【実施例】
【0028】
本発明の実施の形態に係る動力出力装置1は、
図1に示すように、モータ2と、バッテリ4と、モータ2およびバッテリ4に電気的に接続されたインバータ6と、モータ2に機械的に接続された減速機20と、を備えている。モータ2は、本発明における「電動機」に対応し、減速機20は、本発明における「動力伝達装置」に対応する実施構成の一例である。
【0029】
モータ2は、
図1に示すように、モータハウジング2aと、当該モータハウジング2aに回転可能に支持された回転軸2bと、回転軸2bに固定されたロータ2cと、モータハウジング2aに固定されたステータ2dと、から主に構成されている。ロータ2cには、図示しない永久磁石が埋め込まれており、ステータ2dには、図示しないコイルが巻線されている。モータ2は、例えば、三相同期交流モータとして構成されている。
【0030】
インバータ6は、図示しないスイッチング素子により電流の向きを変える高周波制御器として構成されている。インバータ6は、力行時にはバッテリ4からの直流を三相交流に変換してモータ2へ供給し、回生時にはモータ2からの三相交流を直流に変換してバッテリ4へ供給する。インバータ6は、直流電力ラインL1を介してバッテリ4に接続されていると共に、三相交流電力ラインL2を介してモータ2のコイルに接続されている。
【0031】
減速機20は、
図1に示すように、モータ2の回転軸2bに接続された入力軸22と、減速ギヤ機構RGMを介して入力軸22に接続された出力軸24と、出力ギヤ機構OGMを介して出力軸24に接続されたディファレンシャル装置26と、これらを収容する減速機ケース28と、出力軸24に電気的に接続されたブラシ装置30と、ブラシ装置30を覆うように減速機ケース28に取り付けられたカバー32と、を備えている。出力軸24は、本発明における「駆動軸」に対応し、ブラシ装置30は、本発明における「ブラシ部材」に対応し、カバー32は、本発明における「カバー部材」に対応する実施構成の一例である。
【0032】
入力軸22は、
図1に示すように、モータ2の回転軸2bに同軸状に接続されており、ベアリングB1,B1を介して減速機ケース28に回転可能に支持されている。なお、本実施の形態では、入力軸22とモータ2の回転軸2bとの接続は、入力軸22の内周面に形成したスプライン凹条と、モータ2の回転軸2bの外周面に形成したスプライン突条とをスプライン嵌合することにより行う構成としている。
【0033】
また、入力軸22のうちモータ2の回転軸2bに接続される側の端部(
図1の右側端部)は、オイルシールOS1によってシール分離されている。言い換えると、当該入力軸の端部は、オイルシールOS1を介して減速機ケース28の外方に突出しているとも言える。
【0034】
オイルシールOS1は、減速機ケース28のうち後述するハウジング部28aに取り付けられている。なお、ベアリングB1は、オイルシールOS1を挟んで入力軸22の先端とは反対側(減速機ケース28の内側)において減速機ケース28に支持されている。
【0035】
出力軸24は、
図1に示すように、入力軸22に平行となるようにベアリングB2,B2を介して減速機ケース28に回転可能に支持されている。出力軸24の両端部は、オイルシールOS2,OS3によってシール分離されている。言い換えると、当該出力軸24の両端部は、オイルシールOS2,OS3を介して減速機ケース28の外方に突出しているとも言える。オイルシールOS2,OS3は、本発明における「シール部材」に対応する実施構成の一例である。
【0036】
特に、出力軸24の端部のうちモータ2が配置される側とは反対側(
図1の左側の端部)の端部24aは、
図1および
図2に示すように、オイルシールOS2を介して減速機ケース28の外方に大きく突出している。当該端部24aの外周面は、ブラシ装置30(後述する摺接ブラシ30a)が摺接するスリップリング面として構成されている。
【0037】
オイルシールOS2は、減速機ケース28のうち後述するケース本体部28bに取り付けられ、オイルシールOS3は、減速機ケース28のうち後述するハウジング部28aに取り付けられている。
【0038】
また、出力軸24の内部は、
図2に示すように、軸線方向に貫通する貫通孔25が形成されている。貫通孔25は、端部24a寄りに形成された小径孔25aと、端部24aとは反対側の端部24b寄りに形成された大径孔25bと、を有する段付き孔として構成されている。
