【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0058】
(正極活物質結晶前駆体粉末の作製)
メタリン酸ナトリウム(NaPO
3)、酸化第二鉄(Fe
2O
3)、およびオルソリン酸(H
3PO
4)を原料とし、モル%で、Na
2O 40.0%、Fe
2O
3 20.0%、P
2O
5 40.0%となるように原料粉末を調合し、1250℃にて45分間、大気雰囲気中にて溶融を行った。その後、一対のロールに溶融ガラスを流し込み、急冷しながらフィルム状に成形することにより、正極活物質結晶前駆体を作製した。
【0059】
得られた正極活物質結晶前駆体について、φ20mmのAl
2O
3玉石を使用したボールミル粉砕を5時間、次にφ5mmのZrO
2玉石を使用したエタノール中でのボールミル粉砕を40時間行い、平均粒子径D50 2.0μmの正極活物質結晶前駆体粉末を得た。なお、実施例9及び10では、次のようにして作製した平均粒子径D50 0.7μmの正極活物質結晶前駆体粉末を用いた。上記で得られた正極活物質結晶前駆体について、φ20mmのZrO
2玉石を使用したボールミル粉砕を5時間行い、目開き120μmの樹脂製篩に通過させ、平均粒子径3〜15μmのガラス粗粉末を得た。次いで、このガラス粗粉末に対し、粉砕助剤にエタノールを用い、φ3mmのZrO
2玉石を使用したボールミル粉砕を80時間行うことで、平均粒子径0.7μmの正極活物質結晶前駆体粉末を得た。
【0060】
析出される活物質結晶を確認するため、質量%で、得られた正極活物質結晶前駆体粉末 93%、アセチレンブラック(TIMCAL社製 SUPER C65) 7%を十分に混合した後、窒素と水素の混合ガス雰囲気(窒素96体積%、水素4体積%)中450℃にて1時間熱処理を行った。熱処理後の粉末について粉末X線回折パターンを確認したところ、空間群P−1に属する三斜晶系結晶(Na
2FeP
2O
7)由来の回折線が確認された。なお、粉末X線回折パターンは、X線回折装置(RIGAKU社 RINT2000)を用いて測定した。
【0061】
(負極活物質結晶前駆体粉末の作製)
炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)、酸化チタン(TiO
2)、および無水ホウ酸(B
2O
3)を原料とし、モル%で、Na
2O 36.0%、TiO
2 49.0%、B
2O
3 15.0%となるように原料粉末を調合し、1300℃にて1時間、大気雰囲気中にて溶融を行った。その後、一対のロールに溶融ガラスを流し込み、急冷しながらフィルム状に成形することにより、負極活物質結晶前駆体を作製した。
【0062】
得られた負極活物質結晶前駆体について、φ20mmのAl
2O
3玉石を使用したボールミル粉砕を20時間行った。その後、空気分級機(日本ニューマチック工業株式会社製 MDS−1型)を使用して空気分級することにより、平均粒子径D50 2.0μmの負極活物質結晶前駆体粉末を得た。
【0063】
析出される活物質結晶を確認するため、得られた負極活物質結晶前駆体粉末を大気雰囲気中800℃にて1時間熱処理を行った。熱処理後の粉末について粉末X線回折パターンを確認したところ、空間群P2
1/mに属する単斜晶系結晶(Na
2Ti
3O
7)由来の回折線が確認された。
【0064】
(ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末の作製)
炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、および酸化マグネシウム(MgO)を原料とし、モル%で、Na
2O 13.0%、Al
2O
3 80.2%、MgO 6.8%となるように原料粉末を調合し、大気雰囲気中1250℃にて4時間焼成を行った。焼成後の粉末について、φ20mmのAl
2O
3玉石を使用したボールミル粉砕を24時間行った。その後、空気分級することにより、平均粒子径D50 2.0μmの粉末を得た。得られた粉末を、大気雰囲気中1640℃にて1時間熱処理を行うことにより、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末を得た。得られたナトリウムイオン伝導性結晶A粉末は、速やかに露点−40℃以下の環境に移し、保存した。
【0065】
ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末について粉末X線回折パターンを確認したところ、空間群R−3mに属する三方晶系結晶(β”−Alumina [(Al
10.32Mg
0.68O
16)(Na
1.68O)])由来の回折線が確認された。
【0066】
(ナトリウムイオン伝導性結晶B粉末の作製)
メタリン酸ナトリウム(NaPO
3)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)、炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)、および二酸化ケイ素(SiO
2)を原料とし、モル%で、Na
2O 29.1%、ZrO
2 23.6%、P
2O
5 7.3%、SiO
2 40%となるように原料粉末を調合し、大気雰囲気中1150℃にて1時間焼成を行った。焼成後の粉末について、φ20mmのAl
2O
3玉石を使用したボールミル粉砕を24時間行った。その後、空気分級することにより、平均粒子径D50 2.0μmの粉末を得た。得られた粉末を、大気雰囲気中1300℃にて2時間熱処理を行うことにより、ナトリウムイオン伝導性結晶B粉末を得た。得られたナトリウムイオン伝導性結晶B粉末は、速やかに露点−40℃以下の環境に移し、保存した。
【0067】
ナトリウムイオン伝導性結晶B粉末について粉末X線回折パターンを確認したところ、空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na
2.6Zr
2Si
1.6P
1.4O
1
2)であった。
【0068】
(ナトリウムイオン伝導性結晶C粉末の作製)
メタリン酸ナトリウム(NaPO
3)、イットリア安定ジルコニア((ZrO
2)
0.97(Y
2O
3)
0.03)、炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)、および二酸化ケイ素(SiO
2)を原料とし、モル%で、Na
2O 25.3%、ZrO
2 31.6%、Y
2O
3 1.0%、P
2O
5 8.4%、SiO
2 33.7%となるように原料粉末を調合し、大気雰囲気中1100℃にて8時間焼成を行った。焼成後の粉末について、φ20mmのAl
2O
