特許第6460722号(P6460722)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人山形大学の特許一覧

特許6460722飛翔体の形状の計算方法、飛翔体の形状の計算装置、飛翔体の形状の計算プログラム、計算システム、及び飛翔体の製造方法
<>
  • 特許6460722-飛翔体の形状の計算方法、飛翔体の形状の計算装置、飛翔体の形状の計算プログラム、計算システム、及び飛翔体の製造方法 図000002
  • 特許6460722-飛翔体の形状の計算方法、飛翔体の形状の計算装置、飛翔体の形状の計算プログラム、計算システム、及び飛翔体の製造方法 図000003
  • 特許6460722-飛翔体の形状の計算方法、飛翔体の形状の計算装置、飛翔体の形状の計算プログラム、計算システム、及び飛翔体の製造方法 図000004
  • 特許6460722-飛翔体の形状の計算方法、飛翔体の形状の計算装置、飛翔体の形状の計算プログラム、計算システム、及び飛翔体の製造方法 図000005
  • 特許6460722-飛翔体の形状の計算方法、飛翔体の形状の計算装置、飛翔体の形状の計算プログラム、計算システム、及び飛翔体の製造方法 図000006
  • 特許6460722-飛翔体の形状の計算方法、飛翔体の形状の計算装置、飛翔体の形状の計算プログラム、計算システム、及び飛翔体の製造方法 図000007
  • 特許6460722-飛翔体の形状の計算方法、飛翔体の形状の計算装置、飛翔体の形状の計算プログラム、計算システム、及び飛翔体の製造方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6460722
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】飛翔体の形状の計算方法、飛翔体の形状の計算装置、飛翔体の形状の計算プログラム、計算システム、及び飛翔体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A63B 65/10 20060101AFI20190121BHJP
   A63B 69/00 20060101ALI20190121BHJP
【FI】
   A63B65/10 Z
   A63B69/00 C
【請求項の数】13
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-217501(P2014-217501)
(22)【出願日】2014年10月24日
(65)【公開番号】特開2016-83118(P2016-83118A)
(43)【公開日】2016年5月19日
【審査請求日】2017年8月9日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.International Association of Computer Science in Sport Conference、″Proceedings of the International Association of Computer Science in Sport Conference(IACSS2014)″、第88−93頁、平成26年6月22日発行 2.International Association of Computer Science in Sports IACSS 2014 Conference、Charles Darwin University、平成26年6月24日発表 3.Elsevier Ltd、″Procedia Engineering″、第72巻(2014)、第756−761頁、ISSN 1877−7058、平成26年7月14日発行 4.The 2014 Conference of the International Sports Engineering Association、Sheffield Hallam University、平成26年7月14日発表 5.SCITEPRESS、″Proceedings of ECTA 2014 − 6th International Conference on Evolutionary Computation Theory and Applications″、第198−206頁、平成26年10月22日発行
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 和哉
【審査官】 谷垣 圭二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−190365(JP,A)
【文献】 瀬尾和哉 等,円盤投の最適化に関する可視化技術−PIV,煙,SOM,アニメーション−,可視化情報,2013年 7月,Vol.33,No.130,6-10
【文献】 Kazuya Seo et al,Optimization of the moment of inertia and the releaseconditions of a discus,Procedia Engineering 34,2012年,Vol.34,170-175
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 65/10
A63B 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
競技規則によってそれぞれ所定の範囲にあることが定められた1又は複数の形状パラメータを有する飛翔体の形状の計算方法であって、
[1]前記飛翔体の質量特性と、前記飛翔体の運動初期状態と、を表す複数の初期条件パラメータ、を決定する初期条件パラメータ決定ステップと、
[2]計算の対象となる前記飛翔体の1又は複数の形状パラメータを決定する形状パラメータ決定ステップと、
[3]前記初期条件パラメータ決定ステップで決定された前記複数の初期条件パラメータと、前記形状パラメータ決定ステップで決定された前記1又は複数の形状パラメータと、
に基づいて、前記飛翔体の飛距離を計算する飛翔体飛距離計算ステップと、
[4]前記1又は複数の形状パラメータのうち、一部又は全部の形状パラメータを変数パラメータとして、前記飛翔体飛距離計算ステップで計算を行った前記1又は複数の形状パラメータとは異なる組み合わせからなる前記1又は複数の形状パラメータを、前記形状パラメータ決定ステップにおいて決定させ、さらに、前記飛翔体飛距離計算ステップに、該形状パラメータに基づいて、前記飛翔体の飛距離を計算させる、飛距離再計算実行ステップと、
[5]前記飛距離再計算実行ステップにおいて計算された複数回の前記飛翔体の飛距離の計算結果に基づいて、前記飛翔体の形状を決定する、飛翔体形状決定ステップと、
を備え、
前記飛翔体飛距離計算ステップは、
[A]前記飛翔体の運動初期状態から前記飛翔体が目標平面に到達するまでの1の時刻における、前記飛翔体の運動状態を決定する、飛翔体運動条件決定ステップと、
[B]前記1又は複数の形状パラメータの離散値の組み合わせと、複数の迎え角と、に対する空力係数情報の経験値から内挿又は外捜することにより空力係数を決定し、前記飛翔体運動条件決定ステップによって決定された前記飛翔体の運動状態において、決定される前記空力係数から前記飛翔体にかかる縦3分力を決定する、縦3分力決定ステップと、
[C]前記飛翔体運動条件決定ステップにおいて決定された前記飛翔体の運動状態と、前記縦3分力決定ステップにおいて決定された前記縦3分力と、に基づいて、運動方程式を用いて、前記1の時刻の次の時刻における前記飛翔体の運動状態を決定する、運動方程式解法ステップと、
[D]前記運動方程式解法ステップにおいて決定された前記次の時刻における前記飛翔体の運動状態を、前記飛翔体運動条件決定ステップに、前記1の時刻における、前記飛翔体の運動状態として決定させ、該飛翔体の運動状態に対して、前記縦3分力決定ステップと、前記運動方程式解法ステップとを実行させる、運動状態再計算実行ステップと、
[E]前記運動状態再計算実行ステップの実行結果に基づいて、前記飛翔体の飛距離を決定する、飛翔体飛距離決定ステップと、
を備える、
ことを特徴とする、飛翔体の形状の計算方法。
【請求項2】
請求項1に記載の飛翔体の形状の計算方法であって、
