(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0020】
本発明者らは、電池の温度の高低に左右されることなくその容量が安定している、正極活物質としての水酸化ニッケルを鋭意検討した。その結果、本発明者らは、正極活物質として、水酸化ニッケルに複数の特定の元素が少なくとも部分的に固溶しているニッケル複合水酸化物を見出し、かつこの正極活物質を搭載した電池では、その電池の温度が変化した場合にその容量がほとんど変化しないことを知見した。本発明の正極活物質を、下記に示している。
【0021】
《正極活物質》
本発明の正極活物質に含有されているニッケル複合水酸化物では、水酸化ニッケルにアルミニウム及びイッテルビウムが少なくとも部分的に固溶している。
【0022】
このニッケル複合水酸化物によれば、温度変化に伴う容量の変化を抑制することができる。
【0023】
なお、本発明において、「ニッケル複合水酸化物」とは、水酸化ニッケルに少なくとも一種の金属元素が少なくとも部分的に固溶している水酸化物を意味する。したがって、例えば「ニッケル複合水酸化物」は、水酸化ニッケルに少なくとも一種の金属元素が固溶している部分だけでなく、水酸化ニッケルと少なくとも一種の金属元素の水酸化物とがそれぞれ単独で存在している部分を有している水酸化物であってもよい。
【0024】
さらに、本発明の正極活物質に含有されているニッケル複合水酸化物を、下記の式(I)で表すことができる:
Ni
aAl
bYb
c(OH)
d (I)
(式中、
a+b+c=1.00、
0.70≦a<1.00、
0<b≦0.2、
0<c≦0.1、
d=2a+3b+3c。)。
【0025】
なお、上記の式(I)のa、b、及びc、並びにdは、モル比を表している。したがって、上記の式(I)の条件の「a+b+c=1.00」は、これらa、b、及びcのモル比の総計が正規化されていることを意味し、例えば、Ni
0.35Al
0.1Yb
0.05(OH)
1.15やNi
1.4Al
0.4Yb
0.2(OH)
4.6は、Ni
0.7Al
0.2Yb
0.1(OH)
2.3と等しいことを理解されたい。
【0026】
ニッケル複合水酸化物中のニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、及びイッテルビウム(Yb)のモル比の総計に対するニッケルの割合が多い場合には、正極活物質としてこのニッケル複合水酸化物を採用した電池の基本的な容量を向上させることができる。また、ニッケル複合水酸化物中には、アルミニウム及びイッテルビウムが含有され、これらが存在していることによって温度変化に伴う容量の変化を抑制し易くなる。したがって、上記の式(I)のaは、0.70以上、0.75以上、又は0.80以上、かつ1.00未満であるのが好ましい。
【0027】
ニッケル複合水酸化物中のアルミニウム及びイッテルビウムのモル比の総計に対するアルミニウムの割合が多い場合には、相対的にイッテルビウムの割合が低下して、コストを抑制できる。また、上記のアルミニウムの割合が少ない場合には、相対的にイッテルビウムの割合が上昇し、高温、例えば60℃における容量が、低温のときと比較して、上昇する可能性がある。したがって、上記の式(I)のbは、0超、0.05以上、又は0.1以上、かつ0.15以下、0.17以下、又は0.20以下であるのが好ましい。さらに、上記の式(I)のcは、0超又は0.05以上、かつ0.1以下であるのが好ましい。
【0028】
ニッケル複合水酸化物の形態は、特に限定されないが、粒子状でよい。また、ニッケル複合水酸化物の平均粒径は、特に限定されないが、5μm〜20μmでよい。なお、当該粒径は、いわゆる円相当径でよい。
【0029】
〈被覆層〉
また、本発明の正極活物質では、ニッケル複合水酸化物が、これを被覆している被覆層をさらに含み、かつ被覆層が、コバルトを含有していてよい。
【0030】
被覆層が形成されているニッケル複合水酸化物を含む電池を充電する場合には、被覆層中のコバルトが、導電特性を有している酸化物又は過酸化物に転化され、ニッケル複合水酸化物同士の間に導電性のネットワークが形成されてよい。結果として、被覆層が形成されているニッケル複合水酸化物を用いる場合には、被覆層が形成されていないものを用いる場合と比較して、充放電反応に関与するニッケル複合水酸化物の割合が向上してよい。
【0031】
したがって、本発明の正極活物質に含有されているニッケル複合水酸化物を電池で採用した場合には、その充放電容量を、向上させることができる。
【0032】
被覆層の厚さは、特に限定されないが、0.2μm以下でよい。
【0033】
また、ニッケル複合水酸化物と、これを被覆している被覆層とのモル比は、特に限定されないが、97:3〜85:15でよい。
【0034】
(被覆層中の成分)
さらに、本発明の正極活物質では、ニッケル複合水酸化物を被覆している被覆層が、アルミニウム、マンガン、及びニッケルからなる群から選択される少なくとも一種をさらに含有していてよい。
【0035】
また、本発明の正極活物質では、好ましくは、被覆層が、マンガン、及びニッケルを含有していてよい。
【0036】
導電特性を有しているコバルト酸化物又は過酸化物の形態は、例えば水酸化コバルト(Co(OH)
2、CoOOH)の形態でよい。水酸化コバルトの形態の例としては、例えばα−Co(OH)
2、β−Co(OH)
2、β-CoOOH、及びγ−CoOOHを挙げることができる。
