特許第6460400号(P6460400)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6460400安定化リチウム粉、及びそれを用いたリチウムイオン二次電池
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  • 6460400-安定化リチウム粉、及びそれを用いたリチウムイオン二次電池 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6460400
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】安定化リチウム粉、及びそれを用いたリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20060101AFI20190121BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20190121BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20190121BHJP
   B22F 1/02 20060101ALI20190121BHJP
【FI】
   B22F1/00 R
   H01M4/13
   H01M4/139
   B22F1/02 D
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-70686(P2015-70686)
(22)【出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2016-191102(P2016-191102A)
(43)【公開日】2016年11月10日
【審査請求日】2017年11月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(72)【発明者】
【氏名】秋元 一摩
(72)【発明者】
【氏名】土屋 匡広
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕司
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−167936(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00〜8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム粒子の表面に被膜を有する安定化リチウム粉であって、安息角が35度以下であることを特徴とする安定化リチウム粉。
【請求項2】
前記安定化リチウム粉は、個数基準累積粒度分布の微粒側から累積10%、累積50%の粒径をD10、D50としたとき、D10/D50≧0.64であることを特徴とする請求項1に記載の安定化リチウム粉。
【請求項3】
前記被膜は、パーフルオロ基を有する界面活性剤がリチウム塩化した化合物を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の安定化リチウム粉。
【請求項4】
前記安定化リチウム粉は、D50≧38μmであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の安定化リチウム粉。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の安定化リチウム粉を用いてリチウムをドープした負極と、正極と、電解質と、を有するリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は安定化リチウム粉、及びそれを用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池等と比べ、軽量、高容量であるため、携帯電子機器用電源として広く応用されている。また、ハイブリッド自動車や、電気自動車用に搭載される電源として有力な候補ともなっている。そして、近年の携帯電子機器の小型化、高機能化に伴い、これらの電源となるリチウムイオン二次電池への更なる高容量化が期待されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の容量は主に電極の活物質に依存する。負極活物質には、一般に黒鉛が利用されているが、上記の要求に対応するためにはより高容量な負極活物質を用いることが必要である。そのため、黒鉛の理論容量(372mAh/g)に比べてはるかに大きな理論容量(4210mAh/g)をもつ金属シリコン(Si)が注目されている。
【0004】
一方、金属シリコンよりもサイクル特性が優れる酸化シリコン(SiO)の使用も検討されている。しかし、酸化シリコンは金属シリコンに比べ不可逆容量が大きい。充放電に寄与するリチウムの量は正極中のリチウム量で一義的に決定されるため、負極における不可逆容量の増加は電池全体の容量低下に繋がる。
【0005】
この不可逆容量を低減するため、充放電を開始する前にあらかじめ金属リチウムを負極に接触させ、リチウムを負極にドープする技術(Liプレドープ)が提案されている。
【0006】
また、このようなドープ作業に用いるリチウムとして、リチウムの反応性の高さを抑えるため、リチウム粒子の表面を安定な被膜で覆い、取扱い性を向上させた安定化リチウム粉が提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
