(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【0004】
上述したように、各構成要素を1チップにまとめることでリニアソレノイド駆動装置を小型化することができるものの、ソレノイド駆動トランジスタの駆動などによる発熱の影響によって電流モニタの温度が上昇することがある。そうなると、電流モニタの温度特性によって電流モニタの出力値が小さくなったりすることがあり、リニアソレノイドに流れる駆動電流を精度よく検出することができない場合がある。
【0005】
本開示の発明は、電流検出回路が熱の影響を受けた場合でも、リニアソレノイドに流れる駆動電流を精度よく検出して、フィードバック制御の制御性を向上させることを主目的とする。
【0006】
本開示のリニアソレノイド駆動装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本開示のリニアソレノイド駆動装置は、
リニアソレノイドを駆動するリニアソレノイド駆動装置であって、
前記リニアソレノイドに接続されるスイッチング素子を駆動指令に基づいてスイッチング制御する駆動回路と、
前記スイッチング素子と前記リニアソレノイドとに接続される電流検出用の検出抵抗と、前記検出抵抗の両端の電圧を増幅して出力するオペアンプとを有する電流検出回路と、
前記オペアンプの出力電圧と同様の温度特性となる基準電圧を出力する基準電圧出力回路と、
前記出力電圧と前記基準電圧とを入力し、前記基準電圧に基づいて温度特性を補正した前記出力電圧から前記リニアソレノイドに流れる駆動電流を算出し、該算出した駆動電流が所定の目標電流となるようフィードバック制御により前記駆動指令を生成して前記駆動
回路に出力する制御部と、
を備えることを要旨とする。
【0008】
このリニアソレノイド駆動装置では、電流検出用の検出抵抗の両端の電圧を増幅して出力するオペアンプを有する電流検出回路と、オペアンプの出力電圧と同様の温度特性となる基準電圧を出力するよう素子により構成される基準電圧出力回路とを備え、基準電圧に基づいて温度特性を補正した出力電圧からリニアソレノイドに流れる駆動電流を算出し、算出した駆動電流が所定の目標電流となるようフィードバック制御により駆動指令を生成して駆動回路に出力する。これにより、スイッチング素子の駆動による発熱の影響により電流検出回路の温度が上昇してオペアンプの出力電圧が変動しても、リニアソレノイドに流れる駆動電流を精度よく検出することができるから、フィードバック制御の制御性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を参照しながら、本開示の発明を実施するための形態について説明する。
【0011】
図1は本開示の一実施例としての電子制御ユニット10の構成の概略を示す構成図である。実施例の電子制御ユニット10は、例えば、車両の自動変速機に組み込まれたクラッチやブレーキへの供給油圧を制御するリニアソレノイド60を駆動するものとして構成されている。
【0012】
電子制御ユニット10は、スイッチング素子のスイッチング制御によりリニアソレノイド60のコイルCに駆動電流を流す駆動回路(ドライバ)20と、リニアソレノイド60のコイルCに流れる駆動電流を検出する電流検出回路30と、所定の基準電圧Vrefを出力する基準電圧出力回路40と、図示しないCPUやROM,RAMなどを内蔵しリニアソレノイド60のコイルCに流れる駆動電流が目標電流となるようフィードバック制御するマイクロコンピュータ(以下、マイコンという)50と、を備える。実施例では、駆動回路20と電流検出回路30と基準電圧出力回路40とが1つのチップ12内に集積されて、1チップ化されたものとなっている。
【0013】
駆動回路20は、直流電源14とリニアソレノイド60のコイルCの一端とに接続されたスイッチング素子としての第1トランジスタ22と、第1トランジスタ22とコイルCの一端との接続点とコイルCの他端とに接続されたスイッチング素子としての第2トランジスタ24と、を駆動制御するよう構成されている。この駆動回路20は、マイコン50から出力された駆動指令に基づいて第1,第2トランジスタ22,24をスイッチング制御する。第1トランジスタ22は、リニアソレノイド60のコイルCに流れる駆動電流が目標電流となるようにスイッチング制御され、第2トランジスタ24は、第1トランジスタ22のオフに伴ってコイルCに生じる逆起電力が環流するようにスイッチング制御される。
【0014】
