特許第6460713号(P6460713)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6460713
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】地中切梁の施工方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/20 20060101AFI20190121BHJP
【FI】
   E02D5/20 101
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-208582(P2014-208582)
(22)【出願日】2014年10月10日
(65)【公開番号】特開2016-79569(P2016-79569A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】岡橋 稔
(72)【発明者】
【氏名】光枝 良
(72)【発明者】
【氏名】桑原 貴士
(72)【発明者】
【氏名】相樂 敏男
(72)【発明者】
【氏名】浦瀬 誠
(72)【発明者】
【氏名】河野 貴穂
【審査官】 亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−013110(JP,A)
【文献】 特開昭64−014425(JP,A)
【文献】 特開2003−090043(JP,A)
【文献】 特開2011−132689(JP,A)
【文献】 特開平09−317373(JP,A)
【文献】 特開2001−220745(JP,A)
【文献】 特開平02−164918(JP,A)
【文献】 特開昭58−074498(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0142550(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/20
E02D 5/18
E02D 17/04
E02D 17/08
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
山留壁を地中で支保する地中切梁の少なくとも一部に膨張部を形成し、前記膨張部を膨張させることで、前記地中切梁に前記山留壁に向けて突っ張り力を発揮させる地中切梁の施工方法であって、
前記地中切梁を、硬化性材料からなる複数の柱状体として、第1柱状体と、第2柱状体と、前記山留壁に当接する端部柱状体とを連設する地中連続壁とし、
前記第1柱状体と前記第2柱状体と前記端部柱状体のうちで前記第2柱状体のみを硬化に伴って膨張する膨張硬化性材料で構成して前記膨張部とし、
前記第1柱状体と前記端部柱状体とを構築した後、残りの未構築の前記第2柱状体の構築箇所に前記膨張部としての前記第2柱状体を構築して膨張硬化性材料の硬化に伴って前記第2柱状体を膨張させることで、前記地中切梁に前記山留壁に向けて突っ張り力を発揮させる地中切梁の施工方法。
【請求項2】
前記第1柱状体と前記端部柱状体との間に前記第2柱状体が構築される請求項1記載の地中切梁の施工方法。
【請求項3】
前記端部柱状体の高さを、それに隣接する前記第2柱状体の高さよりも高くする請求項2記載の地中切梁の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山留壁を地中で支保する地中切梁を構築する地中切梁の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
このような地中切梁の例としては、山留壁に相当する円筒形状の地中連続壁を地中で支保するため、円筒形状の地中連続壁の下方域に地中切梁として機能する改良底盤を構築するとともに、地中連続壁の中間域にも地中切梁として機能する改良中間盤を構築し、これら地中切梁としての改良底盤及び改良中間盤が、地中の土壌や土砂とセメントミルクとの混合物で構成されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−317373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献に記載の従来技術では、山留壁の内側の掘削に伴い山留壁が地中切梁側に変位又は変形して地中切梁が押圧されることで、その反作用として地中切梁から山留壁に支持力(反力)が発生し、それにより山留壁が地中切梁により支保されることになる。