(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
オキソ酸触媒が、タングステン、マンガン、モリブデン、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、及びレニウムから選択される少なくとも1種の金属原子を含有するオキソ酸、又はその塩である請求項1に記載のオキソ酸触媒の回収方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、過酸化水素により有機化合物を酸化する反応に使用したオキソ酸触媒について、反応生成物の収率及び触媒の活性を損なうことなく、簡便且つ効率よく回収する方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記方法により回収されたオキソ酸触媒を使用して過酸化水素により有機化合物を酸化し、対応する酸化物を得る酸化物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、水/有機溶媒二相系において、反応系内のpHを調整することによりオキソ酸触媒を有機相から水相へ、又は水相から有機相へ移動させることができ、有機相に含まれる反応生成物と容易に分離してオキソ酸触媒を回収することができること、更に、水相/有機相間においてオキソ酸触媒を任意に移動させることにより反応系内に存在する不純物(有機溶媒に溶解性を示す不純物、及び水に溶解性を示す不純物)を除去することができ、オキソ酸触媒を精製して回収することができること、回収されたオキソ酸触媒は優れた触媒活性を有し、有機化合物の酸化反応に再利用することができること見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、水/有機溶媒二相系において、過酸化水素により有機化合物を酸化する反応に使用したオキソ酸触媒の回収方法であって、下記工程を有することを特徴とするオキソ酸触媒の回収方法を提供する。
工程1:反応系内のpHを5.0以上に調整することによりオキソ酸触媒を水相に移行させ、有機相を除去する
【0010】
本発明は、また、更に下記工程を有する前記のオキソ酸触媒の回収方法を提供する。
工程2:有機溶媒を添加して、水/有機溶媒二相系とする
工程3:反応系内のpHを5.0未満に調整し、相間移動触媒を添加することによりオキソ酸触媒を有機相に移行させ、水相を除去する
【0011】
本発明は、また、オキソ酸触媒が、タングステン、マンガン、モリブデン、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、及びレニウムから選択される少なくとも1種の金属原子を含有するオキソ酸、又はその塩である前記のオキソ酸触媒の回収方法を提供する。
【0012】
本発明は、また、水/有機溶媒二相系において、過酸化水素により有機化合物を酸化する反応に使用したオキソ酸触媒を前記のオキソ酸触媒の回収方法によって回収し、回収されたオキソ酸触媒の存在下で有機化合物を過酸化水素により酸化して対応する酸化物を得る酸化物の製造方法を提供する。
【0013】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1] 水/有機溶媒二相系において、過酸化水素により有機化合物を酸化する反応に使用したオキソ酸触媒の回収方法であって、下記工程を有することを特徴とするオキソ酸触媒の回収方法。
工程1:反応系内のpHを5.0以上に調整することによりオキソ酸触媒を水相に移行させ、有機相を除去する
[2] 更に下記工程を有する[1]に記載のオキソ酸触媒の回収方法。
工程2:有機溶媒を添加して、水/有機溶媒二相系とする
工程3:反応系内のpHを5.0未満に調整し、相間移動触媒を添加することによりオキソ酸触媒を有機相に移行させ、水相を除去する
[3] オキソ酸触媒が、タングステン、マンガン、モリブデン、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、及びレニウムから選択される少なくとも1種の金属原子を含有するオキソ酸、又はその塩である[1]又は[2]に記載のオキソ酸触媒の回収方法。
[4] オキソ酸触媒が、タングステン酸、マンガン酸、モリブデン酸、バナジン酸、タングストモリブデン酸、バナドモリブデン酸、バナドタングステン酸、マンガンタングステン酸、コバルトタングステン酸、マンガンモリブデンタングステン酸、リンタングステン酸、リンマンガン酸、リンモリブデン酸、リンバナジン酸、ケイタングステン酸、ケイモリブデン酸、ヒ素タングステン酸、ヒ素モリブデン酸、リンタングストモリブデン酸、リンバナドモリブデン酸、及びケイタングストモリブデン酸から選択される少なくとも1種の化合物、又はその塩である[1]又は[2]に記載のオキソ酸触媒の回収方法。
[5] オキソ酸触媒が、金属原子を含有するオキソ酸、又はそのオニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、若しくは遷移金属塩である[1]〜[4]の何れか1つに記載のオキソ酸触媒の回収方法。
[6] 相間移動触媒が、下記式(1)
【化1】
(式中、R
1〜R
4は同一又は異なって置換基を有していてもよい炭化水素基を示す。R
1〜R
4は、選択される2又は3が互いに結合して、窒素カチオン(N
+)と共に環を形成していてもよい)
で表される第4級アンモニウム塩である[2]〜[5]の何れか1つに記載のオキソ酸触媒の回収方法。
[7] 有機化合物が、炭素−炭素二重結合を有する直鎖又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素、シクロアルケン環を含有する化合物、及びこれらが連結基を介して若しくは連結基を介することなく結合した化合物である[1]〜[6]の何れか1つに記載のオキソ酸触媒の回収方法。
[8]有機化合物が、下記式(a-1)
【化2】
(式(a-1)中、R
5は水素原子又はアルキル基を示し、R
6は水素原子、アルキル基、アルケニル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、又はアルコキシカルボニル基を示す)
で表される化合物及び/又は下記式(a-2)
【化3】
(式(a-2)中、R
5は水素原子又はアルキル基を示し、R
7は単結合又は直鎖若しくは分岐鎖状アルキレン基を示す。p及びqは、同一又は異なって、0又は1以上の整数である)
で表される化合物である[1]〜[6]の何れか1つに記載のオキソ酸触媒の回収方法。
[9] 工程1においてpH調整後、0.5〜20時間経過してから有機相を除去する[1]〜[8]の何れか1つに記載のオキソ酸触媒の回収方法。
[10] 工程1において反応系内の温度を30〜70℃に調整する[1]〜[9]の何れか1つに記載のオキソ酸触媒の回収方法。
[11] 工程3においてpH調整後、0.5〜10時間経過してから水相を除去する[2]〜[10]の何れか1つに記載のオキソ酸触媒の回収方法。
[12] 工程3において反応系内の温度を50〜90℃に調整する[2]〜[11]の何れか1つに記載のオキソ酸触媒の回収方法。
[13] 反応に使用した全オキソ酸触媒の80重量%以上が回収される[1]〜[12]の何れか1つに記載のオキソ酸触媒の回収方法。