電流検出回路30は、第1トランジスタ22とコイルCの一端との間に直列に接続される検出抵抗32と、第1トランジスタ22と検出抵抗32との接続点が非反転入力端子に接続されると共に検出抵抗32とコイルCの一端との接続点が反転入力端子に接続されるオペアンプ34と、を備える。電流検出回路30は、検出抵抗32の両端の電圧をオペアンプ34が増幅し出力電圧Vopaとしてマイコン50に出力するものであり、この出力電圧VopaからコイルCに流れる駆動電流を検出することができる。ここで、駆動回路20の第1,第2トランジスタ22,24のスイッチング制御による発熱に伴って、電流検出回路30の検出抵抗32やオペアンプ34の温度が上昇(変化)すると、検出抵抗32やオペアンプ34の温度特性に起因して、出力電圧Vopaが変化することがある。
【0015】
基準電圧出力回路40は、そのような電流検出回路30の温度変化に伴うオペアンプ34の出力電圧Vopaの出力変化を補正するための基準電圧Vrefを出力するよう構成されている。
図2は、基準電圧出力回路40の構成の概略を示す構成図である。実施例の基準電圧出力回路40は、半導体材料のシリコンの物性であるバンドギャップ電圧を利用したバンドギャップリファレンス回路42と、バンドギャップリファレンス回路42からの出力電圧を非反転入力端子に入力して増幅し基準電圧Vrefとして出力するオペアンプ46と、を備える。なお、オペアンプ46の出力は、オペアンプ46の反転入力端子に帰還されている。
【0016】
ここで、バンドギャップリファレンス回路は、種々の構成が可能な周知の回路である。
図3にバンドギャップリファレンス回路の基本構成の一例を示す。このような基本構成は、例えば特開2014−98984号などに記載されている。なお、実施例のバンドギャップリファレンス回路42がこの構成に限定されるものではない。
図3に示すように、バンドギャップリファレンス回路は、例えば、ダイオードD1,D2と、抵抗R1〜R3と、オペアンプOPAとにより構成されている。特開2014−98984号によれば、バンドギャップリファレンス回路の出力電圧Vbgrは、次式(1)のようになる。なお、「Vbe1」はpn接合のダイオードD1の順方向電圧であり、温度の上昇に伴って減少する負の温度依存性をもつ。また、「q」は電子の電荷であり、「k」はボルツマン定数であり、「T」は絶対温度である。
【0017】
Vbgr = Vbe1 + (kT/q)・[ln(R2/R1)]・(R2/R3) ・・・(1)
【0018】
このようなバンドギャップリファレンス回路は、通常は、右辺第1項の「Vbe1」の変化分を、正の温度依存性をもつ右辺第2項で相殺するよう各抵抗R1,R2,R3やダイオードD1,D2を適切に選定することにより、出力電圧Vbgrが温度変化に依存しないようにすることができる。これに対し、本実施例のバンドギャップリファレンス回路42は、出力電圧Vbgrが温度変化に依存するよう構成するものとした。なお、
図3のバンドギャップリファレンス回路の基本構成においても、式(1)の右辺第2項に含まれる各抵抗R1,R2,R3の抵抗値を適宜調整し、右辺第2項の正の温度依存性を大きくしたり小さくしたりすることによって、出力電圧Vbgrに温度特性をもたせることが可能である。
【0019】
また、実施例のバンドギャップリファレンス回路42は、詳細な図示は省略するが、ダイオードやトランジスタなどの各半導体素子や各抵抗の組合せにより、複数(例えば3種類)の温度特性を選択的に実現する回路構成(電圧出力回路)を有している。例えば、
図2の温度(℃)と出力電圧(V)との関係図に示すように、低温から高温になるほど出力電圧が低くなる回路構成42aと、ある温度までは高温になるほど出力電圧が高くなりある温度を超えると高温になるほど出力電圧が低くなる回路構成42bと、低温から高温になるほど出力電圧が高くなる回路構成42cとを有するものとなっている。バンドギャップリファレンス回路42は、これらの回路構成42a〜42cのうちいずれかに選択的に切り替えてオペアンプ46の非反転入力端子に接続する選択切替部44を備える。この選択切替部44は、駆動回路20と電流検出回路30と基準電圧出力回路40とを1チップ化した際に、調整信号As(切替信号)の入力を受けて、回路構成42a〜42cのいずれかを選択した状態で固定されるものとする。調整信号Asは、基準電圧出力回路40の回路構成42a〜42cのうち、同一チップ12内に搭載された電流検出回路30(出力電圧Vopa)の温度特性に最も近い一の回路構成を選択させるための信号である。これにより、基準電圧出力回路40は、同一チップ12内に配置された電流検出回路30(出力電圧Vopa)と温度特性の近い基準電圧Vrefをマイコン50に出力するものとなる。なお、マイコン50は、このようにして出力される基準電圧Vrefを出力電圧Vopaの温度特性補正係数として使用する。
