%が好ましく、4〜8%がより好ましい。上塗り塗工層用塗工液の濃度は、固形分の濃度で、10〜20%が好ましく、12〜18%がより好ましい。下塗り塗工層用塗工液の濃度を2〜10%とすることにより、紙基材になるべく浸透させて、油分のしみの拡がりを効果的に抑えることができる。一方、上塗り塗工層用塗工液の濃度を10〜20%とすることにより、紙基材になるべく浸透させずに塗工層として油分の浸透をブロックすることができる。すなわち、下塗り塗工層用塗工液よりも上塗り塗工層用塗工液の方が濃度が高く、耐油紙の上塗り塗工層から下塗り塗工層にかけて塗工液に濃度勾配があることが好ましい。
【0061】
<塗工層の形成方法>
紙基材の少なくとも片面に、下塗り塗工層用塗工液を塗工し、引き続き乾燥機を通して、塗工液を乾燥させる。次に、上塗り塗工層用塗工液を塗工し、引き続き乾燥機を通して、塗工液を乾燥させることによって、各塗工層を形成することができる。
【0062】
また、下塗り塗工層および上塗り塗工層の表面側と裏面側の塗工層は、それぞれ同時に塗工してもよいし、逐次塗工してもよい。生産性の点からは、同時に塗工する方が好ましい。一方、各塗工層を確実に形成するという観点からは、逐次塗工する方が好ましい。
【0063】
塗工液の塗工方法としては、一般に公知の塗工装置を用いることができ、例えばブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、バーコーター、カーテンコーター、スロットダイコーター、グラビアコーター、チャンプレックスコーター、ブラシコーター、スライドビードコーター、ツーロールあるいはロッドメタリング方式のサイズプレスコーター、ポンドサイズプレスコーター、ビルロッドメタリングサイズプレスコーター、ショートドウェルコーター、ゲートロールコーター、キャレンダーによるニップコーター等が適宜用いられる。中でも、生産効率を高めるために、バーコーターやブレードコーターを用いることが好ましい。また、フィルムトランスファーコーターとして、ゲートロールコーター、ロッドメタリングサイズプレスコーター、ブレードメタリングサイズプレスコーター等を挙げることができる。塗工については、オンマシンコーティングが生産効率の点で好ましい。本実施形態では、下塗り塗工層を構成する成分が同一である場合、ツーロール方式のポンドサイズプレスコーターで塗工することが好ましい。これにより、2本のロールの間に塗工液溜りを形成し、その液溜りを紙基材が通過し、更に2本のロールで絞られることで、紙基材内部に下塗り塗工液を浸透させることができる。一方、上塗り塗工層を構成する成分が異なっている場合、表裏で異なる塗工液を同時に塗工して生産効率を高める観点、また、より均一な被膜を形成させる観点から、フィルムトランスファーコーターを用いることが好ましい。これら塗工方法は特に限定されないが、例えばポンドサイズプレスコーターとフィルムトランスファーコーターとを組合せることによって、塗工液中の酸化デンプンまたは脂肪酸サイズ剤等の成分が紙基材中に適度に浸透し、しかも下塗り塗工層より上塗り塗工層に濃度が高く存在するといった濃度勾配を有する塗工層を効果的に形成することができる。本発明では、紙基材として非塗工紙を用いることによって、この効果を遺憾なく発揮させることができるため好ましい。
【0064】
また、本実施形態では塗工層形成後、必要に応じて平滑化処理を行うことができる。平滑化処理は通常のスーパーカレンダー、グロスカレンダー、ソフトカレンダー等の平滑化処理装置を用いて、オンマシン又はオフマシンで行われる。なお、本発明の効果を損なわない限りにおいて、塗工層塗工前の紙基材、または下塗り塗工層を形成した下塗り原紙を平滑化処理することも可能である。
【実施例】
【0065】
以下に実施例を挙げて本発明の耐油紙をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り、それぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
【0066】
(実施例1)
[A液(下塗り塗工層用塗工液)の調製]
以下、固形分換算の部数で酸化デンプン(商品名:エースA、王子コーンスターチ社製)水溶液の75部、脂肪酸サイズ剤(商品名:サイズパインDL−FA20、荒川化学社製)15部、ポリアミド・エピクロロヒドリン系架橋剤(ポリアミドエピクロルヒドリン樹脂、商品名:WS4024、星光PMC社製)10部からなる組成物を混合し、水を加えて固形分濃度8%の下塗り塗工層用塗工液(A液)を得た。
【0067】
[B液(上塗り塗工層用塗工液)の調製]
