特許第6460059号(P6460059)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6460059
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20190121BHJP
   H01M 8/0606 20160101ALI20190121BHJP
   H01M 8/04007 20160101ALI20190121BHJP
   H01M 8/04701 20160101ALI20190121BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20190121BHJP
【FI】
   H01M8/04 J
   H01M8/0606
   H01M8/04007
   H01M8/04701
   H01M8/10
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-140864(P2016-140864)
(22)【出願日】2016年7月15日
(65)【公開番号】特開2018-10844(P2018-10844A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2017年10月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】青木 正和
(72)【発明者】
【氏名】山内 崇史
(72)【発明者】
【氏名】廣田 靖樹
(72)【発明者】
【氏名】岩田 隆一
【審査官】 橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−022364(JP,A)
【文献】 特開2004−281243(JP,A)
【文献】 特開2004−171973(JP,A)
【文献】 特表2006−512738(JP,A)
【文献】 特表2009−535572(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0028741(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M8/00−8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えた燃料電池システム。
(1)前記燃料電池システムは、
水素貯蔵材料を内封した複数の反応器と、
水素ガスを貯蔵するための水素タンクと、
燃料電池と、
前記反応器又は前記燃料電池からの排熱を外界に放出するための冷却装置と、
前記反応器、前記水素タンク、及び前記燃料電池の間で前記水素ガスの供給経路を切り替え可能な水素ガスラインと、
前記反応器、前記燃料電池、及び前記冷却装置の間で熱交換媒体の循環経路を切り換え可能な熱交換ラインと、
前記水素ガスの供給経路、及び前記熱交換媒体の循環経路を切り換える制御機構と
を備えている。
(2)前記水素ガスラインは、
前記水素タンクから少なくとも1つの前記反応器に前記水素ガスを供給する供給経路(A)と、
少なくとも1つの前記反応器から前記燃料電池に前記水素ガスを供給する供給経路(B)と、
前記水素タンクから前記燃料電池に前記水素ガスを供給する供給経路(C)と、
を備えている。
(3)前記熱交換ラインは、
少なくとも1つの前記反応器と前記冷却装置との間で前記熱交換媒体を循環させる循環経路(A)と、
少なくとも1つの前記反応器と前記燃料電池との間で前記熱交換媒体を循環させる循環経路(B)と、
前記燃料電池と前記冷却装置との間で前記熱交換媒体を循環させる循環経路(C)と
を備えている。
(4)前記燃料電池の生成水を貯蔵し、前記熱交換媒体との熱交換によって前記生成水を沸騰させる沸騰器をさらに備え、
前記沸騰器は、前記循環経路(A)に接続されている。
【請求項2】
前記反応器及び前記燃料電池の温度を計測する温度計測手段をさらに備え、
前記制御機構は、前記温度計測手段により計測される前記温度に基づいて、前記水素ガスの供給経路、及び前記熱交換媒体の循環経路を切り換える判定手段を備えている請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記制御機構は、切替手段(A)を備え、
前記切替手段(A)は、
前記燃料電池と反応器(A)との間で前記熱交換媒体を循環させ、かつ前記反応器(A)から前記燃料電池に前記水素ガスを供給する水素放出工程と、
前記水素タンクから反応器(B)(B≠A)に前記水素ガスを供給し、かつ前記反応器(B)と前記冷却装置との間で前記熱交換媒体を循環させる水素吸蔵工程と
が同時に又は個別に行われるように、前記水素ガスの供給経路、及び前記熱交換媒体の循環経路を切り換えるものである請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記制御機構は、切替手段(B)を備え、
前記切替手段(B)は、
反応器(A)からの水素放出及び前記燃料電池と前記反応器(A)との間の熱交換、並びに、反応器(B)(B≠A)への水素吸蔵及び前記反応器(B)と前記冷却装置との間の熱交換を同時に行う工程と、
前記反応器(B)からの水素放出及び前記燃料電池と前記反応器(B)との間の熱交換、並びに、前記反応器(A)への水素吸蔵及び前記反応器(A)と前記冷却装置との間の熱交換を同時に行う工程と、
を交互に繰り返すものである請求項1から3までのいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記制御機構は、切替手段(C)を備え、
前記切替手段(C)は、
