【実施例】
【0033】
本発明を以下の実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0034】
(1)ストリップ状の乾燥したIPGゲルの製造及び泳動ラインの本数の確認
アクリルアミド系モノマーとしてのアクリルアミドと架橋剤とを表1に示した量で含み、さらにアクリルアミド誘導体と溶媒とを含む酸性側重合液及び塩基性側重合液を準備した。酸性側重合液の溶媒を水とし、塩基性側重合液の溶媒を水とグリセロールとした。アクリルアミド誘導体としては、シグマ−アルドリッチ社製の誘導体を、pH3〜10のゲルを製造するための量で使用した。酸性側重合液及び塩基性側重合液を酢酸/水酸化ナトリウム緩衝液を用いてpH7.0に調整した後、各重合液7.5mL当たり、100mgの過硫酸アンモニウムを水1.0mLに溶解した溶液を40μLと、N,N,N´,N´−テトラメチレンジアミン4μLと、を添加した。
【0035】
【表1】
【0036】
次いで、グラジエントミキサーを用いて得られた酸性側重合液と塩基性側重合液とを混ぜ合わせる割合を連続的に変えながら混合し、得られた混合液をペリスティックポンプによって、対向配置された2枚のガラス板を有するゲル作成治具のガラス板の間に充填した。なお、ガラス板の一方の表面には、親水性プラスチックフィルムを重合液の充填前に設置した。
【0037】
重合液を充填した後、静置して共重合を進行させた。共重合が完了した後、上記親水性プラスチックに接着したスラブ状のゲルを上記ガラス板から外して取り出し、ゲルを純水で洗浄し、さらにグリセロールに浸漬して洗浄した。その後、スラブ状のゲルの水がほとんど消失するまで減圧下において一晩乾燥し、乾燥後にゲル表面にプラスチック製保護フィルムを接着させ、ゲルを親水性プラスチックフィルム及び保護フィルムと共にpH勾配に沿って切断して、表2に示すゲル幅を有するストリップ状の乾燥したIPGゲルを得た。なお、IPGの長さは7cmであった。得られたストリップ状の乾燥したIPGゲルは、約−20℃の低温で保存した。
【0038】
次いで、7M尿素、2Mチオ尿素、4%3-[3-(コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]プロパンスルホネート(CHAPS)、2mMトリブチルホスフィン、0.5%IPG Buffer pH3−10NL(ジーイーヘルスケア社製のキャリアアンフォライト溶液)を含む膨潤液にペプチドが蛍光標識されている等電点マーカーを混合した液を、膨潤トレイに線状に広げ、表2に示したストリップ状の乾燥したIPGゲルと、従来例としての市販のストリップ状の乾燥したIPGゲル(ジーイーヘルスケア社製、重合液は、モノマーがアクリルアミド、架橋剤がBIS、4.0%T、3.0%C、ゲル幅は3.0mm、長さは7.0cm)とを、それぞれ浸し、従来例のIPGゲルについては10時間以上、その他のIPGゲルについては2時間以上、静置してIPGゲルを膨潤させた。膨潤させたIPGゲルを等電点電気泳動装置にセットし、15℃にて、段階的に印加電圧を上げて(250V30分→線形的に1000Vまで30分→線形的に8000Vまで90分→8000Vで120分)、等電点電気泳動を行った。泳動後のゲルについて、蛍光イメージャーにて、泳動ラインの本数を評価した。表2にその結果をまとめて示す。
【0039】
【表2】
【0040】
図2には、実施例2及び比較例8のゲルについて、電気泳動後のゲルを撮影した画像を示す。(A)は実施例2のゲルに関する画像を、(B)は比較例8のゲルに関する画像を、それぞれ示している。
図2から明瞭に把握されるように、比較例8のゲルには2本の泳動ラインが認められるのに対し、実施例2のゲルには1本の泳動ラインのみが認められる。また、表2より、重合液の組成に関わらず、1.5mm以下のゲル幅を有するストリップ状の乾燥したIPGゲルを用いると、1本の泳動ラインのみが認められ、1.5mmを超えるゲル幅を有するストリップ状の乾燥したIPGゲルを用いると、2本の泳動ラインが認められることが分かる。
