(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
【0023】
本実施形態に係る軟磁性合金1は、Feを主成分とし、Siを含む軟磁性合金である。ここで、Feを主成分とするとは、軟磁性合金全体に対するFeの含有量が70at%以上であることを指す。また、Siの含有量の下限には特に制限はないが、例えばSiの含有量が0.1at%以上であってもよい。
【0024】
軟磁性合金1は、
図1に示すようにFe基ナノ結晶2および非晶質4からなる。
【0025】
Fe基ナノ結晶2は、粒径がナノオーダーであり、Feの結晶構造がbcc(体心立方格子構造)である。本実施形態においては、Fe基ナノ結晶2の平均粒径が5.0nm以上30nm以下であることが好ましい。このようなFe基ナノ結晶2および非晶質4からなる軟磁性合金1は、非晶質4のみからなる場合と比較して飽和磁束密度が高くなり、保磁力が低くなる。
【0026】
軟磁性合金1にFe基ナノ結晶2が存在すること、および、Fe基ナノ結晶2の平均粒径は、透過電子顕微鏡(TEM)を用いた観察で確認することができる。例えば、倍率1.00×10
5〜3.00×10
5倍で軟磁性合金1の断面を観察することでFe基ナノ結晶2の有無が確認できる。また、100個以上のFe基ナノ結晶2の粒径(円相当径)を目視にて測定し、平均することによりFe基ナノ結晶2の平均粒径を算出することができる。さらに、Fe基ナノ結晶2におけるFeの結晶構造がbccであることはX線回折測定(XRD)を用いて確認することができる。
【0027】
また、軟磁性合金1におけるFe基ナノ結晶2の存在割合には特に制限はないが、例えば、軟磁性合金1の断面に占めるFe基ナノ結晶2の面積が25〜80%である。
【0028】
さらに、本実施形態に係る軟磁性合金1は、Fe基ナノ結晶2におけるSiの平均含有率をS1(at%)、非晶質4におけるSiの平均含有率をS2(at%)とする場合において、S2−S1>0である。すなわち、本実施形態に係る軟磁性合金1はFe基ナノ結晶2と比較して非晶質4により多くのSiが存在する。
【0029】
S2−S1>0であることにより、さらに軟磁気特性を向上させることができる。すなわち、S2−S1≦0である場合と比較して、同一の組成であっても保磁力を同程度に維持したまま飽和磁束密度の向上をもたらすことができる。すなわち、軟磁気特性を向上させることができる。
【0030】
従来知られているFe基ナノ結晶および非晶質からなる軟磁性合金は、S2−S1≦0、すなわち、非晶質よりもFe基ナノ結晶により多くのSiが存在していた。本発明者らは、非晶質4により多くのSiを存在させることにより、軟磁性合金1の組成を変更せずに飽和磁束密度を向上させて軟磁気特性を向上させることができることを見出した。また、本実施形態においては、S2−S1≧2.00であることがより好ましい。
【0031】
Siの含有率は、三次元アトムプローブ(3DAP)を用いて測定することができる。
【0032】
まず、φ100nm×200nmの針状サンプルを準備し、100nm×200nm×5nmでFeの元素マッピングを行う。元素マッピング画像においてFeの濃度が高い部分がFe基ナノ結晶2であり、Feの濃度が低い部分が非晶質4であるとみなすことができる。次にFe基ナノ結晶2を5nm×5nm×5nmで組成分析を行うことで、当該測定部位におけるSiの含有率を測定することができる。Siの含有率の測定を5か所で行い、平均することでSiの平均含有率S1を算出することができる。また、非晶質4を5nm×5nm×5nmで組成分析を行うことで、当該測定部位におけるSiの含有率を測定することができる。Siの含有率の測定を5か所で行い、平均することでSiの平均含有率S2を算出することができる。
【0033】
本実施形態に係る軟磁性合金1は組成式((Fe
(1−(α+β))X1
αX2
β)
(1−(a+b+c+d+e+f))M
aB
bSi
cP
dCr
eCu
f)
1−gC
