特許第6461085号(P6461085)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6461085虚血性組織を治療するためのSDF−1送達
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6461085
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】虚血性組織を治療するためのSDF−1送達
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20190121BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20190121BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20190121BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20190121BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20190121BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20190121BHJP
【FI】
   C12N15/113 120Z
   C12N15/113 ZZNA
   A61K9/08
   A61K47/36
   A61K48/00
   A61K31/7088
   A61P9/10
【請求項の数】21
【全頁数】59
(21)【出願番号】特願2016-503290(P2016-503290)
(86)(22)【出願日】2014年3月15日
(65)【公表番号】特表2016-515818(P2016-515818A)
(43)【公表日】2016年6月2日
(86)【国際出願番号】US2014029948
(87)【国際公開番号】WO2014145225
(87)【国際公開日】20140918
【審査請求日】2017年3月3日
(31)【優先権主張番号】61/794,742
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511152511
【氏名又は名称】ザ クリーブランド クリニック ファウンデーション
(73)【特許権者】
【識別番号】515251506
【氏名又は名称】ユベンタス セラピューティクス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ペン,マーク,エス.
(72)【発明者】
【氏名】アラス,ラフル
(72)【発明者】
【氏名】パストーレ,ジョセフ
(72)【発明者】
【氏名】ミラー,ティモシー,ジェー.
【審査官】 植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−503202(JP,A)
【文献】 Gene Therapy,2012年,vol.19,pp.583-587
【文献】 Gene Therapy,2011年,vol.18,pp.867-873
【文献】 Juventas therapeutics initiating phase II clinical trial of JVS-100 for treatment of critical limb ischemia,2011年,[online],[平成29年12月21日検索],URL,https://www.tctmd.com/news/juventas-therapeutics-initiating-phase-ii-clinical-trial-jvs-100-treatment-critical-limb
【文献】 Circulation Research,2013年 3月 1日,vol.112,pp.816-825
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
PubMed
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号6の配列を有するポリヌクレオチドを含むSDF−1プラスミド。
【請求項2】
請求項1に記載のSDF−1プラスミドと、医薬的に許容され得る担体と、を含む製剤。
【請求項3】
前記製剤が注射可能である、請求項2に記載の製剤。
【請求項4】
前記医薬的に許容され得る担体が5%デキストロースである、請求項3に記載の注射可能な製剤。
【請求項5】
.33mg/ml〜5mg/mlの前記SDF−1プラスミドを含む、請求項4に記載の注射可能な製剤。
【請求項6】
mg/mlの前記SDF−1プラスミドを含む、請求項5に記載の注射可能な製剤。
【請求項7】
mg/mlの前記SDF−1プラスミドを含む、請求項5に記載の注射可能な製剤。
【請求項8】
患者の虚血状態を治療するための請求項2から7のいずれか一項に記載の製剤
【請求項9】
前記虚血状態が虚血性心筋症である、請求項8に記載の製剤
【請求項10】
前記治療が、患者の心臓の弱くなった、虚血性および/または梗塞周囲の領域に前記製剤を投与することを含む、請求項9に記載の製剤
【請求項11】
患者の心臓の弱くなった、虚血性および/または梗塞周囲の領域に投与されるSDF−1プラスミドの量4mgより多い、請求項10に記載の製剤
【請求項12】
接的な注射によって患者の心臓の弱くなった、虚血性および/または梗塞周囲の領域に投与される、請求項10または11に記載の製剤
【請求項13】
前記製剤は少なくとも10回の注射で投与され、各注射の容積は少なくとも0.2mlである、請求項12に記載の製剤
【請求項14】
投与される前記製剤の合計量は少なくとも10mlである、請求項13に記載の製剤
【請求項15】
テーテルを介して投与される、請求項9から14のいずれか一項に記載の製剤
【請求項16】
前記カテーテルが血管内カテーテルまたは心筋内カテーテルである、請求項15に記載の製剤
【請求項17】
前記虚血状態が重症虚血肢である、請求項8に記載の製剤
【請求項18】
接的な筋肉内注射によって患者の罹患した肢に投与される、請求項17に記載の製剤
【請求項19】
前記製剤は5〜20回の注射で投与され、各注射の容積は少なくとも1.0mlである、請求項18に記載の製剤
【請求項20】
投与されるSDF−1プラスミドの量〜20mgである、請求項19に記載の製剤
【請求項21】
投与が3回まで繰り返され、投与はそれぞれ、2週間の期間があけられる、請求項17〜20のいずれか一項に記載の製剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2013年3月15日に出願された米国特許仮出願第61/794,742号の利益を主張し、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本出願は、心筋症を治療するためのSDF−1送達方法および組成物、および虚血性心筋症を治療するためのSDF−1送達方法および組成物の使用に関する。本出願は、さらに、重症虚血肢を治療するためのSDF−1送達方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
虚血は、体内の局所的な部分において、血流が完全に妨げられるか、またはかなり低下する状態であり、無酸素症、物質供給量の低下および代謝物の蓄積を引き起こす。虚血度は、血管閉塞の急性度、その持続期間、それに対する組織感受性、および側副血管の成長の程度によって変わるが、通常は、虚血性の臓器または組織で機能障害が起こり、長期間にわたる虚血は、患部組織の萎縮、変性、アポトーシス、壊死を引き起こす。
【0004】
虚血性心筋症(冠状動脈が影響を受け、心筋虚血を引き起こす疾患である)において、虚血性心筋細胞の傷害の程度は、冠状動脈の閉塞の時間が長くなるにつれて、可逆的な細胞損傷から不可逆的な細胞損傷へと進行する。
【0005】
重症虚血肢(CLI)は、アテローム性の下肢末梢血管疾患(PVD)の最も進行した段階を表し、高い割合の心血管罹患率、死亡率および大切断術と関係がある。CLIの発生は、米国で1年に125,000〜250,000人の患者がいると概算されており、集団の年齢が上がるにつれて増えていくと予想される。PVDの有病率は、年齢に伴い顕著に増加し、65歳以上の米国人の約20%が罹患している。CLI個人のための現代の看護標準は、周囲を開く外科手術、血管内技術のいずれかによる下肢血管再生、または下肢切断(すなわち、血管再生が失敗したか、または実行可能ではない場合)を含む。CLI患者の1年死亡率は、25%であり、切断術を受けた患者の場合には45%まで高くなる場合がある。血管手技および手術の技術が進化しているにもかかわらず、CLI患者のかなりの割合が、血管再生に適していない。これらの患者の中で、CLI患者の20〜30%のみが治療を受け、30%が、大切断術を必要とし、23%が3ヶ月以内に亡くなっている。
【0006】
遮断された血管を開くか、または血管新生を刺激するための遺伝子治療戦略は、精力的に研究されている。大切断術を受けることが計画されていたCLI患者6例の治験において、患者は、切断術の3〜5日前に、線維芽細胞成長因子1(FGF1)を発現する非ウイルス性遺伝子治療であるNV1FGFを摂取するように割り当てられた。NV1FGFを、0.4〜4mgの投薬量で8箇所の筋肉内部位に投与した。この治験は、すべての投薬量で、注射部位から3cmまでにFGF1導入遺伝子発現を示し、血管に広がったプラスミドは、すばやく分解されたことを示す。米国で実施された多施設での第II相の二重盲検プラセボ比較試験(TALISMAN202)において、CLI患者71例を、プラセボまたは2〜16mgのNV1FGFを患部の肢に8回筋肉内注射することによって投与する5種類の治療計画を受けるように割り当てた。この治験は、16mgまでの筋肉内NV1FGFが安全であり、忍容性が良好であることを示した。TcPO2のプライマリーエンドポイントは、NV1FGFで治療した患者およびプラセボで治療した患者の両方でベースラインより上に増加したが、NV1FGFで治療した患者における潰瘍治癒は向上しなかった。同様に、Nikolらは、NV1FGF患者125例の無作為の二重盲検プラセボ比較試験において、NV1FGFは、すべての切断術、肢大切断術の危険性を有意に(2分の1に)下げ、死亡リスクを下げる傾向があったことを示した。これらの臨床治験は、本願発明者等が提案した臨床治験と同様の裸のプラスミドDNA治療の安全自由度を示す。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本出願は、被検者における心筋症を治療する方法に関する。心筋症としては、例えば、肺塞栓、静脈血栓、心筋梗塞、一時的な虚血性発作、末梢血管障害、アテローム性動脈硬化、および/または他の心筋損傷または血管の疾患に関連する心筋症を挙げることができる。この方法は、左心室の容積、左心室の面積、左心室の寸法、心機能、6分間歩行試験(6MWT)、またはNew York Heart Association(NYHA)機能分類のパラメータの少なくとも1つにおいて、被検者の心筋組織の弱くなった、虚血性および/または梗塞周囲の領域に、機能改善させるのに有効な量のSDF−1を直接投与するか、または局所的に発現することを含む。
【0008】
本出願のある態様では、弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与されるSDF−1の量は、左心室の収縮終期容量、左心室の駆出率、壁運動スコア指数、左心室の拡張末期の長さ、左心室の収縮終期の長さ、左心室の拡張末期の面積、左心室の収縮終期の面積、左心室の収縮終期容量、6分間歩行試験(6MWT)、またはNew York Heart Association(NYHA)機能分類の少なくとも1つにおいて機能改善させるのに有効である。本出願の別の態様では、弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与されるSDF−1の量は、左心室の収縮終期容量を向上させるのに有効である。本出願のさらなる態様では、弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与されるSDF−1の量は、左心室の駆出率を向上させるのに有効である。
【0009】
本出願のいくつかの態様では、弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与されるSDF−1の量は、左心室の収縮終期容量を少なくとも約10%向上させるのに有効である。本出願の他の態様では、弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与されるSDF−1の量は、左心室の収縮終期容量を少なくとも約15%向上させるのに有効である。本出願のなおさらなる態様では、弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与されるSDF−1の量は、左心室の収縮終期容量を少なくとも約10%向上させ、左心室の駆出率を少なくとも約10%向上させ、壁運動スコア指数を少なくとも約5%向上させ、6分間歩行距離を少なくとも約30メートル向上させ、NYHA分類を少なくとも1分類向上させるのに有効である。本出願のさらなる態様では、弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与されるSDF−1の量は、左心室の駆出率を少なくとも約10%向上させるのに有効である。
【0010】
本出願の別の態様では、弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与されるSDF−1の量は、血管密度に基づき、または心筋血流イメージング(例えば、SPECTまたはPET)によって測定された、弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域の脈管形成を少なくとも約20%、実質的に向上させ、安静時の欠損スコア、負荷時の欠損スコアを向上させ、および/または欠損スコアの差が少なくとも約10%になるのに有効である。弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域内でSDF−1を発現し、弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域からSDF−1を発現するプラスミドを含む溶液を注射することによって、SDF−1を投与することができる。弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域から、左心室の収縮終期容量を向上させるのに有効な量でSDF−1を発現させることができる。
【0011】
本出願のある態様では、約0.33mg/ml〜約5mg/mlのSDF−1プラスミド溶液をそれぞれ含む注射液を用い、溶液を複数回注射し、SDF−1プラスミドを弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与してもよい。一例において、SDF−1プラスミドを少なくとも約10回の注射で弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与してもよい。弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与されるそれぞれの注射液は、容積が少なくとも約0.2mlであってもよい。SDF−1は、弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域で、約3日間よりも長く発現してもよい。
【0012】
一例となる用途では、SDF−1を発現するプラスミドを含む溶液の各注射液は、注射容積が少なくとも約0.2ml、注射液あたりのSDF−1プラスミド濃度が、約0.33mg/ml〜5mg/mlであってもよい。この用途の別の態様では、心臓の少なくとも1つの機能パラメータは、部位あたりの注射容積が少なくとも約0.2mlで、少なくとも約10箇所の注射部位に、注射液あたりのSDF−1プラスミド濃度が約0.33mg/ml〜約5mg/mlで、心臓の弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域にSDF−1プラスミドを注射することによって向上させることができる。
【0013】
さらなる例では、心臓の少なくとも1つの機能パラメータを向上させることができる、弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与されたSDF−1プラスミドの量は、約4mgより多い。心臓の少なくとも1つの機能パラメータを向上させることができる、弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与されたSDF−1プラスミドの量は、少なくとも約10mlである。
【0014】
本出願の別の態様では、SDF−1が投与される被検者は、大きな哺乳動物、例えば、ヒトまたはブタであってもよい。SDF−1プラスミドは、カテーテル法、例えば、冠内カテーテル法または心室内カテーテル法によって被検者に投与されてもよい。SDF−1プラスミドを投与する前に、被検者の心筋組織をイメージングし、弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域の領域を確定してもよく、SDF−1プラスミドを、イメージングによって確定された、弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与してもよい。イメージングは、超音波心臓検査、磁気共鳴イメージング、冠血管造影、磁気立体マッピング法、または蛍光板透視のうち、少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0015】
本出願は、カテーテル法、例えば、冠内カテーテル法または心室内カテーテル法によって、哺乳動物の心筋の梗塞周囲の領域にSDF−1プラスミドを投与することによる、大きな哺乳動物の心筋梗塞を治療する方法にも関する。カテーテル法によって投与されるSDF−1は、左心室の容積、左心室の面積、左心室の寸法、心機能、6分間歩行試験(6MWT)、またはNew York Heart Association(NYHA)機能分類の少なくとも1つにおいて機能改善させるために有効な量で、梗塞周囲の領域から発現することができる。
【0016】
本出願のある態様では、梗塞周囲領域に投与されるSDF−1の量は、左心室の収縮終期容量、左心室の駆出率、壁運動スコア指数、左心室の拡張末期の長さ、左心室の収縮終期の長さ、左心室の拡張末期の面積、左心室の収縮終期の面積、左心室の収縮終期容量、6分間歩行試験(6MWT)、またはNew York Heart Association(NYHA)機能分類の少なくとも1つにおいて機能改善させるのに有効である。
【0017】
本出願の別の態様では、梗塞周囲の領域に投与されるSDF−1の量は、左心室の収縮終期容量を向上させるのに有効である。本出願のさらなる態様では、弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与されるSDF−1の量は、左心室の駆出率を向上させるのに有効である。
【0018】
本出願のいくつかの態様では、梗塞周囲の領域に投与されるSDF−1の量は、左心室の収縮終期容量を少なくとも約10%向上させるのに有効である。本出願の他の態様では、梗塞周囲の領域に投与されるSDF−1の量は、左心室の収縮終期容量を少なくとも約15%向上させるのに有効である。本出願のなおさらなる態様では、梗塞周囲の領域に投与されるSDF−1の量は、左心室の収縮終期容量を少なくとも約10%向上させ、左心室の駆出率を少なくとも約10%向上させ、壁運動スコア指数を少なくとも約5%向上させ、6分間歩行距離を少なくとも約30メートル向上させ、NYHA分類を少なくとも1分類向上させるのに有効である。本出願のさらなる態様では、弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与されるSDF−1の量は、左心室の駆出率を少なくとも約10%向上させるのに有効である。
【0019】
本出願の別の態様では、梗塞周囲の領域に投与されるSDF−1の量は、血管密度に基づき、梗塞周囲の領域の脈管形成を少なくとも約20%、実質的に向上させるのに有効である。
【0020】
本出願のある態様では、約0.33mg/ml〜約5mg/mlのSDF−1プラスミド溶液をそれぞれ含む注射液を用い、溶液を複数回注射し、SDF−1プラスミドを弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与してもよい。一例において、SDF−1プラスミドを少なくとも約10回の注射で弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与してもよい。弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与された各注射液は、容積が少なくとも約0.2mlであってもよい。SDF−1は、弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域内で、約3日間より長い間発現することができる。
【0021】
一例となる用途では、SDF−1を発現するプラスミドを含む溶液の各注射液は、注射容積が少なくとも約0.2ml、注射液あたりのSDF−1プラスミド濃度が、約0.33mg/ml〜5mg/mlであってもよい。この用途の別の態様では、心臓の少なくとも1つの機能パラメータは、部位あたりの注射容積が少なくとも約0.2mlで、少なくとも約10箇所の注射部位に、注射液あたりのSDF−1プラスミド濃度が約0.33mg/ml〜約5mg/mlで、心臓の弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域にSDF−1プラスミドを注射することによって向上させることができる。
【0022】
さらなる例では、心臓の少なくとも1つの機能パラメータを向上させることができる、弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与されたSDF−1プラスミドの量は、約4mgより多い。心臓の少なくとも1つの機能パラメータを向上させることができる、弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与されたSDF−1プラスミドのの溶液の体積は、少なくとも約10mlである。
【0023】
本出願は、さらに、心筋梗塞後に大きな哺乳動物の左心室の収縮終期容量を向上させる方法に関する。この方法は、心室内カテーテル法によって哺乳動物の梗塞周囲の領域にSDF−1プラスミドを投与することを含む。SDF−1は、左心室の収縮終期容量を機能改善させるのに有効な量で、梗塞周囲の領域から発現することができる。
【0024】
