特許第6460143号(P6460143)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TDK株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6460143-リチウム二次電池 図000005
  • 特許6460143-リチウム二次電池 図000006
  • 特許6460143-リチウム二次電池 図000007
  • 特許6460143-リチウム二次電池 図000008
  • 特許6460143-リチウム二次電池 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6460143
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】リチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20190121BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20190121BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20190121BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20190121BHJP
【FI】
   H01M10/052
   H01M10/0568
   H01M4/66 A
   H01M4/134
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-63162(P2017-63162)
(22)【出願日】2017年3月28日
(65)【公開番号】特開2018-166071(P2018-166071A)
(43)【公開日】2018年10月25日
【審査請求日】2018年7月5日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【弁理士】
【氏名又は名称】荻野 彰広
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 靖博
(72)【発明者】
【氏名】後藤 将太
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−220170(JP,A)
【文献】 特開平04−126355(JP,A)
【文献】 特開2014−149969(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0013462(US,A1)
【文献】 特開平07−201363(JP,A)
【文献】 特開2015−230884(JP,A)
【文献】 特開2003−331918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052
H01M 4/134
H01M 4/66
H01M 10/0568
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、イオン液体を含む非水電解質とを含み、
前記負極は、集電体と、前記集電体の表面に設けられたカーボン層とを有し、
充電時にリチウム金属が前記負極の表面に析出し、放電時にリチウム金属が前記非水電解質に溶解して駆動する、リチウム二次電池。
【請求項2】
前記カーボン層は導電性を有し、3次元に結合した炭素結合を有する、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
前記カーボン層の厚みは1.5μm未満である、請求項1又は2のいずれかに記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
前記集電体と前記カーボン層との間に挿入層をさらに有し、前記挿入層はリチウムを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項5】
前記イオン液体のカチオンが、第四級アンモニウムカチオン、スルホニウムカチオン、ホスホニウムカチオンからなる群から選択される少なくとも1種以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項6】
前記イオン液体のアニオンがフッ素原子を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項7】
前記イオン液体のアニオンが、ビス(フルオロスルホニル)イミド、又は、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの少なくとも一方を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、高容量化を実現することができ、携帯電話やノートパソコン等のモバイルバッテリーから自動車用バッテリーや大型の電力貯蔵用バッテリーまで広く利用されている。