gからなり、
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1種以上、
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Bi,N,O,Sおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上、
MはNb,Hf,Zr,Ta,Ti,Mo,VおよびWからなる群から選択される1種以上であり、
0≦a≦0.14
0≦b≦0.20
0<c≦0.17
0≦d≦0.15
0≦e≦0.040
0≦f≦0.030
0≦g<0.030
α≧0
β≧0
0≦α+β≦0.50
である組成を有する。
【0034】
上記の組成においては、FeおよびSi以外の元素を含有することは必須ではない。また、Bの含有量(b)は0.028≦b≦0.20であることが好ましい。Siの含有量(c)は0.001≦c≦0.17であることが好ましい。Pの含有量(d)は0≦d≦0.030であることが好ましい。Cの含有量(g)は0≦g≦0.025であることが好ましい。また、X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Bi,N,Oおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上であってもよい。
【0035】
Feの含有量{1−(a+b+c+d+e+f)}については、特に制限はないが、0.73≦{1−(a+b+c+d+e+f)}≦0.95であることが好ましい。
【0036】
本実施形態に係る軟磁性合金においては、Feの一部をX1および/またはX2で置換してもよい。X1はCoおよびNiからなる群から選択される1種以上である。X1の含有量に関してはα=0でもよい。すなわち、X1は含有しなくてもよい。また、X1の原子数は組成全体の原子数を100at%として40at%以下であることが好ましい。すなわち、0≦α{1−(a+b+c+d+e+f)}(1−g)≦0.40を満たすことが好ましい。
【0037】
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Bi,N,O,Sおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上である。X2の含有量に関してはβ=0でもよい。すなわち、X2は含有しなくてもよい。また、X2の原子数は組成全体の原子数を100at%として3.0at%以下であることが好ましい。すなわち、0≦β{1−(a+b+c+d+e+f)}(1−g)≦0.030を満たすことが好ましい。
【0038】
FeをX1および/またはX2に置換する置換量の範囲としては、原子数ベースでFeの半分以下とする。すなわち、0≦α+β≦0.50とする。
【0039】
上記の組成を有する軟磁性合金は、非晶質からなり、粒径が15nmよりも大きい結晶からなる結晶相を含まない軟磁性合金としやすい。そして、以下に示すように当該軟磁性合金を熱処理する場合には、Fe基ナノ結晶を析出しやすい。そして、Fe基ナノ結晶2および非晶質4からなる軟磁性合金は良好な軟磁気特性を有しやすい。
【0040】
言いかえれば、上記の組成を有する軟磁性合金は、Fe基ナノ結晶2を析出させた軟磁性合金1の出発原料としやすい。
【0041】
なお、熱処理前の軟磁性合金は完全に非晶質のみからなっていてもよいが、非晶質および粒径が15nm以下である初期微結晶からなり、前記初期微結晶が前記非晶質中に存在するナノヘテロ構造を有することが好ましい。初期微結晶が非晶質中に存在するナノヘテロ構造を有することにより、熱処理時にFe基ナノ結晶2を析出させやすくなる。なお、本実施形態では、前記初期微結晶は平均粒径が0.3〜10nmであることが好ましい。
【0042】
なお、本実施形態に係る軟磁性合金1は上記以外の元素を不可避的不純物として含んでいてもよい。例えば、軟磁性合金100重量%に対して1重量%以下、含んでいてもよい。
