(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素及び酸素を電気化学的に反応させて電力を得る。燃料電池の発電に伴って生じる生成物は、原理的に水のみである。それ故、地球環境への負荷がほとんどない、クリーンな発電システムとして注目されている。
【0003】
燃料電池は、アノード(燃料極)側に水素を含む燃料ガスを、カソード(空気極)側に酸素を含む酸化ガスを、それぞれ供給することにより、起電力を得る。ここで、アノード側では下記の(1)式に示す酸化反応が、カソード側では下記の(2)式に示す還元反応が進行し、全体として(3)式に示す反応が進行して外部回路に起電力を供給する。
H
2→2H
++2e
- (1)
(1/2)O
2+2H
++2e
-→H
2O (2)
H
2+(1/2)O
2→H
2O (3)
【0004】
燃料電池は、電解質の種類によって、固体高分子型(PEFC)、リン酸型(PAFC)、溶融炭酸塩型(MCFC)及び固体酸化物型(SOFC)等に分類される。このうち、PEFC及びPAFCにおいては、カーボン担体等の導電性の担体と、該導電性の担体に担持された白金又は白金合金等の触媒活性を有する触媒金属の粒子(以下、「触媒粒子」とも記載する)とを有する電極触媒を使用することが一般的である。
【0005】
電極触媒に使用されるカーボン担体は、通常は、触媒粒子の担持密度を高めるために高比表面積を有する。高比表面積を有するカーボン担体としては、細孔のような多数の空隙部を有するカーボン担体を挙げることができる。
【0006】
例えば、特許文献1は、直径が10 nm以下の細孔の容積が0.03乃至0.15 cm
3/gの範囲内にあるカーボン担体と、前記カーボン担体に担持された触媒粒子とを具備し、比表面積当りの酸性官能基量が0.4 μmol/m
2以上である燃料電池用担持触媒を記載する。当該文献は、触媒粒子の平均粒子径が3.0乃至7.0 nmの範囲内にあることが好ましいと記載する。
【0007】
特許文献2は、空孔の空孔分布のモード半径が1 nm以上5 nm未満であり、且つ前記空孔の空孔容積が0.3 cc/g担体以上である担体に対して、触媒金属を担持する触媒の製造方法であって、前記触媒金属の構成成分を前記担体内部の空孔に含浸する工程と、前記含浸する工程の後に熱処理する工程と、を含む、触媒の製造方法を記載する。
【0008】
特許文献3は、カーボンブラックの表面積を増加する方法であって、第1BET窒素表面積よりも大きい第2BET窒素表面積を有するカーボンブラック生成物を生成するのに効果的な条件下で、流動床にて該第1BET窒素表面積を有するカーボンブラック出発材料と酸化剤とを接触させることを含む、方法を記載する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0019】
<1. 燃料電池用電極触媒>
本発明は、燃料電池用電極触媒に関する。本発明の燃料電池用電極触媒は、カーボン担体と、該カーボン担体に担持された触媒金属とを含むことが必要である。
【0020】
従来、燃料電池用電極触媒において、触媒粒子を高分散且つ高担持密度で担持することによって活性を向上することを目的として、高比表面積を有するカーボン担体が使用された。高比表面積を有するカーボン担体としては、多数の細孔を有するカーボン担体を挙げることができる。多数の細孔を有する高比表面積のカーボン担体を含む電極触媒の場合、比表面積の大きい微細粒子径の触媒粒子が細孔の内部に担持される可能性がある。このような電極触媒を燃料電池のアノードに適用すると、H
2拡散経路が長くなってH
2拡散抵抗が増大する可能性がある。この場合、アノードに過電圧が発生して、燃料電池の性能が低下する可能性がある。
【0021】
また、燃料電池用電極触媒において、触媒粒子の平均粒子径が過度に小さい場合、該触媒粒子の耐久性が低くなりやすいことが知られている。このような問題を考慮して、従来技術の燃料電池用電極触媒においては、一定値以上の平均粒子径を有する触媒粒子が使用されてきた。例えば、特許文献1に記載の燃料電池用担持触媒の場合、触媒粒子は、好ましくは3.0〜7.0 nmの範囲の平均粒子径を有する。しかしながら、このような範囲の平均粒子径を有する触媒粒子を含む燃料電池用電極触媒を燃料電池のアノードに適用した場合、該燃料電池において触媒粒子の電気化学的表面積(ECSA)が小さくなり、H
