特許第6460090号(P6460090)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6460090複合金属酸化物研磨材料の製造方法及び複合金属酸化物研磨材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6460090
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】複合金属酸化物研磨材料の製造方法及び複合金属酸化物研磨材料
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20190121BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20190121BHJP
【FI】
   C09K3/14 550D
   B24B37/00 H
【請求項の数】4
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-505281(P2016-505281)
(86)(22)【出願日】2015年2月26日
(86)【国際出願番号】JP2015055501
(87)【国際公開番号】WO2015129776
(87)【国際公開日】20150903
【審査請求日】2018年2月20日
(31)【優先権主張番号】特願2014-37361(P2014-37361)
(32)【優先日】2014年2月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小泉 寿夫
(72)【発明者】
【氏名】小野 啓治
(72)【発明者】
【氏名】山本 務
(72)【発明者】
【氏名】見上 勝
(72)【発明者】
【氏名】和田 瑞穂
【審査官】 緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/075022(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/118927(WO,A1)
【文献】 特開平3−232724(JP,A)
【文献】 特開2013−082050(JP,A)
【文献】 特開2015−165001(JP,A)
【文献】 特開2015−147922(JP,A)
【文献】 米国特許第5669941(US,A)
【文献】 HONMA, T. et al.,Development of SrZrO3/ZrO2 nano-composite abrasive for glass polishing,Journal of the Ceramic Society of Japan,日本,2012年 7月 1日,Vol.120,pp.295-299
【文献】 未来材料,2013年 1月10日,Vol.13, No.1,第48〜52頁
【文献】 Fine Ceramics Report,2012年 7月20日,Vol.30, No.3(夏号),第112〜114頁
【文献】 Materials Integration,2012年 6月20日,第25巻,第06号,第45〜50頁
【文献】 SUDA S.,JOURNAL OF THE CERAMIC SOCIETY OF JAPAN,2014年,122[4],PP.244-249
【文献】 HONMA T.,CERAMIC TRANSACTIONS,2013年,PP.13-20
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
B24B 37/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストロンチウム化合物と酸化ジルコニウムとを混合する混合工程と、
前記混合工程により得られた混合物を焼成する焼成工程とを含むことを特徴とするセリウムフリーの複合金属酸化物研磨材料の製造方法。
【請求項2】
前記混合工程におけるストロンチウム化合物は、炭酸ストロンチウム及び水酸化ストロンチウムからなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載のセリウムフリーの複合金属酸化物研磨材料の製造方法。
【請求項3】
前記混合工程における酸化ジルコニウムの、線源としてCuKα線を用いたX線回折における2θ=27.00〜31.00°での最大ピークの半価幅が0.1〜3.0°であることを特徴とする請求項1又は2に記載のセリウムフリーの複合金属酸化物研磨材料の製造方法。
【請求項4】
ZrOの結晶相と、SrZrOの結晶相とを含み、かつ、線源としてCuKα線を用いたX線回折における斜方晶SrZrOの(040)面に由来するピークの半価幅が0.1〜3.0°であることを特徴とする複合金属酸化物研磨材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合金属酸化物研磨材料の製造方法及び複合金属酸化物研磨材料に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズやプリズム等、高い透明性と精度を要求される精密な光学ガラス製品の研磨には、酸化セリウム系の研磨材が用いられている。この研磨材は、いわゆるレアアース(希土類)を多く含む鉱物を焼成して粉砕することによって製造される。
【0003】
しかしながら、レアアースはその需要が増大し、供給が不安定になっていることから、セリウムの使用量を低減させる技術と代替材料の開発が望まれている。このような代替研磨材として、特許文献1にはペロブスカイト型酸化物が研磨材として好適である旨が開示され、特許文献2には鉄系ペロブスカイト型の研磨材が開示され、特許文献3にはジルコニウム系ペロブスカイト型の研磨材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−107028号公報
【特許文献2】特開2012−122042号公報
【特許文献3】特開2013−82050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された研磨材を用いてガラス研磨を行った場合、研磨後のガラスは平滑な表面が得られるものの、研磨速度が低いという問題があった。
【0006】
また特許文献2に記載の研磨材は、噴霧熱分解法で製造されており、製造に特殊な設備と多大な時間を要するため大量生産に適していないことや、ニッケルやコバルト等のレアメタルを用いているため、酸化セリウムと同様の供給不安が懸念される等の問題があった。
