特許第6460654号(P6460654)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6460654
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】低汚染性塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/04 20060101AFI20190121BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20190121BHJP
   C09D 127/12 20060101ALI20190121BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20190121BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20190121BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20190121BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20190121BHJP
【FI】
   C09D133/04
   C09D183/04
   C09D127/12
   C09D5/16
   C09D7/63
   C09D7/65
   C09D7/61
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-122684(P2014-122684)
(22)【出願日】2014年6月13日
(65)【公開番号】特開2016-3249(P2016-3249A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2017年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】515096952
【氏名又は名称】日本ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】加茂 比呂毅
(72)【発明者】
【氏名】高橋 文子
【審査官】 上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−229984(JP,A)
【文献】 特開平11−217540(JP,A)
【文献】 特開2001−026674(JP,A)
【文献】 特開2000−038518(JP,A)
【文献】 特開平06−287511(JP,A)
【文献】 特開平10−025450(JP,A)
【文献】 特開平05−263037(JP,A)
【文献】 特開2003−049111(JP,A)
【文献】 特開2002−038085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−10/00
C09D 101/00−201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水化処理された窯業基材の表面に低汚染性塗膜を形成するために用いられる低汚染性塗料組成物であって、
アクリル樹脂、シリコーン樹脂及びフッ素樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂(A)と、
イソシアネート化合物からなる架橋剤(B)と、
メチルシリケート、エチルシリケート及びエチルメチルシリケート化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のシリケート化合物及びその部分加水分解縮合物の両方又は一方からなる親水化剤(C)と、
フッ素変性シリコーン化合物からなる消泡剤(D)と、
エポキシ基又はアミノ基を有するアルコキシシランからなるシランカップリング剤(E)と、を含み、
前記樹脂(A)と前記架橋剤(B)の合計質量に対する前記親水化剤(C)の質量の比率が1.0〜20.0%であり、
前記樹脂(A)と前記架橋剤(B)の合計質量に対する前記消泡剤(D)の質量の比率が0.001〜0.5%であることを特徴とする低汚染性塗料組成物。
【請求項2】
前記低汚染性塗料組成物は、艶消し剤(F)をさらに含み、