[14] 水/有機溶媒二相系において、過酸化水素により有機化合物を酸化する反応に使用したオキソ酸触媒を[1]〜[13]の何れか1つに記載のオキソ酸触媒の回収方法によって回収し、回収されたオキソ酸触媒の存在下で有機化合物を過酸化水素により酸化して対応する酸化物を得る酸化物の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のオキソ酸触媒の回収方法は上記構成を有するため、pH制御と分液操作のみの簡便な方法で反応生成物とオキソ酸触媒を分離することができ、濾過処理や吸着処理を施す必要がなく、前記処理に伴う回収率の低下を回避することができ、オキソ酸触媒を効率よく回収することができる。更に、pH制御と分液操作のみの簡便な方法でオキソ酸触媒を精製して回収することもできる。そのため、経済的に非常に有利であると共に、環境への負荷を低減することができ、グリーンケミストリーに大きく貢献がすることが可能である。更に、通常、担体等に固定化された触媒は触媒活性が低下するが、本発明においてはオキソ酸触媒を担体等に固定化する必要がないので担体等への固定化に伴う触媒活性の低下を防止することができ、触媒活性を高く維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(酸化反応)
本発明の酸化反応は、水/有機溶媒二相系において、オキソ酸触媒の存在下で過酸化水素により有機化合物を酸化する反応である。
【0016】
(オキソ酸触媒)
本発明のオキソ酸触媒は、過酸化水素により有機化合物を酸化する反応を触媒する化合物である。本発明においては、なかでも、過酸化水素を反応系内に添加した際、水相側への分配率が高い点で、金属原子含有オキソ酸、又はその塩を使用することが好ましい。前記オキソ酸は、多核錯体の構造(例えば、ケギン型、ドーソン型等)を有するポリ酸であってもよい。オキソ酸触媒は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0017】
前記金属原子含有オキソ酸としては、タングステン(W)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、及びレニウム(Re)から選択される少なくとも1種の金属原子を含有するオキソ酸が好ましく、例えば、タングステン酸、マンガン酸、モリブデン酸、バナジン酸、タングストモリブデン酸、バナドモリブデン酸、バナドタングステン酸、マンガンタングステン酸、コバルトタングステン酸、マンガンモリブデンタングステン酸等を好適に使用することができる。
【0018】
上記金属原子含有オキソ酸の塩としては、例えば、上記例示の金属原子含有オキソ酸のオニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、遷移金属塩等を挙げることができる。
【0019】
また、前記金属原子含有オキソ酸はそれ以外のオキソ酸(以後、「他のオキソ酸」と称する場合がある)又はその塩(オニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、遷移金属塩等)と併用してもよい。他のオキソ酸又はその塩としては、例えば、リン原子(P)、ケイ素原子(Si)、又はヒ素原子(As)含有オキソ酸又はその塩等を挙げることができる。
【0020】
上記リン原子含有オキソ酸又はその塩としては、例えば、リン酸、ポリリン酸(ピロリン酸、メタリン酸を含む)、(ポリ)リン酸塩[例えば、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム等の(ポリ)リン酸アルカリ金属塩;リン酸カルシウム等の(ポリ)リン酸アルカリ土類金属塩;リン酸水素カリウム、リン酸水素ナトリウム等の(ポリ)リン酸水素アルカリ金属塩;リン酸水素カルシウム等の(ポリ)リン酸水素アルカリ土類金属塩;(ポリ)リン酸アルミニウム塩(リン酸ピロリン酸アルミニウム複塩を含む)等]等を挙げることができる。なお、上記リン原子を含む化合物には、五酸化二リン等の上記リン原子を含む化合物を合成する材料(又は原料)も含まれる。上記リン原子を含む化合物は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
また、上記ケイ素原子含有オキソ酸又はその塩としては、例えば、ケイ酸(オルトケイ酸、メタケイ酸等)、ヒ素原子含有オキソ酸又はその塩としては、例えば、ヒ酸、亜ヒ酸等を挙げることができる。
【0022】
上記金属原子含有オキソ酸は上記他のオキソ酸と縮合体を形成していても良い。前記縮合体としては、例えば、リンタングステン酸、リンマンガン酸、リンモリブデン酸、リンバナジン酸、ケイタングステン酸、ケイモリブデン酸、ヒ素タングステン酸、ヒ素モリブデン酸、リンタングストモリブデン酸、リンバナドモリブデン酸、ケイタングストモリブデン酸等を挙げることができる。前記縮合体は、多核錯体の構造(例えば、ケギン型、ドーソン型等)を有するヘテロポリ酸であってもよい。
【0023】
本発明のオキソ酸触媒としては、なかでも、タングステン、マンガン、及びバナジウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属原子含有オキソ酸又はその塩と、リン原子含有オキソ酸又はその塩を組み合わせて使用することが好ましい。
【0024】
(相間移動触媒)
本発明においては上記オキソ酸触媒と共に相間移動触媒を使用することが好ましい。相間移動触媒を併用することにより触媒効率を向上させることができる。相間移動触媒としては、周知慣用の第4級アンモニウム塩を使用することができる。
【0025】
前記第4級アンモニウム塩としては、例えば、下記式(1)で表される化合物を挙げることができる。
【0027】
式(1)中、R
1〜R
4は同一又は異なって炭化水素基を示す。前記炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、及びこれらが2以上結合した基が挙げられる。前記炭化水素基は置換基を有していてもよい。また、R
1〜R
4は、選択される2又は3が互いに結合して、窒素カチオン(N
+)と共に環を形成していてもよい。
【0028】
前記脂肪族炭化水素基としては飽和脂肪族炭化水素基が好ましく、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル、イソオクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル(=ステアリル)基等の直鎖状又は分岐鎖状のC
1-20アルキル基等を挙げることができる。
【0029】
前記脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロドデシル基等のC
3-12シクロアルキル基等を挙げることができる。
【0030】
前記芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル、ナフチル基等のC
6-14アリール基(特に、C
6-10アリール基)等を挙げることができる。
【0031】
また、脂肪族炭化水素基と脂環式炭化水素基とが結合した基としては、例えば、シクロへキシルメチル基等のC
3-12シクロアルキル置換C
1-20アルキル基、メチルシクロヘキシル基等のC
1-20アルキル置換C
3-12シクロアルキル基等を挙げることができる。脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基とが結合した基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基等のC
7-18アラルキル基(特に、C
7-10アラルキル基)、トリル基等のC
1-4アルキル置換アリール基等を挙げることができる。
【0032】
前記R
1〜R
4における炭化水素基が有していてもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、ヒドロキシル基、C
1-6アルコキシ基(メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロピルオキシ、ブトキシ、イソブチルオキシ基等)、芳香環にC
1-4アルキル基、ハロゲン原子、C
