特許第6460277号(P6460277)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6460277
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】杖の自立装置
(51)【国際特許分類】
   A45B 3/00 20060101AFI20190121BHJP
   A45B 9/04 20060101ALI20190121BHJP
【FI】
   A45B3/00 C
   A45B9/04 B
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-177344(P2018-177344)
(22)【出願日】2018年9月21日
【審査請求日】2018年9月21日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】309039266
【氏名又は名称】有限会社 井場設計事務所
(72)【発明者】
【氏名】井場 正治
【審査官】 大光 太朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−176983(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3047004(JP,U)
【文献】 特許第6371939(JP,B1)
【文献】 特開2007−143905(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0257392(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A45B 3/00
A45B 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
杖の杖軸に装着して脚部を開くことによって、杖の自立を可能にする杖の自立装置であって、
杖軸の下部に着脱自在に装着される取付ベースと、この取付ベースに対して上向きに閉じられた閉脚状態と斜め下向きに開かれた開脚状態との間で開閉される3本以上の脚部と、これら各脚部の基端をそれぞれ前記取付ベースに回動自在に接続するヒンジ部とが、一体に成形されて装置ユニットを構成しており、
前記装置ユニットにおける前記各脚部は、前記ヒンジ部に近い基端部分と、この基端部分に対して鈍角をなして開脚状態での表側の向きに折曲された延長部分とを有し、
前記装置ユニットの外側に嵌装されて、上方に移動された閉脚保持位置と下方に移動された開脚保持位置との間で切換可能な筒状の操作スライダを備え、
前記操作スライダは、前記装置ユニットにおける前記各脚部をそれぞれ外方に突出させるための開口を有し、この開口の上部に開脚保持部が設けられ、この開口の下部に閉脚保持部が設けられており、
前記操作スライダを上方の閉脚保持位置に移動させて前記各脚部が上向きに閉じられると、これら各脚部における前記延長部分が操作スライダに沿って垂直状に配列されると共に、その延長部分の裏側の一部が操作スライダにおける前記閉脚保持部によって外方から覆われ、
前記操作スライダを下方の開脚保持位置に移動させて前記各脚部が斜め下向きに開かれると、これら各脚部における前記基端部分が操作スライダに沿って垂直状に配列されると共に、その基端部分の表側が操作スライダにおける前記開脚保持部によって外方から覆われる、ことを特徴とする杖の自立装置。
【請求項2】
前記各脚部における表側で幅方向中央には、補強リブが全長に亘って形成されており、
前記操作スライダにおける前記開脚保持部が、それぞれスリット分割された一対の開脚保持部からなり、
前記各脚部が開脚状態に回動されると、前記基端部分の表側で前記補強リブを避けた両側位置が、前記操作スライダにおける前記一対の開脚保持部によって外方から覆われる、ことを特徴とする請求項1に記載の杖の自立装置。
【請求項3】
前記各脚部における前記延長部分には、常用ロック部が設けられており、
前記操作スライダを上方の閉脚保持位置に移動させて前記各脚部が上向きに閉じられた際に、前記常用ロック部が操作スライダにおける前記開口の上下両縁に係合されることによって、操作スライダが閉脚保持位置において常態的にロックされる、ことを特徴とする請求項1または2に記載の杖の自立装置。
【請求項4】
前記各脚部における前記常用ロック部が、前記延長部分の表裏方向に弾性変形可能なロック片であり、
このロック片には、前記操作スライダにおける前記開脚保持部の下縁に係脱可能な第1係合部と、前記操作スライダにおける前記閉脚保持部の上縁に係脱可能な第2係合部とが形成されている、ことを特徴とする請求項3に記載の杖の自立装置。