特許文献3に記載の研磨材も、噴霧熱分解法で製造されており、大量生産には適していない。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、セリウムフリーの研磨材料において良好な研磨速度を有する研磨材料及び該研磨材料の簡便な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、ストロンチウム化合物と酸化ジルコニウムを混合、焼成して得られる複合金属酸化物研磨材料が、良好な研磨速度を示すことを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明の複合金属酸化物研磨材料の製造方法(「本発明の製造方法」とも称す)は、ストロンチウム化合物と酸化ジルコニウムとを混合する混合工程と、上記混合工程により得られた混合物を焼成する焼成工程とを含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の製造方法では、原料としてストロンチウム化合物と酸化ジルコニウムとを混合する混合工程と、上記混合工程により得られた混合物を焼成する焼成工程とを含む。
この製造方法では、Zr原料として酸化ジルコニウムを用いることにより、得られた複合金属酸化物研磨材料がZrOとSrZrOとの複合体を形成し、高い研磨速度を実現することができる。なお、ZrOとSrZrOとの複合体とは、ZrOとSrZrOとのそれぞれの一次粒子が部分的に焼結して形成された二次粒子のことを言う。例えば、複合体についてエネルギー分散X線分光法(EDS)による元素マッピングを行えば、SrとZrが検出される一次粒子とZrのみが検出される一次粒子とが、二次粒子を形成している様子が観察される。
このような方法を用いることで、セリウムフリーの研磨材料において良好な研磨速度を有する研磨材料を製造することができる。
なお、上記原料からもわかるように、本発明の製造方法は、固相反応法により行われる。
【0011】
本発明の製造方法では、上記混合工程におけるストロンチウム化合物は、炭酸ストロンチウム及び水酸化ストロンチウムからなる群から選択される少なくとも一種であることが望ましい。炭酸ストロンチウム及び水酸化ストロンチウムは、酸化ジルコニウムとの反応が容易に進行してジルコン酸ストロンチウム(SrZrO)を生成しやすい。
【0012】
本発明の製造方法では、上記混合工程における酸化ジルコニウムの、線源としてCuKα線を用いたX線回折における2θ=27.00〜31.00°での最大ピークの半価幅が0.1〜3.0°であることが望ましく、0.1〜1.0°であることがより望ましく、0.1〜0.7°であることが更に望ましく、0.1〜0.4°であることが特に望ましい。上記半価幅が3.0°を超えると、得られる複合金属酸化物研磨材料に含まれるZrOの結晶性が低く、ZrOに由来する機械研磨作用が充分に得られないことがある。また、上記半価幅が0.1°未満では、原料とするZrOの結晶性が高く、ストロンチウム化合物との反応が起こりにくくなるため、研磨速度の良好な複合金属酸化物研磨材料が得られないことがある。
【0013】
本発明の複合金属酸化物研磨材料は、ZrOの結晶相と、SrZrOの結晶相とを含み、かつ、線源としてCuKα線を用いたX線回折における斜方晶SrZrOの(040)面に由来するピークの半価幅が0.1〜3.0°であることを特徴とする。
上記半価幅は0.1〜1.0°であることが望ましく、0.1〜0.7°であることがより望ましく、0.1〜0.4°であることが更に望ましい。
研磨材料に含まれるZrOの結晶相が機械研磨作用を担い、SrZrOの結晶相が化学研磨作用を担うことで、良好な研磨速度を示すことができる。
更に、ZrOとSrZrOとが複合体を形成しているため、ZrOの結晶相による機械研磨作用とSrZrOの結晶相による化学研磨作用とが効果的に発揮される。
更に、上記半価幅が0.1〜3.0°であると、化学研磨作用を効果的に発揮するSrZrOの結晶性が程よく、化学研磨作用を充分に発揮することができる。
上記半価幅が3.0°を超えると、SrZrOの結晶性が低く、SrZrOに由来する化学研磨作用が充分に得られないことがある。また、上記半価幅が0.1°未満であると、SrZrOの結晶性が高すぎて、SrZrOに由来する化学研磨作用が充分に得られないことがある。
【発明の効果】
【0014】
本発明の複合金属酸化物研磨材料の製造方法により、セリウムフリーの研磨材料において良好な研磨速度を有する研磨材料を効率よく製造することができる。この本発明の製造方法は、固相反応法により行われるため、噴霧熱分解法よりも製造プロセスが簡便となり、特殊な設備を導入することなく低コストでの製造が可能となる。また、本発明の複合金属酸化物研磨材料は、良好な研磨速度を示すことができ、しかも近年のレアアース供給不足にも充分に対応できるため、工業的に極めて有利な材料といえる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施例1で用いたZr原料である酸化ジルコニウムのX線回折パターンである。
図2図2は、実施例1に係る複合金属酸化物研磨材料のX線回折パターンである。
図3図3は、実施例1に係る複合金属酸化物研磨材料のSEM画像である。
図4図4は、参考例又は比較参考例で用いた各研磨材スラリーの、pHに対するゼータ電位の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔複合金属酸化物研磨材料の製造方法〕
本発明の複合金属酸化物研磨材料の製造方法は、ストロンチウム化合物と酸化ジルコニウムとを混合する混合工程と、該混合工程により得られた混合物を焼成する焼成工程とを含む。そのため、複合金属酸化物研磨材料が高い研磨速度を実現することができる。
【0017】
まず、本発明の製造方法における原料の一つ、ストロンチウム化合物について説明する。
本発明の製造方法においては、ストロンチウム化合物が、炭酸ストロンチウム及び水酸化ストロンチウムからなる群から選択される少なくとも一種であることが望ましい。炭酸ストロンチウム及び水酸化ストロンチウムは、酸化ジルコニウムとの反応が容易に進行してジルコン酸ストロンチウム(SrZrO)を生成しやすい。
【0018】
次に、原料の酸化ジルコニウムについて説明する。
原料の酸化ジルコニウムは、線源としてCuKα線を用いたX線回折における2θ=27.00〜31.00°での最大ピークの半価幅(以降、単にZrOの最大ピークの半価幅ともいう)が0.1〜3.0°であることが望ましく、0.1〜1.0°であることがより望ましく、0.1〜0.7°であることが更に望ましく、0.1〜0.4°であることが特に望ましい。
上記半価幅が3.0°を超えると、得られる複合金属酸化物研磨材料に含まれるZrOの結晶性が低く、ZrOに由来する機械研磨作用が充分に得られないことがある。また上記半価幅が0.1°未満では、原料とするZrOの結晶性が高く、ストロンチウム化合物との反応が起こりにくくなるため、研磨速度の良好な複合金属酸化物研磨材料が得られないことがある。
なお、本明細書において、X線回折の線源はすべてCuKα線を用いた。
【0019】
原料の酸化ジルコニウムは、その比表面積が2.0〜200m/gであることが望ましく、2.0〜180m/gであることがより望ましく、2.0〜160m/gであることが更に望ましい。酸化ジルコニウムの比表面積が2.0〜200m/gである場合、程よい結晶性のSrZrO相を効率よく生成しやすくなる。
酸化ジルコニウムの比表面積が2.0m/g未満である場合、ストロンチウム化合物との反応性が低下してしまうことがある。また、酸化ジルコニウムの比表面積が200m/gを超える場合、酸化ジルコニウムの反応性が高くなり過ぎて、ストロンチウム化合物との反応制御が困難となり、研磨速度の良好な複合金属酸化物研磨材料が得られにくいことがある。