1-4アルコキシ基等の置換基を有していてもよいC
6-14アリールオキシ基(フェノキシ、トリルオキシ、ナフチルオキシ基等)、C
7-18アラルキルオキシ基(ベンジルオキシ、フェネチルオキシ基等)、C
1-12アシルオキシ基(アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、ベンゾイルオキシ基等)、カルボキシル基、C
1-6アルコキシ−カルボニル基(メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル基等)、C
6-14アリールオキシ−カルボニル基(フェノキシカルボニル、トリルオキシカルボニル、ナフチルオキシカルボニル基等)、C
7-18アラルキルオキシ−カルボニル基(ベンジルオキシカルボニル基等)、アミノ基、置換アミノ基(メチルアミノ、エチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ基等のモノ又はジ−C
1-6アルキルアミノ基;アセチルアミノ、プロピオニルアミノ、ベンゾイルアミノ基等のC
1-11アシルアミノ基等)、エポキシ基含有基(グリシジルオキシ基等)、オキセタニル基含有基(エチルオキセタニルオキシ基等)、アシル基(アセチル、プロピオニル、ベンゾイル基等)、オキソ基、及びこれらの2以上が必要に応じてC
1-6アルキレン基を介して結合した基等を挙げることができる。
【0033】
前記R
1〜R
4から選択される2以上が互いに結合して、窒素カチオン(N
+)と共に形成する環としては、例えば、ピロール環、ピロリジン環、ピリジン環、ピペリジン環等を挙げることができる。また、前記環は置換基を有していてもよく、置換基としては前記R
1〜R
4における炭化水素基が有していてもよい置換基と同様の例を挙げることができる。
【0034】
式(1)中、X
-は、式(1)で表される第四級アンモニウム塩におけるアンモニウムカチオン(第四級アンモニウムイオン)のカウンターアニオン(対イオン;一価のアニオン)であり、例えば、ハロゲン化物イオン(フッ化物イオン、塩化物イオン、ヨウ化物イオン等)、硫酸水素イオン、硝酸イオン、炭酸水素イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスファイトイオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン、蟻酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、プロピオン酸イオン、安息香酸イオン、水酸化物イオン、アルコキシドイオン(メトキサイドイオン、エトキサイドイオン等)等のブレンステッド酸の共役塩基等を挙げることができる。本発明においては、なかでも、ハロゲン化物イオンが好ましい。
【0035】
前記第4級アンモニウム塩の具体例としては、塩化トリオクチルメチルアンモニウム、塩化トリオクチルエチルアンモニウム、塩化ジラウリルジメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、臭化トリオクチルメチルアンモニウム、臭化トリオクチルエチルアンモニウム、臭化ジラウリルジメチルアンモニウム、臭化ラウリルトリメチルアンモニウム、臭化ステアリルトリメチルアンモニウム、臭化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、臭化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、臭化ジデシルジメチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、臭化ベンジルトリメチルアンモニウム、臭化ベンジルトリエチルアンモニウム、ヨウ化トリオクチルメチルアンモニウム、ヨウ化トリオクチルエチルアンモニウム、ヨウ化ジラウリルジメチルアンモニウム、ヨウ化ラウリルトリメチルアンモニウム、ヨウ化ステアリルトリメチルアンモニウム、ヨウ化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、ヨウ化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、ヨウ化ジデシルジメチルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化ベンジルトリメチルアンモニウム、ヨウ化ベンジルトリエチルアンモニウム、リン酸水素化トリオクチルメチルアンモニウム、リン酸水素化トリオクチルエチルアンモニウム、リン酸水素化ジラウリルジメチルアンモニウム、リン酸水素化ラウリルトリメチルアンモニウム、リン酸水素化ステアリルトリメチルアンモニウム、リン酸水素化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、リン酸水素化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、リン酸水素化ジデシルジメチルアンモニウム、リン酸水素化テトラブチルアンモニウム、リン酸水素化ベンジルトリメチルアンモニウム、リン酸水素化ベンジルトリエチルアンモニウム、硫酸水素化トリオクチルメチルアンモニウム、硫酸水素化トリオクチルエチルアンモニウム、硫酸水素化ジラウリルジメチルアンモニウム、硫酸水素化ラウリルトリメチルアンモニウム、硫酸水素化ステアリルトリメチルアンモニウム、硫酸水素化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、硫酸水素化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、硫酸水素化ジデシルジメチルアンモニウム、硫酸水素化テトラブチルアンモニウム、硫酸水素化ベンジルトリメチルアンモニウム、硫酸水素化ベンジルトリエチルアンモニウム、1−メチルピリジニウムクロライド、1−メチルピリジニウムブロマイド、1−エチルピリジニウムクロライド、1−エチルピリジニウムブロマイド、1−n−ブチルピリジニウムクロライド、1−n−ブチルピリジニウムブロマイド、1−n−ヘキシルピリジニウムクロライド、1−n−ヘキシルピリジニウムブロマイド、1−n−オクチルピリジニウムブロマイド、1−n−ドデシルピリジニウムクロライド、1−ドデシル(2−メチルピリジニウム)クロライド、1−ドデシル(3−メチルピリジニウム)クロライド、1−ドデシル(4−メチルピリジニウム)クロライド、1−n−ドデシルピリジニウムブロマイド、1−n−セチルピリジニウムクロライド、1−n−セチルピリジニウムブロマイド、1−フェニルピリジニウムクロライド、1−フェニルピリジニウムブロマイド、1−ベンジルピリジニウムクロライド、1−ベンジルピリジニウムブロマイド等を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
相間移動触媒の使用量としては、上記オキソ酸触媒1モル(前駆化合物の場合はオキソ酸触媒1モルに相当する量)に対して、例えば0.01〜2.0モル程度、好ましくは0.05〜1.0モル、特に好ましくは0.1〜0.5モルである。
【0037】
(過酸化水素)
酸化剤として使用する過酸化水素(又は過酸化水素水溶液)は、慣用の方法で合成してもよく、市販品を用いてもよい。過酸化水素水溶液を使用する場合の過酸化水素の濃度は取り扱い性等の観点から、5〜80重量%が好ましく、特に好ましくは20〜70重量%、最も好ましくは25〜65重量%である。
【0038】
上記過酸化水素(実質的に添加する過酸化水素)の使用量は、特に限定されないが、下記炭素−炭素二重結合を有する化合物に含まれる二重結合1モルに対して、例えば0.1〜10モル程度、好ましくは0.2〜5モル、特に好ましくは0.5〜2モルである。