2拡散抵抗が増大する可能性があることが判明した。また、この燃料電池においては、H
2拡散抵抗が増大することにより、アノードに過電圧が発生して、燃料電池の性能が低下する可能性があることが判明した。
【0022】
本発明者らは、所定の範囲の細孔径である細孔の細孔容量が所定の範囲内であるカーボン担体に、所定の範囲の粒子径を有する触媒粒子を担持させることにより、得られる燃料電池用電極触媒は、燃料電池のアノードに適用した場合にH
2拡散抵抗が減少し、アノード過電圧が低下することを見出した。このような特徴を備える本発明の燃料電池用アノード電極触媒を用いることにより、燃料電池の性能低下を実質的に防止することができる。
【0023】
なお、本発明の燃料電池用アノード電極触媒のH
2拡散抵抗及びアノード過電圧は、例えば、該燃料電池用アノード電極触媒をアノードとして備える燃料電池の膜電極複合体(MEA)を作製し、該MEAを用いて当該技術分野で通常使用されるH
2拡散抵抗及びアノード過電圧の評価試験を実施することにより、評価することができる。
【0024】
本発明の燃料電池用アノード電極触媒に含まれるカーボン担体は、10 nm以下の細孔径及び1.1〜8.4 cm
3/gの細孔容量である1個以上の細孔を有することが必要である。本発明において、カーボン担体に存在する1個以上の細孔の細孔径は、該細孔の平均細孔径を意味する。また、本発明において、カーボン担体に存在する1個以上の細孔の細孔容量は、該1個以上の細孔の細孔容量の合計値を意味する。前記細孔径は、1〜10 nmの範囲であることが好ましく、1〜3 nmの範囲であることがより好ましい。前記細孔容量は、2.2〜8.4 cm
3/gの範囲であることが好ましく、2.2〜6.9 cm
3/gの範囲であることがより好ましく、2.2〜3.2 cm
3/gの範囲であることがさらに好ましい。以下において説明するように、本発明の燃料電池用アノード電極触媒に含まれる触媒粒子の粒子径は、3.1 nm以下である。ここで、本発明の燃料電池用アノード電極触媒において、カーボン担体に存在する1個以上の細孔の細孔容量が前記上限値を超える場合、触媒粒子が該細孔の内部に担持される可能性が高くなる。このような燃料電池用アノード電極触媒を燃料電池のアノードに適用すると、H
2拡散経路が長くなってH
2拡散抵抗が増大し、アノード過電圧が増大する可能性がある。それ故、カーボン担体に存在する1個以上の細孔の細孔容量が前記範囲の場合、本発明の燃料電池用アノード電極触媒を燃料電池のアノードに適用することにより、H
2拡散抵抗の増加を回避してアノード過電圧を抑制し、燃料電池の性能低下を実質的に防止することができる。
【0025】
カーボン担体に存在する1個以上の細孔の細孔径及び細孔容量は、例えば、Barrett-Joyner-Halenda(BJH)法等の手段によって得られる細孔分布曲線に基づき、決定することができる。最高分布曲線は、例えば、以下の手順で得ることができる。77.4 K(窒素の沸点)の窒素ガス中で、窒素ガスの圧力P(mmHg)を徐々に高めながら、各圧力Pで、カーボン担体の窒素ガス吸着量(ml/g)を測定する。次いで、圧力P(mmHg)を窒素ガスの飽和蒸気圧P
0(mmHg)で除した値を相対圧力P/P
0として、各相対圧力P/P
0に対する窒素ガス吸着量をプロットすることにより、吸着等温線を得る。その後、この吸着等温線から、BJH法に従ってカーボン担体の細孔分布を求める。このようにして、細孔分布曲線を得ることができる。なお、BJH法については、例えば、J. Am. Chem. Soc., 1951年, 第73巻, p. 373-380等の公知文献を参照することができる。
【0026】
前記で説明した細孔径及び細孔容量を有するカーボン担体は、通常は細孔の数が非常に少ない、中実な構造を有する。本発明において、「中実な構造を有するカーボン担体」又は「中実カーボン担体」は、カーボン担体の内部に細孔のような空隙部が少ないカーボン担体を意味する。本発明の燃料電池用アノード電極触媒において、カーボン担体が中実な構造を有することにより、カーボン担体に存在する1個以上の細孔の内部以外の部分に担持された触媒粒子の割合を増大させることができる。これにより、本発明の燃料電池用アノード電極触媒を燃料電池のアノードに適用した場合に、H