【0020】
本明細書中、比表面積(SSAとも称す)は、BET比表面積を意味する。
BET比表面積とは、比表面積の測定方法の一つであるBET法により得られた比表面積のことをいう。なお、比表面積とは、ある物体の単位質量あたりの表面積のことをいう。
BET法は、窒素などの気体粒子を固体粒子に吸着させ、吸着した量から比表面積を測定する気体吸着法である。具体的には、圧力Pと吸着量Vとの関係からBET式によって、単分子吸着量VMを求めることにより、比表面積を定める。
【0021】
原料の酸化ジルコニウムの結晶形態としては、単斜晶、正方晶、立方晶のいずれかの結晶構造、又は、これら結晶構造の混晶であることが望ましい。
【0022】
次に、混合工程について説明する。
本発明の製造方法は、酸化ジルコニウムとストロンチウム化合物とを混合する混合工程を含む。混合する際の原料の割合は、酸化物換算の重量比でSrO:ZrO=10:90〜43:57であることが望ましい。混合の方法は、特に限定されず、湿式混合であっても、乾式混合であってもよいが、混合性の観点から、湿式混合が望ましい。湿式混合に用いる分散媒としては、特に限定されず、水や低級アルコールを用いることができるが、製造コストの観点から水が望ましく、イオン交換水がより望ましい。湿式混合の場合、ボールミルやペイントコンディショナー、サンドグラインダーを用いてもよい。湿式混合では、分散剤を1種又は2種以上添加してもよい。分散剤としては、特に限定されず、カチオン系、ノニオン系、アニオン系、両性、非イオン性等の界面活性剤を用いることができる。また、分散媒を除去するために湿式混合に続いて乾燥工程を行うことが望ましい。
【0023】
湿式混合では、ビーズ等のメディアを用いた混合を行うことが望ましい。メディアを用いて混合することで、酸化ジルコニウムとストロンチウム化合物とが充分に混合されることから、得られる複合金属酸化物研磨材料中の未反応のストロンチウム化合物が残存するおそれを充分に低減できる。湿式混合に用いるメディアとしては、特に限定されず、ジルコニアビーズ、ジルコンビーズ、チタニアビーズ、アルミナビーズ、ガラスビーズ、ナイロンボールを用いることができるが、コンタミを抑制する観点からジルコニアビーズが望ましい。
【0024】
湿式混合において、酸化ジルコニウムとストロンチウム化合物との混合粉末の濃度(この濃度を「混合スラリー濃度」とも称す)は、分散剤の添加量等によっても異なり、特に限定されないが、例えば、50〜500g/Lであることが望ましく、100〜450g/Lであることがより望ましく、150〜400g/Lであることが更に望ましい。一層望ましくは200〜400g/L、特に望ましくは250〜400g/L、最も望ましくは270〜400g/Lである。混合スラリー濃度が50〜500g/Lである場合、程よい結晶性のSrZrO相を効率よく生成しやすくなる。
上記混合スラリー濃度が50g/L未満である場合、分散媒を浪費して生産性をより向上できないことがある他、酸化ジルコニウムとストロンチウム化合物それぞれの粉砕が進み過ぎて反応制御をより適切に行うことが困難となり、研磨速度の良好な複合金属酸化物研磨材料が得られにくいことがある。また、混合スラリー濃度が500g/Lを超える場合、スラリーの粘度が高くなり過ぎてハンドリング性が良好にはならないことがある他、酸化ジルコニウムとストロンチウム化合物が充分に混合されないことから、得られる複合金属酸化物研磨材料中に未反応のストロンチウム化合物が残存することがある。
【0025】
混合工程において、酸化ジルコニウムとストロンチウム化合物との混合時間は、混合スラリー濃度等によっても異なり、特に限定されないが、例えば、0分を超えて100分以内とすることが好ましい。混合時間をこの範囲内にすることで、酸化ジルコニウムとストロンチウム化合物とが充分に混合され、かつ粉砕が進みすぎることがないため、得られる複合金属酸化物研磨材料の研磨速度をより向上することができる。より好ましくは5分以上、更に好ましくは15分以上、特に好ましくは20分以上であり、また、より好ましくは80分以下、更に好ましくは60分以下、特に好ましくは40分以下である。
【0026】
続いて、乾燥工程について説明する。
乾燥工程によって、混合工程で得られたスラリーから分散媒を除去して乾燥させる。スラリーを乾燥させる方法は、混合時に用いた溶媒を除去できれば特に限定されず、例えば、減圧乾燥、加熱乾燥等が挙げられる。また、スラリーをそのまま乾燥してもよく、濾過してから乾燥してもよい。
なお、乾燥工程は必要に応じて行えばよく、混合物の乾燥物を乾式粉砕してもよい。
【0027】
続いて、焼成工程について説明する。
焼成工程では、酸化ジルコニウムとストロンチウム化合物の混合物を焼成させることで、複合金属酸化物研磨材料を得る。焼成雰囲気は特に限定されない。
【0028】
焼成工程においては、混合工程により得られた原料混合物や乾燥工程によって得られた乾燥物を、そのまま焼成してもよいし、所定の形状(例えばペレット状)に成型してから焼成してもよい。
【0029】
焼成工程における焼成温度とは、焼成工程での最高到達温度のことを意味する。この焼成温度は、ストロンチウム化合物と酸化ジルコニウムとの反応に充分な温度であればよく、700〜1300℃であることが望ましく、730〜1270℃であることがより望ましく、750〜1250℃であることが更に望ましい。焼成温度が700℃未満である場合、ストロンチウム化合物と酸化ジルコニウムとの反応が充分に進まないことがある。また、焼成温度が1300℃を超える場合、生成したジルコン酸ストロンチウムが激しく焼結し、研磨速度が低下することがある。
【0030】
上記焼成温度での保持時間は、ストロンチウム化合物と酸化ジルコニウムとの反応に充分な時間であればよく、5分〜24時間であることが望ましく、7分〜22時間であることがより望ましく、10分〜20時間であることが更に望ましい。保持時間が5分未満の場合、ストロンチウム化合物と酸化ジルコニウムが充分に反応しないことがある。また、保持時間が24時間を超える場合、生成したジルコン酸ストロンチウムが激しく焼結し、研磨速度が低下することがある。
【0031】
上記焼成工程において、最高温度(焼成温度)に達するまでの昇温時の昇温速度は、0.2〜15℃/分であることが望ましく、0.5〜12℃/分であることがより望ましく、1.0〜10℃/分であることが更に望ましい。昇温速度が0.2℃/分未満の場合、昇温にかかる時間が長時間となり過ぎ、エネルギーと時間を浪費してしまうことになる。また、15℃/分を超える場合、炉内容物の温度が設定温度に追随できず、炉内部に温度むらが発生し、焼成むらの原因となることがある。
【0032】
続いて、粉砕工程について説明する。
粉砕工程では、焼成工程により得られた焼成物を粉砕するが、粉砕方法及び粉砕条件は特に限定されず、例えば、ボールミルやライカイ機、ハンマーミル、ジェットミル等を用いてもよい。
なお、粉砕工程は必要に応じて行えばよい。
【0033】