前記艶消し剤(F)は、平均粒子径が1〜20μmの疎水性シリカ粒子(F1)と、平均粒子径が5〜25μmの樹脂粒子(F2)とを、質量比で樹脂粒子(F2)/疎水性シリカ粒子(F1)=0.1〜1.0含むことを特徴とする請求項1に記載の低汚染性塗料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低汚染性塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物の屋根や外壁等の表面には、大気中の塵埃や雨水等が付着することで生じる汚れを抑制する目的で、低汚染性塗料が塗装される。低汚染性塗料組成物には、通常、親水化剤(低汚染化剤)としてのアルキルシリケート化合物及びその部分加水分解縮合物(以下、「アルキルシリケート」という。)が配合される(例えば、特許文献1〜3参照)。このアルキルシリケートは、塗膜表面に局在化するとともに、加水分解によりシラノール基を生成して塗膜表面を親水化することで、低汚染性を発現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第94/06870号
【特許文献2】特開2008−13756号公報
【特許文献3】特開2012−82270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の低汚染性塗膜はトップコートであるため、良好な塗膜外観が求められる。そのため、上記の低汚染性塗料組成物には、塗膜外観を向上させる目的で、消泡剤が配合される。しかしながら、従来一般的な鉱物油系やシリコーン系消泡剤を上記の低汚染性塗料組成物に配合すると、塗膜の低汚染性が低下するという問題があった。従って、優れた低汚染性と良好な塗膜外観を両立できる低汚染性塗料の開発が望まれる。
【0005】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、優れた低汚染性と良好な塗膜外観を両立できる低汚染性塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明は、基材の表面に低汚染性塗膜を形成するために用いられる低汚染性塗料組成物であって、アクリル樹脂、シリコーン樹脂及びフッ素樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂(A)と、イソシアネート化合物からなる架橋剤(B)と、メチルシリケート、エチルシリケート及びエチルメチルシリケート化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のシリケート化合物及びその部分加水分解縮合物の両方又は一方からなる親水化剤(C)と、フッ素変性シリコーン化合物からなる消泡剤(D)と、を含み、前記樹脂(A)と前記架橋剤(B)の合計質量に対する前記親水化剤(C)の質量の比率が1.0〜20.0%であり、前記樹脂(A)と前記架橋剤(B)の合計質量に対する前記消泡剤(D)の質量の比率が0.001〜0.5%であることを特徴とする低汚染性塗料組成物を提供する。
【0008】
前記基材は、親水化処理された窯業基材であり、前記低汚染性塗料組成物は、前記エポキシ基又はアミノ基を有するアルコキシシランからなるシランカップリング剤(E)をさらに含むことが好ましい。
【0009】
前記低汚染性塗料組成物は、艶消し剤(F)をさらに含み、前記艶消し剤(F)は、平均粒子径が1〜20μmの疎水性シリカ粒子(F1)と、平均粒子径が5〜25μmの樹脂粒子(F2)とを、質量比で樹脂粒子(F2)/疎水性シリカ粒子(F1)=0.1〜1.0含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた低汚染性と良好な塗膜外観を両立できる低汚染性塗料を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態に係る低汚染性塗料組成物は、基材の表面に低汚染性塗膜を形成するために用いられる。好ましくは、本実施形態に係る低汚染性塗料組成物は、基材の表面に低汚染性クリヤー塗膜を形成するために用いられる低汚染性クリヤー塗料組成物である。以下、本実施形態に係る低汚染性クリヤー塗料組成物について、詳細に説明する。
【0012】
<基材>
先ず、基材としては、高意匠性のサイディングボードが好ましく用いられる。本実施形態に係る低汚染性クリヤー塗料組成物は、例えば建物の外壁に用いられた高意匠性のサイディングボードの塗り替えに適用されることで、優れた低汚染性と良好な塗膜外観が得られる。高意匠性のサイディングボードの中でも、親水化処理された窯業基材が好ましく用いられる。親水化処理された窯業基材は難付着性の基材であるところ、本実施形態に係る低汚染性クリヤー塗料組成物によれば、後述のシランカップリング剤(E)を含有することで良好な付着性が得られるためである。