2拡散抵抗の増加を回避してアノード過電圧を抑制し、燃料電池の性能低下を実質的に防止することができる。
【0027】
なお、カーボン担体が中実な構造を有することは、例えば、本発明の燃料電池用アノード電極触媒の透過型電子顕微鏡(TEM)像を、角度を変えながら連続的に測定し、得られたTEM画像から、カーボン担体の外周部に担持されている触媒粒子及びカーボン担体の内部に担持されている触媒粒子の合計に対するカーボン担体の外周部に担持されている触媒粒子の割合を算出することにより、決定することができる。前記方法において、例えば、算出された割合が0.85以上である場合を、カーボン担体が中実な構造を有すると決定することができる。
【0028】
本発明の燃料電池用アノード電極触媒に含まれる触媒粒子は、3.1 nm以下の粒子径を有することが必要である。本発明において、触媒粒子の粒子径は、該触媒粒子の平均粒子径を意味する。触媒粒子の粒子径は、1.5〜3.1 nmの範囲であることが好ましく、1.5〜2.5 nmの範囲であることがより好ましい。触媒粒子の粒子径が前記上限値を超える場合、該触媒粒子を含む燃料電池用アノード電極触媒を備える燃料電池において、触媒粒子のECSAが小さくなり、H
2拡散抵抗が増大し、アノード過電圧が増大する可能性がある。それ故、触媒粒子の粒子径が前記上限値以下の場合、本発明の燃料電池用アノード電極触媒を燃料電池のアノードに適用することにより、H
2拡散抵抗の増加を回避してアノード過電圧を抑制し、燃料電池の性能低下を実質的に防止することができる。また、触媒粒子の粒子径が前記下限値以上の場合、触媒粒子の耐久性が高い、燃料電池用アノード電極触媒を得ることができる。
【0029】
一般に、燃料電池用電極触媒に含まれる触媒粒子の粒子径は、燃料電池用電極触媒の製造において、触媒粒子の担持後の焼成温度を高くするほど大きくなる。前記範囲の粒子径を有する触媒粒子を得るための具体的な条件は、前記の要因を考慮して、予め予備実験を行って焼成処理の条件との相関関係を取得しておき、該相関関係を適用することによって決定することができる。このような手段により、前記範囲の粒子径を有する触媒粒子を得ることができる。
【0030】
触媒粒子の粒子径は、例えば、以下の方法で決定することができる。X線回折(XRD)装置を用いて、本発明の燃料電池用アノード電極触媒に含まれる触媒粒子のXRDを測定する。得られたXRDにおいて、触媒粒子に含まれる触媒金属結晶の(220)面に対応するピークパターンに正規分布曲線をフィッティングする。フィッティングした正規分布曲線の半値幅を計算し、得られた半値幅に基づき、公知の方法(JIS H7805等)によって、触媒金属を含む触媒粒子の粒子径を算出する。前記方法によって得られる触媒粒子の粒子径は、該触媒粒子の(220)面の結晶子径に相当する。触媒粒子の(220)面の結晶子径は、(111)面のような他の格子面の結晶子径との間に一定の相関関係を有する。それ故、触媒粒子の粒子径は、(111)面のような他の格子面の結晶子径に基づき算出してもよい。
【0031】
本発明の燃料電池用アノード電極触媒に含まれる触媒粒子は、15〜40質量%の担持密度を有することが必要である。本発明において、触媒粒子の担持密度は、電極触媒の総質量に対する触媒粒子の質量の百分率を意味する。触媒粒子の担持密度は、15〜30質量%の範囲であることが好ましく、15〜20質量%の範囲であることがより好ましい。触媒粒子の担持密度が前記範囲の場合、本発明の燃料電池用アノード電極触媒を燃料電池のアノードに適用することにより、H
2拡散抵抗の増加を回避してアノード過電圧を抑制し、燃料電池の性能低下を実質的に防止することができる。
【0032】
本発明の燃料電池用アノード電極触媒に含まれる触媒粒子は、白金(Pt)及び白金合金のいずれかを触媒金属として含むことが好ましく、Ptを含むことがより好ましい。前記白金合金は、通常は、Pt及び1種以上のさらなる金属からなる。この場合、白金合金を形成する1種以上のさらなる金属としては、コバルト(Co)、金(Au)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、イリジウム(Ir)、鉄(Fe)、銅(Cu)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、イットリウム(Y)、並びにガドリニウム(Gd)、ランタン(La)及びセリウム(Ce)等のランタノイド元素を挙げることができる。前記1種以上のさらなる金属は、Co、Au、Pd、Ni、Mn、Cu、Ti、Ta又はNbが好ましく、Coがより好ましい。好ましくは、触媒金属は、Pt又はPt
