特許第6461312号(P6461312)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6461312制振性付与剤及び水性制振塗料用樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6461312
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】制振性付与剤及び水性制振塗料用樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20190121BHJP
   C09D 7/43 20180101ALI20190121BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20190121BHJP
   C09D 133/04 20060101ALI20190121BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20190121BHJP
【FI】
   C09K3/00 P
   C09D7/43
   C09D201/00
   C09D133/04
   C09D5/02
【請求項の数】13
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2017-510079(P2017-510079)
(86)(22)【出願日】2016年3月30日
(86)【国際出願番号】JP2016060317
(87)【国際公開番号】WO2016159047
(87)【国際公開日】20161006
【審査請求日】2017年9月21日
(31)【優先権主張番号】特願2015-72883(P2015-72883)
(32)【優先日】2015年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-172131(P2015-172131)
(32)【優先日】2015年9月1日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-172132(P2015-172132)
(32)【優先日】2015年9月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 幸弘
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−199531(JP,A)
【文献】 特開2007−085385(JP,A)
【文献】 特開2006−206677(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/010095(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00
C09D 1/00−201/10
C08F 2/26
C08K 5/42
C08L33/06
F16F15/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物を含み、
該スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物は、オキシアルキレン基の平均付加モル数が3以上であるポリアルキレンオキシド鎖を有する
ことを特徴とする制振性付与剤。
【請求項2】
前記スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物は、炭素数8以上の炭化水素基を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の制振性付与剤。
【請求項3】
前記スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物は、反応性の炭素−炭素不飽和結合を有しない化合物である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の制振性付与剤。
【請求項4】
下記方法で算出される制振性上昇率が5%以上である
ことを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の制振性付与剤。
制振性上昇率の算出方法:
(1)単量体成分を重合してなるエマルションを含み、該エマルションの原料として用いられた全単量体成分100質量%に対して、該制振性付与剤を、スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物の含有量が3.0質量%となるように含み、炭酸カルシウムを2.8×10質量%含み、加熱膨張カプセル型発泡剤を含まない塗料を、冷間圧延鋼板(商品名SPCC、日本テストパネル社製)上に2mmの厚みで塗布して80℃で30分間予備乾燥後、150℃で30分間乾燥し、塗膜を形成する。
(2)スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物の含有量を1.5質量%とする以外は(1)に記載した条件で塗膜を形成する。
(3)(1)、(2)で形成した塗膜のそれぞれについて、20℃、30℃、40℃、50℃、60℃それぞれの温度における損失係数を、損失係数測定システム(株式会社小野測機製)を用いて片持ち梁法で測定し、各損失係数の合計を総損失係数とする。
(4)下記式より制振性上昇率を算出する。
制振性上昇率(%)={(a−b)/b}×100(%)
a:(1)で形成した塗膜の総損失係数
b:(2)で形成した塗膜の総損失係数
【請求項5】
単量体成分を重合してなるエマルションを含む、水性制振塗料用樹脂組成物であって、
該組成物は、更に、スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分を含み、
該スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分は、反応性の炭素−炭素不飽和結合を有しない化合物であり、その少なくとも一部がエマルションを形成する乳化剤として含まれ、
該エマルションは、カルボン酸(塩)基をもつ単量体単位を有する重合体を含む
ことを特徴とする水性制振塗料用樹脂組成物。
【請求項6】
前記エマルションは、重量平均分子量が2万〜80万である
ことを特徴とする請求項に記載の水性制振塗料用樹脂組成物。
【請求項7】
前記組成物中のアニオン性界面活性剤100質量%中、該スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分の含有量が25質量%以上である
ことを特徴とする請求項又はに記載の水性制振塗料用樹脂組成物。
【請求項8】
前記エマルションの原料として用いられた全単量体成分100質量%に対して、スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分の含有量が0.1〜20質量%である
ことを特徴とする請求項のいずれかに記載の水性制振塗料用樹脂組成物。
【請求項9】
前記エマルションは、(メタ)アクリル系重合体を含む
ことを特徴とする請求項のいずれかに記載の水性制振塗料用樹脂組成物。
【請求項10】
請求項のいずれかに記載の水性制振塗料用樹脂組成物、及び、顔料を含む
ことを特徴とする水性制振塗料。
【請求項11】
前記エマルションの原料として用いられた全単量体成分100質量%に対して、加熱膨張カプセル型発泡剤の含有量が2質量%以下である
ことを特徴とする請求項10に記載の水性制振塗料。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の水性制振塗料を用いて得られる
ことを特徴とする塗膜。
【請求項13】
単量体成分を重合してなるエマルション、スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分、及び、顔料を含む水性制振塗料を加熱することにより、該水性制振塗料を発泡させて塗膜を得る工程を含み、
該スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分は、反応性の炭素−炭素不飽和結合を有しない化合物であり、その少なくとも一部がエマルションを形成する乳化剤として含まれ、
該エマルションは、カルボン酸(塩)基をもつ単量体単位を有する重合体を含む
ことを特徴とする塗膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振性付与剤及び制振材用樹脂組成物に関し、より詳しくは、制振性が要求される各種構造体に好適に用いることができる制振性付与剤、制振材用樹脂組成物、該制振材用樹脂組成物を含む塗料、及び、該塗料を用いて得られる塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
制振材は、各種構造体の振動や騒音を防止して静寂性を保つためのものであり、自動車の室内床下等に用いられている他、鉄道車両、船舶、航空機や電気機器、建築構造物、建設機器等にも広く利用されている。制振材としては、従来、振動吸収性能及び吸音性能を有する材料を素材とする板状又はシート状の成形加工品が使用されているが、その代替品として、塗膜を形成することにより振動吸収効果及び吸音効果を得ることが可能な塗料が種々提案されている。塗料として、単量体成分を乳化重合してなるエマルションを用いるものが提案されている(例えば、特許文献1〜6参照。)。また、反応性乳化剤を用いて単量体成分を乳化重合してなるエマルションを用いるものが提案されている(例えば、特許文献7参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−207103号公報
【特許文献2】国際公開第2007/023821号
【特許文献3】特開2010−275547号公報
【特許文献4】特許第4550703号公報
【特許文献5】特許第5159628号公報
【特許文献6】特許第5660779号公報
【特許文献7】特開2013−199531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、塗料として種々のものが提案されているが、外観に優れ、幅広い温度領域で優れた制振性を発揮できる塗膜を得ることができる塗料はいまだ見出されていない。
【0005】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、外観に優れ、幅広い温度領域で優れた制振性を発揮できる塗膜を得ることができる、機械安定性に優れる塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、外観と、幅広い温度領域での優れた制振性とを両立できる塗膜を形成でき、機械安定性が良好な材料について種々検討したところ、スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物を含む制振性付与剤や制振材用樹脂組成物に想到した。本発明者は、この制振性付与剤や制振材用樹脂組成物を用いて、機械安定性に優れる塗料を得ることができ、該塗料を用いて、外観に優れ、幅広い温度領域で顕著に優れた制振性を発揮できる塗膜を形成することができることを見出し、上記課題を見事に解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0007】
すなわち本発明は、スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物を含む制振性付与剤である。
本発明はまた、単量体成分を重合してなるエマルションを含む制振材用樹脂組成物であって、該組成物は、更に、スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分を含む制振材用樹脂組成物である。
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0008】
<本発明の制振性付与剤>
本発明の制振性付与剤は、スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物を含むものである。
なお、本発明は、スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物を制振性付与剤として単量体成分を重合してなるエマルションと混合する工程を含むスルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物の使用方法でもある。
【0009】
本発明の制振性付与剤を用いて、外観に優れ、幅広い温度領域で顕著に優れた制振性を発揮できる塗膜を好適に得ることができる。
本発明の制振性付与剤を用いて外観に優れる塗膜を得ることができる理由は、以下のように考えられる。従来、制振材用塗料には炭酸カルシウム等の顔料、増粘剤、分散剤、加熱膨張カプセル型発泡剤等の発泡剤を混合していて、加熱乾燥(焼き付け)によりエマルション中の水等の揮発成分を蒸発させるが、該発泡剤を一定量添加しないと塗膜にフクレが生じる。これは、塗膜内部から揮発成分が全て蒸発する前に塗膜表面から揮発成分が蒸発し乾燥膜を形成することで塗膜内部の揮発成分の蒸発経路が塞がれ、塗膜内部に残った揮発成分の蒸気により該乾燥膜が持ち上げられるためであると考えられる。該発泡剤は熱膨張して揮発成分の蒸発経路を形成することで蒸気を抜けやすくし、フクレを防止する。
本発明の制振性付与剤は、スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物を含むことで、塗料中の加熱膨張カプセル型発泡剤の使用量を減量又はゼロにしてもフクレが抑制された外観良好な塗膜を得ることができる。これは、スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物又は該化合物がエマルション中の重合体の構成単位となったものが乳化作用とともに熱起泡性を有しており、乾燥初期より沸騰等による細かい起泡現象があり、加熱継続下でも水抜け性が維持されることから、良好な塗膜外観が得られると推定される。
【0010】
