特許第6460198号(P6460198)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 千住金属工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6460198-フラックス及びソルダペースト 図000004
  • 特許6460198-フラックス及びソルダペースト 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6460198
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】フラックス及びソルダペースト
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/363 20060101AFI20190121BHJP
   B23K 35/26 20060101ALN20190121BHJP
   C22C 13/00 20060101ALN20190121BHJP
【FI】
   B23K35/363 C
   B23K35/363 E
   !B23K35/26 310A
   !C22C13/00
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-198018(P2017-198018)
(22)【出願日】2017年10月11日
【審査請求日】2017年12月1日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000199197
【氏名又は名称】千住金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001209
【氏名又は名称】特許業務法人山口国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 善範
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 浩由
(72)【発明者】
【氏名】西▲崎▼ 貴洋
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−064761(JP,A)
【文献】 特開2013−169557(JP,A)
【文献】 特開2017−088827(JP,A)
【文献】 特表2007−532321(JP,A)
【文献】 特開2013−173184(JP,A)
【文献】 米国特許第03157681(US,A)
【文献】 特開2014−185298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/363、35/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラックス中のダイマー酸及びトリマー酸は、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸に水素を添加した水添ダイマー酸またはオレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸に水素を添加した水添トリマー酸のいずれかのみ、あるいは、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸に水素を添加した水添ダイマー酸及びオレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸に水素を添加した水添トリマー酸の2種以上のみを合計0.5wt%以上20wt%以下で含む
ことを特徴とするフラックス。
【請求項2】
ロジンを30wt%以上60wt%以下、
溶剤を29wt%以上60wt%以下で含む
ことを特徴とする請求項1に記載のフラックス。
【請求項3】
活性剤として更に有機酸を0wt%以上10wt%以下、
有機ハロゲン化合物を0wt%以上5wt%以下、
アミンハロゲン化水素酸塩を0wt%以上5wt%以下で含む
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフラックス。
【請求項4】
活性剤として更にアミンを0wt%以上10wt%以下で含む
ことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のフラックス。
【請求項5】
更にチキソ剤を0wt%以上10wt%以下で含む
ことを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のフラックス。
【請求項6】
アミンを0.1wt%以上10wt%以下で含む
ことを特徴とする請求項4に記載のフラックス。
【請求項7】
アミンを0.5wt%以上10wt%以下で含む
ことを特徴とする請求項4に記載のフラックス。
【請求項8】
請求項1〜請求項7の何れか1項に記載のフラックスと、金属粉を含む
ことを特徴とするソルダペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はんだ付けに用いられるフラックス及びこのフラックスを用いたソルダペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、はんだ付けに用いられるフラックスは、はんだ及びはんだ付けの対象となる接合対象物の金属表面に存在する金属酸化物を化学的に除去し、両者の境界で金属元素の移動を可能にする効能を持つ。このため、フラックスを使用してはんだ付けを行うことで、はんだと接合対象物の金属表面との間に金属間化合物が形成できるようになり、強固な接合が得られる。