【請求項5】
前記装置ユニットにおける前記取付ベースの下部に結合されて、杖軸の下端に着脱自在に嵌着される専用の石突キャップを備え、
前記各脚部が斜め下向きに開かれた際に、前記石突キャップの下端面が前記各脚部の接地部分と同一高さに若しくは上方に位置される、ことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の杖の自立装置。
【請求項6】
前記石突キャップの上端には、ゴム弾性を有するリング状の結合部が形成されており、
前記取付ベースにおける杖軸装着孔の上段部に、前記石突キャップにおける前記リング状の結合部が弾性嵌合される、ことを特徴とする請求項5に記載の杖の自立装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行時の補助具として使用される杖の杖軸に装着し、開閉自在の脚部を開くことによって、杖の自立を可能にする杖の自立装置に関する。
【背景技術】
【0002】
杖を歩行時の補助具として使用している際に、手を杖から離して両手を使用したい場合が多々ある。ところが特に屋外においては、杖を立て掛けられる所があるとは限らず、しばしば不便を感じることがある。そこで従来から、杖軸の下部に常設された構成の自立装置や、杖軸の下部に着脱自在に装着される構成の自立装置が提案されている。
【0003】
その着脱型の自立装置として、特許文献1に記載されたものがある。この自立装置は、杖軸の下部に装着される支持筒部材と、この支持筒部材の上端部に固着される上側バネ受け部材と、3個の脚片と、これら各脚片を開閉可能に保持する脚片保持部材と、各脚片の先端を閉脚状態で保持する脚片拘束部材と、脚片保持部材を下方に付勢するバネ部材とを備えている。そして、脚片保持部材は、各脚片の基端を支持する脚片枢支部材と、下側バネ受け部材を兼ねて脚片枢支部材に係合する脚片脱落防止部材とからなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−264214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1の記載によれば、自立装置を杖軸の下部に着脱自在に装着し、杖の使用状況に応じて3個の脚片を開閉させて、各脚片の開脚状態及び閉脚状態を保持させることができる。しかしながら、この自立装置においては、全体の部品点数が多く組立工数も多いので、小型軽量化が難しい上にコスト高になり易い、という問題があった。
【0006】
また、この自立装置においては、バネ部材の付勢力により脚片脱落防止部材を下方に押圧して脚片枢支部材に係合させることによって、開かれた3個の脚片を脚片保持部材により開脚状態で保持させている。そして、脚片保持部材をバネ部材に抗して上方に移動させて各脚片を閉じ、再びバネ部材の付勢力により各脚片の先端を脚片拘束部材に係合させることによって、閉じられた各脚片を閉脚状態で保持させている。したがって、各脚片を開脚状態及び閉脚状態で保持させるために別個の保持部材やバネ部材などが必要であり、各脚片の開閉操作が面倒で煩わしい、という問題があった。
【0007】
そこで本発明は、全体の部品点数及び組立工数を削減した上で、各々の脚部の開閉操作が容易で開脚状態及び閉脚状態での保持も確実にできるようにした、杖の自立装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、
杖の杖軸に装着して脚部を開くことによって、杖の自立を可能にする杖の自立装置であって、
杖軸の下部に着脱自在に装着される取付ベースと、この取付ベースに対して上向きに閉じられた閉脚状態と斜め下向きに開かれた開脚状態との間で開閉される3本以上の脚部と、これら各脚部の基端をそれぞれ前記取付ベースに回動自在に接続するヒンジ部とが、一体に成形されて装置ユニットを構成しており、
前記装置ユニットにおける前記各脚部は、前記ヒンジ部に近い基端部分と、この基端部分に対して鈍角をなして開脚状態での表側の向きに折曲された延長部分とを有し、
前記装置ユニットの外側に嵌装されて、上方に移動された閉脚保持位置と下方に移動された開脚保持位置との間で切換可能な筒状の操作スライダを備え、
前記操作スライダは、前記装置ユニットにおける前記各脚部をそれぞれ外方に突出させるための開口を有し、この開口の上部に開脚保持部が設けられ、この開口の下部に閉脚保持部が設けられており、
前記操作スライダを上方の閉脚保持位置に移動させて前記各脚部が上向きに閉じられると、これら各脚部における前記延長部分が操作スライダに沿って垂直状に配列されると共に、その延長部分の裏側の一部が操作スライダにおける前記閉脚保持部によって外方から覆われ、