3玉石を使用したボールミル粉砕を24時間行った。その後、空気分級することにより、平均粒子径D50 2.0μmの粉末を得た。得られた粉末を、大気雰囲気中1250℃にて40時間熱処理を行うことにより、ナトリウムイオン伝導性結晶C粉末を得た。得られたナトリウムイオン伝導性結晶C粉末は、速やかに露点−40℃以下の環境に移し、保存した。
【0069】
ナトリウムイオン伝導性結晶C粉末について粉末X線回折パターンを確認したところ、空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na
3.05Zr
2Si
2.05P
0.95O
12)であった。
【0070】
(ナトリウムイオン伝導性結晶D前駆体粉末の作製)
メタリン酸ナトリウム(NaPO
3)、酸化イットリウム(Y
2O
3)、炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)、および二酸化ケイ素(SiO
2)を原料とし、モル%で、Na
2O 38.2%、Y
2O
3 5.9%、P
2O
5 2.9%、SiO
2 52.9%となるように原料粉末を調合し、1550℃にて4時間、大気雰囲気中にて溶融を行った。その後、一対のロールに溶融ガラスを流し込み、急冷しながらフィルム状に成形することにより、ナトリウムイオン伝導性結晶D前駆体を作製した。
【0071】
得られたナトリウムイオン伝導性結晶D前駆体について、φ20mmのAl
2O
3玉石を使用したボールミル粉砕を24時間行った。その後、空気分級することにより、平均粒子径D50 2.0μmのナトリウムイオン伝導性結晶D前駆体粉末を得た。得られたナトリウムイオン伝導性結晶D前駆体粉末は速やかに露点−40℃以下の環境に移し、保存した。
【0072】
析出するナトリウムイオン伝導性結晶を確認するため、得られたナトリウムイオン伝導性結晶D前駆体粉末を大気雰囲気中800℃にて1時間熱処理を行った。熱処理後の粉末について粉末X線回折パターンを確認したところ、空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na
5YSi
4O
12)由来の回折線が確認された。
【0073】
(ナトリウムイオン伝導性結晶E粉末の作製)
Ionotec社製、組成式:Na
1.7Li
0.3Al
10.7O
17のLi
2O安定化β”アルミナを厚み0.5mmのシート状に加工した。シート状のLi
2O安定化β”アルミナをメノウ製の乳鉢及び乳棒を用いて粉砕し、目開き20μmの篩に通過させることで、平均粒子径17μmの粉末状固体電解質を得た。
【0074】
(実施例1)
(電極合材の作製)
質量%で、正極活物質結晶前駆体粉末 60%、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末 35%、アセチレンブラック(TIMCAL社製 SUPER C65) 5%となるように秤量し、メノウ製の乳鉢および乳棒を用いて約30分間混合した。混合した粉末100質量部に、10質量%のポリプロピレンカーボネート(住友精化株式会社製)を含有したN−メチルピロリドンを20質量部添加して、自転公転ミキサーを用いて十分に撹拌し、スラリー化した。なお、上記の操作はすべて露点−40℃以下の環境で行った。
【0075】
得られたスラリーを、β”−Alumina(Ionotec社製、組成式:Na
1.7Li
0.3Al
10.7O
17)からなる厚み0.5mmのナトリウムイオン伝導性固体電解質層の一方の表面に、1cm
2の面積、200μmの厚さで塗布し、70℃にて3時間乾燥させた。次に、窒素と水素の混合ガス雰囲気(窒素96体積%、水素4体積%)中450℃にて1時間焼成することでナトリウムイオン伝導性固体電解質層の一方の表面に電極合材(正極合材)を形成した。得られた正極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P−1に属する三斜晶系結晶(Na
2FeP
2O
7)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3mに属する三方晶系結晶(β”−Alumina [(Al
10.32Mg
0.68O
16)(Na
1.68O)])由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0076】
(試験電池の作製)
次に、正極合材の表面にスパッタ装置(サンユー電子株式会社製 SC−701AT)を用いて厚さ300nmの金電極からなる集電体を形成した。その後、露点−60℃以下のアルゴン雰囲気中にて、対極となる金属ナトリウムを前記ナトリウムイオン伝導性固体電解質層の他方の表面に圧着し、コインセルの下蓋に載置した後、上蓋を被せてCR2032型試験電池を作製した。
【0077】
(充放電試験)
得られた試験電池を用いて70℃で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0078】
なお、充放電試験において、充電(正極活物質からのナトリウムイオン放出)は、開回路電圧(OCV)から4VまでのCC(定電流)充電により行い、放電(正極活物質へのナトリウムイオン吸蔵)は、4Vから2VまでCC放電により行った。Cレートは0.02Cとした。なお、充放電容量は、正極合材に含まれる正極活物質の単位重量あたりに対して放電された電気量とした。
【0079】
(実施例2)
電極合材の作製において、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末の代わりにナトリウムイオン伝導性結晶B粉末を用いた以外は、実施例1と同様の方法で電極合材(正極合材)を形成した。得られた正極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P−1に属する三斜晶系結晶(Na
2FeP
2O
7)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na
2.6Zr
2Si
1.6P
1.4O
12)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0080】
試験電池は、実施例1と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例1と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0081】
(実施例3)
電極合材の作製において、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末の代わりにナトリウムイオン伝導性結晶C粉末を用いた以外は、実施例1と同様の方法で電極合材(正極合材)を形成した。得られた正極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P−1に属する三斜晶系結晶(Na
2FeP
2O