【0003】
従来のフラックスでは、金属酸化物を化学的に除去する活性剤としてジカルボン酸等の有機酸が使用されてきた。これに対し、フラックス中の活性剤として、オレイン酸を2量体化させたダイマー酸を使用する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2006−025224号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ダイマー酸は、モノカルボン酸を2量体化させたジカルボン酸であり、様々なモノカルボン酸が存在するため、その炭素数、不飽和度(2重結合の数)、構造によって大きく性質が異なる。これにより、例えば同じ炭素数であっても、不飽和度の違いによってダイマー酸構造は全く異なるものとなる。
【0006】
このため、はんだ付け時の熱履歴の違いによって実装後の仕上がり、例えば濡れ広がり性や濡れ不良(ディウェット)の有無等が全く違う場合がある。そのため、どのような熱履歴でも安定して仕上がりのよいはんだ付けが可能となるフラックスが求められる。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためなされたもので、濡れ広がり性が向上し、かつ、ディウェットの発生を抑制することが可能なフラックス及びこのフラックスを用いたソルダペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
オレイン酸とリノール酸を2量体化させたダイマー酸または3量体化させたトリマー酸を含むフラックスを使用してはんだ付けを行うと、はんだが良好に濡れ広がり、かつ、ディウェットの発生を抑制できることを見出した。
【0009】
そこで、本発明は、フラックス中のダイマー酸及びトリマー酸は、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸に水素を添加した水添ダイマー酸またはオレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸に水素を添加した水添トリマー酸のいずれかのみ、あるいは、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸に水素を添加した水添ダイマー酸及びオレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸に水素を添加した水添トリマー酸の2種以上のみを合計0.5wt%以上20wt%以下で含むフラックスである。
【0010】
本発明のフラックスは、ロジンを30wt%以上60wt%以下、溶剤を29wt%以上60wt%以下で含むことが好ましい。本発明のフラックスは、活性剤として更に有機酸を0wt%以上10wt%以下、有機ハロゲン化合物を0wt%以上5wt%以下、アミンハロゲン化水素酸塩を0wt%以上5wt%以下で含むことが好ましい。本発明のフラックスは、活性剤として更にアミンを0wt%以上10wt%以下で含むことが好ましい。アミンは、0.1wt%以上10wt%以下で含むことが好ましく、0.5wt%以上10wt%以下で含むことが更に好ましい。本発明のフラックスは、更にチキソ剤を0wt%以上10wt%以下で含むことが好ましい。
【0011】
また、本発明は、上述したフラックスと、金属粉を含むソルダペーストである。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸に水素を添加した水添ダイマー酸またはオレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸に水素を添加した水添トリマー酸のいずれか、あるいは、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸に水素を添加した水添ダイマー酸及びオレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸に水素を添加した水添トリマー酸の2種以上を所定量含むことで、熱負荷の大きい条件下でも良好な濡れ広がりを示し、かつディウェットの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】はんだの濡れ広がりの評価結果を示す説明図である。
図2】はんだのディウェット抑制の評価結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<本実施の形態のフラックスの一例>
本実施の形態のフラックスは、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸に水素を添加した水添物である水添ダイマー酸またはオレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸に水素を添加した水添物である水添トリマー酸のいずれか、あるいは、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸に水素を添加した水添ダイマー酸及びオレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸に水素を添加した水添トリマー酸の2種以上を0.5wt%以上20wt%以下含む。
