(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ケーシングに固定された固定スクロールに対する可動スクロールの公転旋回運動を妨げることなく、前記可動スクロールの自転を阻止する自転阻止機構を備えたスクロール型流体機械であって、
前記自転阻止機構は、
前記可動スクロールの渦巻壁が立設された基板、及び、前記基板と対向して位置付けられる前記ケーシングの台座部の何れか一方から立設される自転阻止ピンと、
前記基板及び前記台座部の何れか他方に穿設された収容穴に圧入され、前記自転阻止ピンが遊嵌される規制リングと
を備え、
前記収容穴の開口部には、前記自転阻止ピンの突出部が前記規制リングの内周面に摺動したとき、前記規制リングの弾性変形に伴う拡開を許容する逃げ空間が確保され、
前記逃げ空間は、前記収容穴の前記開口部における内周面をその全周に亘って拡径することにより形成され、
前記収容穴の前記内周面は、前記規制リングが圧入固定される圧入面部と、前記圧入面部から前記開口部の開口端に向かって延び、前記収容穴を拡径する方向に傾斜するテーパ面部と、前記テーパ面部から前記開口端に向かって延び、前記テーパ面部の最拡径部と同径となるザグリ面部とを含み、
前記逃げ空間は、前記規制リングの外周面と、前記テーパ面部および前記ザグリ面部との間に形成される、スクロール型流体機械。
【背景技術】
【0002】
ケーシングに固定された固定スクロールに対する可動スクロールの公転旋回運動を妨げることなく、この可動スクロールの自転を阻止する自転阻止機構を備えたスクロール型流体機械が知られている。
また、自転阻止機構には、複数組みの自転阻止ピン(以下、単にピンとも称する)および規制リング(以下、単にリングとも称する)を有する、いわゆるピン&リング式の自転阻止機構が知られている。
【0003】
ピンは、例えば、可動スクロールの渦巻壁が立設された基板と対向して位置付けられるケーシングの台座部から立設され、可動スクロールの基板側に突出する突出部を有している。また、リングは、例えば、可動スクロールの前記基板の背面に穿設された規制穴に圧入されている。ピンの突出部はリングに遊嵌され、固定スクロールに対する可動スクロールの公転旋回運動によってリングの内周面に摺動される。
【0004】
そして、特許文献1には、ピンの突出部をテーパ形状とすることにより、ピンとリングとの位置関係が変化したときでもピンとリングとの面接触を適正に維持し、リングに対するピンの接触面圧を低減し、ピンの摩耗を抑制する流体機械が開示されている。
また、特許文献2には、リングと収容穴との間に部分的に弾性部材を介装することにより、ピンの突出部がリングの内周面に摺動されるときの衝撃力ひいてはそれに起因する騒音を抑制するスクロール圧縮機が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
可動スクロールの回転が高速となり、可動スクロールの旋回荷重(固定スクロールに対する可動スクロールの押し付け力)が増大することにより、リングの高さ方向に対してピンの軸線が交差し、ピンが傾斜することがある。
特許文献1では、ピンの突出部をテーパ形状にすることにより、傾斜したピンの突出部とリングの内周面との接触面積が増大し、ひいてはリングに対するピンの接触面圧を低減することができるため、ピンの摩耗を抑制可能である。
【0007】
しかし、可動スクロールの回転が低速となり、可動スクロールの旋回荷重が小さくなり、ピンの軸線がリングの高さ方向と平行になった場合には、ピンの突出部の先端がテーパ形状であることによって、逆にピンとリングの内周面との接触面積が小さくなり、ひいてはリングに対するピンの接触面圧が増大する。したがって、流体機械を低負荷で長期使用した場合にはピンの摩耗が促進されかねない。
【0008】
一方、特許文献2では、リングと収容穴との間に弾性部材を部分的に介装すると、ピンの突出部がリングの内周面に摺動されるとき、その衝撃力は吸収可能であるが、リングが径方向に部分的に撓んで弾性変形し、リングの高さ方向から見たリングの形状を真円に維持することができない。したがって、圧縮機の騒音が却って増大するおそれがあるし、ピンの摩耗が部分的に助長されるおそれもある。