【0039】
(有機化合物)
本発明の酸化反応において使用される有機化合物としては、過酸化水素により酸化される化合物であればよく、例えば、炭素−炭素二重結合を有する化合物(以下、「オレフィン」と称する場合がある)、アルコール、ケトン等を挙げることができる。オレフィンを過酸化水素で酸化すると、対応する酸化物(又は反応生成物)として、通常、炭素−炭素二重結合がエポキシ化され、対応するエポキシ化合物が生成する。また、条件によっては、ジオールが生成する。第1級アルコールを過酸化水素で酸化すると、アルデヒド、カルボン酸等が生成する。第2級アルコールを過酸化水素で酸化すると、ケトン、カルボン酸等が生成する。また、ケトンを過酸化水素で酸化すると、バイヤービリガー酸化が進行して、エステル(鎖状ケトンの酸化の場合)、ラクトン(環状ケトンの酸化の場合)が生成する。過酸化水素を用いた酸化反応のうち、最も代表的な酸化反応は、オレフィンの酸化反応(特に、エポキシ化反応)である。以下、オレフィンのエポキシ化(オレフィンの炭素−炭素二重結合のエポキシ化)反応について詳細に説明するが、本発明のオキソ酸触媒の回収方法は当該反応に限らず、上記のいずれの酸化反応においても使用することができる。
【0040】
前記オレフィンは、分子内(1分子内)に少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有する化合物であり、例えば、(i)炭素−炭素二重結合を有する直鎖又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素、(ii)シクロアルケン環(シクロアルカジエン環等のシクロアルカポリエン環も含む)を含有する化合物、及び(iii)これらの1種又は2種以上が、連結基を介して若しくは介することなく結合した化合物等が含まれる。これらの化合物は、置換基を有していてもよい。
【0041】
(i)炭素−炭素二重結合を有する直鎖又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素としては、例えば、エチレン、プロペン、1−ブテン、2−ブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、2,3−ジメチル−2−ブテン、3−ヘキセン、1−へプテン、2−へプテン、1−オクテン、2−オクテン、3−オクテン、2−メチル−2−ブテン、1−ノネン、2−ノネン、デセン、ウンデセン、ドデセン、テトラデセン、ヘキサデセン、オクタデセン等のC
2-40アルケン(好ましくはC
2-30アルケン、特に好ましくはC
2-20アルケン);ブタジエン、イソプレン、1,5−ヘキサンジエン、1,6−ヘプタンジエン、1,7−オクタジエン、デカジエン、ウンデカジエン、ドデカジエン等のC
4-40アルカジエン(好ましくはC
4-30アルカジエン、特に好ましくはC
4-20アルカジエン);ウンデカトリエン、ドデカトリエン等のC
6-30アルカトリエン(好ましくはC
6-20アルカトリエン)等を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
これらの炭素−炭素二重結合を有する直鎖又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素は、例えば、芳香族炭化水素基(フェニル基等のC
6-10アリール基等)、ヒドロキシル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、メルカプト基、アルコキシ基(メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、t−ブトキシ基等のC
1-10アルコキシ基等)、ハロC
1-6アルコキシ基、アルキルチオ基(メチルチオ、エチルチオ基等のC
1-10アルキルチオ基等)、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル、エトキシカルボニル基等のC
1-10アルコキシカルボニル基)、アシル基(アセチル、プロピオニル、トリフルオロアセチル基等のC
2-10アシル基等)、アシルオキシ基(アセトキシ、プロピオニルオキシ、トリフルオロアセトキシ基等のC
1-10アシルオキシ基等)、アミノ基、置換アミノ基(メチルアミノ、エチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ基等のモノ又はジ−C
1-6アルキルアミノ基;アセチルアミノ、プロピオニルアミノ、ベンゾイルアミノ基等のC
1-11アシルアミノ基)、ニトロ基、シアノ基、複素環基(ピリジル基等の窒素原子含有複素環基等)等の置換基を有してもよい。なお、置換基の数及び置換位置は特に限定されない。
【0043】
置換基を有する上記直鎖又は分岐鎖状脂肪族炭化水素としては、例えば、フェニルエチレン(=スチレン)、1−フェニルプロペン、2−フェニル−1−ブテン、1−フェニル−1,3−ブタジエン、1−フェニル−1,3−ペンタジエン等を挙げることができる。
【0044】
(ii)シクロアルケン環(シクロアルカジエン環等のシクロアルカポリエン環も含む)を含有する化合物としては、例えば、シクロプロペン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロノネン、シクロデセン、シクロウンデセン、シクロドデセン等のC
3-20シクロアルケン(好ましくはC
4-14シクロアルケン、特に好ましくはC
5-10シクロアルケン、最も好ましくはC
5-6シクロアルケン);シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、1,4−シクロヘキサジエン、1,3−シクロヘプタジエン、1,4−シクロヘプタジエン、1,5−シクロオクタジエン、シクロデカジエン等のC
5-20シクロアルカジエン(好ましくはC
5-14シクロアルカジエン、特に好ましくはC
5-10シクロアルカジエン);シクロオクタトリエン等のC
7-20シクロアルカトリエン等を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0045】
これらのシクロアルケン環は置換基を有していてもよい。前記置換基としては、炭素−炭素二重結合を有する直鎖又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素が有していてもよい置換基の他、アルキル基(メチル、エチル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル基等のC
1-10アルキル基等)、ハロC
1-10アルキル基、アルケニル基(ビニル、アリル、プロペニル、イソプロペニル、ブテニル基等のC
2-10アルケニル基等)等を挙げることができる。なお、置換基の数及び置換位置は特に限定されない。
【0046】
前記連結基としては、例えば、アルキレン基[エチレン、プロピレン、トリメチレン、テトラメチレン、2−メチルブタン−1,3−ジイル基等のC
1-20アルキレン基等;1,4−シクロヘキシレン基等のC
4-10シクロアルキレン基等(アルキリデン基も含む)]、アリーレン基(フェニレン基、ナフタレンジイル基等のC
6-10アリーレン基等)、カルボニル結合、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、及びウレタン結合から選択される少なくとも1種で構成される基等を挙げることができる。
【0047】
上記オレフィンの炭素数(置換基及び/又は連結基を含む場合には、置換基及び/又は連結基(置換基と連結基の両方を含む場合には、置換基及び連結基)に含まれる炭素数を合算した個数)は、例えば2〜40個程度、好ましくは6個以上(例えば、6〜30個)、更に好ましくは6〜25個、特に好ましくは6〜20個、最も好ましくは7〜20個である。
