特許第6460575号(P6460575)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6460575リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用電極、及びリチウム二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6460575
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用電極、及びリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20190121BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20190121BHJP
【FI】
   H01M4/505
   H01M4/525
【請求項の数】4
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-652(P2015-652)
(22)【出願日】2015年1月6日
(65)【公開番号】特開2016-126935(P2016-126935A)
(43)【公開日】2016年7月11日
【審査請求日】2017年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(72)【発明者】
【氏名】村松 弘将
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 大輔
【審査官】 瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−229550(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/154142(WO,A1)
【文献】 特開2006−252865(JP,A)
【文献】 特開2012−138197(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/176904(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−NaFeO構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質であって、
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、遷移金属(Me)がCo、Ni及びMnを含み、
Liと遷移金属(Me)のモル比(Li/Me)が1<Li/Meであり、
Mnと遷移金属(Me)のモル比(Mn/Me)が0.5<Mn/Meであり、
Ceを含有し、
CuKα管球を用いたX線回折パターン解析において、(104)面に帰属される回折ピークの半値幅(FWHM)が0.269≦FWHM≦0.273であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、金属換算したCeの含有比率が0.15〜3.37質量%であることを特徴とする請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
請求項1又は請求項2のいずれかに記載のリチウム二次電池用正極活物質を含有することを特徴とするリチウム二次電池用電極。
【請求項4】
請求項に記載のリチウム二次電池用電極を備えたことを特徴とするリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なリチウム遷移金属複合酸化物を含むリチウム二次電池用正極活物質、その正極活物質を含有するリチウム二次電池用電極、その電極を備えたリチウム二次電池及びその電池を集合した蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウム二次電池用正極活物質として、α−NaFeO型結晶構造を有する「LiMeO型」活物質(Meは遷移金属)が検討され、LiCoOを用いたリチウム二次電池が広く実用化されていた。しかし、LiCoOの放電容量は120〜130mAh/g程度であった。前記Meとして、地球資源として豊富なMnを用いることが望まれてきた。しかし、MeとしてMnを含有させた「LiMeO型」活物質は、Meに対するMnのモル比Mn/Meが0.5を超える場合には、充電をするとスピネル型へと構造変化が起こり、結晶構造が維持できないため、充放電サイクル性能が著しく劣るという問題があった。
【0003】
そこで、Meに対するMnのモル比Mn/Meが0.5以下であり、充放電サイクル性能の点でも優れる「LiMeO型」活物質が種々提案され、一部実用化されている。例えば、LiNi1/2Mn1/2やLiCo1/3Ni1/3Mn1/3は、150〜180mAh/gの放電容量を有する。
【0004】
近年、MeとしてNi,Co及びMnを含み、Meに対するMnのモル比Mn/Meが0.5以上であり、充電をしてもα−NaFeO構造を維持できる活物質材料が提案された。
【0005】
特許文献1及び2には、MeとしてNi,Co及びMnを含み、Meに対するMnのモル比Mn/Meが0.5以上である活物質を用いた電池の製造方法として、4.3V(vs.Li/Li)を超え4.8V以下(vs.Li/Li)の正極電位範囲に出現する、電位変化が比較的平坦な領域に少なくとも至る充電を行う製造工程を設けることにより、使用時において、充電時の正極の最大到達電位が4.3V(vs.Li/Li)以下又は4.4V(vs.Li/Li)未満である充電方法が採用された場合であっても、200mAh/g以上の放電容量が得られる電池を製造できることが記載されている。
【0006】
このように、従来の「LiMeO型」正極活物質の場合とは異なり、MeとしてNi,Co及びMnを含み、Meに対するMnのモル比Mn/Meが0.5以上である正極活物質では、少なくとも最初の充電において4.3Vを超える比較的高い電位、特に4.4V以上の電位に至って行うことにより、高い放電容量が得られるという特徴がある。
【0007】
なお、この材料は、遷移金属(Me)の比率に対するリチウム(Li)の組成比率Li/Meが1より大きく、例えばLi/Meが1.25〜1.6であるように原料を混合して合成されることから、「リチウム過剰型」活物質とも呼ばれ、合成後の組成はLi1+αMe1−α(α>0)と表記できる。ここで、遷移金属(Me)の比率に対するリチウム(Li)の組成比率Li/Meをβとすると、β=(1+α)/(1−α)であるから、例えば、Li/Meが1.5のとき、α=0.2である。
【0008】
特許文献3には、「リチウム含有酸化物から正極活物質を得る正極活物質の製造方法であって、前記リチウム含有酸化物を酸性水溶液で処理する工程を備え、前記リチウム含有酸化物は、Li1+x(Mn1−y1−x(0<x<0.4、0<y≦1)を含み、前記Mはマンガンを除く少なくとも1種の遷移金属を含み、前記酸性水溶液中の水素イオン量は、前記リチウム含有酸化物1molに対してxmol以上5xmol未満であることを特徴とする正極活物質の製造方法。」(請求項5)の発明が記載され、優れた負荷特性及び高い初期充放電効率を有するリチウム二次電池を製造することができることが記載されている。
【0009】
特許文献4には、Li(LiMnMe)O(MeはCo、Ni、Cr、Fe、Al、Ti、Zr、Mgから選ばれる少なくとも一種の元素、0.09<x<0.3、0.4≦y/(y+z)≦0.8、x+y+z=1、1.9<p<2.1、0≦q≦0.1)であるリチウム含有複合酸化物の表面にZr、Ti、Sn、Mg、Ba、Pb、Bi、Nb、Ta、Zn、Y、La、Sr、Ce、InおよびAlから選ばれる少なくとも一種の金属元素の酸化物の微粒子を付着する粒子からなるリチウムイオン二次電池用の正極活物質が記載されている。
【0010】