【0003】
リチウム二次電池は、電極を構成する材料内にリチウムイオンを挿入、脱離することで充放電を行うリチウムイオン二次電池とは異なり、リチウム金属が析出、溶解することで充放電を行う。リチウム金属は極めて卑な電位を有するため、リチウム二次電池は高い理論容量密度を実現できると期待されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
リチウム二次電池は、イオンの移動の媒体となる電解質を用いて充放電を行う。液体の電解質は液漏れ等の問題があり、液漏れは発火の原因となる。そこで、電解質を難燃化するために、イオン液体が用いられている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−259929号公報
【特許文献2】特開2015−216016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、イオン液体を用いると安全性は高まるが、実際に電池を充放電した際に、リチウム二次電池の特徴である高い理論容量密度を充分に満たすことができない場合があった。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、高い理論容量を実現できるリチウム二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、負極が非常に強い還元状態になることで、イオン液体が負極表面で還元分解され、理論容量を満たすことができなくなるのではないかと考えた。そこで、負極表面の活性面にカーボン層を被覆することで、イオン液体の還元分解が抑制され、リチウムイオン二次電池が高い理論容量を実現できることを見出した。
すなわち、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0009】
(1)第1の態様にかかるリチウム二次電池は、正極と、負極と、イオン液体を含む非水電解質とを含み、前記負極は、集電体と、前記集電体の表面に設けられたカーボン層とを有し、充電時にリチウム金属が前記負極の表面に析出し、放電時にリチウム金属が前記非水電解質に溶解して駆動する。
【0010】
(2)上記態様にかかるリチウム二次電池において前記カーボン層は導電性を有し、3次元に結合した炭素結合を有してもよい。
【0011】
(3)上記態様にかかる前記カーボン層の厚みは1.5μm未満であってもよい。
【0012】
(4)上記態様にかかるリチウム二次電池において、前記集電体と前記カーボン層との間に挿入層をさらに有し、前記挿入層はリチウムを含んでもよい。
【0013】
(5)上記態様にかかるリチウム二次電池において、前記イオン液体のカチオンが、第四級アンモニウムカチオン、スルホニウムカチオン、ホスホニウムカチオンからなる群から選択される少なくとも1種以上であってもよい。
【0014】
(6)上記態様にかかるリチウム二次電池において、前記イオン液体のアニオンがフッ素原子を有してもよい。
【0015】
(7)上記態様にかかるリチウム二次電池において、前記イオン液体のアニオンが、ビス(フルオロスルホニル)イミド、又は、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの少なくとも一方を含んでもよい。
【発明の効果】
【0016】
上記態様に係るリチウム二次電池によれば、安全性に優れるイオン液体を用いた場合でも理論容量を満たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態にかかるリチウム二次電池の断面模式図である。
図2】本実施形態にかかるリチウム二次電池の要部を模式的に示した図である。
図3】第1実施形態にかかるリチウム二次電池の動作の様子を模式的に示した図である。
図4】炭素の結晶構造を示した図である。
図5】第2実施形態にかかるリチウム二次電池の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0019】
「第1実施形態」
[リチウム二次電池]
図1は、第1実施形態にかかるリチウム二次電池の断面模式図である。図1に示すリチウム二次電池100は、発電部40と、外装体50と、リード60、62とを備える。外装体50は、発電部40を密閉した状態で収容する。一対のリード60、62は、発電部40に接続されている。また図示されていないが、発電部40とともに電解質が、外装体50内に収容されている。
【0020】
発電部40は、正極20と負極30とが、セパレータ10を挟んで対向配置されている。正極20は、板状(膜状)の正極集電体22上に正極活物質層24が設けられたものである。