【0015】
本実施の形態のダイマー酸は、オレイン酸とリノール酸の反応物で、炭素数が36の2量体である。また、本実施の形態のトリマー酸は、オレイン酸とリノール酸の反応物で、炭素数が54の3量体である。オレイン酸とリノール酸の反応物である本実施の形態のダイマー酸及びトリマー酸は、はんだ付けで想定される温度域での耐熱性を有し、はんだ付け時に活性剤として機能する。
【0016】
また、本実施の形態のフラックスは、ロジンを30wt%以上60wt%以下、溶剤を29wt%以上60wt%以下含む。本実施の形態のフラックスは、活性材として更に有機酸を0wt%以上10wt%以下、アミンを0wt%以上10wt%以下、有機ハロゲン化合物を0wt%以上5wt%以下、アミンハロゲン化水素酸塩を0wt%以上5wt%以下含む。本実施の形態のフラックスは、更にチキソ剤を0wt%以上10wt%以下含む。
【0017】
ロジンとしては、例えば、ガムロジン、ウッドロジン及びトール油ロジン等の原料ロジン、並びに該原料ロジンから得られる誘導体が挙げられる。該誘導体としては、例えば、精製ロジン、水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、酸変性ロジン、フェノール変性ロジン及びα,β不飽和カルボン酸変性物(アクリル化ロジン、マレイン化ロジン、フマル化ロジン等)、並びに該重合ロジンの精製物、水素化物及び不均化物、並びに該α,β不飽和カルボン酸変性物の精製物、水素化物及び不均化物等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。
【0018】
有機酸としては、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、エイコサン二酸、クエン酸、グリコール酸、コハク酸、サリチル酸、ジグリコール酸、ジピコリン酸、ジブチルアニリンジグリコール酸、スベリン酸、セバシン酸、チオグリコール酸、テレフタル酸、ドデカン二酸、パラヒドロキシフェニル酢酸、ピコリン酸、フェニルコハク酸、フタル酸、フマル酸、マレイン酸、マロン酸、ラウリン酸、安息香酸、酒石酸、イソシアヌル酸トリス(2−カルボキシエチル)、グリシン、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)ブタン酸、2,3−ジヒドロキシ安息香酸、2,4−ジエチルグルタル酸、2−キノリンカルボン酸、3−ヒドロキシ安息香酸、リンゴ酸、p−アニス酸、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられる。また、有機酸としては、オレイン酸とリノール酸の反応物以外のダイマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物以外のトリマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物以外のダイマー酸に水素を添加した水添ダイマー酸またはオレイン酸とリノール酸の反応物以外のトリマー酸に水素を添加した水添トリマー酸として、アクリル酸の反応物であるダイマー酸、アクリル酸の反応物であるトリマー酸、メタクリル酸の反応物であるダイマー酸、メタクリル酸の反応物であるトリマー酸、アクリル酸とメタクリル酸の反応物であるダイマー酸、アクリル酸とメタクリル酸の反応物であるトリマー酸、オレイン酸の反応物であるダイマー酸、オレイン酸の反応物であるトリマー酸、リノール酸の反応物であるダイマー酸、リノール酸の反応物であるトリマー酸、 リノレン酸の反応物であるダイマー酸、リノレン酸の反応物であるトリマー酸、アクリル酸とオレイン酸の反応物であるダイマー酸、アクリル酸とオレイン酸の反応物であるトリマー酸、アクリル酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸、アクリル酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸、アクリル酸とリノレン酸の反応物であるダイマー酸、アクリル酸とリノレン酸の反応物であるトリマー酸、メタクリル酸とオレイン酸の反応物であるダイマー酸、メタクリル酸とオレイン酸の反応物であるトリマー酸、メタクリル酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸、メタクリル酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸、メタクリル酸とリノレン酸の反応物であるダイマー酸、メタクリル酸とリノレン酸の反応物であるトリマー酸、 オレイン酸とリノレン酸の反応物であるダイマー酸、オレイン酸とリノレン酸の反応物であるトリマー酸、 リノール酸とリノレン酸の反応物であるダイマー酸、リノール酸とリノレン酸の反応物であるトリマー酸、上述したオレイン酸とリノール酸の反応物以外のダイマー酸に水素を添加した水添ダイマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物以外のトリマー酸に水素を添加した水添トリマー酸等が挙げられる。
【0019】