特許文献2には、金属リチウム粉とバインダと導電材に脱水した溶剤を加えてスラリーとした後、上記スラリーを負極上に塗布することで負極にリチウムをドープする方法が提案されている。
【0008】
したがって、安定化リチウム粉に求められる特性は、リチウムの安定性向上のみならず、優れた電池特性を生み出すためにリチウムが均一にドープできることも求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表平8−505440号公報
【特許文献2】特開2008−98151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1及び2に記載される従来の安定化リチウム粉を用いてもリチウムイオン二次電池のサイクル特性が向上しないという問題があった。
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ドープ工程においてリチウムの不均一なドープが進行していることが原因だということを見出した。
【0011】
本発明はかかる課題に鑑みてなされたものであり、リチウムを均一にドープすることができる安定化リチウム粉を提供することと、それを用いてサイクル特性を向上させたリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明にかかる安定化リチウム粉は、リチウム粒子の表面に被膜を有する安定化リチウム粉であって、安息角が35度以下であることを特徴としている。これによれば、脱水した溶剤中に分散させた安定化リチウム粉を負極上に塗布し、乾燥させる工程において、負極上に安定化リチウム粉を均一に存在させることが可能となる。これにより、負極にリチウムを均一にドープすることができ、サイクル特性が改善する。
【0013】
本発明にかかる安定化リチウム粉は、さらに、個数基準累積粒度分布の微粒側から累積10%、累積50%の粒径をD10、D50としたとき、D10/D50≧0.64であることが好ましい。これによれば、小さな粒子径を有する安定化リチウム粉の存在割合が少なくなるため、安定化リチウム粉同士の接触面積が小さくなるので35度以下の安息角がもたらされる。
【0014】
本発明にかかる安定化リチウム粉は、さらに、安定化リチウム粉の被膜がパーフルオロ基を有する界面活性剤がリチウム塩化した化合物を含むことが好ましい。これによれば、安定化リチウム粉の被膜にパーフルオロ基を有する界面活性剤がリチウム塩化した化合物が含まれることで安定化リチウム粉同士のすべり性の向上および帯電防止効果によって、35度以下の安息角がもたらされる。
【0015】
本発明にかかる安定化リチウム粉末は、さらに、D50≧38μmであることが好ましい。これによれば、より小さな安息角がもたらされる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、均一にリチウムをドープできる安定化リチウム粉を得ることができ、またそれを用いてサイクル特性が改善されたリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態のリチウムイオン二次電池の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
<安定化リチウム粉>
本実施形態の安定化リチウム粉は、リチウム粒子の表面に被膜を有する安定化リチウム粉であって、安息角が35度以下であることを特徴とする。
【0020】
前記安息角は30度以下であることがより好ましい。これによれば、脱水した溶剤中に分散させた安定化リチウム粉を負極上に塗布し、乾燥させることによって、安定化リチウム粉を均一にドープすることが出来るためサイクル特性がより改善する。なお、生産性や歩留まりの観点から安息角は20度から30度の範囲であることがさらに好ましい。
【0021】
上記安定化リチウム粉は、D10/D50≧0.64であることが好ましく、D10/D50≧0.70であることがより好ましい。D10/D50が1.00に近いほど平均粒径よりも小さな粒径の安定化リチウム粉の存在割合が少なくなるめ、小さな安息角がもたらされる。
【0022】
前記被膜に含まれる化合物としては、炭酸塩、水酸化物、酸化物、硫化物等が挙げられ、具体的にはLiOH、LiCO、LiO、LiSなどが挙げられる。なお、より小さな安息角を得るために、上記被膜はパーフルオロ基を有する界面活性剤がリチウム塩化した化合物を含むことが好ましい。これによれば、安定化リチウム粉の被膜にパーフルオロ基を有する界面活性剤がリチウム塩化した化合物が含まれることで安定化リチウム粉同士のすべり性の向上および帯電防止効果によって、小さな安息角がもたらされる。
【0023】
前記パーフルオロ基を有する界面活性剤がリチウム塩化した化合物の例としてはパーフルオロアルキルスルホン酸リチウム、パーフルオロアルキルカルボン酸リチウムなどが挙げられる。
【0024】
前記安定化リチウム粉のD50は、38μm以上であることが好ましい。この場合、安息角がより小さくなる傾向がある。さらに、D50は54μm以上75μm以下であることがより好ましい。
【0025】
前記安定化リチウム粉の平均円形度をCとした時、C≧0.70であることが好ましい。円形度Cは、安定化リチウム粉を光学顕微鏡で観察して得られた画像を二値化した時の安定化リチウム粉の面積をS、周囲長をLとしたとき、C=4πS/Lで定義される。
【0026】
(安定化リチウム粉の製造方法)