【0021】
正極20及び負極30は、セパレータ10の両側にそれぞれ接触している。正極20及び負極30の端部には、それぞれリード60、62が接続されており、リード60、62の端部は外装体50の外部にまで延びている。図1では、外装体50内に発電部40が一つの場合を例示したが、複数積層されていてもよい。
【0022】
図2は、第1実施形態にかかるリチウム二次電池を模式的に示した図である。図2は、リチウム二次電池が機能するために必要な構成を抜き出して模式的に示した図である。図2に示すように、正極20と負極30の間には、非水電解質70が設けられている。非水電解質70は、図1においてはセパレータ10及び正極活物質層24中に含浸されている。リチウム二次電池100は、非水電解質70を介して正極20及び負極30間でリチウムイオンが移動することにより充放電を行う。すなわち、正極20、負極30及び非水電解質70があれば、リチウム二次電池100は動作する。
【0023】
図3は、第1実施形態にかかるリチウム二次電池の動作の様子を模式的に示した図である。図3(a)に示すように、組立直後のリチウム二次電池100は、正極20と負極30の間に非水電解質70を有する。
【0024】
図3(a)に示す状態からリチウム二次電池100を充電すると、非水電解質70に含まれるリチウム塩がリチウム金属として析出し、図3(b)に示すように金属リチウム72が形成される。そして、図3(b)に示す状態からリチウム二次電池100を放電すると、図3(c)に示すように金属リチウム72が非水電解質内に再度溶解し、金属リチウム72の量が減少する。
【0025】
金属リチウム72は放電によって完全になくなることはなく、10%程度残存する。そのため、リチウム二次電池100を複数回充放電する場合は、図3(b)に示す状態と、図3(c)に示す状態を交互に繰り返す。
【0026】
ここで図3では金属リチウム72を層状に図示したが、実際は均一な層状に形成されるわけではない。そのため、充放電を複数回行った後でも、負極30と金属リチウム72は区別して判断できる。
【0027】
(負極)
図2及び図3に示すように第1実施形態にかかるリチウム二次電池100の負極30は、集電体32と、カーボン層34とを有する。
【0028】
集電体32は、導電性の板材であればよく、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル箔の金属薄板を用いることができる。リチウム二次電池100は、金属リチウム72が析出するため、リチウムと反応性の低い銅を用いることが特に好ましい。
【0029】
カーボン層34は、集電体32の非水電解質70と接する表面に設けられている。活性が高くなっている集電体32の表面をカーボン層34で覆うと、イオン液体の還元分解が抑制される。
【0030】
リチウム二次電池の負極は、動作時に非常に強い還元状態になる。そのため、カーボン層34が設けられていないと、非水電解質に含まれるイオン液体は、負極表面で還元分解される。非水電解質の一部であるイオン液体が分解されると、リチウム二次電池は十分性能を発揮することができなくなる。これに対し、リチウム二次電池100にカーボン層34を設けることで、イオン液体の分解を抑制できる。
【0031】
カーボン層34は導電性を有し、3次元に結合した炭素結合を有することが好ましい。すなわち、カーボン層34は、sp混成軌道による炭素結合と、sp混成軌道による炭素結合と、の両方を炭素元素の基本骨格として結晶構造内に有することが好ましい。
【0032】
図4は、炭素の結晶構造を示した図である。図4(a)はダイヤモンドの炭素の結合状態を示した図であり、図4(b)はダイヤモンドライクカーボン(DLC)の炭素の結合状態を示した図であり、図4(c)はグラファイトの炭素の結合状態を示した図である。
【0033】
図4(c)に示すようにグラファイトは、炭素同士が二次元に結合し、これらが積層されている。グラファイトは、炭素が結合する面内方向は束縛されているが、面内方向に対して垂直な層間方向の束縛は弱い。そのため、イオン液体のカチオンが層間に侵入すると、カーボン層34の剥離が生じる。
【0034】
これに対し、図4(a)、(b)に示すように、炭素同士が三次元に結合すると、イオン液体のカチオンが挿入される隙間が無くなる。そのため、カーボン層34が充放電の途中で剥離することを抑制できる。
【0035】
また炭素同士が三次元に結合すると、カーボン層34内にリチウムが挿入されることも抑制でき、負極30表面に金属リチウム72を析出できる。金属リチウム72が適切に析出されることで、リチウムの卑な電位を利用して、リチウム二次電池100の容量が高まる。
【0036】
なお、図4(a)に示すダイヤモンドは導電性が低いため、リチウム二次電池100に用いるのは好ましくない。
