【実施例1】
【0041】
本発明の第1の実施形態を、
図1乃至
図6を参照して説明する。
図1は、GMR素子の特性を説明する図である。
図2乃至
図4は、GMRチップの一例を示す図である。
図5乃至
図6は、本実施形態における磁気センサの一例を示す図である。
まず、本発明にて用いられるGMR素子の特性について、
図1を参照して説明する。GMR素子は、入力される磁界の向きに応じて出力される抵抗値が変化するスピンバルブ型のGMR素子(巨大磁気抵抗効果素子)である。そして、
図1に、GMR素子に対する磁界Hの侵入角と、抵抗値との関係について示す。
【0042】
図1(a)の例におけるGMRチップ100は、その上面にGMR素子が形成されている。このGMR素子は、矢印A方向の磁界を検出可能なよう当該矢印A方向に磁化固定されて、構成されていることとする。
【0043】
そして、
図1(a)において、GMR素子は、当該GMR素子の形成面に対して垂直に入射する磁界H中に配置されている。この場合に、GMR素子の抵抗値は、
図1(b)に示すように、「Ro」となる。これに対し、磁界Hの向きが傾くと、
図1(a)の点線にて示すように、GMR素子面に対する磁界Hの入射角が、垂直方向から−△θ(△(デルタ):変化量を表すこととして用いる)、あるいは、+△θの角度だけ傾く。すると、GMR素子は、上述したように一方向に磁化固定されているため、その方向において磁界の向きが変化することとなり、
図1(b)に示すように、MR抵抗値が変化する。このように、GMR素子は、入射する磁界の向きが垂直な状態にて抵抗値をRoと設定したときに、当該磁界Hの向きが微小角度だけ傾いたときに特に抵抗値が大きく変化するという特性を有する。
【0044】
[構成]
次に、
図2乃至
図4を参照して、本実施形態の磁気センサ1に用いるGMRチップ10の構成について説明する。GMRチップ10は、
図2に示すように、略直方体形状であり、その一面(上面)に、4つのGMR素子R1,R2,R3,R4が形成されている。これらGMR素子R1,R2,R3,R4は、
図4に示すように接続され、ブリッジ回路を構成している。つまり、GMR素子R1,R3と、GMR素子R2,R4がそれぞれ直列に接続されており、当該直列接続されたGMR素子R1,R3とR2,R4とは、電源に対して並列に接続され、閉回路を構成している。これにより、GMR素子R1とR3の接続点Vaと、GMR素子R2とR4の接続点Vbとの間における差動電圧を検出することが可能である。なお、ブリッジ回路は、予めGMRチップ10に、上述したように差動電圧が検出可能なよう形成されていることとする。
【0045】
そして、本実施形態では、特に、
図3に示すように、4つのGMR素子のうち、
図4に示すブリッジ回路において相互に接続されている対となる2つのGMR素子R1,R2が、ほぼ同一の磁気抵抗効果素子の磁化固定方向と平行な方向(X軸方向)上の第1の素子形成部11a,第2の素子形成部12aに並べて形成されている。また、第1の磁性体21aがGMR素子R1,R2(第1、第2の素子形成部)の間で、GMR素子R1,R2とほぼ同一の上記X軸方向上の第1の磁気回路形成部31に配置されている。さらに、ブリッジ回路において相互に接続されている対となる他の2つのGMR素子R3,R4が、ほぼ同一の上記X軸方向上の第3の素子形成部11b,第4の素子形成部12bに並べて形成されている。また、第2の磁性体21bがGMR素子R3,R4(第3、第4の素子形成部)の間で、GMR素子R3,R4とほぼ同一の上記X軸方向上の第2の磁気回路形成部32に配置されている。そしてGMR素子R1,R2,R3,R4は、
図3の矢印A方向、またはAの方向の180度反転方向に磁化固定されている。素子形成部11、12及び磁性体21a、21bの配置位置はGMR素子R1,R2,R3,R4が形成されている面上に配置されている。なお、磁性体21a、21bの配置位置は上記位置に限定されない。例えばGMR素子R1,R2,R3,R4が形成されている面上に1つ以上の絶縁膜を含む積層構造を介して配置されていてもよい。
【0046】
そして、上述したように、2つのGMR素子(R1とR2)と1つの磁性体(21a)とで形成された第1の磁気回路形成部31と2つのGMR素子(R3,R4)と1つの磁性体(21b)で形成された第2の磁気回路形成部32は、磁気抵抗効果素子の磁化固定方向と垂直な方向に相互に離間して形成されている。例えば、
