特許第6460912号(P6460912)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 兵神機械工業株式会社の特許一覧

特許6460912船舶内で植物を育成する植物育成装置および植物育成方法
<>
  • 特許6460912-船舶内で植物を育成する植物育成装置および植物育成方法 図000002
  • 特許6460912-船舶内で植物を育成する植物育成装置および植物育成方法 図000003
  • 特許6460912-船舶内で植物を育成する植物育成装置および植物育成方法 図000004
  • 特許6460912-船舶内で植物を育成する植物育成装置および植物育成方法 図000005
  • 特許6460912-船舶内で植物を育成する植物育成装置および植物育成方法 図000006
  • 特許6460912-船舶内で植物を育成する植物育成装置および植物育成方法 図000007
  • 特許6460912-船舶内で植物を育成する植物育成装置および植物育成方法 図000008
  • 特許6460912-船舶内で植物を育成する植物育成装置および植物育成方法 図000009
  • 特許6460912-船舶内で植物を育成する植物育成装置および植物育成方法 図000010
  • 特許6460912-船舶内で植物を育成する植物育成装置および植物育成方法 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6460912
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】船舶内で植物を育成する植物育成装置および植物育成方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 31/02 20060101AFI20190121BHJP
   A01G 31/00 20180101ALI20190121BHJP
【FI】
   A01G31/02
   A01G31/00 601D
   A01G31/00 612
   A01G31/00 601A
   A01G31/00 602
【請求項の数】16
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-102282(P2015-102282)
(22)【出願日】2015年5月19日
(65)【公開番号】特開2016-214139(P2016-214139A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2018年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】593064951
【氏名又は名称】兵神機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093698
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 純一
(72)【発明者】
【氏名】山田 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】佐野 悠太
【審査官】 坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−126916(JP,A)
【文献】 特開2003−310069(JP,A)
【文献】 実開平7−34642(JP,U)
【文献】 特開2014−176334(JP,A)
【文献】 実開平3−16853(JP,U)
【文献】 特開2007−6859(JP,A)
【文献】 特開2014−57(JP,A)
【文献】 実開平2−80890(JP,U)
【文献】 特開2001−128570(JP,A)
【文献】 特開2004−81110(JP,A)
【文献】 特開2010−207100(JP,A)
【文献】 特開2004−173605(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00 − 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面側が透視可能な直立箱型の装置本体の内部に、植物の種を蒔いて保持させる海綿状多孔質の担体を挿し込むよう複数個の栽培穴が開けられた栽培台が設置され、前記栽培台の下部に養液を受けるトレーが設置され、前記栽培台の傾斜方向上流側のトレー上方に、前記トレーに向けて植物栽培用の養液を供給する複数個の注液孔が開けられた養液供給パイプが設置され、前記栽培台の上方に人工光源が設置されており、船舶内に設置し、前記担体の切込み部に種を蒔き、養液供給装置の養液槽から養液を供給し循環させて船舶内で植物を育成する植物育成装置であって、
前記栽培台は、装置本体前方から見て左右方向には水平で、前後方向には水平に対し5〜30°装置本体前面側へ下降傾斜するよう配置され、
前記トレーは、前記栽培台の各栽培穴に対応する部分が栽培穴毎に前記栽培台の傾斜方向に延びる仕切り板と傾斜方向に直角な方向に延びる仕切り板とで囲まれて区画された複数個のセルを形成し、
前記傾斜方向に延びる仕切り板の高さが前記傾斜方向に直角な方向に延びる仕切り板の高さより高いことを特徴とする植物育成装置。