【0009】
さらには、可動スクロールの公転回転が高速となり、可動スクロールの旋回荷重が増大したとき、リングの高さ方向に対しピンの軸線が交差し、ピンが傾斜する場合、ピンの突出部の根元がリングの開口端の角にエッジ当たりすることがある。特許文献1および2では、このエッジ当たりに起因するピンの摩耗については格別な配慮がなされていない。
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、スクロール型流体機械の運転状況に拘わらず、その耐久性と静粛性との双方を向上することができるスクロール型流体機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明のスクロール型流体機械は、ケーシングに固定された固定スクロールに対する可動スクロールの公転旋回運動を妨げることなく、可動スクロールの自転を阻止する自転阻止機構を備えたスクロール型流体機械であって、自転阻止機構は、可動スクロールの渦巻壁が立設された基板、及び、基板と対向して位置付けられるケーシングの台座部の何れか一方から立設される自転阻止ピンと、基板及び台座部の何れか他方に穿設された収容穴に圧入され、自転阻止ピンが遊嵌される規制リングとを備え、収容穴の開口部には、自転阻止ピンの突出部が規制リングの内周面に摺動したとき、規制リングの弾性変形に伴う拡開を許容する逃げ空間が確保され
、逃げ空間は、収容穴の開口部における内周面をその全周に亘って拡径することにより形成され、収容穴の内周面は、規制リングが圧入固定される圧入面部と、圧入面部から開口部の開口端に向かって延び、収容穴を拡径する方向に傾斜するテーパ面部と、テーパ面部から開口端に向かって延び、テーパ面部の最拡径部と同径となるザグリ面部とを含み、逃げ空間は、規制リングの外周面と、テーパ面部およびザグリ面部との間に形成される。
【0012】
好ましくは、逃げ空間の
規制リングの高さ方向における逃げ空間長は、
規制リングの高さ方向におけるリング全長の最大20%である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のスクロール型流体機械によれば、スクロール型流体機械の運転状況に拘わらず、その耐久性と静粛性との双方を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づき本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るスクロール圧縮機の縦断面図である。この圧縮機1は、例えば図示しない車両に搭載された車両用空調装置の冷凍回路に組み込まれている。冷凍回路は圧縮機1の作動流体である冷媒の冷媒循環経路を備え、圧縮機1は冷媒循環経路の復路から冷媒を吸入し、この冷媒を圧縮して冷媒循環経路の往路に向けて吐出する。
【0016】
図1に示すように、圧縮機1はリアケーシング2およびフロントケーシング(ケーシング)4を備えている。リアケーシング2とフロントケーシング4との間にはスクロールユニット6が配置されている。フロントケーシング4内には駆動軸8が延び、この駆動軸8は軸受を介してフロントケーシング4に回転自在に支持されている。また、フロントケーシング4には、その内方に向けて台座部4aが突設されている。
【0017】
駆動軸8のフロントケーシング4からの突出端には、電磁クラッチ10を内蔵した駆動プーリ12が取付けられている。駆動プーリ12は軸受を介してフロントケーシング4に回転自在に支持されている。駆動プーリ12には車両のエンジンの動力が図示しない駆動ベルトを介して伝達され、駆動プーリ12の回転は電磁クラッチ10を介して駆動軸8に伝達可能である。したがって、エンジンの駆動中、電磁クラッチ10がオン作動されると、駆動軸8は駆動プーリ12と一体的に回転する。
【0018】