図3に示すように、GMRチップ10の長辺方向つまり
図3のY軸方向における両端付近に、磁気回路形成部31,32が形成されている。
【0047】
また、第1の磁気回路形成部および第2の磁気回路形成部を構成している磁気抵抗効果素子は、磁気抵抗効果素子の感磁方向と直行する方向において、磁性体形成領域よりも内側に配置されていることが望ましい。この構成により、磁性体からGMR素子R1、R2、R3,R4に入射される上記X軸方向の磁界Hを、GMR素子R1、R2、R3,R4の素子形成部において一様にすることができる。
【0048】
さらに、
図6に示すように、上記磁性体は、上記磁気抵抗効果素子の形成されている面に垂直な方向の寸法をh(磁性体の高さ)とし、上記磁気抵抗効果素子の前記感磁方向の寸法をw(磁性体の幅)とした時、その寸法の比h/wが1以上で配置されていることがよく、その値は大きいほど望ましい。
【0049】
本発明における磁気センサ1は、上述したGMRチップ10に形成されているブリッジ回路の周囲に、GMR素子R1,R2,R3,R4に入力される磁界Hの向きを変化させる磁性体21を配置している。具体的に、
図5に示すように、本実施形態における磁気センサ1は、基板B上に上述したGMRチップ10を搭載し、さらに、GMRチップ10上に形成されたブリッジ回路の各素子形成部11a,11bの間に、第1の磁性体21aを形成した第1の磁気回路形成部31、さらに12a,12bの間に、第2の磁性体22bを形成した第2の磁気回路形成部32載置している。なお、磁性体21a,21bは、例えば、パーマロイ(Ni−Fe合金)やセンダスト(Fe−Si−Al合金)などの軟磁性体であるが、上記磁性体21の機能として、上記磁界Hの向きを変化させることが出来る範囲においてはその材料について限定されない。このように、本実施形態では、特に、第1の磁気回路31と第2の磁気回路32が、ほぼ同一の上記Y軸上に配置された状態となっている。
【0050】
[動作]
次に、上記構成の磁気センサ1の動作を、
図6を参照して説明する。
図6は、上述した
図4の例と同様に、GMR素子R1,R2,R3,R4の素子面に対してほぼ垂直な磁界H中に磁気センサ1が配置されている場合を示している。すると、本実施形態においては、この図に示すように、磁性体21よりも上方から当該磁性体21の中心付近にかけては、磁界Hは磁性体21に対して引き寄せられ、また、磁性体21の中心付近から各素子形成部11,12が形成された下方においては、磁界Hは磁性体21から離れる方向に曲折される。すると、磁性体21を挟んで位置する各素子形成部11,12(GMR素子(R1とR2、R3とR4))に対しては、それぞれ反対方向の磁界Hが入射することとなる。具体的には、
図6の点線矢印Y1,Y2に示すように、素子形成部11のGMR素子R1,R4に対しては、磁化固定方向Aと同一方向の向きに変化した磁界Hが入射し、素子形成部12のGMR素子R2,R3に対しては、磁化固定方向Aとは反対方向の向きに変化した磁界Hが入射することとなる。
【0051】
すると、ブリッジ回路においては、GMR素子R1,R4の抵抗値と、GMR素子R2,R3の抵抗値と、がそれぞれ反対の符号に変化する。例えば、GMR素子R1,R4の抵抗値は+ΔRだけ変化し、GMR素子R2,R3の抵抗値は−ΔRだけ変化する。これにより、差動電圧の検出点であるVaとVbの差が大きくなり、大きな差動電圧値を検出することができる。なお、差動電圧を検出する回路は、例えば、基板B上に形成されており、GMRチップ10上に形成された上記ブリッジ回路に接続されることで、差動電圧を検出することができる。
【0052】
以上のように、上記構成の磁気センサを用いることで、磁界の検出精度の向上を図ることができる。その結果、磁気センサを種々の計測機器に利用することが可能となる。特に、本実施形態では、ブリッジ回路を一チップ上に形成でき、また、磁性体は成膜プロセスにて形成する。さらに、磁性体は上記GMR素子を形成する工程と同一の製造プロセスで行うことから、個々のGMR素子のばらつきを小さくすることができ、このためブリッジ回路におけるオフセット電圧を抑制して、さらに、磁性体をGMR素子の位置に対して高精度に配置できることから、磁界検出精度のさらなる向上を図ることができる。加えて、磁性体と上記ブリッジ回路を構成しているGMR素子を、一チップ上に形成していてチップ全体の小型化を図ることができ、これによりチップの製造効率も向上し、センサの低コスト化を図ることもできる。