特許文献5には、Li(1+x)Co(1−y)(2−z)(MはMg、Al、B、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Mo、Sn、Ca、Sr、W、Y、Zrよりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素、−0.10≦x≦0.10、0≦y<0.50、z=−0.10≦z≦0.20)で表される複合酸化物粒子表面に設けられ、Liと、Ni及び/又はMnを含む酸化物被覆層と、被覆層に設けられた、ランタノイド元素を含む酸化物表面層を備える非水電解質二次電池用正極活物質であって、粒子同士の結着を抑制し、被覆層の破壊や被覆層の破壊による活性な複合酸化物粒子表面の露呈を防止することが記載されている。
【0011】
特許文献6には、α−NaFeO型結晶構造を有し、組成式LiMnNiCo(0≦x≦1.3、a+b+c=1、|a−b|≦0.03、0≦c<1、1.7≦d≦2.3)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物である母材の電解質と接触する表面に、Ce等の3族の元素が存在する正極活物質であって、充電状態での保存性と充放電サイクル性能に優れたリチウム二次電池を提供できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO2012/091015
【特許文献2】WO2013/084923
【特許文献3】特開2009−4285号公報
【特許文献4】特開2012−138197号公報
【特許文献5】特開2009−4316号公報
【特許文献6】WO2005/008812
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
「Li過剰型」の活物質の放電容量は、概して、「LiMeO型」活物質よりも大きいものの、初期充放電効率(以下「初期効率」という。)が低いことが知られている。このうち、負荷特性及び初期効率については、特許文献3に記載されているように、活物質を酸処理することで向上することが公知である。しかし、近年、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車といった自動車分野に使用されるリチウム二次電池には、初期効率とともに、放電容量維持率の高い正極活物質が求められている。
【0014】
特許文献4には、「Li過剰型」の活物質について、金属元素の酸化物の微粒子を付着させることにより、サイクル特性に効果を上げることが記載されているが、実施例に記載され、効果が確認されているのは、Zrの場合のみである。
【0015】
特許文献5には、Mn、Niを含み得るリチウムコバルト複合酸化物粒子表面にセリウムを含む表面層を形成した活物質の実施例が記載されているが、この表面層は、粒子同士の結着防止を目的とするものであって、「リチウム過剰型」の活物質において、初期効率と放電容量維持率を高めるという課題を示すものでない。
【0016】
特許文献6に記載の活物質も、「リチウム過剰型」を想定したものでなく、初期効率と放電容量維持率を高めるという課題を示すものでない。
【0017】
本発明は、上記課題に鑑み、初期効率が優れ、かつ放電容量維持率の高いリチウム二次電池用正極活物質、その正極活物質を含有するリチウム二次電池用電極、及びその電極を備えたリチウム二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記目的を達成するために、以下の手段を採用する。
(1)α−NaFeO構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、遷移金属(Me)がCo、Ni及びMnを含み、Liと遷移金属(Me)のモル比(Li/Me)が1<Li/Meであり、Mnと遷移金属(Me)のモル比(Mn/Me)が0.5<Mn/Meであり、Ceを含有するリチウム二次電池用正極活物質。
(2)前記リチウム遷移金属複合酸化物は、金属換算したCeの含有比率が0.15〜3.37質量%である前記(1)の正極活物質。
(3)CuKα管球を用いたX線回折パターン解析において、(104)面に帰属される回折ピークの半値幅(FWHM)が0.269≦FWHM≦0.273であることを特徴とする前記(1)又は(2)の正極活物質。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかのリチウム二次電池用正極活物質を含有するリチウム二次電池用電極。
(5)前記(4)のリチウム二次電池用電極を備えたリチウム二次電池。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、初期効率が優れ、かつ放電容量維持率の高いリチウム二次電池用正極活物質、その正極活物質を含有するリチウム二次電池用電極、及びその電極を備えたリチウム二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係るリチウム二次電池の一実施形態を示す外観斜視図
図2】本発明に係るリチウム二次電池を複数個集合した蓄電装置を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明者らは、「Li過剰型」の活物質を酸処理することにより、初期効率を向上させることができるものの、充放電サイクル後の放電容量維持率を高くすることができない原因は、酸処理によって、充放電サイクルにともなう活物質からのMnの溶出が促進されるためと推察した。
【0022】
そこで、「Li過剰型」の活物質の粒子表面を保護することで、充放電中の活物質からのMnの溶出を緩和し、充放電サイクルに伴う放電容量の低下を抑制することができると考え、種々の金属による処理を試みたところ、酸処理水溶液にCeを添加して酸処理した後、加熱することにより、活物質にCeを付与することで効果があることを見出した。
【0023】
以下、本発明に好適な正極活物質及びその製造方法について詳述するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0024】
(正極活物質)
本発明の正極活物質は、典型的には、Li1+α(CoNiMn1−α、但し、α>1、a+b+c=1、a>0、b>0、c>0.5で表わされるものであり、Li、Co、Ni及びMnからなる複合酸化物であるが、初期効率及び高率放電性能が優れたリチウム二次電池を得るために、遷移金属元素Meに対するLiのモル比Li/Meは、1.2より大きく且つ1.6より小さいこと、すなわち、組成式Li1+αMe1−αにおいて1.2<(1+α)/(1−α)<1.6とすることが好ましい。なかでも、放電容量が特に大きく、初期効率及び高率放電性能が優れたリチウム二次電池を得ることができるという観点から、前記Li/Meが1.25〜1.5のものを選択することが好ましい。なお、本発明において、モル比Li/Meは、酸処理後のものであり、酸処理前の出発物質ではこれよりもやや高くなる。
【0025】
また、本発明の正極活物質は、リチウム二次電池の初期効率及び高率放電性能を向上させるために、遷移金属元素Meに対するMnのモル比Mn/Meは0.5以上であることが好ましい。「LiMeO型」活物質では、モル比Mn/Meが0.5を超える場合、充電をするとスピネル型へと構造変化が起こり、α−NaFeO構造に帰属される構造を有さないものとなり、リチウム二次電池用活物質として問題があったのに対し、「リチウム過剰型」活物質では、モル比Mn/Meが0.5を超えても、充電をした場合にα−NaFeO構造を維持できる。したがって、モル比Mn/Meが0.5を超えるという構成は、「リチウム過剰型」活物質を特徴付けるものである。モル比Mn/Meは0.51〜0.75とすることがより好ましい。
【0026】
また、リチウム二次電池の初期効率及び高率放電性能を向上させるために、遷移金属元素Meに対するCoのモル比Co/Meは、0.05〜0.40とすることが好ましく、0.10〜0.30とすることがより好ましい。