【0013】
具体的には、JIS A 5422に記載された窯業系サイディングや、JIS A 5430に記載された繊維強化セメント板等の窯業基材の表面に、従来公知の低汚染性塗料組成物を塗装して親水化処理したものが好ましく用いられる。従来公知の低汚染性塗料組成物としては、例えば、光触媒コーティング材(光触媒による超親水性及び有機物分解性によって低汚染性能が発揮される)、低汚染性アクリルシリコーン塗料組成物、低汚染性フッ素系樹脂塗料組成物及びシリカ微粒子の水分散体を主成分とする親水コーティング材等が挙げられる。
【0014】
窯業基材の塗膜表面が親水化処理された窯業基材の具体例としては、ニチハ社製「モエンエクセラード18」、「モエンエクセラード16」、ケイミュー社製「ネオロック・光セラ16」、「ネオロック・親水セラ16」、「セラディール・親水パワーコート」及び「エクセレージ15 パワーコート」、旭トステム外装社製「AT−WALL15やまがた割肌タイル16SX」及び「AT−WALL15ニューアルマトーレSX」、並びに、東レACE社製「トレステージ」及び「トレリード」等が挙げられる。
【0015】
<低汚染性塗料組成物>
本実施形態に係る低汚染性クリヤー塗料組成物は、樹脂(A)と、架橋剤(B)と、親水化剤(C)と、消泡剤(D)と、を含有する。
また、本実施形態に係る低汚染性クリヤー塗料組成物は、好ましくはシランカップリング剤(E)をさらに含有し、必要に応じて艶消し剤(F)をさらに含有する。
【0016】
本実施形態に係る低汚染性クリヤー塗料組成物は、主剤と硬化剤との組み合わせからなる2液型塗料組成物であることが好ましい。例えば、主剤は、樹脂(A)と、消泡剤(D)と、を含んで構成され、硬化剤は、架橋剤(B)と、親水化剤(C)と、を含んで構成される。ただし、これに限定されず、例えば親水化剤(C)を主剤中に配合してもよい。また、艶消し剤(F)は、主剤中に配合されるのが好ましい。
【0017】
[樹脂(A)]
樹脂(A)は、アクリル樹脂、シリコーン樹脂及びフッ素樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂からなる。
樹脂(A)は、本実施形態に係る低汚染性クリヤー塗料組成物中に10〜70質量%含有されていることが好ましい。樹脂(A)のより好ましい含有量は、30〜50質量%である。
【0018】
アクリル樹脂としては、アクリル系モノマーの共重合体の他、アクリル系モノマーと他のエチレン性不飽和モノマーとの共重合体が挙げられる。
アクリル系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、2−エチルヘキシル、ラウリル、フェニル、ベンジル、2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピル等のエステル化物、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルのカプロラクトン開環付加物、(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等が挙げられる。
これらアクリル系モノマーと共重合可能な他のエチレン性不飽和モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン(又はダイマー)、イタコン酸、マレイン酸、酢酸ビニル等が挙げられる。
上記アクリル樹脂としては、市販品を用いることができる。例えば上記アクリル樹脂として、DIC社製「アクリディックA−875−55」(固形分55質量%)を用いることができる。
【0019】
シリコーン樹脂としては、珪素含有アクリル系モノマーと、当該珪素含有アクリル系モノマーと共重合可能なアクリル系モノマーや当該アクリル系モノマーと共重合可能な他のモノマー等と、をラジカル共重合させて得られるものやシロキサン結合を主骨格として持つようなポリシロキサン樹脂等が挙げられる。
上記シリコーン樹脂としては、市販品を用いることができる。例えば上記シリコーン樹脂として、カネカ社製「カネカゼムラックYC−4805」(固形分50質量%)を用いることができる。
【0020】
フッ素樹脂としては、フッ化ビニリデン樹脂、三フッ化塩化エチレン樹脂及び四フッ化エチレン樹脂のうちいずれか又はこれらの混合体からなる樹脂等が挙げられる。また、フッ素樹脂としては、フルオロオレフィンとヒドロキシ基含有の重合性化合物及びその他の共重合可能なビニル系化合物からなるモノマー混合物を共重合させて得られる各種フッ素系共重合体からなる樹脂が挙げられる。
