特許第6461251号(P6461251)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6461251大型2ストローク圧縮点火内燃機関のためのシリンダ潤滑装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6461251
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】大型2ストローク圧縮点火内燃機関のためのシリンダ潤滑装置
(51)【国際特許分類】
   F01M 1/02 20060101AFI20190121BHJP
   F01M 1/06 20060101ALI20190121BHJP
   F01M 1/08 20060101ALI20190121BHJP
   F02B 23/02 20060101ALI20190121BHJP
   F16N 7/32 20060101ALI20190121BHJP
   F16J 10/00 20060101ALI20190121BHJP
   F16N 7/38 20060101ALI20190121BHJP
【FI】
   F01M1/02 B
   F01M1/06 E
   F01M1/08 E
   F02B23/02 C
   F16N7/32
   F16J10/00 Z
   F16N7/38
【請求項の数】27
【外国語出願】
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-135303(P2017-135303)
(22)【出願日】2017年7月11日
(65)【公開番号】特開2018-28315(P2018-28315A)
(43)【公開日】2018年2月22日
【審査請求日】2018年5月18日
(31)【優先権主張番号】PA201670630
(32)【優先日】2016年8月17日
(33)【優先権主張国】DK
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597061332
【氏名又は名称】エムエーエヌ・エナジー・ソリューションズ・フィリアル・アフ・エムエーエヌ・エナジー・ソリューションズ・エスイー・ティスクランド
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【弁理士】
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】ハミード アハマッド アブドゥル
(72)【発明者】
【氏名】マイナ マイケル ホルム
(72)【発明者】
【氏名】アンデルセン カーステン ブリダル
【審査官】 齊藤 彬
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭58−051003(JP,U)
【文献】 特開2015−007430(JP,A)
【文献】 特開2013−238222(JP,A)
【文献】 特表2009−544879(JP,A)
【文献】 特表2009−516795(JP,A)
【文献】 特開昭52−084336(JP,A)
【文献】 実開昭54−066074(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 1/02
F01M 1/06
F01M 1/08
F02B 23/02
F16J 10/00
F16N 7/32
F16N 7/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大型2ストロークユニフロー圧縮点火内燃機関の往復動ピストン(10)がその内部に摺動可能に配設された円筒形内部を画成するシリンダライナ(1)の内面(25)に、前記シリンダライナ(1)の円周に沿って分散された複数の噴射器(24)を介して、シリンダ潤滑液を供給するシリンダ潤滑装置(55)であって、
複数のピストンポンプであって、各ピストンポンプは注油シリンダ(71)内に摺動可能に配設された注油プランジャ(70)を有し、各注油シリンダ(71)は前記噴射器(24)のうちの1つへの流体接続のためにポンプ吐出口(62)に流体的に接続されたポンプ室(72)を備える、複数のピストンポンプと、
前記注油プランジャ(70)の全てを同時に駆動する共通駆動部(80)と、
前記共通駆動部(80)に作動可能に接続された油圧リニアアクチュエータ(83)と、
前記シリンダ潤滑装置(55)の動作中に前記共通駆動部の行程長を2つの個別の所定行程長(L1、L2)のどちらか一方に調整する手段と、
を備え、
第1の固定された機械式エンドストップが前記共通駆動部の第1の突出位置を決定し、
前記油圧リニアアクチュエータは、駆動ピストン(82)と、前記駆動ピストン(82)に対応する対応シリンダとを備え、前記駆動ピストン(82)は、前記対応シリンダ内に摺動可能に配設され、前記駆動ピストン(82)と前記対応シリンダとの間に作動室(81)が画成され
前記油圧リニアアクチュエータは更に、前記対応シリンダの長手方向端部に、またはその近くに、配設された第1のポート(84)と、前記対応シリンダの前記長手方向端部から或る距離離れた前記対応シリンダの長さに沿った位置に配設されて第1の油圧弁(58)に接続される第2のポート(86)とを備える、
シリンダ潤滑装置(55)。
【請求項2】
前記共通駆動部の後退位置を決定する第2の固定された機械式エンドストップを更に備える、請求項1に記載のシリンダ潤滑装置。
【請求項3】
前記油圧リニアアクチュエータは単動式油圧リニアアクチュエータであり、前記共通駆動部は後退位置に向けて弾性的に付勢される、請求項1または2に記載のシリンダ潤滑装置。
【請求項4】
前記油圧リニアアクチュエータは複動式油圧リニアアクチュエータである、請求項1または2に記載のシリンダ潤滑装置。
【請求項5】
前記駆動ピストンには、前記作動室(81)と前記駆動ピストン(82)の前記円筒状外面とに開口する導管(88、89)が設けられる、請求項1〜4の何れか1項に記載のシリンダ潤滑装置。
【請求項6】
前記第1の油圧弁(58)は電子的に制御される弁であり、前記第1の油圧弁は、好ましくは、制御信号に応じて開位置または閉位置を取るべく構成される、請求項1〜5の何れか1項に記載のシリンダ潤滑装置。
【請求項7】
前記第1のポート(84)は圧力源またはタンクに選択的に接続される、請求項1〜6の何れか1項に記載のシリンダ潤滑装置。
【請求項8】
前記第1のポート(84)を圧力源またはタンクに選択的に接続する第2の油圧弁(59)を備える、請求項7に記載のシリンダ潤滑装置。
【請求項9】