スクロールユニット6は固定スクロール14および可動スクロール16を備えている。可動スクロール16は、固定スクロール14に対して噛み合うように組付けられている。固定スクロール14は、リアケーシング2とフロントケーシング4との間に位置付けられ、駆動軸8の軸線方向に延びる図示しない複数の固定ボルトによってリアケーシング2およびフロントケーシング4により挟持されている。
【0019】
可動スクロール16は基板16aを備え、この基板16aには固定スクロール14に向けて渦巻壁16bが立設されている。可動スクロール16の基板16aの背面16cはフロントケーシングの台座部4aに対向して位置付けられている。
固定スクロール14の基板14aにも可動スクロール16の基板16aに向けて渦巻壁14bが立設されている。そして、固定スクロール14および可動スクロール16の各渦巻壁14b,16bが対向して噛み合うことにより、圧縮機1の作動流体である冷媒の圧縮室18が形成され、この圧縮室18の容積が固定スクロール14に対する可動スクロール16の公転旋回運動に伴い増減される。
【0020】
フロントケーシング4の端壁4bには固定スクロール14の渦巻壁14bの外周部が当接され、フロントケーシング4内には可動スクロール16の基板16aが位置付けられている。フロントケーシング4の端壁4bと基板16aとの間には冷媒の吸入室20が確保されている。吸入室20には前述した冷媒循環経路の復路が連通している。
【0021】
リアケーシング2の端壁2aには固定スクロール14の基板14aが当接されている。リアケーシング2内には基板14aと区画された冷媒の吐出室22が形成され、吐出室22には前述した冷媒循環経路の往路が連通している。また、吐出室22は固定スクロール14の基板14aに穿孔された吐出孔24を介して圧縮室18と連通している。吐出室22には吐出孔24を開閉する吐出弁26が配置され、吐出弁26はストッパプレート28によってその開度が規制されている。
【0022】
可動スクロール16の基板16aの背面16cにはボス30が突設され、ボス30には軸受を介してブッシュ32が回転自在に挿入されている。ブッシュ32には駆動軸8の偏心軸部8aが偏心支持され、駆動軸8の回転により可動スクロール16に公転旋回運動が付与される。また、可動スクロール16の基板16aの背面16cとフロントケーシング4の台座部4aとの間にはリング板形状のスラストプレート34が配置されている。可動スクロール16の公転旋回運動に際し、可動スクロール16の基板16aの背面16cがスラストプレート34に摺動する。
【0023】
さらに、可動スクロール16の基板16aの背面16cとフロントケーシング4の台座部4aとの間には、自転阻止機構36が配置されている。自転阻止機構36は固定スクロール14に対する可動スクロール16の公転旋回運動を妨げることなく可動スクロール16の自転を阻止する。
【0024】
前述した圧縮機1によれば、駆動軸8の回転に伴って、可動スクロール16が背面16cをスラストプレート34に摺動させながら自転することなく公転旋回運動する。これにより、冷媒循環経路の復路から吸入室20に吸入された冷媒は圧縮室18を形成し、圧縮室18内の冷媒は、スクロールユニット6の中心に向けて移動されながら圧縮された後、吐出孔24を介して吐出室22に吐出され、吐出室22から冷媒循環経路の往路へ送出される。
【0025】
図2は自転阻止機構36を
図1のA−A方向から見た平面図である。
図2に示すように、自転阻止機構36は4組の自転阻止ピン38および規制リング40を有するピン&リング式の機構である。ピン38はフロントケーシング4の台座部4aに圧入固定され、可動スクロール16の基板16a側に突出する突出部38aを有する。また、リング40は可動スクロール16の基板16aの背面16cに穿設された収容穴42に圧入固定されている。
【0026】
ピン38およびリング40は、双方ともSUJ2(高炭素クロム軸受鋼)等の高硬度材料から形成されている。ピン38の突出部38aは、その径方向においてリング40に遊嵌され、固定スクロール14に対する可動スクロール16の公転旋回運動に伴いリング40の内周面40aに摺動される。
【0027】
図3は、
図2に示す1組のリング40および収容穴42を