【0043】
以下、本実施形態に係る軟磁性合金1の製造方法について説明する。
【0044】
本実施形態に係る軟磁性合金の製造方法には特に限定はない。例えば単ロール法により本実施形態に係る軟磁性合金の薄帯を製造する方法がある。また、薄帯は連続薄帯であってもよい。
【0045】
単ロール法では、まず、最終的に得られる軟磁性合金に含まれる各金属元素の純金属を準備し、最終的に得られる軟磁性合金と同組成となるように秤量する。そして、各金属元素の純金属を溶解し、混合して母合金を作製する。なお、前記純金属の溶解方法には特に制限はないが、例えばチャンバー内で真空引きした後に高周波加熱にて溶解させる方法がある。なお、母合金と最終的に得られるFe基ナノ結晶からなる軟磁性合金とは通常、同組成となる。
【0046】
次に、作製した母合金を加熱して溶融させ、溶融金属(溶湯)を得る。溶融金属の温度には特に制限はないが、例えば1200〜1500℃とすることができる。
【0047】
単ロール法においては、主にロール33の回転速度を調整することで得られる薄帯の厚さを調整することができるが、例えばノズルとロールとの間隔や溶融金属の温度などを調整することでも得られる薄帯の厚さを調整することができる。薄帯の厚さには特に制限はないが、例えば5〜30μmとすることができる。
【0048】
後述する熱処理前の時点では、薄帯は粒径が15nmよりも大きい結晶が含まれていない非晶質である。非晶質である薄帯に対して後述する熱処理を施すことにより、Fe基ナノ結晶合金を得ることができる。
【0049】
なお、熱処理前の軟磁性合金の薄帯に粒径が15nmよりも大きい結晶が含まれているか否かを確認する方法には特に制限はない。例えば、粒径が15nmよりも大きい結晶の有無については、通常のX線回折測定により確認することができる。
【0050】
また、熱処理前の薄帯には、粒径が15nm未満の初期微結晶が全く含まれていなくてもよいが、初期微結晶が含まれていることが好ましい。すなわち、熱処理前の薄帯は、非晶質および該非晶質中に存在する該初期微結晶とからなるナノヘテロ構造であることが好ましい。なお、初期微結晶の粒径に特に制限はないが、平均粒径が0.3〜10nmの範囲内であることが好ましい。
【0051】
また、上記の初期微結晶の有無および平均粒径の観察方法については、特に制限はないが、例えば、イオンミリングにより薄片化した試料に対して、透過電子顕微鏡を用いて、制限視野回折像、ナノビーム回折像、明視野像または高分解能像を得ることで確認できる。制限視野回折像またはナノビーム回折像を用いる場合、回折パターンにおいて非晶質の場合にはリング状の回折が形成されるのに対し、非晶質ではない場合には結晶構造に起因した回折斑点が形成される。また、明視野像または高分解能像を用いる場合には、倍率1.00×10
5〜3.00×10
5倍で目視にて観察することで初期微結晶の有無および平均粒径を観察できる。
【0052】
ロールの温度、回転速度およびチャンバー内部の雰囲気には特に制限はない。ロールの温度は4〜30℃とすることが非晶質化のため好ましい。ロールの回転速度は速いほど初期微結晶の平均粒径が小さくなる傾向にあり、25〜30m/秒とすることが平均粒径0.3〜10nmの初期微結晶を得るためには好ましい。チャンバー内部の雰囲気はコスト面を考慮すれば大気中とすることが好ましい。
【0053】
また、Fe基ナノ結晶合金を製造するための熱処理条件には特に制限はない。ここで、本実施形態に係る軟磁性合金は、特に熱処理条件を制御することで、上記のS1およびS2を制御し、S2−S1>0とすることができる。また、S2−S1≧1.07であることが好ましく、S2−S1≧2.00であることがより好ましい。また、S2−S1の上限は特に存在しないが、例えばS2−S1≦10とすることができ、S2−S1≦6.09であることが好ましい。
【0054】