前記第2の油圧弁(59)は、制御信号に応じて前記第1のポート(84)を前記圧力源またはタンクに接続するべく構成された電子的に制御される弁である、請求項8に記載のシリンダ潤滑装置。
【請求項10】
前記対応シリンダの前記長手方向端部と前記第2のポート(86)との間の距離は、前記第2の固定された機械式エンドストップと前記第1の固定された機械式エンドストップとの間の距離より短い、請求項1から9の何れか1項に記載のシリンダ潤滑装置。
【請求項11】
前記第1の油圧弁(58)が第1の位置にあるときは前記共通駆動部(38)の前記2つの個別の所定行程長のうちの短い方の圧送行程が選択され、前記第1の油圧弁が別の位置にあるときは前記共通駆動部の前記2つの個別の所定行程長のうちの長い方の圧送行程が選択される、請求項9または10の何れか1項に記載のシリンダ潤滑装置。
【請求項12】
操作者からの命令に応じて、または機関の運転パラメータに応じて、前記第1の油圧制御弁(58)の位置を変えるための制御信号を前記第1の油圧制御弁(58)に発行するべく構成された制御装置を更に備える、請求項11に記載のシリンダ潤滑装置。
【請求項13】
大型2ストロークユニフロー圧縮点火内燃機関の往復動ピストン(10)がその内部に摺動可能に配設された円筒形内部を画成するシリンダライナ(1)の内面(25)に、前記シリンダライナ(1)の円周に沿って分散された複数の噴射器(24)を介して、シリンダ潤滑液を供給するシリンダ潤滑装置(55)であって、
複数のピストンポンプであって、各ピストンポンプは注油シリンダ(71)内に摺動可能に配設された注油プランジャ(70)を有し、各注油シリンダ(71)は前記噴射器(24)のうちの1つへの流体接続のためにポンプ吐出口(62)に流体的に接続されたポンプ室(72)を備える、複数のピストンポンプと、
前記注油プランジャ(70)の全てを同時に駆動する共通駆動部(80)と、
前記共通駆動部(80)に作動可能に接続された油圧リニアアクチュエータ(83)と、
前記シリンダ潤滑装置(55)の動作中に前記共通駆動部の行程の長さを2つの個別の所定行程長(L1、L2)のどちらか一方に調整する手段と、
を備え、
移動可能な機械式エンドストップであって、前記移動可能な機械式エンドストップは少なくとも2つの位置を有し、第1の位置において、前記移動可能な機械式エンドストップは前記共通駆動部(80)のためのエンドストップを前記共通駆動部の第1の突出位置に形成し、第2の位置において、前記移動可能な機械式エンドストップは前記共通駆動部(80)のためのエンドストップを、前記共通駆動部(80)の前記第1の突出位置とは異なる、前記共通駆動部(80)の第2の突出位置に形成する、移動可能な機械式エンドストップを特徴とし、
ここで前記移動可能な機械式エンドストップは、ボア内に摺動可能に配設されたロッド(94)を備え、前記共通駆動部の前記第1の突出位置のためのエンドストップを形成するために、前記ロッド(94)を第1の位置に固定し、前記共通駆動部の前記第2の突出位置のためのエンドストップを形成するために、前記ロッド(94)を第2の位置に固定する、シリンダ潤滑装置(55)。
【請求項14】
前記共通駆動部(80)の後退位置を決定する第2の固定された機械式エンドストップを更に備える、請求項13に記載のシリンダ潤滑装置(55)。
【請求項15】
前記移動可能な機械式エンドストップはエンドストップアクチュエータに作動可能に接続され、前記エンドストップアクチュエータは前記移動可能な機械式エンドストップを前記第1の位置と前記第2の位置との間で移動させるべく構成される、請求項13または14に記載のシリンダ潤滑装置(55)。
【請求項16】
前記エンドストップアクチュエータは制御信号を受信し、前記エンドストップアクチュエータは、前記制御信号の受信により、前記機械式エンドストップを前記第1の位置から前記第2の位置に、または前記第2の位置から前記第1の位置に、移動させるべく構成される、請求項15に記載のシリンダ潤滑装置(55)。
【請求項17】
前記ロッド(94)の第1の長手方向端部は、前記共通駆動部(80)の共通駆動部当接面(36)に当接するエンドストップ当接面(37)を形成する、請求項13から16のいずれかに記載のシリンダ潤滑装置(55)。
【請求項18】
前記ロッド(94)は、第3の固定された機械式エンドストップ(93)によって前記第1の位置に固定され、前記ロッド(94)は、移動可能なボルト(90)によって前記第2の位置に固定される、請求項13から17のいずれかに記載のシリンダ潤滑装置(55)。
【請求項19】
前記ボルト(90)は案内路内に摺動可能に配設され、前記ボルト(90)は、前記ボルト(90)が前記案内路から突出しない後退位置と前記ボルト(90)が前記案内路から突出する突出位置との間で前記ボルト(90)を移動させるべく構成されたエンドストップアクチュエータに作動可能に接続される、請求項18に記載のシリンダ潤滑装置。
【請求項20】
前記ボルト(90)がその突出位置にあるとき、前記ボルト(90)は前記第3の固定された機械式エンドストップ(93)と前記ロッド(94)との間に配置される、請求項19に記載のシリンダ潤滑装置(55)。
【請求項21】
前記案内路は前記ロッド(90)の軸線に対してほぼ直角に配置される、請求項19または20に記載のシリンダ潤滑装置(55)。
【請求項22】
前記ボルト(90)に傾斜した先端(97)が設けられる、請求項1821の何れか1項に記載のシリンダ潤滑装置(55)。
【請求項23】
前記ロッド(94)の前記第1の長手方向端部とは反対の側にある第2の長手方向端部に傾斜部(33)が設けられる、請求項21に記載のシリンダ潤滑装置(55)。
【請求項24】
前記ロッド(94)はその第1の位置に向けて弾性的に付勢される、請求項1323の何れか1項に記載のシリンダ潤滑装置(55)。
【請求項25】
前記エンドストップアクチュエータはリニアアクチュエータ、好ましくは単動式リニアアクチュエータ、であり、前記ボルト(90)はその後退位置に向けて弾性的に付勢される、請求項18から23の何れか1項に記載のシリンダ潤滑装置(55)。
【請求項26】
前記エンドストップアクチュエータは空圧リニアアクチュエータ、油圧リニアアクチュエータ、または電動リニアアクチュエータである、請求項25に記載のシリンダ潤滑装置(55)。
【請求項27】