【0041】
(2)相対移動度の確認
250mMTris−HClpH8.8膨潤液を膨潤トレイに線状に広げ、表2に示したストリップ状の乾燥したIPGゲルと、上述した従来例のストリップ状の乾燥したIPGゲルと、をそれぞれ浸し、2時間以上静置して、IPGゲルを十分に膨潤させた後、膨潤後のIPGゲルを
図1に示した測定容器の底部にシリコーングリースを用いて固定した。なお、膨潤は、各IPGゲルについて膨潤時間と膨潤後のIPGゲルの重量との関係を予め測定し、膨潤後のIPGゲルの重量がほぼ一定になる時間まで行った。次いで、ゲルのプラス極端部から約1cm離れた位置に0.5mm幅の切欠き部を形成し、この切欠き部に分子質量25kDaのマーカータンパク質を含むマーカータンパク質セット(バイオ−ラッド社製、Precision Plus Protein Dual Color Standard)と5%アガロース水溶液とを1:1に混合した液にBPB0.1μLを添加した液を導入して固化させ、試料部を形成した。
【0042】
次に、膨潤させたIPGゲルの両端に、25mMTris,192mMグリシン,0.1%SDSを含むSDS−PAGE用泳動バッファーを浸み込ませたろ紙を配置し、ろ紙の上に、下部に半透膜を備え、内部に上記SDS−PAGE用泳動バッファー及び電極が導入された電極筒を配置した。次いで、上記測定容器に鉱油を膨潤させたIPGゲルが覆われるまで導入した後、電極間に電圧を印加(80V6分→120V)して電気泳動を実施した。BPBがマイナス電極付近まで泳動したところで泳動を停止し、泳動開始位置と、BPBのバンドの泳動先端位置と、分子質量25kDaのマーカータンパク質のバンドの泳動先端位置とから、相対移動度Rfを算出した。表3に、ゲル幅1.5mmのIPGゲルに関する相対移動度の値を、従来例のIPGゲルに関する値と共に示す。表3から明らかなように、使用した重合液の組成に依存して、相対移動度の値は大きく変化した。なお、120Vの電圧印加によってはタンパク質が集中して泳動される泳動ラインが生じにくくタンパク質がゲル幅の方向に比較的均一に泳動されるためであると思われるが、同じ重合液から得られたIPGゲルは、ゲル幅に依存せずに略同一の相対移動度の値を示した。
【0043】
【表3】
【0044】
(3)二次元電気泳動のスポットの評価
カイコ由来Sf9細胞を、8M尿素、4%CHAPS、30mMTis−HClpH8.8膨潤液に分散させ、可溶性画分の14.209μL(総タンパク質量50μg)あたり、400μMのIC5−OSu蛍光試薬(溶媒はジメチルスルホキシド、同仁化学研究所製)1μLと混合し、30分間氷上で静置して、タンパク質を蛍光色素Cy5で標識した。次いで、この液に10mMのL−リシンの溶液1μLを添加し、10分間氷上で静置して、標識反応を停止させた。得られた液のタンパク質量12μg分を分取し、膨潤バッファー(7M尿素、2Mチオ尿素、4%CHAPS、1.2%DeStreak Reagent(ジーイーヘルスケア社製)、0.5%IPG Buffer pH3−10NL)で、ゲル幅3.0mmのIPGゲルのためには総液量が125μL、その他のゲル幅のIPGゲルのためには総液量が80μL、になるように希釈し、サンプル液を得た。
【0045】
得られたサンプル液を、膨潤トレイに線状に広げ、膨潤状態で0.91以下の分子質量25kDaのマーカータンパク質の相対移動度を示すストリップ状の乾燥したIPGゲルと、上述した従来例のストリップ状の乾燥したIPGゲルとを、それぞれ浸し、2時間以上(最大16時間)静置して、IPGゲルを膨潤させた。膨潤させたIPGゲルを等電点電気泳動装置にセットし、15℃にて、段階的に印加電圧を上げて(250V30分→線形的に1000Vまで30分→線形的に8000Vまで90分→8000Vで120分)、等電点電気泳動を行った。