【0027】
本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、本質的に、Li、Co、Ni及びMnからなる複合酸化物であるが、放電容量を向上させるために、Naを1000ppm以上含ませることが好ましい。Naの含有量は、2000〜10000ppmがより好ましい。
【0028】
Naを含有させるために、後述する炭酸塩前駆体を作製する工程において、炭酸ナトリウム等のナトリウム化合物を中和剤として使用し、洗浄工程でNaを残存させるか、及び、その後の焼成工程において炭酸ナトリウム等のナトリウム化合物を添加する方法を採用することができる。
【0029】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、Na以外のアルカリ金属、Mg,Ca等のアルカリ土類金属、Fe,Zn等の3d遷移金属に代表される遷移金属など少量の他の金属を含有することを排除するものではない。
【0030】
本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、α−NaFeO構造を有している。合成後(充放電を行う前)の上記リチウム遷移金属複合酸化物は、空間群P312あるいはR3−mに帰属される。このうち、空間群P312に帰属されるものには、CuKα管球を用いたX線回折図上、2θ=21°付近に超格子ピーク(Li[Li1/3Mn2/3]O型の単斜晶に見られるピーク)が確認される。ところが、一度でも充電を行い、結晶中のLiが脱離すると結晶の対称性が変化することにより、上記超格子ピークが消滅して、上記リチウム遷移金属複合酸化物は空間群R3−mに帰属されるようになる。ここで、P312は、R3−mにおける3a、3b、6cサイトの原子位置を細分化した結晶構造モデルであり、R3−mにおける原子配置に秩序性が認められるときに該P312モデルが採用される。なお、「R3−m」は本来「R3m」の「3」の上にバー「−」を施して表記すべきものである。
【0031】
本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、X線回折パターンを元に空間群R3−mを結晶構造モデルに用いたときに(003)面に帰属される回折ピークの半値幅を0.202°〜0.265°の範囲内とすることが好ましい。また、(104)面に帰属される回折ピークの半値幅を0.265°〜0.285°の範囲内とすることが好ましい。こうすることにより、正極活物質の初期効率を高めることが可能となる。なお、X線回折図上2θ=44°±1°、及び18°±1°に存在する回折ピークが、空間群P312ではミラー指数hklにおける(114)面、及び(003)面にそれぞれ指数付けされ、空間群R3−mではミラー指数hklにおける(104)面、及び(003)面にそれぞれ指数付けされる。
【0032】
また、本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、1000℃で熱処理を行ったときに結晶構造が変化しないものであることが好ましい。これは、1000℃で熱処理を行ったときに、X線回折図上空間群R3−mに帰属される単一相(α−NaFeO構造)として観察されることにより確認できる。これにより、高率放電性能が優れたリチウム二次電池を得ることができる。
【0033】
さらに、リチウム遷移金属複合酸化物は、X線回折パターンを基にリートベルト法による結晶構造解析から求められる酸素位置パラメータが、放電末において0.262以下、充電末において0.267以上であることが好ましい。これにより、高率放電性能が優れたリチウム二次電池を得ることができる。なお、酸素位置パラメータとは、空間群R3−mに帰属されるリチウム遷移金属複合酸化物のα―NaFeO型結晶構造について、Me(遷移金属)の空間座標を(0,0,0)、Li(リチウム)の空間座標を(0,0,1/2)、O(酸素)の空間座標を(0,0,z)と定義したときの、zの値をいう。即ち、酸素位置パラメータは、O(酸素)位置がMe(遷移金属)位置からどれだけ離れているかを示す相対的な指標となる(特許文献1及び2参照)。
【0034】
本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物及びその炭酸塩前駆体は、粒度分布測定における50%粒子径(D50)が5〜18μmであることが好ましい。リチウム遷移金属複合酸化物を水酸化物前駆体から作製する場合はもっと小粒径に制御しないと優れた性能が得られないが、炭酸塩前駆体から作製することにより、粒度分布測定における50%粒子径(D50)が5〜18μm程度であっても、放電容量が大きい正極活物質が得られる。
【0035】
本発明に係る正極活物質のBET比表面積は、初期効率、高率放電性能が優れたリチウム二次電池を得るために、1m/g以上が好ましく、2〜7m/gがより好ましい。
また、タップ密度は、高率放電性能が優れたリチウム二次電池を得るために、1.25g/cc以上が好ましく、1.7g/cc以上がより好ましい。
【0036】
本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、窒素ガス吸着法を用いた吸着等温線からBJH法で求めた微分細孔容積の最大値を示す細孔径が60nmまでの範囲内の細孔領域(60nmまでの細孔領域)にて0.055cc/g以上の細孔容積とすることが好ましい。これにより、初期効率及び高率放電性能が優れたリチウム二次電池を得ることができる。また、上記細孔容積を0.08cc/g以下とすることにより、高率放電性能が特に優れたリチウム二次電池を得ることができるから、上記細孔容積は0.055〜0.08cc/gであることが好ましい。
【0037】
(正極活物質の製造方法)
次に、本発明のリチウム二次電池用活物質を製造する方法について説明する。
本発明のリチウム二次電池用活物質は、基本的に、活物質を構成する金属元素(Li,Mn,Co,Ni)を目的とする活物質(酸化物)の組成通りに含有する原料を調製し、これを焼成することによって得ることができる。但し、Li原料の量については、焼成中にLi原料の一部が消失することを見込んで、1〜5%程度過剰に仕込むことが好ましい。
目的とする組成の酸化物を作製するにあたり、Li,Co,Ni,Mnのそれぞれの塩を混合・焼成するいわゆる「固相法」や、あらかじめCo,Ni,Mnを一粒子中に存在させた共沈前駆体を作製しておき、これにLi塩を混合・焼成する「共沈法」が知られている。「固相法」による合成過程では、特にMnはCo,Niに対して均一に固溶しにくいため、各元素が一粒子中に均一に分布した試料を得ることは困難である。これまで文献などにおいては固相法によってNiやCoの一部にMnを固溶(LiNi1−xMnなど)しようという試みが多数なされているが、「共沈法」を選択する方が原子レベルで均一相を得ることが容易である。そこで、後述する実施例においては、「共沈法」を採用した。
【0038】
共沈前駆体を作製するにあたって、Co,Ni,MnのうちMnは酸化されやすく、Co,Ni,Mnが2価の状態で均一に分布した共沈前駆体を作製することが容易ではないため、Co,Ni,Mnの原子レベルでの均一な混合は不十分なものとなりやすい。特に本発明の組成範囲においては、Mn比率がCo,Ni比率に比べて高いので、水溶液中の溶存酸素を除去することが特に重要である。溶存酸素を除去する方法としては、酸素を含まないガスをバブリングする方法が挙げられる。酸素を含まないガスとしては、限定されるものではないが、窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素(CO)等を用いることができる。なかでも、後述する実施例のように、共沈炭酸塩前駆体を作製する場合には、酸素を含まないガスとして二酸化炭素を採用すると、炭酸塩がより生成しやすい環境が与えられるため、好ましい。
【0039】