【0020】
こうして構成された電子制御ユニット10では、次のようなフィードバック制御が行われる。まず、マイコン50が、自動変速機の変速段やアクセル開度,車速などに基づいて、リニアソレノイド60のコイルCに供給すべき目標電流を設定する。マイコン50へは、電流検出回路30のオペアンプ34の出力電圧Vopaと基準電圧出力回路40の基準電圧Vrefとが入力される。ここで、
図4は、出力電圧Vopaと基準電圧Vrefの関係の一例を示す説明図である。
図4では、出力電圧Vopaとして、ある電圧を出力しようとしていても温度の変化によって出力電圧Vopaが変化する様子を示しており、例えば温度が高くなるほど出力電圧Vopaが低くなる傾向となっている。また、基準電圧Vrefは、出力電圧Vopaと温度特性の近いもの(ここでは、例えば
図2の回路構成42a)が選択されるから、出力電圧Vopaに追従するように、基準電圧Vrefも温度が高くなるほど低くなる傾向となっている。マイコン50は、このように出力電圧Vopaと同様の温度特性をもつ基準電圧Vrefに基づいて出力電圧Vopaの温度特性を補正し、補正後の出力電圧からリニアソレノイド60のコイルCに流れる駆動電流を算出(検出)する。なお、温度特性の補正は、例えば出力電圧Vopaを基準電圧Vrefで除すことにより行われる。こうして駆動電流を算出すると、駆動電流と目標電流とを比較し、駆動電流が目標電流に近付くようフィードバック制御により目標デューティ比(例えば第1トランジスタ22のオン時間とオフ時間との和に対するオン時間の割合)を設定する。そして、目標デューティ比での駆動指令を駆動回路20に出力し、駆動回路20にスイッチング制御を行わせる。
【0021】
以上説明した本開示の電子制御ユニット10によれば、電流検出回路30のオペアンプ34の出力電圧Vopaと同様の温度特性となる基準電圧Vrefを出力する基準電圧出力回路40を備え、基準電圧Vrefに基づいて温度特性を補正した出力電圧Vopaからリニアソレノイド60に流れる駆動電流を算出し、算出した駆動電流が所定の目標電流となるようフィードバック制御により駆動指令を生成し駆動回路20に出力してスイッチング制御を行う。これにより、第1,第2トランジスタ22,24のスイッチングによる発熱の影響により出力電圧Vopaが変動しても、基準電圧Vrefに基づいて出力電圧Vopaを補正してリニアソレノイド60に流れる駆動電流を精度よく検出(算出)することができるから、フィードバック制御の制御性を向上させることができる。
【0022】
また、本開示の電子制御ユニット10によれば、駆動回路20と電流検出回路30(オペアンプ34)と基準電圧出力回路40とがチップ12内に集積されて1チップ化されているため、第1,第2トランジスタ22,24のスイッチング制御による発熱に伴って、電流検出回路30と基準電圧出力回路40とに同様の温度変化が生じることになる。このため、電流検出回路30の温度を検出する温度センサを設けることなく、出力電圧Vopaの温度特性を補正して駆動電流を精度よく検出することができるから、フィードバック制御の制御性をより向上させることができる。また、各構成要素をそれぞれ電子制御ユニット10の基板に実装する場合と比べて、各構成要素を基板に実装する際に必要な樹脂モールド及び、構成要素同士を接続する際の配線を低減できるため、電子制御ユニット10の基板を小型化しつつ、フィードバック制御の制御性を向上させることができる。
【0023】
また、本開示の電子制御ユニット10によれば、基準電圧出力回路40がバンドギャップリファレンス回路42を含んで構成されるから、所望の温度特性となる基準電圧Vrefを比較的簡易な構成で出力することができる。
【0024】
また、本開示の電子制御ユニット10によれば、基準電圧出力回路40が複数の温度特性を実現するよう構成されているから、基準電圧出力回路40に汎用性をもたせることができると共に電流検出回路30(出力電圧Vopa)の温度特性に近い基準電圧Vrefを容易に出力させることができる。また、各回路構成42a〜42cの選択は、駆動回路20と電流検出回路30と基準電圧出力回路40とが1チップ化された際に行うことで、チップ12単品で温度特性の補正精度が保証されたものとすることができる。このため、チップ12の電子制御ユニット10への組み込み工程において、高温環境や低温環境で温度特性を調整する必要がないものとすることができる。
【0025】
本開示の電子制御ユニット10は、駆動回路20と電流検出回路30(オペアンプ34)と基準電圧出力回路40とがチップ12内に集積されて1チップ化されているものとしたが、これに限られず、1チップ化されていないものとしてもよい。