【請求項2】
前記複数個の栽培穴が前記栽培台の傾斜方向および水平方向に並ぶ配置で設けられていることを特徴とする請求項1に記載の植物育成装置。
【請求項3】
前記栽培台が複数段設けられていることを特徴とする請求項1に記載の植物育成装置。
【請求項4】
前記栽培台の下部に受け容器が取り付けられ、該受け容器に前記トレーが設置され、該受け容器の底部に、前記トレーから溢れた養液を前記養液供給装置へ還流させる養液戻りパイプが連結されていることを特徴とする請求項1に記載の植物育成装置。
【請求項5】
前記装置本体の内部を換気するファンおよび換気口が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の植物育成装置。
【請求項6】
前記装置本体の下部に前記養液供給装置が設置されていることを特徴とする請求項1に記載の植物育成装置。
【請求項7】
前記装置本体の揺れ状態を検出するセンサーを備えるとともに、該センサーにより所定角度以上の揺れが検出されると前記トレーへの養液の供給を一時的に停止する養液供給・停止制御手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の植物育成装置。
【請求項8】
前記トレーに供給される養液の性状を検出するセンサーキットを備えるとともに、該センサーキットによる養液の性状の検出結果に基いて養液成分の配合を調整する養液性状制御手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の植物育成装置。
【請求項9】
前記養液槽内に、該養液槽内の液面が変動してもそこだけは養液が一定量溜まる養液溜が設けられ、そこにセンサーキットが設置されることを特徴とする請求項8に記載の植物育成装置。
【請求項10】
養液中に酸素を供給し養液中の酸素濃度を5ppm以上に管理する酸素付加装置を備えることを特徴とする請求項1に記載の植物育成装置。
【請求項11】
養液を循環過程で殺菌する殺菌装置を備えることを特徴とする請求項1に記載の植物育成装置。
【請求項12】
前記栽培穴が開放状態で使用されると警報を発する警報器を備えることを特徴とする請求項1に記載の植物育成装置。
【請求項13】
養液の廃液、装置の洗浄およびメンテナンスで発生する廃液を処理する廃液処理装置を備えることを特徴とする請求項1に記載の植物育成装置。
【請求項14】
船舶内で植物を育成する植物育成方法であって、船舶内に請求項1〜13のいずれか1項に記載の植物育成装置を設置し、育成する植物の種を栽培台の栽培穴に挿し込まれた海綿状多孔質の担体の切込み部に蒔き、養液供給装置を稼動させて前記栽培台の傾斜方向上流側からトレーに養液を供給し、前記海綿状多孔質の担体を潤した養液を、前記栽培台の傾斜により、前記傾斜方向に延びる高さが高い仕切り板によって縦列に保持しつつ、前記傾斜方向に直角な方向に延びる高さが低い仕切り板の上を越えて傾斜方向下流側に流下させ、養液供給装置に戻って循環させる養液供給プロセスを常時自動運転で行うことにより、船舶内において、温度10〜40°C、湿度15〜85%、人工光源70〜250μmol/m2/secの光量の環境下で水耕栽培により植物の播種から育成までを一括して行うことを特徴とする植物育成方法。
【請求項15】
前記装置本体を振動および衝撃を減じる防振装置を介して設置することを特徴とする請求項14に記載の植物育成方法。
【請求項16】
前記養液供給パイプの内部に細孔を持ち柔軟性を有するストッキング状の交換可能な濾過フィルターを挿入してその開口部をパイプ入口側の円周内面に沿って固定することを特徴とする請求項14に記載の植物育成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶内で野菜等の植物を播種・育成する植物育成装置および植物育成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、航海が長期に及ぶ船舶の乗組員の健康を維持・促進するために、地上で収穫され出航時に積み込まれた生野菜とは別に船舶内で野菜を播種・育成し、新鮮野菜を安定供給したいという要求があり、そのため、陸上の建屋内で栽培台に水耕液(養液)を供給し人工光源を用いて水耕栽培を行う定置式の植物栽培の技術を応用して、船舶内で植物を栽培しようとする試みがなされ、具体例として、例えば、直立箱型で前面に開閉扉を有する装置本体の内部に多段に分割された栽培空間を形成し、各栽培空間に栽培台(栽培ベッド)を設置するとともに上方に人工光源を配置し、装置本体の下部空間に、栽培台に水耕液(養液)を供給する養液供給手段、温度・湿度を調節する空調装置等を設置し、各栽培ベッドに複数の小孔が有する栽培パネルを載置し、各小孔に植物を定植したスポンジ等の担体を嵌め込んで栓をするとともに、船舶の揺れを検出するセンサーを設置して揺れ状態を検出して養液の供給・停止を制御することにより、栽培ベッドから養液が漏れるのを防止し、また、栽培台の周囲を船舶の揺れによる衝撃を吸収する器材で覆って破損を防止し、栽培空間内に光合成に必要な空気を供給するファンを設置し、揺れを検出したときの養液供給手段のポンプの稼動・停止の制御、空調装置の制御、人工光源の点灯本数、点灯時間の制御等を自動で行うようにした船舶用植物栽培装置及びその使用方法(特許文献1、2参照)が従来から知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−310069号公報
