特許第6461490号(P6461490)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6461490熱可塑性樹脂を含むプリプレグを製造するための装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6461490
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂を含むプリプレグを製造するための装置
(51)【国際特許分類】
   B29B 11/08 20060101AFI20190121BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20190121BHJP
   B29C 70/20 20060101ALI20190121BHJP
   B29B 11/06 20060101ALI20190121BHJP
   B29K 101/12 20060101ALN20190121BHJP
【FI】
   B29B11/08
   C08J5/24CER
   C08J5/24CEZ
   B29C70/20
   B29B11/06
   B29K101:12
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-113706(P2014-113706)
(22)【出願日】2014年6月2日
(65)【公開番号】特開2015-227019(P2015-227019A)
(43)【公開日】2015年12月17日
【審査請求日】2017年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】510028914
【氏名又は名称】株式会社AIKIリオテック
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】松本 一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 貞治
(72)【発明者】
【氏名】脇田 光博
【審査官】 深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−236897(JP,A)
【文献】 特開2013−227695(JP,A)
【文献】 特開2003−165851(JP,A)
【文献】 国際公開第03/091015(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/013385(WO,A1)
【文献】 特開平03−047713(JP,A)
【文献】 特開平07−126974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 7/00−15/14
C08J 5/04−5/10,5/24
B29C 70/00−70/88
B29C 31/00−31/10,37/00−37/04
B29C 71/00−71/02
B29K 101/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と強化繊維とを含むプリプレグを製造するための装置であって、
前記熱可塑性樹脂よりなる不織布を製造する紡糸部と、
それぞれ前記強化繊維よりなる複数のストランドを平行に送り出すクリールスタンドと、
前記ストランドを開繊して繊維束とする開繊部と、
前記不織布を加熱して前記繊維束に結合する結合部と、
を備えた装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置において、前記紡糸部は、前記熱可塑性樹脂を加熱して溶融ポリマとするヒータと、前記溶融ポリマを送給するポンプと、前記溶融ポリマを吐出するノズルヘッドと、を備えることを特徴とする装置。
【請求項3】