前記第2の固定された機械式エンドストップと前記移動可能なエンドストップとの間の前記共通駆動部の最大行程は、前記移動可能なエンドストップが前記第2の位置にあるときより前記移動可能なエンドストップが前記第1の位置にあるときの方が大きい、請求項13〜26の何れか1項に記載のシリンダ潤滑装置(55)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、大型2ストロークユニフロー圧縮点火内燃機関のためのシリンダ潤滑装置、特に、大型2ストロークユニフロー圧縮点火内燃機関のシリンダライナの内面にシリンダ潤滑液を供給するための装置、に関する。
【背景】
【0002】
クロスヘッド型大型2ストロークユニフローターボ過給式圧縮点火内燃機関が大型船舶のための推進システムとして、または発電所の原動機として、一般に使用されている。とてつもない大きさ、重量、および出力により、大型2ストロークターボ過給式圧縮点火内燃機関は一般的な燃焼機関とは全く異なり、独自のクラスに分類されている。
【0003】
大型2ストローク圧縮点火内燃機関は、従来、液体燃料、例えば燃料油、特に重油など、で運転されている。その理由は、後者の種類の燃料が低価格であることによる。重油は、燃焼プロセス中に硫酸を形成する硫黄など、機関に有害な微粒子をシリンダ内に大量に導入する。したがって、酸性(高pH)の燃焼ガス成分を打ち消すためにpH値が低いシリンダ潤滑液、一般に油、をシリンダライナの内面に塗布することによって、シリンダライナの内面を硫酸による侵食から保護する必要が生じる。シリンダ潤滑液(油)は比較的高価であり、シリンダライナの内面に塗布されるシリンダ潤滑油は機関の運転中に消費される。すなわち、機関の運転中、新鮮なシリンダ潤滑液の供給を継続する必要がある。シリンダ潤滑液の消費は、クロスヘッドを有する大型低速2ストロークユニフロー圧縮点火内燃機関の運転において重要な因子である。したがって、シリンダライナの内面の適正な保護と高価なシリンダ潤滑油の最少消費とを保証する、シリンダライナの内面の効率的且つ正確な潤滑が必要とされている。
【0004】
シリンダ潤滑液の噴射は、機関の負荷および機関の状態ならびに燃料性状に応じて行われる。更に、新しいシリンダライナの慣らし運転中は、ほぼ2倍量の潤滑液をシリンダライナの内面に塗布する必要がある。
【0005】
シリンダ潤滑油の噴射は、噴射が機関の回転に対して定期的に行われるように、通常、タイミングが取られる。潤滑液の噴射は、圧縮行程中に機関のピストンが複数の噴射クイル(噴射器)を通過する前に、または通過するときに、行われる。これら噴射器は、シリンダライナの円周に沿って均等に分散されている。
【0006】
1種類のシリンダ潤滑液供給装置は、リニアアクチュエータに接続された共通の駆動装置によって移動される複数の注油プランジャを有する。リニアアクチュエータが起動されると、これら注油プランジャは全行程を移動し、各注油プランジャは、決まった所定量のシリンダ潤滑油をシリンダライナ内のそれぞれの噴射器に押し出す。一般に、これら注油プランジャをリニアアクチュエータに接続している共通駆動部は、螺旋状のスプリングまたは他の付勢手段の働きによって戻り行程を移動する。この種のシリンダ潤滑装置では、注油プランジャは全行程の移動しか行えず、シリンダライナの内面へのシリンダ潤滑液の供給量の調整は、シリンダ潤滑液噴射事象間の機関の回転数を変えることによって実現されている。最大供給量は、機関の1回転毎にリニアアクチュエータを起動することによって得られる。
【0007】
新しいシリンダライナの慣らし運転時は、供給量をほぼ2倍にする必要がある。したがって、シリンダ潤滑装置は、慣らし運転済みのシリンダライナのための低機関負荷において必要とされる低い供給量から新しいシリンダライナのための最大機関負荷における2倍の供給量までの供給量を扱える必要がある。
【0008】
より低い供給量は、機関の1回転以上毎に噴射事象をスキップすることによって得られる。特に、機関の負荷がより低い場合は、シリンダ潤滑液噴射事象が発生しない機関のドライ回転が相対的に多数回行われ得る。ただし、理想的には、噴射事象は機関の1回転毎に行われるべきである。その理由は、シリンダ潤滑液噴射間の機関のドライ回転は、シリンダライナの内面の保護にとって有害であることが経験から知られているからである。
【0009】
別の種類のシリンダ潤滑液供給装置には、所望の制御可能な如何なる長さの部分行程でも行えるリニアアクチュエータが設けられている。このシリンダ潤滑装置では、噴射事象が一般に機関の1回転毎に発生し、リニアアクチュエータの行程長、ひいては注油プランジャの行程長、を調整することによって、送り出される量が機関の現在のニーズに合わせて厳密に調整される。この種のシリンダ潤滑液供給装置は、機関のあらゆる運転条件下において厳密に必要量のシリンダ潤滑液を供給できる。ただし、この種のシリンダ潤滑液供給装置は、圧送行程が固定長である上記のシリンダ潤滑装置に比べ、著しく高価である。
【0010】
国際公開第2008009291号は、シリンダ潤滑油を注油するための油圧潤滑装置を開示している。この注油システムは、油圧油を供給するための1つ以上の弁をそれぞれ介して潤滑装置に接続された供給ラインおよび戻りラインと、供給ラインを介して油圧油による圧力にさらされ得る、油圧ピストンをそれぞれ有する、複数の油圧シリンダに接続された中央油圧油供給ポンプと、注油ピストンを有する注油シリンダとシリンダ潤滑油の供給ラインとにそれぞれ接続された、機関内のシリンダ数の倍数に相当する数の噴射ユニットとを含んでいる。信頼性が高く、安価であり、油圧シリンダの故障時でも破損のおそれがないシステムを提供するために、この潤滑装置は、分配板を設けて設計されている。この分配板は、片側が注油ピストンに接触しており、もう一方の側が注油ピストンを起動するために分配板を変位させる2つ以上の油圧ピストンに接触している。
【0011】
したがって、本発明の一目的は、安価でありながら、供給量の調整が可能であってシリンダ噴射事象のない機関回転事象の必要性を減らすことができるシリンダ潤滑液供給装置を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2008009291号
【摘要】
【0013】
本発明の一目的は、上記の諸課題を克服する、または少なくとも減らす、シリンダ潤滑装置を提供することである。
【0014】
上記および他の目的は、独立請求項の特徴によって達成される。更なる具現化形態は、従属請求項、明細書、および図面から明らかである。
【0015】
第1の態様によると、大型2ストロークユニフロー圧縮点火内燃機関の往復動ピストンがその内部に摺動可能に配設された円筒形内部を画成するシリンダライナの内面に、シリンダライナの円周に沿って分散された複数の噴射器を介して、シリンダ潤滑液を供給するためのシリンダ潤滑装置が提供される。このシリンダ潤滑装置は、
