特許第6460316号(P6460316)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6460316ナトリウムイオン電池用電極合材、及びその製造方法並びにナトリウム全固体電池
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  • 特許6460316-ナトリウムイオン電池用電極合材、及びその製造方法並びにナトリウム全固体電池 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6460316
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】ナトリウムイオン電池用電極合材、及びその製造方法並びにナトリウム全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20190121BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20190121BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20190121BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20190121BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20190121BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20190121BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20190121BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20190121BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20190121BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20190121BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20190121BHJP
   H01M 4/1397 20100101ALI20190121BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20190121BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20190121BHJP
【FI】
   H01M4/13
   H01M4/62 Z
   H01M4/58
   H01M4/485
   H01M4/38 Z
   H01M4/136
   H01M4/131
   H01M4/134
   H01M10/0562
   H01M10/054
   H01M4/139
   H01M4/1397
   H01M4/1391
   H01M4/1395
【請求項の数】14
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-238509(P2014-238509)
(22)【出願日】2014年11月26日
(65)【公開番号】特開2016-42453(P2016-42453A)
(43)【公開日】2016年3月31日
【審査請求日】2017年10月4日
(31)【優先権主張番号】特願2013-253878(P2013-253878)
(32)【優先日】2013年12月9日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-167071(P2014-167071)
(32)【優先日】2014年8月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】池尻 純一
(72)【発明者】
【氏名】山内 英郎
【審査官】 瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 再公表特許第2013/015321(JP,A1)
【文献】 特開2014−041719(JP,A)
【文献】 特開2012−209256(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/133369(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/069597(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/065787(WO,A1)
【文献】 特開平01−302606(JP,A)
【文献】 特開2010−015782(JP,A)
【文献】 特開2013−161646(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62、10/05−10/0587
H01B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質結晶、ナトリウムイオン伝導性結晶及び非晶質相を含むことを特徴とするナトリウムイオン二次電池用電極合材であって、
前記ナトリウムイオン伝導性結晶が、Al、Y、Zr、Si及びPから選ばれる少なくとも1種、Na及びOを含むナトリウムイオン二次電池用電極合材
【請求項2】
前記活物質結晶が、Na、M(MはCr、Fe、Mn、Co及びNiから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素)、P及びOを含むことを特徴とする請求項1に記載のナトリウムイオン二次電池用電極合材。
【請求項3】
前記活物質結晶が、空間群P1又はP−1に属する三斜晶系結晶であることを特徴とする請求項2に記載のナトリウムイオン二次電池用電極合材。
【請求項4】
前記活物質結晶が、一般式Na(xは1.20≦x≦2.80で、かつyは0.95≦y≦1.60である)で表される結晶であることを特徴とする請求項2または3に記載のナトリウムイオン二次電池用電極合材。
【請求項5】
前記活物質結晶が、Nb及びTiから選ばれる少なくとも1種及びOを含むことを特徴とする請求項1に記載のナトリウムイオン二次電池用電極合材。
【請求項6】
前記活物質結晶が、Na及び/又はLiを含むことを特徴とする請求項5に記載のナトリウムイオン二次電池用電極合材。
【請求項7】
前記活物質結晶が、斜方晶系結晶、六方晶系結晶、立方晶系結晶又は単斜晶系結晶であることを特徴とする請求項5または6に記載のナトリウムイオン二次電池用電極合材。
【請求項8】
前記活物質結晶が、空間群P2/mに属する単斜晶系結晶であることを特徴とする請求項5または6に記載のナトリウムイオン二次電池用電極合材。
【請求項9】
前記活物質結晶が、Sn、Bi及びSbから選ばれる少なくとも1種の金属結晶であることを特徴とする請求項1に記載のナトリウムイオン二次電池用電極合材。
【請求項10】
前記ナトリウムイオン伝導性結晶が、単斜晶系結晶、六方晶系結晶又は三方晶系結晶であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のナトリウムイオン二次電池用電極合材。
【請求項11】
前記非晶質相が、P、B及びSiから選ばれる少なくとも1種、Na及びOを含むことを特徴とする請求項1〜10に記載のナトリウムイオン二次電池用電極合材。
【請求項12】
請求項1〜410及び11のいずれかに記載のナトリウムイオン二次電池用電極合材を正極に使用することを特徴とするナトリウム全固体電池。
【請求項13】
請求項1及び5〜11のいずれかに記載のナトリウムイオン二次電池用電極合材を負極に使用することを特徴とするナトリウム全固体電池。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれかに記載のナトリウムイオン二次電池用電極合材を製造するための方法であって、結晶性ガラス粉末を含む原料粉末を焼成して、非晶質相を形成することを特徴とするナトリウムイオン二次電池用電極合材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電子機器や電気自動車等に用いられるナトリウムイオン電池用電極合材及びその製造方法並びにナトリウム全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯用パソコンや携帯電話の普及に伴い、リチウムイオン二次電池等の蓄電デバイスの高容量化と小サイズ化に対する要望が高まっている。しかし、現行のリチウムイオン二次電池等の蓄電デバイスには、電解質として有機系電解液が主に用いられている。有機系電解液は高いイオン伝導度を示すものの、液体でありかつ可燃性であることから、蓄電デバイスとして用いた場合に、漏洩、発火等の危険性が懸念されている。