図2のB−B方向から見た拡大断面図である。
図3に示すように、収容穴42の開口部42aには逃げ空間44が確保されている。逃げ空間44は、リング40の外周面40bの一部と非接触であって、ピン38の突出部38aがリング40の内周面40aに摺動したとき、リング40の弾性変形に伴う拡開を許容する。
【0028】
逃げ空間44は、収容穴42の開口部42aにおける内周面42bをその全周に亘って拡径することにより形成されている。
図4は、
図3に示す可動スクロール16の基板16aの外周面16d側に形成される逃げ空間44を拡大して示す。
図4に示すように、収容穴42の内周面42bは、圧入面部46、テーパ面部48、及びザグリ面部50を含む。
【0029】
圧入面部46は、リング40が圧入固定される環状面である。テーパ面部48は、圧入面部46から収容穴42の開口部42aの開口端42cに向かって延び、収容穴42を拡径する方向に傾斜する環状面である。ザグリ面部50は、テーパ面部48から収容穴42の開口部42aの開口端42cに向かって延び、テーパ面部48の最拡径部48aと同径となる環状面である。
【0030】
すなわち、逃げ空間44は、収容穴42において、リング40の外周面40bと、収容穴42の内周面42bのテーパ面部48およびザグリ面部50との間に形成された環状領域をなしている。
収容穴42の内周面42bにテーパ面部48を形成することにより、治具を使用してリング40を収容穴42に圧入する際の圧入作業を容易に行うことができる。一方、収容穴42の内周面42bにザグリ面部50を形成することにより、可動スクロール16の基板16aの小径化、ひいては圧縮機1およびスクロールユニット6の小型化を推進することができる。
【0031】
詳しくは、
図3に示すように、可動スクロール16の小径化により、収容穴42を可動スクロール16の基板16aの外周面16d近傍に形成せざるを得ない。このため、逃げ空間44の開口端42cに面する部位をザグリ面部50とすることにより、外周面16d近傍において可動スクロール16の基板16aの背面16cを確保することができる。したがって、可動スクロール16の小径化を図りながら、固定スクロールに対する可動スクロールの傾斜を抑制した可動スクロールの円滑な公転旋回を実現しつつ、逃げ空間44を形成することができる。
【0032】
図4に示すように、収容穴42は、逃げ空間44の形成に際し、リング40の高さ方向Yにおけるリング40の全長:リング全長L1、逃げ空間44の高さ方向Yにおける長さ:逃げ空間長L2、高さ方向Yにおけるリング40の圧入長さ:リング圧入長L3、収容穴42にてテーパ面部48およびザグリ面部50が加工される高さ方向Yにおける深さ:収容穴加工深さD1、収容穴42の開口端42cからピン38までの高さ方向Yにおける深さ:リング圧入深さD2、テーパ面部48の最拡径部48a(あるいはザグリ面部50)とピン38とのリング40の径方向Xにおける隙間:逃げ隙間G1、等の各寸法が規定される。
【0033】
一方、リング40は、逃げ空間長L2を規定する拡開許容部52と、リング圧入長L3を規定する圧入部54とを有して形成されている。
以下に、
図4で規定したいくつかの寸法の数値の一例を示す。
・リング全長L1:5mm
・逃げ空間長L2:1mm
・逃げ隙間G1:0.1mm
【0034】
これらのデータから明らかなように、リング長L1に対する逃げ空間長L2の比率が最大20%であるのが好ましいことが発明者の実験により判明している。この比率が20%を越えると、リング圧入長L3が不足し、リング40を収容穴42に強固に支持できないため、圧縮機1の作動に伴い収容穴42からリング40が脱落等するおそれがある。
【0035】
また、逃げ隙間G1は0.1mm程度に設定するのが好ましいことが判明している。また、リング圧入深さD2は、従来に比して浅めに(小さく)設定するのが好ましいことが判明している。これらの逃げ隙間G1およびリング圧入深さD2の好ましい範囲の理由を以下に
図5および
図6を参照して詳しく説明する。
【0036】