本発明の制振性付与剤は、乳化剤であることが好ましい。本発明の制振性付与剤が乳化剤であるとは、乳化重合時の乳化剤であってもよく、乳化重合以外の方法で得られた重合体に添加されて重合体をエマルションとするものであってもよいが、いずれの場合も、スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物が、親水性基(例えば、酸(塩)基)及び疎水性基(例えば、酸(塩)基以外の部分)を有し、樹脂組成物中において、重合体からなるエマルション粒子の表面を覆い、該成分の親水性基が水系溶媒等の溶媒側(エマルション粒子の反対側)を向き、該成分の疎水性基がエマルション粒子側を向く。ここで、該化合物がエマルション粒子の表面を覆うとは、完全に覆っていなくてもよく、例えば、所々においてエマルション粒子が露出していてもよい。
【0011】
中でも、本発明の効果をより充分に発揮する観点からは、本発明の制振性付与剤が、乳化重合時の乳化剤であることが好ましい。本発明の制振性付与剤がエマルションを形成するための乳化重合時の乳化剤である場合、該化合物は、エマルションを形成する重合体とは別の化合物となるものであってもよく、エマルションを形成する重合体の一部を構成する構成単位となるものであってもよいが、エマルションを形成する重合体とは別の化合物となるものであることが好ましい。
またスルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物は、入手が容易で安価であるため、本発明の制振性付与剤を調製するのに有利となる。
【0012】
(スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物)
上記スルホコハク酸(塩)骨格とは、−CO−C−C−COOR(Rは、水素原子、アルキル基、金属塩、アンモニウム塩、又は、有機アミン塩を表す。)で表される骨格中の−C−C−部分の炭素原子の少なくとも1つにスルホン酸(塩)基が結合した骨格を言う。
上記Rにおけるアルキル基は、炭素数1〜20のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜15のアルキル基であることがより好ましく、炭素数5〜10のアルキル基であることが更に好ましく、例えば2−エチルヘキシル基が特に好ましい。上記Rにおける金属塩を形成する金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子等の1価の金属原子;カルシウム、マグネシウム等の2価の金属原子;アルミニウム、鉄等の3価の金属原子等が挙げられる。また、上記Rにおける有機アミン塩としては、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩や、トリエチルアミン塩等が挙げられる。
上記Rは、水素原子、アルキル基、又は、金属原子であることが好ましく、アルキル基、又は、金属原子であることがより好ましく、金属原子であることが更に好ましい。金属原子としては、上記1価の金属原子が一層好ましく、ナトリウムが特に好ましい。
【0013】
上記スルホン酸(塩)基とは、スルホン酸基及び/又はスルホン酸塩基を意味する。上記スルホン酸塩基としては、スルホン酸基の金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、これらの混合塩等が挙げられる。
上記金属塩を形成する金属原子、上記有機アミン塩としては、上述したものと同様のものが挙げられる。
【0014】
上記スルホン酸(塩)基は、得られる塗膜の機能をより充分に発揮できる観点から、スルホン酸基、スルホン酸ナトリウム塩基、スルホン酸マグネシウム塩基、スルホン酸カルシウム塩基がより好ましく、スルホン酸ナトリウム塩基、スルホン酸マグネシウム塩基、スルホン酸カルシウム塩基が更に好ましく、スルホン酸ナトリウム塩基が特に好ましい。
【0015】
上記スルホコハク酸(塩)骨格においては、更に水素原子及び/又は水素原子以外の1価の置換基が結合されている。該スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物は、反応性の炭素−炭素不飽和結合をもち、重合時にエマルション中の重合体の構成単位となるものであってもよい。反応性の炭素−炭素不飽和結合をもつ、スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物としては、エレミノールJS−20(商品名、三洋化成社製)等が挙げられる。しかしながら、上記スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物は、塗膜外観をより良好にする点から、反応性の炭素−炭素不飽和結合を有しない化合物であることが好ましい。言い換えれば、上記スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物は、エマルションを得るための乳化剤であって、非反応性乳化剤であることが好ましい。非反応性乳化剤は、反応性の炭素−炭素不飽和結合を有さないため、乳化重合時に反応してエマルションを形成する重合体の一部を構成せず、乳化重合後においても重合体とは別の化合物となる。スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物として反応性の炭素−炭素不飽和結合をもたない化合物を用いた場合は、本発明の制振材用樹脂組成物は、エマルションを形成する重合体の構成単位とは別に、スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物を含むこととなる。これにより、塗膜外観を良好にする本発明の効果をより顕著に発揮することができる。
【0016】
上記置換基としては、例えば、炭化水素基、アミノ基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、アルコキシスルホニル基、スルホアルキル基、アミノアルキル基、カルボキシル基、ポリアルキレンオキシド鎖含有基、アルケニルオキシ基等が挙げられる。例えば、上記スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物が、炭化水素基を有することが好ましく、炭素数8以上の炭化水素基を有することがより好ましく、炭素数12以上の炭化水素基を有することが更に好ましい。
【0017】
また、上記スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物が、ポリアルキレンオキシド鎖含有基を有することも好ましい。上記ポリアルキレンオキシド鎖含有基としては、ポリアルキレンオキシド鎖のみの基であっても、ポリアルキレンオキシド鎖とその他の構造部位とを有する基であってもよい。その他の構造部位としては、脂肪族飽和炭化水素基や芳香族炭化水素基等の炭化水素基等が挙げられる。上記ポリアルキレンオキシド鎖含有基としては、ポリアルキレンオキシド鎖のみの基、又は、ポリアルキレンオキシド鎖の末端の酸素原子に水素原子又は炭化水素基が結合していることが好ましい。例えば、上記スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物が、ポリアルキレンオキシド鎖含有基を有し、該ポリアルキレンオキシド鎖含有基の末端に、炭素数8以上の炭化水素基が結合していることがより好ましく、炭素数12以上の炭化水素基が結合していることが更に好ましい。
【0018】
また上記スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物は、ポリアルキレンオキシド鎖を構成するオキシアルキレン基の平均付加モル数が3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、5以上であることが更に好ましい。該平均付加モル数とは、上記スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物における1モルのポリアルキレンオキシド鎖において付加しているオキシアルキレン基のモル数の平均値を意味する。
【0019】
上述した反応性の炭素−炭素不飽和結合をもたない、スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物は、例えば下記一般式(1);
【0020】
【化1】
【0021】
(式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜30の1価のアルキル基を表す。−A−は、−O−、又は、−NH−を表す。Rは、炭素数1〜30のアルキレン基を表す。平均付加モル数nは、0〜200である。X及びYは、同一又は異なって、水素原子、又は、スルホン酸(塩)基を表す。X及びYのうち少なくとも1つは、スルホン酸(塩)基を表す。Rは、水素原子、アルキル基、金属塩、アンモニウム塩、又は、有機アミン塩を表す。)で表されるものが好ましい。
【0022】
上記Rは、炭素数1〜30の1価のアルキル基を表すことが好ましい。上記Rの炭素数は、4以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましく、12以上であることが更に好ましい。また、上記Rの炭素数は、25以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましい。
また該1価のアルキル基は、第一級アルキル基又は第二級アルキル基であることが好ましい。
制振性及び機械安定性をバランス良く改善する観点からは、上記−A−は、−NH−を表すことが好ましい。
【0023】
上記Rは、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等の炭素数2〜4のアルキレン基が主体であることが好ましく、エチレン基が主体であることがより好ましい。
【0024】
ここでいう「主体」とは、上記(RO)部位が、2種以上のオキシアルキレン基により構成されるときに、全Rの存在数に対して、50〜100モル%を占めることが好ましい。
上記(RO)部位は、エチレン基だけから構成されることがより好ましい。
【0025】
上記平均付加モル数nは、3〜200であることが本発明の制振性付与剤における好ましい形態の1つである。該平均付加モル数nは、上記スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物の乳化剤としての機能をより高めて制振性を向上する観点からは、4以上であることがより好ましく、5以上であることが更に好ましく、6以上であることが一層好ましく、7以上であることが特に好ましい。また、該平均付加モル数nは、100以下であることがより好ましく、50以下であることが更に好ましく、20以下であることが一層好ましく、10以下であることが特に好ましい。
また上記−A−は、−NH−を表し、上記平均付加モル数nは、0であることもまた本発明の制振性付与剤における好ましい形態の1つである。
【0026】
上記X及びYは、同一又は異なって、水素原子、又は、スルホン酸(塩)基を表す。X及びYのうち少なくとも1つは、スルホン酸(塩)基を表す。X又はYのいずれか一方がスルホン酸(塩)基を表し、他方が水素原子を表すことが好ましい。スルホン酸(塩)基の好ましい形態は、上述した通りである。
上記Rは、水素原子、アルキル基、金属塩、アンモニウム塩、又は、有機アミン塩を表す。該Rは、アルキル基、又は、金属塩であることがより好ましく、金属塩であることが更に好ましい。該金属塩を構成する金属原子としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子が挙げられ、中でもナトリウムが特に好ましい。なお、上記Rにおけるアルキル基、有機アミン塩は、上述したものと同様である。
【0027】
上述した反応性の炭素−炭素不飽和結合をもたない、スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物は、例えば下記一般式(2);
【0028】
【化2】
【0029】
(式中、R、−A−、平均付加モル数nは、一般式(1)で上述したものと同様である。)で表されるものであることが本発明の制振性付与剤における好ましい形態の1つである。
【0030】
上記スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物は、例えば、スルホコハク酸と置換基を有する化合物とを従来公知の方法を用いて反応させることにより得ることができる。上記置換基がポリアルキレンオキシド鎖含有基である場合には、例えば、エチレンオキシド等のアルキレンオキシド又はポリアルキレンオキシド鎖を有する化合物とスルホコハク酸のカルボン酸基とを反応させることにより、スルホコハク酸(塩)骨格にポリアルキレンオキシド鎖含有基を導入することができる。また、上記スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物として市販品や、市販品に水系溶媒を添加して固形分濃度を適宜調整したものを用いることも可能である。
【0031】
本発明の制振性付与剤は、上記スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物以外の、後述するアニオン性界面活性剤等の従来公知の乳化剤等を含んでいてもよいが、該制振性付与剤100質量%中、該スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物の含有量が25質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが更に好ましく、70質量%以上であることが一層好ましく、80質量%以上であることがより一層好ましく、90質量%以上であることが特に好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
【0032】
本発明の制振性付与剤は、下記方法で算出される制振性上昇率が0%よりも大きいものであればよいが、中でも、下記方法で算出される制振性上昇率が5%以上であることが好ましい。
制振性上昇率の算出方法:
(1)単量体成分を重合してなるエマルションを含み、該エマルションの原料として用いられた全単量体成分100質量%に対して、該制振性付与剤を、スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物の含有量が3.0質量%となるように含み、炭酸カルシウムを2.8×10質量%含み、加熱膨張カプセル型発泡剤を含まない塗料を、冷間圧延鋼板(商品名SPCC、日本テストパネル社製)上に2mmの厚みで塗布して80℃で30分間予備乾燥後、150℃で30分間乾燥し、塗膜を形成する。