【0026】
本開示の電子制御ユニット10は、基準電圧出力回路40の各回路構成42a〜42cの選択(固定)は1チップ化された際に行うものとしたが、これに限られるものではない。例えば、チップ12の電子制御ユニット10への組み込み工程で行うものなどとしてもよい。また、基準電圧出力回路40は、複数の回路構成42a〜42cを備えるものに限られず、同一チップ12内に搭載される電流検出回路30の温度特性に応じた回路構成のみを有するバンドギャップリファレンス回路としてもよい。
【0027】
本開示の電子制御ユニット10は、基準電圧出力回路40がバンドギャップリファレンス回路を含んで構成されるものとしたが、これに限られず、オペアンプ34の出力電圧Vopaと同様の温度特性をもって基準電圧Vrefを出力可能な素子により構成されるものであれば如何なる回路としてもよい。
【0028】
本開示の電子制御ユニット10は、基準電圧Vrefをそのまま用いて出力電圧Vopaの温度特性を補正するものとしたが、これに限られるものではない。例えば、基準電圧Vrefと温度補正係数との関係を定めたマップをマイコン50のROMなどに記憶しておき、入力された基準電圧Vrefから温度補正係数を導出し、導出した温度補正係数を用いて出力電圧Vopaの温度特性を補正するものなどとしてもよい。
【0029】
以上説明したように、本開示のリニアソレノイド駆動装置(10)は、リニアソレノイド(60)の駆動を制御するリニアソレノイド駆動装置(10)であって、前記リニアソレノイド(60)に接続されるスイッチング素子(22)を駆動指令に基づいてスイッチング制御する駆動回路(20)と、前記スイッチング素子(22)と前記リニアソレノイド(60)とに接続される電流検出用の検出抵抗(32)と、前記検出抵抗(32)の両端の電圧を増幅して出力するオペアンプ(34)とを有する電流検出回路(30)と、前記オペアンプ(34)の出力電圧と同様の温度特性となる基準電圧を出力する基準電圧出力回路(40)と、前記出力電圧と前記基準電圧とを入力し、前記基準電圧に基づいて温度特性を補正した前記出力電圧から前記リニアソレノイド(60)に流れる駆動電流を算出し、該算出した駆動電流が所定の目標電流となるよう前記駆動指令を生成して前記駆動回路(20)に出力する制御部(50)と、を備えることを要旨とする。
【0030】
これにより、スイッチング素子(22)の駆動に伴う発熱の影響により電流検出回路(30)のオペアンプ(34)の出力電圧が変動しても、出力電圧と同様の温度特性となる基準電圧に基づいて出力電圧を補正してリニアソレノイド(60)に流れる駆動電流を適切に検出することができる。したがって、リニアソレノイド(60)に流れる駆動電流を精度よく検出してフィードバック制御の制御性を向上させることができる。
【0031】
また、リニアソレノイド駆動装置(10)は、前記駆動回路(20)と前記電流検出回路(30)と前記基準電圧出力回路(40)とが、1チップ(12)内に搭載されているものとすることもできる。このため、各構成要素をそれぞれリニアソレノイド駆動装置の基板に実装する場合と比べて、各構成要素を基板に実装する際に必要な樹脂モールド及び、構成要素同士を接続する際の配線を低減できるため、リニアソレノイド駆動装置の基板を小型化しつつ、フィードバック制御の制御性を向上させることができる。
【0032】
また、前記基準電圧出力回路(40)は、バンドギャップリファレンス回路(42)を含んで構成されるものとすることもできる。
【0033】
また、前記基準電圧出力回路(40)は、前記バンドギャップリファレンス回路(42)の回路構成を切り替えることにより温度特性の異なる複数種の電圧を出力可能に構成され、前記出力電圧の温度特性に応じた電圧を前記基準電圧として選択的に出力するものとすることもできる。
【0034】
ここで、上記実施形態における主要な要素と発明の概要の欄に記載した本開示の発明の主要な要素との対応関係について説明する。上記実施形態では、駆動回路20が「駆動回路」に相当し、検出抵抗32とオペアンプ34とを有する電流検出回路30が「電流検出回路」に相当し、基準電圧出力回路40が「基準電圧出力回路」に相当し、マイコン50が「制御部」に相当する。
【0035】
そして、本開示の発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記実施形態は、あくまで発明の概要の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、発明の概要の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。