溶液中でCo、Ni及びMnを含有する化合物を共沈させて前駆体を製造する工程におけるpHは、限定されるものではないが、前記共沈前駆体を共沈炭酸塩前駆体として作製しようとする場合には、7.5〜11とすることができる。タップ密度を大きくするためには、pHを制御することが好ましい。pHを9.4以下とすることにより、タップ密度を1.25g/cc以上とすることができ、高率放電性能を向上させることができる。さらに、pHを8.0以下とすることにより、粒子成長速度を促進できるので、原料水溶液滴下終了後の撹拌継続時間を短縮できる。
【0040】
前記共沈前駆体は、MnとNiとCoとが均一に混合された化合物であることが好ましい。本発明においては、放電容量が大きいリチウム二次電池用活物質を得るために、共沈前駆体を炭酸塩とすることが好ましい。また、錯化剤を用いた晶析反応等を用いることによって、より嵩密度の大きな前駆体を作製することもできる。その際、Li源と混合・焼成することでより高密度の活物質を得ることができるので電極面積あたりのエネルギー密度を向上させることができる。
【0041】
前記共沈前駆体の原料は、Mn化合物としては酸化マンガン、炭酸マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガン、酢酸マンガン等を、Ni化合物としては、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル等を、Co化合物としては、硫酸コバルト、硝酸コバルト、酢酸コバルト等を一例として挙げることができる。
【0042】
本発明においては、アルカリ性を保った反応槽に前記共沈前駆体の原料水溶液を滴下供給して共沈炭酸塩前駆体を得る反応晶析法を採用する。ここで、中和剤として、リチウム化合物、ナトリウム化合物、カリウム化合物等を使用することができるが、炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウムと炭酸リチウム、又は、炭酸ナトリウムと炭酸カリウムの混合物を使用することが好ましい。Naを1000ppm以上残存させるために、炭酸ナトリウムと炭酸リチウムのモル比であるNa/Li、又は、炭酸ナトリウムと炭酸カリウムのモル比であるNa/Kは、1/1[M]以上とすることが好ましい。Na/Li又はNa/Kを1/1[M]以上とすることにより、引き続く洗浄工程でNaが除去されすぎて1000ppm未満となってしまう虞を低減できる。
【0043】
前記原料水溶液の滴下速度は、生成する共沈前駆体の1粒子内における元素分布の均一性に大きく影響を与える。特にMnは、CoやNiと均一な元素分布を形成しにくいので注意が必要である。好ましい滴下速度については、反応槽の大きさ、攪拌条件、pH、反応温度等にも影響されるが、30ml/min以下が好ましい。放電容量を向上させるためには、滴下速度は10ml/min以下がより好ましく、5ml/min以下が最も好ましい。
【0044】
また、反応槽内に錯化剤が存在し、かつ一定の対流条件を適用した場合、前記原料水溶液の滴下終了後、さらに攪拌を続けることにより、粒子の自転および攪拌槽内における公転が促進され、この過程で、粒子同士が衝突しつつ、粒子が段階的に同心円球状に成長する。即ち、共沈前駆体は、反応槽内に原料水溶液が滴下された際の金属錯体形成反応、及び、前記金属錯体が反応槽内の滞留中に生じる沈殿形成反応という2段階での反応を経て形成される。従って、前記原料水溶液の滴下終了後、さらに攪拌を続ける時間を適切に選択することにより、目的とする粒子径を備えた共沈前駆体を得ることができる。
【0045】
原料水溶液滴下終了後の好ましい攪拌継続時間については、反応槽の大きさ、攪拌条件、pH、反応温度等にも影響されるが、粒子を均一な球状粒子として成長させるために0.5h以上が好ましく、1h以上がより好ましい。また、粒子径が大きくなりすぎることで電池の低SOC領域における出力性能が充分でないものとなる虞を低減させるため、30h以下が好ましく、25h以下がより好ましく、20h以下が最も好ましい。
【0046】
また、炭酸塩前駆体及びリチウム遷移金属複合酸化物の2次粒子の粒度分布における累積体積が50%となる粒子径であるD50を5〜18μmとするための好ましい攪拌継続時間は、制御するpHによって異なる。例えば、pHを7.5〜8.2に制御した場合には、撹拌継続時間は1〜15hが好ましく、pHを8.3〜9.4に制御した場合には、撹拌継続時間は3〜20hが好ましい。
【0047】
炭酸塩前駆体の粒子を、中和剤として炭酸ナトリウム等のナトリウム化合物を使用して作製した場合、その後の洗浄工程において粒子に付着しているナトリウムイオンを洗浄除去するが、本発明においては、Naが1000ppm以上残存するような条件で洗浄除去することが好ましい。例えば、作製した炭酸塩前駆体を吸引ろ過して取り出す際に、イオン交換水200mlによる洗浄回数を5回とするような条件を採用することができる。
【0048】
炭酸塩前駆体は、80℃〜100℃未満で、空気雰囲気中、常圧下で乾燥させることが好ましい。100℃以上にて乾燥を行うことで短時間でより多くの水分を除去できるが、80℃にて長時間かけて乾燥させることで、より優れた電極特性を示す活物質とすることができる。その理由は必ずしも明らかではないが、炭酸塩前駆体は比表面積が50〜100m/gの多孔体であるため、水分を吸着しやすい構造となっている。そこで、低い温度で乾燥させることによって、前駆体の状態において細孔にある程度の吸着水が残っている状態とした方が、Li塩と混合して焼成する焼成工程において、細孔から除去される吸着水と入れ替わるように、その細孔に溶融したLiが入り込むことができ、これによって、100℃で乾燥を行った場合と比べて、より均一な組成の活物質が得られるためではないかと発明者は推察している。なお、100℃にて乾燥を行って得られた炭酸塩前駆体は黒茶色を呈するが、80℃にて乾燥を行って得られた炭酸塩前駆体は肌色を呈するので、前駆体の色によって区別ができる。
【0049】
本発明のリチウム二次電池用活物質は、前記炭酸塩前駆体とLi化合物とを混合した後、熱処理することで好適に作製することができる。Li化合物としては、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム等を用いることで好適に製造することができる。但し、Li化合物の量については、焼成中にLi化合物の一部が消失することを見込んで、1〜5%程度過剰に仕込むことが好ましい。
【0050】
本発明においては、リチウム遷移金属複合酸化物中のNaの含有量を1000ppm以上とするために、炭酸塩前駆体に含まれるNaが1000ppm以下であっても、焼成工程においてLi化合物と共にNa化合物を、前記炭酸塩前駆体と混合することで活物質中に含まれるNa量を1000ppm以上とすることができる。Na化合物としては炭酸ナトリウムが好ましい。
【0051】
焼成温度は、活物質の可逆容量に影響を与える。
焼成温度が高すぎると、得られた活物質が酸素放出反応を伴って崩壊すると共に、主相の六方晶に加えて単斜晶のLi[Li1/3Mn2/3]O型に規定される相が、固溶相としてではなく、分相して観察される傾向がある。このような分相が多く含まれすぎると、活物質の可逆容量の減少を導くので好ましくない。このような材料では、X線回折図上35°付近及び45°付近に不純物ピークが観察される。従って、焼成温度は、活物質の酸素放出反応の影響する温度未満とすることが好ましい。活物質の酸素放出温度は、本発明に係る組成範囲においては、概ね1000℃以上であるが、活物質の組成によって酸素放出温度に若干の差があるので、あらかじめ活物質の酸素放出温度を確認しておくことが好ましい。特に試料に含まれるCo量が多いほど前駆体の酸素放出温度は低温側にシフトすることが確認されているので注意が必要である。活物質の酸素放出温度を確認する方法としては、焼成反応過程をシミュレートするために、共沈前駆体とリチウム化合物を混合したものを熱重量分析(DTA−TG測定)に供してもよいが、この方法では測定機器の試料室に用いている白金が揮発したLi成分により腐食されて機器を痛めるおそれがあるので、あらかじめ500℃程度の焼成温度を採用してある程度結晶化を進行させた組成物を熱重量分析に供するのが良い。