本出願のいくつかの態様では、梗塞周囲の領域に投与されるSDF−1の量は、左心室の収縮終期容量を少なくとも約10%向上させるのに有効である。本出願の他の態様では、梗塞周囲の領域に投与されるSDF−1の量は、左心室の収縮終期容量を少なくとも約15%向上させるのに有効である。本出願のなおさらなる態様では、梗塞周囲の領域に投与されるSDF−1の量は、左心室の収縮終期容量を少なくとも約10%向上させ、左心室の駆出率を少なくとも約10%向上させ、壁運動スコア指数を少なくとも約5%向上させ、6分間歩行距離を少なくとも約30メートル向上させ、NYHA分類を少なくとも1分類向上させるのに有効である。
【0025】
本出願のある態様では、約0.33mg/ml〜約5mg/mlのSDF−1プラスミド溶液をそれぞれ含む注射液を用い、溶液を複数回注射し、SDF−1プラスミドを弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与してもよい。一例において、SDF−1プラスミドを少なくとも約10回の注射で弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与してもよい。弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与された各注射液は、容積が少なくとも約0.2mlであってもよい。SDF−1は、弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域内で、約3日間より長い間発現することができる。
【0026】
一例となる用途では、SDF−1を発現するプラスミドを含む溶液の各注射液は、注射容積が少なくとも約0.2ml、注射液あたりのSDF−1プラスミド濃度が、約0.33mg/ml〜5mg/mlであってもよい。この用途の別の態様では、左心室の収縮終期容量は、部位あたりの注射容積が少なくとも約0.2mlで、少なくとも約10箇所の注射部位に、注射液あたりのSDF−1プラスミド濃度が約0.33mg/ml〜約5mg/mlで、心臓の弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域にSDF−1プラスミドを注射することによって約10%向上させることができる。
【0027】
さらなる例では、心臓の左心室の収縮終期容量を向上させることができる、弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与されたSDF−1プラスミドの量は、約4mgより多い。心臓の左心室の収縮終期容量を向上させることができる、弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与されたSDF−1プラスミドの量は、少なくとも約10mlである。
【0028】
本出願は、さらに、検者における重症虚血肢を治療する方法に関する。この方法は、滅菌した生物学的製品(配列番号6のヌクレオチド配列を有するプラスミド、ヒトSDF−1 cDNAをコードする裸のDNAプラスミド、および5%デキストロースで構成される)であるACRX−100(JVS−100としても知られる)を、直接的な注射によって虚血性の肢に投与することを含む。好ましくは、注射は、複数の注射部位を用い、筋肉組織に、例えば、上側の肢(四頭筋)および/または下側の肢(主に腓腹筋)に直接行われる。このプラスミドの配列を以下に示す。
【0029】
ACRX−100で使用されるプラスミドの配列(aka JVS−100)
AGATCTCCTAGGGAGTCCGTTACATAACTTACGGTAAATGGCCCGCCTGGCTGACCGCCCAACGACCCCCGCCCATTGACGTCAATAATGACGTATGTTCCCATAGTAACGCCAATAGGGACTTTCCATTGACGTCAATGGGTGGAGTATTTACGGTAAACTGCCCACTTGGCAGTACATCAAGTGTATCATATGCCAAGTACGCCCCCTATTGACGTCAATGACGGTAAATGGCCCGCCTGGCATTATGCCCAGTACATGACCTTATGGGACTTTCCTACTTGGCAGTACATCTACGTATTAGTCATCGCTATTACCATGGTGATGCGGTTTTGGCAGTACATCAATGGGCGTGGATAGCGGTTTGACTCACGGGGATTTCCAAGTCTCCACCCCATTGACGTCAATGGGAGTTTGTTTTGGCACCAAAATCAACGGGACTTTCCAAAATGTCGTAACAACTCCGCCCCATTGACGCAAATGGGCGGTAGGCGTGTACGGTGGGAGGTCTATATAAGCAGAGCTCGTTTAGTGAACCGTCAGATCGCCTGGAGACGCCATCCACGCTGTTTTGACCTCCATAGAAGACACCGGGACCGATCCAGCCTCCGCGGCCGGGAACGGTGCATTGGAACGCGGATTCCCCGTGCCAAGAGTGACGTAAGTACCGCCTATAGAGTCTATAGGCCCACCCCCTTGGCTTCTTATGCATGCTATACTGTTTTTGGCTTGGGGTCTATACACCCCCGCTTCCTCATGTTATAGGTGATGGTATAGCTTAGCCTATAGGTGTGGGTTATTGACCATTATTGACCACTCCCCTATTGGTGACGATACTTTCCATTACTAATCCATAACATGGCTCTTTGCCACAACTCTCTTTATTGGCTATATGCCAATACACTGTCCTTCAGAGACTGACACGGACTCTGTATTTTTACAGGATGGGGTCTCATTTATTATTTACAAATTCACATATACAACACCACCGTCCCCAGTGCCCGCAGTTTTTATTAAACATAACGTGGGATCTCCACGCGAATCTCGGGTACGTGTTCCGGACATGGGCTCTTCTCCGGTAGCGGCGGAGCTTCTACATCCGAGCCCTGCTCCCATGCCTCCAGCGACTCATGGTCGCTCGGCAGCTCCTTGCTCCTAACAGTGGAGGCCAGACTTAGGCACAGCACGATGCCCACCACCACCAGTGTGCCGCACAAGGCCGTGGCGGTAGGGTATGTGTCTGAAAATGAGCTCGGGGAGCGGGCTTGCACCGCTGACGCATTTGGAAGACTTAAGGCAGCGGCAGAAGAAGATGCAGGCAGCTGAGTTGTTGTGTTCTGATAAGAGTCAGAGGTAACTCCCGTTGCGGTGCTGTTAACGGTGGAGGGCAGTGTAGTCTGAGCAGTACTCGTTGCTGCCGCGCGCGCCACCAGACATAATAGCTGACAGACTAACAGACTGTTCCTTTCCATGGGTCTTTTCTGCAGTCACCGTCCTTGCCATCGGTGACCACTAGTGGCTCGCATCTCTCCTTCACGCGCCCGCCGCCCTACCTGAGGCCGCCATCCACGCCGGTTGAGTCGCGTTCTGCCGCCTCCCGCCTGTGGTGCCTCCTGAACTGCGTCCGCCGTCTAGGTAAGTTTAAAGCTCAGGTCGAGACCGGGCCTTTGTCCGGCGCTCCCTTGGAGCCTACCTAGACTCAGCCGGCTCTCCACGCTTTGCCTGACCCTGCTTGCTCAACTCTACGTCTTTGTTTCGTTTTCTGTTCTGCGCCGTTACAGATCGGTACCAAGCTTGCCACCACCATGAACGCCAAGGTCGTGGTCGTGCTGGTCCTCGTGCTGACCGCGCTCTGCCTCAGCGACGGGAAGCCCGTCAGCCTGAGCTACAGATGCCCATGCCGATTCTTCGAAAGCCATGTTGCCAGAGCCAACGTCAAGCATCTCAAAATTCTCAACACCCCAAACTGTGCCCTTCAGATTGTAGCCCGGCTGAAGAACAACAACAGACAAGTGTGCATTGACCCGAAGCTAAAGTGGATTCAGGAGTACCTGGAGAAAGCCTTAAACAAGTAATCTAGAGGGCCCTATTCTATAGTGTCACCTAAATGCTAGAGCTCGCTGATCAGCCTCGACTGTGCCTTCTAGTTGCCAGCCATCTGTTGTTTGCCCCTCCCCCGTGCCTTCCTTGACCCTGGAAGGTGCCACTCCCACTGTCCTTTCCTAATAAAATGAGGAAATTGCATCGCATTGTCTGAGTAGGTGTCATTCTATTCTGGGGGGTGGGGTGGGGCAGGACAGCAAGGGGGAGGATTGGGAAGACAATAGCAGGCATGCTGGGGATGCGGTGGGCTCTATGGCTTCTGAGGCGGAAAGAACCAGGGCCGCGGTGGCCATCATGACCAAAATCCCTTAACGTGAGTTTTCGTTCCACTGAGCGTCAGACCCCGTAGAAAAGATCAAAGGATCTTCTTGAGATCCTTTTTTTCTGCGCGTAATCTGCTGCTTGCAAACAAAAAAACCACCGCTACCAGCGGTGGTTTGTTTGCCGGATCAAGAGCTACCAACTCTTTTTCCGAAGGTAACTGGCTTCAGCAGAGCGCAGATACCAAATACTGTTCTTCTAGTGTAGCCGTAGTTAGGCCACCACTTCAAGAACTCTGTAGCACCGCCTACATACCTCGCTCTGCTAATCCTGTTACCAGTGGCTGCTGCCAGTGGCGATAAGTCGTGTCTTACCGGGTTGGACTCAAGACGATAGTTACCGGATAAGGCGCAGCGGTCGGGCTGAACGGGGGGTTCGTGCACACAGCCCAGCTTGGAGCGAACGACCTACACCGAACTGAGATACCTACAGCGTGAGCTATGAGAAAGCGCCACGCTTCCCGAAGGGAGAAAGGCGGACAGGTATCCGGTAAGCGGCAGGGTCGGAACAGGAGAGCGCACGAGGGAGCTTCCAGGGGGAAACGCCTGGTATCTTTATAGTCCTGTCGGGTTTCGCCACCTCTGACTTGAGCGTCGATTTTTGTGATGCTCGTCAGGGGGGCGGAGCCTATGGAAAAACGCCAGCAACGCGGCCTTTTTACGGTTCCTGGCCTTTTGCTGGCCTTTTGCTCACATGAATTCAGAAGAACTCGTCAAGAAGGCGATAGAAGGCGATGCGCTGCGAATCGGGAGCGGCGATACCGTAAAGCACGAGGAAGCGGTCAGCCCATTCGCCGCCAAGCTCTTCAGCAATATCACGGGTAGCCAACGCTATGTCCTGATAGCGGTCCGCCACACCCAGCCGGCCACAGTCGATGAATCCAGAAAAGCGGCCATTTTCCACCATGATATTCGGCAAGCAGGCATCGCCATGGGTCACGACGAGATCCTCGCCGTCGGGCATGCTCGCCTTGAGCCTGGCGAACAGTTCGGCTGGCGCGAGCCCCTGATGCTCTTCGTCCAGATCATCCTGATCGACAAGACCGGCTTCCATCCGAGTACGTGCTCGCTCGATGCGATGTTTCGCTTGGTGGTCGAATGGGCAGGTAGCCGGATCAAGCGTATGCAGCCGCCGCATTGCATCAGCCATGATGGATACTTTCTCGGCAGGAGCAAGGTGAGATGACAGGAGATCCTGCCCCGGCACTTCGCCCAATAGCAGCCAGTCCCTTCCCGCTTCAGTGACAACGTCGAGCACAGCTGCGCAAGGAACGCCCGTCGTGGCCAGCCACGATAGCCGCGCTGCCTCGTCTTGCAGTTCATTCAGGGCACCGGACAGGTCGGTCTTGACAAAAAGAACCGGGCGCCCCTGCGCTGACAGCCGGAACACGGCGGCATCAGAGCAGCCGATTGTCTGTTGTGCCCAGTCATAGCCGAATAGCCTCTCCACCCAAGCGGCCGGAGAACCTGCGTGCAATCCATCTTGTTCAATCATGCGAAACGATCCTCATCCTGTCTCTTGATC (SEQ ID NO:6)
【図面の簡単な説明】
【0030】
本出願の上の特徴および他の特徴は、添付の図面を参照しつつ、以下の記載を飲めば、本出願に関連する当業者に明らかになるだろう。
図1】ブタモデルにおけるDNAの量および容積を変えるためのルシフェラーゼ発現を示す図である。
図2】SDF−1注射から30日後の鬱血性心不全ブタモデルを用い、種々の量のSDF−1プラスミドについて、左心室の収縮終期容量の変化率%を示す図である。
図3】SDF−1注射から30日後の鬱血性心不全ブタモデルを用い、種々の量のSDF−1プラスミドについて、左心室の駆出率の変化率%を示す図である。
図4】SDF−1注射から30日後の鬱血性心不全ブタモデルを用い、種々の量のSDF−1プラスミドについて、壁運動スコア指数の変化率%を示す図である。
図5】SDF−1注射から90日後の鬱血性心不全ブタモデルを用い、種々の量のSDF−1プラスミドについて、左心室の収縮終期容量の変化率%を示す図である。
図6】SDF−1注射から30日後の鬱血性心不全ブタモデルを用い、種々の量のSDF−1プラスミドについて、血管密度の変化率%を示す図である。
図7】SDF−1プラスミドベクターの模式図である。
図8】ブタの心臓の重要な部分にわたるプラスミド発現を示す画像である。
図9】ベースラインおよび最初の注射から30日後の左心室の収縮終期容量を示す図である。すべての群は、30日目に左心室の収縮終期容量の同様の増加を示す。すべてのデータ点について、N=3。データを平均±SEMとして表した。
図10】ベースラインおよび最初の注射から30日後の左心室の駆出率を示す図である。すべての群は、左心室の駆出率の向上が見られないことを示す。すべてのデータ点について、N=3。データを平均±SEMとして表した。
図11】注射から3日後の虚血性ラット肢におけるルシフェラーゼ発現の画像(A)、およびげっ歯類HLIモデル(B)におけるACRX−100ベクター発現の時間経過の図である。
図12】ACL−01110LルシフェラーゼプラスミドDNAを注射して3日後のウサギ後肢筋肉の生物発光の画像である。
図13】ウサギ後肢におけるACL−01110L投薬パラメータの図である。
図14】ベースライン(AおよびC)およびACRX−100注射から30日後(BおよびD)の虚血性ウサギ後肢の血管造影図およびスコアリングの一例である。
図15】群あたりコントロールに対して正規化された、ACRX−100を注射してから30日後および60日後の血管造影スコアの変化率の図である。
図16】心内注射後のACRX−100生体分布の図である。
図17】虚血性傷害後のSDF−1発現とCXCR4発現との関係の図である。CXCR4は、SDF−1の主な受容体である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
他の意味であると定義されていない限り、本明細書で用いられるあらゆる技術用語および科学用語は、本出願が属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書の開示全体について言及されるあらゆる特許、特許明細書、公開された明細書および刊行物、Genbank配列、ウェブサイトおよび他の公開された材料は、他の意味であると示されていない限り、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書の用語について複数の定義が存在する場合には、この章の定義が優先する。他の意味であると定義されていない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語は、本出願が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されている意味と同一の意味を有する。分子生物学の用語について一般的に理解されている定義は、例えば、Rieger et al、Glossary of Genetics:Classical and Molecular、第5版、SpringerVerlag:New York、1991およびLewin、Genes V、Oxford University Press:New York、1994中に見出すことができる。
【0032】
従来の分子生物学の技術を含む方法が、本明細書に記載される。このような技術は、一般的に当該技術分野で知られており、方法論の論文、例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、vol.1〜3、Sambrook et al.編集、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.、1989;およびCurrent Protocols in Molecular Biology、Ausubel et al.編集、Greene Publishing and Wiley−Interscience、New York、1992(周期的な更新を伴う)に記載される。核酸を化学合成するための方法は、例えば、Beaucage and Carruthers、Tetra.Letts.22:1859〜1862、1981、およびMatteucci et al、J.Am.Chern.Soc.103:3185、1981に記載される核酸の化学合成は、市販の自動化オリゴヌクレオチド合成機で行うことができる。免疫学的方法(例えば、抗原特異的な抗体の調製、免疫学的および免疫ブロッティング)は、例えば、Current Protocols in Immunology、Coligan et al編集、John Wiley & Sons、New York、1991;およびMethods of Immunological Analysis、Masseyeff et al編集、John Wiley & Sons、New York、1992に記載される。従来の遺伝子導入および遺伝子治療の方法も、本出願で使用するために適合させることもできる。例えば、Gene Therapy:Principles and Applications、T.Blackenstein編集、Springer Verlag、1999;Gene Therapy Protocols(Methods in Molecular Medicine)、P.D.Robbins編集、Humana Press、1997;およびRetro−vectors for Human Gene Therapy、C.P.Hodgson編集、Springer Verlag、1996を参照。
【0033】
URLまたは他のこのような識別子またはアドレスを参照する場合、このような識別子は、変更することができ、インターネット上の特定の情報を行ったり来たりすることができるが、インターネットを検索することによって同等の情報を見つけることができる。これらの言及は、このような情報の入手可能性および公共への配布を実証する。
【0034】
本明細書で使用する場合、ACRX−100は、配列番号6のヌクレオチド配列を有するプラスミド、ヒトSDF−1 cDNAをコードする裸のDNAプラスミド、および5%デキストロースで構成される滅菌生体産物である。(ACRX−100は、本明細書でJVS−100と呼ばれることもある。)
【0035】
本明細書で使用する場合、「核酸」は、少なくとも2つの共有結合したヌクレオチドまたはヌクレオチドアナログサブユニットを含有するポリヌクレオチドを指す。核酸は、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、またはDNAまたはRNAのアナログであってもよい。ヌクレオチドアナログは、市販されており、このようなヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドを調製する方法が知られている(Lin et al(1994)Nucl.Acids Res.22:5220〜5234;Jellinek et al.(1995)Biochemistry 34:11363〜11372;Pagratis et al.(1997)Nature Biotechnol.15:68〜73)。核酸は、一本鎖、二本鎖、またはこれらの混合物であってもよい。本発明の目的のために、他の意味であると明記されない限り、核酸は、二本鎖であるか、または内容から明らかである。
【0036】
本明細書で使用する場合、「DNA」は、改変ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログを含め、eDNA、プラスミドおよびDNAを含むあらゆる種類および大きさのDNA分子を含むことを意味する。
【0037】
本明細書で使用する場合、「ヌクレオチド」は、ヌクレオシドモノリン酸、二リン酸および三リン酸を含む。ヌクレオチドは、改変ヌクレオチドも含み、改変ヌクレオチドとしては、限定されないが、ホスホロチオエートヌクレオチド、デアザプリンヌクレオチドおよび他のヌクレオチドアナログが挙げられる。
【0038】
本明細書で使用する場合、「被検者」または「患者」という用語は、大きなDNA分子を導入することができる動物を指す。高等生物、例えば、哺乳動物および鳥類が含まれ、ヒト、霊長類、げっ歯類、ウシ、ブタ、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、マウス、ラット、モルモット、ネコ、イヌ、ウマ、ニワトリその他を含む。
【0039】
本明細書で使用する場合、「大きな哺乳動物」は、典型的な成体の体重が少なくとも10kgである哺乳動物を指す。このような大きな哺乳動物としては、例えば、ヒト、霊長類、イヌ、ブタ、ウシを挙げることができ、もっと小さな哺乳動物、例えば、マウス、ラット、モルモットおよび他のげっ歯類を除外することを意味する。
【0040】
本明細書で使用する場合、「被検者に投与する」は、1つ以上の送達薬剤および/または大きな核酸分子が、一緒に、または別個に、被検者に導入されるか、または適用され、被検者中に存在する標的細胞が、この薬剤および/またはこの大きな核酸分子と最終的に接触する手順である。
【0041】
本明細書で使用する場合、「送達」は、「形質導入」と相互に置き換え可能に用いられ、外因性核酸分子が細胞に移動し、細胞内部に配置されるプロセスを指す。核酸の送達は、核酸の発現とは別個のプロセスである。
【0042】
本明細書で使用する場合、「マルチクローニングサイト(MCS)」は、複数の制限酵素部位を含むプラスミド中の核酸領域であり、制限酵素部位のいずれかを標準的な組み換え技術と組み合わせ、ベクターを消化することができる。「制限酵素消化」は、核酸分子の特定の位置でのみ機能する酵素を用いた、核酸分子の触媒的開裂を指す。これらの制限酵素の多くが市販されている。このような酵素の使用は、当業者に広く理解される。頻繁に、ベクターは、MCS内で切断し、外因性配列をこのベクターにライゲーションすることができる制限酵素を用いて直線化またはフラグメント化される。
【0043】
本明細書で使用する場合、「複製起点」(「ori」と呼ばれることが多い)は、複製がそこから開始される特定の核酸配列である。または、宿主細胞が酵母である場合、自律複製配列(ARS)を使用してもよい。
【0044】