【0039】
減速ギヤ機構RGMは、
図1に示すように、入力軸22に一体成形された駆動ギヤGと、駆動ギヤGと噛合うように出力軸24に固定された被駆動ギヤG’と、を備えている。駆動ギヤGは、被駆動ギヤG’よりも小径かつ歯数が少なくなるように構成されている。即ち、減速ギヤ機構RGMは、入力軸22に入力された動力を所定の減速比をもって出力軸24に伝達するように構成されている。減速ギヤ機構RGMは、本発明における「第1のギヤ機構」に対応する実施構成の一例である。
【0040】
出力ギヤ機構OGMは、
図1に示すように、出力軸24に一体成形された出力ギヤOGと、当該出力ギヤOGと噛合うようにディファレンシャル装置26に取り付けられたリングギヤRGと、を備えている。出力ギヤOGは、リングギヤRGよりも小径かつ歯数が少なくなるように構成されている。即ち、出力ギヤ機構OGMは、出力軸24に伝達された動力を所定の減速比をもってディファレンシャル装置26に伝達するように構成されている。出力ギヤ機構OGMは、本発明における「第2のギヤ機構」に対応する実施構成の一例である。
【0041】
ディファレンシャル装置26は、左右の車軸29,29に生ずる速度差(回転数差)を吸収しつつ動力を分配して伝達するように構成されている。
【0042】
減速機ケース28は、
図1に示すように、ハウジング部28aと、ハウジング部28aに接続されるケース本体部28bと、を備えている。減速機ケース28は、本発明における「ケース部材」に対応する実施構成の一例である。
【0043】
ハウジング部28aは、
図1に示すように、ボルト(図示せず)などによってモータ2のモータハウジング2aに締結される。ハウジング部28aは、モータハウジング2aに締結された際に、モータ2との間に空間SPが形成されるように構成されている。出力軸24が減速機ケース28に支持された際に、出力軸24の貫通孔25の大径孔25bが当該空間SPに開口する。
【0044】
ハウジング部28aの下方部分(動力出力装置1が車載された際に鉛直方向において下方となる部分、
図1の下方部分)には、
図1に示すように、空間SP内に溜まった水などをハウジング部28aの外部に排出するための水抜き用孔Hが形成されている。
【0045】
また、ハウジング部28aの上方部分(動力出力装置1が車載された際に鉛直方向において上方となる部分、
図1の上方部分)には、
図1に示すように、減速機ケース28の内部(ハウジング部28aとケース本体部28bとによって構成される空間)と、空間SPとを連通する連通パイプPが空間SP内に突出した状態で取り付けられている。なお、連通パイプPの開口のうち減速機ケース28の内部側の開口は、遮蔽部材36によって覆われている。遮蔽部材36は、ハウジング部28aに取り付け固定されている。
【0046】
これにより、減速機ケース28の内部(後述する収容室28c)が、連通パイプP、空間SPおよび水抜き用孔Hを介して外気に連通されるため、減速機ケース28の内部(後述する収容室28c)の圧力を常に大気圧程度に維持することができる。この結果、オイルシールOS1,OS2,OS3の吹き抜けを良好に防止することができる。
【0047】
なお、連通パイプPの開口のうち減速機ケース28の内部側の開口が、遮蔽部材36によって覆われているため、減速機ケース28の内部(後述する収容室28c)において減速ギヤ機構RGMや出力ギヤ機構OGMによって掻き上げられて飛散する潤滑油が、連通パイプPから噴き出ることを抑制することができる。
【0048】
ケース本体部28bは、
図1に示すように、ボルト(図示せず)などによってハウジング部28aに締結される。ケース本体部28bとハウジング部28aとによって、入力軸22、出力軸24、減速ギヤ機構RGM、出力ギヤ機構OGMおよびディファレンシャル装置26を収容するための収容室28cが構成される。
【0049】
ブラシ装置30は、
図2に示すように、摺接ブラシ30a,30aと、ブラシケース30bと、リード線30cと、を備えている。摺接ブラシ30a,30aは、出力軸24の端部24aの外周面に対して低い摩擦抵抗および低い電気抵抗をもって接触するように、耐摩耗性を有する金属によって構成されている。
【0050】