【0003】
かかる課題を解決し、本質的な安全性を確保するために、有機系電解液に代えて固体電解質を使用するとともに、正極及び負極を固体で構成した全固体電池の開発が進められている。このような全固体電池は、電解質が固体であるために、発火や漏液の心配がなく、また、腐食による電池性能の劣化等の問題も生じ難い。なかでも、リチウムイオン全固体電池は、各方面で盛んに開発が行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところで、リチウムイオン全固体電池に使われるリチウムは、世界的な原材料の高騰や枯渇問題等が懸念されており、リチウムイオンに代わるものとしてナトリウムイオンが注目され、ナトリウムイオン全固体電池の開発も行われている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−205741号公報
【特許文献2】特開2010−15782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ナトリウム全固体電池の高容量化、高出力化及び長寿命化を達成するためには、電極内部のナトリウムイオン伝導性を高める必要があり、緻密な電極合材を形成する必要があった。しかしながら、従来の電極合材の製造過程においては、通常の加熱焼成では緻密な電極合材を形成することができなかった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、緻密で、ナトリウムイオン伝導性に優れ、高出力化が可能なナトリウムイオン電池用電極合材及びナトリウム全固体電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のナトリウムイオン二次電池用電極合材は、活物質結晶、ナトリウムイオン伝導性結晶及び非晶質相を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明のナトリウムイオン二次電池用電極合材は、前記活物質結晶が、Na、M(MはCr、Fe、Mn、Co及びNiから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素)、P及びOを含むことが好ましい。
【0010】
さらに、前記活物質結晶が、空間群P1又はP−1に属する三斜晶系結晶であることが好ましい。
【0011】
さらに、前記活物質結晶が、一般式Na(xは1.20≦x≦2.80で、かつyは0.95≦y≦1.60である)で表される結晶であることが好ましい。
【0012】
本発明のナトリウムイオン二次電池用電極合材は、前記活物質結晶が、Nb及びTiから選ばれる少なくとも1種及びOを含むことが好ましい。
【0013】
さらに、前記活物質結晶が、Na及び/又はLiを含むことが好ましい。
【0014】
本発明のナトリウムイオン二次電池用電極合材は、前記活物質結晶が、斜方晶系結晶、六方晶系結晶、立方晶系結晶又は単斜晶系結晶であることが好ましい。
【0015】
さらに、前記活物質結晶が、空間群P2/mに属する単斜晶系結晶であることが好ましい。
【0016】
本発明のナトリウムイオン二次電池用電極合材は、前記活物質結晶が、Sn、Bi及びSbから選ばれる少なくとも1種の金属結晶であることが好ましい。
【0017】
本発明のナトリウムイオン二次電池用電極合材は、前記ナトリウムイオン伝導性結晶が、Al、Y、Zr、Si及びPから選ばれる少なくとも1種、Na及びOを含むことが好ましい。
【0018】
さらに、前記ナトリウムイオン伝導性結晶が、単斜晶系結晶、六方晶系結晶又は三方晶系結晶であることが好ましい。
【0019】
本発明のナトリウムイオン二次電池用電極合材は、前記非晶質相が、P、B及びSiから選ばれる少なくとも1種、Na及びOを含むことが好ましい。
【0020】
本発明のナトリウム全固体電池は、前記ナトリウムイオン二次電池用電極合材を正極として使用することを特徴とする。
【0021】
本発明のナトリウム全固体電池は、前記ナトリウムイオン二次電池用電極合材を負極として使用することを特徴とする。
【0022】
本発明のナトリウムイオン二次電池用電極合材の製造方法は、結晶性ガラス粉末を含む原料粉末を焼成して、非晶質相を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、緻密で、ナトリウムイオン伝導性に優れ、高出力化が可能なナトリウムイオン電池用電極合材及びナトリウム全固体電池を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】全固体電池の一形態例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(1)ナトリウムイオン二次電池用電極合材
本発明のナトリウムイオン二次電池用電極合材は、活物質結晶、ナトリウムイオン伝導性結晶及び非晶質相を含むことを特徴とする。ナトリウムイオン二次電池用電極合材中に、活物質結晶やナトリウムイオン伝導性結晶に加え、非晶質相が含まれるため、非晶質相が、活物質結晶とナトリウムイオン伝導性結晶との界面に存在しやすくなり、ナトリウムイオン二次電池の充放電時にナトリウムイオンの伝導パスとなる活物質結晶とナトリウムイオン伝導性結晶との間の界面抵抗が低下しやすくなり、ナトリウム二次電池の充放電容量や電池電圧が高くなりやすい。
【0026】
また、ナトリウム全固体電池に使用した場合、電極合材が非晶質相を含むため、電極合材とナトリウムイオン伝導性固体電解質層との界面が、非晶質相により接着強度が高くなり、ナトリウム全固体電池の充放電容量や電池電圧が高くなりやすい。
【0027】
以下、本発明のナトリウムイオン二次電池用電極合材を各構成成分ごとに詳細に説明する。
【0028】
(1−a)活物質結晶
活物質結晶は、正極活物質又は負極活物質として作用するものであり、充放電の際には、ナトリウムイオンの吸蔵・放出を行うことができる。
【0029】
正極活物質として作用する活物質結晶としては、NaCrO、Na0.7MnO、NaFe0.2Mn0.4Ni0.4等の層状ナトリウム遷移金属酸化物結晶やNaFeP、NaFePO、Na(PO等の、Na、M(MはCr、Fe、Mn、Co及びNiから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素)、P、Oを含むナトリウム遷移金属リン酸塩結晶などを挙げることができる。
【0030】
特に、Na、M、P及びOを含む結晶は、高容量で化学的安定性に優れるため、好ましい。なかでも、空間群P1又はP−1に属する三斜晶系結晶、特に一般式Na(xは1.20≦x≦2.80で、かつyは0.95≦y≦1.60である)で表される結晶が、サイクル特性に優れるため、好ましい。
【0031】
負極活物質として作用する活物質結晶としては、Nb及びTiから選ばれる少なくとも1種及びOを含む結晶、Sn、Bi及びSbから選ばれる少なくとも1種の金属結晶を挙げることができる。
【0032】
Nb及びTiから選ばれる少なくとも1種及びOを含む結晶は、サイクル特性に優れるため好ましい。さらに、Nb及びTiから選ばれる少なくとも1種及びOを含む結晶が、Na及び/又はLiを含むと、充放電効率(充電容量に対する放電容量の比率)が高まり、高い充放電容量を維持することができるため好ましい。なかでも、Nb及びTiから選ばれる少なくとも1種及びOを含む結晶が、斜方晶系結晶、六方晶系結晶、立方晶系結晶又は単斜晶系結晶、特に空間群P2/mに属する単斜晶系結晶であれば、大電流で充放電しても容量の低下が起こりにくいため、より好ましい。斜方晶系結晶としては、NaTi等が、六方晶系結晶としては、NaTiO、NaTi13、NaTiO、LiNbO、LiNbO、LiNbO、LiNbO、LiTi等が、立方晶系結晶としては、NaTiO、NaNbO、LiTi12、LiNbO等が、単斜晶系結晶としては、NaTi13、NaTi、NaTiO、NaTi12、NaTi、NaTi19、NaTi、NaTi、Li1.7Nb、Li1.9Nb、Li12Nb1333、LiNb等が、空間群P2/mに属する単斜晶系結晶としては、NaTi等が挙げられる。
【0033】