上記フッ素樹脂としては、市販品を用いることができる。例えば上記フッ素樹脂として、ダイキン工業社製「ゼッフルGK−580」(固形分51質量%)を用いることができる。
【0021】
[架橋剤(B)]
架橋剤(B)は、イソシアネート化合物からなる。
イソシアネート化合物としては、2,4−トリレンジイソシアネート(2,4−TDI)、2,6−トリレンジイソシアネート(2,6−TDI)及びこれらの混合物(TDI)、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(4,4’−MDI)、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート(2,4’−MDI)及びこれらの混合物(MDI)、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート(NDI)、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ジシクロへキシルメタン・ジイソシアネート(水素化HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、へキサメチレンジイソシアネート(HDI)、水素化キシリレンジイソシアネート(HXDI)等が挙げられる。
上記イソシアネート化合物としては、市販品を用いることができる。例えば上記イソシアネート化合物として、旭化成ケミカルズ社製「デュラネートTSA−100」(弱溶剤可溶型HDI、固形分100質量%、NCO=20.6%)を用いることができる。
【0022】
架橋剤(B)は、本実施形態に係る低汚染性クリヤー塗料組成物中に1〜10質量%含有されていることが好ましい。架橋剤(B)のより好ましい含有量は、3〜8質量%である。
【0023】
[親水化剤(C)]
親水化剤(C)は、アルキルシリケート化合物及びその部分加水分解縮合物の両方又は一方(以下、「アルキルシリケート」という。)からなる。親水化剤(C)は、塗膜表面に配向して局在化し、塗膜表面を親水化させることで低汚染化剤として機能し、塗膜の低汚染性を向上させる。ここで、「低汚染性」とは、塗膜表面において汚れが付着し難い性質を意味する。
【0024】
アルキルシリケート化合物は、加水分解性の珪素基を有し、下記一般式(1)で表わされる。
[化1]

Si(OR)(1) ・・・(1)

上記式(1)中、Rは、炭素数1〜4個のアルキル基を示し、同一でも異なっていてもよい。
【0025】
上記式(1)で表わされるアルキルシリケート化合物としては、テトラメチルシリケート、テトラエチルシリケート、テトラ−n−プロピルシリケート、テトラ−i−プロピルシリケート、テトラ−n−ブチルシリケート、テトラ−i−ブチルシリケート、テトラ−t−ブチルシリケート、メチルエチルシリケート、メチルプロピルシリケート、メチルブチルシリケート、エチルプロピルシリケート、プロピルブチルシリケート等が挙げられる。これらのうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
アルキルシリケート化合物の部分加水分解縮合物としては、上記の各アルキルシリケート化合物が部分的に加水分解縮合したものが挙げられる。その縮合度としては、1〜20が好ましく、より好ましい縮合度は、3〜15である。
【0027】
上記アルキルシリケートとしては、市販品を用いることができる。例えば上記アルキルシリケートとして、コルコート社製「エチルシリケート48」(テトラエトキシシラン部分縮合物)、三菱化学社製「MKCシリケート MS51」(テトラメトキシシラン部分加水分解縮合物)、コルコート社製「EMS485」(エチルメチルシリケート部分加水分解縮合物)を用いることができる。
【0028】
アルキルシリケートからなる親水化剤(C)は、樹脂(A)と架橋剤(B)の合計質量に対する質量比率が、1.0〜20.0%であることが好ましい。アルキルシリケートからなる親水化剤(C)の質量比率がこの範囲内であれば、優れた低汚染性が得られる。アルキルシリケートからなる親水化剤(C)のより好ましい質量比率は、5〜15%である。
【0029】
[消泡剤(D)]
消泡剤(D)は、フッ素化合物からなる。
フッ素化合物からなる消泡剤(D)としては、パーフルオロエーテル化合物、パーフルオロアルキル基含有シリコーン化合物及びフッ素変性ポリシロキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0030】