(2)スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物の含有量を1.5質量%とする以外は(1)に記載した条件で塗膜を形成する。
(3)(1)、(2)で形成した塗膜のそれぞれについて、20℃、30℃、40℃、50℃、60℃それぞれの温度における損失係数を、損失係数測定システム(株式会社小野測機製)を用いて片持ち梁法で測定し、各損失係数の合計を総損失係数とする。
(4)下記式より制振性上昇率を算出する。
制振性上昇率(%)={(a−b)/b}×100(%)
a:(1)で形成した塗膜の総損失係数
b:(2)で形成した塗膜の総損失係数
【0033】
上記炭酸カルシウムを2.8×10質量%含むとは、炭酸カルシウムを275質量%以上、285質量%未満含むものであればよい。上記(1)での炭酸カルシウム含有量と上記(2)での炭酸カルシウム含有量は、この範囲内にある限り、異なっていてもよい。
上記加熱膨張カプセル型発泡剤としては、商品名F−30(松本油脂社製)等の市販品が挙げられる。
【0034】
上記方法で算出される制振性上昇率は、6%以上であることがより好ましく、7%以上であることが更に好ましく、8%以上であることが最も好ましい。
【0035】
<本発明の制振材用樹脂組成物>
本発明の制振材用樹脂組成物は、単量体成分を重合してなるエマルションを含むものであり、更に、スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分を含む。
本発明の制振材用樹脂組成物がスルホコハク酸(塩)骨格を有する成分を含むとは、エマルションが乳化重合により得られるものであって、該乳化重合時の乳化剤として該成分を用いることで、該組成物が該成分を含むものであってもよく、他の乳化剤を用いた乳化重合によって形成されたエマルションに添加された該成分を該組成物が含むものであってもよく、該乳化重合時の乳化剤として該成分の一部を用い、得られたエマルションに該成分の残部を添加することで、該組成物が該成分を含むものであってもよく、乳化重合以外の方法で重合された重合体に該成分が乳化剤として作用してエマルションを形成することで、該組成物が該成分を含むものであってもよい。中でも、本発明の効果をより充分に発揮する観点からは、スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分が乳化剤であること、すなわち、エマルションが乳化重合により得られるものであって、該乳化重合時の乳化剤として該成分を用いることで、該組成物が該成分を含むものであるか、乳化重合時の乳化剤として該成分の一部を用い、得られたエマルションに該成分の残部を添加することで、該組成物が該成分を含むものであるか、又は、乳化重合以外の方法で重合された重合体に該成分が乳化剤として作用してエマルションを形成することで、該組成物が該成分を含むものであることが好ましく、エマルションが乳化重合により得られるものであって、該乳化重合時の乳化剤として該成分を用いることで、該組成物が該成分を含むものであることがより好ましい。該乳化重合時の乳化剤として該成分を用いる場合、該成分は、通常の乳化剤(エマルションを形成する重合体とは別の化合物)であってもよく、エマルションを形成する重合体の一部を構成する構成単位であり、かつ乳化剤であってもよいが、エマルションを形成する重合体とは別の化合物であることが好ましい。本明細書中、スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分は、上述したスルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物であってもよく、該化合物が乳化重合時にエマルションを形成する重合体の構成単位となったものであってもよいが、スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物であることがより好ましい。また、スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分の一部が、スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物であり、該成分の残部が、該化合物がエマルションを形成する重合体の構成単位となったものであってもよい。
【0036】
上述したように、本発明の制振材用樹脂組成物において、上記スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分が乳化剤であることが好ましい。上記スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分が乳化剤であるとは、具体的には、該成分が、親水性基(例えば、酸(塩)基)及び疎水性基(例えば、酸(塩)基以外の部分)を有し、エマルション粒子の表面を覆い、該成分の親水性基が水系溶媒等の溶媒側(エマルション粒子の反対側)を向いており、該成分の疎水性基がエマルション粒子側を向いていることを言う。ここで、該成分がエマルション粒子の表面を覆うとは、完全に覆っていなくてもよく、例えば、所々においてエマルション粒子が露出していてもよい。
【0037】
本発明の制振材用樹脂組成物を用いて、外観に優れ、幅広い温度領域で顕著に優れた制振性を発揮できる塗膜を好適に形成できる、機械安定性に優れる塗料を得ることができる。
【0038】
なお、本明細書中、「制振材用樹脂組成物」は、「制振材(damping material)」と言い換えることができる。本発明は、言い換えれば、単量体成分を重合してなるエマルションを含む制振材であって、該制振材は、更に、スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分を含む制振材でもある。
【0039】
本発明の制振材用樹脂組成物は、上記スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分以外のアニオン性界面活性剤を含んでいてもよいが、該組成物中のアニオン性界面活性剤100質量%中、該スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分の含有量が25質量%以上であることが好ましい。該含有量は、本発明の効果をより顕著なものとする観点から、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが更に好ましく、特に得られる塗膜の外観を優れたものとする観点からは70質量%以上であることが一層好ましく、80質量%以上であることがより一層好ましく、90質量%以上であることが特に好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
上記組成物中のアニオン性界面活性剤とは、その使用目的に関わらず、該組成物中に含まれる、アニオン性界面活性剤として機能し得る剤のすべてを意味する。すなわち、上記組成物中のアニオン性界面活性剤は、アニオン性界面活性剤として機能し得るものである限り、その他の機能を併せ持つものであってもよい。上記使用目的としては、例えば乳化剤(乳化重合用乳化剤等)、分散剤、湿潤浸透剤、発泡剤等としての使用目的が挙げられる。
なお、アニオン性界面活性剤を乳化重合用乳化剤として用いる場合、該アニオン性界面活性剤は、上記スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分と同様に、通常の乳化剤(エマルションを形成する重合体とは別の化合物)であってもよく、エマルションを形成する重合体の一部を構成する構成単位であり、かつ乳化剤であってもよい。
【0040】
上記スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分以外のアニオン性界面活性剤としては、特許第5030780号公報や特開2014−52024号公報に記載されているもの等が挙げられる。該剤としては、例えば、レベノールWX(商品名、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、花王社製)等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩;ニューコール707SF(商品名、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩、日本乳化剤株式会社製)等のポリオキシアルキレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩;アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩;アルケニルコハク酸塩型アニオン性界面活性剤等の反応性のアニオン性乳化剤;その他の通常使用されるアニオン性乳化剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)等の1種又は2種以上を使用できる。
【0041】
本発明の制振材用樹脂組成物は、更に、アニオン性界面活性剤以外の乳化剤を含んでもよい。該アニオン性界面活性剤以外の乳化剤としては、例えば特開2014−52024号公報に記載の乳化剤を使用できる。
【0042】
本発明の制振材用樹脂組成物は、エマルションの原料として用いられた全単量体成分100質量%に対して、スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分の含有量が0.1〜20質量%であることが好ましい。該スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分の含有量は、機械安定性等の本発明の効果を発揮する観点から、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることが更に好ましく、2質量%以上であることが一層好ましく、3質量%以上であることが特に好ましい。また、該スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分の含有量は、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましく、8質量%以下であることが一層好ましく、6質量%以下であることが特に好ましい。
【0043】
なお、本明細書中、エマルションの原料として用いられた全単量体成分とは、本発明の制振材用樹脂組成物中、エマルションを形成する重合体を構成する単量体単位、並びに、エマルションの原料として用いられた単量体由来のオリゴマー及び単量体を意味するが、スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分を意味しない。また、該成分の含有量は、スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物、及び、エマルションを形成する重合体中の、該化合物由来の構成単位の合計量である。言い換えれば、該成分の含有量は、本発明の制振材用樹脂組成物を得る際に用いられたすべてのスルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物の合計量である。
【0044】
上述した本発明の制振材用樹脂組成物中のスルホコハク酸(塩)骨格を有する成分の含有量は、原料として使用したすべてのスルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物の量を合計することにより、エマルションを形成する重合体の構成単位となるものも含めて算出することができる。該含有量は、本発明の制振材用樹脂組成物中のスルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物の量と、エマルションを形成する重合体中のスルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物由来の構成単位の量とを合計することによっても算出することができる。
更に、本発明の制振材用樹脂組成物中のスルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物(エマルションを形成する重合体とは別の化合物)の好ましい含有量が、上述したスルホコハク酸(塩)骨格を有する成分の好ましい含有量の範囲内であることもまた、本発明の制振材用樹脂組成物における好ましい形態の1つである。なお、この好ましい形態において、本発明の制振材用樹脂組成物中に、スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物とは別に、スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分がエマルションを形成する重合体の構成単位として含まれていても構わない。
本発明の制振材用樹脂組成物中のスルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物の含有量は、加熱乾燥後の塗膜から抽出した成分を高速液体クロマトグラフで分析することにより求めることができる。なお、重合時に反応性の炭素−炭素不飽和結合をもつ、スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物を用いた場合も、エマルションを形成する重合体の構成単位となっていないものについては分析することが可能である。
【0045】
(単量体成分を重合してなるエマルション)
本発明の制振材用樹脂組成物は、単量体成分を重合してなるエマルションを含む。中でも、本発明の制振材用樹脂組成物は、単量体成分を乳化重合してなるエマルションを含むことが好ましい。
本発明に係るエマルションは、重量平均分子量が2万〜80万であることが好ましい。
制振性を発揮するためには、重合体に加えられた振動のエネルギーを摩擦による熱エネルギーに変えることが好適であり、重合体に振動が加えられたときに運動することのできる重合体であることが必要となる。本発明に係るエマルションがこのような重量平均分子量を有するものであると、振動が加えられたときに重合体が充分に運動することができ、高い制振性を発揮することができる。本発明に係るエマルションの重量平均分子量は、より好ましくは3万以上であり、更に好ましくは3万5000以上であり、一層好ましくは5万以上であり、特に好ましくは9万以上である。また、該重量平均分子量は、より好ましくは50万以下であり、更に好ましくは42万以下であり、一層好ましくは40万以下であり、特に好ましくは27万以下である。本明細書中、エマルションの重量平均分子量とは、エマルションを形成する重合体の重量平均分子量を言う。