図5は、ピン38の突出部38aのスラストプレート34近傍に位置する根元部38bがリング40の開口部40cの角に一時的にエッジ当たりした状態を示している。この状態において、リング40の圧入部54は収容穴42の圧入面部46への圧入が維持されている。
【0037】
図5において、可動スクロール16の旋回荷重(固定スクロール14に対する可動スクロール16の押し付け力)に基づく力Fがピン38に作用する作用点P1と、フロントケーシング4の台座部4aに圧入固定されたピン38が台座部4aから露出するピン38の支持点P2とを規定する。作用点P1は、根元部38bがリング40の開口部40cの角にエッジ当たりする部位であり、支持点P1と作用点P2とは距離Dmを存して離間している。
【0038】
距離Dmは、スラストプレート34の厚みTおよびリング圧入深さD2等に応じて決定される。圧縮機1に要求される運転状況により、可動スクロール16の公転旋回が高速となり、可動スクロール16の旋回荷重が増大したとき、作用点P1に作用する力Fが増大し、ひいては力Fと距離Dmとを乗じたピン38に作用する力のモーメントMも増大する。モーメントMの増大により、ピン38の突出部38aが弾性変形し、リング40の高さ方向Yに対しピン38の突出部38aの軸線Lpが交差し、ピン38が高さ方向Yに対し傾斜角αで傾斜する。
【0039】
このように、リング圧入深さD2は、距離Dm、モーメントM、傾斜角α、ひいては後述するリング40の拡開角βに影響する。そこで、前述したように、リング圧入深さD2を従来に比して浅めに設定することにより、従来よりも距離DmひいてはモーメントMを小さくし、高さ方向Yに対するピン38の傾斜角αを小さくすることができるため、リング40の拡開角βを好適に制御可能となる。
【0040】
図6は、傾斜したピン38が
図5の状態からさらにリング40に押し付けられ、リング40が拡開変形した状態を示している。リング40に対するピン38の一時的なエッジ当たり状態から、ピン38がリング40の剛性に抗する力でリング40に押し付けられると、収容穴42に逃げ空間44が確保されていることにより、リング40の拡開許容部52がリング40の高さ方向Yに対し拡開角βを有してリング40の拡開する方向に弾性変形する。
【0041】
リング40が弾性変形する際においても、収容穴42の圧入面部46へのリング40の圧入部54の圧入が維持されている。また、
図5に示したピン38の傾斜角αは拡開角βに等しいため、傾斜したピン38の突出部38aの外周面38cは、拡開許容部52におけるリング40の内周面40aの高さ方向Yの全域に亘って摺動される。
【0042】
リング40の拡開角βは、想定される可動スクロール16の旋回荷重、ピン38およびリング40の弾性係数等から、拡開角βが最も大きくなっても拡開許容部52がザグリ面部50に接触せず、リング40の拡開変形が規制されない所定の範囲に予め設定される。 このように、リング40の拡開変形後の逃げ空間44を確保可能な拡開角βを発明者が検討した結果、前述したように、リング40の拡開変形前の逃げ隙間G1は0.1mm程度に設定するが好ましいことが判明している。
【0043】
以上のように本実施形態では、収容穴42の開口部42aには、ピン38の突出部38aがリング40の内周面40aに摺動したとき、リング40の弾性変形に伴う拡開を許容する逃げ空間44が確保されている。これにより、圧縮機1の運転状況に拘わらず、圧縮機1の耐久性と静粛性との双方を向上することができる。発明者が行った耐久試験によれば、実際にピンの磨耗量は従来に比して50%〜60%に低減される。
【0044】
具体的には、可動スクロール16の旋回荷重が比較的小さいときには、ピン38の突出部38aの軸線Lpはリング40の高さ方向Yと平行になってピン38は傾斜しない。このため、ピン38の突出部38aがリング40の内周面40aに摺動しても、リング40は自身の剛性でその形状を維持し、弾性変形しない。したがって、リング40に対するピン38の接触面積を確保することができるため、リング40に対するピン38の接触面圧が低減し、ひいてはピン38の摩耗および騒音を抑制することができる。
