(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6461524
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】熱伝導性シート
(51)【国際特許分類】
H01L 23/373 20060101AFI20190121BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20190121BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20190121BHJP
C09J 7/20 20180101ALI20190121BHJP
C09J 133/00 20060101ALI20190121BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20190121BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20190121BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20190121BHJP
【FI】
H01L23/36 M
H01L23/36 D
H05K7/20 F
C09J7/20
C09J133/00
C09J11/04
C09J11/06
B32B7/02 105
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-183931(P2014-183931)
(22)【出願日】2014年9月10日
(65)【公開番号】特開2015-79948(P2015-79948A)
(43)【公開日】2015年4月23日
【審査請求日】2017年8月29日
(31)【優先権主張番号】特願2013-190090(P2013-190090)
(32)【優先日】2013年9月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】特許業務法人航栄特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100115107
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 猛
(74)【代理人】
【識別番号】100151194
【弁理士】
【氏名又は名称】尾澤 俊之
(72)【発明者】
【氏名】杉田 純一郎
【審査官】
平林 雅行
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/096287(WO,A1)
【文献】
特開2004−225022(JP,A)
【文献】
特開2002−121508(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/035614(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C09J 1/00−201/10
H01L 23/29
H01L 23/34−23/36
H01L 23/373−23/427
H01L 23/44
H01L 23/467−23/473
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着性熱伝導層と非粘着性樹脂層とが積層している熱伝導性シートであって、
粘着性熱伝導層が、アクリル系化合物を硬化させたアクリル系樹脂と熱伝導性フィラーを含有し、粘着性熱伝導層のタック性が非粘着性樹脂層のタック性よりも高く、
非粘着性樹脂層が、水酸基、カルボキシル基及びグリシジル基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するガラス転移温度10℃以上の樹脂であってポリビニルブチラール樹脂及びポリウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂、硬化剤及び難燃性フィラーを含有する樹脂組成物から形成され、非粘着性樹脂層のタック性が、該非粘着性樹脂層に、アルミニウム製円柱状プローブを、押しつけ速度30mm/min、引き剥がし速度120mm/min、荷重196g、押しつけ時間5.0秒、引っ張り距離5mm、プローブ加熱40℃、シートステージ加熱40℃の条件で押しつけて引き剥がすことにより測定されるプローブタックとして6〜30kN/m2である熱伝導性シート。
【請求項2】
難燃性フィラーが、シアヌール酸化合物及び有機リン酸塩から選ばれる有機フィラーである請求項1記載の熱伝導性シート。
【請求項3】
難燃性フィラーの平均粒径が0.1〜25μmである請求項1又は2記載の熱伝導性シート。
【請求項4】
熱伝導性シートの厚さ方向の熱伝導率が1.5W/m・K以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項5】
