(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
大豆は古来より日本人の食生活には必須の食材であり、味噌、醤油、および納豆等の発酵食品として利用されてきた。特に近年においては、低コレステロールであり、食物繊維、イソフラボン、および植物性タンパク質を多く含む大豆を用いた加工飲料や加工食品が提供されている。
【0003】
一方、大豆は特有の青臭さや苦みがあり、食品としての風味を損なう原因となるため、これらが消費者の購買意欲を消失させる原因の1つとなっていた。そのため、大豆の栄養価を維持しつつ、これら大豆特有の青臭さや苦みを抑制し、風味的にも良好な大豆を用いた加工食品の開発が望まれている。
【0004】
例えば、特許文献1には、糖類を添加した豆乳を乳酸菌、または酵母菌により発酵を行い、得られた発酵豆乳に菌の不活性処理とアルコール、並びに炭酸ガスの除去処理を行うことで、大豆特有の青臭さと苦みを除去するとともに、保存性のある発酵豆乳が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、豆乳を乳酸菌により発酵させて発酵豆乳を製造する方法において、乳酸菌が資化可能な糖類と、乳酸菌が利用困難な甘味料を組み合わせて添加する発酵豆乳の製造方法が開示されている。
【0006】
即ち、豆乳の発酵に際して、乳酸菌の良好な生育のための発酵助剤としてのラクトバチルス、グルコース、またはフルクトースの何れかの糖類を豆乳中に添加し、これら糖類が資化されるまで培養する一方、乳酸菌が利用できない難資化性甘味料であるスクラロースやアセスファムKを添加することで、大豆特有の酸味や収斂味を緩和し、良好な酸甘バランスを維持することができるものとなっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記の特許文献1、および特許文献2に開示されている通り、大豆発酵食品の製造工程においては、発酵助剤としての糖類を豆乳に添加することにより、乳酸菌の増殖が活発化され、効率的に発酵を促進することができるため、大豆特有の青臭さや苦みを除去した大豆発酵食品を低コストで製造することができるものとなっている。
【0009】
しかしながら、前記特許文献に開示のものでは、発酵過程において必ずしも添加された糖類の全てが発酵されるわけではなく、この場合、発酵されずに残留した糖類により最終商品への風味の影響が懸念される。さらに、近年の消費者の健康志向の高まりにより、大豆発酵食品においても、糖類を低減、または糖類無添加の商品の開発も望まれている。
【0010】
ところで、大豆中のイソフラボンは大部分がグルコースやアセチルグルコース、マロニルグルコース等が結合した配糖体として存在しており、食物として摂取されると、腸内菌の働きにより配糖体がアグリコン型に分解されたのち吸収される。一方、腸内細菌の構成は個体差が大きいため、イソフラボン配糖体の吸収は個体差が生じてしまうものと考えられている。
【0011】
そこで、酵素処理や、酸、加熱処理などの方法により、予め大豆中のイソフラボンをアグリコン型イソフラボンに分解し、生体への吸収を促進させるという試みや、前記特許文献2に開示されている乳酸発酵処理を行うことにより、豆乳中のイソフラボン配糖体がアグリコン型イソフラボンに変換するという試みが行われている。
【0012】
しかしながら、酵素処理による方法では、製造コストの上昇といった問題が生じるとともに、豆乳に酸、加熱処理などを施した場合、副次反応により風味の劣化や物性の変化を招くという問題がある。一方、豆乳を乳酸菌発酵することにより得られる大豆発酵食品は、風味等に優れたものであるが、ある程度までアグリコン型イソフラボンが生成した後にはそれ以上の分解は進まず、従来品の大豆発酵食品におけるアグリコン型イソフラボンの含有率は最大でも50重量%程度であった。
【0013】
この点、本発明者らが検討を重ねた結果、大豆の外皮にはセルロース、イソフラボン、植物性たんぱく質等の栄養成分が豊富に含まれていることに着目し、大豆の外皮を脱皮せずに、そのまま使用することにより、これら大豆の外皮に含まれる栄養成分を乳酸菌が資化し、糖類を加えなくとも乳酸発酵が進むとともに、乳酸発酵後の大豆発酵食品に含まれるアグリコン型イソフラボン比率も大幅に増やすことができるとの知見を得た。