本実施形態に係る熱処理は、特定の保持温度まで加熱させる加熱工程、特定の保持温度を維持する保持工程、および、特定の保持温度から冷却させる冷却工程からなる。ここで、特定の保持温度およびそれに近い温度とする時間を従来よりも短くすることにより、S2−S1>0とすることができる。軟磁性合金の組成等によっても変化するが、具体的には、前記保持工程における保持時間を0分以上10分未満、好ましくは0分以上5分以下、さらに好ましくは0分以上1分以下とすることにより、S2−S1>0としやすくなる。なお、保持時間0分とは、加熱により保持温度に到達したら直ちに冷却を開始することと同義である。また、軟磁性合金の組成により好ましい熱処理条件は異なる。通常、好ましい保持温度は概ね400〜650℃である。
【0055】
さらに、加熱工程において300℃から保持温度までの加熱速度は、250℃/分以上とすることが好ましく、500℃/分以上とすることがさらに好ましい。また、冷却工程において保持温度から300℃までの冷却速度は、20℃/分以上とすることが好ましく、40℃/分以上とすることがさらに好ましい。上記の加熱速度および冷却速度も従来の加熱速度および冷却速度よりも速い範囲となっている。
【0056】
熱処理において特定の保持温度およびそれに近い温度とする時間を従来よりも短くすることにより、S2−S1>0とすることができる理由は以下の通りであると本発明者らは考えている。
【0057】
軟磁性合金を加熱することでFe基ナノ結晶を生成させる段階では、Fe基ナノ結晶にはSiが含まれにくく、非晶質により多くのSiが含まれやすい。ここで、SiはFe基ナノ結晶に含まれる方が非晶質に含まれるよりもエネルギー的に安定であると考えられる。そして、Fe基ナノ結晶が生成した後に保持温度およびそれに近い温度でいる間に、非晶質に含まれるSiがFe基ナノ結晶に固溶し、Fe基ナノ結晶におけるSi含有量が非晶質におけるSi含有量よりも高くなる。
【0058】
したがって、従来のFe基ナノ結晶を含む軟磁性合金はS2−S1≦0となっていた。これに対し、本実施形態に係る軟磁性合金は上記の通り、熱処理において特定の保持温度およびそれに近い温度とする時間を従来よりも短くするためにS2−S1>0になる。そして、従来のFe基ナノ結晶を含む軟磁性合金よりも優れた軟磁気特性を有する軟磁性合金になる。
【0059】
組成によっては上記の範囲を外れたところに好ましい熱処理条件が存在する場合もあるが、熱処理において特定の保持温度およびそれに近い温度とする時間を従来よりも短くすることは共通している。また、熱処理時の雰囲気には特に制限はない。大気中のような活性雰囲気下で行ってもよいし、Arガス中のような不活性雰囲気下で行ってもよい。
【0060】
また、本実施形態に係る軟磁性合金を得る方法として、上記した単ロール法以外にも、例えば水アトマイズ法またはガスアトマイズ法により本実施形態に係る軟磁性合金の粉体を得る方法がある。以下、ガスアトマイズ法について説明する。
【0061】
ガスアトマイズ法では、上記した単ロール法と同様にして1200〜1500℃の溶融合金を得る。その後、前記溶融合金をチャンバー内で噴射させ、粉体を作製する。
【0062】
このとき、ガス噴射温度を4〜30℃とし、チャンバー内の蒸気圧を1hPa以下とすることで、上記の好ましいナノヘテロ構造を得やすくなる。
【0063】
ガスアトマイズ法で粉体を作製した後に、例えば、保持時間0分以上10分未満、保持温度400〜700℃、加熱速度20℃/分以上、冷却速度20℃/分以上で熱処理を行うことで、各粉体同士が焼結し粉体が粗大化することを防ぎつつ元素の拡散を促し、熱力学的平衡状態に短時間で到達させることができ、歪や応力を除去することができ、平均粒径が10〜50nmのFe基軟磁性合金を得やすくなる。さらに、当該軟磁性合金はS2−S1>0となる。
【0064】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。
【0065】
本実施形態に係る軟磁性合金の形状には特に制限はない。上記した通り、薄帯形状や粉末形状が例示されるが、それ以外にもブロック形状等も考えられる。