なお、重量平均分子量(Mw)は、GPCを用い、後述する実施例に記載の条件により測定することができる。
【0046】
上記エマルションは、上記スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物と混和できる種々のものを使用できるが、例えば、カルボン酸(塩)基をもつ単量体単位を有する重合体を含むことが好ましい。上記カルボン酸(塩)基とは、カルボン酸基及び/又はカルボン塩基を意味する。
上記カルボン塩基をもつ単量体単位の塩としては、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等であることが好ましい。金属塩を形成する金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子等の1価の金属原子;カルシウム、マグネシウム等の2価の金属原子;アルミニウム、鉄等の3価の金属原子が好適である。また、有機アミン塩としては、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩や、トリエチルアミン塩が好適である。
【0047】
上記カルボン酸(塩)基をもつ単量体単位は、(メタ)アクリル酸系単量体由来の構成単位であることが好ましい。言い換えれば、上記エマルションは、(メタ)アクリル系重合体を含むことが好ましい。(メタ)アクリル系重合体とは、(メタ)アクリル酸系単量体由来の構成単位を有する重合体を言う。
例えば、(メタ)アクリル系重合体を得るための単量体成分が、(メタ)アクリル酸系単量体、及び、その他の共重合可能な不飽和単量体を含んでなるものであることが好ましい。(メタ)アクリル酸系単量体を含むことにより、本発明の制振材用樹脂組成物を含む塗料において、無機顔料等の分散性が向上し、得られる塗膜の機能がより優れたものとなる。また、その他の共重合可能な不飽和単量体を含むことにより、重合体の酸価、Tgや物性等を調整しやすくなる。
【0048】
上記(メタ)アクリル酸系単量体とは、アクリロイル基若しくはメタクリロイル基、又は、これらの基における水素原子が他の原子若しくは原子団に置き換わった基の少なくとも1つの基を有し、かつ、該基中のカルボニル基をもつカルボキシル基(−COOH基)又はその酸無水物基(−C(=O)−O−C(=O)−基)を有する単量体である。上記(メタ)アクリル酸系単量体は、(メタ)アクリル酸であることが好ましい。
【0049】
上記(メタ)アクリル系重合体は、例えば、(メタ)アクリル酸系単量体0.1〜5質量%、及び、その他の共重合可能な不飽和単量体95〜99.9質量%から構成される単量体成分を共重合して得られるものであることが好ましい。上記単量体成分において、(メタ)アクリル酸系単量体が0.3質量%以上、その他の共重合可能な不飽和単量体が99.7質量%以下であることがより好ましく、(メタ)アクリル酸系単量体が0.5質量%以上、その他の共重合可能な不飽和単量体が99.5質量%以下であることが更に好ましく、(メタ)アクリル酸系単量体が0.7質量%以上、その他の共重合可能な不飽和単量体が99.3質量%以下であることが特に好ましい。また、上記単量体成分において、(メタ)アクリル酸系単量体が5質量%以下、その他の共重合可能な不飽和単量体が95質量%以上であることが好ましく、(メタ)アクリル酸系単量体が4質量%以下、その他の共重合可能な不飽和単量体が96質量%以上であることがより好ましく、(メタ)アクリル酸系単量体が3質量%以下、その他の共重合可能な不飽和単量体が97質量%以上であることが更に好ましい。このような範囲内とすることにより、単量体成分が安定に共重合する。
【0050】
その他の共重合可能な不飽和単量体としては、(メタ)アクリル酸系単量体以外の(メタ)アクリル系単量体、芳香環を有する不飽和単量体、その他の共重合可能な不飽和単量体等が挙げられる。
上記(メタ)アクリル酸系単量体以外の(メタ)アクリル系単量体とは、アクリロイル基若しくはメタクリロイル基、又は、これらの基における水素原子が他の原子若しくは原子団に置き換わった基を有し、かつ、カルボキシル基がエステルとなった形態若しくは塩となった形態の単量体又はそのような単量体の誘導体を言う。
【0051】
上記(メタ)アクリル酸系単量体以外の(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、tert−ブチルアクリレート、tert−ブチルメタクリレート、ペンチルアクリレート、ペンチルメタクリレート、イソアミルアクリレート、イソアミルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、オクチルアクリレート、オクチルメタクリレート、イソオクチルアクリレート、イソオクチルメタクリレート、ノニルアクリレート、ノニルメタクリレート、イソノニルアクリレート、イソノニルメタクリレート、デシルアクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルアクリレート、ドデシルメタクリレート、トリデシルアクリレート、トリデシルメタクリレート、ヘキサデシルアクリレート、ヘキサデシルメタクリレート、オクタデシルアクリレート、オクタデシルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、アリルアクリレート、アリルメタアクリレート等;これら以外の(メタ)アクリル酸系単量体の塩やエステル化物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することが好適である。
【0052】
上記(メタ)アクリル酸系単量体の塩としては、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等であることが好ましい。金属塩、有機アミン塩については、カルボン塩基をもつ単量体単位の塩として上述したものと同様のものを挙げることができる。
【0053】
上記(メタ)アクリル系重合体の原料となる単量体成分としては、上記(メタ)アクリル酸系単量体以外の(メタ)アクリル系単量体を、エマルションの原料として用いられた全単量体成分100質量%に対して、20質量%以上含有することが好ましく、40質量%以上含有することがより好ましく、60質量%以上含有することが更に好ましい。また、上記(メタ)アクリル酸系単量体以外の(メタ)アクリル系単量体を、全単量体成分100質量%に対して、99.9質量%以下含有することが好ましく、99.5質量%以下含有することがより好ましい。
【0054】
上記芳香環を有する不飽和単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン等が挙げられ、好ましくはスチレンである。
すなわち、(メタ)アクリル系重合体が、スチレンを含む単量体成分から得られたスチレン(メタ)アクリル系重合体であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。このような形態によって、コストを削減しつつ本発明の効果を充分に発揮することができる。
【0055】
上記(メタ)アクリル系重合体の原料となる単量体成分は、上記芳香環を有する不飽和単量体を含む場合は、エマルションの原料として用いられた全単量体成分100質量%に対して、1質量%以上含むことが好ましく、5質量%以上含むことがより好ましく、10質量%以上含むことが更に好ましく、20質量%以上含むことが一層好ましく、40質量%以上含むことが特に好ましい。また、該単量体成分は、上記芳香環を有する不飽和単量体を、全単量体成分100質量%に対して、80質量%以下含むことが好ましく、70質量%以下含むことがより好ましく、60質量%以下含むことが更に好ましい。なお、上記(メタ)アクリル系重合体の原料となる単量体成分として、芳香環を有する不飽和単量体を用いなくてもよい。
【0056】
上記その他の共重合可能な不飽和単量体としては、例えばアクリロニトリルや、トリメチロールプロパンジアリルエーテル等の多官能性不飽和単量体が挙げられる。
【0057】
本発明の制振材用樹脂組成物は、水系溶媒を含み、上記エマルションは、水系溶媒中に分散していることが好ましい。本明細書中、水系溶媒中に分散しているとは、水系溶媒中に溶解することなく分散していることを意味する。本明細書中、水系溶媒は、水を含む限りその他の有機溶媒を含んでいてもよいが、水であることが好ましい。
【0058】
本発明の制振材用樹脂組成物は、単量体成分を重合してなるエマルション(以下、本発明に係るエマルションとも言う。)を1種含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。本発明の制振材用樹脂組成物が、本発明に係るエマルションを2種以上含む場合、2種以上の本発明に係るエマルションを混合(ブレンド)して得られる混合物であってもよく、一連の製造工程の中で2種以上の重合体鎖を含むものを製造(例えば、多段重合等)して得られる2種以上の重合体鎖が複合化したエマルションであってもよい。一連の製造工程の中で2種以上の本発明に係るエマルションを含むものを得るためには、単量体滴下条件等の製造条件を適宜設定すればよい。上記2種以上の重合体鎖が複合化したものとは、例えば、後述するコア部とシェル部とを有する形態が挙げられる。本発明に係るエマルションが、コア部とシェル部とを有する形態としては、例えば、本発明に係るエマルションが2種類の本発明に係るエマルションからなり、該2種類の本発明に係るエマルションの一方がコア部、他方がシェル部を形成しているものが挙げられる。なお、上記(メタ)アクリル系重合体が(メタ)アクリル酸系単量体を含む単量体成分を用いて得られる重合体であるとは、例えば、(メタ)アクリル酸系単量体が、エマルションのコア部を形成する単量体成分、シェル部を形成する単量体成分のいずれかに含まれていてもよく、これらの両方に含まれていてもよい。
【0059】
またエマルションを形成する本発明に係るエマルションのうち少なくとも1種が2種以上の重合体鎖が複合化した形態であってもよい。
【0060】
本発明に係るエマルションが、2種以上の重合体鎖が複合化した形態である場合、一方の重合体鎖と他方の重合体鎖とが完全に相溶し、これらを区別できない均質構造のものであってもよく、これらが完全には相溶せずに不均質に形成されるもの(例えば、コア・シェル複合構造やミクロドメイン構造)であってもよいが、これらの構造の中でも、エマルションの特性を充分に引き出し、安定なエマルションを作製するためには、例えばコア・シェル複合構造であることが好ましい。
コア・シェル複合構造を有するエマルションは、実用温度範囲内の幅広い範囲における制振性に優れる。特に高温域においても、他の形態の制振材用樹脂組成物と比較して優れた制振性を発揮し、その結果、実用温度範囲内において、常温から高温域まで幅広い範囲に渡って制振性能を発揮することができる。
なお、上記コア・シェル複合構造においては、コア部の表面がシェル部によって被覆された形態であることが好ましい。この場合、コア部の表面は、シェル部によって完全に被覆されていることが好適であるが、完全に被覆されていなくてもよく、例えば、網目状に被覆されている形態や、所々においてコア部が露出している形態であってもよい。
【0061】
本発明に係るエマルションは、ガラス転移温度が−20〜40℃であることが好ましい。本発明に係るエマルションとして、このようなガラス転移温度を有するものを用いると、塗膜の実用温度域での制振性能を効果的に発現することができることとなる。本発明に係るエマルションのガラス転移温度は、より好ましくは−15〜35℃であり、更に好ましくは−10〜30℃である。本明細書中、エマルションのガラス転移温度とは、エマルションを形成する重合体のガラス転移温度を言う。
なお、ガラス転移温度(Tg)は、後述する実施例に記載の方法により算出することができる。また、本発明に係るエマルションの少なくとも1種が多段重合して得られるものである場合(例えば、コア部とシェル部とを有するエマルション粒子である場合)は、上記ガラス転移温度は、全ての段で用いた単量体組成から算出したTg(トータルTg)を意味する。
【0062】
本発明に係るエマルションの少なくとも1種が2種以上の重合体鎖が複合化した形態である場合、一方の重合体鎖(例えば、コア部の重合体鎖)のガラス転移温度は、0〜60℃であることが好ましい。より好ましくは、10〜50℃である。
また他方の重合体鎖(例えば、シェル部の重合体鎖)のガラス転移温度は、−30〜30℃であることが好ましい。より好ましくは、−20〜20℃である。
また一方の重合体鎖と他方の重合体鎖とのガラス転移温度の差は、5〜60℃であることが好ましい。このようにガラス転移温度に差を設けることにより、例えば、制振材用途に適用したときに、幅広い温度領域下でより高い制振性を発現させることが可能となり、特に実用的範囲である20〜60℃域での制振性がより向上されることとなる。ガラス転移温度の差は、より好ましくは10〜50℃であり、更に好ましくは20〜40℃である。
【0063】
本発明に係るエマルションにおける、エマルション粒子の平均粒子径は80〜450nmであることが好ましい。
上記平均粒子径がこの範囲にあるエマルション粒子を用いることにより、制振材に要求される塗膜外観、塗工性等の基本性能を充分なものとした上で、制振性をより優れたものとすることができる。エマルション粒子の平均粒子径は、より好ましくは400nm以下であり、更に好ましくは350nm以下である。また、平均粒子径は、好ましくは100nm以上である。
エマルション粒子の平均粒子径は後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0064】
上記エマルションは、固形分の含有割合がエマルション全体に対して40〜80質量%であることが好ましく、50〜70質量%であることがより好ましい。
なお、ここでいう固形分とは、エマルションに含まれる水系溶媒等の溶媒以外の成分を意味する。
【0065】