【0053】
[製造方法]
次に、上述した磁気センサ1の製造方法について説明する。まず、上述したようにブリッジ回路を構成し、各素子形成部11,12に配置されるよう、4つのGMR素子R1,R2,R3,R4をGMRチップ10上に形成する(第一の工程)。続いて、このGMR素子が形成されている面上で、各素子形成部11,12の間に、磁性体21を形成する(第二の工程)。なお、第一の工程と第二の工程は同一プロセス内で行う。さらに、必要に応じて、任意のタイミングにて、GMRチップ10を基板上に配置し、また、各種配線を接続する。
【0054】
このようにして、磁気センサ1を製造することができ、単体で、あるいは、他の構成に組み込まれることで、各種計測機器として利用することができる。
【実施例2】
【0055】
次に、本発明の第2の実施形態を、
図7乃至
図8を参照して説明する。
[構成]
図7に示すように、本実施形態における磁気センサ1は、上述した実施形態1における、上記第1の磁気回路部の構成要素の1つである上記第1の磁性体21aと、上記第2の磁気回路部内の構成要素の1つである上記第2の磁性体21bが同体であることから、上記GMR素子R1,R2,R3,R4のそれぞれの上記Y軸方向の端部近傍において、上記磁性体21により向きが変えられたのちに上記GMR素子R1,R2,R3,R4に入射される上記磁界Hを、上記X軸方向において、上記X軸方向に一様に入射させることができ、上記GMR素子R1,R2,R3,R4への上記磁界Hの入射方向のバラツキを抑えることが可能となる。さらに上記第1の磁性体21aと、上記第2の磁性体21bが同体であることから、上記磁性体サイズの小型化にともなう、上記成膜工程での製造に起因する形状のバラツキを抑えることも可能となる。
【0056】
さらに、
図8に示すように、磁性体21に1つ以上の切り欠き部を有していてもよい。上記のように磁性体21に一部の切り欠き部を有することにより、例えば、センサ製造工程におけるGMRチップ配置時における位置決めを容易にする等の効果を付加することもできる。また、上記切り欠き部は、必ずしも2つ装備することに限定されず、1つでもよく、あるいは、3個以上を配置してもよい。ここで「切り欠き部」は、特にその形状を限定するものでなく、
図8に記載のような長方形だけでなく、正方形、一部に円弧を伴う形状、または三角形の形状、および前記記載形状を複数組み合わせた形状であってもよい。
【0057】
以上のように、上記構成の磁気センサを用いることで、磁界の検出精度の向上を図ることができる。その結果、磁気センサを種々の計測機器に利用することが可能となる。特に、本実施形態では、ブリッジ回路を一チップ上に形成でき、また、磁性体は成膜プロセスにて形成する。さらに、磁性体は上記GMR素子を形成する工程と同一の製造プロセスで行うことから、個々のGMR素子のばらつきを小さくすることができ、このためブリッジ回路におけるオフセット電圧を抑制して、さらに、上記磁性体をGMR素子の位置に対して高精度に配置できることから、磁界検出精度のさらなる向上を図ることができる。加えて、上記磁性体と上記ブリッジ回路を構成しているGMR素子を、一チップ上に形成していてチップ全体の小型化を図ることができ、これによりチップの製造効率も向上し、センサの低コスト化を図ることもできる。
【実施例3】
【0058】
次に、本発明の第3の実施形態を、
図9乃至
図10を参照して説明する。本実施形態は、上述した磁気センサ1を利用した計測機器の一例として、電流計を説明する。
【0059】
図9に示すように、電流計は、一部に切断されたギャップ50(空隙部)が形成された略ロの字状(環状)の磁性体コア5を備えており、上記ギャップ50に実施形態1にて説明した磁気センサ1が配置されている。このとき、磁気センサ1は、ギャップ50を形成する磁性体コア5の切断面、つまり、ギャップ50を形成する相互に対向する壁面の一方に、GMR素子R1,R2,R3,R4の形成面を対向させて配置されている。そして、
図10に示すように、略ロの字状の磁性体コア5のほぼ中心を貫通するよう導線51(導体)を配置し、この導線51に流れる電流を測定する。
【0060】
以上のように構成することにより、導線51に電流Iが流れると、その周囲を取り囲む磁性体コア5に沿って環状に磁界Hが生じる。すると、ギャップ50に配置された磁気センサ1に形成されたGMR素子R1,R2,R3,R4の形成面には、垂直に磁界Hが入射することとなる。つまり、導線51と磁性体コア5とは、磁気センサ1にて計測される磁界を発生させる磁界発生手段として機能する。