複数のピストンポンプであって、各ピストンポンプは注油シリンダ内に摺動可能に配設された注油プランジャを有し、各注油シリンダは、これら噴射器のうちの1つへの流体接続のためにポンプ吐出口に流体的に接続されたポンプ室を備える、複数のピストンポンプと、
これら注油プランジャの全てを同時に駆動するための共通駆動部と、
共通駆動部に作動可能に接続された油圧リニアアクチュエータと、
シリンダ潤滑装置の動作中に共通駆動部の行程長を少なくとも2つの個別の所定行程長のどちらか一方に調整するための手段と、
共通駆動部の第1の突出位置を決定する第1の固定された機械式エンドストップと、
油圧シリンダ内に摺動可能に配設された駆動ピストンであって、このピストンと油圧シリンダとの間に作動室を有する駆動ピストンと、油圧シリンダの一長手方向端部に、またはその近くに、配設された第1のポートと、油圧シリンダのこの長手方向端部から或る距離離れたシリンダの長さに沿った位置に配設されて第1の油圧弁に接続される第2のポートとを有する駆動ピストンと、
を備える。
【0016】
共通駆動部の行程長を調整するための手段をシリンダ潤滑装置に設けることによって、調整可能な量のシリンダ潤滑液を比較的単純で安価な装置で送り出せるようになる。第1のポートが配置されているシリンダの長手方向端部から或る距離離れたシリンダの長さに沿った位置に第2のポートを設け、この第2のポートの開度を弁によって制御すると、第1の油圧弁を開くことによって駆動ピストンが第2のポートを通過する位置に共通駆動部の最大行程を制限できる。
【0017】
第1の態様の第1の可能な具現化形態によると、本装置は、共通駆動部の後退位置を決定する第2の固定された機械式エンドストップを更に備える。
【0018】
第1の態様の第2の可能な具現化形態によると、油圧リニアアクチュエータは単動式油圧リニアアクチュエータであり、共通駆動部は後退位置に向けて弾性的に付勢される。
【0019】
第1の態様の第3の可能な具現化形態によると、油圧リニアアクチュエータは複動式油圧リニアアクチュエータである。
【0020】
第1の態様の第4の可能な具現化形態によると、作動室と駆動ピストンの円筒状外面とに開口する導管が駆動ピストンに設けられる。
【0021】
第1の態様の第5の可能な具現化形態によると、第1の油圧弁は電子的に制御される弁であり、この第1の電子的に制御される弁は、好ましくは制御信号に応じて、好ましくは、油圧源またはタンクに接続されるべく構成される。
【0022】
第1の態様の第6の可能な具現化形態によると、第1のポートは圧力源またはタンクに選択的に接続される。
【0023】
第1の態様の第7の可能な具現化形態によると、本装置は、第1のポートを圧力源またはタンクに選択的に接続するための第2の油圧弁を更に備える。
【0024】
第1の態様の第8の可能な具現化形態によると、第2の油圧弁は、制御信号に応じて第1のポートを圧力源またはタンクに接続するべく構成された電子的に制御される弁である。
【0025】
第1の態様の第9の可能な具現化形態によると、シリンダの当該端部と第2のポートとの間の距離は、第2の固定された機械式エンドストップと第1の固定された機械式エンドストップとの間の距離より短い。
【0026】
第1の態様の第10の可能な具現化形態によると、第1の油圧弁が開いているときは共通駆動部の少なくとも2つの個別の行程長のうちの短い方の圧送行程が選択され、第1の油圧弁が閉じられているときは共通駆動部の少なくとも2つの個別の行程長のうちの長い方の圧送行程が選択される。
【0027】
第1の態様の第11の可能な具現化形態によると、本装置は、操作者からの命令に応じて、または機関の運転パラメータに応じて、第1の油圧制御弁を油圧源またはタンクに接続するための制御信号を第1の油圧制御弁に発行するべく構成された制御装置を更に備える。
【0028】
第2の態様によると、大型2ストロークユニフロー圧縮点火内燃機関の往復動ピストンがその内部に摺動可能に配設された円筒形内部を画成するシリンダライナの内面に、シリンダライナの円周に沿って分散された複数の噴射器を介して、シリンダ潤滑液を供給するためのシリンダ潤滑装置が提供される。このシリンダ潤滑装置は、
複数のピストンポンプであって、各ピストンポンプは注油シリンダ内に摺動可能に配設された注油プランジャを有し、各注油シリンダは、複数の噴射器のうちの1つへの流体接続のためにポンプ吐出口に流体的に接続されたポンプ室を備える、複数のピストンポンプと、
これら注油プランジャの全てを同時に駆動するための共通駆動部と、
共通駆動部に作動可能に接続された油圧リニアアクチュエータと、
シリンダ潤滑装置の動作中に共通駆動部の行程長を少なくとも2つの個別の所定行程長のどちらか一方に調整するための手段と、
移動可能な機械式エンドストップであって、この移動可能な機械式エンドストップは少なくとも2つの位置を有し、第1の位置において、移動可能な機械式エンドストップは共通駆動部のためのエンドストップを共通駆動部の第1の突出位置に形成し、第2の位置において、移動可能な機械式エンドストップは共通駆動部のためのエンドストップを共通駆動部の第1の突出位置とは異なる共通駆動部の第2の突出位置に形成する、移動可能な機械式エンドストップと、
を備える。
【0029】
第2の態様の第1の可能な具現化形態によると、本装置は、共通駆動部の後退位置を決定する第2の固定された機械式エンドストップを更に備える。
【0030】
第2の態様の第2の可能な具現化形態によると、移動可能な機械式エンドストップは、この移動可能な機械式エンドストップを第1の位置と第2の位置との間で移動させるべく構成されたエンドストップアクチュエータに作動可能に接続される。
【0031】
第2の態様の第3の可能な具現化形態によると、エンドストップアクチュエータは制御信号を受信し、エンドストップアクチュエータは、この制御信号の受信により、機械式エンドストップを第1の位置から第2の位置に、または第2の位置から第1の位置に、移動させるべく構成される。
【0032】
第2の態様の第4の可能な具現化形態によると、移動可能なエンドストップは、ボア内に摺動可能に配設されたロッドを備え、この移動可能なエンドストップはロッドを第1の位置または第2の位置に固定するべく構成される。
【0033】
第2の態様の第5の可能な具現化形態によると、ロッドの第2の長手方向端部は、共通駆動部の共通駆動部当接面に当接するエンドストップ当接面を形成する。
【0034】
第2の態様の第6の可能な具現化形態によると、ロッドは第3の固定された機械式エンドストップによって第1の位置に固定され、ロッドは移動可能なボルトによって第2の位置に固定される。
【0035】