【0037】
カーボン層34の厚みは1.5μm未満であることが好ましく、1.0μm以下であることがより好ましい。カーボン層34の厚みが厚くなりすぎると、カーボン層34の一部が剥離したり、カーボン層34に亀裂が生じる等の問題が生じやすくなる。カーボン層34の厚みの下限値は特に規定されるものはないが、1nm以上であることが好ましい。
【0038】
またカーボン層34が薄いことで、カーボン層34内にリチウムが挿入されることを抑制できる。すなわち、リチウムイオン二次電池のようなイオンの挿入、脱離反応が生じることを抑制できる。
【0039】
(正極)
正極20は、正極集電体22と、その一面に設けられた正極活物質層24とを有する。正極集電体22は、導電性を有する材料により構成されていればよく、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル箔の金属薄板を用いることができる。
【0040】
正極活物質層24に用いる正極活物質は、リチウムイオンの吸蔵及び放出、リチウムイオンの脱離及び挿入(インターカレーション)、又は、リチウムイオンとリチウムイオンのカウンターアニオン(例えば、PF)とのドープ及び脱ドープを可逆的に進行させることが可能な電極活物質を用いることができる。
【0041】
例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMnO)、リチウムマンガンスピネル(LiMn)、及び、一般式:LiNiCoMna2(x+y+z+a=1、0≦x<1、0≦y<1、0≦z<1、0≦a<1、MはAl、Mg、Nb、Ti、Cu、Zn、Crより選ばれる1種類以上の元素)で表される複合金属酸化物、リチウムバナジウム化合物(LiV)、オリビン型LiMPO(ただし、Mは、Co、Ni、Mn、Fe、Mg、Nb、Ti、Al、Zrより選ばれる1種類以上の元素又はVOを示す)、チタン酸リチウム(LiTi12)、LiNiCoAl(0.9<x+y+z<1.1)等の複合金属酸化物、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセンなどが挙げられる。
【0042】
また正極活物質層24は、導電材を有していてもよい。導電材としては、例えば、カーボンブラック類等のカーボン粉末、カーボンナノチューブ、炭素材料、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属微粉、炭素材料及び金属微粉の混合物、ITO等の導電性酸化物が挙げられる。正極活物質のみで十分な導電性を確保できる場合は、正極活物質層24は導電材を含んでいなくてもよい。
【0043】
また正極活物質層24は、バインダーを含む。バインダーは、公知のものを用いることができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、が挙げられる。
【0044】
また、上記の他に、バインダーとして、例えば、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−HFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFMVE−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴムを用いてもよい。
【0045】
(非水電解質)
非水電解質70は、イオン液体及びリチウム塩を含む。イオン液体は、カチオンとアニオンの組合せによって得られる100℃未満でも液体状の塩である。イオン液体は、イオンのみからなる液体であるため、静電的な相互作用が強く、不揮発性、不燃性と言う特徴を有する。電解質としてイオン液体を用いたリチウム二次電池100は、安全性に優れる。
【0046】
イオン液体は、カチオンとアニオンの組合せによって様々な種類がある。例えば、イミダゾリウム塩、ピロリジニウム塩、ピペリジニウム塩、ピリジニウム塩、アンモニウム塩等の窒素系のイオン液体、ホスホニウム塩等のリン系のイオン液体、スルホニウム塩等の硫黄系のイオン液体等が挙げられる。窒素系のイオン液体は、環状の第四級アンモニウム塩と鎖状の第四級アンモニウム塩とに分けることができる。
【0047】
イオン液体のカチオンとしては、窒素系、リン系、硫黄系等のものが報告されている。イオン液体のカチオンは、第四級アンモニウムカチオン、スルホニウムカチオン、ホスホニウムカチオンからなる群から選択される少なくとも1種以上であることが好ましい。これらのカチオンは、還元側の電位窓が広い。そのため、これらのカチオンは負極30表面で還元分解されにくい。
【0048】
第四級アンモニウムカチオンは、窒素系のカチオンであり、環状と鎖状のものがある。環状のカチオンとしては、イミダゾリウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピリジニウムカチオンがあり、鎖状のカチオンとしてはアンモニウムカチオンがある。