Nb及びTiから選ばれる少なくとも1種及びOを含む結晶は、さらに、B、Si、P及びGeから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。これらの成分は、活物質結晶とともに非晶質相を形成させやすくし、ナトリウムイオン伝導性を向上させる効果を有する。
【0034】
その他に、Sn、Bi及びSbから選ばれる少なくとも1種の金属結晶、又はSn、Bi及びSbから選ばれる少なくとも1種を含有するガラスを使用することができる。これらは、高容量であり、大電流で充放電しても容量の低下が起こりにくいため好ましい。
【0035】
(1−b)ナトリウムイオン伝導性結晶
ナトリウムイオン伝導性結晶は、活物質結晶と対極との間のナトリウムイオン伝導パスとして作用し、ナトリウムイオンの伝導性に優れ、電子絶縁性の高い結晶である。ナトリウムイオン伝導性結晶がなければ、活物質結晶と対極との間のナトリウムイオンの移動抵抗が非常に高くなり、充放電容量や電池電圧が低下する。ナトリウムイオン伝導性結晶は、Al、Y、Zr、Si及びPから選ばれる少なくとも1種、Na及びOを含む結晶であることが好ましい。上記構成にすることにより、ナトリウムイオンの伝導性に優れ、電子絶縁性が高くでき、さらに安定性に優れる。
【0036】
ナトリウムイオン伝導性結晶としては、一般式NaA1A2(A1はAl、Y、Yb、Nd、Nb、Ti、Hf及びZrから選択される少なくとも1種、A2はSi及びPから選択される少なくとも1種、s=1.4〜5.2、t=1〜2.9、u=2.8〜4.1、v=9〜14)で表される化合物からなることが好ましい。ここで、A1はY、Nb、Ti及びZrから選択される少なくとも1種であることが好ましく、s=2.5〜3.5、t=1〜2.5、u=2.8〜4、v=9.5〜12の範囲であることが好ましい。このようにすることでイオン伝導性に優れた結晶を得ることができる。
【0037】
特に、ナトリウムイオン伝導性結晶はNASICON結晶であることが好ましい。NASICON結晶としては、NaZrSiPO12、Na3.2Zr1.3Si2.20.810.5、NaZr1.6Ti0.4SiPO12、NaHfSiPO12、Na3.4Zr0.9Hf1.4Al0.6Si1.21.812、NaZr1.7Nb0.24SiPO12、Na3.6Ti0.20.8Si2.8、NaZr1.880.12SiPO12、Na3.12Zr1.880.12SiPO12、Na3.6Zr0.13Yb1.67Si0.112.912等の結晶が好ましく、特にNa3.12Zr1.880.12SiPO12がナトリウムイオン伝導性に優れるため好ましい。
【0038】
前記ナトリウムイオン伝導性結晶が、単斜晶系結晶、六方晶系結晶または三方晶系結晶であると、ナトリウムイオンの伝導性がさらに高くなるため、より好ましい。
【0039】
なお、ナトリウムイオン伝導性固体電解質として、ベータアルミナもナトリウムイオン伝導性に優れるため好ましい。ベータアルミナは、βアルミナ(理論組成式:NaO・11Al)とβ"アルミナ(理論組成式:NaO・5.3Al)の2種類の結晶型が存在する。β"アルミナは準安定物質であるため、通常、LiOやMgOを安定化剤として添加したものが用いられる。βアルミナよりもβ”アルミナの方がナトリウムイオン伝導度が高いため、β”アルミナ単独、またはβ”アルミナとβアルミナの混合物を用いることが好ましく、LiO安定化β”アルミナ(Na1.7Li0.3Al10.717)またはMgO安定化β”アルミナ((Al10.32Mg0.6816)(Na1.68O))を用いることがより好ましい。
【0040】
その他にも、ナトリウムイオン伝導性固体電解質として、NaYSi12を用いることができる。
【0041】
(1−c)非晶質相
非晶質相は、前述のとおり、活物質結晶やナトリウムイオン伝導性結晶の結晶界面でのナトリウムイオン伝導パスとして作用し、電極合材におけるナトリウムイオンの伝導性を向上させる効果がある。
【0042】
非晶質相が、P、B及びSiから選ばれる少なくとも1種、Na及びOを含むと、ナトリウムイオンの伝導性および化学的耐久性に優れるため、好ましい。
【0043】
(1−d)その他の成分
電極合材は、さらに導電助剤を含有することが好ましい。導電助剤は、電極合材の高容量化やハイレート化を達成するために添加される成分である。導電助剤の具体例としては、アセチレンブラックやケッチェンブラック等の高導電性カーボンブラック、黒鉛、コークス等や、Ni粉末、Cu粉末、Ag粉末等の金属粉末などが挙げられる。なかでも、極少量の添加で優れた導電性を発揮する高導電性カーボンブラック、Ni粉末、Cu粉末のいずれかを用いることが好ましい。
【0044】
(2)ナトリウム全固体電池
本発明のナトリウム全固体電池は、前記ナトリウムイオン二次電池用電極合材を正極又は負極として使用することを特徴とする。図1は、全固体電池の一形態例を示す断面模式図である。図1に示すナトリウム全固体電池1において、正極2とナトリウムイオン伝導性固体電解質層3と負極4とがこの順序に積層されている。正極2は、ナトリウムイオン伝導性固体電解質層3側から順に、正極電極合材5と、正極電極合材5の集電を行う正極集電体6とを備える。負極4は、ナトリウムイオン伝導性固体電解質層3側から順に、負極電極合材7と、負極電極合材7の集電を行う負極集電体8とを備える。ナトリウム全固体電池1は、正極電極合材5又は負極電極合材7が非晶質相を含むため、正極2とナトリウムイオン伝導性固体電解質層3又は負極4とナトリウムイオン伝導性固体電解質層3の界面が非晶質相により接着強度が高くなり、充放電容量や電池電圧が高くなりやすい。
【0045】
(3)ナトリウムイオン二次電池用電極合材の製造方法
次に、本発明のナトリウムイオン二次電池用電極合材の製造方法について説明する。
【0046】
まず、電極活物質結晶粉末又は活物質結晶前駆体粉末を作製する。また、ナトリウムイオン伝導性結晶粉末又はナトリウムイオン伝導性結晶前駆体粉末を作製する。これらの粉末は、原料粉末を調合し、得られた原料粉末を用いて、溶融プロセス、ゾル−ゲルプロセス、溶液ミストの火炎中への噴霧等の化学気相合成プロセス、メカノケミカルプロセス等により得られる。なお、活物質結晶前駆体粉末及びナトリウムイオン伝導性結晶前駆体粉末は、結晶性ガラス粉末(熱処理により結晶を析出する性質を有するガラス粉末)である。
【0047】
活物質結晶粉末及び活物質結晶前駆体粉末の平均粒子径D50は、15μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることがさらに好ましい。活物質結晶粉末及び活物質結晶前駆体粉末の平均粒子径D50が大きすぎると、ナトリウムイオン拡散の抵抗が大きくなり、電池特性に劣る傾向がある。一方、活物質結晶粉末及び活物質結晶前駆体粉末の平均粒子径D50の下限については特に限定されないが、現実的には0.1μm以上である。
【0048】
ナトリウムイオン伝導性結晶粉末又はナトリウムイオン伝導性結晶前駆体粉末の平均粒子径D50は、25μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、15μm以下であることがさらに好ましい。ナトリウムイオン伝導性結晶粉末又はナトリウムイオン伝導性結晶前駆体粉末の平均粒子径D50が大きすぎると、粒子間の隙間が大きくなり電極合材の緻密性に劣る傾向がある。一方、活物質結晶粉末及び活物質結晶前駆体粉末の平均粒子径D50の下限については特に限定されないが、現実的には0.1μm以上である。
【0049】
電極活物質結晶前駆体粉末及びナトリウムイオン伝導性結晶粉末を混合後、混合した粉末をプレス成形したり、スラリー化してナトリウムイオン伝導性固体電解質層の一方の表面に塗布した後、焼成することにより、活物質結晶、ナトリウムイオン伝導性結晶及び非晶質相を含むナトリウムイオン二次電池用電極合材が得られる。ここで、非晶質相は活物質結晶前駆体粉末及びナトリウムイオン伝導性結晶粉末の反応物であり、得られた電極合材において、活物質結晶とナトリウムイオン伝導性結晶の界面に形成される。
【0050】
また、電極活物質結晶粉末及びナトリウムイオン伝導性結晶前駆体粉末を混合後、混合した粉末をプレス成形したり、スラリー化してナトリウムイオン伝導性固体電解質層の一方の表面に塗布して、焼成することによっても、活物質結晶、ナトリウムイオン伝導性結晶及び非晶質相を含むナトリウムイオン二次電池用電極合材が得られる。ここで、非晶質相は活物質結晶粉末及びナトリウムイオン伝導性結晶前駆体粉末の反応物であり、得られた電極合材において、活物質結晶とナトリウムイオン伝導性結晶の界面に形成される。
【0051】