本発明の製造方法において、焼成工程は1回だけ行ってもよく、2回以上行ってもよい。
【0034】
以上のように、本発明の製造方法においては、固相反応法が用いられる。固相反応法を用いることで、噴霧熱分解法よりも製造プロセスが簡便となり、特殊な設備を導入することなく低コストでの製造が可能となる。
また、上記方法により製造された複合金属酸化物研磨材料は、ZrOの結晶相と、SrZrOの結晶相とを含み、かつ、線源としてCuKα線を用いたX線回折における斜方晶SrZrOの(040)面に由来するピークの半価幅(以降、単にSrZrO(040)半価幅ともいう)が0.1〜3.0°となる。
【0035】
〔複合金属酸化物研磨材料〕
続いて、本発明の複合金属酸化物研磨材料について説明する。
本発明の複合金属酸化物研磨材料は、ZrOの結晶相と、SrZrOの結晶相とを含み、かつ、線源としてCuKα線を用いたX線回折における斜方晶SrZrOの(040)面に由来するピークの半価幅が0.1〜3.0°であることを特徴とする。
上記半価幅は0.1〜1.0°であることが望ましく、0.1〜0.7°であることがより望ましく、0.1〜0.4°であることが更に望ましい。
研磨材料に含まれるZrOの結晶相が機械研磨作用を担い、SrZrOの結晶相が化学研磨作用を担うことで、良好な研磨速度を示すことができる。
更に、上記半価幅が0.1〜3.0°であると、化学研磨作用を効果的に発揮するSrZrOの結晶性が程よく、化学研磨作用を充分に発揮することができる。
上記半価幅が3.0°を超えると、SrZrOの結晶性が低く、SrZrOに由来する化学研磨作用が充分に得られないことがある。また、上記半価幅が0.1°未満であると、SrZrOの結晶性が高すぎて、SrZrOに由来する化学研磨作用が充分に得られないことがある。
【0036】
本発明の複合金属酸化物研磨材料は、体積基準粒度分布のシャープさの指標となるD90のD10に対する比(D90/D10)が1.5〜50であることが望ましく、1.5〜45であることがより望ましく、1.5〜40であることが更に望ましい。この値(D90/D10)が大きい程、粒度分布がブロードであることを意味し、この値が小さい程、粒度分布がシャープであることを意味する。D90/D10が50を超える場合、粒子径のバラツキが大きすぎるため、研磨材料と研磨対象となる物体との接触が充分に得られず、研磨速度が低下することがある。D90/D10が1.5未満の場合、粒子径のバラツキが小さすぎるため、研磨材料と研磨対象となる物体との接触が充分に得られず、研磨速度が低下することがある。
なお、D10、D90はそれぞれ、粒度分布を測定することによって得られる値である。D10とは体積基準での10%積算粒径を意味し、D90とは体積基準での90%積算粒径を意味する。
【0037】
本発明の複合金属酸化物研磨材料は、SrがSrO換算で10〜43重量%含まれることが望ましく、11〜43重量%含まれることがより望ましく、12〜43重量%含まれることが更に望ましい。Sr含有量がSrO換算で10重量%未満の場合、SrZrOの含有量が低下し、化学研磨作用が低下することがある。また、Sr含有量がSrO換算で43重量%を超える場合、ZrOの含有量が相対的に低下し、機械研磨作用が低下することがある。
【0038】
本発明の複合金属酸化物研磨材料は、比表面積が1.0〜50m/gであることが望ましく、1.0〜45m/gであることがより望ましく、1.0〜40m/gであることが更に望ましい。比表面積が1.0m/g未満の場合、研磨材料の比表面積が小さすぎて、研磨対象となる物体と充分に接触できず、研磨できないことがある。また、比表面積が50m/gを超える場合には、研磨材料を構成する砥粒が小さすぎて、機械研磨作用が低下することがある。
【0039】
本発明の複合金属酸化物研磨材料は、各種の研磨対象に適用できる。例えば、従来、酸化セリウム、酸化クロム及びベンガラ(Fe)等が研磨材料として用いられていた研磨対象に適用できる。研磨対象は特に限定されず、例えば、ガラス基板、金属板、石材、サファイア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化ケイ素、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム、ヒ化インジウム、及びリン化インジウム等が挙げられる。
【0040】
本発明の複合金属酸化物研磨材料は、用途に応じて、適宜他の成分と混合して使用してもよい。例えば、本発明の複合金属酸化物研磨材料は、分散媒と混合してもよいし、添加剤と混合してもよいし、分散媒及び添加剤を同時に混合してもよい。
本発明の複合金属酸化物研磨材料を分散媒及び/又は添加剤と混合した際の形態は特に限定されず、例えば、粉末状、ペースト状、スラリー状等の形態で使用することができる。
【0041】
分散媒は、特に限定されないが、例えば、水、有機溶媒及びこれらの混合物等が挙げられる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール等の1価の水溶性アルコール;エチレングリコール、グリセリン等の2価以上の水溶性アルコール;アセトン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ジオキサン等が挙げられ、本発明の効果を妨げない範囲でこれらを2種以上併用して使用してもよい。
添加剤としては、例えば、酸、アルカリ、キレート化剤、消泡剤、pH調整剤、分散剤、粘度調整剤、凝集防止剤、潤滑剤、還元剤、防錆剤、公知の研磨材料等が挙げられ、本発明の効果を妨げない範囲でこれらを1種又は2種以上併用してもよい。
【0042】
〔研磨方法〕
次に、本発明の複合金属酸化物研磨材料を用いる研磨方法の一例を述べる。
本発明の複合金属酸化物研磨材料は、上述したように各種の研磨対象に適用できるが、このうち負帯電性基板を研磨対象とする場合は、以下の研磨方法に適用することが好適である。なお、本発明の複合金属酸化物研磨材料を用いる研磨方法は、以下の研磨方法にのみ限定されるものではない。
すなわち、本発明の複合金属酸化物研磨材料を含むスラリー(以下、研磨材スラリーとも称す)のゼータ電位が正となる条件下で負帯電性基板を研磨する研磨工程aと、該研磨材スラリーのゼータ電位が負となる条件下で負帯電性基板を研磨する研磨工程bとを、それぞれ少なくとも1回ずつ実施する研磨方法である。
【0043】
本明細書中、負帯電性基板とは、pHが4より大きい水溶液中で常に負に帯電している基板であることが好ましく、例えば、ガラス基板(ガラスの等電点=約2.0)が挙げられる。その他、炭化ケイ素基板(炭化ケイ素の等電点=約4.0)等も挙げられる。
なお、ガラス基板としては、例えば、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス等の透明又は半透明のものが挙げられる。
【0044】