【特許文献2】特開2004−236591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
船舶は大型であっても乗組員が少なく、例えば大型商船では、多くても20名前後の乗組員で運行されているため、長い航海では乗組員は心身的なストレスが極めて高い状態にある。船舶内で野菜等の植物を水耕栽培すれば、採れたての新鮮な野菜を食料として供給できるばかりでなく、乗組員に、植物を育てること、生育中の植物を観ること、香りを感じること、触れてみること、そして食することによる心身の癒しを与えることができ、航海時の乗組員の福祉向上に役立つ。
【0005】
しかし、従来の技術では、船舶内で水耕栽培により植物を安定して播種・育成することができない。船舶内は植物の水耕栽培には厳しい環境である。
船舶は航海中に波の動きによってローリング(横揺れ)、ピッチング(縦揺れ)による揺れや振動および衝撃を受ける。揺れによる船舶の傾きは、嵐の場合、25°近くまでに達し、数十秒の周期で繰り返される。数日間続くこともある。うねりの波にぶつかった場合は、ピッチングが発生し、船内の家具が飛ぶような強烈な衝撃を受ける。平穏な航海であっても、傾斜角度は大きくはないが常に揺れている。
【0006】
また、船舶は航海中に位置が移動するので、その位置の気候、気象条件によって育成環境の温度、湿度が影響を受け、低温地域では低温環境、高温地域では高温環境、低湿度地域では低湿度環境、高湿度地域では高湿度環境になる。船舶内でも、居住区では空調によって温度、湿度が管理されているが、空調の効いている場所が植物の育成の場所として採用されるとは限らない。
【0007】
このように船舶内は、航海中の揺れによる傾きや振動および衝撃が大きく、温度、湿度も多様に変化する厳しい環境である。陸上用に開発された既存の植物栽培装置では、このような航海中の船舶に特有の環境において安定した水耕栽培を行うことができない。
【0008】
また、航海中の揺れによる傾きや衝撃を克服して船舶内で植物を栽培する試みとして、上述のように、例えば、多段に配置された栽培台に複数の小孔を有する栽培パネルを載置し、各小孔に栓植物を定植したスポンジ等の担体を嵌め込んで栓をするとともに、船舶の揺れを検出して養液の供給・停止を制御し、また、栽培台を衝撃を吸収する器材で覆って衝撃による破損を防止し、ファンによって栽培空間内に空気を供給し、養液供給ポンプの制御、空調装置の制御、人工光源の制御等を自動で行うようにした船舶用植物栽培装置及びその使用方法が従来から知られているが、そうして従来の装置及び方法では、船舶の揺れが大きいと、栽培台に供給された養液が、小孔に嵌め込まれたスポンジ等の担体を通過して漏れ出し、栽培台から溢れ出る恐れがある。
【0009】
また、上記従来の装置および方法は、乗組員の健康を維持・促進するために船舶内で野菜を栽培し、採れたての新鮮な野菜を食料として供給するというものであるが、長い航海でストレスが高まった乗組員に、植物を育てる、生育中の植物を観る、香りを感じる、触れてみる、そして食することによる心の癒しを与えることを意図したものではなく、そうした心の癒し効果を高める手段を講じたものでもない。
【0010】
本発明は、揺れや振動および衝撃が大きい船舶内で多大な労力をかけずに植物を安定して播種・育成でき、乗組員に採りたての新鮮な野菜を食料として供給するとともに、植物を育てること、生育中の植物を観ること、香りを感じること、触れてみること、そして食することによる心身の癒しを与えることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の植物育成装置は、前面側が透視可能な直立箱型の装置本体の内部に、植物の種を蒔いて保持させるスポンジ等の海綿状多孔質の担体を挿し込むよう複数個の栽培穴が開けられた栽培台が設置され、栽培台の下部に養液を受けるトレーが設置され、栽培台の傾斜方向上流側のトレー上方に、トレーに向けて植物栽培用の養液を供給する複数個の注液孔が開けられた養液供給パイプが設置され、栽培台の上方に人工光源が設置されており、船舶内に設置し、担体の切込み部に種を蒔き、養液供給装置の養液槽から養液を供給し循環させて船舶内で植物を育成する植物育成装置であって、栽培台は、装置本体前方から見て左右方向には水平で、前後方向には水平に対し5〜30°装置本体前面側へ下降傾斜するよう配置され、トレーは、栽培台の各栽培穴に対応する部分が栽培穴毎に栽培台の傾斜方向に延びる仕切り板と傾斜方向に直角な方向に延びる仕切り板とで囲まれて区画された複数個のセルを形成し、傾斜方向に延びる仕切り板の高さが傾斜方向に直角な方向に延びる仕切り板の高さより高いことを特徴とする。
【0012】
この植物育成装置は、複数個の栽培穴が栽培台の傾斜方向および水平方向に並ぶ配置で設けられているものであるのが好ましい。
【0013】
また、この上記植物育成装置は、栽培台が複数段設けられているものであるのが好ましい。
【0014】