前記燃料電池と反応器(C)との間で前記熱交換媒体を循環させ、かつ前記反応器(C)から前記燃料電池に前記水素ガスを供給する工程と、
前記水素タンクから前記反応器(C)に前記水素ガスを供給し、かつ前記反応器(C)と前記冷却装置との間で前記熱交換媒体を循環させる工程と
が交互に繰り返されるように、前記水素ガスの供給経路、及び前記熱交換媒体の循環経路を切り換えるものである請求項1から4までのいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記水素貯蔵材料は、水素圧力が0.1MPaとなる時の平衡温度が前記燃料電池の最大排熱温度以下であるものからなる請求項1から5までのいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記水素貯蔵材料は、水素圧力が10MPaとなる時の平衡温度が前記燃料電池の最大排熱温度より高いものからなる請求項1から6までのいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関し、さらに詳しくは、燃料源として、水素ガスを貯蔵した水素タンクと、水素貯蔵材料が内封された反応器の双方を備えた燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水素を燃料ガスに用いた燃料電池システムにおいて、水素源には、水素ガスタンク、液体水素タンク、水素貯蔵材料を充填したタンクなどが用いられる。これらの内、水素貯蔵材料を充填したタンクは単位体積あたりの水素貯蔵密度が高いので、システムを小型化することができる。そのため、これを用いた燃料電池システムは、特に移動体用のエネルギー源として好適である。
燃料電池には適切な作動温度域があるため、高い発電効率を得るためには、燃料電池の温度を適切な温度範囲に維持する必要がある。また、水素貯蔵材料は、水素ガスの吸蔵時には発熱を伴い、水素ガスの放出時には吸熱を伴うため、適時に水素を吸蔵/放出させるためには、水素貯蔵材料の熱管理が必要となる。
【0003】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、燃料電池システムの始動時において、
(a)駆動モータの車両駆動出力軸を固定した状態で駆動モータに電力を供給し、駆動モータにより消費された電力を熱として放出させ、この熱を用いて燃料電池の冷却水温度を上昇させると同時に、
(b)発電可能な電力より低い電力出力で燃料電池スタックを発電させ、燃料電池スタック自身を発熱させることで、燃料電池スタックを内部から暖機する
燃料電池システムが開示されている。
同文献には、このような方法により、エネルギーロスを大きくすることなく燃料電池スタックの暖機を促進できる点が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、1つのラジエタファンを用いて燃料電池の冷却液と他の放熱手段とを同時に冷却する場合において、燃料電池の冷却液を所定の比率でラジエタ方向とラジエタバイパス方向に分流する冷却系制御装置が開示されている。
同文献には、ラジエタファンを用いて、主として他の放熱手段を冷却する時には、燃料電池の冷却液をラジエタバイパス方向により多く流すことにより、燃料電池の冷却液の温度が過度に低下することを抑制できる点が記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、燃料電池とラジエタとの間で冷却液を循環させ、ラジエタをファンで冷却する場合において、
(a)ファンの回転数に制限回転数を設け、
(b)燃料電池の使用環境に応じて制限回転数を変更可能とし、かつ、
(c)燃料電池の使用環境が変化し、制限回転数の変更が必要となった時には、使用環境の変化よりも遅れて制限回転数を変更する
燃料電池の冷却制御装置が開示されている。
同文献には、このような方法により、冷却性能と音振性能の双方の要求を両立することができる点が記載されている。
【0006】
さらに、非特許文献1には、水素タンクと燃料電池の間に水素吸蔵合金を内封した2つの反応器を設置し、水素吸蔵合金の水素吸蔵/放出に伴う発熱/吸熱を空調に用いるシステムが提案されている。
【0007】
燃料電池の温度管理は、一般にラジエタを用いて行われている。燃料電池とラジエタとの間で冷却液を循環させる場合において、燃料電池の排熱温度が相対的に低い時には、ラジエタの熱交換部と外界温度との温度差ΔTが小さくなる。この場合、燃料電池からの排熱処理を効率良く行うためには、大型のラジエタが必要となる。しかし、大型のラジエタを用いると、燃料電池システムの形状自由度が低下する。
【0008】
一方、非特許文献1には、水素吸蔵合金の水素吸蔵/放出に伴う発熱/吸熱を空調に用いるシステムが開示されている。しかし、例えば、空調が冷却を必要としている時には、空調の熱を用いて水素吸蔵合金から水素を放出させることはできるが、水素吸蔵時の発熱を空調で利用することはできない。一方、空調が加熱を必要としている時には、水素吸蔵時の発熱を空調で利用することはできるが、水素吸蔵合金から水素を放出させる際には、他に熱源が必要となる。そのため、水素吸蔵合金と空調とを単に熱的に接続しただけのシステムでは、熱の有効利用が不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−247164号公報
【特許文献2】特開2004−259472号公報
【特許文献3】特開2006−228629号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Int. J. Hydrogen Energy 36(2011)3215-3221