3Coである。本発明の燃料電池用アノード電極触媒に含まれる触媒粒子が前記の触媒金属を含む場合、高い活性及び高い耐久性を備える電極触媒を得ることができる。
【0033】
本発明の燃料電池用アノード電極触媒に含まれる触媒粒子の組成及び担持量は、例えば、王水を用いて、電極触媒から触媒粒子に含まれる触媒金属を溶解させた後、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置を用いて該溶液中の触媒金属イオンを定量することにより、決定することができる。
【0034】
本発明の燃料電池用アノード電極触媒は、燃料電池のアノードに適用することができる。それ故、本発明はまた、本発明の燃料電池用アノード電極触媒を備える燃料電池にも関する。本発明の燃料電池は、アノードとして本発明の燃料電池用アノード電極触媒を備え、さらにカソード及びアイオノマを備える。本発明の燃料電池に使用されるカソード及びアイオノマは、当該技術分野で通常使用される材料から適宜選択することができる。本発明の燃料電池用アノード電極触媒をアノードに適用することにより、H
2拡散抵抗の増加を回避してアノード過電圧を抑制し、燃料電池の性能低下を実質的に防止することができる。それ故、本発明の燃料電池を自動車等の用途に適用することにより、長期に亘る使用においても性能低下を実質的に防止して、安定的に高い性能を発揮することができる。
【0035】
<2:燃料電池用電極触媒の製造方法>
本発明の燃料電池用アノード電極触媒は、例えば、10 nm以下の細孔径及び1.1〜8.4 cm
3/gの細孔容量である1個以上の細孔を有するカーボン担体を準備するカーボン担体準備工程、カーボン担体準備工程で準備されたカーボン担体と、触媒金属の塩を含有する触媒金属材料とを反応させて、該カーボン担体に触媒金属材料を担持させる触媒金属塩担持工程、触媒金属塩担持工程によって得られた触媒金属材料を担持したカーボン担体を加熱処理して触媒粒子を形成させる、触媒粒子形成工程を含む方法によって製造することができる。
【0036】
[2-1:カーボン担体準備工程]
カーボン担体準備工程において使用されるカーボン担体の材料は、当該技術分野で通常使用されるカーボンであれば特に限定されない。好適なカーボン担体の材料は、アセチレンブラックである。各種カーボン担体の材料を使用することにより、前記特徴を有するカーボン担体を得ることができる。
【0037】
本工程において使用されるカーボン担体の材料が、10 nm以下の細孔径及び1.1〜8.4 cm
3/gの細孔容量である1個以上の細孔を有する場合、該材料をそのままの状態で以下の工程に使用することができる。或いは、本工程において使用されるカーボン担体の材料が前記特徴を有していない場合、該材料を熱処理することが好ましい。この場合、熱処理の条件は、使用されるカーボン担体の材料における初期の細孔径及び細孔容量に基づき適宜設定することができる。例えば、熱処理の温度は、200〜2500℃の範囲であることが好ましく、400〜2000℃の範囲であることがより好ましい。前記条件でカーボン担体の材料を処理することにより、前記で説明した特徴を有するカーボン担体を得ることができる。
【0038】
[2-2:触媒金属塩担持工程]
触媒金属塩担持工程において使用される触媒金属材料に含有される触媒金属の塩は、例えば触媒金属が白金の場合、ヘキサヒドロキソ白金硝酸、ジニトロジアンミン白金(II)硝酸又はヘキサヒドロキソ白金アンミン錯体であることが好ましい。また、触媒金属が白金合金の場合、本工程において使用される触媒金属材料に含有される、白金合金を形成するさらなる金属の塩は、該さらなる金属と硝酸又は酢酸との塩であることが好ましく、硝酸コバルト、硝酸ニッケル、硝酸マンガン、酢酸コバルト、酢酸ニッケル又は酢酸マンガンであることがより好ましい。
【0039】