即ち、山留壁の内側を掘削する前の地中切梁の構築時点では、地中切梁から山留壁に対する反力が発生していないため、かかる山留壁が変位又は変形しやすい状態となっており、山留壁の内側を掘削することで、山留壁が掘削側に変位又は変形し、山留め根入れ部の受働土圧とともに地中切梁による反力の合算で内外の力がバランスし、山留壁が安定良く支保されることになるが、この場合、山留壁の地中切梁側への変位又は変形によって、周辺地盤が緩み、周辺構造物に悪影響を与える可能性があった。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みたもので、その主たる課題は、地中切梁の構築時点から山留壁を安定よく強固に支保して、山留壁の変位や変形を抑制することのできる地中切梁の施工方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
留壁を地中で支保する地中切梁を構築する地中切梁の施工方法であって、
前記地中切梁の少なくとも一部に膨張部を形成し、当該地中切梁の姿勢が所定姿勢に整った状態で前記膨張部を膨張させることで、前記山留壁に向けて突っ張り力を発揮させてもよい。
【0007】
本特徴構成によれば、地中切梁の姿勢が所定姿勢に整った状態で、地中切梁の少なくとも一部に形成された膨張部を膨張させることにより、山留壁に向けて突っ張り力を発揮させることができる。
すなわち、膨張部が膨張することによって、地中切梁が山留壁に向かって伸長し、山留壁を積極的に外方(掘削箇所の背面方向)へ押圧しようとする突っ張り力が生じることになる。したがって、地中切梁の構築時点から当該突っ張り力によって山留壁を安定よく強固に支保することができ、山留壁の変位や変形を確実に抑制することが可能となる。
なお、膨張部の膨張量に関しては、山留壁の規模や周辺土壌の状況などを考慮して、適切な突っ張り力を発揮させるに必要な量に設定するのが好ましい。例えば、突っ張り力が、地中切梁内に内部応力として残存する程度に設定することも可能であり、また、突っ張り力によって山留壁を予め外方(掘削箇所の背面方向)へ変位あるいは変形させておき、掘削に伴う山留壁の変位あるいは変形と相殺させるように設定することもできる。
【0008】
記膨張部を、硬化に伴って膨張する膨張硬化性材料で構成してもよい。
【0009】
本特徴構成によれば、硬化に伴って膨張する膨張硬化性材料、例えば、膨張コンクリートなどにより膨張部を構成するので、地中切梁の少なくとも一部に膨張コンクリートなどを打設するだけの比較的簡単な施工により、山留壁に向けて所定の突っ張り力を合理的に発揮させて、山留壁の変位や変形を所望通りに抑制することができる。
【0010】
記地中切梁を、硬化性材料からなる複数の柱状体を連設した地中連続壁として構築し、当該地中切梁の一部の柱状体を、前記膨張部としての前記膨張硬化性材料で構成してもよい。
【0011】
本特徴構成によれば、地中切梁としての地中連続壁を構築する複数の柱状体のうち、一部の柱状体を膨張コンクリートなどの膨張硬化性材料で構成して、当該柱状体を膨張部として機能させるので、山留壁に向かう突っ張り力は、上下方向に長い柱状体の全長にわたって発揮される。
したがって、山留壁を積極的に外方へ押圧しようとする突っ張り力は、山留壁の上下方向にわたってほぼ均等に作用することになり、山留壁をより一層安定よく強固に支保することができ、山留壁の変位や変形をより確実に抑制することができる。
なお、地中切梁としての地中連続壁を多数の柱状体により構築する場合、突っ張り力を山留壁に対して確実に作用させるため、膨張硬化性材料で構成する膨張部としての柱状体は、地中連続壁の中間部よりも山留壁側の領域に配置するのが好ましい。
〔1〕本発明の第1特徴構成は、山留壁を地中で支保する地中切梁の少なくとも一部に膨張部を形成し、前記膨張部を膨張させることで、前記地中切梁に前記山留壁に向けて突っ張り力を発揮させる地中切梁の施工方法であって、
前記地中切梁を、硬化性材料からなる複数の柱状体として、第1柱状体と、第2柱状体と、前記山留壁に当接する端部柱状体とを連設する地中連続壁とし、
前記第1柱状体と前記第2柱状体と前記端部柱状体のうちで前記第2柱状体のみを硬化に伴って膨張する膨張硬化性材料で構成して前記膨張部とし、
前記第1柱状体と前記端部柱状体とを構築した後、残りの未構築の前記第2柱状体の構築箇所に前記膨張部としての前記第2柱状体を構築して膨張硬化性材料の硬化に伴って前記第2柱状体を膨張させることで、前記地中切梁に前記山留壁に向けて突っ張り力を発揮させる点にある。