アミンとしては、モノエタノールアミン、ジフェニルグアニジン、エチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4−ジアミノ−6−[2′−メチルイミダゾリル−(1′)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2′−ウンデシルイミダゾリル−(1′)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2′−エチル−4′−メチルイミダゾリル−(1′)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2′−メチルイミダゾリル−(1′)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物、2−フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2,3−ジヒドロ−1H−ピロロ[1,2−a]ベンズイミダゾール、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライド、2−メチルイミダゾリン、2−フェニルイミダゾリン、2,4−ジアミノ−6−ビニル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−ビニル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物、2,4−ジアミノ−6−メタクリロイルオキシエチル−s−トリアジン、エポキシ−イミダゾールアダクト、2−メチルベンゾイミダゾール、2−オクチルベンゾイミダゾール、2−ペンチルベンゾイミダゾール、2−(1−エチルペンチル)ベンゾイミダゾール、2−ノニルベンゾイミダゾール、2−(4−チアゾリル)ベンゾイミダゾール、ベンゾイミダゾール、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−5′−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2′−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−tert−オクチルフェノール]、6−(2−ベンゾトリアゾリル)−4−tert−オクチル−6′−tert−ブチル−4′−メチル−2,2′−メチレンビスフェノール、1,2,3−ベンゾトリアゾール、1−[N,N−ビス(2−エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、1−[N,N−ビス(2−エチルヘキシル)アミノメチル]メチルベンゾトリアゾール、2,2′−[[(メチル−1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)メチル]イミノ]ビスエタノール、1−(1′,2′−ジカルボキシエチル)ベンゾトリアゾール、1−(2,3−ジカルボキシプロピル)ベンゾトリアゾール、1−[(2−エチルヘキシルアミノ)メチル]ベンゾトリアゾール、2,6−ビス[(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)メチル]−4−メチルフェノール、5−メチルベンゾトリアゾール、5−フェニルテトラゾール等が挙げられる。
【0020】
有機ハロゲン化合物としては、trans−2,3−ジブロモ−1,4−ブテンジオール、トリアリルイソシアヌレート6臭化物、1−ブロモ−2−ブタノール、1−ブロモ−2−プロパノール、3−ブロモ−1−プロパノール、3−ブロモ−1,2−プロパンジオール、1,4−ジブロモ−2−ブタノール、1,3−ジブロモ−2−プロパノール、2,3−ジブロモ−1−プロパノール、2,3−ジブロモ−1,4−ブタンジオール、2,3−ジブロモ−2−ブテン−1,4−ジオール等が挙げられる。
【0021】
アミンハロゲン化水素酸塩は、アミンとハロゲン化水素を反応させた化合物であり、アニリン塩化水素、アニリン臭化水素等が挙げられる。アミンハロゲン化水素酸塩のアミンとしては、上述したアミンを用いることができ、エチルアミン、エチレンジアミン、トリエチルアミン、メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等が挙げられ、ハロゲン化水素としては、塩素、臭素、ヨウ素、フッ素の水素化物(塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、フッ化水素)が挙げられる。また、アミンハロゲン化水素酸塩に代えて、あるいはアミンハロゲン化水素酸塩と合わせてホウフッ化物を含んでも良く、ホウフッ化物としてホウフッ化水素酸等が挙げられる。
【0022】