前記操作スライダを下方の開脚保持位置に移動させて前記各脚部が斜め下向きに開かれると、これら各脚部における前記基端部分が操作スライダに沿って垂直状に配列されると共に、その基端部分の表側が操作スライダにおける前記開脚保持部によって外方から覆われる、ことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、装着用の取付ベースと開閉自在の各脚部と接続用のヒンジ部とが、一体に成形されて装置ユニットを構成し、この装置ユニットの外側に開閉切換用の操作スライダが嵌装されたものなので、全体が2部品だけになって、部品点数及び組立工数が大幅に削減される。
【0010】
そして、この構成によれば、各脚部が基端部分と延長部分との間で折曲されて、いわゆる「くの字」形状なので、操作スライダを閉脚保持位置に移動させて各脚部が閉脚状態に回動されると、各脚部の延長部分が操作スライダに沿って垂直状に位置される。その延長部分の裏側の一部が操作スライダの閉脚保持部によって外方から覆われるので、各脚部の開脚方向への回動が阻止されて閉脚状態で確実に保持される。
また、操作スライダを開脚保持位置に移動させて各脚部が開脚状態に回動されると、各脚部の基端部分が操作スライダに沿って垂直状に位置される。その基端部分の表側が操作スライダの開脚保持部によって外方から覆われるので、各脚部の閉脚方向への回動が阻止されて開脚状態で確実に保持される。
したがって、操作スライダの上下移動だけで、各脚部が全て同時に閉脚状態と開脚状態とに切り換えられて確実に保持されるので、各脚部の開閉操作が極めて容易になり、各脚部を開脚状態及び閉脚状態で保持させるための別個の保持部材やバネ部材などが不要となる。
【0011】
ところで、各脚部は操作スライダの開口から外方に突出させているので、開脚時には各脚部が開口の上縁(開脚保持部の下側)によって押し下げられ、閉脚時には各脚部が開口の下縁(閉脚保持部の上側)によって押し上げられる、と動作的に見てとれる。
このときの動作を詳細に検討すると、ヒンジ部の弾性によって各脚部が開脚方向または閉脚方向に回動されるものでもよい。さらに、ヒンジ部の弾性なしで各脚部が自重の作用によって開脚方向に回動されるものでもよい。したがって、各脚部が開閉途中にどのような構成で回動されるかは、請求項1において必須の要件ではない。
【0012】
次に、請求項2に係る発明は、請求項1の杖の自立装置において、
前記各脚部における表側で幅方向中央には、補強リブが全長に亘って形成されており、
前記操作スライダにおける前記開脚保持部が、それぞれスリット分割された一対の開脚保持部からなり、
前記各脚部が開脚状態に回動されると、前記基端部分の表側で前記補強リブを避けた両側位置が、前記操作スライダにおける前記一対の開脚保持部によって外方から覆われる、ことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、補強リブによって各脚部が実質的に剛体となるので、開脚状態の各脚部によって杖を確実に支持できる。それでいて、操作スライダの開脚保持部がそれぞれ一対あるので、各脚部の基端部分の表側に補強リブがあっても、この補強リブを避けた両側位置が一対の開脚保持部によって確実に覆われて保持される。
【0014】
次に、請求項3に係る発明は、請求項1または2の杖の自立装置において、
前記各脚部における前記延長部分には、常用ロック部が設けられており、
前記操作スライダを上方の閉脚保持位置に移動させて前記各脚部が上向きに閉じられた際に、前記常用ロック部が操作スライダにおける前記開口の上下両縁に係合されることによって、操作スライダが閉脚保持位置において常態的にロックされる、ことを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、操作スライダが閉脚保持位置にあって各脚部が閉脚状態であると、各脚部の延長部分の常用ロック部によって操作スライダが常態的にロックされるため、操作スライダが閉脚保持位置から不測に下方に移動されることが防止される。また、同様な状態で、常用ロック部によって操作スライダの上方移動が阻止されるため、操作スライダが閉脚保持位置において上方への抜け止めがなされる。
【0016】
次に、請求項4に係る発明は、請求項3の杖の自立装置において、
前記各脚部における前記常用ロック部が、前記延長部分の表裏方向に弾性変形可能なロック片であり、