【0052】
一方、焼成温度が低すぎると、結晶化が十分に進まず、電極特性が低下する傾向がある。本発明においては、焼成温度は少なくとも800℃以上とすることが好ましい。十分に結晶化させることにより、結晶粒界の抵抗を軽減し、円滑なリチウムイオン輸送を促すことができる。
また、発明者らは、本発明活物質の回折ピークの半値幅を詳細に解析することで750℃までの温度で合成した試料においては格子内にひずみが残存しており、それ以上の温度で合成することでほとんどひずみを除去することができることを確認した。また、結晶子のサイズは合成温度が上昇するに比例して大きくなるものであった。よって、本発明活物質の組成においても、系内に格子のひずみがほとんどなく、かつ結晶子サイズが十分成長した粒子を志向することで良好な放電容量を得られるものであった。具体的には、格子定数に及ぼすひずみ量が2%以下、かつ結晶子サイズが50nm以上に成長しているような合成温度(焼成温度)及びLi/Me比組成を採用することが好ましいことがわかった。これらを電極として成型して充放電を行うことで膨張収縮による変化も見られるが、充放電過程においても結晶子サイズは30nm以上を保っていることが得られる効果として好ましい。
【0053】
上記のように、焼成温度は、活物質の酸素放出温度に関係するが、活物質から酸素が放出される焼成温度に至らずとも、900℃を超えると1次粒子が大きく成長することによる結晶化現象が見られる。これは、焼成後の活物質を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより確認できる。900℃を超える合成温度を経て合成した活物質は1次粒子が0.5μm以上に成長しており、充放電反応中における活物質中のLi移動に不利な状態となり、高率放電性能が低下する。1次粒子の大きさは0.5μm未満であることが好ましく、0.3μm以下であることがより好ましい。また、900℃を超える合成温度では、活物質の細孔容積が、60nmまでの細孔領域にて0.055cc/g未満となり、初期効率、高率放電性能が低下する。
【0054】
したがって、初期効率、高率放電性能を向上させるために、1.2<モル比Li/Me<1.6の本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質とする場合、焼成温度は800〜900℃とすることが好ましい。
【0055】
焼成後の活物質は、平均粒子サイズ100μm以下であることが望ましく、高出力特性を向上する目的で10μm以下であることが特に望ましい。粉体を所定の形状で得るためには粉砕機や分級機が用いられる。例えば乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミルや篩等が用いられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、特に限定はなく、篩や風力分級機などが、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0056】
(セリウム添加酸処理)
本発明において、セリウムを適用する方法については限定されない。後述する実施例においては、以上のようにして作製したセリウムを含まないリチウム遷移金属複合酸化物に、酸処理を行ってCeを添加する方法を採用した。
この酸処理は、例えば、硫酸セリウム等のセリウム化合物の水溶液に硫酸を加えた酸溶液に、リチウム遷移金属複合酸化物を投入して行うことができる。酸としては硫酸又はリン酸が好ましい。酸として塩酸の使用を避けることが好ましく、これにより、酸処理前の結晶構造が崩れる虞を低減することができる。また、酸としてホウ酸を用いてもよいが、ホウ酸などの弱酸の使用を避けることが好ましく、これにより、活物質からのリチウムの脱離量が少なすぎて初期効率を向上させる効果が充分に奏されない虞を低減することができる。
酸処理時間を長くしすぎないこと、また、pHの値を小さくしすぎないことが好ましく、これにより、活物質からのリチウムの脱離量が多くなりすぎて可逆容量が充分とならない虞を低減できる。酸処理の時間を短くしすぎないこと、また、pHの値を大きくしすぎないことが好ましく、これにより、活物質からのリチウムの離脱量が少なすぎて初期効率の効果が充分に奏されない虞を低減することができる。上記の観点から、酸処理時間は、30秒〜10800秒が好ましく、酸溶液のpHは0.5〜3が好ましい。
酸処理後の溶液は、吸引ろ過等により、ろ紙上のCeを含むリチウム遷移金属複合酸化物を回収した後、乾燥、熱処理することによりCeが添加された活物質を得ることができる。
【0057】
酸処理後、熱処理を行うことが好ましい。熱処理温度は300〜600℃が好ましい。保持時間は2〜10hが好ましい。熱処理により、活物質表面におけるCeの担持が安定化し、充放電に伴う局所的なMnの溶出を防止し、放電容量維持率を向上させることができる。処理温度を高くしすぎないことにより、結晶構造が変化して正極活物質の特性を低下させる虞を低減できる。また、処理温度を低くしすぎないことにより、Ceの担持が充分とならないものとなる虞を低減できる。保持時間が長すぎても、本発明の効果に影響を与えないが、エネルギーを無駄に消費して生産性が低下することを避けるため、10h以下が好ましい。
【0058】
本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物が含有するCeの量は、前記酸溶液中のセリウムイオンの濃度により調整することができる。ここで、セリウムイオンの濃度は0.0005〜0.025Mが好ましい。本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物が含有するCeの量は、多い方が、初期効率は向上するため、好ましい。また、Ceの量を多くしすぎないことにより、活物質表面に付着したCeがリチウムイオンの挿入離脱を阻害して活物質高率放電性能が低下する虞を低減できるため、好ましい。
なお、Ceの添加量は、本発明に係る活物質について、ICP分析で求めることができる。また、本発明に係る活物質がCeを含有することについては、CuKα線源を用いたXRDパターンにおいて、CeOに帰属される最強ピークが2θ=29±1°付近に観測されることにより推定することができる。さらに、本発明に係る活物質を空気中で1000℃で焼成すると、CeOの結晶性が高まるため、2θ=29±1°付近の回折ピークに加えて、2θ=33±1°付近、47±1°付近及び56±1°付近の回折ピークが顕在化するので、CeOの存在をより確実に推定できる。
【0059】
(負極活物質)
負極材料としては、限定されるものではなく、リチウムイオンを放出あるいは吸蔵することのできる形態のものであればどれを選択してもよい。例えば、Li[Li1/3Ti5/3]Oに代表されるスピネル型結晶構造を有するチタン酸リチウム等のチタン系材料、SiやSb,Sn系などの合金系材料リチウム金属、リチウム合金(リチウム−シリコン、リチウム−アルミニウム,リチウム−鉛,リチウム−スズ,リチウム−アルミニウム−スズ,リチウム−ガリウム,及びウッド合金等のリチウム金属含有合金)、リチウム複合酸化物(リチウム−チタン)、酸化珪素の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えばグラファイト、ハードカーボン、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)等が挙げられる。
【0060】
(正極・負極)
以上、正極及び負極の主要構成成分である正極活物質及び負極材料について詳述したが、前記正極及び負極には、前記主要構成成分の他に、導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等が、他の構成成分として含有されてもよい。