前記3分力決定ステップにおいて用いられる前記1又は複数の形状パラメータのある組合わせとなる前記飛翔体の形状において、前記空力係数情報の前記迎え角依存性に、特定の迎え角範囲に不連続な特性がある場合に、該特定の迎え角範囲にある複数の迎え角における前記空力係数情報の経験値が保持されている、
ことを特徴とする、飛翔体の形状の計算方法。
【請求項3】
請求項1に記載の飛翔体の形状の計算方法であって、
前記3分力決定ステップにおいて用いられる前記1又は複数の形状パラメータのある組合わせとなる前記飛翔体の形状において、保持される前記空力係数情報の複数の経験値は、45°以上90°以下の複数の迎え角における経験値を含む、
ことを特徴とする、飛翔体の形状の計算方法。
【請求項4】
請求項1に記載の飛翔体の形状の計算方法であって、
前記3分力決定ステップにおいて用いられる前記1又は複数の形状パラメータのすべての組合わせとなる前記飛翔体の形状において、保持される前記空力係数情報の複数の経験値は、45°以上90°以下の複数の迎え角における経験値を含む、
ことを特徴とする、飛翔体の形状の計算方法。
【請求項5】
請求項4に記載の飛翔体の形状の計算方法であって、
前記3分力決定ステップにおいて用いられる前記1又は複数の形状パラメータのある組合わせとなる前記飛翔体の形状において、前記空力係数情報の前記迎え角依存性に、特定の迎え角範囲に不連続な特性がある場合に、前記飛翔体の該形状において前記保持される前記空力係数情報の複数の経験値は、該特定の迎え角範囲にある複数の迎え角における経験値を含む、
ことを特徴とする、飛翔体の形状の計算方法。
【請求項6】
請求項2又は請求項5に記載の飛翔体の形状の計算方法であって、
前記組み合わせとなる前記飛翔体の形状において、前記特定の迎え角範囲にある前記複数の迎え角における前記空力係数情報の経験値により、前記不連続な特性があることを判定することが出来る、
ことを特徴とする、飛翔体の形状の計算方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の飛翔体の形状の計算方法であって、
飛距離再計算実行ステップは、前記複数の初期条件パラメータのうち、一部又は全部の初期条件パラメータをさらに変数パラメータとして、前記飛翔体飛距離計算ステップで計算を行った前記複数の初期条件パラメータ及び前記1又は複数の形状パラメータとは異なる組み合わせからなる前記複数の初期条件パラメータ及び前記1又は複数の形状パラメータを、前記初期条件パラメータ決定ステップ又は/及び前記形状パラメータ決定ステップにおいて決定させる、
ことを特徴とする、飛翔体の形状の計算方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の飛翔体の形状の計算方法であって、
飛距離再計算実行ステップは、すでに実行された実行結果の評価値に基づいて、次に前記形状パラメータ決定ステップにおいて決定させる前記1又は複数の形状パラメータを決定する、
ことを特徴とする、飛翔体の形状の計算方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の飛翔体の形状の計算方法であって、
前記飛翔体は、円盤投に用いられる円盤、又は槍投に用いられる槍のいずれかである、
ことを特徴とする、飛翔体の形状の計算方法。
【請求項10】
競技規則によってそれぞれ所定の範囲にあることが定められた1又は複数の形状パラメータを有する飛翔体の形状の計算装置であって、
[1]前記飛翔体の質量特性と、前記飛翔体の運動初期状態と、を表す複数の初期条件パラメータを決定する初期条件パラメータ決定手段と、
[2]計算の対象となる前記飛翔体の1又は複数の形状パラメータを決定する形状パラメータ決定手段と、
[3]前記初期条件パラメータ決定手段で決定された前記複数の初期条件パラメータと、前記形状パラメータ決定手段で決定された前記1又は複数の形状パラメータと、に基づいて、前記飛翔体の飛距離を計算する飛翔体飛距離計算手段と、
[4]前記1又は複数の形状パラメータのうち、一部又は全部の形状パラメータを変数パラメータとして、前記飛翔体飛距離計算手段で計算を行った前記1又は複数の形状パラメータとは異なる組み合わせからなる前記1又は複数の形状パラメータを、前記形状パラメータ決定手段において決定させ、さらに、前記飛翔体飛距離計算手段に、該形状パラメータに基づいて、前記飛翔体の飛距離を計算させる、飛距離再計算実行手段と、
[5]前記飛距離再計算実行手段において計算された複数回の前記飛翔体の飛距離の計算結果に基づいて、前記飛翔体の形状を決定する、飛翔体形状決定手段と、
を備え、
前記飛翔体飛距離計算手段は、
[A]前記飛翔体の運動初期状態から前記飛翔体が目標平面に到達するまでの1の時刻における、前記飛翔体の運動状態を決定する、飛翔体運動条件決定手段と、
[B]前記1又は複数の形状パラメータの離散値の組み合わせと、複数の迎え角と、に対する空力係数情報の経験値から内挿又は外捜することにより空力係数を決定し、前記飛翔体運動条件決定手段によって決定された前記飛翔体の運動状態において、決定される前記空力係数から前記飛翔体にかかる縦3分力を決定する、縦3分力決定手段と、
[C]前記飛翔体運動条件決定手段において決定された前記飛翔体の運動状態と、前記縦3分力決定手段において決定された前記縦3分力と、に基づいて、運動方程式を用いて、前記1の時刻の次の時刻における前記飛翔体の運動状態を決定する、運動方程式解法手段と、
[D]前記運動方程式解法手段において決定された前記次の時刻における前記飛翔体の運動状態を、前記飛翔体運動条件決定手段に、前記1の時刻における、前記飛翔体の運動状態として決定させ、該飛翔体の運動状態に対して、前記縦3分力決定手段と、前記運動方程式解法手段とに実行させる、運動状態再計算実行手段と、
[E]前記運動状態再計算実行手段の実行結果に基づいて、前記飛翔体の飛距離を決定する、飛翔体飛距離決定手段と、
を備える、
ことを特徴とする、飛翔体の形状の計算装置。
【請求項11】
競技規則によってそれぞれ所定の範囲にあることが定められた1又は複数の形状パラメータを有する飛翔体の形状の計算プログラムであって、
コンピュータを、
[1]前記飛翔体の質量特性と、前記飛翔体の運動初期状態と、を表す複数の初期条件パラメータを決定する初期条件パラメータ決定手段、
[2]計算の対象となる前記飛翔体の1又は複数の形状パラメータを決定する形状パラメータ決定手段、
[3]前記初期条件パラメータ決定手段で決定された前記複数の初期条件パラメータと、前記形状パラメータ決定手段で決定された前記1又は複数の形状パラメータと、に基づいて、前記飛翔体の飛距離を計算する飛翔体飛距離計算手段、
[4]前記1又は複数の形状パラメータのうち、一部又は全部の形状パラメータを変数パラメータとして、前記飛翔体飛距離計算手段で計算を行った前記1又は複数の形状パラメータとは異なる組み合わせからなる前記1又は複数の形状パラメータを、前記形状パラメータ決定手段において決定させ、さらに、前記飛翔体飛距離計算手段に、該形状パラメータに基づいて、前記飛翔体の飛距離を計算させる、飛距離再計算実行手段、
[5]前記飛距離再計算実行手段において計算された複数回の前記飛翔体の飛距離の計算結果に基づいて、前記飛翔体の形状を決定する、飛翔体形状決定手段、
として機能させ、
前記飛翔体飛距離計算手段は、
[A]前記飛翔体の運動初期状態から前記飛翔体が目標平面に到達するまでの1の時刻における、前記飛翔体の運動状態を決定する、飛翔体運動条件決定手段と、
[B]前記1又は複数の形状パラメータの離散値の組み合わせと、複数の迎え角と、に対する空力係数情報の経験値から内挿又は外捜することにより空力係数を決定し、前記飛翔体運動条件決定手段によって決定された前記飛翔体の運動状態において、決定される前記空力係数から前記飛翔体にかかる縦3分力を決定する、縦3分力決定手段と、
[C]前記飛翔体運動条件決定手段において決定された前記飛翔体の運動状態と、前記縦3分力決定手段において決定された前記縦3分力と、に基づいて、運動方程式を用いて、前記1の時刻の次の時刻における前記飛翔体の運動状態を決定する、運動方程式解法手段と、
[D]前記運動方程式解法手段において決定された前記次の時刻における前記飛翔体の運動状態を、前記飛翔体運動条件決定手段に、前記1の時刻における、前記飛翔体の運動状態として決定させ、該飛翔体の運動状態に対して、前記縦3分力決定手段と、前記運動方程式解法手段とに実行させる、運動状態再計算実行手段と、