【0049】
イミダゾリウムカチオンの具体例としては、例えば、1エチル3メチルイミダゾリウム、1ブチル3メチルイミダゾリウム、1オクシル3メチルイミダゾリウム、1ブチル3ドデシルイミダゾリウム等が挙げられる。
【0050】
ピロリジニウムカチオンの具体例としては、例えば、1エチル1プロピルピロリジニウム、1ブチル1メチルピロリジニウム、1メチル1ペンチルピロリジニウム、等が挙げられる。
【0051】
ピペリジニウムカチオンの具体例としては、例えば、プロピルメチルピペリジニウム、ブチルメチルピペリジニウム等が挙げられる。
【0052】
ピリジニウムカチオンの具体例としては、例えば、1ヘキサ4メチルピリジニウム、1オクシル4メチルピリジニウム等が挙げられる。
【0053】
鎖状のアンモニウムカチオンとしては、例えば、トリメチルプロピルアンモニウム、トリメチルブチルアンモニウム、トリメチルヘキシルアンモニウム等が挙げられる。
【0054】
またスルホニウムカチオンは、硫黄系のカチオンであり、トリエチルスルホニウム等が挙げられる。またホスホニウムカチオンは、リン系のカチオンであり、トリエチルスルホニウムが挙げられる。
【0055】
また原料の入手性、多様性、安全性、操作性、価格等の面においては、窒素系カチオンが優れている。窒素系カチオンの中でも、イミダゾリウム系、アンモニウム系及びピリジニウム系のカチオンは、原料が比較的安価で入手が容易である。
【0056】
イオン液体のアニオンとしては、AlCl、NO、NO、I、BF、PF、AsF、SbF、NbF、TaF、F(HF)2.3、p−CHPhSO、CHCO、CFCO、CHSO、CFSO、(CFSO、CCO、CSO、(CFSO、(CSO、(CFSO)(CFCO)N、(CN)、(SOF)、等が挙げられる。
【0057】
イオン液体のアニオンは、フッ素原子を有することが好ましく、ビス(フルオロスルホニル)イミド(組成式:(SOF))、又は、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(組成式:(CFSO)の少なくとも一方を含むことがより好ましい。フッ素系のアニオンを上述のカチオンと組み合わせると、フッ素原子が電子を求引するため、カチオンが還元分解され難くなる。
【0058】
リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiBOB等の無機酸陰イオン塩、LiCFSO、(CFSONLi、(FSONLi等の有機酸陰イオン塩等を用いることができる。
【0059】
(セパレータ)
セパレータ10は、電気絶縁性の多孔質構造から形成されていればよく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン又はポリオレフィンからなるフィルムの単層体、積層体や上記樹脂の混合物の延伸膜、或いはセルロース、ポリエステル及びポリプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種の構成材料からなる繊維不織布が挙げられる。
【0060】
(外装体)
外装体50は、その内部に発電部40及び電解質を密封するものである。外装体50は、電解質の外部への漏出や、外部からのリチウム二次電池100内部への水分等の侵入等を抑止できる物であれば特に限定されない。
【0061】
例えば、外装体50として、図1に示すように、金属箔52を高分子膜54で両側からコーティングした金属ラミネートフィルムを利用できる。金属箔52としては例えばアルミ箔を、高分子膜54としてはポリプロピレン等の膜を利用できる。例えば、外側の高分子膜54の材料としては融点の高い高分子、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド等が好ましく、内側の高分子膜54の材料としてはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が好ましい。
【0062】
「リード」
リード60、62は、アルミ等の導電材料から形成されている。リード60、62を正極20、負極30にそれぞれ溶接し、正極20と負極30との間にセパレータ10を挟んだ状態で、電解質と共に外装体50内に挿入し、外装体50の入り口をシールする。
【0063】
[リチウム二次電池の製造方法]
本実施形態にかかるリチウム二次電池100の製造方法について説明する。まず正極20及び負極30を作製する。
【0064】
正極20は、正極集電体22上に正極活物質を含む塗料を塗布、乾燥して作製する。正極活物質を含む塗料は、正極活物質26、バインダー及び溶媒を含み、必要に応じて導電材が混合されている。溶媒には、例えば、水、N−メチル−2−ピロリドン等を用いることができる。