【0045】
一方、可動スクロール16の旋回荷重が比較的大きいときには、ピン38の突出部38aの軸線Lpはリング40の高さ方向Yと交差し、ピン38が傾斜する。しかし、可動スクロール16の旋回荷重が大きいため、ピン38の突出部38aがリング40の内周面40aに摺動すると、ピン38がリング40の剛性に抗する力でリング40に押し付けられる。
【0046】
このため、リング40はピン38の傾斜に追従するようにしてリング40が拡開する方向に弾性変形する。したがって、ピン38が傾斜した場合であっても、リング40に対するピン38のエッジ当たりを抑制し、リング40に対するピン38の接触面積を確保することができ、リング40に対するピン38の接触面圧が低減し、ひいてはピン38の摩耗および騒音を抑制することができる。
【0047】
また、逃げ空間44は収容穴42の開口部42aにおける内周面42bをその全周に亘って拡径することにより形成される。これにより、収容穴42における逃げ空間44の形成を簡単な加工で行うことができるため、このことは圧縮機1の生産性向上に寄与する。しかも、圧縮機1の運転状況に拘わらず、高さ方向Yから見たときのリング40を真円形状に維持することができる。したがって、逃げ空間44を収容穴42に部分的に形成する場合に比して、圧縮機1の耐久性と静粛性との双方をさらに効果的に向上することができる。
【0048】
また、収容穴42の内周面42bにテーパ面部48を形成することにより、治具を使用して収容穴42にリング40を圧入する際の圧入作業を容易に行うことができるため、圧縮機1の生産性が向上する。
また、収容穴42の内周面42bにザグリ面部50を形成することにより、収容穴42の形成に際し、可動スクロール16の外周面16d近傍に可動スクロール16の基板16aの背面16cを確保しながら、可動スクロール16の小径化を図ることができる。したがって、固定スクロール14に対する可動スクロール16の傾斜を抑制し、可動スクロール16の円滑な公転旋回を実現しながら、圧縮機1の小型化を促進することができる。
【0049】
また、リング40の高さ方向Yにおける逃げ空間44の長さである逃げ空間長L2は、リング40の高さ方向Yにおけるリング40の全長であるリング全長L1の最大20%に規定されている。これにより、リング40が拡開する方向に弾性変形しても、収容穴の42圧入面部46へのリング40の圧入を確実に維持可能である。したがって、リング40が収容穴42に強固に支持されずに、圧縮機1の作動に伴い収容穴42からリング40が脱落等する危険が排除され、圧縮機1の信頼性を向上することができる。
【0050】
本発明は前記実施形態に制約されるものではなく、種々の変形が可能である。
例えば、ピン38を可動スクロール16の基板16aから立設し、収容穴42をフロントケーシング4の台座部4aに設けても良い。
また、自転阻止機構36を構成するピン38及びリング40は4組に限定されない。
【0051】
また、本実施形態では、逃げ空間44は収容穴42の開口部42aにおける内周面42bをその全周に亘って拡径することにより形成される。しかし、ピン38が傾斜しながら収容穴42の内周面42bに摺動される部位にのみ、逃げ空間44を部分的に形成しても良い。この場合には、収容穴42およびリング40の形状を真円形状に維持することはできないが、圧縮機1の耐久性と静粛性との双方を少なくとも従来に比して向上することはできる。
【0052】
また、可動スクロール16の外周面16d近傍において可動スクロール16の基板16aの背面16cを確保可能であれば、ザグリ面部50を無くし、逃げ空間44を開口端42cに面するテーパ面部48のみにより形成しても良い。この場合であっても、圧縮機1の耐久性と静粛性との双方を少なくとも従来に比して向上することはできる。
【0053】
また、前記実施形態では、車両用空調装置に組み込まれるエンジン駆動のスクロール圧縮機1について説明した。しかし、本発明は、電動モータ駆動のスクロール圧縮機や、種々の作動流体を使用した、種々の分野における圧縮機または膨脹機等のスクロール型流体機械全般に適用可能である。