このロック片には、前記操作スライダにおける前記開脚保持部の下縁に係脱可能な第1係合部と、前記操作スライダにおける前記閉脚保持部の上縁に係脱可能な第2係合部とが形成されている、ことを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、各脚部の延長部分のロック片が弾性変形可能なので、操作スライダに対する各脚部の組立時には、ロック片の第2係合部が操作スライダの閉脚保持部の上縁にスムーズに係合される。そして、各脚部の閉脚状態では、ロック片の第1係合部が操作スライダの開脚保持部の下縁に確実に係合される。特に各脚部が剛体の場合でも、弾性変形可能なロック片によって、操作スライダの閉脚保持状態での確実なロック及びロック解除が可能となる。
【0018】
次に、請求項5に係る発明は、請求項1〜4の何れかの杖の自立装置において、
前記装置ユニットにおける前記取付ベースの下部に結合されて、杖軸の下端に着脱自在 に嵌着される専用の石突キャップを備え、
前記各脚部が斜め下向きに開かれた際に、前記石突キャップの下端面が前記各脚部の接地部分と同一高さに若しくは上方に位置される、ことを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、杖軸の下端で一般的に取替可能な石突キャップとして、開閉自在の各脚部を有する装置ユニットに最適な専用部品が使用される。これによって、石突キャップの下端面を各脚部の接地部分と同一面に若しくは浮かせて、好ましくは石突キャップと各脚部との支持で安定した杖の自立が可能となる。また、専用の石突キャップを使用するので、杖軸に装置ユニットの取付ベースを装着する際に、その装着位置の特別な設定が不要になる。
【0020】
次に、請求項6に係る発明は、請求項5の杖の自立装置において、
前記石突キャップの上端には、ゴム弾性を有するリング状の結合部が形成されており、
前記取付ベースにおける杖軸装着孔の上段部に、前記石突キャップにおける前記リング状の結合部が弾性嵌合される、ことを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、専用の石突キャップを取付ベースに結合させる際に、石突キャップのリング状の結合部が取付ベースの杖軸装着孔の上段部に弾性嵌合されるので、取付ベースに対して石突キャップが一体的に強固に結合される。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る杖の自立装置によれば、全体の部品点数及び組立工数が大幅に削減されて、小型軽量化が可能な上に低コスト化が可能となるので、コンパクトで安価な装置を杖に装着することによって利便性を向上させることができる。
また、各々の脚部を開脚状態及び閉脚状態で保持させるための別個の保持部材やバネ部材などが不要で、各脚部の開閉操作が極めて容易になるので、特に高齢者などにとって取扱いが楽な自立装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係る杖の自立装置で、杖軸に装着した使用状況を示す概略図である。
図2】上記自立装置で、組立時の状態を示す全体の分解斜視図である。
図3】上記自立装置で、組立時の状態を示す全体の分解縦断面図である。
図4】上記自立装置で、装置ユニットの成形時の状態を示す斜視図である。
図5】上記自立装置で、装置ユニットのヒンジ部を示す拡大断面図である。
図6】上記自立装置で、各脚部の閉脚状態を示す全体の斜視図である。
図7】上記自立装置で、各脚部の開脚状態を示す全体の斜視図である。
図8】上記自立装置で、各脚部の閉脚状態を示す全体の縦断面図である。
図9】上記自立装置で、図8のA−A線矢視での拡大断面図である。
図10】上記自立装置で、各脚部の開脚途中状態を示す全体の縦断面図である。
図11】上記自立装置で、各脚部の開脚状態を示す全体の縦断面図である。
図12】上記自立装置で、図11のB−B線矢視での拡大断面図である。
図13】上記自立装置で、各脚部の閉脚途中状態を示す全体の縦断面図である。
図14】上記自立装置で、追加ロック部の態様を示す全体の斜視図である。
図15】上記自立装置で、追加ロック部の作動状態を示す全体の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る杖の自立装置における実施の形態を図面に基づいて説明する。まず、図1を参照して自立装置を杖軸に装着した使用状況の概略を説明するが、その自立装置の具体的な実施形態については図6及び図7に示されている。
【0025】
図1において、杖の自立装置は、杖における長尺の杖軸1の下部に着脱自在に装着される。杖は一般的な市販品を使用可能であるが、専用品であってもよい。杖軸1の上端には把持用のグリップ2が設けられ、杖軸1の下端には防滑用及び緩衝用の石突キャップ3が嵌着されている。