上記の通り、原料として、少なくとも活物質結晶前駆体粉末及びナトリウムイオン伝導性結晶前駆体粉末のいずれか一方(即ち、結晶性ガラス粉末)を使用することにより、非晶質相を含有するナトリウムイオン二次電池用電極合材を得ることが可能となる。
【0052】
焼成雰囲気としては、大気雰囲気、不活性雰囲気(N等)、還元雰囲気(H、NH、CO、HS及びSiH等)が挙げられる。焼成温度(最高温度)は400〜900℃、特に420〜800℃が好ましい。焼成温度が低すぎると、所望の活物質結晶が析出しにくくなったり、原料粉末が十分に焼結しにくくなる。一方、焼成温度が高すぎると、析出した活物質結晶が溶解するおそれがある。焼成における最高温度の保持時間は、10〜600分であることが好ましく、30〜120分であることがより好ましい。保持時間が短すぎると、原料粉末の焼結が不十分になりやすい。一方、保持時間が長すぎると、原料粉末同士が過剰に融着して粗大な粒子が形成されるため、電極活物質の比表面積が小さくなって、充放電容量が低下しやすくなる。焼成には、電気加熱炉、ロータリーキルン、マイクロ波加熱炉、高周波加熱炉等を用いることができる。
【0053】
なお、一般式Na(xは1.20≦x≦2.80で、かつyは0.95≦y≦1.60、MはCr、Fe、Mn、Co及びNiから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素)で表される電極活物質結晶におけるM元素は2価であるのに対し、前駆体粉末中におけるM元素は通常3価であるため、前駆体粉末中に含まれるM元素を3価から2価に還元するため、比較的高温(例えば620℃以上)で焼成する必要がある。しかしながら、例えば当該前駆体粉末と、固体電解質粉末としてNASICON結晶またはベータアルミナを含む正極合材の場合、高温焼成すると、正極活物質と固体電解質が反応し、充放電に寄与しないマリサイト型NaFePO結晶が析出して充放電容量が低下しやすくなるという問題がある。そこで、当該問題を解消するため、焼成を還元雰囲気中で行うことが好ましい。それにより、M元素の還元が促進されるため、比較的低温(例えば400℃〜610℃、410℃〜580℃、420℃〜500℃、特に425〜450℃)で焼成しても、前駆体粉末中に含まれるM元素を3価から2価に十分に還元することが可能となる。結果として、マリサイト型NaFePO結晶の析出を抑制しつつ、所望のNa結晶を得ることが可能となる。
【0054】
還元性ガスとしてHを使用する場合、焼成中に爆発等の危険性を低減するため、N等の不活性ガスを混合することが好ましい。具体的には、還元性ガスが、体積%で、N 90〜99.9%、及びH 0.1〜10%、N 90〜99.5%、及びH 0.5〜10%、特にN 92〜99%、及びHが1〜4%を含有することが好ましい。
【0055】
活物質結晶粉末又は活物質結晶前駆体粉末と、ナトリウムイオン伝導性結晶粉末又はナトリウムイオン伝導性結晶前駆体粉末との混合比率は、質量比で、例えば99:1〜1:99、さらには90:10〜10:90の範囲で適宜調整される。例えば、活物質結晶粉末又は活物質結晶前駆体粉末の比率は、図1におけるナトリウムイオン伝導性固体電解質層3に近いほど低くし、正極2または負極4に近いほど高くなるようにすることが好ましい。
【0056】
また、導電助剤を、活物質結晶粉末又は活物質結晶前駆体粉末、及び、ナトリウムイオン伝導性結晶粉末又はナトリウムイオン伝導性結晶前駆体粉末の合量100質量部に対して、1〜15質量部、さらには1.2〜8質量部含有させることが好ましい。導電助剤の含有量が少なすぎると、電極合材の高容量化やハイレート化の達成が困難になる傾向がある。一方、導電助剤の含有量が多すぎると、電極合材の単位質量あたりの活物質量が減少するため、充放電容量が低下する傾向がある。また、焼結が阻害されることにより、イオン電導パスが切断され、充放電容量が低下したり放電電圧が低下する傾向がある。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0058】
(正極活物質結晶前駆体粉末の作製)
メタリン酸ナトリウム(NaPO)、酸化第二鉄(Fe)、およびオルソリン酸(HPO)を原料とし、モル%で、NaO 40.0%、Fe 20.0%、P 40.0%となるように原料粉末を調合し、1250℃にて45分間、大気雰囲気中にて溶融を行った。その後、一対のロールに溶融ガラスを流し込み、急冷しながらフィルム状に成形することにより、正極活物質結晶前駆体を作製した。
【0059】
得られた正極活物質結晶前駆体について、φ20mmのAl玉石を使用したボールミル粉砕を5時間、次にφ5mmのZrO玉石を使用したエタノール中でのボールミル粉砕を40時間行い、平均粒子径D50 2.0μmの正極活物質結晶前駆体粉末を得た。なお、実施例9及び10では、次のようにして作製した平均粒子径D50 0.7μmの正極活物質結晶前駆体粉末を用いた。上記で得られた正極活物質結晶前駆体について、φ20mmのZrO玉石を使用したボールミル粉砕を5時間行い、目開き120μmの樹脂製篩に通過させ、平均粒子径3〜15μmのガラス粗粉末を得た。次いで、このガラス粗粉末に対し、粉砕助剤にエタノールを用い、φ3mmのZrO玉石を使用したボールミル粉砕を80時間行うことで、平均粒子径0.7μmの正極活物質結晶前駆体粉末を得た。
【0060】
析出される活物質結晶を確認するため、質量%で、得られた正極活物質結晶前駆体粉末 93%、アセチレンブラック(TIMCAL社製 SUPER C65) 7%を十分に混合した後、窒素と水素の混合ガス雰囲気(窒素96体積%、水素4体積%)中450℃にて1時間熱処理を行った。熱処理後の粉末について粉末X線回折パターンを確認したところ、空間群P−1に属する三斜晶系結晶(NaFeP)由来の回折線が確認された。なお、粉末X線回折パターンは、X線回折装置(RIGAKU社 RINT2000)を用いて測定した。
【0061】
(負極活物質結晶前駆体粉末の作製)
炭酸ナトリウム(NaCO)、酸化チタン(TiO)、および無水ホウ酸(B)を原料とし、モル%で、NaO 36.0%、TiO 49.0%、B 15.0%となるように原料粉末を調合し、1300℃にて1時間、大気雰囲気中にて溶融を行った。その後、一対のロールに溶融ガラスを流し込み、急冷しながらフィルム状に成形することにより、負極活物質結晶前駆体を作製した。
【0062】
得られた負極活物質結晶前駆体について、φ20mmのAl玉石を使用したボールミル粉砕を20時間行った。その後、空気分級機(日本ニューマチック工業株式会社製 MDS−1型)を使用して空気分級することにより、平均粒子径D50 2.0μmの負極活物質結晶前駆体粉末を得た。
【0063】
析出される活物質結晶を確認するため、得られた負極活物質結晶前駆体粉末を大気雰囲気中800℃にて1時間熱処理を行った。熱処理後の粉末について粉末X線回折パターンを確認したところ、空間群P2/mに属する単斜晶系結晶(NaTi)由来の回折線が確認された。
【0064】
(ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末の作製)
炭酸ナトリウム(NaCO)、酸化アルミニウム(Al)、および酸化マグネシウム(MgO)を原料とし、モル%で、NaO 13.0%、Al 80.2%、MgO 6.8%となるように原料粉末を調合し、大気雰囲気中1250℃にて4時間焼成を行った。焼成後の粉末について、φ20mmのAl玉石を使用したボールミル粉砕を24時間行った。その後、空気分級することにより、平均粒子径D50 2.0μmの粉末を得た。得られた粉末を、大気雰囲気中1640℃にて1時間熱処理を行うことにより、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末を得た。得られたナトリウムイオン伝導性結晶A粉末は、速やかに露点−40℃以下の環境に移し、保存した。
【0065】
ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末について粉末X線回折パターンを確認したところ、空間群R−3mに属する三方晶系結晶(β”−Alumina [(Al10.32Mg0.6816)(Na1.68O)])由来の回折線が確認された。
【0066】
(ナトリウムイオン伝導性結晶B粉末の作製)