上記研磨方法では、研磨材スラリーのゼータ電位が正となる条件下で負帯電性基板を研磨する研磨工程aと、研磨材スラリーのゼータ電位が負となる条件下で負帯電性基板を研磨する研磨工程bとを、それぞれ少なくとも1回ずつ実施する。これらの研磨工程の順序は特に限定されず、研磨工程aの後に研磨工程bを行ってもよいし、研磨工程bの後に研磨工程aを行ってもよい。中でも、表面平滑性により優れた負帯電性基板を得るには、研磨工程aを少なくとも1回行った後、研磨工程bを少なくとも1回行うことが特に好適である。また、各研磨工程を複数回行ってもよいし、研磨工程aと研磨工程bとを交互に実施してもよい。研磨工程aを複数回行う場合、研磨材スラリーのゼータ電位が正である限り、ゼータ電位を変更して実施してもよいし、変えないで実施してもよい。研磨工程bを複数回行う場合も同様であり、研磨材スラリーのゼータ電位が負である限り、ゼータ電位を変更して実施してもよいし、変えないで実施してもよい。
本明細書中、「研磨材スラリーのゼータ電位」とは、後述する実施例に記載の測定条件下で求められる値である。
【0045】
上記研磨方法では、研磨工程aにおいて静電引力による作用が発揮され、研磨工程bにおいて静電斥力による作用が発揮されることで、これらの相乗効果により、高い研磨速度と、研磨後の負帯電性基板における優れた表面平滑性とを実現することになると推測される。通常、研磨前の負帯電性基板の表面には、微細な傷や穴等からなる凹部が存在する。研磨工程aでは、研磨対象である基板は負に帯電しているのに対し、研磨材スラリーは正に帯電しているため、静電引力により研磨材が凹部の深くまで浸透し、研磨を促進するために、研磨速度が高められると考えられる。一方、研磨工程bでは、研磨対象である基板も研磨材スラリーも負に帯電しているため、静電斥力により研磨材は凹部の深くまでは浸透しないものの、研磨パッドと基板との間にかかる圧力によって、研磨材が基板表面の凸部に多く存在することになり、これにより基板表面が平滑化されると考えられる。したがって、研磨対象が負帯電性基板であれば同様の作用機構となるため、上記研磨方法は、ガラス基板だけでなく、各種の負帯電性基板に適用することができる。
【0046】
上記研磨工程a及び研磨工程bのいずれの工程も、研磨材スラリーの存在下で研磨を行う。研磨工程aと研磨工程bとでは、同じ研磨材スラリーを使用、すなわち連続使用(再利用)して、該スラリーのゼータ電位の制御のみを行うこととしてもよいし、ゼータ電位がを正又は負となる研磨材スラリーをそれぞれ別個に用意して、各研磨工程で研磨材スラリーを切り替えてもよい。いずれの場合も、研磨材スラリーとして、本発明の複合金属酸化物研磨材料を含むものを用いればよい。このように上記研磨方法では、研磨材スラリーを連続使用(再利用)でき、切り替える場合でも種類が大きく異なる研磨材スラリーを用意する必要がないので、従来の手法のように研磨材切り替え時に必要となる洗浄作業や専用装置等が不要となる。また、酸化セリウムを必須に用いなくても高い研磨速度と優れた表面平滑性とを実現できるため、上記研磨方法は、従来の研磨方法に比べて非常に有利な手法といえる。
【0047】
上記研磨工程aは、研磨材スラリーのゼータ電位が正となる条件下で、該研磨材スラリーを用いて負帯電性基板を研磨する工程である。この研磨工程では、従来の酸化セリウム系の研磨材を用いた場合とほぼ同等の高い研磨速度を実現することができ、しかも酸化セリウム系の研磨材を用いた場合よりも負帯電性基板の表面平滑性を高めることもできる。
【0048】
上記研磨工程bは、研磨材スラリーのゼータ電位が負となる条件下で、該研磨材スラリーを用いて負帯電性基板を研磨する工程である。この研磨工程では、従来のコロイダルシリカを用いた精密研磨工程よりも著しく高い研磨速度を実現しながら、コロイダルシリカを用いた精密研磨工程とほぼ同等の精密な研磨を実施でき、研磨後の負帯電性基板において高い表面平滑性を実現することができる。
【0049】
上述のとおり研磨工程aでは研磨材スラリーのゼータ電位が正となる条件下で、研磨工程bでは研磨材スラリーのゼータ電位が負となる条件下で、それぞれ負帯電性基板を研磨することになるが、研磨材スラリーのゼータ電位の絶対値がそれぞれ5mV以上となる条件下で各研磨工程を行うことが好適である。それぞれ、より好ましくは10mV以上、更に好ましくは15mV以上、特に好ましくは20mV以上である。また、各工程での当該絶対値の上限は特に限定されないが、例えば制御しやすさ(例えば、研磨工程aでゼータ電位が過大すぎると、ガラス基板表面に研磨材が残留付着する可能性があるため、これを防止する等、また例えば、研磨工程bでゼータ電位が過小すぎると、負帯電性基板と研磨材スラリーの静電斥力が強く働きすぎて、研磨速度を充分に高めることができない可能性があるため、これを防止する等)の観点から、それぞれ、100mV以下であることが好ましい。
【0050】
研磨材スラリーのゼータ電位は、該研磨材スラリーのpHを調整することで制御することができる。研磨材スラリーが本発明の複合金属酸化物研磨材料を含むものであれば、研磨材スラリーのpHを該研磨材スラリーの等電点未満に調整すると、そのゼータ電位は正となる一方で、研磨材スラリーのpHを該研磨材スラリーの等電点を超える範囲に調整すると、そのゼータ電位は負となる。なお、これまでの研磨材は、研磨速度を高める、又は、表面平滑性を高めるといったことを重視していたが、本発明の複合金属酸化物研磨材料は、pHだけで研磨性を簡単にコントロールすることができるものであり、この点で従来技術からは着想し得ない特異な効果を発揮し得るものである。
【0051】
pHの調整は、研磨材スラリーにpH調整剤を添加することで行ってもよいし、pH緩衝液を用いて研磨材スラリーのpHを調整してもよい。
なお、既に研磨材スラリーのpHが研磨に好ましい領域にある場合は、pH調整を行わなくてもよい。
【0052】
上記pH調整剤としては、酸やアルカリを用いることができる。酸を用いれば研磨材スラリーのpHを酸性側に調整することができ、アルカリを用いれば研磨材スラリーのpHをアルカリ側に調整することができる。酸としては、例えば、硝酸、硫酸、塩酸、過塩素酸、リン酸等の無機酸;シュウ酸、クエン酸等の有機酸;が好ましく、アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、アンモニア水、炭酸水素ナトリウム水溶液等のアルカリ性水溶液が好ましい。
【0053】
上記研磨方法では、研磨工程aを、研磨材スラリーのpHが、上記負帯電性基板の等電点より大きく、かつ該研磨材スラリーの等電点未満となる条件下で実施することが好ましい。これにより、強酸によって研磨材が溶解することが充分に抑制されて、研磨材による研磨作用がより発揮される他、研磨機・装置への負担を軽減することもできる。研磨工程aにおける研磨材スラリーのpHの下限値として具体的には、2以上であることが好ましい。より好ましくは3以上、更に好ましくは4以上である。
【0054】
また研磨工程bを、研磨材スラリーのpHが、該研磨材スラリーの等電点より大きく、かつ13以下となる条件下で実施することが好ましい。これにより、強塩基によって本発明の複合金属酸化物研磨材料が溶解することが充分に抑制されて、該研磨材料による研磨作用がより発揮される他、研磨機・装置への負担を軽減することもできる。研磨工程bにおける研磨材スラリーのpHの上限値は、12以下であることが好ましい。より好ましくは11以下である。
【0055】