【0026】
そして、(a)から(b)に示すように、杖を普通に使用している状態で、自立装置の操作スライダ8を例えば足先で押し下げると、脚部6が斜め下向きに開かれて開脚状態が保持され、杖を自立させることができる。また、(c)から(d)に示すように、自立装置の操作スライダ8を例えば指で押し上げると、脚部6が上向きに閉じられて閉脚状態が保持され、杖を普通に使用することができる。
【0027】
次に、図2及び図3に示すように、実施形態の自立装置は、装置ユニット4と、この装置ユニット4の外側に嵌装される操作スライダ8とを備えている。装置ユニット4は、取付ベース5と4本の脚部6とヒンジ部7とが、一体に成形されている。また、取付ベース5の下部には、前記の石突キャップ3が結合される。
【0028】
装置ユニット4の脚部6は、3本以上あればよいが、一体成形の加工容易性を考慮すると、互いに直角の位置関係に配列される4本が好ましい。なお、各々の脚部6は全て同一の構造であり、これら各脚部6に関連する他の構成も4個が同一である。そこで、同一の構成の部分については、以下の説明及び図面の符号において、必要以上に重複した記載を避けることにする。
【0029】
実施形態の装置ユニット4は、3Dプリンタを使用してPP(ポリプロピレン)によって一体成形されるものである。この成形時には、図4に示すように、各脚部6が互いに直角をなして水平状に配列される形状である。なお、装置ユニット4は、各種の合成樹脂材料によって一体的に射出成形されてもよく、成形時の形状も適宜に選択される。
【0030】
図2図4において、装置ユニット4の取付ベース5は、杖軸の下部に着脱自在に装着される部分である。取付ベース5は、内側に円形の装着孔51を有し、外側には互いに直角をなすストッパ面52が垂直状に形成されている。また、取付ベース5の外側から上方に向って、ガイド用の柱状部53が形成されている。この柱状部53の間で取付ベース5の上部には、保護リブ54が形成されている。さらに、図2の一部破断した部分詳細に示すように、取付ベース5の装着孔51には上段部51aが形成され、柱状部53には上段部51aに対応する切欠部53bが形成されている。
【0031】
装置ユニット4の各脚部6は、取付ベース5に対して上向きに閉じられた閉脚状態(図6)と、斜め下向きに開かれた開脚状態(図7)との間で開閉される。各脚部6は、ヒンジ部7に近い基端部分61と、この基端部分61に対して鈍角をなして開脚状態での表側の向きに折曲された延長部分62とを有し、いわゆる「くの字」形状である。なお、各脚部6の表側61a・62aで幅方向中央には、補強リブ63が全長に亘って形成されており、各脚部6は実質的に剛体となっている。特に、各脚部6の折曲された部分も、補強リブ63によって高い強度を得ている。
【0032】
また、各脚部6の延長部分62で折曲部分寄りには、操作スライダ8に対する常用ロック部64が形成されている。この常用ロック部64は、補強リブ63を避けた片側位置で、延長部分62の表裏方向に弾性変形可能なロック片であり、その自由端が折曲部分寄りに位置される。そして、常用ロック部64の接続部分の近傍には、表側62aで凸になる係合用の突部64a(第1係合部)が形成され、常用ロック部64の自由端には、裏側62bで凸になる係合用の段部64b(第2係合部)が形成されている。
【0033】
図5に示すように、装置ユニット4のヒンジ部7は、各脚部6の基端をそれぞれ取付ベース5に回動自在に接続する部分である。ヒンジ部7は、繰り返しの屈曲に対して耐久性を有するように薄肉に成形された、いわゆる「リビングヒンジ」である。このヒンジ部7については、弾性の有無及び強弱が必須の条件ではない。弾性を有する場合でも、弾性復元される形態は成形時の形状に応じて適宜である。
【0034】
次に、図2及び図3図6及び図7に示すように、前記の操作スライダ8は、合成樹脂材料によって筒状に一体成形された部材であり、装置ユニット4の外側に嵌装される。そして、操作スライダ8は、上方(図6の矢示a)に移動された閉脚保持位置と、下方(図7の矢示b)に移動された開脚保持位置との間で、選択的に切換可能である。
【0035】
操作スライダ8の下側寄りは、装置ユニット4の各脚部6をそれぞれ外方に突出させるための開口81を有する。この開口81の上部には開脚保持部82が設けられ、この開口81の下部には閉脚保持部83が設けられている。
【0036】