請求項2に記載の装置において、前記紡糸部は、前記ノズルヘッドから吐出された前記溶融ポリマを受けて冷却し搬送するコンベアを備えることを特徴とする装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の装置において、前記開繊部は、前記ストランドにウェーブを描かせるように走行させるべく配置された複数のバーを備えることを特徴とする装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料の原材料としてのプリプレグ、特に、熱可塑性樹脂と炭素繊維のごとき強化繊維とよりなるプリプレグを製造するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂は、極めて軽量かつ高強度の素材として、その用途を広げつつある。強化繊維としては、ガラス、炭素、アラミド、アルミナ、あるいはボロンよりなるものが例示できるが、このうち炭素繊維は航空機や自動車への適用が急速に拡大している。マトリックスである樹脂としては、エポキシ樹脂やポリアミド樹脂のごとき熱硬化性樹脂を利用することが一般的であるが、近年、その良好なリサイクル性等に着目して、ポリカーボネートやポリプロピレンのごとき熱可塑性樹脂の利用が鋭意検討されている。
【0003】
繊維強化樹脂の成型品を製造するには、強化繊維よりなるウェブないし一方向に揃えられた繊維束に、熱硬化する前のポリマ、あるいは熱可塑性樹脂を含浸させた、所謂プリプレグを利用することがある。特許文献1,2は、プリプレグの製造に関連する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−099580号公報
【特許文献2】特開2013−227695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱硬化する前のポリマは比較的に低粘度であり、また熱硬化の工程において一時的にさらに低粘度となるために、繊維束中へ十分に含浸することが多い。これに比べ、熱可塑性樹脂は、通常の加熱環境においては粘度が十分に下がらず、それゆえ繊維束中に十分に含浸せしめることが難しい。熱可塑性樹脂よりなるプリプレグは多数のボイドないしポアを含むことがあり、あるいはかかる欠陥を防止するためには含浸工程に十分な時間をかける必要がある。すなわち従来の技術によっては、熱可塑性樹脂よりなるプリプレグは、その品質、生産性ともに、満足しうるものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上述の問題に鑑みてなされたものであって、その一の局面によれば、 熱可塑性樹脂と強化繊維とを含むプリプレグを製造するための装置は、前記熱可塑性樹脂よりなる不織布を製造する紡糸部と、それぞれ前記強化繊維よりなる複数のストランドを平行に送り出すクリールスタンドと、前記ストランドを開繊して繊維束とする開繊部と、前記不織布を加熱して前記繊維束に結合する結合部と、を備える。
【0007】
好ましくは、前記紡糸部は、前記熱可塑性樹脂を加熱して溶融ポリマとするヒータと、前記溶融ポリマを送給するポンプと、前記溶融ポリマを吐出するノズルヘッドと、を備える。さらに好ましくは、前記紡糸部は、前記ノズルヘッドから吐出された前記溶融ポリマを受けて冷却し搬送するコンベアを備える。また好ましくは、前記開繊部は、前記ストランドにウェーブを描かせるように走行させるべく配置された複数のバーを備える。
【発明の効果】
【0008】
熱可塑性樹脂によりながら、ボイドないしポアのごとき欠陥の少ないプリプレグを、高生産性にて製造できる装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の一実施形態によるプリプレグ製造装置の概要を表す図である。
図2図2は、前記プリプレグ製造装置に利用されるノズルヘッドの立面断面図である。
図3図3は、開繊装置の一例を表す断面図である。
図4図4は、前記開繊装置の概要を表す斜視図である。
図5図5は、熱可塑性樹脂と繊維束とを結合する装置の一例を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態を添付の図面を参照して以下に説明する。
【0011】
図1を参照するに、本実施形態によるプリプレグ製造装置は、概略、複数のストランドSを送り出すクリールスタンド1と、熱可塑性樹脂よりなる不織布を製造する紡糸部3と、供給されたストランドSをそれぞれ開繊する開繊部5と、その下流側に配置されて繊維束Bを熱可塑性樹脂と結合してプリプレグPを製造する結合部7と、後工程を担う後工程部9と、その下流側に配置されてプリプレグPを巻き取るワインダ11と、よりなる。
【0012】