本実施形態の安定化リチウム粉は、炭化水素オイルにリチウムインゴットを投入し、これをリチウムの融点以上に加熱し、この溶融リチウム−炭化水素オイル混合物を十分な時間撹拌して分散液を作ったのち、撹拌を続けた状態で徐々に冷却し、この分散液が十分に冷却された状態で二酸化炭素(CO)を接触させて表面に安定被膜を形成し、これを乾燥することによって製造される。撹拌には2台の攪拌機を用いており、互いの攪拌方向を逆向きになるように撹拌が行われる。なお、前記安定化被膜中にパーフルオロ基を有する界面活性剤がリチウム塩化した化合物を導入する場合にはパーフルオロ基を有する界面活性剤を添加した炭化水素オイルを用いて製造される。
【0027】
上記炭化水素オイルは、リチウムインゴットを1質量部としたとき、溶融後の均一分散性の観点から1〜30質量部であることが好ましく、2〜15質量部であることがより好ましい。また上記界面活性剤は0.01〜1質量部であることが好ましく、0.1〜1質量部であることがより好ましい。
【0028】
上記溶融リチウム−炭化水素オイル混合物の撹拌時間は90分以内が好ましく、60分以内であることがさらに好ましい。
【0029】
また、上記溶融リチウム−炭化水素オイル混合物の撹拌速度は5500rpm以内が好ましく、5000rpm以内であることがさらに好ましい。
【0030】
上記分散液の冷却後の温度は100℃以下が好ましく、50℃以下がより好ましい。また、上記分散液は1時間以上かけて徐々に冷却することが好ましい。
【0031】
上記二酸化炭素は、リチウムインゴットを1質量部としたとき、0.1〜10質量部がこの分散混合物に加えられることが好ましく、1〜3質量部であることがより好ましい。二酸化炭素はこの混合物の表面に導入されることが好ましいため、分散液製造時の攪拌条件は、導入される二酸化炭素と分散された金属との十分な接触をもたらすために1000rpm以上であることが好ましい。
【0032】
<負極>
負極20は後述するように負極用集電体22上に負極活物質層24を形成することで作製することができる。
【0033】
(負極用集電体)
負極用集電体22は、導電性の板材であればよく、例えば、銅、ニッケル又はそれらの合金、ステンレス等の金属薄板(金属箔)を用いることができる。
【0034】
(負極活物質層)
負極活物質層24は、負極活物質、負極用バインダ、及び、必要に応じた量の負極用導電助剤から主に構成されるものである。
【0035】
(負極活物質)
負極活物質としては酸化シリコン(SiO)、金属シリコン(Si)等が挙げられる。
【0036】
(負極用バインダ)
負極用バインダは、負極活物質同士を結合すると共に、負極活物質と集電体22とを結合している。バインダは、上述の結合が可能なものであればよく、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂が挙げられる。更に、上記の他に、バインダとして、例えば、セルロース、スチレン・ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等を用いてもよい。また、バインダとして電子伝導性の導電性高分子やイオン伝導性の導電性高分子を用いてもよい。電子伝導性の導電性高分子としては、例えば、ポリアセチレン等が挙げられる。この場合は、バインダが導電助剤粒子の機能も発揮するので導電助剤を添加しなくてもよい。イオン伝導性の導電性高分子としては、例えば、リチウムイオン等のイオンの伝導性を有するものを使用することができ、例えば、高分子化合物(ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル系高分子化合物、ポリフォスファゼン等)のモノマーと、LiClO、LiBF、LiPF等のリチウム塩又はリチウムを主体とするアルカリ金属塩と、を複合化させたもの等が挙げられる。複合化に使用する重合開始剤としては、例えば、上記のモノマーに適合する光重合開始剤または熱重合開始剤が挙げられる。
【0037】
負極活物質層24中のバインダの含有量も特に限定されないが、負極活物質の質量に対して0.5〜5質量部であることが好ましい。
【0038】
(負極用導電助剤)
負極用導電助剤も、負極活物質層24の導電性を良好にするものであれば特に限定されず、公知の導電助剤を使用できる。例えば、黒鉛、カーボンブラック等の炭素系材料や、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属微粉、炭素材料及び金属微粉の混合物、ITO等の導電性酸化物が挙げられる。
【0039】
<リチウムをドープした負極の製造方法>
(負極の製造方法)
負極活物質と、導電助剤と、バインダとを水またはN−メチル−2−ピロリドンなどの溶媒に混合分散させてペースト状の負極スラリーを作製する。次いで、この負極スラリーを例えばコンマロールコーターを用いて、所定の厚みを有する負極スラリーを銅箔などの負極集電体の片面または両面に塗布し、乾燥炉内にて溶媒を蒸発させる。なお、負極集電体の両面に塗布された場合、負極活物質層となる塗膜の厚みは、両面とも同じ膜厚であることが望ましい。上記負極活物質が形成されたシートをローラープレスによって加圧成形し、真空中で熱処理することで負極となる。
(負極へのリチウムのドープ方法)
リチウムをドープした負極は、上記安定化リチウム粉が分散した分散液を、負極集電体上に形成した負極活物質層の上に塗布し、乾燥後にこれをプレスすることで負極活物質へのリチウムのドープが進行し、作製される。安定化リチウム粉の分散には脱水した溶媒、例えばN−メチルピロリドン、トルエン、キシレン、メチルエチルケトンなどを用いることができる。
【0040】