第2の態様の第7の可能な具現化形態によると、ボルトは案内路内に摺動可能に配設され、ボルトは、ボルトが案内路から突出しない後退位置とボルトが案内路から突出する突出位置との間でボルトを移動させるべく構成されたエンドストップアクチュエータに作動可能に接続される。
【0036】
第2の態様の第8の可能な具現化形態によると、ボルトがその突出位置にあるとき、ボルトは第3の固定された機械式エンドストップとロッドとの間に配置される。
【0037】
第2の態様の第9の可能な具現化形態によると、案内路はロッドの軸線に対してほぼ直角に配置される。
【0038】
第2の態様の第10の可能な具現化形態によると、傾斜した先端がボルトに設けられる。
【0039】
第2の態様の第11の可能な具現化形態によると、ロッドの第1の長手方向端部とは反対の側の第2の長手方向端部に傾斜部が設けられる。
【0040】
第2の態様の第12の可能な具現化形態によると、ロッドはその第1の位置に向けて弾性的に付勢される。
【0041】
第2の態様の第13の可能な具現化形態によると、エンドストップアクチュエータはリニアアクチュエータ、好ましくは単動式リニアアクチュエータ、であるが、ボルトはその後退位置に向けて弾性的に付勢される。
【0042】
第2の態様の第14の可能な具現化形態によると、エンドストップアクチュエータは空圧リニアアクチュエータ、油圧リニアアクチュエータ、または電動リニアアクチュエータである。
【0043】
第2の態様の第15の可能な具現化形態によると、第2の固定された機械式エンドストップと移動可能なエンドストップとの間の共通駆動部の最大行程は、移動可能なエンドストップが第2の位置にあるときより移動可能なエンドストップが第1の位置にあるときの方が大きい。
【0044】
本発明の上記および他の態様は、以下に説明する各実施例から明らかになるであろう。
【0045】
本開示の以下の詳細な説明の部分においては、図面に示されている各例示的実施例に言及して本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】一例示的実施例による大型2ストロークディーゼル機関の正面斜視図である。
図2図1の大型2ストローク機関の背面斜視図である。
図3図1による大型2ストローク機関の線図である。
図4図1図3の機関のシリンダライナおよびシリンダフレームの長手方向断面図である。
図5図4のシリンダライナの側面図である。
図6図4のシリンダライナの横断面図である。
図7】一例示的実施例によるシリンダ潤滑液供給装置の斜視図である。
図8図7の装置の上面図である。
図9図7の装置の長手方向断面図である。
図10図7の装置の別の長手方向断面図である。
図11図9の断面の拡大詳細図である。
図12】シリンダ潤滑液供給装置の別の例示的実施例の長手方向断面図である。
図13図12の装置の別の長手方向断面図である。
図14図12の装置のボルトの拡大斜視図である。
図15図12の装置の線図である。
図16】シリンダ潤滑液供給装置の更に別の例示的実施例の線図である。
【詳細説明】
【0047】
以下の詳細な説明においては、各例示的実施例におけるクロスヘッドを有する大型2ストローク低速ターボ過給式圧縮点火内燃機関およびシリンダ潤滑装置に言及して、シリンダ潤滑液を内燃機関のシリンダライナの内面に供給するための装置を説明する。
【0048】
図1図2、および図3は、クランクシャフト8及びクロスヘッド9を有する大型低速ターボ過給式2ストロークディーゼル機関を示す。図3は、大型低速ターボ過給式2ストロークディーゼル機関をその吸気系および排気系と共に線図で示す。この例示的実施例において、機関は6つのシリンダを直列に有する。大型低速ターボ過給式2ストロークディーゼル機関は、機関フレーム11によって担持されたシリンダフレーム23によって担持される、一般に4〜14の間の数のシリンダを直列に有する。この機関は、例えば、海洋船舶の主機関として、または発電所の発電機を運転するための定置式機関として、使用され得る。この機関の総出力は、例えば1,000kWから110,000kWの範囲にわたり得る。
【0049】
この機関は、この例示的実施例において、シリンダライナ1の下方領域に設けられた複数の掃気ポート18とシリンダライナ1の頂部に設けられた中心排気弁4とを有する2ストロークユニフロー式圧縮点火機関である。掃気は掃気溜2から個々のシリンダ1の掃気ポート18に送られる。シリンダライナ1内のピストン10が掃気を圧縮し、シリンダカバー22に設けられた燃料弁50から燃料が噴射され、その後に燃焼が発生し、排気ガスが生成される。
【0050】
排気弁4が開かれると、排気ガスはシリンダ1に対応付けられた排気ダクトを通って排気溜3に流入し、そこから第1の排気導管19を通ってターボチャージャ5のタービン6に流れ、そこから排気ガスは第2の排気導管を通り、エコノマイザ20を経由して、流出口21に流れ、更には大気に流出する。タービン6は、シャフトを介して、空気取入口12から新鮮な空気が供給されるコンプレッサ7を駆動する。コンプレッサ7は、圧縮された掃気を掃気溜2に通じる掃気導管13に送り出す。掃気導管13内の掃気は、掃気を冷却するためのインタークーラ14を通過する。
【0051】
ターボチャージャ5のコンプレッサ7が掃気溜2のために十分な圧力を送り出さないとき、すなわち機関の低または部分負荷条件において、冷却された掃気は電気モータ17によって駆動される補助ブロア16を通り、そこで掃気流が加圧される。より高い機関負荷においては、ターボチャージャのコンプレッサ7は十分に圧縮された掃気を送り出す。この場合、掃気は補助ブロア16を迂回し、逆止弁15を通る。
【0052】
図4図5、および図6は、単一のシリンダライナ1を長手方向断面図、側面図、および横断面図でそれぞれ示す。油圧で締め付けられる複数のナット44によって締め付けられる複数のシリンダカバースタッド43によって、シリンダカバー22がシリンダライナ1の長手方向上端に圧締される。各シリンダカバースタッド43の下端はシリンダフレーム23内に繋止される。シリンダカバー22には、排気弁用の中心開口部46が設けられる。シリンダライナ1には、その長手方向下端部の近くに、掃気ポート18の配列が設けられる。シリンダライナ1の肩部がシリンダフレーム23の上面に載ることによって、シリンダライナ1はシリンダフレーム23によって担持される。
【0053】
シリンダライナ1の内面25は、シリンダ潤滑液を噴射するための複数の噴射器24のノズルが収容される相対的に小さな凹部を除き、概して滑らかである。これら噴射器24は、シリンダライナ1の円周に沿って等しく分散され、ほぼ同じ高さに配置される。
【0054】