[E]前記運動状態再計算実行手段の実行結果に基づいて、前記飛翔体の飛距離を決定する、飛翔体飛距離決定手段と、
を備える、
ことを特徴とする、飛翔体の形状の計算プログラム。
【請求項12】
競技規則によってそれぞれ所定の範囲にあることが定められた1又は複数の形状パラメータを有する飛翔体の形状の計算装置であって、
[1]前記飛翔体の質量特性と、前記飛翔体の運動初期状態と、を表す複数の初期条件パラメータを決定する初期条件パラメータ決定手段と、
[2]計算の対象となる前記飛翔体の1又は複数の形状パラメータを決定する形状パラメータ決定手段と、
[3]前記初期条件パラメータ決定手段で決定された前記複数の初期条件パラメータと、前記形状パラメータ決定手段で決定された前記1又は複数の形状パラメータと、に基づいて、前記飛翔体の飛距離を計算する飛翔体飛距離計算手段と、
[4]前記1又は複数の形状パラメータのうち、一部又は全部の形状パラメータを変数パラメータとして、前記飛翔体飛距離計算手段で計算を行った前記1又は複数の形状パラメータとは異なる組み合わせからなる前記1又は複数の形状パラメータを、前記形状パラメータ決定手段において決定させ、さらに、前記飛翔体飛距離計算手段に、該形状パラメータに基づいて、前記飛翔体の飛距離を計算させる、飛距離再計算実行手段と、
[5]前記飛距離再計算実行手段において計算された複数回の前記飛翔体の飛距離の計算結果に基づいて、前記飛翔体の形状を決定する、飛翔体形状決定手段と、
を備え、
前記飛翔体飛距離計算手段は、
[A]前記飛翔体の運動初期状態から前記飛翔体が目標平面に到達するまでの1の時刻における、前記飛翔体の運動状態を決定する、飛翔体運動条件決定手段と、
[B]前記1又は複数の形状パラメータの離散値の組み合わせと、複数の迎え角と、に対する空力係数情報の経験値、に基づいて、前記飛翔体運動条件決定手段によって決定された前記飛翔体の運動状態において、前記飛翔体にかかる縦3分力を決定する、縦3分力決定手段と、
[C]前記飛翔体運動条件決定手段において決定された前記飛翔体の運動状態と、前記縦3分力決定手段において決定された前記縦3分力と、に基づいて、運動方程式を用いて、前記1の時刻の次の時刻における前記飛翔体の運動状態を決定する、運動方程式解法手段と、
[D]前記運動方程式解法手段において決定された前記次の時刻における前記飛翔体の運動状態を、前記飛翔体運動条件決定手段に、前記1の時刻における、前記飛翔体の運動状態として決定させ、該飛翔体の運動状態に対して、前記縦3分力決定手段と、前記運動方程式解法手段とに実行させる、運動状態再計算実行手段と、
[E]前記運動状態再計算実行手段の実行結果に基づいて、前記飛翔体の飛距離を決定する、飛翔体飛距離決定手段と、
を備える、
ことを特徴とする、飛翔体の形状の計算装置と、
前記飛翔体の運動初期状態から、前記複数の初期条件パラメータの一部である競技者の技能パラメータを決定する、競技者技能解析装置と、
を備える、計算システム。
【請求項13】
競技規則によってそれぞれ所定の範囲にあることが定められた1又は複数の形状パラメータを有する飛翔体の製造方法であって、
[1]前記飛翔体の質量特性と、前記飛翔体の運動初期状態と、を表す複数の初期条件パラメータ、を決定する初期条件パラメータ決定ステップと、
[2]計算の対象となる前記飛翔体の1又は複数の形状パラメータを決定する形状パラメータ決定ステップと、
[3]前記初期条件パラメータ決定ステップで決定された前記複数の初期条件パラメータと、前記形状パラメータ決定ステップで決定された前記1又は複数の形状パラメータと、に基づいて、前記飛翔体の飛距離を計算する飛翔体飛距離計算ステップと、
[4]前記1又は複数の形状パラメータのうち、一部又は全部の形状パラメータを変数パラメータとして、前記飛翔体飛距離計算ステップで計算を行った前記1又は複数の形状パラメータとは異なる組み合わせからなる前記1又は複数の形状パラメータを、前記形状パラメータ決定ステップにおいて決定させ、さらに、前記飛翔体飛距離計算ステップに、該形状パラメータに基づいて、前記飛翔体の飛距離を計算させる、飛距離再計算実行ステップと、
[5]前記飛距離再計算実行ステップにおいて計算された複数回の前記飛翔体の飛距離の計算結果に基づいて、前記飛翔体の形状を決定する、飛翔体形状決定ステップと、
[6]前記飛翔体形状決定ステップで決定された前記飛翔体の形状に基づいて、前記飛翔体を形成する、飛翔体形成ステップと、
を備え、
前記飛翔体飛距離計算ステップは、
[A]前記飛翔体の運動初期状態から前記飛翔体が目標平面に到達するまでの1の時刻における、前記飛翔体の運動状態を決定する、飛翔体運動条件決定ステップと、
[B]前記1又は複数の形状パラメータの離散値の組み合わせと、複数の迎え角と、に対する空力係数情報の経験値から内挿又は外捜することにより空力係数を決定し、前記飛翔体運動条件決定ステップによって決定された前記飛翔体の運動状態において、決定される前記空力係数から前記飛翔体にかかる縦3分力を決定する、縦3分力決定ステップと、
[C]前記飛翔体運動条件決定ステップにおいて決定された前記飛翔体の運動状態と、前記縦3分力決定ステップにおいて決定された前記縦3分力と、に基づいて、運動方程式を用いて、前記1の時刻の次の時刻における前記飛翔体の運動状態を決定する、運動方程式解法ステップと、
[D]前記運動方程式解法ステップにおいて決定された前記次の時刻における前記飛翔体の運動状態を、前記飛翔体運動条件決定ステップに、前記1の時刻における、前記飛翔体の運動状態として決定させ、該飛翔体の運動状態に対して、前記縦3分力決定ステップと、前記運動方程式解法ステップとを実行させる、運動状態再計算実行ステップと、
[E]前記運動状態再計算実行ステップの実行結果に基づいて、前記飛翔体の飛距離を決定する、飛翔体飛距離決定ステップと、
を備える、
ことを特徴とする、飛翔体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛翔体の形状の計算方法に関し、特に、飛距離を競う競技に用いる飛翔体の形状の計算に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、円盤投や槍投など、競技者が飛翔体を投擲し、飛翔体の飛距離を競う競技がある。スポーツ工学において、飛翔体の飛距離をいかに延ばすかという視点から、所定の飛翔体に対して、かかる飛翔体の飛距離をより長くするための打上げ(Launch)条件について研究がなされている。かかる技術については、非特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Mont Hubbard, Kuangyou B. Cheng、"Optimal discus trajectories"、Journal of Biomechanics、2007年、vol.40、3650−3659頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
最適化された打上げ条件は、競技者が備える高い技能によって達成されるものである。しかしながら、競技者は人間であり、人間の技能改善には肉体的な限界がある。例えば、平均身長が低い民族に属する競技者が身長を理想的な値まで延ばすことは困難である。また、競技者の技能は様々であり、世界トップレベルの選手が達成し得る打上げ条件を、初心者レベルの競技者が目指すことは困難である。
【0005】
飛翔体の飛距離を競う競技において、飛翔体の形状は競技規則の規格によって定められており、いくつかの形状パラメータが所定の範囲内にあることが求められている。競技者は、かかる規格に適合する複数の飛翔体の中から、自らが競技に用いる飛翔体を選択することとなる。その際に、複数の飛翔体の中から、いくつかを試験的に投擲し、そのときの飛距離や打上げの状態を、選択者又は助言者が自らの主観に基づいて判断する。従来、その主観による判断に基づいてどの飛翔体が適しているかを評価し、飛翔体を選択している。しかしながら、選択者又は助言者の主観に基づく選択は、選択者又は助言者の熟練度に基づいているに過ぎない。それゆえ、選択者又は助言者の熟練度に依らず、客観的に飛翔体の形状を計算する必要がある。
【0006】