本明細書で使用する場合、「選択可能なマーカーまたはスクリーニング可能なマーカー」は、発現ベクターを含有する細胞の容易な特定を可能にする、細胞に対して特定可能な変化を与える。概して、選択可能なマーカーは、選択が可能な特性を与えるマーカーである。選択可能なポジティブマーカーは、マーカーの存在が、その選択を可能にするマーカーであり、一方、選択可能なネガティブマーカーは、その存在が、その選択を妨害するマーカーである。選択可能なポジティブマーカーの一例は、薬剤耐性マーカーである。
【0045】
通常は、薬剤選択マーカーが含まれると、形質転換体のクローニングおよび特定を補助する。例えば、ネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、DHFR、GPT、ゼオシンおよびヒスチジノールに対する耐性を与える遺伝子が、有用な選択可能なマーカーである。条件の実施に基づき形質転換体の区別をすることができる表現型を与えるマーカーに加え、スクリーニング可能なマーカー(例えば、GFP)を含み、その基本が熱量分析である他の種類のマーカーも想定される。または、スクリーニング可能な酵素、例えば、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(tk)またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)を利用してもよい。当業者は、免疫学的マーカーを、おそらくFACS分析と組み合わせてどのように使用するかも知っているだろう。使用されるマーカーは、遺伝子産物をコードする核酸と同時に発現することができるものであれば、重要ではないと考えられる。選択可能なマーカーおよびスクリーニング可能なマーカーのさらなる例は、当業者によく知られている。
【0046】
「トランスフェクション」という用語は、細胞による外来DNAの取り込みを指すために用いられる。外因性DNAが細胞内部に導入されたとき、細胞は、「トランスフェクション」された。多くのトランスフェクション技術が、一般的に当該技術分野で知られている。例えば、Graham et al、Virology 52:456(1973);Sambrook et al、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(1989);Davis et al、Basic Methods in Molecular Biology(1986);Chu et al、Gene 13:197(1981)を参照。このような技術は、1つ以上の外因性DNA分子、例えば、ヌクレオチド組み込み型ベクターおよび他の核酸分子を適切な宿主細胞に導入するために使用することができる。この用語は、化学的手順、電気的手順およびウイルスが媒介するトランスフェクション手順を含む。
【0047】
本明細書で使用する場合、「発現」は、核酸がペプチドに翻訳されるか、またはRNAに転写され、例えば、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質に翻訳することができるプロセスを指す。核酸がゲノムDNAから誘導される場合、発現は、適切な真核性宿主細胞または有機体が選択される場合、mRNAのスプライシングを含んでいてもよい。異種核酸が宿主細胞で発現されるために、最初に細胞に送達され、次いで、細胞に入ると、最終的に核の中に残らなければならない。
【0048】
本明細書で使用する場合、「遺伝子治療」は、治療または診断が求められる疾患または状態を有する哺乳動物(特に、ヒト)の細胞への異種DNAの移動を含む。DNAが、異種DNAが発現し、それによってコードされる治療産物が産生するような様式で、選択された標的細胞に導入される。または、異種DNAは、いくつかの様式で、治療産物をコードするDNAの発現を媒介してもよい。異種DNAは、ある様式で、治療産物の発現を直接的または間接的に媒介する産物(例えば、ペプチドまたはRNA)をコードしてもよい。遺伝子産物をコードする核酸を送達し、欠陥遺伝子を置き換えるか、または導入先の哺乳動物または細胞によって産生される遺伝子産物を追加するために、遺伝子治療も使用されてもよい。従って、導入された核酸は、通常は哺乳動物宿主で産生せず、または、治療に有効な量で、または治療に有用な時間、産生しない治療化合物、例えば、成長因子またはその阻害剤、または腫瘍壊死因子またはその阻害剤、例えば、受容体をコードしてもよい。産物またはその発現を高めるか、他の様式で変えるために、罹患した宿主の細胞に導入する前に、治療産物をコードする異種DNAを改変してもよい。
【0049】
本明細書で使用する場合、「異種核酸配列」は、典型的には、発現が起こる細胞によってin vivoで通常は産生されないRNAおよびタンパク質をコードするDNA、または、転写、翻訳または他の制御可能な生化学プロセスを受けることによって内因性DNAの発現を変えるメディエータを媒介するか、または、このメディエータをコードするDNAである。異種核酸配列は、外来DNAと呼ばれることもある。当業者が、内部で発現する細胞に対して異種または外来であると認識するか、または考える任意のDNAは、本明細書で異種DNAに包含される。異種DNAの例としては、限定されないが、追跡可能なマーカータンパク質(例えば、薬剤耐性を与えるタンパク質)をコードするDNA、治療に有効な物質(例えば、抗癌剤、酵素およびホルモン)をコードするDNA、他の種類のタンパク質(例えば、抗体)をコードするDNAが挙げられる。異種DNAによってコードされる抗体は、異種DNAが導入された細胞の表面で分泌または発現してもよい。
【0050】
本明細書で使用する場合、「心筋症」という用語は、何らかの理由による心筋(すなわち、実際の心臓の筋肉)の機能の悪化を指す。心筋症を有する被検者は、心不全に起因して、不整脈、心臓突然死、または入院または死亡の危険性があることが多い。
【0051】
本明細書で使用する場合、「虚血性心筋症」という用語は、冠状動脈疾患が最も一般的な原因である心筋に対する酸素運搬が不十分なことに起因して、心臓の筋肉が弱ることである。
【0052】
本明細書で使用する場合、「虚血性心疾患」という用語は、血液供給がないか、または比較的不足していることに起因して、心臓の筋肉が損傷を受けるか、十分に働かない任意の状態を指し、ほとんどの場合、アテローム性動脈硬化によって生じることが多く、狭心症、急性心筋梗塞、慢性虚血性心疾患および突然死を含む。
【0053】
本明細書で使用する場合、「心筋梗塞」は、ある領域への血流の遮断から引き起こされる、心臓の筋肉(心筋)のその領域の損傷または死を指す。
【0054】
本明細書で使用する場合、「6分間歩行試験」または「6MWT」という用語は、患者が、平坦で硬い表面を6分間すばやく歩くことができる距離(6MWD)を測定する試験を指す。肺および心循環系、全身循環、末梢循環、血液、神経筋単位および筋肉代謝を含め、運動中に関与するすべての系の全体的かつ統合的な応答を評価する。これは、最大心肺運動試験を用いて可能なような、運動または運動制限の機構に関与する異なる臓器および系それぞれの機能に関する具体的な情報を与えない。自分のペースでの6MWTは、機能容量の最大以下のレベルを評価する。(例えば、AM J Respir Crit Care Med、Vol.166.Pp 111〜117(2002)を参照。)
【0055】
本明細書で使用する場合、「NewYork Heart Association(NYHA)機能分類」は、心不全の程度の分類を指す。身体活動中に、どのていど多く制約されるかに基づき、患者を4つのカテゴリーのいずれかに入れ、その制約/症状は、通常の呼吸およびさまざまな息切れ度、および/または狭心症の痛みに関する。
【0056】
【表1】
【0057】
本出願は、心筋機能の低下および/または不全を引き起こす被検者における心筋症を治療する方法に関する。本発明の組成物および方法によって治療される心筋症としては、肺塞栓、静脈血栓、心筋梗塞、一時的な虚血性発作、末梢血管障害、アテローム性動脈硬化、および/または他の心筋損傷または血管の疾患に関連する心筋症を挙げることができる。心筋症を治療する方法は、弱った心筋組織、虚血性心筋組織、および/またはアポトーシス性心筋組織、例えば、心筋梗塞後の心臓の梗塞周囲の領域に、左心室の容積、左心室の面積、左心室の寸法、心機能、6分間歩行試験(6MWT)、またはNew York Heart Association(NYHA)機能分類の少なくとも1つにおいて機能改善させるために有効な量のストローマ細胞由来因子−1(SDF−1)を局所的に投与(または局所的に送達)することを含んでいてもよい。
【0058】
ヒトの心不全を模倣するブタ心不全モデルを用い、虚血性心筋組織の機能向上が、虚血性心筋組織に投与されるSDF−1の量、投薬量および/または送達に依存し、心筋機能のパラメータ、例えば、左心室の容積、左心室の面積、左心室の寸法、心機能が実質的に向上するように、虚血性心筋組織に対するSDF−1の量、投薬量および/または送達を最適化することができることがわかった。以下に記載するように、ある態様では、虚血性心筋組織に投与されるSDF−1の量、濃度および/または容積は、副作用を軽減しつつ、機能パラメータ(例えば、左心室の容積、左心室の面積、左心室の寸法、心機能、6分間歩行試験(6MWT)および/またはNew York Heart Association(NYHA)機能分類)を実質的に向上させるように制御および/または最適化することができる。
【0059】
一例では、SDF−1を、心臓の機能パラメータ(例えば、左心室の容積、左心室の面積、左心室の寸法、または、虚血性心筋症の結果としての心機能、例えば、心筋梗塞)の悪化または悪変が存在する大きな哺乳動物(例えば、ブタまたはヒト)の心筋組織の弱くなった領域、虚血性の領域、および/または梗塞周囲の領域に直接または局所的に投与することができる。機能パラメータの悪化または悪変としては、例えば、超音波心臓検査を用いて測定されるような左心室の収縮終期容量の増加、左心室の駆出率の減少、壁運動スコア指数の増加、左心室の拡張末期の長さの増加、左心室の収縮終期の長さの増加、左心室の拡張末期の面積(例えば、僧帽弁レベルおよび乳頭筋挿入レベル)の増加、左心室の収縮終期の面積(例えば、僧帽弁レベルおよび乳頭筋挿入レベル)の増加、または左心室の収縮終期容量の増加を挙げることができる。
【0060】
本出願のある態様では、大きな哺乳動物の心筋組織の弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与されるSDF−1の量は、例えば、超音波心臓検査を用いて測定された心筋の左心室の収縮終期容量の減少、左心室の駆出率の増加、壁運動スコア指数の減少、左心室の拡張末期の長さの減少、左心室の収縮終期の長さの減少、左心室の拡張末期の面積(例えば、僧帽弁レベルおよび乳頭筋挿入レベル)の減少、左心室の収縮終期の面積(例えば、僧帽弁レベルおよび乳頭筋挿入レベル)の減少、または左心室の収縮終期容量の減少、および被検体の6分間歩行試験(6MWT)、またはNew York Heart Association(NYHA)機能分類といった心筋の少なくとも1つの機能パラメータを向上させるのに有効な量であってもよい。
【0061】
本出願の別の態様では、心筋症を有する大きな哺乳動物の心筋組織の弱くなった領域、虚血性の領域、および/または梗塞周囲の領域に投与されるSDF−1の量は、超音波心臓検査によって測定される場合、投与から30日後に、哺乳動物において左心室の収縮終期容量を少なくとも約10%、さらに特定的には、少なくとも約15%向上させるのに有効である。向上率は、治療される各被検者に対して相対的であり、治療的介入または治療の前またはその最中に測定されたそれぞれのパラメータに基づく。
【0062】
本出願のさらなる態様では、心筋症を有する大きな哺乳動物の心筋組織の弱くなった領域、虚血性の領域、および/または梗塞周囲の領域に投与されるSDF−1の量は、超音波心臓検査によって測定される場合、投与から30日後に、左心室の収縮終期容量を少なくとも約10%向上させ、左心室の駆出率を少なくとも約10%向上させ、壁運動スコア指数を少なくとも約5%向上させるのに有効である。
【0063】
本出願のなおさらなる態様では、心筋症を有する大きな哺乳動物の心筋組織の弱くなった領域、虚血性の領域、および/または梗塞周囲の領域に投与されるSDF−1の量は、SPECTイメージングによって測定される血管密度または心臓灌流の増加に基づいて、弱くなった領域、虚血性の領域、および/または梗塞周囲の領域の脈管形成を少なくとも20%向上させるのに有効である。脈管形成の20%向上は、臨床的に有意であることが示されている(Losordo Circulation 2002;105:2012)。
【0064】
本出願のなおさらなる態様では、心筋症を有する大きな哺乳動物の心筋組織の弱くなった領域、虚血性の領域、および/または梗塞周囲の領域に投与されるSDF−1の量は、6分間歩行距離を少なくとも約30メートル向上させ、NYHA分類を少なくとも1分類向上させるのに有効である。
【0065】
本明細書に記載するSDF−1を、SDF−1の下方制御が発生した後、数時間、数日、数週間または数ヶ月間、組織傷害(例えば、心筋梗塞)後の心筋組織の弱くなった領域、虚血性の領域、および/または梗塞周囲の領域に投与することができる。SDF−1が細胞に投与される期間は、心筋症(例えば、心筋梗塞)のほぼ発生直後から、虚血性障害または組織傷害が発生してから数日、数週間または数ヶ月間までを含んでいてもよい。
【0066】
心筋組織の梗塞周囲の領域の弱くなった領域、虚血性の領域、および/または梗塞周囲の領域に投与される本出願のSDF−1は、ネイティブ哺乳動物のSDF−1アミノ酸配列に実質的に類似のアミノ酸配列を有していてもよい。ヒト、マウスおよびラットを含め、多くの異なる哺乳動物のSDF−1タンパク質のアミノ酸配列が知られている。ヒトおよびラットのSDF−1アミノ酸配列は、少なくとも92%同一である(例えば、約97%同一)。SDF−1は、SDF−1αおよびSDF−1βの2つのアイソフォームを含んでいてもよく、両方とも、他の様式で特定されない限り、本明細書でSDF−1と呼ばれる。
【0067】
SDF−1は、配列番号1と実質的に同一のアミノ酸配列を有していてもよい。過剰発現するSDF−1は、上述の哺乳動物のSDF−1タンパク質のいずれかと実質的に類似のアミノ酸配列を有していてもよい。例えば、過剰発現するSDF−1は、配列番号2と実質的に類似のアミノ酸配列を有していてもよい。配列番号1を実質的に含む配列番号2は、ヒトSDF−1のアミノ酸配列であり、Genbank寄託番号NP954637によって特定される。過剰発現するSDF−1は、配列番号3と実質的に同一のアミノ酸配列を有していてもよい。配列番号3は、ラットSDFのアミノ酸配列を含み、Genbank寄託番号AAF01066によって特定される。
【0068】
本出願のSDF−1は、哺乳動物のSDF−1の改変体、例えば、哺乳動物のSDF−1のフラグメント、アナログおよび誘導体であってもよい。このような改変体としては、例えば、ネイティブSDF−1遺伝子の天然由来の対立遺伝子改変体(すなわち、天然由来の哺乳動物のSDF−1ポリペプチドをコードする天然由来の核酸)によってコードされるポリペプチド、ネイティブSDF−1遺伝子の交互スプライシング形態によってコードされるポリペプチド、ネイティブSDF−1遺伝子のホモログまたはオルソログによってコードされるポリペプチド、およびネイティブSDF−1遺伝子の非天然由来の改変体によってコードされるポリペプチドが挙げられる。
【0069】
SDF−1改変体は、ネイティブSDF−1ポリペプチドと1つ以上のアミノ酸で異なるペプチド配列を有する。このような改変体のペプチド配列は、SDF−1改変体の1つ以上のアミノ酸の欠失、付加または置換を特徴としていてもよい。アミノ酸挿入は、好ましくは約1〜4の隣接するアミノ酸の挿入であり、欠失は、好ましくは、約1〜10の隣接するアミノ酸の欠失である。改変体SDF−1ポリペプチドは、ネイティブSDF−1の機能活性を実質的に維持している。SDF−1ポリペプチド改変体の例は、サイレントまたは保存的変更を特徴とする核酸分子を発現することによって製造することができる。SDF−1改変体の一例は、米国特許第7,405,195号に列挙され、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0070】
1つ以上の特定のモチーフおよび/またはドメインに対応するか、または任意の大きさに対応するSDF−1ポリペプチドフラグメントは、本出願の範囲内である。SDF−1の単離されたペプチジル部分は、このようなペプチドをコードする核酸の対応するフラグメントから組み換えによって作られるペプチドをスクリーニングすることによって得ることができる。例えば、SDF−1ポリペプチドは、フラグメントの重複がない所望の長さのフラグメントに任意に分けられてもよく、または好ましくは、所望の長さの重複するフラグメントに分けられてもよい。このフラグメントを組み換えによって産生し、これらのペプチジルフラグメントを特定するために試験してもよく、このフラグメントは、ネイティブCXCR−4ポリペプチドのアゴニストとして機能することができる。
【0071】
SDF−1ポリペプチドの改変体は、SDF−1ポリペプチドの組み換え形態も含んでいてもよい。組み換えポリペプチドは、ある実施形態では、SDF−1ポリペプチドに加え、哺乳動物のSDF−1をコードする遺伝子の核酸配列内に少なくとも70%の配列同一性を有していてもよい核酸によってコードされる。
【0072】
SDF−1改変体は、ネイティブSDF−1の機能活性を構成的に発現するタンパク質のアゴニスト形態を含んでいてもよい。他のSDF−1改変体は、例えば、突然変異に起因して、プロテアーゼの標的配列を変える、タンパク質分解切断に耐性があるものを含んでいてもよい。ペプチドのアミノ酸配列の変化から、ネイティブSDF−1の1つ以上の機能活性を有する改変体が得られるかどうかは、ネイティブSDF−1の機能活性について改変体を試験することによって簡単に決定することができる。
【0073】
SDF−1タンパク質をコードするSDF−1核酸は、ネイティブまたはノンネイティブの核酸であってもよく、RNAの形態またはDNAの形態(例えば、eDNA、ゲノムDNAおよび合成DNA)であってもよい。DNAは、二本鎖または一本鎖であってもよく、一本鎖である場合、コード(センス)鎖または非コード(アンチセンス)鎖であってもよい。SDF−1をコードする核酸コード配列は、SDF−1遺伝子のヌクレオチド配列、例えば、配列番号4および配列番号5に示すヌクレオチド配列と実質的に類似であってもよい。配列番号4および配列番号5は、それぞれ、ヒトSDF−1およびラットSDF−1の核酸配列を含み、Genbank寄託番号NM199168およびGenbank寄託番号AF189724の核酸配列と実質的に類似である。
【0074】
SDF−1の核酸コード配列は、異なるコード配列であってもよく、遺伝子コードの冗長性または縮重の結果として、配列番号1、配列番号2および配列番号3と同じポリペプチドをコードする。
【0075】
SDF−1をコードする他の核酸分子は、ネイティブSDF−1の改変体、例えば、ネイティブSDF−1のフラグメント、アナログおよび誘導体をコードするものである。このような改変体は、例えば、ネイティブSDF−1遺伝子の天然由来の対立遺伝子改変体、ネイティブSDF−1遺伝子のホモログまたはオルソログ、またはネイティブSDF−1遺伝子の非天然由来の改変体であってもよい。これらの改変体は、ネイティブSDF−1遺伝子と1つ以上の塩基で異なるヌクレオチド配列を有する。例えば、このような改変体のヌクレオチド配列は、ネイティブSDF−1遺伝子の1つ以上のヌクレオチドの欠失、付加または置換を特徴としていてもよい。核酸挿入は、好ましくは、約1〜10の隣接するヌクレオチドの挿入であり、欠失は、好ましくは、約1〜10の隣接するヌクレオチドの欠失である。
【0076】
他の用途では、構造のかなりの変化を示す改変体SDF−1は、コードされるポリペプチドの中に保存的変更を生じないヌクレオチド置換を作成することによって作ることができる。このようなヌクレオチド置換の例は、(a)ポリペプチド骨格の構造、(b)ポリペプチドの電荷または疎水性、または(c)アミノ酸側鎖の塊を変化させるものである。タンパク質の特性に最も大きな変化を生じることが予想されるヌクレオチド置換は、概して、コドンの非保存的な変化を生じるものである。タンパク質構造に大きな変化を生じさせると思われるコドン変化の例は、(a)疎水性残基(例えば、セリンまたはトレオニン)から疎水性残基(例えば、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、バリンまたはアラニン)への置換(またはその逆)、(b)システインまたはプロリンから任意の他の残基への置換(またはその逆)、(c)正電荷を有する側鎖を有する残基(例えば、リジン、アルギニンまたはヒスチジン)から、負電荷を有する残基(例えば、グルタミンまたはアスパルチン)への置換(またはその逆)、または(d)嵩高い側鎖を有する残基(例えば、フェニルアラニン)から、側鎖を有さないもの(例えば、グリシン)への置換(またはその逆)を生じるものである。
【0077】
ネイティブSDF−1遺伝子の天然由来の対立遺伝子改変体は、ネイティブSDF−1遺伝子と少なくとも70%の配列同一性を有し、ネイティブSDF−1ポリペプチドと構造類似性を有するポリペプチドをコードする、哺乳動物組織から単離された核酸である。ネイティブSDF−1遺伝子のホモログは、このネイティブ遺伝子と少なくとも70%の配列同一性を有し、ネイティブSDF−1ポリペプチドと構造類似性を有するポリペプチドをコードする他の種から単離された核酸である。公的な、および/または知的財産権で保護された核酸データベースを検索し、ネイティブSDF−1遺伝子に高い割合(例えば、70%以上)の配列同一性を有する他の核酸分子を特定することができる。
【0078】
非天然由来のSDF−1遺伝子改変体は、ネイティブSDF−1遺伝子と少なくとも70%の配列同一性を有し、ネイティブSDF−1ポリペプチドと構造類似性を有するポリペプチドをコードする、天然由来ではない(例えば、ヒトの手で作られる)核酸である。非天然由来のSDF−1遺伝子改変体の例は、ネイティブSDF−1タンパク質のフラグメントをコードするもの、またはストリンジェントな条件でネイティブSDF−1遺伝子またはネイティブSDF−1遺伝子の相補体にハイブリダイズするもの、ネイティブSDF−1遺伝子と少なくとも65%の配列同一性を共有するもの、またはネイティブSDF−1遺伝子の相補体である。
【0079】
ネイティブSDF−1遺伝子のフラグメントをコードする核酸は、ある実施形態では、ネイティブSDF−1のアミノ酸残基をコードする核酸である。ネイティブSDF−1のフラグメントをコードする核酸をコードするか、またはこの核酸とハイブリダイズするもっと短いオリゴヌクレオチドを、プローブ、プライマーまたはアンチセンス分子として使用することができる。ネイティブSDF−1のフラグメントをコードする核酸をコードするか、またはこの核酸とハイブリダイズするもっと長いオリゴヌクレオチドを、本出願の種々の態様で使用することもできる。ネイティブSDF−1遺伝子のフラグメントをコードする核酸は、全長ネイティブSDF−1遺伝子またはその改変体の酵素消化(例えば、制限酵素を用いる)によって、または化学変性によって製造することができる。
【0080】