【0066】
本実施形態に係る軟磁性合金(Fe基ナノ結晶合金)の用途には特に制限はない。例えば、磁性部品が挙げられ、その中でも特に磁心が挙げられる。インダクタ用、特にパワーインダクタ用の磁心として好適に用いることができる。本実施形態に係る軟磁性合金は、磁心の他にも薄膜インダクタ、磁気ヘッドにも好適に用いることができる。
【0067】
以下、本実施形態に係る軟磁性合金から磁性部品、特に磁心およびインダクタを得る方法について説明するが、本実施形態に係る軟磁性合金から磁心およびインダクタを得る方法は下記の方法に限定されない。また、磁心の用途としては、インダクタの他にも、トランスおよびモータなどが挙げられる。
【0068】
薄帯形状の軟磁性合金から磁心を得る方法としては、例えば、薄帯形状の軟磁性合金を巻き回す方法や積層する方法が挙げられる。薄帯形状の軟磁性合金を積層する際に絶縁体を介して積層する場合には、さらに特性を向上させた磁芯を得ることができる。
【0069】
粉末形状の軟磁性合金から磁心を得る方法としては、例えば、適宜バインダと混合した後、金型を用いて成形する方法が挙げられる。また、バインダと混合する前に、粉末表面に酸化処理や絶縁被膜等を施すことにより、比抵抗が向上し、より高周波帯域に適合した磁心となる。
【0070】
成形方法に特に制限はなく、金型を用いる成形やモールド成形などが例示される。バインダの種類に特に制限はなく、シリコーン樹脂が例示される。軟磁性合金粉末とバインダとの混合比率にも特に制限はない。例えば軟磁性合金粉末100質量%に対し、1〜10質量%のバインダを混合させる。
【0071】
例えば、軟磁性合金粉末100質量%に対し、1〜5質量%のバインダを混合させ、金型を用いて圧縮成形することで、占積率(粉末充填率)が70%以上、1.6×10
4A/mの磁界を印加したときの磁束密度が0.45T以上、かつ比抵抗が1Ω・cm以上である磁心を得ることができる。上記の特性は、一般的なフェライト磁心と同等以上の特性である。
【0072】
また、例えば、軟磁性合金粉末100質量%に対し、1〜3質量%のバインダを混合させ、バインダの軟化点以上の温度条件下の金型で圧縮成形することで、占積率が80%以上、1.6×10
4A/mの磁界を印加したときの磁束密度が0.9T以上、かつ比抵抗が0.1Ω・cm以上である圧粉磁心を得ることができる。上記の特性は、一般的な圧粉磁心よりも優れた特性である。
【0073】
さらに、上記の磁心を成す成形体に対し、歪取り熱処理として成形後に熱処理することで、さらにコアロスが低下し、有用性が高まる。なお、磁心のコアロスは、磁心を構成する磁性体の保磁力を低減することで低下する。
【0074】
また、上記磁心に巻線を施すことでインダクタンス部品が得られる。巻線の施し方およびインダクタンス部品の製造方法には特に制限はない。例えば、上記の方法で製造した磁心に巻線を少なくとも1ターン以上巻き回す方法が挙げられる。
【0075】
さらに、軟磁性合金粒子を用いる場合には、巻線コイルが磁性体に内蔵されている状態で加圧成形し一体化することでインダクタンス部品を製造する方法がある。この場合には高周波かつ大電流に対応したインダクタンス部品を得やすい。
【0076】
さらに、軟磁性合金粒子を用いる場合には、軟磁性合金粒子にバインダおよび溶剤を添加してペースト化した軟磁性合金ペースト、および、コイル用の導体金属にバインダおよび溶剤を添加してペースト化した導体ペーストを交互に印刷積層した後に加熱焼成することで、インダクタンス部品を得ることができる。あるいは、軟磁性合金ペーストを用いて軟磁性合金シートを作製し、軟磁性合金シートの表面に導体ペーストを印刷し、これらを積層し焼成することで、コイルが磁性体に内蔵されたインダクタンス部品を得ることができる。
【0077】