ここで、従来一般的に用いられている消泡剤としては、鉱物油系と、有機系(非シリコーン系)と、シリコーン系が挙げられる。鉱物油系は、最も安価で古くから汎用されており、有機系(非シリコーン系)としては、ビニルエーテル系、アクリル系、ブタジエン系等が一般的に用いられている。シリコーン系には、オイル、コンパウンド、溶液、粉末、エマルション、自己乳化等の種々のタイプがある。
これら消泡剤は、疎水性を有し、塗膜表面に配向して局在化することで、消泡性を発現する。中でも、シリコーン系の消泡剤は、その低い表面張力により最も塗膜表面への配向性が強く、塗膜表面に局在化し易いため、鉱物油系や有機系と比べて少量の添加量で最も優れた消泡性を有する。
【0031】
ところが、上記の各消泡剤が塗膜表面に局在化すると、親水化剤(C)による親水性の発現を阻害し、十分な低汚染性が得られないという問題があった。これに対して、本実施形態のフッ素化合物からなる消泡剤(D)によれば、特に強い消泡効果を有し、最も少ない添加量で消泡効果が発揮され、親水化剤(C)による低汚染性の発現を阻害し難いという利点を有する。即ち、フッ素化合物からなる消泡剤(D)を含有する本実施形態の低汚染性クリヤー塗料組成物によれば、十分な低汚染性が発現されるとともに、優れた消泡性が得られ、良好な塗膜外観が得られる。
【0032】
上記フッ素化合物としては、市販品を用いることができる。例えば上記フッ素化合物として、信越シリコーン社製「FA−630」(フロロシリコーン系、有効成分100%)、信越シリコーン社製「FA−600」(フロロシリコーン系、有効成分30%)、信越シリコーン社製「KS−7709」(フロロシリコーン系、有効成分8%)、ビックケミージャパン社製「BYK−065」(フッ素系ポリシロキサン、有効成分0.7%)、ビックケミージャパン社製「BYK−066N」(フッ素系ポリシロキサン、有効成分0.7%)、共栄社化学社製「フローレンAO−82」(フッ素変性シリコーン、有効成分1.8%)、共栄社化学社製「フローレンAO−108」(フッ素変性シリコーン、有効成分40%)等を用いることができる。なお、有効成分とは、フッ素化合物を意味する。
【0033】
フッ素化合物からなる消泡剤(D)は、樹脂(A)と架橋剤(B)の合計質量に対する質量比率が、0.001〜0.5%であることが好ましい。フッ素化合物からなる消泡剤(D)の質量比率がこの範囲内であれば、優れた消泡性が得られる。フッ素化合物からなる消泡剤(D)のより好ましい質量比率は、0.002〜0.2%である。
【0034】
[シランカップリング剤(E)]
上述した通り、本実施形態に係る低汚染性クリヤー塗料組成物は、シランカップリング剤(E)を含有することが好ましい。これにより、難付着性の親水化処理された窯業基材に対しても、優れた付着性を有する低汚染性クリヤー塗膜が得られる。
シランカップリング剤(E)としては、エポキシ基又はアミノ基を有するアルコキシシランからなることが好ましい。
【0035】
エポキシ基を有するアルコキシシランとしては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0036】
アミノ基を有するアルコキシシランとしては、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ベンジル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ビニルベンジル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0037】
上記で列挙したもののうち、シランカップリング剤(E)としては、基材との付着性を向上させる観点から、ジアルコキシシラン又はトリアルコキシシランを用いることが好ましい。
【0038】
シランカップリング剤(E)としては、市販品を用いることができる。例えばシランカップリング剤(E)として、信越化学工業社製「KBM−403」(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)、信越化学工業社製「KBE−403」(3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン)、信越化学工業社製「KBE−903」(3−アミノプロピルトリエトキシシラン)、信越化学工業社製「KBM−903」(3−アミノプロピルトリメトキシシラン)等を用いることができる。
【0039】
シランカップリング剤(E)は、本実施形態に係る低汚染性クリヤー塗料組成物中に0.1〜5質量%含有されていることが好ましい。シランカップリング剤(E)の含有量がこの範囲内であれば、基材に対する優れた付着性が得られる。シランカップリング剤(E)のより好ましい含有量は、0.3〜2質量%である。