【0065】
塗料における正極活物質、導電材、バインダーの構成比率は、質量比で80wt%〜98wt%:0.1wt%〜10wt%:0.1wt%〜10wt%であることが好ましい。これらの質量比は、全体で100wt%となるように調整される。塗料を構成する成分の混合方法は特に制限されず、混合順序もまた特に制限されない。
【0066】
そして作製した塗料を、正極集電体22に塗布する。塗布方法としては、特に制限はなく、通常電極を作製する場合に採用される方法を用いることができる。例えば、スリットダイコート法、ドクターブレード法が挙げられる。
【0067】
続いて、正極集電体22に塗布された塗料中の溶媒を除去する。除去方法は特に限定されない。例えば、塗料が塗布された正極集電体22を、80℃〜150℃の雰囲気下で乾燥させればよい。そして、正極集電体22上に正極活物質層24が形成された正極20が得られる。
【0068】
負極30は、集電体32の表面にカーボン層34を形成する。カーボン層34にダイヤモンドライクカーボン(DLC)を用いる場合は、スパッタリング、イオン化蒸着法等を用いて、集電体32の表面に成膜する。一方で、カーボン層34としてグラファイトを用いる場合は、粘着テープ等で劈開したグラファイト薄片を集電体32にこすり付けて作製する。この他、化学的気相成長法、溶液塗布法を用いて作製してもよい。
【0069】
次いで作製した正極20と負極30とを、セパレータ10を介して積層し、非水電解質と共に、外装体50内に封入する。例えば、正極20と、負極30と、セパレータ10とを積層し、予め作製した袋状の外装体50に、発電部40を入れる。非水電解質は、外装体50内に注入してもよいし、発電部40内に含浸させてもよい。
【0070】
上述のように、本実施形態にかかるリチウム二次電池は、負極30の非水電解質70側の表面の少なくとも一部がカーボン層34で被覆されている。そのため、負極30表面でイオン液体のカチオンが還元分解することが抑制され、リチウム二次電池がもつ高い理論容量を達成することができる。
【0071】
「第2実施形態」
図5は、第2実施形態にかかるリチウム二次電池の断面模式図である。第2実施形態にかかるリチウム二次電池101は、集電体32とカーボン層34との間に、リチウムを含む挿入層36が設けられている点が、第1実施形態にかかるリチウム二次電池100と異なる。第2実施形態にかかるリチウム二次電池101のその他の構成は、リチウム二次電池100と同一であり、同一の構成には同一の符号を付与している。
【0072】
図2に示すように、リチウム二次電池100を充電すると金属リチウム72が析出する。上述のように金属リチウム72は必ずしも膜上に析出するのではなく、析出開始点を根として樹上に析出する(デンドライトを形成する)ことが多い。
【0073】
リチウム二次電池を放電すると、この樹上に析出した金属リチウムが溶解する。樹上に析出した金属リチウムは、枝の部分から順に溶解すれば問題はないが、根元の部分が先に溶解する場合がある。この場合、根元を失った金属リチウムは非水電解質中に浮遊し、導通が取れなくなる。すなわち、この非水電解質中に浮遊する金属リチウムは、以降の充放電には寄与することができなくなり、リチウム二次電池の容量が低減する原因の一つとなる。
【0074】
図5に示すリチウムを含む挿入層36を有するリチウム二次電池101は、挿入層36に含まれるリチウムが予備タンクのように働き、リチウム二次電池の容量の低減が抑えられる。
【0075】
上述のように、非水電解質70中に浮遊する金属リチウムの量が増えると、充放電に寄与するリチウム量が不足する。挿入層36に含まれるリチウムは、カーボン層34を介して非水電解質70に至ることができる。そのため、不足したリチウムを挿入層36に含まれるリチウムが補い、リチウム二次電池101の容量が低下することを抑えられる。そのため、リチウム二次電池101は、リチウム二次電池がもつ高い理論容量を実現できる。
【0076】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【実施例】
【0077】
「実施例1」
まず実施例1としてカーボン層を構成する炭素材料を変更し、理論容量に対して達成できた容量比を求めた。
【0078】
(実施例1−1)
まず正極を準備した。正極活物質としてNCA(組成式:Li1.0Ni0.78Co0.19Al0.03)、導電材としてカーボンブラック、バインダーとしてPVDFを準備した。これらを溶媒中で混合し、塗料を作製し、アルミ箔からなる正極集電体上に塗布した。正極活物質と導電材とバインダーの質量比は、95:2:3とした。塗布後に、溶媒は除去した。
【0079】
次いで負極を準備した。負極は、集電体として銅箔を用い、集電体の一面にDLCをスパッタして作製した。
【0080】