粘着性熱伝導層のアクリル系樹脂のガラス転移温度が−80〜15℃である請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項6】
粘着性熱伝導層を形成するアクリル系化合物が、単官能(メタ)アクリレートモノマーである請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【請求項7】
粘着性熱伝導層が、アクリル系化合物のモノマーユニット100質量部に対して、可塑剤20〜80質量部及び熱伝導性フィラー100〜2000質量部を含有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品等に貼り付け、その放熱性を向上させる熱伝導性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
熱伝導性シートは、発熱源となる電子部品等と、放熱板、筐体等のヒートシンクとの間隙を充填し、電子部品の放熱性を向上させるために使用されている。熱伝導性シートとしては、それを所定の箇所へ貼合するために粘着性を有することが好ましい。また、電子部品とヒートシンクとの組み立て時の位置ズレを修正したり、一旦組み立てた後に何らかの事情で解体し、再度組み立てることを可能としたりするなどのリワーク性の点から、逆面の粘着性を高くし、他面の粘着性を低くしたものが好ましい。
【0003】
そこで、熱伝導性シートをシリコーンゴムと熱伝導性フィラーとから形成するにあたり、その表面に紫外線照射によって非粘着処理を施すことが提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、アクリル系ポリウレタン樹脂と無官能性アクリルポリマーと熱伝導性フィラーを含有させた粘着性熱伝導シートにおいて、表面層と裏面層でアクリル系ポリウレタン樹脂と無官能性アクリルポリマーの配合比を異ならせ、両層を重ね塗りすることにより、粘着性熱伝導シートの表裏の粘着性を異ならせることが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許3498823号公報
【特許文献2】特開2010−93077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されているように、熱伝導性シートの片面の粘着性を低くするために紫外線照射を行うと、熱伝導性を担う層が劣化することとなる。
【0007】
また、特許文献2に記載されているように、表面層と裏面層でアクリル系ポリウレタン樹脂と無官能性アクリルポリマーの配合比を異ならせ、重ね塗りする場合には、表面層と裏面層が混ざりやすいため、表面層と裏面層の粘着性を、所望通りに変えることが困難となる。
【0008】
この他、熱伝導性シートの表裏の粘着性を異ならせる方法としては、粘着性熱伝導層をアクリル系樹脂と熱伝導性フィラーから形成する場合に、その片面に非粘着性のフィルムを積層する方法も考えられるが、その場合には、フィルムと粘着性熱伝導層との接着が不十分でワーク時に層間で剥がれる懸念がある。さらにフィルム面の物品への付着性が極端に低下するので、熱伝導性シートとしてのワーク性が劣る。
【0009】
また、実装したシートには100℃を超える温度が連続して印加される。このような状況では相当に高いガラス転移温度を有する樹脂であっても、軟化してアルミなどの被着体に密着(固着)してしまうことが有る。
【0010】
これに対し、本発明は、粘着性熱伝導層をアクリル系樹脂と熱伝導性フィラーから形成した熱伝導性シートについて、粘着性熱伝導層の一方の面に、該粘着性熱伝導層よりも粘着性が低いが、適度な粘着性は有する面を形成し、熱伝導性シートのワーク性を向上させること、さらに高温で長時間使用した実装品を解体する場合の高温保存後リワーク性についても向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、アクリル系樹脂と熱伝導性フィラーから形成する粘着性熱伝導層の片面に、特定のガラス転移温度を有する樹脂を用いて特定のタック性を有する樹脂層を積層すると上述の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、以下の
<1
>〜
<7
>に記載した事項に関する。
<1>
粘着性熱伝導層と非粘着性樹脂層とが積層している熱伝導性シートであって、
粘着性熱伝導層が、アクリル系化合物を硬化させたアクリル系樹脂と熱伝導性フィラーを含有し、粘着性熱伝導層のタック性が非粘着性樹脂層のタック性よりも高く、
非粘着性樹脂層が、水酸基、カルボキシル基及びグリシジル基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するガラス転移温度10℃以上の樹脂であってポリビニルブチラール樹脂及びポリウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂、硬化剤及び難燃性フィラーを含有する樹脂組成物から形成され、非粘着性樹脂層のタック性が、該非粘着性樹脂層に、アルミニウム製円柱状プローブを、押しつけ速度30mm/min、引き剥がし速度120mm/min、荷重196g、押しつけ時間5.0秒、引っ張り距離5mm、プローブ加熱40℃、シートステージ加熱40℃の条件で押しつけて引き剥がすことにより測定されるプローブタックとして6〜30kN/m2である熱伝導性シート。