本工程は、コロイド法又は析出沈殿法等のような、当該技術分野で通常使用される反応を用いることにより、実施することができる。
【0040】
[2-3:触媒粒子形成工程]
触媒粒子形成工程において、触媒金属材料を担持したカーボン担体を加熱処理することによって触媒金属の塩を還元して、カーボン担体に担持された触媒粒子を形成させる。加熱処理の温度は、40〜90℃の範囲であることが好ましい。加熱処理の時間は、1〜5時間の範囲であることが好ましい。前記加熱処理は、エタノール、ヒドラジン、メタノール、プロパノール、水素化ホウ素ナトリウム又はイソプロピルアルコールのような還元剤の存在下で実施されることが好ましい。前記条件で触媒金属材料を担持したカーボン担体を加熱処理することにより、触媒金属の塩を還元して、触媒金属を含む触媒粒子を形成させることができる。
【0041】
本工程は、所望により、加熱処理によって形成された触媒粒子を有する電極触媒を焼成する、焼成工程をさらに含んでもよい。焼成工程において、触媒粒子を有する電極触媒を焼成する温度は、80〜900℃の範囲であることが好ましい。焼成処理の時間は、1〜5時間の範囲であることが好ましい。焼成工程を実施することにより、触媒粒子の粒子径を前記で説明した範囲とすることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0043】
<I:電極触媒の調製>
[I-1:比較例1]
10 nm以下の細孔径及び10.1 cm
3/gの細孔容量である1個以上の細孔を有するカーボン5.0 gを、1.2 Lの水に加えて分散させた。この分散液に、1.3 gの白金を含むヘキサヒドロキソ白金硝酸溶液を滴下し、十分にカーボンと攪拌した。次いで、この分散液に、約100 mLの0.1 N アンモニア水を添加してpHを約10に調整し、水酸化物を形成させてカーボン上に析出させた。エタノールを用いて、50℃で析出物を還元した。反応後、分散液を濾過した。得られた粉末を、100℃で10時間真空乾燥させた。乾燥後の粉末を、不活性雰囲気下で白金の粒子径が2.0 nmとなるように500℃で1時間焼成して、電極触媒の粉末を得た。
【0044】
[I-2:比較例2]
比較例1において、使用するカーボンを、10 nm以下の細孔径及び14.8 cm
3/gの細孔容量である1個以上の細孔を有するカーボンに変更した他は、比較例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0045】
[I-3:比較例3]
比較例1において、使用するカーボンを、10 nm以下の細孔径及び2.5 cm
3/gの細孔容量である1個以上の細孔を有するカーボンに変更し、焼成処理の条件を800℃で5時間に変更し、且つ、焼成処理後の白金の粒子径を4.2 nmに変更した他は、比較例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0046】
[I-4:比較例4]
比較例1において、使用するカーボンを、10 nm以下の細孔径及び2.5 cm
3/gの細孔容量である1個以上の細孔を有するカーボンに変更し、且つ、使用するヘキサヒドロキソ白金硝酸溶液を0.6 gの白金を含むものに変更した他は、比較例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0047】
[I-5:比較例5]
比較例1において、使用するカーボンを、10 nm以下の細孔径及び2.5 cm
3/gの細孔容量である1個以上の細孔を有するカーボンに変更し、使用するヘキサヒドロキソ白金硝酸溶液を5.0 gの白金を含むものに変更し、且つ乾燥後の粉末の焼成処理を省略した他は、比較例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0048】
[I-6:実施例1]
10 nm以下の細孔径及び8.4 cm
3/gの細孔容量である1個以上の細孔を有するカーボン5.0 gを、1.2 Lの水に加えて分散させた。この分散液に、1.3 gの白金を含むヘキサヒドロキソ白金硝酸溶液を滴下し、十分にカーボンと攪拌した。次いで、この分散液に、約100 mLの0.1 N アンモニア水を添加してpHを約10に調整し、水酸化物を形成させてカーボン上に析出させた。エタノールを用いて、90℃で析出物を還元した。反応後、分散液を濾過した。得られた粉末を、100℃で10時間真空乾燥させた。乾燥後の粉末を、不活性雰囲気下で白金の粒子径が2.0 nmとなるように300℃で1時間焼成処理して、電極触媒の粉末を得た。