〔2〕本発明の第2特徴構成は、前記第1柱状体と前記端部柱状体との間に前記第2柱状体が構築される点にある。
〔3〕本発明の第3特徴構成は、前記端部柱状体の高さを、それに隣接する前記第2柱状体の高さよりも高くする点にある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】山留壁と地中切梁を示す平面図
図2図1におけるA−A線断面図
図3図1におけるB−B線断面図
図4】地中切梁の施工方法を示す断面図
図5】地中切梁の施工方法を示す断面図
図6】地中切梁の施工方法を示す断面図
図7】地中切梁の施工方法を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明による地中切梁の施工方法の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明に係る地中切梁は、図1図3に示すように、例えば、第1地中切梁1、第2地中切梁2、及び、第3地中切梁3を備え、平面視でほぼL字状に構築された山留壁4を地中に埋設された状態で支保する。
本実施形態において、山留壁4は、時間の経過に伴って硬化する硬化性材料のうち、例えば、泥水や建設汚泥などにセメントなどの固化材を加えて混練した流動化処理土、特に、比較的流動性が高くて強度の低い流動化処理土からなる多数(複数)の第1柱状体4aと、鉄筋コンクリートからなる多数(複数)の第2柱状体4bが、交互にかつ隣接するものどうしが互いに重複する状態で一体化されて構築された柱列式の地中連続壁で構成される。
【0014】
第1〜第3地中切梁1、2、3は、基本的に、上述した硬化性材料のうち、比較的流動性が低くて強度の高い流動化処理土からなる多数(複数)の第1柱状体1a、2a、3aと、山留壁4に当接する2本で一対の端部柱状体1c、2c、3cによって、隣接するものどうしが互いに重複する状態で一体化されて構築された柱列式の地中連続壁で構成されており、山留壁4の完成後に施工される。
ただし、その地中連続壁の一部の柱状体、つまり、第2柱状体1b、2b、3bは、流動化処理土の硬化に伴って膨張する石灰やカルシウム・サルフォ・アルミネート鉱物などの膨張材を混入した膨張硬化性材料、例えば、膨張コンクリートで構成されていて、当該第2柱状体1b、2b、3bが、施工後期において山留壁4を支保可能な状態となった所定姿勢に整った状態で、山留壁4に向けて突っ張り力Fを発揮させる膨張部として機能するように構成される。
【0015】
すなわち、第1〜第3地中切梁1、2、3は、多数の第1柱状体1a、2a、3a、第2柱状体1b、2b、3b、及び、端部柱状体1c、2c、3cにより、山留壁4と既存地下躯体5との間にわたって地中連続壁として構築され、その地中連続壁のうち、端部柱状体1c、2c、3cに隣接する柱状体と、その柱状体からひとつ置いた柱状体とが膨張部としての第2柱状体1b、2b、3bにより構成される。
そして、第1〜第3地中切梁1、2、3の各端部柱状体1c、2c、3cは、山留壁4を構成する柱状体4a、4bのうち、強度的に強固な鉄筋コンクリート製の第2柱状体4bに当接するように構築される。
【0016】
次に、本発明に係る山留壁4と地中切梁1、2、3の施工方法について説明する。
山留壁4は、既存の建物を解体した後、流動化処理土からなる多数の第1柱状体4aを打設し、その後、鉄筋コンクリートからなる多数の第2柱状体4bを打設して構築される。
第1柱状体4aは、例えば、掘削用ビットを備えたケーシングチューブやクレーン(図4及び図5の6、7を参照)などを使用して地中を掘削するとともに、ケーシングチューブ内に硬化性材料を充填しながらケーシングチューブを引き抜くことで構築され、第2柱状体4bは、ケーシングチューブ内に鉄筋とコンクリートを充填しながらケーシングチューブを引き抜くことで構築される。
第1柱状体4aと第2柱状体4bは、新たに構築する新規地下躯体8の地表面GLからの深さや遮水に必要な深さなどを考慮して、地表面GLから必要な深さにわたって、隣接する第1柱状体4aと第2柱状体4bとが、互いに重複する状態で一体化されて構築される。
【0017】
当該山留壁4が構築された後、第1〜第3地中切梁1、2、3が構築される。
以下、第1地中切梁1の施工方法について説明するが、第2地中切梁2と第3地中切梁3に関しても、第1地中切梁1と同じ施工方法で構築される。