また、この植物育成装置は、栽培台の下部に受け容器が取り付けられ、該受け容器にトレーが設置され、受け容器の底部に、トレーから溢れた養液を養液供給装置へ戻す養液戻りパイプが連結されているものであるのが好ましい。
【0015】
また、この植物育成装置は、装置本体の内部を換気するファンおよび換気口が設けられているものであるのが好ましい。
【0016】
また、この植物育成装置は、装置本体の下部に養液供給装置が設置されているものであるのが好ましい。
【0017】
また、この植物育成装置は、装置本体の揺れ状態を検出するセンサーを備えるとともに、該センサーにより所定角度以上の揺れが検出されるとトレーへの養液の供給を一時的に停止する養液供給・停止制御手段を備えるものであるのが好ましい。
【0018】
また、この植物育成装置は、トレーに供給される養液の性状を検出するセンサーキットを備えるとともに、該センサーキットによる養液の性状の検出結果に基いて養液成分の配合を調整する養液性状制御手段を備えるものであるのが好ましい。
【0019】
また、この植物育成装置は、養液供給装置の養液槽内に、該養液槽内の液面が変動してもそこだけは養液が一定量溜まる養液溜が設けられ、そこにセンサーキットが設置されるものであるのが好ましい。
【0020】
また、この植物育成装置は、養液中に酸素を供給し養液中の酸素濃度を5ppm以上に管理する酸素付加装置を備えるものであるのが好ましい。
【0021】
また、この植物育成装置は、養液を循環過程で殺菌する殺菌装置を備えるものであるのが好ましい。
【0022】
また、この植物育成装置は、栽培穴が開放状態で使用されると警報を発する警報器を備えるものであるのが好ましい。
【0023】
また、この植物育成装置は、養液の廃液、装置の洗浄およびメンテナンスで発生する廃液を処理する廃液処理装置を備えるものであるのが好ましい。
【0024】
そして、本発明の植物育成方法は、船舶内に上記植物育成装置を設置し、育成する植物の種を栽培台の栽培穴に挿し込まれた海綿状多孔質の担体の切込み部に蒔き、養液供給装置を稼動させて栽培台の傾斜方向上流側からトレーに養液を供給し、前記海綿状多孔質の担体を潤した養液を、前記栽培台の傾斜により、傾斜方向に延びる高さが高い仕切り板によって縦列に保持しつつ、傾斜方向に直角な方向に延びる高さが低い仕切り板の上を越えて傾斜方向下流側に流下させ、養液供給装置に戻って循環させる養液供給プロセスを常時自動運転で行うことにより、船舶内において、温度10〜40°C、湿度15〜85%、人工光源70〜250μmol/m2/secの光量の環境下で水耕栽培により植物の播種から育成までを一括して行うことを特徴とする。
【0025】
この植物育成方法において、装置本体は振動および衝撃を減じる防振装置を介して設置するのが好ましい。
【0026】
また、この植物育成方法においては、養液供給パイプの内部に細孔を持ち柔軟性を有するストッキング状の交換可能な濾過フィルターを挿入してその開口部をパイプ入口側の円周内面に沿って固定するのが好ましい。
【0027】
本発明によれば、トレーが設置された栽培台が傾斜していて、傾斜方向上流側からトレーに養液が供給されることにより、養液は傾斜方向上流側から下流側(装置本体前面側)へ流れる。
【0028】
そして、トレーが、栽培台の各栽培穴に対応する部分が栽培穴毎に栽培台の傾斜方向に延びる仕切り板と傾斜方向に直角な方向に延びる仕切り板とで囲まれて区画された複数個のセルを形成していることにより、養液は栽培穴毎のセルに一定量溜まりながら仕切り板の上を越えて下流側へ溢れ流れる。
【0029】
船舶が波による揺れや衝撃で傾いても、その傾きが、栽培台の装置本体前面側への下降傾斜が保たれる程度であれば、セル内に一定量溜まりながら下流側へ溢れ流れる養液の流れは維持される。船舶の揺れや衝撃による傾きが一時的大きくなって、栽培台が水平に対し装置本体前面側とは反対側に傾斜する状態になることがあっても、セル内にはそのまま養液が溜まっている。
【0030】
そして、セルを形成せる仕切板は、傾斜方向に延びる仕切り板の高さが傾斜方向に直角な方向に延びる仕切り板の高さより高いため、養液の流れは、傾斜方向に延びる高さが高い仕切り板に沿った縦列の流れとなる。
【0031】
また、船舶の揺れや衝撃によって栽培台が水平に対し装置本体前方から見て左右の方向に傾いても、傾斜方向に延びる仕切り板によって、傾斜方向に直角な方向への養液の流れが阻止され、傾斜方向に直角な方向に延びる高さが低い仕切り板の上を越えて流れる養液の縦列の流れが維持される。
【0032】
このように、船舶の揺れや衝撃によって栽培台が傾いてもトレーの各セルを上流側から下流側へ縦列に維持されて養液が流れることにより、トレーの各セルに万遍なく養液が行き渡る。そのため、各栽培穴の担体に保持された植物に万遍なく養液を行き渡させることができ、植物を安定して播種・育成することができる。そして、その養液供給プロセスを常時自動運転で行うことにより人手を節減し、温度10〜40°C(15〜35℃がより好ましい)、湿度15〜85%(35〜75%がより好ましい)、人工光源70〜250μmol/m2/secの光量の環境下で水耕栽培により植物の播種から育成までを一括して行うようにできる。そして、乗組員に採りたての新鮮な野菜を食料として供給して健康の維持・促進に役立てることができる。
【0033】