操作スライダ8の外周には、閉脚状態の各脚部6をそれぞれ収納する凹部84が長手方向に形成され、この凹部84の中央は各脚部6の補強リブ63に対応する溝部85となっている。したがって、実施形態における開脚保持部82は、溝部85の両側で凹部84の両壁の下側部分によって構成されている。すなわち図2の一部破断した部分詳細に示すように、開脚保持部82は、それぞれ開口81の上部でスリット81aにより分割された一対の開脚保持部からなる。なお、開脚保持部82の下縁には、外側で凸になる押圧用の突部82aが形成されている。また、実施形態における閉脚保持部83は、凹部84の最も下側部分で外側に膨出させた連続壁形状によって構成されている。
【0037】
また、操作スライダ8の内側で上部寄りには、杖軸に対して摺接するガイドリブ86が形成されている。なお、操作スライダ8の上端には、上下移動させる操作用の突片87が水平状に形成されている。
【0038】
さらに、図2及び図3において、実施形態の石突キャップ3は、装置ユニット4に適合する専用部品である。この石突キャップ3はゴム材からなり、杖軸に対する円形の嵌合孔31を有し、装置ユニット4の取付ベース5に対応する結合部32が接続部分32aを介して上端に形成されている。この結合部32は、ゴム弾性を有するようにリング状に一体成形されている。
【0039】
上述したように、実施形態の自立装置の各部品が構成されている。この自立装置の組立時には、図2及び図3において、まず、石突キャップ3の結合部32を縮径させながら、装置ユニット4の取付ベース5の装着孔51に下方から嵌合させる。このとき、リング状の結合部32が装着孔51の上段部51a及び柱状部53の切欠部53bに弾性嵌合されると共に、結合部32の接続部分32aが装着孔51の内周面に弾性嵌合される。このため、装着孔51の上段部51aによって石突キャップ3の結合部32の抜け止がなされて、取付ベース5に対して石突キャップ3が一体的に強固に結合される。
【0040】
次に、装置ユニット4の各脚部6を閉脚状態にして、これら各脚部6の先端を操作スライダ8の下方から内側に挿入させていく。なお、装置ユニット4の単体で各脚部6を閉脚させた際に、図3の一部破断した部分詳細に示すように、取付ベース5の保護リブ54がヒンジ部7の内側近傍に存在するので、ヒンジ部7の不要な撓み等が防止される。
【0041】
自立装置の組立後は、図6及び図8に示すように、操作スライダ8が上方(矢示a)の閉脚保持位置にあって各脚部6が閉脚状態になる。組立完了の直前で、各脚部6の常用ロック部64が内側にスムーズに弾性変形され、その後、常用ロック部64が弾性復元されて、操作スライダ8がロック(詳細は後述)される。なお、各脚部6の開閉動作を示す図8図10図11図13は、対向する両脚部6における補強リブ63の手前位置で縦断面にした図である。
【0042】
この自立装置によれば、図8に示すように、各脚部6が基端部分61と延長部分62との間で折曲されて、いわゆる「くの字」形状なので、操作スライダ8を閉脚保持位置に移動させて各脚部6が閉脚状態に回動されると、各脚部6の延長部分62が操作スライダ8に沿って垂直状に配列される。その延長部分62の裏側62bの一部(折曲部分の近傍)が、操作スライダ8の閉脚保持部83によって外方から覆われる(図9の矢示も参照)ので、各脚部6の開脚方向への回動が阻止されて閉脚状態で確実に保持される。
【0043】
そして、操作スライダ8が閉脚保持位置にあって各脚部6が閉脚状態であると、各脚部6の弾性復元状態にある常用ロック部64の突部64aが、操作スライダ8の開脚保持部82の突部82a下に確実に係合される。同時に、常用ロック部64の段部64bが、操作スライダ8の閉脚保持部83の上縁に確実に係合される。これによって、操作スライダ8が閉脚保持位置で常態的にロックされるため、操作スライダ8が閉脚保持位置から不測に下方に移動すること(落下)が防止される。また、操作スライダ8の上方移動も阻止されるため、操作スライダ8が閉脚保持位置において上方への抜け止めがなされる。
【0044】
次に、図8において、操作スライダ8を下方(矢示b)に押し下げ操作すると、開脚保持部82の突部82aによって、各脚部6の常用ロック部64の突部64aが弾性に抗して外側に押圧される。開脚保持部82の突部82aが常用ロック部64の突部64aを乗り越えると、操作スライダ8のロックが解除される。すると、操作スライダ8の下方移動が可能になり、閉脚保持部83が各脚部6の延長部分62の裏側62bから下方に外れていく。
【0045】
そして、図10に示すように、各脚部6が開脚途中状態となる。操作スライダ8の開脚保持部82の突部82aによって、各脚部6の基端部分61の表側61aが押し下げられるので、各脚部6が開脚方向に回動されていく。各脚部6の基端部分61の表側61aに補強リブ63があるが、操作スライダ8の開脚保持部82はそれぞれ一対あるので、各脚部6が確実に押圧される。なお、操作スライダ8の下方移動に伴って各脚部6は素早く回動されるが、このときの動作は、ヒンジ部7の弾性によって各脚部6が開脚方向に回動されるものでもよい。さらに、ヒンジ部7の弾性なしで各脚部6が自重の作用によって開脚方向に回動されるものでもよい。