研磨材スラリー(及び本発明の複合金属酸化物研磨材料)の等電点とは、研磨材スラリー中の砥粒(本発明の複合金属酸化物研磨材料)に帯びた電荷の代数和がゼロである点、すなわち砥粒に帯びた正電荷と負電荷とが等しくなる点をいい、その点における研磨材スラリーのpHで表すことができる。
【0056】
上記研磨材スラリー中、本発明の複合金属酸化物研磨材料の含有量は、例えば、研磨材スラリー100重量%中、0.001〜90重量%であることが好ましい。より好ましくは0.01〜30重量%である。
【0057】
上記研磨材スラリーは、更に、分散媒を含むことが好ましい。分散媒については上述したとおりである。また必要に応じて添加剤を含んでもよいが、上記研磨方法による効果を高める観点からは、pH調整剤以外の添加剤の含有量は少ないほど好ましい。例えば、研磨材スラリーの総量100重量%に対し、pH調整剤以外の添加剤の含有量が5重量%以下であることが好ましい。言い換えると、研磨材スラリーの総量100重量%中、本発明の複合金属酸化物研磨材料、分散媒及びpH調整剤が90重量%以上であることが好ましく、より好ましくは95重量%以上、更に好ましくは99重量%以上である。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0059】
(実施例1)
(1)Zr原料準備工程
オキシ塩化ジルコニウム8水和物(昭和化学株式会社製)3.0kgを、イオン交換水6.7Lに撹拌しながら溶解させた。この溶液を撹拌しながら25℃に調整し、この温度を維持しながら、180g/Lの水酸化ナトリウム水溶液を、pH9.5になるまで1時間かけて撹拌しながら添加し、更に1時間撹拌した。このスラリーをろ過水洗し、洗液の電気伝導度が100μS/cm以下になるまで水洗することにより、水酸化ジルコニウムケーキを得た。
この水酸化ジルコニウムケーキ500gを120℃の温度で充分に乾燥した。次いで得られた乾燥品のうち40gを、外径55mm、容量60mLのアルミナ製るつぼに入れて、電気マッフル炉(ADVANTEC社製、KM−420)を用いて焼成し、酸化ジルコニウムを得た。焼成条件は、室温から800℃まで240分間かけて昇温し、800℃で300分間保持し、その後ヒーターへの通電を中止し室温まで冷却した。なお、焼成は大気中で行った。
【0060】
(2)混合工程
Sr原料として炭酸ストロンチウム(堺化学工業株式会社製:SW−P−N)26.1gと、Zr原料として上記(1)Zr原料準備工程により得られた酸化ジルコニウム31.3gを300mLマヨネーズ瓶に計り取り、イオン交換水172mLと1mmφジルコニアビーズ415gを添加してペイントコンディショナー(レッドデビル社製:5110型)を用いて、30分間混合した。
【0061】
(3)乾燥工程
上記(2)混合工程により得られたスラリーを、400メッシュ(目開き38μm)の篩にかけてジルコニアビーズを除去し、続いて濾過して得られた混合物のケーキを120℃の温度で充分に乾燥することにより混合物の乾燥物を得た。
【0062】
(4)焼成工程
上記(3)乾燥工程により得られた混合物の乾燥物のうち30gを、外径55mm、容量60mLのアルミナ製るつぼに入れて、電気マッフル炉(ADVANTEC社製、KM−420)を用いて焼成し、焼成物を得た。焼成条件は、室温から950℃まで285分間かけて昇温し、950℃で180分間保持し、その後ヒーターへの通電を中止し室温まで冷却した。なお、焼成は大気中で行った。
【0063】
(5)粉砕工程
上記(4)焼成工程により得られた焼成物を10g、自動乳鉢(ライカイ機)(日陶科学株式会社製:ANM−150)に仕込み、10分間粉砕することにより、複合金属酸化物研磨材料を得た。
【0064】
(実施例2〜27)
上記(1)Zr原料準備工程における焼成温度、上記(2)混合工程における酸化ジルコニウムの使用量、上記(2)混合工程における混合時間、及び/又は、上記(4)焼成工程における焼成温度を表1に示すように変更したほかは、実施例1と同様の手順で複合金属酸化物研磨材料を得た。
【0065】
(比較例1)
(1)Zr原料準備工程
オキシ塩化ジルコニウム8水和物(昭和化学株式会社製)3.0kgと、硫酸アンモニウム(東亞合成株式会社製)0.70kgとを、イオン交換水6.7Lに撹拌しながら溶解させた。この溶液を撹拌しながら25℃に調整し、この温度を維持しながら、180g/Lの水酸化ナトリウム水溶液を、pH9.5になるまで1時間かけて撹拌しながら添加し、更に1時間撹拌した。このスラリーをろ過水洗し、洗液の電気伝導度が100μS/cm以下になるまで水洗することにより、水酸化ジルコニウムケーキを得た。
【0066】
(2)混合工程
Sr原料として炭酸ストロンチウム(堺化学工業株式会社製:SW−P−N)26.1gと、Zr原料として上記(1)Zr原料準備工程により得られた水酸化ジルコニウムケーキ73.4g(ZrO換算21.9g)を300mLマヨネーズ瓶に計り取り、イオン交換水124mLと1mmφジルコニアビーズ415gを添加してペイントコンディショナー(レッドデビル社製:5110型)を用いて、30分間混合した。
上記(3)乾燥工程以降は、上記(4)焼成工程における焼成温度を800℃としたほかは、実施例1と同様の手順で、比較用研磨材料を得た。上記(2)混合工程における水酸化ジルコニウムの使用量、及び、上記(4)焼成工程における焼成温度を表1に示す。
【0067】
(比較例2)
実施例1の(2)混合工程における酸化ジルコニウムの使用量を表1に示すように変更したほかは、実施例1と同様の手順で、比較用研磨材料を得た。
【0068】
【表1】
【0069】
(性能評価)
以下の手順により、各実施例及び比較例で作製した研磨材料及びその原料の性能を評価した。
【0070】
(粉末X線回折の測定)
各実施例及び比較例で用いたZr原料、並びに、各実施例及び比較例に係る研磨材料について、以下の条件により粉末X線回折パターン(単にX線回折パターンともいう)を測定した。
使用機:株式会社リガク製 RINT−UltimaIII
線源:CuKα
電圧:40kV
電流:40mA
試料回転速度:回転しない
発散スリット:1.00mm
発散縦制限スリット:10mm
散乱スリット:開放
受光スリット:開放
走査モード:FT
計数時間:2.0秒
ステップ幅:0.0200°
操作軸:2θ/θ
走査範囲:10.0000〜70.0000°
積算回数:1回
単斜晶ZrO:JCPDSカード 00−037−1484
正方晶ZrO:JCPDSカード 00−050−1089
立方晶ZrO:JCPDSカード 00−049−1642
斜方晶SrZrO:JCPDSカード 00−044−0161
【0071】
実施例1で用いたZr原料である酸化ジルコニウムのX線回折パターンを図1に示す。
実施例1に係る複合金属酸化物研磨材料のX線回折パターンを図2に示す。
図2に示すX線回折パターンは、ピーク位置が既知のデータベース(JCPDSカード)におけるZrOとSrZrOのピークの両方を含んでいた。そのため、実施例1に係る複合金属酸化物研磨材料は、SrZrOの結晶相とZrOの結晶相を有していることがわかった。これは全ての実施例及び比較例1で同様であった。