【0061】
導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば限定されないが、通常、天然黒鉛(鱗状黒鉛,鱗片状黒鉛,土状黒鉛等)、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維、金属(銅,ニッケル,アルミニウム,銀,金等)粉、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料を1種またはそれらの混合物として含ませることができる。
【0062】
これらの中で、導電剤としては、電子伝導性及び塗工性の観点よりアセチレンブラックが望ましい。導電剤の添加量は、正極または負極の総重量に対して0.1重量%〜50重量%が好ましく、特に0.5重量%〜30重量%が好ましい。特にアセチレンブラックを0.1〜0.5μmの超微粒子に粉砕して用いると必要炭素量を削減できるため望ましい。これらの混合方法は、物理的な混合であり、その理想とするところは均一混合である。そのため、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミルといったような粉体混合機を乾式、あるいは湿式で混合することが可能である。
【0063】
前記結着剤としては、通常、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリエチレン,ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM),スルホン化EPDM,スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーを1種または2種以上の混合物として用いることができる。結着剤の添加量は、正極または負極の総重量に対して1〜50重量%が好ましく、特に2〜30重量%が好ましい。
【0064】
フィラーとしては、電池性能に悪影響を及ぼさない材料であれば何でも良い。通常、ポリプロピレン,ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、無定形シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素等が用いられる。フィラーの添加量は、正極または負極の総重量に対して添加量は30重量%以下が好ましい。
【0065】
正極及び負極は、前記主要構成成分(正極においては正極活物質、負極においては負極材料)、およびその他の材料を混練し合剤とし、N−メチルピロリドン,トルエン等の有機溶媒又は水に混合させた後、得られた混合液をアルミニウム箔等の集電体の上に塗布し、または圧着して50℃〜250℃程度の温度で、2時間程度加熱処理することにより好適に作製される。前記塗布方法については、例えば、アプリケーターロールなどのローラーコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータ等の手段を用いて任意の厚さ及び任意の形状に塗布することが望ましいが、これらに限定されるものではない。
【0066】
(非水電解質)
本発明に係るリチウム二次電池に用いる非水電解質は、限定されるものではなく、一般にリチウム電池等への使用が提案されているものが使用可能である。非水電解質に用いる非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル類;テトラヒドロフランまたはその誘導体;1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジブトキシエタン、メチルジグライム等のエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキソランまたはその誘導体;エチレンスルフィド、スルホラン、スルトンまたはその誘導体等の単独またはそれら2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0067】
非水電解質に用いる電解質塩としては、例えば、LiClO4,LiBF4,LiAsF6,LiPF6,LiSCN,LiBr,LiI,Li2SO4,Li210Cl10,NaClO4,NaI,NaSCN,NaBr,KClO4,KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCF3SO3,LiN(CF3SO22,LiN(C25SO22,LiN(CF3SO2)(C49SO2),LiC(CF3SO23,LiC(C25SO23,(CH34NBF4,(CH34NBr,(C254NClO4,(C254NI,(C374NBr,(n−C494NClO4,(n−C494NI,(C254N−maleate,(C254N−benzoate,(C254N−phthalate、ステアリルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。
【0068】
さらに、LiPF6又はLiBF4と、LiN(C25SO22のようなパーフルオロアルキル基を有するリチウム塩とを混合して用いることにより、さらに電解質の粘度を下げることができるので、低温特性をさらに高めることができ、また、自己放電を抑制することができ、より望ましい。
【0069】
また、非水電解質として常温溶融塩やイオン液体を用いてもよい。
【0070】
非水電解質における電解質塩の濃度としては、高い電池特性を有する非水電解質電池を確実に得るために、0.1mol/l〜5mol/lが好ましく、さらに好ましくは、0.5mol/l〜2.5mol/lである。
【0071】
(セパレータ)
セパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。非水電解質電池用セパレータを構成する材料としては、例えばポリエチレン,ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等を挙げることができる。
【0072】
セパレータの空孔率は強度の観点から98体積%以下が好ましい。また、充放電特性の観点から空孔率は20体積%以上が好ましい。
【0073】
また、セパレータは、例えばアクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタアクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーと電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。非水電解質を上記のようにゲル状態で用いると、漏液を防止する効果がある点で好ましい。
【0074】
さらに、セパレータは、上述したような多孔膜や不織布等とポリマーゲルを併用して用いると、電解質の保液性が向上するため望ましい。即ち、ポリエチレン微孔膜の表面及び微孔壁面に厚さ数μm以下の親溶媒性ポリマーを被覆したフィルムを形成し、前記フィルムの微孔内に電解質を保持させることで、前記親溶媒性ポリマーがゲル化する。
【0075】
前記親溶媒性ポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデンの他、エチレンオキシド基やエステル基等を有するアクリレートモノマー、エポキシモノマー、イソシアナート基を有するモノマー等が架橋したポリマー等が挙げられる。該モノマーは、ラジカル開始剤を併用して加熱や紫外線(UV)を用いたり、電子線(EB)等の活性光線等を用いて架橋反応を行わせることが可能である。
【0076】
(リチウム二次電池の構成)