ブラシケース30bは、絶縁部材によって構成されている。ブラシケース30bは、図示しないスプリングを介して摺接ブラシ30a,30aを保持している。ブラシケース30bは、
図3に示すように、ボルトBLT1,BLT1によって減速機ケース28のケース本体部28bに取り付け固定される。このとき、摺接ブラシ30a,30aは、スプリングの付勢力によって出力軸24の端部24aの外周面に押し付けられた状態となる。これにより、摺接ブラシ30a,30aが安定して出力軸24の端部24aの外周面に摺接することができる。
【0051】
リード線30cは、摺接ブラシ30a,30aと減速機ケース28のケース本体部28bとを電気的に接続している。なお、減速機ケース28は、図示しない電力ラインによって車体(図示せず)と電気的に接続されている。
【0052】
カバー32は、
図3に示すように、正面視略円形のカップ状に構成されている。カバー32は、
図2および
図3に示すように、出力軸24の端部24aおよびブラシ装置30を覆うように減速機ケース28のケース本体部28bに三つのボルトBLT2によって締結されている。カバー32がケース本体部28bに締結されることにより、ブラシ室BRが構成される。
【0053】
次に、こうして構成された動力出力装置1の動作に伴って生ずる高周波ノイズを低減する際のブラシ室BR内の空気の動きについて説明する。動力出力装置1の駆動に伴ってインバータ6が作動されると、当該インバータ6のスイッチング動作に起因して高周波ノイズが発生する。発生した高周波ノイズは、三相交流電力ラインL2およびモータ2のステータ2d(コイル)を経てモータ2の回転軸2bに伝達される。
【0054】
モータ2の回転軸2bに伝達された高周波ノイズは、減速機20の入力軸22および減速ギヤ機構RGMを経て出力軸24に伝達される。ここで、出力軸24の端部24aには、摺接ブラシ30a,30aが摺接されており、ブラシ装置30を介して出力軸24と減速機ケース28とが電気的に導通されている。これにより、出力軸24に伝達された高周波ノイズは、減速機ケース28に伝達されることとなり、動力伝達経路上において出力軸24よりも下流側に伝達される高周波ノイズを低減することができる。
【0055】
なお、動力伝達経路を構成する減速機20の構成要素のうち高周波ノイズの発生源であるインバータ6に対して比較的遠くに配置される出力軸24にブラシ装置30を摺接させる構成であるため、例えば、インバータ6に対して比較的近くに配置されるモータ2の回転軸2bにブラシ装置30を摺接させる構成に比べて、動力伝達経路上において当該摺接部よりも下流側に伝達される高周波ノイズの低減を効果的に図ることができる。
【0056】
ところで、収容室28c内の熱、例えば、減速ギヤ機構RGMや出力ギヤ機構OGMの噛合いなどに伴なって生ずる熱や、摺接ブラシ30a,30aと出力軸24の端部24aとの摺接に伴なって生ずる熱が、ブラシ室BRへ伝達することによりブラシ室BR内は高温高圧となり得るが、本実施の形態によれば、高温高圧となったブラシ室BR内の空気は、出力軸24の貫通孔25、減速機ケース28のハウジング部28aとモータ2のモータハウジング2aとにより構成された空間SPおよび水抜き用孔Hを介して外気に排出される。これにより、ブラシ室BR内の圧力を常に大気圧程度に維持することができる。
【0057】
このように、本実施の形態では、ブラシ室BRにブリーザパイプなどの専用部品を設けることなく、ブラシ室BRと収容室28cとの間に大きな差圧が生じることを防止できるため、部品点数の増加を抑制しながらオイルシールOS2の吹き抜けを良好に防止することができる。また、ブリーザパイプを必要としない構成であるため、ブラシ室BR内に水等が浸入しないようにブリーザパイプの配置を考慮する必要もない。
【0058】
なお、摺接ブラシ30a,30aと出力軸24の端部24aとの摺接によって摩耗粉が生じるが、当該摩耗粉は、上述したブラシ室BR内の空気の流れに乗って外気に放出される。ここで、摺接ブラシ30a,30aおよび出力軸24の端部24aの摺接部と、貫通孔25(小径孔25a)との距離が近いため、生じた摩耗粉を効率良く当該貫通孔25(小径孔25a)から排出することができる。
【0059】
これにより、摺接ブラシ30a,30aと出力軸24の端部24aとの摺接によって生じた摩耗粉の噛み込みによるオイルシールOS2の損傷を良好に防止することができる。