【0049】
[I-7:実施例2]
実施例1において、使用するカーボンを、10 nm以下の細孔径及び6.9 cm
3/gの細孔容量である1個以上の細孔を有するカーボンに変更した他は、実施例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0050】
[I-8:実施例3]
実施例1において、使用するカーボンを、10 nm以下の細孔径及び2.5 cm
3/gの細孔容量である1個以上の細孔を有するカーボンに変更し、且つ乾燥後の粉末の焼成処理を省略した他は、実施例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0051】
[I-9:実施例4]
実施例1において、使用するカーボンを、10 nm以下の細孔径及び2.5 cm
3/gの細孔容量である1個以上の細孔を有するカーボンに変更した他は、実施例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0052】
[I-10:実施例5]
実施例1において、使用するカーボンを、10 nm以下の細孔径及び2.5 cm
3/gの細孔容量である1個以上の細孔を有するカーボンに変更し、焼成処理の条件を500℃で1時間に変更し、且つ、焼成処理後の白金の粒子径を2.5 nmに変更した他は、実施例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0053】
[I-11:実施例6]
実施例1において、使用するカーボンを、10 nm以下の細孔径及び2.5 cm
3/gの細孔容量である1個以上の細孔を有するカーボンに変更し、焼成処理の条件を700℃で1時間に変更し、且つ、焼成処理後の白金の粒子径を3.1 nmに変更した他は、実施例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0054】
[I-12:実施例7]
実施例1において、使用するカーボンを、10 nm以下の細孔径及び2.5 cm
3/gの細孔容量である1個以上の細孔を有するカーボンに変更し、且つ使用するヘキサヒドロキソ白金硝酸溶液を0.9 gの白金を含むものに変更した他は、実施例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0055】
[I-13:実施例8]
実施例1において、使用するカーボンを、10 nm以下の細孔径及び2.5 cm
3/gの細孔容量である1個以上の細孔を有するカーボンに変更し、且つ使用するヘキサヒドロキソ白金硝酸溶液を2.2 gの白金を含むものに変更した他は、実施例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0056】
[I-14:実施例9]
実施例1において、使用するカーボンを、10 nm以下の細孔径及び2.5 cm
3/gの細孔容量である1個以上の細孔を有するカーボンに変更し、使用するヘキサヒドロキソ白金硝酸溶液を3.4 gの白金を含むものに変更し、且つ乾燥後の粉末の焼成処理を省略した他は、実施例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0057】
[I-15:実施例10]
実施例1において、使用するカーボンを、10 nm以下の細孔径及び3.5 cm
3/gの細孔容量である1個以上の細孔を有するカーボンに変更した他は、実施例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0058】
[I-16:実施例11]
実施例1において、使用するカーボンを、10 nm以下の細孔径及び2.2 cm
3/gの細孔容量である1個以上の細孔を有するカーボンに変更し、且つ乾燥後の粉末の焼成処理を省略した他は、実施例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0059】
[I-17:実施例12]
実施例1において、使用するカーボンを、10 nm以下の細孔径及び1.1 cm