また、装置本体の前面側が透視可能で、栽培台が前後方向に下降傾斜するよう配置されていることにより、生育中の植物が外からよく観えて、扉を開けて香りを感じたい、触ってみたいといった気持ちも起きやすく、長い航海でストレスが高まった乗組員に、植物を育てること、生育中の植物を見ること、香りを感じること、触れてみること、そして食することによる心身の癒しを与えることができる。
【0034】
平行な栽培台では前面側から植物が見えにくい。傾斜角度が5〜30°であれば、前面側から野菜等が幅広く見える。傾斜角度は10〜26°がより好ましい。
また、傾斜した栽培台の高い位置から養液が供給されると、養液は重力によって流下するので、ポンプ動力を削減でき、経済的である。
【0035】
乗組員はそれぞれ、専任の担当を有しているために、植物の育成に多くの時間を割くことはできない。本発明によれば、種蒔き、間引き、移植、取入れ以外については全自動または半自動で水耕栽培を行うことができる。
【0036】
光については、自然光が得られる環境は得難いため、人工光源が適している。光量としては、明るさの単位でなく植物が必要とする波長域の光量である70〜250μmol/m2/secが適している。
【0037】
また、光は、白色光に限定されず、植物の好む波長、ピンク系や青色系を使用して、光による慰安効果を演出することも好ましい選択である。
【0038】
また、栽培穴は植物を保持するスポンジ等の担体で閉じられているが、航行中に大きい揺れが発生し、傾斜が過大になれば、栽培穴から養液が漏れだす危険がある。そうした漏れを防止すために、一定の角度になれば養液の供給を停止してタンク内に還流させるのがよく、そのために、上記のように、装置本体の揺れ状態を検出するセンサーを設けるとともに、該センサーにより所定角度以上の揺れが検出されるとトレーへの養液の供給を一時的に停止する養液供給・停止制御手段を設けるのがよい。
【0039】
また、栽培台の下部にあるトレーは育成植物一株毎に区画されたセルを形成し、液溜ができて、植物の根が養液に浸かる構造になっているが、養液供給の停止時間があまり長いと、液溜まりに養液が少なくなって植物が枯れに至る危険性が生じる。それを防止するために、大きな揺れが続き養液の供給停止時間が長期になる時は一定間隔で5〜15分間供給停止を解除して養液を循環させるのがよい。
【0040】
また、植物の育成のためには養液中の酸素濃度は5ppm以上に保持する必要があるが、養液供給系は傾斜時に養液が漏れないようにしたもので、それなりの閉鎖系になっているため、植物が酸素を吸収することによって養液は酸欠状態になりやすい。そのため、養液中にバブル発生ノズル等で空気を吹き込み酸素濃度5ppm以上に保持するのがよい。そして、もともと酸素は水に溶解し難いので常時吹き込むのがよい。
【0041】
また、閉鎖された船内では、植物に病気が発生すること、さらには人体に有害な細菌が繁殖することは防がなければならない。乗組員が他国において上陸する際に、身体に病原菌が付着していないことも重要である。したがって、大腸菌、サルモネラ菌、コレラ菌、ボツリヌス菌など、陰性の状態に維持することが必要である。そのため、養液および生育野菜に対して、オゾン、次亜塩素酸、イオン水、紫外線などの殺菌設備を備え防疫を行う必要がある。そのため、養液を循環過程で連続して殺菌する殺菌装置を設けるのである。
【0042】
また、栽培台の栽培穴は、植物を育成しない場合は閉じておかないと、揺れや衝撃のために養液がこぼれ出る恐れがあり、装置外の床に漏れると、腐食の原因になり船舶に損傷を与える。そこで、閉じ忘れを防止するために、装置本体の扉を閉める際に、閉じ忘れの確認を促すなど、栽培穴が開放状態で使用されると警報を発する警報器を設けるのである。
【0043】
また、一定期間使用後の役目を終えた養液や、栽培装置の器具、トレーなどを洗浄した洗浄水等の廃液を、そのまま海洋に放出することは好ましくない。そこで、養液の廃液、装置の洗浄およびメンテナンスで発生する廃液を処理する廃液処理装置を設けるのである。廃液は、例えば、蒸発によって水分を飛ばす蒸発乾固法やゲル化によって減容し、固形廃棄物として貯蔵し陸揚げする。
【0044】
船舶内は、振動と衝撃が大きい環境である。そのため、植物育成装置の装置本体は防振装置を介して床に取り付ける。
【0045】
また、循環している養液には植物の根の剥離したものなどごみが混ざることがあり、これによって養液供給パイプの注液孔が閉塞することがある。そのため、ごみによって注液孔が閉塞しないように、細孔を持ち柔軟性を有するストッキング状(長い袋状)の交換可能な濾過フィルターを養液供給パイプの内部に挿入する。挿入した濾過フィルターは、袋状であるので水流によってパイプ先端に達するまで広がり、水圧によってパイプ内面に張り付く。そして、ごみはフィルターで濾過される。フィルターにごみが多少付着しても、パイプの注液孔が直接ごみで詰まることはない。そのため、長時間注液を継続することができる。また、この濾過フィルターは、開口部がパイプ入口側の円周内面に沿って固定するもので、多忙な乗組員でも極めて短時間に取り換えることができる。
【発明の効果】
【0046】