7)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na
3.05Zr
2Si
2.05P
0.95O
12)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0082】
試験電池は、実施例1と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例1と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0083】
(実施例4)
電極合材の作製において、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末の代わりにナトリウムイオン伝導性結晶D前駆体粉末を用い、焼成条件を窒素雰囲気中700℃とした以外は、実施例1と同様の方法で電極合材(正極合材)を形成した。得られた正極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P−1に属する三斜晶系結晶(Na
2FeP
2O
7)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na
5YSi
4O
12)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0084】
試験電池は、実施例1と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例1と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0085】
(実施例5)
電極合材の作製において、正極活物質結晶前駆体粉末を、混合前にあらかじめ窒素と水素の混合ガス雰囲気(窒素96体積%、水素4体積%)中450℃にて1時間熱処理を行ったこと以外は、実施例4と同様の方法で電極合材(正極合材)を形成した。得られた正極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P−1に属する三斜晶系結晶(Na
2FeP
2O
7)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na
5YSi
4O
12)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0086】
試験電池は、実施例1と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例1と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0087】
(実施例6)
電極合材の作製において、質量%で、正極活物質結晶前駆体粉末 60%、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末 17.5%、ナトリウムイオン伝導性結晶D前駆体粉末 17.5%、アセチレンブラック 5%となるように秤量したこと以外は、実施例1と同様の方法で電極合材(正極合材)を形成した。得られた正極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P−1に属する三斜晶系結晶(Na
2FeP
2O
7)、ナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3mに属する三方晶系結晶(β”−Alumina [(Al
10.32Mg
0.68O
16)(Na
1.68O)])およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na
5YSi
4O
12)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0088】
試験電池は、実施例1と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例1と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0089】
(実施例7)
電極合材の作製において、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末の代わりにナトリウムイオン伝導性結晶B粉末を用いた以外は、実施例6と同様の方法で電極合材(正極合材)を形成した。得られた正極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P−1に属する三斜晶系結晶(Na
2FeP
2O
7)、ナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na
2.6Zr
2Si
1.6P
1.4O
12)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na
5YSi
4O
12)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0090】
試験電池は、実施例1と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例1と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0091】
(実施例8)
電極合材の作製において、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末の代わりにナトリウムイオン伝導性結晶C粉末を用いた以外は、実施例6と同様の方法で電極合材(正極合材)を形成した。得られた正極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P−1に属する三斜晶系結晶(Na
2FeP
2O
7)、ナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na
3.05Zr
2Si
2.05P
0.95O
12)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na
5YSi
4O
12)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0092】
試験電池は、実施例1と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例1と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0093】
(実施例9)
(電極合材の作製)