<2>
難燃性フィラーが、シアヌール酸化合物及び有機リン酸塩から選ばれる有機フィラーである<1>記載の熱伝導性シート。
<3>
難燃性フィラーの平均粒径が0.1〜25μmである<1>又は<2>記載の熱伝導性シート。
<4>
熱伝導性シートの厚さ方向の熱伝導率が1.5W/m・K以上である<1>〜<3>のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
<5>
粘着性熱伝導層のアクリル系樹脂のガラス転移温度が−80〜15℃である<1>〜<4>のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
<6>
粘着性熱伝導層を形成するアクリル系化合物が、単官能(メタ)アクリレートモノマーである<1>〜<5>のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
<7>
粘着性熱伝導層が、アクリル系化合物のモノマーユニット100質量部に対して、可塑剤20〜80質量部及び熱伝導性フィラー100〜2000質量部を含有する<1>〜<6>のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
本発明は、上記<1>〜<7>に係る発明であるが、以下、それ以外の事項についても参考のため記載している。
[1]
粘着性熱伝導層と非粘着性樹脂層とが積層している熱伝導性シートであって、
粘着性熱伝導層が、アクリル系化合物を硬化させたアクリル系樹脂と熱伝導性フィラーを含有し、粘着性熱伝導層のタック性が非粘着性樹脂層のタック性よりも高く、
非粘着性樹脂層が、水酸基、カルボキシル基及びグリシジル基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するガラス転移温度10℃以上の樹脂、硬化剤及び難燃性フィラーを含有する樹脂組成物から形成され、非粘着性樹脂層のタック性が、該非粘着性樹脂層に、アルミニウム製円柱状プローブを、押しつけ速度30mm/min、引き剥がし速度120mm/min、荷重196g、押しつけ時間5.0秒、引っ張り距離5mm、プローブ加熱40℃、シートステージ加熱40℃の条件で押しつけて引き剥がすことにより測定されるプローブタックとして6〜30kN/m
2である熱伝導性シート。
[2]
難燃性フィラーが、シアヌール酸化合物及び有機リン酸塩から選ばれる有機フィラーである[1]記載の熱伝導性シート。
[3]
難燃性フィラーの平均粒径が0.1〜25μmである[1]又は[2]記載の熱伝導性シート。
[4]
熱伝導性シートの厚さ方向の熱伝導率が1.5W/m・K以上である[1]〜[3]のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
[5]
粘着性熱伝導層のアクリル系樹脂のガラス転移温度が−80〜15℃である[1]〜[4]のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
[6]
粘着性熱伝導層を形成するアクリル系化合物が、単官能(メタ)アクリレートモノマーである[1]〜[5]のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
[7]
粘着性熱伝導層が、アクリル系化合物のモノマーユニット100質量部に対して、可塑剤20〜80質量部及び熱伝導性フィラー100〜2000質量部を含有する[1]〜[6]のいずれか1項に記載の熱伝導性シート。
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱伝導性シートによれば、粘着性熱伝導層と非粘着性樹脂層が積層されており、該非粘着性樹脂層のタック性は粘着性熱伝導層のタック性より低い適度な大きさであるため、熱伝導性シートを用いて電子部品とヒートシンクとを組み立てる際のワーク性が向上し、また、一旦組み立てた物を長期間の使用後に解体して組み立て直すリワーク性も向上する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の熱伝導性シートでは、粘着性熱伝導層と非粘着性樹脂層が積層している。
【0014】
粘着性熱伝導層では、アクリル系化合物を硬化させたアクリル系樹脂に熱伝導性フィラーが分散している。本発明では、熱伝導性シートを電子部品やヒートシンクの所定の場所へ貼ってセットする目的から、この粘着性熱伝導層に、非粘着性樹脂層よりも高いタック性をもたせる。そのため、アクリル系化合物としては、その硬化物であるアクリル系樹脂のガラス転移温度が、好ましくは−80〜15℃となるものを使用する。このようなアクリル系化合物としては、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の単官能(メタ)アクリレート等を挙げることができ、中でも、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリルアクリレートが好ましい。