【0037】
また、γ−CoOOHの導電性は、β−CoOOHの導電性よりも高いことが知られている。したがって、上記の導電性ネットワークを構成している水酸化コバルトは、典型的には、γ−CoOOHを多く含むのが好ましい。
【0038】
ここで、γ−CoOOHは、α−Co(OH)
2からの転化によって一般的に生じ易い一方で、β−Co(OH)
2からの転化によって生じ難い。したがって、α−Co(OH)
2の形態を、導電性ネットワークの形成に関して維持することが望ましくてよい。しかしながら、α−Co(OH)
2は比較的不安定であり、水酸化コバルトは、β−Co(OH)
2の形態をとり易い。
【0039】
本発明の正極活物質では、上記したように、被覆層が、コバルトに加えて、アルミニウム、マンガン、及びニッケルからなる群から選択される少なくとも一種を含んでよい。これらアルミニウム等が、水酸化コバルトの近傍にあり、かつ/又はその内部に含まれていることによって、水酸化コバルトの形態、が安定化されてよい。結果として、導電性ネットワークの導電特性が向上し、ひいては、充放電反応に関与するニッケル複合水酸化物の割合がさらに向上してよい。
【0040】
被覆層中のコバルト、アルミニウム、マンガン、及びニッケルのモル比は、特に限定されないが、コバルトの割合が大きいのが好ましい。コバルトの割合は、被覆層中のアルミニウム、マンガン、及びニッケルの全ての元素に基づくモル%換算で、例えば、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、又は90モル%以上でよい。
【0041】
また、アルミニウム、マンガン、及びニッケルのモル比は、特に限定されないが、ニッケルの割合が大きくてよい。ニッケルの割合は、被覆層中のアルミニウム、マンガン、及びニッケルの全ての元素に基づくモル%換算で、例えば、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、又は90モル%以上でよい。
【0042】
さらに、アルミニウム及びマンガンのモル比は、特に限定されないが、マンガンの割合が大きくてよい。マンガンの割合は、被覆層中のアルミニウム及びマンガンの全ての元素に基づくモル%換算で、例えば、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、又は90モル%以上でよい。
【0043】
もちろん、アルミニウムの割合が、被覆層中のアルミニウム、マンガン、及びニッケルの全ての元素に基づくモル%換算で、実質的に100モル%であってもよい。
【0044】
本発明の正極活物質に含有されているニッケル複合水酸化物は、下記のニッケル複合水酸化物の製造方法の記載を参照して製造することができる。
【0045】
《ニッケル複合水酸化物の製造方法》
本発明の正極活物質に含有されているニッケル複合水酸化物を製造する方法は、例えばニッケルの塩、アルミニウムの塩、イッテルビウムの塩、及び第一の溶媒を混合した第一の溶液を調製する第一溶液調製工程、塩基性物質及び第二の溶媒を混合した第二の溶液を調製する第二溶液調製工程、並びに第一の溶液及び第二の溶液を撹拌混合してニッケル複合水酸化物を合成する水酸化物合成工程を含んでよい。
【0046】
〈第一溶液調製工程〉
第一の溶液の調製は、ニッケルの塩、アルミニウムの塩、イッテルビウムの塩、及び第一の溶媒を混合することによって行ってよい。
【0047】
第一の溶液を調製する際の温度、圧力、及び雰囲気は、特に限定されない。第一の溶液を調製する際の温度、圧力、及び雰囲気は、例えば常温、大気圧、及び大気雰囲気でよい。
【0048】
第一の溶液におけるニッケル、アルミニウム、及びイッテルビウムのモル比は、上記のニッケル複合水酸化物、特に上記の式(I)の条件を充足するニッケル複合水酸化物を製造することが可能であれば、特に限定されない。第一の溶液におけるこれらのモル比は、上記のニッケル複合水酸化物のモル比と相関してよい。この場合において、第一の溶液におけるこれらのモル比は、それらの還元の尺度、例えば酸化還元電位や、各元素の固溶のし易さを考慮して決定してもよい。
【0049】
(ニッケルの塩)
ニッケルの塩は、第一の溶媒に可溶であれば、特に限定されない。ニッケルの塩としては、ニッケルの硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩、炭酸塩、ハロゲン化物、シアン化物、及び硫化物、並びにそれらの組み合わせを挙げることができる。
【0050】
(アルミニウムの塩及びイッテルビウムの塩)
アルミニウムの塩及びイッテルビウムの塩に関して、上記のニッケルの塩の記載を参照することができる。
【0051】
(第一の溶媒)
第一の溶媒は、ニッケルの塩、アルミニウムの塩、及びイッテルビウムの塩が可溶であれば、特に限定されない。第一の溶媒としては、極性溶媒、例えば水を挙げることができる。
【0052】
〈第二溶液調製工程〉
第二の溶液の調製は、塩基性物質及び第二の溶媒を混合することによって行ってよい。
【0053】
第二の溶液を調製する際の温度、圧力、及び雰囲気は、特に限定されない。第二の溶液を調製する際の温度、圧力、及び雰囲気は、例えば常温、大気圧、及び大気雰囲気でよい。
【0054】
(塩基性物質)
塩基性物質としては、特に限定されることなく、アルカリ金属の水酸化物、例えば水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムなど、アルカリ土類金属の水酸化物、例えば水酸化カルシウムなど、並びにそれらの組み合わせを挙げることができる。