質量%で、正極活物質結晶前駆体粉末 76%、ナトリウムイオン伝導性結晶E粉末 21%、アセチレンブラック(TIMCAL社製 SUPER C65) 3%となるように秤量し、メノウ製の乳鉢および乳棒を用いて約30分間混合した。混合した粉末100質量部に、10質量%のポリプロピレンカーボネート(住友精化株式会社製)を含有したN−メチルピロリドンを20質量部添加して、自転公転ミキサーを用いて十分に撹拌し、スラリー化した。なお、上記の操作はすべて露点−40℃以下の環境で行った。
【0094】
得られたスラリーを、MgO安定化β”アルミナ((Al
10.32Mg
0.68O
16)(Na
1.68O))からなる厚み0.5mmのナトリウムイオン伝導性固体電解質層の一方の表面に、1cm
2の面積、80μmの厚さで塗布し、70℃にて3時間乾燥させた。次に、窒素と水素の混合ガス雰囲気(窒素96体積%、水素4体積%)中450℃にて1時間焼成することでナトリウムイオン伝導性固体電解質層の一方の表面に電極合材(正極合材)を形成した。得られた正極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P−1に属する三斜晶系結晶(Na
2FeP
2O
7)およびナトリウムイオン伝導性結晶であるLi
2O安定化β”アルミナ(Na
1.7Li
0.3Al
10.7O
17)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0095】
(試験電池の作製)
次に、正極合材の表面にスパッタ装置(サンユー電子株式会社製 SC−701AT)を用いて厚さ300nmの金電極からなる集電体を形成した。その後、露点−60℃以下のアルゴン雰囲気中にて、対極となる金属ナトリウムを前記ナトリウムイオン伝導性固体電解質層の他方の表面に圧着し、コインセルの下蓋に載置した後、上蓋を被せてCR2032型試験電池を作製した。
【0096】
(充放電試験)
得られた試験電池を用いて60℃で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0097】
なお、充放電試験において、充電(正極活物質からのナトリウムイオン放出)は、開回路電圧(OCV)から4.3VまでのCC(定電流)充電により行い、放電(正極活物質へのナトリウムイオン吸蔵)は、4Vから2VまでCC放電により行った。Cレートは0.01Cとした。なお、充放電容量は、正極合材に含まれる正極活物質の単位重量あたりに対して放電された電気量とした。
【0098】
(実施例10)
電極合材の組成を、正極活物質結晶前駆体粉末 81%、ナトリウムイオン伝導性結晶E粉末 17%、アセチレンブラック 3%としたこと以外は、実施例9と同様にして電極合材及び試験電池を作製した。得られた試験電池を用いて実施例9と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0099】
(比較例1)
電極合材の作製において、正極活物質結晶前駆体粉末を、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末との混合前にあらかじめ窒素と水素の混合ガス雰囲気(窒素96体積%、水素4体積%)中450℃にて1時間熱処理を行ったこと以外は、実施例1と同様の方法で電極合材(正極合材)を形成した。得られた正極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P−1に属する三斜晶系結晶(Na
2FeP
2O
7)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3mに属する三方晶系結晶(β”−Alumina [(Al
10.32Mg
0.68O
16)(Na
1.68O)])由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、全領域において結晶構造に相当する格子像が観察され、非晶質相は確認されなかった。
【0100】
試験電池は、実施例1と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例1と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0101】
(比較例2)
電極合材の作製において、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末の代わりにナトリウムイオン伝導性結晶B粉末を用いた以外は、比較例1と同様の方法で電極合材(正極合材)を形成した。得られた正極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P−1に属する三斜晶系結晶(Na
2FeP
2O
7)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na
2.6Zr
2Si
1.6P
1.4O
12)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、全領域において結晶構造に相当する格子像が観察され、非晶質相は確認されなかった。
【0102】
試験電池は、実施例1と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例1と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0103】
(比較例3)
電極合材の作製において、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末の代わりにナトリウムイオン伝導性結晶C粉末を用いた以外は、比較例1と同様の方法で電極合材(正極合材)を形成した。得られた正極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P−1に属する三斜晶系結晶(Na
2FeP
2O
7)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na
3.05Zr
2Si
2.05P
0.95O
12)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、全領域において結晶構造に相当する格子像が観察され、非晶質相は確認されなかった。
【0104】
試験電池は、実施例1と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例1と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0105】
(実施例11)
電極合材の作製において、正極活物質結晶前駆体粉末の代わりに負極活物質結晶前駆体粉末を用いた以外は、実施例1と同様の方法でナトリウムイオン伝導性固体電解質層の一方の表面に電極合材(負極合材)を形成した。得られた負極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P2