比較例2で得た研磨材料についても、実施例1と同様にX線回折パターンを測定した。測定結果は図示していないものの、この測定結果から、比較例2で得た研磨材料は、SrZrOの結晶相のみを有し、ZrOの結晶相を有していないことがわかった。
【0072】
(半価幅の測定)
各実施例及び比較例で用いたZr原料のX線回折の測定により得られた回折パターンからZrOの2θ=27.00〜31.00°での最大ピークの半価幅を測定し、各実施例及び比較例に係る研磨材料のX線回折の測定により得られた回折パターンから斜方晶SrZrO(040)半価幅を測定した。結果を表2に示す。
なお、線源としてCuKα線を用いたX線回折において、単斜晶ZrOの最大ピークである(−111)面に由来するピークは2θ=28.14°付近にあり、正方晶ZrOの最大ピークである(011)面に由来するピークは2θ=30.15°付近にあり、立方晶ZrOの最大ピークである(111)面に由来するピークは2θ=30.12°付近にあり、斜方晶SrZrOの(040)面に由来するピークは2θ=44.04°付近にある。
図1に示すように、実施例1に用いた酸化ジルコニウムのX線回折パターンでは単斜晶ZrOの(−111)面に由来するピークが確認され、2θ=27.00〜31.00°での最大ピークの半価幅は0.38°であった。
図2に示すように、実施例1に係る複合金属酸化物研磨材料のX線回折パターンでは斜方晶SrZrOの(040)面に由来するピークが確認され、その半価幅は0.33°であった。
【0073】
(比表面積の測定)
各実施例及び比較例に係る研磨材料、並びに、各実施例及び比較例で用いたZr原料について、以下の条件により比表面積の測定を行った。結果を表2に示す。
使用機:株式会社マウンテック社製 Macsorb Model HM−1220
雰囲気:窒素ガス(N
外部脱気装置の脱気条件:200℃−15分
比表面積測定装置本体の脱気条件:200℃−5分
【0074】
(電子顕微鏡画像の測定)
各実施例及び比較例に係る研磨材料について、走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子株式会社製:型番JSM−6510A)によりSEM画像を撮影した。実施例1に係る複合金属酸化物研磨材料のSEM画像を図3に示す。
図3に示すように、実施例1に係る複合金属酸化物研磨材料は、複数の一次粒子がランダムに集合した不定形の二次粒子を形成している。
【0075】
(元素分析)
各実施例及び比較例に係る研磨材料について、蛍光X線分析装置(株式会社リガク製:型番 ZSX PrimusII)の含有元素スキャニング機能であるEZスキャンにより元素分析を行った。測定サンプル台にプレスしたサンプルをセットし、次の条件を選択(測定範囲:F−U、測定径:30mm、試料形態:酸化物、測定時間:長い、雰囲気:真空)し、Sr含有量(SrO換算)を測定した。結果を表2に示す。
【0076】
(粒度分布のシャープさ(D90/D10))
各実施例及び比較例に係る研磨材料について、レーザー回折・散乱式粒度分析計(日機装株式会社製:型番 マイクロトラックMT3300EX)により粒度分布測定を行った。まず、研磨材料0.1gにイオン交換水60mLを加え、ガラス棒を用いて室温にてよく撹拌することにより、研磨材料の懸濁液を準備した。なお、超音波を用いた分散操作は行わなかった。この後、イオン交換水180mLを試料循環器に準備し、透過率が0.71〜0.94になるように上記懸濁液を滴下して、流速50%にて、超音波分散をさせずに循環させながら測定を行った。結果を表2に示す。
【0077】
(研磨材スラリーの作製)
各実施例及び比較例で作製した研磨材料を用いて研磨材スラリーを作製した。
研磨材料の濃度が5.0重量%になるように、研磨材料をイオン交換水に添加した。更に、高速ミキサーを用いて分散し、水分散系の研磨材スラリーを作製した。
【0078】
(ガラス板研磨試験)
以下の条件により、各研磨材スラリーを用いてガラス板の研磨を行った。
使用ガラス板:ソーダライムガラス(松浪硝子工業株式会社製、サイズ36×36×1.3mm 比重2.5g/cm
研磨機:卓上型研磨機(株式会社エム・エー・ティ製、MAT BC−15C、研磨定盤径300mmφ)
研磨パッド:発泡ポリウレタンパッド(ニッタ・ハース株式会社製、MHN−15A、セリア含浸なし)
研磨圧力:101g/cm
定盤回転数:70rpm
研磨材組成物の供給量:100mL/min
研磨時間:60min
【0079】
(研磨速度評価)
ガラス板研磨試験前後のガラス板の重量を電子天秤で測定した。重量減少量、ガラス板の面積、ガラス板の比重からガラス板の厚さ減少量を算出し、研磨速度(μm/min)を算出した。
3枚のガラス板を同時に研磨し、60分研磨後にガラス板と研磨材スラリーを交換した。この操作を3回行い、計9枚の研磨速度を平均した値を各実施例及び比較例における研磨速度の値とし、結果を表2にまとめて示した。
研磨速度が0.29μm/min以上であれば極めて良好(◎)、0.10μm/min以上0.29μm/min未満であれば良好(○)、0.10μm/min未満であれば不良(×)である。
【0080】
【表2】
【0081】
実施例1〜27に係る複合金属酸化物研磨材料は、SrZrOの結晶相とZrOの結晶相を有しており、かつ、X線回折における斜方晶SrZrO(040)半価幅が0.1〜3.0°であるため、研磨速度に優れることがわかった。また、D90/D10が1.5〜50となっており、体積基準粒度分布が程よく、複合金属酸化物研磨材料に適していた。
比較例1に係る比較用研磨材料は、斜方晶SrZrO(040)半価幅が3.0を超え、D90/D10が50を超えており、研磨速度が不良(×)であった。
比較例2に係る比較用研磨材料は、SrZrOの結晶相を有するものの、ZrOの結晶相を有しておらず、複合体ではなかった。この場合、研磨速度が不良(×)であった。
なお、表には示していないが、比較例3として、上記(2)混合工程における炭酸ストロンチウムの使用量を0gとした(すなわち、炭酸ストロンチウムを使用しなかった)こと以外は、実施例1と同様の手順を行うことで、ZrOの結晶相のみを有し、SrZrOの結晶相を有さない比較用研磨材料を得た。この比較用研磨材料について、実施例1と同様にして研磨速度を評価したところ、研磨速度が不良(×)であった。
以上のことから、本発明の複合金属酸化物研磨材料の製造方法は、セリウムフリーの研磨材料において良好な研磨速度を有する研磨材料を提供することができることがわかった。
【0082】
表には示していないが、実施例1の(2)混合工程において、ビーズを用いた混合ではなく、羽根撹拌下で混合したこと以外は、実施例1と同様にして複合金属酸化物研磨材料を得た。この研磨材料について実施例1と同様にして研磨速度を評価したところ、研磨速度は0.23μm/minであった。この研磨材料についても、実施例1と同様にX線回折パターンを測定した。測定結果は図示していないものの、この測定結果から、この研磨材料は、SrZrOの結晶相とZrOの結晶相に加えて、未反応の炭酸ストロンチウムに由来するピークも確認された。
【0083】