【0014】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、大豆特有の青臭さや苦みを抑制し、アグリコン型イソフラボンを大量に含む大豆発酵食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するために、本発明の大豆発酵食品は、外皮に包まれた大豆を主原料とし、総イソフラボン重量に占めるアグリコン型イソフラボンの重量比が65重量%以上である。
【0016】
ここで、大豆発酵食品が外皮に包まれた大豆を主原料としているため、大豆から生成された豆乳を発酵して大豆発酵食品を生成するに際しては、糖類を添加しなくとも微生物による発酵が促進される。即ち、微生物が大豆の外皮に豊富に含まれるセルロースを構成するグルコースを資化することで微生物が増殖し発酵が促進されるため、大豆特有の青臭さや苦み等も抑えることができる。
【0017】
また、糖類が無添加であることにより、消費者が糖類の過剰摂取を心配する必要がなく、甘味のないプレーン味の大豆発酵食品となるとともに、消費者は好みの糖類を好みの量だけ添加して大豆発酵食品を食することができる。更に、発酵に際して糖類を添加しないため、発酵完了時における大豆発酵食品には糖類がほとんど残留しないため、添加糖類の残留による風味悪化を防止することができる。
【0018】
また、大豆発酵食品の総イソフラボン重量に占めるアグリコン型イソフラボンの重量比が、65重量%以上であることにより、大豆発酵食品中に多くのアグリコン型イソフラボンを含有するため、体内でのイソフラボンの吸収効率を高めることができる。従って、少量の大豆発酵食品の摂取により、イソフラボンが有するコレステロールの低減、癌化抑制、骨しょう症等の緩和といった、健康機能をより高めたることができるものとなっている。
【0019】
また、大豆発酵食品の発酵完了時のpHが3.6〜4.0である場合には、生成された大豆発酵食品について酸味のバランスがとれ、かつ大豆特有の青臭さや苦みが抑えられた風味とすることができる。なお、指標としてpHが3.6よりも小さくなると大豆発酵食品の酸味が強くなり、pHが4.0よりも大きくなると大豆特有の青臭さや苦みが顕著に表れるものとなる。
【0020】
また、大豆発酵食品の発酵完了時のBrixが1.0〜2.0である場合には、糖類をほとんど含まないプレーン味の大豆発酵食品となるため、消費者は糖類の過剰摂取を心配する必要がなく、また、好みの糖類を好みの量だけ添加して大豆発酵食品を食することができる。なお、指標としてBrixが1.0よりも小さくなると、発酵が進み過ぎるため、pHが下がり酸味の強い風味となる。一方、Brixが2.0よりも大きくなると、発酵が促進されていないことにより、大豆特有の青臭さや苦みが顕著に表れるものとなる。
【0021】
また、豆乳を発酵原料中に50〜55重量%含有させた場合には、発酵が促進され、アグリコン型イソフラボンを多く含む大豆発酵飲料を効率的に生成することができる。なお、指標として発酵原料中における豆乳量が50重量%よりも少ないと、大豆発酵食品中のアグリコン型イソフラボン量が少なくなる。一方、発酵原料中における豆乳量が55重量%よりも多いと、発酵完了までに時間を要するとともに、大豆特有の青臭さや苦みが残存するものとなる。
【0022】
また、発酵に使用される微生物が乳酸菌である場合には、発酵に際して糖類を添加しなくとも、乳酸菌が大豆の外皮に含まれるセルロースを資化することにより、乳酸発酵が促進される。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る大豆発酵食品は、大豆特有の青臭さや苦みを抑制し、アグリコン型イソフラボンを大量に含むものとなっている。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、大豆発酵食品に関する本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明し、本発明の理解に供する。
【0026】
まず、本発明の大豆発酵食品の製造工程について、
図1を用いて説明する。
【0027】
[S1:ご汁製造工程]
先ず、水洗いした外皮に包まれたままの大豆を水に長時間浸漬した後、粉砕機等を用いて粗目に磨り潰し、ご汁を生成する。
【0028】
[S2:グラインダー工程]
ご汁製造工程で得られたご汁に所定量の水(ご汁の3〜8倍)を加えながら、グラインダーにかけ、さらに細かく粉砕する。
【0029】