1/mに属する単斜晶系結晶(Na
2Ti
3O
7)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3mに属する三方晶系結晶(β”−Alumina [(Al
10.32Mg
0.68O
16)(Na
1.68O)])由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0106】
次に、負極合材の表面にスパッタ装置を用いて厚さ300nmの金電極からなる集電体を形成した。その後、露点−60℃以下のアルゴン雰囲気中にて、対極となる金属ナトリウムを前記ナトリウムイオン伝導性固体電解質層の他方の表面に圧着し、コインセルの下蓋に載置した後、上蓋を被せてCR2032型試験電池を作製した。
【0107】
得られた試験電池を用いて70℃で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0108】
なお、充放電試験において、充電(負極活物質へのナトリウムイオン吸蔵)は、開回路電圧(OCV)から0VまでのCC(定電流)充電により行い、放電(負極活物質からのナトリウムイオン放出)は、0Vから2VまでCC放電により行った。Cレートは0.02Cとした。なお、充放電容量は、負極合材に含まれる負極活物質の単位重量あたりに対して放電された電気量とした。
【0109】
(実施例12)
電極合材の作製において、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末の代わりにナトリウムイオン伝導性結晶B粉末を用いた以外は、実施例11と同様の方法で電極合材(負極合材)を形成した。得られた負極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P2
1/mに属する単斜晶系結晶(Na
2Ti
3O
7)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na
2.6Zr
2Si
1.6P
1.4O
12)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0110】
試験電池は、実施例11と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例11と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0111】
(実施例13)
電極合材の作製において、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末の代わりにナトリウムイオン伝導性結晶C粉末を用いた以外は、実施例11と同様の方法で電極合材(負極合材)を形成した。得られた負極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P2
1/mに属する単斜晶系結晶(Na
2Ti
3O
7)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na
3.05Zr
2Si
2.05P
0.95O
12)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0112】
試験電池は、実施例11と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例11と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0113】
(実施例14)
電極合材の作製において、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末の代わりにナトリウムイオン伝導性結晶D前駆体粉末を用いた以外は、実施例11と同様の方法で電極合材(負極合材)を形成した。得られた負極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P2
1/mに属する単斜晶系結晶(Na
2Ti
3O
7)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na
5YSi
4O
12)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0114】
試験電池は、実施例11と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例11と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0115】
(実施例15)
電極合材の作製において、負極活物質結晶前駆体粉末を、混合前にあらかじめ大気雰囲気中800℃にて1時間熱処理を行ったこと以外は、実施例14と同様の方法で電極合材(負極合材)を形成した。得られた負極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P2
1/mに属する単斜晶系結晶(Na
2Ti
3O
7)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na
5YSi
4O
12)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0116】
試験電池は、実施例11と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例11と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0117】
(実施例16)
電極合材の作製において、質量%で、負極活物質結晶前駆体粉末 60%、ナトリウムイオン伝導性固体電解質A粉末 17.5%、ナトリウムイオン伝導性結晶D前駆体粉末 17.5%、アセチレンブラック 5%となるように秤量したこと以外は、実施例11と同様の方法で電極合材(負極合材)を形成した。得られた負極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P2
1/mに属する単斜晶系結晶(Na
2Ti
3O
7)、ナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3mに属する三方晶系結晶(β”−Alumina [(Al
10.32Mg
0.68O
16)(Na
1.68O)])およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na
5YSi
4O
12)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0118】