上記プレス方法としては特に限定は無く、ハンドプレスやローラープレス等、既知の方法を使うことが可能である。
【0041】
<正極>
正極10は後述するように正極用集電体12上に正極活物質層14を形成することで作製することができる。
【0042】
(正極用集電体)
正極用集電体12は、導電性の板材であればよく、例えば、アルミニウム又はそれらの合金、ステンレス等の金属薄板(金属箔)を用いることができる。
【0043】
(正極活物質層)
正極活物質層14は、正極活物質、正極用バインダー、及び、必要に応じた量の正極用導電助剤から主に構成されるものである。
【0044】
(正極活物質)
正極活物質としては、リチウムイオンの吸蔵及び放出、リチウムイオンの脱離及び挿入(インターカレーション)、又は、リチウムイオンと該リチウムイオンのカウンターアニオン(例えば、PF)とのドープ及び脱ドープを可逆的に進行させることが可能であれば特に限定されず、公知の電極活物質を使用できる。例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、リチウムマンガンスピネル(LiMn)、及び、一般式:LiNiCoMnMaO(x+y+z+a=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0≦a≦1、MはAl、Mg、Nb、Ti、Cu、Zn、Crより選ばれる1種類以上の元素)で表される複合金属酸化物、リチウムバナジウム化合物(LiV)、オリビン型LiMPO(ただし、Mは、Co、Ni、Mn、Fe、Mg、Nb、Ti、Al、Zrより選ばれる1種類以上の元素又はVOを示す)、チタン酸リチウム(LiTi12)、LiNiCoAl(0.9<x+y+z<1.1)等の複合金属酸化物が挙げられる。
【0045】
(正極用バインダ)
正極用バインダーとしては特に限定は無く、上記で記載した負極用バインダーと同様のものを用いることが出来る。
【0046】
(正極用導電助剤)
正極用導電助剤としては特に限定は無く、上記で記載した負極用導電助剤と同様のものを用いることが出来る。
<電解質>
電解質としては、LiPF、LiClO、LiBF、LiAsF、LiCFSO、LiCF、CFSO、LiC(CFSO、LiN(CFSO、LiN(CFCFSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiN(CFCFCO)、LiBOB等の塩が使用できる。なお、これらの塩は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
<リチウムイオン二次電池>
図1に本実施形態のリチウムイオン二次電池の模式断面図を示す。
【0048】
上記の通り作製されたリチウムをドープした負極20と、正極10と、電解質を含浸させたセパレータ18とを図1のように作製することでリチウムイオン二次電池100を作製することができる。ここで、正極10は、正極集電体12上に正極活物質層14を形成することで作製することができる。なお、図面中60と62は、それぞれ正極と負極の引出し電極を示す。
【0049】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
[実施例1]
(安定化リチウム粉の作製)
ステンレススチール樹脂フラスコ反応器に関東化学社のリチウムインゴット100gおよびWitco社のCarnation炭化水素オイルと炭化水素オイルに対して3M社のパーフルオロ基を有する界面活性剤を加え、容器内を乾燥アルゴンで置換した。次いでこの反応器を195℃まで加熱し、リチウムを溶融させた後、この混合物を撹拌した。撹拌には2台の攪拌機を用いており、互いの攪拌方向を逆向きとし10分間、2000rpmで撹拌した後、撹拌を維持したまま1時間かけて室温まで冷却した。冷却後、二酸化炭素100gを攪拌を続けたまま5分を掛けて表面に供給して充填した。二酸化炭素が全て添加された時にこの攪拌を中止し、得られた粉末をヘキサンで洗浄することで安定化リチウム粉を得た。
【0052】
(負極の作製)
負極活物質としてSiOx83質量部、導電助剤としてアセチレンブラック2質量部、バインダとしてポリアミドイミド15質量部、及び溶剤としてN−メチルピロリドン82質量部を混合し、活物質層形成用のスラリーを調製した。このスラリーを、集電体として厚さ14μmの銅箔の一面に塗布し、100℃で乾燥後、ローラープレスによって加圧成形し、真空中、350℃で3時間熱処理することで負極活物質層が22μmである負極を得た。
【0053】
(リチウムをドープした負極の作製)
上記の方法で作製した安定化リチウム粉を脱水したN−メチルピロリドンに分散させ分散液とし、これを露点マイナス50℃〜マイナス40℃のドライルーム中において負極活物質層上に塗布し、乾燥させた後、ハンドプレスによって負極へリチウムをドープさせ、リチウムがドープされた負極を得た。
【0054】
(評価用リチウムイオン二次電池の作製)
上記で作製した負極と、正極として銅箔にリチウム金属箔を貼り付けた対極とを、それらの間にポリエチレン微多孔膜からなるセパレータを挟んでアルミラミネートパックに入れ、このアルミラミネートパックに、電解液として1MのLiPF溶液(溶媒:エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート=3/7(体積比))を注入した後、真空シールし、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0055】
[実施例2〜15]