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、水素タンク及び水素貯蔵材料を水素源に用いた燃料電池システムにおいて、大型の冷却装置を用いることなく燃料電池の温度を適切な温度に維持することを可能にすることにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、水素タンク及び水素貯蔵材料を水素源に用いた燃料電池システムにおいて、他の熱源や冷却源を用いることなく、水素の吸蔵/放出を可逆的に行うことを可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明に係る燃料電池システムは、以下の構成を備えていることを要旨とする。
(1)前記燃料電池システムは、
水素貯蔵材料を内封した複数の反応器と、
水素ガスを貯蔵するための水素タンクと、
燃料電池と、
前記反応器又は前記燃料電池からの排熱を外界に放出するための冷却装置と、
前記反応器、前記水素タンク、及び前記燃料電池の間で前記水素ガスの供給経路を切り替え可能な水素ガスラインと、
前記反応器、前記燃料電池、及び前記冷却装置の間で熱交換媒体の循環経路を切り換え可能な熱交換ラインと、
前記水素ガスの供給経路、及び前記熱交換媒体の循環経路を切り換える制御機構と
を備えている。
(2)前記水素ガスラインは、
前記水素タンクから少なくとも1つの前記反応器に前記水素ガスを供給する供給経路(A)と、
少なくとも1つの前記反応器から前記燃料電池に前記水素ガスを供給する供給経路(B)と、
前記水素タンクから前記燃料電池に前記水素ガスを供給する供給経路(C)と、
を備えている。
(3)前記熱交換ラインは、
少なくとも1つの前記反応器と前記冷却装置との間で前記熱交換媒体を循環させる循環経路(A)と、
少なくとも1つの前記反応器と前記燃料電池との間で前記熱交換媒体を循環させる循環経路(B)と、
前記燃料電池と前記冷却装置との間で前記熱交換媒体を循環させる循環経路(C)と
を備えている。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る燃料電池システムは、燃料源として、水素ガスを貯蔵した水素タンクと、水素貯蔵材料を内封した複数個の反応器の双方を備えている。そのため、始動時には水素タンクから燃料電池に水素を供給することにより、速やかに燃料電池の温度を適切な温度まで上昇させることができる。
【0014】
また、燃料電池の温度が所定の温度まで上昇した時には、燃料電池からの排熱を用いて少なくとも1つの反応器(A)を加熱し、反応器(A)から水素を放出させることができる。反応器(A)から放出された水素は、そのまま燃料電池の燃料として使用できる。
これと同時に、少なくとも1つの他の反応器(B)と冷却装置とを熱的に接続し、反応器(B)内に水素ガスを供給すると、反応器(B)内の水素貯蔵材料に水素を吸蔵させると同時に、冷却装置を用いて吸蔵熱を外界に放出することができる。
【0015】
そのため、燃料電池の温度を適切な温度に維持するために、大型の冷却装置を用いる必要がない。また、反応器(A)の水素放出/反応器(B)の水素吸蔵と、反応器(A)の水素吸蔵/反応器(B)の水素放出とを交互に繰り返すと、他の熱源や冷却源を用いることなく、水素の吸蔵/放出を可逆的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る燃料電池システムの模式図である。
図2】反応器(A)で水素吸蔵を行い、反応器(B)で水素放出を行う場合の水素ガスの供給経路及び熱交換媒体の循環経路の模式図である。
図3】反応器(A)で水素放出を行い、反応器(B)で水素吸蔵を行う場合の水素ガスの供給経路及び熱交換媒体の循環経路の模式図である。
図4】水素タンクから反応器を経由して燃料電池に水素ガスを供給する場合の水素ガスの供給経路及び熱交換媒体の供給経路の模式図である。
図5】水素タンクから直接、燃料電池に水素ガスを供給する場合の水素ガスの供給経路及び熱交換媒体の供給経路の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 燃料電池システム]
図1に、本発明に係る燃料電池システムの模式図を示す。図1において、燃料電池システム10は、
水素貯蔵材料を内封した複数の反応器12と、
水素ガスを貯蔵するための水素タンク14と、
燃料電池16と、
反応器12、又は燃料電池16からの排熱を外界に放出するための冷却装置18と、
反応器12、水素タンク14、及び燃料電池16の間で水素ガスの供給経路を切り替え可能な水素ガスライン30と、
反応器12、燃料電池16、及び冷却装置18の間で熱交換媒体の循環経路を切り換え可能な熱交換ライン40と、
水素ガスの供給経路、及び熱交換媒体の循環経路を切り換える制御機構(図示せず)と
を備えている。
燃料電池システム10は、さらに、沸騰器20及び/又は温度計測手段(図示せず)を備えていても良い。
【0018】
[1.1. 反応器]
[1.1.1. 反応器の構造]
反応器12は、水素貯蔵材料を内封するためのものである。反応器12は、水素貯蔵材料の収容スペースと、熱交換媒体と熱交換するための熱交換器(図示せず)とを備えている。反応器12の構造は、水素の吸蔵/放出、及び熱交換媒体との熱交換が可能な限りにおいて、特に限定されない。
【0019】
[1.1.2. 反応器の数]
図1において、燃料電池システム10は、反応器(A)12a、及び反応器(B)12bの合計2個の反応器12を備えているが、これは単なる例示である。本発明において、反応器12の数は特に限定されない。
【0020】
反応器12は、
(a)燃料電池16からの排熱を用いて水素貯蔵材料から水素を放出し、放出した水素を燃料電池16に供給している状態(以下、単に「放出」ともいう)、