本発明は、かかる課題を鑑みてなされたものであり、競技者の技能に適した飛翔体の形状の計算方法、計算装置、計算プログラム、及び計算システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記課題を解決するために、本発明に係る計算方法は、競技規則によってそれぞれ所定の範囲にあることが定められた1又は複数の形状パラメータを有する飛翔体の形状の計算方法であって、[1]前記飛翔体の質量特性と、前記飛翔体の運動初期状態と、を表す複数の初期条件パラメータ、を決定する初期条件パラメータ決定ステップと、[2]計算の対象となる前記飛翔体の1又は複数の形状パラメータを決定する形状パラメータ決定ステップと、[3]前記初期条件パラメータ決定ステップで決定された前記複数の初期条件パラメータと、前記形状パラメータ決定ステップで決定された前記1又は複数の形状パラメータと、に基づいて、前記飛翔体の飛距離を計算する飛翔体飛距離計算ステップと、[4]前記1又は複数の形状パラメータのうち、一部又は全部の形状パラメータを変数パラメータとして、前記飛翔体飛距離計算ステップで計算を行った前記1又は複数の形状パラメータとは異なる組み合わせからなる前記1又は複数の形状パラメータを、前記形状パラメータ決定ステップにおいて決定させ、さらに、前記飛翔体飛距離計算ステップに、該形状パラメータに基づいて、前記飛翔体の飛距離を計算させる、飛距離再計算実行ステップと、[5]前記飛距離再計算実行ステップにおいて計算された複数回の前記飛翔体の飛距離の計算結果に基づいて、前記飛翔体の形状を決定する、飛翔体形状決定ステップと、を備え、前記飛翔体飛距離計算ステップは、[A]前記飛翔体の運動初期状態から前記飛翔体が目標平面に到達するまでの1の時刻における、前記飛翔体の運動状態を決定する、飛翔体運動条件決定ステップと、[B]前記1又は複数の形状パラメータの離散値の組み合わせと、複数の迎え角と、に対する空力係数情報の経験値、に基づいて、前記飛翔体運動条件決定ステップによって決定された前記飛翔体の運動状態において、前記飛翔体にかかる縦3分力を決定する、縦3分力決定ステップと、[C]前記飛翔体運動条件決定ステップにおいて決定された前記飛翔体の運動状態と、前記縦3分力決定ステップにおいて決定された前記縦3分力と、に基づいて、運動方程式を用いて、前記1の時刻の次の時刻における前記飛翔体の運動状態を決定する、運動方程式解法ステップと、[D]前記運動方程式解法ステップにおいて決定された前記次の時刻における前記飛翔体の運動状態を、前記飛翔体運動条件決定ステップに、前記1の時刻における、前記飛翔体の運動状態として決定させ、該飛翔体の運動状態に対して、前記縦3分力決定ステップと、前記運動方程式解法ステップとを実行させる、運動状態再計算実行ステップと、[E]前記運動状態再計算実行ステップの実行結果に基づいて、前記飛翔体の飛距離を決定する、飛翔体飛距離決定ステップと、を備える。
【0008】
(2)上記(1)に記載の飛翔体の形状の計算方法であって、前記3分力決定ステップにおいて用いられる前記1又は複数の形状パラメータのある組合わせとなる前記飛翔体の形状において、前記空力係数情報の前記迎え角依存性に、特定の迎え角範囲に不連続な特性がある場合に、該特定の迎え角範囲にある複数の迎え角における前記空力係数情報の経験値が保持されていてもよい。
【0009】
(3)上記(1)に記載の飛翔体の形状の計算方法であって、前記3分力決定ステップにおいて用いられる前記1又は複数の形状パラメータのある組合わせとなる前記飛翔体の形状において、保持される前記空力係数情報の複数の経験値は、45°以上90°以下の複数の迎え角における経験値を含んでもよい。
【0010】
(4)上記(1)に記載の飛翔体の形状の計算方法であって、前記3分力決定ステップにおいて用いられる前記1又は複数の形状パラメータのすべての組合わせとなる前記飛翔体の形状において、保持される前記空力係数情報の複数の経験値は、45°以上90°以下の複数の迎え角における経験値を含んでもよい。
【0011】
(5)上記(4)に記載の飛翔体の形状の計算方法であって、前記3分力決定ステップにおいて用いられる前記1又は複数の形状パラメータのある組合わせとなる前記飛翔体の形状において、前記空力係数情報の前記迎え角依存性に、特定の迎え角範囲に不連続な特性がある場合に、前記飛翔体の該形状において前記保持される前記空力係数情報の複数の経験値は、該特定の迎え角範囲にある複数の迎え角における経験値を含んでもよい。
【0012】
(6)上記(2)又は(5)に記載の飛翔体の形状の計算方法であって、前記組み合わせとなる前記飛翔体の形状において、前記特定の迎え角範囲にある前記複数の迎え角における前記空力係数情報の経験値により、前記不連続な特性があることを判定することが出来てもよい。
【0013】
(7)上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の飛翔体の形状の計算方法であって、飛距離再計算実行ステップは、前記複数の初期条件パラメータのうち、一部又は全部の初期条件パラメータをさらに変数パラメータとして、前記飛翔体飛距離計算ステップで計算を行った前記複数の初期条件パラメータ及び前記1又は複数の形状パラメータとは異なる組み合わせからなる前記複数の初期条件パラメータ及び前記1又は複数の形状パラメータを、前記初期条件パラメータ決定ステップ又は/及び前記形状パラメータ決定ステップにおいて決定させてもよい。
【0014】
(8)上記(1)乃至(7)のいずれかに記載の飛翔体の形状の計算方法であって、飛距離再計算実行ステップは、すでに実行された実行結果の評価値に基づいて、次に前記形状パラメータ決定ステップにおいて決定させる前記1又は複数の形状パラメータを決定してもよい。
【0015】
(9)本発明に係る計算装置は、競技規則によってそれぞれ所定の範囲にあることが定められた1又は複数の形状パラメータを有する飛翔体の形状の計算装置であって、[1]前記飛翔体の質量特性と、前記飛翔体の運動初期状態と、を表す複数の初期条件パラメータ、を決定する初期条件パラメータ決定手段と、[2]計算の対象となる前記飛翔体の1又は複数の形状パラメータを決定する形状パラメータ決定手段と、[3]前記初期条件パラメータ決定手段で決定された前記複数の初期条件パラメータと、前記形状パラメータ決定手段で決定された前記1又は複数の形状パラメータと、に基づいて、前記飛翔体の飛距離を計算する飛翔体飛距離計算手段と、[4]前記1又は複数の形状パラメータのうち、一部又は全部の形状パラメータを変数パラメータとして、前記飛翔体飛距離計算手段で計算を行った前記1又は複数の形状パラメータとは異なる組み合わせからなる前記1又は複数の形状パラメータを、前記形状パラメータ決定手段において決定させ、さらに、前記飛翔体飛距離計算手段に、該形状パラメータに基づいて、前記飛翔体の飛距離を計算させる、飛距離再計算実行手段と、[5]前記飛距離再計算実行手段において計算された複数回の前記飛翔体の飛距離の計算結果に基づいて、前記飛翔体の形状を決定する、飛翔体形状決定手段と、を備え、前記飛翔体飛距離計算手段は、[A]前記飛翔体の運動初期状態から前記飛翔体が目標平面に到達するまでの1の時刻における、前記飛翔体の運動状態を決定する、飛翔体運動条件決定手段と、[B]前記1又は複数の形状パラメータの離散値の組み合わせと、複数の迎え角と、に対する空力係数情報の経験値、に基づいて、前記飛翔体運動条件決定手段によって決定された前記飛翔体の運動状態において、前記飛翔体にかかる縦3分力を決定する、縦3分力決定手段と、[C]前記飛翔体運動条件決定手段において決定された前記飛翔体の運動状態と、前記縦3分力決定手段において決定された前記縦3分力と、に基づいて、運動方程式を用いて、前記1の時刻の次の時刻における前記飛翔体の運動状態を決定する、運動方程式解法手段と、[D]前記運動方程式解法手段において決定された前記次の時刻における前記飛翔体の運動状態を、前記飛翔体運動条件決定手段に、前記1の時刻における、前記飛翔体の運動状態として決定させ、該飛翔体の運動状態に対して、前記縦3分力決定手段と、前記運動方程式解法手段とに実行させる、運動状態再計算実行手段と、[E]前記運動状態再計算実行手段の実行結果に基づいて、前記飛翔体の飛距離を決定する、飛翔体飛距離決定手段と、を備えてもよい。
【0016】