以下、固形分換算の部数で酸化デンプン(商品名:エースA、王子コーンスターチ社製)水溶液の75部、脂肪酸サイズ剤(商品名:サイズパインDL−FA20、荒川化学社製)15部、ポリアミド・エピクロロヒドリン系架橋剤(ポリアミドエピクロルヒドリン樹脂、商品名:WS4024、星光PMC社製)10部からなる組成物を混合し、水を加えて固形分濃度15%の上塗り塗工層用塗工液(B液)を得た。
【0068】
[C液(上塗り塗工層用塗工液)の調製]
以下、固形分換算の部数で酸化デンプン(商品名:エースA、王子コーンスターチ社製)水溶液の30部、脂肪酸サイズ剤(商品名:サイズパインDL−FA20、荒川化学社製)15部、重質炭酸カルシウム(商品名:FMT−97、ファイマテック社製)55部からなる組成物を混合し、水を加えて固形分濃度15%の上塗り塗工層用塗工液(C液)を得た。
【0069】
[耐油紙の作製]
カナダ標準フリーネスが220mlとなるようレファイナーで調整したLBKPからなるパルプを用い、内添填料として酸化チタン(商品名:R780、石原産業社製)を3%配合した坪量43.6g/mで抄造した非塗工紙を紙基材として用いた。この紙基材の両面に、ポンドサイズプレスコーターにて、A液を乾燥後の塗工量が両面で3g/mとなるように塗工し、乾燥させることにより、下塗り塗工層を形成して下塗り原紙を得た。この下塗り原紙を用いて、フィルムトランスファーコーターとしてロッドメタリングサイズプレスコーター(ロッドメタリングサイザーともいう)にて、一方の面にB液を乾燥後の塗工量が1.7g/mとなるように塗工し、他方の面にC液を乾燥後の塗工量が1.7g/mとなるように塗工し、乾燥させた。以上の工程を経ることによって、表面側にA液を用いた下塗り塗工層とB液を用いた上塗り塗工層とを形成し、裏面側にA液を用いた下塗り塗工層とC液を用いた上塗り塗工層とを形成して、表面と裏面の両面に下塗り塗工層と上塗り塗工層とを有する耐油紙を得た。この耐油紙の坪量は50g/mであった。また、紙基材のステキヒトサイズ度は1秒以下であった。
【0070】
(実施例2)
実施例1の耐油紙の作製において、上塗り塗工層用塗工液として、C液に代えてB液を用いた以外は、実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0071】
(実施例3)
[D液(下塗り塗工層用塗工液)の調製]
以下、固形分換算の部数で酸化デンプン(商品名:エースA、王子コーンスターチ社製)水溶液の90部、アルキルケテンダイマー(商品名:AD1606、星光PMC製)10部からなる組成物を混合し、水を加えて固形分濃度8%の下塗り塗工層用塗工液(D液)を得た。
【0072】
[E液(上塗り塗工層用塗工液)の調製]
以下、固形分換算の部数で酸化デンプン(商品名:エースA、王子コーンスターチ社製)水溶液の90部、アルキルケテンダイマー(商品名:AD1606、星光PMC製)10部からなる組成物を混合し、水を加えて固形分濃度15%の上塗り塗工層用塗工液(E液)を得た。
【0073】
[F液(上塗り塗工層用塗工液)の調製]
以下、固形分換算の部数で酸化デンプン(商品名:エースA、王子コーンスターチ社製)水溶液の30部、重質炭酸カルシウム(商品名:FMT−97、ファイマテック社製)70部からなる組成物を混合し、水を加えて固形分濃度15%の上塗り塗工層用塗工液(F液)を得た。
【0074】
[耐油紙の作製]
実施例1の耐油紙の作製において、A液に代えてD液を用いて、B液に代えてE液を用いて、C液に代えてF液を用いた以外は、実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0075】
(実施例4)
[G液(上塗り塗工層用塗工液)の調製]
以下、固形分換算の部数でカルボキシ変性ポリビニルアルコール(商品名:T330H、日本合成化学社製)水溶液の6部、カオリン(商品名:HTクレー、BASFジャパン社製)水分散液の60部、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(商品名:A6160、Tg:20℃、平均粒径135nm、旭化成社製)の34部からなる組成物を混合し、水を加えて固形分濃度30%の上塗り塗工層用塗工液(G液)を得た。
【0076】
[H液(上塗り塗工層用塗工液)の調製]
以下、固形分換算の部数で酸化デンプン(商品名:エースA、王子コーンスターチ社製)水溶液の2.5部、カオリン(商品名:HTクレー、BASFジャパン社製)水分散液の67.5部、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(商品名:A6160、Tg:20℃、平均粒径135nm、旭化成社製)の30部からなる組成物を混合し、水を加えて固形分濃度35%の上塗り塗工層用塗工液(H液)を得た。
【0077】
[耐油紙の作製]