(b)水素タンク14から供給される水素ガスを水素貯蔵材料に吸蔵させ、吸蔵熱を冷却装置18により外界に排出している状態(以下、単に「吸蔵」ともいう)、又は、
(c)水素貯蔵材料による水素の吸蔵/放出が行われておらず、かつ、燃料電池16又は冷却装置18との間で熱交換が行われていない状態(以下、単に「休止」ともいう)
のいずれかの状態を取る。
【0021】
各反応器12の状態の変更は、制御機構を用いて水素ガスライン30及び熱交換ライン40を切り替えることにより行われる。
例えば、2つの反応器12(反応器(A)12a、及び反応器(B)12b)を備えた燃料電池システム10において、定常運転時には、通常、
(a)反応器(A)12aが放出であり、かつ反応器(B)12bが吸蔵である状態と、
(b)反応器(A)12aが吸蔵であり、かつ反応器(B)12bが放出である状態と
が交互に繰り返される。
【0022】
3個以上の反応器12を備えた燃料電池システム10において、3個目以降の反応器12の状態は、目的に応じて任意に選択することができる。
例えば、各反応器12が、それぞれ、放出→吸蔵→休止の状態を周期的に繰り返すように、水素ガスライン30及び熱交換ライン40を制御しても良い。あるいは、2個以上の反応器12を水素ガスライン30及び熱交換ライン40に直列又は並列に接続し、2個以上の反応器12が同時に放出→吸蔵の状態、又は放出→吸蔵→休止の状態を周期的に繰り返すように、水素ガスライン30及び熱交換ライン40を制御しても良い。水素ガスライン30及び熱交換ライン40の制御方法の詳細については、後述する。
【0023】
[1.1.2. 水素貯蔵材料]
各反応器12には、それぞれ、水素貯蔵材料が内封されている。本発明において、水素貯蔵材料の組成は特に限定されない。各反応器12には、それぞれ、同種の水素貯蔵材料が内封されていても良く、あるいは、各反応器12毎に、それぞれ、異種の水素貯蔵材料が内封されていても良い。また、各反応容器12に内封される水素貯蔵材料の量は、同一であっても良く、あるいは異なっていても良い。
【0024】
燃料電池16は、その種類に応じて、最大排熱温度(Tmax)が異なる。燃料電池16の排熱のみを用いて水素を放出させるためには、水素貯蔵材料は、水素圧力が0.1MPaとなる時の平衡温度(以下、これを「最低平衡温度(TL)」ともいう)が燃料電池16の最大排熱温度(Tmax)以下であるものが好ましい。最低平衡温度(TL)は、好ましくは、0.9×Tmax以下である。
なお、最低平衡温度(TL)が室温より高く、かつ、反応器12を加熱するための外部熱源がない場合、始動時に反応器12から燃料電池16に水素を供給することはできない。この場合、燃料電池16の温度がTLを超えるまで、水素タンク14から燃料電池16に直接、水素ガスが供給される。
【0025】
一方、燃料電池16の最大排熱温度(Tmax)を超える発熱温度の実現に対し、必要以上の圧力が必要になると、反応器12が破損するおそれがある。従って、水素貯蔵材料は、水素圧力が10MPaとなる時の平衡温度(以下、これを「最高平衡温度(TH)」ともいう)が燃料電池16の最大排熱温度(Tmax)より高いものが好ましい。最高平衡温度(TH)は、さらに好ましくは、1.1×Tmax以上である。
【0026】
[1.2. 水素タンク]
水素タンク14は、水素ガスを貯蔵するためのものである。本発明において、水素タンク14の構造、容量等は、特に限定されない。水素タンク14中の水素ガスは、燃料電池16に供給される場合と、反応器12に供給される場合がある。この点は、後述する。
【0027】
[1.3. 燃料電池]
本発明において、燃料電池16の種類は、特に限定されない。特に、固体高分子型燃料電池は、最大排熱温度(Tmax)が他の燃料電池に比べて低く、外界温度との温度差ΔTが相対的に小さい。そのため、効率よく冷却するためには、相対的に大きな冷却装置18が必要となる。これに対し、固体高分子型燃料電池に対して本発明を適用すると、冷却装置18を小型化することができる。
【0028】
[1.4. 冷却装置]
冷却装置18は、反応器12又は燃料電池16からの排熱を外界に放出するためのものである。本発明において、冷却装置18は、熱交換媒体の循環経路を切り替え可能な熱交換ライン40を介して、反応器12及び燃料電池16の中で最も温度の高いものに接続される。そのため、熱源と外界温度との差ΔTを大きくすることができる。また、これによって、単に燃料電池16と冷却装置18との間で熱交換媒体を循環させる場合に比べて、冷却装置18を小型化することができる。
熱交換媒体の組成は、特に限定されない。
【0029】
[1.5. 沸騰器]
沸騰器20は、燃料電池16の生成水を貯蔵し、熱交換媒体との熱交換によって生成水を沸騰させるためのものである。沸騰した生成水は、水蒸気として沸騰器20から排出される。沸騰器20は、必ずしも必要ではないが、熱交換媒体の循環経路に沸騰器20を設置すると、冷却装置18を小型化することができる。
【0030】
沸騰器20の設置位置は、特に限定されない。例えば、燃料電池16の最大排熱温度(Tmax)よりも水素貯蔵材料の最高平衡温度(TH)が高い場合、水素を吸蔵している時の反応器12の温度は、通常、Tmaxより高くなる。このような場合、沸騰器20は、少なくとも1つの反応器12と冷却装置18との間で熱交換媒体を循環させる循環経路(A)に接続されているのが好ましい。沸騰器20は、冷却装置18に対して、熱交換媒体の流れの上流側に接続されていても良く、あるいは、下流側に接続されていても良い。
【0031】
[1.6. 水素ガスライン]
水素ガスライン30は、反応器12、水素タンク14、及び燃料電池16の間で水素ガスの供給経路を切り替え可能なものからなる。すなわち、水素ガスライン30は、