(10)本発明に係る計算プログラムは、競技規則によってそれぞれ所定の範囲にあることが定められた1又は複数の形状パラメータを有する飛翔体の形状の計算プログラムであって、コンピュータを、[1]前記飛翔体の質量特性と、前記飛翔体の運動初期状態と、を表す複数の初期条件パラメータ、を決定する初期条件パラメータ決定手段、[2]計算の対象となる前記飛翔体の1又は複数の形状パラメータを決定する形状パラメータ決定手段、[3]前記初期条件パラメータ決定手段で決定された前記複数の初期条件パラメータと、前記形状パラメータ決定手段で決定された前記1又は複数の形状パラメータと、に基づいて、前記飛翔体の飛距離を計算する飛翔体飛距離計算手段、[4]前記1又は複数の形状パラメータのうち、一部又は全部の形状パラメータを変数パラメータとして、前記飛翔体飛距離計算手段で計算を行った前記1又は複数の形状パラメータとは異なる組み合わせからなる前記1又は複数の形状パラメータを、前記形状パラメータ決定手段において決定させ、さらに、前記飛翔体飛距離計算手段に、該形状パラメータに基づいて、前記飛翔体の飛距離を計算させる、飛距離再計算実行手段、[5]前記飛距離再計算実行手段において計算された複数回の前記飛翔体の飛距離の計算結果に基づいて、前記飛翔体の形状を決定する、飛翔体形状決定手段、として機能させ、前記飛翔体飛距離計算手段は、[A]前記飛翔体の運動初期状態から前記飛翔体が目標平面に到達するまでの1の時刻における、前記飛翔体の運動状態を決定する、飛翔体運動条件決定手段と、[B]前記1又は複数の形状パラメータの離散値の組み合わせと、複数の迎え角と、に対する空力係数情報の経験値、に基づいて、前記飛翔体運動条件決定手段によって決定された前記飛翔体の運動状態において、前記飛翔体にかかる縦3分力を決定する、縦3分力決定手段と、[C]前記飛翔体運動条件決定手段において決定された前記飛翔体の運動状態と、前記縦3分力決定手段において決定された前記縦3分力と、に基づいて、運動方程式を用いて、前記1の時刻の次の時刻における前記飛翔体の運動状態を決定する、運動方程式解法手段と、[D]前記運動方程式解法手段において決定された前記次の時刻における前記飛翔体の運動状態を、前記飛翔体運動条件決定手段に、前記1の時刻における、前記飛翔体の運動状態として決定させ、該飛翔体の運動状態に対して、前記縦3分力決定手段と、前記運動方程式解法手段とに実行させる、運動状態再計算実行手段と、[E]前記運動状態再計算実行手段の実行結果に基づいて、前記飛翔体の飛距離を決定する、飛翔体飛距離決定手段と、を備えてもよい。
【0017】
(11)本発明に係る計算システムは、上記(9)に記載の計算装置と、前記飛翔体の運動初期状態から、前記複数の初期条件パラメータの一部である競技者の技能パラメータを決定する、競技者技能解析装置と、を備えてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、競技者の技能に適した飛翔体の形状の計算方法、計算装置、計算プログラム、及び計算システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る飛翔体の計算システムの構成を示すブロック図である。
図2】円盤の形状パラメータを示す図である。
図3】本発明の実施形態に係る飛翔体の形状の計算方法を示すフローチャートである。
図4】本発明の実施形態に係る飛翔体飛距離計算ステップを示すフローチャートである。
図5】本発明の実施形態に係る円盤の運動状態を示す図である。
図6】本発明の実施形態に係る空力係数の空力応答曲面の一例を示す図である。
図7】本発明の実施形態に係る円盤の形状における空力係数の迎え角依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面に基づき、本発明の実施形態に係る飛翔体の形状の計算方法を具体的かつ詳細に説明する。図1は、当該実施形態に係る飛翔体の形状の計算システム1の構成を示すブロック図である。当該実施形態に係る飛翔体の形状の計算システム1は、競技者技能解析装置11と、飛翔体の形状の計算装置12と、製造装置21と、を備えている。ここで、飛翔体は円盤である。円盤投は、陸上競技の1つであり、競技者が投擲した円盤の飛距離を競う競技である。
【0021】
競技者技能解析装置11は、競技者の技能を解析する装置であり、円盤の運動初期状態から、競技者の技能パラメータ(複数の初期条件パラメータの一部)を決定する。さらに、技能パラメータと、円盤の質量特性パラメータと、を合わせて、複数の初期条件パラメータを決定する。ここで、円盤の運動初期状態は、競技者が円盤を実際に打ち上げる際の円盤の運動状態とするが、これに限定されることはなく、打上げられた後の任意の時刻における円盤の運動状態を運動初期状態としてもよい。この場合、かかる時刻から円盤が目標平面(地面)に到達するまでの時刻について運動状態の計算を行うこととなる。また、複数の初期条件パラメータは、2個の質量特性パラメータと、12個の技能パラメータと、の合計14個のパラメータである。2個の質量特性パラメータは円盤の質量特性を表すパラメータである。一般に、剛体の質量特性は、質量、重心位置、慣性テンソルからなるが、ここでは、円盤の対称性により、重心位置は円盤の中心であり、慣性テンソルは、円盤の主軸(Transverse Axis:z軸)回りの慣性モーメントIのみを考えればよい。すなわち、2個の質量特性パラメータは、円盤の質量mと、円盤の主軸(Transverse Axis:z軸)回りの慣性モーメントIである。また、円盤の運動状態とは、円盤の重心座標と、円盤の姿勢(オイラー角)と、円盤の速度ベクトルと、円盤の角速度ベクトルと、によって表される。また、円盤の運動初期状態は、競技者の技能によって決まる。それゆえ、競技者の技能は、円盤の運動初期状態で表され、具体的には、打上げ時の円盤の重心座標と、打上げ時の円盤の姿勢と、打上げ時の円盤の初速度ベクトルと、打上げ時の円盤の初角速度ベクトルと、によって表される。前述の通り、競技者の技能は12個の技能パラメータで表される。例えば、打上げ時の円盤の重心座標は、座標成分X,Y,及びZ(3個のパラメータ)である。打上げ時の円盤の姿勢は、偏揺れ角(Yaw Angle)Ψ、ピッチ角Θ、及びロール角Φ(3個のパラメータ)である。打上げ時の円盤の初速度ベクトルは、初速度ベクトルの大きさU、飛行経路角γ、及び速度ベクトルの方位角Χ(3個のパラメータ)である。打上げ時の円盤の初角速度ベクトルは、x軸回りのスピン量(角速度成分)P、y軸回りのスピン量(角速度成分)Q、及びz軸回りのスピン量(角速度成分)R(3個のパラメータ)である。なお、ここで、x軸、y軸、及びz軸は、物体固定座標の座標軸であり、z軸が主軸である。
【0022】
競技者技能解析装置11は、競技者の投擲ステージ(直径2.5mの円形状のステージ)と、投擲ステージの周辺に配置される複数のビデオカメラと、解析用コンピュータと、を備えている。競技者が円盤を打ち出す場面を複数のビデオカメラが撮影する。解析用コンピュータに、競技者及び円盤の情報が入力され、さらに、解析用コンピュータは、複数のビデオカメラが撮影した映像を解析し、円盤の運動初期状態を表す技能パラメータを決定する。入力される円盤の情報は、円盤の質量特性パラメータや形状パラメータ(後述)を含んでおり、入力された質量特性パラメータと、技能パラメータと、を合わせて、初期条件パラメータを決定し、計算装置12へ出力する。なお、競技者に慣性センサーを装着して、測定を行ってもよい。また、競技者解析装置11は、技能パラメータを計算装置12へ出力してもよい。この場合、計算装置12が、入力される技能パラメータと、質量特性パラメータと、を合わせて、初期条件パラメータを決定する。
【0023】
計算装置12は、解析部13と、情報入力手段14と、情報出力手段15と、記憶部16と、空力係数情報データベース部17と、を備えており、一般に用いられるコンピュータによって実現される。計算装置12は、競技者技能解析装置11に接続している。競技者技能解析装置11が出力する初期条件パラメータが、計算装置12の情報入力手段14に入力される。また、かかる初期条件パラメータを、利用者が情報入力手段14に入力してもよいし、記憶部16が保持していてもよい。また、記憶部16が保持する円盤の質量特性パラメータと、情報入力手段14に入力される技能パラメータとを合わせて、初期条件パラメータを決定してもよい。記憶部16は、円盤の形状を規定する4個の形状パラメータの情報を保持している。記憶部16が保持する4個の形状パラメータの情報については後述する。解析部13は、競技者が投擲する円盤の飛距離をより延ばすことが出来る、円盤の形状を計算し、計算結果を、情報出力手段15へ出力する。情報出力手段15は、表示装置を備え、計算された円盤の形状が表示されてもよいし、外部に接続される表示装置へ計算結果を出力してもよい。空力係数情報データベース部17は、モデルとなる複数の円盤の形状に対する空力係数情報の経験値が保持されている。なお、詳細は後述する。当該実施形態に係る飛翔体の形状の計算装置12の解析部13は、以下に説明する各ステップを実行する手段をそれぞれ備えている。また、当該実施形態に係る飛翔体の形状の計算プログラムは、コンピュータを、各手段として機能させるためのプログラムである。