ここで、軟磁性合金粒子を用いてインダクタンス部品を製造する場合には、最大粒径が篩径で45μm以下、中心粒径(D50)が30μm以下の軟磁性合金粉末を用いることが、優れたQ特性を得る上で好ましい。最大粒径を篩径で45μm以下とするために、目開き45μmの篩を用い、篩を通過する軟磁性合金粉末のみを用いてもよい。
【0078】
最大粒径が大きな軟磁性合金粉末を用いるほど高周波領域でのQ値が低下する傾向があり、特に最大粒径が篩径で45μmを超える軟磁性合金粉末を用いる場合には、高周波領域でのQ値が大きく低下する場合がある。ただし、高周波領域でのQ値を重視しない場合には、バラツキの大きな軟磁性合金粉末を使用可能である。バラツキの大きな軟磁性合金粉末は比較的安価で製造できるため、バラツキの大きな軟磁性合金粉末を用いる場合には、コストを低減することが可能である。
【実施例】
【0079】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。
【0080】
(実験例1)
下表に示す各実施例および比較例の合金組成となるように原料金属を秤量し、高周波加熱にて溶解し、母合金を作製した。
【0081】
その後、作製した母合金を加熱して溶融させ、1300℃の溶融状態の金属とした後に、大気中において20℃のロールを下表に示す回転速度で用いた単ロール法により前記金属をロールに噴射させ、薄帯を作成した。回転速度の記載がない実施例および比較例では回転速度30m/sec.とした。薄帯の厚さ20〜25μm、薄帯の幅約15mm、薄帯の長さ約10mとした。
【0082】
得られた各薄帯に対してX線回折測定を行い、粒径が15nmよりも大きい結晶の有無を確認した。そして、粒径が15nmよりも大きい結晶が存在しない場合には非晶質相からなるとし、粒径が15nmよりも大きい結晶が存在する場合には結晶相からなるとした。
【0083】
その後、各実施例および比較例の薄帯に対し、下表1に示す条件で熱処理を行った。各実施例および比較例では、300℃から熱処理温度までの加熱速度、熱処理時間、および、熱処理温度から300℃までの冷却速度を変化させている。この際に、熱処理温度を450℃、500℃、550℃、600℃および650℃の5段階に変化させて一つの実施例および比較例につき5回の試験を行った。そして、最も保磁力が小さくなった場合の熱処理温度を当該組成および熱処理条件における最適な熱処理温度とした。下表1に記載された試験結果は最適な熱処理温度で実施した場合の試験結果である。
【0084】
熱処理後の各薄帯における結晶構造をX線回折測定(XRD)、および透過電子顕微鏡(TEM)を用いた観察で確認した。そして、各薄帯における結晶構造がbccであるFe基ナノ結晶の平均粒径を測定し、全ての実施例および比較例においてFe基ナノ結晶の平均粒径が5.0nm以上30nm以下であることを確認した。さらに、3次元アトムプローブ(3DAP)によりFe基ナノ結晶におけるSiの平均含有率S1(at%)、および非晶質におけるSiの平均含有率S2(at%)を測定した。
【0085】
さらに、各実施例および比較例の飽和磁束密度Bsおよび保磁力Hcを測定した。飽和磁束密度は振動試料型磁力計(VSM)を用いて磁場1000kA/mで測定した。保磁力は直流BHトレーサーを用いて磁場5kA/mで測定した。結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
表1より、保持時間を通常よりも短く制御し、加熱速度および冷却速度を通常よりも早く制御することでS2−S1>0とした実施例は、同一の組成であるがS2−S1<0である比較例と比べて軟磁気特性が向上した。
【0088】
(実験例2)
下表に示す各実施例および比較例の合金組成となるように原料金属を秤量し、熱処理温度450〜650℃に、300℃から熱処理温度までの加熱速度を250℃/分、保持時間を1分、熱処理温度から300℃までの冷却速度を40℃/分に固定した点以外は実験例1と同様にして軟磁性合金を作製した。なお、実験例2では飽和磁束密度は1.40T以上を良好とし、保磁力は7.0A/m以下を良好とした。