上記エマルションのpHとしては特に限定されないが、2〜10であることが好ましく、3〜9.5であることがより好ましく、7〜9であることが更に好ましい。上記エマルションのpHは、当該樹脂に、アンモニア水、水溶性アミン類、水酸化アルカリ水溶液等を添加することによって調整することができる。
本明細書中、pHは、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0066】
上記エマルションの粘度としては特に限定されないが、1〜10000mPa・sであることが好ましく、5〜4000mPa・sであることがより好ましく、10〜2000mPa・sであることが更に好ましく、30〜1000mPa・sであることが一層好ましく、80〜500mPa・sであることが特に好ましい。
本明細書中、粘度は、後述する実施例に記載の条件により測定することができる。
【0067】
上記エマルション(重合体)の製造方法は特に制限されないが、例えば、特開2011−231184号公報に記載の制振材用エマルションの製造方法と同様の方法により製造することができる。また、該エマルションの製造方法は、乳化重合以外の方法、例えば、懸濁重合で重合された重合体にスルホコハク酸(塩)骨格を有する成分が乳化剤として作用してエマルションを形成するものであってもよい。
【0068】
上記本発明に係るエマルションの固形分の含有量は、本発明の制振材用樹脂組成物の固形分100質量%中、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることが更に好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。また、該含有量は、99質量%以下であることが好ましく、97質量%以下であることがより好ましく、95質量%以下であることが更に好ましく、93質量%以下であることが特に好ましく、91質量%以下であることが最も好ましい。
なお、固形分とは、水系溶媒等の溶媒以外の成分を意味する。
【0069】
本発明の制振材用樹脂組成物は、スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物の全部と単量体成分とを含む単量体乳化物を原料として乳化重合してなるエマルションであってもよく、スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物の一部と単量体成分とを含む単量体乳化物を原料として乳化重合してエマルションを得た後、得られたエマルションに対してスルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物の残部を添加して得られるものであってもよい。このようにスルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物の少なくとも一部と単量体成分とを含む単量体乳化物を原料として乳化重合することにより、該スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分の少なくとも一部がエマルションを形成する乳化剤として含まれることになる。この場合、該スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分の少なくとも一部は、通常の乳化剤(重合体とは別個の化合物)であってもよく、重合体の一部を構成する構成単位であり、かつ乳化剤であってもよい。
なお、上述したように、本発明の制振材用樹脂組成物は、スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物を含まない単量体成分を乳化重合してエマルションを得たり、乳化重合以外の重合をおこなって重合体を得たりした後、得られたエマルション又は重合体に対してスルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物を乳化剤として添加して得られるものであってもよいが、これらの中では、乳化重合以外の重合をおこなって重合体を得た後、得られた重合体に対してスルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物を乳化剤として添加して得られるものであることが好ましい。
本発明は、スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物と単量体成分とを含む単量体乳化物を原料として乳化重合する工程、又は、単量体成分を原料として乳化重合以外の重合をおこなって重合体を得、該重合体にスルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物を添加する工程を含む制振材用樹脂組成物の製造方法でもある。重合温度としては特に限定されず、例えば、0〜100℃であることが好ましい。また、重合時間も特に限定されず、例えば、1〜15時間とすることが好適である。
【0070】
本発明の制振材用樹脂組成物は、本発明に係るスルホコハク酸(塩)骨格を有する成分と単量体成分を重合してなるエマルションとを含むものである限り、その他の成分を含んでもよい。
その他の成分を含む場合、本発明の制振材用樹脂組成物全体に対して、その他の成分の割合は、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以下である。なお、ここでいうその他の成分とは、本発明の制振材用樹脂組成物を塗布し、加熱乾燥した後も塗膜中に残る不揮発分(固形分)のことを意味し、水系溶媒等の揮発成分は含まれない。
【0071】
本発明の制振材用樹脂組成物は、上述したように、水系溶媒等の溶媒を含むことが好ましい。
上記溶媒の含有量は、本発明の制振材用樹脂組成物100質量%中、3質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることが更に好ましく、30質量%以上であることが特に好ましい。また、該溶媒の含有量は、97質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることが更に好ましい。
【0072】
本発明の制振材用樹脂組成物は、これ自体を塗布して制振被膜を形成するのに用いることができるが、通常、後述する本発明の塗料を得るために用いられる。
【0073】
本発明はまた、本発明の制振材用樹脂組成物を、顔料との混合工程のために、塗料の材料として供給する工程を含む制振材用樹脂組成物の使用方法でもある。供給は、特に限定されず、例えば顔料との混合工程を実施する他人への譲渡であってもよい。
【0074】
本発明の制振材用樹脂組成物の使用方法において、上記塗料は、自動車、鉄道車両、船舶、航空機等の輸送機関や電気機器、建築構造物、建設機器等に好適に用いることができる。例えば、上記塗料は、自動車塗料であることが好ましい。
【0075】
<本発明の塗料>
本発明はまた、本発明の制振材用樹脂組成物及び顔料を含む塗料でもある。
本発明の塗料が含む制振材用樹脂組成物の好ましいものは、上述した本発明の制振材用樹脂組成物の好ましいものと同様である。
本発明の塗料の固形分100質量%中、制振材用樹脂組成物の固形分は、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましい。また、該制振材用樹脂組成物の固形分は、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることが更に好ましい。
【0076】
上記顔料は、例えば、無機着色剤、有機着色剤、防錆顔料、充填材等の1種又は2種以上を使用することができる。該無機着色剤としては、酸化チタン、カーボンブラック、弁柄等が挙げられる。該有機着色剤としては、染料、天然色素等が挙げられる。該防錆顔料としては、リン酸金属塩、モリブデン酸金属塩、硼酸金属塩等が挙げられる。該充填材としては、炭酸カルシウム、カオリン、シリカ、タルク、硫酸バリウム、アルミナ、酸化鉄、ガラストーク、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、珪藻土、クレー等の無機質充填材;ガラスフレーク、マイカ等の鱗片状無機質充填材;金属酸化物ウィスカー、ガラス繊維、ワラストナイト等の繊維状無機質充填材等が挙げられる。上記顔料は、中でも、無機着色剤、防錆顔料、無機質充填材等の無機顔料であることが好ましく、炭酸カルシウムであることがより好ましい。
上記顔料は、平均粒子径が1〜50μmのものが好ましい。顔料の平均粒子径は、レーザー回析式粒度分布測定装置により測定することができ、粒度分布からの重量50%径の値である。
上記顔料の配合量は、本発明の塗料中の樹脂の固形分(エマルションの原料として用いられた全単量体成分)100質量部に対し、10質量部以上であることが好ましく、200質量部以上であることがより好ましく、300質量部以上であることが更に好ましい。
なお、上記顔料の配合量は、900質量部以下であることが好ましく、800質量部以下であることがより好ましく、500質量部以下であることが更に好ましい。
【0077】
本発明の塗料は、更に分散剤を含んでいてもよい。
上記分散剤としては、例えば、ヘキサメタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム等の無機質分散剤、及び、ポリカルボン酸系分散剤等の有機質分散剤が挙げられる。
上記分散剤の配合量としては、本発明の塗料中の樹脂の固形分100質量部に対し、固形分で0.1〜8質量部が好ましく、0.5〜6質量部がより好ましく、1〜3質量部が更に好ましい。
【0078】
本発明の塗料は、更に増粘剤を含んでいてもよい。
上記増粘剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース系誘導体、ポリカルボン酸系樹脂等が挙げられる。
上記増粘剤の配合量としては、本発明の塗料中の樹脂の固形分100質量部に対し、固形分で0.01〜5質量部が好ましく、0.1〜4質量部がより好ましく、0.3〜2質量部が更に好ましい。
【0079】
本発明の塗料は、更にその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、発泡剤;溶媒;ゲル化剤;消泡剤;可塑剤;安定剤;湿潤剤;防腐剤;発泡防止剤;老化防止剤;防黴剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
なお、上記無機顔料、分散剤、増粘剤、及び、他の成分は、例えば、バタフライミキサー、プラネタリーミキサー、スパイラルミキサー、ニーダー、ディゾルバー等を用いて、本発明に係るポリマーエマルションや架橋剤等と混合され得る。
【0080】
上記溶媒としては、例えば、水;エチレングリコール、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート等の有機溶媒が挙げられる。溶媒の配合量としては、本発明の塗料の固形分濃度を調整するために適宜設定すればよい。
【0081】
本発明の塗料を用いて塗膜を得ること、特に本発明の塗料を加熱乾燥して塗膜を得ることにより、塗料の乾燥と同時に該塗料を発泡させることで、水等の溶媒の蒸発経路を形成することができる。その結果、塗膜のフクレを抑制することができ、外観が非常に良好な塗膜を得ることができる。また、該スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分が発泡剤として機能することから、従来用いられていた高価な発泡剤(例えば、加熱膨張カプセル型発泡剤)の使用量を削減することができる。例えば、エマルションの原料として用いられた全単量体成分100質量%に対して、加熱膨張カプセル型発泡剤の含有量を2質量%以下とすることが好ましく、1質量%以下とすることがより好ましく、0質量%が最も好ましい。
本発明の塗料は、発泡剤として機能するスルホコハク酸(塩)骨格を有する成分を含有するため、上記加熱膨張カプセル型発泡剤の含有量を2質量%以下としたり、より少なくしたりすることにより、発泡剤が過剰となって塗膜の形状維持が困難になることを充分に防止でき、塗膜外観をより優れたものとすることができる。
【0082】
例えば、本発明の塗料において、上記エマルションの原料として用いられた全単量体成分100質量%に対して、加熱膨張カプセル型発泡剤の含有量が2質量%以下であることが好ましい。
【0083】
以上を纏めると、本発明の塗料は、上述したような配合、例えば、炭酸カルシウム等の顔料の含有量が多く、加熱膨張カプセル型発泡剤の含有量が低減された安価な配合においても、塗膜外観を優れたものとすることができる。また、本発明の塗料は、上述したような配合においても、優れた制振性を発揮することもできる。
本発明の塗料は、総損失係数が0.348以上であることが好ましく、0.374以上であることがより好ましい。
例えば、本発明の塗料の好ましい形態の1つは、エマルションの原料として用いられた全単量体成分100質量%に対して、顔料の含有量が10質量%以上であり、加熱膨張カプセル型発泡剤の含有量が2質量%以下であり、総損失係数が0.348以上である塗料が挙げられる。
上記総損失係数は、後述する実施例の方法により求められるものである。
【0084】
<本発明の塗膜及びその製造方法>
本発明は更に、本発明の塗料を用いて得られる塗膜でもある。
本発明の塗膜を得るために用いられる塗料の好ましいものは、上述した本発明の塗料の好ましいものと同様である。
本発明はそして、単量体成分を重合してなるエマルション、スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分、及び、顔料を含む塗料を加熱することにより、該塗料を発泡させて得られる塗膜でもある。
なお、本発明は、単量体成分を重合してなるエマルション、スルホコハク酸(塩)骨格を有する成分、及び、顔料を含む塗料を加熱することにより、該塗料を発泡させて塗膜を得る工程を含む塗膜の製造方法でもある。
以下では、本発明の塗膜の好ましい形態について説明する。
【0085】
本発明の塗膜は、厚みが2〜8mmであることが好ましい。より充分な制振性を発揮することと、塗膜のはがれ、クラック等の発生を防ぎ、良好な塗膜を形成する点を考慮すると、このような厚みが好ましい。塗膜の厚みは、より好ましくは、2〜6mmであり、更に好ましくは、2〜5mmである。
【0086】
本発明の塗膜を形成する基材は、塗膜を形成することができる限り特に制限されず、鋼板等の金属材料、プラスチック材料等いずれのものであってもよい。中でも、鋼板の表面に塗膜を形成することは、本発明の制振性塗膜の好ましい使用形態の1つである。