【0055】
(第二の溶媒)
第二の溶媒に関して、上記第一の溶媒の記載を参照することができる。
【0056】
〈水酸化物合成工程〉
水酸化物の合成は、第一の溶液及び第二の溶液を撹拌混合してニッケル複合水酸化物を合成することによって行ってよい。
【0057】
水酸化物合成工程では、任意選択的に第一の溶液及び第二の溶液を撹拌混合する際に、溶液のpH及び温度を調整してもよい。溶液のpHの調整では、pHセンサーやpHコントローラーを用いることができる。溶液の温度の調整では、ヒーターや温度センサー付コントローラーを用いることができる。
【0058】
その他、水酸化物合成工程は、溶液とニッケル複合水酸化物とを遠心分離する段階、ニッケル複合水酸化物を含有している溶液を濾過する段階、及び/又はニッケル複合水酸化物を含有している溶液若しくはスラリーを減圧下で乾燥する段階をさらに含んでよい。
【0059】
〈被覆層形成工程等〉
本発明の正極活物質に含有されているニッケル複合水酸化物を製造する方法は、例えば、コバルトの塩及び第三の溶媒を含む第三の溶液を調製する第三溶液調製工程;塩基性物質及び第四の溶媒を含む第四の溶液を調製する第四溶液調製工程;上記で合成したニッケル複合水酸化物及び第五の溶媒を含む第五の溶液を調製する第五溶液調製工程;並びに上記第五溶液に上記第三及び第四の溶液を添加して混合する被覆層形成工程を含んでよい。
【0060】
(第三溶液調製工程)
第三の溶液の調製は、コバルトの塩及び第三の溶媒、並びに任意選択的にアルミニウムの塩、マンガンの塩、及びニッケルの塩からなる群から選択される少なくとも一種を撹拌混合することによって行ってよい。
【0061】
第三の溶液を調製する際の温度、圧力、及び雰囲気は、特に限定されない。第三の溶液を調製する際の温度、圧力、及び雰囲気は、例えば常温、大気圧、及び大気雰囲気でよい。
【0062】
第三の溶液におけるコバルト、アルミニウム、マンガン、及びニッケルのモル比は、特に限定されないが、コバルトの割合が大きくてよい。コバルトの割合は、第三の溶液中のコバルト、アルミニウム、マンガン、及びニッケルの全ての元素に基づくモル%換算で、例えば、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、又は90モル%以上でよい。
【0063】
また、アルミニウム、マンガン、及びニッケルのモル比は、特に限定されないが、ニッケルの割合が大きくてよい。ニッケルの割合は、第三の溶液中のアルミニウム、マンガン、及びニッケルの全ての元素に基づくモル%換算で、例えば、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、又は90モル%以上でよい。
【0064】
さらに、アルミニウム及びマンガンのモル比は、特に限定されないが、マンガンの割合が大きくてよい。マンガンの割合は、第三の溶液中のアルミニウム及びマンガンの全ての元素に基づくモル%換算で、例えば、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、又は90モル%以上でよい。
【0065】
もちろん、アルミニウム、マンガン、又はニッケルのいずれかの割合が、第三の溶液中のアルミニウム、マンガン、及びニッケルの全ての元素に基づくモル%換算で、実質的に100モル%であってもよい。
【0066】
第三の溶液におけるこれらの元素のモル比は、それらの還元の尺度、例えば酸化還元電位や、各元素の固溶のし易さを考慮して決定してもよい。
【0067】
本発明者らは、第三の溶液に、コバルト以外の成分、例えば、アルミニウム、マンガン、及び/又はニッケルの成分が含有されている場合には、ニッケル複合水酸化物を被覆層で被覆し易くなることを見出した。これによって、ニッケル複合水酸化物が被覆されている割合、すなわち、被覆率が向上してよい。
【0068】
ニッケル複合水酸化物を被覆層で被覆し易くなる理由は、何らの論理によって縛られないが、α型構造を持つニッケル複合水酸化物と同様のα型構造を持つ化合物で被覆することで、ニッケル複合水酸化物の結晶上に被覆結晶が積層し易くなるものと考えられる。
【0069】
したがって、被覆率が向上したニッケル複合水酸化物を含む電池を充電する場合には、ニッケル複合水酸化物同士の間に導電性のネットワークがより効果的に形成されてよい。
【0070】
なお、被覆率は、被覆層で被覆されているニッケル複合水酸化物のエネルギー分散型X線分析装置付透過型電子顕微鏡(SEM−EDX:Scanning Electron Microscope−Energy Dispersive X−ray spectrometry)像から算出される値である。具体的には、被覆率は、ニッケル複合水酸化物のSEM像での投影面積に対する、当該ニッケル複合水酸化物の被覆層のEDX像での面積の割合である。
【0071】
被覆率は、特に限定されないが、0%超、10%以上、30%以上、50%以上、70%以上、又は90%以上でよい。
【0072】
コバルトの塩、並びに任意選択的なアルミニウム、マンガン、及びニッケルの塩を形成している塩の例としては、硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩、炭酸塩、ハロゲン化物、シアン化物、及び硫化物、並びにそれらの組み合わせを挙げることができる。