ここで、必ずしも、ご汁に加える水の量はご汁の3〜8倍にする必要はなく、目的とする大豆発酵食品の風味、食感等に応じて適宜変更することができる。
【0030】
[S3:煮沸工程]
グラインダー工程で、水を加え、細かく粉砕されたご汁を約60〜90℃にて、約10〜15分かけて煮沸する。
【0031】
ここで、必ずしも、煮沸条件は約60〜90℃にて、約10〜15分に設定する必要はなく、目的とする大豆発酵食品の風味、食感等に応じて適宜変更することができる。
【0032】
[S4:酵素分解工程]
煮沸工程で煮沸したご汁の温度が約40℃前後となるまで冷やし、エマルダータンクに移し替える。エマルダータンク内に移されたご汁に酵素を加え、攪乱しながら約120分間、ご汁に酵素を反応させ豆乳を生成する。このとき、ご汁に酵素を反応させ酵素分解を行うことで、製造工程で排出されるオカラの量を大幅に削減することができる。
【0033】
ここで、必ずしも、反応させる酵素は1種類に限らず、2種類、またはそれ以上の酵素を併用してもよい。なお、反応させる酵素としては、例えばセルラーゼ、プロテアーゼ、ペクチナーゼ等であるが、必ずしもこれらの酵素に限定されるわけではない。
【0034】
また、必ずしも、酵素分解工程のご汁の温度は約40℃に設定される必要はない。但し、発明者が検証した結果では、ご汁の温度を約40℃前後が最も酵素分解が促進された。
【0035】
[S5:均質化処理工程]
生成した豆乳に含まれる脂肪球を均質化して安定的な懸濁液とするため、撹拌型均質機を用いて所定の均質圧力で均質化処理を行う。
【0036】
ここで、必ずしも、均質化処理に用いられる均質機は撹拌型均質機である必要はない。例えば、遠心型均質機、超音波均質機、湿式振動ボールミル等を用いて均質化処理をしてもよい。
【0037】
[S6:高圧高温蒸気殺菌工程]
均質化処理を施された豆乳は、振動篩機で異物が取り除かれ、リザーブタンク2に移される。リザーブタンク2に充填された豆乳は、ポンプ3により所定量ずつ高圧高温蒸気殺菌機1に送り出される。
【0038】
図2に示すように、高圧高温蒸気殺菌機1は、リザーブタンク2からポンプ3で送り出されてくる豆乳を、高圧高温の蒸気と混合して殺菌する殺菌部4と、高圧高温の雰囲気下で気化された豆乳を、熱劣化させることなく再度液化するための冷却部5から構成されている。
【0039】
リザーブタンク2に一時的に保管された豆乳は、ポンプ3により毎分約5.5Lの流量で殺菌部3に送り込まれる。殺菌部4に送られた豆乳は、圧力が約4〜6気圧、温度が約130〜150℃の高圧高温の飽和水蒸気と混合して一時的に気化させ、約30〜60秒間殺菌処理が行われる。殺菌処理を経て気化された豆乳は、配管を通じてステンレス鋼管の冷却部に送り込まれて冷却、液化される。液化された豆乳は、図示しない発酵タンクへ送られる。
【0040】
ここで、必ずしも、飽和水蒸気は、約4〜6気圧、130〜150℃に設定される必要はない。但し、発明者が検討を繰り返した結果、気圧を約4〜6気圧(好ましくは5気圧)、温度を130〜150℃(好ましくは140℃)に設定すると、豆乳に含まれる芽胞菌等に代表される細菌を、ほぼ死滅させることができるとともに、一時的に気化した豆乳の大半を、冷却部で液化することができた。一方で、気圧を4気圧未満、又は温度を130℃未満に設定すると、ほぼ死滅するまで至らず、気圧を6気圧より高め、温度を150℃より高くすると、豆乳の大半が気化し、冷却部において液化することができなかった。
【0041】
[S7:発酵工程]
高圧高温蒸気雑菌工程で殺菌された豆乳は、発酵タンクにて発酵される。発酵に際しては、先ず、マザースターターの調製が行われる。マザースターターの調製は、豆乳のpHが6.5〜7.0の範囲に収まるように調製する。具体的には、豆乳1000mlに対して蒸留水を約3500ml、上白糖500g、酵母エキスを10g、それぞれ混合するとともに、乳酸菌を0.5g添加し、約37℃の一定温度に保たれた恒温器で12〜24時間、好ましくは24時間培養し、乳酸菌を増殖させる。
【0042】
ここで、必ずしも、マザースターターの調製はpH6.5〜7.0の範囲に収まるように調製する必要はない。但し、本発明においては、上記範囲にpHを調製することで、効率的に乳酸菌を増殖させることができた。
【0043】
また、必ずしも、培養時間は12〜24時間に設定される必要はない。但し、本発明においては、上記培養時間内で、最も効率的に乳酸菌を増殖させることができた。
【0044】