本発明のリチウム二次電池の構成については特に限定されるものではなく、正極、負極及びロール状のセパレータを有する円筒型電池、角型電池、扁平型電池等が一例として挙げられる。図1に角型電池の一例を示す。セパレータを挟んで巻回された正極及び負極よりなる電極群2が角型の電池容器3に収納され、正極リード4‘を介して正極端子4が、負極リード5’を介して負極端子5が電池容器外に導出されている。
【0077】
(蓄電装置の構成)
本発明のリチウム二次電池は、特に電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)などの自動車用電源として用いる場合に、複数のリチウム二次電池を集合して構成した蓄電装置(バッテリーモジュール)として搭載することができる。
図2に、リチウム二次電池1が集合した蓄電ユニット20をさらに集合した蓄電装置30の一例を示す。
【0078】
(充電電位)
従来の正極活物質も、本発明の活物質も、正極電位が4.5V(vs.Li/Li)付近に至って充放電が可能である。しかしながら、使用する非水電解質の種類によっては、充電時の正極電位が高すぎると、非水電解質が酸化分解され電池性能の低下を引き起こす虞がある。したがって、使用時において、充電時の正極の最大到達電位が4.3V(vs.Li/Li)以下となるような充電方法を採用しても、充分な放電容量が得られるリチウム二次電池が求められる場合がある。本発明の活物質を用いると、使用時において、充電時の正極の最大到達電位が4.5V(vs.Li/Li)より低くなるような、例えば、4.4V(vs.Li/Li)以下や4.3V(vs.Li/Li)以下となるような充電方法を採用しても、約200mAh/g以上という従来の正極活物質の容量を超える放電電気量を取り出すことが可能である。
【実施例】
【0079】
(実施例1)
<リチウム遷移金属複合酸化物の合成>
硫酸コバルト7水和物14.08g、硫酸ニッケル6水和物21.00g及び硫酸マンガン5水和物65.27gを秤量し、これらの全量をイオン交換水200mlに溶解させ、Co:Ni:Mnのモル比が12.50:19.94:67.56となる2.0Mの硫酸塩水溶液を作製した。一方、2Lの反応槽に750mlのイオン交換水を注ぎ、COガスを30minバブリングさせることにより、イオン交換水中にCOを溶解させた。反応槽の温度を50℃(±2℃)に設定し、攪拌モーターを備えたパドル翼を用いて反応槽内を700rpmの回転速度で攪拌しながら、前記硫酸塩水溶液を3ml/minの速度で滴下した。ここで、滴下の開始から終了までの間、2.0Mの炭酸ナトリウム、及び0.4Mのアンモニアを含有する水溶液を適宜滴下することにより、反応槽中のpHが常に7.9(±0.05)を保つように制御した。滴下終了後、反応槽内の攪拌をさらに5h継続した。攪拌の停止後、12h以上静置した。
次に、吸引ろ過装置を用いて、反応槽内に生成した共沈炭酸塩の粒子を分離し、さらにイオン交換水を用いて粒子に付着しているナトリウムイオンを洗浄除去し、電気炉を用いて、空気雰囲気中、常圧下、100℃にて20h乾燥させた。その後、粒径を揃えるために、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。このようにして、共沈炭酸塩前駆体を作製した。
前記共沈炭酸塩前駆体2.278gに、炭酸リチウムをLi:(Co,Ni,Mn)のモル比が1.44となるように加え、瑪瑙製自動乳鉢を用いてよく混合し、混合粉体を調製した。ペレット成型機を用いて、6MPaの圧力で成型し、直径25mmのペレットとした。ペレット成型に供した混合粉体の量は、想定する最終生成物の質量が2gとなるように換算して決定した。前記ペレット1個を全長約100mmのアルミナ製ボートに載置し、箱型電気炉(型番:AMF20)に設置し、空気雰囲気中、常圧下、常温から900℃の温度まで10時間かけて昇温し、昇温後温度で10h焼成した。前記箱型電気炉の内部寸法は、縦10cm、幅20cm、奥行き30cmであり、幅方向20cm間隔に電熱線が入っている。焼成後、ヒーターのスイッチを切り、アルミナ製ボートを炉内に置いたまま自然放冷した。この結果、炉の温度は5時間後には約200℃程度にまで低下するが、その後の降温速度はやや緩やかである。一昼夜経過後、炉の温度が100℃以下となっていることを確認してから、ペレットを取り出し、粒径を揃えるために、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。このようにして、Naを2100ppm含み、D50が13μmである出発物質のリチウム遷移金属複合酸化物Li1.18Co0.10Ni0.17Mn0.55を作製した。
【0080】
<セリウム添加酸処理>
300ml三角フラスコに硫酸セリウム四水和物0.0406gと、イオン交換水を加えて溶解し0.0005Mの硫酸セリウム水溶液を調製した。上記水溶液に、pHが1.6となるまで98wt%の硫酸を加えて混合し、酸溶液を調製した。なお、pH調整のために加える硫酸量は0.3ml以下とごく微量であるから、上記酸溶液中のセリウムイオン濃度は、上記水溶液中のセリウムイオン濃度と有効数字の範囲内で等しい。上記の酸溶液をスターラーを用いて、25℃、400rpmで撹拌しているところに、上記のリチウム遷移金属複合酸化物5.0g投入した。リチウム遷移金属複合酸化物を投入してから、30sec後に吸引ろ過することによって、ろ紙上にリチウム遷移金属複合酸化物を回収した。
このリチウム遷移金属複合酸化物を乾燥機(ヤマト科学社製)を用いて、空気中、常圧、80℃で16から18h乾燥させることによって、硫酸セリウム水溶液処理したリチウム遷移金属複合酸化物を得た。
【0081】
上記の酸溶液で処理したリチウム遷移金属複合酸化物5.0gをアルミナルツボのフタに加え、箱型電気炉(型番:AMF20)に設置し、空気中、昇温速度が5℃/min、熱処理温度が400℃、保持時間が4hの条件で熱処理することによって、Ceを含むリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0082】
(実施例2〜5)
酸溶液を調製する際に用いる硫酸セリウム水溶液として、0.001M、0.005M、0.01M、及び0.025Mの水溶液を使用した以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜5に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0083】
(比較例1)
酸処理を施さない以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0084】
(比較例2)
酸溶液として、水素イオン濃度が0.05Mの硫酸水溶液を使用した以外は実施例1と同様にして、比較例2に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0085】
(比較例3〜8)
硫酸セリウム水溶液に代えて、0.0005M、0.001M、0.005M、0.01M、0.025M及び0.05Mの硫酸スズ水溶液をそれぞれ使用した以外は実施例1と同様にして、比較例3〜8に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0086】
(比較例9)
硫酸セリウム水溶液に代えて、0.1Mの硫酸鉄水溶液を使用した以外は実施例1と同様にして、比較例9に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0087】
(比較例10)
硫酸セリウム水溶液に代えて、0.01Mの硫酸ジルコニウム水溶液を使用した以外は実施例1と同様にして、比較例10に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0088】
<半値幅の測定>