【0015】
また、これらと共重合可能な、(メタ)アクリル酸、N−ビニルピロリドン、イタコン酸、テトラヒドロフルフリルアクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等を1種以上混合して使用することができる。
【0016】
アクリル系化合物の硬化方法としては、例えば、光重合開始剤、光架橋剤等を使用し、紫外線を照射する方法とすることができる。この場合、長波長紫外線(波長320〜400nm)を光重合開始剤の開裂に必要なエネルギー分だけ照射すると、紫外線照射により粘着性熱伝導層が劣化することは問題とならない。
【0017】
粘着性熱伝導層が含有する熱伝導性フィラーとしては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、アルミニウム、銅、銀等の金属、アルミナ、マグネシア等の金属酸化物、窒化アルミ、窒化ホウ素、窒化珪素等の窒化物、カーボンナノチューブ等を使用することができる。また、熱伝導性フィラーの平均粒径は、0.5〜100μmとすることが好ましく、特に、分散性と熱伝導性の点から、平均粒径3〜20μmの小径のフィラーと、平均粒径25〜100μmの大径のフィラーを併用することが好ましい。
【0018】
粘着性熱伝導層における熱伝導性フィラーの含有量は、上述のアクリル系化合物によるモノマーユニット100質量部に対して、好ましくは100〜2000質量部、より好ましくは300〜1000質量部である。熱伝導性フィラーの含有量が少なすぎると熱伝導性シートの熱伝導性を十分に高めることができず、反対に多すぎると、熱伝導性シートの柔軟性が低下するので好ましくない。
【0019】
粘着性熱伝導層に平均粒径の異なる2種の熱伝導性フィラーを使用する場合、小径のフィラーと大径のフィラーの配合比は15:85〜90:10とすることが好ましい。
【0020】
また、粘着性熱伝導層には、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル等のアジピン酸系化合物、セバシン酸オクチル、セバシン酸ジイソデシル等のセバシン酸系化合物、リン酸トリクレシル等のリン酸系化合物、ヒマシ油やその誘導体、ステアリン酸やオレイン酸等の高級脂肪酸および誘導体、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル等のフタル酸系化合物、低分子量アクリルポリマー、ワックス、タッキファイアーなどから選ばれる可塑剤の1種以上を含有させることが好ましい。粘着性熱伝導層における可塑剤の含有量は、上述のアクリル系化合物によるモノマーユニット100質量部に対して、好ましくは20〜80質量部、より好ましくは30〜70質量部である。
【0021】
この他、粘着性熱伝導層には、必要に応じて、酸化防止剤、熱劣化防止剤、難燃剤、着色剤等を配合することができる。
【0022】
粘着性熱伝導層の層厚は、200〜3000μmが好ましい。薄すぎると被着体の凹凸に対する十分な追従性が得られず、厚すぎると硬化に時間を要することになり生産性が悪化する。
【0023】
一方、非粘着性樹脂層は、そのタック性が、該非粘着性樹脂層に、温度40℃、アルミニウム製円柱状プローブを、押しつけ速度30mm/min、引き剥がし速度120mm/min、荷重196g、押しつけ時間5.0秒、引っ張り距離5mm、プローブ加熱40℃、シートステージ加熱40℃の条件で押しつけて引き剥がすことにより測定されるプローブタックとして6〜30kN/m
2であり、好ましくは7〜28kN/m
2である。
【0024】
非粘着性樹脂層のタック性をこのような範囲にすることにより、非粘着性樹脂層は、熱伝導性シートを用いて電子部品とヒートシンクとを組み立てるときにべとつきはしないが、適度に低い粘着性を発揮し、ワーク性が向上すると共に、組み直すときのリワーク性も向上する。
【0025】
非粘着性樹脂層のタック性を上述の範囲とするため、非粘着性樹脂層を形成する樹脂としては、水酸基、カルボキシル基、グリシジル基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するガラス転移温度が好ましくは10℃以上の樹脂を使用する。また、非粘着性樹脂層には、この樹脂の官能基に応じて適切な硬化剤を配合する。これにより、粘着性熱伝導層を形成するアクリル系化合物との相溶性の有無に関わりなく、非粘着性樹脂層のタック性を大幅に低下させられるのと同時に、高温保存時の被着体(例えばアルミ)への密着を抑制させることができる。
【0026】
これに対し、非粘着性樹脂層を形成する樹脂が上述の官能基をもたない場合は、硬化剤を使用しても、非粘着性樹脂層のタック性を30kN/m