【0060】
また、本発明によれば、ブラシ室BRが貫通孔25、空間SPおよび水抜き用孔Hを介して外気と連通する構成であるため、ブラシ室BRが貫通孔25を介して直接外気に連通する構成や、ブリーザパイプを介して直接外気に連通する構成に比べて水や異物などのブラシ室BRへの浸入を効果的に抑制することができる。
【0061】
本実施の形態では、ブラシ装置30を出力軸24の端部24aの外周面に摺接させる構成としたが、これに限らない。
【0062】
例えば、ブラシ装置30を出力軸24の端部24bの外周面に摺接させる構成としても良い。この場合、出力軸24の端部24b側をオイルシールOS1を介して減速機ケース28の外方(モータ2側)に大きく突出させると共に、当該端部24bの外周面にブラシ装置30を摺接させる構成とすれば良い。なお、ブラシ装置30およびカバー32は、空間SP内に配置される。そして、出力軸24の端部24a側においては、貫通孔25を直接外気に連通させる構成、あるいは、開口を有するカバー部材などによって端部24a側を覆い、開口を介して貫通孔25を間接的に外気に連通させる構成とすれば良い。
【0063】
また、減速機28が入力軸22と出力軸24とに加えて、入力軸22および出力軸24の間にカウンタ軸を有する構成の場合には、ブラシ装置30を当該カウンタ軸の端部の外周面に摺接させる構成としても良い。この場合、カウンタ軸は、両端部をオイルシールによってシール分離した状態にすると共に、カウンタ軸の内部に軸線方向に貫通する貫通孔を設ける構成とすれば良い。
【0064】
さらに、
図4に例示する変形例の動力出力装置100に示すように、ブラシ装置30を入力軸122の端部122aの外周面に摺接させる構成としても良い。この場合、
図4に示すように、入力軸122の両端部は、オイルシールOS1,OS2によってシール分離された状態にすると共に、入力軸122の内部に軸線方向に貫通する貫通孔125を設ける構成とすれば良い。
【0065】
なお、貫通孔125と空間SPとの連通は、
図5に示すように、入力軸122の端部122bの内周面(入力軸122の貫通孔125)に形成されたスプライン凹条122cの内径を、モータ2の回転軸2bの外周面に形成されたスプライン突条2b’の外径よりも大きく形成することにより行う構成、あるいは、これとは逆に、モータ2の回転軸2bの外周面に形成されたスプライン突条2b’の溝部の外径を、入力軸122の端部122bの内周面(入力軸122の貫通孔125)に形成されたスプライン凹条122cの凸部の内径よりも小さく形成することにより行う構成とすれば良い。
【0066】
なお、入力軸122の端部122bの内周面(入力軸122の貫通孔125)に形成されたスプライン凹条122cと、モータ2の回転軸2bの外周面に形成されたスプライン突条と、をスプライン嵌合することにより、入力軸122とモータ2の回転軸2bとが同軸状に接続される。
【0067】
本実施の形態では、モータ2からの動力を減速機20によって所定の減速比をもって車軸29,29に伝達する構成としたが、これに限らない。例えば、モータ2からの動力を変速機によって異なる変速比をもって車軸29,29に伝達する構成としても良い。
【0068】
この場合、ブラシ装置30は、インバータ6から遠い位置に配置される軸、例えば、出力軸に摺接させる構成が望ましい。
【0069】
本実施の形態では、ブラシ室BRを外気に連通させるために水抜き用孔Hを利用する構成としたが、これに限らない。例えば、空間SPと外気とを連通するようにハウジング部28aに形成された他の開口をブラシ室BRと外気との連通に利用する構成としても良い。あるいは、ブラシ室BRを外気に連通させるための専用の開口をハウジング部28aに形成する構成としても良い。
【0070】
本実施の形態では、モータ2からの動力のみを出力軸24に出力する動力出力装置としたが、モータ2からの動力に加えてエンジンからの動力も出力軸24に出力することができる動力出力装置にも適用できる。なお、この場合、出力軸24とは異なる出力軸を設け、エンジンからの動力は、当該出力軸24とは異なる出力軸に出力する構成としても良い。
【0071】
本実施形態は、本発明を実施するための形態の一例を示すものである。したがって、本発明は、本実施形態の構成に限定されるものではない。