【0024】
製造装置21は、情報出力手段15が出力する円盤の形状の計算結果に基づいて、かかる形状の円盤を製造する。そして、円盤が競技者に提供される。ただし、当該実施形態に係る計算システム1は、製造装置21を備えていなくてもよい。
【0025】
図2は、円盤の形状パラメータを示す図である。飛翔体は1又は複数の形状パラメータを有している。以下、1又は複数の形状パラメータをm個(m≧1の整数)の形状パラメータと記す。ここでは、円盤は4個の形状パラメータを有しており、円盤の形状は4個の形状パラメータ(設計変数)によって規定される。ここで、円盤の形状を規定する4個の形状パラメータは、円盤の幅w、厚みTHK、金属リム(へり)の湾曲半径RMR、及び中心平面領域の直径DFCAである。4個の形状パラメータは競技規則によってそれぞれ所定の範囲にあることが定められている。競技規則では、例えば、女子ユースの競技用円盤形状において、幅wは180〜182mmの範囲に、厚みTHKは37〜39mmの範囲に、直径DFCAは50〜57mmの範囲に、それぞれあるよう定められている。さらに、競技規則では、主軸方向から平面視して円盤の外縁から中心へ6mmの位置の厚みを12〜13mmの範囲にあるよう定められているが、該厚みがかかる範囲にあることは、湾曲半径RMRが5.85〜6.45mmの範囲にあることと等価である。ここでは、上記4個のパラメータを4個の形状パラメータとしているが、これに限定されることはなく、競技規則から導出される等価な4個のパラメータであってもよい。
【0026】
なお、初期条件パラメータ(14個のパラメータ)と、形状パラメータ(4個のパラメータ)と、が決定されると、かかる18個のパラメータから、円盤の飛距離を計算することが出来る。前述の通り、初期条件パラメータは、12個の技能パラメータと、2個の質量特性パラメータからなる。それゆえ、2個の質量特性パラメータと、4個の形状パラメータと、を合わせて、円盤の質量特性及び形状が決定される円盤パラメータ(6個のパラメータ)と定義してもよい。この場合、円盤の飛距離を決定する18個のパラメータは、競技者の技能パラメータ(12個のパラメータ)と、円盤の円盤パラメータ(6個のパラメータ)からなる。
【0027】
図3は、当該実施形態に係る飛翔体の形状の計算方法を示すフローチャートである。図4は、当該実施形態に係る飛翔体飛距離計算ステップを示すフローチャートである。当該実施形態に係る飛翔体の形状の計算方法は、公知の代表的な最適化計算手法を用いて最適化計算を解くことによって実現される。ここでは、遺伝的アルゴリズム(GA)の最適化手法によって円盤の形状の計算を実行しているが、遺伝的アルゴリズムに限定されることはなく、免疫アルゴリズム又はランダムサーチ等の最適化計算手法によって計算を実行してもよい。なお、遺伝的アルゴリズムは、生物が環境に適応して進化していく過程を、工学的に模倣した学習的アルゴリズムである。円盤の形状を規定する遺伝子による遺伝子空間から複数のサンプルを選択し、初期集団を決定する。その初期集団のサンプルに対して、円盤の飛距離を計算する。初期集団に対する計算結果(実行結果)を、環境への適応度に係る所定の評価値に基づいて評価し、初期集団から優れた遺伝子を有するサンプルを選択し、交叉、又は、突然変異等の遺伝子操作を行って、次世代の集団を決定する。これを繰り返すことにより、少ないサンプルから、集団を時系列的に進化させて、最適解を短時間で得ることができる。以下に、当該実施形態に係る飛翔体の形状の計算方法について説明する。
【0028】
[ステップ1(S1):初期条件パラメータ決定ステップ]
ステップ1では、飛翔体の質量特性と、飛翔体(ここでは円盤)の運動初期状態と、から複数の初期条件パラメータを決定する。ここで、運動初期状態は、競技者が打ち上げる際の運動状態を言う。以下、複数の初期条件パラメータを、n個(n≧2の整数)の初期条件パラメータと記す。ここで、n個の初期条件パラメータは前述の14個のパラメータである。情報入力手段14に入力されるn個の初期条件パラメータと、以下の計算に用いられるn個の初期条件パラメータとは同一であり、以下の計算において固定パラメータとして取り扱われる。
【0029】
[ステップ2(S2):形状パラメータ決定ステップ]
ステップ2では、ステップ3における計算の対象となる飛翔体(ここでは円盤)のm個の(ここでは4個)の形状パラメータを決定する。1巡目の計算において選択される4個の形状パラメータは、遺伝的アルゴリズムにおいて初期集団として選択されたサンプルの1つであり、4個の形状パラメータの値の1つの組み合わせである。
【0030】
[ステップ3(S3):飛翔体飛距離計算ステップ]
ステップ3では、ステップ1で決定されたn個の初期条件パラメータと、ステップ2で決定されたm個の形状パラメータと、に基づいて、飛翔体の飛距離を計算する。ステップ3における飛翔体の飛距離の計算方法の詳細については、後述する。
【0031】
[ステップ4(S4):飛距離再計算実行ステップ]
ステップ4では、m個の形状パラメータのうち、一部又は全部の形状パラメータを変数パラメータとして、ステップ3で計算を行ったm個の形状パラメータとは異なる組み合わせからなるm個の形状パラメータを、ステップ2において決定させ、さらに、ステップ3に、該形状パラメータに基づいて、飛翔体の飛距離を計算させる。当該実施形態では、ステップ2において、異なる組み合わせからなる形状パラメータを決定し、ステップ3において、該形状パラメータに基づいて円盤の飛距離を計算し、これを繰り返し実行する。図3に示す通り、ステップ4(S4)から延びる実線の矢印は、ステップ2(S2)の実行前に延びている。ステップ3において、必要な形状パラメータの組み合わせすべてについて計算を行ったと判断したときは、ステップ4へ進む。ここでは、4個の形状パラメータのうち、全部の形状パラメータを変数パラメータとしているが、これに限定されることはなく、一部(3以下)の形状パラメータを変数パラメータとし、残りの形状パラメータを固定パラメータとしてもよい。
【0032】
当該実施形態に係る飛翔体の形状の計算方法では、遺伝的アルゴリズムを用いており、最初に、初期集団として選択されたサンプルに対して、ステップ2及びステップ3を繰り返す。初期集団に対する計算結果(実行結果)の評価値に基づいて、次世代の集団を決定する。すなわち、ステップ2において決定させる形状パラメータを決定する。そして、次世代として選択されたサンプルに対して、ステップ2及びステップ3を繰り返す。そして、このプロセスを複数回繰り返す。
【0033】
ここで、m個の形状パラメータのうち一部又は全部の形状パラメータを変数パラメータとし、n個の初期条件パラメータについては固定パラメータとしているが、これに限定されることはない。n個の初期条件パラメータのうち、一部又は全部の初期条件パラメータをさらに変数パラメータとしてもよい。
【0034】
n個の初期条件のうち、2個の質量特性パラメータを変数パラメータとし、残りの技能パラメータを固定パラメータとすることにより、円盤の形状のみならず、質量特性をも、最適化することが出来る。すなわち、質量特性パラメータと形状パラメータからなる円盤パラメータを変数パラメータとし、競技パラメータを固定パラメータとすることにより、競技者に、例えば、最長の飛距離を提供する円盤の形状及び質量特性を計算することが出来る。また、競技者の技能を改善できる範囲において、円盤の特性(円盤の形状や質量特性)のみならず、技能パラメータをも最適化することにより、当該競技者にとって適した円盤の特性及び競技者が改善すべき技能を提供することができる。
【0035】