水素タンク14から少なくとも1つの反応器12に水素ガスを供給する供給経路(A)と、
少なくとも1つの反応器12から燃料電池16に水素ガスを供給する供給経路(B)と、
水素タンク14から燃料電池16に水素ガスを供給する供給経路(C)と
を備えている。
供給経路(C)は、少なくとも1つの反応器12を経由して燃料電池16に水素ガスを供給するものでも良く、あるいは、反応器12を経由することなく燃料電池16に水素ガスを供給するものでも良い。
【0032】
水素ガスライン30は、具体的には、
(a)反応器12、水素タンク14、及び燃料電池16の間を接続し、水素ガスを流すためのガス管と、
(b)水素ガスの流れを切り替えるための三方弁、開閉バルブ等と
を備えている。上述した機能を奏する限りにおいて、ガス管、三方弁、開閉バルブ等の配置は特に限定されない。
【0033】
図1に示す燃料電池システム10において、水素タンク14の水素ガスの出口は、ガス管32aを介して反応器(A)12aの水素ガスの入口に接続されている。ガス管32aの途中には、開閉バルブ34aが設けられている。また、反応器(A)12aの水素ガスの出口は、ガス管32bを介して燃料電池16のアノードの入り口に接続されている。ガス管32aの途中には、開閉バルブ34bが設けられている。
【0034】
また、水素タンク14の水素ガスの出口は、ガス管32a及びガス管32cを介して反応器(B)12bの水素ガスの入口に接続されている。ガス管32cの基端は、水素タンク14と開閉バルブ34aの間にあるガス管32aに接続されている。さらに、ガス管32cの途中には、開閉バルブ34cが設けられている。
反応器(B)12bの水素ガスの出口は、ガス管32d及びガス管32bを介して燃料電池16のアノードに接続されている。ガス管32dの終端は、開閉バルブ34bと燃料電池16の間にあるガス管32bに接続されている。さらに、ガス管32dの途中には、開閉バルブ34dが設けられている。
【0035】
さらに、水素タンク14の水素ガスの出口は、ガス管32a、ガス管32e、及びガス管32bを介して燃料電池16のアノードに接続されている。ガス管32eは、反応器(A)12a及び反応器(B)12bを迂回して、水素ガスを水素タンク14から燃料電池16に直接、供給するためのバイパス管である。ガス管32eの基端は、水素タンク14と開閉バルブ34aの間にあるガス管32aに接続されている。また、ガス管32eの終端は、開閉バルブ34bと燃料電池16の間にあるガス管32bに接続されている。さらに、ガス管32eの基端側及び終端側には、それぞれ、開閉バルブ34e及び開閉バルブ34fが設けられている。
【0036】
例えば、開閉バルブ34aを開とし、開閉バルブ34b〜34fを閉とすると、ガス管32aを介して、水素タンク14から反応器(A)12aに水素ガスを供給することができる。この場合、ガス管32aが供給経路(A)を構成する。
あるいは、開閉バルブ34cを開とし、開閉バルブ34a〜34b、34d〜34fを閉とすると、ガス管32a、32cを介して、水素タンク14から反応器(B)12bに水素ガスを供給することができる。この場合、ガス管32a、32cが供給経路(A)を構成する。
【0037】
また、開閉バルブ34bを開とし、開閉バルブ34a、34c〜34fを閉とすると、ガス管32bを介して、反応器(A)12aから燃料電池16に水素ガスを供給することができる。この場合、ガス管32bが供給経路(B)を構成する。
あるいは、開閉バルブ34dを開とし、開閉バルブ34a〜34c、34e〜34fを閉とすると、ガス管32d、32bを介して、反応器(B)12bから燃料電池16に水素ガスを供給することができる。この場合、ガス管32d、32bが供給経路(B)を構成する。
【0038】
さらに、開閉バルブ34e、34fを開とし、開閉バルブ34a〜34dを閉とすると、ガス管32a、32e、32bを介して、水素タンク14から燃料電池16に水素ガスを供給することができる。この場合、ガス管32a、32e、32bが供給経路(C)を構成する。
【0039】
[1.7. 熱交換ライン]
熱交換ライン40は、反応器12、燃料電池16、及び冷却装置18の間で熱交換媒体の循環経路を切り換え可能なものからなる。すなわち、熱交換ライン40は、
少なくとも1つの反応器12と冷却装置18との間で熱交換媒体を循環させる循環経路(A)と、
少なくとも1つの反応器12と燃料電池16との間で熱交換媒体を循環させる循環経路(B)と、
燃料電池16と冷却装置18との間で熱交換媒体を循環させる循環経路(C)と
を備えている。
また、沸騰器20を備えている場合には、熱交換ライン40は、さらに、反応器12、燃料電池16、冷却装置18、及び沸騰器20の間で熱交換可能なものからなる。上述したように、沸騰器20を備えている場合には、沸騰器20は、循環経路(A)に接続されているのが好ましい。
【0040】
熱交換ライン40は、具体的には、
(a)反応器12、冷却装置18、及び燃料電池16(並びに、沸騰器20)の間を接続し、熱交換媒体を流すための水管と、
(b)熱交換媒体の流れを切り替えるための三方弁、開閉バルブ等と
を備えている。上述した機能を奏する限りにおいて、水管、三方弁、開閉バルブ等の配置は特に限定されない。
【0041】
図1に示す燃料電池システム10において、燃料電池16の熱交換媒体の出口は、水管42aを介して、反応器(A)12aの熱交換媒体の入口に接続されている。水管42aの途中には、三方弁44aが設けられている。反応器(A)12aの熱交換媒体の出口は、水管42bを介して、燃料電池16の熱交換媒体の入口に接続されている。水管42bの途中には、三方弁44bが設けられている。
【0042】