溶剤としては、水、アルコール系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、テルピネオール類等が挙げられる。アルコール系溶剤としてはイソプロピルアルコール、1,2−ブタンジオール、イソボルニルシクロヘキサノール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール、2,3−ジメチル−2,3−ブタンジオール、1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)エタン、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、2,2′−オキシビス(メチレン)ビス(2−エチル−1,3−プロパンジオール)、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、1,2,6−トリヒドロキシヘキサン、ビス[2,2,2−トリス(ヒドロキシメチル)エチル]エーテル、1−エチニル−1−シクロヘキサノール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、エリトリトール、トレイトール、グアヤコールグリセロールエーテル、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール等が挙げられる。グリコールエーテル系溶剤としては、ヘキシルジグリコール、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、2−メチルペンタン−2,4−ジオール、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0023】
チキソ剤としては、ワックス系チキソ剤、アマイド系チキソ剤が挙げられる。ワックス系チキソ剤としては例えばヒマシ硬化油等が挙げられる。アマイド系チキソ剤としてはラウリン酸アマイド、パルミチン酸アマイド、ステアリン酸アマイド、ベヘン酸アマイド、ヒドロキシステアリン酸アマイド、飽和脂肪酸アマイド、オレイン酸アマイド、エルカ酸アマイド、不飽和脂肪酸アマイド、p−トルエンメタンアマイド、芳香族アマイド、メチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスラウリン酸アマイド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アマイド、飽和脂肪酸ビスアマイド、メチレンビスオレイン酸アマイド、不飽和脂肪酸ビスアマイド、m−キシリレンビスステアリン酸アマイド、芳香族ビスアマイド、飽和脂肪酸ポリアマイド、不飽和脂肪酸ポリアマイド、芳香族ポリアマイド、置換アマイド、メチロールステアリン酸アマイド、メチロールアマイド、脂肪酸エステルアマイド等が挙げられる。
【0024】
<本実施の形態のソルダペーストの一例>
本実施の形態のソルダペーストは、上述したフラックスと、金属粉を含む。金属粉は、Pbを含まないはんだであることが好ましく、Sn単体、または、Sn−Ag系、Sn−Cu系、Sn−Ag−Cu系、Sn−Bi系、Sn-In系等、あるいは、これらの合金にSb、Bi、In、Cu、Zn、As、Ag、Cd、Fe、Ni、Co、Au、Ge、P等を添加したはんだの粉体で構成される。
【0025】
<本実施の形態のフラックス及びソルダペーストの作用効果例>
オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸に水素を添加した水添ダイマー酸またはオレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸に水素を添加した水添トリマー酸のいずれか、あるいは、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸に水素を添加した水添ダイマー酸及びオレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸に水素を添加した水添トリマー酸の2種以上を、合計0.5wt%以上20wt%以下含むフラックス、及び、このフラックスを用いたソルダペーストでは、オレイン酸とリノール酸の反応物である本実施の形態のダイマー酸及びトリマー酸が、はんだ付けで想定される温度域での耐熱性を有し、はんだ付け時に活性剤として機能する。これにより、熱負荷の大きいリフロー条件下でも、はんだが良好に濡れ広がり、かつ、はんだの濡れ不良(ディウェット)の発生を抑制することができる。
【0026】
なお、耐熱性を有する有機酸として芳香族有機酸が挙げられる。しかし、芳香族有機酸は、耐熱性はあるものの、元々フラックスとしての活性が弱いため、添加量が自ずと多くなってしまう。すると残渣として残りやすく洗浄性が悪くなったり、析出してしまう等の問題が発生してしまう。
【0027】
これに対し、オレイン酸とリノール酸の反応物である本実施の形態のダイマー酸、トリマー酸、これらの水添加物を用いれば、耐熱性と活性を両立することができ、活性剤としての添加量を減らすことができるので、残渣を減らし洗浄性を向上させることができる。さらにアミンを併用することで、さらにこれらの物性を高めることができる。
【実施例】
【0028】
以下の表1、表2に示す組成で実施例と比較例のフラックスを調合し、このフラックスを使用してソルダペーストを調合して、はんだの濡れ広がりの良否と、はんだの濡れ不良(ディウェット)の抑制の良否について検証した。なお、表1、表2における組成率は、フラックスの全量を100とした場合のwt(重量)%である。
【0029】
ソルダペーストは、フラックスが11wt%、金属粉が89wt%である。また、ソルダペースト中の金属粉は、Agが3.0wt%、Cuが0.5wt%、残部がSnであるSn−Ag−Cu系のはんだ合金であり、金属粉の粒径の平均はφ20μmである。
【0030】