これら噴射器24はシリンダライナ1の壁に挿入され、シリンダライナ1の外側面からシリンダライナ1内まで延在し、噴射器24の先端のノズルが内面25に設けられた上記の小さな凹部に収容される。噴射器24は、シリンダ潤滑液をシリンダライナ1の内面25に噴射するために働く。噴射されたシリンダ潤滑液が内面25に達することを保証するために、さまざまな手法が用いられる。一部の手法では、噴射器24が配置されている高さにピストン10が圧縮行程中に達する前に、シリンダ潤滑液をノズル穴から内面25に直接吹き付ける。別の手法では、シリンダ潤滑液がピストン10のピストンリング間に噴射されるように、ピストン10が圧縮行程中に噴射器24の高さに達した正にその時点にシリンダ潤滑液を噴射する。シリンダ潤滑液がシリンダライナの内面25に達することを保証する手法であれば何れの手法も本発明と共に使用可能である。
【0055】
各噴射器24は、それぞれの供給導管41を介して、シリンダ潤滑液供給装置55に接続される。
【0056】
図7図8図9図10、および図11は、シリンダ潤滑液を内面25に供給するための装置55の第1の例示的実施例を斜視図、上面図、長手方向断面図、および拡大図でそれぞれ示す。シリンダ潤滑装置55は、ハウジング60を備える。ハウジング60は、本実施例においては、いくつかの構成要素から組み立てられるが、単一の構成要素から形成することもできる。
【0057】
シリンダ潤滑装置55は、対応する注油シリンダ72内にそれぞれ摺動可能に配設された複数の注油プランジャ70によって形成された複数の容量型ポンプを備えたポンプを含む。シリンダ潤滑装置55は、圧送および吸引行程中に全ての注油プランジャ70を同時に移動させるべく構成されたリニアアクチュエータを更に含む。このリニアアクチュエータは、共通駆動部80を介して全ての注油プランジャ70に作動可能に接続される。
【0058】
リニアアクチュエータは、図示の実施例においては、油圧リニアアクチュエータ83であり、ハウジング60内に配設された対応シリンダ内に収容された駆動ピストン82を備える。駆動ピストン82は、対応シリンダと共に、駆動室81をハウジング60内に画成する。ただし、油圧アクチュエータ83は、それ専用のハウジングを有する完全に別個の構成要素にすることもできることを理解されたい。
【0059】
駆動ピストン82は、共通駆動部80に作動可能に接続される。本実施例において、駆動ピストンと共通駆動部80とは、一体化された単一の構成要素である。ただし、共通駆動部80と駆動ピストン82とは作動可能に接続されていればよいので、それぞれ別個の構成要素とすることもできることを理解されたい。
【0060】
螺旋スプリング75がスプリング室73内に配設される。螺旋スプリング75は、注油プランジャ70が完全に後退する位置に向けて共通駆動部80を弾性的に付勢するために、すなわち吸引行程を行うために、働く。共通駆動部80は、その一部がスプリング室73内に配設される。
【0061】
本実施例において、リニアアクチュエータは、共通駆動部80を介して注油プランジャ70のための圧送行程の動力を提供するべく構成された単動式油圧リニアアクチュエータ83であり、注油プランジャ70の戻り(吸引)行程の動力は、螺旋ワイヤスプリング75によって提供される。共通駆動部80を注油プランジャ70の後退位置に向けて弾性的に付勢するために適した弾性手段であれば、如何なる弾性手段でも螺旋ワイヤスプリング75の代わりに使用できる。あるいは、リニアアクチュエータは、注油プランジャ70の圧送行程および吸引行程の両方の動力を供給する複動式リニアアクチュエータにすることもできる。
【0062】
各注油シリンダ72内にポンプ室が形成される。各ポンプ室は、逆止弁62を介してシリンダ潤滑液流入室65に接続される。流入室65内のシリンダ潤滑液は、シリンダ潤滑液流入ポート61を介してシリンダ潤滑液源(図示せず)に接続される。注油プランジャ70が吸引行程中に同時に後退すると、ポンプ室は、シリンダ潤滑液流入ポート61、シリンダ潤滑液流入室65、およびそれぞれの逆止弁62を介して、シリンダ潤滑液源からのシリンダ潤滑液で再充填される。各ポンプ室は、通路77を介して、流出ポート62に接続される。各流出ポート62は、供給導管41を介して、噴射器24に接続される。注油プランジャ70が注油シリンダ内に最も突出しているとき、ポンプ室の容積は最小である。プランジャ70が注油シリンダから最も後退しているとき、ポンプ室の容積は最大である。
【0063】
注油プランジャ70が圧送行程中にそれぞれの注油シリンダ内に同時に移動すると、それぞれのポンプ室内のシリンダ潤滑液は、ポンプ室からそれぞれの通路77、それぞれの流出ポート62、それぞれの供給導管41を通って、それぞれの噴射器24に押し出される。すなわち、各注油プランジャは、一実施例においては、単一の噴射器24に接続されている。
【0064】
油圧リニアアクチュエータ83は、対応シリンダ内に摺動可能に配設された駆動ピストン82を備え、駆動ピストン82と対応シリンダとの間に駆動室81を有する。対応シリンダの一長手方向端部に、またはその近くに、第1のポート84が配設され、対応シリンダのこの長手方向端部から或る距離離れた対応シリンダの長さに沿った位置に第2のポート86が配設される。第2のポート86は、一実施例においては、リング室または環状溝の形態である。
【0065】
拡大断面Cに最も良く示されているように、作動室81に面する駆動ピストン82の長手方向端部には、作動室81を駆動ピストン82の外周面に接続する導管が設けられる。この導管は、本実施例においては、駆動室81に開口する長手方向流路89によって形成され、駆動ピストン82の円筒状外面に開口する1つ以上の半径方向流路88に接続される。
【0066】
第1のポート84は、通路85を介して第2の油圧弁59に接続される。第2の油圧弁59は、第1のポート84を圧力源またはタンクに選択的に接続する。第2の油圧弁59が第1のポート84を圧力源に接続すると、作動室81は加圧され、駆動ピストン82は、圧送行程を行うために、圧送行程の方向への力を共通駆動部80に、ひいては注油プランジャ70に、加える。圧送行程は、第1の機械式エンドストップによって機械的に制限される。この第1の機械式エンドストップは、この例示的実施例においては、ハウジング60の第2の当接面37に当接する共通駆動部の第1の当接面36によって形成される。したがって、第1の機械式エンドストップは、注油プランジャ70の最大突出位置を決定する。
【0067】