試験電池は、実施例11と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例11と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0119】
(実施例17)
電極合材の作製において、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末の代わりにナトリウムイオン伝導性結晶B粉末を用いた以外は、実施例16と同様の方法で電極合材(負極合材)を形成した。得られた負極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P2
1/mに属する単斜晶系結晶(Na
2Ti
3O
7)、ナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na
2.6Zr
2Si
1.6P
1.4O
12)およびナトリウムイオン伝導性結晶である三方晶系結晶(Na
5YSi
4O
12)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0120】
試験電池は、実施例11と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例11と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0121】
(実施例18)
電極合材の作製において、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末の代わりにナトリウムイオン伝導性結晶C粉末を用いた以外は、実施例16と同様の方法で電極合材(負極合材)を形成した。得られた負極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P2
1/mに属する単斜晶系結晶(Na
2Ti
3O
7)、ナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na
3.05Zr
2Si
2.05P
0.95O
12)およびナトリウムイオン伝導性結晶である三方晶系結晶(Na
5YSi
4O
12)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0122】
試験電池は、実施例11と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例11と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0123】
(比較例4)
電極合材の作製において、負極活物質結晶前駆体粉末を、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末との混合前にあらかじめ窒素雰囲気中800℃にて1時間熱処理を行ったこと以外は、実施例11と同様の方法で電極合材(負極合材)を形成した。得られた負極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P2
1/mに属する単斜晶系結晶(Na
2Ti
3O
7)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3mに属する三方晶系結晶(β”−Alumina [(Al
10.32Mg
0.68O
16)(Na
1.68O)])由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、全領域において結晶構造に相当する格子像が観察され、非晶質相は確認されなかった。
【0124】
試験電池は、実施例11と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例11と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0125】
(比較例5)
電極合材の作製において、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末の代わりにナトリウムイオン伝導性結晶B粉末を用いた以外は、比較例3と同様の方法で電極合材(負極合材)を形成した。得られた負極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P2
1/mに属する単斜晶系結晶(Na
2Ti
3O
7)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na
2.6Zr
2Si
1.6P
1.4O
12)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、全領域において結晶構造に相当する格子像が観察され、非晶質相は確認されなかった。
【0126】
試験電池は、実施例11と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例11と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0127】
(比較例6)
電極合材の作製において、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末の代わりにナトリウムイオン伝導性結晶C粉末を用いた以外は、比較例3と同様の方法で電極合材(負極合材)を形成した。得られた負極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P2
1/mに属する単斜晶系結晶(Na
2Ti
3O
7)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na
3.05Zr
2Si
2.05P
0.95O
12)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、全領域において結晶構造に相当する格子像が観察され、非晶質相は確認されなかった。
【0128】
試験電池は、実施例11と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例11と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0129】
【表1】
【0130】
【表2】
【0131】
実施例1〜10の試験電池は、充放電を行うことができ、充放電容量が50〜68mAh/g、放電電圧が2.65〜3.0Vであった。一方、比較例1〜3の試験電池は、充電を行うことができなかった。
【0132】
実施例11〜18の試験電池は、充放電を行うことができ、充放電容量が50〜65mAh/g、放電電圧が0.5〜1.0Vであった。一方、比較例4〜6の試験電池は、充電を行うことができなかった。