全ての実施例および比較例に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、次の条件及び手順に沿ってX線回折測定を行い、半値幅を決定した。X線回折装置(Rigaku社製、型名:MiniFlexII)を用いて粉末X線回折測定を行った。線源はCuKα、加速電圧及び電流はそれぞれ30kV及び15mAとした。サンプリング幅は0.01deg、走査時間は14分(スキャンスピードは5.0)、発散スリット幅は0.625deg、受光スリット幅は開放、散乱スリットは8.0mmとした。得られたX線回折データについて、前記X線回折装置の付属ソフトである「PDXL」を用いて、X線回折図上2θ=44°±1°に存在する回折ピークについて半値幅を決定した。
【0089】
<金属量の確認試験>
酸処理後の正極活物質に含まれる金属量をICP発光分光分析により定量した。なお、実施例1〜5に係る正極活物質粉末を水中に分散し、超音波洗浄機を用いて2分間超音波振動を与えた。この分散液を試料として粒度分布測定を行ったところ、析出していると考えられるCeOの粒径に相当する粒子は観測されなかった。したがって、Ce化合物は正極活物質表面に安定的に担持されていることがわかった。
【0090】
<リチウム二次電池の作製>
全ての実施例および比較例に係るリチウム遷移金属複合酸化物をそれぞれリチウム二次電池用正極活物質として用いて、以下の手順でリチウム二次電池を作製した。
【0091】
N−メチルピロリドンを分散媒とし、活物質、アセチレンブラック(AB)及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)が質量比90:4:6の割合で混練分散されている塗布用ペーストを作製した。該塗布ペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔集電体の片方の面に塗布し、正極板を作製した。なお、全ての実施例及び比較例に係るリチウム二次電池同士で試験条件が同一になるように、一定面積当たりに塗布されている活物質の質量及び塗布厚みを統一した。
【0092】
正極の単独挙動を正確に観察する目的のため、対極、即ち負極には金属リチウムをニッケル箔集電体に密着させて用いた。ここで、リチウム二次電池の容量が負極によって制限されないよう、負極には十分な量の金属リチウムを配置した。
【0093】
電解液として、エチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)/ジメチルカーボネート(DMC)が体積比6:7:7である混合溶媒に濃度が1mol/lとなるようにLiPFを溶解させた溶液を用いた。セパレータとして、ポリアクリレートで表面改質したポリプロピレン製の微孔膜を用いた。外装体には、ポリエチレンテレフタレート(15μm)/アルミニウム箔(50μm)/金属接着性ポリプロピレンフィルム(50μm)からなる金属樹脂複合フィルムを用い、正極端子及び負極端子の開放端部が外部露出するように電極を収納し、前記金属樹脂複合フィルムの内面同士が向かい合った融着代を注液孔となる部分を除いて気密封止した。前記電解液を注液後、注液孔を封止してリチウム二次電池を作製した。
【0094】
<リチウム二次電池の評価>
(初期効率)
以上の手順にて作製されたリチウム二次電池を、25℃の下、初期充放電工程に供した。充電は、電流0.1CA、電圧4.6Vの定電流定電圧充電とし、充電終止条件は電流値が1/5に減衰した時点とした。放電は、電流0.1CA、終止電圧2.0Vの定電流放電とした。この充放電を1サイクル行った。ここで、充電後及び放電後にそれぞれ10分の休止過程を設けた。この充放電試験における放電容量を充電電気量で割った値(%)を初期充放電効率(表1では、「初期効率」)として記録した。
【0095】
(放電容量維持率)
次に、30サイクルの充放電試験を行った。この充放電試験の条件は、充電は、電流0.2CA、電圧4.45Vの定電流定電圧充電とし、充電終止条件は電流値が1/10に減衰した時点とした。放電は、電流0.5CA、終止電圧2.0Vの定電流放電とした。この1サイクル目の放電容量に対する30サイクル目の放電容量の比(%)を放電容量維持率として記録した。
【0096】
実施例及び比較例に係るリチウム遷移金属複合酸化物、及びそれぞれをリチ
ウム二次電池用正極活物質として用いたリチウム二次電池の試験結果を表1に示す。なお、酸処理に用いた酸溶液中のCe、Sn、Fe又はZrイオン濃度を「金属イオン濃度(M)」として表1に示した。
【0097】
【表1】
【0098】
表1によると、「リチウム過剰型」の活物質に硫酸処理を施した比較例2は、酸処理を施さない比較例1より初期充放電効率が向上しているが、放電容量維持率は低下している。
金属イオン添加の酸処理により、活物質にSn添加(比較例3〜8)、又はFe添加(比較例9)を行った場合も、硫酸処理を施した比較例2の放電容量維持率を上回ることはない。Zr添加を行った比較例10は、硫酸処理を施した比較例2より放電容量維持率は向上しているが、初期効率が低下している。
【0099】
これに対して、Ceイオンを添加して酸処理を行った実施例1〜5は、初期効率、放電容量維持率が、いずれも酸処理を施さない比較例1、硫酸処理を施した比較例2、及びSnイオンやFeイオンを添加して酸処理を行った比較例3〜9を上回っている。また、Zrを添加して酸処理を行った比較例10と比べると、放電容量維持率に特段の差異が見られないものの、初期効率が優れている。
実施例1〜5では、X線回折データにおける2θ=44°±1°に存在する(104)面に帰属されるピークの半値幅が0.269〜0.273°であり、酸処理により適度な結晶性を有する活物質が得られ、初期効率が向上したことが確認できる。また、Ceを0.15〜3.37質量%含むことにより、初期効率が優れ、かつ放電容量維持率が高い活物質が得られることも確認できた。正極活物質がCeを含むことによって、正極活物質からのMnの溶出が抑制されたものと考えられる。
【0100】
なお、充放電サイクル後の正極活物質中のモル比Li/Meを次の手順によって確認した。上記充放電試験後、放電末状態の電池を解体して正極を単独で取り出し、金属リチウムを対極にしてセルを組み立て、充電電圧を4.3Vとして電流0.1CmAでの定電流充電を行った後、30分の休止をはさんで0.1CmAにて2.0Vに至るまで定電流放電を行い、放電末状態とした。再び取り出した正極板をジメチルカーボネート(DMC)で洗浄し、室温で30分真空乾燥した。乾燥後の正極から、正極活物質とABとPVdFとが混合している正極合剤50
mgを剥がし取り、35wt%塩酸中に加え、150℃で10分間煮沸することによって正極活物質のみを溶解した。この溶液をろ過することによってABとPVdFを取り除いた。得られたろ液についてICP発光分光分析をおこなった。その結果、モル比Li/Meは、合成後(充放電を行う前)のリチウム遷移金属複合酸化物のモル比Li/Meに対して97%であった。
したがって、原料の仕込み量によって定まるリチウム遷移金属複合酸化物のLi/Meは、活物質として電池電極に用いると、充放電状態によってLi量が変化してしまうが、電池を解体して上記の処理を経て測定されるLi量に、3%分加味することにより、正極活物質の合成後(充放電を行う前)のLi/Me量を推定することができる。
【0101】
また、充放電サイクル後の正極及び負極について、ICP発光分光分析によりCe量を求めたところ、ほぼ100%が正極側から検出された。したがって、充放電サイクル後の電池においても、Ceは正極活物質から消失することがなく、安定的に存在していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
以上のとおり、本発明は、初期効率が優れ、かつ放電容量維持率の高いリチウム二次電池用正極活物質、その正極活物質を含有するリチウム二次電池用電極、及びその電極を備えたリチウム二次電池を提供することができるから、ハイブリッド自動車用、電気自動車用電池としての利用が期待できる。
【符号の説明】
【0103】
1 リチウム二次電池
2 電極群
3 電池容器
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置

図1
図2