水管42aに接続された三方弁44aの残りの出入口には、水管42cが接続されている。燃料電池16の熱交換媒体の出口は、水管42a、三方弁44a、及び水管42cを介して、反応器(B)12bの熱交換媒体の入口に接続されている。
反応器(B)12bの熱交換媒体の出口は、水管42d及び水管42bを介して、燃料電池16の熱交換媒体の入口に接続されている。水管42dの途中には、三方弁44cが接続されている。また、水管42dの終端は、三方弁44bと燃料電池16の間にある水管42bに接続されている。
【0043】
水管42bに接続された三方弁44bの残りの出入口は、水管42eを介して、沸騰器20の熱交換媒体の入口に接続されている。さらに、水管42dに接続された三方弁44cの残りの出入口は、水管42fを介して水管42eに接続されている。
沸騰器20の熱交換媒体の出口は、水管42gを介して、冷却装置18の熱交換媒体の入口に接続されている。冷却装置18の熱交換媒体の出口は、水管42hを介して、三方弁44dの1番目の出入口に接続されている。三方弁44dの2番目の出入口は、水管42iを介して、三方弁44aと反応器(A)12aの間にある水管42aに接続されている。さらに、三方弁44dの3番目の出入口は、水管42jを介して、水管42cに接続されている。
【0044】
さらに、燃料電池16の生成水の出口は、生成水排出管46を介して、沸騰器20の生成水の入口に接続されている。
【0045】
例えば、三方弁44aを反応器(A)12a側に切り替え、かつ、三方弁44bを燃料電池16側に切り替えると、燃料電池16→水管42a→反応器(A)12a→水管42b→燃料電池16の順に熱交換媒体を循環させることができる。この場合、水管42a、42bが循環経路(B)を構成する。
あるいは、三方弁44aを反応器(B)12b側に切り替え、かつ、三方弁44cを燃料電池16側に切り替えると、燃料電池16→水管42a→三方弁44a→水管42c→反応器(B)12b→水管42d→水管42b→燃料電池16の順に熱交換媒体を循環させることができる。この場合、水管42a〜42dが循環経路(B)を構成する。
【0046】
また、三方弁44dを反応器12(B)12b側に切り替え、かつ、三方弁44cを冷却装置18側に切り替えると、冷却装置18→反応器12(B)12b→沸騰器20→冷却装置18の順に熱交換媒体を循環させることができる。この場合、これらを繋ぐ水管が循環経路(A)を構成する。
あるいは、三方弁44d、44aを反応器(A)12a側に切り替え、かつ、三方弁44bを冷却装置18側に切り替えると、冷却装置18→反応器(A)12a→沸騰器20→冷却装置18の順に熱交換媒体を循環させることがきる。この場合、これらを繋ぐ水管が循環経路(A)を構成する。
【0047】
さらに、三方弁44aを反応器(A)12a側に切り替え、三方弁44bを冷却装置18側に切り替え、三方弁44dを反応器(B)12b側に切り替え、かつ、三方弁44cを燃料電池16側に切り替えると、燃料電池16→反応器(A)12a→沸騰器20→冷却装置18→反応器(B)12b→燃料電池16の順に熱交換媒体を循環させることができる。この場合、これらを繋ぐ水管が循環経路(C)を構成する。
【0048】
[1.8. 温度計測手段]
燃料電池システム10は、反応器12及び燃料電池16の温度を計測する温度計測手段(図示せず)をさらに備えていても良い。反応器12の最大水素貯蔵量は、水素貯蔵材料の組成及び内封量で決まる。そのため、燃料電池16に接続される負荷が一定である場合、温度計測以外の方法(例えば、燃料電池16の稼働時間)により、反応器12内の水素残量(すなわち、供給経路及び循環経路の切り替え時期)を予測することができる。従って、温度計測手段は、必ずしも必要ではない。
【0049】
一方、負荷が変動する場合、燃料電池16の稼働時間のみを用いて反応器12内の水素残量を予測するのが難しい。このような場合には、温度計測手段を用いて反応器12及び燃料電池16の温度を計測し、計測された温度に基づいて、水素ガスの供給経路、及び熱交換媒体の循環経路を切り替えるのが好ましい(判定手段)。
【0050】
計測された温度は、具体的には、
(a)水素ガスを水素タンク14から燃料電池16に供給するか、あるいは、反応器12から燃料電池16に供給するかの判断、
(b)反応器12内の水素充填量又は水素残量の判断、
などに用いられる。
【0051】
例えば、燃料電池16の温度が水素貯蔵材料の最低平衡温度(TL)未満である場合、燃料電池16の排熱のみを用いて水素貯蔵材料から水素を放出することができない。このような場合には、供給経路(C)を介して、水素タンク14から燃料電池16に水素ガスを供給するのが好ましい。
【0052】
また、水素貯蔵材料への水素吸蔵を開始すると、水素貯蔵材料の温度が次第に上昇する。水素貯蔵材料がフル充填の状態に近づくと、吸蔵熱が次第に少なくなり、温度上昇が次第に緩慢となる。
一方、水素貯蔵材料からの水素放出を開始すると、水素貯蔵材料が燃料電池16から放出される熱を吸収するため、水素貯蔵材料温度上昇は緩やかである。水素貯蔵材料の水素残量が少なくなると、放出熱の吸収量が次第に少なくなり、水素貯蔵材料の温度が次第に上昇する。
従って、反応器12内の温度変化を計測することにより、水素充填量や水素残量、すなわち、供給経路及び循環経路の切り替え時期を予測することができる。
【0053】
[1.9. 制御機構]
制御機構は、水素ガスの供給経路、及び熱交換媒体の循環経路を切り換えるためのものである。通常、水素タンク14の水素量、反応器12の水素量、反応器12や燃料電池16の温度、燃料電池16の稼働時間などの制御パラメータを用いて、供給経路及び循環経路の切替制御を行う。制御機構を用いた供給経路及び循環経路の切替方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を用いることができる。制御機構としては、具体的には以下のようなものがある。