【0046】
引き続く動作によって、図7及び図11に示すように、操作スライダ8が下方(矢示b)の開脚保持位置にあって各脚部6が開脚状態になる。各脚部6が折曲された形状なので今度は、各脚部6の基端部分61が操作スライダ8に沿って垂直状に配列される。その基端部分61の表側61aが、操作スライダ8の開脚保持部82によって外方から覆われる(図12の矢示も参照)ので、各脚部6の閉脚方向への回動が阻止されて開脚状態で確実に保持される。このとき、図12で明らかなように、各脚部6の基端部分61の表側61aで補強リブ63を避けた両側位置が、それぞれ一対の開脚保持部82によって確実に覆われることになる。
【0047】
また、各脚部6の開脚状態では、各脚部6の基端部分61の裏側61bが、取付ベース5の垂直状のストッパ面52(図10参照)に当接されるので、各脚部6が開脚状態で確実に位置決めされる。なお、操作スライダ8の内側ガイドリブ86の下端が取付ベース5の柱状部53の上端に当接されて、操作スライダ8が開脚保持位置で確実に停止されるので、操作スライダ8の開脚保持部82の突部82aから各脚部6に無理な押下力が加わることもない。
【0048】
ところで、実施形態の自立装置においては、杖軸1の下端の石突キャップ3として、装置ユニット4に最適な専用部品が使用されている。これによって、各脚部6が斜め下向きに開かれた際に、石突キャップ3の下端面3aが各脚部6の接地部分6aと同一高さに若しくは上方に位置される。
【0049】
すなわち、地面(床面)G上において、石突キャップ3の下端面3aを各脚部6の接地部分6aよりも浮かせた場合は、杖の全重量が各脚部6に分散される4点支持になって、安定した杖の自立が可能となる。さらに理想的には、地面(床面)G上において、石突キャップ3の下端面3aと各脚部6の接地部分6aとを同一面に設定する。この場合は、杖の重量の大部分が石突キャップ3に支持されて残余が各脚部6に分散される5点支持になるので、より安定した杖の自立が可能となる。
【0050】
上記のように、石突キャップ3の下端面3aと各脚部6の接地部分6aとの高さ位置を決定する場合に、専用の石突キャップ3を使用するので、杖軸1に装置ユニット4の取付ベース5を装着する際に、その装着位置の特別な設定が不要になる。なお、図2及び図3で前述したように、石突キャップ3の結合部32及び接続部分32aが、取付ベース5の装着孔51の上段部51a及び内周面に弾性嵌合されている。このため、取付ベース5及び石突キャップ3を杖軸1に装着させる際に、石突キャップ3のゴム弾性を有する結合部32及び接続部分32aが、杖軸1の外周面に密着されて強固な装着が可能となる。
【0051】
また、各脚部6は補強リブ63により実質的に剛体となって撓みが少ないので、各脚部6によって杖を確実に支持できる。なお、各脚部6の長さは適宜だが、基端部分61を長くすると閉脚状態での外形寸法が増大するので、基端部分61は開脚状態で保持可能な長さがあればよい。さらに、各脚部6の基端部分61と延長部分62との間の鈍角は、杖を自立支持する安定性を考慮して、例えば130度〜140度が好ましい。
【0052】
次に、図11において、操作スライダ8を上方(矢示a)に押し上げ操作すると、開脚保持部82が各脚部6の基端部分61の表側61aから上方に外れていく。そして、図13に示すように、各脚部6が閉脚途中状態となる。操作スライダ8の閉脚保持部83の上縁によって、各脚部6の延長部分62の裏側62bが押し上げられるので、各脚部6が閉脚方向に回動されていく。なお、操作スライダ8の上方移動に伴って各脚部6は素早く回動されるが、このときの動作は、ヒンジ部7の弾性によって各脚部6が閉脚方向に回動されるものでもよい。
【0053】
引き続く動作によって、前述した図6及び図8に示すように、操作スライダ8が上方(矢示a)の閉脚保持位置にあって各脚部6が閉脚状態になる。操作スライダ8の移動完了の直前で、開脚保持部82の突部82aによって、各脚部6の常用ロック部64の突部64aが弾性に抗して外側に押圧される。開脚保持部82の突部82aが常用ロック部64の突部64aを乗り越えると、常用ロック部64が確実に弾性復元されて、操作スライダ8が閉脚保持位置でロックされる。
【0054】