メタリン酸ナトリウム(NaPO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、炭酸ナトリウム(NaCO)、および二酸化ケイ素(SiO)を原料とし、モル%で、NaO 29.1%、ZrO 23.6%、P 7.3%、SiO 40%となるように原料粉末を調合し、大気雰囲気中1150℃にて1時間焼成を行った。焼成後の粉末について、φ20mmのAl玉石を使用したボールミル粉砕を24時間行った。その後、空気分級することにより、平均粒子径D50 2.0μmの粉末を得た。得られた粉末を、大気雰囲気中1300℃にて2時間熱処理を行うことにより、ナトリウムイオン伝導性結晶B粉末を得た。得られたナトリウムイオン伝導性結晶B粉末は、速やかに露点−40℃以下の環境に移し、保存した。
【0067】
ナトリウムイオン伝導性結晶B粉末について粉末X線回折パターンを確認したところ、空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na2.6ZrSi1.61.4
)であった。
【0068】
(ナトリウムイオン伝導性結晶C粉末の作製)
メタリン酸ナトリウム(NaPO)、イットリア安定ジルコニア((ZrO0.97(Y0.03)、炭酸ナトリウム(NaCO)、および二酸化ケイ素(SiO)を原料とし、モル%で、NaO 25.3%、ZrO 31.6%、Y 1.0%、P 8.4%、SiO 33.7%となるように原料粉末を調合し、大気雰囲気中1100℃にて8時間焼成を行った。焼成後の粉末について、φ20mmのAl玉石を使用したボールミル粉砕を24時間行った。その後、空気分級することにより、平均粒子径D50 2.0μmの粉末を得た。得られた粉末を、大気雰囲気中1250℃にて40時間熱処理を行うことにより、ナトリウムイオン伝導性結晶C粉末を得た。得られたナトリウムイオン伝導性結晶C粉末は、速やかに露点−40℃以下の環境に移し、保存した。
【0069】
ナトリウムイオン伝導性結晶C粉末について粉末X線回折パターンを確認したところ、空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na3.05ZrSi2.050.9512)であった。
【0070】
(ナトリウムイオン伝導性結晶D前駆体粉末の作製)
メタリン酸ナトリウム(NaPO)、酸化イットリウム(Y)、炭酸ナトリウム(NaCO)、および二酸化ケイ素(SiO)を原料とし、モル%で、NaO 38.2%、Y 5.9%、P 2.9%、SiO 52.9%となるように原料粉末を調合し、1550℃にて4時間、大気雰囲気中にて溶融を行った。その後、一対のロールに溶融ガラスを流し込み、急冷しながらフィルム状に成形することにより、ナトリウムイオン伝導性結晶D前駆体を作製した。
【0071】
得られたナトリウムイオン伝導性結晶D前駆体について、φ20mmのAl玉石を使用したボールミル粉砕を24時間行った。その後、空気分級することにより、平均粒子径D50 2.0μmのナトリウムイオン伝導性結晶D前駆体粉末を得た。得られたナトリウムイオン伝導性結晶D前駆体粉末は速やかに露点−40℃以下の環境に移し、保存した。
【0072】
析出するナトリウムイオン伝導性結晶を確認するため、得られたナトリウムイオン伝導性結晶D前駆体粉末を大気雰囲気中800℃にて1時間熱処理を行った。熱処理後の粉末について粉末X線回折パターンを確認したところ、空間群R−3cに属する三方晶系結晶(NaYSi12)由来の回折線が確認された。
【0073】
(ナトリウムイオン伝導性結晶E粉末の作製)
Ionotec社製、組成式:Na1.7Li0.3Al10.717のLiO安定化β”アルミナを厚み0.5mmのシート状に加工した。シート状のLiO安定化β”アルミナをメノウ製の乳鉢及び乳棒を用いて粉砕し、目開き20μmの篩に通過させることで、平均粒子径17μmの粉末状固体電解質を得た。
【0074】
(実施例1)
(電極合材の作製)
質量%で、正極活物質結晶前駆体粉末 60%、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末 35%、アセチレンブラック(TIMCAL社製 SUPER C65) 5%となるように秤量し、メノウ製の乳鉢および乳棒を用いて約30分間混合した。混合した粉末100質量部に、10質量%のポリプロピレンカーボネート(住友精化株式会社製)を含有したN−メチルピロリドンを20質量部添加して、自転公転ミキサーを用いて十分に撹拌し、スラリー化した。なお、上記の操作はすべて露点−40℃以下の環境で行った。
【0075】
得られたスラリーを、β”−Alumina(Ionotec社製、組成式:Na1.7Li0.3Al10.717)からなる厚み0.5mmのナトリウムイオン伝導性固体電解質層の一方の表面に、1cmの面積、200μmの厚さで塗布し、70℃にて3時間乾燥させた。次に、窒素と水素の混合ガス雰囲気(窒素96体積%、水素4体積%)中450℃にて1時間焼成することでナトリウムイオン伝導性固体電解質層の一方の表面に電極合材(正極合材)を形成した。得られた正極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P−1に属する三斜晶系結晶(NaFeP)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3mに属する三方晶系結晶(β”−Alumina [(Al10.32Mg0.6816)(Na1.68O)])由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0076】
(試験電池の作製)
次に、正極合材の表面にスパッタ装置(サンユー電子株式会社製 SC−701AT)を用いて厚さ300nmの金電極からなる集電体を形成した。その後、露点−60℃以下のアルゴン雰囲気中にて、対極となる金属ナトリウムを前記ナトリウムイオン伝導性固体電解質層の他方の表面に圧着し、コインセルの下蓋に載置した後、上蓋を被せてCR2032型試験電池を作製した。
【0077】
(充放電試験)
得られた試験電池を用いて70℃で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0078】
なお、充放電試験において、充電(正極活物質からのナトリウムイオン放出)は、開回路電圧(OCV)から4VまでのCC(定電流)充電により行い、放電(正極活物質へのナトリウムイオン吸蔵)は、4Vから2VまでCC放電により行った。Cレートは0.02Cとした。なお、充放電容量は、正極合材に含まれる正極活物質の単位重量あたりに対して放電された電気量とした。
【0079】
(実施例2)
電極合材の作製において、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末の代わりにナトリウムイオン伝導性結晶B粉末を用いた以外は、実施例1と同様の方法で電極合材(正極合材)を形成した。得られた正極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P−1に属する三斜晶系結晶(NaFeP)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na2.6ZrSi1.61.412)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0080】
試験電池は、実施例1と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例1と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0081】
(実施例3)
電極合材の作製において、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末の代わりにナトリウムイオン伝導性結晶C粉末を用いた以外は、実施例1と同様の方法で電極合材(正極合材)を形成した。得られた正極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P−1に属する三斜晶系結晶(NaFeP)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na3.05ZrSi2.050.9512)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0082】
試験電池は、実施例1と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例1と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0083】
(実施例4)