ストリンジェントな条件で上の核酸のいずれかにハイブリダイズする核酸を本発明に使用することもできる。例えば、このような核酸は、低ストリンジェントな条件で、中程度にストリンジェントな条件で、または高度にストリンジェントな条件で、上の核酸のいずれかにハイブリダイズする核酸であってもよい。
【0081】
SDF−1融合タンパク質をコードする核酸分子を、ある実施形態で使用してもよい。このような核酸は、適切な標的細胞に導入されたとき、SDF−1融合タンパク質を発現する構築物(例えば、発現ベクター)を調製することによって製造することができる。例えば、このような構築物は、適切な発現系での構築物の発現によって融合タンパク質を与えるように、フレーム内に融合されたSDF−1タンパク質をコードする第1のポリヌクレオチドと、別のタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドとをライゲーションすることによって製造することができる。
【0082】
SDF−1をコードする核酸は、例えば、分子の安定性、ハイブリダイゼーションなどを向上させるために、塩基部分、糖部分またはリン酸骨格で改変されてもよい。本明細書に記載する核酸は、さらに、他の付加される基、例えば、ペプチド(例えば、in vivoで標的細胞受容体を標的化するための)、または、細胞膜への通過、ハイブリダイゼーションの引き金となる開裂を容易にする薬剤を含んでいてもよい。この目的のために、核酸を、別の分子(例えば、ペプチド、ハイブリダイゼーションの引き金となる架橋剤、輸送剤、ハイブリダイゼーションの引き金となる開裂剤など)と接合してもよい。
【0083】
弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域にSDF−1タンパク質を投与することによって、または、心筋組織の弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域の細胞に、SDF−1(すなわち、SDF−1剤)を発現させ、発現を増加させ、および/または上方制御する薬剤を導入することによって、心筋組織の弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域にSDF−1を送達することができる。細胞から発現するSDF−1タンパク質は、遺伝的に改変された細胞の発現産物であってもよい。
【0084】
SDF−1を発現させ、発現を増加させ、および/または上方制御する薬剤は、組み換え核酸構築物(典型的には、DNA構築物)に組み込むことができ、心筋組織の細胞に導入し、細胞内で複製することができる本明細書に記載するような天然または合成の核酸を含んでいてもよい。このような構築物は、所与の細胞にポリペプチドをコードする配列を転写し、翻訳することができる複製系および配列を含んでいてもよい。
【0085】
標的細胞に薬剤を導入する1つの方法は、遺伝子治療を含む。本出願のある実施形態では、遺伝子治療を使用し、心筋組織の弱くなった領域、虚血性の領域、および/または梗塞周囲の領域の細胞から、in vivoでSDF−1タンパク質を発現することができる。
【0086】
本出願の一態様では、遺伝子治療は、SDF−1タンパク質をコードするヌクレオチドを含むベクターを使用することができる。「ベクター」(遺伝子送達「ビヒクル」または遺伝子導入「ビヒクル」と呼ばれることもある)は、in vitroまたはin vivoのいずれかで標的細胞に送達されるポリヌクレオチドを含む高分子または分子複合体を指す。送達されるポリヌクレオチドは、遺伝子治療における目的のコード配列を含んでいてもよい。ベクターとしては、例えば、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス(「Ad」レトロウイルス)、アデノ随伴ウイルス(AAV)およびレトロウイルス)、非ウイルスベクター、リポソーム、および他の脂質含有複合体、および標的細胞へのポリヌクレオチドの送達を媒介することができる他の高分子複合体が挙げられる。
【0087】
ベクターは、遺伝子送達および/または遺伝子発現をさらに調節し、または、標的とされる細胞に有益な特性を他の方法で与える他の要素または機能も含んでいてもよい。このような他の要素としては、例えば、細胞への結合または標的化に影響を与える要素(細胞型または組織特異的な結合を媒介する要素を含む)、細胞によってベクター核酸の取り込みに影響を与える要素、取り込み後に細胞内のポリヌクレオチドの局在化に影響を与える要素(例えば、核局在化を媒介する薬剤)およびポリヌクレオチドの発現に影響を与える要素が挙げられる。このような要素は、マーカー、例えば、ベクターによって送達される核酸を取り込み、発現する細胞を検出または選択するために使用可能な検出可能なマーカーおよび/または選択可能なマーカーも含んでいてもよい。このような要素は、ベクターの天然の特徴として与えられてもよく(例えば、結合および取り込みを媒介する要素または機能を含む特定のウイルスベクターの使用)、またはこのような機能を与えるようにベクターを改変してもよい。
【0088】
選択可能なマーカーは、ポジティブ、ネガティブまたは二機能性であってもよい。選択可能なポジティブマーカーは、このマーカーを保有する細胞を選択することができ、一方、選択可能なネガティブマーカーは、このマーカーを保有する細胞を選択的に排除することができる。二機能(すなわち、ポジティブ/ネガティブ)マーカーを含め、このような種々のマーカー遺伝子が記載されている(例えば、Lupton、S.、1992年5月29日に公開されたWO 92/08796号;およびLupton、S.、1994年12月8日に公開されたWO 94/28143号を参照)。このようなマーカー遺伝子は、遺伝子治療という観点で有利であり得るコントールの追加の結果を与えることができる。
【0089】
このような多種多様なベクターが、当該技術分野で知られており、一般的に入手可能である。本発明で使用するためのベクターとしては、心筋組織の弱くなった領域、虚血性の領域、および/または梗塞周囲の領域の細胞にヌクレオチドを送達することができる、ウイルスベクター、液体系ベクターおよび他の非ウイルス性ベクターが挙げられる。ベクターは、標的化ベクター、特に、心筋組織の領域の弱くなった領域、虚血性の領域、および/または梗塞周囲の領域の細胞に優先的に結合する標的化ベクターであってもよい。本発明の方法で使用するためのウイルスベクターとしては、心筋組織の領域の弱くなった領域、虚血性の領域、および/または梗塞周囲の領域の細胞に対し、低い毒性を示し、組織特異的な様式で治療に有用な量のSDF−1タンパク質の産生を誘発するものを挙げることができる。
【0090】
ウイルスベクターの例は、アデノウイルス(Ad)またはアデノ随伴ウイルス(AAV)から誘導されるベクターである。ヒトウイルスベクターおよび非ヒトウイルスベクターを使用してもよく、組み換えウイルスベクターは、ヒトにおいて複製欠損であってもよい。ベクターがアデノウイルスである場合、ベクターは、SDF−1タンパク質をコードする遺伝子に作動可能に接続したプロモーターを有するポリヌクレオチドを含んでいてもよく、ヒトにおいて複製欠損である。
【0091】
本出願の方法で使用可能な他のウイルスベクターとしては、単純ヘルペスウイルス(HSV)系ベクターが挙げられる。1つ以上の前初期遺伝子(IE)が欠損したHSVベクターは、概して非毒性であり、標的細胞における潜伏と類似の状態を維持し、標的細胞の効果的な形質導入を与えるため、有利である。組み換えHSVベクターは、約30kbの異種核酸を組み込むことができる。
【0092】
レトロウイルス、例えば、C型レトロウイルスおよびレンチウイルスを、本出願のある実施形態で使用してもよい。例えば、レトロウイルスベクターは、マウス白血病ウイルス(MLV)に由来するものであってもよい。例えば、Hu and Pathak、Pharmacal.Rev.52:493−511、2000およびPong et al、Crit.Rev.Ther.Drug Carrier Syst.17:1〜60,2000を参照。MLV系ベクターは、ウイルス遺伝子の代わりに、8kbまでの異種(治療)DNAを含んでいてもよい。異種DNAは、組織特異的なプロモーターと、SDF−1核酸とを含んでいてもよい。創傷に近接する細胞に送達する方法では、異種DNAは、組織特異的な受容体に対するリガンドをコードしてもよい。
【0093】
使用可能なさらなるレトロウイルスベクターは、ヒト免疫不全(HIV)系ベクターを含め、複製欠損レンチウイルス系ベクターである。例えば、Vigna and Naldini、J.Gene Med.5:308〜316、2000およびMiyoshi et al、J.Viral.72:8150〜8157、1998を参照。レンチウイルスベクターは、活発に分割する細胞および分割しない細胞の両方に感染することができるという点で有利である。
【0094】
レンチウイルスベクターは、ヒト上皮細胞に形質導入する際にも非常に有効である。本発明の方法で使用するためのレンチウイルスベクターは、ヒトおよび非ヒト(SIVを含む)レンチウイルスから誘導されてもよい。レンチウイルスベクターの例は、ベクター伝播に必要な核酸配列と、SDF−1遺伝子に作動可能に接続した組織特異的なプロモーターを含む。これらの前者は、ウイルスLTR、プライマー結合部位、ポリプリントラクト、att部位およびカプシド形成部位を含んでいてもよい。
【0095】
レンチウイルスベクターは、任意に適切なレンチウイルスカプシドに包まれてもよい。異なるウイルスから、ある粒子タンパク質を別の粒子タンパク質と置換することは、「シュードタイピング」と呼ばれる。ベクターカプシドは、マウス白血病ウイルス(MLV)または水疱性口内炎ウイルス(VSV)を含む他のウイルスからのウイルスエンベロープタンパク質を含んでいてもよい。VSV Gタンパク質の使用によって、高力価のベクターが得られ、ベクターウイルス粒子の安定性が高くなる。
【0096】
アルファウイルス系ベクター、例えば、セムリキ森林ウイルス(SFV)およびシンドビスウイルス(SIN)から作られるものも本明細書に使用されてもよい。アルファウイルスの使用は、Lundstrom、K、Intervirology 43:247〜257、2000およびPerri et al、Journal of Virology 74:9802〜9807、2000に記載される。
【0097】
組み換え複製欠損アルファウイルスベクターは、高レベルの異種(治療)遺伝子の発現を可能にし、広範囲の標的細胞を感染させることができるため、有利である。アルファウイルスレプリコンは、そのビリオン表面に、同種結合対を発現する標的細胞に対して選択的に結合することができる機能性異種リガンドまたは結合ドメインを表出させることによって、特定の細胞種を標的としてもよい。アルファウイルスレプリコンは、潜伏を確立することによって、標的細胞において長期間の異種核酸の発現を確立してもよい。レプリコンは、標的細胞において一時的な異種核酸の発現も示してもよい。
【0098】
本出願の方法に適合する多くのウイルスベクターでは、ベクターによって1種類より多い異種遺伝子を発現させることができるように、1種類より多いプロモーターがベクターに含まれてもよい。さらに、ベクターは、標的細胞からSDF−1遺伝子産物の発現を容易にするシグナルペプチドまたは他の部分をコードする配列を含んでいてもよい。
【0099】
2種類のウイルスベクター系の有利な特性をあわせるために、ハイブリッドウイルスベクターを使用し、SDF−1核酸を標的組織に送達してもよい。ハイブリッドベクターを構築するための標準的な技術は、当業者によく知られている。このような技術は、例えば、Sambrook、et al、In Molecular Cloning:A laboratory manual.Cold Spring Harbor、N.Y.または組み換えDNA技術を記載する任意の数の実験室マニュアル中に見出すことができる。AAVとアデノウイルスITRの組み合わせを含むアデノウイルスカプシド中の二本鎖AAVゲノムを使用し、細胞に形質導入してもよい。別の変形例では、AAVベクターは、「gutless型」、「ヘルパー依存型」または「高容量」のアデノウイルスベクターに入れられてもよい。アデノウイルス/AAVハイブリッドベクターは、Lieber et al.、J.Viral.73:9314〜9324、1999に記載される。レトロウイルス/アデノウイルスハイブリッドベクターは、Zheng et al、Nature Biotechnol.18:176〜186、2000に記載される。アデノウイルス内に含まれるレトロウイルスゲノムは、標的細胞ゲノム内に組み込まれ、安定なSDF−1遺伝子発現を行ってもよい。
【0100】
SDF−1遺伝子の発現およびベクターのクローニングを容易にする他のヌクレオチド配列要素もさらに想定される。例えば、プロモーターの上流にエンハンサー、またはコード領域の下流にターミネーターが存在すると、例えば、発現を容易にすることができる。
【0101】
本出願の別の態様によれば、組織特異的なプロモーターをSDF−1遺伝子に融合してもよい。アデノウイルス構築物内でこのような組織特異的なプロモーターを融合することによって、導入遺伝子の発現は、特定の組織に限定される。組織特異的なプロモーターによって与えられる遺伝子発現の効能および特異性の程度は、本明細書に記載する組み換えアデノウイルス系を用いて決定することができる。
【0102】
ウイルスベクター系の方法に加えて、非ウイルス法を使用し、SDF−1核酸を標的細胞に導入してもよい。遺伝子送達の非ウイルス法の総説は、NishikawaおよびHuang、Human Gene Ther.12:861〜870、2001に与えられる。本発明の非ウイルス性遺伝子送達方法の一例は、SDF−1核酸を細胞に導入するためにプラスミドDNAを使用する。プラスミド系遺伝子送達方法は、一般的に当該技術分野で知られている。一例では、プラスミドベクターは、図7に模式的に示されるような構造を有していてもよい。図7のプラスミドベクターは、SDF−1αのcDNA(RNA)配列の上流にCMVエンハンサーとCMVプロモーターを含む。
【0103】
場合により、合成遺伝子導入分子は、プラスミドSDF−1のDNAと多分子凝集物を生成するように設計することができる。これらの凝集物は、心筋組織の弱くなった領域、虚血性の領域、および/または梗塞周囲の領域の細胞に結合するように設計することができる。リポポリアミンおよびカチオン性脂質を含め、カチオン性両親媒性化合物を使用し、標的細胞(例えば、心筋細胞)への受容体非依存性SDF−1核酸移動を行ってもよい。それに加え、前もって作成したカチオン性リポソームまたはカチオン性脂質をプラスミドDNAと混合し、細胞にトランフェクションする複合体を作成してもよい。カチオン性脂質配合物を含む方法は、Feigner et al、Ann.N.Y.Acad.Sci.772:126〜139、1995およびLasic and Templeton、Adv.Drug Delivery Rev.20:221〜266、1996にまとめられている。遺伝子送達のために、DNAを、両親媒性カチオン性ペプチドにカップリングしてもよい(Fominaya et al、J.Gene Med.2:455〜464、2000)。
【0104】
ウイルス系および非ウイルス系の要素を含む方法を本発明に使用してもよい。例えば、治療遺伝子送達のためのエプスタインバーウイルス(EBV)系プラスミドは、Cui et al、Gene Therapy 8:1508〜1513、2001に記載される。さらに、アデノウイルスにカップリングしたDNA/リガンド/ポリカチオン性付加物を含む方法は、Curiel,D.T.、Nat.Immun.13:141〜164、1994に記載される。
【0105】
さらに、エレクトロポレーション技術を用いて標的細胞をトランスフェクションすることによって、SDF−1核酸を標的細胞に導入することができる。エレクトロポレーション技術は、よく知られており、これを使用し、プラスミドDNAを用いた細胞のトランスフェクションを容易にすることができる。
【0106】
SDF−1の発現をコードするベクターを、必要な場合、医薬的に許容され得る担体(例えば、生理食塩水)を含有する注射用製剤の形態で標的細胞に送達することができる。他の医薬担体、配合物および投薬量を本発明と組み合わせて使用することもできる。
【0107】
本発明の一態様では、ベクターは、SDF−1プラスミド(例えば、図7のような)を含んでいてもよい。好ましい実施形態では、SDF−1プラスミドは、配列番号6のヌクレオチド配列を含む。SDF−1プラスミドを、少なくとも1つの心筋の機能パラメータ(例えば、左心室の容積、左心室の面積、左心室の寸法)または心臓の機能、被検者の6分間歩行試験(6MWT)またはNew York Heart Association(NYHA)機能分類)を向上させるのに有効な量のSDF−1プラスミドベクターを心筋組織の弱くなった領域、虚血性の領域、および/または梗塞周囲の領域に直接注射することによって、心筋組織の弱くなった領域、虚血性の領域、および/または梗塞周囲の領域の細胞に送達することができる。心筋組織の弱くなった領域、虚血性の領域、および/または梗塞周囲の領域に、またはその周囲にベクターを直接的に注射することによって、ベクターのトランスフェクションをもっと効果的に標的化し、組み換えベクターの消失を最小限にすることができる。この種の注射によって、特に、心筋組織の弱くなった領域、虚血性の領域、および/または梗塞周囲の領域の周囲に、望ましい数の細胞の局所的なトランスフェクションが可能になり、それによって、遺伝子導入の治療効果を最大限にし、ウイルスタンパク質に対する炎症性応答の可能性を最小限にする。
【0108】
本出願のある態様では、約0.33mg/ml〜約5mg/mlのSDF−1プラスミド溶液をそれぞれ含む注射液を用い、プラスミドDNAを発現するSDF−1溶液を複数回注射し、SDF−1プラスミドを弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与してもよい。一例では、SDF−1プラスミドを、弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に、少なくとも約10回の注射、少なくとも約15回の注射、または少なくとも約20回の注射によって投与することができる。弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域へのSDF−1プラスミドの複数回注射によって、治療されるべき弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域の面積および/または数が多くなる。
【0109】
弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与される各注射液は、容積が少なくとも0.2mlであってもよい。弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与される、心臓の少なくとも1つの機能パラメータを向上させることができる量のSDF−1プラスミドを含む溶液の合計容積は、少なくとも約10mlである。
【0110】
一例では、SDF−1プラスミドを、弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に、少なくとも約10回の注射によって投与することができる。弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与される各注射液は、容積が少なくとも約0.2mlであってもよい。SDF−1は、弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域内で、約3日間より長い間発現することができる。
【0111】
例えば、SDF−1を発現するプラスミドを含む溶液の各注射液は、注射液の容積が少なくとも0.2mlであり、注射液あたりのSDF−1プラスミド濃度は、約0.33mg/ml〜約5mg/mlであってもよい。本出願の別の態様では、心臓の少なくとも1つの機能パラメータは、部位あたりの注射容積が少なくとも約0.2mlで、少なくとも約10箇所の注射部位に、注射液あたりのSDF−1プラスミド濃度が約0.33mg/ml〜約5mg/mlで、心臓の弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域にSDF−1プラスミドを注射することによって向上させることができる。
【0112】
鬱血性心不全ブタモデルにおいて、SDF−1プラスミド溶液の注射液が、心不全のブタモデルに対する濃度が約0.33mg/ml未満または約5mg/mlより大きく、注射部位あたりの注射容積が約0.2ml未満だと、治療される心臓の左心室の容積、左心室の面積、左心室の寸法、または心臓の機能の機能的向上は、あるにしても少しであったことがわかった。
【0113】
本出願の別の態様では、心臓の少なくとも1つの機能パラメータを向上させることができる、弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与されるSDF−1の量は、治療的介入あたり、約4mgより大きく、約100mg未満である。本明細書の治療的介入によって投与されるSDF−1プラスミドの量は、治療効果を与えるか、または誘発するように設計された治療手順中、被検者に投与される全SDF−1プラスミドを指す。この量は、特定の治療的介入のための1回の注射で投与される全SDF−1プラスミド、または治療的介入のための複数回の注射によって投与される全SDF−1プラスミドを含んでいてもよい。4mgのSDF−1プラスミドDNAの投与が、心臓にSDF−1プラスミドの直接注射による鬱血性心不全のブタモデルにおいて、治療される心臓の左心室の容積、左心室の面積、左心室の寸法または心臓の機能の機能的改善がみられなかったことがわかった。さらに、心臓にSDF−1プラスミドの直接注射によって約100mgのSDF−1プラスミドDNAを投与すると、治療される心臓の左心室の容積、左心室の面積、左心室の寸法または心臓の機能の機能的改善はみられなかった。
【0114】
本出願のある態様では、SDF−1プラスミドベクターを用いてトランスフェクションした後、約3日間より長く、弱くなった領域、虚血性の領域、および/または梗塞周囲の領域で、SDF−1は、治療に有効な量または投薬量で発現することができる。約3日間より長く、治療に有効な投薬量または量でSDF−1が発現すると、弱くなった領域、虚血性の領域、および/または梗塞周囲の領域に治療効果を与えることができる。有利なことに、SDF−1は、SDF−1プラスミドベクターを用いてトランスフェクションした後、約90日間より短い間、弱くなった領域、虚血性の領域、および/または梗塞周囲の領域で、SDF−1を被検者に投与する治療効能を阻害し得る潜在的な慢性効果および/または細胞毒性効果をやわらげるために治療に有効な量で発現することができる。
【0115】
任意の動物またはヒトに投与されるSDF−1プラスミドの量、容積、濃度および/または投薬量は、被検者の大きさ、体の表面積、年齢、投与される特定の組成、性別、投与時間および投与経路、全体的な健康および他の一緒に投与される薬物を含め、多くの因子によって変わることが理解されるだろう。SDF−1プラスミドの上述の量、容積、濃度および/または投薬量の具体的な変形例は、以下に記載する実験方法を用い、当業者は簡単に決定することができる。