【0087】
本発明の塗膜は、例えば、刷毛、へら、エアスプレー、エアレススプレー、モルタルガン、リシンガン等を用いて本発明の塗料を塗布することより得ることができる。
【0088】
本発明の塗膜は、塗布した本発明の塗料を加熱乾燥することにより、該塗料を発泡させて得られるものであることが好ましい。なお、塗料を加熱乾燥することにより発泡させるために、通常、加熱乾燥の前に塗料を撹拌する等して該塗料を機械発泡させない。加熱乾燥においては、上記塗料を基材上に塗布して形成した塗膜を40〜200℃にすることが好ましい。より好ましくは、90〜180℃であり、更に好ましくは、100〜160℃である。加熱乾燥の前により低温で予備乾燥を行っても構わない。
また、塗膜を上記温度にする時間は、1〜300分であることが好ましい。より好ましくは、2〜250分であり、特に好ましくは、10〜150分である。
【0089】
本発明の塗膜の制振性は、膜の損失係数を測定することにより評価することができる。
損失係数は、通常ηで表され、塗膜に対して与えた振動がどの程度減衰したかを示すものである。上記損失係数は、数値が高いほど制振性能に優れていることを示す。
上記損失係数は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0090】
本発明の塗膜は、外観に優れ、幅広い温度領域で顕著に優れた制振性を発揮でき、塗膜を形成するための塗料の機械安定性も優れるものであり、自動車、鉄道車両、船舶、航空機等の輸送機関や電気機器、建築構造物、建設機器等に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0091】
本発明の制振性付与剤は、スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物を含むことにより、外観に優れ、幅広い温度領域で顕著に優れた制振性を発揮できる塗膜を好適に得ることができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0092】
以下に発明を実施するための形態を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの発明を実施するための形態のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0093】
以下の製造例において、各種物性等は以下のように評価した。
<平均粒子径>
エマルション粒子の平均粒子径は動的光散乱法による粒度分布測定器(大塚電子株式会社FPAR−1000)を用い測定した。
<不揮発分(N.V.)>
得られたエマルション約1gを秤量、熱風乾燥機で150℃×1時間後、乾燥残量を不揮発分として、乾燥前質量に対する比率を質量%で表示した。
<pH>
pHメーター(堀場製作所社製「F−23」)により25℃での値を測定した。
<粘度>
B型回転粘度計(東機産業社製「VISCOMETER TUB−10」)を用いて、25℃、20rpmの条件下で測定した。
【0094】
<重量平均分子量>
以下の測定条件下で、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定した。
測定機器:HLC−8120GPC(商品名、東ソー社製)
分子量カラム:TSK−GEL GMHXL−Lと、TSK−GELG5000HXL(いずれも東ソー社製)とを直列に接続して使用
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
検量線用標準物質:ポリスチレン(東ソー社製)
測定方法:測定対象物を固形分が約0.2質量%となるようにTHFに溶解し、フィルターにてろ過した物を測定サンプルとして分子量を測定する。
【0095】
<重合体のガラス転移温度(Tg)>
重合体のTgは、各段で用いた単量体組成から、下記計算式(1)を用いて算出した。
【0096】
【数1】
【0097】
式中、Tg′は、重合体のTg(絶対温度)である。W′、W′、・・・Wn′は、全単量体成分に対する各単量体の質量分率である。T、T、・・・Tnは、各単量体成分からなるホモポリマー(単独重合体)のガラス転移温度(絶対温度)である。
【0098】
なお、全ての段で用いた単量体組成から算出したTgを「トータルTg」として記載した。
上記計算式(1)により重合性単量体成分のガラス転移温度(Tg)を算出するのに使用したそれぞれのホモポリマーのTg値を下記に示した。
メチルメタクリレート(MMA):105℃
スチレン(St):100℃
2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA):−70℃
ブチルアクリレート(BA):−56℃
アクリル酸(AA):95℃
【0099】
以下の実施例で使用する制振性付与剤について説明する。以下の制振性付与剤は、乳化剤としての機能を併せ持つ。
ポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩は、下記式(i):
【0100】
【化3】
【0101】
で表される化合物である。式中、nは、平均付加モル数を表す。本明細書中、n=8の化合物は(i)−<1>とも表され、n=2の化合物は(i)−<2>とも表される。
【0102】
ジアルキルサクシネートスルホン酸ナトリウム塩は、下記式(ii):
【0103】
【化4】
【0104】
で表される化合物である。本明細書中、この化合物は(ii)とも表される。
ポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホコハク酸半エステル塩は、下記式(iii):
【0105】
【化5】
【0106】
(式中、Rは、炭素数12〜14の第2級アルキル基を表す。)で表される化合物である。
式中、nは、平均付加モル数を表す。本明細書中、n=9の化合物は(iii)−<1>とも表され、n=3の化合物は(iii)−<2>とも表される。
スルホコハク酸N−アルキルモノアミドジナトリウムは、下記式(iv):
【0107】
【化6】
【0108】
(式中、Rは、炭素数14〜20のアルキル基を表す。)で表される化合物である。本明細書中、この化合物は(iv)とも表される。
【0109】
スルホコハク酸塩型反応性アニオン性界面活性剤は、下記式(v):
CH=CH−CH−OCO−CH(CHCOOR)−SONa (v)
(式中、Rは、アルキル基を表す。)で表される化合物である。本明細書中、この化合物は(v)とも表される。
【0110】
比較例に使用した乳化剤について説明する。
ニューコール707SF(商品名、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル・硫酸エステル塩:日本乳化剤株式会社製)
レベノールWX(商品名、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム:花王社製)
【0111】
<実施例1〜19、比較例1〜3>
(実施例1)
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを取り付けた重合器に脱イオン水280.7部を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で撹拌しながら内温を75℃まで昇温した。一方、上記滴下ロートにメチルメタクリレート520部、2−エチルヘキシルアクリレート130部、ブチルアクリレート340部、アクリル酸10.0部、重合連鎖移動剤であるt−ドデシルメルカプタン(t−DMとも言う)2.0部、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>180.0部及び脱イオン水183.0部からなる単量体乳化物を仕込んだ。次に、重合器の内温を75℃に維持しながら、上記単量体乳化物のうちの27.0部、重合開始剤(酸化剤)である5%過硫酸カリウム水溶液5部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液10部を添加し、初期重合を開始した。40分後、反応系内を80℃に維持したまま、残りの単量体乳化物を210分にわたって均一に滴下した。同時に5%過硫酸カリウム水溶液95部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液90部を210分かけて均一に滴下し、滴下終了後60分同温度を維持し、重合を終了した。
得られた反応液を室温まで冷却後、2−ジメチルエタノールアミン16.7部、脱イオン水39部を添加し、不揮発分55.0%、pH8.0、粘度190mPa・s、平均粒子径250nm、重量平均分子量103000のアクリル系エマルション(樹脂組成物1)を得た。
【0112】
(実施例2)
実施例1の単量体乳化物の仕込みにおいて、メチルメタクリレート520部の代わりに、スチレン520部を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、不揮発分55.1%、pH7.8、粘度100mPa・s、平均粒子径230nm、重量平均分子量90000のアクリル系エマルション(樹脂組成物2)を得た。
【0113】
(実施例3)
実施例1の単量体乳化物の仕込みにおいて、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>を180.0部から100.0部に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、不揮発分55.0%、pH8.1、粘度120mPa・s、平均粒子径260nm、重量平均分子量102000のアクリル系エマルション(樹脂組成物3)を得た。
【0114】
(実施例4)
実施例1と同様の重合製法にて得られたエマルションに、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>を100.0部混合し、不揮発分53.2質量%、pH8.0、粘度130mPa・s、平均粒子径255nm、重量平均分子量104500のアクリル系エマルション(樹脂組成物4)を得た。
【0115】
(実施例5)
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを取り付けた重合器に脱イオン水280.7部を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で撹拌しながら内温を75℃まで昇温した。一方、上記滴下ロートにメチルメタクリレート520部、2−エチルヘキシルアクリレート130部、ブチルアクリレート340部、アクリル酸10.0部、重合連鎖移動剤であるt−DM2.0部、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>55部、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<2>125部、及び、脱イオン水183.0部からなる単量体乳化物を仕込んだ。次に、重合器の内温を75℃に維持しながら、上記単量体乳化物のうちの27.0部、重合開始剤(酸化剤)である5%過硫酸カリウム水溶液5部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液10部を添加し、初期重合を開始した。40分後、反応系内を80℃に維持したまま、残りの単量体乳化物を210分にわたって均一に滴下した。同時に5%過硫酸カリウム水溶液95部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液90部を210分かけて均一に滴下し、滴下終了後60分同温度を維持し、重合を終了した。
得られた反応液を室温まで冷却後、2−ジメチルエタノールアミン16.7部、脱イオン水39部を添加し、不揮発分55.2%、pH8.0、粘度250mPa・s、平均粒子径225nm、重量平均分子量98000のアクリル系エマルション(樹脂組成物5)を得た。
【0116】
(実施例6)
実施例1の単量体乳化物の仕込みにおいて、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>180.0部の代わりに予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホコハク酸半エステル塩(iii)−<1>180.0部を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、不揮発分55.0%、pH8.1、粘度230mPa・s、平均粒子径240nm、重量平均分子量101000のアクリル系エマルション(樹脂組成物6)を得た。
【0117】
(実施例7)
実施例1の単量体乳化物の仕込みにおいて、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>180.0部の代わりに予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホコハク酸半エステル塩(iii)−<1>180.0部を用い、t−DMを2.0部から1.0部に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、不揮発分55.0%、pH8.1、粘度210mPa・s、平均粒子径250nm、重量平均分子量415000のアクリル系エマルション(樹脂組成物7)を得た。
【0118】
(実施例8)
実施例1の単量体乳化物の仕込みにおいて、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>180.0部の代わりに予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホコハク酸半エステル塩(iii)−<1>180.0部を用い、t−DMを2.0部から5.0部に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、不揮発分55.0%、pH8.1、粘度200mPa・s、平均粒子径270nm、重量平均分子量37000のアクリル系エマルション(樹脂組成物8)を得た。
【0119】
(実施例9)