マザースターターの調製が完了すると、続いて、豆乳の本発酵を行う。本発酵に際しては、豆乳を50〜55重量%、減菌水を40〜45重量%、マザースターターを1〜5重量%の範囲で調製を行う。
【0045】
具体的な一実施例としては、豆乳2000mlに対して、減菌水を1800ml、及び培養したマザースターターを200ml添加し、約37℃の一定温度に保たれた恒温器で24〜72時間、好ましくは72時間発酵を行う。なお、通常、この本発酵に際して効率的に発酵を進めるため、グルコース等の糖類を添加するが、本発明においては、糖類の添加を行わずに本発酵を行う。
【0046】
ここで、必ずしも、本発酵に際しての豆乳を50〜55重量%である必要はない。但し、発明者らが検討を繰り返した結果では、本発酵に際しての豆乳を50〜55重量%とすることで、本発酵を短時間で完了させることができた。
【0047】
本発酵開始から72時間が経過し、pHが3.6〜4.0、好ましくはpHが3.8となったことを確認して、所定時間冷蔵保存することで、大豆発酵食品が完成する。
【0048】
ここで、必ずしも、発酵完了の目安時間を72時間とする必要はない。但し、本発明者が実験を繰り返した結果、72時間発酵を続けることで、pHが3.6〜4.0の範囲に収束し、最も酸味のバランスがとれ、かつ青臭さや苦みが抑えられた大豆発酵食品を実現することができる。
【0049】
また、必ずしも、発酵完了の条件として、pHを3.6〜4.0、好ましくは3.8とする必要はない。但し、pH3.8とすることで最も酸味のバランスが取れた大豆発酵食品とすることができる。
【0050】
以上の工程により得られた大豆発酵食品は、本発酵の際にグルコース等の糖類を添加していないため、消費者は糖質の過剰摂取を心配することなく安心して食することができる。また、甘味のないプレーン味の大豆発酵食品となるため、消費者は、好みの糖類を好みの量だけ添加して大豆発酵食品を食することができる。更に、大豆の外皮を脱皮せず、加工しているため、外皮に含まれる多くの食物繊維、イソフラボン、および植物性たんぱく質を含有した栄養価の高いものとなる。
【0051】
次に、本発明に係る本発酵時の糖類を無添加とした場合の発酵状態を示す指標として、pH、Brix(糖度)、La(乳酸酸度)、乳酸菌数、のそれぞれの時系列変化について説明する。なお、実施例は、何れも外皮に包まれた大豆を主原料として生成した豆乳を発酵させたものである。
【0052】
本発明に係る本発酵時の糖類を無添加とした場合の発酵状態を示す時系列状態を表1に示す。
【表1】
【0053】
通常、発酵が進むと、乳酸菌は添加された糖類を利用して乳酸を生成するため、豆乳のpHは酸性側に傾く(pHが下がる)とともに、La、および乳酸菌数は増えることが知られている。
【0054】
この点、本発明においては、表1にも示す通り、本発酵開始時(0時間)から時間経過とともに、確実にpHが下がり、72時間後には目標とするpH3.8まで下がることが確認できた。また、同時にLa、および乳酸菌数も時間経過とともに増加していることが分かる。
【0055】
これは、本発酵時において、豆乳に糖質を添加しなくとも乳酸菌が豆乳に含まれている成分を資化して、乳酸発酵が促進されていることを示すものである。即ち、通常、大豆発酵食品を生成する際には、大豆の外皮を脱皮して加工するが、本発明においては、外皮を付けた状態で加工するため、その外皮に豊富に含まれる食物繊維であるセルロースの構成要素であるグルコースを利用して、乳酸発酵が促進されているものと考えられる。
【0056】
次に、pHの値が大豆発酵食品の風味に与える影響について風味評価を行った。風味評価は、10人の被験者に発酵完了時のpHの異なる大豆発酵食品を試食してもらい、「酸味」「苦み」「香り」の観点から、「良い」「普通」「悪い」の三段階で評価してもらった。その結果を表2に示す。
【0057】
【表2】
注)記号の説明
◎「良い」と感じた被験者が半数以上で、「悪い」と感じた被験者無し
○「良い」と感じた被験者が半数未満で、「悪い」と感じた被験者無し
△「良い」若しくは「普通」と感じた被験者の総数が、「悪い」と感じ
た被験者の総数よりも多い
×「悪い」と感じた被験者が半数以上で、「良い」と感じた被験者無し
【0058】
ここで、pH3.4においては酸味が強く、抵抗感を示す被験者が多かった。一方、発酵が充分進んでいるため、大豆特有の青臭さ、苦みは抑えられている。
【0059】