【0073】
第三の溶媒は、コバルトの塩、並びに任意選択的なアルミニウム、マンガン、及びニッケルの塩が可溶であれば、特に限定されない。第三の溶媒としては、極性溶媒、例えば水を挙げることができる。
【0074】
(第四溶液調製工程)
第四の溶液の調製は、塩基性物質及び第四の溶媒を撹拌混合することによって行ってよい。当該工程に関しては、第二溶液調製工程を参照されたい。
【0075】
(第五溶液調製工程)
第五溶液の調製は、上記で合成したニッケル複合水酸化物及び第五の溶媒を含む第五の溶液を調製してよい。
【0076】
第五の溶媒は、合成したニッケル複合水酸化物を破損することがなければ、特に限定されない。当該溶媒の例は、例えば、水である。
【0077】
第五の溶液を調製する際の温度、圧力、及び雰囲気は、特に限定されない。第五の溶液を調製する際の温度、圧力、及び雰囲気は、例えば常温、大気圧、及び大気雰囲気でよい。
【0078】
(被覆層形成工程)
合成したニッケル複合水酸化物への被覆層の形成は、ニッケル複合水酸化物を含む第五溶液に、上記の第三及び第四溶液を添加することによって行ってよい。
【0079】
被覆層形成工程では、ニッケル複合水酸化物を含む第五溶液に、被覆層の成分を含む第三溶液及び塩基性物質を含む第四溶液を添加して、pHを調整しつつニッケル複合水酸化物に被覆層を形成してよい。また、当該工程では、温度を調整してもよい。pH及び温度の調整に関しては、上記の水酸化物合成工程を参照されたい。
【0080】
図1は、ニッケル複合水酸化物に、コバルト等を含有している被覆層を形成する工程を示す概略図である。
図1では、塩基性物質2及びコバルト等3を反応させて、ニッケル複合水酸化物1に被覆層4を形成する概略が示されている。
【0081】
ニッケル複合水酸化物の製造方法に関して、上記の本発明の正極活物質の記載を参照することができる。
【0082】
《アルカリ電池》
本発明のアルカリ電池は、上記の本発明の正極活物質を含む。本発明のアルカリ電池は、例えば本発明の正極活物質を含む正極層、セパレーター層、負極層がこの順で積層された積層体と、電解液とを含み、この積層体が電解液に浸漬されている。
【0083】
本発明のアルカリ電池では、本発明の正極活物質に含有されているニッケル複合水酸化物の作用効果により、温度変化に伴う電池の容量の変化を抑制することができる。
【0084】
アルカリ電池としては、特に限定されないが、例えばニッケル・カドミウム電池、ニッケル・亜鉛電池、ニッケル・水素電池、及びニッケル・マンガン電池等を挙げることができる。これらの電池は、放充電可能な可逆電池でよく、又は放電専用の不可逆電池でもよい。
【0085】
本発明のアルカリ電池の一実施形態として、ニッケル・水素電池の構成、及びその製造方法について以下説明する。
【0086】
〈ニッケル・水素電池の構成〉
ニッケル・水素電池は、主に本発明の正極活物質を含む正極層、セパレーター層、負極層がこの順で積層された積層体と、電解液とを含み、この積層体が電解液に浸漬されている。
【0087】
(正極層)
正極層としては、板状の正極集電体の上に正極材料が層状に形成されているもの、又は気泡構造状、特に連続気泡構造体状の正極集電体に正極材料が充填されているものを挙げることができる。
【0088】
正極集電体としては、特に限定されないが、パンチングメタル、エキスパンドメタル、金網、発泡金属、例えば発泡ニッケル、網状金属繊維焼結体、金属メッキ樹脂板などを挙げることが出来る。
【0089】
正極材料は、上記の本発明の正極活物質、並びに任意選択的な導電助剤、バインダー、及び増粘剤を含んでいる。
【0090】
正極活物質は、上記の本発明の正極活物質を含んでいれば、特に限定されることなく、ニッケル・水素電池の正極活物質として公知の材料をさらに含んでいてもよい。
【0091】
導電助剤としては、ニッケル・水素電池のために使用できるものであれば特に限定されないが、酸化コバルト等を用いることができる。
【0092】
バインダー又は増粘剤としては、ニッケル・水素電池のために使用できるものであれば特に限定されないが、ポリマー樹脂、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ブタジエンゴム(BR)、ポリビニルアルコール(PVA)、及びカルボキシメチルセルロース(CMC)等、並びにこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0093】
(セパレーター層)
セパレーターの材料としては、ニッケル・水素電池のために使用できるものであれば特に限定されないが、ポリオレフィン不織布、例えばポリエチレン不織布及びポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布、並びにそれらを親水性処理したものを挙げることができる。
【0094】
(負極層)
負極層としては、板状の負極集電体の上に負極材料が層状に形成されているもの、又は発泡体状、特に連続気泡構造体状の負極集電体に負極材料が充填されているものを挙げることができる。
【0095】
負極層の負極集電体に関しては、正極層の正極集電体に関する記載を参照することができる。
【0096】
負極材料は、負極活物質、並びに任意選択的な導電助剤、バインダー、及び増粘剤を含んでいる。
【0097】
負極活物質は、ニッケル・水素電池のために使用できるものであれば特に限定されないが、水素吸蔵合金、特に粉末状の水素吸蔵合金を用いることができる。