【0048】
代表的な上記オレフィンには、下記式(a-1)
【化5】
(式(a-1)中、R
5は水素原子又はアルキル基を示し、R
6は水素原子、アルキル基、アルケニル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、又はアルコキシカルボニル基を示す)
で表される化合物や、下記式(a-2)
【化6】
(式(a-2)中、R
5は水素原子又はアルキル基を示し、R
7は単結合又は直鎖若しくは分岐鎖状アルキレン基を示す。p及びqは、同一又は異なって、0又は1以上の整数である)
で表される化合物等が含まれる。なお、p及びqが0であり、R
7が単結合である場合には、上記式(a-2)で表される化合物は、2つのシクロヘキセン環が単結合で結合した構造を有する。
【0049】
R
5、R
6で示されるアルキル基としては、メチル、エチル、ブチル、イソブチル基等の直鎖状又は分岐鎖状のC
1-4アルキル基等を挙げることができる。
【0050】
R
6で示されるアルケニル基としては、例えば、ビニル、アリル、プロペニル、イソプロペニル、ブテニル基等のC
2-10アルケニル基等を挙げることができる。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、t−ブトキシ基等のC
1-10アルコキシ基等を挙げることができる。アルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル基等のC
1-10アルコキシカルボニル基等を挙げることができる。
【0051】
R
7で示される直鎖又は分岐鎖状アルキレン基(アルキリデン基も含む)としては、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジイル基等の直鎖又は分岐鎖状C
2-20アルキレン基(又はアルキリデン基)等を挙げることができる。
【0052】
また、p及びqは、同一又は異なって、0又は1以上の整数であり、なかでもp、qは1であることが好ましい。
【0053】
上記式(a-1)及び(a-2)で表される化合物としては、下記式(b-1)〜(b-9)で表される化合物等を挙げることができる。
【0055】
例えば、有機化合物として上記式(b-3)で表される化合物を用いると、下記式(c-3-1)で表されるジエポキシ体、及び下記式(c-3-2)で表されるモノエポキシ体が得られる。
有機化合物として上記式(b-6)で表される化合物を用いると、下記式(c-6)で表されるエポキシ化合物(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート)が得られる。
有機化合物として上記式(b-8)で表される化合物を用いると、下記式(c-8)で表されるエポキシ化合物が得られる。
有機化合物として上記式(b-9)で表される化合物を用いると、下記式(c-9)で表されるエポキシ化合物が得られる。
【0057】
本発明の酸化反応は、水/有機溶媒二相系で行われる。前記有機溶媒は、水性溶媒と分液可能である限り特に限定されず、被酸化物である有機化合物(オレフィン等)の種類に応じて適宜選択でき、例えば、シクロC
3-10アルカノール類(シクロプロパノール、シクロヘキサノール等)、鎖状エーテル類(ジメチルエーテル、ジエチルエーテル等)、ケトン類(メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル等の鎖状エステル)、炭化水素類(ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素類;トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類等)、ハロゲン化炭化水素類(クロロホルム、塩化メチレン、クロロベンゼン等)、フェノール類等を挙げることができる。上記有機溶媒は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの有機溶媒のうち、反応効率の観点から、芳香族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、脂環式炭化水素類が好ましく、特に、クロロベンゼン、トルエン、シクロヘキサンが好ましい。
【0058】
水性溶媒と有機溶媒との割合は、前者/後者(重量比)が、例えば0.005〜2.0程度、好ましくは0.01〜1.0、特に好ましくは0.03〜0.75である。また、水性溶媒の使用量は、有機化合物(オレフィン等)1重量部に対して、例えば0.01〜10重量部程度、好ましくは0.05〜5重量部、特に好ましくは0.1〜2重量部である。
【0059】
本発明の酸化反応は、例えば、有機化合物、相間移動触媒、オキソ酸触媒、及び溶媒を仕込んだ反応容器に過酸化水素を滴下することにより行うことができる。反応時間(若しくは、過酸化水素の滴下時間)は、例えば、0.1〜12時間程度である。滴下終了後は、例えば、0.5〜20時間程度熟成期間を設けてもよい。
【0060】
酸化反応中は反応系内のpHを、例えば3.0〜7.5程度(好ましくは3.5〜7.0)に調整することが好ましい。pHの調整には、例えば、リン酸水素二ナトリウム十二水和物、リン酸二水素ナトリウム二水和物等のリン酸塩等を、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0061】
反応温度(又は過酸化水素滴下時の反応系内の温度)は、例えば30〜70℃程度である。また、上記反応は、常圧下で行ってもよく、減圧下又は加圧下で行うこともできる。反応雰囲気は反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の何れであってもよい。
【0062】
(オキソ酸触媒の回収方法)
本発明のオキソ酸触媒の回収方法は、水/有機溶媒二相系において、過酸化水素により有機化合物を酸化する反応に使用したオキソ酸触媒の回収方法であって、下記工程を有することを特徴とする。
工程1:反応系内のpHを5.0以上に調整することによりオキソ酸触媒を水相に移行させ、有機相を除去する
【0063】
pHの調整には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化テトラメチルアンモニウム等の強塩基を使用することができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0064】
基質によって最適な反応条件は異なり、最適pHも異なるが、反応系内のpHが5未満ではオキソ酸触媒は水相と有機相の両方に存在するが、反応系内のpHを5.0以上(好ましくは5.0〜13.0、特に好ましくは9.0〜12.0)に調整することによりオキソ酸触媒を水溶性の塩に変換することができ、反応系内に存在する全オキソ酸触媒の85重量%以上(好ましくは90重量%以上)を水相へ移行させることができる。
【0065】
pH調整後、例えば0.5〜20時間程度(好ましくは1〜10時間)撹拌し、その後有機相を除去することが、反応系内に存在する全オキソ酸触媒の85重量%以上(好ましくは90重量%以上)を水相に回収することができる点で好ましい。pH調整後、有機相を除去するまでの時間が短すぎると、オキソ酸触媒の回収率が低下する傾向がある。
【0066】
また、オキソ酸触媒を水相に移行させる際の反応系内の温度は、例えば30〜70℃程度である。反応温度が上記範囲を上回ると、反応生成物が分解する傾向がある。一方、反応温度が上記範囲を下回ると、オキソ酸触媒の移行に時間がかかり、作業効率が低下する傾向がある。オキソ酸触媒を水相に移行させる際の反応系内の雰囲気は反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の何れであってもよい。