実施例1の単量体乳化物の仕込みにおいて、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>180.0部の代わりに予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホコハク酸半エステル塩(iii)−<1>130.0部及び予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホコハク酸半エステル塩(iii)−<2>50.0部を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、不揮発分55.1%、pH8.1、粘度180mPa・s、平均粒子径270nm、重量平均分子量105500のアクリル系エマルション(樹脂組成物9)を得た。
【0120】
(実施例10)
実施例1の単量体乳化物の仕込みにおいて、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>180.0部の代わりに予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホコハク酸半エステル塩(iii)−<1>180.0部を用いた以外は実施例1と同様の重合製法にて得られたエマルションに、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<2>を100.0部混合し、不揮発分53.3%、pH8.2、粘度110mPa・s、平均粒子径265nm、重量平均分子量104400のアクリル系エマルション(樹脂組成物10)を得た。
【0121】
(実施例11)
実施例1の単量体乳化物の仕込みにおいて、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>180.0部の代わりに予め20%水溶液に調整したスルホコハク酸N−アルキルモノアミドジナトリウム(iv)100.0部を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、不揮発分55.0%、pH8.3、粘度320mPa・s、平均粒子径235nm、重量平均分子量97000のアクリル系エマルション(樹脂組成物11)を得た。
【0122】
(実施例12)
実施例1の単量体乳化物の仕込みにおいて、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>180.0部の代わりに予め20%水溶液に調整したジアルキルサクシネートスルホン酸ナトリウム塩(ii)50.0部及び予め20%水溶液に調整したスルホコハク酸N−アルキルモノアミドジナトリウム(iv)50.0部を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、不揮発分55.0%、pH8.0、粘度150mPa・s、平均粒子径260nm、重量平均分子量109000のアクリル系エマルション(樹脂組成物12)を得た。
【0123】
(実施例13)
実施例1の単量体乳化物の仕込みにおいて、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>180.0部の代わりに予め20%水溶液に調整したスルホコハク酸塩型反応性アニオン性界面活性剤(v)180.0部を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、不揮発分53.5%、pH8.2、粘度350mPa・s、平均粒子径220nm、重量平均分子量110000のアクリル系エマルション(樹脂組成物13)を得た。
【0124】
(実施例14)
実施例1の単量体乳化物の仕込みにおいて、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>180.0部の代わりに予め20%水溶液に調整したスルホコハク酸N−アルキルモノアミドジナトリウム(iv)180.0部を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、不揮発分54.5%、pH8.0、粘度300mPa・s、平均粒子径205nm、重量平均分子量95000のアクリル系エマルション(樹脂組成物14)を得た。
【0125】
(実施例15)
実施例1の単量体乳化物の仕込みにおいて、メチルメタクリレートを520部から525部に変更し、アクリル酸を10.0部から5.0部に変更し、t−DMを2.0部から1.0部に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、不揮発分55.1%、pH8.2、粘度200mPa・s、平均粒子径250nm、重量平均分子量253000のアクリル系エマルション(樹脂組成物15)を得た。
【0126】
(実施例16)
実施例1の単量体乳化物の仕込みにおいて、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>180.0部の代わりに予め20%水溶液に調整したスルホコハク酸N−アルキルモノアミドジナトリウム(iv)130.0部及び予め20%水溶液に調整したニューコール707SF(商品名、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル・硫酸エステル塩:日本乳化剤株式会社製)50.0部を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、不揮発分55.1%、pH8.3、粘度220mPa・s、平均粒子径260nm、重量平均分子量106000のアクリル系エマルション(樹脂組成物16)を得た。
【0127】
(実施例17)
実施例1の単量体乳化物の仕込みにおいて、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>180.0部の代わりに予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>100.0部及び予め20%水溶液に調整したニューコール707SF(商品名、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル・硫酸エステル塩:日本乳化剤株式会社製)80.0部を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、不揮発分55.3%、pH8.3、粘度300mPa・s、平均粒子径210nm、重量平均分子量110000のアクリル系エマルション(樹脂組成物17)を得た。
【0128】
(実施例18)
実施例1の単量体乳化物の仕込みにおいて、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>180.0部の代わりに予め20%水溶液に調整したスルホコハク酸N−アルキルモノアミドジナトリウム(iv)50.0部及び予め20%水溶液に調整したニューコール707SF(商品名、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル・硫酸エステル塩:日本乳化剤株式会社製)130.0部を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、不揮発分55.0%、pH8.0、粘度350mPa・s、平均粒子径200nm、重量平均分子量105000のアクリル系エマルション(樹脂組成物18)を得た。
【0129】
(実施例19)
実施例1の単量体乳化物の仕込みにおいて、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>180.0部の代わりに予め20%水溶液に調整したレベノールWX(商品名、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム:花王社製)180.0部を用いた以外は実施例1と同様の重合製法にて得られたエマルションに、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>を100.0部混合し、不揮発分53.1%、pH7.9、粘度400mPa・s、平均粒子径200nm、重量平均分子量104000のアクリル系エマルション(樹脂組成物19)を得た。
【0130】
(比較例1)
実施例1の単量体乳化物の仕込みにおいて、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>180.0部の代わりに予め20%水溶液に調整したニューコール707SF(商品名、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル・硫酸エステル塩:日本乳化剤株式会社製)180.0部を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、不揮発分55.0%、pH7.9、粘度320mPa・s、平均粒子径295nm、重量平均分子量96000のアクリル系エマルション(樹脂組成物20)を得た。
【0131】
(比較例2)
実施例1の単量体乳化物の仕込みにおいて、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>180.0部の代わりに予め20%水溶液に調整したレベノールWX(商品名、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム:花王社製)180.0部を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、不揮発分55.2%、pH8.0、粘度380mPa・s、平均粒子径210nm、重量平均分子量101000のアクリル系エマルション(樹脂組成物21)を得た。
【0132】
(比較例3)
実施例1の単量体乳化物の仕込みにおいて、メチルメタクリレート520部の代わりに、スチレン520部を用い、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>180.0部の代わりに予め20%水溶液に調整したニューコール707SF(商品名、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル・硫酸エステル塩:日本乳化剤株式会社製)180.0部を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、不揮発分55.1%、pH7.8、粘度165mPa・s、平均粒子径225nm、重量平均分子量92000のアクリル系エマルション(樹脂組成物22)を得た。
【0133】
なお、アクリル系エマルションのTgは、実施例2、比較例3では3℃であり、その他の実施例及び比較例ではそれぞれ4℃であった。また、全アニオン性界面活性剤の使用量100質量%に対するスルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物の使用量は、実施例16では72質量%、実施例17では56質量%、実施例18では28質量%、実施例19では36質量%、その他の実施例ではそれぞれ100質量%、比較例1〜3ではそれぞれ0質量%であった。
【0134】
<塗料の調製1>
実施例1〜19の樹脂組成物1〜19、及び、比較例1〜3の樹脂組成物20〜22をそれぞれ下記の通り配合し、塗料を作製し、以下のように各種特性(塗膜の外観評価、制振性試験及び機械安定性)を評価した。結果を表1に示す。
・樹脂組成物1〜22 350部
・炭酸カルシウム NN#200*1 620部
・分散剤 アクアリックDL−40S*2 6部
・増粘剤 アクリセットWR−650*3 4部
*1:日東粉化工業株式会社製 充填剤
*2:株式会社日本触媒製 ポリカルボン酸型分散剤(有効成分44%)
*3:株式会社日本触媒製 アルカリ可溶性のアクリル系増粘剤(有効成分30%)
【0135】
各種特性の評価方法を以下に示す。
【0136】
<塗膜の外観評価>
鋼板(商品名SPCC−SD・幅75mm×長さ150mm×厚み0.8mm、日本テストパネル社製)の上に、作製した塗料を塗布厚みが4mmとなるように塗布した。その後、熱風乾燥機を用いて、150℃で50分間乾燥し、得られた乾燥塗膜の表面状態を以下の基準で評価した。なお、熱風乾燥機を用いた加熱により塗料から発泡が生じた。
○:異常なし。
〇△:軽微な塗膜のフクレやクラックが所々に見られる。
△:塗膜のフクレやクラックが所々に見られる。
×:塗膜全体にわたってフクレが生じ、はがれ、クラックが見られる。
【0137】
<制振性試験>
上記塗料を冷間圧延鋼板(商品名SPCC・幅15mm×長さ250mm×厚み1.5mm、日本テストパネル社製)の上に3mmの厚みで塗布して80℃で30分間予備乾燥後、150℃で30分間乾燥し、冷間圧延鋼板上に面密度4.0Kg/mの制振材被膜を形成した。なお、予備乾燥、予備乾燥後の乾燥における加熱により塗料から発泡が生じた。
制振性の測定は、それぞれの温度(20℃、30℃、40℃、50℃、60℃)における損失係数を、片持ち梁法(株式会社小野測機製損失係数測定システム)を用いて評価した。また、制振性の評価は、総損失係数(20℃、30℃、40℃、50℃、60℃での損失係数の和)により行い、総損失係数の値が大きいほど制振性に優れるものとした。
【0138】
<機械安定性の評価>
作製した塗料200gを500mlポリプロピレン製カップに取り、底部から5mmの高さに直径50mmの羽根を取り付け、ディスパーを用いて2000回転で撹拌を行い、塗料がゲル化するまでの時間(分)を測定した。
【0139】
【表1】
【0140】
重合器に仕込んだ制振性付与剤の種類以外の条件が共通する実施例1、6、13、14と比較例1、2とを比較すると、実施例1では制振性付与剤としてスルホコハク酸塩骨格を有するポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩を用いることにより、実施例6では制振性付与剤としてスルホコハク酸塩骨格を有するポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホコハク酸半エステル塩を用いることにより、実施例13では制振性付与剤としてスルホコハク酸塩骨格を有する反応性乳化剤を用いることにより、実施例14では制振性付与剤としてスルホコハク酸塩骨格を有するスルホコハク酸N−アルキルモノアミドジナトリウムを用いることにより、それぞれ制振性、機械安定性、及び、外観がより優れることが実証されている。特に、スルホコハク酸塩骨格を有する化合物が反応性の炭素−炭素不飽和結合を有しない実施例1、6、14において効果がより顕著なものとなる。また、同様に実施例2と比較例3とを比較すると、実施例2では制振性付与剤としてスルホコハク酸塩骨格を有するポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩を用いることにより、制振性、機械安定性、及び、外観がより優れることが実証されている。更に、実施例19と比較例2とを比較すると、実施例19ではスルホコハク酸塩骨格を有するポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩を単量体成分の重合終了後に乳化剤として添加することにより、制振性、機械安定性、及び、外観がより優れることが実証されている。