【0098】
負極材料の導電助剤、バインダー及び増粘剤に関しては、正極材料の導電助剤、バインダー及び増粘剤に関する記載を参照することができる。
【0099】
(電解液)
電解液としては、アルカリ性の水溶液であれば特に限定されることなく、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、及び水酸化リチウム水溶液等、並びにこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0100】
〈ニッケル・水素電池の製造方法〉
ニッケル・水素電池の製造方法は、正極の作製工程、負極の作製工程、及び組み立て工程を含む。
【0101】
(正極の作製工程)
正極は、正極集電体及び正極材料を含む。正極は、当該技術分野で公知の方法で作製することができる。正極の作製工程の一例を下記に示している。
【0102】
上記の正極材料と、溶媒、例えば水とを混合し、正極材料用スラリーを調製する。このスラリーを連続気泡構造体状の正極集電体に充填し、乾燥及び/又は焼成し、圧延することによって、正極を得ることができる。
【0103】
(負極の作製工程)
負極は、負極集電体及び負極材料を含む。負極は、当該技術分野で公知の方法で作製することができる。負極の作製工程は、例えば負極集電体及び負極材料に関する材料を採用することを除き、正極の作製工程と同様にして行うことができる。
【0104】
(組み立て工程)
作製した正極層と負極層の間に、セパレーター層としてのセパレーターを挟んで積層体を作製する。これによって、正極層、セパレーター層、及び負極層がこの順で積層されている積層体を得ることができる。一方で、電池の外装となる筐体に電解液を注入し、ここに先の積層体を拘束して浸漬することによって、ニッケル・水素電池を製造することができる。
【0105】
本発明のアルカリ電池に関して、上記の本発明の正極活物質の記載、及び上記のニッケル複合水酸化物の製造方法の記載を参照することができる。
【0106】
以下に示す実施例を参照して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例によって限定されるものでないことは言うまでもない。
【実施例】
【0107】
《実施例1:ニッケル複合水酸化物》
〈第一の溶液の調製〉
ニッケルの塩としての硫酸ニッケル、アルミニウムの塩としての硫酸アルミニウム、及びイッテルビウムの塩としての硫酸イッテルビウムを、ニッケル、アルミニウム、及びイッテルビウムが0.8:0.15:0.05のモル比となるように、第一の溶媒としての水に溶解させて第一の溶液を調製した。
【0108】
〈第二の溶液の調製〉
塩基性物質としての水酸化ナトリウム、及び第二の溶媒としての水を混合して第二の溶液を調製した。第二の溶液の濃度は、32質量%であった。
【0109】
〈第一の溶液及び第二の溶液の混合〉
反応槽としてのガラスビーカー中に水1000gを入れ、さらにpHセンサー及びpHコントローラーを用いてpHを10.0に維持するために第二の溶液を適宜添加し、かつヒーターと温度センサー付きコントローラーとを用いて温度を40℃に維持した。この反応槽中に、上記の温度とpHが保持されるように第一の溶液及び第二の溶液を添加して撹拌混合し、これによって沈殿物が生成した。
【0110】
沈殿物が入った混合溶液を、室温まで冷却した後、濾過し、これによって沈殿物を得た。この沈殿物を純水で洗浄して乾燥し、これによってニッケル複合水酸化物を得た。なお、誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)発光分光法による測定では、このニッケル複合水酸化物のニッケル、アルミニウム、及びイッテルビウムのモル比は、0.8:0.15:0.05であった。
【0111】
《実施例2及び3:ニッケル複合水酸化物》
第一の溶液の調整において、ニッケル、アルミニウム、及びイッテルビウムのモル比を変更したことを除き、実施例1と同様にして、実施例2及び3のニッケル複合水酸化物を調製した。実施例2におけるニッケル、アルミニウム、及びイッテルビウムのモル比は、0.775:0.15:0.075であり、かつ実施例3におけるそれらのモル比は、0.75:0.15:0.10であった。
【0112】
《実施例4:被覆層が形成されているニッケル複合水酸化物》
〈第三溶液調製工程〉
コバルトの塩としての硫酸コバルト、アルミニウムの塩としての硫酸アルミニウムをコバルト及びアルミニウムが0.85:0.15のモル比となるように、第三の溶媒としての水に溶解させて第三の溶液を調整した。
【0113】
〈第四溶液調製工程〉
第四の溶液としては、塩基性の水溶液である上記の第二の溶液を用いた。
【0114】
〈第五溶液調製工程〉
反応槽としてのガラスビーカー中に水4500gと実施例1で得られたニッケル複合水酸化物を450g入れ、これによって、第五の溶液を調製した。
【0115】
〈被覆層形成工程〉
第五の溶液に、pHセンサー及びpHコントローラーを用いてpHを9.5に維持するために第四の溶液を適宜滴下し、かつヒーターと温度センサー付きコントローラーとを用いて温度を40℃に維持した。この第五の溶液に、ニッケル複合水酸化物100モル%に対して第三の溶液から得られる被覆水酸化物の量が5モル%となるように、かつ温度とpHを保持するようにしつつ、第三の溶液及び第四の溶液を添加して撹拌混合し、3時間保持した。これによって、実施例1で得られたニッケル複合水酸化物にコバルト及びアルミニウムからなる水酸化物の被覆層を形成した。