【0054】
[1.9.1. 判定手段]
燃料電池システム10が上述した温度計測手段を備えている場合、制御機構は、計測された温度に基づいて、水素ガスの供給経路、及び熱交換媒体の循環経路を切り替える判定手段を備えているのが好ましい。判定手段の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0055】
[1.9.2. 切替手段(A)]
制御機構は、切替手段(A)を備えていてもよい。「切替手段(A)」とは、
燃料電池16と反応器(A)12aとの間で熱交換媒体を循環させ、かつ反応器(A)12aから燃料電池16に水素ガスを供給する水素放出工程と、
水素タンク14から反応器(B)12b(B≠A)に水素ガスを供給し、かつ反応器(B)12bと冷却装置18との間で熱交換媒体を循環させる水素吸蔵工程と
が同時に又は個別に行われるように、水素ガスの供給経路、及び熱交換媒体の循環経路を切り換えるものをいう。
【0056】
燃料電池システム10が2個の反応器12を備えている場合において、反応器(A)12aによる水素放出と、反応器(B)12bによる水素吸蔵とを同時に行うと、一方の反応器12を常にフル充填の状態にしておくことができる。
なお、燃料電池システム10が3個以上の反応器12を備えている場合において、フル充填の状態にある反応器12が1個以上あるときには、反応器(A)12aからの水素放出と、反応器(B)12bへの水素充填とを必ずしも同時に行う必要はない。
【0057】
[1.9.3. 切替手段(B)]
制御機構は、切替手段(B)を備えていても良い。「切替手段(B)」とは、
反応器(A)12aからの水素放出及び燃料電池16と反応器(A)12aとの間の熱交換、並びに、反応器(B)12b(B≠A)への水素吸蔵及び反応器(B)12bと冷却装置18との間の熱交換を同時に行う工程と、
反応器(B)12bからの水素放出及び燃料電池16と反応器(B)12bとの間の熱交換、並びに、反応器(A)12aへの水素吸蔵及び反応器(A)12aと冷却装置18との間の熱交換を同時に行う工程と、
を交互に繰り返すものをいう。
【0058】
燃料電池システム10が2個の反応器12を備えている場合において、反応器(A)12aと反応器(B)12bとを交互に入れ替えて水素の吸蔵/放出を行うと、水素タンク14内の水素が枯渇するまで、一方の反応器12を常にフル充填の状態に維持することができる。
【0059】
[1.9.4. 切替手段(C)]
また、制御機構は、切替手段(C)を備えていても良い。「切替手段(C)」とは、
燃料電池16と反応器(C)との間で熱交換媒体を循環させ、かつ反応器(C)から燃料電池16に水素ガスを供給する工程と、
水素タンク14から反応器(C)に水素ガスを供給し、かつ反応器(C)と冷却装置18との間で前記熱交換媒体を循環させる工程と
が交互に繰り返されるように、水素ガスの供給経路、及び熱交換媒体の循環経路を切り換えるものをいう。
【0060】
例えば、燃料電池16に接続される負荷が間欠的な出力を要求する場合、1つの反応器(C)のみを用いて、水素放出と水素吸蔵とを交互に繰り返すこともできる。
【0061】
[2. 燃料電池システムの運転方法]
以下に、2個の反応器12を備えた燃料電池システム10の運転方法の具体例について説明する。なお、以下の説明では、反応器(A)12a及び反応器(B)12bには同一の水素貯蔵材料が充填されるものとし、水素貯蔵材料の最低平衡温度(TL)は30℃、最高平衡温度(TH)は183℃とした。この場合、0.12MPaでの水素放出平衡温度は33℃、5MPaでの水素吸蔵平衡温度は150℃となる。
水素タンク14内部の最大圧力は70MPaであり、具備された圧力調整弁により水素放出圧を任意に設定できるものとする。燃料電池16の最大排熱温度(Tmax)は、80℃とした。さらに、冷却装置18はラジエタとし、熱交換する外界温度は35℃とした。
【0062】
[2.1. 反応器(A)への水素吸蔵、及び反応器(B)からの水素放出]
図2に、反応器(A)12aで水素吸蔵を行い、反応器(B)12bで水素放出を行う場合の水素ガスの供給経路及び熱交換媒体の循環経路の模式図を示す。図2において、開閉バルブ34a〜34f、及び三方弁44a〜44dの内、黒く塗りつぶされている部分は、閉じられていることを表す。
【0063】
水素タンク14から反応器(A)12aに水素(水素圧:5MPa)を供給すると、水素吸蔵反応により反応器(A)12a内の水素貯蔵材料が発熱する(150℃)。この時、三方弁44a〜44dを図2に示すように切り替えると、反応器(A)12aを冷却装置18との熱交換ラインに接続することができる。
反応器(A)12aから排出された高温の熱交換媒体が沸騰器20に入ると、沸騰器20に貯蔵された生成水が加熱され、熱交換媒体は生成水に沸騰潜熱を奪われることで冷却される。生成水の一部は、水蒸気となって沸騰器20から外界に放出される。
【0064】
次いで、熱交換媒体は、冷却装置18における外界(35℃)との熱交換により、さらに冷却される。冷却された熱交換媒体(90℃)は、再度、反応器(A)12aに戻される。このループにより、燃料電池16の排熱温度(80℃)を超える高温排熱を冷却装置18に流通させることができ、冷却装置18の熱交換能力が向上する。その結果、冷却装置18を小型化することができる。
【0065】