【0141】
また実施例6〜8は、重合器に仕込んだ重合連鎖移動剤(t−DM)の仕込み量を変更した以外の条件が共通する。実施例6で得られたエマルションを形成する重合体の重量平均分子量は101000であり、実施例7で得られたエマルションを形成する重合体の重量平均分子量は415000であり、実施例8で得られたエマルションを形成する重合体の重量平均分子量は37000である。実施例6〜8のいずれの重量平均分子量のエマルションを用いた場合も、制振性、機械安定性、及び、外観が優れることが実証されており、中でも、実施例6は制振性及び外観に特に優れる。
【0142】
また重合器に仕込んだ制振性付与剤の種類以外の条件が共通する実施例17と比較例1とを比較すると、制振性付与剤としてポリオキシエチレン多環フェニルエーテル・硫酸エステル塩のみを用いる比較例1に対し、実施例17では、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル・硫酸エステル塩とともに、スルホコハク酸塩骨格を有するポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩を併用し、全アニオン性界面活性剤中のポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩の含有割合が56質量%である。実施例17は、比較例1に対して、制振性、機械安定性、及び、外観が優れるものであり、本発明の効果を発揮できる。
【0143】
上述したように、実施例と、該実施例と対応する比較例とを比較すると、いずれの実施例の塗料においても、スルホコハク酸塩骨格を有する化合物を単量体成分の乳化剤又は単量体成分の重合終了後の乳化剤として用いることにより、スルホコハク酸塩骨格を有する成分を用いない比較例と比べて、制振性、機械安定性、及び、外観がより優れることが実証されている。このような効果は、同様の化学構造を有するスルホコハク酸(塩)骨格を有する成分において同様に発揮されると考えられる。したがって、上記実施例の結果から、本発明の技術的範囲全般において、また、本明細書において開示した種々の形態において本発明が適用でき、有利な作用効果を発揮することができるといえる。
【0144】
また実施例1と実施例3とを比較すると、実施例1では制振性付与剤として予め20%水溶液に調整したスルホコハク酸塩骨格を有する化合物を180部用いることにより、予め20%水溶液に調整したスルホコハク酸塩骨格を有する化合物を100部用いる実施例3に対して制振性、機械安定性等がより優れることが実証されている。
【0145】
更に、単量体成分の重合工程が共通する実施例1と実施例4との比較から、実施例4では制振性付与剤としてスルホコハク酸塩骨格を有する化合物を重合工程終了後に更に添加することにより、制振性及び機械安定性が更に優れることが実証されている。同様に、単量体成分の重合工程が共通する実施例6と実施例10との比較から、実施例10では制振性付与剤としてスルホコハク酸塩骨格を有する化合物を重合工程終了後に添加することにより、制振性及び機械安定性が更に優れることが実証されている。
中でも、オキシエチレン基の平均付加モル数が8であるスルホコハク酸塩骨格を有する化合物を重合工程終了後に添加した実施例4は、制振性向上効果が顕著であると評価できる。
【0146】
そして、実施例1と実施例5との比較から、オキシエチレン基の平均付加モル数が8であるスルホコハク酸塩骨格を有する化合物を用いた実施例1は、機械安定性及び外観を充分に優れたものとしながら、当該化合物とオキシエチレン基の平均付加モル数が2であるスルホコハク酸塩骨格を有する化合物とを併用した実施例5よりも、制振性が大きく優れることが実証されている。同様に、実施例6と実施例9との比較から、オキシエチレン基の平均付加モル数が9であるスルホコハク酸塩骨格を有する化合物を用いた実施例6は、機械安定性及び外観を充分に優れたものとしながら、当該化合物とオキシエチレン基の平均付加モル数が3であるスルホコハク酸塩骨格を有する化合物とを併用した実施例9よりも、制振性が大きく優れることが実証されている。
【0147】
また実施例14、実施例16、実施例18は、使用した全アニオン性界面活性剤中のスルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物の含有割合がそれぞれ100%、72%、28%である。実施例14、実施例16、実施例18のいずれも、制振性、機械安定性、及び、外観が優れることが実証されており、中でも、実施例14及び実施例16は制振性、機械安定性、及び、外観がより優れ、実施例14は制振性、及び、機械安定性が特に優れる。
【0148】
<実施例20〜25、比較例4〜7>
(実施例20)
撹拌機、還流冷却管、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを取り付けた重合器に脱イオン水350.6部を仕込んだ。その後、窒素ガス気流下で撹拌しながら内温を75℃まで昇温した。一方、上記滴下ロートにメチルメタクリレート520部、2−エチルヘキシルアクリレート130部、ブチルアクリレート340部、アクリル酸10.0部、t−DM2.0部、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>75.0部及び脱イオン水230.0部からなる単量体乳化物を仕込んだ。次に、重合器の内温を75℃に維持しながら、上記単量体乳化物のうちの27.0部、重合開始剤(酸化剤)である5%過硫酸カリウム水溶液5部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液10部を添加し、初期重合を開始した。40分後、反応系内を80℃に維持したまま、残りの単量体乳化物を210分にわたって均一に滴下した。同時に5%過硫酸カリウム水溶液95部及び2%亜硫酸水素ナトリウム水溶液90部を210分かけて均一に滴下し、滴下終了後60分同温度を維持し、重合を終了した。
得られた反応液を室温まで冷却後、2−ジメチルエタノールアミン16.7部、脱イオン水を適宜添加し、不揮発分55.0%、pH7.8、粘度300mPa・s、平均粒子径240nm、重量平均分子量103000のアクリル系エマルション(樹脂組成物23)を得た。
【0149】
(実施例21)
実施例20の単量体乳化物の仕込みにおいて、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>を75.0部から150部に変更した以外は、実施例20と同様の操作を行い、不揮発分55.1%、pH7.8、粘度450mPa・s、平均粒子径190nm、重量平均分子量95000のアクリル系エマルション(樹脂組成物24)を得た。
【0150】
(実施例22)
実施例20の単量体乳化物の仕込みにおいて、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>75.0部の代わりに予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホコハク酸半エステル塩(iii)−<1>75.0部を用いた以外は実施例20と同様の操作を行い、不揮発分55.0%、pH8.1、粘度200mPa・s、平均粒子径260nm、重量平均分子量110000のアクリル系エマルション(樹脂組成物25)を得た。
【0151】
(実施例23)
実施例22の単量体乳化物の仕込みにおいて、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホコハク酸半エステル塩(iii)−<1>を75.0部から150部に変更した以外は、実施例22と同様の操作を行い、不揮発分55.0%、pH8.0、粘度350mPa・s、平均粒子径210nm、重量平均分子量103000のアクリル系エマルション(樹脂組成物26)を得た。
【0152】
(実施例24)
実施例20の単量体乳化物の仕込みにおいて、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>75.0部の代わりに予め20%水溶液に調整したスルホコハク酸N−アルキルモノアミドジナトリウム(iv)75.0部を用いた以外は実施例20と同様の操作を行い、不揮発分55.1%、pH8.0、粘度250mPa・s、平均粒子径220nm、重量平均分子量98000のアクリル系エマルション(樹脂組成物27)を得た。
【0153】
(実施例25)
実施例24の単量体乳化物の仕込みにおいて、予め20%水溶液に調整したスルホコハク酸N−アルキルモノアミドジナトリウム(iv)を75.0部から150部に変更した以外は、実施例24と同様の操作を行い、不揮発分55.1%、pH8.1、粘度400mPa・s、平均粒子径170nm、重量平均分子量105000のアクリル系エマルション(樹脂組成物28)を得た。
【0154】
(比較例4)
実施例20の単量体乳化物の仕込みにおいて、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>75.0部の代わりに予め20%水溶液に調整したニューコール707SF(商品名、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル・硫酸エステル塩:日本乳化剤株式会社製)75.0部を用いた以外は、実施例20と同様の操作を行い、不揮発分55.0%、pH7.9、粘度400mPa・s、平均粒子径230nm、重量平均分子量111000のアクリル系エマルション(樹脂組成物29)を得た。
【0155】
(比較例5)
比較例4の単量体乳化物の仕込みにおいて、予め20%水溶液に調整したニューコール707SF(商品名、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル・硫酸エステル塩:日本乳化剤株式会社製)を75.0部から150部に変更した以外は、比較例4と同様の操作を行い、不揮発分55.0%、pH7.9、粘度450mPa・s、平均粒子径190nm、重量平均分子量98000のアクリル系エマルション(樹脂組成物30)を得た。
【0156】
(比較例6)
実施例20の単量体乳化物の仕込みにおいて、予め20%水溶液に調整したポリオキシエチレンアルキルエーテル・スルホサクシネート・ジナトリウム塩(i)−<1>75.0部の代わりに予め20%水溶液に調整したレベノールWX(商品名、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム:花王社製)75.0部を用いた以外は、実施例20と同様の操作を行い、不揮発分55.2%、pH8.0、粘度300mPa・s、平均粒子径250nm、重量平均分子量101000のアクリル系エマルション(樹脂組成物31)を得た。
【0157】
(比較例7)
比較例6の単量体乳化物の仕込みにおいて、予め20%水溶液に調整したレベノールWX(商品名、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム:花王社製)を75.0部から150部に変更した以外は、比較例6と同様の操作を行い、不揮発分55.1%、pH7.8、粘度350mPa・s、平均粒子径220nm、重量平均分子量109000のアクリル系エマルション(樹脂組成物32)を得た。
【0158】
<塗料の調製2>
実施例20〜25の樹脂組成物23〜28、及び、比較例4〜7の樹脂組成物29〜32をそれぞれ下記の通り配合し、塗料を作製し、以下のように総損失係数を測定し、制振性付与剤(i)−<1>を用いる実施例20と実施例21との組み合わせ、制振性付与剤(iii)−<1>を用いる実施例22と実施例23との組み合わせ、制振性付与剤(iv)を用いる実施例24と実施例25との組み合わせ、ニューコール707SFを用いる比較例4と比較例5との組み合わせ、レベノールWXを用いる比較例6と比較例7との組み合わせについて制振性上昇率を算出した。結果を表2に示す。
・樹脂組成物23〜32 350部
・炭酸カルシウム NN#200*1 525部
・分散剤 アクアリックDL−40S*2 6部
・増粘剤 アクリセットWR−650*3 4部
*1:日東粉化工業株式会社製 充填剤
*2:株式会社日本触媒製 ポリカルボン酸型分散剤(有効成分44%)
*3:株式会社日本触媒製 アルカリ可溶性のアクリル系増粘剤(有効成分30%)
【0159】
<制振性上昇率>
上記塗料を冷間圧延鋼板(商品名SPCC・幅15mm×長さ250mm×厚み1.5mm、日本テストパネル社製)の上に2mmの厚みで塗布して80℃で30分間予備乾燥後、150℃で30分間乾燥し、冷間圧延鋼板上に面密度4.0Kg/mの制振材被膜を形成した。なお、予備乾燥、予備乾燥後の乾燥における加熱により塗料から発泡が生じた。
制振性の測定は、それぞれの温度(20℃、30℃、40℃、50℃、60℃)における損失係数を、片持ち梁法(株式会社小野測機製損失係数測定システム)を用いて測定した。制振性上昇率の評価は、総損失係数(20℃、30℃、40℃、50℃、60℃での損失係数の和)により行い、下記式より制振性上昇率を算出した。
制振性上昇率(%)={(a−b)/b}×100(%)
a:制振性付与剤の添加量3.0%の時の総損失係数
b:制振性付与剤の添加量1.5%の時の総損失係数
【0160】
【表2】
【0161】
上述した実施例20〜25及び比較例4〜7、並びに、明細書に記載された本発明の構成によって奏される作用機構を合わせて考えれば、スルホコハク酸(塩)骨格を有する化合物を含む制振性付与剤により、塗膜の制振性を大きく向上する作用効果が発揮されることがわかった。