<はんだの濡れ広がりの評価>
(1)検証方法
はんだの濡れ広がりの評価試験は、各実施例及び各比較例に記載のフラックスと上述した金属粉を混合させたソルダペーストを、JIS Z 3284−3に記載の所定のパターンでソルダペーストの印刷部が形成されたステンレス製のマスクを使用して、縦50mm×横50mm×厚さ0.5mmのBare−Cu板に印刷する。
【0031】
マスクに設けられた印刷部は四角形の開口で、大きさは3.0mm×1.5mmとなっている。印刷部は、同じ大きさの複数の開口が間隔を異ならせて並び、開口の間隔は0.2−0.3−0.4−0.5−0.6−0.7−0.8−0.9−1.0−1.1−1.2mmとなっている。
【0032】
ソルダペーストの印刷後、マスクを取り除き、リフロー前に、並列する印刷部の最小間隔である0.2mmの箇所でソルダペーストが接触していないことを確認し、リフローを行う。リフローの条件は、エアー雰囲気下に190℃で120secの予備加熱を行った後、昇温速度を1℃/secとして190℃から260℃まで温度を上昇させて本加熱を行う。
【0033】
(2)判定基準
図1は、はんだの濡れ広がりの評価結果を示す説明図である。上述した所定の間隔で印刷されたソルダペーストが、リフロー後に濡れ広がって接触し融合された箇所の間隔を確認する。N=4において
〇:間隔Lが0.8mm以下の箇所が全て融合している。
×:1か所でも間隔Lが0.8mm以下の箇所で融合していない。
【0034】
なお、図1(a)は実施例1のフラックスを使用した場合、図1(b)は実施例3のフラックスを使用した場合、図1(c)は比較例1のフラックスを使用した場合、図1(d)は比較例2のフラックスを使用した場合である。
【0035】
<はんだのディウェット抑制の評価>
(1)検証方法
はんだのディウェット抑制の評価試験は、各実施例及び各比較例に記載のフラックスと上述した金属粉を混合させたソルダペーストを、縦0.8mm×横0.8mmのCu−OSPランド上に印刷し、リフローを実施した。ソルダペーストの印刷厚さは0.12mmである。リフローの条件は、エアー雰囲気下に190℃で120secの予備加熱を行った後、昇温速度を1℃/secとして190℃から260℃まで温度を上昇させて本加熱を行う。
【0036】
(2)判定基準
図2は、はんだのディウェット抑制の評価結果を示す説明図である。リフロー後にディウェットDwが発生していないか光学顕微鏡を用いて観察した。
N=12において
○:はんだ組成物を塗布した部分はすべて、はんだでぬれた状態である。
×:はんだ組成物を塗布した部分の大半は、はんだでぬれた状態(ディウェッティングも含まれる。)であり濡れ不良が発生している。または、はんだがぬれた様子はなく、溶融したはんだは一つまたは複数のはんだボールとなった状態(ノンウェッティング)である。
【0037】
なお、図2(a)は実施例1のフラックスを使用した場合、図2(b)は実施例3のフラックスを使用した場合、図2(c)は比較例1のフラックスを使用した場合、図2(d)は比較例2のフラックスを使用した場合である。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
本発明では、実施例1〜実施例4に示すように、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸に水素を添加した水添ダイマー酸またはオレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸に水素を添加した水添トリマー酸のいずれかを5wt%含むフラックスでは、濡れ広がり及びディウェット抑制に対して十分な効果が得られた。
【0041】
また、実施例5に示すように、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸に水素を添加した水添ダイマー酸及びオレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸に水素を添加した水添トリマー酸のそれぞれを1.25wt%、合計で5wt%含むことでも、濡れ広がり及びディウェット抑制に対して十分な効果が得られた。なお、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸に水素を添加した水添ダイマー酸及びオレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸に水素を添加した水添トリマー酸の2種以上を合計で5wt%含むことでも、濡れ広がり及びディウェット抑制に対して十分な効果が得られた。
【0042】
これに対し、比較例1及び比較例2に示すように、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸に水素を添加した水添ダイマー酸またはオレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸に水素を添加した水添トリマー酸の何れも含まないフラックスでは、本発明で規定された所定量の有機酸とアミンを含んでも、濡れ広がり及びディウェット抑制に対して十分な効果が得られなかった。
【0043】
また、本発明で規定された範囲内でロジンを含むことで、濡れ広がり及びディウェット抑制の効果が得られ、実施例6〜実施例8に示すように、ロジンの種類を変える、また、複数種類のロジンを組み合せた場合でも、濡れ広がり及びディウェット抑制の効果が得られた。