そして作製された正極と負極とをセパレータを介して積層し発電部を作製した。正極と負極の積層数は1層とした。セパレータには、ポリエチレンとポリプロピレンの積層体を用いた。
【0081】
得られた発電部を非水電解質に含浸させてから外装体内に封入した。非水電解質は、イオン液体のカチオンとしてピロリジニウム(P13)、イオン液体のアニオンとしてビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI)、リチウム塩としてリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を用いた。ピロリジニウムは第四級アンモニウムである。
【0082】
そして得られたリチウム二次電池の充放電を行い、電池容量を測定し、理論容量に対する容量比を求めた。電池容量は、初回の充放電時に求めた。また得られた初回の各放電容量の80%以上の容量を維持できるサイクル回数を求めた。その結果を表1に示す。
【0083】
(実施例1−2)
実施例1−2は、集電体とカーボン層の間に金属リチウムを設けた点が実施例1−1と異なる。金属リチウムは、厚さ100μmの金属リチウム箔を銅箔からなる負極集電体上に貼りつけた。そして、実施例1−1と同様に、初回の充放電時の理論容量に対する容量比及びサイクル特性を求めた。その結果を表1に示す。
【0084】
(実施例1−3)
実施例1−3は、カーボン層をグラファイトに変えた点が実施例1−1と異なる。実施例1−1と同様に、初回の充放電時の理論容量に対する容量比及びサイクル特性を求めた。その結果を表1に示す。
【0085】
(実施例1−4)
実施例1−4は、カーボン層をグラファイトに変えた点が実施例1−2と異なる。実施例1−2と同様に、初回の充放電時の理論容量に対する容量比及びサイクル特性を求めた。その結果を表1に示す。
【0086】
(比較例1)
比較例1は、カーボン層を設けなかった点が実施例1−1と異なる。実施例1−2と同様に、初回の充放電時の理論容量に対する容量比及びサイクル特性を求めた。その結果を表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
表1に示すように、カーボン層を設けた実施例1−1〜1−4はいずれも、カーボン層を設けていない比較例1より高い理論容量の達成率を示した。
【0089】
またsp混成軌道による炭素結合とsp混成軌道による炭素結合との両方を炭素元素の基本骨格として結晶構造内に有するDLCをカーボン層として用いた実施例1−1及び実施例1−2は、sp混成軌道による炭素結合のみからなるグラファイトをカーボン層として用いた実施例1−3及び実施例1−4より高い理論容量の達成率を示した。DLCは3次元の炭素結合を有するため、充放電時にカーボン層が剥離しなかったためと考えられる。
【0090】
またリチウムを含む挿入層を集電体とカーボン層との間に設けた実施例1−2は、挿入層を設けなかった実施例1−1よりサイクル特性が優れていた。この傾向は、実施例1−3と実施例1−4においても同様であった。挿入層からリチウムが補填されることで、リチウム二次電池の容量低下が抑えられたものと考えられる。
【0091】
「実施例2」
実施例2では、イオン液体を構成するアニオン及びカチオンの種類を変更した。その他の構成は実施例1−2と同じとした。
【0092】
実施例2−1では、カチオンをホスホニウムカチオンであるトリエチル−(2−メトキシエチル)ホスホニウム(P222)を用いた。実施例2−2では、カチオンをスルホニウムカチオンであるトリエチルスルホニウム(Sxxx)を用いた。実施例2−3では、アニオンをビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TFSI)とした。それぞれ実施例1と同様に、初回の充放電時の理論容量に対する容量比及びサイクル特性を求めた。その結果を表2に示す。
【0093】
【表2】
【0094】
「実施例3」
実施例3では、カーボン層の厚みを変更した。その他の構成は実施例1−2と同じとした。実施例3−1〜実施例3−6におけるカーボン層の厚み、初回の充放電時の理論容量に対する容量比及びサイクル特性を求めた。その結果を表3に示す。
【0095】
【表3】
【0096】
実施例3−6に示すように、カーボン層の厚みが厚すぎるとサイクル特性が低下した。カーボン層の厚みが厚すぎると、カーボン層にひび割れ等が生じ、イオン液体の一部が集電体と接触し、イオン液体のカチオンの還元分解が生じたためと考えられる。
【符号の説明】
【0097】
10…セパレータ、20…正極、22…正極集電体、24…正極活物質層、30…負極、32…負極集電体、34…カーボン層、40…発電部、50…外装体、60,62…リード、70…非水電解質、72…金属リチウム、100,101…リチウム二次電池
図1
図2
図3
図4
図5