【0116】
本出願の別の態様では、SDF−1プラスミドは、カテーテル法、例えば、冠内カテーテル法または心室内カテーテル法によって直接注射することによって投与されてもよい。一例では、変形可能なガイドカテーテルデバイスを、大動脈弁を逆行して左心室に進ませてもよい。このデバイスが左心室に配置されたら、SDF−1プラスミドを梗塞周囲の領域(中隔および側面の両方の態様)に注射してもよい。典型的には、1.0mlのSDF−1プラスミド溶液を約60秒かけて注射してもよい。治療される被検者は、少なくとも約10回の注射(例えば、合計で約15〜約20回の注射)を受けてもよい。
【0117】
SDF−1プラスミドを投与する前に、被検者の心筋組織をイメージングし、弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域の領域をSDF−1プラスミドを投与する前に確定してもよい。弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域をイメージングによって確定すると、弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に、もっと正確に介入し、SDF−1プラスミドを標的化することが可能になる。心筋組織の弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域を確定するためのイメージング技術としては、任意の既知の心臓イメージング技術を含んでいてもよい。このようなイメージング技術としては、例えば、音波心臓検査、磁気共鳴イメージング、冠血管造影、磁気立体マッピング法、または蛍光板透視のうち、少なくとも1つを含んでいてもよい。弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域を確定することができる他のイメージング技術を使用することもできることが理解されるだろう。
【0118】
場合により、SDF−1核酸以外の他の薬剤剤(例えば、SDF−1プラスミド)を、心筋組織の弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に導入し、弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域の細胞からのSDF−1の発現を促進することができる。例えば、SDF−1をコードする遺伝子の転写を増加させる薬剤は、SDF−1をコードするmRNAの翻訳を増加させ、および/または、SDF−1をコードするmRNAの分解を低下させる薬剤を使用し、SDF−1タンパク質のレベルを上げる。細胞内の遺伝子からの転写速度を増加させることは、SDF−1をコードする遺伝子の上流に外因性プロモーターを導入することによって達成することができる。異種遺伝子の発現を容易にするエンハンサー要素も使用してもよい。
【0119】
他の薬剤としては、標的細胞に投与したとき、心筋組織の弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域によってSDF−1の発現を上方制御することができる他のタンパク質、ケモカインおよびサイトカインを挙げることができる。このような薬剤としては、例えば、間充織幹細胞(MSC)に投与されたとき、SDF−1の発現を上方制御することが示されたインスリン様成長因子(IGF)−1(Circ.Res.2008、Nov 21;103(11):1300〜98);成体の線維芽細胞に投与したとき、SDF−1の発現を上方制御することが示されたソニックヘッジホッグ(Shh)(Nature Medicine、Volume 11、Number 11、Nov.23);ヒト腹膜中皮細胞(HPMC)に投与したとき、SDF−1の発現を上方制御することが示された形質転換成長因子β(TGF−β);骨髄ストローマ細胞(BMSC)、ヒト骨芽細胞様細胞株と混合した初代ヒト骨芽細胞(HOB)に投与したとき、SDF−1の発現を上方制御することが示された、IL−1β、PDGF、VEGF、TNF−aおよび、PTH(Bone、2006、Apr;38(4):497〜508);骨髄細胞(BMC)に投与されたとき、発現を上方制御することが示されたチモシンβ(Curr.Pharm.Des.2007;13(31):3245〜51);および骨髄由来の前駆細胞に投与されたとき、SDF−1の発現を上方制御することが示された低酸素誘導因子1α(HIF−1)(Cardiovasc.Res.2008、E.Pub.)が挙げられる。これらの薬剤を使用し、特定の心筋症を治療することができ、特定のサイトカインに対してSDF−1の発現を上方制御することができるこのような細胞が存在するか、または投与される。
【0120】
SDF−1を発現させ、発現を増加させ、および/または上方制御するSDF−1タンパク質またはSDF−1剤を、無希釈で、または医薬組成物の状態で、心筋組織の弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域に投与することができる。医薬組成物は、治療される弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域の細胞に、SDF−1または薬剤を局所的に放出することができる。本出願の医薬組成物は、一般的に、その意図する用途に依存して、最終濃度の範囲を与えるように、許容され得る医薬希釈剤または賦形剤(例えば、滅菌水溶液)と混合した所定量のSDF−1または薬剤を含むだろう。調製技術は、一般的に、参照により本明細書に組み込まれるRemington’Pharmaceutical Sciences、第16版、Mack Publishing Company、1980によって例示されるように、当該技術分野でよく知られている。さらに、ヒトへの投与のために、製剤は、FDA Office of Biological Standardsによって要求されるような無菌性、発熱原性、全体的な安全性および純度の基準を満たすべきである。
【0121】
医薬組成物は、単位投薬量の注射可能な形態(例えば、溶液、懸濁物および/または乳化物)であってもよい。注射に使用可能な医薬配合物の例としては、滅菌水溶液または分散物、および滅菌の注射可能な溶液または分散物に再構築するための滅菌粉末が挙げられる。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリコール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、デキストロース、生理食塩水、またはリン酸緩衝化生理食塩水、これらの適切な混合物および植物油を含む溶媒または分散媒体であってもよい。例えば、コーティング(例えば、レシチン)の使用によって、分散物の場合には必要な粒径を維持することによって、界面活性剤の使用によって、適切な流動性を維持することができる。非水性ビヒクル(例えば、綿実油、ゴマ油、オリーブ油、大豆油、トウモロコシ油、ヒマワリ油、またはピーナッツ油)およびエステル(例えば、ミリスチン酸イソプロピル)を、化合物の組成物のための溶媒系として使用してもよい。
【0122】
さらに、抗菌性防腐剤、酸化防止剤、キレート化剤およびバッファーを含め、組成物の安定性、無菌性および等張性を高める種々の添加剤を加えてもよい。微生物の作用の予防は、種々の抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などによって確保することができる。
【0123】
多くの場合に、等張剤、例えば、糖類、塩化ナトリウムなどを含むことが望ましいだろう。注射可能な医薬品形態の長期間にわたる吸収は、吸収を遅らせる薬剤(例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチン)の使用によってもたらすことができる。しかし、本明細書に記載する方法によれば、使用される任意のビヒクル、希釈剤または添加剤は、化合物と適合性でなければならないだろう。
【0124】
滅菌注射溶液は、所望な場合、種々の量の他の成分を含む必要な量の適切な溶媒に、本明細書に記載する方法を実施するときに利用される化合物を組み込むことによって調製することができる。
【0125】
医薬用「遅効性」カプセルまたは「徐放性」組成物または製剤を使用してもよく、一般的に適用可能である。遅効性配合物は、一般的に、長期間にわたって一定の薬物レベルを与えるように設計され、SDF−1または薬剤を送達するために使用されてもよい。遅効性配合物は、典型的には、心筋組織の弱くなった、虚血性、および/または梗塞周囲の領域の近傍に移植される。
【0126】
徐放性製剤の例としては、SDF−1または薬剤を含有する固体疎水性ポリマーの半透過性マトリックスが挙げられ、成形した物品(例えば、膜またはマイクロカプセル)の形態である。徐放性マトリックスの例としては、ポリエステル;ヒドロゲル;例えば、ポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリレート)またはポリ(ビニルアルコール);ポリラクチド、例えば、米国特許第3,773,919号;Lグルタミン酸とγエチル−L−グルタメートのコポリマー;非分解性エチレン−酢酸ビニル;分解性乳酸−グリコール酸コポリマー、例えば、LUPRON DEPOT(乳酸−グリコール酸コポリマーおよび酢酸ロイプロリドで構成される注射可能な微小球);およびポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸が挙げられる。
【0127】
エチレン−酢酸ビニルおよび乳酸−グリコール酸のようなポリマーは、100日間にわたって分子を放出することができるが、特定のヒドロゲルは、もっと短い期間、タンパク質を放出する。カプセル化される場合、SDF−1またはその薬剤は、体内で長期間維持されてもよく、37℃で水分にさらされた結果、変性または凝集を起こし、そのため、成体活性が低下し、および/または免疫原性が変わる場合がある。関与する機構に基づいて、合理的な戦略が利用可能である。例えば、凝集機構が、チオ−ジスルフィド交換による分子内S−S結合の生成を含む場合、スルフヒドリル残基を改変し、酸性溶液から凍結乾燥させ、含水量を制御し、適切な添加剤を添加し、特定のポリマーマトリックス組成物を開発することなどによって、安定化が達成される。
【0128】
特定の実施形態では、リポソームおよび/またはナノ粒子を、SDF−1または薬剤とともに使用してもよい。リポソームの生成および使用は、一般的に、以下にまとめられるように、当業者に知られている。
【0129】
リポソームは、水性媒体に分散したリン脂質から作られ、マルチラメラ同心円状二層小胞(マルチラメラ小胞(MLV)と呼ばれる)を自然に生成する。MLVは、一般的に、直径が25nm〜4μmである。MLVの超音波処理によって、コアに水溶液を含有する、直径が200〜500Åの範囲の小さなユニラメラ小胞(SUV)が生成する。
【0130】
リン脂質は、脂質と水のモル比に依存して、水に分散したとき、リポソーム以外の種々の構造を生成してもよい。低い比率で、リポソームは、好ましい構造である。リポソームの物理的特徴は、pH、イオン強度および二価カチオンの存在に依存して変わる。リポソームは、イオン性および極性の物質に低い透過性を示す場合があるが、高温では、相転移を受け、その透過性が顕著に変化する。相転移は、ゲル状態として知られる密に充填された規則的な構造から、流体状態として知られるゆるく充填した不規則な構造への変化を含む。相転移は、特徴的な相転移温度で起こり、イオン、糖類および薬物類に対する透過性が増加する。
【0131】
リポソームは、4つの異なる機構によって細胞と相互作用する。細網内皮系の食細胞(例えば、マクロファージおよび好中球)によるエンドサイトーシス;非特異的な弱い疎水力または静電力のいずれかによるか、または、細胞表面要素との特異的な相互作用による、細胞表面への吸着;リポソーム内容物の細胞質への同時放出を伴う、リポソームの脂質二重層の血漿膜への挿入による、血漿細胞膜との融合;およびリポソーム内容物が会合せずに、細胞膜または細胞内膜へのリポソーム脂質の移動、またはその逆の移動によるもの。リポソームの配合を変えると、どの機構が働くかが変わる場合があるが、1つより多い機構が同時に働く場合がある。
【0132】
ナノカプセルは、一般的に、安定で再現可能な様式で化合物を捕捉することができる。細胞内にポリマーが過剰に保持されることに起因する副作用を避けるために、このような超微細粒子(粒径がほぼ0.1μm)は、in vivoで分解することができるポリマーを用いて設計されるべきである。これらの要求を満たす生分解性ポリアルキル−シアノアクリレートナノ粒子は、本発明での使用が想定され、このような粒子は簡単に製造される。
【0133】
本出願の化合物から医薬組成物を調製するために、医薬的に許容され得る担体は、任意の形態(例えば、固体、液体、ゲルなど)であってもよい。固体担体は、1つ以上の物質であってもよく、希釈剤、香味剤、バインダー、防腐剤および/またはカプセル化材料として機能してもよい。
【0134】
重症虚血肢
本出願は、さらに、検者における重症虚血肢を治療する方法に関する。この方法は、複数の注射部位を用い、上側の肢(四頭筋)および/または下側の肢(主に腓腹筋)に直接的に筋肉内注射によってJVS−100を投与することを含む。JVS−100は、ヒトSDF−1 cDNAをコードする裸のDNAプラスミド(配列番号6のヌクレオチド配列を有するプラスミド)と5%デキストロースで構成される滅菌生体産物である。
【0135】
重症虚血肢(CLI)は、アテローム性の下肢末梢血管疾患(PVD)の最も進行した段階を表し、高い割合の心血管罹患率、死亡率および大切断術と関係がある。CLIの発生は、米国で1年に125,000〜250,000人の患者がいると概算されており、集団の年齢が上がるにつれて増えていくと予想される。PVDの有病率は、年齢に伴い顕著に増加し、65歳以上の米国人の約20%が罹患している。CLI個人のための現代の看護標準は、周囲を開く外科手術、血管内技術のいずれかによる下肢血管再生、または下肢切断(すなわち、血管再生が失敗したか、または実行可能ではない場合)を含む。CLI患者の1年死亡率は、25%であり、切断術を受けた患者の場合には45%まで高くなる場合がある。血管手技および手術の技術が進化しているにもかかわらず、CLI患者のかなりの割合が、血管再生に適していない。これらの患者の中で、30%が、大切断術を必要とし、23%が3ヶ月以内に亡くなっている。遮断された血管を開くか、または血管新生を刺激するための戦略は、精力的に研究されている。
【0136】
治療的血管形成は、最初にDr.Jeffrey Isnerによって、重篤なPVDと肢の壊疽を有する71歳の患者において1994年に評価され、血管由来成長因子または血管性成長因子を利用するCLI治療のための戦略である。これらの成長因子をコードする遺伝子は、虚血性組織に注射され、種々の作用機序によって虚血性組織への灌流を増加させようとする試みにおいて、血管新生を促進する。この研究では、ヒトプラスミドphVEGF165が、バルーン血管形成術によって遠位膝窩動脈に適用された。機能パラメータおよび血管造影パラメータは、12週間以内に向上し、クモ状血管腫および浮腫が、患部の肢に片側性に成長し、このことは、この治療が、局所的な血管新生効果を有することを示唆している。この先駆けとなる実験は、虚血性組織での血管新生成長因子の発現を増加させようと試みる実験的なCLI治療が、手術の結果が良くない患者に対し、肢の機能を回復し、保存する血管新生の可能性を与え有益であり得ることを示唆した。最近の研究は、血管新生を刺激するケモカインが、重症虚血肢患者の肢の機能を保持し、回復することに向けた治療の重要な要素であり得ることを示した。
【0137】
非ウイルス性遺伝子送達、つまり、裸のプラスミドDNAを適用し、特定部位で治療タンパク質を発現することは、15年にわたって虚血性患者に臨床試験されてきた方法の中で、単純な送達方法である。ウイルスベクター治療による送達と比較したとき、ウイルスベクター送達によって誘発される顕著な炎症応答を生じないため、非ウイルス性遺伝子送達の安全性プロフィールも魅力的である。前臨床および臨床のかなりの文献が、治療遺伝子の非ウイルス性送達が、重症虚血肢、心筋症および創傷治癒のような疾患モデルで安全であり、有効であることを示している。特に、線維芽細胞成長因子(FGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、肝細胞成長因子(HGF)をコードするプラスミドを使用し、良くない血管系または損傷を受けた血管系によって傷つけられた領域に対する側副血行を増加させようとする試みにおいて、CLI患者を治療する。重要なことに、非ウイルス性のFGFおよびVEGF遺伝子の治療の臨床的な使用は、今日まで顕著な安全性の問題が報告されておらず、安全であることが示されている。いくつかの第I相および第II相の試験では、休息時の痛みまたは組織の壊死を有する、再構築されない重篤なPVD患者に、非ウイルス性FGF(NV1FGF)の筋肉内注射によって治療を行った。NV1FGFの投薬量を1回増加させ(16mgまで)および繰り返し増加させ(8mgまでを2回)、虚血性の大腿部および腓腹に裸のプラスミドDNAを用いて注射した。NV1FGFは忍容性が良好であり、患者38例の6ヶ月後のフォローアップで、ベースライン値と比較して、疼痛スケールおよび虚血性潰瘍の大きさが顕著に低下し、TcPO2の増加が観察された。CLIを治療するための裸のプラスミドDNAの使用を調べる大規模の第III相治験(例えば、皮膚病変を有するCLI患者におけるNV1FGFの効能および安全性を評価する多施設での二重盲検プラセボ比較試験、TAMARIS治験)が進行中であり、プラセボまたはNV1FGFの筋肉内注射に割り当てられた患者490例を含むだろう。
【0138】
これらの非ウイルス性遺伝子治療は、今日まで安全性の問題が示されておらず、NV1FGFは、第II相臨床データに基づき、CLI被検者に利点を与えるようである。これを、安全性の問題なく、脈管形成および心臓の機能の向上を示す虚血心不全のACRX−100治療の本願発明者らの従来の前臨床研究とあわせると、ACRX−100が安全であり、脈管形成を向上させ、最終的に、重症虚血肢患者に臨床的な利点を与えることが仮定される。
【0139】
SDF−1は、傷害後に複数の組織で上方制御され、4〜5日間発現すると決定されている。複数のグループが、虚血性心筋症、末梢血管疾患、損傷治癒、重症虚血肢および糖尿病を含め、広範囲の疾患におけるSDF−1治療の治療可能性を示した。SDF−1は、幹細胞および前駆細胞の強力な化学誘引物質であり、組織の保護および血管の成長を促進する。あわせると、これらの報告は、SDF−1が、組織傷害の修復機能および回復機能を促進し得ることによる保存された経路おyび作用機序を指摘している。これにより、本願発明者らは、虚血性心血管疾患を治療するためのACRX−100(デキストロース溶液中、SDF−1をコードする非ウイルス性の裸のDNAプラスミド)を開発した。GLPの安全性および毒性の試験では、ACRX−100は、心不全のブタモデルにおいて、30mgまでの機能の利点および100mgまでの安全性の利点を示した。本願発明者らは、現在、虚血性心不全患者を治療するためにACRX−100を用いる、第I相の多施設での非盲検の用量漸増臨床治験に登録している。
【0140】
本願発明者らの研究は、いくつかのグループからの研究と一致して、ACRX−100が、心臓での脈管形成を顕著に増加することを示した。これらの研究は、慢性的に損傷を受けた組織に対する幹細胞のホーミングを再確立し、重症虚血肢から、組織の修復が再開し、強力に血流を向上させ得ることを示唆する。同グループは、ウサギの虚血性後肢にACRX−100を直接的に筋肉内注射すると、コントロール治療を受けた動物と比較して、組織の血管再生を促進することを集中的に示しており、このことは、ACRX−100が、重症虚血肢(CLI)患者を治療する有望な治療候補物質であることを示唆している。CLIの発生は、米国で1年に125,000〜250,000人の患者がいると概算されており、集団の年齢が上がるにつれて増えていくと予想される。CLI患者のための現代の看護標準は、周囲を開く外科手術、血管内技術のいずれかによる下肢血管再生、または下肢切断(すなわち、血管再生が失敗したか、または実行可能ではない場合)を含む。CLI患者の1年死亡率は、25%であり、切断術を受けた患者の場合には45%まで高くなる場合がある。血管手技および手術の技術が進化しているにもかかわらず、CLI患者のかなりの割合が、血管再生に適していない。
【0141】
配列番号6のヌクレオチド配列を有するプラスミドは、ヒトSDF−1 cDNAをコードする裸のDNAプラスミドを含む。ACRX−100は、配列番号6のヌクレオチド配列を有するプラスミドと5%デキストロースで構成される滅菌生体産物である。
【0142】
配列番号6のヌクレオチド配列を有するプラスミドは、哺乳動物組織においてヒトSDF−1 cDNAを発現するように設計された裸のDNAプラスミドである。プラスミド骨格は、ColE1由来およびカナマイシン耐性マーカーからなる。SDF−1導入遺伝子発現は、CMVエンハンサー/プロモーター、CMV−イントロンAおよびRU5翻訳エンハンサーによって駆動する。有効ポリアデニル化は、ウシ成長ホルモンポリAサシグナルl配列の組み込みによって確保される。これは、心不全患者の治療に使用されるのと同じプラスミドおよび配合物である。本願発明者らは、重症虚血肢患者の治療のためのACRX−100を開発している。ACRX−100は、直接的な筋肉内注射のために配合される。この計画された投薬計画は、複数の注射部位を用い、上側の肢(四頭筋)および/または下側の肢(主に腓腹筋)への1回または複数回の投薬量の投与で構成される。
【0143】
SDF−1(CXCL12としても知られる)は、組織傷害に応答してすばやく上方制御される天然由来のケモカインである。SDF−1の誘発は、多くの保護的な抗炎症経路を刺激し、炎症誘発メディエータ(例えば、MMP−9およびIL−8)の下方制御を引き起こし、Aktのカスケード媒介型の活性化を阻害することによって、細胞をアポトーシスから保護することができる。さらに、SDF−1は、組織損傷部位に対する内因性臓器特異的な骨髄に由来する幹細胞および前駆細胞の強力な化学誘引物質であり、組織の保護および血管の成長を促進する。従来の研究は、SDF−1発現が損傷部位で増加するが、発現は1週間未満しか続かず、従って、誘発される幹細胞のホーミング応答は、すばやく消えることを示している。このSDF−1発現の短い持続時間は、組織修復の可能性を低下させるが、SDF−1が幹細胞のホーミングプロセスを刺激する能力を延長するか、または再び導入する治療的介入が、損傷した組織を有する患者にとって有益であり得ることを示唆する。この仮説に基づき、Penn博士の実験室は、MIから1ヶ月後にSDF−1を過剰発現する心臓線維芽細胞を注射することによってSDF−1を再導入すると、骨髄由来の内因性臓器特異的な幹細胞の心臓へのホーミングの再確立、損傷した組織内で新しい血管の成長、心臓の機能の80%を超える増加が得られたことを示した。SDF−1を過剰発現する骨格筋芽細胞をMIから8週間後に注射しても、心臓の機能が顕著に向上した。さらに、SDF−1は、損傷した組織への循環する幹細胞の動員を増やし、新しい血管を生成させ、損傷した領域への灌流を増加させることによって、心臓の機能を向上させた。これらの効果を、心筋のかなりの保護とともに、SDF−1を過剰発現するMSCを、急性MI後のラットに送達すると、心臓の機能が240%増加したことを示した。この生物学的応答は、虚血性傷害に応答して多くの臓器系で保存された。