電極合材の作製において、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末の代わりにナトリウムイオン伝導性結晶D前駆体粉末を用い、焼成条件を窒素雰囲気中700℃とした以外は、実施例1と同様の方法で電極合材(正極合材)を形成した。得られた正極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P−1に属する三斜晶系結晶(NaFeP)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(NaYSi12)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0084】
試験電池は、実施例1と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例1と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0085】
(実施例5)
電極合材の作製において、正極活物質結晶前駆体粉末を、混合前にあらかじめ窒素と水素の混合ガス雰囲気(窒素96体積%、水素4体積%)中450℃にて1時間熱処理を行ったこと以外は、実施例4と同様の方法で電極合材(正極合材)を形成した。得られた正極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P−1に属する三斜晶系結晶(NaFeP)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(NaYSi12)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0086】
試験電池は、実施例1と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例1と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0087】
(実施例6)
電極合材の作製において、質量%で、正極活物質結晶前駆体粉末 60%、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末 17.5%、ナトリウムイオン伝導性結晶D前駆体粉末 17.5%、アセチレンブラック 5%となるように秤量したこと以外は、実施例1と同様の方法で電極合材(正極合材)を形成した。得られた正極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P−1に属する三斜晶系結晶(NaFeP)、ナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3mに属する三方晶系結晶(β”−Alumina [(Al10.32Mg0.6816)(Na1.68O)])およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(NaYSi12)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0088】
試験電池は、実施例1と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例1と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0089】
(実施例7)
電極合材の作製において、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末の代わりにナトリウムイオン伝導性結晶B粉末を用いた以外は、実施例6と同様の方法で電極合材(正極合材)を形成した。得られた正極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P−1に属する三斜晶系結晶(NaFeP)、ナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na2.6ZrSi1.61.412)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(NaYSi12)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0090】
試験電池は、実施例1と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例1と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0091】
(実施例8)
電極合材の作製において、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末の代わりにナトリウムイオン伝導性結晶C粉末を用いた以外は、実施例6と同様の方法で電極合材(正極合材)を形成した。得られた正極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P−1に属する三斜晶系結晶(NaFeP)、ナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na3.05ZrSi2.050.9512)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(NaYSi12)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0092】
試験電池は、実施例1と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例1と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0093】
(実施例9)
(電極合材の作製)
質量%で、正極活物質結晶前駆体粉末 76%、ナトリウムイオン伝導性結晶E粉末 21%、アセチレンブラック(TIMCAL社製 SUPER C65) 3%となるように秤量し、メノウ製の乳鉢および乳棒を用いて約30分間混合した。混合した粉末100質量部に、10質量%のポリプロピレンカーボネート(住友精化株式会社製)を含有したN−メチルピロリドンを20質量部添加して、自転公転ミキサーを用いて十分に撹拌し、スラリー化した。なお、上記の操作はすべて露点−40℃以下の環境で行った。
【0094】
得られたスラリーを、MgO安定化β”アルミナ((Al10.32Mg0.6816)(Na1.68O))からなる厚み0.5mmのナトリウムイオン伝導性固体電解質層の一方の表面に、1cmの面積、80μmの厚さで塗布し、70℃にて3時間乾燥させた。次に、窒素と水素の混合ガス雰囲気(窒素96体積%、水素4体積%)中450℃にて1時間焼成することでナトリウムイオン伝導性固体電解質層の一方の表面に電極合材(正極合材)を形成した。得られた正極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P−1に属する三斜晶系結晶(NaFeP)およびナトリウムイオン伝導性結晶であるLiO安定化β”アルミナ(Na1.7Li0.3Al10.717)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0095】
(試験電池の作製)
次に、正極合材の表面にスパッタ装置(サンユー電子株式会社製 SC−701AT)を用いて厚さ300nmの金電極からなる集電体を形成した。その後、露点−60℃以下のアルゴン雰囲気中にて、対極となる金属ナトリウムを前記ナトリウムイオン伝導性固体電解質層の他方の表面に圧着し、コインセルの下蓋に載置した後、上蓋を被せてCR2032型試験電池を作製した。
【0096】
(充放電試験)
得られた試験電池を用いて60℃で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0097】
なお、充放電試験において、充電(正極活物質からのナトリウムイオン放出)は、開回路電圧(OCV)から4.3VまでのCC(定電流)充電により行い、放電(正極活物質へのナトリウムイオン吸蔵)は、4Vから2VまでCC放電により行った。Cレートは0.01Cとした。なお、充放電容量は、正極合材に含まれる正極活物質の単位重量あたりに対して放電された電気量とした。
【0098】
(実施例10)
電極合材の組成を、正極活物質結晶前駆体粉末 81%、ナトリウムイオン伝導性結晶E粉末 17%、アセチレンブラック 3%としたこと以外は、実施例9と同様にして電極合材及び試験電池を作製した。得られた試験電池を用いて実施例9と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0099】
(比較例1)