すなわち、操作スライダ8を閉脚保持位置に移動させた際には、操作スライダ8が常態的にロックされる。常用ロック部64の突部64aは接続部分の近傍に形成されているので、弾性作用の強い突部64aによって操作スライダ8のロックは確実である。特に、各脚部6は補強リブ63により実質的に剛体となっているが、弾性変形可能な常用ロック部64によって、操作スライダ8の閉脚保持状態での確実なロック及びロック解除が可能となる。
【0055】
さらに、実施形態の自立装置において、図14及び図15に示すように、操作スライダ8の外側位置には、追加ロック部91が形成されている。この追加ロック部91は、操作スライダ8の内外方向に弾性変形可能なロックレバーである。追加ロック部91を弾性に抗して内側に押し込むと、その突部92が操作スライダ8の開孔88上端に嵌合され、爪部93が取付ベース5の柱状部53の上端段部53a(図4も参照)に係合される。
【0056】
これによって、操作スライダ8が閉脚保持位置において前記の常用ロック部64により常態的にロックされた状態で、追加ロック部91により手動での付加的なロック及びロック解除が可能となる。このため、操作スライダ8の閉脚保持位置におけるロックの安全性がさらに向上する。
【0057】
上述したように、実施形態の自立装置によれば、装着用の取付ベース5と開閉自在の各脚部6と接続用のヒンジ部7とが、一体に成形されて装置ユニット4を構成し、この装置ユニット4の外側に開閉切換用の操作スライダ8が嵌装されたものである。このため、全体が2部品だけ、あるいは専用の石突キャップ3を使用した場合でも3部品だけになって、部品点数及び組立工数を大幅に削減できる。
【0058】
また、この自立装置によれば、操作スライダ8の上下移動だけで、各脚部6が全て同時に閉脚状態と開脚状態とに切り換えられて確実に保持される。このため、各脚部6の開閉操作が極めて容易になり、各脚部6を開脚状態及び閉脚状態で保持させるための別個の保持部材やバネ部材などが不要になる。
【0059】
なお、操作スライダ8の上端に水平状の突片87があるので、操作スライダ8の押下げ操作及び押上げ操作は極めて容易となる。また、操作スライダ8の内側で下部寄りが、取付ベース5の長い柱状部53によってガイドされるので、操作スライダ8はスムーズに上下移動される。また、その長い柱状部53の内壁面によって杖軸1の外周面が囲まれるので、杖軸1を安定して支持できる。さらに、各脚部6の閉脚状態では、各脚部6の延長部分62及び補強リブ63が、操作スライダ8の外周の凹部84及び溝部85にそれぞれ収納されるので、各脚部6の不測な破損などを防止できる。
【0060】
以上、本発明に係る杖の自立装置の実施形態について説明したが、本発明は実施形態に限定されることなく、本発明の技術的範囲内で各種の有効な変更などが可能である。
例えば、実施形態では弾性変形可能な常用ロック部を示したが、各脚部として多少の弾性変形が許容されるなら、各脚部の表裏に係合部を形成するだけでもよい。
また、実施形態で示した専用の石突キャップを使用せずに、一般的な石突キャップを使用する場合は、取付ベースとの間にスペーサ等を介在させて位置設定をしてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 杖軸
3 石突キャップ、 3a 下端面
31 杖軸嵌合孔
32 結合部、 32a 接続部分
4 装置ユニット
5 取付ベース
51 杖軸装着孔、 51a 上段部
52 ストッパ面
53 柱状部、 53b 切欠部
6 脚部、 6a 接地部分
61 基端部分、 61a 表側、 61b 裏側
62 延長部分、 62a 表側、 62b 裏側
63 補強リブ
64 常用ロック部、 64a 突部(第1係合部)、 64b 段部(第2係合部)
7 ヒンジ部
8 操作スライダ
81 開口、 81a スリット
82 一対の開脚保持部、 82a 押圧用の突部
83 閉脚保持部
【要約】
【課題】 全体の部品点数及び組立工数を削減した上で、各々の脚部の開閉操作が容易で開脚状態及び閉脚状態での保持も確実にできるようにする。
【解決手段】 杖軸1に装着用の取付ベース5と開閉自在の各脚部6と接続用のヒンジ部とを一体成形し、外側に開閉切換用の操作スライダ8を嵌装する。各脚部6は基端部分61と鈍角をなして開脚状態での表側の向きに折曲された延長部分62とを有する。操作スライダ8の開口81から各脚部6を外方に突出させ、開口81の上部に開脚保持部82を設ける。操作スライダ8を下方に移動させて各脚部6が斜め下向きに開かれると、各脚部6の基端部分61が操作スライダ8に沿って垂直状に配列されて、基端部分61の表側61aが操作スライダ8の開脚保持部82によって外方から覆われ、各脚部6が開脚状態で確実に保持される。
【選択図】 図11
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15