以上の説明で明らかなように、本発明は、揺れや振動および衝撃が大きくて植物の育成に困難な環境の船舶内で多忙な乗組員に負担をかけずに植物を安定して播種・育成することができ、乗組員に採りたての新鮮な野菜を食料として供給することができるとともに、植物を育てること、生育中の植物を観ること、香りを感じること、触れてみること、そして食することによる心身の癒しを与えることができる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】本発明の実施形態の植物育成装置の概略構成を示す模式図である。
図2】本発明の実施形態の植物育成装置の本体下部に設置される養液供給装置のシステム構成図である。
図3】本発明の実施形態における酸素付加装置および紫外線殺菌装置の構造を示す模式図である。
図4】本発明の実施形態の植物育成装置の内部構造を示すもので、(a)は模式側面図、(b)は模式正面図である。
図5】本発明の実施形態におけるトレーおよび受け容器の構造を示すもので、(a)は平面図、(b)はb−b断面図、(c)はc−c断面図である。
図6】本発明の実施形態におけるトレーおよび受け容器の傾斜した状態における養液の流れを示すもので、(a)は断面図、(b)装置本体前面側から見た図である。
図7】本発明の実施形態における養液供給パイプ内部の濾過フィルターの設置状態を説明するもので、(a)は濾過フィルターを設置した養液供給パイプの使用状態の模式図、(b)は濾過フィルターを挿入し一端を固定した状態のプロセス説明図、(c)は一端が固定された濾過フィルターが水流によって広がる状態のプロセス説明図、(d)は濾過フィルターにごみが付着した状態の模式図である。
図8】本発明の実施形態における播種の状態を示すもので、(a)は播種の状態の模式図、(b)は栽培穴の配置図である。
図9】本発明の実施形態における幼い芽が出た状態を示す模式図である。
図10】本発明の実施形態における間引きの状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
本発明の実施の形態を図面に基いて説明する。
図1は本発明の一実施形態における植物育成装置100の概略構成を示している。この植物育成装置100は、装置本体1が前面にガラスもしくは樹脂入りの開閉扉を介して装置前面側から透視可能な直立箱型で、この装置本体1の内部に栽培台3が装置本体前方から見て左右方向には水平で、前後方向には水平に対し5〜30°装置本体前面側へ下降傾斜する配置で複数段(図示のものは3段であるが、これに限るものではない)設置され、各栽培台3の上方に人工光源としてLEDランプ2が設置されている。傾斜した栽培台3には、育成する植物4a、4b、4cが植えられる。
【0049】
また、装置本体1の下部は、後述の養液供給装置が設置される設備室となっている。なお、図に符号7、8を付しているものは、養液供給装置の一部を構成する酸素付加装置7および紫外線殺菌装置8であって、実際には装置本体1の内部の設備室に設置されるが、ここでは説明の都合上、外付けで表わしている。
【0050】
装置本体1は波等の振動および衝撃に対処できるように防振ゴム5その他の耐衝撃材を用いた防振装置を介して船舶内の床6に固定される。
【0051】
図2は上記装置本体1下部の設備室に設置される養液供給装置200のシステム構成を示している。この養液供給装置200は、酸素付加装置7、紫外線殺菌装置8、養液槽9、センサーキット10、酸性液タンク11、アルカリ性液タンク12、酸性液供給用のポンプ13a、アルカリ性液供給用のポンプ13b、液体肥料供給用のポンプ13c、養液供給用のポンプ14a、14b、肥料タンク15、空気ポンプ18等からなるもので、栽培台3から戻ってきた養液20が、酸素付加装置7で酸素付加および清浄化され、ポンプ14aによって紫外線殺菌装置8に送られ紫外線殺菌されて、養液槽9に戻され、ポンプ14bによって養液槽9から栽培台3へ送られるようシステムが構成されている。養液を供給し循環させるシステムは常時このプロセスで自動運転される。
【0052】
肥料タンク15には植物の成長に必要な栄養成分(例えば、窒素、リン酸、カリなど)が含まれている高濃度の液体肥料が入っている。
【0053】
酸素付加装置7は、空気ポンプ18によって養液に酸素を供給して養液20中の酸素濃度を5ppm以上に保つとともに。ごみの浮上を助長して養液を清浄化する。
【0054】
紫外線殺菌装置8は、養液20をUVランプにより紫外線が照射されるパイプ内を通過させ、循環過程で連続して殺菌をする。
【0055】
センサーキット10は、養液槽9内の養液の性状(pHおよび電気伝導度)を検出するものである。養液槽9内には、液面28が変動してもそこだけは養液が一定量溜まるよう区画した養液溜42が設けられ、その中にセンサーキット10が設置される。
【0056】
センサーキット10の検出信号は養液供給装置200に設けられた図示しない制御装置に送られる。制御装置は、センサーキット10による養液の性状の検出結果に基いて養液成分の配合を調整する養液性状制御手段を備えている。
【0057】
そして、養液槽9の養液20のpH測定値に基づいて、所定のpHに調整するために酸性液が必要な場合は酸性液タンク11からポンプ13aによって酸性液が養液槽9に送られ、アルカリ性液による調整が必要な場合はアルカリ性液タンク12からポンプ13bによってアルカリ性液が養液槽9に送られる。
【0058】