【0067】
反応生成物は反応系内のpHの変化に係わらず有機相に存在するため、反応系内のpHを上記範囲に調整してオキソ酸触媒を水相に移行させた後は、有機相を除去することによりオキソ酸触媒と反応生成物を分離することができ、水相にオキソ酸触媒を回収することができる。また、有機相を除去することにより、有機溶媒に溶解性を示す不純物を反応系内から除去することができ、有機溶媒に溶解性を示す不純物を含まない、精製されたオキソ酸触媒を水相に回収することができる。
【0068】
また、本発明のオキソ酸触媒の回収方法は、更に下記工程を有することが、有機溶媒に溶解性を示す不純物及び水に溶解性を示す不純物を含まない、精製されたオキソ酸触媒を回収することができる点で好ましい。
工程2:有機溶媒を添加して、水/有機溶媒二相系とする
工程3:反応系内のpHを5.0未満に調整し、相間移動触媒を添加することによりオキソ酸触媒を有機相に移行させ、水相を除去する
【0069】
工程2では、分液して除去した有機相に相等しい有機溶媒を添加して、水/有機溶媒二相系とすることが好ましい。
【0070】
工程3では、反応系内のpHを5.0未満(好ましくは4.8以下、より好ましくは4.8未満、特に好ましくは2.0〜4.5)に調整し、相間移動触媒を添加することによりオキソ酸触媒を有機相に移行させ、水相を除去する。水相を除去することにより、水に溶解性を示す不純物を反応系内から除去することができ、有機溶媒に溶解性を示す不純物及び水に溶解性を示す不純物を含まない、精製されたオキソ酸触媒を有機相に回収することができる。
【0071】
工程3において使用するpH調整剤としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸等の酸を使用することができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0072】
工程3におけるpH調整後、例えば0.5〜10時間程度(好ましくは1〜5時間)撹拌した後に、水相を除去することが好ましい。pH調整後、水相を除去するまでの時間が短すぎると、オキソ酸触媒の回収率が低下する傾向がある。
【0073】
また、工程3における反応系内の温度は、例えば50〜90℃程度である。反応温度を上記範囲より高く設定しても作業効率を促進する等の有利な効果は得られず、不経済となる傾向がある。一方、反応温度が上記範囲を下回ると、オキソ酸触媒の移動に時間がかかり、作業効率が低下する傾向がある。工程3における反応系内の雰囲気は反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の何れであってもよい。
【0074】
本発明のオキソ酸触媒の回収方法によれば、pH調整と分液操作のみの簡便な操作により反応に使用した全オキソ酸触媒の80重量%以上(好ましくは83重量%以上、特に好ましくは85重量%以上)を回収して再利用することができる。そのため、経済的に非常に有利であると共に、オキソ酸触媒の廃棄による環境への負荷を低減することができる。また、特に工程2、3を設けた場合は、水に溶解性を示す不純物及び有機溶媒に溶解性を示す不純物を含まず、優れた活性を有するオキソ酸触媒を回収することができ、水/有機溶媒二相系において、過酸化水素により有機化合物を酸化する反応に再利用した場合は、高収率且つ高選択率で目的化合物を得ることができる。
【0075】
(酸化物の製造方法)
本発明の酸化物の製造方法は、水/有機溶媒二相系において、過酸化水素により有機化合物を酸化する反応に使用したオキソ酸触媒を前記のオキソ酸触媒の回収方法によって回収し、回収されたオキソ酸触媒の存在下で有機化合物を過酸化水素により酸化して対応する酸化物を得ることを特徴とする。
【0076】
有機化合物を過酸化水素により酸化して得られる酸化物は有機相に存在する。酸化反応終了後は、反応系内のpHを5.0以上に調整することによりオキソ酸触媒を水相に移行させた後に分取した有機相を、例えば、濃縮、蒸留、抽出、クロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段に付すことにより酸化物を回収することができる。本発明においてはオキソ酸触媒を担体等に固定化することなく、高分散した状態で使用するため、担体等に固定化することによる触媒活性の低下を回避することができ、優れた触媒作用を発揮して高収率で酸化物を得ることができる。また、濾過処理や吸着処理を施すことなくオキソ酸触媒と反応生成物とを分離することができるため、前記処理による酸化物の回収率の低下を回避することができ、酸化物を効率よく回収することができる。
【0077】
本発明の酸化物の製造方法は、上記のように回収されたオキソ酸触媒を再利用するため、経済的に非常に有利であると共に、オキソ酸触媒の廃棄に伴う環境への負荷を低減することができる。また、本発明の酸化物の製造方法によれば、有機化合物の酸化物(例えば、エポキシ化合物等)を安価且つクリーンに製造することができる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。尚、金属タングステン量はタングステン純分としての値である。
【0079】
実施例1
(酸化反応:3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレートの合成)
窒素雰囲気下、100mL四つ口フラスコに、室温下、3−シクロヘキセニルメチル3'−シクロヘキセニルカルボキシレート(以後、「CMCC」と称する場合がある)(10.00g、45.4mmol)、69.6%塩化トリオクチルメチルアンモニウム(0.296g、0.510mmol)、タングステン酸ナトリウム二水和物(0.834g、2.527mmol)、リン酸水素二ナトリウム十二水和物(0.184g、0.514mmol)、85%リン酸(0.262g、2.27mmol)、トルエン(30.0g)、及び水(1.8g)を加えて反応系内のpHを6.2に調整した。その後、撹拌しながら60℃まで昇温し、35%過酸化水素水(13.06g、136.4mmol)を20分間かけて滴下し、6時間撹拌した。
有機相及び水相に含まれるタングステン量をICP発光分析で確認したところ、有機相には0.068g、水相には0.397g存在した。また、目的化合物(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート)は有機相に存在した(目的化合物10.20g、転化率:98.3%、選択率:90.4%、収率:88.9%)。
【0080】
(触媒回収:1回目)
窒素雰囲気下、反応終了後の系内に、5%水酸化ナトリウム水溶液(11.33g)を加えて反応系内のpHを11.7に調整し、撹拌しながら40℃まで昇温し、その後、40℃を維持しつつ6時間撹拌した。有機相、水相の金属タングステン量をICP発光分析で確認したところ、有機相には0.069g、水相には0.396g存在した。その後、分液し、有機相(38.2g)と水相(24.8g)を回収した。
窒素雰囲気下、回収した水相に69.6%塩化トリオクチルメチルアンモニウム(0.509g、0.879mmol)、トルエン(25.5g)、及び85%リン酸(2.18g)を加えて反応系内のpHを2.5に調整し、撹拌しながら80℃まで昇温し、その後、80℃を維持しつつ4時間撹拌した。その後、分液し、有機相(25.9g)と水相(25.5g)を回収した。有機相、水相の金属タングステン量をICP発光分析で確認したところ、有機相には0.388g、水相には0.008g存在した。有機相中に初期仕込み量の83%の金属タングステンを回収できた。
【0081】
(リサイクル触媒による酸化反応:1回目)