【0044】
更に、本発明で規定された範囲内でアミンを含むことで、濡れ広がり及びディウェット抑制の効果が得られ、実施例9〜実施例11に示すように、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸を20wt%含むことで、本発明で規定された範囲内でアミンを減らしても、濡れ広がり及びディウェット抑制の効果が得られ、実施例9に示すように、アミンを含まなくても、濡れ広がり及びディウェット抑制の効果が得られた。
【0045】
これに対し、実施例12に示すように、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸を5wt%含み、アミンを10wt%含むことでも、濡れ広がり及びディウェット抑制の効果が得られた。また、実施例13に示すように、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸を0.5wt%含み、アミンを10wt%含むことでも、濡れ広がり及びディウェット抑制の効果が得られた。更に、実施例14〜実施例16に示すように、アミンの種類を変えても、濡れ広がり及びディウェット抑制の効果が得られた。なお、実施例9に示すように、アミンを含まなくても、濡れ広がり及びディウェット抑制の効果が得られるが、好ましくは、アミンを0.1wt%以上10wt%以下、より好ましくは、アミンを0.5wt%以上10wt%以下含むことで、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸の添加量を抑制しつつ、濡れ広がり及びディウェット抑制の効果が得られる。
【0046】
また、本発明で規定された範囲内で有機酸を含むことで、濡れ広がり及びディウェット抑制の効果が得られ、実施例17に示すように、有機酸を10wt%含んでも、濡れ広がり及びディウェット抑制の効果が得られ、実施例18に示すように、有機酸の種類を変えても、濡れ広がり及びディウェット抑制の効果が得られた。
【0047】
更に、本発明で規定された範囲内で有機ハロゲン化合物を含むことで、濡れ広がり及びディウェット抑制の効果が得られ、実施例19に示すように、有機ハロゲン化合物を含まなくても、濡れ広がり及びディウェット抑制の効果が得られ、実施例20に示すように、有機ハロゲン化合物を5wt%含んでも、濡れ広がり及びディウェット抑制の効果が得られた。また、実施例21に示すように、有機ハロゲン化合物の種類を変えても、濡れ広がり及びディウェット抑制の効果が得られた。
【0048】
更に、本発明で規定された範囲内でアミンハロゲン化水素酸塩を含むことで、濡れ広がり及びディウェット抑制の効果が得られ、実施例22に示すように、アミンハロゲン化水素酸塩を1wt%含んでも、濡れ広がり及びディウェット抑制の効果が得られ、実施例23に示すように、アミンハロゲン化水素酸塩を5wt%含んでも、濡れ広がり及びディウェット抑制の効果が得られた。
【0049】
以上のことから、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸に水素を添加した水添ダイマー酸またはオレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸に水素を添加した水添トリマー酸のいずれか、あるいは、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸に水素を添加した水添ダイマー酸及びオレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸に水素を添加した水添トリマー酸の2種以上を0.5wt%以上20wt%以下、ロジンを30wt%以上60wt%以下、有機酸を0wt%以上10wt%以下、アミンを0wt%以上10wt%以下、有機ハロゲン化合物を0wt%以上5wt%以下、アミンハロゲン化水素酸塩を0wt%以上5wt%以下、溶剤を29wt%以上60wt%以下、チキソ剤を0wt%以上10wt%以下含むフラックス、及びこのフラックスを用いたソルダペーストでは、熱負荷の大きい条件下でも良好な濡れ広がりを示し、かつディウェットの発生を抑制することができることが判り、どのような熱履歴でも安定して仕上がりのよいはんだ付けが可能となるフラックスを提供できる。
【要約】
【課題】濡れ広がり性が向上し、かつ、ディウェットの発生を抑制することが可能なフラックス及びこのフラックスを用いたソルダペーストを提供する。
【解決手段】フラックスは、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸に水素を添加した水添ダイマー酸またはオレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸に水素を添加した水添トリマー酸のいずれか、あるいは、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸、オレイン酸とリノール酸の反応物であるダイマー酸に水素を添加した水添ダイマー酸及びオレイン酸とリノール酸の反応物であるトリマー酸に水素を添加した水添トリマー酸の2種以上を合計0.5wt%以上20wt%以下で含む。ソルダペーストは、このフラックスと金属粉を含む。
【選択図】無し
図1
図2