第2の油圧弁59が第1のポート84をタンクに接続すると、駆動ピストン82は有意な力を共通駆動部80に加えない。したがって、螺旋スプリング70は各注油プランジャ70を付勢してその後退位置に戻す。これにより、吸引行程が行われる。螺旋スプリング70は、共通駆動部80の第3の当接面38がハウジング60の第4の表面35に当接するまで、共通駆動部80を吸引行程の方向に移動させる。これにより、第4の表面35は、注油プランジャ70の最も後退した位置のための第2の固定された機械式エンドストップを形成する。
【0068】
第2のポート86は、ブリード導管87および第1の油圧弁58を介してタンクに接続される。第1の油圧弁58が第1の位置にあるとき、第1の油圧弁58は第2のポート86をブリード導管87経由でタンクに接続する。第1の油圧弁58が圧送行程中に第2の位置にあるとき、作動ピストン82内の半径方向流路88が第2のポート86に達すると、すなわち半径方向流路88が第2のポート86に面しているとき、第1の油圧弁58は駆動室81をタンクに接続する。これにより、駆動室81が減圧され、圧送行程が終了する。したがって、第2のポート86は油圧エンドストップの一部を形成し、短い行程長L1に達したときに、作動室81をタンクに接続することによって、圧送行程を短い長さL1に制限する。
【0069】
第1の油圧弁58が圧送行程中に油圧源に接続されると、作動ピストン82は長さL2の全行程を移動する。すなわち、共通駆動部の当接面36がハウジング60の第2の当接面37(第1の固定された機械式エンドストップ)に当接するまで、圧送行程が継続する。
【0070】
全行程の長さL2は、短い行程の長さL1より大きい。第1のポート84が配置された対応シリンダの長手方向端部と第2のポート86の位置との間の距離は、半径方向流路88の位置と共に、短い行程の長さL1を決定する。軸方向通路89と半径方向通路88とによって形成される導管は必須ではないことを理解されたい。ただし、この導管がない場合は、同じ短い行程長L1を得るために、第2のポート86を第1のポート84のより近くに配置する必要がある。
【0071】
第2の油圧弁59が油圧源に接続される位置に第2の油圧弁59を動かすことによって、圧送行程が開始される。第2の油圧弁59がタンクに接続される位置に第2の油圧弁59を動かすことによって、圧送行程は終了する。圧送行程の長さは、第1の油圧弁58の位置によって決定される。第1の油圧弁58が油圧源に接続されると、長さL2の長い圧送行程が得られる。第1の油圧弁58がタンクに接続されると、長さL1の短い圧送行程が得られる。一実施例において、第1の油圧弁58は、制御信号を受信する、電磁弁などの電子的に制御される弁である。一実施例において、第2の油圧弁59は、制御信号を受信する、電磁弁などの電子的に制御される弁である。
【0072】
別の実施例(図示せず)において、第1の制御弁58は、開閉のみが可能な単純な弁である。この弁は、開位置において、第2のポート86をタンクに接続する。この実施例において、短い行程長L1は、第1の油圧弁58を開くことによって得られ、長い行程長L2は、第1の油圧弁58を閉じることによって得られる。
【0073】
図12図13図14、および図15は、シリンダ潤滑液供給装置55の別の例示的実施例を長手方向断面図、詳細図、および線図でそれぞれ示す。図12図15の実施例のシリンダ潤滑装置55は、図7図11の実施例のシリンダ潤滑装置55とほぼ同じであり、同じ参照符号は同じ特徴を指している。ただし、以下の点が異なる。
【0074】
リニアアクチュエータ83には、第2のポートもブリード流路も設けられない。駆動ピストン82には、作動室81を駆動ピストン82の円筒状外面に接続する導管が設けられず、第1の油圧弁は存在しない。
【0075】
第2の油圧弁59は、駆動室81を油圧源またはタンクに選択的に接続する。第2のポート86がないため、作動室81の減圧によって注油プランジャ70の行程長を短い方の長さL1に制限できない。代わりに、短い行程長L1は、本例示的実施例においては、移動可能な機械式エンドストップによって制限される。この移動可能な機械式エンドストップは、少なくとも2つの位置を有する。図12は、長さL1の短い行程をもたらす移動可能な機械式エンドストップの位置を示す。図13は、長さL2の長い行程をもたらす移動可能な機械式エンドストップの位置を示す。
【0076】
吸引行程の方向への注油プランジャ70の移動は、ハウジング60の第4の当接面35に当接する共通駆動部80の第3の当接面38によって形成される第2の固定された機械式エンドストップによって制限される。これにより、第4の当接面35は、注油プランジャ70の最も後退した位置のための第2の固定された機械式エンドストップを形成する。共通駆動部80および注油プランジャ70のこの後退位置が図12および図13に示されている。
【0077】
この移動可能な機械式エンドストップは、この移動可能な機械式エンドストップに作動可能に接続されたエンドストップアクチュエータを備える。
【0078】
このエンドストップアクチュエータは、移動可能な機械式エンドストップを第1の位置と第2の位置との間で移動させるべく構成される。
【0079】
このエンドストップアクチュエータは、電子制御ユニット100から制御信号を受信する。このエンドストップアクチュエータは、電子制御ユニット100からの制御信号の受信により、機械式エンドストップを第1の位置から第2の位置に、または第2の位置から第1の位置に、移動させるべく構成される。あるいは、機械式エンドストップの位置は、信号をエンドストップアクチュエータに送信する制御ボタンを用いる操作者によって単に制御される。
【0080】
移動可能なエンドストップは、対応ボア内に摺動可能に配設されたロッド94を備える。ロッド94は、第1の位置または第2の位置にエンドストップアクチュエータによって保持可能である。
【0081】
ロッド94の第1の長手方向端部は、共通駆動部80の第1の当接面36に当接する第2の当接面37を形成する。
【0082】
ロッド94は、第3の固定された機械式エンドストップによって、その第1の位置に固定される。ロッド94は、ボルト90によってその第2の位置に固定される。
【0083】
第3の固定された機械式エンドストップは、プラグ93によって形成される。プラグ93は、ハウジング60内のボア内に固定される。プラグ93は、ハウジング60内のネジ穴に螺合するネジの形態にすることができる。この場合、プラグ93の位置は、プラグ93の回転によって調整される。プラグ93は共通駆動部80と同じ軸線上に配設され、軸線方向に向いた第5の当接面28がプラグ93に設けられる。ロッド94には、プラグ93に面する長手方向端部に、軸線方向に面した第6の当接面29が設けられる。ボルト90が図13に示されている位置にあるとき、ロッド94は、ロッド94の第6の当接面29がプラグ93の第5の当接面28に当接するまで、圧送行程の方向に移動できる。これは、機械式エンドストップの第1の位置であり、長い方の長さL2の圧送行程を可能にする。この位置において、ボルト90はその後退位置にあり、ボルト90はロッド94とプラグ93との間に突出しない。