また、養液槽9の養液20の電気伝導度測定結果から、養液成分の変化が検出され、所定の養液成分に調整するために液体肥料が肥料タンク15からポンプ13cによって養液槽9へ送られる。そして、養液槽9で調整された養液20はポンプ14bによって栽培台3へ送られる。
【0059】
液体肥料の成分配合によっては、高濃度であると結晶化することがあるが、その場合、肥料タンク15およびポンプ13cを複数台用いて液体肥料成分を個別に養液槽9に供給することで対処できる。
【0060】
養液槽9の養液20が少なくなると、図示しない水供給パイプによりフィルターを通して水を養液槽9へ注水する。
【0061】
このシステムは循環システムであるため、酸素付加装置7を養液槽9に組み込んで養液槽9の入口側のポンプ14aを省き、養液槽9の出口側のポンプ14bの後に紫外線殺菌装置8を設けてもよい。その場合も同様のシステムとなる。
【0062】
図3は酸素付加装置7および紫外線殺菌装置8の構造を示している。なお、図3では省略しているが、酸素付加装置7と紫外線殺菌装置8の間には図2に示すようにポンプ14aが設けられる。
【0063】
栽培台3から還流してきた養液20は、酸素付加装置7のタンクに戻る。そして、空気ポンプ18により空気がノズルでタンク内に噴出され、それにより気泡19が発生し養液20に酸素が溶解する。空気の噴出は一部のごみの浮上にも貢献する。そして、養液20は紫外線殺菌装置8で殺菌された後、養液槽9へ戻る。酸素付加装置7のタンク上部には脱気バルブ21が設けられている。
【0064】
図4は植物育成装置200の内部の構造を示している。
栽培台3は、装置本体前方から見て左右方向には水平で、前後方向には水平に対し5〜30°装置本体前面側へ下降傾斜するよう配置されている。また、LEDランプ2は、各栽培台3の上方位置に複数個取り付けられている。また、栽培台3の傾斜方向上流側には、栽培台3の下部に設置されているトレー30(図5参照)に向けて植物栽培用の養液を供給する養液供給パイプ22が設置されている。そして、栽培台3の傾斜方向下流側には、トレー30から受け容器31(図5参照)に溢れ、還流パイプ32(図5参照)に集合して養液を、養液供給装置200へ戻す養液戻りパイプ23が設置されている。また、装置本体1の一側の側壁には栽培台3の段毎に換気用のファン24が設置され、反対側の側壁には段毎に換気口25が設けられている。
【0065】
栽培台3には、図8の(b)に示すように、複数個の栽培穴40が開けられている。複数個の栽培穴40は、栽培台3の傾斜方向および水平方向に並ぶよう配置されている。そして、栽培台3の下部には、図5に示す受け容器31が嵌め込まれ、受け容器31にトレー30が設置されている。そして、受け容器31の底部四隅には受け容器31に開口する還流パイプ32が連結されている。
【0066】
図5はトレー30および受け容器31の構造を示している。
トレー30は、栽培台3の各栽培穴40に対応する部分が栽培穴40毎に栽培台3の傾斜方向に延びる仕切り板27と傾斜方向に直角な方向に延びる仕切り板26とで囲まれて区画されて複数個のセルを形成する構造となったもので、受け容器31に設置されている。このトレー30を設置した受け容器31が、
栽培台3の下部に嵌め込まれる。
【0067】
そして、トレー30は、栽培穴40毎に対応して区画されたセルを形成する仕切り板26、27について、傾斜方向に延びる仕切り板27の高さを傾斜方向に直角な方向に延びる仕切り板26の高さよりも例えば5mm〜10mm程度高くしている。
【0068】
図6はトレーおよび受け容器が傾斜した状態における養液の流れを示している。
図6の(a)に示すように、養液供給パイプ22の注液孔29から注液された養液20は、栽培台3と共にトレー30が傾斜(図の例では25°傾斜)していることにより、トレー30の区画された各セルに一定量溜まりながら、傾斜方向に直角な方向に延びる仕切り板26の上を越えて下流側(装置本体前面側)へ流れる。そして、養液20は下流側で受け容器31に溢流し、集合されて還流パイプ32に流れ、養液戻りパイプ23(図4参照)を通って養液供給装置20の酸素付加装置7へ還流する。
【0069】
船舶が波による揺れや衝撃で傾いても、その傾きが、栽培台3の装置本体前面側への下降傾斜が保たれる程度であれば、各セル内に一定量溜まりながら下流側へ溢れ流れる養液20の流れは維持される。船舶の揺れや衝撃による傾きが一時的に大きくなって、栽培台3が水平に対し装置本体前面側とは反対側に傾斜する状態になることがあっても、セル内にはそのまま養液が溜まっている状態は続く。そして、傾斜方向に延びる仕切り板27の高さが傾斜方向に直角な方向に延びる仕切り板26の高さより高いことにより、養液20の流れは、傾斜方向に延びる高さが高い仕切り板に沿った縦列の流れとなる。
【0070】
また、図6の(b)に示すように、船舶の揺れや衝撃によって栽培台3が水平に対し装置本体前方から見て左右の方向に傾いても、その傾きが一定角度α°より小さい場合は、傾斜方向に延びる仕切り板27によって、傾斜方向に直角な方向への養液20の流れが阻止され、傾斜方向に直角な方向に延びる高さが低い仕切り板26の上を越えて流れる養液20の縦列の流れが維持される。
【0071】