実施例1の耐油紙の作製において、B液に代えてG液を用いて、C液に代えてH液を用いた以外は、実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0078】
(実施例5)
実施例1のA液及びB液の調製において、架橋剤を用いなかった以外は、実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0079】
(実施例6)
実施例2のA液及びB液の調製において、架橋剤を用いなかった以外は、実施例2と同様にして耐油紙を得た。
【0080】
(実施例7)
実施例4のA液の調製において、架橋剤を用いなかった以外は、実施例4と同様にして耐油紙を得た。
【0081】
(実施例8)
実施例1のB液の調製において、酸化デンプンの量を75部に代えて40部とし、脂肪酸サイズ剤の量を15部に代えて50部とした以外は、実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0082】
(比較例1)
実施例1の耐油紙の作製において、下塗り塗工層を形成せずに、紙基材の表面側にB液を用いた上塗り塗工層を形成し、裏面側にC液を用いた上塗り塗工層を形成して、上塗り塗工層だけの単層構造とした以外は、実施例1と同様にして耐油紙を得た。
【0083】
(比較例2)
実施例4の耐油紙の作製において、下塗り塗工層を形成せずに、紙基材の表面側にG液を用いた上塗り塗工層を形成し、裏面側にH液を用いた上塗り塗工層を形成して、上塗り塗工層だけからなる単層構造とした以外は、実施例4と同様にして耐油紙を得た。
【0084】
(比較例3)
比較例1のB液の調製において、架橋剤を用いなかった以外は、比較例1と同様にして耐油紙を得た。
【0085】
かくして得られた耐油紙について、以下の評価を行った。その結果は、表1に示す通りであった。
【0086】
(耐油度)
TAPPI UM−557法(キット法)により耐油紙の表面側の塗工面の耐油度を測定した。なお、本発明において耐油度は5級以上が好ましい。
【0087】
(油しみ)
耐油紙の表面側の塗工面上に、サラダ油を含浸させた3×3cmの正方形のろ紙を載せ、30分経過後、ろ紙を取り除き、油を拭き取った後、耐油紙への油のしみ広がりを目視観察し、下記の基準で評価した。3級以上が好ましいと判定した。
5級:全くしみが見えない。
4級:小さなしみがほとんど見られない。
3級:しみが僅かに見られるが、その広がりがほとんどない。
2級:しみが広がって見られるが、その広がりが不完全なろ紙(正方形)の形である。
1級:しみが著しく、完全なろ紙(正方形)の形まで広がっている。
【0088】
(油抜け)
白色のコピー用紙の上に耐油紙を裏面が重なるようにして載せ、耐油紙の表面側の塗工面上に、サラダ油を1滴のせ、4×4cmのプラスチック板を更にのせ、更にプラスチック板の上に100gの重りを載せ、30分経過後の、耐油紙の下に敷いたコピー用紙への油の抜けを目視観察し、下記の基準で評価した。○以上が好ましいと判定した。
◎:全く油が抜けず、コピー用紙に油のしみが全く見られない。
○:油抜けがほとんどなく、コピー用紙に油のしみがほとんどみられない。
△:油が抜けており、コピー用紙に小さなしみが数点見られる。
×:油が著しく抜けており、コピー用紙に大きなしみが見られる。
【0089】
(摩擦係数)
摩擦係数測定機(佐川製作所製)上にA4にカットされた耐油紙の裏面側を向い合せて重ねてのせ、6×10cmの寸法の1000gの重りを更にのせ、下側の耐油紙を固定したまま、上側の耐油紙に載せた重りを150mm/minの速度で45mm引張り、その時の耐油紙の裏面同士の静摩擦係数を測定した。本発明においては、耐油紙の製造過程あるいは耐油紙を用いた加工時に、山崩れや巻ずれを起こす虞があることから、例えば袋状に加工して内容物を包装する等の用途においては、裏面同士の静摩擦係数が高い方が好ましい。摩擦係数が0.3以上であるとき、好ましいと判定した。
【0090】
【表1】
【0091】
実施例1〜8では、キット法、油しみ、油抜けのいずれの耐油性においても優れていた。実施例2と実施例6は摩擦係数が小さく、山崩れを起こす可能性があり、製袋時の加工性に懸念を有していたが、紙基材の裏面の上塗り塗工層が無機微粒子を含有する実施例1、実施例3〜5および実施例7は摩擦係数が高く、製袋時の加工性に優れたものであった。
【0092】
一方、比較例1は、下塗り塗工層を有していないため、キット法による耐油性が低く、油しみと油抜けの耐油性においても劣っていた。比較例2は、比較例1と同様に下塗り塗工層を有していないため、キット法による耐油性が低く、油しみの耐油性に劣っていた。比較例3は、比較例1に架橋剤を添加していない構成のため、比較例1に比べて油しみにおいてさらに劣っていた。