また、pH3.6〜4.0の範囲においては、酸味、苦み、香り、において、バランスがとれており、何れの評価項目においても「悪い」と回答した被験者はいなかった。特に、pH3.8とした場合には、全ての項目で「良い」と感じた被験者が半数を超え、「酸味」のバランスが最もよく、大豆特有の青臭さや苦みが最も抑えられていることが理解できる。
【0060】
また、pH4.2においては、酸味が足りないと評価する被験者が多く、更に大豆特有の青臭さや苦みが目立ち始めることが理解できる。
【0061】
次に、本発明の実施形態に係る大豆発酵食品に含まれる総イソフラボン重量に占めるアグリコン型イソフラボンの重量を分析した結果を示す。
【0062】
[実施例1]
実施例1は、外皮に包まれた大豆を主原料とし、前記した[S1:ご汁製造工程]から[S6:高圧高温蒸気工程]を経て生成された豆乳を、[S7:発酵工程]の条件、即ち糖類無添加の条件下で発酵させた。
[実施例2]
実施例2は、実施例1に対して、発酵開始時に豆乳100mlあたり20mgのイソフラボンを添加したものである。
【0063】
また、実施例1、および実施例2との対比のために、以下に示すように、市販の豆乳を購入のうえ、前記した[S7:発酵工程]に従って発酵させることで、比較例1乃至比較例4を得た。
【0064】
[比較例1]
製造元:マルサンアイ株式会社、商品名:有機豆乳無調整。
[比較例2]
製造元:九州乳業株式会社、商品名:成分無調整のすっきりと飲みやすい豆乳。
[比較例3]
製造元:キッコーマンソイフーズ株式会社、商品名:おいしい無調整豆乳。
[比較例4]
製造元:スジャータめいらく株式会社、商品名:有機豆乳。
【0065】
これら実施例1、2、および比較例1乃至比較例4の大豆発酵食品について、グルコシド型イソフラボンとアグリコン型イソフラボンの割合(アグリコン換算で計算)を測定した。なお、測定は検体1gをジエチルエーテル40mLに加えることによって脱脂を行ない、次いでエーテルを除去した後、70%メタノール50mLによってイソフラボンの抽出を行ない、公知のHPLC法によって定量することにより行なった。また、定量は各実施例、および比較例について、2回ずつ行った。これらの結果を表3に示す。
【0067】
表1に示すように、外皮に包まれた大豆を主原料とした豆乳を利用した実施例1(NO1、NO2)、および実施例2(NO3、NO4)においては、発酵終了時における総イソフラボン量におけるアグリコン比率が65重量%〜75重量%であり、発酵開始時に比べて、アグリコン型イソフラボンが著しく増加していることがわかる。なお、発酵開始時において、イソフラボンを添加した実施例2においては、発酵開始時のグリコシド型イソフラボンの量が増加する関係で、発酵終了時におけるアグリコン比率は実施例1に比べて低いものとなった。
【0068】
一方、比較例1(NO5、NO6)、比較例2(NO7、NO8)、比較例3(NO9、NO10)、比較例4(NO11、NO12)においては、アグリコン比率は最大でも約61重量%程度であり、平均すると略50〜55重量%程度の値に留まり、実施例1、および実施例2を大きく下回るものとなっている。
【0069】
このように、外皮に包まれた大豆を主原料とした豆乳の乳酸発酵に際しては、前記した通り、乳酸菌はその外皮に豊富に含まれる食物繊維であるセルロースの構成要素であるグルコースを資化することで、乳酸発酵が促進される。
【0070】
なお、セルロースは、β−グルコースがグリコシド結合により重合したものであるが、そのままの状態では乳酸菌はグルコースを資化することができない。そのため、乳酸菌はセルロースの結合状態を加水分解するためにグリコシダーゼを含む一連の酵素を生成する。ここで、グリコシダーゼは、糖が結合した配糖体イソフラボンから糖を分解する作用も有し、このグリコシダーゼの働きにより配糖体として存在するイソフラボンから糖が切り離された結果、アグリコン型イソフラボンに変換されたものと考えられる。
【0071】
一方で、外皮を取り除いた豆乳を発酵させた比較例1乃至比較例4においては、セルロースの含有量が実施例1、および実施例2に比べて相対的に低いものとなっている。そのため、乳酸菌は発酵過程においてグリコシダーゼを含む一連の酵素の生成量が少なくなり、アグリコン型イソフラボンへの変換が実施例と比較して促進されないものと予想される。
【0072】
以上のように、本発明を適用した大豆発酵食品は、大豆特有の青臭さや苦みを抑制し、アグリコン型イソフラボンを大量に含むものとなっている。