【0040】
[艶消し剤(F)]
上述した通り、本実施形態に係る低汚染性クリヤー塗料組成物は、必要に応じて艶消し剤(F)を含有していてもよい。これにより、種々の艶、例えば7分艶、5分艶、3分艶、艶消等の低汚染性クリヤー塗膜が得られる。
艶消し剤(F)は、平均粒子径が1〜20μmの疎水性シリカ粒子(F1)と、平均粒子径が5〜25μmの樹脂粒子(F2)と、からなることが好ましい。
【0041】
疎水性シリカ粒子(F1)は、樹脂粒子(F2)と比べて安価である一方で、疎水性シリカ粒子(F1)を多く配合すると耐候性が低下する特性を有する。また、疎水性シリカ粒子(F1)の平均粒子径は、樹脂粒子(F2)と比べて小さく、1〜20μmの範囲内である。この疎水性シリカ粒子(F1)は、塗膜表面に微小な凹凸を形成することで、塗膜表面の艶を消す機能を発現する。
なお、疎水性シリカ粒子(F1)の平均粒子径は、例えばベックマン・コールター社製のコールターマルチサイザーを用いて測定される。
【0042】
樹脂粒子(F2)は、疎水性シリカ粒子(F1)と比べて高価である一方で、耐候性低下への影響が小さい特性を有する。また、樹脂粒子(F2)の平均粒子径は、疎水性シリカ粒子(F1)と比べて大きく、5〜25μmの範囲内である。この樹脂粒子(F2)は、略真球の樹脂ビーズで構成され、塗膜中において屈折率の相違によって入射光の複屈折を生じさせることで、塗膜の艶を消す機能を発現する。
なお、疎水性シリカ粒子(F1)と同様に、樹脂粒子(F2)の平均粒子径は、島津製作所製のレーザー回析式粒度分布測定装置「SALD−2100」を用いて測定される。
【0043】
ここで、例えば疎水性シリカ粒子(F1)だけで塗膜の艶を消そうとすると、艶消し剤(F)を多量に配合する必要がある。すると、疎水性シリカ粒子(F1)の疎水基が親水化剤(C)のアルキルシリケートのアルキル基と相互作用し、塗膜表面におけるアルキルシリケートの局在化(アルキルシリケートの表面への浮き)及び加水分解による親水化を阻害する結果、優れた低汚染性は得られない。
これに対して本実施形態のように、艶消し剤(F)として、疎水性シリカ系粒子(F1)と樹脂粒子(F2)を併用することにより、所望の艶を得るために必要な艶消し剤(F)の配合量を少量に抑えることができる。また、樹脂粒子(F2)は平均粒子径が比較的大きいため、艶消し剤(F)の表面積を小さくできるため、親水化剤(C)との相互作用を抑制できる。従って、艶消し剤(F)として疎水性シリカ系粒子(F1)と樹脂粒子(F2)を配合した本実施形態の低汚染性クリヤー塗料組成物によれば、十分な低汚染性が得られるとともに、所望の艶消し塗膜が得られる。
【0044】
疎水性シリカ粒子(F1)としては、親水性シリカ粒子表面の水酸基をメチルシラン等で置換して疎水化したシリカ粒子であればよく、市販品を用いることができる。例えば疎水性シリカ粒子(F1)として、INEOS SILICAS社製「GASIL HP240」(合成非結晶シリカ、平均粒子径6μm)、INEOS SILICAS社製「GASIL HP395」(平均粒子径14μm)、東ソー・シリカ社製「ニップシールSS−50B」(非晶質二酸化ケイ素、平均粒子径1.8μm)等を用いることができる。
【0045】
樹脂粒子(F2)としては、市販品を用いることができる。例えば樹脂粒子(F2)として、日本触媒社製「エポスターMA1002」(ポリメタクリル酸メチル系架橋物、平均粒子径2〜3μm)、積水化成品社製「テクノポリマー」、いずれも根上工業社製のアクリル樹脂架橋ポリマー微粒子である、「アートパールGR−300透明」(平均粒子径22μm)、「アートパールGR−400透明」(平均粒子径15μm)、「アートパールGR−800透明」(平均粒子径6μm)等を用いることができる。
【0046】
また、疎水性シリカ粒子(F1)と樹脂粒子(F2)の質量比は、樹脂粒子(F2)/疎水性シリカ粒子(F1)=0.1〜1.0であることが好ましい。疎水性シリカ粒子(F1)と樹脂粒子(F2)の質量比がこの範囲内であれば、上述の効果が確実に得られる。疎水性シリカ粒子(F1)と樹脂粒子(F2)のより好ましい質量比は、0.2〜0.7である。
【0047】
本実施形態に係る低汚染性クリヤー塗料組成物は、必要に応じて添加剤等の他の成分を配合してもよい。他の成分としては、例えば、溶剤、顔料、粘性調整剤、表面調整剤、防かび剤、防藻剤、光安定剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0048】
<低汚染性クリヤー塗料組成物の調製方法>