窒素雰囲気下、100mL四つ口フラスコに、室温下、触媒回収(1回目)で回収されたタングステン酸塩(タングステン純分として、0.388g)を含有する有機相(25.9g)、CMCC(8.31g、37.7mmol)、リン酸水素二ナトリウム十二水和物(1.49g、4.16mmol)、85%リン酸(0.213g、1.847mmol)、及び水(1.5g)を加えて反応系内のpHを5.9に調整した。その後、撹拌しながら60℃まで昇温し、35%過酸化水素水(10.83g、111.5mmol)を20分間かけて滴下し、その後、6時間撹拌した。有機相、水相の金属タングステン量をICP発光分析で確認したところ、有機相には0.169g、水相には0.219g存在した。また、目的化合物(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート)は有機相に存在した(目的化合物8.71g、転化率:98.4%、選択率:93.0%、収率:91.5%)。
【0082】
(触媒回収:2回目)
窒素雰囲気下、リサイクル触媒による酸化反応(1回目)の反応終了後の系内に、5%水酸化ナトリウム水溶液(14.57g)を加えて反応系内のpHを11.3に調整し、撹拌しながら40℃まで昇温し、その後、40℃を維持しつつ6時間撹拌した。有機相、水相の金属タングステン量をICP発光分析で確認したところ、有機相には0.048g、水相には0.340g存在した。その後、分液し、有機相(32.5g)と水相(27.4g)を回収した。
窒素雰囲気下、回収した水相に69.6%塩化トリオクチルメチルアンモニウム(0.471g、0.811mmol)、トルエン(22.7g)、及び85%リン酸(2.60g)を加え、反応系内のpHを2.7に調整し撹拌しながら80℃まで昇温し、その後、80℃を維持しつつ4時間撹拌した。その後、分液し、有機相(23.0g)と水相(28.9g)を回収した。
有機相、水相の金属タングステン量をICP発光分析で確認したところ、有機相には0.336g、水相には0.004g存在した。有機相中に初期仕込み量の87%の金属タングステンを回収できた。
【0083】
(リサイクル触媒による酸化反応:2回目)
窒素雰囲気下、100mL四つ口フラスコに、室温下、触媒回収(2回目)で回収されたタングステン酸塩(タングステン純分として、0.336g)を含有する有機相(23.0g)、CMCC(7.18g、32.6mmol)、リン酸水素二ナトリウム十二水和物(1.29g、3.60mmol)、85%リン酸(0.185g、1.605mmol)、及び水(1.3g)を加えて反応系内のpHを5.7に調整した。その後、撹拌しながら60℃まで昇温し、35%過酸化水素水(9.38g、96.5mmol)を20分間かけて滴下し、その後、6時間撹拌した。
有機相、水相の金属タングステン量をICP発光分析で確認したところ、有機相には0.156g、水相には0.180g存在した。また、目的化合物(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート)は有機相に存在した(目的化合物7.50g、転化率:100.0%、選択率:91.3%、収率:91.3%)。
【0084】
実施例2
(酸化反応:(3,4,3’,4’−ジエポキシ)ビシクロヘキシルの合成)
窒素雰囲気下、100mL四つ口フラスコに、室温下、ビシクロヘキシル−3,3’−ジエン(10.00g、61.6mmol)、69.6%塩化トリオクチルメチルアンモニウム(0.397g、0.684mmol)、タングステン酸ナトリウム二水和物(1.134g、3.438mmol)、リン酸水素二ナトリウム十二水和物(0.246g、0.687mmol)、85%リン酸(0.358g、3.105mmol)、トルエン(30.0g)、及び水(1.8g)を加えて反応系内のpHを6.2に調整した。その後、撹拌しながら55℃まで昇温し、35%過酸化水素水(17.71g、182.3mmol)を20分間かけて滴下し、その後、6時間撹拌した。有機相及び水相に含まれるタングステン量をICP発光分析で確認したところ、有機相には0.125g、水相には0.476g存在した。また、目的化合物((3,4,3’,4’−ジエポキシ)ビシクロヘキシル)は有機相に存在した(目的化合物11.02g、転化率:100.0%、選択率:91.9%、収率:91.9%)。
【0085】
(触媒回収:1回目)
窒素雰囲気下、反応終了後の系内に、5%水酸化ナトリウム水溶液(15.44g)を加えて反応系内のpHを11.4に調整し、撹拌しながら60℃まで昇温し、その後、60℃を維持しつつ2時間撹拌した。有機相、水相の金属タングステン量をICP発光分析で確認したところ、有機相には0.051g、水相には0.581g存在した。その後、分液し、有機相(39.9g)と水相(34.6g)を回収した。
窒素雰囲気下、回収した水相に69.6%塩化トリオクチルメチルアンモニウム(0.728g、1.254mmol)、トルエン(27.6g)、及び85%リン酸(2.70g)を加え、反応系内のpHを3.1に調整し、撹拌しながら80℃まで昇温し、その後、80℃を維持しつつ4時間撹拌した。その後、分液し、有機相(28.4g)と水相(35.8g)を回収した。
有機相、水相の金属タングステン量をICP発光分析で確認したところ、有機相には0.562g、水相には0.019g存在した。有機相中に初期仕込み量の89%の金属タングステンを回収できた。
【0086】
(リサイクル触媒による酸化反応:1回目)
窒素雰囲気下、100mL四つ口フラスコに、室温下、触媒回収1回目で回収されたタングステン酸塩(タングステン純分として、0.562g)を含有する有機相(28.4g)、ビシクロヘキシル−3,3’−ジエン(8.87g、54.7mmol)、リン酸水素二ナトリウム十二水和物(2.16g、6.02mmol)、85%リン酸(0.338g、2.932mmol)、及び水(1.6g)を加えて反応系内のpHを5.6に調整した。その後、撹拌しながら55℃まで昇温し、35%過酸化水素水(15.69g、161.5mmol)を20分間かけて滴下し、その後、6時間撹拌した。有機相、水相の金属タングステン量をICP発光分析で確認したところ、有機相には0.260g、水相には0.302g存在した。また、目的化合物((3,4,3’,4’−ジエポキシ)ビシクロヘキシル)は有機相に存在した(目的化合物10.35g、転化率:100.0%、選択率:97.5%、収率:97.5%)。
【0087】
(触媒回収:2回目)
窒素雰囲気下、リサイクル触媒による酸化反応(1回目)の反応終了後の系内に、5%水酸化ナトリウム水溶液(19.62g)を加えて反応系内のpHを11.3に調整し、撹拌しながら60℃まで昇温し、その後、60℃を維持しつつ2時間撹拌した。有機相、水相の金属タングステン量をICP発光分析で確認したところ、有機相には0.051g、水相には0.511g存在した。その後、分液し、有機相(34.6g)と水相(38.7g)を回収した。
窒素雰囲気下、回収した水相に69.6%塩化トリオクチルメチルアンモニウム(0.638g、1.099mmol)、トルエン(24.1g)、及び85%リン酸(2.70g)を加えて反応系内のpHを3.4に調整し、撹拌しながら80℃まで昇温し、その後、80℃を維持しつつ4時間撹拌した。その後、分液し、有機相(24.7g)と水相(40.2g)を回収した。
有機相、水相の金属タングステン量をICP発光分析で確認したところ、有機相には0.500g、水相には0.011g存在した。有機相中に金属タングステンを初期仕込み量の89%回収できた。
【0088】
(リサイクル触媒による酸化反応:2回目)