(参考例1)
実施例1で作製した複合金属酸化物研磨材料を用い、研磨材スラリーAを作製した。
具体的には、研磨材20.0gをイオン交換水380.0gに分散させ、25℃にて10分間撹拌した。このようにして研磨材スラリーAを得た。
研磨材スラリーAについて、以下の条件によりゼータ電位の測定を行った。この研磨材スラリーの、pHに対するゼータ電位の関係を図4に示す。また、研磨材スラリーAの等電点は6.4であった。ここで、等電点とは、研磨材スラリー中の砥粒(複合金属酸化物研磨材料)に帯びた電荷の代数和がゼロである点、すなわち砥粒に帯びた正電荷と負電荷とが等しくなる点をいい、その点における研磨材スラリーのpHで表すことができる。
【0084】
(ゼータ電位の測定条件)
測定機:大塚電子株式会社製、ゼータ電位測定システム、型番ELSZ−1
pHタイトレーター:大塚電子株式会社製、型番ELS−PT
研磨材スラリー6gをイオン交換水を用いて5倍希釈し、ガラス棒で撹拌しながら超音波洗浄機にて1分間分散させた。このスラリー10ccにイオン交換水50ccを加え、超音波ホモジナイザー(US−600、日本精機製作所製)を用いて、強度をV−LEVEL3に設定して1分間分散処理を行った。このようにして得たゼータ電位測定用研磨材スラリー30ccをゼータ電位測定機に充填した。
なお、コロイダルシリカを用いた研磨材スラリーCは、研磨材スラリーC60ccを超音波ホモジナイザー(US−600、日本精機製作所製)を用いて、強度をV−LEVEL3に設定して1分間分散処理を行った。このようにして得たゼータ電位測定用研磨材スラリー30ccをゼータ電位測定機に充填した。
【0085】
なお、研磨材スラリーのpH調整のために、必要に応じて以下のpH調整剤を用いた。
酸性側pH調整溶液:塩酸水溶液、0.1mol/L
アルカリ性側pH調整溶液:水酸化ナトリウム水溶液、1mol/L
【0086】
(1)第1研磨工程
上述のようにして得た研磨材スラリーAのゼータ電位が表3に示す値になるよう、スラリーのpHを調整した。このスラリーの存在下で、実施例1の「ガラス板研磨試験」と同様の研磨条件にてガラス板の研磨を行った。この工程での研磨材スラリーAのpH値を表3に示す。また、実施例1の「研磨速度評価」試験と同様に、第1研磨工程での研磨速度を測定した。更に、第1研磨工程後のガラス基板の表面粗さを、以下の方法に従って評価した。結果を表3に示す。
(2)第2研磨工程
上記第1研磨工程で使用した研磨材スラリーAをそのまま連続使用し、そのゼータ電位が表3に示す値になるようにスラリーのpHを調整した後、このスラリーの存在下で、第1研磨工程と同じ研磨条件にてガラス基板の研磨を行った。この工程での研磨材スラリーAのpH値を表3に示す。また、実施例1の「研磨速度評価」と同様に、第2研磨工程での研磨速度を測定した。更に、第2研磨工程後のガラス基板の表面粗さを、以下の方法に従って評価した。結果を表3に示す。
【0087】
(ガラス基板の表面平滑性の測定)
各研磨工程後のガラス板について、以下の条件により表面粗さの測定を行った。
測定機:ZYGO株式会社製、白色干渉顕微鏡、型番NewViewTM7100
水平解像度:<0.1nm
対物レンズ:50倍
フィルター:なし
測定視野サイズ:X=186μm、Y=139μm
評価方法:研磨後のガラス基板に対し、中心点、及び、中心点から半径6mm、12mmの同心円とガラス基板の対角線の交点の計9点のRaを測定し、平均値を算出した。この操作を上記の研磨速度の測定に用いた計9枚のガラス基板に対して行い、各ガラス基板のRaの平均値を用いて平均することにより、表面粗さを評価した。
【0088】
(参考例2)
第1研磨工程の後に研磨材スラリーAを取り出し、新しい研磨材スラリーA(但し、当該スラリーのpHを表3に示す値に調整する)に切り替えて第2研磨工程を行ったこと以外は、参考例1と同様にして第1研磨工程及び第2研磨工程を実施した。各工程での、研磨材スラリーのpH、ゼータ電位、研磨速度及びガラス基板の表面粗さを表3に示す。
【0089】
(比較参考例1)
(1)第1研磨工程
研磨材としてガラス研磨用酸化セリウム質研磨材(昭和電工株式会社製、SHOROX(R)A−10、酸化セリウム含有量:60重量%、等電点:10.4)を用いたこと以外は、参考例1と同様にして研磨材スラリーBを作製した。この研磨材スラリーBのゼータ電位が表3に示す値になるよう、スラリーのpHを調整した後、このスラリーの存在下で、実施例1の「ガラス板研磨試験」と同様の研磨条件にてガラス板の研磨を行った。この工程での研磨材スラリーBのpH値を表3に示す。また、第1研磨工程での研磨速度、及び、第1研磨工程後のガラス基板の表面粗さを、参考例1と同様に評価した。結果を表3に示す。
(2)第2研磨工程
上記第1研磨工程で用いた研磨材スラリーBを研磨機から取り出し、研磨機の洗浄を行った。
別途、コロイダルシリカ(扶桑化学工業株式会社、クォートロン(R)PL−7、等電点:5.8)52.2gをイオン交換水347.8gに分散させ、25℃にて10分間撹拌した。これを研磨材スラリーCとして用意した。この別途用意しておいた研磨材スラリーCのゼータ電位が表3に示す値になるようにpHを調整した後、この研磨材スラリーCの存在下で第1研磨工程と同じ研磨条件にてガラス基板の研磨を行った。この工程での研磨材スラリーCのpH値を表3に示す。また、第2研磨工程での研磨速度、及び、第2研磨工程後のガラス基板の表面粗さを、参考例1と同様に評価した。結果を表3に示す。
なお、研磨材スラリーB、Cそれぞれの、pHに対するゼータ電位の関係を図4に示す。
【0090】
【表3】
【0091】
上記参考例及び比較参考例より以下のことが確認された。
参考例1、2と比較参考例1とでは、最終的に得られた基板(第2研磨工程後の基板)の表面粗さはほぼ同等であるにも関わらず、参考例1、2では、比較参考例1に比べて研磨速度が著しく向上されている。したがって、上述した好ましい研磨方法(すなわち、本発明の複合金属酸化物研磨材料を含むスラリーのゼータ電位が正となる条件下で負帯電性基板を研磨する研磨工程aと、該研磨材スラリーのゼータ電位が負となる条件下で負帯電性基板を研磨する研磨工程bとを、それぞれ少なくとも1回ずつ実施する研磨方法)は、セリウムフリーの研磨材料において高い研磨速度と優れた表面平滑性とを実現できることが分かった。また、比較参考例1においては、第1研磨工程では酸化セリウム系の研磨材を、第2研磨工程ではコロイダルシリカを使用しているため、研磨機の洗浄作業等を行う必要があったが、参考例1、2では第1研磨工程と第2研磨工程とで同種類の研磨材スラリーAを使用しているため、研磨機の洗浄作業等が不要となり、作業面、設備面で非常に有利であった。
【0092】
なお、参考例1の第2研磨工程では第1研磨工程で使用した研磨材スラリーAをそのまま連続使用したのに対し、参考例2の第2研磨工程では、第1研磨工程で使用した研磨材スラリーAと同じものではあるが、新しい研磨材スラリーAに切り替えて研磨を行った点において、参考例1と参考例2とは相違する。だが、この相違は、研磨速度及び得られる基板の表面平滑性に殆ど影響を与えないことが分かった。
図1
図2
図3
図4