2以下にすることが困難である。
【0027】
また、非粘着性樹脂層を形成する樹脂のガラス転移温度が10℃未満の場合にも、硬化剤により非粘着性樹脂層のタック性を30kN/m
2以下にすることが困難となる。特に、粘着性熱伝導層を形成するアクリル系化合物との相溶性が高い場合には、粘着性熱伝導層と非粘着性樹脂層のそれぞれを塗布形成するための塗工用組成物を重ね塗りして両層の積層物を形成する場合に、両層がそれらの界面で混ざり易く、非粘着性樹脂層に所期のタック性を得ることが困難となる。
【0028】
なお、非粘着性樹脂層を形成する樹脂のガラス転移温度の上限については、非粘着性樹脂層に適度に低い粘着性を発揮させ、かつ粘着性熱伝導層との接着強度の点から110℃以下とすることが好ましい。
【0029】
非粘着性樹脂層を形成するために好ましい樹脂、即ち、水酸基、カルボキシル基、グリシジル基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有し、ガラス転移温度が10℃以上の樹脂としては、官能基として水酸基、を有するポリビニルブチラール樹脂、官能基として水酸基やグリシジル基を有するアクリルゴム、ポリウレタン樹脂などを挙げることができる。また、これらの分子量は、数平均分子量で10万〜50万が好ましい。
【0030】
また、本発明においては、非粘着性樹脂層に難燃性フィラーを含有させる。難燃性フィラーとしては、非粘着性樹脂層中で沈降しにくく、均一に分散しやすいことから、有機フィラーが好ましい。このような有機フィラーとしては、メラミンシアヌレートなどのシアヌール酸化合物、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸アンモニウム等の有機リン酸塩等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
難燃性フィラーの平均粒径は、分散の安定性、塗布性(外観)の点から0.1〜25μmが好ましく、0.5〜20μmがより好ましい。また、非粘着性樹脂層における難燃性フィラーの含有量は、非粘着性樹脂層を形成する樹脂100質量部に対して3〜30質量部とすることが好ましい。これにより、非粘着性樹脂層の表面に難燃性フィラーに由来する表面凹凸を形成し、非粘着性樹脂層の表面がべたつくことを防止してワーク性を向上させることができ、また、非粘着性樹脂層をコーターで塗布形成した場合の塗り跡が目立ちにくくなり、外観が向上する。
【0032】
非粘着性樹脂層の層厚は、好ましくは0.5〜25μm、より好ましくは1〜20μmである。非粘着性樹脂層の層厚が薄すぎると粘着性熱伝導層との相溶や熱伝導性フィラーによる擦過ダメージにより粘着性が上がってしまい、厚すぎると熱伝導性シートとしての熱伝導性が不十分となる。
【0033】
なお、熱伝導性シートの熱伝導性としては、実用上、熱伝導性シートの厚み方向の熱伝導率が、ASTM D5470に準拠した熱傾斜法よる測定で1W以上であることが必要とされるが、本発明によれば、1.5W/m・K以上、より好ましくは2W/m・K以上とすることができる。
【0034】
本発明の熱伝導性シートの製造方法としては、例えば、前述の粘着性熱伝導層を形成する各成分を溶剤と混合した粘着性熱伝導層形成用塗料と、非粘着性樹脂層を形成する各成分を溶剤と混合した非粘着性樹脂層形成用塗料をそれぞれ調製しておき、PET、PEN、ポリオレフィン、グラシン紙等から形成された剥離フィルム上に、非粘着性樹脂層形成用塗料と粘着性熱伝導層形成溶塗料を順次所定の塗布厚で塗布し、粘着性熱伝導層形成用塗料の塗布面上にPEN、ポリオレフィン、グラシン紙等のカバーフィルムを被せ、その上から紫外線を照射して粘着性熱伝導層形成用塗料の塗布層を硬化させることにより本発明の熱伝導性シートを得ることができる。
【0035】
また、剥離フィルム上に非粘着性樹脂層形成用塗料を塗布して乾燥させ、一方、カバーフィルムに粘着性熱伝導層形成用塗料を塗布して乾燥させ、非粘着性樹脂層形成用塗料の塗工面と粘着性熱伝導層形成用塗料の塗布面を対向させて重ね合わせ、次いで、カバーフィルム側から紫外線を照射して粘着性熱伝導層形成用塗料の塗布層を硬化させ、本発明の熱伝導性シートを製造してもよい。
【0036】
なお、こうして熱伝導性シートを製造した後に剥離フィルムを剥がし、カバーフィルムが被着した状態で熱伝導性シートを巻き回して保管することができる。このように巻き回した熱伝導性シートは、カバーフィルムを剥がし、電子部品とヒートシンクとの組み立てに使用する。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
なお、実施例2は、「参考例」と読み替えるものとする。
【0038】
実施例1、2、比較例1〜3
表1に示した樹脂、硬化剤及び難燃性フィラーをトルエン:メチルエチルケトン=1:1(質量比)の混合溶剤にて、固形分10質量%に調製し、バーコーターでPETフィルムに塗布し、90℃で1分間乾燥させ、さらに140℃で5分間乾燥させて表1に示す塗布厚の非粘着性樹脂層を形成した。なお、表1において、「部」は質量部を意味する。難燃性フィラーとして用いたメラミンシアヌレート(堺化学工業製 STABIACE MC−5S)の平均粒子径は約1μmである。