【0116】
コバルト及びアルミニウムからなる水酸化物を被覆したニッケル複合水酸化物が入った混合溶液を、室温まで冷却した後、これを濾過し、これによって沈殿物を得た。この沈殿物を純水で洗浄して乾燥し、これによって被覆層が形成されているニッケル複合水酸化物を得た。
【0117】
なお、ICPによる測定では、被覆層が形成されているニッケル複合水酸化物のニッケル、アルミニウム、イッテルビウム及びコバルトのモル比は、0.762:0.150:0.048:0.040であった。実施例1のニッケル複合水酸化物のニッケル、アルミニウム、及びイッテルビウムのモル比が、0.8:0.15:0.05であることから、被覆層のコバルト及びアルミニウムのモル比は、0.85:0.15である。
【0118】
《実施例5:被覆層が形成されているニッケル複合水酸化物》
第三溶液調製工程において、コバルトの塩としての硫酸コバルト、マンガンの塩としての硫酸マンガンをコバルト及びマンガンが0.85:0.15のモル比となるように第三の溶液を調整したことを除き、実施例4と同様に被覆ニッケル複合水酸化物を得た。
【0119】
なお、ICPによる測定では、この被覆ニッケル複合水酸化物のニッケル、アルミニウム、イッテルビウム、コバルト及びマンガンのモル比は、0.762:0.143:0.048:0.040:0.007であった。実施例1のニッケル複合水酸化物のニッケル、アルミニウム、及びイッテルビウムのモル比が、0.8:0.15:0.05であることから、被覆層のコバルト及びマンガンのモル比は、0.85:0.15である。
【0120】
《実施例6:被覆層が形成されているニッケル複合水酸化物》
第三溶液調製工程において、コバルトの塩としての硫酸コバルト、マンガンの塩としての硫酸マンガン、ニッケルの塩としての硫酸ニッケルを、コバルト、マンガン、及びニッケルが0.85:0.03:0.12のモル比となるように第三の溶液を調整したことを除き、実施例4と同様に被覆ニッケル複合水酸化物を得た。
【0121】
なお、ICPによる測定では、この被覆ニッケル複合水酸化物のニッケル、アルミニウム、イッテルビウム、コバルト、及びマンガンのモル比は、0.768:0.143:0.048:0.040:0.001であった。実施例1のニッケル複合水酸化物のニッケル、アルミニウム、及びイッテルビウムのモル比が、0.8:0.15:0.05であることから、被覆層のコバルト、マンガン及びニッケルのモル比は、0.85:0.03:0.12である。
【0122】
《実施例7:被覆層が形成されているニッケル複合水酸化物》
第三溶液調製工程において、コバルトの塩としての硫酸コバルトのみを用いて第三の溶液を調製したこと、及び被覆層形成工程において、ニッケル複合水酸化物100モル%に対して第三の溶液から得られる被覆水酸化物の量が8.7モル%となるように、かつ温度とpHを保持するようにしつつ、第五の溶液に第三の溶液及び第四の溶液を添加して撹拌混合したことを除き、実施例4と同様に被覆ニッケル複合水酸化物を得た。
【0123】
なお、ICPによる測定では、この被覆ニッケル複合水酸化物のニッケル、アルミニウム、イッテルビウム、及びコバルトのモル比は、0.736:0.138:0.046:0.080であった。
【0124】
《比較例1:ニッケル複合水酸化物》
ニッケルの塩としての硫酸ニッケル、及びアルミニウムの塩としての硫酸アルミニウムを、ニッケル及びアルミニウムが0.8:0.2のモル比となるように、第一の溶媒としての水に溶解させて第一の溶液を調製したことを除き、実施例1と同様に比較例1のニッケル複合水酸化物を得た。なお、ICP発光分光法による測定では、このニッケル複合水酸化物のニッケル及びアルミニウムのモル比は、0.8:0.2であった。
【0125】
《比較例2:ニッケル複合水酸化物》
ニッケルの塩としての硫酸ニッケル、アルミニウムの塩としての硫酸アルミニウム、及びエルビウムの塩としての硫酸エルビウムを、ニッケル、アルミニウム、及びエルビウムが0.8:0.15:0.05のモル比となるように、第一の溶媒としての水に溶解させて第一の溶液を調製したことを除き、実施例1と同様にして比較例2のニッケル複合水酸化物を得た。なお、ICP発光分光法による測定では、このニッケル複合水酸化物のニッケル、アルミニウム、及びエルビウムのモル比は、0.8:0.15:0.05であった。
【0126】
《比較例3:ニッケル複合水酸化物》
ニッケルの塩としての硫酸ニッケル、アルミニウムの塩としての硫酸アルミニウム、及びイットリウムの塩としての硫酸イットリウムを、ニッケル、アルミニウム、及びイットリウムが0.8:0.15:0.05のモル比となるように、第一の溶媒としての水に溶解させて第一の溶液を調製したことを除き、実施例1と同様にして比較例3のニッケル複合水酸化物を得た。なお、ICP発光分光法による測定では、このニッケル複合水酸化物のニッケル、アルミニウム、及びイットリウムのモル比は、0.8:0.15:0.05であった。
【0127】
《比較例4:ニッケル複合水酸化物》
ニッケルの塩としての硫酸ニッケル、及びイッテルビウムの塩としての硫酸イッテルビウムを、ニッケル及びイッテルビウムが0.8:0.2のモル比となるように、第一の溶媒としての水に溶解させて第一の溶液を調製したことを除き、実施例1と同様に比較例4のニッケル複合水酸化物を得た。なお、ICP発光分光法による測定では、このニッケル複合水酸化物のニッケル及びイッテルビウムのモル比は、0.8:0.2であった。