3/gの細孔容量である1個以上の細孔を有するカーボンに変更し、且つ乾燥後の粉末の焼成処理を省略した他は、実施例1と同様の手順で、電極触媒の粉末を得た。
【0060】
<II:電極触媒の評価方法>
[II-1:触媒金属の担持密度測定]
王水を用いて、所定量の実施例及び比較例の電極触媒から触媒金属であるPtを溶解させた。ICP発光分析装置(5100 ICP-OES;Agilent Technologies製)を用いて、得られた溶液中のPtイオンを定量した。前記溶液の体積及び溶液中のPt定量値と、Pt仕込み量及びカーボン仕込み量とから、電極触媒に担持されたPtの担持密度(電極触媒の総質量に対する質量%)を決定した。
【0061】
[II-2:触媒粒子の粒子径測定]
XRD装置(RINT2500;RIGAKU製)を用いて、実施例及び比較例の電極触媒に含まれる触媒粒子のXRDを測定した。測定条件は、以下のとおりである。ターゲット:Cu、出力:40 kV、40 mA。得られた実施例及び比較例の電極触媒のXRDにおいて、Ptの(220)面に対応する2θ = 68°付近のピークパターンに正規分布曲線をフィッティングした。フィッティングした正規分布曲線の半値幅を計算した。得られた半値幅に基づき、公知の方法(JIS H7805)によって、Ptを含む触媒金属の粒子径を算出した。
【0062】
[II-3: 電極触媒のMEA評価]
1 gの電極触媒を水に懸濁した。この懸濁液に、アイオノマとしてナフィオン(登録商標)(274704;デュポン製)、及びエタノールを添加した。得られた懸濁液を、一晩攪拌した後、超音波ホモジナイザを用いて分散処理することにより、インク溶液を調製した。インク溶液中の各成分は、水:エタノール:アイオノマ:電極触媒=10:2:1:1の質量比となるように添加した。前記インク溶液を、テフロンシートの表面に塗工して、アノードを作製した。このアノードに、ホットプレス法によってカソードを接合して、MEAを作製した。カソードには、電極触媒としてPtを担持したデンカブラック(デンカ製)担体を、アイオノマとしてナフィオン(登録商標)(274704;デュポン製)を、それぞれ使用した。アノードのPt目付量は0.1 mg/cm
2、カソードのPt目付量は0.1 mg/cm
2とした。得られたMEAのセル温度を60℃に設定した。MEAのカソード及びアノード電極に、露点55℃に加湿した1%濃度の水素(H
2)を流通した。電圧を掃引したときのアノード側の限界電流値より、H
2拡散抵抗を測定した。その後、H
2濃度を100%に増加させて電圧を掃引した。2.0 A/cm
2の電流値の時点で検出された過電圧より、カソード側のH
2発生過電圧及び直流抵抗過電圧を差し引くことにより、アノード過電圧を算出した。
【0063】
<III:電極触媒の評価結果>
[III-1:電極触媒の調製条件及び物性値]
実施例及び比較例の電極触媒の調製条件の概要及び該電極触媒の性能値を表1に示す。また、実施例及び比較例の電極触媒におけるカーボン担体の10 nm以下の細孔径である細孔の細孔容量と該
電極触媒をアノードに用いたMEAのH
2拡散抵抗との関係を
図2に、細孔容量と該
電極触媒をアノードに用いたMEAのアノード過電圧との関係を
図3に、それぞれ示す。図中、白抜き菱形は比較例1〜5の値を、黒塗り四角形は実施例1〜12の値を、それぞれ示す。
【表1】
【0064】
表1に示すように、比較例1及び2の電極触媒は、カーボン担体における10 nm以下の細孔径である細孔の細孔容量が大きい。そのため、アノード電極触媒の活性に重要な微小粒子径の触媒粒子がカーボン担体の細孔内に担持される可能性が高い(
図1)。その結果、H
2拡散経路が長くなってH
2拡散抵抗が増大し、アノード過電圧が増大すると考えられる(
図2及び3)。これに対し、実施例1〜12、特に実施例3〜12の電極触媒は、カーボン担体における10 nm以下の細孔径である細孔の細孔容量が小さい。このようなカーボン担体は、細孔自体が少ない中実な構造を有する。そのため、アノード電極触媒の活性に重要な微小粒子径の触媒粒子がカーボン担体の表面に担持される可能性が高い(
図1)。その結果、H
2拡散経路が短くなってH
2拡散抵抗が減少し、アノード過電圧が低下すると考えられる(
図2及び3)。