【0144】
本願発明者らによって観察されるSDF−1治療の利点は、他の独立した実験室での最近の研究によって立証された。SDF−1は、急性MI後のラットにおいて、ナノファイバーに包まれたタンパク質によって、MI後マウスにおいて、フィブリンパッチを介する組み換えタンパク質によって、または急性MI後マウスにおけるタンパク質の直接的な心筋内注射によって送達された場合、虚血性心筋症における心臓の機能を向上させる。SDF−1をコードするプラスミドをMI境界領域に注射すると、循環する幹細胞をMI境界領域に誘引することが示された。同様に、患者自身の筋肉から成長し、SDF−1を発現するように遺伝子操作された筋芽細胞または筋肉幹細胞を使用する再生細胞治療は、心不全の治療の全臨床的効能を示し、虚血により損傷した組織を修復し、REGEN治験での機能を増加させるために、臨床治験において患者について試験される。あわせて、複数の実験室から公開されているこれらのデータは、こ送達方法と独立して、SDF−1の過剰発現が、虚血の病因を有する疾患において機能的な有益性を与えるとを示す。
【0145】
虚血性筋肉におけるSDF−1発現の再刺激は、血流が悪いことによって損傷を受けた血管を再生することによって、CLIの治療の高い治療可能性を与える。これにより、肢の再生において機能を修復し、保持する機会を与える。血管構造の再成長は、VEGF細胞または幹細胞を用いた多くの臨床治験において、救肢率を向上させることが示された。Yamaguchi et alは、SDF−1タンパク質の局所送達が、EPC投与後の虚血性後肢の血管新生を高めることを報告し、このことは、SDF−1が、EPCによって誘発される脈管形成を強化することを示唆している。同様に、Hiasa et alは、SDF−1遺伝子導入が、VEGF/eNOSに関連する経路によってin vivoで、虚血によって誘発される脈管形成および血管新生を高めることを示した。
【0146】
これらの観察結果は、最近、慢性CLIの膝周辺切断術を受けた患者から得た骨格筋の分析において確認された。SDF−1およびその受容体CXCR4の発現は、骨格筋線維および微細血管でそれぞれ増加した。このことは、SDF−1/CXCR4修復軸は、通常の治癒のための微細血管成長を刺激しようとする試みにおいて、虚血性肢筋肉において慢性的に上方制御されたことを示唆するが、このような低レベルでは十分ではない。シグナルを増幅するためのACRX−100遺伝子治療を用いることによって、本願発明者らは、損傷した組織ですでに開始した治癒プロセスと相乗的に構築することができるだろう。従って、ACRX−100は、次世代の治療のための血管新生のための新規ケモカイン治療を表す。
【0147】
マスターセルバンクおよびバルクプラスミド産生の概要
心不全の第I相臨床治験に使用される薬物物質の製造は、専用の試薬および材料を用い、300Lのスケールで達成された。本願発明者らが提案した第I/II相のCLI治験のために、本願発明者らは、本願発明者らの正規のマスターセルバンクおよびすでに確立された品質試験サービスを用いた合理化した薬物製造を利用することによって得られた本願発明者らの経験を活用することができるだろう。一般的な動物を含まない成分および滅菌USPグレードの水またはもっと高品質のものを用い、すべての媒体を調製した。細菌溶解物のためのすべてのバッファーは、それぞれの分析証明書に基づく製造のために上市されている。大スケールの溶解は、RNaseを用いることなく、バブル素子によって達成される。すべてのクロマトグラフィー用バッファーは、USPグレードまたは同等の試薬がAldevronから製造され、内部仕様を満たした後に上市される。すべての無菌処理は、環境的に制御されたクリーンルーム内で行われる。クリーンルーム設備は、2つのドアを備える着衣のための準備室(Class 10,000、ISO 7)と、主要なクリーンルーム(Class 10,000)につながる壁面の窓とからなり、内側は、クラス1000(ISO 6)のルームであり、最終的な充填/仕上げのためのクラス−100(ISO 5)のバイオセイフティフードがついている。使用および管理、洗浄(それぞれのバッチの後)、環境監視のための手順は、所定位置で行われる。バルクプラスミド溶液を濾過滅菌し、必要な場合には、濃縮して調整し、薬製品のバイアルに最後に分注するために、−75℃+5℃で保存した。
【0148】
この製造の最終工程は、滅菌バルク容器内での滅菌溶液の無菌希釈である。従って、初期の開発について、薬物物質は、滅菌であると明記された。
【0149】
薬物製品製造の概要
バルクプラスミドを、ISO 5の生物学的安全キャビネット(BSC)を収容するクラスISO 6のクリーンルームに移す。すべての接触する材料は、あらかじめ滅菌され、発熱物質を含まず、使用のための上市された使い捨て物品は、製造業者の分析証明書に基づく。処理をBSCで行う。最初に、バルクプラスミド溶液を、注射のためのUSPデキストロース(5%)を用い、最終的な目標濃度になるまで希釈した。混合した後、次いで、滅菌プラスミド溶液を、あらかじめ滅菌した最終血清バイアルにピペットで手動で移す。産物を−75+5℃で保存する。媒体の要素と下流の試薬の代表的なリストは、その品質情報とともに、INDで与えられるだろう。
【0150】
安定性
安定性試験は、ACRX−100の前臨床ロットが、−20℃で製造から1年まで安定であることを示した。臨床グレードのACRX−100(ロット24370D−F)は、現在、促進状態(5±3℃)および標準状態(−20±4℃)での安定性試験中であり(表1)、結果は、前臨床の安定性の知見を超えると予想される。結果は、INDで報告される。以下の試験は、外観、同一性(アガロースゲル電気泳動)、濃度(A260/A280)、均質性(密度)、有効性、pHを含む安定性プログラムの一部として行われる。無菌性試験は、上市時、6ヶ月目、その後は年に1回行われる。
【0151】
【表2】
X=すべての条件、保存無菌性Y=無菌性
【0152】
ACRX−100の非臨床の薬理学および毒物学
「ケモカイン薬」は、幹細胞を刺激し、組織傷害部位に幹細胞を動員する能力に起因して、近年、かなり注目をあびている。ACRX−100は、ヒト細胞での遺伝子発現によってヒトケモカインSDF−1を送達する遺伝子治療剤である。ACRX−100によって産生される活性タンパク質SDF−1は、虚血により損傷した心筋の心臓の機能を一時的に離れたところから向上させ、CXCR4ポジティブ幹細胞を動員することによって、創傷を受けた上皮の治癒速度を向上させることが示された。SDF−1は、急性CLI患者で血管新生促進活性を示し、慢性CLI患者で下方制御され、このことは、慢性CLIでの新たなSDF−1発現に向かわせる治療が、成体の血管に骨髄由来の細胞を動員することによって脈管形成を強化し得ることを示唆している。
【0153】
配列番号6のヌクレオチド配列を有し、薬製品ACRX−100に配合されるプラスミドは、虚血性心血管疾患および後肢の虚血の動物モデルで試験された。効能、安全性および生体分布について、心不全のブタモデルにおいて、心臓内投与によってACRX−100を試験し、無有害量(NOAEL)100mgが確立された。現在、心不全の非臨床試験および臨床治験で使用するよりも低い投薬量で投与したACRX−100の同一の配合物を評価し、CLIに与えられる潜在的な治療利益を決定する。ACRX−100を用いた1回投薬量の効能、毒性学および生体分布の試験を、後肢虚血ウサギで行った。この試験は、ACRX−100が、重症虚血肢の治療のための治療可能性を有し、ウサギの虚血性後肢へのACRX−100の筋肉内注射は、毒性または組織病理の変化の徴候はなかったことを示した。さらに、配列番号6のプラスミドのヌクレオチド配列を有するプラスミドは、すべての臓器から本質的に排泄されるが、1回投薬した後の治療後60日目の虚血性肢からは排泄されなかった。繰り返し投薬の効能および安全性(毒性学および生体分布)の試験は、CLI患者において、3回までのACRX−100投薬をするように、後肢虚血のウサギモデルで計画される。
【0154】
以下の実施例は、単なる説明の目的のためであり、添付する特許請求の範囲を限定することを意図したものではない。
【実施例】
【0155】
実施例1:
ストローマ細胞由来因子−1、すなわち、SDF−1は、発現が組織傷害に応答してすばやく上方制御される天然由来のケモカインである。SDF−1の誘発は、多くの保護的な抗炎症経路を刺激し、炎症誘発メディエータ(例えば、MMP−9およびIL−8)の下方制御を引き起こし、細胞をアポトーシスから保護することができる。さらに、SDF−1は、組織損傷部位に対する内因性臓器特異的な骨髄に由来する幹細胞および前駆細胞の強力な化学誘引物質であり、組織の保護および血管の成長を促進する。SDF−1の発現が増加すると、虚血性動物モデルにおいて心臓の機能が向上するという観察結果に基づき、本願発明者らは、虚血性心血管疾患の治療のための非ウイルス性の裸のDNA SDF−1をコードするプラスミドを開発することに集中した。一連の開発中、以下に記載する細胞培養物および小動物試験の結果に基づき、プラスミドを最適化した。配列番号6のヌクレオチド配列を有するプラスミドは、心臓組織において導入遺伝子を発現し、常に、虚血性心筋症の前臨床動物モデルにおける心臓の機能を向上させる能力に基づいて選択した。配列番号6のヌクレオチド配列を有するプラスミドへのSDF−1導入遺伝子発現は、CMVエンハンサー/プロモーター、CMV−イントロンAおよびRU5翻訳エンハンサーによって駆動する。薬製品JVS−100(以前はACRX−100)は、5%デキストロース中、配列番号6のヌクレオチド配列を有するプラスミドで構成される。
【0156】
心不全のラットモデルの初期試験は、ACL−01110S(配列番号6のヌクレオチド配列を有するプラスミドに対するSDF−1発現前駆体)が、MIから4週間後のラット心臓の梗塞境界領域にプラスミドを直接注射した後に、心臓の機能が向上したことを示した。利益は、注射から少なくとも8〜10週間持続し、ACL−01110Sで治療された動物における脈管形成の増加と相関関係にあった。ACL−01110Sを改変し、発現プロフィールを最適化した。
【0157】
MIラットモデルにおけるプラスミド用量依存性発現
ラットの心臓組織で最大発現を与える注射液あたりのプラスミド投薬量を決定するために、ACL−00011Lルシフェラーゼプラスミドの投薬量を上げつつ(10、50、100、500μg)を梗塞したラットの心臓に注射した。Lewisラットを胸骨正中切開し、左前下行枝(LAD)を永久的にライゲーションし、MI周囲の1箇所に100μlのPBS中のACL−00011Lプラスミドを注射した。非侵襲性生物発光イメージング(Xenogen、Hopkinton、MA)によって、ベースラインおよび注射から1日後、2日後、3日後、4日後および5日後に、全身ルシフェラーゼ発現を各投薬量コホート(n=3)で測定した。ピーク発現は、100 11gの投薬量まで増加し、もっと高い投薬量では飽和した。この投薬量−応答曲線に基づき、100μgの投薬量が、ラットの心臓において最大のプラスミド発現に十分であると決定された。ACL−00011Lは、SDF−1を発現するACL−00011Sの構築で用いられるものと同等のベクター骨格からルシフェラーゼ遺伝子を発現した。
【0158】
虚血性心不全のラットモデルにおける心臓でのベクター発現の比較
いくつかのSDF−1プラスミド候補物質のルシフェラーゼを発現する等価物を、心筋梗塞(MI)のラットモデルにおける心臓組織内の発現について調べた。プラスミド候補物質は、発現を駆動するプロモーターと、エンハンサー要素の存在という点で異なっていた。Lewisラットを胸骨正中切開し、左前下行枝(LAD)を永久的にライゲーションし、閉胸した。4週間後、胸部を再び開き、ルシフェラーゼを発現するプラスミドを、心筋梗塞周囲の部位4箇所に直接注射した(注射液あたり、100μlで100μg)。注射から1日後、2日後、4日後、6日後、8日後、10日後(およびその後、3〜4日ごと)に、ラットに麻酔をかけ、ルシフェリンを注射し、全身Xenogen Luciferaseイメージングシステムを用いてイメージングした。
【0159】
ACL−00011LおよびACL−01110Lの2つのCMVで駆動される試験プラスミドから、注射から24時間以内に検出可能なルシフェラーゼ発現を得て、注射から2日後に発現の最初のピークを有していた。
【0160】
ACL−01110Lのピーク発現は、ACL−00011Lより7倍大きく、発現は約10日間長かった(注射後16日間続く)。対照的に、ACL−00021L(αMHCによって駆動するプラスミド)は、最初のピークを示さないが、注射から25日間ずっと低レベルで発現した。これらの結果は、心臓における局在化された一時的なタンパク質発現のためにCMVによって駆動するプラスミドを使用することができ、治療タンパク質発現の時間枠は、エンハンサー要素を含むことによって調整することができることを示す以前の研究を裏付けている。
【0161】
MIのラットモデルにおけるSDF−1プラスミドの効能
機能に関する心臓の利益を達成することができるか否かを決定するために、SDF−1をコードするプラスミドをMIラットモデルにおいて試験した。Lewisラットを胸骨正中切開し、第1の分岐点のすぐ近くで、LADを永久的にライゲーションした。4週間後、胸部を再び開き、3種類のSDF−1を発現するプラスミド(ACL−01110S、ACL−00011SまたはACL−00021S)の1つ、または生理食塩水をMI周囲4部位に注射した(注射液100μlあたり、100μg)。
【0162】
ベースライン(注射前)、注射から2日後、4日後、8日後に、ラットに麻酔をかけ、M−モードの超音波心臓検査でイメージングした。無作為化して盲検にした訓練した超音波検査士によって、LVEF、左室内径短縮率およびLV寸法を測定した。
【0163】
CMVによって駆動するプラスミド、ACL−01110SおよびACL−00011Sは、両方とも、生理食塩水コントロールと比較して、心臓の機能が向上する強い傾向が観察された。ACL−01110Sは、4週目に左室内径短縮率の有意な増加を誘発し、注射後8週間まで持続した。対照的に、αMHCによって駆動するプラスミドACL−00021Sと生理食塩水とで、機能の差は観察されなかった。さらに、コントロールと比較して、ACL−01110SおよびACL−00011Sで治療した動物は、大血管密度が有意に増加し(ACL−01110S:21±1.8血管/mm2;ACL−00011S:17±1.5血管/mm2;生理食塩水:6±0.7血管/mm2、対生理食塩水で、両方ともp<0.001)、梗塞の大きさが低下した(ACL−01110S:16.9±2.8%;ACL−00011S:17.8±2.6%;生理食塩水:23.8±4.5%)。重要なことに、ACL−01110Sで治療すると、心臓の機能および脈管形成が最も大きく向上し、梗塞の大きさは、低下度が最も大きかったことを示した。
【0164】
まとめると、虚血心不全のラットモデルで、CMVプロモーターによって駆動する、SDF−1をコードするプラスミドは、両方とも、生理食塩水治療と比較して、機能に関する心臓の利益を与え、脈管形成が増加し、梗塞の大きさが低下した。試験したすべてのパラメータで、ACL−01110Sは、最も有意な利益を与えた。
【0165】
H9C2細胞における配列番号6のヌクレオチド配列を有するプラスミドとACL−01010Skのトランスフェクション効率
トランスフェクション試薬を用いないH9C2の心筋細胞のin vitroでのトランスフェクション(すなわち、裸のプラスミドDNAを培養物中の細胞に加えた)を使用し、本願発明者らのGFP態様からプラスミドベクター、配列番号6のヌクレオチド配列を有するプラスミドおよびACL−01010Skを生じるin vivoトランスフェクション効率を概算した。H9C2細胞をin vitroで培養し、種々の量のpDNA(0.5μg、2.0μg、4.0μg、5.0μg)を5%デキストロースに加えた。配列番号6のヌクレオチド配列を有するプラスミド(ACL−01110G)またはACL−01010Sk(ACL−01010G)の骨格からGFPベクターを構築した。トランスフェクションから3日後に、GFP蛍光をFACSによって評価し、トランスフェクション効率を概算した。5%デキストロース中のACL−01110GベクターおよびACL−01010Gベクターのトランスフェクション効率は、1.08〜3.01%の範囲であった。試験したそれぞれの量のpDNAsで、両方のベクターは、in vitroでのトランスフェクション効率が同様であった。本願発明者らは、この試験で観察された1〜3%のトランスフェクション効率が、in vivoでの同様のレベルのトランスフェクション効率を示す以前の試験からの治験と一致していると結論付ける。具体的には、JVS−100は,限定されているが、十分な数の心臓細胞をトランスフェクションし、治療量のSDF−1を産生する。
【0166】
実施例2:
ブタ心筋のプラスミドの発現
ACRX−100の効能および安全性を試験するために、左前下行枝(LAD)のブタ閉塞/再灌流MIモデルを、適切な大きな動物のモデルとして選択した。このモデルでは、さらなる心臓リモデリングのための時間を可能にし、慢性虚血性心不全を模倣するために、MIと治療との間に4週間の回復が与えられる。
【0167】
手術手順
ヨークシャーブタに麻酔をかけ、活性化凝固時間(ACT)が300秒以上になるようにヘパリン化し、背殿位に置いた。LVの輪郭を決定するために、左心室造影を、前側−後側、側面の図で行った。
【0168】
ブタ心筋へのルシフェラーゼプラスミドの送達
変形可能なガイドカテーテルデバイスを、大動脈弁を逆行して左心室に進ませ、ガイドワイヤを除去し、LV心内膜ニードル注射カテーテルを、ガイドカテーテルを介し、LV空洞に入れた。ルシフェラーゼプラスミドを、所与の体積および濃度で、心臓の中隔または側面のいずれかにある4部位に注射した。5種類のプラスミド濃度(0.5、2、または4mg/ml)および部位の注射容積(0.2、0.5、1.0ml)の組み合わせを試験した。プラスミドを0.5mg/glで、USPデキストロースで緩衝化し、その他すべてをUSPリン酸緩衝化生理食塩水で緩衝化した。各注射液について、ニードルを心内膜に挿入し、遺伝子溶液を0.8〜1.5ml/分の速度で注射した。注射後、ニードルを15秒間、その場に保持し、次いで、抜き取った。注射が終わった後、すべての器具をはずし、切開部を閉じ、動物を回復させた。
【0169】
心筋組織の収集
注射から3日後、動物を解剖した。安楽死の後、心臓を取り出し、計量し、血液が透明になるまで、乳酸リンゲル液を灌流した。LVを開き、注射部位を特定した。各注射部位の周囲1cm立法の組織片を採取した。注射部位から離れた後壁から、ネガティブコントロールとして4つの立方体片を集めた。組織サンプルを液体窒素中で凍結させ、−20〜−70℃で保存した。
【0170】
ルシフェラーゼ発現の評価
組織サンプルを解凍し、5mlガラス管に入れた。溶解バッファー(0.5〜1.0ml)を加え、Polytron均質化装置(PT1200型)を用い、氷上で組織を破壊した。組織均質物を遠心分離処理し、Bio−rad Detergent−Compatible(DC)タンパク質アッセイおよび既知の量のウシ血清アルブミン(BSA)の標準曲線を用い、各組織サンプルについて上清のタンパク質濃度を決定した。ルシフェラーゼアッセイキット(Promega)を用い、組織サンプル均質物(1〜10μl)をアッセイした。
【0171】
実験結果を図1に示す。図1に示す。このデータは、ベクターの発現が、注射容積の増加と、DNA濃度の増加に伴って増加することを示す。
【0172】
実施例3−虚血性心筋症のブタモデルにおけるSDF−1プラスミド治療による心臓の機能の向上
心筋梗塞の誘発
ヨークシャーブタに麻酔をかけ、活性化凝固時間(ACT)が250秒以上になるようにヘパリン化し、背殿位に置いた。ガイドカテーテルを介してLAD方向に、LADの最初の主要な分岐点まで進めることによって、バルーンカテーテルを導入した。次いで、バルーンを、動脈の閉塞を完全に確保するのに十分な圧力まで膨らませ、動脈内で90〜120分間、膨らませたまま放置した。蛍光透視法を用い、バルーンの完全な膨らみ、しぼみを確認した。次いで、バルーンをはずし、切開部を閉じ、動物を回復させた。
【0173】
登録基準
MIから1ヶ月後に、それぞれのブタの心臓の機能を超音波心臓検査によって評価した。LVEFが40%未満であり、LVESVが56.7mlより大きい場合、ブタをこの試験に登録した。
【0174】
手術手順
それぞれの登録したブタに麻酔をかけ、活性化凝固時間(ACT)が300秒以上になるようにヘパリン化し、背殿位に置いた。LVの輪郭を決定するために、左心室造影を、前側−後側、側面の図で行った。
【0175】
配列番号6のヌクレオチド配列を有するSDF−1プラスミドの心筋への送達
それぞれのブタを、治療から3日後、30日後、または90日後の3種類の死亡点の1つに無作為に分け、コントロール(20回注射、バッファーのみ)、低(15回注射、0.5mg/ml)、中(15回注射、2.0mg/ml)、または高(20回注射、5.0mg/ml)の4つの治療群の1つに無作為に分けた。
【0176】
すべてのプラスミドをUSPデキストロースで緩衝化した。注射手順を以下に記載する。変形可能なガイドカテーテルデバイスを、大動脈弁を逆行して左心室に進ませ、ガイドワイヤを除去し、LV心内膜ニードル注射カテーテルを、ガイドカテーテルを介し、LV空洞に入れた。無作為化した投薬量でのSDF−1プラスミドまたはバッファーを1mlシリンジに入れ、カテーテルにつないだ。各注射の容積は、1.0mlであった。各注射液について、ニードルを心内膜に挿入し、この溶液を60秒間かけて注射した。注射後、ニードルを15秒間、その場に保持し、次いで、抜き取った。注射が終わった後、すべての器具をはずし、切開部を閉じ、動物を回復させた。
【0177】
解剖時に、心臓および他の臓器からの組織サンプルを切除し、PCRおよび組織病理学分析のために急速凍結した。
【0178】
心臓の機能の評価
各動物は、注射から0日目、30日後、60日後、90にち後(解剖するまで)の標準的な二次元超音波心臓検査によって評価した心臓の機能を有していた。左心室の容積、面積、壁運動スコアの測定は、独立した中心となる実験室によって行われた。測定した効能パラメータを以下の表1に示す。
【0179】
【表3】
【0180】
機能の向上に対するSDF−1プラスミドの影響を図2〜5に示す。図2〜4は、低用量および中容量のSDF−1プラスミドが、コントロールと比較して、注射から30日後にLVESV、LVEFおよび壁運動スコア指数を向上させ、一方、高用量では利益を示さないことを示す。図5は、低用量および中用量での心臓の利益が90日間続くことを示す。両方とも、病理学的リモデリングの顕著な減衰を示すため、すなわち、コントロールと比較して、LVESVの増加が小さい。
【0181】
脈管形成の評価