クリールスタンド1としては、複数のボビンを備えて複数のストランドSを供給できる公知のものが利用できる。好ましくはストランドSに撚りを与えないよう、ボビンを水平に支持し、また弛まないようストランドSに適宜の張力を付与できるものが利用できる。複数のボビンからそれぞれストランドSが引き出され、面を為すように平行に並べられ、開繊部5に供給される。言うまでもなく、本実施形態においては、クリールスタンド1は炭素繊維のごとき強化繊維を供給する目的で利用され、強化繊維は互いに絡み合ったストランドの形態で送り出される。
【0013】
紡糸部3は、概して、ホッパ41と、押出機43と、ギアポンプ45と、紡糸ノズル47と、コンベア49とを備える。
【0014】
熱可塑性樹脂の原料はホッパ41に投入され、押出機43により原料が押し出される。押出機43としては、例えばスクリュー式を利用することができるが、必ずしもこれに限られない。図には見えていないが、押出機43はヒータを備えることができ、原料を軟化した状態でギアポンプに押し出す。また押し出し圧を検知して押出機43の制御に利用するべく、圧力センサを内蔵することができる。
【0015】
ギアポンプ45は、例えばサーボモータによる駆動を受けて、原料を紡糸ノズル47に送給する。これも図には見えていないが、ギアポンプ45内にはヒータが設けられており、押し出された原料は加熱されて溶融ポリマとなり、十分な流動性をもって紡糸ノズル47に送給される。またギアポンプ45は、その制御に利用するべく、圧力センサを内蔵することができる。
【0016】
紡糸ノズル47は、溶融ポリマを多数の細い糸Mとして吐出するためのノズルであって、図2に示すノズルヘッド51を備える。ノズルヘッド51は、製造やメンテナンスの便宜のために、好ましくは上下のダイ53,55に分解可能であって、例えばボルトにより互いに固定される。
【0017】
上部ダイ53は、下方に突出して先細りとなるスピネレット61を備え、ポリマ通路63が上部ダイ53を貫通してその下端に開口している。ポリマ通路63は上部において単一でよいが、開口において多数に分岐しており、また開口は図2の紙面と直交する方向に列をなしている。開口の数は、例えば幅1mあたりに数百から千数百の程度である。溶融ポリマは、押出機43により押し出されてかかるポリマ通路63を通ってスピネレット61の下端から吐出される。
【0018】
下部ダイ55は、その上面が窪んでおり、上部ダイ53と密に接することにより、その間に熱風チャンバ65を画定する。また熱風チャンバ65に流体連通するように、例えば上部ダイ53は一以上の流路67を備えることができ、外部の熱風源に接続することができる。下部ダイ55は、また、スピネレット61を囲むように下方に向かって先細りとなったスロット69を備え、これは下部ダイ55の下面に開口し、また熱風チャンバ65に空間的に繋がっている。スロット69とスピネレット61の下端との間には、一対のスリットが画定され、かかるスリットは、吐出される糸Mに沿うように熱風を吹き出す。
【0019】
ノズルヘッド51は、さらに、下段のダイ57,59を備えてもよい。下段のダイ57,59はダイ53,55と類似の構造を有するが、テーパ突起71はスピネレット61よりも短く、またその通路73は単一の貫通した溝であって、糸Mの通過を妨げないように十分な幅を有する。ダイ57,59との間に画定される冷風チャンバ75には流路77が流体連通しており、外部の冷風源に接続することができる。テーパ突起71と貫通孔79との間は、吐出される糸Mに沿うように冷風を吹き出すスリットとして作用する。
【0020】
上段のダイ53,55と下段のダイ57,59との間に、さらにスペーサ81を介在せしめ、そこにチャンバ83を画定させてもよい。かかるチャンバ83は、例えば糸Mを冷却用の流体に曝す目的に利用することができる。
【0021】
図1に戻って参照するに、紡糸部3は、吐出された糸Mを受けてこれを搬送するように、コンベア49を備える。コンベア49のベルトには、例えばガラス繊維を編んだものを利用することができ、また不織布の剥離を促す観点から、好ましくはこれにフッ素樹脂等のコーティングが施される。冷却を促すべく、ベルトを通して冷風を通気せしめてもよく、またかかる通気はベルトに向かって吸引する向きにすることができる。これは不織布の厚さ、あるいは目付けを一定にすることに効果がある。吐出された糸Mはベルト上にランダムに縮れながら降り積もり、さらに固化し、同時にコンベア49の稼働により少しずつ下流に向かって搬送され、以って一定の幅を有する連続した不織布Eとなる。
【0022】
上述の説明より理解されるように、紡糸部3は、メルトブロー法による公知の不織布製造装置の一部に類似している。メルトブロー法に代えて、スパンボンド法、フラッシュ法等による公知の他の製造装置を利用することができる。