第1地中切梁1は、図4及び図5に示すように、山留壁4の場合と同様、例えば、掘削用ビットを備えたケーシングチューブ6やクレーン7などを使用して、まず、第1柱状体1aと端部柱状体1cが構築される。
すなわち、図4に示すように、第1柱状体1aが、ケーシングチューブ6により地中を掘削するとともに、ケーシングチューブ6内に流動化処理土を充填し、流動化処理土の硬化前にケーシングチューブ6を引き抜くことで構築され、端部柱状体1cも、同じ施工方法により構築される。
【0018】
したがって、第1柱状体1aと端部柱状体1cが構築された状態では、図5に示すように、第2柱状体1bの構築箇所、具体的には、端部柱状体1cに隣接する箇所とひとつ置いた箇所とが未構築の状態にあり、その未構築の箇所に第2柱状体1bが構築される。
この第2柱状体1bも、掘削用ビットを備えたケーシングチューブ6やクレーン7などを使用し、ケーシングチューブ6により地中を掘削するとともに、ケーシングチューブ6内に膨張コンクリートなどの膨張硬化性材料を充填しながらケーシングチューブ6を引き抜くことで構築される。
これら柱状体1a、1b、1cの構築に際し、図6に示すように、山留壁4に隣接する端部柱状体1cの高さを高くし、山留壁4から遠ざかるに連れて、その高さを階段状に低くするように構築することができ、それによって、硬化性材料の使用量を極力少なくしながら、山留壁4を上下方向の長い距離にわたって効果的に支保することができる。
【0019】
このようにして、第1地中切梁1と第2地中切梁2と第3地中切梁3が、山留壁4と既存地下躯体5との間にわたって構築される。
そして、各地中切梁1、2、3が打設されて所定姿勢に整った状態で、膨張部としての各第2柱状体1b、2b、3bが膨張することで、山留壁4に向けて突っ張り力Fを発揮して、山留壁4を確実に支保することになる。
その後、図7に示すように、山留壁4の内側の土壌などが取り除かれ、新たに新規地下躯体8が順次構築される。そして、各地中切梁1、2、3において、山留壁4に近接する階段状の柱状体部分が邪魔になる場合には、工事の進捗に伴って山留壁4を支保するに足る支保力が確保された時点で、階段状の柱状体部分やその一部を切除する。
【0020】
〔別実施形態〕
(1)前述の実施形態では、各地中切梁1、2、3を複数の柱状体1a〜1c、2a〜2c、3a〜3cを連設した地中連続壁として構築した例を示したが、各地中切梁1、2、3の具体的な構成は任意であり、例えば、1枚の壁により構成することもでき、その場合には、コンクリート製の壁の一部に膨張材を注入したり、膨張コンクリートを打設したりして膨張部を形成すればよい。
また、各地中切梁1、2、3を複数の柱状体1a〜1c、2a〜2c、3a〜3cによる地中連続壁として構築する場合、膨張部としての第2柱状体1b、2b、3bの構築個所及び構築本数は、周囲の地盤などの状況に応じて自由に設定することができる。
ただし、膨張部としての第2柱状体1b、2b、3bは、膨張に伴う突っ張り力Fを山留壁4に対して確実かつ効果的に作用させるため、できるだけ山留壁4に近い箇所に構築するのが望ましい。
【0021】
(2)前述の実施形態では、平面視でほぼL字状の山留壁4に対して、第1〜第3までの合計3基の地中切梁1、2、3を構築した例を示したが、地中切梁の構築数は、当然のことながら山留壁4の規模などに応じて自由に設定可能である。
また、対象となる山留壁4は、既存の建物を解体した後の既存地下躯体5に沿って構築されるものに限らず、あらゆる種類の山留壁4が含まれ、したがって、本発明はあらゆる種類の山留壁4を対象として実施することができる。
【0022】
(3)前述の実施形態では、第1〜第3地中切梁1、2、3を、流動化処理土やコンクリートで構成したが、当然、ソイルセメント柱列工法や高圧噴射撹拌工法等の各種の地盤改良工法による改良体で構成しても構わない。
【0023】
(4)前述の実施形態では、山留壁4を、流動化処理土からなる第1柱状体4aと鉄筋コンクリートからなる第2柱状体4bを交互にかつ隣接するものどうしが互いに重複する状態で一体化した柱列式の地中連続壁で構成したが、当然、本実施形態の構成に限らず、全ての柱状体を同じ材料で構築したり、柱列式以外の構造で構築しても構わない。
【符号の説明】
【0024】
1、2、3 地中切梁
1a、1c、2a、2c、3a、3c 硬化性材料からなる柱状体
1b、2b、3b 膨張部としての膨張硬化性材料からなる柱状体
4 山留壁
F 突っ張り力
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7