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
【表4】
【0092】
【表5】
【0093】
【表6】
【0094】
【表7】
【0095】
【表8】
【0096】
【表9】
【0097】
【表10】
【0098】
上記全ての実施例の軟磁性合金はFe基ナノ結晶および非晶質からなり、S1−S2>0となっていることを確認した。さらに、Fe基ナノ結晶の平均粒径を測定し、全ての実施例および比較例においてFe基ナノ結晶の平均粒径が5.0nm以上30nm以下であることを確認した。
【0099】
表2はMの含有量(a)を変化させた実施例を記載したものである。0≦a≦0.14を満たす各実施例は飽和磁束密度および保磁力が良好であった。
【0100】
表3はBの含有量(b)を変化させた実施例を記載したものである。0≦b≦0.20を満たす各実施例は飽和磁束密度および保磁力が良好であった。
【0101】
表4は本願発明の範囲内でMの含有量(a)またはBの含有量(b)を変化させ、さらに、Siの含有量(c)およびCの含有量(g)を同時に変化させた実施例を記載したものである。各成分の含有量が所定の範囲内である実施例は飽和磁束密度および保磁力が良好であった。
【0102】
表5はSiの含有量(c)および/またはCの含有量(g)を変化させた実施例を記載したものである。各成分の含有量が所定の範囲内である実施例は飽和磁束密度および保磁力が良好であった。
【0103】
表6は実施例9からMの種類を変化させた実施例を記載したものである。Mの種類を変化させても各成分の含有量が所定の範囲内である実施例は飽和磁束密度および保磁力が良好であった。特にNb,HfまたはZrを用いた場合に飽和磁束密度が向上する傾向にあった。
【0104】
表7はMとして2種類の元素を用いた実施例を記載したものである。Mの種類を変化させても各成分の含有量が所定の範囲内である実施例は飽和磁束密度および保磁力が良好であった。特にNb,HfおよびZrから2種類の元素を選択して用いた場合に飽和磁束密度が向上する傾向にあった。
【0105】
表8はMとして3種類の元素を用いた実施例を記載したものである。Mの種類を変化させても各成分の含有量が所定の範囲内である実施例は飽和磁束密度および保磁力が良好であった。特にNb,HfおよびZrから2種類以上の元素を選択して用い、M全体に占めるNb,HfおよびZrの割合が50at%を超えた場合に飽和磁束密度が向上する傾向にあった。
【0106】
表9の実施例71〜81はPの含有量(d)またはCuの含有量(f)を変化させた実施例を記載したものである。表9の実施例81a〜81eはPの含有量(d)に加えてさらにBの含有量(b)を変化させた実施例である。表9の実施例82〜85はCrの含有量(e)を変化させ、同時に、Mの含有量(a)、Bの含有量(b)および/またはCuの含有量(f)を変化させたものである。各成分の含有量が所定の範囲内である実施例は飽和磁束密度および保磁力が良好であった。
【0107】
表10は実施例28についてFeの一部をX1および/またはX2で置換した実施例を記載したものである。Feの一部をX1および/またはX2で置換しても良好な特性を示した。
【解決手段】Feを主成分とし、Siを含む軟磁性合金1であって、Fe基ナノ結晶2および非晶質4からなり、Fe基ナノ結晶2におけるSiの平均含有率をS1(at%)、非晶質4におけるSiの平均含有率をS2(at%)とする場合においてS2−S1>0であり、また、組成式((Fe
からなる。X1はCoおよびNiからなる群から選択される1種以上、X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Bi,N,O,Sおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上、MはNb,Hf,Zr,Ta,Ti,Mo,VおよびWからなる群から選択される1種以上である。a〜gおよびα,βが特定の範囲内である、軟磁性合金1。