このように、船舶の揺れや衝撃によって栽培台3が傾いてもトレー30の各セルを上流側から下流側へ縦列に維持されて養液20が流れることにより、トレー30の各セルに万遍なく養液が行き渡る。そのため、各栽培穴40の担体30に保持された植物に万遍なく養液20を行き渡させることができ、植物を安定して播種・育成することができる。
【0072】
装置本体1の内部はファン24で定期的に換気される。
【0073】
また、植物育成装置200は、装置本体1の揺れ状態を検出するセンサー(図示省略)を備える。そして、図示しない制御装置に、所定角度以上の揺れが検出されるとトレー30への養液20の供給を一時的に停止する養液供給・停止制御手段が設けられている。
【0074】
養液供給パイプ22の注液孔29(図5参照)は、養液20中の剥離した根などのゴミ35によって閉塞する恐れがあり、閉塞した時は掃除に長時間を必要とする。乗組員は個々の役割が決まっていて多忙であるので閉塞時の掃除は本業を阻害する。したがって、閉塞を防止するとともに、閉塞しても簡単に掃除できるようにすることが望まれる。そこで、図7の(a)に示すように、細孔を持ち柔軟性を有するストッキング状の交換可能な濾過フィルター33を養液供給パイプ22の内部に挿入し、開口部をパイプ入口側の円周内面に沿って固定する。
【0075】
濾過フィルター33は、図7の(b)に示すように開口部を後ろにして養液供給パイプ22に挿入し一端を固定する。こうして取り付けられた濾過フィルター33は、養液20が流れると図7の(c)に示すようには水流で広がって養液供給パイプ22の深部まで入り込む。そして、水圧で養液供給パイプ22の内面に張り付く。ごみが堆積しても養液供給パイプ22の注液孔29は閉塞しないので養液20は隙間を流れ注水孔29から養液を供給することができる。大きく堆積した折は、引き剥き、新しい濾過フィルター33と簡単に交換ができる。そして、ごみ35はフィルターで濾過される。また、フィルター35にごみが多少付着しても、注液孔29が直接ごみで詰まることはない。そのため、長時間注液を継続することができる。そして、ごみ35の堆積が大きくなれば、引き剥して取り除き、新しい濾過フィルター33と簡単に交換ができる。
【0076】
この植物育成装置100を船舶内に設置する。そして、図8の(a)に示すように、栽培台3の栽培穴40にスポンジ等の海綿状多孔質の担体37を一部がトレー30内の養液20に浸るように挿し込み、切込み部に育成しようとする例えば野菜の種子36を蒔く。栽培穴40は例えば直径約25mm程度の貫通穴で、栽培台3に規則正しく開けられている。そして、養液供給装置200を稼動させて栽培台3の傾斜方向上流側からトレー30に養液を供給し循環させることにより野菜を育成する。
【0077】
養液供給装置200が稼動すると。栽培台3の傾斜方向上流側からトレー30に養液20が供給される、そして、その養液20は、海綿状多孔質の担体37を潤しつつ、栽培台3の傾斜により、トレー30の傾斜方向に延びる高さが高い仕切り板27によって縦列に保持されつつ、傾斜方向に直角な方向に延びる高さが低い仕切り板26の上を越えて下流側に流下し、養液供給装置200に戻って循環する。
【0078】
そして、例えば5日位経ち、図9に示すように、幼い葉39が例えば3cm位に成長すると、野菜同士の込み合いによる成長の阻害を防止するために、図10に示すように間引き(担体37ごと抜き取る)。そして抜き取った部分は必ず栓41で閉じるようにする。開けたままであると、船舶が傾斜した時に液漏れを起こす恐れがあり、また、光が養液20に照射されてアオコと呼ばれる藻類が発生し、それが酸素不足や管系の詰まりの原因になる。そのため、装置本体1のドアー開閉時に、栓41で閉じたかどうかの確認を音声もしくは警報音で警告する警報器(図示省略)が設置されている。
【0079】
育成した野菜は、スプラウトのような小さいサイズから大きいサイズまで、どのタイミングでも収穫が可能である。採取した野菜は洗浄して食に供する。
【0080】
このサイクルを一般的にはおおよそ1年くらい繰り返したのち、養液20を排出し、廃液処理装置で処理する。栽培台3とトレー30および受け容器31は、洗浄あるいは十分な拭き取りによって殺菌する。
【0081】
こうして、船舶内において、温度10〜40°C、湿度15〜85%、人工光源70〜250μmol/m2/secの光量の環境下で、人手を節減し、植物の播種から育成までを一括して行うことができる。
【符号の説明】
【0082】
1 本体
2 LEDランプ(光源)
3 栽培台
4a,4b,4c 育成植物
5 防振装置
6 床
7 酸素付加装置
8 紫外線殺菌装置
9 養液槽
10 センサーキット
11 酸性液タンク
12 アルカリ性液タンク
13a、13b、13c ポンプ
14a、14b ポンプ
15 肥料タンク
18 空気ポンプ
19 気泡
20 養液
21 脱気バルブ
22 養液供給パイプ
23 養液戻りパイプ
24 ファン
25 換気孔
26 (高さの低い)仕切り板
27 (高さの高い)仕切り板
28 液面
29 注液孔
30 トレー
31 受け容器
32 還流パイプ
33 濾過フィルター
34 注液
35 ごみ
36 種子
37 担体(スポンジ)
38 植物の根
39 幼い葉
40 栽培穴
41 栓
42 養液溜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10