一方、反応器(B)12bから燃料電池16に水素(水素圧:0.12MPa)を放出すると、水素放出反応により反応器(B)12b内の水素貯蔵材料が吸熱する(33℃)。この時、三方弁44a〜44dを図2に示すように切り替えると、反応器(B)12bが燃料電池16との熱交換ラインに接続され、反応器(B)12bの吸熱により燃料電池16(最大排熱温度:80℃)を冷却することができる。
【0066】
[2.2. 反応器(A)からの水素放出、及び反応器(B)への水素吸蔵]
図3に、反応器(A)12aで水素放出を行い、反応器(B)12bで水素吸蔵を行う場合の水素ガスの供給経路及び熱交換媒体の循環経路の模式図を示す。図3において、開閉バルブ34a〜34f、及び三方弁44a〜44dの内、黒く塗りつぶされている部分は、閉じられていることを表す。
【0067】
図3に示すように開閉バルブ34a〜34f、及び三方弁44a〜44dを制御すると、図2とは逆に、反応器(A)12aにおいて水素放出を行い、かつ、反応器(B)12bにおいて水素吸蔵を行うことができる。その他の点については、図2と同様であるので、説明を省略する。
さらに、図2の状態と図3の状態とを交互に繰り返すと、反応器(A)12a及び反応器(B)12bとの熱交換により燃料電池16を連続的に冷却することができる。
【0068】
[2.3. 水素タンクから燃料電池への水素供給(1)]
図4に、水素タンク14から反応器(A)12aを経由して燃料電池16に水素ガスを供給する場合の水素ガスの供給経路及び熱交換媒体の供給経路の模式図を示す。図4において、開閉バルブ34a〜34f、及び三方弁44a〜44dの内、黒く塗りつぶされている部分は、閉じられていることを表す。
【0069】
反応器(A)12aがフル充填の状態にある時に、開閉バルブ34a、34bを同時に開け、水素タンク14から反応器12aを経由して燃料電池16に水素(水素圧:0.12MPa)を供給する。この場合、反応器(A)12a内において水素吸蔵反応が起こらないため、反応器(A)12aは発熱しない。
また、三方弁44a〜44d図4示すように切り替えると、熱交換媒体を、燃料電池16→反応器(A)12a→沸騰器20→冷却装置18→反応器(B)12b→燃料電池16のループで循環させることができる。
【0070】
図4は、燃料電池16が低負荷(発熱量少)状態にある場合の例である。水素貯蔵材料の最低平衡温度(TL)は30℃である。そのため、燃料電池16の実際の温度が60℃(<Tmax)である場合において、図4に示すように熱交換媒体を循環させると、反応器(A)12aが加温される。しかし、反応器(A)12aの温度が最高平衡温度(TH)を超えることはないので、反応器(A)12aが破損するおそれはない。
また、冷却装置18として小型ラジエタを用いた場合であっても、燃料電池16が低負荷(発熱量少)状態である時には、燃料電池16の排熱処理を行うことができる。この場合、冷却装置18により熱交換媒体が冷却され、冷却された熱交換媒体(55℃)が反応器(B)12bに送られるので、反応器(B)12bが破損するおそれもない。
【0071】
[2.4. 水素タンクから燃料電池への水素供給(2)]
図5に、水素タンク14から直接、燃料電池16に水素ガスを供給する場合の水素ガスの供給経路及び熱交換媒体の供給経路の模式図を示す。図5において、開閉バルブ34a〜34f、及び三方弁44a〜44dの内、黒く塗りつぶされている部分は、閉じられていることを表す。
【0072】
開閉バルブ34e、34fを同時に開け、水素タンク14から直接、燃料電池16に水素ガスを供給する。この場合、反応器(A)12a、及び反応器(B)12bには水素が流れないので、これらはいずれも発熱しない。
また、図5に示すように三方弁44a〜44dを制御すると、熱交換媒体を、燃料電池16→反応器(A)12a→沸騰器20→冷却装置18→反応器(B)12b→燃料電池16のループで循環させることができる。図5の熱交換ラインは、図4と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0073】
[3. 作用]
本発明に係る燃料電池システム10は、燃料源として、水素ガスを貯蔵した水素タンク14と、水素貯蔵材料を内封した複数個の反応器12の双方を備えている。そのため、始動時には水素タンク14から燃料電池16に水素を供給することにより、速やかに燃料電池16の温度を適切な温度まで上昇させることができる。
【0074】
また、燃料電池16の温度が所定の温度まで上昇した時には、燃料電池16からの排熱を用いて少なくとも1つの反応器(A)12aを加熱し、反応器(A)12aから水素を放出させることができる。反応器(A)12aから放出された水素は、そのまま燃料電池16の燃料として使用できる。
これと同時に、少なくとも1つの他の反応器(B)12bと冷却装置18とを熱的に接続し、反応器(B)12b内に水素ガスを供給すると、反応器(B)12b内の水素貯蔵材料に水素を吸蔵させると同時に、冷却装置18を用いて吸蔵熱を外界に放出することができる。
【0075】
そのため、燃料電池16の温度を適切な温度に維持するために、大型の冷却装置を用いる必要がない。また、反応器(A)12aの水素放出/反応器(B)12bの水素吸蔵と、反応器(A)12aの水素吸蔵/反応器(B)12bの水素放出とを交互に繰り返すと、他の熱源や冷却源を用いることなく、水素の吸蔵/放出を可逆的に行うことができる。
【0076】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明に係る燃料電池システムは、定置型の発電システム、移動体のエネルギー源等に使用することができる。
【符号の説明】
【0078】
10 燃料電池システム
12 反応器
14 水素タンク
16 燃料電池
18 冷却装置
20 沸騰器
30 水素ガスライン
40 熱交換ライン
図1
図2
図3
図4
図5