図3に示す通り、ステップ4(S4)から延びる破線の矢印は、ステップ1(S1)の実行前に延びているが、この場合について示している。ステップ4は、ステップ3で計算を行ったn個の初期条件パラメータ及びm個の形状パラメータとは異なる組み合わせからなるn個の初期条件パラメータ及びm個の形状パラメータを、ステップ1又は/及びステップ2において決定させる。すなわち、n個の初期条件パラメータ及びm個の形状パラメータのうち、k個(1≦k≦n+mとなる整数)の変数パラメータ(必ず形状パラメータの1つを含む)として、ステップ3ですでに計算を行った組み合わせとは異なる組み合わせからなるk個の変数パラメータとなるよう、ステップ1及びステップ2に、n個の初期条件パラメータ及びm個の形状パラメータを、それぞれ決定させる。
【0036】
[ステップ5(S5):飛翔体形状決定ステップ]
ステップ5では、ステップ4において計算された複数回の飛翔体の飛距離の計算結果に基づいて、飛翔体の形状を決定する。当該実施形態では、ステップ4において複数回計算された円盤の飛距離の計算結果に基づいて、飛距離が最長となる円盤の形状を決定する。しかし、この場合に限定されることはなく、所定の条件を満たす(最長付近の)長い飛距離を実現する複数の形状を決定してもよい。このように、飛距離を最適化することのみならず、複数の評価指標(判断指標や目標指標とも呼ばれる)について最適化することを多目的最適化と呼んでいる。多目的最適化によって得られる複数の最適化解が、パレート解(最適化解群)である。飛距離以外の評価指標としては、例えば、確実性(鈍感性)がある。この場合、最長の飛距離を提供するが確実性に劣る解と、最長の飛距離ではないが確実性に優れる解と、複数の最適化解が得られる。
【0037】
以下に、図4を用いて、当該実施形態に係る飛翔体飛距離計算ステップ(ステップ3:S3)について説明する。n個の初期条件パラメータとm個の形状パラメータが決定されると、かかる初期条件パラメータと形状パラメータに対して、ステップ3では、飛翔体の運動初期状態から飛翔体が目標平面(通常の場合は地面)に到達するまで、飛翔体に対する運動方程式を解くことを繰り返して、飛翔体の飛距離を計算する。ここでは、運動初期状態は、飛翔体が打ち上げられる際の運動状態である。
【0038】
[ステップA(SA):飛翔体運動条件決定ステップ]
ステップAでは、飛翔体の運動初期状態から飛翔体が目標平面に到達するまでの1の時刻(時刻t)における、飛翔体の運動状態を決定する。ここで、1の時刻とは、飛翔体の運動初期状態から飛翔体が目標平面に到達するまでの任意の時刻tである。例えば、飛翔体が打ち上げられた時刻を時刻0として、微小時間をΔtとすると、n巡目において時刻は時刻(n−1)Δtである。
【0039】
図5は、当該実施形態に係る円盤の運動状態を示す図である。図5は、任意の時刻tにおける円盤の運動状態が示されている。なお、飛翔体の運動状態は、前述の通り、飛翔体の重心座標と、飛翔体の姿勢(オイラー角)と、飛翔体の速度ベクトルと、飛翔体の角速度ベクトルと、によって表される。飛翔体の運動状態は、飛翔体の迎え角αを含んでいる。ここで、迎え角αは、流体(ここでは空気)中の物体(ここでは、飛翔体)が、流れに対する傾斜角である。当該実施形態においては、迎え角αは、円盤の進行方向(図に矢印で示す速度ベクトルの向き)に対する円盤(厳密には、円盤の外縁によって形成される円盤平面)の傾斜角である。すなわち、円盤の進行方向と、円盤平面のなす角である。
【0040】
1巡目(時刻0)における円盤の運動状態は、ステップ1において決定された円盤の初期条件パラメータによって決定される。n巡目(n≧2の整数)、すなわち、時刻(n−1)Δtにおける円盤の運動状態は、(n−1)巡目のステップC(後述)において決定される。
【0041】
[ステップB(SB):縦3分力決定ステップ]
ステップBでは、m個の形状パラメータの離散値の組み合わせと、複数の迎え角と、に対する空力係数情報の経験値、に基づいて、ステップAによって決定された飛翔体の運動状態において、飛翔体にかかる縦3分力を決定する。ここで、空力係数情報は、3個の空力係数の情報であり、3個の空力係数は、揚力係数C、抵抗係数C、及びピッチングモーメント係数Cである。空力係数情報の経験値とは、空力係数情報データベース部17に保持されるp個(pは複数)のモデルに対する空力係数の迎え角依存性の情報である。p個のモデルに対する空力係数の迎え角依存性は、実験によっても(Experimental Fluid Dynamics:EFD)、数値計算によっても(Computational Fluid Dynamics:CFD)得られる経験値であり、空力係数情報データベース部17に保持される経験値は、実験によるもの、若しくは、数値計算によるもの、又は、その両方である。
【0042】
当該実施形態において、飛翔体は円盤であり、円盤の形状は4個の形状パラメータ(幅w,厚みTHK,湾曲半径RMR,直径DFCA)で決定される。すなわち、モデルとなる円盤形状を複数選択する場合、各モデルの円盤形状は、4個の形状パラメータの値の組み合わせで規定される。p個のモデルの円盤形状は、4個の形状パラメータの離散値のp個の組み合わせで規定される。各モデルの円盤形状に対する空力係数の迎え角α依存性は、4個の形状パラメータの離散値の組み合わせと、複数の迎え角αと、に対する空力係数情報である。当該実施形態では、データベースに保持される空力係数情報は、5個の変数(幅w,厚みTHK,湾曲半径RMR,直径DFCA、迎え角α)に対する、揚力係数C、抵抗係数C、及びピッチングモーメント係数Cである。
【0043】
ステップBでは、時刻t、迎え角αにおいて、かかる円盤の形状にかかる縦3分力(揚力L、抵抗力D、ピッチモーメントM)を、決定する。計算の対象となっている円盤の4個の形状パラメータと、ステップAにおいて決定された迎え角αと、に対する空力係数(揚力係数C,抵抗係数C,ピッチングモーメント係数C)を、空力係数情報データベース部17に保持されるp個のモデルについての空力係数情報の経験値から、内挿又は外捜することにより決定し、かかる空力係数から、縦3分力を決定する。なお、空力係数情報データベース部17に保持される複数のモデルの空力形状情報から、5個の変数に対する空力係数が作る曲面を、空力応答曲面と呼んでいる。ステップBにおいて決定される空力係数は、かかる空力応答曲面上の点である。
【0044】
図6は、当該実施形態に係る空力係数の空力応答曲面の一例を示す図である。図6には、円盤の形状パラメータのうち、迎え角α、幅w及び湾曲半径RMRを、それぞれ、α=25°,w=180mm,RMR=5.85mmとしたときの、揚力係数Cの、厚みTHK及び直径DFCA依存性であり、5個の変数に対する空力係数の空力応答曲面の一部分を示している。なお、図に示す空力応答曲面は、非常に簡単に決定される空力応答曲面であり、隣り合うモデルの空力係数を線形的につないで形成される平面を繋ぎ合わせたもものである。
【0045】
[ステップC(SC):運動方程式解法ステップ]
ステップCでは、ステップAにおいて決定された飛翔体の運動状態と、ステップBにおいて決定された縦3分力と、に基づいて、運動方程式を用いて、数値積分することにより、該1の時刻の次の時刻(時刻t+Δt)における飛翔体の運動状態を決定する。ここで、運動方程式とは、力方程式(Force Equation)とモーメント方程式(Moment Equation)とを含んでいる。また、運動量や角運動量の変化に関する方程式は、運動方程式より導出され、実質的に同じ現象を説明する方程式であるので、運動方程式に含まれるものとする。運動方程式を適当に規格化することによって変形されたものも、運動方程式に含まれるものとする。これらの場合、ステップCで決定される縦3分力も、かかる変形に伴って、変形される。時刻tにおける運動方程式を解くことにより、時刻t+Δtにおける飛翔体の運動状態が決定される。ここで、時刻t+Δtが該1の時刻の次の時刻である。
【0046】
[ステップD(SD):運動状態再計算実行ステップ]