【0023】
ここで注意すべきは、公知の不織布製造装置とは異なり、不織布を厚さ方向に結合して纏める、いわゆるウェブ結合のための装置を紡糸部3は含まないことである。不織布それ自体を製品とする場合と異なり、本実施形態においては不織布のハンドリングの便宜を考慮する必要がないので、ウェブ結合は必要ではない。
【0024】
開繊部5は、一以上のコーム13と、開繊装置15とを備え、また適宜の加熱装置を備えることができる。
【0025】
コーム13は、例えばストランドSが走行する面に対して垂直に立てられた複数のピンである。好ましくはピン相互の間隔は可変とする。かかるコーム13は、開繊装置15よりも上流に設けられ、さらに開繊装置15の直前にも設けることができる。
【0026】
加熱装置は、例えば開繊装置15の直前に設置され、ストランドSを予熱することにより、その開繊を促す。加熱装置としては、セラミックヒータ等いずれの加熱手段を利用することもでき、ストランドSへの伝熱は、輻射、接触伝熱、空気等の媒体による間接伝熱等の何れの形式であってもよい。
【0027】
図3,4を図1と組み合わせて参照するに、開繊装置15は、概して複数のバー103a〜103eよりなり、さらに例えば圧縮空気をストランドSに吹き付けるノズル101a,101bを備えることができる。
【0028】
ノズル101a,101bは、空気を噴出するノズルであって、例えばコンプレッサ等の圧縮空気を供給する手段と接続される。圧縮空気を供給する手段は、空気を加熱する手段を更に備えていてもよい。空気を高速で噴き出すべく、ノズル101a,101bはスロットル状に絞られている。また各ノズルは、ストランドSに対して幅方向に伸びるスリット状でもよいし、複数のノズルが幅方向に並べられていてもよい。さらには、単一のノズルを幅方向に往復運動させてもよい。
【0029】
ノズル101a,101bは図示のごとくストランドSを挟んで対を為していてもよいし、ストランドSに対して片側にのみ設けられていてもよい。ノズル101a,101bは、後述のバー103a〜103eの直前に配置されていてもよいし、バー103a〜103eの間に配置されていてもよい。あるいは、バー103a〜103eの何れかに空気を吹き付けるようにノズルが配置されていてもよい。空気流は、繊維間の空隙を広げ、以って開繊を促す。
【0030】
複数のバー103a〜103eには、ストランドSがその表面に接しつつ走行する。各々のバー103a〜103eは、少なくともストランドSが接する部位において、円柱形状である。接触圧を調整する目的で、他の形状、例えば楕円柱形状、角柱形状、角の丸められた角柱形状を採用してもよい。またその表面は、摩擦係数を調節するべく、いわゆる梨地仕上げにされている。あるいはセラミクスまたはダイヤモンドライクカーボンよりなるコーティング、またはその他の表面処理が施されていてもよい。
【0031】
複数のバー103a〜103eは、ストランドSにウェーブを描かせるように走行させるべく配置されている。このような配置は、ストランドSを複数のバー103a〜103eに適度な圧の下に接触させるのに有利である。
【0032】
バーの数は図示された例では5であるが、4以下であってもよく、6以上であってもよい。各バーはその軸周りに回転しない固定バーであるが、これらのバーのうちの一ないし少数は軸周りに回転可能であってもよい。
【0033】
好ましくは接触圧ないし接触面積を調節するべく、複数のバー103a〜103eはストランドSが走行する面に対して垂直に可動とする。全てのバーを可動にする必要はなく、これらから選択された幾つかのバー、例えばバー103b,103dのみを可動として、残りを固定にしてもよい。
【0034】
また複数のバー103a〜103eから選択された一以上に、加振装置を設けてもよい。あるいはこれらのバー103a〜103eとは別に、振動するビーターを設けてもよい。バーまたはビーターによりストランドSに振動を与えることは、開繊を促すに有利である。
【0035】
ストランドSに適宜の張力を付与すると、複数のバー103a〜103eに対して適宜の接触圧が生ずる。適度な接触圧の下に、ストランドSはバー103a〜103eに接しつつ走行する。すると上流側Uから下流側Dへ走行するにつれて開繊が進み、各ストランドSは次第に幅広となる。適当な条件の下では図示のごとく両端が互いに接し、以って単一の繊維束Bが得られる。かかる繊維束Bにおいて、強化繊維はその長手方向に略平行に引き揃えられている。