30日目に殺した動物について、それぞれのホルマリン固定した心臓から集めた7〜9の組織サンプルを用い、左心室の血管密度を評価した。ゲノムDNAを抽出し、ミニカラム精製手順(Qiagen)を用い、ホルマリン固定した組織サンプルから効果的に精製した。SDF−1治療された動物およびコントロール動物からのサンプルについて、定量的PCRによって、プラスミドDNAの存在を調べた。それぞれの動物についてバックグラウンドより少なくとも4倍高いプラスミドDNAのコピーを含有することがわかった3〜5の組織サンプル(コントロール動物を除く)を使用してスライドを調製し、イソレクチンで免疫染色した。断面を特定し、組織あたり20〜40の無作為に選んだ視野で血管を計測した。視野あたりの血管を、血管/mm2に変換し、それぞれの動物について平均をとった。各用量について、その用量を摂取したすべての動物から、データを平均血管数/mm2として報告する。
【0182】
図6は、機能の利益を得た両方の用量が、コントロールと比較して、30日目に血管密度も有意に増加することを示す。対照的に、機能が向上しなかった高用量は、血管密度の実質的な増加はなかった。このデータは、SDF−1プラスミドが虚血性心筋症の心臓の機能を向上させる推定上の生物学的機構を与える。
【0183】
生体分布データ
心臓組織および非心臓組織のJVS−100分布を、MIブタモデルにおける重要な効能および毒性試験において、注射から3日後、30日後、90日後に測定した。心臓組織において、それぞれの時間点で、平均JVS−100プラスミド濃度は、用量に伴って増加した。それぞれの用量で、JVS−100の排泄を、注射から3日後、30日後、90日後に観察し、90日目に約99.999999%が心臓組織から排泄された。JVS−100は、比較的高い血流を有する非心臓臓器に分布し(例えば、心臓、腎臓、肝臓および肺)、最も高い濃度は、注射から3日後に示された。JVS−100は、主に腎臓に存在し、これは、プラスミドの腎臓排泄と一致していた。30日目には低い量が持続しており、JVS−100は、90日目には、非心臓組織では本質的に検出することができなかった。
【0184】
結論
JVS−100で治療すると、心内膜心筋に7.5mgおよび30mgを1回注射した後の虚血性心不全を有するブタにおいて、血管の生成が有意に増加し、心臓の機能が向上した。試験した最も高用量のJVS−100(100mg)は、血管生成が増加する傾向を示したが、心臓の機能の向上は示さなかった。どの用量のJVS−100も、毒性の徴候、臨床的な病理学パラメータまたは組織学に対する有害な影響を伴わなかった。JVS−100は、主に心臓に分布し、治療から90日後に、約99.999999%が心臓組織から排泄された。JVS−100は、比較的高い血流を有する非心臓臓器に分布し(例えば、心臓、腎臓、肝臓および肺)、最も高い濃度は、注射から3日後に腎臓で示された。JVS−100は、注射から90日後には、体内では本質的に検出することができず、非心臓組織では、投与された投薬量のうち、わずかな無視できる量のみが見出された。これらの知見に基づき、MIブタモデルのJVS−100の無有害量(NOAEL)は、心内膜心筋注射によって投与された100mgであった。
【0185】
実施例4−ブタ探求調査:慢性MIブタにおける肝動脈注射によるLUC注射
方法
以前のLAD閉塞/再灌流MIがあり、EFが40%より大きい1匹のブタに、配列番号6のヌクレオチド配列を有するプラスミドを肝動脈カテーテルを用いて注射した。LADへの2回の注射およびLCXへの2回の注射を、注射容積2.5ml、合計注射時間125〜130秒で行った。LCXへの3.0mlのさらなる1回の注射を、合計注射時間150秒で、プラスミドと混合したコントラストとともに行った。
【0186】
殺動物および組織収集
注射から3日後、動物を安楽死させた。安楽死の後、心臓を取り出し、血液を抜き取り、氷で冷やした切断ボードの上に置き、治験責任者または病理学者がさらに解剖した。右心室を開き、隔膜から、注射していない心筋を得た。右心室を心臓から切断し、冷やして心筋保護した状態にした。それぞれの切断部分について、新しい手術用メスを使用した。
【0187】
次に、左心室を開き、頂点から底部まで6分割することによって、左心室全体を切断した。LVを均一に3つの切断片に分けた。切除後、それぞれの切断片を平らに置いた。各切断片(3つのLV切断片、1つのRV切断片、1つの胸筋)を、別個に、水の入った氷で冷やして心筋保護しつつ、ラベルを付けた容器に入れ、ルシフェラーゼ分析のために移した。
【0188】
ルシフェラーゼイメージング
すべての集めた組織をルシフェリンに浸し、Xenogenイメージングシステムでイメージングし、プラスミド発現を決定した。
【0189】
結果
心臓の代表的な画像を図8に示す。着色したスポットは、ルシフェラーゼ発現領域を示す。これらのスポットは、相対発光量(RLU)が106単位より大きく、バックグラウンドより2倍以上大きかった。このデータは、カテーテルが、心臓の顕著な部分でかなりのプラスミド発現を生成するのに十分なプラスミドを送達したことを示した。
【0190】
実施例5−臨床試験の例
投薬量を増やしつつJVS−100を投与し、虚血性心筋症の被検者のHFを治療した。安全性は、それぞれの投薬量で、あらゆる有害イベント(AE)を示すことによって追跡され、安全性のプライマリーエンドポイントは、30日目の主な心臓のAEの数である。それぞれのコホートで、被検者に、1回の投薬量のJVS−100を与える。すべてのコホートで、治療の効能は、標準的な超音波心臓検査測定、単光子放出コンピューター断層撮影(SPECT)イメージングによる心臓の灌流、New York Heart Association(NYHA)分類、6分間歩行距離およびクオリティオブライフによる心臓の機能に対する影響を測定することによって評価される。
【0191】
すべての被検者は、収縮機能障害、以前のMIといった既知の病歴を有し、今日までの適切な癌スクリーニングによって、現在癌ではないことを確認した。すべての被検者を、医師を受診し、超音波心臓検査測定によってスクリーニングする。さらなるベースライン試験、例えば、SPECT灌流イメージングを行う。各被検者は、梗塞境界領域内の部位への心内膜ニードルカテーテルによって送達されたJVS−100の15回の1mlの注射を受けた。3つのコホート(A、B、C)を調べる。表2に示すように、注射部位の数は一定の15箇所、注射容積は1mlに保持しつつ、注射部位あたりのDNAの量を増やすことによって投薬量を徐々に増やす。注射から約18時間後まで被検者をモニタリングし、注射してから3日後および7日後に通院を計画し、安全性の問題がないことを確保した。すべての必要な血液(すなわち、心臓の酵素、血漿SDF−1タンパク質の量)を確実に集めるため、注射から18時間経過するまで、患者は病院に滞在する。すべての被検者には、30日目(1ヶ月)、120日目(4ヶ月)、360日目(12ヶ月)までフォローアップを行い、安全性および心臓の機能を評価した。安全性のプライマリーエンドポイントは、治療送達から1ヶ月以内の主要有害心イベント(MACE)である。試験中、それぞれの被検者についてAEを追跡する。以下の安全性および効能のエンドポイントを測定する。
【0192】
安全性
・注射から30日後の主要有害心イベント(MACE)の数
・12ヶ月のフォローアップ期間全体の有害イベント
・実験室での血液分析(心臓の酵素、CBC、ANA)
・血漿SDF−1量
・身体評価
・超音波心臓検査
・AICDモニタリング
・ECG
【0193】
効能:
・LVESV、LVEDV、LVEFおよび壁運動スコア指数のベースラインからの変化
・NYHA分類およびクオリティオブライフのベースラインからの変化
・SPECTイメージングによって決定される灌流のベースラインからの変化
・6分間歩行試験の距離のベースラインからの変化
【0194】
【表4】
【0195】
前臨床データに基づき、JVS−100の送達は、4ヶ月目に心臓の機能および症状の向上を誘発し、12ヶ月目まで持続すると予想される。JVS−100注射から4ヶ月後、ベースライン値と比較して、6ヶ月歩行距離が約30メートルより長く向上し、クオリティオブライフが約10%向上し、および/またはNYHA分類が約1分類向上することが予想される。同様に、本願発明者らは、LVESV、LVEF、および/またはWMSIが、ベースライン値と比較して相対的に約10%向上すると予想する。
【0196】
実施例6−配列番号6のヌクレオチド配列を有するプラスミドまたはACL−01010Skで治療した後の慢性心不全のブタにおける超音波心臓検査による心臓の機能評価
目的
この試験の目的は、虚血性心不全のブタモデルにおいて、心内膜心筋送達した後に、配列番号6のヌクレオチド配列を有するSDF−1プラスミドと、ACL−01010Skとに対する心臓の機能を比較することである。
【0197】
この試験は、ブタの虚血性心不全モデルにおける機能の向上について、配列番号6のヌクレオチド配列を有するSDF−1プラスミドと、ACL−01010Skの効能を比較した。この試験で、心内膜心筋ニードル注射カテーテルによって、プラスミドを送達した。心臓リモデリング(すなわち、左心室の容積)および機能(すなわち、左室駆出率(LVEF))に対する治療の影響を超音波心臓検査によって測定することによって、効能を評価した。
【0198】
方法
簡単に言うと、雄ヨークシャーブタは、90分間のバルーン血管形成術によるLAD閉塞によって、心筋梗塞を与えられた。M−モードの超音波心臓検査によって測定される場合、梗塞から30日後に駆出率が40%未満のブタを登録した。ブタを、心室内ニードル注射カテーテル送達システムを用い、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS、コントロール)、配列番号6のヌクレオチド配列を有するプラスミド、またはACL−01010SkのいずれかをPBS中で注射する3群に無作為に分けた(表3)。
【0199】
【表5】
【0200】
超音波心臓検査図は、注射前、注射から30日後および60日後に記録された。以下の表4は、この報告で言及されるような変数を定義する。
【0201】
【表6】
【0202】
結果
超音波心臓検査の中心となる実験室で報告されるような、この報告で登録されたすべての動物(n=9)について、最初の注射の時(MIから30日後)のベースライン超音波心臓検査の特徴を以下の表5に提示する。
【0203】
【表7】
【0204】
表5は、最初の注射から0日目および30日後のLVESV、LVEF、LVEDVを示す。コントロールPBS動物は、LVESVおよびLVEDVの増加を示し、この心不全モデルと一致してLVEFの向上は示さなかった。この治療群は、コントロールと比較して、心臓の容積は減少せず、またはLVEFが増加しなかった。最初の注射から60日後に、同様の結果が得られた。
【0205】
実施例7:
心筋梗塞のブタモデルにおけるSDF−1のカテーテル系の経心筋送達による梗塞周囲の領域への幹細胞のホーミングを強化する戦略を観察し、左心室の灌流および機能を向上させるかどうかを決定した。細胞移植およびヒトにおける血管新生成長因子の送達のために、カテーテルによる手法が首尾良く使用された。
【0206】
雌ドイツランドレースブタ(30kg)を使用した。一晩絶食させた後、動物に麻酔をかけ、挿管した。
【0207】
動物を臥位にして、大腿動脈に7 Frenchシースを置いた。オーバーザワイヤバルーンを遠位のLADに進めた。次いで、バルーンを2atmで膨らませ、バルーンカテーテルを介し、寒天ビーズを遠位のLADにゆっくりと1分かけて注射した。1分後、バルーンをしぼませ、遠位のLADの閉塞を血管造影によって示した。心筋梗塞の誘発後、心拍および血圧が安定するまで、動物を3〜4時間モニタリングした。動脈シースをはずし、カルプロフェン(4mg/kg)を筋肉内投与し、動物を人工呼吸器から離した。心筋梗塞から2週間後、動物に麻酔をかけた。動物を臥位にし、8F大腿骨シースによって、左心室の電気機械マッピングを行った。左心室の完全なマッピングが得られた後、ヒトSDF−1(Peprotec、Rocky−Hill、NJ)を、18回の注射(100mlの生理食塩水中、5μg)によって、注射カテーテルによって梗塞領域および梗塞周辺の領域に送達した。注射あたり5μgを使用し、カテーテル注射の報告された効率になるように調節した。カテーテルの先端が左心室の壁に垂直になっており、ループ安定性が2mm未満であり、心筋へのニードルの突出が、心室異所性拍動を引き起こす場合にのみ、20秒かけてゆっくりと注射を行った。コントロール動物は、偽注射を用いた同一の手順を受けた。超音波心臓検査は、介入後の心外膜液を除外した。
【0208】
20匹の動物にこの試験プロトコルを完了させた。8匹がコントロール動物、12匹がSDF−1で治療された動物である。心筋灌流イメージングのために、技術的な問題に起因して、6匹のコントロール動物のみを評価することができる。梗塞の位置は、すべての動物において前壁中隔梗塞であった。
【0209】
テトラゾリウム染色によって決定されるような左心室に対する梗塞の大きさの割合は、コントロール群において8.9±2.6%、SDF−1群において8.9±1.2%であった。左心室の筋肉の容積は、両方の群で類似であった(83±14ml対95±10ml、p=ns)。免疫蛍光染色は、コントロール動物よりも、SDF−1で治療された動物において、梗塞周囲の領域において有意に多いvWFポジティブの血管であることがわかった(349±17/mm2対276±21/mm2、p<0.05)。コントロール動物と比較した場合、梗塞周囲の領域中のコラーゲンの顕著な消失が、SDF−1で治療された動物で観察された(32±5%対61±6%、p<0.005)。梗塞周囲の領域中の炎症性細胞の数(好中球およびマクロファージ)は、両方の群で類似であった(332±51/mm2対303±55/mm2、p=ns)。全体的な心筋灌流は、SPECTをフォローアップするために、ベースラインから変化せず、群間で差がなかった。最終的な梗塞の大きさは、両方の群で類似であり、テトラゾリウム染色の結果に十分に比較された。心筋灌流のセグメント別分析から、心尖部および前壁中隔の部分でのトレーサーの取り込みが低下し、心筋の各部分間で有意な差があることがわかった。しかし、ベースラインおよびフォローアップでのトレーサーの取り込みは、コントロール動物と、SDF−1で治療された動物でほぼ同一であった。拡張終期の容積と収縮終期の容積に群間差はなかった。しかし、コントロール動物では拍出量が増加し、SDF−1で治療された動物ではわずかに低下した。両方の群の差は、有意であった。
【0210】
同様に、駆出率は、コントロール動物で増加し、SDF−1で治療された動物では低下した。群間差は、強い傾向を示した(p=0.05)。心室の機械的な機能の別のパラメータである局所的な短縮は、コントロール動物で変化しなかった。しかし、SDF−1で治療された動物では、局所的な短縮は、有意に低下し、有意な群間差が得られた。群内および群間で単極電圧に有意な差はなかった。ベースライン駆出率、拍出量、ベースラインの局所的な短縮の間に有意な相関関係が示された(EFおよびLS:r=0.71、SVおよびLS:r=0.59)。フォローアップ値について同様の結果が得られた(EFおよびLS:r=0.49、SVおよびLS:r=0.46)。局所的な短縮の変化は、駆出率の変化(r=0.52)および拍出量の変化と有意に相関関係があった(r=0.46)。局所的な短縮と拡張終期の容積の相関関係はなく(ベースラインr=−0.03、フォローアップのr=0.12)、駆出率と拡張終期の容積との相関関係はなかった(ベースラインr=−0.04、フォローアップのr=0.05)。EEMデータの部分別分析は、前壁中隔部分では単極電圧および局所的な短縮の低下を示し、ベースラインでの心筋部分間に有意な差が示された。心筋部分における単極電圧値の分布は、ベースラインおよびフォローアップの両方で類似であった。部分別の局所的な短縮は、コントロール群で変化しなかった。しかし、主に、左心室の側面部分および後部分の減少に起因して、SDF−1群では低下した。SDF−1およびフォローアップ対ベースラインに対する割り当てに対する有意な相互作用はなかった。
【0211】
上述の研究は、SDF−1タンパク質を1回適用しただけでは、機能的な心臓の利益を与えるのに不十分であることを示した。
【0212】
実施例8−後肢虚血のラットモデルにおける、時間経過に伴うACRX−100ベクターの発現
目的
この試験の目的は、後肢虚血のげっ歯類モデルに直接的に筋肉内注射した後のACRX−100ベクター発現の持続時間を確立することであった。
【0213】
方法
ACRX−100(ロット番号25637)は、Aldevron,LLC(Fargo、ND)によって製造された。雄Lewisラットに麻酔をかけ、鼠径靱帯から膝関節まで、大腿内側を縦切開し、大腿動脈を露出させ、これをライゲーションし、除去した。10日間かけて動物を回復させ、次いで、麻酔をかけ、1.0、2.0または4mg/mlのACL−01110L(ルシフェラーゼcDNAを含むベクター骨格)を0.2ml、後肢に沿って4箇所の部位に直接的に注射した。Xenogen Imaging Systems製の電荷結合素子カメラを用い、1日目、2日目、3日目、8日目、10日目、14日目にルシフェラーゼ発現のためにベクターの発現を定期的に測定した。2%イソフルオランを用いて動物に麻酔をかけ、ルシフェリンを125mg/動物のkg数の濃度で腹腔内に注射した。10分後、1分間露光中にリアルタイム画像を得て、ルシフェラーゼ発現の全身化学発光を決定した。データは、全光束(ピクセル/秒)として測定された。
【0214】
結果
以前の研究と同様に、CMVによって駆動されるプラスミドACL−01110Lは、3日目にピーク発現を有していた(図11)。最低限の発現は、14日後にみられた。
【0215】
結論
虚血性ラット後肢におけるACRX−100発現は、3日目にピークに達し、14日目まで発現し、これは、ラットの心臓組織で測定される発現パターンと、CMVプロモーターによって駆動するベクター発現についてすでに公開された研究と一致している。このデータは、ACRX−100を繰り返し投薬する効能を評価する将来の研究について、2週間の投薬間隔が合理的であることを示唆する。この投薬間隔は、虚血性疾患を治療するための裸のプラスミドDNAを用い、CMV系ベクターが駆動する治療遺伝子発現(FGF、HGF、VEGF、HIF1)を用いるいくつかの治験で報告された投薬計画とも相関関係にある。
【0216】
実施例9−ウサギ後肢におけるACRX−100投薬のin vivoでの特性決定
目的
この試験の目的は、注射液の容積、pDNA濃度、配合物が、ウサギ後肢筋肉に直接注射してから3日後のACRX−100 pDNA発現に及ぼす影響を決定することであった。
【0217】
方法
3.0〜4.0kgの雄ニュージーランドシロウサギに麻酔をかけ、ルシフェラーゼプラスミドACL−01110Lを注射した。鼠径靱帯から膝関節まで、大腿内側を切開し、大腿動脈を露出させた。5%デキストロース中の0.5〜1.0mlのプラスミドACL−01110Lの4回または8回の注射液を、それぞれのウサギの肢の内転筋(2回注射)、薄筋(1回注射)、半腱様筋(1回注射)に0.1ml/秒で注射した。図13に従って、注射を6群に分けた。将来の特定のために、それぞれの損傷部位をナイロン縫合糸で特定し、創傷を縫い合わせて閉じた。それぞれの後肢を圧縮包帯で約15分間包んだ。注射から3日後、動物を殺し、注射部位を含む後肢筋肉を除去し、ルシフェリン(15mg/ml)に7分間浸し、IVIS Xenogen機を用い、生物発光イメージングを行った(図12)。全光束(秒あたりのピクセル)を1分露光後に評価した。
【0218】
結果
注射部位の巨視的評価は、炎症がないことを表し、プラスミドDNAは、すべての動物において、すべての用量で忍容性が良好であった。図13に示されるように、送達したすべての投薬量で発現が観察され、pDNA濃度の関数として発現が増加する。発現は、濃度2mg/mlおよび合計DNA投薬量4mgで頭打ちになるようであった(4〜6群)。もっと容積が多いか、または注射部位の数が多くても、発現は増加せず、このことは、十分な筋肉細胞トランスフェクションにおいてpDNA濃度が重要な因子であることを示唆している。
【0219】
結論
この試験は、ACRX−100ベクターのルシフェラーゼ態様は、注射から3日後に、検出するのに十分な量でウサギ後肢筋肉において遺伝子産物を発現することができることを示す。さらに、この試験は、ウサギ後肢における裸のプラスミドDNA発現は、pDNA濃度に伴って、2mg/mlまで増加することを示す。この試験は、注射あたり0.5〜1.0mlを用い、0.5〜2.0mg/mlのpDNAの4〜8箇所の注射部位によって、ウサギ後肢においてSDF−1を産生すべきであることを示唆する。
【0220】
実施例10−ACRX−100の完成した効能、安全性および生体分布の試験
ACRX−100の効能、安全性および生体分布は、ブタ心不全モデルにおいて直接的にカテーテルを介して心内注射した後のGLPブタの効能、安全性および生体分布の試験ですでに決定された(実施例3にまとめている)。ACRX−100は、虚血性のブタの心臓に直接的に注射した後、100mgまでの投薬量で受け入れ可能な安全性プロフィールを示す。この試験は、CLIで計画された臨床試験の裏付けとなると思われるが、試験される具体的な臨床適用を模倣するものではない。
【0221】
CLI患者の第1相の臨床治験を裏付けるACRX−100の効能、安全性および生体分布の最も確実な非臨床的な評価は、後肢虚血のウサギモデルである。このモデルは、CLI患者の第1相臨床治験を模倣する実験設定を与える。投薬量を徐々に上げていくACRX−100の単回投薬の毒性および生体分布を調べる安全性および効能の試験を、ウサギHLIモデルで行い、以下にまとめている。これらのウサギに基づき、本願発明者らは、Pre−IND文書のセクション6.3に概要が説明される、ウサギモデルのACRX−100の繰り返し投薬による効能、毒性および生体分布を評価することを提案する。
【0222】
ウサギHLIにおけるACRX−100の単回投薬の安全性および効能
目的
この試験の目的は、後肢虚血のウサギモデルにおいて、試験物品ACRX−100を単回投薬した後の効能、安全性および生体分布を評価することである。
【0223】
方法
ニュージーランドシロウサギ(n=5/群;群あたり2〜3匹の雄/雌)は、片側だけ大腿動脈のライゲーションを受け、ライゲーションから10日後、虚血性肢に、4、8または16mgのACRX−100、または4mgのコントロール(ルシフェラーゼ)プラスミドを8回の直接的な筋肉内の0.5ml注射を行った(表6)。
【0224】
【表8】
【0225】
安全性のエンドポイントは、注射から60日後に評価され、後肢(注射部位)、反対側の後肢、心臓、肺、肝臓、脳、脾臓、リンパ節、腎臓および卵巣からの組織病理学と生体分布を含んでいた。固定したヘマトキシリンおよびエオシンで染色されたパラフィン部分の全体的な試験および微視的な試験は、示された組織の試験片で行われた。注射から60日後、すべての群について臨床病理学を評価した。治療から30日後および60日後と比較して、血管造影スコアの変化率%によって効能を測定した。腓腹筋を切除し、注射から60日後に、重量の差を評価した。群1〜4の動物からの肺、肝臓、脾臓、リンパ節、腎臓、脳、精巣および卵巣の生体分布を評価した。
【0226】
結果
血管造影分析