本実施形態に係る低汚染性クリヤー塗料組成物の調製方法としては、特別の方法を必要とせず、当業者において通常用いられる方法を使用することができる。例えば樹脂(A)と消泡剤(D)を含む主剤と、架橋剤(B)と親水化剤(C)を含む硬化剤は、各成分をディスパー等の分散機で分散することにより調製することができる。
【0049】
<塗膜の形成方法>
以下、本実施形態に係る低汚染性クリヤー塗料組成物を用いた塗膜の形成方法について説明する。
本実施形態に係る低汚染性クリヤー塗料組成物を用いることで、高意匠性のサイディングボードへの優れた低汚染性と良好な塗膜外観の両立が可能となる。
【0050】
本実施形態に係る低汚染性クリヤー塗料組成物は、高意匠性のサイディングボードの表面を被覆する塗膜を形成するために用いられる。
本実施形態における基材としては、前述したJIS A 5422に記載された窯業系サイディングや、JIS A 5430に記載された繊維強化セメント板及びこれらの窯業基材表面に、従来公知の耐汚染性塗料組成物を塗装して親水化処理したもの等が挙げられる。
【0051】
以上の構成を備える本実施形態の低汚染性クリヤー塗料組成物では、その塗装方法は特に限定されない。例えば、刷毛、ローラー、ロールコーター、エアースプレー、エアレススプレー等の一般的に用いられている塗装方法が挙げられる。塗装方法は基材の種類・用途に応じて適宜選択される。
【0052】
低汚染性クリヤー塗料組成物は、乾燥膜厚が、好ましくは5〜100μm、より好ましくは10〜40μmとなる条件で塗装される。必要に応じて複数回塗り重ねしても良い。
低汚染性クリヤー塗料組成物を塗装して得られた塗膜は、必要に応じて常温(外気温)で、好ましくは10〜30℃で乾燥させる。低汚染性クリヤー塗料組成物を塗装して得られた塗膜の乾燥時間は、好ましくは6時間〜1か月の間、より好ましくは1日〜1週間である。
【0053】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、特に断りのない限り「部」及び「%」は、質量基準である。
【0055】
<実施例1〜22、比較例1〜7>
表1〜3に示す配合に従って、実施例1〜22及び比較例1〜7の低汚染性クリヤー塗料組成物を上述の方法によりディスパーを用いて調製した。実施例1〜12及び比較例1〜7については、艶有りの低汚染性クリヤー塗料組成物を調製し、実施例13〜22については、艶を7分艶、5分艶、3分艶、艶消に調整した低汚染性クリヤー塗料組成物を調製した。
【0056】
実施例及び/又は比較例で用いた各成分は以下の通りである。
アクリル樹脂としては、DIC社製「アクリディックA−875−55」(固形分55質量%)を用い、シリコーン樹脂としては、カネカ社製「カネカゼムラックYC−4805」(固形分50質量%)を用い、フッ素樹脂としては、ダイキン工業社製「ゼッフルGK−580」(固形分51質量%)を用いた。
【0057】
フッ素系の消泡剤としては、共栄社化学社製「フローレンAO−82」(フッ素変性シリコーン、有効成分のフッ素化合物1.8%)と、共栄社化学社製「フローレンAO−108」(フッ素変性シリコーン、有効成分のフッ素化合物40質量%)を用いた。
シリコーン系の消泡剤としては、ビックケミージャパン社製「BYK−063」(有効成分2.1質量%)を用い、鉱物油系の消泡剤としては、ビックケミージャパン社製「BYK−054」(有効成分25質量%)、有機系(非シリコーン系)のアクリル系消泡剤としては、サンノプコ社製「ダッポーSN−354」有効成分38質量%)を用いた。
なお、表1〜4において、各実施例及び比較例の消泡剤の記載欄における括弧内の数値は、樹脂と架橋剤の合計質量に対する消泡剤の有効成分の質量比率を表している。
【0058】
親水化剤としては、コルコート社製「エチルシリケート48」(テトラエトキシシラン部分加水分解縮合物)、三菱化学社製「MKCシリケート MS51」(テトラメトキシシラン部分加水分解縮合物)、コルコート社製「EMS485」(エチルメチルシリケート部分加水分解縮合物)を用いた。
なお、表1〜3において、各実施例及び比較例の親水化剤の記載欄における括弧内の数値は、樹脂と架橋剤の合計質量に対する親水化剤の質量比率を表している。
【0059】
イソシアネート化合物としては、旭化成ケミカルズ社製「デュラネートTSA−100」(弱溶剤可溶型HDI、固形分100質量%。NCO=20.6%)を用いた。
シランカップリング剤としては、信越化学工業社製「KBM−403」(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、固形分100質量%)を用いた。