【0036】
あるいは、上述の開繊装置に代えて、ストランドSに打撃を与える等、他の手段による開繊装置を利用してもよい。
【0037】
図5図1と組み合わせて参照するに、開繊部5よりも下流側に結合部7が設けられる。結合部7は概略、剥離紙を供給するボビン21a,21bと、不織布Eを繊維束Bに密着させるローラ23と、不織布Eを繊維束Bと共に加熱する加熱部25と、不織布Eを繊維束Bと共に加圧する加圧ローラ27と、よりなる。
【0038】
不織布Eは、繊維束Bの一方の面(図示の例では上面)に沿わされ、上下よりそれぞれ供給された剥離紙とともにローラ23間に送り込まれる。
【0039】
ローラ23は、通常、繊維束Bを挟む一対のローラであり、ローラを昇降する油圧装置あるいはボール装置を備え、以って加圧力およびローラ間のギャップを調整することができる。上ローラ23の側から(あるいは下からでもよい)不織布Eがフィードされて、繊維束Bの一方の面に沿わされ、ボビン21a,21bからそれぞれ供給された剥離紙にその全体が挟まれ、一対のローラ23による加圧を受ける。以って不織布Eと繊維束Bとが仮結合する。ローラ23は、不織布Eを軟化せしめて繊維束Bへの結合を促すべく、予熱手段を内蔵してもよい。
【0040】
加熱部25は、セラミックヒータ等の適宜の加熱手段を備え、例えば一対のプレートヒータよりなる。不織布Eは繊維束Bと共に上流側Uから下流側Dに向かって走行する間、輻射により加熱される。加熱により不織布Eが軟化して繊維束Bとの融合が進む。
【0041】
加圧ローラ27は、不織布Eを繊維束Bと共に挟み、圧力を加えることのできる対になったローラである。一対に限らず、二対以上を利用することができる。加圧ローラ27も油圧あるいはボール装置による昇降装置を備え、以って加圧力およびローラ間のギャップを調整することができる。不織布Eの繊維束Bへの含浸が進むことにより、繊維束Bの両面が熱可塑性樹脂により覆われ、また繊維束Bに熱可塑性樹脂が含浸し、結合し、以ってプリプレグPが製造される。
【0042】
後工程部9は、例えば冷却部29と、剥離紙巻き取り装置33と、フィルム供給装置35と、検査装置39と、を備えることができる。
【0043】
冷却部29には、例えば水冷パイプを内蔵したローラ及びプレートを利用することができる。プリプレグPは、冷却部29に接しつつ走行し、冷却される。冷却により剥離紙の剥離が促される。
【0044】
剥離紙の少なくとも一方は、剥離部31において剥離され、剥離紙巻き取り装置33により巻き取られる。露出したプリプレグPの表面を保護するべく、適宜のフィルム、例えばポリエチレンフィルムがかかる面に貼付される。すなわちフィルム供給装置35から供給されたポリエチレンフィルムは、圧着ローラ37によりプリプレグPの一方の面に圧着されて貼付される。
【0045】
例えばこれらよりも下流側に、検査装置39を設けることができる。検査装置39の例としては、例えばX線厚さ測定装置であるが、これに代えて、あるいは加えて、他の検査装置を利用してもよい。
【0046】
後工程の終わったプリプレグPを巻き取るべく、ワインダ11が設けられる。プリプレグPはワインダ11によりロール状に巻き取られる。
【0047】
クリールスタンド1からワインダ11に至るまでの適宜の一以上の箇所に、テンションローラ、ダンサローラやフリクションバーのごとき、ストランドSの弛みを防止する手段を設けてもよい。
【0048】
図1乃至図5を参照するに、本実施形態による製造装置によれば、プリプレグは以下のようにして製造される。
【0049】
紡糸部3のホッパ41に熱可塑性樹脂の原料が投入され、ギアポンプ45を駆動することにより紡糸ノズル47のスピネレット61より熱可塑性樹脂が吐出される。熱風チャンバ65に熱風を送り込むことにより、吐出される熱可塑性樹脂を軟化させ、細い糸Mとしてこれを引き出す。同時に冷風チャンバ75に冷風を送り込み、熱風の風量を十分に上回るようにこれを制御してもよい。これはテーパ突起71の付近に陰圧を生ぜしめ、軟化した糸Mをかかる陰圧により延伸して、さらに細くする効果がある。かかる糸Mの径は、例えば1〜6μmの程度である。吐出された糸Mはコンベア49上にランダムに降り積もり、不織布Eを形成する。
【0050】