【0046】
等電点電気泳動装置からIPGゲルを回収して体積15mLのチューブに導入し、平衡化バッファーA(375mMTris−HClpH8.8、6M尿素、2%SDS、20%グリセロール、2%ジチオトレイトール(DTT))を上記チューブに導入し、10分間振とうした。次いで、平衡化バッファーAを廃棄し、代わりに平衡化バッファーB(375mMTris−HClpH8.8、6M尿素、2%SDS、20%グリセロール、4.5%ヨードアセトアミド)を上記チューブに導入し、さらに10分間振とうした。その後、洗浄液(125mMTris−HClpH6.8、0.1%SDS)で2回洗浄した。
【0047】
封入アガロース(0.5%アガロース、125mMTris−HClpH6.8、0.1%SDS)を加熱してアガロースを溶解させた後、濃縮ゲル部を有していないスラブゲル(モノマーはアクリルアミド、架橋剤はBIS、12.0%T)を有するゲル板の上記スラブゲルの上端に流し込み、直後に、平衡化及び洗浄を行った上記IPGゲルを、封入アガロースゲル中の上記スラブゲルの上端の位置に水平になるようにセットした。封入アガロースがゲル化した後、スラブゲルを電気泳動槽中にセットし、泳動バッファー(0.3%Tris、1.44%グリシン、0.1%SDS)でスラブゲルを満たし、電圧を印加(80V30分間→200V約2時間)して、二次元目の電気泳動を行った。電気泳動が終了した後、上記スラブゲルをゲル板ごと蛍光イメージスキャナーにセットし、アクリルアミド中のCy5の蛍光をスキャニングして、二次元電気泳動画像を得た。
【0048】
図3には、実施例2及び比較例8のIPGゲルを用いた実験について、二次元電気泳動後のゲルを撮影した画像を示す。(A)は実施例2のゲルを用いて得られた画像を、(B)は比較例8のゲルを用いて得られた画像を、それぞれ示している。
図3から明瞭に把握されるように、比較例8のゲルを用いて得られた画像ではスポットが泳動方向に伸張しているのに対し、実施例2のゲルを用いて得られた画像ではスポットの泳動方向への伸張は大幅に抑制されている。また、スポットの泳動方向と垂直な方向への伸張にはほぼ相違が認められないことがわかる。表4に、使用したIPGストリップゲルとスポットの泳動方向への伸張の関係をまとめた。表4では、スポットの泳動方向への伸張が
図3(A)と同程度である場合を「伸張なし」とした。表4から把握されるように、IPGゲルの幅を1.5mm以下にすることにより、二次元電気泳動におけるスポットの泳動方向への伸張が大幅に抑制された。
【0049】
【表4】
【0050】
図4及び
図5は、実施例3のストリップ状の乾燥したIPGゲル或いは上述した従来例のストリップ状の乾燥したIPGゲルを使用して等電点電気泳動を行った後、濃縮ゲル部(モノマーはアクリルアミド、架橋剤はBIS、4.0%T)と分離ゲル部(モノマーはアクリルアミド、架橋剤はBIS、12.0%T)とを有するスラブゲルを用いて二次元目の電気泳動を行ったときの、二次元電気泳動画像を示している。
図4は実施例3のIPGゲルを用いて得られた画像であり、
図5は従来例のIPGゲルを用いて得られた画像である。これらの図を比較すると、実施例3のIPGゲルを用いて得られた画像では、高分子量のタンパク質に相当するスポットが濃く認められており、実施例3のIPGゲルが高分子量のタンパク質を効率よく吸収したことが分かる。また、実施例3のIPGゲルを用いた場合には、従来例のIPGゲルを使用した場合に比較して、スポットの泳動方向と垂直な方向への伸張が抑制されたことが分かる。したがって、本発明のストリップ状の乾燥したIPGゲルの使用により、二次元電気泳動におけるスポットの泳動方向への伸張ばかりでなく泳動方向と垂直な方向への伸張も抑制され、二次元電気泳動におけるスポットの分離性能が向上したことがわかった。