電極合材の作製において、正極活物質結晶前駆体粉末を、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末との混合前にあらかじめ窒素と水素の混合ガス雰囲気(窒素96体積%、水素4体積%)中450℃にて1時間熱処理を行ったこと以外は、実施例1と同様の方法で電極合材(正極合材)を形成した。得られた正極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P−1に属する三斜晶系結晶(NaFeP)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3mに属する三方晶系結晶(β”−Alumina [(Al10.32Mg0.6816)(Na1.68O)])由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、全領域において結晶構造に相当する格子像が観察され、非晶質相は確認されなかった。
【0100】
試験電池は、実施例1と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例1と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0101】
(比較例2)
電極合材の作製において、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末の代わりにナトリウムイオン伝導性結晶B粉末を用いた以外は、比較例1と同様の方法で電極合材(正極合材)を形成した。得られた正極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P−1に属する三斜晶系結晶(NaFeP)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na2.6ZrSi1.61.412)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、全領域において結晶構造に相当する格子像が観察され、非晶質相は確認されなかった。
【0102】
試験電池は、実施例1と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例1と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0103】
(比較例3)
電極合材の作製において、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末の代わりにナトリウムイオン伝導性結晶C粉末を用いた以外は、比較例1と同様の方法で電極合材(正極合材)を形成した。得られた正極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P−1に属する三斜晶系結晶(NaFeP)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na3.05ZrSi2.050.9512)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、全領域において結晶構造に相当する格子像が観察され、非晶質相は確認されなかった。
【0104】
試験電池は、実施例1と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例1と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表1に示す。
【0105】
(実施例11)
電極合材の作製において、正極活物質結晶前駆体粉末の代わりに負極活物質結晶前駆体粉末を用いた以外は、実施例1と同様の方法でナトリウムイオン伝導性固体電解質層の一方の表面に電極合材(負極合材)を形成した。得られた負極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P2/mに属する単斜晶系結晶(NaTi)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3mに属する三方晶系結晶(β”−Alumina [(Al10.32Mg0.6816)(Na1.68O)])由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0106】
次に、負極合材の表面にスパッタ装置を用いて厚さ300nmの金電極からなる集電体を形成した。その後、露点−60℃以下のアルゴン雰囲気中にて、対極となる金属ナトリウムを前記ナトリウムイオン伝導性固体電解質層の他方の表面に圧着し、コインセルの下蓋に載置した後、上蓋を被せてCR2032型試験電池を作製した。
【0107】
得られた試験電池を用いて70℃で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0108】
なお、充放電試験において、充電(負極活物質へのナトリウムイオン吸蔵)は、開回路電圧(OCV)から0VまでのCC(定電流)充電により行い、放電(負極活物質からのナトリウムイオン放出)は、0Vから2VまでCC放電により行った。Cレートは0.02Cとした。なお、充放電容量は、負極合材に含まれる負極活物質の単位重量あたりに対して放電された電気量とした。
【0109】
(実施例12)
電極合材の作製において、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末の代わりにナトリウムイオン伝導性結晶B粉末を用いた以外は、実施例11と同様の方法で電極合材(負極合材)を形成した。得られた負極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P2/mに属する単斜晶系結晶(NaTi)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na2.6ZrSi1.61.412)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0110】
試験電池は、実施例11と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例11と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0111】
(実施例13)
電極合材の作製において、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末の代わりにナトリウムイオン伝導性結晶C粉末を用いた以外は、実施例11と同様の方法で電極合材(負極合材)を形成した。得られた負極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P2/mに属する単斜晶系結晶(NaTi)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na3.05ZrSi2.050.9512)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0112】
試験電池は、実施例11と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例11と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0113】
(実施例14)
電極合材の作製において、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末の代わりにナトリウムイオン伝導性結晶D前駆体粉末を用いた以外は、実施例11と同様の方法で電極合材(負極合材)を形成した。得られた負極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P2/mに属する単斜晶系結晶(NaTi)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(NaYSi12)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0114】
試験電池は、実施例11と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例11と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0115】
(実施例15)