注射から0日目(注射前)、30(±2)日後、60(±2)日後に血管造影図を得て、デジタル形式で記録した(図14)。列に並んだ直径5mmの四角形で構成される格子の重ね合わせを用い、虚血性肢における側副血管成長の定量的な血管造影分析を行った。対照となる混濁した動脈が交差する大腿内側領域内の格子の交差点の合計数を、単盲検の様式で計測した。それぞれの膜について、大腿内側において、混濁した動脈が交差する格子の交差点を、格子の交差点の合計数で割り算した比率として、血管造影スコアを計算した。
【0227】
効能
血管造影データの結果は、投薬日について、すべての動物について類似であることがわかった。コントロール動物では、投薬後の60日間にわたって、血管密度が低下する傾向があった。ACRX−100で治療した動物は、血流の低下を示したベクターが注射されたコントロール動物と比較して、1mg/mL(2群)および2mg/mL(3群)における両時間点での向上した血流を示した。重要なことに、低用量および中用量での向上は、30日目に観察され、中用量群において、有意な(p<0.05)利益が60日間持続した(図15)。注射から60日後、4群(4mg/ml)でも向上が観察された。ブタ心不全試験において、脈管形成が増加する同様の傾向が、5mg/ml動物でも観察された。
【0228】
病理学
死亡率
1群の動物(505)を除き、すべての動物が、計画された解剖のときまで生存していた。動物505は、30日のフォローアップ血管造影の間に死んだ。この動物は、解剖された。死因は、麻酔に関係するものと考えられ、試験物品の投与の結果ではないと考えられる。
【0229】
動物の観察
臨床上の知見は、多くの動物の場合に、疥癬にかかった領域および薄毛の観察に限定されていた。これらの知見は、この手技を受けている動物において一般的な観察である。これに加え、食欲不振、活動低下、糞が少ないか、または全くないことが、2群の動物(510)で示され、後肢の自傷が4群の動物(519および520)で示された。動物519および520における自傷の観察は、これらの動物の後肢において、損傷から感覚が失われた結果である可能性が高い。
【0230】
一連の試験にわたって、損傷から最初の3〜4週間の間、動物は、最初は体重が減る。試験終了時までに、動物は、そのベースラインの体重に戻った。体重減少は、複数の手術の結果であると考えられる。
【0231】
巨視的
いずれの性別においても、試験物品に関係しない巨視的な知見はなかった。いくつかの巨視的な観察結果は、偶発的なものであり、治療に関係がないと考えられた。
【0232】
微視的
後肢の通常の領域の注射部位、後肢の虚血性領域、注射していない反対側の肢の部分から、骨格筋のいくつかの試験片を試験した。ヘマトキシリンおよびエオシン、マッソントリクローム染色を用い、組織片を試験した。虚血性領域をさまざまに一貫性なく含む虚血性領域からから組織片を集めた。虚血性領域は、主に、最小限から中程度の線維症、最小限から軽度の新毛細血管生成(血管新生)、少ない程度の亜急性/慢性の炎症、出血、筋原線維の変性/壊死、および/または筋原線維の再生を特徴としていた。線維症および血管新生の領域は、多くは、筋肉の筋膜面に沿っていた。時に、外来材料(縫合材料)が観察され、最小限の肉芽腫性炎症応答が周囲に起こる場合が多かった。筋原線維の石化もまれに観察された。
【0233】
微視的に試験した残りの組織における試験物品に関連する微視的な知見は存在しなかった(脳、心臓、腎臓、肝臓、肺、卵巣、脾臓)。いくつかの残りの微視的な観察結果は、ウサギの一般的なバックグラウンドの知見であるか、または偶発的であり、従って、治療に関係ないと考えられた。
【0234】
血液学および凝固
注射から60日後に、いずれかの性別で治療群間の血液学および凝固のパラメータの生体に関連する差はなかった。
【0235】
臨床化学
リンは、雄(6〜36%)および雌(7〜30%)の両方で、LUCプラスミドコントロール1群に対し、ACRX−100群の2群、3群、4群において、かなり減少していた。LUCプラスミドコントロール群に対し、雄(4〜7%)および雌(7〜9%)の両方で、ACRX−100の3群および4群におけるカルシウムの軽度の上昇もあった。カルシウムおよびリンの両方について、すべての平均および個々の値が、予想される歴史的なコントロール範囲に常に留まっていた。これらの変化は、いずれも有害なものとは考えられなかった。これらの観察結果の正確さをもっとよく評価するために、本願発明者らは、6.3の章に記載する繰り返し投薬の安全性および効能の試験においてこれらの値を評価するだろう。化学パラメータの中で、他の代替となるパラメータは、いずれの性別でも観察されなかった。
【0236】
生体分布
このウサギCLI試験において、注射から60日後に、1群(1mg/mLのルシフェラーゼプラスミド)および4群(4mg/mLのACRX−100)の動物において定量PCRによって、生体分布を評価した。結果を以下の表7に示す。予想されるように、コントロール群からの組織において、ACRX−100ベクターは検出されなかった。高用量群では、ACRX−100は、注射部位でほとんど排他的に検出され、注射されていない臓器では、ほんの痕跡量のACRX−100が検出された。注射から60日後のウサギ後肢で観察されるACRX−100プラスミドDNAの排泄率(表7)は、ブタ心不全の安全性試験(表3、図16)で観察される注射された心臓部位からのACRX−100の排泄と一致していた。さらに、ウサギCLI試験では、注射から60日後に検出される最も高いコピー数(133、360コピー/μg宿主DNA)が、90日目の心血管試験で検出される最も高いコピー数(>1×106コピー/μg宿主DNA)より小さいため、持続度は低かった。このデータは、ACRX−100が、ブタ心不全試験で示されたのと同様に、ウサギの注射した臓器および注射していない臓器から排泄されることを示唆し、実際に、現在のウサギ試験の注射した部位での持続度は、ブタ心不全モデルで観察される持続度より小さい。

【0237】
【表9】
【0238】
結論
ACRX−100を注射したすべての動物群は、注射から60日後に虚血性後肢の血流の増加を示した。投薬量が1mg/mL(低用量)または2mg/mL(中用量)のACRX−100を筋肉内に1回注射した動物は、ベクターに感染し、血流の低下を示すコントロール動物と比較して、注射から30日後および60日後に、血流の向上を示した。重要なことに、30日目に利益が観察され、有意な(p<0.05)利益は60日目に維持していた。これらのデータは、ACRX−100注射(0.5〜5.0mg/mL)が脈管形成を増加させるブタ心不全試験からの結果と一致している。本願発明者らのデータは、標的組織に送達される全ACRX−100とは独立して、注射あたりに送達された産物の濃度は、脈管形成応答に有意に影響を与えることを示唆する。これらの結果は、CLI患者が、ACRX−100の単回投薬から利益を得るだろう。
【0239】
本願発明者らのデータは、ACRX−100が、ブタ心不全試験で示されるのと同様に、ウサギにおいて、注射された臓器および注射されていない臓器の両方から排泄されることを示唆する。ACRX−100の排泄は、心血管試験と一致しているため、本願発明者らは、ブタ心不全試験の残りの生体分布の知見が、CLI試験を同様に成り立つと考える。つまり、試験終了時のACRX−100の発現は、最低限であり、治療量以下であり、組み込むための能力は、自然の変位速度より低い。
【0240】
実施例11:
後肢虚血のウサギモデルにおける、ACRX−100の提案される繰り返し投薬の安全性および効能の試験
提案される新しい試験は、実施例10に記載される後肢虚血の同じウサギモデルにおいて、ACRX−100の繰り返し投薬の安全性および効能を評価するだろう。以下に記載するように、ACRX−100の筋肉内への3回投薬は、LICLI患者における3回までの治療を裏付けるように投与される。
【0241】
ウサギHLIにおけるACRX−100の繰り返し投薬の安全性および効能
目的
この試験の目的は、後肢虚血のウサギモデルにおいて、ACRX−100の繰り返し投薬の安全性および効能を決定することである。
【0242】
論拠
現在、重症虚血肢について臨床試験段階にあるすべての非ウイルス性遺伝子治療は、第II相試験において効能を示したNV1FGFを含め、繰り返し投薬でのその非ウイルス性治療を送達する(HGF、PDGF)。今日まで、本願発明者らの前臨床での安全性および効能の試験は、ACRX−100が、心臓への1回投薬(20注射部位)または16mgの後肢投薬(8注射部位)の後、100mgまでは安全であることを示している。従って、本願発明者らは、CLI患者の本願発明者らの第1相治験の一部として0週目、2週目、4週目にACRX−100を繰り返し投薬で送達することを提案する。ACRX−100の繰り返し投薬によって、単回投薬と比較して、さらなる利点を与えることができた。SDF−1の受容体であるCXCR4は、損傷後に無期限に上方制御され、一方、SDF−1は、急性の虚血事象の後(図17)、または注射手順に応答して、一時的にのみ上方制御される。損傷後に複数回のその後の時間にSDF−1を送達すると、損傷した組織でのCXCR4発現の局所的な発現の増加を利用し、SDF−1発現部位への幹細胞のホーミングが増加する。CLIでは、繰り返し注射は、虚血性肢における脈管形成、側副血管の成長、創傷治癒を相乗的に増加させる可能性を有する。ブタの心臓に100mgを注射した後に観察される安全性プロフィールは、もっと少ない量の投薬計画が、同様の安全性の結果を共有することを示唆する。
【0243】
上の試験で使用した同じウサギ後肢虚血モデルにおけるACRX−100繰り返し投薬の前臨床での安全性および効能を評価するために、本願発明者らは、以下に詳細に示すプロトコルを提案する。繰り返し投薬の計画は、注射の容積を除き、すべての態様で第I/II相治験の提案された繰り返し投薬コホートと同じであろう(実施例12に記載)。ウサギにおいて、ウサギの後肢と比較して、ヒトの大腿部/ふくらはぎの骨格筋の大きな面積に起因して、ヒトの1mLの代わりに0.5mLを使用する。
【0244】
方法
ニュージーランドシロウサギ(n=5/雄および雌の群)は、上の実施例10で行われたのと同一の片側だけの大腿動脈のライゲーションを受ける(−10日目)。ライゲーションから10日後(0日目)、それぞれの動物は、それぞれ0.5mLの虚血性肢に16回直接的に筋肉内注射によって送達される3回の投薬量(15日間にわたる)の1mg/mLのコントロールルシフェラーゼプラスミド(群1および2)またはACRX−100(群3および4)を受けた(表8)。安全性のエンドポイントは、後肢(注射部位)、反対側の後肢、心臓、肺、肝臓、脳、脾臓、リンパ節、腎臓および卵巣からの組織病理学(全体および通常)および生体分布を含め、最後の注射から3日目(33日目)および30日目(60日目)に評価される。固定したヘマトキシリンおよびエオシンで染色されたパラフィン部分の全体的な試験および微視的な試験は、示された組織の試験片で行われた。後肢虚血前(−10日目)、各投薬の前(0日目、15日目、30日目)、投薬後3日間(3日目、18日目、33日目)、最後の投薬から7日後(37日目)、最後の投薬から30日後(60日目)または殺すまで、すべての群について、臨床化学および病理学を評価する。オリの横での観察を1日に2回行い、詳細な臨床実験を週に1回行う。最初の注射から30日目の(すべてのコホート)および60日目(コホート2および4)のコントロールと比較して、ベースラインからの血管新生スコアの変化率(%)によって効能が測定されるだろう。
【0245】
生体分布のためのサンプルを、肺、肝臓、脾臓、リンパ節、腎臓、脳、精巣、卵巣から集め、最後の投薬から3日後(33日目)および最後の投薬から30日後(60日目)の2つの死亡点で、qPCRによって評価する。
【0246】
この試験においてACRX−100の最初の治療から60日間の持続時間は、実施例10で報告される1回治療の試験を用い、効能の時間点を並べるように選択された。この時間点は、最後の投薬後30日であるため、生体分布の結果は、実施例8で報告されるブタ心不全の安全性および効能の試験から得られる知見に基づき、注射部位に存在するACRX−100のコピー(103−105コピー/μg宿主DNA)および制限された数字(<103コピー/μg宿主DNA)を有すると予想される。この提案された試験の結果をINDに報告する。この試験の安全性結果が、ブタ心不全の安全性および効能の試験において見出されるものと類似であると推定すると、この試験はCLI患者におけるACRX−100の繰り返し投薬を正当化すべきである。
【0247】
【表10】
【0248】
実施例12:
提案された臨床試験
本願発明者らは、ACRX−100が、心不全およびCLIの前臨床モデルにおいて安全であり、有効であることを示す試験を終了した。これらの終了した前臨床試験および提案された前臨床試験の結果は、CLI患者のACRX−100治療の安全性および効能を評価する本願発明者が提案した第I/II相の臨床治験を裏付ける。
【0249】
患者66例を、提案された第I/II相試験と組み合わせ、Rutherford Class 5 CLI患者を治療するためにACRX−100を用いる安全性および最初の効能を観察する。各群において、すべての有害イベント(AE)を示し、標準的な血液の実験室での値(例えば、全血数、血漿SDF−1量)を測定することによって、安全性をモニタリングし、安全性のプライマリーエンドポイントは、登録から30日目(1群および2群)または60日目(3群、4群、5群)で、主なAEの数である。
【0250】
試験の第I相部分(1群〜4群)において、患者は、ACRX−100の単回投薬(1群および2群)または4週間にわたる繰り返し投薬セッション(3群および4群)のいずれかの上部および下部の肢に、8回または16回の注射を受けるだろう(表9)。用量漸増は、注射の回数を8回(1群)から16回(2群)へと2倍にすること、単回投薬(2群)から3回の繰り返し投薬セッション(3群)への移動、投薬あたりの注射の数を8回(3群)から16回(4群)へと2倍にすることを含む。繰り返し投薬が、単回投薬よりも有効であるという推定の下で、3群と4群は、治療またはプラセボ(5%デキストロース注射)を受ける無作為に2:1に分けられ、1群と2群が活性薬物のみを摂取する予備効能を試験する。すべての群において、効能は、以下のエンドポイントによって、最初の投薬後に12ヶ月間にわたって評価される。(1)大切断術、(2)完全に創傷を受けた閉部分の生成、(3)ベースラインからの生存率の変化、(4)潰瘍治癒指数の変化速度、(5)経皮酸素(TcPO2)および(6)休息時の痛み。
【0251】
治験の第II相部分において(5群)、患者30例を、ACRX−100(3群または4群からのもっと効果的な投薬計画)またはビヒクル(5%デキストロース溶液)のいずれかを摂取するように無作為に分ける(表9)。安全性および効能は、第I相と同じエンドポイントによって測定され、効能のプライマリーエンドポイントは、大切断術のない生存である。この試験の第I相でのすべての用量漸増および第II相部分の開始は、以下に記載するようなDSMCの概説に従ってのみ行う。
【0252】
第I/II相の治験結果が、ACRX−100がDSMCの推奨を用い、CLIを向上させるのに有効であることを示す場合、最初にコントロール群に無作為に分けられた患者は、以下の条件下、患者にただでACRX−100治療を与えてもよい。
1.患者が、治験のフォローアップ計画を終了する。
2.主要な研究者が、患者がこの治療から利益を得ているかを決定する。
【0253】
治療される場合、患者は、(最低限)望ましい安全性のエンドポイントからなる計画に沿って行われる。
【0254】
【表11】
【0255】
すべての登録された患者は、必要な場合、薬理学(鎮痛薬)および創傷治療(創面切除、抗生物質を用いる感染制御)を含め、CLIのための通常の看護標準を受ける。しかし、選択/除外の基準あたり、登録された患者が、血管再生のための悪い候補でなければならず、登録から6週間前以内に血管再生を受けていないものでなければならないため、患者は、手術または介入技術によって治療されない。血管再生のための悪い候補である理由は、複数の動脈を遮断することによって虚血が引き起こされ、すべて再開またはバイパスを生成することができないからである。これにより、虚血性肢全体の血管に由来する新しい血管が作られる可能性があり、大きな範囲で血流が回復し、それによって、症状、肢の機能、転帰を向上させることができるため、血管新生誘発治療(例えば、ACRX−100)が魅力的なものとなる。
【0256】
治療をしないと、これらの患者は、予後が悪い。血管再生のための悪い候補であるCLI患者(「再構築できない」疾患とも呼ばれる」)は、6ヶ月以内に40%が切断する可能性がある。さらに、CLI患者の1年死亡率は、25%であり、CLIを有さない患者と比較すると、心臓血管死亡の危険性が3〜5倍高い。
【0257】
第I/II相の提案された試験の概要を表11に与える。治癒しない潰瘍を有する患者66例(Rutherford Class 5)は。15までの診療センターで連続して登録される。それぞれの患者は、ACRX−100を直接的に筋肉内注射され、初期の投薬後12時間放置する。ACRX−100を、膝の上および下側肢に広がる注射部位に、27ゲージのニードルを用いて運んでもよい。安全性および効能のエンドポイントは、表11に概説するように集められる。非盲検部分では(1群および2群)、記述統計学を使用し、投薬群にわたる連続した効能変数を比較する。適切な場合、記述統計学によって、安全性のパラメータを集め、定性的に評価し、または、定量的にまとめてもよい。この試験の無作為に分けた部分(3群〜5群)では、ACRX−100またはビヒクルコントロールを、第I相と同じ技術によって、8または16の注射部位に、登録から0、2、4週後に送達する。各治療群をコントロール群と統計学により比較すると、0.05未満のp値として定義される統計有意性を有するすべての効能変数について行われる。
【0258】
この試験の論理は以下のとおりである。登録前、すべての患者に対し、この試験に参加するためには、書面でのインフォームドコンセントを行わなければならない。ACRX−100の最初の注射を計画する前に、ABIおよびRutherford類を含む試験適格性を決定するための試験を用い、患者を2週間以内にスクリーニングする(表11)。効能エンドポイント(TcPO2、クオリティオブライフ、潰瘍の大きさ)のためのさらなる安全性試験(CMP、PT/PTTおよびベースライン値の確立をスクリーニング期間中に行う。被検者は、注射手順のための調製の医院に入るとき、登録されると考えられる。非盲検部分(1群および2群)では、連続した患者を登録し、すべて、ACRX−100治療を受ける。無作為化された部分(3群〜5群)では、各患者が、無作為に分けられ、注射手順の前に、診療センターは、無作為化を通知する。すべての患者は、安全性および効能を評価するため、最初の注射から1週間、2週間、4週間、5週間、3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月のフォローアップを揺する(表11)。1群〜4群について、それぞれの最初の患者3例の登録は、少なくとも7日間分割される。1群〜4群の最後の患者の最後の投薬の後、すべての安全性データが7日間集められ、その後、各被検者がACRX−100を摂取することは、独立したDSMCによってまとめられる。DSMCは、安全性の監視、有害なイベントの判断、停止規則を満たす被検者データのまとめを担当する。委員会は、医療モニター(投票なし)と少なくとも3人の他のメンバーからなる。DSMCは、この試験の第1相の次の投薬量への漸増を推奨しなければならず、第II相の試験の開始を推奨しなければならない。
【0259】
CLI INDの提出前に、国内の治験責任者および医療モニターが、中止規則のリストを開発し、以下を満たす場合には、DSMCのデータ総括を遅らせ、一時的に中断する治験登録を必要とする。
【0260】
提案された臨床投薬量の理由
提案される臨床投薬量は、非臨床の単回投薬の安全性および効能の試験の結果に基づく(実施例11を参照)。以下の表10に示すように、提案されたヒトの投薬開始は、注射部位あたり、1mLで1mg/mL DNAである(全部で8mg)。この開始時の投薬量は、単回投薬のウサギの安全性および効能のCLI試験の結果に基づいていた。開始時のヒト投薬量は、単回投薬のウサギ試験と同じ濃度および同じ注射回数の有効な投薬量である(1mg/mL、0.5mL、8部位、全部で4mg)。さらに、開始時のヒト投薬量は、坦懐投薬のウサギ試験で試験される最大の全DNAの半分である(4mg/mL、0.5mL、8部位、全部で16mg)。第I相の試験で使用されるもっと多い容積/部位(1.0mL)は、ヒトの下肢が、ウサギの後肢と比較して筋肉重量がかなり大きいため、非臨床試験の0.5mLの容積の2倍である。
【0261】
【表12】
【0262】
提案されたCLI第1相は、上の実施例3に記載されるブタの前臨床から、GLPの安全性および効能の心不全試験のデータによっても裏付けられる。提案された第1相のCLIの開始時の全DNAの投薬量を8mgにすると、ブタ心不全の安全性試験で見出される100mgのNOAELに対する安全性が10倍より大きくなる。第1相のCLI試験で提案されるACRX−100の最大量(16mg×3投薬量)は、ブタ心不全試験の効能および心不全において坦懐投薬のためにNOAELとして定義される全DNAの量(100g)の半分より少ない量である。
【0263】
最後に、第1相のCLI試験で使用される注射あたりの容積(1ml)は、ブタ心不全試験およびいくつかの公開されたCLI医院の研究に使用される。
【0264】
第I/II相の試験が首尾良く終了した後、CLIのRutherford Class 5患者において1つまたは複数の投薬量で、ACRX−100の安全性および効能を示すために、第II相試験でのフォロー、または重要な第III機の試験のいずれかが設計される。
【0265】
【表13-1】
【0266】
【表13-2】
【0267】
【表14-1】
【0268】
【表14-2】
【0269】
本明細書の上の記載から、当業者は、改良、変更および改変を理解するだろう。当該技術分野の知識の範囲内にあるこのような改良、変更および改変は、添付の特許請求の範囲に包含されることを意図している。本明細書に引用するあらゆる特許、特許明細書および刊行物は、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0270】
開示されている、選択した配列:
【0271】
配列番号1
KPVSLLYRCPCRFFESHVARANVKHLKILNTPNCALQIVARLKNNNRQVCIDPKLKWIQEYLEKALNK
【0272】
配列番号2
MNAKVVVVLVLVLTALCLSDGKPVSLSYRCPCRFFESHVARANVKHLKILNTPNCALQIVARLKNNNRQVCIDPKLKWIQEYLEKALNK
【0273】
配列番号3
MDAKVVAVLALVLAALCISDGKPVSLSYRCPCRFFESHVARANVKHLKILNTPNCALQIVARLKSNNRQVCIDPKLKWIQEYLDKALNK
【0274】
配列番号4
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【0275】
配列番号5
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]