安定化リチウム粉の製造条件を下記表1に示すものに変更した以外は実施例1と同様として、実施例2〜15の安定化リチウム粉を得た。なお、実施例8、9に関してはパーフルオロ基を有する界面活性剤を加えずに製造を行った。また、得られた安定化リチウム粉を用いて、実施例1と同様にして実施例2〜15の評価用リチウムイオン二次電池を作製した。なお安定化リチウム粉のD10/D50およびD50の制御は撹拌速度および撹拌時間を調節することにより行った。
【0056】
[比較例1]
安定化リチウム粉の製造条件を下記表1に示すものに変更し、パーフルオロ基を有する界面活性剤を加えずに製造を行っており、撹拌に関しては1台の攪拌機を用いて通常の撹拌を行った以外は実施例1と同様として、比較例1の安定化リチウム粉を得た。また、得られた安定化リチウム粉を用いて、実施例1と同様にして比較例1の評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0057】
[比較例2]
ステンレススチール樹脂フラスコ反応器に比較例1で作製した安定化リチウム粉100gおよびPeneteck(商標)油(Penreco,Division of the Penzoil Products Company)を加え、容器内を乾燥アルゴンで置換した。次いでこの反応器を100℃まで加熱し、100℃に達した時点で加熱を終了した。800rpmで撹拌しながらフッ素化剤FC70(ペルフルオロペンチルアミン)を反応器に装入し、分散液が45℃に冷却するまで撹拌を続けた。撹拌終了後に、得られた粉末をヘキサンで洗浄することで安定化被膜中にフッ化リチウムを含む安定化リチウム粉を得た。得られた安定化リチウム粉を用いて、実施例1と同様にして比較例2の評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0058】
<安息角の測定>
実施例1〜15および比較例1、2で作製した安定化リチウム粉について、安息角の測定を行った。ここで安息角とは一定の高さから粉体を落下させて、自発的に崩れることなく安定を保つ時に形成する粉体の山の斜面と水平面とのなす角度のことを示す。安息角の測定は露点マイナス50℃〜マイナス40℃のドライルーム中において次のように行った。安定化リチウム粉1gを出口径4mmのロートを通過させ、ロート出口より2cm下方にある平板上に落下し、堆積させ、この堆積物を写真撮影して写真上で安定化リチウム粉の山の斜面と水平面のなす角度を測定した。
【0059】
<D50、円形度およびD10/D50の測定>
実施例1〜15および比較例1、2で作製した安定化リチウム粉について、光学顕微鏡を用いて安定化リチウム粉を観察した。得られた観察像を二値化し、画像解析によって安定化リチウム粉のD50、平均円形度およびD10/D50を求めた。最低500個以上の安定化リチウム粉に対して上記画像解析を行った。また円形度Cは、安定化リチウム粉の面積をS、周囲長をLとしたとき、C=4πS/Lで定義する。実施例1〜15で作製した安定化リチウム粉の平均円形度はすべてC≧0.70であった。
【0060】
<安定化リチウム粉の被膜に含まれるフッ素の分析>
実施例1〜15および比較例1、2で作製した安定化リチウム粉について、X線光電子分光分析および19FNMRを用いて前記安定化リチウム粉の被膜の定性分析を行った。結果を表1に示す。
【0061】
<サイクル容量維持率の測定>
0.5Cの電流値での充放電を1サイクルとし、300サイクルの充放電を行い、サイクル特性として、300サイクル後の容量維持率を300サイクル時放電容量/初期放電容量より求めた。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1に示すように実施例1〜15では安息角が35度以下であり、300サイクル後の容量維持率が全比較例に比べ高い値が得られたことが確認された。これは安息角が35度以下の安定化リチウム粉を用いることでドープ時の不均一さが改善されたためであると考えられる。
【0064】
安息角が35度より大きい比較例1は300サイクル後の容量維持率が全実施例より低い値であることが確認された。
【0065】
実施例1〜12および実施例13〜15との対比から、D10/D50の値を0.65以上とすることにより、D10/D50が0.65未満である場合に比べて300サイクル後の容量維持率が高くなることが確認された。
【0066】
実施例7と実施例8との対比から、被膜に含まれる成分がパーフルオロ基を有する界面活性剤がリチウム塩化した化合物である場合、被膜にパーフルオロ基を有する界面活性剤がリチウム塩化した化合物を含まないと比べて300サイクル後の容量維持率が高くなることが確認された。
【0067】
実施例2〜7の対比から、D50の値を38μm以上とすることにより、D50の値が38μm未満である場合に比べて300サイクル後の容量維持率が高くなることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の安定化リチウム粉をドープに用いることで均一にドープが進行した電極が作製できる。また、この電極を用いることで、サイクル特性が改善されたリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【符号の説明】
【0069】
10…正極、12…正極集電体、14…正極活物質層、18…セパレータ、20…負極、22…負極集電体、24…負極活物質層、30…積層体、50…ケース、60,62…リード、100…リチウムイオン二次電池。






図1