窒素雰囲気下、100mL四つ口フラスコに、室温下、触媒回収(2回目)で回収されたタングステン酸塩(タングステン純分として、0.500g)を含有する有機相(24.7g)、ビシクロヘキシル−3,3’−ジエン(7.88g、48.6mmol)、リン酸水素二ナトリウム十二水和物(1.92g、5.36mmol)、85%リン酸(0.279g、2.420mmol)、及び水(1.4g)を加えて反応系内のpHを5.6に調整した。その後、撹拌しながら55℃まで昇温し、35%過酸化水素水(13.95g、143.6mmol)を20分間かけて滴下し、その後、6時間撹拌した。有機相、水相の金属タングステン量をICP発光分析で確認したところ、有機相には0.210g、水相には0.290g存在した。また、目的化合物((3,4,3’,4’−ジエポキシ)ビシクロヘキシル)は有機相に存在した(目的化合物9.40g、転化率:100.0%、選択率:99.4%、収率:99.4%)。
【0089】
(触媒回収:3回目)
窒素雰囲気下、リサイクル触媒による酸化反応(2回目)の反応終了後の系内に、5%水酸化ナトリウム水溶液(15.05g)を加えて反応系内のpHを11.4に調整し、撹拌しながら60℃まで昇温し、その後、60℃を維持しつつ2時間撹拌した。有機相、水相の金属タングステン量をICP発光分析で確認したところ、有機相には0.051g、水相には0.449g存在した。その後、分液し、有機相(31.9g)と水相(30.6g)を回収した。
窒素雰囲気下、回収した水相に69.6%塩化トリオクチルメチルアンモニウム(0.583g、1.004mmol)、トルエン(21.2g)、及び85%リン酸(2.85g)を加え、反応系内のpHを2.5に調整し、撹拌しながら80℃まで昇温し、その後、80℃を維持しつつ4時間撹拌した。その後、分液し、有機相(21.7g)と水相(32.3g)を回収した。
有機相、水相の金属タングステン量をICP発光分析で確認したところ、有機相には0.449g、水相には0.000g存在した(水相には残存しなかった)。有機相中に初期仕込み量の90%の金属タングステンを回収できた。
【0090】
実施例3
(酸化反応:1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサンの合成)
窒素雰囲気下、100mL四つ口フラスコに、室温下、4−ビニルシクロヘキセン(10.00g、92.4mmol)、69.6%塩化トリオクチルメチルアンモニウム(0.305g、0.525mmol)、タングステン酸ナトリウム二水和物(0.853g、2.585mmol)、リン酸水素二ナトリウム十二水和物(0.183g、0.511mmol)、85%リン酸(0.270g、2.342mmol)、シクロヘキサン(30.0g)、及び水(1.8g)を加えて反応系内のpHを6.6に調整した。その後、撹拌しながら60℃まで昇温し、35%過酸化水素水(8.12g、83.6mmol)を20分間かけて滴下し、その後、1時間撹拌した。有機相、水相の金属タングステン量をICP発光分析で確認したところ、有機相には0.152g、水相には0.323g存在した。また、目的化合物(1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン)は有機相に存在した(目的化合物5.26g、転化率:51.4%、選択率:89.2%、収率:45.8%)。
【0091】
(触媒回収)
窒素雰囲気下、反応終了後の系内に5%水酸化ナトリウム水溶液(4.18g)を加えて反応系内のpHを9.5に調整し、撹拌しながら60℃まで昇温し、その後、60℃を維持しつつ2時間撹拌した。有機相、水相の金属タングステン量をICP発光分析で確認したところ、有機相には0.028g、水相には0.447g存在した。その後、分液し、有機相(38.4g)と水相(13.4g)を回収した。
窒素雰囲気下、回収した水相に69.6%塩化トリオクチルメチルアンモニウム(0.581g、1.00mmol)、シクロヘキサン(13.4g)、及び85%リン酸(0.86g)を加え、反応系内のpHを3.0に調整し、撹拌しながら60℃まで昇温し、その後、60℃を維持しつつ2時間撹拌するとオイルが沈殿した。その後、分液し、有機相(11.3g)と水相(12.5g)とオイル相(1.8g)を回収した。
有機相、水相、オイル相の金属タングステン量をICP発光分析で確認したところ、有機相には0.026g、水相には0.000g、オイル相には0.421g存在した。有機相とオイル相を合わせて、初期仕込み量の94%の金属タングステンを回収できた。
【0092】
(リサイクル触媒による酸化反応)
窒素雰囲気下、100mL四つ口フラスコに、室温下、前記触媒回収で回収されたタングステン酸塩(タングステン純分として、0.447g)を含有する有機相とオイル相(13.1g)、3−ビニルシクロヘキセン(9.42g、87.1mmol)、リン酸水素二ナトリウム十二水和物(1.72g、4.80mmol)、85%リン酸(0.270g、2.342mmol)、シクロヘキサン(15.1g)、及び水(1.7g)を加えて反応系内のpHを5.7に調整した。その後、撹拌しながら60℃まで昇温し、35%過酸化水素水(7.64g、78.6mmol)を20分間かけて滴下し、その後、1時間撹拌した。
有機相、水相の金属タングステン量をICP発光分析で確認したところ、有機相には0.238g、水相には0.208g存在した。また、目的化合物(1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン)は有機相に存在した(目的化合物5.83g、転化率:58.7%、選択率:91.9%、収率:53.9%)。
【0093】
実施例4
(酸化反応:3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレートの合成)
窒素雰囲気下、100mL四つ口フラスコに、室温下、CMCC(10.00g、45.4mmol)、1−n−セチルピリジニウムクロライド一水和物(0.173g、0.508mmol)、タングステン酸ナトリウム二水和物(0.834g、2.53mmol)、リン酸水素二ナトリウム十二水和物(0.180g、0.501mmol)、85%リン酸(0.264g、2.29mmol)、トルエン(30.0g)、及び水(1.8g)を加えて反応系内のpHを6.2に調整した。その後、撹拌しながら60℃まで昇温し、35%過酸化水素水(13.06g、136.4mmol)を1時間かけて滴下し、21時間撹拌した。
有機相及び水相に含まれるタングステン量をICP発光分析で確認したところ、有機相には0.030g、水相には0.434g存在した。また、目的化合物(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート)は有機相中に存在した(目的化合物4.36g、転化率:94.7%、選択率:40.1%、収率:38.0%)。
【0094】
(触媒回収)
窒素雰囲気下、反応終了液の系内に、5%水酸化ナトリウム水溶液(23.97g)を加えて反応系内のpHを12.0に調整し、撹拌しながら40℃まで昇温し、その後、40℃を維持しつつ5時間撹拌した。有機相、水相の金属タングステン量をICP発光分析で確認したところ、有機相には0.020g、水相には0.444g存在した。その後、分液し、有機相(39.9g)と水相(38.7g)を回収した。
窒素雰囲気下、回収した水相に1−n−セチルピリジニウムクロライド一水和物(0.340g、1.000mmol)、トルエン(25.5g)及び85%リン酸(3.4g)を加えて反応系内のpHを2.5に調整し、撹拌しながら80℃まで昇温し、その後、80℃を維持しつつ4時間撹拌した。その後、分液し、有機相(26.0g)と水相(41.9g)を回収した。有機相、水相の金属タングステン量をICP発光分析で確認したところ、有機相には0.422g、水相には0.022g存在した。有機相中に初期仕込み量の91%の金属タングステンを回収できた。