並行して、それぞれ強化繊維よりなる複数のストランドSが、クリールスタンド1より平行に送り出され、開繊部5に導入される。ストランドSはノズル101a,101bによる空気流に曝され、即座にバー103a〜103eの間を通され、ウェーブを描くように走行する。この際、適度な接触圧の下にストランドSはバーに接しつつ走行し、以ってストランドSは開繊して単一の繊維束Bが得られる。
【0051】
次いで不織布Eがローラ23により繊維束Bに密着させられる。繊維束Bとともに不織布Eは、加熱部25により加熱され、加圧ローラ27により圧力を加えられて、互いに結合し、以ってプリプレグPが製造される。
【0052】
冷却部29によりプリプレグPが冷却され、剥離部31により剥離紙が剥離され、次いで圧着ローラ37により保護フィルムが貼付され、ワインダ11により巻き上げられる。
【0053】
従来技術によれば、熱可塑性樹脂を溶融して塗布するか、あるいは熱可塑性樹脂よりなるフィルムを圧着することにより、熱可塑性樹脂を強化繊維に結合していた。これに加熱および加圧をしても、既に述べた通り熱可塑性樹脂の粘度は十分に下がらずに、繊維束中に十分に含浸し得ない。かかるプリプレグは、しばしば多数のボイドないしポアを含む。かかる欠陥を減じようとすれば、ライン速度を著しく遅く、例えば1m/minに達しない程度に減速せねばならず、生産性に問題を生ずる。
【0054】
これに比べ、本実施形態によれば、製造されたプリプレグはボイドないしポアのごとき欠陥をほとんど含まない。欠陥を生じにくい原因は今のところ明らかでないが、本発明者らは、熱可塑性樹脂が不織布において細くランダムな繊維の形態であるからと考えている。細い繊維の形態では熱伝達を受ける表面積が大きく、それゆえ速やかに温度上昇して溶融することができる。また溶融の過程においてもなお、空気が抜けていく経路が多数残されているので、強化繊維の周囲の空気の排出を促し、排出された空気に置換して熱可塑性樹脂が含浸し易くなる。おそらくはかかる機序に基づき、本実施形態はプリプレグに生ずる欠陥を少なくすることができ、あるいは欠陥が生じないためにライン速度を増大することができる。ライン速度は、例えば10m/min以上が可能である。
【0055】
ライン速度の向上は、紡糸部3をインラインに組み込んで稼働せしめることに関して、さらなる利点を生ずる。すなわち、メルトブロー法による不織布の製造はごく速く、例えば数十〜数百m/minの程度である。これをプリプレグの製造に合わせて1m/min以下に減速しようとすると、紡糸ノズル47からの吐出量に比較してライン速度が過小になり、不織布の目付け量が過大になってしまう。あるいは、好ましい目付け量とするべく吐出量を著しく絞れば、吐出が不安定となって、安定した品質の不織布が得難い。すなわち結合部7におけるライン速度が遅いままでは、紡糸部3との同調に困難が伴う。本実施形態によれば、結合部7のライン速度は、紡糸部3の稼働にも都合のよい速度に達するので、紡糸部3をインラインに組み込んで稼働させることができる。不織布を独立して製造しておき、後に強化繊維と結合する場合に比べ、生産性を著しく高めることができる。
【0056】
なお、不織布を独立して製造するときには、これを一旦巻き取り、強化繊維と結合するときに改めてこれをリワインドする必要がある。これは生産性を著しく減ずるのみならず、ウェブ結合されていない不織布は、繊維の纏まりを欠くので、ハンドリングに問題を生ずる。ハンドリングの便宜のためにウェブ結合をすれば、ウェブ結合部は熱可塑性樹脂の溶融を阻害し、あるいは空気が抜けていく経路を閉塞し、以って強化繊維への含浸あるいは結合を阻害しかねない。本実施形態は、これらの問題をも解決している。
【0057】
好適な実施形態により本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記開示内容に基づき、当該技術分野の通常の技術を有する者が、実施形態の修正ないし変形により本発明を実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
熱可塑性樹脂によりながら、ボイドないしポアのごとき欠陥の少ないプリプレグを、高生産性にて製造できる装置が提供される。
【符号の説明】
【0059】
1 クリールスタンド
3 紡糸部
5 開繊部
7 結合部
9 後工程部
11 ワインダ
13 コーム
15 開繊装置
23 予熱ローラ
25 加熱部
27 加圧ローラ
29 冷却部
39 検査装置
47 紡糸ノズル
49 コンベア
51 ノズルヘッド
B 開繊繊維束
E 不織布
P プリプレグ
S ストランド
図1
図2
図3
図4
図5