電極合材の作製において、負極活物質結晶前駆体粉末を、混合前にあらかじめ大気雰囲気中800℃にて1時間熱処理を行ったこと以外は、実施例14と同様の方法で電極合材(負極合材)を形成した。得られた負極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P2/mに属する単斜晶系結晶(NaTi)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(NaYSi12)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0116】
試験電池は、実施例11と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例11と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0117】
(実施例16)
電極合材の作製において、質量%で、負極活物質結晶前駆体粉末 60%、ナトリウムイオン伝導性固体電解質A粉末 17.5%、ナトリウムイオン伝導性結晶D前駆体粉末 17.5%、アセチレンブラック 5%となるように秤量したこと以外は、実施例11と同様の方法で電極合材(負極合材)を形成した。得られた負極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P2/mに属する単斜晶系結晶(NaTi)、ナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3mに属する三方晶系結晶(β”−Alumina [(Al10.32Mg0.6816)(Na1.68O)])およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(NaYSi12)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0118】
試験電池は、実施例11と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例11と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0119】
(実施例17)
電極合材の作製において、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末の代わりにナトリウムイオン伝導性結晶B粉末を用いた以外は、実施例16と同様の方法で電極合材(負極合材)を形成した。得られた負極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P2/mに属する単斜晶系結晶(NaTi)、ナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na2.6ZrSi1.61.412)およびナトリウムイオン伝導性結晶である三方晶系結晶(NaYSi12)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0120】
試験電池は、実施例11と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例11と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0121】
(実施例18)
電極合材の作製において、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末の代わりにナトリウムイオン伝導性結晶C粉末を用いた以外は、実施例16と同様の方法で電極合材(負極合材)を形成した。得られた負極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P2/mに属する単斜晶系結晶(NaTi)、ナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na3.05ZrSi2.050.9512)およびナトリウムイオン伝導性結晶である三方晶系結晶(NaYSi12)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、一部の領域において結晶構造に相当する格子像は見られず、非晶質相の存在が確認された。
【0122】
試験電池は、実施例11と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例11と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0123】
(比較例4)
電極合材の作製において、負極活物質結晶前駆体粉末を、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末との混合前にあらかじめ窒素雰囲気中800℃にて1時間熱処理を行ったこと以外は、実施例11と同様の方法で電極合材(負極合材)を形成した。得られた負極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P2/mに属する単斜晶系結晶(NaTi)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3mに属する三方晶系結晶(β”−Alumina [(Al10.32Mg0.6816)(Na1.68O)])由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、全領域において結晶構造に相当する格子像が観察され、非晶質相は確認されなかった。
【0124】
試験電池は、実施例11と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例11と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0125】
(比較例5)
電極合材の作製において、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末の代わりにナトリウムイオン伝導性結晶B粉末を用いた以外は、比較例3と同様の方法で電極合材(負極合材)を形成した。得られた負極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P2/mに属する単斜晶系結晶(NaTi)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na2.6ZrSi1.61.412)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、全領域において結晶構造に相当する格子像が観察され、非晶質相は確認されなかった。
【0126】
試験電池は、実施例11と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例11と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0127】
(比較例6)
電極合材の作製において、ナトリウムイオン伝導性結晶A粉末の代わりにナトリウムイオン伝導性結晶C粉末を用いた以外は、比較例3と同様の方法で電極合材(負極合材)を形成した。得られた負極合材についてX線回折パターンを確認したところ、活物質結晶である空間群P2/mに属する単斜晶系結晶(NaTi)およびナトリウムイオン伝導性結晶である空間群R−3cに属する三方晶系結晶(Na3.05ZrSi2.050.9512)由来の回折線が確認された。また、得られた電極合材をTEMにより観察した結果、全領域において結晶構造に相当する格子像が観察され、非晶質相は確認されなかった。
【0128】
試験電池は、実施例11と同様の方法で作製した。得られた試験電池を用いて実施例11と同様の方法で充放電試験を行い、充放電容量および平均放電電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0129】
【表1】
【0130】
【表2】
【0131】
実施例1〜10の試験電池は、充放電を行うことができ、充放電容量が50〜68mAh/g、放電電圧が2.65〜3.0Vであった。一方、比較例1〜3の試験電池は、充電を行うことができなかった。
【0132】
実施例11〜18の試験電池は、充放電を行うことができ、充放電容量が50〜65mAh/g、放電電圧が0.5〜1.0Vであった。一方、比較例4〜6の試験電池は、充電を行うことができなかった。
【符号の説明】
【0133】
1…全固体電池
2…正極
3…ナトリウムイオン伝導性固体電解質
4…負極
5…正極合材
6…正極集電体
7…負極合材
8…負極集電体
図1