【0039】
一方、単官能アクリレートとしてアクリル酸2−エチルヘキシル100質量部、ヒマシ油誘導脂肪酸エステル47質量部、光重合開始時剤(イルガキュア819、BASF)1.4質量部、硬化剤としてヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコール ジアクリレート(KAYARAD FM−400、日本化薬)1.5質量部、熱伝導性フィラーとして水酸化アルミニウム粉(平均粒径80μm)400質量部、水酸化アルミニウム粉(平均粒径8μm)400質量部を混合して粘着性熱伝導層形成用塗料を調製した。なお、このアクリル酸2エチルヘキシルの硬化物のガラス転移温度は−50〜−40℃であった。
【0040】
こうして調製した粘着性熱伝導層形成用塗料を上述の非粘着性樹脂層上に塗布厚2mmで重ね塗りし、その上に片面にシリコーン等で離型処理をしたPETなどからなる透明カバーフィルムを被せ、PETフィルム側とカバーフィルム側の双方からケミカルランプにて長波長紫外線を5分間照射し、実施例1〜2及び比較例1〜3の熱伝導性シートを製造した。
【0041】
実施例3、4
上述の実施例2において、非粘着性樹脂層に配合する硬化剤として、イミダゾール系硬化剤に代えて、イソシアネート系硬化剤(コロネートL、日本ポリウレタン工業)を12部使用することにより実施例3の熱伝導性シートを製造し、又はヒドラジド系硬化剤(UHD、味の素ファインテクノ)を12部使用することにより実施例4の熱伝導性シートを製造した。
【0042】
評価
各実施例及び比較例の熱伝導性シートについて、(a)非粘着性樹脂層のタック性、(b)非粘着性樹脂層の外観、(c)熱伝導性シートの熱伝導率、(d)熱伝導性シートを高温環境で保存した後のリワーク性、を次のように評価した。実施例1,2及び比較例1〜3について、結果を表1に示す。実施例3、4は、実施例2と同様の結果が得られた。
【0043】
(a)非粘着性樹脂層のタック性
タック性試験機として、RHESCA社製タッキング試験機TAC−IIを使用し、非粘着性樹脂層に、温度40℃、直径5mmのアルミニウム製円柱状プローブを、押しつけ速度30mm/min、引き剥がし速度120mm/min、荷重196g、押しつけ時間5.0秒、引っ張り距離5mm、プローブ加熱40℃、シートステージ加熱40℃の条件で押しつけて引き剥がしたときのプローブタックを測定した。なお、比較例3では、非粘着性樹脂層がないため、粘着性熱伝導層のタック性を測定した。そして、プローブタックの測定値により、次の基準で評価した。
過小:6kN/m
2未満
良:6〜30kN/m
2
過大:30kN/m
2超
【0044】
(b)非粘着性樹脂層の外観
非粘着性樹脂層の外観を目視観察し、次の基準により評価した。
A:ムラ無く均一な塗膜
B:斜光観察でムラが見られる
C:塗膜にハジキが見られる
【0045】
(c)熱伝導性シートの熱伝導率
熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率をASTM D−5470準拠の熱伝導率計(ソニー製)により測定した(ヒーター出力 8W、シート面圧 1kgf/cm
2)。
【0046】
(d)高温保存後リワーク性
アルミ板に、熱伝導性シートを、その非粘着性樹脂層面側が接触するように乗せ、125℃に設定した環境試験容器内で100時間保管し、取り出して室温に冷却し、アルミ板からシートを剥がした。このとき、熱伝導性シートの非粘着性樹脂層と粘着性熱伝導層が分離せずにアルミ板から剥がれた場合を○、分離して非粘着樹脂層がアルミ板に残った場合を×と評価した。
【0047】
非粘着性樹脂層の40℃でのタック性の結果を以下に示す。
実施例1:6.4kN/m
2
実施例2:25.8kN/m
2
比較例1:6.2kN/m
2
比較例2:58.2kN/m
2
比較例3:68.4kN/m
2
【0048】
表1から、非粘着性樹脂層を形成する樹脂のガラス転移温度が11℃と比較的低く、硬化剤を配合した実施例2も、非粘着性樹脂層を形成する樹脂のガラス転移温度が90℃と高く、硬化剤を配合した実施例1も、非粘着性樹脂層のプローブタックが6〜30kN/m
2であることから適度な粘着性を発揮するので熱伝導性シートのワーク性が良好となることがわかる。また、実施例1及び実施例2の熱伝導性シートでは、高温保存後のリワーク性が良好であったこと、また、非粘着性樹脂層の外観も良好であったことがわかる。特に、実施例1では、非粘着性樹脂層を形成する樹脂のガラス転移点Tgが高かったことにより、高温保存後のリワーク性が極めて良好であった。
【0049】
一方、硬化剤を配合をしなかった比較例1では高温保存後のリワーク性が劣り、非粘着性樹脂層のプローブタックが30kN/m
2を超える比較例2や非粘着性樹脂層のない比較例3では、適度な粘着性を得られないことからワーク性が劣ることがわかる。
【0050】
【表1】