【0061】
そして、導線51に電流Iが流れることによって磁性体コア5に生じた磁界Hは、上記各実施形態にて説明したように、当該磁気センサ1に装備された磁性体21等の影響で曲げられる。これにより、磁界は、磁気センサ1のGMR素子R1,R2,R3,R4に所定の角度で入射することとなる。具体的には、各素子形成部11,12(GMR素子(R1とR2、R3とR4))に対しては、それぞれ反対方向に角度を有して磁界Hが入射することとなる。すると、ブリッジ回路においては、GMR素子R1,R4の抵抗値と、GMR素子R2,R3の抵抗値と、がそれぞれ反対の符号に変化する。例えば、GMR素子R1,R4の抵抗値は+ΔRだけ変化し、GMR素子R2,R3の抵抗値は−ΔRだけ変化する。これにより、差動電圧の検出点であるVaとVbの差が大きくなり、大きな差動電圧値を検出することができる。
【0062】
以上のように、上記構成の磁気センサ1を用いることで、導線51を流れる電流を高精度に検出することが可能となる。特に、本実施形態では、ブリッジ回路を一チップ上に形成でき、さらに磁性体は成膜プロセスにて形成されている。さらに、上記GMR素子を形成する工程と同一の製造プロセスで行うことから、個々の抵抗値のばらつきを小さくすることができる。このためオフセット電圧を抑制して、さらに、磁性体をGMR素子の位置に対して高精度に配置できることから、磁界検出精度のさらなる向上を図ることができる。加えて、磁性体と上記ブリッジ回路を構成しているGMR素子を、一チップ上に形成しているため、チップ全体の小型化を図ることができる。すると、上述したような磁性体コア5の微小なギャップ50にも配置することが可能であり、様々な計測機器にも適用可能である。
【実施例4】
【0063】
次に、本発明の第4の実施形態を、
図11乃至
図12を参照して説明する。本実施形態は、上述した磁気センサ1を利用した計測機器の一例として、エンコーダ(角度センサ)を説明する。
【0064】
図11に示すように、エンコーダは、半円柱のN極とS極とが合わさって略円柱状に形成された磁石6(磁界発生手段)を備えている。そして、この磁石6は、円柱の中心軸Cにて回転可能なよう基板や基台に設置されており、その回転周囲に上述した磁気センサ1を備えている。
【0065】
特に、本実施形態では、上記磁石6の半径方向と、GMR素子R1,R2,R3,R4の磁化固定方向とが一致するよう、磁気センサ1を2つ配置している。このとき、2つの磁気センサ1は、磁石6の中心軸から相互に90度の角度を有して配置されている。
【0066】
これにより、磁石6が回転すると、当該磁石6からの磁界Hの向きが回転角に応じて変化するため、各磁気センサ1からは正弦波形の差動電圧値が計測される。例えば、磁気センサ1にN極が近づくほど大きな値の正の電圧が得られ、N極とS極の中間が磁気センサ1に向いているときには0電圧に、そして、S極が近づくほど小さな値の負の電圧が得られる。そして、2つの磁気センサ1は、それぞれ90度ずれて配置されているため、それぞれにおいて計測される電圧値は、位相が90度ずれることとなる。
【0067】
また、エンコーダは、2つの磁気センサ1に接続され、当該各磁気センサ1にて計測される差動電圧が入力される計測部7を備えている。この計測部7は、各磁気センサ1にて計測された位相の異なる正弦波形の電圧値から、sin、cosを用いて、tanを計算することで、磁石6の回転角を求めることができる。なお、磁石6が静止している場合であっても、同様に2つの磁気センサ1の出力からtanを計算することで、磁石6の回転角を算出でき、アブソリュートエンコーダとしても機能しうる。
【0068】
なお、磁気センサ1をエンコーダに用いるときの構成は、上述した構成に限定されない。例えば、磁石6は、必ずしも半円柱毎にN極とS極が分かれている構成されている必要は無く、磁石6の外周面の半分のみがN極に形成されていたり、あるいは、外周面の一部のみがN極に形成されていてもよい。また、磁気センサ1は必ずしも2つ装備することに限定されず、1つでもよく、あるいは、3個以上を配置してもよい。
【0069】
また、上記では、磁気センサ1を用いた計測機器の一例として、電流計とエンコーダを説明したが、本発明における磁気センサ1は、他の様々な計測機器にも適用可能である。