ステップDでは、ステップCにおいて決定された該次の時刻における飛翔体の運動状態を、ステップAに、1の時刻における、飛翔体の運動状態として決定させ、飛翔体の該運動状態に対して、ステップBとステップCとを実行させる。当該実施形態では、1巡目のステップAにおいて、時刻0を1の時刻として、時刻0における円盤の運動状態を、ステップ1において決定された円盤の初期条件パラメータによって決定し、ステップB及びステップCを実行させることにより、次の時刻である時刻Δtにおける、円盤の運動状態を決定する。かかる運動状態を、1の時刻における円盤の運動状態とステップAに決定させ、ステップB及びステップCを実行させることにより、次の時刻である時刻2Δtにおける、円盤の運動状態を決定する。これらを、飛翔体が目標平面(地面)に到達するまで繰り返し、飛翔体が目標平面に到達すると、ステップEに進む。なお、ここで、微小時間Δtは、飛翔体の運動初期状態から飛翔体が目標平面に到達するまでの時間と比べて十分に短い時間であり、一定の値としているが、これに限定されることはない。繰り返しにおいて、必要に応じて、微小時間Δtの長さを変動させてもよい。
【0047】
[ステップE(SE):飛翔体飛距離決定ステップ]
ステップEでは、ステップDの実行結果に基づいて、飛翔体の飛距離を決定する。飛翔体が目標平面(地面)に到達したときの、飛翔体の座標により、飛翔体の飛距離が計算される。
【0048】
以上、当該実施形態に係る計算方法について説明した。本発明の主な特徴は、p個のモデルについて空力係数情報の経験値を保持しており、かかる空力係数情報の経験値に基づいて、飛翔体に係る縦3分力を決定する、縦3分力決定ステップ(ステップB)にある。p個のモデルについての空力係数情報の経験値から、飛翔体の運動状態における縦3分力を決定することにより、飛翔体の飛距離を計算することが出来る。飛翔体の運動状態における3個の空力係数(又は、縦3分力)を数値計算によってその都度計算すると、1つの形状に対する飛翔体の飛距離を計算する時間が非常に長くかかり、飛翔体の飛距離の計算を複数回繰り返し計算すると、総計算時間は現実的に計算できる時間を大幅に超えてしまう。本発明では、空力係数情報の経験値に基づいて、飛翔体に係る縦3分力を決定することにより、現実的に計算できる時間内に、円盤形状の計算をすることが出来る。従来、選択者又は助言者の主観に基づいていて、飛翔体の選択がなされていたのに対して、本発明により、競技者の技能に適した飛翔体の形状を客観的に計算することができる。
【0049】
図7は、当該実施形態に係る円盤の形状における空力係数の迎え角依存性を示す図である。空力係数情報データベース部17に保持されるモデルの空力係数情報の一例であり、図7(a),図7(b),及び図7(c)に、揚力係数C、抵抗係数C、及びピッチングモーメント係数Cそれぞれの迎え角依存性が示されている。迎え角αが0°から90°の範囲で、複数の迎え角αそれぞれについて、0°から90°へ変化させた場合の実験による値(EFD)ががシンボル○で、90°から0°へ変化させた場合の実験による値がシンボル△で示されており、数値計算による値(CFD)がシンボル●で示されている。図7(a)に示す通り、揚力係数Cは、0°のときに0であり、迎え角αが0°から大きくなるにつれて上昇するが、28°付近で不連続な値へ落ち込みがある。さらに迎え角αが大きくなるにつれて上昇し、その後、減少し、90°のときに0となっている。同様に、図7(c)に示す通り、ピッチングモーメント係数Cにも不連続な特性がある。また、図7(b)に示す通り、抵抗係数Cにも不連続な飛びの幅は大きくないが不連続な特性がある。これらの不連続な特性は、実験による値にも、数値計算による値にも、現れている。ここで、不連続な特性とは、空力係数の変数に対する微分係数(厳密には、偏微分)が不連続に変化することをいい、特異点と呼んでもよい。特に、空力係数の迎え角α依存性に不連続な特性が見受けられる。なお、図7(b)に、円盤にかかる揚力L、抵抗力D、ピッチングモーメントMが、円盤とともに示されている。当該計算において、無風状態(空気が停止している状態)を想定しており、矢印で示されるUは、円盤に対する空気の速度であり、円盤の地上に対する速度に−1をかけたものである。Uの進行方向が円盤平面となす角が迎え角αである。
【0050】
当該実施形態に係る空力係数情報データベース部17には、ステップBにおいて用いられるm個の形状パラメータのある組合わせとなる飛翔体の形状において、空力係数情報の迎え角依存性に、特定の迎え角範囲に不連続な特性がある場合に、該特定の迎え角範囲にある複数の迎え角における空力係数情報の経験値が保持されている。ここでは、図7に示すモデル(形状パラメータのある組み合わせ)において、揚力係数C、ピッチングモーメント係数C、及び抵抗係数Cそれぞれの迎え角依存性に不連続な特性がある。不連続な特性がある特定の迎え角範囲を26°以上31°以下の範囲とすれば、かかる範囲に複数の迎え角αにおける揚力係数Cやピッチングモーメント係数Cの経験値が、空力係数情報データベース部17に保持されている。
【0051】
空力係数情報の経験値が、かかる範囲にない場合、またあったとしても、空力係数情報の経験値により、その不連続な特性があることが判定することができない程度に不十分な数しかない場合、ステップ3において計算される飛翔体の飛距離は実際のものと大きく異なることとなる。計算結果が不正確であれば、競技者の技能に適した飛翔体の形状の計算が正しく行われないこととなる。よって、空力係数情報の経験値が、該特定の迎え角範囲に複数あることに加えて、該特定の迎え角範囲にある複数の迎え角における空力係数情報の経験値により、不連続な特性があることを判定することができるのが望ましい。これら経験値により、不連続な特性が不連続な迎え角αの前後での振る舞いが判定することができるのがさらに望ましい。
【0052】
当該実施形態に係る空力係数情報データベース部17に保持される複数のモデルすべての空力係数情報の複数の経験値は、0°から90°の広範囲な迎え角範囲に多数の迎え角αにおける経験値を含んでいる。通常の飛行機において想定される迎え角は10°かそれ以下であり、それを越える迎え角である大迎角における飛行が想定されにくい。それゆえ、飛行機の翼の形状の最適化計算などに用いられるデータベースの空力係数情報では、大きな値となる迎え角αはほとんど必要とされていない。これに対して、競技に用いられる飛翔体は、その飛行速度、質量、形状などから、大きな値となる迎え角αの運動状態を取りうるし、また、図7に示す不連続な特性を有する場合があり得る。
【0053】
よって、あるモデルの空力係数情報の経験値が、大きな値の迎え角αについて複数存在しているのが望ましい。少なくとも30°以上90°以下の範囲に複数存在しているのが望ましく、45°以上90°以下の範囲に複数存在しているのがさらに望ましい。60°以上90°以下の範囲に複数存在しているのがさらに望ましく、80°以上90°以下の範囲に、複数存在しているのがさらに望ましい。空力係数情報の経験値が、大きな値の迎え角αについて複数存在していることにより、より正確に縦3分力を決定することができる。そして、当該実施形態のように、複数のモデルすべての空力係数情報の経験値が、大きな値の迎え角αについて複数存在しているのが望ましい。複数のモデルすべての空力係数情報の経験値が、上記範囲にあるのがさらに望ましい。
【0054】
以上、本発明の実施形態に係る計算方法、計算装置、計算プログラム、及び計算システムについて、説明した。本発明は、上記実施形態に限定されることはなく、飛翔体の計算に広く適用することが出来る。上記実施形態において、飛翔体の例として円盤投に用いられる円盤を用いたが、例えば、槍投に用いられる槍や、ターボジャブ等、その他の投擲競技にも適用されることは言うまでもない。ただし、飛翔体の形状が進行方向に対して迎え角αが定義できるものに限られる。これらの場合、形状パラメータの個数は1又は複数のパラメータとなり得る。飛翔体に係るパラメータは、質量特性パラメータと形状パラメータからなるが、複雑な系において、3以上の質量特性パラメータとなり得る。競技者の技能パラメータは、上記実施形態では12個のパラメータとしたが、これに限定されることはなく、対称性や近似などにより、12個より少ない数のパラメータとしてもよい。また、運動方程式を解くために決定する外力を縦3分力としたが、これらに限定されることはなく、さらに複雑な系において、6分力のうちいずれか(ただし、縦3分力を含む)を決定し、運動方程式を解いてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 計算システム、11 競技者技能解析装置、12 計算装置、13 解析部、14 情報入力手段、15 情報出力手段、16 記憶部、17 空力係数情報データベース部、21 製造装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7