【0128】
《評価》
〈電池の充放電の評価〉
電池の充放電の評価は、各例のニッケル複合水酸化物を正極活物質として採用したニッケル・水素電池を作製し、かつこの電池で充放電試験をすることによって行った。
【0129】
(ニッケル・水素電池の作製)
正極の作製工程
正極活物質としての各例ニッケル複合水酸化物、導電助剤としての酸化コバルト、及びバインダーとしてのPVdFを、質量比で85.5:9.5:5.0で混合した。さらにこの混合物及び水を混合して正極材料用スラリーを調製した。このスラリーを正極集電体としての発泡ニッケルに充填し、80℃で48時間にわたって乾燥し、圧延することによって、正極を得た。
【0130】
負極の作製工程
負極活物質としての水素吸蔵合金、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)、及びバインダーとしてのポリビニルアルコール(PVA)を、質量比で98.4:0.8:0.8で混合した。さらにこの混合物及び水を混合して負極材料用スラリーを調製した。このスラリーを負極集電体としての発泡ニッケルに充填し、80℃で48時間にわたって乾燥し、圧延することによって、負極を得た。この工程を繰り返すことによって、合計で2つの負極を得た。
【0131】
組み立て工程
アクリル板、負極層としての負極、セパレーター層、正極層としての正極、セパレーター層、負極層としての負極、及びアクリル板をこの順で積層し、これをネジで圧着することによって積層体を作製した。なお、セパレーター層の材料としては、ポリエチレン及びポリプロピレンから構成されているポリオレフィン不織布を採用した。
【0132】
こうして作製した積層体を、電解液(6mol/LのKOHを含む電解液)が入ったアクリル製容器に含浸し、積層体の近傍に参照極としてのHg/HgO電極を配置することにより、ニッケル・水素電池を作製した。
【0133】
(充放電試験)
各例のニッケル複合水酸化物を正極活物質として採用した各ニッケル・水素電池に対して、充放電試験を行った。充放電試験の内容は下記の(1)〜(4)の操作から構成されており、これらの操作をこの順序で行った:
(1)電池の充電を、負荷電流43mAで14時間にわたって行った;
(2)30分間の休止時間を設けた;
(3)電池の電圧が1.0Vになるまでこの電池を放電させることによって、放電容量を測定した;
(4)30分間の休止時間を設けた。
【0134】
なお、実施例1〜3及び比較例1〜4のニッケル複合水酸化物を採用したニッケル・水素電池に対して、充放電試験を、それぞれ2回ずつ行った。1回目及び2回目の充放電試験では、各例の電池の温度を、それぞれ25℃(1回目)及び60℃(2回目)で維持した。
【0135】
また、実施例4〜7のニッケル複合水酸化物を採用したニッケル・水素電池に対しても、充放電試験を行った。充放電試験では、実施例4〜7の電池の温度を、25℃で維持した。各例の充放電試験の結果を下記の表1に示している。
【0136】
【表1】
【0137】
表1からは、電池の温度が25℃である場合及び60℃である場合を比較して、比較例1〜4のニッケル複合水酸化物を採用した電池の放電容量が、いずれも大きく変化していることが分かる。具体的には、比較例1〜4では、1回目の放電容量を100%とした場合に、1回目と2回目の間の放電容量の差異が、少なくとも36%ある。
【0138】
これに対して、表1からは、電池の温度が25℃である場合及び60℃である場合を比較して、実施例1〜3のニッケル複合水酸化物を採用した電池の放電容量が、ほとんど変化していないことが分かる。具体的には、比較例1〜3では、1回目の放電容量を100%とした場合に、1回目と2回目の間の放電容量の差異が、最大でも26%ある。
【0139】
したがって、実施例1〜3のニッケル複合水酸化物によれば、温度変化に伴う容量、特に電池の容量の変化を抑制することができる。
【0140】
なお、表1からは、アルミニウム(Al)の割合が一定である実施例1〜3のニッケル複合水酸化物によれば、ニッケル(Ni)及びイッテルビウム(Yb)に対するニッケルの割合が、高いほど、充放電効率(%)が100%に近い傾向があることが分かる。
【0141】
したがって、実施例1〜3のニッケル複合水酸化物によれば、アルミニウムの割合が一定である場合には、ニッケル及びイッテルビウムに対するニッケルの割合が高いほど、温度変化に伴う容量、特に電池の容量の変化を、効果的に抑制することができることが理解される。
【0142】
図2は、実施例1〜3のニッケル複合水酸化物に関して、Ni及びYbのモル比と、充放電効率(%)との関係を示した図である。
図2では、アルミニウム(Al)の割合が一定である実施例1〜3のニッケル複合水酸化物に関して、ニッケル及びイッテルビウムに対するニッケルの割合が高いほど、充放電効率が100%に近いことが分かる。
【0143】
また、表1において、実施例4〜7の被覆層を形成したニッケル複合水酸化物を採用した電池(以下、「実施例の電池」とも呼称する)では、実施例1の被覆層を形成していないものと比較して、放電容量が、少なくとも14mAh/g向上している。
【0144】