【0060】
疎水性シリカ粒子(F1)としては、INEOS SILICAS社製「GASIL HP395」(平均粒子径14μm)、INEOS SILICAS社製「GASIL HP240」(平均粒子径6μm)、東ソー・シリカ社製「ニップシールSS−50B」(非晶質二酸化ケイ素、平均粒子径1.8μmを用いた。
樹脂粒子(F2)としては、根上工業社製「アートパールGR−300透明」(アクリル樹脂架橋ポリマー微粒子、平均粒子径22μm)、根上工業社製「アートパールGR−400透明」(アクリル樹脂架橋ポリマー微粒子、平均粒子径15μm)、根上工業社製「アートパールGR−800透明」(アクリル樹脂架橋ポリマー微粒子、平均粒子径6μm)を用いた。なお、疎水性シリカ粒子(F1)の平均粒子径は、ベックマン・コールター社製の「コールターマルチサイザー」を用いて測定し、樹脂粒子(F2)の平均粒子径は、島津製作所製のレーザー回析式粒度分布測定装置「SALD−2100」を用いて測定した。
【0061】
<評価>
[消泡性]
塗膜の消泡性を評価した。具体的には、ブリキ板(150×70×0.8mm)に扇風機で風を当てながら、実施例及び比較例で調製した各低汚染性クリヤー塗料組成物を中毛ローラー(例えば、ウーローラーB中毛、大塚刷毛製)を用いて塗布量が100〜120g/mなるように塗装した。塗装中の泡の出方及び乾燥後の塗膜外観での泡跡を目視で確認して、下記の4段階の基準に従って消泡性を評価した。評価結果を表1〜3に示した。
4点:塗装中に出る泡が直ぐにはじけて消え、最終的な塗膜に泡跡が無い。
3点:塗装中に出る泡が乾燥前に消え、最終的な塗膜に泡跡が無い。
2点:塗装中に出る泡が乾燥前にほぼ消えるが、最終的な塗膜に泡跡が少し残る。
1点:塗装中に出る泡が乾燥前に消えず、最終的な塗膜に泡跡が残る。
【0062】
[親水性]
塗膜表面の親水性を、塗膜表面の水接触角により評価した。具体的には、ガラス板(70mm×150mm)に実施例及び比較例で調製した各低汚染性クリヤー塗料組成物を、6milのアプリケーターで塗装した。塗装後、室温で3日間乾燥した後、室温で24時間水に浸漬したのち引き上げ、室温で1時間乾燥したものを試験板とし、塗膜表面の親水性として、塗膜表面の水接触角を測定した。水接触角は、各試験板の塗膜表面に脱イオン水を一滴(約3μl)滴下し、約30秒後に水滴の接触角を「自動接触角計 EASY DROP FM40」(KRUSS製)により測定し、下記の4段階の評価基準に従って、親水性を評価した。評価結果を表1〜3に示した。
4点:水接触角が50°未満であった。
3点:水接触角が50°以上60°未満であった。
2点:水接触角が60°以上70°未満であった。
1点:水接触角が70°以上であった。
【0063】
[低汚染性]
塗膜の低汚染性を、雨筋汚染試験(折曲曝露試験)により評価した。具体的には、略中央部を60度折り曲げたアルミ板(200mm×100mm×0.8mm)に実施例及び比較例で調製した各低汚染性クリヤー塗料組成物を塗装することで、雨筋汚染試験用の試験板とした。試験板は、下端から10cmまでの領域を垂直面とし、下端から10cm以上の領域を傾斜面として、傾斜面が上側となる状態で、屋外暴露を実施した。約1か月間、屋外暴露を実施した後、傾斜面の汚れ及び垂直面の雨筋の発生度合を目視により確認し、下記の4段階の評価基準に従って、低汚染性を評価した。評価結果を表1〜3に示した。
4点:傾斜面の汚れ及び垂直面の雨筋がなかった。
3点:傾斜面の汚れ及び垂直面の雨筋がほぼ見られなかった。
2点:傾斜面の汚れ及び垂直面の雨筋があった。
1点:傾斜面の汚れ及び垂直面の雨筋が顕著に見られた。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
実施例1〜22及び比較例1〜7の結果から、アクリル樹脂、シリコーン樹脂及びフッ素樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂(A)と、イソシアネート化合物からなる架橋剤(B)と、アルキルシリケート化合物及びその部分加水分解縮合物の両方又は一方からなる親水化剤(C)と、フッ素化合物からなる消泡剤(D)と、を含む低汚染性塗料組成物において、樹脂(A)と架橋剤(B)の合計質量に対する親水化剤(C)の質量の比率が1.0〜20.0%であり、かつ、樹脂(A)と架橋剤(B)の合計質量に対する消泡剤(D)の質量の比率が0.001〜0.5%であることにより、艶有りであるか艶調整されたかを問わず、優れた消泡性と優れた低汚染性を両立できることが確認された。