【0084】
ボルト90は、ロッド94の軸線にほぼ直角な案内路内に摺動可能に配設される。ボルト90は、エンドストップアクチュエータに作動可能に接続される。エンドストップアクチュエータは、ボルト90が案内路から突出しない、図13に示されている、後退位置とボルトがロッド94とプラグ93との間の案内路から突出してロッド94をその第2の位置に位置付ける突出位置との間で、ボルト90を移動させるべく構成される。後者の位置は、機械式エンドストップの第2の位置であり、短い方の長さL1の圧送行程をもたらす。
【0085】
本実施例においては、傾斜した先端97がボルト90に設けられる。ロッド94の第1の長手方向端部とは反対の側の第2の長手方向端部に、傾斜部33が設けられる。エンドストップアクチュエータがボルト90を後退位置から突出位置に移動させると、傾斜した先端97は傾斜部33に係合し、ひいては軸方向成分を有する力をロッド94に生じさせる。これにより、ロッド94はその第2の位置(図15に破線で図示)に押し出される。その第2の位置において、第2の当接面37は、第2の固定された機械式エンドストップにより近くなる。したがって、ボルト90がその突出位置にあるとき、ロッド94はその第2の位置に押し出され、圧送行程は短い方の長さL1になる。
【0086】
実施例において、ロッド94はその第1の位置に向けて弾性的に付勢される。
【0087】
ボルト90がその後退位置にあるとき、ロッドはその第1の位置にあり、圧送行程は長い方の長さL2になる。
【0088】
エンドストップアクチュエータは、ボルト90に作動可能に接続されたリニアアクチュエータである。エンドストップアクチュエータは、一実施例においては、単動式リニアアクチュエータであり、ボルト90はその後退位置まで弾性的に付勢される。本実施例において、エンドストップアクチュエータは空圧リニアアクチュエータであるが、エンドストップアクチュエータは、油圧リニアアクチュエータ、電動リニアアクチュエータ、または手動アクチュエータでもよいことを理解されたい。
【0089】
空圧リニアアクチュエータは、空圧シリンダ95を備える。ボルト90には、傾斜した先端97とは反対の側の長手方向端部に頭部91が設けられる。頭部91は、空圧シリンダ95内に摺動可能に、且つ密封式に、配設されたピストンとして働く。空圧シリンダ95は、空圧導管96を介して、空圧弁99に接続される。空圧弁99は、一実施例において、電子制御ユニット100に接続された電磁弁である。空圧弁99は、空圧導管96を空圧源または大気に接続するべく構成される。
【0090】
電子制御ユニット100が注油プランジャ70の短い方の長さL2の行程を選択するための信号を発行すると、空圧弁99は空圧導管96を空圧源に接続する。この結果として頭部91に作用する圧力は、ボルト90を、図12に示されている、その突出位置に押し出し、ひいてはロッド94をその第2の位置に押し出す。電子制御ユニット100が注油プランジャ70の長い方の長さL1の行程を選択するための信号を発行すると、空圧弁99は空圧導管96を大気に接続する。これによってもたらされる圧力不足は、ボルト90に対する弾性的な付勢と組み合わされて、ボルト90を、図13に示されている、その後退位置に押し戻し、ひいてはロッド94をその第1の位置に移動させる。
【0091】
図16は、シリンダ潤滑液をシリンダライナの内面25に供給するための装置55の第3の実施例の線図である。この実施例による装置55は、図12図15の実施例の装置55と基本的に同じであるが、ボルト90は油圧楔に置き換えられ、空圧弁は第3の油圧弁99'に置き換えられている。この実施例において、ロッド94の一部は、ロッド94が収容されるボア内でピストンとして機能する。したがって、ロッド94とプラグ93との間に油圧室30が形成される。油圧室30は、油圧導管96'を介して第3の油圧弁99'に接続される。第3の油圧弁99'は、一実施例においては、電子制御ユニット100に接続された電子制御弁である。電子制御弁99'は、電子制御ユニット100からのそれぞれの命令の受信により、油圧導管96'を油圧源またはタンクに接続するべく構成される。第3の油圧弁99'が油圧導管96'を油圧源に接続すると、油圧室30内の圧力が高まり、ロッド94を、破線で示されている、その第2の位置に押し出す。これにより、短い方の長さの圧送行程が注油プランジャ70のために選択される。第3の油圧弁99'が油圧導管96'をタンクに接続すると、油圧室30内の圧力不足により、ロッド94をその第1の位置に移動する。これにより、長い方の長さの圧送行程が注油プランジャ70のために選択される。
【0092】
少なくとも2つの異なる長さの圧送行程によってシリンダ潤滑液をシリンダライナ1の内面25に供給する装置55は、種々の方法で使用可能である。装置55の1つの使用方法は、機関の1回転毎に噴射を行う、新しいシリンダライナ1の慣らし運転のために長さL2の長い圧送行程を使用すること、および100%の機関負荷における運転時に1回転毎に噴射を行うための平常の運転条件のための最大供給量を送り出すために長さL1の短い圧送行程を使用することによる。これら噴射は、低負荷での運転時に機関の回転をスキップするが、単一の固定長の圧送行程のみの従来技術の装置に比べると、はるかに高頻度である。
【0093】
上記の各実施例は、電子制御ユニットによる行程長の自動制御に言及して説明されているが、プランジャ70の圧送行程の行程長は、それぞれの油圧または空圧弁を手動で制御することによって、例えばボタンの押下によって、手動でも制御可能であることを理解されたい。
【0094】
特許請求の範囲に使用されている用語「を備えた("comprising")」は、他の要素またはステップを排除するものではない。特許請求の範囲に使用されている用語「"a"」または「"an"」は、複数形を排除するものではない。電子制御ユニットは、特許請求の範囲に記載されているいくつかの手段の機能を果たし得る。特許請求の範囲に使用されている参照符号は、範囲を限定するものと解釈されるべきではない。本発明は説明を目的として詳細に記述されているが、このような詳細は単に上記の目的のためであり、当業者は本発明の範囲から逸脱することなく変更を行えることを理解されたい。
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