放電容量が向上した理由は、何らの論理によって縛られないが、実施例4〜7の電池では、被覆層中のコバルトが、導電特性を有している酸化物又は過酸化物に転化され、結果としてニッケル複合水酸化物同士の間に導電性のネットワークが形成されたためと考えられる。具体的には、この導電性ネットワークによって、充放電反応に関与するニッケル複合水酸化物の割合が向上し、これによって、放電容量が向上したと考えられる。
【0145】
さらに、表1において、実施例7の電池の放電容量と比較して、実施例4〜6の電池の放電容量は、さらに向上している。これは、実施例4〜6のニッケル複合水酸化物の被覆層の被覆率が、実施例7のものより高いためと考えられる。具体的には、実施例4〜6のニッケル複合水酸化物の被覆層の被覆率が、比較的に高いことによって、当該ニッケル複合水酸化物を含む電池を充電する場合に、ニッケル複合水酸化物同士の間に導電性のネットワークがより効果的に形成されたためと考えられる。
【0146】
なお、ニッケル複合水酸化物の被覆層の被覆率の向上には、第三の溶液にコバルト以外の成分、例えば、アルミニウム、マンガン、及び/又はニッケルの成分が含有されていることが関係していてよい。
【0147】
また、表1において、実施例7の電池の放電容量と比較して、実施例4〜6の電池の放電容量が、さらに向上した別の理由としては、被覆層が、コバルトに加えて、アルミニウム等を含有していることによって、水酸化コバルトの形態を制御することが可能になったためと考えられる。具体的には、水酸化コバルトの形態、すなわちα−Co(OH)
2が安定化され、結果として、導電性ネットワークの導電特性が向上し、ひいては、充放電反応に関与するニッケル複合水酸化物の割合がさらに向上したと考えられる。
【0148】
図3(a)〜(d)は、それぞれ、被覆層が形成されている実施例4〜7のニッケル複合水酸化物のSEM像である。
図3(a)〜(d)からは、実施例4〜6のニッケル複合水酸化物では、実施例7のものと比較して、その大部分が、被覆層によって被覆されていることが分かる。
【0149】
〈高温のアルカリ水溶液中におけるニッケル複合水酸化物の安定性評価〉
実施例1、及び比較例1〜4のニッケル複合水酸化物に関して、高温アルカリ水溶液中における安定性の評価を行った。この評価は、具体的には浸漬試験により行った。この浸漬試験は、下記の(1)〜(4)の操作から構成されており、これらの操作をこの順序で行った:
(1)浸漬前のニッケル複合水酸化物に対してX線回折分析(XRD)を行った;
(2)X線回折分析したニッケル複合水酸化物5g及び6mol/LのKOH水溶液50mLを、サンプル瓶に封入した;
(3)(2)のサンプル瓶を、70℃に設定した恒温槽中に置き、かつこの状態で7日間にわたって放置した;
(4)(3)の後、サンプル瓶中の溶液を濾過して沈殿物を濾別し、これを純水で洗浄し、浸漬後のニッケル複合水酸化物に対してX線回折分析を行った。
【0150】
図4は、浸漬試験前の実施例1及び比較例1〜4のニッケル複合水酸化物、並びにα型の水酸化ニッケルのXRD回折パターンを示した図である。また、
図4は、浸漬試験後の実施例1及び比較例1〜4のニッケル複合水酸化物、並びにβ型の水酸化ニッケルのXRD回折パターンを示した図である。
【0151】
図4には、参考としてα型の水酸化ニッケル(α−Ni(OH)
2)のX線回折パターンが記載されている。このX線回折パターンの特徴的なピークが2θ=11°付近に存在し、実施例1及び比較例1〜4のニッケル複合水酸化物のX線回折パターンのピークもこのピークとほぼ同一の位置にあることから、浸漬試験前の各例のニッケル複合水酸化物がα型の構造を有していることが理解される。
【0152】
なお、
図4からは、各例のニッケル複合水酸化物のピーク幅がブロードであることが分かる。これは、水酸化ニッケルに、ニッケルを除く少なくとも一種の元素が少なくとも部分的に固溶していることを示している。
【0153】
図4及び5の浸漬試験前及び浸漬試験後でX線回折パターンを比較して、
図4からは、比較例1〜4のニッケル複合水酸化物のα型の構造が崩れていることが分かる。また、
図5には、参考としてβ型の水酸化ニッケル(β−Ni(OH)
2)のX線回折パターンが記載され、この
図5からはこのX線回折パターンの特徴的なピークが2θ=19°付近に存在し、特に、比較例1のニッケル複合水酸化物(ニッケル及びアルミニウムの組成)がβ型の構造に転化しかけていることが分かる。
【0154】
これとは対照的に、
図4及び5の浸漬試験前及び浸漬試験後でX線回折パターンを比較して、
図5からは、実施例1のニッケル複合水酸化物のα型の構造がほとんど崩れていないことが分かる。
【0155】
したがって、実施例1のニッケル複合水酸化物は、α型の構造を有し、かつこのα型の構造を維持することに関して高い安定性を有していることが理解される。すなわち、実施例1のニッケル複合水酸化物によれば、アルカリ水溶液中で高温、例えば70℃の条件下で、α型の構造からβ型の構造へ転化することを抑制することができる。
【0156】
これらの事実によれば、実施例1のニッケル複合水酸化物を正極活物質として採用した電池に関して、電池の温度が25℃である場合及び60℃である場合を比較して、その放電容量がほとんど変化しない理由は、当該ニッケル複合水酸化物の安定性、特に高温での安定性が高いことに起因すると考えられる。
【0157】
本発明の好ましい実施形態を詳細に記載したが、特許請求の範囲から逸脱することなく、本発明で使用される装置、機器、及び薬品等について、そのメーカー、等級、及び品質等の変更が可能であることを当業者は理解する。